従来の技術では、DPFの温度維持に主眼が置かれており、DPFの温度が適正範囲にある場合のEGR量は、基本的にDPFの温度とは無関係に設定される。従って、従来の技術では、低温域において生じるPMの過堆積による、フィルタの目詰まり又はPMの急激な燃焼によるフィルタの溶損等を回避すべく、ベースとなるEGR量に、安全側、即ち減量側のマージンを設定せざるを得ず、EGRガスの供給によるNOxの低減効果を最大限に得ることが難しい。即ち、従来の技術には、場合によってはNOx排出量の低減が効率的に行われ難いという技術的な問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、NOx排出量を効率的且つ効果的に低減可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の制御装置は、排気系から排気の一部をEGRガスとして吸気系に循環させることが可能なEGR装置と、前記排気系に設けられ、前記排気に含まれるPMの捕捉及び再生が可能な捕捉再生手段と備えた内燃機関の制御装置であって、前記PMの再生に係る再生速度を特定する特定手段と、前記特定された再生速度に応じて前記EGRガスの循環量に対応する値を決定する決定手段と、前記決定された値に基づいて前記EGR装置を制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る「内燃機関」とは、一又は複数の気筒を有し、当該気筒の各々における燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いは各種アルコール等の燃料、又は当該燃料を含む混合気の爆発或いは燃焼に伴って生じる力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的な又は機械的な伝達経路を経て駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念であり、例えば2サイクル或いは4サイクルレシプロエンジン等を指す。特に、本発明に係る内燃機関は、好適な一形態として、軽油を燃料とし、気筒内に吸入される気体(以下、適宜「吸気」と称する)が圧縮される過程において(例えば、圧縮端等において)燃料が噴射され、当該燃料が高温高圧の気筒内で自着火して燃焼を生じる、或いは、吸気と燃料との混合気が気筒内で圧縮される過程において高温高圧の気筒内で自着火して燃焼を生じる、例えばディーゼルエンジン等の圧縮自着火式内燃機関として構成される。
本発明に係る内燃機関には、EGR装置が備わる。このEGR装置は、例えば排気ポート、排気マニホールド及び排気管(フロントパイプやリアパイプ等といった、気筒配列上生じるものを含む)等を適宜に含み得る概念としての排気系から、排気の一部を、不活性のCO2を多量に含むEGRガスとして、例えば吸気ポート、吸気マニホールド及び吸気管等を適宜に含み得る概念としての吸気系に、直接若しくは間接的に、又はEGRバルブ等、EGRガスの循環量(以下、適宜「EGR量」と略称する)を制御可能な弁体、弁機構、弁装置又は弁システム或いはそれに類する機構等の状態に応じて限定的に循環供給することが可能に構成される。定性的に言えば、当該EGRガスが、例えばエアフィルタ等を介して吸気系に導かれる吸入空気(即ち、新気)と幾らかなり混合され上述した吸気を形成することによって、吸気中の酸素濃度が低減せしめられ、NOxの排出量(ここでは、気筒からの排出量を指すが、内燃機関が排気系にNOx浄化用の手段を有さぬ場合には、車両外への排出量と一義的である)が低減せしめられる。
この際、排気系から吸気系へのEGRガスの循環経路は、多種多様な構成を採ってよく、例えば、排気系と吸気系とを連通させるEGR通路等の管状部材を介してEGRガスが導かれてもよい。また、例えばこのEGR通路の一部に、EGRガスを冷却可能なEGRクーラ等の冷却手段が設けられていてもよく、更にはこの冷却手段をバイパスするパイパス通路が設けられていてもよい。このようにバイパス通路が設けられる場合には、好適な一形態として、EGRガスの供給経路を、冷却手段を含む通路とバイパス通路との間で二値的に、段階的に又は連続的に切り換えることが可能な切り換え手段が設けられていてもよい。この切り替え手段における供給経路の切り替えに要する駆動力は、例えば油圧アクチュエータ、電動アクチュエータ又は負圧ダイアフラム等の各種駆動力供給手段により、物理的な、機械的な、機構的な、電気的な、磁気的な又は化学的なプロセスを経て供給されてもよい。
一方、EGRガスによって吸気中のCO2が増加すると、相対的に吸気中の酸素濃度は低下して燃料の燃焼性が低下する。また、NOxの排出を抑制すべく気筒内の急激な温度上昇を抑制すると、必然的に芯まで燃え切れない液滴が増加する。従って、気筒内の燃焼に際して燃料が所謂蒸し焼き状態になり易く、例えばこの未燃の個体炭素(例えば、スート(煤))にSOF(Solvable Organic Fraction)等のHC(炭化水素)が付着すること等によって形成される粒子状物質(即ち、PM)の排出量(ここでは、気筒からの排出量)が増加する。即ち、EGR装置を備える内燃機関において、NOxの排出量とPMの排出量とは総じて背反の関係にある。尚、本発明に係る「PM」とは、内燃機関で生成され排気中に含まれ得る粒子状物質を包括する概念であり、その化学的な組成は一意に限定されない趣旨である。例えば、PMの組成は、排気が排気管を流れる過程において、各種触媒やフィルタ等の作用により適宜に変化し得る。
