車両用ホイールのハブ孔フランジ部にあっては、その内径がハブ孔径に相当することから、該内径(ハブ孔径)を車軸の外径に応じて設定している。そのため、外径の異なる車軸に対応するハブ孔フランジ部を成形する場合には、上述した孔拡げ率を考慮すれば、該孔拡げ率に従ってハブ素円孔を形成することが必要となっている。すなわち、孔拡げ率の最大値が規定され、該孔拡げ率に応じて異なる孔径のハブ素円孔を形成しなければならない。このように孔径の異なるハブ素円孔を形成する場合には、それぞれに応じた孔開けパンチ等の専用金型を要することから、金型の付け替え作業が繁雑化したり、該金型の製造費用や購入費用が高くなる等、製造コストが向上してしまう。また、上述したように孔拡げ加工を複数回に分けて行うようにした場合にあっても、孔拡げ加工用の金型を複数種類要することから、同様に製造コストが向上することとなっている。さらに、孔拡げ加工を複数回に分けて行っても、該孔拡げ加工によって生ずる加工歪の総量は同じであることから、割れ等の不具合の発生を低減する効果にも限界がある。
また、上記の車両用ホイールにあっては、ハブ孔フランジ部の高さを比較的高く設定する構成の品種も存在する。ここで、ハブ孔フランジ部の高さは、ハブ素円孔の孔径と孔拡げ加工で形成するハブ孔フランジ部の内周径との半径差によって定まる。そのため、ハブ孔フランジ部を比較的高くする構成を成形する場合には、必然的に孔拡げ率を大きくしなければならず、孔拡げ加工を複数回に分けて行うことを要する。そのため、上記した問題点が生じている。
一方、上述した従来の、第一工程で半抜きして第二工程で打ち抜く方法を、ハブ素円孔の形成に適用すると、該ハブ素円孔を比較的良好に成形できる。しかし、このハブ素円孔の孔周縁部を孔拡げ加工すると、孔拡げ率を比較的大きくするように設定した場合に、割れ等の不具合が発生してしまう。すなわち、割れ等の不具合の発生を抑制する効果に限界があり、上記した問題点を充分に解消できない。
本発明は、ハブ孔フランジ部を形成する際に、比較的大きな孔拡げ率とする場合にあっても、割れなどの不具合が発生することを抑制し得る車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法を提案する。
本発明は、板状基材の中央にハブ素円孔を穿設する素円孔加工工程と、該ハブ素円孔の孔周縁部に孔拡げパンチをホイール裏方から押し付けて、該孔周縁部をホイール表方に起立するように孔拡げ加工する孔拡げ加工工程とを順次行うことによって、ハブ孔フランジ部を成形する車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法において、素円孔加工工程は、板状基材に据込み用の下穴を穿設する据込み用下穴穿設工程と、ハブ素円孔の孔径と等しい外周径の予備加工パンチと該予備加工パンチに対向して板状基材の一側面を支持する支持用金型とにより、前記下穴の孔端面を拘束せずに、該下穴の孔周縁部をその板厚方向に沿って該板厚未満の所定押込深さまで押圧することによって、該予備加工パンチにより押圧された余剰材料を、前記下穴および、予備加工パンチと支持用金型との少なくとも一方に設けられた、前記ハブ素円孔の孔径より小径で板状基材に対向して開口する据込み空域に据え込む予備圧縮工程と、ハブ孔素円孔の孔径と等しい外周径の孔開けパンチによりハブ素円孔を穿設する素円孔穿設工程とを備えていることを特徴とする車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法である。尚、据込み用の下穴は、板状基材を板厚方向に貫通するように形成しており、換言すれば据込み孔と表現することも可能である。
ここで、図13(A),(B)のように、所定の孔開けパンチ81とダイス82とによりハブ素円孔88を一回で穿設する従来方法を用いた場合について精査した結果を詳述する。
この従来方法により形成したハブ素円孔88の孔周縁部89を観察すると、図14のように、ハブ素円孔88の孔周縁部89で、孔開けパンチ81の打抜き方向(上方から下方へ向かう方向)に板状基材21の縞状組織87が湾曲している。この湾曲した縞状組織87は、板面方向に平行であった縞状組織30が、孔開けパンチ81の加工によって湾曲したのであるから、ハブ素円孔88の孔周縁部89に比較的大きな加工歪が生じ、加工硬化していることが明らかである。また、ハブ素円孔88の孔端面には、その最上部に下方へ湾曲する湾曲面86aが形成されており、該湾曲面86aの下側に連続して、上下方向(板厚方向)に沿ってほぼ垂直に切断されているせん断面86bが形成されており、該せん断面86bの下側に連続して、板面方向にきざまれたような破断面86cが形成されている。そして、この破断面86cでは、せん断面86bに比して、前記した縞状組織87の湾曲する形態が大きくなっており、加工硬化を大きく生じていることがわかる。このようなハブ素円孔88の孔周縁部89を、比較的大きな孔拡げ率となるように孔拡げ加工すると、割れ等を生じ易いことから、ハブ素円孔88の孔周縁部89に生じている加工硬化が、孔拡げ加工によって割れを生じる主原因であるとする結論に達した。
さらに、上述した特許文献2の、第一工程で半抜きして第二工程で打ち抜く方法を用いて、ハブ孔素円孔を形成した場合について精査した結果を詳述する。
第一工程では、パンチとダイスとのクリアランスが小さいために、該パンチにより板厚方向に沿って切断することができる。ここで、板状基材の、パンチの外周端により押圧される部位では、該パンチとダイスとのクリアランスが小さいために板厚方向に圧縮変形を生じ、該圧縮変形に伴う板面方向の延伸変形によって、パンチにより切断される板状基材の切断部位(ハブ素円孔の孔周縁部となる部位)に加工硬化が生ずる。尚、パンチの押圧加工により板厚方向に生じる余剰材料は、ダイスの中央開口内に流動するが、前記圧縮変形に伴う板面方向の延伸変形による余剰材料は、その生成方向が板面方向であるために、ダイスの中央開口内に流動し難い。特に、クリアランスがマイナスの場合には、パンチの外周端とダイスの内周端とで挟圧される領域が存在するために、圧縮変形が比較的大きく生じ、板面方向の延伸変形に伴う加工硬化が、パンチにより切断される板状基材の切断部位に生じ易くなる。次の第二工程では、パンチにより切断する加工量(板厚方向の切断距離)が、上述した一回でハブ素円孔を打ち抜く方法に比して少ないため、その加工硬化も低減することができる。しかし、第一工程で生じた加工硬化は残留していることから、上述した一回でハブ素円孔を打ち抜く方法に比して、ハブ素円孔の孔周縁部に生ずる加工硬化を低減することはできるが、その低減する効果には限界がある。したがって、このような第一工程と第二工程とによりハブ素円孔を形成するようにしても、ハブ素円孔の孔周縁部に生じている加工硬化によって、孔拡げ加工により割れ等を生じ易くなっている。
