JP2009089682A - 大豆加工食品及びその製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 胚軸の伸長を抑制しながら子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させると共にグリオキシソームの形成を進行させることにより、食感、香り、甘味を高め、栄養価を強化し、さらに消化吸収の効率を高めた大豆加工食品及びその製造法を提供すること。
【解決手段】 大豆を食塩濃度0.4M未満〜0.1Mの食塩水に浸漬し、その吸水率が1.7〜2.0となるように吸水させた後、発芽処理を20〜25℃、湿度70%以上で42〜72時間行なうことにより、水に浸漬して発芽処理を行なった大豆と比較して発芽を遅らせながら、子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させることができる。これにより、大豆の香気成分、甘味成分、旨味成分、ポリアミン及びγ-アミノ酪酸を増強し、食感や消化吸収効率を改善することができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、大豆加工食品及びその製造方法に関する。詳しくは、薄い食塩水中で大豆完熟種子の発芽処理を行うことにより、発芽初期(発芽期2)を2〜3日間持続せしめ、この間に貯蔵タンパク質の分解によるペプチド、遊離アミノ酸、GABA(γ−アミノ駱酸)、及びスペルミンなどの量を増加させながら、グリオキシソームの形成に伴う貯蔵脂質の分解・代謝を促進させて、消化吸収率を良くし、芳醇な香りとまろやかな旨味を呈する大豆加工食品及びその製造方法に関するものである。
大豆種子は、他の植物種子と比べて、アミノ酸スコアの高いタンパク質を多量(乾燥種子重量の25〜35%程度)に含む。このため、伝統的食品である納豆、豆腐、煮豆を始め、豆乳など多様なタンパク性加工食品の主原料となってきた。この大豆種子タンパク質の利用方法の延長上には、発芽させた大豆モヤシとしての加工利用も当然としてあり、古来から新鮮野菜の一つとして用いられてきた。
ところで、大豆を発芽処理して利用する方法に関する最近の技術として次のものがある。発芽処理で3〜5%程度が発芽した状態となった原料大豆で納豆を製造する方法(特許文献1参照)、大豆等の種子を表面から2mm以下の芽の高さまで発芽させるか、発芽24時間以内の種子を用いてフィチン酸量を著減させて加工食品を得る方法(特許文献2参照)、大豆の芽を2〜7mmまで発芽させ、5分程度の加熱で枝豆風の加工食品を製造する方法(特許文献3参照)、発芽処理を6〜18時間行って得た大豆を原料として用いて、納豆、豆腐並びにその2次加工品などを製造する方法(特許文献4参照)、大豆を18時間程発芽処理し、遊離アミノ酸、還元糖量を増加させて、納豆などの加工食品の原料に用いる方法(特許文献5参照)、発芽により胚軸が1〜3mmに達した大豆を用いて、各種の菌による醗酵豆乳を製造する方法(特許文献6参照)である。
しかしながら、これらの従来法では、グリオキシソームの形成がほとんど起こらない発芽処理条件であり、調製された発芽大豆食品の呈味性や風味は満足し得るものではなかった。またスクロースやスペルミンの増加は認められなかった。
特開平4-158758号公報 特開平8-38080号公報 特開平11-46713号公報 特開平11-123060号公報 特開2003-93007号公報 特開2004-141138号公報
大豆の発芽期は、発芽期1(発芽第1期)から発芽期3(発芽第3期)に大別される。いわゆる「発芽」状態は、発芽期3に分類される。
発芽初期(発芽期2)に形成されるオルガネラの内、グリオキシソームは、脂肪の代謝を行い、様ざまな芳香物質を生合成すると共に、スクロースを合成する器官である。この発芽期2は胚軸の伸長期(発芽期3)と重なり合っていて、発芽期2のみを持続させることは困難であった。一方、発芽期3に入ると物質の転流が起きる為、芳醇な香り物質や甘味のもとであるスクロースはモヤシの伸長に使われてしまい、香りも旨味も急速になくなってしまうことになる。従って、発芽期2を持続させて発芽期3を遅らせる手段の開発が、美味しい発芽処理大豆の製造には必須であった。
そこで、本発明においては、胚軸の伸長を抑制しながら子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させると共にグリオキシソームの形成を進行させることにより、食感、香り、甘味を高め、貯蔵タンパク質のペプチド化、遊離アミノ酸の増加と相まって、消化吸収の効率を高めた大豆加工食品及びその製造法を提供することを目的とした。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、大豆を0.2M〜0.3Mの希薄な食塩濃度の下で吸水させ、20〜25℃で発芽処理を行うと、塩溶液の影響で大豆の発芽は水道水を用いた場合に比べて1.5〜2.0日程遅れたものの、子葉細胞内の貯蔵物質の代謝は、食塩を含まない水を吸水させた通常の発芽と同様に進行することを発見した。すなわち、吸水直後からミトコンドリアが増加し、次いでグリオキシソームが形成された。このオルガネラ中で脂質が分解され、様々な香り成分や甘味成分が合成された。一方、種子タンパク質の分解によるペプチド化や、細胞内遊離アミノ酸の種類と量の変化も起こった。発芽処理後42〜48時間(発芽期2)までには、この発芽処理大豆は芳醇な香りと甘味を呈するようになった。更には、貯蔵タンパク質のペプチド化や、細胞内遊離アミノ酸としてグルタミン酸の著しい増加が見られた。また、生体ポリアミンの中でもヒトに対して最も効果の高いスペルミンの量が発芽処理前の1.6倍に増え、GABAの量も増えた。