このような事情により生じるPMの、車外への排出量(前述した気筒からの排出量と区別するため、以下、適宜「車外排出量」等と称する)を低減する等の目的から、本発明に係る内燃機関には、PMの捕捉及び再生が可能な、例えば酸化触媒が担持されたDPF、或いは例えばDPF及び当該DPFの上流側(排気の流れ方向を基準とした方向概念であって、この場合、内燃機関の気筒側)に配置された酸化触媒等を含む触媒装置等の形態を採り得る捕捉再生手段が備わる。捕捉再生手段の構成、とりわけその物理的、機械的、機構的、電気的、磁気的又は化学的な構成は、単体で構成されるにせよ、複合体として構成されるにせよ、PMの捕捉及び再生が可能である限りにおいて何ら限定されない趣旨である。尚、「PMの再生」とは、捕捉されたPMの酸化燃焼、及びそれに伴う捕捉再生手段に係るPMの捕捉機能の再生を包括する概念である。
例えば好適な一形態として、捕捉再生手段は、排気の入口側と出口側で互い違いに目封じされたハニカム状のフィルタを有する所謂ウォールフロー型のDPFを備えていてもよい。この場合、排気中のPMは、当該ハニカム状のフィルタにより排気流れ方向に形成される複数の排気通路相互間を隔絶する壁体に阻まれ、当該壁体相互間を行き来することなく、例えば入口側又は出口側のフィルタ或いは当該壁体部(好適には、これもフィルタである)に捕捉される。この際、例えばフィルタに酸化触媒が担持されていれば、当該DPFにおいてPMの酸化燃焼が促され、PMの捕捉及び再生がDPF自体で行われる。また、DPFの上流側に酸化触媒が別体として配置されていれば、当該酸化触媒により排気中のNOから酸化力が良好なNO2が生成され、当該NO2によってDPFに捕捉されたPM(この場合、好適な一形態として、PM中のSOFは酸化触媒により酸化され、捕捉されるPMは主としてスートとなる)の燃焼が促進される。また、例えば排気温度或いはDPF温度が、PMの酸化が活性化する温度を超える運転領域では、この種の酸化触媒を有しておらずとも、DPFに捕捉されたPMの燃焼が好適に促進される。いずれにせよ捕捉再生手段の作用により、PMの車外排出量は、少なくとも捕捉再生手段を有さぬ場合と較べて幾らかなり低減される。
ここで、EGR量に対するNOxの排出量及びPMの排出量の関係が相互に背反すること、及びPMが捕捉再生手段により捕捉され且つ再生され得ることに鑑みれば、また、例えば吸気温度の低下又は酸素濃度の低下等による燃焼性能の低下(失火を含む)並びにそれに起因する動力性能及びドライバビリティの低下といった、PMの排出以外に考慮すべき事情を(そのような事情があるとして)別とすれば(但し、燃焼性能の低下は、PMの排出量増加を招き得るため、無関係ではない)、EGR量は、好適な一形態として、PMの排出量若しくは排出速度、又は捕捉再生手段におけるPMの捕捉量(捕捉の態様次第では、堆積量と表現してもよい)若しくは捕捉(堆積)速度が、捕捉再生手段に係るPMの再生能力を超えることに起因する、例えば排気圧の上昇及びそれに伴う動力性能の低下、或いはフリクションロスの増加等といった不具合を少なくとも実践上顕在化させない範囲で可及的に多い方がよい。
ところが、捕捉再生手段に係るPMの再生能力は、内燃機関の動作期間中において一定でない場合が多い。従って、当該再生能力の度合いをEGR量に反映する旨の手立てを何ら有さぬ場合、少なくとも上述した不具合の発生を避ける等の目的から、EGR量に対し、安全側(即ち、PMの排出を抑制する側であって、詰まりは減少側)にマージンを付与する必要がある。従って、場合によっては、捕捉再生手段が、少なくとも実践上何らの問題も顕在化させない程度にPMの再生を行い得る状況であるにもかかわらずEGR量が過度に抑制されてNOxの排出量が効率的に低減されない等といった事態が生じ得る。或いは、捕捉再生手段がPMの再生を行い難い状況であったとして、必ずしも事前に適合されたEGR量が最適であるかは不明であり、結局NOxの排出量が効率的に低減されないといった事態が生じ得る。
ここで、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、その動作時には、例えば、例えばECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る特定手段により、PMの再生速度が特定される。本発明に係る「再生速度」とは、例えば単位時間当たりの理論的な、実質的な、又は現実的なPMの再生量、或いは単位時間当たりに理論的に、実質的に、又は現実的に再生可能なPMの量等、定量的な指標値であってもよいし、後述する決定手段を少なくとも実践上過不足なく動作せしめ得る程度に段階的に分類された、再生速度の定性的な度合いであってもよい。或いは、特定される再生速度は、再生速度と相関する他の指標値によって代替され、間接的に特定されてもよい。
尚、本発明において「特定する」とは、特定対象そのもの或いは特定対象と相関する物理量又は物理状態を、直接的に又は何らかの検出手段を介して間接的に、例えば電気信号や物理変化等として取得又は検出すること、直接的に又は間接的に取得又は検出された、特定対象と相関する物理量又は物理状態に基づいて、予め然るべき記憶手段等に記憶されたマップ等から該当する値を選択すること、及び、それら取得若しくは検出又は選択された、特定対象と相関する物理量又は物理状態から、予め設定されたアルゴリズムや計算式等に従って導出又は推定すること等を包括する広い概念である。従って、特定手段は、例えばPMの再生速度を検出可能なセンサ等の検出手段から当該再生速度に対応する電気信号を取得することにより再生速度を特定してもよいし、当該再生速度を規定し得る、例えば捕捉再生手段の温度等を、然るべき検出手段から取得し、予め設定されたアルゴリズムに従った数値演算や論理演算の結果として、或いはマップか適当な値を選択する等して再生速度を特定してもよい。再生速度を代替し得る上述した他の指標値についても同様の趣旨である。
