JP2009061557A - ボールねじの熱変位補償方法と、その補償方法を実行するnc工作機械 - Google Patents
ボールねじの熱変位補償方法と、その補償方法を実行するnc工作機械 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】単位測定時間の間に特定された可動部の存在区間と検出された可動部の移動速度から、(1)各々の区間について、可動部が通過した際の速度を単位測定時間に亘って合計した合計速度と、時定数τを用いて累計補正速度を計算し、(2)区間の並びと累計補正速度から形成される2次元領域の重心の位置を特定し、原点からその重心までの距離Gを計算し、(3)2次元領域の面積Qを計算し、(4)原点近傍と中間点近傍と終点近傍の少なくとも3つの点について近似式を決定するための係数を計算し、(5)実際運転時の面積Qと距離Gを利用して、3つの点における可動部の位置ずれ量を計算し、(6)2次補間を利用して、可動部の移動範囲全域における位置ずれ量を計算し、(7)ピッチ誤差補正量を、可動部の位置ずれ量で修正する。
【選択図】 図1
Description
ボールねじの両端は、軸受によって回転可能に支持されている。ボールねじが回転すると、軸受の摩擦、あるいはボールねじとナットの間の摩擦によってボールねじに熱が加えられる。その結果、ボールねじの温度が上昇し、ボールねじに伸びが生じる。ボールねじに伸びが生じると、可動部を存在させるべき位置と可動部が実際に存在している位置の間にずれが生じてしまう。すなわち、可動部に位置ずれが生じる。
従来のNC工作機械では、軸受によってボールねじに引張応力(プレテンション)を加えておく。ボールねじが温度上昇してもボールねじが伸びることを抑制する技術を採用することによって、可動部の位置ずれを抑制している。
特許文献1に、ボールねじにプレテンションを加えないでボールねじを支持する技術が開示されている。特許文献1の技術では、温度上昇によるボールねじの伸び量を近似式を利用して推定し、推定した伸び量に基づいて可動部の位置を補正する。
特許文献1の技術では、NC工作機械を使用する前に、ボールねじの原点から終点までの間で可動部を繰り返し往復移動させ、可動部の移動範囲の原点近傍でのボールねじの伸び量の経時的変化パターンと、可動部の移動範囲の終点近傍での伸び量の経時的変化パターンと、可動部の移動範囲の中間点近傍での伸び量の経時的変化パターンを測定する。ボールねじが熱平衡に達して伸び量が変化しなくなるまで測定を続ける。
同様に、NC工作機械を使用する前に、原点近傍で可動部を繰り返し往復移動させ、前記の経時的変化パターンを測定する。さらに、NC工作機械を使用する前に、終点近傍で可動部を繰り返し往復移動させ、前記の経時的変化パターンを測定する。さらに、NC工作機械を使用する前に、中間点近傍で可動部を繰り返し往復移動させ、前記の経時的変化パターンを測定する。
特許文献1の技術では、NC工作機械を使用する前に、複数のパターンで可動部を繰り返し往復移動させ、そのときに生じるボールねじの伸び量の経時的変化パターンを測定する。その複数の測定結果を利用して温度上昇によるボールねじの伸び量を推定する近似式を作成し、その近似式を活用して可動部の位置を補正する。
特許文献1のように、複数のパターンで可動部を往復移動させたときに生じるボールねじの伸び量を推定する近似式を作成しておけば、ある程度は可動部の位置ずれを補正することができる。しかしながら、NC工作機械を実際に運転する場合の可動部の移動パターンは様々であり、近似式が得られていない移動パターンが採用されることもある。特許文献1の技術では、その場合の対応が困難となる。実際、特許文献1には、予め測定しておいた移動パターンと異なる移動パターンによるときに、近似式をどう活用するのかの具体的な技術が開示されていない。ボールねじの伸び量を精度よく推定するためには、多様な移動パターンに対して予め伸び量を測定しておけばよいと推測することができる。しかしながら、多様な移動パターンのそれぞれに対して伸び量を測定しておくのは容易でなく、より少ない測定結果から、ボールねじの伸び量を精度よく推定できる近似式を作成する方法が必要とされている。すなわち、NC工作機械を使用する前に必要とされる測定数を少なくし、それでいてボールねじの温度上昇により生じる可動部の位置ずれ量を精度よく推定することができる近似式を得る技術が必要とされている。
本発明では、数少ない測定結果から温度上昇によるボールねじに生じる伸び量を精度よく推定する近似式を得ることに成功し、可動部の位置ずれを精度よく補正する技術を創作した。
