以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態として、アーク放電の発生を検出すると、極めて迅速にアーク遮断動作を開始できる電源について説明する。
図1は、本実施形態にかかる電源の要部を表す模式図である。
また、図2は、本発明者が本実施形態に至る過程で試作した比較例の電源の要部を表す模式図である。
以下、まず図2に表した比較例の電源について説明する。
この電源は、直流電源DC1とトランジスタQ1〜Q4とを共有した2つのインバータ出力を有する。すなわち、第1のインバータINV1は、直流電源DC1、トランジスタQ1〜Q4、トランスT1及び整流器DB1を有し、第2のインバータINV2は、直流電源DC1、トランジスタQ1〜Q4、トランスT1及び整流器DB2を有する。これらインバータの出力電流は、インダクタL1及びL2によりそれぞれ平滑化されてチャンバ101及びターゲット104に供給される。
一方、電源の出力側には、アークセンサ(Asen1)が設けられている。アークセンサは、出力電圧の低下により「アーク放電」を検出する。そして、その検出出力は、ワンショット・タイマTMR1及びTMR2に入力される。これらタイマからの制御信号は、電流検出信号(current)とともにアンド・ゲートに入力され、その出力信号(arc信号、ack信号)によりフォトカプラ (PC11〜PC32)を制御する。電流検出信号(current)は、電源からの出力電流に応じて、アーク判定を有効にするための制御信号である。つまり、出力電流が所定値に達すると、電流検出信号(current)がオンになり、アークセンサによる制御動作が許可される。
また、ワンショット・タイマTMR1は、arc信号を管理する。すなわち、ワンショット・タイマTMR1は、所定の「消弧期間」の間、arc信号をオンにするための制御信号を出力する。一方、ワンショット・タイマTMR2は、ack信号を管理する。すなわち、ワンショット・タイマTMR2は、「消弧期間」が経過した後に、所定の「復旧期間」の間、ack信号をオフにするための制御信号を出力する。
arc信号とack信号がいずれもオンの時に、フォトカプラ(PC11〜PC32)がオンとなり、アーク遮断動作が実施される。
以下、スパッタプロセスにおける電源の動作を参照しつつ、この比較例の電源の構成についてさらに詳細に説明する。
まず、スパッタを実施する時には、インバータINV1、INV2を起動し、スイッチング素子Q5、Q6を閉じ、インダクタ電流を短絡する絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を開いた状態として、直流電圧をチャンバ101及びターゲット104に出力する。
一方、チャンバ内にアーク放電が発生すると、チャンバのインピーダンスが低下し、出力電圧が低下する。アークセンサ(Asen1)は、このような電圧の低下によってアーク放電を検出すると、ワンショット・タイマTMR1を起動する。ワンショット・タイマTMR1は、所定の「消弧期間」の間、オン信号を出力し、これに基づいてフォトカプラ(PC11〜PC32)、アンド・ゲートを介して、スイッチング素子Q5、Q6を開き、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を閉じる。
すると、逆電圧源DC2から絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT2、IGBT1、逆方向アーク防止用ダイオードDA1、DA2、チャンバ、逆電圧源DC2の経路で逆電圧がチャンバに印加され、アーク電流が急速遮断される。またこの時、インダクタL1、L2を流れていた電流は、それぞれダイオードD1と絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、ダイオードD2と絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT2の閉回路により保存される。
逆電圧を出力する「消弧期間」は、ワンショット・タイマTMR1の動作時間により管理される。「消弧期間」の終了と同時に、ワンショット・タイマTMR2が起動する。ワンショット・タイマTMR2は、「復旧期間」の間、ack信号をオフにするための制御信号を出力する。つまり、「復旧期間」の間は、アークの検出の有無に係らずフォトカプラ(PC12、PC22、PC32)はオフとされる。すると、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2が開かれ、スイッチング素子Q5、Q6が閉じられて、順方向電流(スパッタするための電流方向)が出力される。
ワンショット・タイマTMR2が停止すると「復旧期間」は終了し、ワンショット・タイマTMR1の動作前の状態に戻って、再度アーク放電を検知したら上述のアーク遮断動作を繰り返す。一方、アーク放電を検知しなければ、そのままスパッタ電流の出力を継続する。
以上説明した比較例の電源において、アーク放電による被害を小さくするには、アーク放電の発生から出力電流の遮断までの時間(アーク応答時間)を短くしなければならない。ところが、図2に表した比較例の電源の場合、複数の絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT(IGBT1、IGBT2)に対して同期と絶縁とを確保するため、アーク放電を検出した信号がフォトカプラPC11〜PC32を介して伝達される。しかし、このような回路構成においては、フォトカプラの信号伝達時間(約1マイクロ秒)だけアーク応答時間が長くなり、アーク放電の被害が大きくなる場合がある。
そこで、本発明者は、図1に例示したような電源を発明するに至った。
すなわち、図1と図2とを比較すれば分かるように、新たにアークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)を設け、フォトカプラを介さずにスイッチング素子やIGBTを制御するようにしている。以下、フォトカプラを介して信号伝達を行うアークセンサを「統括アークセンサ」と称し、フォトカプラを介さず信号伝達を行うアークセンサを「個別アークセンサ」と称することとする。
これら個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)と統括アークセンサ(Asen1)の検出しきい値は、異なるように設定することができる。すなわち、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)がアーク放電を検出する状態(範囲)では、統括アークセンサ(Asen1)もアーク放電を検知するように設定しておくとよい。