PMの再生速度が特定されると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る決定手段により、特定された再生速度に応じてEGRガスの循環量に対応する値(以下、適宜「対応値」と略称する)が決定される。また、対応値が決定されると、例えばECU等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る制御手段により、当該対応値に基づいてEGR装置が制御される。
ここで、「EGRガスの循環量に対応する値(即ち、対応値)」とは、例えば、EGRガスの循環量そのもの、或いはEGR率(好適な一形態として、吸入空気の量又は吸気の量に対するEGRガスの比率)等を指す。また、「再生速度に応じて決定する」とは、再生速度と対応値との間に設定された何らかの対応関係に基づいて当該値が決定されることを包括する概念であって、例えば好適な一形態として、例えば予めマップ化された再生速度と対応値との対応関係(一対一、一対多、多対一又は多対多に対応付けられた関係)に従って決定すること、或いは、予め設定されたアルゴリズム、数値演算式又は論理演算式に基づいた数値演算や論理演算の結果として導出すること等を含む趣旨である。また、この場合、当該対応関係又は当該アルゴリズム、数値演算式若しくは論理演算式は、例えば予め実験的に、経験的に、理論的に、又はシミュレーション等に基づいてPMの過剰な増加による不都合(例えば、捕捉再生手段におけるPMの捕捉機能低下に伴う排気圧の上昇、圧損の増大、フリクションロスの増加及び動力性能の低下等)を実践上顕在化させない範囲で可及的にNOxの排出を抑制し得るよう定められていてもよい。
このように、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、EGR量を、捕捉再生手段におけるPMの再生速度に応じて決定することができる。従って、例えば捕捉再生手段によってPMの再生が十分に行われ得る状況において可及的に大量のEGRガスを循環させることが可能となる。また、例えばPMの再生が進行し難い状況において、例えばPMの目詰まり及び過堆積、並びにそれに起因する不具合の発生を防止することが可能となる。別言すれば、EGR量がPM再生速度のみに応じて決定されるにせよ、最終的には更に他の指標を勘案して決定されるにせよ、少なくともPMの再生能力が考慮されないことに起因する安全側のマージンは不要、或いは実質的に又は現実的に最小限でよく、NOx排出量の低減に直結し得るEGR量を、より精細に制御することが可能となる。即ち、本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、NOx排出量を効率的且つ効果的に低減することが可能となるのである。
本発明に係る内燃機関の制御装置の一の態様では、前記特定手段は、前記捕捉再生手段の温度、前記捕捉再生手段における前記PMの捕捉量及び前記吸気系に吸入された空気量のうち少なくとも一部を含む所定種類の条件に基づいて前記再生速度を特定する。
この態様によれば、例えばDPF床温又は例えば排気系において捕捉再生手段を含む任意の区間の排気温等、PMの再生速度を規定し得る捕捉再生手段の温度、捕捉再生手段に捕捉されたPMの量としての捕捉量(上述したように堆積量と言ってもよい)及び吸気系に吸入された空気量(即ち、EGRガスと混合される新気の量)のうち少なくとも一部を含む条件に基づいてPMの再生速度が特定される。捕捉再生手段の温度は、捕捉再生手段に物理的又は化学的不具合を生じさせ得る程度に高温でない限り、好適にはその上昇に応じてPM再生速度は上昇し得る。また、PMの堆積量が多過ぎると、PMと酸素との接触が阻害され易くなり、PM再生速度は低下し易い。また、吸入空気量は、排気中の酸素濃度と相関するため、PM再生速度を好適に規定し得る。このように、これら各指標値は、PMの再生速度と相関が高く、この態様によれば、PMの再生速度を高精度に特定することが可能となる。
本発明に係る内燃機関の制御装置の他の態様では、前記決定手段は、前記特定された再生速度の高低が夫々前記循環量の大小に対応するように前記循環量に対応する値を決定する。
この態様によれば、特定された再生速度の高低がEGR量の大小に対応するように対応値が決定される。この決定された対応値に基づいてEGR装置が制御される。従って、好適な一形態として、PMの再生速度の採り得る範囲の少なくとも一部(即ち、全域又は一部の領域)において、再生速度が高い程、EGR量が段階的に若しくは連続的に、又は直線的に若しくは曲線的に増加せしめられ得、制御上の負荷を抑えつつ、効率的且つ効果的にNOxの排出量を低減することが可能となり実践上有益である。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジンシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、エンジンシステム10は、図示せぬ車両に搭載され、ECU100及びエンジン200を備える。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200の動作全体を制御することが可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「内燃機関の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納される制御プログラムに従って、後述するEGR制御を実行することが可能に構成されている。
エンジン200は、軽油を燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ディーゼルエンジンである。エンジン200の概略について説明すると、エンジン200は、シリンダブロック201に4本のシリンダ202が並列配置された構成を有している。そして、各気筒内において燃料を含む混合気が圧縮自着火した際に生じる力が、不図示のピストンを紙面と垂直な方向に往復運動させ、更にコネクティングロッドを介してピストンに連結されるクランクシャフト(いずれも不図示)の回転運動に変換される構成となっている。以下に、エンジン200の要部構成を、その動作の一部と共に説明する。尚、本実施形態に係るエンジン200は、シリンダ202が図1において紙面と垂直な方向に4本並列してなる直列4気筒ディーゼルエンジンであるが、個々のシリンダ202の構成は相互に等しいため、ここでは一のシリンダ202についてのみ説明することとする。
