以下、本発明の実施の形態につき説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体であって、前記感光層が、バインダー樹脂として少なくともポリアリレート樹脂を含有し、さらに、下記式(1)で表される化合物Aと、下記式(2)で表される化合物Bとを含有する。
(化合物A、化合物B)
化合物Aは下記式(1)で表される。
式(1)中、Ar1〜Ar3は、置換基を有してもよい環状基を表し(ただし、前記環状基の最外郭炭素上のπ電子数が4m+2で表され、mは自然数を表す。)、R1〜R3は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
化合物Aは、通常、添加剤として感光層に含まれる。また、化合物Aは電荷輸送機能を有する場合があるため、こうした場合には電荷輸送物質として使用することもできる。電荷輸送物質として化合物Aを使用する場合には、電荷輸送物質として、化合物Aが少なくとも、一種類以上含まれていることが好ましい。
Ar1〜Ar3は、置換基を有してもよい環状基(環の最外郭炭素上のπ電子数が4m+2で表される:mは自然数)を表す。mは、1ないし3が好ましく、更に好ましくは、1である。こうした環状基としては、通常、炭素数6以上、14以下のものを挙げることができ、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントニレン基、ピレニレン基等がある。好ましくは、環状基としてフェニレン基を用いることである。なお、環状基の環の最外郭炭素上のπ電子数は4m+2で表されるので、ビフェニレン基、フルオレニレン基等の環の最外郭炭素上のπ電子数が4m+2で表されないものは、上記環状基には含まれない。また、Ar1〜Ar3は、同一であっても異なっていてもよいが、化合物Aに電荷輸送機能を付与する観点からは、Ar1〜Ar3を同一構造とすること、又は、Ar1〜Ar3のうちの少なくとも2つは同一構造とすること、が好ましい。
Ar1〜Ar3は、それぞれR1〜R3以外に置換基を有していてもよい。こうした置換基としては、炭素数が、通常1以上、10以下のものを挙げることができ、例えば、炭素数10以下のアルキル基、アルコキシ基、アリール基等がある。置換基として好ましくは、炭素数6以下のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数2以下のアルキル基である。なお、これら置換基は、Ar1〜Ar3に結合するとともにR1〜R3に結合し、環を生成することはないものとする。
R1〜R3は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。R1〜R3は、互いに同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の炭素数は、電荷輸送機能を付与する観点から、通常1以上、10以下とする。アルキル基は、直鎖又は分岐のいずれであってもよいが、感光層中での溶解性や感光層形成用塗布液中での溶解性の観点からは分岐のものを用いることが好ましい。こうしたアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、及びオクタデシル基等を挙げることができる。アルキル基として、好ましくは炭素数が10以下のものを挙げることができるが、より好ましくはメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、及びプロピル基を挙げることができる。
R1〜R3に用いるアルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基等の炭素数6以上、16以下のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7以上、17以下のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1以上、15以下のアルコキシ基;ヒドロキシ基;ニトロ基;ハロゲン原子が挙げられる。これら置換基は、さらに置換基を有していてもよい。こうした置換基としては、炭素数20以下程度のものを挙げることができ、例えば、p―ジトリルアミノ基、m−メトキシフェニル基等がある。
R1〜R3のうちでも、R1は、下記式(3)で表される構造とすることが好ましい。
式(3)中、Ar4〜Ar6は、置換基を有してもよいアリール基を表し、R6,R7は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、又はアリール基を表す。
Ar4〜Ar6は、炭素数20以下のアリール基であることが好ましく、炭素数15以下のアリール基であることがより好ましく、炭素数10以下のアリール基であることがさらに好ましい。また、R6,R7をアルキル基又はアリール基とする場合には、その炭素数は、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。また、R6とR7は、連結して、環状構造を有してもよい。
これら、Ar4〜Ar6やR6,R7が有してもよい置換基としては、炭素数10以下のアルキル基、アリール基、アルコキシ基等が挙げられる。この中でも、アルキル基が好ましく、炭素数4以下のアルキル基がより好ましく、メチル基とすることがさらに好ましい。Ar5、Ar6がフェニル基である場合は、窒素のp位に置換基があることは好ましい。
以上説明した化合物Aについて、以下にその構造の具体例としての例示化合物(1−1)〜(1−18)を例示する。例示化合物は本発明の詳細な説明を行うために例示するものであり、化合物Aは、本発明の趣旨に反しない限り以下の構造に限定されるものではない。
化合物Bは下記式(2)で表される。
式(2)中、R4,R5は、置換基を有してもよいアルキル基を表し、Xは、炭素数20以下の有機基を表し、nは、2以上、4以下の整数を表す。
化合物Bは、通常、添加剤として感光層に含まれるが、特に、電荷輸送物質を含む層に含まれることは好ましい。この場合、電荷輸送物質として、化合物Aが少なくとも一種類以上含まれていることが好ましい。
R4,R5は、置換基を有してもよいアルキル基を表し、基本的には、R1〜R3と同様のものを用いることができる。置換基としてもR1〜R3で説明したものと同様のものを用いることができる。
好ましくは、R4,R5を炭素数4以上のかさ高い基とすることである。こうした基としては、例えば、t−ブチル基、ベンゾトリアゾリル基等を挙げることができる。一方、R4,R5の炭素数は10以下とすることが好ましい。
Xは、炭素数20以下の有機基を表すが、炭素数15以下とすることがより好ましく、炭素数10以下とすることがさらに好ましい。一方、電気特性を確保する観点から、炭素数は、通常3以上、好ましくは6以上とする。
また、Xは、環構造を有していることは好ましい。Xは、6員環構造を有していることがさらに好ましく、ベンゼン環構造を有していることが特に好ましい。
Xとしては、例えば、以下の構造をベースにして、nの値に応じて水素原子を2ないし3個、抜き去った残基を挙げることができる。
nは2以上、4以下の整数を表す。電気特性の観点から、nを3とすることが好ましい。
以上説明した化合物Bについて、以下にその構造の具体例としての例示化合物(2−1)〜(2−5)を例示する。例示化合物は本発明の詳細な説明を行うために例示するものであり、化合物Bは、本発明の趣旨に反しない限り以下の構造に限定されるものではない。
感光層に含有される後述するバインダー樹脂1に対する化合物Aの重量比が、0.01以上、1.5以下であることが好ましい。すなわち、感光層に含まれるバインダー100重量部に対して、化合物Aは、1重量部以上、150重量部以下とすることが好ましい。化合物Aの含有量は、5重量部以上とすることがより好ましく、電気特性の観点から、10重量部以上とすることがさらに好ましい。一方、化合物Aの含有量は、100重量部以下とすることがより好ましく、90重量部以下とすることがさらに好ましく、80重量部以下とすることが特に好ましく、70重量部以下とすることが最も好ましい。上記範囲とすれば、電荷輸送機能を確保しやすくなる。
感光層に含有される後述するバインダー樹脂1に対する化合物Bの重量比が、0.0005以上、0.10以下であることが好ましい。すなわち、感光層に含まれるバインダー100重量部に対して、化合物Bは、0.05重量部以上、10重量部以下とすることが好ましい。化合物Bの含有量は、0.01重量部以上とすることがより好ましく、電気特性の観点から、0.5重量部以上とすることがさらに好ましい。一方、化合物Bの含有量は、8重量部以下とすることがより好ましく、6重量部以下とすることがさらに好ましく、4重量部以下とすることが特に好ましく、3重量部以下とすることが最も好ましい。上記範囲とすれば、電荷輸送物質や電荷発生物質の特性を確保しやすくなる。
なお、感光層が複数の層からなり、化合物Bがポリアリレート樹脂と同一の層に含有される場合には、上記バインダー樹脂に対する化合物Bの含有量は、ポリアリレート樹脂を少なくとも有するバインダー樹脂に対するものとなる。一方、感光層を形成する層のうち、化合物Bとポリアリレート樹脂とが異なる層に含有されることとなる場合には、化合物Bが含有される層のバインダー樹脂の含有量を基準として化合物Bの含有量を定めればよい。
また、化合物Aに対する化合物Bの重量比は、0.001以上、0.2以下であることがより好ましい。すなわち、(化合物B/化合物A)は、0.001以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましく、0.05以上が特に好ましい。一方、化合物B/化合物Aは、1以下が好ましく、0.2以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。上記範囲とすれば、電気特性が確保されやすくなる。
化合物A,Bは、感光層が複数の層により形成されている場合には、それらの層のうちのいずれの層が含有してもよい。例えば、化合物A,Bがそれぞれ別の層に含有されてもよいが、化合物A,Bは、電荷輸送機能が必要とされる層に含有されることが好ましい。より具体的には、化合物A,Bは、電荷輸送物質が含有される電荷輸送層に共に含有させることが好ましい。
(ポリアリレート樹脂)
本発明の電子写真感光体は、感光層が、バインダー樹脂として少なくともポリアリレート樹脂を含有する。
ポリアリレート樹脂は、一般的に、ジオール成分と酸成分の部分構造を有する。これらの構造を形成するジオール成分としては、ビスフェノール残基、ビフェノール残基等が挙げられ、その好ましい例としては、下記式(4)で表されるものである。
式(4)中、Xは、下記いずれかの構造又は単結合を示す。
R1及びR2は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又はハロゲン化アルキル基を示し、Zは4〜20の置換又は非置換の炭素環を示し、Y1ないしY8は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、置換されていてもよいアリール基、又はハロゲン化アルキル基を示す。
ビスフェノール成分としては、例えば、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)プロパン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス−[フェノール]、4,4’−[1,4−フェニレンビスメチレン]ビス−[フェノール]、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス−[2,6−ジメチルフェノール]、4,4’−[1,4−フェニレンビスメチレン]ビス−[2,6−ジメチルフェノール]、4,4’−[1,4−フェニレンビスメチレン]ビス−[2,3,6−トリメチルフェノール]、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス−[2,3,6−トリメチルフェノール]、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス−[2,3,6−トリメチルフェノール]、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸ステアリルエステル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、フェノールフタルレイン、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルビニリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルビニリデン)]ビス[2−メチルフェノール]、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、等を挙げることができる。
ビフェノール成分としては、例えば、4,4’−ビフェノール、2,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’−ジメチル−2,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’−ジ−(t−ブチル)−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’,5,5’−テトラ−(t−ブチル)−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、等を挙げることができる。