一方、食塩を添加しない水を吸水させて発芽処理した場合、発芽期3に到達した大豆が、発芽処理後15時間頃から出始め、34時間後には発芽率が46%に達する。この発芽処理34時間の大豆の官能検査結果は良くないが、未発芽大豆(残りの54%)のみの官能検査は総合評価4.2と高い評価を得た(表1参照)。しかし、工場生産の歩留りが著しく低下する為、この方法は実用的ではない。
なお、「発芽」(発芽期3)に達し、胚軸の伸長が起った大豆は、香りも甘味も著しく低下した。又、いわゆる未発芽の大豆(通常の蒸し大豆)は、発芽期2の大豆と比較して香りや甘味も低い評価(総合評価2)となっている。
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、請求項1に記載の本発明は、大豆を食塩濃度0.4M未満〜0.1Mの食塩水に浸漬した後、発芽処理を行なうことにより、水に浸漬して発芽処理を行なった大豆と比較して発芽を遅らせながら、子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させることを特徴とする大豆の発芽処理方法である。
請求項2に記載の本発明は、大豆の吸水率を1.7〜2.0に保持しつつ、発芽処理を20〜25℃、湿度70%以上で42〜72時間行なうことを特徴とする、請求項1に記載の大豆の発芽処理方法である。
請求項3に記載の本発明は、水に浸漬して発芽処理を行なった大豆と比較して発芽を遅らせながら、子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させることにより、香気成分、甘味成分、旨味成分、ポリアミン及びγ-アミノ酪酸を増強し、食感や消化吸収効率を改善することを特徴とする、請求項1又は2に記載の大豆の発芽処理方法である。
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により調製した大豆を用いることを特徴とする大豆加工食品の製造方法である。
請求項5に記載の本発明は、大豆をレトルト処理する工程を含む、請求項4に記載の大豆加工食品の製造方法である。
請求項6に記載の本発明は、請求項4又は5に記載の方法により得られる、香気成分、甘味成分、旨味成分、ポリアミン及びγ-アミノ酪酸が増強され、食感や消化吸収効率が改善された大豆加工食品である。
本発明によれば、未発芽大豆を発芽処理し、さらに胚軸の伸張(発芽期3)を阻害しながら子葉細胞の物質代謝を持続させることにより、芳醇な香りと上品な甘味を併せ持ち、しかも健康機能成分を増加させた、季節を問わずに流通可能な大豆加工食品とその調製法が提供される。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る大豆の発芽処理方法は、以下の通りである。
まず、大豆を稀食塩水に浸漬し、吸水させる。
ここで「大豆」とは、発芽能を持つ大豆種子であればよく、発芽率80%以上の乾燥完熟大豆が好ましい。
一度に処理する大豆量は特に制限されないが、乾燥重量で120kg以下とすることが好ましい。
予め傷物大豆(半割れ、色付き、スポット入り、皮ヒビ割れ、黒ズミなど)を除去し、表皮の汚れや雑菌を洗浄・殺菌しておくと尚良い。
洗浄液としては、水又は食塩水、あるいはこれらに次亜塩素酸ナトリウムを加えた溶液などを使用できる。ここで、食塩水は食塩濃度0.2〜0.3Mのもの、次亜塩素酸ナトリウム溶液は有効塩素0.025〜0.05%のものを用いることができる。
大豆の洗浄方法としては、通常用いられる方法で行えばよいが、超音波洗浄器を用いて行うのが好ましい。その理由は、装置が他と比べて大豆の表面の構造的特殊性に合った衝撃波機能を持っている事による。
すなわち、大豆の表皮には細かな凹凸がある。この為、表皮の汚れとその中に潜む土壌菌を洗い出すことは、トルネード型水流でも難しい。また、少量のデタージェントを加えた揉み洗いでは、表皮のとれる豆が増加する。
しかし、超音波洗浄器による方法では、大豆表面のマイナスチャージを塩溶液(Na+)で打ち消しながら、短時間〔20〜30分程度〕の超音波処理による衝撃波を用いて、微細な粘土鉱物やその中に潜む細菌を大豆表皮から剥離させた後、次亜塩素酸ナトリウムの分解に伴う酸化力で菌を殺すことができる。又この方法は、水の使用量を節約することにも繋がる。この超音波処理による方法を用いることにより、大豆表面の菌数は無処理の場合のそれの1/200以下となり、効果的に洗浄される。
なお、この殺菌のモードは、瞬発的で即効性のあるものではなく、NaClOが微酸性の条件下で徐々に分解し発生期の酸素を放出することに基づく、ジワジワと効くものである。したがって、十分に殺菌される前に次亜塩素酸ナトリウムが全部洗い流されると効果がなくなってしまう点に要注意である。
洗浄終了後は、大豆を水で軽く洗う。このとき、洗いすぎて次亜塩素酸ナトリウムを喪失しないようにする。次亜塩素酸ナトリウムを失うと、発芽処理の過程で菌の増殖が著しくなり、大豆が汚染されるおそれがある。
大豆を浸漬する稀食塩水の食塩濃度は0.4M未満〜0.1M、好ましくは0.2〜0.3M、さらに好ましくは0.12〜0.23Mとする。
稀食塩水の量は、全ての大豆が浸る程度であれば特に制限されない。水を吸った大豆が膨張して水面上に出た場合は、決して水道水のみを足してはならず、所定の食塩濃度を変えないように食塩水を加えるようにする。
浸漬時間は、吸水率すなわち乾燥大豆に対する浸漬後の大豆重量の比(湿/乾)が1.7〜2.0、好ましくは1.75〜1.95となるように適宜調整する。適切な浸漬時間は浸漬水の温度により変動するが、例えば水温20〜23℃の場合は3〜4時間とすることができる。稀食塩水の水温は20〜23℃でよいが、20℃程度がより好適である。
なお、浸漬処理の際に大豆を容れる容器としては特に限定されないが、狭い網籠などを用いると、大豆の膨圧によりその中で大豆が壊れるので注意する。
