JP2009084756A - 高伸張弾性を有する撚り糸及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 ゴム等の弾性素材によらずに伸縮性を付与しうる撚り糸を提供する。
【解決手段】 第1のコンジュゲート繊維よりなる第1の繊維を下撚りし、第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなる第2の繊維を、前記下撚りした第1の繊維に上撚りすることにより、複合糸を得、前記複合糸を無緊張下で熱処理を実施する。
【選択図】 図1
【解決手段】 第1のコンジュゲート繊維よりなる第1の繊維を下撚りし、第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなる第2の繊維を、前記下撚りした第1の繊維に上撚りすることにより、複合糸を得、前記複合糸を無緊張下で熱処理を実施する。
【選択図】 図1
Description
この発明は、コンジュゲート繊維より製造される高い伸縮性を有する撚り糸、およびその製造方法に関する。
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル系繊維は、比較的に強度が高く、かつ伸長弾性率が高いという特徴を有する。この特徴のために、織編物としたときには、丈夫であるのみならず、および形態安定性が良好であるという利点を提供する。近年、ポリエステル系繊維としては、PETよりも伸び率が大きく、初期弾性率が低い(柔らかい)ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の利用が次第に盛んになりつつある。
かかるポリエステル系繊維に、自発捲縮などの機能性を付与せしめるべく、異なる性質を有する成分との間で、並列(サイドバイサイド)的に複合せしめたり、あるいは同軸的ないし偏心的に複合せしめる2成分複合(コンジュゲート)繊維の技術が提案されている。特許文献1および2は、それぞれサイドバイサイド複合繊維および偏心芯鞘複合繊維の技術を開示する。
特公昭43−19108号公報
特開2000−253483号公報
糸を広幅に編んだコード(紐)に伸縮性を付与するためには、通常、ごく細いゴム等の弾性素材をコードに編みこむことが行われる。しかしながらゴムは耐久性に劣るために、かかる技術によるコードは比較的短期間に伸縮性を失ってしまう。高い耐久性を有しながら伸縮性を有するコードが期待されている。
本発明は上述の問題を解決するために為されたものであって、ゴム等の弾性素材によらずに伸縮性を付与しうる、伸縮性コードに適したコンジュゲート繊維よりなる撚り糸、およびその製造方法を提供することを目的とする。
かかる目的の達成のため、撚り糸の製造方法は、第1のコンジュゲート繊維よりなる第1の繊維を下撚りし、第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなる第2の繊維を、前記下撚りした第1の繊維に上撚りすることにより、複合糸を得、前記複合糸を無緊張下で熱処理を実施する、ことを特徴とする。
好ましくは、前記下撚りをS撚り又はZ撚りとし、前記上撚りを前記下撚りと逆方向の撚りとする。
また好ましくは、前記熱処理において前記複合糸はかせ糸の状態であり、前記熱処理はスチームセットによる。あるいは好ましくは、前記熱処理において前記複合糸は10ゲージ以下の編地または150本/インチ以下の織物の状態であり、前記熱処理はスチームセットによる。
また好ましくは、前記熱処理において、前記複合糸を走行せしめる。さらに好ましくは、前記熱処理を実施した前記複合糸を、さらに、かせ糸の状態でスチームセットする。
また好ましくは、前記第2の繊維の上撚り数(T2)は、前記第1の繊維の下撚り数(T1)に対し、不等式T2≦T1を満足する。
かかる目的の達成のため、撚り糸は、第1のコンジュゲート繊維よりなる下撚りされた第1の繊維と、第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなり、前記下撚りした第1の繊維に上撚りされた第2の繊維と、を含む複合糸よりなり、前記複合糸は無緊張下で熱処理が実施されていることを特徴とする。
好ましくは、前記第2の繊維の上撚り数(T2)は、前記第1の繊維の下撚り数(T1)に対し、不等式T2≦T1を満足する。
また好ましくは、前記第1のコンジュゲート繊維、および前記第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維は、それぞれ、ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートの群より選択された一の合成繊維よりなる。