これらの中で好ましい化合物としては、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、等のビスフェノール成分が挙げられる。
具体的に、より好ましく用いることのできるポリアリレート樹脂のジオール成分(ビスフェノール、ビフェノール等)を以下に例示する。本例示は、本発明の趣旨を明確にするために行うものであり、本発明の趣旨に反しない限りは例示される構造に限定されるものではない。
感光体の電気特性、機械的特性を考慮した場合に、ジオール成分として特に好ましいのは、以下構造を有するものである。
上記構造のうち、ジオール成分として下記構造が特に好ましい。
一方、酸成分としては、以下構造を用いることが好ましい。
上記構造中、Ara1,Ara2は、置換基を有してもよいアリーレン基を表し、Yは連結基を表す、na2は、0ないし1の整数である。Ara1,Ara2のアリーレン基としては、炭素数10以下のアリーレン基が好ましく、置換基としては、炭素数4以下の置換基が好ましい。Yは、上記式(4)中における連結基と同様のものを用いることができるが、好ましくは、酸素原子、メチレン基、である。
酸成分としては、具体的には、以下構造を有する化合物が好ましい。
酸成分としてより好ましいのは、以下の構造を有するものである。
なお、これらのジカルボン酸成分、ジオール成分を複数種組み合わせて用いることも可能である。
バインダー樹脂としては、ポリアリレート樹脂のみを用いてもよいが、ポリアリレート樹脂と、1又は2以上の他のバインダー樹脂とを併用してもよい。こうしたバインダー樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、及びこれらビニル重合体の共重合体や、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。こうした樹脂は、部分的に架橋させてもよいし、混合して用いてもよい。感光体の電気特性等の観点から、ポリアリレート樹脂と好ましく併用されるのは、ポリカーボネート樹脂である。ここで、併用が好ましいポリカーボネート樹脂としては、ジオール成分として、上記のジオール構造を有するものである。
ポリアリレート樹脂と他のバインダー樹脂とを併用する場合における、それぞれの樹脂の重量比は、ポリアリレート樹脂を100重量部とした場合に、他のバインダー樹脂を、通常1重量部以上、好ましくは20重量部以上とし、また、通常200重量部以下、好ましくは100重量部以下とする。上記範囲とすれば、感光体の電気特性と機械的特性とのバランスをとりやすくなる。
バインダー樹脂の分子量は、低すぎると機械的強度が不足する傾向となり、逆に分子量が高すぎると感光層形成のための塗布液の粘度が高くなり生産性が低下する傾向となる。このため、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂の場合、粘度平均分子量で、通常10,000以上、好ましくは20,000以上、また、通常100,000以下、好ましくは70,000以下とする。
(電子写真感光体)
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有するものであれば、その構造は特に制限されない。
(導電性支持体)
本発明の電子写真感光体は、感光層を支持するための導電性支持体を備えている。導電性支持体について特に制限はないが、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫等の導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。導電性支持体の形態としては、ドラム型、シート型、ベルト型等のものが用いられる。さらには、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性等の制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いてもよい。
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。また、陽極酸化被膜を施した導電性支持体に対しては、封孔処理を施すのが望ましい。陽極酸化被膜の形成や封孔処理は公知の方法により行えばよい。こうした陽極酸化処理の方法及び封孔処理の方法について以下説明する。
例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、及びスルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより陽極酸化被膜が形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100〜300g/l、溶存アルミニウム濃度は2〜15g/l、液温は15〜30℃、電解電圧は10〜20V、電流密度は0.5〜2A/dm2の範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
こうして形成された陽極酸化被膜に対して、封孔処理を行なうことは好ましい。封孔処理は、公知の方法で行われればよいが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、あるいは主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理が施されるのが好ましい。
上記低温封孔処理の場合に使用されるフッ化ニッケル水溶液濃度は、適宜選べるが、3〜6g/lの範囲で使用された場合、より好ましい結果が得られる。また、封孔処理をスムーズに進めるために、処理温度としては、25〜40℃、好ましくは30〜35℃で、また、フッ化ニッケル水溶液pHは、4.5〜6.5、好ましくは5.5〜6.0の範囲で処理するのがよい。pH調節剤としては、例えば、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、及びアンモニア水等を用いることができる。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1〜3分の範囲で処理することが好ましい。なお、被膜物性を更に改良するために、例えば、フッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、及び界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に添加しておいてもよい。次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。上記高温封孔処理の場合の封孔剤としては、例えば、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル−コバルト、及び硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることができるが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合の濃度は5〜20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。処理温度は80〜100℃、好ましくは90〜98℃で、また、酢酸ニッケル水溶液のpHは5.0〜6.0の範囲で処理するのが好ましい。ここでpH調節剤としてはアンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることができる。処理時間は、通常10分以上、好ましくは20分以上処理するのが好ましい。なお、この場合も被膜物性を改良するために、例えば、酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、及びノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に添加してもよい。次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。平均膜厚が厚い場合には、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件を必要とする。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じやすくなる。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
導電性支持体の表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法や研磨処理により粗面化されていてもよい。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、その表面を粗面化してもよい。また、より安価にするために、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム支持体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な導電性支持体が得られるので好ましい。
(下引き層)
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、バインダー樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。バインダー樹脂に対する粒子の混合比は任意に選べるが、10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。以下、粒子として金属酸化物粒子を用いる場合について説明する。
下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性から、0.1μm以上、20μm以下とすることが好ましい。また下引き層には、公知の酸化防止剤等を含んでいてもよい。
下引き層を、メタノールと1−プロパノールとを7:3の重量比で混合した溶媒に分散した液中の、動的光散乱法により測定される、金属酸化物粒子の体積平均粒子径が、0.1μm以下、好ましくは95nm以下、より好ましくは90nm以下であることが好ましい。体積平均粒子径の下限は、特に制限はないが、通常20nm以上である。上記範囲を満たすことにより、低温低湿下での露光−帯電繰り返し特性が安定し、得られる画像に黒点、色点等の画像欠陥が生じることを抑制することができる。
また、金属酸化物粒子の小粒径側より累積した累積90%粒子径を、通常0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.15μm以下とする。従来の電子写真感光体では、下引き層の表裏を貫通できるほど大きい金属酸化物粒子が含有され、当該大きな金属酸化物粒子によって、画像形成時に欠陥が生じるおそれがあった。さらに、帯電手段(帯電装置)として接触式のものを用いた場合には、感光層に帯電を行なう際に当該金属酸化物粒子を通って導電性基体から感光層に電荷が移動し、適切に帯電を行なうことができなくなるおそれもあった。しかし、累積90%粒子径を小さくすることにより、上記のように欠陥の原因となるような大きな金属酸化物粒子が非常に少なくすることができる。この結果、電子写真感光体の画像欠陥の発生、及び、適切に帯電できなくなることを抑制でき、高品質な画像形成が可能である。
下引き層中の金属酸化物粒子は、一次粒子として存在するのが望ましい。しかし、通常は、凝集して凝集体二次粒子として存在するか、両者が混在する場合がほとんどである。したがって、下引き層中の金属酸化物粒子の粒度分布の制御は重要である。下引き層中の金属酸化物粒子の粒度分布を直接評価することは困難であるが、下引き層を特定の溶媒中に分散させ、当該分散液を評価することにより、下引き層中の金属酸化物粒子の粒度分布を知ることができる。
下引き層を、メタノールと1−プロパノールとを7:3の重量比で混合した溶媒に分散した液中の、金属酸化物粒子の体積平均粒子径及び小粒径側より累積した累積90%粒子径は、金属酸化物粒子がどのような存在形態であっても、動的光散乱法により測定された値を用いることができる。
動的光散乱法は、微小に分散された粒子のブラウン運動の速さを、粒子にレーザー光を照射してその速度に応じた位相の異なる光の散乱(ドップラーシフト)を検出して粒度分布を求めるものである。下引き層中における金属酸化物粒子の体積平均粒子径の値は、メタノールと1−プロパノールとを7:3の重量比で混合した溶媒に金属酸化物粒子が安定に分散しているときの値であり、分散前の粉体としての金属酸化物粒子等の粒径を意味していない。実際の測定では、動的光散乱方式粒度分析計(日機装社製、MICROTRAC UPA model:9340−UPA、以下UPAと略す)を用いて、以下の設定にて行なうものとする。具体的な測定操作は、上記粒度分析計の取扱説明書(日機装社製、書類No.T15−490A00、改訂No.E)に基づいて行なう。
動的光散乱方式粒度分析計の設定;
測定上限 :5.9978μm
測定下限 :0.0035μm
チャンネル数 :44
測定時間 :300sec.