その方法は、加熱開始時からの経過時間に対するボールねじの伸び量の変化パターンから、ボールねじの伸びの時定数τを予め計算する工程と、可動部の移動範囲をボールねじの軸方向に沿って複数区間に分割しておいた区間群のうちのどの区間に可動部が存在しているかを特定する工程と、可動部の移動速度を検出する工程を備えている。上記の工程を備えているために、特定された可動部の存在区間と検出された可動部の移動速度を示すデータを、単位測定時間の間蓄積することができる。
本発明の方法では、単位測定時間の間に特定された可動部の存在区間と検出された可動部の移動速度から、下記(1)から(7)の計算をする工程を経て、可動部の位置ずれを補正する。
(1)各々の区間について、可動部がその区間を通過した際の速度を単位測定時間に亘って合計した合計速度と、前記時定数τを用いて累計補正速度を計算する。
(2)区間の並びを一方の軸とし、各区間についての累計補正速度を他方の軸とする2次元領域の重心の位置を特定して、可動部の移動原点からその重心までの距離Gを計算する。
(3)2次元領域の面積Qを計算する。
(4)可動部の移動範囲の原点近傍と、可動部の移動範囲の中間点近傍と、可動部の移動範囲の終点近傍の少なくとも3つの点について、面積Qと、距離Gを利用して、原点近傍ではa1×Q+a2×G+a3/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算し、中間点近傍ではa4×Q+a5×G+a6/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算し、終点領域ではa7×Q+a8×G+a9/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算したときに、実際の位置ずれ量に近似する計算値を実現する定数a1〜a9を決定する。
上記(1)から(4)の工程によって、原点近傍と中間点近傍と終点近傍の少なくとも3つの点について、定数a1〜a9と、面積Qと距離Gで表すことができる近似式を得ることができる。
(5)NC工作機械の実際運転時に、面積Qと距離Gを求め、面積Qと距離Gと予め決定しておいた定数a1〜a9と前記3式から、原点近傍と中間点近傍と終点近傍の3つの点における位置ずれ量を計算する。なお、実際運転時における面積Qと距離Gは、前記(1)から(3)の計算と同じ方法で計算することができる。
(6)原点近傍と中間点近傍と終点近傍にとられている少なくとも3つの点の位置ずれ量を2次補間して、可動部の移動範囲全域における位置ずれ量を計算する。
(7)NC工作機械のピッチ誤差補正機能に用いるピッチ誤差補正量を、前記(6)で計算した位置ずれ量で修正する。
本発明の補正方法では、まず(1)から(4)の計算工程で近似式を作成し、(5)から(7)の計算工程で実際運転時の可動部の位置ずれを補正する。
また、可動部の存在区間を特定する工程は、実際に可動部の存在区間を特定してもよいが、NC工作機械の運転を制御するプログラムないしはデータ(以下ではNCデータと総称する)から特定してもよい。同様に、可動部の移動速度を検出する工程は、実際に移動速度を検出してもよいし、ボールねじの回転速度を検出してもよい。また、NCデータから検出してもよい。
上記の方法では、「累積補正速度」、「合計速度」、「2次元領域の重心」、「2次元領域の面積」という新規な指標を利用する。本発明者の研究によって、これらの指標を利用してボールねじの伸び量を、「原点近傍」と「中間点近傍」と「終点近傍」に分けて推定すると、簡単な近似式と数少ない定数から温度上昇によるボールねじの伸び量を精度よく推定する近似式が得られることが確認されている。本方法によると、ボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を精度よく推定し、位置ずれを精度よく補正することができる。実際には、ピッチ誤差補正機能に用いるピッチ誤差補正量を修正する。ピッチ誤差補正機能によってピッチ誤差に起因する可動部の位置ずれが補正されると、ボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれも補正される。
上記(1)から(7)の工程は、(1)前記累計補正速度を計算する工程、(2)前記距離Gを計算する工程、(3)前記面積Qを計算する工程、(4)原点近傍と中間点近傍と終点近傍の少なくとも3つの点の各々について、位置ずれ量の近似式を読み込む工程、(5)前記3つの点における位置ずれ量を計算する工程、(6)前記3つの点における位置ずれ量を2次補間して、可動部の移動範囲全域における位置ずれ量を計算する工程、(7)前記ピッチ誤差補正量を、前記(6)で計算した位置ずれ量で修正する工程、を有する。なお、定数a1〜a9は、本発明のNC工作機械を利用して、実際運転を開始する前に決定することができる。