大豆の吸水率が所定値に達したら、大豆を稀食塩水中から引き上げて水切りをした後、発芽処理を行なう。
発芽処理条件は一般的な大豆の発芽処理と同様の条件で良く、例えば20〜25℃、好ましくは23℃前後、湿度70〜95%、好ましくは90%とすることができる。このとき大豆の吸水率は、始めの乾燥大豆重量に対して大豆重量が、常に1.7〜2.0倍、好ましくは1.75〜1.95倍に保たれるよう、浸漬条件を調整する。
なお、発芽処理の際、大豆は網籠などの水切れの良い容器に入れ、その網籠をバケツなどの容器に収容すると、大豆が直接水に浸らず空気に触れるため好ましい。
さらに、大豆の乾燥を防ぐために、大豆の上に水で濡らした紙タオルなどを載せて、その上に加湿器の霧が降り注ぐようにしたり、その上から定期的に水を掛けたりして、水分を補給すると尚良い。
この条件下で42〜72時間、経済的な理由から好ましくは42〜48時間処理する。もしも発芽処理大豆の甘味が足りない場合、すなわち、酸素分圧が低い為にグリオキシソームの機能が弱かったり、発芽処理時間数が少なすぎてグリオキシソームの形成が充分でない為にグリオキシソームの数が少なかったりする様な場合は、処理時間を60〜70時間まで伸ばせば良い。甘味の判定の仕方の一つとして、発芽処理が終わりに近付いた大豆を噛み締めて味と食感をみることが挙げられる。シャキシャキ感の中に甘みを感じれば合格である。
この発芽処理操作により、完熟大豆は発芽期2の状態となり、貯蔵細胞内部ではグリオキシソームが形成され、タンパク顆粒内には各種プロテアーゼの発現による分解が認められ、呼吸量の増大に伴うミトコンドリアの数も増え、ATPなどの高エネルギー物質の合成・アミノ酸代謝も活発となる。遊離アミノ酸のうち、旨味アミノ酸であるグルタミン酸が、未発芽処理大豆の2倍以上に増加する。
脂肪もグリオキシソーム中で分解代謝されると共に、リポキシゲナーゼなどの脂質関連酵素の活性化により、大豆脂質の80%以上を占めるリノール酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が過酸化されてヘキサナール、ヘキサノール、1−ペンタノール、1−オクタン−3−オルなどの揮発性物質が合成され、大豆の豊かな香りとなる。
スペルミン、スペルミジンなどの細胞内の核酸タンパク質合成部位に必須とされる、機能性の高い生体ポリアミン量も比較的多くなる(〜10mg/発芽処理大豆50g)。
また、スクロースも合成され旨味となる。
上記の発芽処理条件により、大豆完熟種子の胚は、表皮を破って伸長する、いわゆる発芽期3に到達するのが、通常の発芽処理を行なった場合よりも1.5〜2.0日間遅くなり、発芽期2に留まっている。これは、栄養分や旨味成分を大豆内に保持するのに重要である。
以上のように、本発明の発芽処理方法によれば、豊かな香りと甘味を持ち、栄養的にも優れた、いわゆる未発芽であるが発芽の初期過程は進行した大豆(発芽処理大豆)を得ることができる。
発芽大豆は一般に子葉部分の硬度が著しく低下し、とりわけ胚軸が伸長した場合は熱を加えると崩れてしまうけれども、本発明の発芽処理方法により得られた大豆、並びにそれを用いて製造した大豆加工食品は、ポクポクした食感を保持している。又、その食感は、浸漬処理時及び発芽処理時における大豆の吸水量を変化させることにより、自由に変えることが可能である。
したがって、本発明の発芽処理大豆は、加工食品又はその材料として好適に使用できる。ここで加工食品としては、加熱済み大豆やそれを用いた惣菜、豆腐、豆乳、湯葉、大豆粉末、大豆ペーストなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
本発明の発芽処理大豆を用いた大豆加工食品の製造は、通常用いられる方法により行うことができる。しかし、加水して煮る(水煮)ようなことをすると、各種アミノ酸やペプチド類並びに香り物質やスクロースも失われることになるため、水中加熱するよりは、水蒸気を当てて蒸し大豆とするのが好ましい。この操作により、栄養価が高く、そのバランスにも優れ、且つ完熟大豆と比して消化吸収もし易い、香りと旨味が程よく融合した大豆加工食品を作ることが出来る。
また、レトルトパウチを使用した含気レトルト処理により、食感にも優れた、常温流通のもと6ヶ月以上の賞味期間を持つ食品として、季節を問わず市場に供給できる。レトルト釜で処理する場合、滅菌のため高温高圧下(120℃程度)で4分以上の熱条件(F値=4)が必要となる。このため、レトルトパウチはアルミ蒸着或いは酸化アルミナペット(Pet13など)及びナイロン(ONY15など)等の複合素材を用いると、条件設定がしやすいため好ましい。
本発明の発芽処理大豆をレトルト処理すると、適度な硬さの食感(テクスチャー)を得ることができる。また、スペルミン・スペルミジンなどの細胞内の核酸タンパク質合成部位に必須とされる機能性の高い生体ポリアミン量も、熱処理で分解されないので比較的多い食品となる(〜10mg/発芽処理大豆50g)。
以下に実施例、および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
実施例1
A 作業単位
発芽処理容器として20Lポリバケツ(金網スノコ入り)を用いた。平成17年産と平成18年産の原料大豆(品種名:ミヤギシロメ)は、手選別により傷物を除いて、精錬された豆を用いた。乾燥した原料大豆6kgを1作業単位とした。
なお、原料大豆の発芽率は90%以上であった。又、原料乾燥大豆の水分量は、平成17年産と平成18年産が各々11.1%(w/w)、13.5%(w/w)で大きな違いはなかった。
B 製造工程
大豆の発芽処理は以下のように行なった。
(a)乾燥大豆6kgを計量採取後、ステンレスのパンチ式網籠に入れた。
