<ダイコータおよびダイコータ用の口金>
本発明のダイコータ1は、口金4を設けたダイ本体2と加熱機構3とを備えて構成される(図1(A)、図1(B)、図2、図4)。
ダイ本体2の口金4は、図1(A)(B)に示すように、口金構成部材5,6を組み合わせて一体的に構成される。口金4の内部には、対面する口金構成部材5,6の隙間に外部に向かって開口した空間部が形成されてマニホールド7となしている。また口金4は、マニホールド7から外部に向かって幅細に開口した部分であって口金4の長手方向に延びた部分をスリット8となし、さらにマニホールド7からスリット8に向かって伸びる空間を形成してスロット9となしている。口金4の外形は、マニホールド7からスリット8に向かう方向に幅細に構成されてその先端部をリップ部20とし、そのリップ部20の位置にスリット8が形成される。そして、口金4は、口金構成部材5の幅方向(長手方向)の所定の位置(例えば中心部)に、マニホールド7に連通する塗料供給孔10を形成している。
塗料供給孔10は、塗液貯留部11に対して管12にて接続されている。管12には、ポンプ13が設けられており、このポンプ13は塗料貯留部11に貯留されている塗料14を、ダイ本体2の塗料供給孔10を介してマニホールド7に送りこむ。ポンプ13としては、ギアポンプ、ダイアフラムポンプ、ピストン型ポンプなど一般的に使用されるポンプを適宜用いることができる。また、ポンプ13による塗料14の流量(塗料貯留部11からマニホールド7への供給速度)は適宜制御されてよく、例えば、管12にバルブ(図示せず)を接続してバルブによりポンプ13による塗料14の流量が制御されるように構成されていてもよい。
口金構成材5,6としては、剛性や精度、伝熱性の点から通常ステンレス鋼が採用される。口金構成材5,6がステンレス鋼で形成されている事で、リップ部20先端と基体30表面とのクリアランス(図4においてD)を口金4の長手方向に均一に保持する事ができ、更に口金4全体の温度分布を一定に保つ事が容易になる。
口金4において、スリット8の幅(図1(B)においてK(リップ部20先端位置における口金構成材5,6間の離間距離))は、10μmから500μmの範囲の所定の値に調整する。スリット8の幅(スリット間隔)Kが10μm未満では、塗料14吐出の圧力損失が大きくポンプ13に過負荷がかかったり、ポンプ13の動きに対して塗料14吐出の応答に遅れがあり枚葉塗工として好ましくなかったりする。スリット間隔Kが500μmを越えると、口金4の長手方向に対する塗料14の吐出量の均一性が確保しにくい。基体30とリップ20先端面との隙間の距離であるクリアランスは、できるだけ塗料14を均一に塗布して均一な厚みの塗工膜21を得るためには、塗工膜21の厚みの100倍以下から選ばれることが好ましく、通常、10μmから500μmの範囲の所定の値に設定する。クリアランスが10μm未満では、基体30自体のうねりや基体30と口金4とを相対的に走行させる機構の精度のため基体30とリップ20先端面との接触を避けることが難しくなる虞がある。
加熱機構3は、発熱部品15と、発熱部品15の発熱状態を制御する制御装置16とを備えてなる。具体的に、加熱機構3としては、赤外線ヒーターなどのヒーターを具体的に挙げることができる。
ダイコータ1において、発熱部品15は、ダイ本体2の口金4を構成する口金構成部材5,6におけるスロット9の周囲の所定位置に設けられている。図1の例では、スロット9の周囲の部分うちマニホールド7よりもリップ部20の方に近い部分に発熱部品15が設置されている。
図1に示すダイコータ1の例では、加熱機構20によって口金4のリップ部20が効率的に加熱されることになり、基体30に塗工される直前の塗料14についてその塗料14の粘度や表面張力を調製することができ、均一な塗工膜21を形成することができる。
なお、加熱機構3は、リップ部20周囲にのみ発熱部品15を配置して構成されれば、塗料14の温度の調整は可能となる(図5(A))。また、加熱機構3は、その発熱部品15を口金4のスロット9に対面するように配設しても(図5(C))、口金4の外面に配置して構成されてもよい(図5(D))。ただし、塗料14の吐出安定性の点を考慮すれば、加熱機構3は、塗料14が送り出される通路をなすスロット8の周囲全体に加熱されているように発熱部品15を設置することが好ましく、スロット8の周囲のみならずマニホールド7の周囲を含む部分全体に発熱部品15を配置すると、口金4全体を容易に加熱することができて好ましい。
加熱機構3によって口金4全体を加熱することは、発熱部品15が口金4のマニホールド7、スロット8の周囲全体に設けられることによって具体的に実現できる(図5(B))。この場合、塗料14は、口金4内部のマニホールド7内で塗料の粘度や表面張力のより均一なものとなり、その状態を維持したままスロット8内部を移動し、スリット8から基体表面へと吐出され、塗料がより安定して基体に塗工されることができるようになる。
口金4に対する加熱機構3の発熱部品15の配置は、例えば、口金4に発熱部品15を配設しようとする部分に孔を穿設することや切り込んで空間部を形成することなどによって発熱部品15を配設する空間部分を確保しておき、その空間部分に発熱部品15を挿入配置することで実施することができる。
ダイコータ1には、通常、駆動機構(図示しない)が設けられる。その駆動機構は、ダイ本体2を基体30表面に対して相対的に移動させる機構であり、従前より公知な機構を適宜用いることができる。例えば、駆動機構としては、ダイ本体2の基体に対する移動は、基体の位置を固定しつつダイ本体2が移動するように構成した機構、ダイ本体2を固定しつつ基体の位置を移動させるように構成した機構、ダイ本体2と基体の両方を相互に移動させるように構成した機構を挙げることができる。
ダイ本体2を移動しつつ基体30の位置を固定させる機構は、載置台を設けるとともに載置台の面に対して所定の距離をおいて載置台上方にレールを架設し、そのレールに対してスライド移動可能にスライダー(スライド装置)を配置し、そのスライダーにダイ本体2を固定することによってなる機構、などによって実現することができる。
ダイ本体2を固定しつつ基体30の位置を移動させる機構は、コンベヤ上に基体を配置して基体の上方の所定の位置にダイ本体を固定しコンベヤの駆動に伴って基体を移動させるように構成してなる機構や、所定のローラとそのローラの面に対してダイ本体を対面させておき基体を所定のローラに通じてローラの軸まわりに回転させて移動させるように構成してなる機構、などによって具体的に実現することができる。
図1に示すダイコータ1の例では、塗料14をダイ本体2に向けて供給する手段(塗料供給手段)としてポンプ13と管12でなる機構を設けた場合について説明したが、塗料供給手段は、この例に限定されず、圧縮空気にて塗料14を塗液貯留部11から管12を通じて塗料供給孔10に向けて押し出すように構成してなる手段といった、いわゆる圧空手段などであっても良い。
なお、ダイコータ1は、図3に示すように、温度を検知するセンサ18を備えた温度計測機構17が設けられていることが好ましい。図3の例では、温度測定機構17は、センサ18を口金4のスリット8に向けて口金4との間に隙間を開けて配置してダイコータ1に設けられる。この場合、センサ18は、スリット8の位置における口金もしくは塗料の温度を計測するものであり、赤外線温度センサなどを具体的に挙げることができる。
温度測定機構17は、上記のように口金4の外部にセンサ18を設ける場合に限定されず、センサ18を、口金4の内部、口金4内部に形成されるスロット9に対面する部位、口金4のリップ部20の外側面上の少なくともいずれかに当接配置してダイコータ1に設けられていてもよい。その場合、センサ18としては、口金4の温度を直接計測することでスリット8の温度を計測するものを挙げることができ、具体的には熱電対を挙げることができる。なお、口金4内部に形成される空間との界面上に熱電対を取り付けるタイプは、口金4内部のマニホールド7内をスリット9に向かって流れる塗料14の温度を正確に測定できることから、望ましい。
ダイコータ1は、このように温度計測機構17を備える事で、口金4や塗料14の温度を検出することができ、その温度に応じて加熱機構3による口金4の加熱を調整することが可能となり、塗料14の温度を調節することが可能となる。