(第1特徴)可動部の原点の座標を0mmとし、可動部の終点の座標を−500mmとしたときに、−10mmの位置での可動部の位置ずれ量Daをa1×Q+a2×G+a3/Gの式で計算し、−250mmの位置での可動部の位置ずれ量Dcをa4×Q+a5×G+a6/Gの式で計算し、−490mmの位置での可動部の位置ずれ量Dbをa7×Q+a8×G+a9/Gの式で計算する。
(第2特徴)累計補正速度は、単位測定時間Δtの時間間隔で繰り返し計算する。累計補正速度は、
(a)直前の単位測定時間Δtの間に可動部が区間を通過した際の速度の合計値(合計速度)を計算し、
(b)前記(a)で求めた合計速度と単位測定時間Δtだけ前の時点における累計補正速度の差を求め、
(c)前記(b)の差に、(1−EXP((−Δt)/τ))を乗算した値を求め(ただし、Δtは単位測定時間であり、τは時定数)、
(d)前記(c)の値を、単位測定時間Δtだけ前の時点における累計補正速度に加算して新たな累計補正速度を求める。
図1に、NC工作機械のボールねじ送り機構10と、そのボールねじ送り機構10で送られる可動部9の断面図を示している。ボールねじ送り機構10は、モータ18と、ボールねじ6と、可動部9を備えている。
モータ18は、ボールねじ送り機構10の基部2に固定されている。ボールねじ6は、モータ18の出力軸16に接続されている。ボールねじ6の中間部にねじ溝13が形成されている。ボールねじ6の両端部にはねじ溝13が形成されておらず、軸受4,14によって基部2に対して回転自在に支持されている。可動部9は、テーブル12とナット8を備えている。テーブル12はナット8に固定されており、ナット8はボールねじ6のねじ溝13に螺合している。
可動部9は、原点Lから終点Rまでの範囲を移動することができる。本実施例のボールねじ送り機構10では、原点Lから終点Rまでの距離が500mmである。なお、本実施例では、原点Lを座標0mmと称し、終点Rを座標−500mmと称すことがある。また、本実施例では、座標0mmから−150mmの間(図1の範囲A)を原点近傍と称し、座標−350mmから−500mmの間(図1の範囲B)を終点近傍(終点Rの近傍領域)と称し、座標−175mmから−325mmの間(図1の範囲C)を中間点近傍と称することがある。
本実施例のボールねじ送り機構10では、軸受4,14によってボールねじ6にプレテンションを加えていない。より正確にいうと、ボールねじ6の温度が上昇して、ボールねじ6が軸方向に伸びようとしたときに、その伸びを抑制する力が軸受4,14からボールねじ6に加えられていない。ボールねじ6が軸方向に伸びることができるため、軸受4,14に過大な負荷がかかることを抑制することができる。軸受4,14が破壊に至ることを抑制することができる。ボールねじ6の温度上昇は、軸受4,14の摩擦、あるいはボールねじ6とナット8の間の摩擦によって生じた熱が、ボールねじ6に加えられることによって生じる。すなわち、ボールねじ6自体は発熱しない。実際にはボールねじ6は発熱しないが、以下では、ボールねじ6の温度が上昇する現象を、ボールねじ6の発熱と称することがある。
なお、可動部9の移動速度を、センサ等(図示省略)を利用して直接的に検出することもできる。
まず、ボールねじ6の原点Lから終点Rまでの範囲(可動部9の移動範囲)を、ボールねじ6の軸方向に沿って等間隔で複数区間に分割する。本実施例では、原点Lから終点Rまでの範囲を50区間に分割する。その結果、幅10mmの区間が50個形成される。演算器17には、モータ18の回転速度と、可動部9が存在している区間が1秒毎に入力される。演算器17は、過去(1分前)から現在に至るまでの単位測定時間(1分間)に特定された可動部9の存在区間と、検出されたボールねじの回転速度を使用し、以下の(1)から(7)の計算工程を実行する。まず、計算工程(1)から(3)について説明する。ここでは、ボールねじ送り機構10の運転開始からr分後の計算例を示す。
(1)各々の区間について、可動部9がその区間を通過した際の速度を単位測定時間Δt(本実施例では1分)に亘って合計した合計速度Wrと、時定数τを用いて累計補正速度Vrを計算する。