シリンダ202内における混合気の燃焼に際し、エアフィルタを介して外部から吸入された空気たる吸入空気は、吸気管203に導かれる。吸気管203には、吸入空気の量を調節可能なディーゼルスロットルバルブ204が配設されている。このディーゼルスロットルバルブ204は、ECU100と電気的に接続され且つECU100により上位に制御されるスロットルバルブモータ(不図示)から供給される駆動力により回転可能に構成された回転弁であり、ディーゼルスロットルバルブ204を境にした吸気管203の上流部分と下流部分とをほぼ遮断する全閉位置から、ほぼ全面的に連通させる全開位置まで、その回転位置が連続的に制御される構成となっている。
尚、エンジン200は、ディーゼルエンジンであり、その出力は、ガソリン等を燃料とするエンジンにおける空燃比制御(吸入空気量に応じた制御)と異なり、噴射量の増減制御を介してコントロールされる。従って、ディーゼルスロットルバルブ204は、エンジン200の動作期間において、基本的に全開位置(図示するディーゼルスロットルバルブ204の位置が全開位置に相当する)に制御される。また、このディーゼルスロットルバルブ204の下流側(気筒側)には、ディーゼルスロットルバルブ204を通過した吸入空気の温度たる吸気温を検出可能な第1吸気温センサ205が配設されている。第1吸気温センサ205は、ECU100と電気的に接続されており、検出された吸気温は、ECU100によって一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
吸気管203は、第1吸気温センサ205の下流側(吸気の流れ方向を基準とする方向概念であって、この場合、シリンダ側)において吸気マニホールド206と連通しており、この吸気マニホールド206を介して更に、各シリンダに設けられた吸気ポート207に連通している。一方、吸気管203に導かれる吸入空気は、第1吸気温センサ205の下流側且つ吸気マニホールド206の上流側の合流位置において、後述するEGRガスと混合され、吸気ポート207とシリンダ内部とを連通させることが可能に構成された不図示の吸気バルブの開弁時にシリンダ202内に吸気として吸入される。シリンダ202内には、筒内直噴型のユニットインジェクタ208から燃料たる軽油が噴射される構成となっており、噴射された燃料が各シリンダ内部で、当該吸気と混合され、上述した混合気となる。
尚、詳細は省略するが、燃料は、不図示の燃料タンクに貯留されている。この燃料タンクに貯留される燃料は、不図示のフィードポンプの作用により燃料タンクから汲み出され、不図示の低圧配管を介して公知の各種態様を採り得高圧ポンプ(不図示)に圧送される構成となっている。この高圧ポンプは、コモンレール209に対し、燃料を供給することが可能に構成されている。
コモンレール209は、ECU100と電気的に接続され、上流側(即ち、高圧ポンプ側)から供給される高圧燃料をECU100により設定される目標レール圧まで蓄積することが可能に構成された、高圧貯留手段である。尚、コモンレール209には、レール圧を検出することが可能なレール圧センサ及びレール圧が上限値を超えないように蓄積される燃料量を制限するプレッシャリミッタ等が配設されるが、ここではその図示を省略することとする。前述したユニットインジェクタ208は、シリンダ202毎に搭載されており、夫々が高圧デリバリ210を介してコモンレール209に接続されている。
ここで、ユニットインジェクタ208の構成について補足すると、ユニットインジェクタ208は、ECU100から供給される指令に基づいて作動する電磁弁と、この電磁弁への通電時に燃料を噴射するノズル(いずれも不図示)とを備える。当該電磁弁は、コモンレール209の高圧燃料が印加される圧力室と、当該圧力室に接続された低圧側の低圧通路との間の連通状態を制御することが可能に構成されており、通電時に当該加圧室と低圧通路とを連通させると共に、通電停止時に当該加圧室と低圧通路とを相互に遮断する。
一方、ノズルは、噴孔を開閉するニードルを内蔵し、圧力室の燃料圧力がニードルを閉弁方向(噴孔を閉じる方向)に付勢している。従って、電磁弁への通電により加圧室と低圧通路とが連通し、圧力室の燃料圧力が低下すると、ニードルがノズル内を上昇して開弁する(噴孔を開く)ことにより、コモンレール209より供給された高圧燃料を噴孔より噴射することが可能に構成される。また、電磁弁への通電停止により加圧室と低圧通路とが相互に遮断されて圧力室の燃料圧力が上昇すると、ニードルがノズル内を下降して閉弁することにより、噴射が終了する構成となっている。
尚、燃料は、個々のシリンダ202において、ユニットインジェクタ208を介し、目標噴射量に相当する燃料が、燃焼室内の急激な温度上昇を防止するための、或いは燃料と吸気とを十分に予混合するためのパイロット噴射と、目標噴射量とパイロット噴射量との差分に相当するメイン噴射とに分割して噴射される構成となっている。
上述した混合気は、圧縮工程において自着火して燃焼し、燃焼済みガスとして、或いは一部未燃の混合気として、吸気バルブの開閉に連動して開閉する排気バルブ(不図示)の開弁時に排気ポート211を介して排気マニホールド212に導かれる構成となっている。この排気マニホールド212は、排気管213に連通しており、排気の大部分は、この排気管213に導かれる構成となっている。