本発明のダイコータ1には、リップ20先端面と基体30の間に保持されている塗料14に対して、口金4の基体30に対する移動方向に対して上流側(図4の紙面において左側)または下流側(図4の紙面において右側)から加圧または減圧を与えるための機構(図示せず)が、が付加されることが適宜許される。この機構は、ダイコータ1のリップ部20の先端より塗料がダイコータ1の外部に押し出されることと、塗料をダイコータ1の内部に吸引させることとの間の調整(押出吸引調整)を、容易にする。ダイコーティングでは、塗工むらの防止と均一な膜厚の塗工膜を得るため、塗布する直前にリップ部の先端に塗料の液溜り(メニスカス)を作り、また、塗工膜の形成後には液溜りをダイコータ内に引き戻すことが行われる。したがって、上記のような押出吸引調整を容易にする機構によれば、基体30に塗工膜を形成する直前にダイコータ1のリップ部20の先端より塗料の液溜り(メニスカス)を形成させることと、塗工膜の形成後にメニスカスを構成する塗料をダイコータ1内に引き戻させることが容易に実施でできる。
<ダイコーティング方法>
次に、本発明のダイコータ用の口金4を設けたダイコータ1により基体30の面上に塗料を塗工して塗工膜を形成する方法(ダイコーティング方法)について図4を参照しつつ詳細に説明する。図4は、ダイコーティング方法を実施している状態を説明するための説明図である。なお、ダイコータ1がスリットダイコータである場合を例として説明する。
まず、図4に示すように、ダイコータ1と基体30とが対面させて配置される。このとき、ダイコータ1は、口金4のリップ部20の先端に形成されるスリット8を、塗工膜21を形成しようとする基体30の面に向けられている。
次に、ダイコータ1は、塗料貯留部11に貯留した塗料14を、ポンプ13により、管12内を通じてダイ本体2の塗料供給孔10を介してマニホールド7に送りこむ。ダイコータ1では、マニホールド7に送り込まれた塗料14は、スロット8を経由してリップ部20のスリット8より基体30面上へと吐出する。
ここで、ダイコータ1では、加熱機構3を構成する制御装置16が、口金4に設けられた発熱部品15を適宜作動させ、ダイ本体2の口金4が加熱されている。ここに、口金4において発熱部品15がスロット9やスリット8の周囲に配置されるので、加熱機構3によって加熱された口金4の温度と、スロット8やスリット9を流れる塗料14の温度とは、同一あるいはおおよそ同一になっている。したがって、ダイコータ1において、口金4が加熱されると、スロット9をスリット8に向かって移動する塗料が加熱されるので、塗料14は加熱された状態となってスリット8から基体30面上に吐出される。なお、加熱機構3の作動のタイミングは、塗料や基体の材質や性質などのほか、ダイコータ1の周囲の温度雰囲気などの諸条件に応じて適宜設定することができる。
その一方で、ダイコータ1は、塗料14の基体30表面上への吐出に応じて、適宜、ダイ本体2を基体表面に対して相対的に移動させる。ダイ本体2の基体に対する移動は、基体30の位置を固定しつつダイ本体2が移動することによるほか、ダイ本体2を固定しつつ基体30の位置を移動させること、ダイ本体2と基体30の両方によっても実現することができる。また、ダイ本体2を固定しつつ基体30の位置を移動させることは、基体30を所定の平面に対して平行に移動させることや、基体30を所定の軸まわりに回転させることで移動させること、などによって具体的に実現することができる。
こうして、ダイコータ1の口金4のスリット8の位置から塗料14が基体30面上に吐出されるとともに、ダイ本体2と基体30表面とが相対的に移動し、その移動に応じて基体30表面に塗工膜21が形成される。このとき、塗料14の吐出速度と、ダイ本体2と基体30表面との相対的な移動速度は、塗料14の性質や塗工膜21の厚みなどの条件によって適宜設定される。
なお、ダイコータ1にて塗料14を用いて塗工膜21を形成するにあたり、塗料14がスリット8から最初に吐出された後、基体1表面上に塗料14が盛られてその盛られた塗料14の量(Ws)が最初に目的とする塗工膜21の厚みを得るために必要な量(Wr)(メニスカスを構成する塗料14の量(メニスカスの量))になるまでの時間(Tr)は出来るだけ短いことが好ましく(メニスカスが出来るまでの時間)、その後、メニスカスの量(Wr)が一定に維持されることが好ましい。このような点を踏まえて、塗料14の単位時間あたりの吐出量(吐出速度)は、基材31面上に形成しようとする塗工膜21の厚みに応じたメニスカスの量(Wr)に応じて適宜設定される。すなわち、塗工開始から塗料14の吐出された量(Ws)がWrに達するまでは吐出速度を大きくし(時間Trをできるだけ小さくし)、塗料14の吐出量がWsを超えた後(時間Tr経過後)は、Wrの値を維持して基体1への塗料14の吐出が行われることが好ましい。WsがWrに至らない状態で、ダイ本体2と基体30表面との相対的な移動が進むと、塗料が基体に塗工され始めた塗工開始位置からダイ本体2の移動方向に数cmの位置までの範囲において塗工膜の膜厚みが不足してしまう。また、時間Trが、余り大きいと、塗布ムラが生じるおそれがある。
ダイコーティング方法は、ダイコータ1として上記したような温度計測機構17を備えるものを用いて実施されてもよいが、その場合、ダイコーティング方法は、温度計測機構17にて口金4の温度を検出し、その温度に応じて加熱機構3による口金4の加熱を調整しつつ塗工膜21を形成することで、実施されてもよい。具体的には、ダイコータ1は、温度計測機構17は所定の時間間隔で口金4のスリット8の位置の温度を検出し、その検出された温度が所定の温度範囲から外れた場合に、加熱機構3の制御部16が発熱部品15による発熱を規制し、検出された温度が所定の温度範囲以内に収まる場合に、加熱機構3の制御部16が発熱部品15による発熱を実施させる。これにより、ダイコータ1は、スリット8の位置における塗料の温度を所定の温度範囲内に維持することが可能となる。
本発明のダイコータやダイコーティング方法は、塗料を基体に塗布して精密な塗工膜を形成することを必要とする際に、好適に用いられることが可能である。この点、光学素子についてみると、光学素子は光学機能を発揮させる必要性から基体上に精密な塗工膜を形成する必要がある。特に、液晶化合物を含んでなる液晶組成物を基体に塗工して塗工膜を成膜しその塗工膜を位相差層となして光学素子を得るような場合においては、塗工膜に極めて精密な寸法精度を要求され、さらに塗工膜を作成する途中で液晶化合物の析出が高度に抑制される必要もある。したがって、本発明のダイコータやダイコーティング方法は、このような位相差層を備えた光学素子を作成する場合に特に顕著な効果を発揮する。
そこで、本発明のダイコータ1を用いるとともに、液晶化合物を含んでなる液晶組成物を塗料14として用いて基体30上に塗工膜21を形成して光学素子となす場合について、次に詳細に説明する。
<ダイコータを用いて得られる光学素子(第1の形態)>
ダイコータ1を用いて形成される本発明の光学素子32は、基体30の表面上に直接もしくは間接に位相差層33を形成してなる(第1の形態の光学素子)(図6)。なお、図6では、光学素子32は基体30に対して直接に位相差層33を形成している場合についてのみ示す。
基体30には、光透過性を有する基材31が用いられる。この基材31は基材形成材から構成される。
基材形成材は、光学的に等方性を有するように構成されていることが好ましい。基材形成材としては、ガラス基板などのガラス材の他、種々の材質からなる板状体を適宜選択できる。具体的には、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースなどからなるプラスチック基板であってもよいし、またさらにポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリプロプレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンなどのフィルムを用いることもできる。ただし、特に位相差制御部材を液晶ディスプレイ用に用いる場合には、基板形成材は無アルカリガラスであることが好ましい。
位相差層33は、その厚み方向に位相差層33の内部を進行して一方側の表面から入射されて他方側の表面より出射する光につき、その光が位相差層33の内部を進行する際に光を複屈折させる機能を有する層である。