より詳しくいうと、累計補正速度Vrは、(a)直前の単位測定時間Δt(現在の1分前から現在の間)の間に可動部9が区間を通過した際の速度の合計値(合計速度Wr)を計算し、(b)合計速度Wrと単位測定時間Δtだけ前の時点(現在の1分前)における累計補正速度Vr−1の差(Wr−Vr−1)を求め、(c)(Wr−Vr−1)に、(1−EXP((−Δt)/τ))を乗算した値を求め、(d)(Wr−Vr−1)×(1−EXP((−Δt)/τ))を、単位測定時間Δtだけ前の時点における累計補正速度(Vr−1)に加算して求める。
r分後の累計補正速度Vrは、下記式(8)で示される。
Vr=Vr−1+(Wr−Vr−1)×(1−EXP((−Δt)/τ)) (8)
ここで、Δtは単位測定時間(本実施例では1)を示し、τは時定数を示している。なお、本実施例では単位測定時間が1分のため、累計補正速度Vrは、可動部9の運転を開始してからr番目に得られる累計補正速度ということもできる。可動部9の運転を開始してから1分後の累計補正速度V1は、W1×(1−EXP(−1/τ))で示すことができる。時定数τと(1−EXP((−Δt)/τ))の詳細については後述する。
(2)区間の並びを一方の軸とし、各区間についての累計補正速度を他方の軸とする2次元領域の重心の位置を特定して、可動部の移動原点からとその重心までの距離Gを計算する。
(3)2次元領域の面積Qを計算する。
図2に、可動部9を原点近傍(座標0mmから−150mm)で繰り返し往復移動させたときの、累計補正速度のカーブを示している。X軸は、複数区間に分割された可動部9の移動範囲の区間の並びを示している。矢印Xの向きは、原点Lから離れる方向(終点R側)を示している。X軸の数値は座標(単位:mm)を示している。Y軸は、運転開始からの経過時間(単位:hr)を示している。Z軸は、累計補正速度(単位:mm/分)を示している。X軸とZ軸を含む平面に、本実施例の2次元領域の例が表されている。図2は、可動部9を2時間にわたって繰り返し往復移動させた例を示している。また、運転開始時からの経過時間毎に、区間と累計補正速度の関係を示している。なお、図面の明瞭化のため、形成された2次元領域の全てを示していない。実際には2次元領域は単位測定時間(1分)毎に形成されるが、ここでは6分間隔で得られた2次元領域を図示している。
図2から明らかなように、運転開始からおよそ1時間までの間は、時間の経過とともに累計補正速度が大きくなっている。運転開始からおよそ1時間経過した後は、時間が経過しても累計補正速度がほぼ同じ大きさである。この現象は、可動部9が通過した際の速度を単位測定時間に亘って合計した合計速度Wrが、時定数τで補正されていることに起因する。
図3に、図2の矢印Eから観察した累計補正速度の2次元領域を示す。図中の曲線の各々は、6分間隔で得られた2次元領域を示している。各々の曲線と横軸(X軸)で囲まれた2次元領域の面積Qは、単位測定時間毎の発熱量を示している。ただし、縦軸の値は、合計速度Wrと前回の単位測定時間の累計補正速度Vr−1の差(Wr−Vr−1)と、(1−EXP((−Δt)/τ))の値を乗算して得られた値であることから、発熱量の蓄積効果を加味したものとなっている。以下、2次元領域の面積Qを、簡単のために発熱量Qと称することがある(実際には発熱の蓄積効果で補正されている)。2次元領域の面積Qは、各々の区間における累計補正速度を、可動部9が移動した区間で積分することによって計算することができる。また、図中のプロット▲の各々は、各々の2次元領域の重心を示している。
上記(2)の計算では、図3に示している累計補正速度のカーブを単位測定時間毎に作成し、そのカーブとX軸で囲まれる領域(2次元領域)の重心を特定する。そして、可動部9の移動範囲の原点(図3の座標0mm)から重心までの距離Gを計算する。
上記(3)の計算では、図3に示している2次元領域(曲線とX軸で囲まれた領域)の面積Qを計算する。
時定数τは、加熱開始時からの経過時間に対するボールねじ6に対するボールねじ6の伸び量の変化パターンから計算することができる。すなわち、予め可動部9をボールねじ6の軸方向に繰り返し往復移動させ、経過時間とボールねじの伸び量の関係から算出することができる。図4に、可動部9を図1の範囲B(中間点近傍)で繰り返し往復移動させたときの、ボールねじ6の伸び量を示している。グラフの横軸は経過時間を示し、縦軸はボールねじ6の伸び量(変位)を示している。なお、図4では、ボールねじ6の伸び量を、終点Rの座標の変位で示している。すなわち、ボールねじ6が伸びれば、終点Rの座標はマイナス側に移動する。カーブ32は、可動部9を10m/分の速度で繰り返し往復移動させたときの終点Rの変位を示し、カーブ34は、可動部9を5m/分の速度で繰り返し往復移動させたときの終点Rの変位を示している。