このような従来方法に対して、本発明は、上述したように、予備加工パンチによる押圧加工を行う前に据込み用の下穴を穿設し、次の予備圧縮工程で、該予備加工パンチと支持用金型とにより該下穴の孔端面を拘束せずに押圧加工し、素円孔穿設工程でハブ素円孔を打ち抜くようにした方法である。
ここで、予備圧縮工程では、予備加工パンチの外周径と据込み空域を構成する開口の開口径とにより囲まれた据込み用の下穴の孔周縁部の環状領域を圧縮変形し、該圧縮変形に伴う板面方向の延伸変形を該下穴内に据え込ませることができる。これにより、予備加工パンチの押圧加工により切断される板状基材の切断部位に、当該押圧加工によって加工硬化が生じることを抑制することができる。この据込み用の下穴は板厚方向に形成されていることから、予備加工パンチの押圧加工開始直後から、板面方向の延伸変形による余剰材料を該下穴内に据え込ませ易く、加工硬化の抑制効果に優れている。さらに、予備圧縮工程でハブ素円孔を部分的に形成していることから、次の素円孔穿設工程では、孔開けパンチにより予備圧縮工程の押込深さの残りの深さ(厚み)を打ち抜けば良い。そのため、この孔開けパンチによる加工量が比較的少なくなるため、当該打抜き加工による加工硬化が減少する。
また、予備圧縮工程では、予備加工パンチの押圧加工の際に、据込み用の下穴の孔周縁部をせん断力により板圧方向に切断する。そのため、予備加工パンチの押圧加工により、比較的鋭利に切断することができる。これにより、板状基材が縞状組織を有するものであった場合に、切断面の縞状組織を板厚方向に湾曲することを抑制しつつ切断できる。このことからも、予備加工パンチの押圧加工により切断される板状基材の切断部位に、加工効果の生じることを抑制する効果が高くなっている。
以上のことから、本発明の素円孔加工工程によれば、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制できるから、次の孔拡げ加工工程によってハブ孔フランジ部を形成する際に割れ等を生じ難い。したがって、ハブ素円孔の孔径に対してハブ孔径を大きく設定した、いわゆる孔拡げ率を比較的大きくするようにした場合にあっても、ハブ孔フランジ部に割れ等の不具合の発生を抑制することができ得る。
また、本発明の素円孔加工工程によれば、上述したように、予備圧縮工程では予備加工パンチにより加工硬化を抑制して板厚方向に切断でき、素円孔穿設工程では打抜き加工量が少ないことから、ハブ素円孔の孔端面には、板厚方向に沿ってほぼ垂直に切断されたせん断面が比較的多く形成されている。そして、このハブ素円孔の孔端面は、上述した従来方法により形成した場合に比して、バリや荒れを生じる破断面が著しく減少しており、全体として平滑な面に形成されている。このことも、孔拡げ加工によって割れの発生を抑制する効果を高める一因となっている。
予備圧縮工程にあって、予備加工パンチの押圧加工によって生ずる余剰材料は、上記したように据込みの下穴内に流動すると共に、据込み空域にも流動する。このように据込み空域に余剰材料を据え込むことによっても、上記した予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に加工硬化が生ずることを抑制する効果を助けている。尚、予備加工パンチが、据込み用の下穴の孔周縁部を全体的に板厚方向へ押圧する場合には、該予備加工パンチによって板厚方向に生ずる余剰材料が主に据込み空域に流動する。
本発明にあって、据込み空域は、予備加工パンチ、支持用金型のいずれか一方又は両方に設ける構成のいずれとすることもできる。そして、据込み空域は、予備加工パンチの押圧加工により生じる余剰材料が充分に据え込むことができだけの容積を有するように構成していれば良い。また、素円孔穿設工程で使用する孔開けパンチは、予備加工パンチと同じものを使用することも可能である。
尚、板状基材をプレス加工して車両用ホイールを製造する一般的な製造工程にあっては、板状基材の中央に位置決め用の孔を予め穿設した後に、これを基準としてプレス加工を実行する方法がある。この位置決め用の孔は、通常、中心位置と周方向位置とを規定するために多角形状に形成されている。そして、位置決め用の孔を設けている場合に、ハブ素円孔を穿設する工程では、該位置決め用の孔にガイドピンを嵌入した状態で保持して、所定パンチによりハブ孔を穿設するようにしている。すなわち、位置決め用の孔は、ハブ孔を穿設する際にも、中心位置を規定するためにしか用いられていない。これに対して、本発明にあっては、据込み用の下穴の孔端面を拘束せずにハブ素円孔を穿設するようにしていることから、位置決め用の孔のようにガイドピンを嵌入するものとはその意義が明確に異なる。また、据込み用の下穴は、その周囲から余剰材料を据え込むため、周方向に均等に据え込むことができるように円孔であることが好ましい。
また、予備圧縮工程にあっては、予備加工パンチを、据込み用の下穴の孔周縁部の板厚に対して10%以上且つ50%以下とする押込深さによって、該下穴の孔周縁部を押圧するようにしている方法が好適に用い得る。この押込深さまで予備加工パンチにより切断されることから、上記した加工硬化を抑制できる部位の板厚方向高さが決まることとなる。また、押込深さを除く残りの深さ(厚み)が、次の素円孔穿設工程で加工されることとなる。この素円孔穿設工程で加工する深さが短いほど、当該加工によって生ずる加工硬化を抑制する効果も向上するため、総じて、ハブ素円孔の孔周縁部に生ずる加工硬化を抑制する効果が一層向上する。尚、押込深さが、据込み用の下穴の孔周縁部の板厚に対して10%より浅いと、素円孔穿設工程での加工硬化を抑制する効果が低減し、また50%より深いと、予備加工パンチによる押圧加工の際に、当該押圧加工により切断された板状基材の切断部位に割れなどを生じ易くなる。
上述した車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法にあって、素円孔加工工程の予備圧縮工程で用いる支持用金型は、予備加工パンチの外周径に比して小径に開口する内側円孔が形成され、その内側円孔により据込み空域を構成するようにしたものであって、予備圧縮工程は、前記支持用金型により板状基材をホイール裏方から支持して、予備加工パンチによりホイール表方から据込み用の下穴の孔周縁部を押圧することにより、該下穴と支持用金型の据込み空域とに余剰材料を据え込むようにしている方法が提案される。
かかる方法にあっては、支持用金型がいわゆるダイスとなり、予備加工パンチの押圧加工によって生じる余剰材料を、支持用金型に開口する据込み空域に据え込むようにした方法である。すなわち、予備加工パンチの外周径と支持用金型の開口径とのクリアランスがマイナスとなるように設定されており、両者で挟圧された環状の領域が圧縮変形され、これによって生じた余剰材料を、支持用金型の据込み空域と据込み用の下穴内に据え込むことができる。かかる方法によれば、上述した本発明の、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制し、孔拡げ加工によって割れ等が発生することを抑制できるという作用効果を適正に発揮でき得る。