測定温度 :25℃
粒子透過性 :吸収
粒子屈折率 :N/A(適用しない)
粒子形状 :非球形
密度 :4.20(g/cm3) (*)
分散媒種類 :メタノールと1−プロパノールとの混合溶媒(重量比:メタノール/1−プロパノール=7/3)
分散媒屈折率 :1.35
(*)密度の値は二酸化チタン粒子の場合であり、他の粒子の場合は、前記取扱説明書に記載の数値を用いる。
なお、下引き層を、メタノールと1−プロパノールとを7:3の重量比で混合した溶媒に分散した液が濃すぎて、その濃度が測定装置の測定可能範囲外となっている場合には、下引き層形成用塗布液をメタノールと1−プロパノールとの混合溶媒(メタノール/1−プロパノール=7/3(重量比);屈折率=1.35)で希釈し、濃度を測定装置が測定可能な範囲に収めるようにする。例えば、上記のUPAの場合、測定に適したサンプル濃度指数(SIGNAL LEVEL)が0.6〜0.8になるように、メタノールと1−プロパノールとの混合溶媒で希釈する。
このように希釈を行なったとしても、下引き層を分散した液中における金属酸化物粒子の粒子径は変化しないものと考えられるため、上記の希釈を行なった結果測定された、体積平均粒子径及び累積90%粒子径は、下引き層をメタノールと1−プロパノールとを7:3の重量比で混合した溶媒に分散した液において測定される、体積平均粒子径及び累積90%粒子径として取り扱うものとする。
下引き層が含有する金属酸化物粒子としては、電子写真感光体に使用可能な如何なる金属酸化物粒子も使用することができる。金属酸化物粒子を形成する金属酸化物の具体例を挙げると、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物;チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物等が挙げられる。これらの中でも、バンドギャップが2eV以上、4eV以下の金属酸化物からなる金属酸化物粒子が好ましい。バンドギャップを上記範囲とすれば、導電性支持体からのキャリア注入が抑制されて画像を形成した際の黒点や色点等の欠陥が発生しにくくなる一方で、電子のトラッピングによる電荷移動の阻害が抑制され、電気特性を確保しやすくなる。
なお、金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし、複数の種類の粒子を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、金属酸化物粒子は、1種の金属酸化物のみから形成されているものを用いてもよく、2種以上の金属酸化物を任意の組み合わせ及び比率で併用して形成されているものでもよい。
上記の金属酸化物粒子を形成する金属酸化物の中でも、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素及び酸化亜鉛が好ましく、酸化チタン及び酸化アルミニウムがより好ましく、酸化チタンが特に好ましい。
金属酸化物粒子の結晶型は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、金属酸化物として酸化チタンを用いた金属酸化物粒子(即ち、酸化チタン粒子)の結晶型に制限は無く、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、酸化チタン粒子の結晶型は、前記の結晶状態の異なるものから、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
金属酸化物粒子の表面に種々の表面処理を行なってもよい。例えば、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、有機珪素化合物等の有機物等の処理剤による処理を施していてもよい。
特に、金属酸化物粒子として酸化チタン粒子を用いる場合には、有機珪素化合物により表面処理されていることが好ましい。有機珪素化合物としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチル水素ポリシロキサン等のシリコーンオイル;メチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のオルガノシラン;ヘキサメチルジシラザン等のシラザン;ビニルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等が挙げられる。
また、金属酸化物粒子は、特に、下記式(i)の構造で表されるシラン処理剤で処理することが好ましい。このシラン処理剤は、金属酸化物粒子との反応性も良く良好な処理剤である。
上記式(i)中、Ru1及びRu2は、それぞれ独立してアルキル基を表す。Ru1及びRu2の炭素数に制限はないが、通常1以上であって、また、通常18以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下で、さらに好ましくは3以下である。これにより、金属酸化物粒子との反応性が好適になるという利点が得られる。炭素数を上記範囲とすれば、金属酸化物粒子との反応性を確保しつつ、処理後の金属酸化物粒子の塗布液中での分散安定性も良好にしやすくなる。
Ru1及びRu2のうち、好適なものの例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
上記式(i)中、Ru3は、アルキル基又はアルコキシ基を表わす。Ru3の炭素数に制限はないが、通常1以上であって、また、通常18以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下で、さらに好ましくは3以下である。これにより、金属酸化物粒子との反応性が好適になるという利点が得られる。炭素数を上記範囲とすれば、金属酸化物粒子との反応性を確保しつつ、処理後の金属酸化物粒子の塗布液中での分散安定性も良好にしやすくなる。
Ru3のうち好適なものの例を挙げると、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
なお、これらの表面処理された金属酸化物粒子の最表面は、通常、前記のような処理剤で処理されている。この際、上述した表面処理は、1つの表面処理のみを行なってもよく、2つ以上の表面処理を任意の組み合わせで行なってもよい。例えば、前記の式(i)で表わされるシラン処理剤による表面処理のその前に酸化アルミ、酸化珪素又は酸化ジルコニウム等の処理剤等で処理されていても構わない。また、異なる表面処理を施された金属酸化物粒子を、任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
金属酸化物粒子の平均一次粒子径に制限はないが、金属酸化物粒子の平均一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下である。
なお、この平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope:以下適宜「TEM」という)により直接観察される粒子の径の算術平均値によって求めることが可能である。
また、金属酸化物粒子の屈折率にも制限はなく、電子写真感光体に用いることのできるものであれば、どのようなものも使用可能である。金属酸化物粒子の屈折率は、通常1.3以上、好ましくは1.4以上、より好ましくは1.5以上であり、また、通常3.0以下、好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下である。
下引き層を形成するための塗布液において、金属酸化物粒子とバインダー樹脂との使用比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の下引き層を形成するための塗布液においては、バインダー樹脂1重量部に対して、金属酸化物粒子は、通常0.5重量部以上、好ましくは0.7重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上、また、通常4重量部以下、好ましくは3.8重量部以下、より好ましくは3.5重量部以下の範囲で用いる。上記範囲とすれば、電子写真感光体の電気特性が悪化が抑制されて残留電位を低く抑えやすくなり、電子写真感光体を用いて形成した画像の黒点、色点等の画像欠陥が増加も抑制しやすくなる。
下引き層が含有するバインダー樹脂としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができ、通常、電子写真感光体に使用可能な如何なるバインダー樹脂も使用することができる。
通常は、有機溶剤等の溶媒に可溶であって、且つ、形成後の下引き層が、感光層形成用の塗布液に用いられる有機溶剤等の溶媒に不溶であるか、溶解性の低く、実質上混合しないものを用いる。
このようなバインダー樹脂としては、例えば、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、及びポリアミド等の樹脂が単独あるいは硬化剤とともに硬化した形で使用できる。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等のポリアミド樹脂は、良好な分散性及び塗布性を示し好ましい。
ポリアミド樹脂としては、例えば、6−ナイロン、66−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、及び12−ナイロン等を共重合させた、いわゆる共重合ナイロン;N−アルコキシメチル変性ナイロン、N−アルコキシエチル変性ナイロンのようにナイロンを化学的に変性させたタイプ等のアルコール可溶性ナイロン樹脂等を挙げることができる。
これらポリアミド樹脂の中でも、下記式(ii)で表されるジアミンに対応するジアミン成分(以下適宜、「式(ii)に対応するジアミン成分」という)を構成成分として含む共重合ポリアミド樹脂が好ましく用いられる。
式(ii)において、Ru4,Ru5,Ru7,及びRu8は、水素原子又は有機置換基を表す。a、bはそれぞれ独立に、0以上、4以下の整数を表す。なお、置換基が複数ある場合、それらの置換基は互いに同じでも良く、異なっていてもよい。
Ru4,Ru5,Ru7,及びRu8で表される有機置換基として好適なものの例を挙げると、ヘテロ原子を含んでいても構わない炭化水素基が挙げられる。この中でも好ましいものとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピレニル基等のアリール基が挙げられ、更に好ましくはアルキル基、又はアルコキシ基である。特に好ましくは、メチル基、エチル基である。
また、Ru4,Ru5,Ru7,及びRu8で表される有機置換基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常20以下、好ましくは18以下、より好ましくは12以下、また、通常1以上である。上記炭素数とすれば、溶媒に対する溶解性の悪化が抑制されて塗布液がゲル化しにくくなり、一時的に溶解しても時間の経過とともに塗布液が白濁したりゲル化したりする傾向が抑制されるようになる。
式(ii)に対応するジアミン成分を構成成分として含む共重合ポリアミド樹脂は、式(ii)に対応するジアミン成分以外の構成成分(以下適宜、単に「その他のポリアミド構成成分」という)を構成単位として含んでいてもよい。その他のポリアミド構成成分としては、例えば、γ−ブチロラクタム、ε−カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム類;1,4−ブタンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,20−アイコサンジカルボン酸等のジカルボン酸類;1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等のジアミン類;ピペラジン等が挙げられる。この際、上記の共重合ポリアミド樹脂は、その構成成分を、例えば、二元、三元、四元等に共重合させたものが挙げられる。
式(ii)に対応するジアミン成分を構成成分として含む共重合ポリアミド樹脂がその他のポリアミド構成成分を構成単位として含む場合、全構成成分中に占める式(ii)に対応するジアミン成分の割合に制限はないが、通常5mol%以上、好ましくは10mol%以上、より好ましくは15mol%以上、また、通常40mol%以下、好ましくは30mol%以下である。式(ii)に対応するジアミン成分を上記範囲とすれば、塗布液の安定性が確保しやすくなる一方で、高温高湿度条件での電気特性の変化が抑制されて、電気特性の環境変化に対する安定性が確保しやすくなる。
上記の共重合ポリアミド樹脂の具体例を以下に示す。以下の具体例中、共重合比率はモノマーの仕込み比率(モル比率)を表す。
上記の共重合ポリアミドの製造方法には特に制限はなく、通常のポリアミドの重縮合方法が適宜適用される。こうした重縮合方法としては、例えば、溶融重合法、溶液重合法、及び界面重合法等を挙げることができる。また、重合に際して、例えば、酢酸や安息香酸等の一塩基酸;ヘキシルアミン、アニリン等の一酸塩基等を、分子量調節剤として重合系に含有させてもよい。