一方、排気管213には、タービンハウジング214に収容される形でタービン215が設置されている。タービン215は、排気管213に導かれた排気の圧力(即ち、排気圧)により所定の回転軸を中心として回転可能に構成されている。このタービン215の回転軸は、コンプレッサハウジング217に収容される形で吸気管203に設置されたコンプレッサ216と共有されており、タービン215が排気圧により回転すると、コンプレッサ216も当該回転軸を中心として回転する構成となっている。
コンプレッサ216は、吸気管203に導かれる吸入空気を、その回転に伴う圧力により上述した吸気マニホールド206へ圧送供給することが可能に構成されており、このコンプレッサ216による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。即ち、タービン215とコンプレッサ216とにより、一種のターボチャージャが構成されている。尚、コンプレッサ216と吸気マニホールド206との間には、インタークーラが設置され、過給された吸入空気を冷却することによって過給効率が向上せしめられてもよい。
尚、吸気管203におけるコンプレッサ216の上流側には、エアフローメータ218及び第2吸気温センサ219が配設されている。エアフローメータ218は、吸気管203に導かれる吸入空気の量(吸入空気量)を検出する装置であり、所謂ホットワイヤー式と称される形態が採用されている。第2吸気温センサ219は、エアフローメータ218近傍の吸入空気の温度を検出することが可能に構成された温度センサである。第2吸気温センサ219は、ECU100と電気的に接続されており、検出された吸気温は、エアフローメータ218による吸入空気量の検出精度を向上させるべく使用される。
排気マニホールド212には、排気管213とは別にEGR通路220が連通している。EGR通路220は、排気マニホールド212と吸気管203とを連通させる金属製且つ中空の管状部材であり、上述した合流位置において吸気管203と連通する構成となっている。EGR通路220は、その一部の区間においてEGRクーラ222が設置された冷却通路221とEGRクーラ222が設置されないバイパス通路223とに分岐している。
EGRクーラ222は、EGR通路220に設けられた冷却装置である。EGRクーラ222は、外周部にエンジン200の冷却水配管が張り巡らされた金属製且つ中空の管状部材であり、EGRパイプ220に導かれ冷却通路221を介してEGRクーラ222を通過する排気(即ち、本発明に係る「EGRガス」の一例であり、以下、「EGRガス」と称する)は、この冷却水との熱交換により冷却され、下流側(即ち、吸気管203側)へ導かれる構成となっている。EGRクーラ222には、夫々が上述したウォータジャケットに連通するインレットパイプ及びアウトレットパイプ接続されている。この際、冷却水は、インレットパイプから当該冷却水配管に流入し、アウトレットパイプを介して当該冷却水配管の外に排出される。排出された冷却水は、エンジン200の冷却水循環系に還流され、所定の経路を経て再びインレットパイプから供給される。上述したバイパス通路223は、少なくともこのEGRクーラ222をバイパスするように構成されている。
切り換えバルブ224は、EGR通路220とバイパス通路223との分岐部位に設置された開閉可能な弁体と、当該弁体を駆動する駆動装置を含むバルブ機構である。切り換えバルブ224の弁体は、当該駆動装置により開閉状態が連続的に変化するように構成されており、当該開閉状態に応じて、冷却通路221とバイパス通路223との間のEGRガスの流量比率を制御することが可能に構成されている。切り換えバルブ224の駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、切り換えバルブ224の弁体の開閉状態は、ECU100により上位に制御される構成となっている。
EGRバルブ225は、冷却通路221とバイパス通路223との合流位置下流側(吸気管203側)においてEGR通路220に設置された開閉可能な弁体と、当該弁体を駆動する駆動装置を含むバルブ機構である。EGRバルブ225の弁体は、当該駆動装置により開閉状態が連続的に変化するように構成されており、当該開閉状態に応じて、EGR通路220を流れるEGRガスの流量、即ち、EGR量を制御することが可能に構成されている。EGRバルブ225の駆動装置は、ECU100と電気的に接続されており、EGRバルブ225の弁体の開閉状態は、ECU100により上位に制御される構成となっている。EGR通路220、冷却通路221、EGRクーラ222、バイパス通路223、切り換えバルブ224及びEGRバルブ225は、全体として、本発明に係る「EGR装置」の一例を構成しており、以下の説明において、これら全体を総称する場合には適宜「EGR装置」なる言葉を使用することとする。
排気管213におけるタービン215の下流側には、第1酸化触媒226、DPF227及び第2酸化触媒228が設置されている。
第1酸化触媒226は、排気中のCO、HC(主としてSOF)及びNO等を酸化することが可能に構成された触媒コンバータである。
DPF227は、排気中のPMを捕捉可能に構成されたフィルタである。DPFは、金属製の筐体にコージェライトやSiC等のセラミック担体によって構成されたフィルタが収容された構造を有する。このフィルタは、排気の流れる方向に伸長し且つ排気の流れる方向と垂直な断面がハニカム状をなす複数の排気通路を形成している。この排気通路は、排気の入口側と出口側とのうち一方が、相互に隣接しないように互い違いに目封じされており、DPF227は、所謂セラミックウォールフロー型のフィルタ構造を有している。尚、第1酸化触媒226及びDPF227により、本発明に係る「捕捉再生手段」の一例が構成される。
第2酸化触媒228は、DPF227の下流側に設けられており、DPF227のセラミック担体を通過する排気中の各主成分を酸化することが可能に構成されている。