位相差層33としては、その屈折率nx、ny、nzについて、nx<nzおよびny<nzを満たし且つnxとnyは等しい、もしくは殆ど等しい関係となっており、いわゆる「+Cプレート」(正のCプレート)として機能する層、nz<nxおよびnz<nyを満たし且つnxとnyは等しい、もしくは殆ど等しい関係となっており、いわゆる「-Cプレート」(負のCプレート)として機能する層、ny=nz<nxもしくはnx=nz<nyの関係となっており、いわゆる「+Aプレート」(正のAプレート)として機能する層を挙げることができる。ただし、位相差層33の屈折率につき、位相差層4の厚み方向(位相差層4の法線方向)にz軸をとり、位相差層4の面内方向(位相差層4の厚み方向に法線を有するような面(平面)についての面内方向(その平面に平行する方向))にx軸、y軸を相互に直交するようにとってxyz空間を想定した場合、x軸、y軸、z軸方向の光の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとして定義する。
位相差層33は、分子構造中に重合性官能基を有する液晶分子(重合性液晶分子という)を重合反応させてなる高分子構造を形成している。
位相差層33は、液晶化合物をなす液晶分子を所定の方向に配向させた状態にて形成されている。液晶分子は、その分子構造に応じた光軸を有し、その光軸の状態に応じて定まる複屈折特性を備えており、特定の方向に液晶分子を配向させて固定することで、その配向状態に応じた複屈折特性を有する層(例えば正のCプレートの機能を有する層、負のCプレートの機能を有する層、正のAプレートの機能を有する層)として位相差層33が形成される。
<位相差層33が正のCプレートの機能を有する層である場合>
位相差層33を構成する液晶化合物は、位相差層33を正のCプレートの機能を有する層となすことができるものから適宜選択できる。そのような液晶化合物としては、ネマチック液晶相を形成可能な液晶化合物やスメクチック液晶相を形成可能な液晶化合物を用いることができる。
位相差層33を構成する液晶化合物は、その液晶化合物をなす液晶分子の分子構造中に不飽和2重結合を重合性官能基として有する重合性液晶化合物が好ましい。また、重合性液晶化合物には、耐熱性の点から液晶相状態で架橋重合反応可能な重合性液晶化合物(架橋重合性液晶化合物、あるいは架橋性液晶化合物という)がより好ましく用いられ、架橋重合性液晶化合物としては分子構造の両末端に不飽和2重結合を有するもの(不飽和2重結合を2以上有するもの)が好ましい。なお、架橋重合性液晶化合物を用いて位相差層33が形成される場合、位相差層33には、架橋重合性液晶化合物をなす液晶分子同士を相互に架橋させてなる架橋高分子構造が形成されることになる。
位相差層33を得るために用いられる架橋性液晶化合物としては、架橋性を有するネマチック液晶化合物(架橋性ネマチック液晶化合物)などをあげることができる。架橋性ネマチック液晶化合物としては例えば、1分子中に(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキタセン基、イソシアネート基等の重合性基を少なくとも1個有するモノマー、オリゴマー、ポリマー等が挙げられる。また、このような架橋性液晶化合物として、より具体的には、下記化1に示す一般式(1)で表される化合物のうちの1種の化合物(化合物(I))もしくは2種以上の混合物、下記化2に示す一般式(2)で表される化合物のうちの1種の化合物(化合物(II))もしくは2種以上の混合物、化3、化4に示す化合物(化合物(III))のうちの1種の化合物或いは2種以上の混合物、またはこれらを組み合わせた混合物を用いることができる。
化1に示す一般式(1)において、R1およびR2は、それぞれに、水素またはメチル基を示すが、架橋性液晶化合物が液晶相を示す温度の範囲をより広くするには少なくともR1及びR2のどちらか一方が水素であることが好ましく、両方が水素であることがより好ましい。また一般式(1)におけるX及び一般式(2)のYは、水素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、シアノ基またはニトロ基のいずれであってもよいが、塩素またはメチル基であることが好ましい。また、一般式(1)の分子鎖両端の(メタ)アクリロイロキシ基と芳香環と間のアルキレン基の鎖長を示すaおよびb並びに、一般式(2)におけるdおよびeは、それぞれ個別に1〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。a=b=0である一般式(1)の化合物(I)またはd=e=0である一般式(2)の化合物(II)は安定性に乏しく、加水分解を受けやすい上に、化合物(I)または(II)自体の結晶性が高い。また、aやb、あるいはdやeがそれぞれ13以上である一般式(1)の化合物(I)または一般式(2)の化合物(II)は、等方相転移温度(TI)が低い。この理由から、これらの化合物は、どちらについても液晶化合物が液晶性を安定的に示す温度範囲(液晶相を維持する温度範囲)が狭いものとなり、位相差層33に用いるには好ましくない。
架橋性液晶化合物として、上記した化1、化2、化3、化4では重合性を備える液晶(重合性液晶)のモノマーを例示したが、重合性液晶のオリゴマーや重合性液晶のポリマー等を用いてもよく、これらについても、上記した化1、化2、化3、化4などのオリゴマーやポリマーなどといった公知なものを適宜選択して用いることができる。
位相差層33においては、液晶分子の重合度(架橋重合性液晶分子の場合は、架橋重合度)が80以上程度であることが好ましく、90以上程度であることがより好ましい。位相差層4を構成する液晶分子の重合度が80より小さいと、均一な配向性を十分に維持できない虞がある。なお、上記重合度、架橋重合度は、液晶分子の重合性官能基のうち液晶分子の重合反応に消費された割合を示す。
上記したような液晶化合物を用いた塗料と、本発明のダイコータ1を用いて、位相差層33は、その光軸が上記にて想定したxyz空間におけるz軸方向を向くように、正の複屈折異方性の液晶分子を配向させて固定することにより正のCプレートとしての光学補償機能を有する層をなして基材31上に形成される。
本発明のダイコータ1を用いて、位相差層33は、次のようにして具体的に形成することができる。
<塗料の調整>
まず、塗料14として、位相差層33を構成する液晶化合物を含む組成液(液晶材料組成液)が調整される。すなわち、位相差層33を構成する上記した化合物(I)化合物(II)化合物(III)のような液晶化合物と、溶媒とを配合して液晶材料組成液が調整される。液晶材料組成液には、必要に応じて、液晶化合物をなす液晶分子を垂直に配向させる配向助剤(垂直配向助剤ということがある)などを含む添加剤が適宜添加されてもよい。
液晶材料組成液において添加剤が添加される場合、液晶化合物は、70重量%(対配合物換算値)以上、好ましくは75重量%(対配合物換算値)以上となるように含有されることが好ましい。添加量を70重量%(対配合物換算値)以上とすることにより液晶化合物の液晶性が向上し、位相差層33における液晶化合物をなす架橋性液晶分子の配向不良の発生を無視し得る程度に低減することができる。液晶材料組成液における液晶化合物の配合量が70重量%(対配合物換算値)以上である場合は、液晶分子の配向性の観点からは特に問題が生じる虞が小さいので、液晶材料組成液に添加される液晶化合物以外の添加剤の配合量とのバランスで、液晶化合物の添加量を適宜決定することができる。なお、対配合物換算値とは、液晶材料組成液の総重量から溶媒の重量を差し引いた量(すなわち溶媒に溶解もしくは懸濁させる前における液晶化合物や添加物の混合物の総重量)を100とした場合において液晶材料組成液を構成する成分(配合物成分)として配合される各配合物(固形物)の重量%を示すものとする。