例えば、個別アークセンサは、チャンバへの出力電圧がマイナス150ボルト以上(絶対値で150ボルト以下)の時に「アーク放電」と判定する。これに対して、統括アークセンサは、出力電圧がマイナス180ボルト以上(絶対値で180ボルト以下)の時に「アーク放電」と判定するように設定することができる。すなわち、統括アークセンサのほうが個別アークセンサよりも先にアークを検出するようにすることができる。この点については、後に詳述する。
個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)は、同一電源で動作するスイッチング素子及び絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT毎に設けられている。そして、これらセンサからの出力に基づいて動作する制御回路は、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)から検出出力と、フォトカプラ(PC11、PC21、PC31)からの出力との論理和に基づいて動作する。
ただし、両者の間では、信号伝達の応答時間が異なる。つまり、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)は、フォトカプラを介さずに信号伝達するので、応答時間が短いが、統括アークセンサ(Asen1)は、フォトカプラ(PC11、PC21、PC31)を介して信号伝達を行うので、応答時間が長い。 一方、統括アークセンサ(Asen1)は、「アーク放電」と判定すると、ワンショット・タイマTMR1を動作させて「消弧期間」の間は遮断信号(arc)を出力し、その後、ワンショット・タイマTMR2を動作させて「復旧期間」の間、ack信号を停止する。
図1の電源においては、フォトカプラ(PC11〜PC32)からの出力と、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)からの検出出力とをそれぞれ論理回路において論理演算することにより、以下のようにアーク遮断の動作を実行する。
(1)統括アークセンサ(Asen1)がアーク放電を検出しフォトカプラ(PC11、PC21、PC31)からアーク遮断のための制御信号が出力された時は、アーク遮断動作を行う。
(2)フォトカプラ(PC11、PC21、PC31)からアーク遮断のための制御信号が出力される前であっても、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)がアーク放電を検知して検出信号が出力された時には、アーク遮断動作を行う。
(3)統括アークセンサ(Asen1)により起動されるワンショット・タイマTMR2が管理する「復旧期間」の間は、統括アークセンサ(Asen1)及び個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)がアーク放電を検知してもアーク遮断動作をしない。
(4)電源の動作を制御する目的などにより、アーク遮断動作を禁止する場合は、各アークセンサの検知に係らず遮断動作をしない。
以下、本実施形態の電源の動作について、具体的な数値を例示しつつ説明する。
なお、以下の具体例においては、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)の検出しきい値をマイナス150ボルト、統括アークセンサ(Asen1)の検出しきい値をマイナス180ボルトとし、また、「消弧期間」と「復旧期間」はそれぞれ3マイクロ秒とする。
まず、電源が起動する時には、電源からの出力電圧が無いと各アークセンサは「アーク放電」と判定するが、出力電流も無いので制御信号(current)が得られず、ack信号も出力されない。このため、フォトカプラ(PC11〜PC32)はオフのままである。その結果として、スイッチング素子Q5、Q6はオン(ON)し、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2はオフ(OFF)するのでインバータが起動すれば電源は直流電圧を出力する。
次に、プラズマの点火およびスパッタの開始までは、以下の如くである。すなわち、トランジスタQ1〜Q4のスイッチングによりインバータINV1、INV2が起動すると、トランスT1とダイオードブリッジDB1、DB2を介して直流電圧を出力し、徐々にチャンバ101へ供給される電圧が上昇する。
プラズマの点火電圧は、例えばマイナス200ボルト以下であり、この時点で、アークセンサのアーク判定レベルであるマイナス150ボルト(Asen10、Asen20、Asen30)やマイナス180ボルト(Asen1)を超過する。つまり、各アークセンサは、アーク放電を検出せず、センサからのアーク検出信号はオフになる。
所定の条件が成立するとチャンバ内で放電が始まり、電流が流れてプラズマが形成されてスパッタが開始される。同時に電流が流れ始め、所定の電流しきい値を超えると制御信号(current)が得られ、ack信号が出力されて、フォトカプラ(PC12、PC22、PC32)がオンされるが、すでにarc信号が無いので、フォトカプラ(PC11、PC21、PC31)がオフのままであり、順方向(スパッタを実施する電圧方向)の直流電圧・電流の出力を継続する。
そして、スパッタ中にアーク放電が発生した時には、以下の動作が実行される。すなわち、正常なスパッタ中の放電電圧は、マイナス400ボルト以上(例えば、マイナス750ボルト程度)であるが、アーク放電が始まると短時間に負荷電圧(すなわち出力電圧)が上昇(絶対値が低下)する。出力電圧がマイナス180ボルトよりも上昇する(ゼロボルトに近づく)と、まず統括アークセンサ(Asen1)が応答して、アーク検出信号を出力し、ワンショット・タイマTMR1を起動して「消弧期間」の間、arc信号を出力する。しかし、フォトカプラPC11、PC21、PC31の信号伝達には、例えば1マイクロ秒程度の遅延が生ずる。