排気管213には、第1排気温センサ229、第2排気温センサ230及び第3排気温センサ231が設置されている。第1排気温センサ229は、第1酸化触媒226の上流側に設置されており、第1酸化触媒226に流入する排気の温度(以下、適宜「流入排気温」と称する)を検出することが可能に構成されている。第2排気温センサ230は、第1酸化触媒226の下流側且つDPF227の上流側に設置されており、DPF227に流入する排気の温度(以下、適宜「DPF上流排気温」と称する)を検出することが可能に構成されている。第3排気温センサ231は、DPF227の下流側且つ第2酸化触媒228の上流側に設置されており、DPF227から排出される排気の温度(以下、適宜「DPF下流排気温」と称する)を検出することが可能に構成されている。第1乃至第3排気温センサ各々は、ECU100と電気的に接続されており、当該各々により検出される流入排気温、DPF上流排気温及びDPF下流排気温は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
排気管213における、第1酸化触媒226とDPF227との間には、排気管213における排気の絶対圧(以下、適宜「排気絶対圧」と称する)を検出可能に構成された絶対圧センサ232が設置されている。絶対圧センサ232は、ECU100と電気的に接続されており、検出された排気絶対圧は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。また、DPF227と第2酸化触媒228との間には、絶対圧センサ232の設置位置との排気圧の差たる排気差圧を検出することが可能に構成された、差圧センサ233が設置されている。差圧センサ233は、ECU100と電気的に接続されており、検出された排気差圧は、ECU100により一定又は不定の周期で把握される構成となっている。
<実施形態の動作>
エンジンシステム10では、EGR装置によってEGRガスが吸気管203に循環供給される。EGRガスは不活性のCO2を多量に含むため、シリンダ202内の燃料の燃焼に際しNOxの発生が抑制される。また、ユニットインジェクタ208の作用により燃料の噴射回数を精細に制御することが可能となるため、エンジン200では、シリンダ202内の急激な温度上昇が抑制されている。従って、総体的な傾向として、EGR量が多い程、シリンダ202からのNOx排出量は低減される。一方で、NOxの発生を抑制するためにCO2の濃度を増やせば、吸気における、吸気管203を介して導かれる吸入空気の割合が減少して酸素不足の傾向が強くなる。また、燃料の噴射回数を精細に制御して燃焼温度を低下させることによって、シリンダ202内部の燃焼温度も低下する。従って、シリンダ202内部では、完全燃焼する燃料の量が減少し、不完全燃焼による、CO及びPM等の発生が促進される。即ち、EGR量を増やし、NOxの排出量を低減する背反として、PMの排出量が増加することとなる。このようなCO及びPM並びに抑制されたとは言え無視し得ぬ程度に存在するNOx(主としてNO)を含む排気は、第1酸化触媒226に流入する。
第1酸化触媒226では、所定温度(概ね250℃程度)以上の温度領域において、CO、NO、及びPMのうちSOFを含むHCの酸化燃焼が促進され、CO2、NO2及びH2O等が生成される。ここで、第1酸化触媒226では、HCと共にPMを構成するスート(煤であり、個体炭素である)の酸化燃焼が促進されないため、第1酸化触媒226を通過した排気には、主としてスートを含むPMが残留する。このPMは、DPF227によって捕捉される。
DPF227は、前述したように、排気の流れ方向に沿って伸長する排気通路を有し、夫々の排気通路がセラミック担体により構成されている。このセラミック担体には微小な細孔が形成されており、排気中のCO2やNO2と言った気体は、相互に隣接する排気通路間を自由に行き来することができる。従って、入口側が目封じされていない排気通路から流入する排気は、排気通路壁体を通過して出口側が目封じされていない排気通路から排出される。一方、排気中のPMは、この細孔を通過することができない(そのように、細孔が形成されている)ため、例えば、目封じされた出口部分、或いは排気通路の壁体等で捕捉され堆積する。即ち、DPF227によって、少なくとも車両外へのPMの排出が防止される。
一方、DPF227単体の作用としては、PMを捕捉するのみであり、現実的には、捕捉され堆積するPMの量は経時的に変化する。PMの堆積量が過度に増加した場合、DPF227が目詰まりし、排気圧が上昇して、圧損の増大、エンジン200のフリクションロスの増加及び動力性能の低下といった問題が顕在化する場合がある。ここで、第1酸化触媒226では、上述したように排気中のNOがNO2に酸化されるため、DPF227に流入する排気には、酸化力の強いNO2が多量に含まれる。DPF227では、この潤沢に存在するNO2の酸化作用によってPMを構成する主成分としてのスートの酸化燃焼が促進される。即ち、本実施形態に係るエンジンシステム10では、第1酸化触媒226とDPF227との協調作用により、DPF227においてPMの捕捉と再生とが連続的に(並行して)行われる、CRT(Continuous Re-generation Trap)と称されるPMの連続再生が実現される。このようなPMの連続再生が実践上不足無く行われる限りにおいて、上述したDPF227の目詰まりに起因する問題は好適に防止される。