図4から明らかなように、終点Rの変位の絶対値は、可動部9の移動速度が速いほど大きい。すなわち、可動部9の移動速度が速いほど、ボールねじ6の伸び量が大きい。時定数τは、終点Rの変位が時間に対して変化しなくなったときの変位の63%の変位に達するまでの時間のことをいう。具体的にいうと、可動部9を10m/分の速度で往復移動させた場合、終点Rの変位が−53μmに達した後は、終点Rの変位が変化しない。カーブ32の場合、終点Rの変位が−33.4μm(53μmの63%)に達するまでの時間を時定数τとする。すなわち、カーブ32から得られる時定数τは20分である。可動部9を5m/分の速度で往復移動させた場合、終点Rの変位−30μmに達した後は、終点Rの変位が変化しない。カーブ34の場合、終点Rの変位が−18.9μm(30μmの63%)に達するまでの時間を時定数τとする。カーブ34から得られる時定数τも20分である。時定数τは、可動部9の移動速度に係わらず一定の値になる。本実施例のNC工作機械(ボールねじ送り機構10)の時定数は20分である。
D=b×F×(1−EXP(−T/τ)) (9)
Dは終点Rの変位(Dの絶対値がボールねじ6の伸び量)を示し、bは定数を示し、Fは可動部9の移動速度を示し、Tは可動部9の運転開始時からの経過時間を示し、τは時定数を示している。(1−EXP(−T/τ))の値を使用することによって、運転開始からT時間経過後のボールねじ6の伸び量を計算することができる。
ボールねじ6の伸び量は、ボールねじ6の発熱量Qと、過去の発熱量が蓄積する効果によって影響される。本発明者の研究によって、ボールねじ6の発熱量Qは、一方の軸に区間の並びをとり、他方の軸に合計速度(補正しない速度の和)をとった2次元領域の面積に比例することがわかっている。発熱量がボールねじの伸びに影響を与える過程には、発熱量の蓄積効果が影響することから、合計速度を前記の値(1−EXP((−Δt)/τ))で補正することが有効である。本発明者の研究によって、一方の軸に区間の並びをとり、他方の軸に累計補正速度をとった2次元領域の面積は、ボールねじの伸びに直接的に影響することが確認されている。そのために、本実施例では、合計速度と累計補正速度を用いる。
(4)ここでは、座標−10mmにおける可動部9の変位(位置ずれ量)Daと、座標−490mmにおける可動部9の変位Dbと、座標−250mmにおける可動部9の変位Dcの近似式を読み込む。
変位Daは、Da=a1×Q+a2×G+a3/Gの式(式10)で表される。
変位Dbは、Db=a7×Q+a8×G+a9/Gの式(式11)で表される。
変位Dcは、Dc=a4×Q+a5×G+a6/Gの式(式12)で表される。
なお、上記式9,10,11における定数a1〜a9は、NC工作機械の実際運転前に決定しておく。定数a1〜a9の決定方法については後述する。
(5)上記(2)、(3)で得られた2次元領域の面積Qと、原点から2次元領域の重心までの距離Gと、上記式10,11,12から、変位Daと変位Dbと変位Dcを計算する。
(6)変位Daと、変位Dbと、変位Dcを2次補間して、可動部9の移動範囲全域(座標0mm〜−500mm)における変位を計算する。
(7)NC工作機械のピッチ誤差補正機能に用いるピッチ誤差補正量を、前記(7)で計算した変位(位置ずれ量)で修正する。
上記(1)〜(7)の計算工程を実行することによって、修正されたピッチ誤差補正量に従って可動部9の位置を指示するデータを補正する。なお、発熱量Qと、距離Gは単位測定時間毎に変化する(図3、図6、図7を参照)。そのため、上記式10から12を利用すると、変位Da,Db,Dcの各々を、単位測定時間毎に計算することができる。
定数a1〜a9は、ボールねじ送り機構10の実際運転の前に、可動部9を往復移動させて可動部9の変位(変位の絶対値が位置ずれ量)を測定し、その測定結果を利用して決定する。
図5に、定数a1〜a9の値を決定するための測定装置10Aを示している。測定装置10Aは、ボールねじ送り機構10のテーブル12の表面に基準ブロック22,28,30を固定したものである。ボールねじ6が軸方向に伸びると、基準ブロック22,28,30の位置が変化する。その変化量をゲージ24で測定する。ゲージ24は、ボールねじの伸びに影響されない部材26に固定されている。基準ブロック22の位置の変化を測定することによって、座標−10mmにおける可動部9の変位Daを測定することができる。基準ブロック30の位置の変化を測定することによって、座標−490mmにおける可動部9の変位Dbを測定することができる。基準ブロック28の位置の変化を測定することによって、座標−250mmにおける可動部の変位Dcを測定することができる。