この間に出力電圧がマイナス150ボルトにまで到達すると、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)が応答し、アーク検出信号をオア・ゲートに出力する。オア・ゲートの出力はアンド・ゲートを介して、スイッチング素子Q5、Q6を開き、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を閉じることにより、逆電圧を出力する。個別アークセンサからの出力経路には、フォトカプラが介在しないので、その信号伝達は迅速であり、極めて短時間にアーク遮断動作が開始される。従って、フォトカプラを介したアーク遮断動作よりも先に、アーク遮断動作を開始することができる。
一方、ワンショット・タイマTMR1により管理される「消弧期間」が終了すると、ワンショット・タイマTMR2により「復旧期間」の間、ack信号がオフになるので、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)の検出信号に係らず、順方向の電流出力が再開される。
そして、「復旧期間」が終了し、ack信号がオンになった時にアーク放電が連続していれば、各アークセンサが遮断指令を出して、再びアーク遮断動作を再開する。
一方、「復旧期間」が終了し、ack信号がオンになった時にアーク放電が無くなっていれば、チャンバ電圧は、アークセンサの検出しきい値を超えているので、各アークセンサは遮断指令を出さずスパッタを継続する。
以上説明したように、本実施形態によれば、アーク放電が発生してチャンバ電圧が急速に上昇すると、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)を介した制御回路によって迅速に遮断動作を開始し、一方、「消弧期間」と「復旧期間」は常に統括アークセンサ(Asen1)によって管理される。従って、複数のアークセンサを設けても、「消弧期間」と「復旧期間」は一定に維持され、動作タイミングの「ずれ」などが生ずることがなくなる。
すなわち、複数のアークセンサを設けた場合、現実には、それぞれのアークセンサの個体差に応じて、検出しきい値に「ばらつき」が生ずることが多い。これに対して、本実施形態によれば、「消弧期間」と「復旧期間」を管理するワンショット・タイマを共通化することにより、動作タイミングを統一することができる。
図3は、通常のアーク放電が発生した時の出力電圧の変化を表すグラフ図である。
また、図4は、このようなアーク放電が発生した場合の本実施形態の電源の動作を表す模式図である。
すなわち、正常なスパッタ時には、例えば、マイナス750ボルト程度の電圧が出力されている。これに対して、アーク放電が発生すると、電圧は例えばマイナス80ボルト程度にまで急激に上昇(絶対値が低下)する。そして、まず統括アークセンサ(Asen1)の検出しきい値(例えば、マイナス180ボルト)を超え、さらに個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)の検出しきい値(例えば、マイナス150ボルト)を超える。ただし、図3に表したようなアーク放電の場合、電圧の上昇は急激であるため、これらアークセンサによる検知タイミングは、非常に接近している。
統括アークセンサ(Asen1)が電圧の低下を検出すると、ワンショット・タイマTMR1を起動させることにより、「消弧期間」の計測が開始される。同時に、フォトカプラ(PC11〜PC32)を介した遮断動作(逆方向電圧の出力)が開始されるが、この時に、フォトカプラの動作には遅延が生ずる。
これに対して、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)は、アーク放電を検出するとフォトカプラを介さずに遮断動作を開始する。その結果として、統括アークセンサよりも先に、チャンバに対して迅速に逆方向電圧を印加し、アーク放電を迅速に遮断できる。
一方、「消弧期間」と「復旧期間」の管理は、統括アークセンサに接続されたワンショット・タイマTMR1、TMR2により行われるため、これら複数のアークセンサを設けても動作タイミングに「ずれ」が生ずることはない。
なお、図3に例示したように、チャンバ電圧が急速に上昇(絶対値が低下)するアーク放電は、例えば、アルミニウムをはじめとした各種の金属をスパッタする場合などに生ずることが多い。そして、このようなスパッタは、例えば、20〜30kW程度の大きな電力を投入する場合が多く、アーク放電の被害も大きいので、迅速に消弧することが望まれる。本実施形態によれば、個別アークセンサにより遮断動作を極めて迅速に開始できる点で、特に顕著な効果が得られる。
一方、スパッタ中に電圧が徐々に上昇(電圧の絶対値が徐々に低下)する「異常放電」が生ずることがある。
図5は、異常放電が生じた時の電圧変化を例示するグラフ図である。
また、図6は、このような異常放電が生じた場合の本実施形態の電源の動作を表す模式図である。
例えば、SiO2などをスパッタする場合、図5に例示したように、電圧が徐々に上昇することがある。この上昇の時間は、例えば、20ミリ秒程度と比較的長い場合がある。このような「異常放電」が生じた場合には、まず、統括アークセンサ(Asen1)が電圧の異常を検出し、「消弧期間」の計測を開始させると同時にフォトカプラ(PC11〜PC32)を介した遮断動作を開始する。
そして、チャンバ電圧がさらに上昇すると、個別アークセンサ(Asen10、Asen20、Asen30)が電圧の異常を検出し、遮断動作を開始する。しかし、図5に例示したようにチャンバ電圧の上昇速度が小さい場合には、統括アークセンサによる逆電圧の出力のほうが先に開始される。つまり、図3及び図4に表したように電圧が急速に変化する場合とは、動作の順序が逆になる。
一般に、統括アークセンサや個別アークセンサの検出感度には、個体差などに起因する「ばらつき」などが含まれる場合がある。このような場合、図5に例示したように電圧がゆっくり変化すると、それぞれのセンサによる遮断動作のタイミングが大きくずれる虞がある。センサ毎に遮断動作のタイミングが大きくずれると、電源の動作が不安定になる場合もある。
これに対して、統括アークセンサのほうが個別アークセンサよりも先に異常放電を検知するように検知レベルを設定しておけば、図5に例示したように電圧がゆっくり変化したような場合に、統括アークセンサによる遮断動作を先に実行させることができる。その結果として、センサ毎の動作タイミングのばらつきによる問題を解消することができる。また、このような場合にも、「消弧期間」と「復旧期間」は統括アークセンサにより管理され、動作タイミングに「ずれ」が生ずることはない。
また、図5に例示したような「異常放電」は、SiO2などを、例えば2〜3kW程度の比較的低い投入電力でスパッタする場合に生ずることが多い。従って、このような場合には、フォトカプラの遅延を含んだ遮断動作を用いても放電の被害が比較的少なくて済む。