なお、バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、バインダー樹脂の数平均分子量にも制限はない。例えば、バインダー樹脂として共重合ポリアミドを使用する場合、共重合ポリアミドの数平均分子量は、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、また、通常50,000以下、好ましくは35,000以下である。上記数平均分子量の範囲とすれば、下引き層の均一性が保ちやすくなる。
下引き層は、通常、下引き層形成用の塗布液を塗布形成して得られる。下引き層の各種物性は、下引き層を形成するための塗布液の物性に影響される。
塗布液におけるバインダー樹脂の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、下引き層を形成するための塗布液におけるバインダー樹脂の含有率は、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下とする。
下引き層を形成するための塗布液は、通常、上記の下引き層を構成する成分を、溶媒に溶解又は分散してなる。
下引き層を形成するための塗布液に用いる溶媒(下引き層用溶媒)としては、バインダー樹脂を溶解させ得るものであれば、任意のものを使用することができる。この溶媒としては、通常は有機溶媒を使用する。溶媒の例を挙げると、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール又は2−プロパノール等の炭素数5以下のアルコール類;クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、トリクレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド等の含窒素有機溶媒類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等を挙げることができる。
上記の溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、単独ではバインダー樹脂を溶解しない溶媒であっても、他の溶媒(例えば、上記例示の有機溶媒等)との混合溶媒とすることでバインダー樹脂が溶解可能であれば、使用することができる。一般に、混合溶媒を用いた方が塗布ムラを少なくすることができる。
下引き層を形成するための塗布液において、溶媒と、金属酸化物粒子、バインダー樹脂等の固形分との量比は、下引き層を形成するための塗布液の塗布方法により異なり、適用する塗布方法において均一な塗膜が形成されるように適宜変更して用いればよい。
また、下引き層を形成するための塗布液は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した金属酸化物粒子、バインダー樹脂及び溶媒以外の成分を含有していてもよい。例えば、下引き層を形成するための塗布液には、その他の成分として添加剤を含有させてもよい。
添加剤としては、例えば、亜リン酸ソーダ、次亜リン酸ソーダ、亜リン酸、次亜リン酸やヒンダードフェノールに代表される熱安定剤やその他の重合添加剤等を挙げることができる。なお、添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
下引き層を形成するための塗布液の製造方法に特に制限はない。ただし、下引き層を形成するための塗布液は、上述したように、通常は金属酸化物粒子を含有するものであり、金属酸化物粒子は下引き層を形成するための塗布液中に分散されて存在する。したがって、下引き層を形成するための塗布液の製造方法は、通常、金属酸化物粒子を分散させる分散工程を有する。
(感光層)
感光層は、通常、導電性支持体上又は下引き層上に形成される。本発明においては、感光層は、バインダー樹脂として少なくともポリアリレート樹脂を含有し、さらに、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bとを含有する。これら材料については上述したとおりであるので、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
感光層の型式としては、例えば、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層構造のもの(以下適宜、「単層型感光層」という場合がある。)と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層を含む、二層以上の層からなる積層構造のもの(以下適宜、「積層型感光層」という場合がある。)とが挙げられるが、何れの形態であってもよい。また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とが挙げられ、どのような形態を採用することも可能である。
(電荷発生物質を含有する層)
まず、電荷発生物質について説明する。
本発明の電子写真感光体において、電荷発生物質としては、本発明の効果を妨げない限り、公知の何れの化合物も使用可能であり、併用も妨げない。電荷発生物質としては、例えば、セレニウム及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料;フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等の有機顔料;等各種光導電材料が使用できる。これら電荷発生物質のうち、有機顔料が好ましく、フタロシアニン顔料、アゾ顔料がさらに好ましい。
フタロシアニン顔料としては、例えば、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類等の各種結晶型を挙げることができる。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン;A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン);バナジルフタロシアニン;クロロインジウムフタロシアニン;II型等のクロロガリウムフタロシアニン;V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン;G型,I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体;II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体、を用いることが好ましい。なお、これらのフタロシアニンのうち、A型(β型)、B型(α型)、D型(Y型)オキシチタニウムフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。特に、オキシチタニウムフタロシアニンは、CuKα特性X線による粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)27.3°に主たる明瞭な回折ピークを有するものを用いることが好ましい。
オキシチタニウムフタロシアニンは、CuKα特性X線による粉末X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角(2θ±0.2°)9.0°〜9.7°に、明瞭な回折ピークを有するものを用いることが好ましい。
アゾ顔料も、電子写真感光体に用いることができるものであれば特に制限はなく、各種ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料を用いることができる。以下に、好ましいアゾ化合物の例を示す。
次に、感光層が積層型感光層である場合について説明する。
積層型感光層の場合、電荷発生物質を含有する層は、通常、電荷発生層である。ただし、積層型感光層において、本発明の効果を著しく損なわない限り、電荷発生物質が電荷輸送層中に含まれていても構わない。
電荷発生物質の体積平均粒子径に制限はない。ただし、積層型感光層に使用する場合は、電荷発生物質の体積平均粒子径は、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下である。なお、電荷発生物質の体積平均粒子径は、本発明において下引き層が含有する金属酸化物粒子の体積平均径を測定するのと同様にして測定することもできるし、公知のレーザー回折散乱法による粒度分析装置や、光透過遠心沈降法による粒度分析装置等により測定することもできる。
電荷発生層の膜厚は、任意であるが、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常2μm以下、好ましくは0.8μm以下とする。
電荷発生層は、電荷発生物質を蒸着することにより形成しても構わないが、通常は、電荷発生物質の他に電荷発生層を結着するためのバインダー樹脂を含有する。こうしたバインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテル等を挙げることができる。
電荷発生物質を含有する層が電荷発生層である場合、当該電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層に含まれるバインダー樹脂100重量部に対して、通常30重量部以上、好ましくは50重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは300重量部以下である。電荷発生物質の含有量を上記範囲とすれば、電子写真感光体としての電気特性を確保しやすくなる一方で、塗布液の安定性も確保しやすくなる。
さらに、電荷発生層には、成膜性、可とう性、機械的強度等を改良するための公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤、シリコーンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤を含有していてもよい。なお、これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
次に、感光層が単層型感光層である場合について説明する。
単層型感光層の場合、後に記載する電荷輸送層と同様の配合割合の感光層用バインダー樹脂と電荷輸送物質とを主成分とするマトリックス中に、前記電荷発生物質が分散される。
単層型感光層に使用する場合には、電荷発生物質の粒子径は十分小さいことが望ましい。このため、単層型感光層では、電荷発生物質の体積平均粒子径では、通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下とする。
単層型感光層の膜厚は任意であるが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下である。
単層型感光層中に分散される電荷発生物質の量は任意であるが、十分な感度の確保と、帯電性の低下を抑制するために、単層型感光層中の電荷発生物質の含有率は、通常0.5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは45重量%以下である。
また単層型感光層も、成膜性、可とう性、機械的強度等を改良するための公知の可塑剤、残留電位を抑制するための添加剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤、界面活性剤、シリコーンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤を含有していてもよい。なお、これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(電荷輸送物質を含む層)
まず、電荷輸送物質について説明する。
式(1)に示される化合物Aは、通常、電荷輸送機能を有するので、本発明の電子写真感光体は、電荷輸送物質として化合物Aを含有することが好ましい。ただし、電荷輸送物質であれば、本発明の効果を妨げない限り、化合物A以外の化合物も併用可能である。化合物A以外の化合物を電荷輸送物質として化合物Aと併用する場合には、化合物Aの含有量が他の化合物の含有量より多いことが好ましい。
併用してよい化合物としては、例えば、ジフェノキノン誘導体、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、チオジアゾール誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体等の含窒素化合物、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン化合物、これらの化合物が複数結合されたもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖もしくは側鎖に有する重合体等が挙げられる。