上述した支持用金型に形成された内側円孔の開口径が、
D1−0.2t×2≦D2<D1−0.1t×2
(ここで、D1:予備加工パンチの外周径、t:板状基材の板厚、D2:開口径)
を満足するように設けられている方法が提案される。
かかる方法にあっては、据込み空域を構成する支持用金型の内側円孔の開口径D2と予備加工パンチの外周径D1とを規定しており、予備加工パンチが、その外周径D1と支持用金型の開口径D2とにより囲まれた据込み用の下穴の孔周縁部の環状領域を圧縮することとなる。すなわち、開口径D2が小径となるに従って、予備加工パンチにより圧縮される環状領域も拡幅して広くなる。本構成では、この圧縮される環状領域が、外周径D1と開口径D2との関係から規定され、この範囲に設定することにより、予備加工パンチの押圧加工により板面方向に延伸変形して生ずる余剰材料を、据込み用の下穴内に据え込む作用が一層向上し、上述したように予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に加工硬化が生じることを抑制する作用効果がさらに高まる。
ここで、上記した本構成の関係式にしたがって、予備圧縮工程をパンチ(予備加工パンチ)とダイス(支持用金型)とにより実施する場合、外周径D1と開口径D2との関係によってパンチとダイスとのクリアランスが、−10%より小さく且つ−20%以上の範囲となる。すなわち、上述した特許文献2の第一工程と第二工程とを実施する方法に比して、クリアランスがマイナス方向に大きくなっている。仮に、本構成のクリアランスを特許文献2の第一工程に適用した場合、パンチとダイスとにより挟圧される環状領域が広いことから、この圧縮の変形量も大きくなり、これに伴う板面方向に延伸する変形量も大きくなる。そのため、パンチにより切断される板状基材の切断部位に生ずる加工硬化が増大し、次の孔拡げ加工によって割れ等が一層生じ易くなるという問題が出る。これに対し本発明では、上述したように、据込み用の下穴を予め形成していることから、クリアランスがマイナス方向に大きい本構成の範囲(−10%より小さく且つ−20%以上の範囲)であっても、パンチ(予備加工パンチ)の押圧加工によって生ずる板面方向の延伸変形を据込み用の下穴内へ据え込ませることができる。そのため、パンチ(予備加工パンチ)により切断される板状基材の切断部位に加工硬化が生じることを充分に抑制することができる。
尚、クリアランスを−10%以上(D2≧D1−0.1t×2)とすると、予備加工パンチによる板厚方向への力を支える支持用金型の領域が狭くなるため、該予備加工パンチによる板厚方向への力が作用する傾向が強まり、予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に板厚方向への加工歪が生じ易くなる。そのため、ハブ素円孔の孔周縁部に生じる加工硬化を抑制する効果が低減してしまう。一方、クリアランスを−20%より小さく(D2<D1−0.2t×2)すると、予備加工パンチと支持用金型とにより挟圧される環状領域が広くなり、その圧縮変形に伴う板面方向に延伸変形の余剰材料を、据込み用の下穴に据え込む作用が低減してしまう。そのため、上述した加工硬化を抑制する効果が低減し、孔拡げ加工によって割れ等の発生する確率が高まる傾向となる。
また、上述した車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法にあって、素円孔加工工程の予備圧縮工程で用いる予備加工パンチは、環状を成し、その内側に開口した空域により据込み空域を構成するようにしたものであって、予備圧縮工程は、支持用金型により板状基材をホイール裏方から支持して、前記予備加工パンチをホイール表方から据込み用の下穴の孔周縁部に押圧することによって、該下穴と予備加工パンチの据込み空域とに余剰材料を据え込むようにしている方法が提案される。
かかる方法にあっては、予備加工パンチがその外周径と開口径とによる環状を成し、当該予備加工パンチにより押圧することで生じる余剰材料を、予備加工パンチの内側に形成した据込み空域に据え込むようにした方法である。この方法では、予備加工パンチに据込み空域を形成していることから、該予備加工パンチが押圧する際に、該押圧による圧縮変形に伴って生じた板面方向の延伸変形をも据込み空域へ据込み易い。そのため、予備加工パンチによる押圧加工によって生じる加工硬化を抑制する効果が一層向上する。かかる方法によれば、上述した本発明の、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制し、孔拡げ加工によって割れ等が発生することを抑制できるという作用効果を適正に発揮でき得る。
本発明の車両用ホイールのハブ孔フランジ部成形方法は、板状基材に据込み用の下穴を穿設した後、予備加工パンチと支持用金型とにより該下穴の孔周縁部を押圧することによって、該予備加工パンチにより押圧された余剰材料を、下穴および予備加工パンチと支持用金型との少なくとも一方に設けられた据込み空域に据込み、次に孔開けパンチによりハブ素円孔を形成し、その後にハブ素円孔の孔周縁部をホイール表方へ立ち上げる孔拡げ加工してハブ孔フランジ部を成形するようにした方法である。かかる方法により、予備加工パンチの外周径と据込み空域の開口径とにより囲まれた据込み用の下穴の孔周縁部の環状領域を圧縮変形して生じる板面方向の延伸変形を、下穴内および据込み空域に据え込むことができるため、予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に加工硬化が生じることを抑制できる。また、その後の孔開けパンチによる加工量が少なくなることから、当該打抜き加工による加工硬化を減少することができる。したがって、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制できるから、次の孔拡げ加工工程によってハブ孔フランジ部を形成する際に割れ等を生じ難く、また、孔拡げ率を大きくするように設定しても割れ等の不具合が生じることを抑制でき得る。
また、支持用金型は、予備加工パンチの外周径に比して小径に開口する内側円孔が形成され、その内側円孔により据込み空域を構成するようにしたものであって、予備圧縮工程で、予備加工パンチにより押圧される余剰材料を、据込み用の下穴内と支持用金型の据込み空域とに余剰材料を据え込むようにしている方法とした場合にあっては、上述した本発明の、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制し、孔拡げ加工によって割れ等が発生することを抑制できるという作用効果を適正に発揮でき得る。
ここで、支持用金型に形成された内側円孔の開口径が、
D1−0.2t×2≦D2<D1−0.1t×2
(ここで、D1:予備加工パンチの外周径、t:板状基材の板厚、D2:開口径)