同様に、範囲B(座標−350mmから−500mm)内で可動部9を移動速度10m/分で繰り返し往復移動させ、単位測定時間毎の累計補正速度の2次元領域を作成する(図6を参照)。その後、各々の曲線と横軸で囲まれた2次元領域の面積(発熱量)Qを計算する。さらに、各々の2次元領域の重心(図中のプロット▲)を特定し、単位測定時間毎の原点から重心までの距離Gを計算する。
同様に、範囲C(座標−175mmから−325mm)内で可動部9を移動速度10m/分で繰り返し往復移動させ、単位測定時間毎の累計補正速度の2次元領域を作成する(図7を参照)。その後、各々の曲線と横軸で囲まれた2次元領域の面積(発熱量)Qを計算する。さらに、各々の2次元領域の重心(図中のプロット▲)を特定し、単位測定時間毎の原点から重心までの距離Gを計算する。
座標−10mmにおいて、可動部9の変位Daを繰り返し測定し、繰り返し測定したDaと、a1×Q+a2×G+a3/Gの式で計算される値との差の二乗和を最小とする定数a1,a2,a3を決定する。
座標−490mmにおいて、可動部9の変位Dbを繰り返し測定し、繰り返し測定したDbと、a7×Q+a8×G+a9/Gの式で計算される値との差の二乗和を最小とする定数a7,a8,a8を決定する。
座標−250mmにおいて、可動部9の変位Dcを繰り返し測定し、繰り返し測定したDcと、a4×Q+a5×G+a6/Gの式で計算される値との差の二乗和を最小とする定数a4,a5,a6を決定する。
定数a1〜a9が決定されれば、実際にNC工作機械を運転する際のQとGから、−10mmの位置と、−490mmの位置と、−250mmの位置における変位Da,Db,Dcを計算することができる。
なお、上記a1〜a9はNC工作機械の種類毎に異なる定数であり、予め決定しておく必要があるが、比較的に短時間の測定結果から簡単な計算で決定することができ、その負担は小さい。
定数a1〜a9を予め決定しておけば、入力器19から演算器17に定数a1〜a9を入力することができる。定数a1〜a9が決定した上記近似式10,11,12を演算器17読み込むことができる。NC工作機械の実際運転時に、単位測定時間毎に得られる2次元領域の面積Qと2次元領域の重心の原点からの距離Gから、変位Daと変位Dbと変位Dcを計算することができる。
−490mmの座標位置に示されているように、発熱量Qが等しくても、可動部9が繰り返し往復移動する範囲によって変位がばらつく。
本実施例によると、重心位置Gを利用するので、実際に観測される位置ずれ量が、可動部の移動範囲によってばらつく影響を、近似式に取り込むことができる。終点近傍では、a7×Qと、a8×Gと、a9/Gと利用して近似式を作成する。定数a9は、ゼロ又は極めて小さい値になることが多い。そのため、終点近傍の変位Dbは、Db≒a7×Q+a8×Gの式(式11a)で計算してもよい。ここで、範囲A内において可動部9を往復移動させると、Gは小さい。範囲B内において可動部9を往復移動させると、Gは大きい。a7×Q+a8×Gで計算すると、同一のQであっても、範囲A内で往復移動する場合には、小さな(絶対値が小さい)位置ずれ量が計算され、範囲B内で往復移動する場合には、大きな(絶対値が大きな)位置ずれ量が計算される。これは実際に観測される位置ずれ量によく一致する。
同様に、−250mmの座標位置に示されているように、発熱量Qが等しくても、可動部9が繰り返し往復移動する範囲によって変位がばらつく。中間点近傍では、a4×Qと、a5×Gと、a6/Gと利用して近似式を作成する。定数a5は、ゼロ又は極めて小さい値になることが多い。そのため、中間点近傍の変位Dcは、Dc≒a4×Q+a6/Gの式(式12a)で計算してもよい。ここで、範囲A内において可動部9を往復移動させると、Gは小さい。範囲B内において可動部9を往復移動させると、Gは大きい。a4×Q+a6/Gで計算すると、同一のQであっても、範囲A内で往復移動する場合には、大きな(絶対値が大きい)ずれ量が計算され、範囲B内で往復移動する場合には、小さな(絶対値が小さい)ずれ量が計算される。これもまた、実際に観測される位置ずれ量によく一致する。
−10mmの座標位置では、可動部9が繰り返し往復移動する範囲によって、変位がばらつくことがない。原点近傍では、a1×Qと、a2×Gと、a3/Gと利用して近似式を作成する。定数a2,a3は、ゼロ又は極めて小さい値になることが多い。そのため、原点近傍の変位Daは、Da≒a1×Qの式(式10a)で計算してもよい。すなわち、発熱量Qからだけで変位を求めることができる。a1×Qで変位を計算すると、実際に観測される位置ずれ量によく一致する。