他方、第1酸化触媒226によるNOの酸化反応は、上述したように概ね250℃以上の温度領域で活性化する。ところが、ディーゼルエンジンの燃焼温度は相対的に低く、当該温度領域に達するエンジン200の運転領域は、車両の加速時等、過渡的な条件に限定され易い。従って、上述したPMの連続再生は、エンジン200の動作期間の全域においてはなされ難く、総じてPMは時間経過と共に堆積し易い。従って、エンジンシステム10では、一定又は不定のタイミングにおいて、堆積したPMを強制的に酸化燃焼させる、所謂PMの強制再生が実行される。この強制再生がなされるに際しては、通常の燃料の噴射に加え、この強制再生用の燃料のポスト噴射が実行される。この燃料のポスト噴射により、燃料が排気管213内で燃え進み、排気温が上昇する。排気温の上昇に伴ってDPF227の温度が所定温度(概ね、600℃程度)以上の高温領域に達すると、堆積したPMは、排気中に残存する酸素との化学反応により燃焼する。
但し、このようなPMの強制再生は、過度にPMの堆積が進んだ状況においてなされると、堆積したPMの急速且つ激しい燃焼を招き、DPF227のセラミック担体が溶けることによって、DPF227の溶損を生じる可能性がある。DPF227の溶損を防止するために、このようなPMの強制再生を頻繁に(即ち、PM過堆積となる以前に)行おうとした場合、排気温を上昇させるための燃料のポスト噴射を頻繁に行う必要が生じるため、エンジン200の燃費は悪化する。即ち、EGRによるNOx排出量の抑制は、上述したPMの連続再生がなされ難い運転状況が継続する場合には特に、またPMの連続再生がなされる状況であるにせよ、捕捉されたPMの過堆積に伴って生じ得る実践上の不都合を回避しつつ行われる必要がある。そこで、NOxをより効率的且つ効果的に低減すべく、本実施形態では、ECU100によりEGR制御が実行される。ここで、図2を参照し、EGR制御の詳細について説明する。ここに、図2は、EGR制御のフローチャートである。
図2において、ECU100は、EGRの実行条件であるか否かを判別する(ステップS101)。EGRの実行条件とは、EGRガスを幾らかなり吸気管203に循環させるべき条件を指し、言い換えればEGRバルブ225を少なくとも全閉状態に制御しない旨の条件を指す。この種の実行条件は、適合の要素を含むため一義には規定されないが、本実施形態では、少なくともエンジン200の始動時等、燃焼が不安定な運転領域においてEGRガスの供給は停止される(即ち、始動時は実行条件に含まれない)。EGRの実行条件でない場合(ステップS101:NO)、ステップS101に係る処理が繰り返され、処理は実質的に待機状態となる。
一方、EGRの実行条件である場合(ステップS101:YES)、DPF227の温度たるDPF床温Tdpfが推定される(ステップS102)。DPF床温Tdpfは、本発明に係る「捕捉再生手段の温度」の一例である。DPF床温Tdpfが推定されるに際し、ECU100は、第1温度センサ229、第2温度センサ230及び第3温度センサ231により検出される流入排気温、DPF上流排気温及びDPF下流排気温、エアフローメータ218により検出される吸入空気量、第1吸気温センサ205により検出される吸気温、並びに絶対圧センサ232により検出される排気絶対圧を取得する。これら各検出値を取得すると、ECU100は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいてDPF床温Tdpfを少なくとも実践上不足無い程度に導出し得るよう定められてなる演算アルゴリズムに基づいた数演算及び論理演算を実行し、DPF床温Tdpfを推定する。尚、DPF床温Tdpfの導出手法は、このような演算処理を伴うものに限定されない。例えば、予めこれら各検出値とDPF床温Tdpfとの関係がマップ化され然るべき記憶手段(例えばROMやフラッシュメモリ)に記憶されている場合には、当該マップから取得された検出値に対応する値が選択的に取得されることによりDPF床温Tdpfが推定されてもよい。
DPF床温Tdpfが推定されると、次に、PM再生速度算出用データが取得される(ステップS103)。PM再生速度算出用データとは、DPF227におけるPM再生の規模及び度合いを規定し得るものとしてのPM再生速度Rpm(即ち、本発明に係る「再生速度」の一例)の算出に供されるデータであり、本実施形態では、エアフローメータ218により検出される吸入空気量、及びDPF227におけるPM堆積量がこれに該当する。
ここで、PM堆積量は、差圧センサ233により検出される排気差圧に基づいて推定される。定性的な傾向として、DPF227にPM過堆積或いはフィルタ目詰まり等が生じていなければ、DPF227の前後で排気圧はほとんど変化しない。従って、排気差圧は小さくなる。また、PM過堆積或いはフィルタ目詰まり等が生じている場合、DPF227上流側の排気圧が下流側と比較して上昇するため、排気差圧は大きくなる。ECU100のROMには、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて少なくとも実践上不足無い程度にPM堆積量を推定し得るよう定められた排気差圧とPM堆積量との関係を規定するマップが格納されており、ECU100は、当該マップから排気差圧に応じた一の値を選択的に取得することによってPM堆積量を推定する。
PM再生速度算出用データが取得されると、PM再生速度が算出される(ステップS104)。ここで、本実施形態に係るPM再生速度Rpmは、単位時間当たりのPM再生量の推定値である。但し、単位時間当たりのPM再生量とは、単位時間当たりに再生可能なPMの量、即ち、PMの再生能力を規定する指標であって、必ずしもPMの実際の再生量とは一致しない。DPF227に捕捉され堆積しているPMの量が少なければ、再生能力が高かろうが実際に再生される(即ち、燃焼する)PMの絶対量は少ないからである。本実施形態では、ステップS103に係る処理において取得されたPM堆積量及び吸入空気量、並びにステップS102に係る処理において取得されたDPF床温Tdpfに基づいてPM再生速度Rpmが算出される。
ここで、図3を参照し、DPF床温TdpfとPM再生速度Rpmとの関係について説明する。ここに、図3は、DPF床温Tdpfに対するPM再生速度Rpmの特性を表す模式図である。