を満足するように設けられている方法とする。この方法の場合、支持用金型の開口径D2と予備加工パンチの外周径D1とにより規定される環状領域を圧縮変形すると、該圧縮変形に伴う板面方向の延伸変形を据込み用の下穴内および据込み空域に充分に据え込むことができるため、上述した本発明の、予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に加工硬化が生じることを抑制する作用効果を一層高め得る。
また、予備加工パンチは、環状を成し、その内側に開口した空域により据込み空域を構成するようにしたものであって、予備圧縮工程で、該予備加工パンチにより押圧される余剰材料を、据込み用の下穴内と予備加工パンチの据込み空域とに余剰材料を据え込むようにしている方法とした場合にあっては、環状の予備加工パンチにより圧縮変形して生ずる板面方向の延伸変形を、該予備加工パンチの据込み空域に据込み易く、予備加工パンチにより切断される板状基材の切断部位に生ずる加工硬化を抑制する効果が高い。したがって、上述した本発明の、ハブ素円孔の孔周縁部に加工硬化が生じることを抑制し、孔拡げ加工によって割れ等が発生することを抑制できるという作用効果を一層適正に発揮でき得る。
図1は、スチール製の車両用ホイール1の縦断面図である。この車両用ホイール1は、板状基材21(図3参照)からプレス加工により成形した円盤状のホイールディスク2とロール加工により成形した円筒状のホイールリム3とを嵌合してなるものである。
上記したホイールディスク2は、図1,2のように、中央にハブ孔5が開口されたハブ取付部7が形成されており、該ハブ取付部7の外周部分(ハブ面アール部)7aからホイール表方に隆起するハット部8が形成されている。そして、ハット部8には複数の飾り孔10が設けられており、該ハット部8の外側には、ホイール軸方向に沿ってディスクフランジ部9が周成されている。また、前記ハブ取付部7には、ハブ孔5の開口縁からホイール表方へ起立するハブ孔フランジ部6が形成されており、該ハブ孔フランジ部6の周囲にナット座を備えた複数のボルト孔4が同一円周上に等間隔で穿設されている。
一方、ホイールリム3は、図1のように、異形断面の円筒状を呈し、その両側の外端縁に図示しないタイヤのサイドウォール部を支持するフランジ部11a,11bとが形成されており、該フランジ部11a,11bに夫々に連続させて、タイヤのビードを保持するビードシート部12a,12bとが軸方向と略平行に形成されている。さらに、該ビードシート部12a,12b間には、ホイールリム3の内径側に陥没するドロップ部13が設けられており、タイヤ装着時にタイヤのビードを該ドロップ部13に落とし込むことによって、その装着が容易となるようにしている。また、このドロップ部13の内周面に、上述したホイールディスク2のディスクフランジ部9が嵌合されて溶接されることにより、車両用ホイール1が形成される。本実施例1の車両用ホイール1は、所謂ドロップ嵌合ホイールである。
上記したホイールディスク2は、延伸材料であるスチール製の板状基材21をプレス加工することにより成形される(図3〜6参照)。この板状基材21は、板面方向に延伸してなるスチール製板から所定形状に切り出したものであり、板面方向に沿った縞状組織からなる。
上記したハブ孔フランジ部6は、板状基材21の中央にハブ素円孔28を穿設する素円孔加工工程と、該ハブ素円孔28の孔周縁部29を、所定の孔拡げパンチ54でホイール裏方から押し上げて、ホイール表方に立ち上げる孔拡げ加工工程とを順次実行することによって成形される。尚、ホイールディスク2の製造工程にあって、素円孔加工工程および孔拡げ加工工程以外の工程は、従来と同様に実施し、その説明を省略する。
以下に、本発明の要部にかかる、ハブ孔フランジ部6を成形するための素円孔加工工程と孔拡げ加工工程とについて詳述する。
先ず、図3(A)のように、板状基材21の中央部周辺の裏面をダイス41により支持する。そして、図3(B)のように、円柱形の孔開けパンチ42により板状基材21の中央に円形の据込み用の下穴22を穿設する。ここで、下穴22は、板状基材21を板厚方向に貫通するように形成される。この下穴22を穿設する工程が、本発明にかかる据込み用下穴穿設工程である。そして、この円形の下穴22は、後述する予備圧縮工程において余剰材料を据え込むためのものである。
上記した据込み用下穴穿設工程の次に、据込み用の下穴22の孔周縁部23を押圧する予備圧縮工程を行う。予備圧縮工程は、図4のように、下穴22の孔周縁部23をそのホイール表方から押圧する予備加工パンチ44と、該予備加工パンチ44に対向して板状基材21の中央部をその裏面から支持する支持用ダイス43とによりプレス加工することで行う。予備加工パンチ44は、略円柱形をなし、その外周径D1がハブ素円孔28の孔径と等しくなっている。また、支持用ダイス43には、その中央に開口する内側円孔45が形成されており、その開口径D2が前記予備加工パンチ44の外周径D1よりも小径としている(外周径D1>開口径D2)。すなわち、予備加工パンチ44と支持用ダイス43とのクリアランスはマイナスとなっている。
ここで、予備加工パンチ44と支持用ダイス43とのクリアランスとしては、−10%よりも小さく且つ−20%以上となるように設定している。このクリアランスを用いて予備加工パンチ44の外周径D1と支持用ダイス43の開口径D2との関係を表すと式(1)の範囲となる。尚、式(1)は、板状基材21の板厚tとの関係により表されている。
D1−0.2t×2≦D2<D1−0.1t×2 ・・・(1)
尚、本実施例1にあっては、このクリアランスを−20%とするように、予備加工パンチ44の外周径D1および支持用ダイス43の開口径D2を設定している。
さらに、本実施例1にあっては、予備加工パンチ44の押圧面の周端部は、図4のように、丸みを帯びた刃部となっている。この丸みを帯びた刃部を、以下の説明では刃角丸み部44aという。この刃角丸み部44aの半径は、予備加工パンチ44の外周径D1に比してかなり小さく設定されている。このように予備加工パンチ44の押圧面の周端部を刃角丸み部44aとすることにより、バリや荒れを生じる破断面が発生することを抑制し、予備加工パンチ44の耐久寿命を向上させることができる。
上記した支持用ダイス43にあって、その内側円孔45により構成される空域が、本発明にかかる据込み空域46である。
予備圧縮工程は、図4(A)のように、板状基材21の裏面を支持用ダイス43で支持し、図4(B)のように、据込み用の下穴22の孔周縁部23を、そのホイール表方から予備加工パンチ44により板厚方向に沿って押圧する。ここで、予備加工パンチ44は、下穴22の孔周縁部23の板厚未満とする所定押込深さhまで押圧する。この押込深さhは、本実施例1にあって、下穴22の孔周縁部23の板厚に対して約50%としている。尚、押込深さhとしては、下穴22の孔周縁部23の板厚に対して10%以上且つ50%以下とする範囲に設定することが好適である。また、予備加工パンチ44により押圧する際には、下穴22にガイドピンなどを嵌入することなく実施する。すなわち、下穴22の孔端面22aを拘束せずに、予備加工パンチ44により下穴22の孔周縁部23を押圧する。