以上説明したように、本実施形態によれば、フォトカプラを介さない遮断動作を行う個別アークセンサを付加し、さらに、「消弧期間」と「復旧期間」の管理は共通のワンショット・タイマで行うことにより、迅速且つ統一のとれた遮断動作を行う電源を提供することができる。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態として、アーク遮断動作の後に順方向電力を再投入する際に、過電力の投入を防ぐことができる電源について説明する。
図7は、本実施形態にかかる電源の要部を表す模式図である。
また、図8は、本発明者が本実施形態に至る過程で試作した比較例の電源の要部を表す模式図である。図7及び図8については、図1乃至図6に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
以下、まず図8に表した比較例の電源について説明する。
この電源も、第1実施形態に関して前述したものと同様に、2つのインバータINV1、INV2からの順方向直流出力をチャンバに出力してスパッタを行うものである。
また、出力電力は帰還制御される。すなわち、出力電圧センサ(Vsen)と出力電流センサ(Csen1)とによりそれぞれ出力電圧と出力電流を計測し、これらを積算回路MTLにおいて積算することにより実際の出力電力を得る。そして、この出力電力値と、これとは別に上位の制御装置(図示せず)から入力した設定値(Pset)と、を電力比較回路(Perr)において比較することにより、指令電流値を計算する。そして、この指令電流値と、電流センサ(Csen1)からの計測値とを電流比較回路(Cerr)において比較し、PWM回路(PWM)に入力することによりインバータのPWM(pulsewidth modulation)制御を行う。
さて、スパッタ中にアーク放電が発生するとチャンバ101の電圧が低下する。アークセンサ(Asen)は、この出力電圧の低下によってアーク放電を検出すると、まず、所定の「消弧期間」の間、以下に説明する動作を実行する。
すなわち、サンプル・ホールド・スイッチ(S&Hold)を開いて、電力比較回路(Perr)から電流比較回路(Cerr)に至る指令電流値の出力経路を遮断する。すると、その経路に直列に接続されているホールド用コンデンサCHによって、直前の指令電流値が電流比較回路(Cerr)に出力される。
また、アークセンサは、アーク放電を検出すると、図示しない制御回路によって絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を閉じ、スイッチング素子Q5、Q6を開いて逆電圧源DC2から絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2、チャンバ、逆電圧源DC2の経路で逆方向電圧を出力してチャンバ電流を急速遮断する。
また同時に、ダイオードD1と絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、ダイオードD2と絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT2の閉回路を形成することにより、インダクタL1、L2の電流を保存する。
以上の動作を「消弧期間」の間、実行した後に、所定の「復旧期間」の間は、アーク検出の有無に係らず絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を開いて順方向電流を出力する。「復旧期間」の後にアーク放電を検出したら、上述した「消弧期間」の動作を繰り返し、アーク放電を検知しなければそのままスパッタ電流を出力する。
インダクタL1、L2の電流は、「消弧期間」が終わるまでの間、コンデンサCHにホールドされたアーク発生直前の指令電流値を目標にして定電流制御される。
しかし、重大なアーク放電が発生すると、「消弧期間」と「復旧期間」を繰り返しても、放電を完全に消弧するまでに長い時間を要する場合がある。図8に表した回路構成の場合、この間の電流センサ(Csen1)は、「復旧期間」の間しかインダクタの電流を監視できない。また、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2やスイッチング素子Q5、Q6のスイッチング時の過渡応答による電流誤差を含めると、電流センサにおける測定値は、実際のインダクタ電流よりも小さくなる傾向がある。このため、コンデンサCHにホールドされた指令電流値に固定して定電流制御しても、「復旧期間」に流す順方向電流は大きくなる。その結果として、順方向の過電力を投入することにより、「復旧期間」においてアーク放電を再発させることがある。
既に形成されているアーク発生点(ホットスポット)へ過電力を投入すると、ホットスポットの温度が急激に上昇し、周囲に飛び散る「スプラッシュ」などのアーク被害が発生しやすい。また、このような被害は、特に、複数の電源を並列接続してスパッタしたり、電源を大電力で運転したりする場合に顕著となる。
そこで、本発明者は、本実施形形態に至った。
以下、図7を参照しつつ、本実施形態の電源について詳細に説明する。
本実施形態においては、出力電流センサ(Csen1)とは別に、インダクタ電流センサ(Csen2)を設ける。出力電流センサ(Csen1)は、アーク遮断時(「消弧期間」)に形成するインダクタ電流の保存のための閉回路と、電源出力端子と、の間に設けられている。また、インダクタ電流センサ(Csen2)は、アーク遮断時のインダクタ電流の保存のための閉回路内であって、且つ電源からの順方向出力時にもインダクタの電流が流れる箇所に設ける。インダクタ電流センサ(Csen2)は、具体的には、インダクタL1またはL2と隣接する箇所に設けることができる。
出力電流センサ(Csen1)は、電源を定電力運転し、実際の出力電流をモニタする役割を有する。すなわち、電源は、この出力電流センサ(Csen1) の計測データを元に、出力の定電力制御と実際の電流モニタを行う。
一方、インダクタ電流センサ(Csen2)は、アーク遮断動作を行う「消弧期間」においても、インダクタ電流を計測する役割を有する。すなわち、電源は、インダクタ電流センサ(Csen2)の計測データに基づいて「消弧期間」を含む動作時の定電流制御を行う。
なお、図7においては、インダクタ電流センサ(Csen2)をインダクタL1の近傍に設けた具体例を表したが、このインダクタ電流センサ(Csen2)はインダクタL2の近傍に設けてもよい。