積層型感光層に用いる電荷輸送物質は、露光光の波長領域に吸収を有さない化合物であることが好ましい。こうした化合物としては、以下の骨格を有するものを用いることが好ましい。
上記骨格のうち、Aは連結基を表し、好ましくは、炭素数10以下のアルキリデンである。なお、上記骨格には、炭素数30以下の置換基が1又は複数置換しても構わない。好ましくは、炭素数20以下の置換基で置換することであり、更に好ましくは、炭素数10以下の置換基で置換することである。置換基としては、例えば、置換基を有しても構わないアルキル基、アリール基、アルコキシ基、及び不飽和基等を用いることが好ましい。
上記骨格のうち、特に、ヒドラゾン化合物(ヒドラゾン構造を有する化合物)、ジアミン化合物(ジアミン構造を有する化合物)、ブタジエン化合物(ブタジエン構造を有する化合物)が好ましい。また、以下骨格を有する化合物は、式(1)で表される化合物Aとのマッチングに優れ、非常に有効である。
以下に式(1)の化合物Aの化合物と併用するのに、好適な電荷輸送物質の例をあげる。
積層型感光層の場合、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層が形成される。電荷輸送層は単一の層でもよいし、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでもかまわない。また、単層型感光層では、積層型感光層の電荷輸送層と同様の構成の電荷輸送媒体の中に電荷発生物質が分散される。積層型感光層の電荷輸送層及び単層型感光層の電荷輸送媒体は、通常、上記電荷輸送物質を、バインダー樹脂により結着することで得られる。
順積層型感光層及び単層型感光層は、電荷輸送層を透過した光が電荷発生層に達するようにするため、又は単層型感光層に入射した光が電荷発生物質に達するようにするために、電荷輸送層や電荷輸送媒体は、露光光を遮断しないような露光光透過性の優れたものである必要があり、電荷輸送物質とバインダー樹脂は相溶性が高く、構成物質が析出したり、濁りを生じたりしないものが好ましい。具体的には、電荷輸送層や電荷輸送媒体は露光光を吸収しないものが好ましく、電荷輸送層や電荷輸送媒体の露光光の透過率を、好ましくは87%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上とする。電荷輸送層や電荷輸送媒体の露光光の透過率は、例えば本発明の式(1)に表される化合物Aを電荷輸送物質として用いる等、電荷輸送物質を選択することにより達成することが可能であるし、電荷輸送層の膜厚を調整することによっても達成可能である。露光光の透過率の測定には、公知のどのような方法も用いることが可能であるが、例えば、測定波長において透明な板(例えば石英ガラス板)上に電荷輸送層を形成し、市販の分光光度計により測定することができる。
積層型感光層の電荷輸送層及び単層型感光層において、バインダー樹脂100重量部に対する電荷輸送物質の全体の含有量を、通常30重量部以上、好ましくは40重量部以上、また、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下とする。また、積層型感光層の電荷輸送層及び単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下とする。上記厚さとすれば、感光体の寿命を確保しやすくなる一方で、露光光や電荷の拡散により画像の解像度が悪化も抑制しやすくなる。
感光層には添加剤が含有されていてもよい。本発明においては、式(2)で表される化合物Bは、通常、添加剤として用いられる。こうした添加剤以外に、以下説明する添加剤を適宜用いることができる。
添加剤としては、例えば、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、及び耐光性等を向上させるために、周知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、界面活性剤、可塑剤、例えばシリコ−ンオイル、フッ素系オイルその他の添加剤等を含有させてもよい。酸化防止剤の例としては、ヒンダードフェノール化合物、(ヒンダード)アミン化合物等が挙げられる。
(バインダー樹脂)
本発明においては、積層型感光層の電荷輸送層、および単層型感光層に使用されるバインダー樹脂として、ポリアリレート樹脂を用いる。ポリアリレート樹脂やポリアリレート樹脂と併用可能な樹脂についてはすでに説明したので、ここでの説明は省略する。
なお、感光層を複数の層から形成する場合には、少なくともポリアリレート樹脂をバインダー樹脂とする層の他に、ポリアリレート樹脂以外の樹脂を用いてバインダー樹脂を構成する層が存在してもよい。こうした層に用いられるバインダー樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体、およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリイミド、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。こうした樹脂は、部分的に架橋させてもよいし、混合して用いてもよい。
(保護層、その他)
感光層の上には電気的、機械的劣化を防止する目的で保護層を設けてもよい。また、感光体表面の摩擦抵抗や摩耗を軽減する目的で、最表面の層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでも良く、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含んでいてもよい。
(電子写真感光体の製造方法)
本発明の電子写真用感光体は、通常、以下のようにして製造される。
まず、常法に従って、式(1)で表される化合物A、式(2)で表される化合物B、及びポリアリレート樹脂を適当な溶剤中に溶解又は分散し、必要に応じ、適当な電荷発生物質、増感染料、電子吸引性化合物、適当な電荷輸送物質、及び他のバインダー樹脂、さらには可塑剤、顔料等の周知の添加剤を添加して塗布液を製造する。そして、この塗布液を、導電性基体上に塗布、乾燥させることにより、電子写真感光体を製造する。
電荷発生層と電荷輸送層の二層からなる積層型感光層を有する電子写真感光体の場合は、電荷発生層の上に上記塗布液を塗布するか、上記塗布液を塗布して得られる電荷輸送層の上に電荷発生層を形成させることにより、製造することができる。
上記の塗布液の製造に用いられる溶媒あるいは分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸エチル、等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等があげられ、これらは、通常、単独で又は2種以上を併用して用いられる。
また、感光層を得るための上記の塗布液の塗布方法としては、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等がある。
スプレー塗布法としては、例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電エアスプレー、静電エアレススプレー、回転霧化式静電スプレー、ホットスプレー、及びホットエアレススプレー等を挙げることができる。均一な膜厚を得るための微粒化度、付着効率等を考えると回転霧化式静電スプレーにおいて、再公表平1−805198号公報に開示されている搬送方法、すなわち円筒状ワークを回転させながらその軸方向に間隔を開けることなく連続して搬送することにより、総合的に高い付着効率で膜厚の均一性に優れた電子写真感光体を得ることができる。
スパイラル塗布法としては、特開昭52−119651号公報に開示されている注液塗布機又はカーテン塗布機を用いた方法、特開平1−231966号公報に開示されている微小開口部から塗料を筋状に連続して飛翔させる方法、特開平3−193161号公報に開示されているマルチノズル体を用いた方法等がある。
浸漬塗布法の場合は、塗布液あるいは分散液の製造において、単層型感光層の場合及び積層型感光層の電荷輸送層の場合には、塗布液の全固形分濃度及び塗布液の粘度を以下のように制御することが好ましい。全固形分濃度は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下とする。粘度は、好ましくは50mPa・s以上、さらに好ましくは100mPa・s以上、好ましくは700mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下とする。また、積層型感光層の電荷発生層の場合には、固形分濃度は、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは1重量%以上、10重量%以下、粘度は、好ましくは0.1mPa・s以上、10mPa・s以下とする。
塗膜を形成した後、塗膜を乾燥させるが、必要かつ充分な乾燥が行われる様に乾燥温度・時間を調整するとよい。乾燥温度は、感光層内への気泡の混入を抑制する一方で、乾燥時間を短縮しつつも感光層内の残留溶媒量を制御して電気特性を確保するために、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは170℃以下、さらに好ましくは140℃以下とする。乾燥方法としては、熱風乾燥機による乾燥、蒸気乾燥機による乾燥、赤外線乾燥機による乾燥、及び遠赤外線乾燥機による乾燥等を用いることができる。
(感光体カートリッジ、画像形成装置)
本発明の感光体カートリッジ及び画像形成装置は、上記説明した電子写真感光体を備えるものである。以下では、感光体カートリッジ及び画像形成装置について説明する。なお、本発明の感光体カートリッジ及び画像形成装置は、以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1は、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置の一例を示す模式的な断面図である。画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3、現像装置4及び転写装置5を備えて構成され、更に、必要に応じてクリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。そして、電子写真感光体1及び帯電装置2が感光体カートリッジを形成している。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2,露光装置3,現像装置4,転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置等を用いることができる。
本発明においては、電子写真感光体のオゾンガス等の酸化性ガスに対する耐久性が高いという理由から、特に帯電装置2が電子写真感光体1に接触配置した場合に、その効果が顕著に発揮されるので、帯電装置2として帯電ローラを用いることが好ましい。
上述のとおり、電子写真感光体1及び帯電装置2が感光体カートリッジを構成している。こうして構成される感光体カートリッジは、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。
そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1、帯電装置2、及びトナーカートリッジを感光体カートリッジとして構成することもできる。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜600nmの短波長の単色光等で露光を行なえばよい。これらの中でも、特に、露光光の口径を小さくする場合には、波長380nm〜600nmの短波長の単色光等で露光することが好ましく、より好ましくは波長380nm〜500nmの単色光で露光することである。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等の任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄,ステンレス鋼,アルミニウム,ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼,アルミニウム,銅,真鍮,リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト上の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。本発明においては、式(1)で表される化合物A、式(2)で表される化合物B、及びポリアリレート樹脂を含有する感光層を有する電子写真感光体との画像特性のマッチングの観点から、フロー式粒子像分析装置によって測定されるトナーの平均円形度が、0.940以上となるようなトナーを用いることが好ましい。こうしたトナーの詳細については後述する。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を転写材(用紙,媒体)Pに転写するものである。本発明においては、転写装置55が転写材を介して感光体に接触配置される場合に効果的である。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆どない場合には、クリーニング装置6はなくても構わない。