液晶材料組成液の調整に用いる溶媒としては、位相差層33を構成する液晶化合物を溶解させることができるものであれば特に限定されず、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素類、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン等のケトン類、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のアルコール類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類等の1種又は2種以上が使用可能である。単一種の溶媒を使用しただけでは、架橋性液晶化合物等の配合物成分の溶解性が不充分である場合や、液晶材料組成液を塗布する際における塗布の相手方となる素材(基材を構成する素材)が侵される虞がある場合等には、2種以上の溶媒を混合使用することにより、これらの不都合を回避することができる。上記した溶媒のなかにあって、単独溶媒として好ましいものは、炭化水素系溶媒とグリコールモノエーテルアセテート系溶媒であり、混合溶媒として好ましいものは、エーテル類又はケトン類と、グリコール類とを混合した混合系溶媒である。液晶材料組成物溶液の配合物成分の濃度は、液晶材料組成物に用いる配合物成分の溶媒への溶解性や位相差層に望まれる層厚み等により異なるが、通常は1〜60重量%、好ましくは3〜40重量%の範囲である。
液晶材料組成液に含まれる垂直配向助剤としては、ポリイミドや、界面活性剤やカップリング剤が具体的に例示される。
垂直配向助剤としてポリイミドを用いる場合、ポリイミドは、長鎖アルキル基を有するものであることが、位相差制御部材に形成される位相差層4の厚さを広い範囲で選択することができて好ましい。なお、垂直配向助剤がポリイミドである場合、ポリイミドとしては、具体的には、日産化学社製のSE−7511やSE−1211、あるいはJSR社製のJALS−2021−R2等を例示できる。
垂直配向助剤として界面活性剤を用いる場合、界面活性剤は、重合性液晶分子を垂直配向させることができるものであればよいが、位相差層の形成の際に液晶化合物を液晶相への転移温度まで加熱する必要があることから、液晶相への転移温度でも分解されない程度に耐熱性を有していることが要請される。また、位相差層4の形成の際、液晶分子は有機溶媒に溶解させる場合があることから、そのような場合には、液晶分子を溶解させる有機溶媒との親和性が良好であることが要請される。このような要請をみたすものであれば、界面活性剤はノニオン系、カチオン系、アニオン系等の種類を限定されず、1種類の界面活性剤のみを用いてもよいし、複数種の界面活性剤を併用してもよい。
垂直配向助剤としてカップリング剤を用いる場合、カップリング剤としては、具体的には、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシランなどのシラン化合物を加水分解して得られるシランカップリング剤や、アミノ基含有シランカップリング剤、フッ素基含有シランカップリング剤などを例示することができる。これらのカップリング剤は、複数種選択されて、液晶材料組成物に添加されてもよい。
また、液晶材料組成物には、必要に応じて、光重合開始剤、増感剤が添加される。
光重合開始剤としては、例えば、ベンジル(もしくはビベンゾイル)、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4’メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノメチルベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、メチロベンゾイルフォーメート、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオサントン等を挙げることができる。
液晶材料組成物に光重合開始剤が配合される場合、光重合開始剤の配合量は、0.01〜10重量%である。なお、光重合開始剤の配合量は、重合性液晶分子の配向をできるだけ損なわない程度であることが好ましく、この点を考慮して、0.1〜7重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがより好ましい。
また、液晶材料組成物に増感剤が配合される場合、増感剤の配合量は、重合性液晶分子の配向を大きく損なわない範囲で適宜選択でき、具体的には0.01〜1重量%の範囲内で選択される。光重合開始剤及び増感剤は、それぞれ、1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
このように塗料14をなす液晶材料組成物が調整されると、次いで、この液晶材料組成物を、基体30としての基材31上に塗工する。
<液晶材料組成液の塗工>
塗工にあたり、塗料14をなす液晶材料組成物をダイコータ1の塗料貯留部11に仕込む。このとき、塗料貯留部11は外部からごみが混入しないように密閉されることが好ましい。
さらに、基体30としての基材31が、ダイコータ1のスリット8に対面する位置に配置される。このとき、ダイコータ1のスリット8は、基材31において位相差層33を形成しようとする面内の所定の位置に対面する。ここに、所定の位置は、基材31において位相差層33の塗工を開始するべき位置として定められた位置(塗工開始位置)である。
こうして、ダイコータ1に基材31がセットされると、上記したダイコート1によるダイコーティング方法と同様にして、ダイコータ1は、ポンプ13を作動させて塗料14たる液晶材料組成物を塗料貯留部11からダイ本体2の口金4に向けて送り出す(図4)。そして、塗料14は口金4内をマニホールド7、スロット9、スリット8を順に通じて基材31表面上へと吐出される。その際、ダイコータ1では、加熱機構3の作動により、口金4が加熱されており、その熱が液晶材料組成物に伝えられて液晶材料組成物が所定の温度に加熱される。すなわち、液晶材料組成物が所定の温度に加熱されつつスリット8より基材31表面に吐出される。
なお、液晶材料組成物の加熱について、ダイコータ1は、加熱機構3にて、口金4を、液晶化合物が液晶相を示す温度範囲内の所定の温度まで加熱するとともに、その温度を維持することが好ましい。これにより、液晶材料組成物の加熱温度は、口金4と同様の所定の温度、すなわち液晶相を示す温度範囲内の所定の温度に加熱され、その状態を維持することができる。
さらに、ダイコータ1として、温度計測機構17を備えるものが用いられる場合には、口金4の温度を検出し、その温度に応じて加熱機構3による口金4の加熱が調整される。これにより、ダイコータ1は、スリット8の位置における液晶材料組成物の温度を所定の温度範囲内に維持する。
ダイコータ1は、塗料14をなす液晶材料組成物の吐出に応じて、適宜、ダイ本体2を基材31表面に対して相対的に移動させる。これにともなって、基材31の面上に塗工膜が形成される。すなわち、口金4に対し基材31を相対的に送っていきつつ、口金4のスリット8を通して基材31上に液晶材料組成物を塗布し塗工膜を形成していく。そして、口金4のスリット8が基材31表面上の塗工膜の形成を終了させる位置として定められた位置(塗工終了予定位置)に対面するまで口金4に対し基材31を相対的に送ると、ポンプ13の作動が停止してダイコータ1は液晶材料組成物の吐出を終える。このとき、基材31の所定の領域(口金4と基材31の相対的な移動方向に塗工開始位置から塗工終了予定位置までの領域)に塗工膜(液晶塗布膜)が形成された状態が形成されている
また、基体基材31表面上に液晶塗布膜が成膜されると、基材31と液晶塗布膜の積層体を乾燥して(乾燥工程)、液晶塗布膜中の溶媒を留去する。その乾燥工程は、減圧乾燥によって減圧状態下で行われる他、大気圧下で行われてもよいが、大気圧下で自然乾燥されることが、液晶分子により均一に配向性を付与することができて好ましい。
基材31表面に液晶材料組成液を塗布して得られる塗工膜に含まれる重合性液晶化合物は、例えば次に示すように配向される。位相差層33が正のCプレートとしての光学補償機能を奏する層構造である場合、重合性液晶化合物をなす液晶分子は垂直配向され、ホメオトロピック配向した位相差層33が形成されることになる。液晶分子に対する配向性の付与は、液晶塗布膜を加熱して、液晶塗布膜の温度を、液晶塗布膜中に含まれる液晶分子が液晶相となる温度(液晶相温度)以上、液晶塗布膜中に含まれる液晶分子が等方相(液体相)となる温度未満にすることで、実施される。このとき液晶塗布膜の加熱手段は、特に限定されず、液晶塗布膜を形成した基材を加熱雰囲気下におく手段でもよいし、液晶塗布膜に赤外線を照射して加熱する手段でもよい。
なお、重合性液晶分子を配向させる方法は、上記方法による他、液晶塗布膜に含まれる重合性液晶分子やこの液晶塗布膜の状態に応じ、液晶塗布膜を一旦等方相温度まで加熱し、その後に液晶塗布膜を冷却し、その冷却の過程で自発的に液晶分子に配向を誘起させる方法や、液晶塗布膜に対して所定方向から電場や磁場を負荷する方法によっても実現可能である。