ゴム等の弾性素材によらずにコードに伸縮性を付与するべく、高い伸張弾性と伸び率を有してノントルクである、伸縮性コードに適した撚り糸が提供される。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
以下の説明ではポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記する)よりなる繊維を例にとるが、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)等の他のポリエステルよりなる繊維や、ポリアミド系等の他の合成繊維によっても同様な実施が可能である。
図1を参照するに、PTTコンジュゲート繊維よりなる第1の繊維1は、パッケージ3に巻かれており、PTTコンジュゲート繊維よりなる第2の繊維7は、他のパッケージ9に巻かれている。コンジュゲート繊維としては、サイドバイサイド複合繊維または偏心芯鞘複合繊維が好適であるが、これに限定されない。また第1の繊維1と第2の繊維7は、それぞれ同種の繊維であってもよいし、別種の繊維であってもよい。また第2の繊維7は、コンジュゲート繊維に代えて、仮撚り繊維を適用してもよい。
パッケージ3より送り出された第1の繊維1を、撚糸機により、例えばS撚りで下撚りを施す。パッケージ9より送り出された第2の繊維7を、撚糸機により、これとは逆のZ撚りを施す。下撚りした第1の繊維5を走行させつつ、Z撚りした第2の繊維11を絡ませることにより上撚りして、複合糸13を得る。これらの過程は同時かつ連続的に行う。得られた複合糸13は、紙管15に一定の巻き量で巻き取り、パッケージ17とする。
下撚りと上撚りの関係は、上述とは逆方向の撚り、すなわち、下撚りをZ撚りに、上撚りをS撚りとしてもよい。また下撚り数T1に対し、上撚り数T2は、不等式T2≦T1を満足することが望ましい。これは、上撚りが下撚りに比べて過大であると、撚り糸にトルクを生じて好ましくないからである。また、上撚りが下撚りに比べて同等かやや少ないと、後述のごとく伸張弾性率の改善が認められるからである。
次いで、図2に示すごとく、パッケージ17より複合糸13を引き出し、熱処理機19中に複合糸13を走行せしめる。熱処理機19は、例えば乾熱式のものが好適であるが、これに限定されない。乾熱式の熱処理機19は、一対のローラ21およびローラ23と、ヒータ25とを備えており、供給ローラ21より供給された複合糸13がヒータ25中を走行して送り出しローラ23により送り出されるようになっている。送り出しローラ23により送り出された複合糸13は、巻き取りローラ27により巻き取られる。
一対のローラ21,23の回転を適宜に制御することにより複合糸13の走行する速度(加工速度)を、例えば50m/minに制御する。ドラフト率は250%程度が好適であるがこれに限定されず、熱処理温度は220ないし230℃である。熱処理は、繰り返し実施してもよく、再度の熱処理温度は190℃程度の温度としてもよい。さらに、再度の熱処理は、複合糸13をかせ繰り機(糸巻き機)により巻き取り、図3(A)に示すかせ糸29の態様とした後、図3(B)に示すごとくその全体をかせ染色機31に投入することにより実施してもよい。かせ染色機31による熱処理は、複合糸13をスチーム中に適宜の時間、例えば135℃のスチーム中に25分間、保持(スチームセット)することにより実施する。かせ糸29の態様のままであるので、複合糸13には緊張が与えられない状態で、熱処理が実施される。
またかかる熱処理において、複合糸13はルーズな編地の状態、あるいはルーズな織物の状態であってもよい。編地または織物の状態であっても十分にルーズな、あるいは複合糸に緊張を与えないために、収縮を阻害しない状態であれば、かせ糸の状態で熱処理する場合と、同様な効果を得ることができる。熱処理後に編地または織物の状態を解除することを考慮して、編地は10ゲージ以下であることが好ましく、織物は150本/インチの状態であることが好ましい。
下撚りした第1の繊維1に第2の繊維7を上撚りすることにより、原料のPTTコンジュゲート繊維に比べて強さ、伸び率、伸長弾性率の向上が得られる。これに熱処理により生ずるそれぞれの繊維の自発捲縮を組み合わせると、伸び率の顕著な向上をもたらす。その詳細な機構は不明であるが、それぞれの繊維の撚りと捲縮とが相乗作用を生み出すものと推測される。