予備加工パンチ44による押圧加工の際には、据込み用の下穴22の孔周縁部23の、該予備加工パンチ44と支持用ダイス43とのマイナスのクリアランスによって囲まれる環状領域が挟圧される。そして、この環状領域が、予備加工パンチ44の押圧加工によって板厚方向に圧縮変形する。この圧縮変形に伴い、板面方向に延伸変形を生ずる。この延伸変形によって生ずる余剰材料を、板厚方向に穿設された下穴22内に据え込むことができる。そのため、予備加工パンチ44が押圧することによって切断する板状基材21の切断部位に、前記延伸変形が生ずることを抑制でき、加工硬化が生ずることを抑制でき得る。
一方、据込み用の下穴22の孔周縁部23の、支持用ダイス43の内側円孔45の直上領域は、その下面を支持用ダイス43により支持されていないため、予備加工パンチ44の押圧加工によって、該内側円孔45内の据込み空域46に入り込んでいく。すなわち、予備加工パンチ44による押圧加工によって生じた余剰材料が、据込み空域46に据え込まれる。
また、予備圧縮工程で予備加工パンチ44が押圧することによって切断する板状基材21の切断部位は、その下面が支持用ダイス43により支持されていることから、該予備加工パンチ44のせん断力によって板厚方向に比較的鋭く切断することができる。そのため、予備加工パンチ44により切断されて形成される第一切断周面26(図7(A)参照)は、平滑な面となる。
このように予備圧縮工程では、予備加工パンチ44と支持用ダイス43とにより据込み用の下穴22の孔周縁部23を所定の押込深さhまで押圧加工することによって、ハブ素円孔28を途中まで打ち抜き、該ハブ素円孔28を部分的に形成している。そして、この押圧加工では、上記のように、予備加工パンチ44により切り込まれた板状基材21の切断部位(第一切断周面26の周辺部位)に加工硬化が生じることを抑制している。
尚、この予備圧縮工程で予備加工パンチ44に押圧される部位が、次の素円孔穿設工程で除去される半打抜き部位48であり、この半打抜き部位48には、予備圧縮工程で生じた余剰材料が据え込まれている。
上述の予備圧縮工程にあって、支持用ダイス43が、本発明にかかる支持用金型である。また、この支持用ダイス43により支持する板状基材21の裏面が、本発明にかかる一側面である。また、予備加工パンチ44の外周径D1(ハブ素円孔28の孔径)は、予め定められた孔径のハブ孔5を成形し、所定高さのハブ孔フランジ部6を成形するように設定されている。すなわち、ハブ素円孔28の孔径と、後述する孔拡げ加工工程で形成するハブ孔フランジ部6の内周径との半径差が、該ハブ孔フランジ部の高さとなるように、予備加工パンチ44の外周径D1を設定している。
上述した予備圧縮工程を行った後に、素円孔穿設工程を実施してハブ素円孔28を形成する。素円孔穿設工程は、図5のように、略円柱形の孔開けパンチ50と該孔開けパンチ50に対向するダイス51とにより実施する。孔開けパンチ50は、ハブ素円孔28の孔径と等しい外周径D1となっている。そのため、上記した予備加工パンチ44を孔開けパンチ50として用いることも可能である。尚この場合には、孔開けパンチ50の押圧面の周端部を、予備加工パンチ44と同様に、刃角丸み部50aとする。一方、ダイス51は、その中央に開口する開口径D3を、孔開けパンチ50の外周径D1より大径としている。すなわち、孔開けパンチ50とダイス51とのクリアランスはプラスに設定されている。
ここで、孔開けパンチ50とダイス51とのクリアランスとしては、12%以上且つ28%以下となるように設定している。このクリアランスを用いて孔開けパンチ50の外周径D1とダイス51の開口径D3との関係を表すと次式(2)の範囲となる。尚、式(2)は、板状基材21の板厚tおよび押込深さhとの関係により表されている。
D1+0.12(t−h)×2≦D3≦D1+0.28(t−h)×2 ・・・(2)
尚、本実施例1にあっては、このクリアランスを24%とするように、孔開けパンチ50の外周径D1およびダイス51の開口径D3を設定している。
素円孔穿設工程は、図5(A)のように、ダイス51により板状基材21の裏面を支持する。そして、図5(B)のように、孔開けパンチ50により、上記した予備圧縮工程で押圧した半打抜き部位48を除去し、板状基材21の中央にハブ素円孔28を穿設する。この素円孔穿設工程では、既に予備圧縮工程によりハブ素円孔28を途中まで形成している状態から、孔開けパンチ50を、予備加工パンチ44により切断されて形成された第一切断周面26に沿って打ち込むことにより、ハブ素円孔28を形成する。ここで、孔開けパンチ50が打ち抜く加工量は、予備圧縮工程の押込深さhの残り深さ(t−hの厚み)に従うことから、当該加工量も比較的少ない。このようなことから、孔開けパンチ50により打ち抜くことで形成した第二切断周面27(図7(B)参照)は、バリや荒れ等の発生を抑制できると共に、該孔開けパンチ50により切断された板状基材21の切断部位(第二切断周面27の周囲部位)に生ずる加工硬化を減少することができる。
このように、ハブ素円孔28を、予備圧縮工程と素円孔穿設工程とにより二工程に分けて形成するようにしている。そして、予備圧縮工程で予備加工パンチ44により切断される板状基材21の切断部位(第一切断周面26の周囲部位)に加工硬化が生ずることを抑制でき、素円孔穿設工程で孔開けパンチ50により切断される板状基材21の切断部位(第二切断周面27の周囲部位)に生ずる加工硬化を減少することができ得る。そのため、総じて、ハブ素円孔28の孔周縁部29に、その形成過程で生ずる加工硬化が抑制されている。
尚、上述した据込み用下穴穿設工程、予備圧縮工程、素円孔穿設工程とによって、本発明にかかる素円孔加工工程が構成されている。
素円孔穿設工程の次に、孔拡げ加工工程を実施してハブ孔フランジ部6を成形する。孔拡げ加工工程は、図6のように、孔拡げパンチ54と外側押えリング55とにより実施する。孔拡げパンチ54は、その上側加工部を略円錐形とし、下側加工部を円柱形としてなり、ハブ素円孔28の孔周縁部29を徐々に立ち上げていくことができるようにしている。尚、本実施例1にあっては、外側押えリング55の内周径を、ハブ孔フランジ部6の外周径と等しく設定し、孔拡げパンチ54の外周径D4を、ハブ素円孔28の孔径との半径差が該ハブ孔フランジ部6の所定高さとなるように設定している。また、孔拡げ率は、ハブ素円孔28の孔径に対する、該ハブ素円孔28の孔径と孔拡げ加工で折り曲げられて形成されるハブ孔フランジ部6の内周径との径差の比率である。そのため、本実施例にあって、孔拡げ率は、孔拡げパンチ54の外周径D4と上記した予備加工パンチ44の外周径(ハブ素円孔の孔径)D1とにより決まると言える(近似すれば、孔拡げ率≒(D4−D1)/D1×100%)。