曲線42は、範囲Cにおいて可動部9を往復移動させたときのGの値を用いて、上記11aの式から−490mmの座標位置における変位を推定した値と、範囲Cにおいて可動部9を往復移動させたときのGの値を用いて、上記12aの式から−250mmの座標位置における変位を推定した値と、上記10aの式から−10mmの座標位置における変位を推定した値を二次補間した曲線である。
曲線44は、範囲Bにおいて可動部9を往復移動させたときのGの値を用いて、上記11aの式から−490mmの座標位置における変位を推定した値と、範囲Bにおいて可動部9を往復移動させたときのGの値を用いて、上記12aの式から−250mmの座標位置における変位を推定した値と、上記10aの式から−10mmの座標位置における変位を推定した値を二次補間した曲線である。
領域に分けて3種類の近似式を使い分けると、可動部9の往復移動範囲に関わらず、それぞれの領域における変位を正確に推定できることがわかる。また、2次補間することによって、座標−10mm,−250mm,−490mm以外の位置における可動部9の変位をも正確に推定することができる。
図5に示した測定装置10Aを利用して、可動部9の位置を補正しないときの可動部9の変位を測定した。
図9に、式10,11,12を利用して可動部9の位置を補正したときの可動部9の変位と、可動部9の位置を補正しないときの可動部9の変位を示している。図中のプロット●は範囲Aで可動部9を往復移動させたときの変位を示し、プロット▲は範囲Bで可動部9を往復移動させたときの変位を示し、プロット◆は範囲Cで可動部9を往復移動させたときの変位を示している。本実験では、可動部9を10m/分の移動速度で往復移動させた。なお、プロット同士を線でつないでいるが、これらの線は、座標−10mm,−250mm,−490mm以外の座標位置における可動部9の変位を示すものではない。可動部9の位置を補正したときの可動部9の変位と、可動部9の位置を補正しないときの可動部9の変位を明瞭に区別するために繋いだものである。
図9から明らかなように、可動部9の位置を補正しないと、可動部9は大きく変位してしまう。すなわち、可動部9の位置ずれが大きくなってしまう。特に、範囲Bで可動部9を往復移動させたときに、座標−490mmにおける可動部9の位置ずれが大きくなってしまう。それに対して、上記式10,11,12を利用して可動部9の位置を補正すると、可動部9の位置ずれは小さくなる。上記式10,11,12を利用して可動部9の補正を行うと、可動部9の位置ずれ量を10μm以内にすることができる。
図5に示した測定装置10Aを利用して、可動部9の変位の経時変化を測定した。なお、本実験では、範囲Bで可動部9を往復移動させ、可動部9の移動を停止させた後も可動部9の変位を測定した。図10の横軸は、測定開始からの経過時間を示し、縦軸は可動部9の変位を示している。プロット◇(符号54a)は座標−10mmにおける可動部9の変位を示し、プロット○(符号50a)は、座標−490mmにおける可動部9の変位を示し、プロット△(符号52a)は座標−250mmにおける可動部9の変位を示している。また、上記式10,11,12を利用して算出された可動部9の変位の推定値も併せて図示している。カーブ54は座標−10mmにおける可動部9の変位の推定値を示し、カーブ50は座標−490mmにおける可動部9の変位の推定値を示し、カーブ52は座標−250mmにおける可動部9の変位の推定値を示している。
図10から明らかなように、座標−10mm,−490mm,−250mmの全ての座標において、可動部9の実際の変位と推定値がほぼ一致した。少なくとも、可動部9の実際の変位と推定値の差が10μm以内であった。実験例1で上述したように、範囲B内で可動部9を往復移動させると、可動部9の変位が大きくなる。しかしながら上記式10,11,12を利用すると、可動部9の変位を精度よく推定することができる。推定された変位の分だけピッチ誤差補正量のデータを補正することによって、ピッチ誤差に起因するボールねじ6の位置ずれと、温度上昇によるボールねじ6の伸びに起因する可動部9の位置ずれを同時に、精度よく補正することができる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
9:可動部
10:ボールねじ送り機構
18:モータ
Claims (2)
- ボールねじを回転させることによってボールねじに螺合している可動部を移動させるNC工作機械において、温度上昇によるボールねじの伸びを補償して可動部の位置を補正する方法であって、