また、液晶相となる温度範囲が室温よりも高く、通常室温では液晶相を示さない重合性液晶分子が液晶材料組成物に含有される液晶分子として用いられた場合であっても、室温で過冷却状態の液晶相を示す液晶分子を含有した液晶材料組成物であれば、その液晶材料組成物を、液晶分子が液晶相を示す時間の範囲内で、室温でも、配向性を付与された液晶分子を含有する液晶塗布膜を形成するために使用することが可能である。
このようにして液晶塗布膜中に含まれる液晶分子が配向された状態が形成されると、液晶分子同士を重合反応(液晶分子が架橋重合性液晶分子の場合は、架橋重合反応)させる。
この重合反応は、液晶材料組成物中に添加された光重合開始剤の感光波長の光(具体的には例えば紫外線)などの活性放射線を、液晶相の状態となっている液晶分子を含有している液晶塗布膜に向けて、その液晶塗布膜全面に照射することで進行する。このとき、液晶塗布膜に照射する光の波長は、この塗膜中に含まれている光重合開始剤の種類に応じて適宜選択される。なお、液晶塗布膜に照射する光は、単色光に限らず、光重合開始剤の感光波長を含む一定の波長域を持った光であってもよい。
また、液晶分子の重合反応は、液晶塗布膜が液晶相を示す状態で、光重合開始剤の感光波長の光などの活性放射線を、遮光パターンを有するフォトマスクなどを介して液晶塗布膜に照射して(露光して)重合反応を部分的に進行させ(部分的重合工程という)、部分的重合工程の後、液晶分子が等方相となる温度(Ti)まで液晶塗布膜を加熱し、この状態でさらに感光波長の光などの活性放射線を液晶塗布膜に照射して重合反応を進行させる方法や、部分的重合工程の後に液晶塗布膜を温度Ti以上に加熱して液晶分子を熱重合させる処理を施すことにより液晶塗布膜に含まれる液晶分子の重合反応を所定の重合度に至るまで進める方法で実施されてもよい。なお、上記した温度Tiは、重合反応を進行させる前の液晶塗布膜において液晶分子が等方相となる温度である。
また、液晶分子の重合反応がフォトマスクを用いた部分的重合工程を経て実施される場合、液晶塗布膜を形成した基材に対して部分的重合工程が実施された後、その基材を、液晶分子の重合反応が不十分で未硬化な状態にある液晶材料組成物を溶解可能な溶液に浸漬することにより、液晶塗布膜において液晶分子の重合反応が進まなかった部分を基材面から除去し、基材上に液晶相の液晶分子を含む層構造を所定のパターンで形成する(パターニングする)ことも可能である。
なお活性放射線を照射して液晶塗布膜中の液晶化合物をなす液晶分子を重合反応させることによる液晶塗布膜の硬化は、空気雰囲気下で実施されるのみならず、不活性ガス雰囲気中でも実施できる。
なお、位相差層33の形成にあたり、基材31と位相差層33との間に予め垂直配向膜を介在させ、垂直配向膜の表面に対して直接に位相差層33が積層形成されてもよく、こうすることで、位相差層33の光軸をより均一化しつつz軸方向に向けることができて好ましい。
垂直配向膜は、垂直配向膜を構成する成分を含んだ垂直配向膜組成液をフレキソ印刷やスピンコート等の方法で基材31上に塗布して垂直配向膜形成用塗膜を形成し、この塗膜を硬化させることで形成することができる。垂直配向膜組成液としてはポリイミドを含む溶液が挙げられる。そのようなポリイミドを含む垂直配向膜組成液としては、具体的には、日産化学社製のSE−7511やSE−1211、あるいはJSR社製のJALS−2021−R2等を挙げることができる。
垂直配向膜は、その膜厚みが100Åから1000Å程度の範囲であることが好ましい。垂直配向膜の膜厚が、0.01μmよりも薄いと、液晶分子を垂直配向させる効果を発揮させることが困難になる虞が大きくなる。また、垂直配向膜の膜厚が1μmよりも厚いと、この垂直配向膜による光の散乱の程度が大きくなって光学素子1の光透過率の低下を来す虞が大きくなる。
なお、垂直配向膜が撥水性又は撥油性の高いものである場合には、ダイコータ1にて垂直配向膜上に液晶材料組成物を塗布して位相差層33を形成する前に、液晶分子を垂直配向させることが可能な範囲内でUV洗浄やプラズマ処理を施して、液晶組成液を塗布しようとする垂直配向膜表面の濡れ性を予め高めておいてもよい。
<負のCプレートである場合>
位相差層33が「−Cプレート」としての光学補償機能を有する層である場合、位相差層33は、その光軸がz軸方向に向かうように、負の誘電率異方性の液晶化合物を用いてその液晶化合物を構成する液晶分子を配向させて固定することにより形成できる。そのほか、「−Cプレート」としての光学補償機能を有する位相差層33は、上記「+Cプレート」を作成する際の架橋性ネマチック液晶(例えば、化合物(I)(II)(III))などの液晶化合物を含む液晶材料組成物を用いて、これにカイラル剤を添加して、重合性液晶分子にコレステリック規則性を付与してカイラルネマチック液晶となすための液晶組成物(カイラル剤含有液晶組成物ということがある)を調製し、そのカイラル剤含有液晶組成物を用いて形成してもよい。
カイラル剤含有液晶組成物を用いた位相差層33をダイコータ1にて形成するにあたっては、具体的に、まず、上記したような液晶化合物と、カイラル剤と、光開始剤と、溶媒を混合して液晶材料組成液を調整する。この液晶材料組成液を塗料14として用いて「+Cプレート」を作成する場合と同様にしてダイコータ1にて基材31面上に塗布して塗工膜を作成して、その塗工膜に含まれる液晶化合物を重合して焼成することにより、「−Cプレート」としての光学機能を備える位相差層33が形成される。なお液晶化合物の重合は、上記「+Cプレート」の場合と同様に、活性放射線を塗工膜に照射することによって実施することができる。
カイラル剤としては、分子内に光学活性な部位を有する低分子量化合物で、分子量1500以下の化合物であることが好ましい。カイラル剤としては化1に示す化合物(I)、化2に示す化合物(II)や化3、化4に示す化合物(III)と溶液状態或いは溶融状態で相溶性を有し、かつ架橋性ネマチック液晶の分子の液晶性を損なうことなく螺旋ピッチを誘起できるものであればよい。ただし、カイラル剤としては、その分子構造中における両方の末端部位に重合性官能基を有するものが、耐熱性の良い位相差層33を得る上で好ましく、またカイラル剤は分子構造内に光学活性な部位を有する化合物であることが重要である。
このようなカイラル剤が、化1に示す化合物(I)、化2に示す化合物(II)や化3、化4に示す化合物(III)を重合性液晶化合物として含む液晶材料組成物において配合されると、その液晶材料組成物を用いて位相差層33を形成するにあたり、位相差層33に含まれる重合性液晶化合物に対して正の一軸ネマチック規則性で螺旋ピッチを誘起することができる。
カイラル剤は、液晶化合物をなす液晶分子を螺旋状に配向させるために添加されるが、液晶分子が近紫外線領域の螺旋ピッチをとると選択反対現象により特定色の反射色を生じることから、カイラル剤の配合量は、選択反対現象が紫外領域になるような螺旋ピッチが得られるような量とすることが好ましい。
またカイラル剤としては、例えば1つもしくは2つ以上の不斉炭素を有する化合物、キラルなアミン、キラルなスルフォキシド等のようにヘテロ原子上に不斉点がある化合物、またはクムレン、ビナフトール等の軸不斉を持つ化合物等が挙げられるが、選択したカイラル剤の性質によっては、ネマチック規則性の破壊、配向性の低下を招き、また非重合性のカイラル剤の場合には重合性液晶分子同士の重合による硬化性能を低下させる事態を招くばかりか、液晶材料組成液を用いて形成される位相差層の電気的信頼性を低下させる事態を招く虞があり、更に光学活性な部位を有するカイラル剤の多量使用はコストアップを招く。従ってカイラル剤としては、少量でも液晶分子の配向に螺旋ピッチを誘発させる効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、より具体的には、例えばMerck社製S−811等の市販のものを用いることができる。
<正のAプレートである場合>
位相差層33が「+Aプレート」としての光学補償機能を有する層である場合、位相差層33は、液晶化合物をなす正の誘電率異方性の液晶分子をその光軸がx軸とy軸を含むxy平面に平行するように配向させて固定することにより形成される。
