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圧電磁器および圧電素子
本発明は、圧電磁器およびフィルタ、圧電素子に関し、例えば、共振子、超音波振動子、超音波モータ、あるいは加速度センサ、ノッキングセンサ、およびAEセンサ等の圧電センサなどに適し、特に、厚み縦振動で動作する、エネルギー閉じ込め型発振器の高周波共振子として好適に用いられる圧電磁器および圧電素子に関するものである。
従来から、圧電磁器を利用した製品としては、例えば、フィルタ、圧電共振子(以下、発振子を含む概念である)、超音波振動子、超音波モータ、圧電センサ等がある。
ここで、発振子は、コンピュータなどの基準信号発振用として、例えば、コルビッツ発振回路等の発振回路に組み込まれて利用される。図1はコルピッツ発振回路を基本とした回路構成においてインダクタの部分を圧電発振子に置き換えたピアス発振回路を示すものである。このピアス発振回路は、コンデンサ111、112と、抵抗113と、インバータ114および発振子115により構成されている。そして、ピアス発振回路において、発振信号を発生するには、以下の発振条件を満足する必要がある。
すなわち、インバータ114と抵抗113からなる増幅回路における増幅率をα、移相量をθ とし、また、発振子115とコンデンサ111、112からなる帰還回路における帰還率をβ、移相量をθ としたとき、ループゲインがα×β≧1であり、かつ、移相量がθ +θ =360゜×n(但しn=1、2、3…)であることが必要となる。
一般的に抵抗113およびインバータ114からなる増幅回路は、コンピュータに内蔵されている。誤発振や不発振を起さない、安定した発振を得るためにはループゲインを大きくしなければならない。ループゲインを大きくするには、帰還率βのゲインを決定する、発振子のP/V値、すなわち共振インピーダンスR0および反共振インピーダンスRaの差を大きくすることが必要となる。なお、P/V値は20×Log(Ra/R0)の値として定義される。
また、移相量の条件を満足させるためには、共振周波数と反共振周波数の間およびその近傍の周波数で、移相が約−90゜から約+90゜まで移相反転し、かつ共振周波数と反共振周波数の間およびその近傍にスプリアス振動による移相歪みが発生しないことも重要となる。
従来、圧電材料としては、圧電性が高く、大きなP/V値が得られるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系やPT(チタン酸鉛)系の材料が使用されていた。しかし、PZT系やPT系材料は、材料の約60質量%の割合で鉛が含有されているため、酸性雨により鉛の溶出が起こり、環境汚染を招く危険性が指摘されている。そこで、鉛を含有しないビスマス層状化合物を主体とする材料系への高い期待が寄せられている(例えば特許文献1参照。)。ビスマス層状化合物を主体とする材料系においては、PZTやPT系材料と比較して機械的品質係数(Qm)が比較的高いという特徴があり、発振子用の圧電材料としての応用が可能である。
また、ビスマス層状化合物を主体とする材料では、キュリー温度が400℃以上のものが多く、そのようなものは、高い耐熱性を有しておりエンジンルーム内といった高い温度にさらされる環境下で使用するセンサ素子として応用できる可能性がある。
特開2000−143340号公報
しかしながら、従来の鉛を含有しないビスマス層状化合物を主体とする圧電磁器では、発振周波数の温度依存性が大きいという問題があった。
例えば、SrBi Ti 15 では、25℃における発振周波数に対する−40℃および80℃のおける発振周波数の変化率が±5000ppm以上と大きく、電子機器に必要とされる温度特性を満たせなかった。
したがって、本発明は、発振周波数の温度依存性が低い非鉛系の圧電磁器および圧電素子を提供することを目的とする。
本発明の圧電磁器は、主成分がビスマス層状化合物からなる圧電磁器であって、組成式xMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb で表され、Mがアルカリ土類金属元素であり、x=0.5である成分100質量部に対して、MnをMnO 換算で0.05〜2.0質量部含有することを特徴とする。
また、MがSrであることが好ましい。
本発明の圧電素子は前記圧電磁器からなる基体の対向する一対の表面に電極を備えることを特徴とする。