(b)乾燥大豆のうち、傷物(半割れ、色付き、スポット入り、皮ヒビ割れ、黒ズミ)を手選別により排除した。
(c)乾燥大豆の洗浄は、超音波洗浄器(WT-1200-40、本多電子株式会社製)を用いて行った。すなわち、超音波洗浄器の水槽(63L容量)に、水温20℃程度の水道水58Lを正確に量り入れた。そこに780gの食塩を入れて撹拌棒で充分溶解し、さらに次亜塩素酸ナトリウム液〔食添用、4+%(有効塩素)〕を500mL入れて撹拌した。その後、乾燥大豆6kgを入れた網籠2個を水槽の中に入れ、網籠を上下に動かして豆を良く水に馴染ませた後、枠棒を網籠の把手に通して適当な高さの位置に置いた。つまり、網籠が水槽中に宙吊りになるようにした。この状態で、水槽中の超音波振動子を40kHzで作動させた。時々網籠を上下しながら10分間処理した。
次いで、ステンレスボウルの中に豆を空け、UP-Side-DOWNになるように、すなわち、網籠の下側に詰まっていた豆が網籠の上側に来るようにしながら再びパンチ網籠に入れ、更に10分間超音波処理を行った。網籠の下側の大豆は吸水が充分でない為、大豆全体の吸水率を均一にするためである。
洗浄終了後、水を入れた20Lポリバケツの中に網籠を入れて、豆の表面のゴミを落とす心算で水道水をひと掛けして軽く洗った。
(d)洗浄した大豆の浸漬処理は、ステンレスボウルを用いて行った。すなわち、ステンレスボウル中に8Lの水を入れ、60gの食塩を入れて良く撹拌した。そこへ、超音波洗浄した網籠中の豆を静かに入れ、浸漬した。このとき、水温を計測し、浸漬水の温度を20〜23℃に維持した。
(e)この状態で浸漬を4時間行った。ステンレスボウルの中の豆を水切り後、重さを計測し、浸漬後の大豆の重量/乾燥大豆の重量の比が1.7以上に達していることを確認した。
(f)その後、網籠を入れた20Lのポリバケツに大豆を入れて、乾燥を防ぐために大豆の上面に水で濡らした紙タオルを二重に乗せた(但し、空気に豆が触れるようにしておいた。)。この状態の発芽処理バケツを発芽室に入れ、45時間置いた。発芽室は室温23℃、湿度70%以上にし、バケツ上に加湿器の霧が降り注ぐようにした。発芽処理後に大豆を噛み締めたところ、シャキシャキ感の中に甘みを感じた。
最後に傷豆を除き(圧迫痕はひどくなければ傷豆に入れない)、大豆500g(湿重量)当り4gの「赤穂の塩」(赤穂あらなみ株式会社)を充分にまぶした。50gの大豆を計りとり、レトルト用袋に詰めて密封し、120℃で14分及び16.5分の熱処理をレトルト殺菌装置により行った後、冷却しパウチ表面の水を除き製品とした。
試験例1(浸漬条件による発芽率の変動)
完熟大豆の種子を、適切な水分、湿度、酸素(空気)の存在下に置くと、胚の伸長、すなわち発芽が起る。しかし、胚が伸長し胚軸が伸びる前に、貯蔵組織である子葉細胞中では貯蔵物質の分解が始まる。貯蔵物質であるタンパク質、中性脂肪などは組織に分散して存在している訳ではなく、タンパク質はタンパク顆粒(プロテイン・ボディ)と呼ばれる2〜20μの膜で取り囲まれた顆粒に蓄積される。また、中性脂肪はスフェロゾーム又はオイルボディ(脂肪球)と呼ばれる0.5〜2μ程の顆粒に蓄積される。発芽は、胚の伸長が認められる時期を発芽期3と称することがある。従って、発芽期1、2は形態的には種子が水分を吸収して膨潤している時期である。この時期のタンパク顆粒内部では、プロテアーゼによる貯蔵タンパク質の分解が始まり、スフェロゾーム内では中性脂肪の分解がリパーゼにより始まっている。すなわち、中性脂肪はグリセロールと脂肪酸に分解され、脂肪酸はグリオキシル酸回路に入り、移動形態であるスクロース(ショ糖)に転換されて生長部位に送られ、利用される。
浸漬条件による発芽率の変動を調べるため、以下の試験を行なった。
すなわち、20℃の純水に浸漬し、吸水率(湿/乾)1.84に調整した大豆(ミヤギシロメ)を水切りし、23℃、湿度90%以上の条件に置いた場合の発芽状態を、図1の(a)に示した。図1のヒストグラムは、観察時間内の発芽率を、その最終時間の時点で示している。以下同様に、浸漬条件を変えて発芽率を計測した(図1−(b)〜(d)参照)。図1−(b)、(c)、(d)より、浸漬液を稀食塩水に変えると発芽期IIIの開始が遅れることが分かった。
猶、0.4Mの食塩水に大豆を浸漬した場合は、吸水率1.84に達するのに20℃の水温で20時間を要し、この浸漬大豆は23℃、湿度90%に96時間置いても発芽期3に至るものはなく、熱処理した大豆の食味は、発芽処理をしない蒸煮大豆と同様であった。これは、塩障害による発芽生理の進行の阻止と考えられた。
試験例2(発芽期3の官能検査)
20℃の純水中に浸漬して吸水率(湿/乾)1.84に達した大豆(ミヤギシロメ)を、23℃、湿度90%以上で発芽処理した。発芽率が46%に達した時点(発芽処理時間34時間)で、(1)、発芽、未発芽の混入したもの(純水発芽(発芽処理34h:46%));(2)、(1)から未発芽大豆のみ(すなわち発芽期3以外)を集めたもの(純水発芽の未発芽豆(発芽処理34h));(3)、(1)から発芽期3の大豆のみを集めたもの(純水発芽の発芽した豆(発芽処理34h))、の3通りに分け、その各々を熱処理した。又、20℃の0.23M食塩水中で浸漬し、吸水率(湿/乾)1.83に至った大豆(ミヤギシロメ)を、上記と同様に発芽処理を行い、発芽処理時間46時間に達した未発芽大豆を同様に熱処理した(0.23M NaClでの発芽処理(発芽率0%46h))。熱処理はアルミ蒸着レトルトパウチ中で121℃、10分間行なった。いずれの試作大豆も、2日間常温に放置した後、官能検査に供した。
官能評価結果を表1に示す。官能検査における評価は、1:不良、2:やや不良、3:普通、4:やや良、5:良、の5段階で行い、3人のパネリストによる評価値を平均化した。総合評価は、各項目で得た評価値の単純平均である。浸漬大豆は、純水で浸漬した後発芽処理を行なわなかった大豆である。