以下、本実施形態の電源の動作について説明する。
まず、スパッタ時には、出力電圧センサ(Vsen)による電圧測定値と、出力電流センサ (Csen1)による電流測定値とを掛算(MTL)して出力電力の測定値を得る。そして、図示しない上位の制御装置から入力した設定電力値(Pset)に対して、出力電力の測定値が有する誤差を電力比較回路(Perr)において計算し、出力すべき指令電流値を決定する。
このようにして得られた指令電流値に対して、電流比較回路(Cerr)は、インダクタ電流センサ(Csen2)による電流測定値からの誤差を求め、PWM回路(PWM)がインバータのパルス幅を決定する。
一方、アーク放電が発生すると、アークセンサ(Asen)は、出力電圧の低下によってアーク放電を検出し、上述したように、「消弧期間」と「復旧期間」とにより管理するアーク遮断動作を開始する。
「消弧期間」の間、出力電流センサ(Csen1)は、チャンバに流れる実際の電流を測定して測定電流値として出力し、掛算器(MTL)を通して電力比較回路(Cerr)に電流情報を与える。しかし、電流比較回路(Cerr)に供給される指令電流値は、アーク発生時にコンデンサCHにホールドされたデータであるので変動しない。一方、出力電流センサ(Csen1)により測定したチャンバ電流をモニタ端子(moni)から取り出して、アーク放電の消弧の状態を調べることができる。
これに対して、出力電流センサ(Csen1)は、「消弧期間」の間も、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、ダイオードD1、インダクタL1を含む閉回路に保存されているインダクタ電流の測定を行い、電流比較回路(Cerr)に測定値を入力し、ホールドされた指令電流値との誤差に基づく定電流制御が実行される。インダクタ電流は、「消弧期間」にも保存されるが、何らかの原因でインダクタ電流が変動したら、指令電流値を目標に定電流制御される。従って、「消弧期間」が終了して「復旧期間」が開始された時も、チャンバに対して、過大な電力が投入されるという問題を解消できる。
アーク放電が消弧すると、「復旧期間」にチャンバ電圧が回復するので、アークセンサ(Asen)によって出力電圧の上昇を確認したら、サンプル・ホールド・スイッチ(S&Hold)を閉じて、電力比較回路(Perr)からの指令電流値を電流比較回路(Cerr)に入力する。電流比較回路(Cerr)は、新たな指令電流値に応じてインダクタL1、L2の電流を制御し、チャンバ101へ出力する。
以上説明したように、本実施形態によれば、スパッタ中のチャンバでアーク放電が生じて電源がアーク遮断動作を実行しいる間でも、インダクタ電流をそれに隣接するインダクタ電流センサ(Csen2)により計測して帰還制御することができる。その結果として、「消弧期間」の間も、インダクタL1、L2を流れる電流をアーク放電の発生前の状態に維持することができ、アーク消弧後に過電力を投入することによるアーク放電の再発を解消できる。
図9は、本実施形態に変形例の電源を表す模式図である。同図についても、図1乃至図8に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
本変形例においては、インダクタ電流を個別に保存するための閉回路が省略されている。すなわち、図7と比較すると分かるように、ダイオードD1、D2を含む経路が省略され、またスイッチング素子Q5、Q6も省略されている。
この電源の場合、「消弧期間」においては、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を閉じることにより、逆電圧源DC2からチャンバに対して逆方向電圧を印加すると同時に、インダクタL1を流れている電流は、インダクタL1、整流器DB1、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1を含む回路において保存され、インダクタL2を流れている電流も、インダクタL2、整流器DB2、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT2を含む回路において保存される。
そして、この「消弧期間」中においても、インダクタ電流センサ(Csen2)によって実際のインダクタ電流を計測し、帰還制御することにより、「復旧期間」に適正な順方向電力を投入することができる。すなわち、過大な電力を再投入することによるアーク放電の再発を解消することができる。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態として、第2実施形態のように、出力電流センサとインダクタ電流センサとを設けた電源において、「地絡事故」すなわちグラウンドに対して短絡などが生じた場合にも対処できる改良を施した電源について説明する。
図10は、本実施形態にかかる電源の要部を表す模式図である。
また、図11は、本発明者が本実施形態に至る過程で試作した比較例の電源の要部を表す模式図である。図10及び図11についても、図1乃至図9に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
以下、まず図11に表した比較例の電源について説明する。
この電源は、図7および図9に表したように、出力電流センサ(Csen1)と、インダクタ電流センサ(Csen2)とを備え、第2実施形態に関して前述したように、「消弧期間」の間でも、インダクタ電流センサ(Csen2)によってインダクタ電流を帰還制御することができる。なお、同図においては、サンプル・ホールド・スイッチ(S&Hold)や、ホールド用コンデンサCHなどは便宜上、省略した。
さて、この電源の場合、通常の順方向出力時には、出力電圧センサ(Vsen)と出力端子正極の出力電流センサ(Csen1)の観測値の積を積算回路(MTL)に演算することにより出力電力を得る。そして、この出力電力と、上位の制御装置(図示せず)からの電力指令値(Pset)を電力比較回路(Perr)で比較することにより、指令電流値(Cset)を求め、これに対してインダクタ電流センサ(Csen2)の観測値が一致するようにPWM回路(PWM)を介してインバータをPWM制御する。
ところが、電源の出力は高電圧(例えば、1500ボルトあるいはそれ以上)であり、電源内部の高圧部などでは、図11に矢印GSで例示したような「地絡事故」が発生することもあり得る。つまり、電源の高電圧部と、その近傍の接地電位部分との間で「気中アーク放電」などによる短絡が生ずることがあり得る。