より具体的には、液晶分子を水平配向させることが可能な樹脂膜(水平配向膜)を構成する樹脂材料を調整し、その樹脂材料を基材31面上に塗布して水平配向膜形成用塗膜を形成し、水平配向膜形成用塗膜の表面をラビング処理や光配向処理を施すことによって水平配向膜を得て、基材形成材と水平配向膜とで基体30となす。その一方で、液晶化合物を溶媒に溶解させた液晶材料組成液を調整する。そして、その液晶材料組成液を塗料14として用い、「+Cプレート」を作成する場合と同様にしてダイコータ1にて、先に形成しておいた基体30の水平配向膜上に塗料14としての液晶材料組成液を塗工して塗工膜を作成し、その塗工膜に含まれる液晶化合物をなす液晶分子を水平配向(プラナー)させて重合させることで水平配向させた状態にて液晶化合物を固定し、塗工膜を位相差層33となす。こうして、「+Aプレート」としての位相差層33を得ることができる。なお液晶分子の重合は、「+Cプレート」を作成する場合と同様に、液晶化合物の感光波長の光や紫外線などといった活性放射線を塗工膜に照射することによって実施することができる。
<ダイコータを用いて得られる光学素子(第2の形態)>
上記では、第1の形態の光学素子として、基体30として基材31からなるものを用いる場合について説明したが、これに限定されず、基体30として基材31表面上に所定の層構造を積層したものが用いられて光学素子1が形成されてもよい(第2の形態の光学素子)。この場合、基材31に積層される層構造としては、厚み方向に進行する光を遮断する遮光層をなすブラックマトリクスや、そうした光のうち所定範囲の波長の可視光を通過させる層や、それらを適宜組み合わせてなる着色層、などといった層構造を挙げることができる。
本発明のダイコータ1を用いてなる光学素子32について、光学素子32は、光透過性を有する基材31と所定波長の可視光を通過させる着色層を備えた構造体(カラーフィルター)を基体30として、その基体30面上(カラーフィルター面上)に対してダイコータ1にて位相差層33を設けたものであってもよい。
そこで、光学素子32について、基体30が基材31の表面上に、色パターンとブラックマトリクスとを有する着色層を形成してなる構造体である場合を一例として説明する(図7、8)。図7、図8は、光学素子32の実施例の一つを説明するための断面を示すそれぞれ概略断面図、概略平面図である。なお、図8では、説明の都合上、位相差層33を省略している。
光学素子32は、基材31の一方の表面に遮光性のブラックマトリクス45が縦横に格子状(格子縞状)に塗工形成され、これによりブラックマトリクス45の非形成領域が開口部50として格子点状に多数形成される。このとき、ブラックマトリクス45の形成領域が遮光部に相当し、開口部50が透過部に相当する。
ブラックマトリクス45は、例えば、金属クロム薄膜やタングステン薄膜等、遮光性又は光吸収性を有する金属薄膜を基材31面にパターニングすることにより、形成することができる。また、ブラックマトリクス45は、黒色顔料を含む樹脂等の有機材料を所定形状に印刷することにより形成することも可能である。
ブラックマトリクス45を配置した基材31の上には、開口部50を覆うように三色の色パターン46,47,48が短冊状に配列されて、これら色パターン46,47,48とブラックマトリクス45とで着色層43が形成されている(図7、図8)。色パターン46,47,48は光透過性を有しており、透過する可視光を分光してそれぞれ赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の光となす。したがって図3に二点鎖線で示すように、RGBの三色の色パターン(赤色(R)の色パターン46、緑色(G)の色パターン47、青色(B)の色パターン48)によってそれぞれ被覆された開口部50が形成されてそれぞれ画素をなし、そして三色の色パターン46,47,48によって被覆された三つの開口部50があわさって、一つの絵素51が形成される。
色パターン46,47,48は、色種ごとに、各色種に対応する顔料と樹脂などを配合してなる着色材料を溶媒に分散させた着色材料分散液を基材31に塗布して形成される塗膜を、例えばフォトリソグラフィー法で、例えば短冊状などといった所定形状にパターニングすることで形成されるほか、着色材料分散液を所定形状に基材31に塗布することによっても形成できる。
着色層43においてブラックマトリクス45が形成される場合、このブラックマトリクス45は、遮光部としての機能として、おおよそ短冊状に塗工される色パターン46,47,48の混色を防止する機能と、開口部50を平面視上区画化して、絵素51の輪郭を鮮明化する機能、さらにまた、光学素子32が液晶ディスプレイに組み込まれる際に、基板に通常配置され液晶を駆動させるために用いられるTFTなどといった駆動回路などを、透過光から隠蔽する機能を併せもつ。
この光学素子32においては、ブラックマトリクス45の配置形状は矩形格子状である場合に限定されず、ストライプ状や三角格子状などに形成してもよい。また着色層43を構成する色パターンについても、RGB方式の三色の場合のほか、その補色系であるCMY方式とすることも可能であり、さらに単色もしくは二色の場合、または四色以上の場合なども採りうる。また色パターンの形状も、短冊状にパターン形成する場合のほか、矩形状や三角形状などの微細パターンを基材2上に多数分散配置するパターンの場合など、目的に応じて種々のパターンを採りうる。
なお、光学素子32においては、基材31と位相差層33との間には、ブラックマトリクス45のみが形成されていてもよいし、あるいは、ブラックマトリクス45を形成されずに色パターン46、47、48のうちのいずれかのみ、あるいは2種類、または3種類が形成されていてもよい。
なお、上記した第1の形態の光学素子、第2の形態の光学素子のいずれについても、ダイコータ1を用いて液晶材料組成液を基体30上に塗工して作製された塗工膜に含まれる液晶化合物をなす液晶分子を重合させてその塗工膜を位相差層33となした後に、重合された液晶分子を含む位相差層33を更に加熱する処理(重合後加熱処理ということがある)が施されることが、位相差層33の硬さを向上させることができて好ましい。ただし、重合後加熱処理を行う場合、基材31は、耐熱性を有することが必要であることから、基材31を構成する基材形成材として耐熱性を有するガラス基板などが好ましく用いられる。
重合後加熱処理を行うにあたり、位相差層33の加熱温度は、150〜260℃であるが、200〜250℃であることが、重合後加熱処理後において位相差層33を、重合後加熱処理の前よりも効果的に硬くすることができる観点から好ましい。重合後加熱処理を行う時間については、5〜90分であるが、重合後加熱処理を行う際の加熱温度についての上記観点と同様の観点から、15〜30分程度であることが好ましい。なお、加熱温度が260℃もしくは加熱時間が90分を超えると、位相差層33の硬度・強度は上がるが位相差層33自体が強く黄変してしまう虞が大きくなり、一方加熱温度が150℃もしくは加熱時間が5分を下回ると、十分な硬度・強度が得られない虞が大きくなる。
そして、位相差層33は、加熱された後、降温される。
重合後加熱処理は、基体30に位相差層33を形成した構造体を、オーブン装置などの焼成装置に導入し、圧力が大気圧、空気雰囲気の条件下で焼成することによって具体的に実施できる。その他、赤外線照射による方法でも実施することができる。
また、重合後加熱処理の工程を行うにあたり、位相差層33の加熱の際の昇温、加熱後の降温は徐々に行われることが好ましい。
<ダイコータを用いて得られる液晶表示装置>
ダイコータ1を用いて得られる光学素子32を液晶表示装置に組み込むことで、本発明のダイコータ1を用いた液晶表示装置を形成することができる。
そこで、ダイコータ1を用いて得られる光学素子32を組み込んだ液晶ディスプレイについて説明する。なお、液晶ディスプレイとしては、IPSモードであって、着色層43を備える光学素子32(第2の形態の光学素子)を組み込んでいる場合(図9)、を例として説明する。図9は、液晶ディスプレイ81を説明するための図である。
本発明の液晶ディスプレイ81は、図5に示すように、対向する一対の基板55(対向基板52、TFTアレイ基板53)の間に、電場に置かれた状態で電場の変化に応じて駆動可能(配向を変動可能)に液晶ディスプレイ駆動用の液晶組成物(駆動用液晶組成物54)を封入して駆動液晶層58を形成している。そして、液晶ディスプレイ81は、TFTアレイ基板53の厚さ方向に、TFTアレイ基板53の外側位置からTFTアレイ基板53に向かって光を照射するバックライト(図示しない)を配設して構成されている。