さらには上撚り数を、下撚り数との比較において、適宜にしたため、得られる撚り糸はノントルクである。
次に、撚り数や熱処理条件等が撚り糸の特性に及ぼす影響を実証するため、以下の各実施例による測定を行った。
(実施例1)
図1に図示したのと同様にして、S撚りしたPTTコンジュゲート繊維に、Z撚りしたPTTコンジュゲート繊維を絡ませることにより、複合糸を得る工程において、S撚りとZ撚りのそれぞれにつき、表1のごとく、種々の撚り数の組み合わせを試した。S撚りの撚り数は200〜600T/M、Z撚りの撚り数は200〜600T/Mの範囲であった。得られた各複合糸につき、JIS−L1013の8.9項が定めるB法(合成繊維)に従い、伸長弾性率(%)を測定した。その結果は、表1に示す如くである。
図1に図示したのと同様にして、S撚りしたPTTコンジュゲート繊維に、Z撚りしたPTTコンジュゲート繊維を絡ませることにより、複合糸を得る工程において、S撚りとZ撚りのそれぞれにつき、表1のごとく、種々の撚り数の組み合わせを試した。S撚りの撚り数は200〜600T/M、Z撚りの撚り数は200〜600T/Mの範囲であった。得られた各複合糸につき、JIS−L1013の8.9項が定めるB法(合成繊維)に従い、伸長弾性率(%)を測定した。その結果は、表1に示す如くである。
JIS−L1013第8.9項が定める伸長弾性率の測定B法(合成繊維)は、次の条件下で行った。
試長さ 20cm
引張速度 10cm/min
一定伸び後 1分放置
初荷重 10グラム
所重後 3分放置
表1に掲げる結果より、撚糸回数と加工速度をそれぞれ下撚りであるS撚りが500T/m、上撚りであるZ撚りが400T/mであり、加工速度8.Om/分のときに最も高い伸長弾性率が得られた。
引張速度 10cm/min
一定伸び後 1分放置
初荷重 10グラム
所重後 3分放置
表1に掲げる結果より、撚糸回数と加工速度をそれぞれ下撚りであるS撚りが500T/m、上撚りであるZ撚りが400T/mであり、加工速度8.Om/分のときに最も高い伸長弾性率が得られた。
(実施例2)
下撚りであるS撚りが500T/m、上撚りであるZ撚りが400T/mであり、加工速度8.Om/分の条件の下に得られた複合糸につき、表2に示した条件で熱処理を行った(条件1は複合糸まま)。このときの基準速度は50m/minである。また、そのときの糸の強さ、伸び率および伸長弾性率を測定した結果は、表2のとおりである。なお、測定方法はJIS−L1013の8.5項(強さ、伸び率)および8.9項B法(伸長弾性率)に準じた。
下撚りであるS撚りが500T/m、上撚りであるZ撚りが400T/mであり、加工速度8.Om/分の条件の下に得られた複合糸につき、表2に示した条件で熱処理を行った(条件1は複合糸まま)。このときの基準速度は50m/minである。また、そのときの糸の強さ、伸び率および伸長弾性率を測定した結果は、表2のとおりである。なお、測定方法はJIS−L1013の8.5項(強さ、伸び率)および8.9項B法(伸長弾性率)に準じた。
上記かせ収縮処理とは、複合糸をかせ繰り機(糸巻き機)で図3(A)に示されているようなかせ糸29とし、図3(B)に示されるかせ染色機31に投入し、高圧例えば135℃、25分の無緊張下の条件でスチームのみでの収縮処理を行うことである。なお、上記4、5は図2に示した熱処理機に複合糸を再度通して得たものである。
PTTコンジュゲート繊維の強さは2.30N、伸び率は39.7%、伸長弾性率は67.0%であるので、何れの複合糸も強さ、伸び率、伸長弾性率の何れも向上している。また何れの糸もトルクを有さず、ノントルクな糸である。また熱処理されていない条件1の糸に比べ、熱処理された条件2ないし5の糸は、何れも特に伸び率が向上している。特に、条件5に掲げた乾熱ヒータで熱処理した後にかせ糸の状態でスチームセット処理を行った糸は、特に大きな伸び率を有する。
その結果、何れの熱処理条件の糸も、チーズ染色試験後は強さが3.5〜9.0N、伸び率が69.0〜78.0%、伸長弾性率が61.7〜68.2%であり、原料のPTTコンジュゲート繊維よりも何れも向上している。特に伸び率は、熱処理ままよりも顕著に向上している。その糸はトルクを有さず、ノントルクな糸である。
上記表5の結果からわかるように、135℃でのスチームセット後、染色しないと糸の伸長率がダウンする。スチームでの伸縮性を出す工程が、染色時での液体中での高温度処理より有利な工程である。
その結果、スチームのみでの135℃×25分の収縮処理を行い、さらに、例えば120℃、45分の条件で染色加工を施した後、乾燥巻き上げをすることで、従来の単なるPTT繊維の伸縮率より高い伸縮弾性率を有する高伸張弾性糸を得ることができる。