このような「地絡事故」が生ずると、短絡点(矢印GS)からインダクタ電流センサ(Csen2)と出力電流センサ(Csen1)を介して、チャンバ101の接地電位に至る短絡電流が流れる。この短絡電流は、2つの電流センサを流れるので、これらの差分などを演算しても、その判定ができない。しかも、スパッタの負荷は通常は定電圧特性を有し、そこを流れる順方向電流が減少しても電圧が維持されるので、電圧の変化としても検出できない。
つまり、図11に表した電源の場合、このような「地絡事故」による短絡電流が流れても、それを検出することができず、異常を認識できないまま正極Pの電流を一定に制御しようとする。すると、地絡事故が生じた短絡箇所(GS)においては電流が連続するため、気中アーク放電が維持され、部品の破損などが生ずることもあり得る。
本発明者は、かかる課題の認識に基づいて本実施形態に至った。
すなわち、本実施形態においては、まず、図10に表したように、出力電流センサ(Csen1)を負極側の出力端子とアーク遮断用の絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBTとの間であって、さらにはこの出力端子と逆方向アーク防止用ダイオードDA1の間に設ける。
これは、地絡事故が起き易い高電圧箇所は、電源の負極の出力(N端子)側であり、さらには電流平滑前の整流器の出力部分だからである。地絡事故の発生時は、多くの場合、ここから短絡電流が流入するので、短絡電流が出力電流センサ(Csen1)を流れないようにするため、この整流器(DB2)よりも負荷側(N端子側)に出力電流センサ(Csen1)を設ける。
一方、インダクタ電流センサ(Csen2)には、短絡電流が流れるようにするため、この整流器(DB2)より接地側(P端子側)に設置する。つまり、インダクタ電流センサ(Csen2)は、正極側の出力端子(P端子)とそれに一番近いインダクタL1との間に設ける。さらには、「消弧期間」においてもインダクタ電流を計測できるように、アーク遮断用の絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBTが閉じた時に形成される閉回路の中にインダクタ電流センサ(Csen2)を設ける。
このように、各電流センサを配置した上で、これら電流センサ(Csen1、Csen2)の計測値が一致しない時は、「地絡事故」と判定する。具体的には、例えば、これら2つの電流センサの出力側において、抵抗分圧回路を設けてレベルが90%の信号を用意する。そして、コンパレータCMP1、CMP2に各電流センサ(Csen1、Csen2)の出力信号を入力し、それぞれが他方の90%を超過することをアンド・ゲートにより確認する。
ただし、アーク放電が発生して消弧動作をすると、出力電流は遮断されるがインダクタ電流は保存され、これら電流値が異なる。そこで、コンパレータCMP1、CMP2を用いた上記判定において、消弧動作の状態を除外するため、「消弧期間」中およびその後の所定の時間は、これら電流センサの比較を無効にする必要がある。このため、アークセンサ(Asen)からの出力信号をマルチトリガのタイマ回路(TMR)に入力し、タイマの出力中である「消弧期間」およびその後の所定時間は、コンパレータCMP1、CMP2による確認結果をマスクする。
一方、マスクされない状態において、コンパレータCMP1、CMP2による上記の確認が得られない場合は、「地絡事故」と判断し、必要に応じてタイマ回路(TMR)を介して、電源の運転信号(RUN)を遮断することにより、電源を停止する。
このように、「地絡事故」を検出した場合には、例えば、所定時間の間、電源の運転を停止して、運転モニタに異常を表示するなどの処理を実行させることができる。
またこのとき、電源の運転を管理する上位の制御装置(図示せず)は、「地絡事故」による電源の停止動作が頻発するような場合には、電源の運転信号を停止するようにしてもよい。
また一方、このような電源を複数台設け、並列接続してスパッタ装置に電力を出力するような場合がある。
図12は、このように複数の電源110を並列接続したスパッタシステムを表す模式図である。このような場合にも、電源110のそれぞれにおいて出力電流センサ(Csen1)とインダクタ電流センサ(Csen2)とによる計測値を比較して「地絡事故」を判定することができる。また、電源110のそれぞれにおいてインダクタ電流センサ(Csen2)による計測を行い、この合計値と、別途設けた外部電流センサによって計測した各電源110からの出力電流の合計値とを比較してもよい。
以下、本実施形態の電源の動作について、具体例を挙げつつ説明する。すなわち、500ボルト、2アンペアで運転中に、矢印GSの「地絡事故」が発生した場合の動作を説明する。
まず、スパッタ時には、2つのインバータINV1、INV2の出力をそれぞれダイオードブリッジで整流し、かつそれぞれをインダクタL1、L2で平滑して出力端子P、Nを経て負荷へ供給し、負荷の正極は接地する。
出力電圧を電圧センサ(Vsen)で、出力電流を電流センサ(Csen1)で計測して、指令電力が得られるための電流値(Cset)を計算し、インダクタ電流センサ(Csen2)の計測結果が、この電流値になるようにインバータの運転を調整する。
そして、「地絡事故」が発生すると、事故点(GS)から流入した電流は整流器DB2、インダクタL1、電流センサ(Csen2)、整流器DB1、P端子、を経て負荷においてアースに戻る。よって、出力電流センサ(Csen1)は負荷を流れる電流2アンペアを計測するが、インダクタ電流センサ(Csen2)は負荷電流2アンペアと、インバータの1次側で過電流にならない限界の短絡電流(例えば、約20アンペア)を合わせた22アンペアを計測する。なお、インバータの1次側の限界を超えた場合は、「過電流」として電源が停止するようにすることができる。
この場合、出力電流センサ(Csen1)の計測値は、インダクタ電流センサ(Csen2)の90%である19.8アンペアよりも小さいので「異常」と判定され、PWM回路(PWM)の運転信号(RUN)を遮断して電源が停止し、運転モニタ(図示せず)を切るなどの処理を実行する。
その後、所定の時間の経過の後に、電源を復帰させてもよい。すなわち、タイマ回路(TMR)により管理される停止時間が終了すると、電源の運転を再開するようにすることができる。この時点で、「地絡事故」が解除されていれば点火動作からスパッタを再開するが、「地絡事故」が継続していれば、上述した動作により、再度電源を停止する。