本発明の圧電磁器によれば、主成分がビスマス層状化合物からなる圧電磁器であって、組成式xMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb で表され、Mがアルカリ土類金属元素であり、x=0.5である成分100質量部に対して、MnをMnO 換算で0.05〜2.0質量部含有することにより、共振周波数の温度変化率を低くすることができる。これは、ビスマス層状化合物の結晶格子内に含まれる疑ペロブスカイトの層数が上記組成範囲において変化するため、である。
また、MがSrである場合、P/V値を高くすることができる。
本発明の圧電素子によれば、前記圧電磁器からなる基体の対向する一対の表面に電極を備えることにより、厚み縦振動モードおよび厚み滑り振動モード等の共振素子を作製することが可能である。本発明の圧電磁器では厚み滑り振動モードにおける共振周波数の温度変化率を小さくすることができるため、小型の共振素子を作製することが可能である。
本発明の圧電磁器は、主成分がビスマス層状化合物からなる圧電磁器であって、組成式xMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb で表され、Mがアルカリ土類金属元素であり、x=0.5である成分100質量部に対して、MnをMnO 換算で0.05〜2.0質量部含有するものである。
ビスマス層状化合物は、酸化ビスマス層と疑ペロブスカイト層とが積層構造をとっており、一般式(Bi 2+ (α m−1 β 3m+1 2− で表される。ここでmは疑ペロブスカイト層の層数であり、mが整数のものが主に研究されている。本発明の組成式で示されているMBi Ti 15 は単独ではm=4のビスマス層状化合物であり、MBi Nb は単独ではm=2のビスマス層状化合物である。MBi Ti 15 またはMBi Nb をそれぞれ単独で含有する圧電磁器を共振子として使用した場合、発振周波数の温度依存性が大きくなる。例えば、25℃における発振周波数に対する−40℃および80℃のおける発振周波数の変化率は、Mの種類により差があるものの、MBi Ti 15 では±5000ppm以上、MBi Nb では±3600ppm以上となる。
本発明の圧電磁器では、x=0.5であることから、主にm=3のビスマス層状化合物となっている。また前述の2種類のビスマス層状化合物が混在した構造部分も存在していると考えられる。ビスマス層状化合物の分極軸は結晶のa、b軸方向とc軸方向があり、それぞれの分極方向での共振周波数の温度変化率が異なっており、c軸方向の共振周波数の温度変化率がa、b軸方向の共振周波数の温度変化率に比べて小さい。そして、上述の2種類のビスマス層状化合物がx=0.5の状態で混在するとm=3の結晶構造が主となるため、c軸方向の分極軸が発生し、圧電磁器全体の共振周波数の温度変化率は、それぞれのビスマス層状化合物単体の場合よりも小さくなる。
また、xの値を0.5からずらし、平均の疑ペロブスカイト層の層数を非整数に制御することにより、圧電特性や圧電特性の温度変化率を調整することもできる。
さらに、組成式xMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb で表され、Mがアルカリ土類金属元素であり、x=0.5である成分100質量部に対して、MnをMnO 換算で0.05質量部以上添加することにより、板状結晶をなしているため、比較的焼結しにくいビスマス層状化合物でも焼結しやすくなり、緻密な磁器が得られる。MnがMnO 換算で0.05質量部未満では、磁器が十分焼結しなく、各種加工時の取り扱いにより壊れてしまったり、磁器に空隙が多いため、絶縁信頼性が低くなってしまったりする。また、MnがMnO 換算で2質量部より多いと、焼結はしやすくなるものの、圧電磁器の絶縁抵抗が低くなり、十分に分極することできなくなる。Mn添加量をMnO 換算で0.05〜2.0質量部にすることにより、板状結晶をなしているため、比較的焼結しにくいビスマス層状化合物でも焼結しやすくなり、圧電磁器として使用できるようになるMn添加量のより好ましい範囲はMnO 換算で0.2〜0.5質量部である。
Mはアルカリ土類金属元素であることが重要であり、複数のアルカリ土類金属元素を含んでもよい。そして、特にMがSrであるとP/V値が高くなるとともに、焼成温度の変動に対して磁器の焼結状態が変動しにくい焼結可能な温度範囲(最適焼成温度範囲)を広くできるため好ましい。MがSrまたはBaであると、分極に高電界が必要ではなくなり、分極が不十分であることに起因するP/V値の低下がない。MがBaであると焼成温度は低くできるメリットがあるが、絶縁抵抗が低くなるとともに、最適焼成温度範囲が狭くなるため、焼成温度のバラツキによりP/V値が低下することがある。MがSrまたはCaであると、焼成温度のバラツキに起因するP/V値の低下が起きにくく、圧電磁器が安定的に作製しにくい。