対向基板52は、基材31上に、ブラックマトリクス45と色パターン46,47,48を備えた着色層43を積層しており、着色層43の表面を被覆して位相差層33を形成している。位相差層33は、上記第2の形態の光学素子を作成する際と同様にダイコータ1を用いて作製される。
さらに位相差層33上には、柱体73が、その基底部(図5において上方側の部分)を、位相差層33表面上所定の位置(柱体形成予定位置)にフォトリソグラフィー法などの公知方法を用いて分散配置されている。柱体形成予定位置は、対向基板52において画素とする部分を除いた部分(非画素部)内に、適宜定められる。
柱体73は、多官能アクリレートを含有するアクリル系、及びアミド系又はエステル系ポリマー等の光硬化可能な感光性を有する樹脂材料から構成されている。
対向基板52には、基材31の厚さ方向の表面のうち着色層43の非形成面の上には、直線偏光板63が配置されている。
TFTアレイ基板53は、透明な基材71のインセル側(駆動用液晶組成物54の封入される側)の面上に、駆動液晶層58の液晶74に対する電圧の印加有無のスイッチング駆動する駆動用回路をなすTFTと、これにより駆動液晶層58への電圧の負荷量が制御される液晶駆動用電極とを設けている(図示せず)。液晶駆動用電極は、駆動液晶層58の面内方向の電場を生じさせるとともに、駆動液晶層58の面内方向に液晶74の配向を変化させる。
さらに、TFTアレイ基板53は、そのインセル側の最表面に、多数の柱体73の先端部(同図における下方)を当接している。そして、バックライト側基板53には、そのアウトセル側(インセル側とは逆側)の面に、直線偏光板72が配置されている。
また、液晶ディスプレイ81において、対向基板52の直線偏光板63と、TFTアレイ基板53の直線偏光板72とは、互いの透過軸が直交するように配されている。なお、図中、直線偏光板63、72の透過軸は矢印にて示す。
この液晶ディスプレイ81では、対向基板52において、基材31と着色層43と位相差層33が積層されてなる層構造が備えられており、この層構造は、本発明における光学素子1を構成する。すなわち、液晶ディスプレイ81には、光学素子1が組み込まれて構成されている。
なお、液晶ディスプレイ81には、必要に応じて、対向基板52における直線偏光板63の内側に、位相差フィルム60が介在配置されていてもよい。図9に示す例では、液晶ディスプレイ81として、位相差層33を正のCプレートの光学補償機能を有する層として形成した光学素子32を組み込み、且つ、位相差フィルム60として、正のAプレートとしての光学補償機能を有するものが示されている。図9中、位相差層33、位相差フィルム60の光学補償機能を規定する複屈折特性は、それぞれ屈折率楕円体100,101にて示す。
液晶ディスプレイ81においては、位相差フィルム60は、必要に応じて複数枚、複数種類介在させていてもよい。したがって、例えば、液晶ディスプレイ81は、位相差層33を正のCプレートの光学補償機能を有する層として形成した位相差制御部材1を組み込み、且つ、位相差フィルム60として、正のAプレートとしての光学補償機能を有するもの、さらにその他の機能を有するものと、2枚以上を積層させて構成されていてもよい。
なお、本明細書において、位相差層33を組み込む液晶ディスプレイがIPSモードである場合について説明したが、このことは、この位相差制御部材1を例えばMVAモードやOCBモード(Optically Compensated Birefringenceモード)などといった他のモードの液晶ディスプレイに使用されることを否定するものではない。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するがこれらに限定されるものではない。
<ダイコータの製作>
ステンレス鋼(JIS規格 SUS304)を用いて幅29cmの一対の口金構成材を作成し、口金構成材を組み合わせて一体化するとともに、発熱部品を備えた加熱機構と、センサを備えた温度計測機構を設けて口金を作成し、図3に示すようなダイコータを作成した。ダイコータ用の口金について、加熱機構としては、これにニッケル合金からなる発熱材をポリイミドシートからなる絶縁材で挟持してなる薄膜面状のヒーター(フィルムヒーター)を備える部品を加熱部品として備えるものが用いられた。この加熱部品は、口金構成材に孔を穿設して空間を形成し、形成された空間にその加熱部品を挿入することで、口金に設置された。温度計測機構としては、温度を検知するセンサ(温度センサ)として赤外線温度計を備えるものが用いられ、赤外線温度計の温度センサは口金のスリットに向けて配置された。このダイコータ1では、加熱機構と温度計測機構とはレギュレータで接続された。このレギュレータは、口金の温度を所定の温度範囲に保持しつつ加熱機構による加熱が行われるように、加熱機構による加熱量の調整と口金の温度の保持を制御する機構を備えた制御装置である。なお、製作されたダイコータには、図4に示す例と同様に、塗料貯留部が設けられ、管を中継して塗料貯留部からダイ本体の塗料供給孔へ塗料を送り出し可能にポンプが設置された。このダイコータをダイコータ1とした。
さらに、加熱機構と温度計測機構を設置しなかった以外はダイコータ1と同様にしてダイコータ(ダイコータ2)を製作した。
実施例1
基体として、ガラス基板(NHテクノグラス社製、NA35、寸法:300mm×400mm×厚み0.7mm)を準備し、先に製作した上記のダイコータ1を用いて、次のように、塗料を調整して、その塗料を基体に塗工して塗工膜を成膜し、その塗工膜を位相差層となして光学素子を作成した。
<塗料の調整>
ダイコータ1によるガラス基板面への塗工の際に用いる塗料として液晶材料組成液が採用された。液晶材料組成液は次のように調整された。
まず、下記化5に示す化合物(a)〜(d)、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、イルガキュアー907)、シランカップリング剤(アミン基含有シランカップリング剤(GE東芝シリコーン社製、TSL−8331))、界面活性剤(ドデカノール)、重合禁止剤(BHT((2,6−ジーtert−ブチルー4−ヒドロキシトルエン))、を混合して、下記の組成の液晶組成物Aを得た。尚、以下に示す液晶組成物Aにおける各物質の重量比は、液晶組成物Aの総重量に対する各物質の重量比である。
液晶組成物A
化合物(a) 32.67重量%
化合物(b) 18.67重量%
化合物(c) 21.00重量%
化合物(d) 21.00重量%
ドデカノール 1.02重量%
BHT 0.04重量%
イルガキュアー907 5.60重量%
次いで、上記液晶組成物Aを溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA))で溶解し、濃度20%(溶媒に対する液晶組成物Aの重量比率)の液晶材料組成液を得た。尚、この液晶材料組成液の液晶化温度は80℃から100℃である。
調整された上記液晶材料組成液を、作製したダイコータ1の塗料貯留部に仕込み、まず10枚の基体に塗布して液晶塗布膜を成膜し、ダイコータ1の口金に液晶材料組成物が付着した状態のままダイコータ1を2時間室温下に放置した。また、基体上に塗布された液晶塗布膜は乾燥された。乾燥後の液晶塗布膜の膜厚は2μmであった。
なお、ダイコータ1による液晶材料組成液の塗工にあたり、加熱機構にて、ダイコータ1の口金の温度(スロットからリップ部にかけての部分の温度)が80℃になるまで加熱し、80℃となった後に、液晶材料組成液の塗工を開始した(塗布ギャップ:60μm、吐出量:1300μl/s、相対的移動速度:45mm/s)。また、液晶材料組成液の塗工中、温度計測機構にて、口金の温度が80から100℃の範囲を超えないように調整した。この調整は、口金の温度が96℃を超えた時点で加熱機構による加熱を中断することで、加熱機構の発熱部品の余熱によって口金の温度が100℃を超えてしまわないようにレギュレータにて監視すること、によって行われた。