また一方、「地絡事故」が頻発するような場合には、電源の自動復帰を停止してもよい。例えば、電源に対して上位の制御装置(図示せず)が電源の運転モニタを監視し、「地絡事故」による停止が頻発する時は、自動復帰不能な異常状態と判断して、運転信号(RUN)を止めて装置を停止させ、必要に応じてオペレータなどにアラームを出すようにしてもよい。このようにすれば、「地絡事故」の被害をより低減し、原因を迅速に取り除くことができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、電源内部の高電圧部分で「地絡事故」が発生し、過大な短絡電流が流れると、2つの電流センサの計測値が異なるので、迅速かつ正確に検知することができる。つまり、短絡電流が、インバータの過電流とはならない範囲であっても、「異常」を検出し、電源を停止することができる。その結果として、「地絡事故」による部品の破損や、生産プロセスの停止、不良品の形成などの問題を防ぐことが可能となる。
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態として、プラズマの点火時や、アーク放電が発生した時に、過電流を投入することを防ぐことができる電源について説明する。
図13は、本実施形態にかかる電源の要部を表す模式図である。
また、図14は、本発明者が本実施形態に至る過程で試作した比較例の電源の要部を表す模式図である。図13及び図14についても、図1乃至図12に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
以下、まず図14に表した比較例の電源について説明する。
このような電源は、例えば、上位の制御装置(図示せず)によって、電源が出力する電力と処理時間とを管理され、運転指令(RUN)と電力指令値(Pset)とを入力する。これらの制御信号を入力した電源は、インバータを起動して整流したインバータ電流をインダクタで平滑して出力する。
インバータの制御回路は、電力比較回路(Perr)によって出力電力の誤差積分演算を開始するが、電源の起動時は指令電流値(Cset)がゼロから上昇する。ただし、後段の増幅率が高いので、出力電圧はプラズマの点火電圧まで一気に上昇する。
プラズマが点火するまでの間は、出力電圧が上昇しても出力電流がゼロなので、指令電流値(Cset)は時間経過とともに大きくなる。
一方、プラズマが点火すると、負荷に電流が流れる。すると、電圧センサ(Vsen)および出力電流センサ(Csen1)とによりそれぞれ計測した出力電圧と出力電流に応じて計算(MTL)した出力電力と、指令電力との誤差を電力比較回路(Perr)で積分して指令電流値(Cset)を定める。電流比較回路(Cerr)では、電流センサ(Csen2)により計測したインダクタ電流と指令電流(Cset)との誤差に比例してインバータをPWM制御する。
一方、スパッタ中にアーク放電が発生し、チャンバの電圧低下を出力電圧の低下として検知した電源は、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2を閉じ、スイッチング素子Q5、Q6を開いて逆電圧源DC2から逆電圧を出力し、規定した「消弧期間」の間、出力電流を遮断する。
なお、アーク放電中は遮断動作のため出力電力がほとんど無く、指令値(Pset)との誤差が大きくなるので指令電流値(Cset)が大きくなる。これは電流遮断とは反対の動作指令となっしまう。そのため、例えば、図7に例示したようなサンプル・ホールド・スイッチ(S&Hold)とホールド用コンデンサCHなどを設けて、指令電流値(Cset)の保持や調節を行う必要がある。
ところが、図14に表した電源の場合、プラズマの点火までの待ち時間が長いと、点火時の指令電流値(Cset)が大きくなり、オーバーシュート状態になることがある。その結果として、点火時に、過大な電流を投入することがある。
また、アーク放電が発生した時は、出力電圧の降下により増加した電流を測定してから電流制御により出力電流が抑制されるが、インダクタ電流の応答は遅いために、その電流の抑制動作が遅れる場合がある。その結果として、アーク放電が発生した初期の大きな瞬間電流を抑制できず、アーク被害が拡大することがある。
本発明者は、かかる課題の認識に基づいて本実施形態に至った。
すなわち、本実施形態においては、図13に例示したように、除算回路(DIV)を設け、(指令電力値÷出力電圧)を計算して出力すべき電流値を演算する。また、除算回路(DIV)に入力する出力電圧は、電圧センサ(Vsen1)の計測データであるが、リミッタ(limit)を設けることによって、正常放電の最低電圧を制限値とする。正常放電の最低電圧値、すなわち制限値は、例えばマイナス150ボルトとすることができる。
そして、このようにして得られた出力すべき電流値に対して、出力電流センサ(Csen1)が測定した電流の誤差を電流比較回路(Cerr1)において演算する。電流比較回路(Cerr1)の出力は、積分動作を停止するスイッチSWに接続する。このスイッチSWが閉じている状態では積分動作はされず、開いている状態において積分動作が実行される。従って、このスイッチSWを出力電流センサ(Csen1)とコンパレータ(Cmp)により制御することにより、出力電流が所定値以上の時だけ積分動作するように制御することができる。
スイッチSWを動作させるためのしきい値、すなわち積分動作させるか否かの判断値は、例えば、出力電流が出力すべき電流の半分(1/2)とすることができる。
以上説明した構成によれば、電力制御に際して、スパッタの開始から誤差の積分を始めることができる。そして、スパッタの開始の判断は、出力電流センサ(Csen1)による測定値が所定値に上昇したことにより判断できる。
そして、この積分を実行しない時間帯は、(出力すべき電流値=指令電力値÷出力電圧)を電流指令値とすることができる。
一方、本実施形態においては、出力電圧の帰還制御回路を設けることにより、電圧降下時にインバータの出力を絞ることができる。すなわち、図13に表したように、インダクタL1の電圧を測定するインダクタ電圧センサ(Vsen2)を設ける。また、インダクタの指令電流値(Cset)と、インダクタ電流センサ(Csen2)の出力とを電流比較回路(Cerr2)において比較することにより、インダクタL1に印加される電圧を計算する。そして、この計算値と、インダクタ電圧センサ(Vsen2)の出力と、を電圧比較回路(Verr)において比較して、その出力によりPWM回路(PWM)を介してインバータのPWM制御を実行する。このようにすれば、出力電圧の帰還制御が可能となり、インダクタの電圧が降下した時にインバータの出力を絞ることができる。