本発明の圧電磁器は、(Bi 2+ (α m−1 β 3m+1 2− で書き表されるビスマス層状化合物の一般式において、2種のペロブスカイト結晶が酸素サイトの欠陥や一部へのMnの固溶などをともないながら平均してm=3の疑ペロブスカイト層を構成したビスマス層状化合物になっていると考えられる。Mnは主結晶相中に固溶し、一部Mn化合物の結晶として粒界に析出する場合がある。また、その他の結晶相として、パイロクロア相、ペロブスカイト相、構造の異なるビスマス層状化合物が存在することもあるが、微量であれば特性上問題ない。
なお、主成分がビスマス層状化合物からなるとは、X線回折のメインピークが上記ビスマス層状化合物のものであり、蛍光X線分析装置で組成分析を行ないビスマス層状化合物の一般式(Bi 2+ (α m−1 β 3m+1 2− に当てはまる元素が90質量%以上、特に95質量%以上であること指す。
また、本発明の圧電磁器は、粉砕時のZrO ボールからZr等が混入する場合もあるが、微量であれば特性上問題ない。
次に本発明の圧電磁器の製造方法について詳述する。
本発明の組成を有する圧電磁器は、例えば、原料として、MCO (Mはアルカリ土類元素)、Bi 、MnO 、TiO 、Nb からなる各種酸化物あるいはその塩を用いることができる。原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。
これらの原料を上記した組成となるように秤量し、混合後の平均粒度分布(D 50 )が0.3〜1μmの範囲になるように粉砕し、この混合物を大気中等の酸化性雰囲気において850〜1000℃で仮焼し、仮焼後の平均粒度分布(D 50 )が0.3〜1μmの範囲になるように粉砕し、再度所定の有機バインダを加え湿式混合し造粒する。
このようにして得られた粉体を、公知のプレス成形等により所定形状に成形し、大気中等の酸化性雰囲気において1000〜1250℃の温度範囲で2〜5時間焼成し、本発明の組成を有する圧電磁器が得られる。
本発明の組成を有する圧電磁器は、図1に示すようなピアス発振回路の共振子の圧電磁器、特に厚み滑り振動の基本波振動を利用する高周波共振子用として最適であるが、それ以外の圧電共振子、超音波振動子、超音波モータおよび加速度センサ、ノッキングセンサ、AEセンサ等の圧電センサなどにも用いることができる。
図2に本発明の圧電素子の一例として圧電共振子(圧電発振子)を示す。この圧電共振子は、上記した組成の圧電磁器からなる矩形板状の基体1の両主面に電極2、3を形成して構成されており、圧電磁器は電極2、3と平行な方向Pに分極されている。電極2、3の形状は、基体1の両主面に形成された電極2、3が基体1の中央部で重なるように無電極部が図2のように形成されている。このような圧電共振子では、厚み滑り振動および厚み縦振動における基本波の温度変化率を低くでき、安定した発振が得られ、特に2〜20MHzの周波数に適応できる圧電共振子を得ることができる。
また、多結晶体からなる圧電磁器とすることで、単結晶に比べ加工によるチッピングを大きく抑えられ、さらには、成型金型により所望の形状になるように成型体を作製・焼成することで圧電素子を得ることができる。加工にともなうチッピング(共振子用磁器エッジの欠け)があると、共振周波数と反共振周波数の間にスプリアス振動にともなう移相歪みが発生することがあり、その歪みにより規定の発振周波数以外の周波数で発振してしまったり、発振しなくなったりするおそれがある。すなわち、加工によるチッピングを抑制することにより、安定した振幅の発振を得ることができる したがって、上記圧電共振子は、厚み滑り振動での−40℃〜+80℃の温度範囲で発振周波数の温度安定性に優れる非鉛系の圧電磁器とすることができる。
図3に本発明の他の例の圧電素子である圧電センサを示す。この圧電センサは、上記した組成の圧電磁器からなる円柱状の基体11の対向する一対の主面に、それぞれに電極12、13を形成して、構成されている。また、分極は主面と垂直な方向に施してある。
このような圧力センサでは、主面間に加わっている圧力により、各主面に電荷が生じ、主面間に加わっている圧力を測定することができる。
まず、出発原料として純度99.9%のSrCO 粉末、CaCO 粉末、Bi 粉末、TiO 粉末を、Nb 粉末をモル比による組成式をxMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb と表したとき、M、xが表1に示すような値の主成分と、この主成分100重量部に対してMnO 粉末を表1に示すような重量部となるように秤量混合した。