発芽期3に達した大豆を除いた未発芽大豆(2)の官能評価が4.2と高く評価された。しかし、発芽期3に達した大豆(発芽率46%、上記(1))の評価は2.5と低く、とりわけ胚軸部分は水分が多く食感・後味が良くなかった(総合評価1.5)。表には示さなかったが、試験例1の図1−(a)の試験区に於いて発芽処理20時間以前の熱処理大豆は、甘味、香り共に未発芽大豆と差が余りなかった。
試験例3(発芽処理に伴うスクロースとグリセロール量の経時変化)
蒸留水および稀塩水中に於けるミヤギシロメの発芽処理に伴うスクロース並びにグリセロール量の経時変化を調べるため、以下の試験を行なった。
完熟大豆(ミヤギシロメ)を20℃の0.23M 食塩水に4時間冠水浸漬して吸水率(湿/乾)を1.82とした後、23℃、湿度90%以上で0〜42時間発芽処理した発芽処理大豆を試料大豆とした。対照として、食塩水の代りに滅菌蒸留水を用いて同様の浸漬・発芽処理を行なった。なお、対照区では、発芽処理時間30時間で胚軸が伸長した、いわゆる発芽期3の大豆が46%を占めた。
ショ糖(スクロース)の分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によった。
試料大豆(50g程度)を液体窒素で凍結した後、予め液体窒素で容器を冷却しておいたワーリングブレンダーで5分間処理した。磨砕した粉末を、予め液体窒素で冷却しておいた乳鉢に入れて、太目の乳棒で更に磨砕した。温度を室温に戻してからシリカゲルを入れたデシケーター中に保管した。得られた大豆粉末試料を5g程度計り取り、純水(ミリポア−スーパーQ・AC水)20mlを加えて撹拌した。スターラーで20分間混合した後、メスフラスコ(50ml)に液を移し、80%メタノールで定容した。スウィング・アウト型遠沈管を用いて3000rpmで10分間遠心し、上澄液を回収して試料液とした。アミド系カラムを用い、移動層はアセトニトリル/水(75:25)、カラム温度は40℃、流速1ml/分の条件でショ糖の分離を行った。試料の注入量は20μlである。
標準曲線をとる為、ショ糖の濃度既知の溶液を倍数希釈したものを用いて溶出位置(retention time)を確認すると共に、示差屈折計の値とショ糖濃度の関係をグラフにとった。このグラフから試料中のショ糖濃度を算出し、糖類含量をg/100gとして図2に表示した。
グリセロール(グリセリン)の定量分析は、Eggstein〔M. Eggstein, F.H. Kreutz, Klin. Wschr., 44, 262 (1966).〕の酵素試薬法によった。用いる酵素によって3種類ほどの方法があるが、グリセロールキナーゼ/ペルオキシダーゼの系を用いた。
グリセロールの保存用標準液としてグリセロール(特級)1.045gを秤量し、スーパーQ-AC水で1000mlとした。この20mlをとり100mlに定容し、ポジティブ・コントロールとした。試料液20μlをとり、酵素発色試薬〔グリセロールキナーゼ 50単位、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ 5000単位、ペルオキシダーゼ 500単位、ATP 0.7mmol、4-アミノアンチピリン 61mg、フェリシアン化カリウム 1mg、MgCl・6HO 122mg、フェノール 1.7mmol及びトリトンX-100 0.01%(最終濃度)を50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.20)に溶解して1000mlの定容となるようにしたもの〕を3ml加え、泡立てないようにフィンガーアジテートした。なお、ここで試料液としては、前述の大豆粉末試料5gに水を50ml加えて撹拌遠心し、その上澄液を使用した。
反応ネガティブ・コントロールとして試料のかわりに水を20μl加えた系と、前述のポジティブ・コントロールを20μl加えた系にも、各々酵素発色試薬を加えた。各々の反応系は、室温で15分間反応させた後、氷水中で反応を止めた。酸化縮合によって生じたキノン系色素の吸光度を、ネガティブ・コントロールを対照にして測定し、大豆中のグリセロール量を以下の式により算出した。結果を図2に示した。
〔数1〕試料の吸光度/ポジティブ・コントロールの吸光度×200=大豆中のグリセロール(mg/dl)
試験例4(未発芽および発芽処理大豆の遊離アミノ酸の変化)
発芽処理前後の大豆の遊離アミノ酸の変化を調べるため、以下の試験を行なった。
完熟大豆(ミヤギシロメ)を20℃の0.23M 食塩水に6時間冠水浸漬した後、23℃、湿度90%以上で42時間発芽処理した未発芽大豆を試料大豆(b)とした。対照として、食塩水の代りに純水を用い、発芽処理時間を20時間としたこと以外は上記と同様の浸漬・発芽処理を行なった(c)。(c)では、胚軸が伸長して発芽期3となった大豆が10%あったが、これら発芽期3の大豆を除いたものを用いた。また、(c)と同様に純水で冠水浸漬処理したものを、発芽処理を行なわずにそのまま凍結粉砕して用いた(a)。
試料大豆50gを液体窒素中で凍結し、ワーリングブレンダーで5分間粉砕後、乳鉢に入れて太目の乳棒により充分に磨砕した。この粉末の温度を室温まで戻してから乾燥デシケーター中に保管した。この大豆粉末5gに純水20mlを加えて撹拌した後、5000rpmで20分間遠心し、その上清を新しいガラス容器に入れた。この上清液の500μlを採取し、これに5%のスルフォサルチル酸750μlを添加し微量ミキサーにて撹拌後、5000rpm、4℃で20分間遠心した。その上清を全量採取し、塩酸と炭酸リチウムでpHが1.6になるように調整した。これを高速アミノ酸分析計で測定した。標準アミノ酸溶液を用いて、絶対検量線法により以下の式に基づいて各種遊離アミノ酸の量を計算した。
〔数2〕アミノ酸(mg/100g乾重量)=試料のピーク高さ×標準液の濃度/標準液のピーク高さ