図6(A)のように、板状基材21の表面に、そのハブ素円孔28と同心状とするように外側押えリング55を当接する。そして、図6(B)のように、孔拡げパンチ54を、ハブ素円孔28の孔周縁部29の裏面側から、その板厚方向に沿って押し上げる。これにより、ハブ素円孔28の孔周縁部29をホイール表方へ折り曲げて立ち上げ、ハブ孔フランジ部6を形成する。
この孔拡げ加工工程にあって、ハブ素円孔28の孔周縁部29をホイール表方へ孔拡げ加工しても、ハブ孔フランジ部6に割れ等の不具合が生じることを抑制することができ得る。これは、上述した予備圧縮工程と素円孔穿設工程とによってハブ素円孔28の孔周縁部29に生ずる加工硬化が抑制されており、孔拡げ加工工程でハブ素円孔28が拡径しても破断歪まで達しないためである。そして、孔拡げ加工工程でハブ素円孔28を拡径する孔拡げ率を比較的大きくするように設定しても、ハブ孔フランジ部6に割れが発生することを防ぐことができる。そのため、ハブ孔フランジ部6の高さが比較的高い寸法に設定されており、孔拡げ率を大きくするように設定しなければならない場合にあっても、孔拡げ加工工程で割れ等の不具合が生じることを抑制できる。同様に、ハブ孔フランジ部6の内周径が異なる構成の場合にも、同じ孔径のハブ素円孔28から形成することが可能である。このようにハブ孔フランジ部6の高さ寸法や内周径が異なる構成を製造する場合に、前記孔拡げ率を大きくするようにしても、不良品の発生率を著しく低減することができるため、製造コストの高騰を抑えることができ得る。
また、予備圧縮工程の前に形成する据込み用の下穴22を円形に形成していることから、該予備圧縮工程で押圧加工する際に、予備加工パンチ44により生じる余剰材料を該下穴22へその周方向に亘ってほぼ均一に延出することができる。これにより、予備加工パンチ44により切断する板状基材21の切断部位(第一切断周面26の周囲部位)に、その周方向に亘ってほぼ均一に加工硬化を抑制する効果が発揮され得る。
一方、上述した予備圧縮工程の実施後に、予備加工パンチ44により切り込まれた板状基材21の切断部位(第一切断周面26の周囲部位)の断面を観察した結果、図7(A)のように、第一切断周面26の端部では、縞状組織30がほぼ板面方向に沿っている。これにより、予備加工パンチ44により切り込まれた板状基材21の切断部位では、該予備加工パンチ44の押圧加工による加工硬化をほとんど生じていないことがわかる。また、素円孔穿設工程の実施後に、ハブ素円孔28の孔周縁部29の断面を観察した結果、図7(B)のように、孔開けパンチ50により切断された板状基材21の切断部位(第二切断周面27の周囲部位)では、僅かにホイール裏方へ湾曲した縞状組織31を確認した。これにより、孔開けパンチ50により切断された板状基材21の切断部位では、加工硬化が若干生じていると言える。ここで、孔開けパンチ50により切断された板状基材21の切断部位(第二切断周面27の周囲部位)では、縞状組織31の湾曲する形態が板厚方向で変化していることから、加工硬化の大きさも板厚方向で変化していることが伺える。
この本実施例1と比較するために、予備圧縮工程を実施せずに、図13のように孔開けパンチ81とダイス82とによりハブ素円孔88を穿設した場合について、該ハブ素円孔88の孔周縁部89を断面観察した。尚、このように一度にハブ素円孔88を形成する方法は、従来から一般的に実施されている方法であり、孔開けパンチ81とダイス82とのクリアランスは+12%に設定されている。すなわち、孔開けパンチ81の外周径D6とダイス82の開口径D7とが次式の関係となる。尚、tは、板状基材21の板厚である。
D6+0.12t×2=D7
そして、この従来方法では、板状基材21の中央に位置決め用の基準孔85が予め穿設されており、ハブ素円孔88を穿設する工程にあって、図13(A)のように、ダイス82により板状基材21の裏面を支持し、基準孔85にガイドピン83を嵌入する。そして、図13(B)のように、ガイドピン83を基準孔85に嵌入して保持し、孔開けパンチ81によりハブ素円孔88を穿設する。
このような従来方法の場合は、図14のように、ハブ素円孔88の孔端部で、板厚方向に湾曲する縞状組織87を確認した。この従来方法で形成したハブ素円孔88の縞状組織87は、上記した本実施例1で形成したハブ素円孔28の縞状組織31に比して、大きく湾曲しており、また湾曲している領域も広い。特に、従来方法のハブ素円孔88の下部では、湾曲形態が極めて大きく破断による影響が強くなっている。これにより、従来方法の場合には、ハブ素円孔88の孔端部に比較的大きな加工硬化が生じていることがわかる。
このような観察結果から、本実施例1の素円孔加工工程により形成されたハブ素円孔28では、その孔周縁部29に生ずる加工硬化を抑制できていることが明らかである。したがって、この加工硬化が抑制されていることから、孔拡げ加工工程でハブ素円孔28の孔周縁部29を起立しても、割れ等が生じることを防止できる。そして、この孔拡げ加工工程で孔拡げ率を比較的大きくするように設定しても、割れ等の発生を抑制することができ得る。
一方、このような実施例1のハブ孔フランジ部成形方法によりハブ孔フランジ部6を成形した場合に、該ハブ孔フランジ部6の先端部に割れ等の不具合を生じない孔拡げ率(%)を確認するための試験を実施した。尚、孔拡げ率は、上述したように、ハブ素円孔の孔径に対する、ハブハブ孔フランジ部6の内周径とハブ素円孔の孔径との径差の比率である。
尚、この試験には、板状基材21として、板厚3.5mmの自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板(SPFH590)を用いた。また、予備圧縮工程における、予備加工パンチ44としては、その外周径D1が36mmφのものを用い、また、支持用ダイス43としては、その開口径D2が35.2mmφのものと34.6mmφのものとの二種類を用いている。ここで、開口径D2が35.2mmφのものは、予備加工パンチ44とのクリアランスが−11%であり、開口径D2が34.6mmφのものは、予備加工パンチ44とのクリアランスが−20%である。さらに、予備圧縮工程では、予備加工パンチ44の押込深さhを、据込み用の下穴22の孔周縁部23の板厚に対して10%,30%,50%に夫々設定している。このように、予備圧縮工程の試験条件として、クリアランスと押込深さhとを設定している。また、素円孔穿設工程における、孔開けパンチ50は予備加工パンチ44と同じ外周径D1のものを用い、ダイス51はその開口径D3を36.84mmφのものを用いている。そして、孔拡げ加工工程にあって、外周径D4の異なる孔拡げパンチ54を用いることにより、孔拡げ率が変わるようにして試験を実施している。