秤量した原料粉末を、純度99.9%のジルコニアボール、イオン交換水と共に500mlポリポットに投入し、16時間回転ミルで混合した。
混合後のスラリを大気中で乾燥し、#40メッシュを通し、その後、大気中950℃、3時間保持して仮焼し、この合成粉末を純度99.9%のZrO ボールとイオン交換水と共に500mlポリポットに投入し、20時間粉砕して評価粉末を得た。
この粉末に適量の有機バインダを添加して造粒し、金型プレスで150MPaの圧力で成形し、大気中において1050℃〜1250℃で3時間本焼成し、長さ25mm、幅38mm、厚みlmmの矩形板状をした共振周波数評価用圧電磁器を得た。
共振周波数評価用圧電磁器は長さ6mm、幅30mmに加工後、長さ方向に分極するための端面電極を形成し、200℃のシリコンオイル中で6kV/mmの直流電界を印加して分極処理を施した。その後、分極用電極を除去し、厚み約0.17mmとなるようにラップ機により加工した。その後、主面(長さ6mmと幅30mmからなる面)の両面にCr−Agを蒸着し、電極と磁器との密着強度を高めるために250℃で12時間のアニール処理を施した。
その後、図2に示す電極構造となるように、無電極に相当する部位の電極をエッチングで除去し、長さ2.2mm(L)、幅0.9mm(W)、厚み0.17mm(H)形状にダイシングソーを用いて加工し、8MHzの発振に相当する小型な厚み縦振動の基本波振動用共振子を得た。図2において、Pは分極方向を示す。
厚み縦振動の基本波振動用共振子の特性は、インピーダンスアナライザによりインピーダンス波形を測定し、厚み滑り振動の基本波振動でのP/V値をP/V値=20×Log(Ra/R0)の式により算出した(ただし、Ra:反共振インピーダンス、R0:共振インピーダンス)。
さらに、発振周波数の温度変化率は、25℃の発振周波数を基準にして、−40℃もしくは+80℃での発振周波数の変化を以下の式により算出した。
osc 変化率={(F osc (drift)−F osc (25))/F osc (25)}、ただし、F osc (dfift)は、−40℃もしくは+80℃での発振周波数であり、F osc (25)は25℃での発振周波数である。これらの結果を表1に示す。
Figure 2009051718
表1によれば、本発明の範囲内の試料No.2、4、6、8および10〜13は、厚み滑り振動における基本波振動のP/V値を45dB以上と大きくでき、発振周波数の温度変化率が±3000ppm以内と温度依存性が低くなった。
また、本発明の範囲内の試料No.2はMがSrであることにより、他のアルカリ土類金属を使用した場合よりもP/V値を高くすることができた。
なお、MnO を添加していない本発明の範囲外の試料No.9では十分に緻密化しておらず、圧電磁器をラップ加工する際に割れや欠けが生じ、共振子を作製することができなかった。MnO 添加量が2.5質量部の試料No.14は分極処理を行なったが、分極できなかった。
本発明の試料No.2、4、6、8および10〜13をX線回折で分析したところ、m=3のビスマス層状化合物が主結晶相として認められた。ビスマス層状化合物はペロブスカイト構造が積み重なった中にBi が挿入された結晶構造を持つ。Bi 層にはさまれたペロブスカイト構造のユニットの数がm数である。このことから、m=2、4のビスマス層状化合物は、m=3の結晶を有するようになったものと考えることができ、本発明の圧電磁器はm=3の構造が主であり、一部m=2とm=4の構造が混在していると考えられる。そして、その構造にMnが一部固溶したビスマス層状化合物になっているものと考えられる。
また、実施例で作製した試料を、蛍光X線分析装置で組成分析した。その結果、各試料の圧電磁器の組成は、調合した原料組成と同じであった。
コルピッツ型発振回路を原型としたピアス発振回路を示した概略図である。 本発明の圧電素子である8MHz用共振子の概略図である。 本発明の圧電素子である圧力センサの概略図である。
1、11・・・基体
2、3、12、13・・・電極
P・・・分極方向

Claims (3)

  1. 主成分がビスマス層状化合物からなる圧電磁器であって、組成式xMBi Ti 15 +(1−x)MBi Nb で表され、Mがアルカリ土類金属元素であり、x=0.5である成分100質量部に対して、MnをMnO 換算で0.05〜2.0質量部含有することを特徴とする圧電磁器。
  2. MがSrであることを特徴とする請求項1記載の圧電磁器。
  3. 請求項1または2記載の圧電磁器からなる基体の対向する一対の表面に電極を備えることを特徴とする圧電素子。
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