結果を表2に示す。未発芽大豆(a)の遊離アミノ酸は、アルギニンが42%を占め、次いでグルタミン酸が12%、シスチンが9.3%、アラニンが8.4%と続いた。これが発芽期3に近い発芽処理20時間(c)となると、グルタミン酸が18%と増え、アルギニンは17.7%に低下した。
一方、0.23M NaCl処理した後、発芽処理42時間目の大豆(b)の遊離アミノ酸は、未発芽大豆のそれとは全く異なり、むしろ、純水中で浸漬処理し、発芽処理20時間を経過した大豆(c)の遊離アミノ酸と類似していた。
すなわち、稀食塩水による浸漬処理を受けて発芽期3に至る時間が丸1日以上遅れた大豆(b)でも、貯蔵細胞内の遊離アミノ酸の種類と量は発芽期3の直前期(c)の変動パターンに近かった。言い換えると、塩水浸漬により発芽が遅れている大豆(b)でも、グルタミン酸が26%、次いでアルギニンが21%を占めていることから、細胞内のアミノ酸プールは、通常の発芽期3の直前期と同じように変動したことが示された。
なお、(b)ではGABA量も増加していた。
a:未発芽ミヤギシロメ
b:0.23M NaCl処理ミヤギシロメ(発芽処理42時間目)
c:純水中での発芽処理20時間目のミヤギシロメ(試験大豆数の10%が発芽期3となるが、この大豆を除いて遊離アミノ酸を定量した。)
試験例5(未発芽大豆と塩水処理大豆の発芽処理後の香り成分の比較)
発芽処理に伴う香気成分の変化を調べるため、以下の試験を行なった。
20℃の0.23M 食塩水中に6時間浸漬して吸水率(湿/乾)1.80にした大豆(ミヤギシロメ)を、23℃、湿度90%以上で46時間発芽処理した発芽処理大豆(A)を試料大豆とした。ネガティブ・コントロールとして、大豆を(A)と同様に冠水浸漬処理して吸水率(湿/乾)1.80にしたものを、発芽処理することなしに用いた(B)。
試料大豆をアルミ蒸着のレトルトパウチ中で120℃、10分間熱処理した後、2日間室温乾燥し、その揮発物質をガスクロマトグラフィーにより分析した。すなわち、5ccの注射筒にルンバール針をつけてパウチ内のガスをシリンジの中に取り込み、ただちにガスクロマト用注入口からガスクロマト装置に入れ分析した。装置はShimazu GC-9A、カラムはChromasorb WHP(ガスクロ工業)で径3mm×長さ2.1mのものを使用し、ヘリウムガスで流出させた。GC分析標準はシグマ社から購入した。カラム温度は180℃から280℃へと直線的に上昇させた。
結果を図3に示す。図3−Aは発芽処理大豆、図3−Bは未発芽の蒸し大豆の結果である。図3のピーク番号は以下の化合物に対応している。1:ペンタナール、2:ヘキサナール、3:1−ペンテン−3−オール、4:2−ヘプテン、5:ヘプタナール、6:trans−2−ヘキセナール、7:2−ペンチルフラン、8:1−ペンタノール、11:ヘキサノール、14:1−オクタン−3−オール、15:2−ヘキシルフラン。なお、内部標準(I.S.)としてデカン酸メチルを用いた。
その結果、食塩水中で浸漬した後に発芽処理すると、ヘキサナール、ヘキサノール、1−ペンタノール、2−ペンチルフランなどの揮発性物質が出てくることが分かった。
試験例6(発芽による大豆タンパク質の分解)
純水を用いた通常の発芽処理と0.23Mの食塩水による発芽処理で、大豆タンパク質の分解が起っているのを確認する為、ゲルろ過カラムを用いたHPLCによる分析を行った。
完熟大豆(ミヤギシロメ)を20℃の0.23M 食塩水中に6時間浸漬した後、23℃、湿度90%以上で46時間発芽処理して試料大豆とした(図4の下側:塩水発芽2日目)。この試料大豆を、0.14M NaClを含む50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.2)中でヒスコトロン NS-500(日本精密工業)を用いて3分間磨砕し、その遠心上清を、ゲルろ過カラムを用いてHPLCで分析した。
また、ポジティブ・コントロールとして食塩水の代りに純水を用い、発芽処理を72時間行なった後、胚軸を除き子葉部分のみを用いたこと以外は、上記と同様に分析して比較した(図4の中央:吸水3日目)。最後にネガティブ・コントロールとして、浸漬処理も発芽処理も行なっていない未発芽の完熟大豆を用いた(図4の上側:完熟)。
分析結果を図4に示す。図4中、「ペプチド」及び「A」で示す領域はペプチド画分を、「a,a」で示す領域はアミノ酸画分を、「Nuc」は低分子の核酸の溶出領域を、それぞれ示す。
フラクション番号20の高分子タンパク質のピークが、発芽処理によりいずれも低下していて、代わりにペプチドの領域が増加していた。また、アミノ酸の領域も増加していた(「a,a」)。したがって、未発芽(完熟)の場合を除いて、いずれもタンパク質の分解が認められた。
図4中、塩水発芽2日目の太い矢印で示した画分(保持時間32分)をカラムから分取した。この画分がペプチドである事を確認する為に、更なる分画を試みた。
図4中(塩水発芽2日目)の太矢印の画分を、逆層カラム(HPLC)に水の系で通して脱塩した後、凍結乾燥とロータリーエバポレーターにより濃縮した。このペプチド画分を100μlの0.1%水系トリフルオロ酢酸に溶かし、不溶物をメンブランフィルターで除去した後、HPLC(日立638型)に装着した逆層クロマトに注入し、0.1%水系トリフルオロ酢酸にアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけながら流速1ml/分で流し、220nmの紫外光でモニターしながら溶出パターンを記録した。
その溶出図を図5に示した。図5から、保持時間32分のピークは、多数のペプチドの混合したものであることを確認した。ちなみに、タンパク質や遊離アミノ酸は、この条件では逆層カラムに保持されない。
試験例7(発芽によるタンパク顆粒の変化)