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス,アルミニウム等の金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にフッ素樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等が公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上に定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された画像形成装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としてもよい。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
(トナー)
本発明においては、フロー式粒子像分析装置によって測定されるトナーの平均円形度が、0.940以上となるようなトナーを用いることが好ましい。こうした特定の平均円形度を有するトナーと、本発明の電子写真感光体とを組み合わせることにより、画質特性を良好にしやすくなる。こうした特定のトナーと電子写真感光体とを組み合わせることにより、本発明の画像形成装置も高画質の画像を形成することができるようになる。
本発明におけるトナーの形状は、トナーを構成する粒子群に含まれる各粒子の形状が、互いに近いものであって、球形に近いほどトナーの粒子内での帯電量の局在化が起こりにくく、現像性が均一になる傾向にあり、画像品質を高める上で好ましい。一方で、トナーの形状が完全な球形に近づきすぎると、画像形成後のトナーのクリーニング不良により電子写真感光体表面にトナーが残存して形成した画像を汚して欠陥となる場合がある。このような場合にはクリーニング不良を起こさないように強力なクリーニングを行う必要が生じるが、こうした強力なクリーニングにより電子写真感光体が磨耗しやすくなったり傷が付きやすくなったりして、電子写真感光体の寿命を縮めるおそれがある。また完全な球状トナーを作ることは製造上困難であり、トナーのコストが上昇することにもなる。
そこで、フロー式粒子像分析装置によって測定されるトナーの平均円形度を、通常0.940以上、好ましくは0.950以上、より好ましくは0.960以上とする。一方、上記の平均円形度は、1.000以下であれば制限はないが、好ましくは0.995以下、より好ましくは0.990以下とする。
上記の平均円形度は、トナーの粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものであり、本発明ではシスメックス社製フロー式粒子像分析装置FPIA−2000を用いて測定を行ない、測定された粒子の円形度〔a〕を下式(A)により求めるものとする。
(式(A)中、L0は粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長を示し、Lは画像処理したときの粒子像の周囲長を示す。)
上記の円形度aは、トナー粒子の凹凸の度合いの指標であり、トナーが完全な球形の場合1.00を示し、表面形状が複雑になるほど円形度は小さな値となる。
平均円形度の具体的な測定方法としては、以下の通りである。すなわち、予め容器中の不純物を除去した水20ml中に分散剤として界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を加え、更に測定試料(トナー)を0.05g程度加える。この試料を分散した懸濁液に超音波を30秒照射し、分散液濃度を3.0〜8.0千個/μL(マイクロリットル)として、上記フロー式粒子像測定装置を用い、0.60μm以上160μm未満の円相当径を有する粒子の円形度分布を測定する。
本発明に好ましく用いられるトナーは、上記の平均円形度を有する限り他に制限はない。そこで、以下では、こうしたトナーの製造方法や種類について説明する。なお、本発明に好ましく用いられるトナーは、以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
トナーは、従前公知のどのような方法で製造しても構わず、例えば重合法や溶融懸濁法等により製造されるトナーが挙げられる。更には、いわゆる粉砕トナーを熱等の処理により球形化したものも用いることができるが、水系媒体中でトナー粒子を生成する、いわゆる重合法により製造される重合トナーが好ましい。
重合トナーとしては、例えば、懸濁重合法で製造されるトナー、乳化重合凝集法で製造されるトナー等が挙げられる。特に、乳化重合凝集法は、液状媒体中でポリマー樹脂微粒子と着色剤等とを凝集させてトナーを製造する方法であり、凝集条件を制御することによってトナーの粒径及び円形度を調整することができるので、平均円形度の制御が行いやすく好ましい。
また、トナーの離型性、低温定着性、高温オフセット性、耐フィルミング性等を改良するために、トナーに低軟化点物質(いわゆるワックス)を含有させる方法が提案されている。溶融混練粉砕法では、トナーに含まれるワックスの量を増やすのは難しく、重合体(バインダー樹脂)に対して5重量%程度が限界とされている。それに対して、重合トナーでは、低軟化点物質を多量(5〜30重量%)に含有させることが可能である。なお、ここでいう重合体は、トナーを構成する材料の一つであり、例えば後述する乳化重合凝集法により製造されるトナーの場合、重合性単量体が重合して得られるものである。
以下、乳化重合凝集法により製造されるトナーについて更に詳細に説明する。
乳化重合凝集法によりトナーを製造する場合、その製造工程としては、通常、重合工程、混合工程、凝集工程、融合工程、及び洗浄・乾燥工程を行なう。即ち、一般的には乳化重合により重合体一次粒子を得て(重合工程)、その重合体一次粒子を含む分散液に、必要に応じ、着色剤(顔料)、ワックス、帯電制御剤等の分散体を混合し(混合工程)、この分散液中に凝集剤を加えて一次粒子を凝集させて粒子凝集体とし(凝集工程)、必要に応じて微粒子等を付着する操作を行ない、その後に融合させて粒子を得て(融合工程)、得られた粒子を洗浄、乾燥することにより(洗浄・乾燥工程)、母粒子が得られる。以下各工程について説明する。
重合工程について説明する。
重合体の微粒子(重合体一次粒子)としては、特に限定されない。したがって、液状媒体中で重合性単量体を、懸濁重合法、乳化重合法等により重合させて得られる微粒子、樹脂等の重合体の塊を粉砕することによって得られる微粒子のいずれを重合体一次粒子として用いてもよい。ただし、重合法、特に乳化重合法、なかでも乳化重合におけるシードとしてワックスを用いたものが好ましい。乳化重合におけるシードとしてワックスを用いると、重合体がワックスを包み込んだ構造の微粒子を重合体一次粒子として製造することができる。この方法によれば、ワックスをトナーの表面に露出させず、トナー内に含有させることができる。このため、ワックスによる装置部材の汚染がなく、また、トナーの帯電性を損なうこともなく、かつ、トナーの低温定着性や高温オフセット性、耐フィルミング性、離型性等を向上させることができる。
以下、ワックスをシードとして乳化重合を行ない、これにより重合体一次粒子を得る方法について説明する。
乳化重合法としては、従来から知られている方法に従って行えばよい。通常は、ワックスを乳化剤の存在下で液状媒体に分散してワックス微粒子とし、これに重合開始剤、重合により重合体を与える重合性単量体、すなわち、重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物、及び、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤、重合度調節剤、消泡剤、保護コロイド、及び内添剤等を混合、攪拌して重合を行なう。これにより、重合体がワックスを包み込んだ構造を有する重合体の微粒子(即ち、重合体一次粒子)が液状媒体に分散したエマルジョンが得られる。なお、重合体がワックスを包み込んだ構造としては、コアシェル型、相分離型、オクルージョン型等が挙げられるが、コアシェル型が好ましい。
ワックスとしては、この用途に用い得ることが知られている任意のものを用いることができる。例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;アルキル基を有するシリコーンワックス;低分子量ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂系ワックス;ステアリン酸等の高級脂肪酸;エイコサノール等の長鎖脂肪族アルコール;ベヘン酸ベヘニル、モンタン酸エステル、ステアリン酸ステアリル等の長鎖脂肪族基を有するエステル系ワックス;ジステアリルケトン等の長鎖アルキル基を有するケトン類;水添ひまし油、カルナバワックス等の植物系ワックス;グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと長鎖脂肪酸より得られるエステル類又は部分エステル類;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド;低分子量ポリエステル等が挙げられる。なかでも、示差熱分析(DSC)による吸熱ピークを50〜100℃に少なくとも1つ有するものが好ましい。
ワックスの中でも、例えば、エステル系ワックス、パラフィンワックス、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス、及びシリコーンワックス等は、少量で離型性の効果が得られるので好ましい。特に、パラフィンワックスが好ましい。なお、ワックスは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ワックスを用いる場合、その使用量は任意である。ただし、重合体100重量部に対して、ワックスを通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上、また、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下とする。ワックスの使用量を上記範囲とすれば、定着温度幅を確保しやすくなる一方、装置部材を汚染することによる画質の低下の発生も抑制しやすくなる。
乳化剤は、制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意のものを使用することができる。例えば、非イオン性、アニオン性、カチオン性、及び両性のいずれの界面活性剤も用いることができる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類;ソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩類;ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩類等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン等のアルキルベタイン類等が挙げられる。
これらの中でも、非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましい。なお、乳化剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、乳化剤の配合量も本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、重合性モノマー100重量部に対して、乳化剤を、通常、1重量部以上、10重量部以下の割合で用いる。
液状媒体としては、通常は水系媒体を用い、特に好ましくは水を用いる。ただし、液状媒体の質は液状媒体中の粒子の再凝集による粗大化にも関係し、液状媒体の導電率が高いと経時の分散安定性が悪化する傾向がある。したがって、液状媒体として水等の水系媒体を使用する場合、導電率を、通常10μS/cm以下、好ましくは5μS/cm以下となるように脱塩処理されたイオン交換水あるいは蒸留水を用いることが好ましい。なお、導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて25℃下で測定を行なう。
また、液状媒体の使用量に制限はないが、重合性単量体に対して、通常1重量倍以上、20重量倍以下の量を用いる。
この液状媒体に、乳化剤の存在下で前記ワックスを分散させることにより、ワックス微粒子を得る。乳化剤及びワックスを液状媒体に配合する順は任意であるが、通常は、まず乳化剤を液状媒体に配合し、その後、ワックスを混合する。また、乳化剤は連続的に液状媒体に配合してもよい。