加熱開始時からの経過時間に対するボールねじの伸び量の変化パターンから、ボールねじの伸びの時定数τを予め計算する工程と、
可動部の移動範囲をボールねじの軸方向に沿って複数区間に分割しておいた区間群のうちのどの区間に可動部が存在しているかを特定する工程と、
可動部の移動速度を検出する工程を備えており、
単位測定時間の間に特定された可動部の存在区間と検出された可動部の移動速度から、
(1)各々の区間について、可動部がその区間を通過した際の速度を単位測定時間に亘って合計した合計速度と、前記時定数τを用いて累計補正速度を計算し、
(2)区間の並びを一方の軸とし、各区間についての前記累計補正速度を他方の軸とする2次元領域の重心の位置を特定して、可動部の移動原点からその重心までの距離Gを計算し、
(3)前記2次元領域の面積Qを計算し、
(4)可動部の移動範囲の原点近傍と、可動部の移動範囲の中間点近傍と、可動部の移動範囲の終点近傍の少なくとも3つの点について、前記面積Qと、前記距離Gを利用して、
前記原点近傍ではa1×Q+a2×G+a3/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算し、
前記中間点近傍ではa4×Q+a5×G+a6/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算し、
前記終点領域ではa7×Q+a8×G+a9/Gの式でボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量を計算したときに、実際の位置ずれ量に近似する計算値を実現する定数a1〜a9を決定し、
(5)NC工作機械の実際運転時に、前記面積Qと前記距離Gを求め、面積Qと距離Gと予め決定しておいた定数a1〜a9と前記3式から、前記3つの点における位置ずれ量を計算し、
(6)前記原点近傍と前記中間点近傍と前記終点近傍にとられている少なくとも3つの点の位置ずれ量を2次補間して、可動部の移動範囲全域における位置ずれ量を計算し、
(7)NC工作機械のピッチ誤差補正機能に用いるピッチ誤差補正量を、前記(6)で計算した位置ずれ量で修正する工程と、
を有することを特徴とするNC工作機械の可動部の位置補正方法。 - モータと、モータの出力軸に接続されているボールねじと、ボールねじに螺合して移動する可動部を備えているNC工作機械であって、
ボールねじの伸びの時定数τと定数a1〜a9を入力する手段と、
可動部の移動範囲をボールねじの軸方向に沿って複数区間に分割しておいた区間群のうちのどの区間に可動部が存在しているかを特定する手段と、
モータの回転速度を検出する手段と、
入力された時定数τと、単位測定時間の間に特定された可動部の存在区間と、検出されたモータの回転速度から下記の各工程を実行する手段、すなわち:
(1)各々の区間について、可動部がその区間を通過した際の速度を単位測定時間に亘って合計した合計速度と、前記時定数τを用いて累計補正速度を計算する工程;
(2)区間の並びを一方の軸とし、各区間についての前記累計補正速度を他方の軸とする2次元領域の重心の位置を特定して、可動部の移動原点からその重心までの距離Gを計算する工程;
(3)前記2次元領域の面積Qを計算する工程;
(4)可動部の移動範囲の原点近傍と、可動部の移動範囲の中間点近傍と、可動部の移動範囲の終点近傍の少なくとも3つの点について、
前記原点近傍ではa1×Q+a2×G+a3/Gの式で表されるボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量の近似式を読み込み、
前記中間点近傍ではa4×Q+a5×G+a6/Gの式で表されるボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量の近似式を読み込み、
前記終点近傍ではa7×Q+a8×G+a9/Gの式で表されるボールねじの伸びに起因する可動部の位置ずれ量の近似式を読み込む工程;
(5)前記面積Qと前記距離Gと前記3式から、前記3つの点における位置ずれ量を計算する工程;
(6)前記原点近傍と前記中間点近傍と前記終点近傍にとられている少なくとも3つの点の位置ずれ量を2次補間して、可動部の移動範囲全域における位置ずれ量を計算する工程;
(7)NC工作機械のピッチ誤差補正機能に用いるから得られるピッチ誤差補正量を、前記(6)で計算した位置ずれ量で修正する工程;
を備えていることを特徴とするNC工作機械。
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