図3において、DPF床温Tdpfに対するPM再生速度Rpmの変化特性は、図示PRF_Rpm(実線参照)として表される。図示する通り、例えばTdpf1、Tdpf2(Tdpf2>Tdpf1)、及びTdpf3(Tdpf3>Tdpf2)の三種類のDPF床温に対し、PM再生速度Rpmは夫々Rpm1、Rpm2(Rpm2>Rpm1)、及びRpm3(Rpm3>Rpm2)と変化し、PM再生速度Rpmは、DPF床温Tdpmの増加に対し増加する関数となる。
但し、図示する特性は、吸入空気量及びPM堆積量が一定である場合の特性であり、実際のPM再生速度Rpmは、吸入空気量及びPM堆積量によって図示する特性から変化する。例えば、吸入空気量が多ければ、排気中の酸素濃度は高くなるから、PMの燃焼は促進される。即ち、PM再生速度Rpmは上昇し得る。また、PM堆積量が多ければ、PMが酸素と接触する面積が減少するから、PMの燃焼は阻害される。従って、PM再生速度Rpmは減少し得る。本実施形態では、ECU100が、予めROMに図3に示す対応関係に相当するマップを保持しており、当該マップからDPF床温Tdpfに対応するPM再生速度Rpmを選択的に取得した後に、吸入空気量及びPM堆積量に基づいた補正演算(補正演算に係る演算アルゴリズム又は演算式は、予め実験的に、経験的に、理論的に又はシミュレーション等に基づいて少なくとも実践上不足ない程度の精度を有するように与えられている)を行うことによって、最終的にPM再生速度Rpmが算出される。尚、PM再生速度の算出に係る手法はこれに限定されない。また、ステップS104に係る処理において取得されるPM再生速度算出用データは、吸入空気量及びPM堆積量に限定されず、当該データとして、それらに代えて又は加えて他の指標値が採用されてもよい。
PM再生速度Rpmが算出されると、ECU100は、EGR率の目標値たる目標EGR率を算出する(ステップS105)。ここで、本実施形態におけるEGR率とは、吸入空気量に対するEGRガスの比率を指し、本発明に係る「EGRガスの循環量に対応する値」の一例である。ここで、図4を参照し、目標EGR率の詳細について説明する。ここに、図4は、目標EGR率の設定に係るマップの模式図である。
図4において、目標EGR率Regrtは、PM再生速度Rpmに対し、図示PRF_Regrt(実線参照)として示される特性を有する。即ち、PM再生速度RpmがRpmLL未満の領域において、目標EGR率Regrtは下限値RegrtLLに維持され、また、PM再生速度RpmがRpmUL(RpmUL>RpmLL)以上の領域において、目標EGR率Regrtは上限値RegrtUL(RegrtUL>RegrtLL)に維持される。PM再生速度RpmがRpmLL以上、且つRpmUL未満の領域では、目標EGR率RegrtはPM再生速度Rpmに対しリニアに増加する。
ここで、下限値RegrtLLは、EGRガスの導入によるPMの排出量が、少なくとも実践上DPF227におけるPMの堆積に影響しない旨のEGR率であり、上限値RegrtULは、DPF227におけるPMの堆積とは異なる観点(例えば、EGRガス過多による燃焼性悪化を防止する観点等)から規定されるEGR率である。このような上下限値は別として、基本的にPM再生速度Rpmが高ければ、目標EGR率Regrtは高く設定され、相対的に多くのEGRガスが吸気管203に供給される。即ち、吸気に対するEGRガスの比率が増加し、NOx排出量が低減される。別言すれば、NOx排出量の低減に伴うPMの増加がPMの過堆積を招かないように、目標EGR率Regrtが設定されているのである。但し、何らかの理由によりPMが過堆積したとして、PMの強制再生は、第3温度センサ231により検出されるDPF下流排気温に基づいて、少なくともDPF227の溶損が生じないように行われ(例えば、燃料のポスト噴射に係る噴射量が制御される)、DPF227の保護が好適に図られる。
以上説明したように、本実施形態に係るエンジンシステム10によれば、DPF床温Tdpf、吸入空気量及びPM堆積量等により複合的に推定される、DPF227におけるPMの再生能力を規定するPM再生速度Rpmに基づいて目標EGR率が設定される。従って、PM再生速度が高くPMの再生能力が十分に担保されている状況においては、相対的に多くのEGRガスがシリンダ202内部に吸入されNOx排出量が抑制される。また、PM再生速度が低くPMの再生能力が相対的に低下している状況においても、PMの過堆積を招かない範囲で可及的に多くのEGRガスをシリンダ202内部に供給することができ、NOx排出量が可及的に抑制される。
ここで特に、DPF227におけるPM再生能力とEGRガスの循環量との対応関係が何ら規定されない場合、安全側の配慮、即ち、PM再生能力が低下している或いはPM再生能力が低い運転領域であるにもかかわらず大量のEGRガスが循環供給されることによるPMの過堆積、並びにそれに伴う圧損の増大、動力性能の低下、及びDPF227の溶損といった問題を生じさせない旨の配慮が必要となる。従って、PM再生能力をより低い側に見積もらざるを得ず、EGR量を最適化することができずに、NOx排出量の低減効果が本実施形態と較べて明らかに低くなる。即ち、このような場合と較べ、本実施形態は明らかにNOx排出量低減に係る高い利益を提供することができる。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、203…吸気管、205…第1吸気温センサ、206…吸気マニホールド、212…排気マニホールド、218…エアフローメータ、220…EGR通路、225…EGRバルブ、226…第1酸化触媒、227…DPF、229…第1排気温センサ、230…第2排気温センサ、231…第3排気温センサ、232…絶対圧センサ、233…差圧センサ。