重合開始剤は、上記のワックス微粒子を調製した後の液状媒体に配合する。重合開始剤としては本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物類;過酸化水素等の無機過酸化物類等が挙げられる。中でも、無機過酸化物類が好ましい。なお、重合開始剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
重合開始剤の他の例としては、過硫酸塩類、有機又は無機過酸化物類と、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸等の還元性有機化合物類、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物類等とを併用して、レドックス系開始剤とすることもできる。この場合、還元性無機化合物類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、制限は無く任意である。ただし、重合開始剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常、0.05重量部以上、2重量部以下の割合で用いられる。
上記のワックス微粒子を調製した後、液状媒体には、上記重合開始剤の他に、重合性単量体を配合する。重合性単量体に特に制限はないが、例えば、スチレン類、(メタ)アクリル酸エステル、アクリルアミド類、ブレンステッド酸性基を有する単量体(以下、単に「酸性モノマー」と略記することがある)、ブレンステッド塩基性基を有する単量体(以下、単に「塩基性モノマー」と略記することがある)等の単官能性モノマーが主として用いられる。また、単官能性のモノマーに多官能性のモノマーを併用することもできる。
スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、及びp−n−ノニルスチレン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
アクリルアミド類としては、例えば、アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジプロピルアクリルアミド、及びN,N−ジブチルアクリルアミド等が挙げられる。
酸性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸等のカルボキシル基を有するモノマー;スルホン化スチレン等のスルホン酸基を有するモノマー;ビニルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド基を有するモノマー等が挙げられる。
塩基性モノマーとしては、例えば、アミノスチレン等のアミノ基を有する芳香族ビニル化合物、ビニルピリジン、ビニルピロリドン等の含窒素複素環含有モノマー;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
なお、酸性モノマー及び塩基性モノマーは、対イオンを伴って塩として存在していてもよい。
さらに、多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、及びジアリルフタレート等が挙げられる。また、例えば、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、及びアクロレイン等の反応性基を有するモノマーを用いることも可能である。中でもラジカル重合性の二官能性モノマー、特に、ジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレートが好ましい。
これらのなかでも、重合性単量体としては、少なくともスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基を有する酸性モノマーから構成されるのが好ましい。特に、スチレン類としてはスチレンが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類としてはアクリル酸ブチルが好ましく、カルボキシル基を有する酸性モノマーとしてはアクリル酸が好ましい。
なお、重合性単量体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ワックスをシードとして乳化重合を行なう際には、酸性モノマー又は塩基性モノマーと、これら以外のモノマーとを併用するのが好ましい。酸性モノマー又は塩基性モノマーを併用することにより、重合体一次粒子の分散安定性を向上させることができるからである。この際、酸性モノマー又は塩基性モノマーの配合量は任意であるが、全重合性単量体100重量部に対する酸性モノマー又は塩基性モノマーの使用量を、通常0.05重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、また、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下となるようにすることが望ましい。酸性モノマー又は塩基性モノマーの配合量を上記範囲とすれば、重合体一次粒子の分散安定性が確保されやすくなる一方で、トナーの帯電性も確保されやすくなる。
多官能性モノマーを併用する場合、その配合量は任意であるが、重合性単量体100重量部に対する多官能性モノマーの配合量は、通常0.005重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、また、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。多官能性モノマーを使用することにより、トナーの定着性を向上させることができる。この際、多官能性モノマーの配合量を上記範囲とすれば、耐高温オフセット性が確保されやすくなる一方で、低温定着性も確保しやすくなる。
液状媒体へ重合性単量体を配合する方法は特に限定されず、例えば、一括添加、連続添加、間欠添加のいずれでもよいが、反応制御の点からは連続的に配合するのが好ましい。また、複数の重合性単量体を併用する場合、各重合性単量体は、別々に配合してもよく、また予め混合してから配合してもよい。更には、単量体混合物の組成を変化させながら配合してもよい。
上記のワックス微粒子を調製した後、液状媒体には、前記の重合開始剤及び重合性単量体の他に、必要に応じて、連鎖移動剤、pH調整剤、重合度調節剤、消泡剤、保護コロイド、及び内添剤等の添加剤を配合する。これらの添加剤は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。また、これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
連鎖移動剤としては、公知の任意のものを使用することができる。連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ジイソプロピルキサントゲン、四塩化炭素、及びトリクロロブロモメタン等が挙げられる。また、連鎖移動剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常5重量部以下の割合で用いられる。
保護コロイドとしては、この用途に用い得る任意のものを使用することができる。保護コロイドとしては、例えば、部分又は完全ケン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体類等が挙げられる。
内添剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンワニス、フッ素系オイル等のトナーの粘着性、凝集性、流動性、帯電性、表面抵抗等を改質するためのものが挙げられる。
重合体一次粒子は、以上説明したように、ワックス微粒子を含む液状媒体に重合開始剤及び重合性単量体、並びに、必要に応じて添加剤を混合し、攪拌し、重合させることによって得られる。この重合体一次粒子は、液状媒体中にエマルションの状態で得ることができる。重合開始剤、重合性単量体、添加剤等を液状媒体に混合する順番に制限はない。また、混合、攪拌の方法等も制限は無く、任意である。さらに、重合(乳化重合反応)の反応温度も反応が進行する限り任意である。但し、重合温度は、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、また、通常120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下とする。
重合体一次粒子の体積平均粒径は、特に制限はないが、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、また、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。上記体積平均粒径の範囲とすれば、凝集速度の制御が行いやすくなる一方で、凝集して得られるトナーの粒径も制御しやすく、目的とする粒径のトナーを得やすくなる。なお、体積平均粒径は、後述する動的光散乱法を用いた粒度分析計で測定することができる。
体積粒度分布は、通常、動的光散乱法により測定される。この方式は、微小に分散された粒子のブラウン運動の速さを、粒子にレーザー光を照射してその速度に応じた位相の異なる光の散乱(ドップラーシフト)を検出して粒度分布を求めるものである。実際の測定では、上記の体積粒径については、動的光散乱方式を用いた超微粒子粒度分布測定装置(日機装社製、UPA−EX150、以下UPA−EXと略す)を用いて、以下の設定にて行なう。
測定上限 :6.54μm
測定下限 :0.0008μm
チャンネル数 :52
測定時間 :100sec.
測定温度 :25℃
粒子透過性 :吸収
粒子屈折率 :N/A(適用しない)
粒子形状 :非球形
密度 :1g/cm3
分散媒種類 :WATER
分散媒屈折率 :1.333
なお、測定時は、サンプル濃度指数が0.01〜0.1の範囲になるように粒子の分散体を液状媒体で希釈し、超音波洗浄器で分散処理した試料で測定する。そして、体積平均粒子径は、上記の体積粒度分布の結果を算術平均値として計測される。
また、重合体一次粒子を構成する重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるピーク分子量のうち少なくとも1つが、通常3000以上、好ましくは1万以上、より好ましくは3万以上、また、通常10万以下、好ましくは7万以下、より好ましくは6万以下に存在することが望ましい。ピーク分子量が前記範囲にある場合、トナーの耐久性、保存性、定着性が良好となる傾向がある。ここで、前記のピーク分子量とは、ポリスチレン換算した値を用いるものとし、測定に際しては溶媒に不溶の成分を除くものとする。ピーク分子量は、後述するトナーの場合と同様に測定することが可能である。
特に、前記の重合体がスチレン系樹脂である場合には、重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける数平均分子量は、通常2000以上、好ましくは2500以上、より好ましくは3000以上、また、通常5万以下、好ましくは4万以下、より好ましくは3.5万以下とする。さらに、重合体の重量平均分子量は、通常2万以上、好ましくは3万以上、より好ましくは5万以上、また、通常100万以下、好ましくは50万以下とする。数平均分子量、重量平均分子量の少なくとも一方、好ましくは双方が前記の範囲に収まるスチレン系樹脂を重合体として用いた場合、得られるトナーは、耐久性、保存性、定着性が良好となるからである。さらに分子量分布において、メインピークが2つあるものでもよい。なお、スチレン系樹脂とは、スチレン類が全重合体中の通常50重量%以上、好ましくは65重量%以上を占めるものを指す。
重合体の軟化点(以下「Sp」と略記することがある)は、低エネルギー定着の点から、通常150℃以下、好ましくは140℃以下とする。また、耐高温オフセット性、耐久性の点から、Spは、通常80℃以上、好ましくは100℃以上とする。ここで重合体の軟化点は、フローテスターにおいて、試料1.0gをノズル1mm×10mm、荷重30kg、予熱時間50℃で5分、昇温速度3℃/分の条件下で測定を行なったときの、フロー開始から終了までのストランドの中間点での温度として求めることができる。
重合体のガラス転移温度〔Tg〕は、通常80℃以下、好ましくは70℃以下である。重合体のガラス転移温度〔Tg〕を上記範囲とすれば、低エネルギー定着が行いやすくなる。また、重合体のガラス転移温度〔Tg〕の下限は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上である。重合体のガラス転移温度〔Tg〕を上記範囲とすれば、耐ブロッキング性を確保しやすくなる。ここで重合体のガラス転移温度〔Tg〕は、示差走査熱量計において、昇温速度10℃/分の条件で測定した曲線の転移(変曲)開始部に接線を引き、2つの接線の交点の温度として求めることができる。
重合体の軟化点及びガラス転移温度〔Tg〕は、重合体の種類及びモノマー組成比、分子量等を調整することによって前記範囲とすることができる。