この試験の結果を図12に示す。この図12に示した値が、孔拡げ加工工程によってハブ孔フランジ部6に割れ等の不具合を生じず、該ハブ孔フランジ部6の成形に有効な孔拡げ率の最大値である。本実施例1の構成にあっては、クリアランスと押込深さhとの設定値がいずれの場合にあっても、高い孔拡げ率で成形することが可能である。特に、クリアランス−11%における押込深さhが30%の場合に、最も高い孔拡げ率を達成している。また、クリアランス−20%の場合には、押込深さ30%および50%の両方で、極めて高い孔拡げ率を達成している。この試験結果から、本実施例1のハブ孔フランジ部成形方法によれば、孔拡げ率を高くして成形する場合にあっても、ハブ孔フランジ部6に割れ等の不具合が発生することなく該ハブ孔フランジ部6を成形できることが明らかである。
尚、予備加工パンチの押圧面の周端部を直角形状とした場合についても、同様に孔拡げ率の試験を実施した。その結果も図12に並記している。尚、予備加工パンチの周端部を直角形状とした以外は、全て上記した試験条件と同じである。この結果から、予備加工パンチ44が刃角丸み部44aを有する構成に比して、予備加工パンチの周端部を直角形状とした構成では、有効な孔拡げ率の最大値は低減する傾向にあるものの(クリアランスを−11%、押込深さhを50%とした場合を除く)、総じて高い孔拡げ率を達成している。したがって、予備加工パンチの周端部を直角形状としても、同様に、高い孔拡げ率でハブ孔フランジ部6を成形した場合にも、割れ等の不具合を生じることなく成形可能である。
実施例2にあっては、図8のように、予備圧縮工程で、環状の予備加工パンチ64を用い、該予備加工パンチ64の内側に形成した据込み空域66に、余剰材料を据え込むようにしている。詳述すると、予備加工パンチ64は、円柱状の金型の下端部を、所定開口径により下方開口することにより環状に形成されている。すなわち、当該金型の下端部により、押圧加工するための予備加工パンチ64が構成されている。このように、円柱状の金型下端部に予備加工パンチ64を形成している構成にあって、その予備加工パンチ64の内側開口する深さとしては、その天井面が予備圧縮工程で板状基材21に接触しない深さに設定している。すなわち、予備圧縮工程の押込深さhよりも深くなるように設定する。
尚、本実施例2にあっては、予備加工パンチ64の押圧面の周端部64aを、図8のように直角形状としている。
上述した実施例1と同様に、据込み用下穴穿設工程で板状基材21の中央に円形状の据込み用の下穴22を穿設した後に、予備圧縮工程を行う。この予備圧縮工程は、図8(A)のように、環状の予備加工パンチ64と、板状基材21の中央部をその裏面から支持して裏方への変形を生じないようにする支持用金型63とによりプレス加工することで行う。
環状の予備加工パンチ64は、その外周径D1がハブ素円孔28の外周径と等しくなっている。また、予備加工パンチ64の内周径は、該予備加工パンチ64が板状基材21側に開口していることから、本発明にかかる開口径D2aである。本実施例2にあっては、開口径D2a、外周径D1、板状基材21の板厚tの関係を、次式(3)となるように設定している。
D1−0.4t×2≒D2a ・・・(3)
尚、開口径D2a、外周径D1、板状基材21の板厚tの関係は、次式(4)となるように設定することも可能である。
D1−0.5t×2≦D2a≦D1−0.1t×2 ・・・(4)
また、予備加工パンチ64の内側空域により、本発明にかかる据込み空域66が構成されている。
予備圧縮工程は、図8(A)のように、据込み用の下穴22の孔周縁部23を支持用金型63により支持する。そして、図8(B)のように、環状の予備加工パンチ64によりホイール表方から押圧する。この予備圧縮工程にあっても、上述した実施例1と同様に、下穴22にガイドピンなどを嵌入せず、該下穴22の孔端面22aを拘束せずに行っている。この予備加工パンチ64による押圧加工の際には、該予備加工パンチ64により押圧される環状領域が板厚方向に圧縮変形する。そして、この板厚方向への圧縮変形に伴って板面方向に延伸変形を生じ、該延伸変形により生じる余剰材料が下穴22内と据込み空域66内とに流れる。そのため、予備加工パンチ64により切り込まれる板状基材21の切断部位(第一切断周面67の周囲部位)に、加工硬化が生ずることを抑制できる。ここで、本実施例2にあっては、環状の予備加工パンチ64の内側に据込み空域66が設けられていることため、該予備加工パンチ64による押圧加工の開始直後から、前記した延伸変形による余剰材料が据込み空域66にも流動し易くなっており、特に予備加工パンチ64により切断される板状基材21の切断部位(第一切断周面67の周囲部位)に生ずる加工硬化を抑制する効果に優れている。
本実施例2にあっても、予備加工パンチ64の押込深さhを、据込み用の下穴22の孔周縁部23の板厚に対して約50%として設定している。このような環状の予備加工パンチ64による押圧加工の押込深さhとしては、下穴22の孔周縁部23の板厚に対して10%以上且つ50%以下とすることが好適である。
尚、この予備圧縮工程で予備加工パンチ64に押圧された環状領域で囲まれた部位が、次の素円孔穿設工程で除去される半打抜き部位68であり、この半打抜き部位68には、予備圧縮工程で生じた余剰材料が据え込まれている。
このように予備圧縮工程を行った後に、図9のように、素円孔穿設工程を行う。図9(A)のように、ダイス51により板状基材21の裏面を支持し、図9(B)のように、孔開けパンチ60により上記半打抜き部位68を打ち抜いてハブ素円孔28を穿設する。ここで、孔開けパンチ60は、上記した予備圧縮工程で用いた予備加工パンチ64と同じ寸法形状のものを用いている。また、ダイス51は、上述した実施例1と同様のものを用いている。そして、孔開けパンチ60とダイス51とのクリアランスは、上述した実施例1と同様に設定されている(式(2)参照)。尚、ここで、孔開けパンチ60としては、実施例1と同様に円柱形の孔開けパンチを用いて実施することも可能である。素円孔穿設工程でハブ素円孔28を穿設した後に、上述した実施例1と同様に孔拡げ加工工程を行い、ハブ孔フランジ部6を形成する(図6参照)。
尚、本実施例2にあっては、上記した素円孔加工工程以外を、上述した実施例1と同様に実施しており、その説明を省略している。
このように形成されたハブ孔フランジ部6にあっても、上述した実施例1と同様に、割れ等の不具合が生じることを抑制でき得る。すなわち、本実施例2にあっても、ハブ素円孔28の孔周縁部29に生ずる加工硬化が抑制されるため、孔拡げ加工工程で該ハブ素円孔28を拡径しても破断歪まで達せず、割れを生じない。このように、本実施例2の成形方法にあっても、上述した実施例1と同様の作用効果を発揮し得る。