発芽処理に伴い、大豆貯蔵組織である子葉組織の細胞内に存在するタンパク顆粒がどの様になっているのかを調べた。
20℃の0.23M 食塩水中に6時間浸漬した完熟大豆(ミヤギシロメ)を、23℃、湿度90%以上で46時間発芽処理した(塩水発芽2日目)。対照として、食塩水の代りに純水を用い、発芽処理を3日目(72時間)行なったこと以外は、上記と同様に処理した大豆を用いた(吸水3日目)。これらの大豆の子葉組織から、メトリザマイド層状密度勾配遠心法(深澤親房著、森田雄平ら編、植物プロテインボディの調製法、植物酵素・蛋白質研究法、別冊 蛋白質・核酸・酵素、共立出版(株)、p.134-145(1976).参照)によりタンパク顆粒を単離して、透過型電子顕微鏡により比較観察した。
すなわち、単離したタンパク顆粒をグルタールアルデヒド固定し、次いで定法に従ってエタノール濃度50%から連続的に濃度を上げながら脱水した。これをエポキシ樹脂に包埋してウルトラミクロトームで超薄切片をとり、樹脂を溶かし、酢酸ウラン処理後、電子顕微鏡で観察した。
顕微鏡写真像を図6に示す。図6−Aは吸水3日目、図6−Bは塩水発芽2日目を示す。
吸水3日目では、本来円形のタンパク顆粒がかなりイビツになり、外側から分解されている像が得られた(図6−A)。塩水発芽2日目ではもっと判り易く、タンパク質分解酵素により外側から分解されて気泡状に穴が開いているのを観察できた(図6−B)。この図6と抽出タンパク質のゲルろ過像(図4)から、塩水中での浸漬大豆の発芽処理も、通常の発芽と同様の生理的現象を惹起していると考えられた。
試験例8(発芽処理による大豆スペルミンの増加)
ポリアミンとは、第1級アミノ基を2つ以上持つ脂肪族炭化水素の総称で、動植物や微生物に偏在する生体アミンである。これまでに20種類以上のポリアミンが見つかっており、代表的なポリアミンとしては、プトレシン〔NH(CH)NH〕、スペルミジン〔NH(CH)NH(CH)4NH〕、スペルミン〔NH(CH)NH(CH)4NH(CH)NH〕がある。ポリアミンには、膜の安定化と機能調節、核酸・タンパク質の生合成促進、酵素活性の促進・調節、細胞増殖の促進、種々の環境ストレス抵抗性の増大などの機能があることが知られている。
本試験例では、発芽処理に伴うスペルミン並びにスペルミジン量の変化を調べるため、以下の試験を行なった。
20℃の0.23M 食塩水に6時間浸漬した完熟大豆(ミヤギシロメ)を、23℃、湿度90%以上で46時間発芽処理したものを試料大豆とした。対照として、浸漬処理も発芽処理も行なわない完熟大豆50g相当の粉末に0.8倍量の水を加えて120℃、10分間加熱処理した未発芽大豆(蒸煮大豆)を用いた。
試料大豆50g分を液体窒素で凍結し、ワーリングブレンダーで粉砕した。これを液体窒素で冷却しながら乳鉢中で細かく磨砕した後、乾燥デシケータ中に保管した。この粉末試料5gを精秤し、10mlの純水を加えてヒスコトロン NS-500(日本精密工業)で5分間撹拌した。これに終濃度が5%となるように過塩素酸(HClO)を加えて、ヒスコトロンで更に3分間撹拌し、10,000×gで40分間遠心後の上澄液をポリアミン抽出画分とした。1回の抽出で80%程度回収されるので、5%過塩素酸の同容量で再抽出し、遠心後の上澄液を1回目の上澄液(ポリアミン抽出画分)と合わせた。この5%過塩素酸液を強酸性陽イオン交換樹脂(Dowex 50W-X8)カラム(径3cm×長さ1cm)に吸着させて、1N HClにて充分洗浄後、6M HClで溶出した。磁製蒸発皿で湯浴上、ドラフト内で濃縮乾固した。得られたポリアミン画分は純水に溶解して中和後、弱酸性カルボキシメチルセルロース(CM23 Whatman)カラム(径1cm×長さ3cm)に吸着させた。純水で洗浄後、1M HClでポリアミンを溶出した後、前述のようにドラフト内の湯浴上で磁製乾燥皿で蒸発乾固を繰り返し、濃縮した。
これを、高速液体クロマトグラフ装置(L6000型、日立)によるO-フタルアルデヒド(OPA)ポストラベル法−イオン交換クロマトグラフィーを用いて、ポリアミンの分画を行った(浜名康栄著、細菌類のポリアミン抽出とHPLC分析、群馬保健学紀要、23、149-158(2002)参照)。すなわち、上記濃縮ポリアミンをメンブランフィルター(Ekicrodisc 13, Gelman社)に通して不溶性物質を除去した後、強酸性陽イオン交換樹脂(#2619F、日立)カラム(径4mm×長さ5cm)で分画した。カラムはオーブン装置で70℃に保持した。3種類のNaCl-クエン酸緩衝液による段階/直線塩濃度勾配溶出法を用いてOPAと反応させた後、分画パターンは蛍光により検出した。本法では、アミノ酸は素通り画分に溶出するため、ポリアミンを精度良く分画できた。校正曲線作製用に使用した各ポリアミンは、塩酸塩をSigma社(St.Louis, U.S.A)から入手した。HPLCでの溶出時間からポリアミンの種類を同定し、そのピーク高さから定量し、試料乾重量当りのモル数として算出した。
ポリアミン分画の溶出図を図7に示した。図7−Aは蒸煮大豆(対照)、図7−Bは発芽処理大豆の分析結果である。図7中、Spd:スペルミジン、Spm:スペルミン、Cad:カダベリン、Agm:アグマチンである。
ヒトの生体内で生理機能物質として有効に作用するポリアミンとして、スペルミン並びにスペルミジンの濃度のみを表3に示した。
その結果、スペルミジン(Spd)の量は発芽処理によってほとんど変化しなかったが、スペルミンについては発芽処理大豆(46時間目)の方が1.6倍程多くなった。
試験例9(吸水率による発芽処理大豆のスクロース含量及び食味の変化)
吸水率(湿/乾)を変えた塩水浸漬大豆の発芽処理におけるスクロース含量の変化を調べるため、以下の試験を行なった。