次に、2時間室温下に放置後のダイコータ1をそのまま用い、先に実施した10枚の基体に対する液晶材料組成物の塗工と同様の条件にて、更に基体上に液晶材料組成液が塗工されて液晶塗布膜が成膜された。最後に液晶材料組成物を塗布されて液晶塗布膜を形成された基体を減圧乾燥し(圧力:1.5×10−1Torr)、さらにホットプレート上にてプリベーク(90℃、3分)して液晶塗布膜中の溶媒を除去するとともに液晶塗布膜中に含まれる液晶分子を液晶相に転移させ(液晶分子を垂直配向させ)、その後、液晶塗布膜に向けて、紫外線照射装置(ハリソン東芝ライティング社製、「商品名TOSCURE751」)を用いて紫外線(365nm)を照射(100mJ/cm2)し、液晶塗布膜を硬化させて位相差層となし、基体に位相差層を形成してなる光学素子が得られた。この光学素子を試験基板とし、位相差層の膜厚ムラの点での良否の評価に基づき、得られた液晶塗布膜(塗工膜)の良否を膜厚ムラの点について評価した。
[特性の測定・評価方法]
<塗膜表面のスジムラ発生評価方法について>
塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラは、光学素子の位相差層に膜厚ムラが残った場合に問題となる。そこで、塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラの評価は、光学素子の位相差層に膜厚ムラの評価に基づき実施された。なお、学素子の位相差層に膜厚ムラの評価には特開平8−173878の評価方法が用いられた。すなわち、位相差層中央から10mmピッチで、塗工方向(ダイコータの基体に対する相対的な移動方向)および塗工方向に対して直角方向の2方向に、位相差層の膜厚を測定した。ただし、膜厚を測定される対象となる位相差層の領域について、位相差層端部から10mm内側までの領域が外された。測定された位相差層の膜厚のデータを用い、全てのデータについての平均値が算出され、((測定されたデータの最大値)/平均値)×100(%)(Fhとする)、および、((測定されたデータの最小値)/平均値)×100(%)(Flとする)を導出した。こうして得られたFhとFlの値を基準に位相差層の膜厚ムラが評価された。評価については、FhおよびFlの値が100%に近いほど位相差層の厚みにばらつきが少なく膜厚ムラが小さく、位相差層は膜厚ムラの点で良好であると評価した。具体的には、次のような膜厚ムラの評価基準にて評価した。
<膜厚ムラの評価基準>
FhおよびFlの値が95%以上105%以下の範囲である。・・・位相差層の状態は膜厚ムラの小さい状態であり、位相差層は膜厚ムラの点で良好である。
Fhが105%を超えるか、もしくは、Flが95%未満となっている。・・・・位相差層の状態は膜厚ムラの大きい状態であり、位相差層は膜厚ムラの点で不良である。
そして、位相差層が膜厚ムラの点で「良好である」という評価がなされる場合に、塗工時に形成される塗工膜についても膜厚ムラの点で「良好である」という評価がなされ、位相差層の膜厚ムラの評価として「不良である」という評価がなされる場合に、塗工時に形成される塗工膜についても膜厚ムラの点で「不良である」という評価がなされた。
ダイコータ1を用いて得られる光学素子について、位相差層の膜厚ムラを評価した結果、Fhが102%、Flが99%であり、膜厚ムラは小さく、「光学素子は位相差層の膜厚ムラの点で良好である」と評価した。したがって、塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラの評価についても「良好である」という評価がなされた。
比較例1
ダイコータとしてダイコータ2を用いたほかは実施例1と同様にしてガラス基板に位相差層を形成した構造体(比較用素子1)を製作した。得られた比較用素子1を用いて、実施例1と同様にして、その位相差層の膜厚ムラを評価したところ、Fhが145%、Flが65%であり膜厚ムラが確認され、光学素子は膜厚ムラの小ささの点で不良であると評価した。したがって、塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラの評価についても「不良である」という評価がなされた。
実施例2
基体として、ガラス基板(NHテクノグラス社製、NA35、寸法:300mm×400mm×厚み0.7mm)の上に、下記のように赤色の色パターンを着色層として形成したものを用いたほかは、実施例1と同様にして、ダイコータ1を用いて光学素子を得た。ダイコータ1を用いて得られる光学素子について、塗工膜の膜厚ムラを評価した結果、Fhが103%、Flが98%であり、膜厚ムラは小さく、光学素子は膜厚ムラの小ささの点で良好であると評価した。したがって、塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラの評価についても「良好である」という評価がなされた。
<色パターンの形成に用いる着色材料分散液の調整>
赤色(R)の色パターンの着色材料分散液を調整した。赤色の色パターンの着色材料分散液としては、顔料分散型フォトレジストが用いられた。
色パターンの顔料分散型フォトレジストの調整は、分散液組成物(顔料、分散剤及び溶剤を含有する)にビーズを加え、分散機(ペイントシェーカー(浅田鉄工社製))で3時間分散させ、その後ビーズを取り除いた分散液とクリアレジスト組成物(ポリマー、モノマー、添加剤、開始剤及び溶剤を含有する)とを混合することにより顔料分散型フォトレジストが得られた。なお、各色の色パターンについて、顔料分散型フォトレジストは次に示すような組成のものが用いられた。
(赤色(R)色パターン用顔料分散型フォトレジスト)
・赤顔料・・・・・4.8重量部
(C.I.PR254(チバスペシャリティケミカルズ社製、クロモフタールDPP Red BP))
・黄顔料・・・・・1.2重量部
(C.I.PY139(BASF社製、パリオトールイエローD1819))
・分散剤・・・・・3.0重量部
(ゼネカ(株)製、ソルスパース24000)
・モノマー・・・・・4.0重量部
(サートマー(株)製、SR399)
・ポリマー1・・・・・5.0重量部
・開始剤・・・・・1.4重量部
(チバガイギー社製、イルガキュアー907)
・開始剤・・・・・0.6重量部
(2,2´−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4´,5´−テトラフェニル−1,2´−ビイミダゾール)
・溶剤・・・・・80.0重量部
(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
尚、上記ポリマー1は、ベンジルメタクリレート:スチレン:アクリル酸:2−ヒドロキシエチルメタクリレート=15.6:37.0:30.5:16.9(モル比)の共重合体100モル%に対して、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを16.9モル%付加したものであり、重量平均分子量は42500である。
<着色層の形成>
予め赤色の色パターンに対応する位置に対応するように調整した赤色(R)の顔料分散型フォトレジストを上記BM形成基材上にスピンコート法で塗布し、80℃、3分間の条件でプリベークし、さらに、紫外線露光(300mJ/cm2)した。さらに、0.1%KOH水溶液を用いたスプレー現像を60秒行った後、200℃、60分間ポストベーク(焼成)し、膜厚1.3μmの赤色(R)の色パターンを一面に形成した。こうして、ガラス基板上に、赤色の色パターンから構成される着色層が形成された。
比較例2
ダイコータとしてダイコータ2を用いたほかは実施例2と同様にして基体に位相差層を形成した構造体(比較用素子2)を製作した。得られた比較用素子2を用いて、実施例1と同様にして、その位相差層の膜厚ムラを評価したところ、Fhが148%、Flが65%であり膜厚ムラが確認され、光学素子は膜厚ムラの小ささの点で不良であると評価した。したがって、塗工時に発生する塗工膜の膜厚ムラの評価についても「不良である」という評価がなされた。
実施例1、2では、10枚の基体に対して液晶塗布膜を塗工した後、さらに基体に対して液晶塗布膜を形成しても、比較例1、2の比較用素子1、2に比べて膜厚ムラの小さい位相差層を形成した光学素子が得られている。したがって、加熱機構などを備えていない従来のダイコータ2では塗工時に塗工膜にスジムラを生じる虞があり、塗工膜の成膜を塗工膜を硬化させても位相差層にスジムラが残って膜厚ムラが生じているのに対して、ダイコータ1のように加熱機構を備えるダイコータを用いて製作された位相差層には膜厚ムラの発生が効果的に改善されていることが確認された。