また、図10に、予備圧縮工程した実施後に、予備加工パンチ64により切り込まれた板状基材21の切断部位(第一切断周面67の周囲部位)の断面を観察した結果を示す。予備加工パンチ64により切り込まれた板状基材21の切断部位では、その上部でほぼ板面方向に沿った縞状組織30がみられ、下端部で僅かに下方へ湾曲する縞状組織61を確認した。これにより、本実施例2の予備圧縮工程を実施することにより、加工硬化を抑制できていることがわかる。そのため、素円孔穿設工程により形成したハブ素円孔28は、その孔周縁部29に加工硬化が生じることを抑制でき得る。したがって、孔拡げ加工工程でハブ素円孔28の孔周縁部29を起立しても、割れ等が生じることを防止できる。
このような実施例2にあっても、上述した実施例1と同様に、ハブ孔フランジ部6の先端部に割れ等の不具合を生じない孔拡げ率を確認する試験を行った。ここで、予備加工パンチ64の開口径D2aは、上記した式(3)を満足するように設定している。具体的には、予備加工パンチ64の外周径D1を36mmφとし、開口径D2aを33.2mmφとしている。その他は、上述した実施例1の試験と同様に実施した。この試験結果を、図12に示す。押込深さhが10%,30%,50%のいずれの場合にあっても、高い孔拡げ率で成形することが可能である。特に、押込深さhが深くなるに従って、孔拡げ率も高くなる傾向を示しており、50%の場合に最も高い孔拡げ率を達成している。この試験結果から、本実施例2のハブ孔フランジ部成形方法によれば、上述した実施例1と同様に、孔拡げ率を高くして成形する場合にあっても、ハブ孔フランジ部6に割れ等の不具合が発生することなくハブ孔フランジ部6を成形できることが明らかである。
実施例3にあっては、図11のように、予備圧縮工程を、環状の予備加工パンチ74と支持用ダイス73とを用いて実施するようにしている。ここで、予備加工パンチ74と支持用ダイス73との両方に、それぞれ据込み空域76,77が設けられている。
環状の予備加工パンチ74は、上述した実施例2と同様に、その外周径D1がハブ素円孔28の外周径と等しくなっており、また、内周径が本発明にかかる開口径D2aである。そして、予備加工パンチ74の内側空域により、本発明にかかる据込み空域76が構成されている。
また、支持用ダイス73は、その中央に開口する内側円孔78が形成されており、その開口径D2が上記予備加工パンチ74の外周径D1よりも小径としている。すなわち、予備加工パンチ74と支持用ダイス73とのクリアランスはマイナスとなっている。尚、支持用ダイス73にあって、その内側円孔78により構成される空域が、本発明にかかる据込み空域77である。
さらに、予備加工パンチ74の開口径D2aは、上述した実施例2の式(4)を満足するように設定している。同様に、支持用ダイス73の開口径D2にあっては、上述した実施例1の式(1)を満足するように設定している。そして、予備加工パンチ74の開口径D2aと支持用ダイス73の開口径D2とは、同じであっても異なっていても良い。すなわち、予備加工パンチ74の開口径D2aと支持用ダイス73の開口径D2との両者が、本発明にかかる開口径である。ここで、本実施例3にあっては、予備加工パンチ74の外周径D1と支持用ダイス73の開口径D2とのクリアランスを、−20%とするように、該外周径D1および開口径D2とを設定している。また、予備加工パンチ74の開口径D2aを、上述した実施例2の式(3)によって設定している。そのため、予備加工パンチ74の開口径D2aは、支持用ダイス73の開口径D2に比して小さくなる。
予備圧縮工程は、図11(A)のように、支持用ダイス73により板状基材21の中央をその裏面から支持する。そして、図11(B)のように、予備加工パンチ74により据込み用の下穴22の孔周縁部23をホイール表方から押圧する。この押圧加工の際に、予備加工パンチ74と支持用ダイス73とにより挟圧される環状領域が圧縮変形し、該変形に伴って板面方向に延伸変形する。この延伸変形による余剰材料が、主に下穴22内と予備加工パンチ74の据込み空域76内とに流れる。さらに、支持用ダイス73の据込み空域77にも余剰材料が流れる。このように、予備加工パンチ74の押圧加工によって生ずる余剰材料が、下穴22や据込み空域76,77に流れるため、予備加工パンチ74に切り込まれる板状基材21の切断部位(第一切断周面79の周囲部位)に生ずる加工硬化を抑制することができ得る。
尚、上述の予備圧縮工程にあって、支持用ダイス73が、本発明にかかる支持用金型である。また、この支持用ダイス73により支持する板状基材21の裏面が、本発明にかかる一側面である。
本実施例3にあっては、予備加工パンチ74の押込深さhを、上述した実施例2と同様に、据込み用の下穴22の孔周縁部23の板厚に対して約50%としている。この押込深さhとしては、下穴22の孔周縁部23の板厚に対して10%以上且つ50%以下とすることが好適である。
このように予備圧縮工程を行った後に、上述した実施例2と同様に素円孔穿設工程を行う(図9参照)。尚、この素円孔穿設工程では、予備圧縮工程で用いた環状の予備加工パンチ74を使用することも可能であるし、また、実施例1と同様に円柱形の孔開けパンチ50を用いて実施しても良い。素円孔穿設工程でハブ素円孔28を穿設した後に、上述した実施例1と同様に孔拡げ加工工程を行い、ハブ孔フランジ部6を形成する(図6参照)。
尚、本実施例3にあっては、上記した素円孔加工工程以外を、上述した実施例1と同様に実施しており、その説明を省略している。
このように形成されたハブ孔フランジ部6にあっても、上述した実施例1と同様に、割れ等の不具合が生じることを抑制でき得る。すなわち、本実施例3にあっても、ハブ素円孔28の孔周縁部29に生ずる加工硬化が抑制されるため、孔拡げ加工工程で該ハブ素円孔28を拡径しても破断歪まで達せず、割れを生じない。このように、本実施例3の成形方法にあっても、上述した実施例1と同様の作用効果を発揮し得る。
上述した実施例1にあっては、予備加工パンチ44の周端部を刃角丸み部44aとした構成であるが、その他の構成として、予備加工パンチの周端部を、直角形状や面取りした形状とすることも可能である。いずれの形状としても、実施例1とほぼ同様の作用効果を生ずる。また、同様に、実施例2や実施例3の予備加工パンチ64,74にあってもその周端部を、直角形状の他、丸みを帯びた形状、面取りした形状のいずれとすることも可能である。
上述した実施例1〜3にあっては、板状基材21の中央に円形の据込み用の下穴22を設けるようにした方法である。その他の方法として、板状基材21の中央に四角形、五角形などの多角形の下穴を設けるようにしてもよい。
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、本発明の範囲内で適宜変更することは勿論可能である。例えば、上述した実施例1〜3の車両用ホイール1は、ドロップ部13の内周面にホイールディスク2のディスクフランジ部9を嵌合してなる所謂ビード嵌合ホイールであるが、これに限らず、所謂ビード嵌合ホイールやフルフェイスホイールに本発明を適用することもできる。そして、このようなビード嵌合ホイールやフルフェイスホイールに本発明を適用した場合にあっても、ビード嵌合ホイールの場合と同様の作用効果を発揮することができ得る。