20℃の0.23M 食塩水に浸漬することによって吸水率(湿/乾)=1.42〜2.3になる様に調整した大豆を用いて、23℃、湿度90%以上の条件で0〜46時間発芽処理を行ない、試料大豆とした。ネガティブ・コントロールとして、20℃の蒸留水に浸漬して吸水率(湿/乾)1.84(浸漬4時間)に調整した大豆(ミヤギシロメ)を水切りし、同様の条件で0〜42時間発芽処理を行なった。これら試料大豆のスクロース含量を、試験例3の方法により測定した。
コントロールについて、発芽処理におけるスクロース含量(g/100g乾重量)の経時的変化を図8の折れ線グラフに表した。また、試料大豆及びコントロールについて、発芽処理時間0,38,42,46時間の各時点でのスクロース含量(g/100g乾重量)を、図8の右側及び表4に示した。図8中、右側に表示した数字(ex.1.42〜2.3)は、大豆の吸水量を湿/乾で表したものである。例えば、吸水率(湿/乾)=1.75とは、大豆乾重量を1.0として、それを0.23M 食塩水中で吸水させることにより湿重量が1.75となる様に調整したものである。
結果から、塩水浸漬処理した発芽処理大豆は、湿/乾1.70以上になると特にスクロース量が多くなることが分かった。なお、塩水浸漬大豆は発芽処理46時間目でも胚軸の伸長は見られず発芽期2であったが、コントロールでは発芽処理時間34時間以降で発芽率は90%以上となり発芽期3であった。
発芽処理46時間目に達した試料大豆を、121℃、10分間熱処理して2日間常温に放置した後、官能検査に供した。
官能評価結果を表5に示す。官能検査における評価は、1:不良、2:やや不良、3:普通、4:やや良、5:良、の5段階で行い、6人のパネラーによる評価値を平均化した。総合評価は、各項目で得た評価値の単純平均である。
その結果、吸水率(湿/乾)1.70以上で高い評価が得られた。
本発明の発芽処理大豆は、栄養価が高く、そのバランスにも優れ、且つ完熟大豆と比して消化吸収もし易い、香りと旨味が程よく融合したものであり、大豆加工食品の製造に利用できる。また、レトルトパウチを使用したF値4以上とした熱処理により、食感にも優れた常温流通可能な食品として、季節を問わず市場に供給できる。
浸漬条件による大豆の発芽率の変動を示す図である。図中のヒストグラムは、観察時間内の発芽率を、その最終時間の時点で示している。(a)は純水に浸漬した場合、(b)〜(d)はそれぞれ0.12M、0.23M、0.33Mの食塩水に浸漬した場合を示す。 発芽処理に伴う大豆のスクロース並びにグリセロール量の経時変化を示す図である。 発芽処理大豆の香気成分の分析結果を示す図である。Aは発芽処理大豆、Bは未発芽処理大豆(蒸し大豆)の結果をそれぞれ示す。 発芽処理大豆子葉組織由来タンパク質のゲルろ過カラムによる分析結果を示す図である。 発芽処理大豆子葉組織由来ペプチド画分の逆層カラムによる分析結果を示す図である。 発芽処理前後の大豆子葉組織から単離したタンパク顆粒の透過型電子顕微鏡像である。Aは吸水3日目、Bは塩水発芽2日目である。 発芽処理大豆のポリアミン分析結果を示す図である。Aは蒸煮大豆(対照)、Bは発芽処理大豆の分析結果である。 吸水率による発芽処理大豆のスクロース量の変化を示す図である。
符号の説明
(図2)
○:ミヤギシロメ、滅菌蒸留水による発芽処理に伴うスクロース量
●:ミヤギシロメ、0.23M 食塩水による発芽処理に伴うスクロース量
◎:ミヤギシロメ、滅菌蒸留水による発芽処理に伴うグリセロール量
+の付いた●:ミヤギシロメ、0.23M 食塩水による発芽処理に伴うグリセロール量
(図3)
1:ペンタナール
2:ヘキサナール
3:1−ペンテン−3−オール
4:2−ヘプテン
5:ヘプタナール
6:trans−2−ヘキセナール
7:2−ペンチルフラン
8:1−ペンタノール
11:ヘキサノール
14:1−オクタン−3−オール
15:2−ヘキシルフラン
(図4)
「ペプチド」及び「A」:ペプチド画分
「a,a」:アミノ酸画分
「Nuc」:低分子核酸領域
太矢印:図5で用いた試料を分取した画分
(図7)
Spd:スペルミジン
Spm:スペルミン
Cad:カダベリン
Agm:アグマチン
(図8)
発芽処理時間0〜42時間の折れ線:蒸留水浸漬大豆(ネガティブ・コントロール)
発芽処理時間38〜46時間の折れ線:塩水浸漬大豆
右側に表示した数字(ex.1.42〜2.3):大豆の吸水率(湿/乾)

Claims (6)

  1. 大豆を食塩濃度0.4M未満〜0.1Mの食塩水に浸漬した後、発芽処理を行なうことにより、水に浸漬して発芽処理を行なった大豆と比較して発芽を遅らせながら、子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させることを特徴とする大豆の発芽処理方法。
  2. 大豆の吸水率を1.7〜2.0に保持しつつ、発芽処理を20〜25℃、湿度70%以上で42〜72時間行なうことを特徴とする、請求項1に記載の大豆の発芽処理方法。
  3. 水に浸漬して発芽処理を行なった大豆と比較して発芽を遅らせながら、子葉組織内の貯蔵物質の分解を通常通り進行させることにより、香気成分、甘味成分、旨味成分、ポリアミン及びγ-アミノ酪酸を増強し、食感や消化吸収効率を改善することを特徴とする、請求項1又は2に記載の大豆の発芽処理方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の方法により調製した大豆を用いることを特徴とする大豆加工食品の製造方法。
  5. 大豆をレトルト処理する工程を含む、請求項4に記載の大豆加工食品の製造方法。
  6. 請求項4又は5に記載の方法により得られる、香気成分、甘味成分、旨味成分、ポリアミン及びγ-アミノ酪酸が増強され、食感や消化吸収効率が改善された大豆加工食品。
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