以上のごとく、本発明の好適な実施形態による撚り糸は、伸び率と伸長弾性率との何れもが極めて高い。コードとしたときには、ゴム等の弾性素材によらずに、前記撚り糸自身の特性により、高い伸縮性が得られることが明らかである。即ち前記撚り糸は、伸縮性コードを製造するに好適である。もちろん本発明の実施形態による撚り糸は、伸縮性コードに限らず、伸縮性が望まれる種々の糸、紐、リボン、ロープ、布地等の様々な用途に適用しうる。本発明の好適な実施形態による撚り糸は、異なる方向の撚りを複合することによって撚り糸全体として見ればノントルクであるため、織物、編み物布帛への適用が容易であり、さらに欠陥の発生が抑えられるために高い紡糸生産性を提供する。
本発明を幾つかの好適な実施形態を参照して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、本技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。例えば、撚糸後の糸で熱処理を行う手段として図1に示した熱処理機や図3に示したかせ糸によるスチームセットで行う他に、生地密度を設計し、熱加工法を適宜選択すれば、発色機、シュリンクサーファー機などでも加工する糸の高伸縮弾性を得ることができる。
1 第1の繊維(PTTコンジュゲート繊維)
3 パッケージ
5 下撚り糸
7 第2の繊維(PTTコンジュゲート繊維)
9 パッケージ
11 上撚り糸
13 複合糸
15 紙管
17 パッケージ
19 熱処理機(熱処理装置)
21 供給ローラ
23 送り出しローラ
25 ヒータ
27 巻き取りローラ
29 かせ糸
31 かせ染色機(熱処理装置)
3 パッケージ
5 下撚り糸
7 第2の繊維(PTTコンジュゲート繊維)
9 パッケージ
11 上撚り糸
13 複合糸
15 紙管
17 パッケージ
19 熱処理機(熱処理装置)
21 供給ローラ
23 送り出しローラ
25 ヒータ
27 巻き取りローラ
29 かせ糸
31 かせ染色機(熱処理装置)
Claims (10)
- 第1のコンジュゲート繊維よりなる第1の繊維を下撚りし、
第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなる第2の繊維を、前記下撚りした第1の繊維に上撚りすることにより、複合糸を得、
前記複合糸を無緊張下で熱処理を実施する、
ことを特徴とする撚り糸の製造方法。 - 前記下撚りをS撚り又はZ撚りとし、前記上撚りを前記下撚りと逆方向の撚りとすること特徴とする請求項1に記載の撚り糸の製造方法。
- 前記熱処理において前記複合糸はかせ糸の状態であり、前記熱処理はスチームセットによることを特徴とする請求項1または2に記載の撚り糸の製造方法。
- 前記熱処理において前記複合糸は10ゲージ以下の編地または150本/インチ以下の織物の状態であり、前記熱処理はスチームセットによることを特徴とする請求項1または2に記載の撚り糸の製造方法。
- 前記熱処理において、前記複合糸を走行せしめることを特徴とする請求項1または2に記載の撚り糸の製造方法。
- 前記熱処理を実施した前記複合糸を、さらに、かせ糸の状態でスチームセットすることを特徴とする請求項5に記載の撚り糸の製造方法。
- 前記第2の繊維の上撚り数(T2)は、前記第1の繊維の下撚り数(T1)に対し、不等式T2≦T1を満足することを特徴とする、請求項1乃至6の何れか1項に記載の撚り糸の製造方法。
- 第1のコンジュゲート繊維よりなる下撚りされた第1の繊維と、
第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維よりなり、前記下撚りした第1の繊維に上撚りされた第2の繊維と、を含む複合糸よりなり、
前記複合糸は無緊張下で熱処理が実施されていることを特徴とする撚り糸。 - 前記第2の繊維の上撚り数(T2)は、前記第1の繊維の下撚り数(T1)に対し、不等式T2≦T1を満足することを特徴とする、請求項8に記載の撚り糸。
- 前記第1のコンジュゲート繊維、および前記第2のコンジュゲート繊維または仮撚り繊維は、それぞれ、ポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートの群より選択された一の合成繊維よりなることを特徴とする請求項8または9に記載の撚り糸。
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