以下、本実施形態の電源の動作について具体例を参照しつつ詳細に説明する。
まず、起動の際には、運転する指令電力値(Pset)を入力するが、出力電圧がゼロであり、正常放電の最低電圧値、すなわち制限値のマイナス150ボルトで電流を計算する。例えば、出力電力が300ワットの設定の場合には、2アンペアが指令電流値(Cset)のスタート値となる。インダクタ電流、インダクタ電圧ともにゼロだが、運転信号(RUN)が入るまでは、トランジスタQ1〜Q4は動作しない。
そして、上位の制御装置から運転信号(RUN)が入るとインバータが起動する。プラズマの点火までは、インダクタ電流が無く、インダクタ電圧も無い。よって別途制限する点火電圧まで出力電圧が上昇する。
チャンバ101内でグロー放電が始まると、出力電流(=インダクタ電流)が流れ始め、出力電圧が上昇する。出力電圧がマイナス400ボルトの場合、出力すべき電流は0.75アンペアとなり、出力電流がその1/2の0.375アンペアに達すると、スイッチSWが開かれて電流誤差の積分を開始する。
指令電流値よりインダクタ電流が小さければ、インダクタ電圧が正になるようにPWM回路(PWM)が動作し、逆に大きければインダクタ電圧が負になるようにPWM回路(PWM)がインバータを制御する。
一方、アーク放電が発生した場合には、以下の動作が実行される。
すなわち、チャンバ101内でアーク放電が始まると出力電圧が降下する。すると、電源はアークセンサ(図示せず)によってこれを検知し、絶縁ゲート型バイポーラ・トランジスタIGBT1、IGBT2をONして逆電圧を出力する。同時に、インダクタ電圧が正になりPWM回路(PWM)への入力が急減するので、インバータは一瞬停止して、電流の上昇を防止する。その後、アーク遮断を終えてスパッタを再開すると、出力すべき電流とインダクタ電流を比較して、インダクタに必要な電圧をインバータが出力する。
以上説明したように、本実施形態によれば、プラズマ点火後の目標電流値が点火までの放電待ち時間によらず、設定電力と出力電圧に依存して決定される。従って、点火までに時間を要したような場合でも、オーバーシュート無しに電流制御を開始できる。
また、本実施形態によれば、アーク放電が始まった時、インダクタ電流の増加を待たず、インダクタ電圧センサ(Vsen2)によってインダクタ電圧の降下を検出して直ちにインバータのデューティー比を絞ることができる。その結果として、過電流によるアーク被害を抑制できる。
(第5の実施の形態)
次に、本発明の第5の実施の形態として、第1乃至第4の実施の形態に関して前述したいずれかの停止回路を有するマグネトロン用の電源システムについて説明する。すなわち、マグネトロンに順方向電力を供給して発振動作を生じさせ、何らかの原因により、突発的な短絡電流が生じた場合にも、上述した充電動作により充電された逆バイアス電圧源から逆電圧を印加して、迅速に電流を遮断することができる。
図15は、本発明の電源をマグネトロンの発振に用いた構成を例示する概念図である。すなわち、同図は、マグネトロンを用いたマイクロ波発生システムを表す。
このシステムの電源110は、所定の直流高電圧をマグネトロン200に印加して発振させる。この電源110として、図1乃至図14に関して前述した本発明の電源を用いることができる。マグネトロン200の発振により生じたマイクロ波電力は、導波管を伝送路としてアイソレータ310、マイクロ波センサ320、マイクロ波整合器340を介して、負荷500に供給される。また、センサ320からはフィードバック信号FSが、電源110のインバータに与えられ、マイクロ波の出力電力の制御が行われる。
このようなシステムの場合にも、電源110からマグネトロン200に順方向電力を供給して発振動作を生じさせ、マグネトロン200において物理的な短絡や放電などが生じた場合にも、本発明の第1実施形態によれば、迅速且つ確実な遮断動作を実行させることができる。
また、本発明の第2実施形態によれば、そのような遮断動作の際にもインダクタ電流を適正に計測し帰還制御することができるので、遮断動作の後に、過大電力を投入することによる問題を防ぐことができる。
また、本発明の第3実施形態によれば、さらに電源の内部などで「地絡事故」などによる短絡が生じた場合にも、この異常を速やかに検出して電源を停止することができる。
また、本発明の第4実施形態によれば、負荷が定常状態に移行するまでの間に、目標電流値がオーバーシュートする問題を解消し、さらに、アーク放電などのインピーダンスの低下が発生した時にも、過大電流を防ぐことができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
例えば、図1乃至図14においては、2つのインバータINV1、INV2を設けた電源を例示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、3つあるいはそれ以上のインバータを設けた、いわゆる「多段インバータ構成」の電源についても同様に適用して同様の作用効果を得ることができる。
また一方、本発明の電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置における各部の構成、構造、数、配置、形状、材質などに関しては、上記具体例に限定されず、当業者が適宜選択採用したものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に包含される。
より具体的には、例えば、スイッチング回路としてMOSトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の記号により例示したものや、保護用素子としてバリスタの記号により例示したものなどは、これら特定の電気素子には限定されず、同様の機能または作用を有する単一の電気素子あるいは複数の電気素子を含む電気回路として構成することができ、これらすべての変形は、本発明の範囲に包含される。
また、同様に、インバータやコンパレータ、論理回路、保護回路などの具体的な構成や、ダイオード、抵抗、トランジスタをはじめとする各回路素子の数や配置関係などについても、当業者が適宜設計変更したものは本発明の範囲に包含される。
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電源、スパッタ用電源及びスパッタ装置は本発明の範囲に包含される。