次に、混合工程及び凝集工程について説明する。
上記の重合体一次粒子が分散したエマルジョンに、顔料粒子を混合し、凝集させることにより、重合体、顔料を含む凝集体(凝集粒子)のエマルジョンを得る。この際、顔料は、あらかじめ液状媒体に界面活性剤等を用いて均一に分散させた顔料粒子分散体を用意し、これを重合体一次粒子のエマルジョンに混合することが好ましい。この際、顔料粒子分散体の液状媒体として通常は水等の水系溶媒を使用し、顔料粒子分散体を水系分散体として用意する。また、その際には、必要に応じてワックス、帯電制御剤、離型剤、内添剤等をエマルジョンに混合してもよい。また、顔料粒子分散体の安定性を保持するために、上述した乳化剤を加えてもよい。
重合体一次粒子としては、乳化重合により得た前記の重合体一次粒子を使用することができる。この際、重合体一次粒子は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、上述した乳化重合とは異なる原料や反応条件で製造した重合体一次粒子(以下適宜「併用重合体粒子」という)を併用してもよい。
併用重合体粒子としては、例えば、懸濁重合や粉砕で得られた微粒子等が挙げられる。このような併用重合体粒子の材料としては樹脂を使用できるが、この樹脂としては、上述の乳化重合に供する単量体の(共)重合体の他に、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、ビニルピロリドン等のビニル系単量体の単独重合体又は共重合体;飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂;不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。なお、これらの併用重合体粒子も、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。ただし、併用重合体粒子の割合は、重合体一次粒子及び併用重合体粒子の重合体の合計に対して、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下とする。
また、顔料に制限は無く、その用途に応じて任意のものを用いることができる。ただし、顔料は通常は着色剤粒子として粒子状で存在するが、この顔料の粒子は、乳化重合凝集法における重合体一次粒子との密度差が小さい方が好ましい。密度差が小さいほうが、重合体一時粒子と顔料とを凝集させた場合に均一な凝集状態が得られ、従って得られるトナーの性能が向上するからである。なお、重合体一次粒子の密度は、通常、1.1g/cm3以上、1.3g/cm3以下とする。
上記の観点から、JIS K 5101−11−1:2004に規定されるピクノメーター法で測定される顔料粒子の真密度は、通常1.2g/cm3以上、好ましくは1.3g/cm3以上、また、通常2.0g/cm3未満、好ましくは1.9g/cm3以下、より好ましくは1.8g/cm3以下である。顔料の真密度を上記範囲とすれば、液状媒体中での沈降性の悪化を抑制しやすくなる。加えて、保存性、昇華性等の課題も考慮すると、顔料はカーボンブラックあるいは有機顔料であるのが好ましい。
以上の条件を満たす顔料の例示としては、以下に示すイエロー顔料、マゼンタ顔料及びシアン顔料等が挙げられる。また、黒色顔料としては、カーボンブラック、又は、以下に示すイエロー顔料/マゼンタ顔料/シアン顔料を混合して黒色に調色されたものが利用される。
このうち、黒色顔料として使用されるカーボンブラックは、非常に微細な一次粒子の凝集体として存在し、顔料粒子分散体として分散させたときに、再凝集によるカーボンブラック粒子の粗大化が発生しやすい。カーボンブラック粒子の再凝集の程度は、カーボンブラック中に含まれる不純物量(未分解有機物量の残留程度)の大小と相関が見られ、不純物が多いと分散後の再凝集による粗大化が顕著となる傾向を示す。
不純物量の定量的な評価としては、以下の測定方法で測定されるカーボンブラックのトルエン抽出物の紫外線吸光度が、通常0.05以下、好ましくは0.03以下である。一般に、チャンネル法のカーボンブラックは不純物が多い傾向を示すので、トナーに使用するカーボンブラックとしては、ファーネス法で製造されたものが好ましい。
カーボンブラックの紫外線吸光度(λc)は、次の方法で求める。即ち、まずカーボンブラック3gをトルエン30mlに充分に分散、混合させて、続いてこの混合液をNo.5C濾紙を使用して濾過する。その後、濾液を吸光部が1cm角の石英セルに入れて市販の紫外線分光光度計を用いて波長336nmの吸光度を測定した値(λs)と、同じ方法でリファレンスとしてトルエンのみの吸光度を測定した値(λo)とから、紫外線吸光度はλc=λs−λoで求める。市販の分光光度計としては、例えば島津製作所製紫外可視分光光度計(UV−3100PC)等を用いることができる。
イエロー顔料としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物等に代表される化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168、180、185等が好適に用いられる。
マゼンタ顔料としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキウ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物等が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、207、209、220、221、238、254、C.I.ピグメントバイオレット19等が好適に用いられる。
中でもC.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19で示されるキナクリドン系顔料が特に好ましい。このキナクリドン系顔料は、その鮮明な色相や高い耐光性等からマゼンタ顔料として好適である。キナクリドン系顔料の中でも、C.I.ピグメントレッド122で示される化合物が、特に好ましい。
シアン顔料としては、例えば、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1,15:2,15:3,15:4,60,62,66等が特に好適に利用できる。
なお、顔料は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記の顔料は、液状媒体に分散させ、顔料粒子分散体としてから重合体一次粒子を含有するエマルションと混合する。この際、顔料粒子分散体中における顔料粒子の使用量は、液状媒体100重量部に対して、通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは40重量部以下である。着色剤の配合量を上記範囲とすれば、顔料濃度を適正に保って分散中で顔料粒子が再凝集する確率を低くすることができる一方で、分散が過剰となって適切な粒度分布を得ることが困難となる現象も抑制されやすくなる。
重合体一次粒子に含まれる重合体に対する顔料の使用量の割合は、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。顔料の使用量を上記範囲とすれば、画像濃度が確保されやすくなる一方で、凝集制御も行いやすくなる。
さらに、顔料粒子分散体には、界面活性剤を含有させてもよい。この界面活性剤に特に制限はないが、例えば、乳化重合法の説明において乳化剤として例示した界面活性剤と同様のものが挙げられる。中でも、非イオン系界面活性剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類等のアニオン系活性剤、ポリマー系界面活性剤等が好ましく用いられる。また、この際、界面活性剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、顔料粒子分散体に占める顔料の割合は、通常、10重量%以上、50重量%以下である。
顔料粒子分散体の液状媒体としては、通常は水系媒体を用い、好ましくは水を用いる。この際、重合体一次粒子及び顔料粒子分散体の水質は各粒子の再凝集による粗大化にも関係し、導電率が高いと経時の分散安定性が悪化する傾向がある。したがって、導電率を、通常10μS/cm以下、好ましくは5μS/cm以下となるように脱塩処理されたイオン交換水あるいは蒸留水を用いることが好ましい。なお、導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて25℃下で測定を行なう。
重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合させる際、エマルションにワックスを混合してもよい。ワックスとしては、乳化重合法の説明において述べたものを同様のものを使用することができる。なお、ワックスは、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合する前、混合中、後のいずれにおいて混合してもよい。
また、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合させる際、エマルションに帯電制御剤を混合してもよい。帯電制御剤としては、この用途に用いられ得る任意のものを使用することができる。正荷電性帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、トリフェニルメタン系化合物、イミダゾール系化合物、及びポリアミン樹脂等が挙げられる。また、負荷電性帯電制御剤としては、例えば、Cr、Co、Al、Fe、B等の原子を含有するアゾ錯化合物染料;サリチル酸若しくはアルキルサリチル酸の金属塩又は金属錯体;カーリックスアレン化合物、ベンジル酸の金属塩又は金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、フェノールアミド化合物等が挙げられる。中でも、トナーとしての色調障害を回避するため、無色ないしは淡色のものを選択することが好ましく、特に正荷電性帯電制御剤としては4級アンモニウム塩、イミダゾール系化合物が好ましく、負荷電性帯電制御剤としてはCr、Co、Al、Fe、B等の原子を含有するアルキルサリチル酸錯化合物、カーリックスアレン化合物が好ましい。なお、帯電制御剤は1種を用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
帯電制御剤の使用量は、特に制限はないが、重合体100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、10重量部以下、好ましくは5重量部以下である。帯電制御剤の使用量を上記範囲とすれば、所望の帯電量が得られやすくなる。
帯電制御剤は、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合する前、混合中、後のいずれにおいて混合してもよい。
また、帯電制御剤は、前記顔料粒子と同様に、液状媒体(通常は、水系媒体)に乳化した状態として、凝集時に混合することが望ましい。
上記の重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合した後、重合体一次粒子と顔料とを凝集させる。なお、上述したとおり、混合の際には、通常、顔料は顔料粒子分散体とした状態で混合させる。
凝集方法に制限は無く任意であるが、例えば、加熱、電解質の混合、pHの調整等が挙げられる。なかでも、電解質を混合する方法が好ましい。
電解質を混合して凝集を行なう場合の電解質としては、例えば、NaCl、KCl、LiCl、MgCl2、CaCl2等の塩化物;Na2SO4、K2SO4、Li2SO4、MgSO4、CaSO4、ZnSO4、Al2(SO4)3、Fe2(SO4)3等の硫酸塩等の無機塩;CH3COONa、C6H5SO3Na等の有機塩等が挙げられる。これらのうち、2価以上の多価の金属カチオンを有する無機塩が好ましい。なお、電解質は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電解質の使用量は、電解質の種類によって異なるが、エマルジョン中の固形成分100重量部に対して、通常0.05重量部以上、好ましくは0.1重量部以上とする。電解質を混合して凝集を行なう場合において、電解質の使用量を上記範囲とすれば、凝集反応の進行が遅くなりにくく、凝集反応後も1μm以下の微粉が残りにくく、得られる凝集体の平均粒径が目的の粒径に達しやすくなる。また、電解質の使用量は、エマルジョン中の固形成分100重量部に対して、通常25重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下とする。電解質の使用量を上記範囲とすれば、凝集反応が急速に起こることが抑制される結果、粒径の制御を行いやすくなり、得られる凝集体中に粗粉や不定形のものも含まれにくくなる。
得られた凝集体は、後述する二次凝集体(溶融工程を経た凝集体)と同じく、引き続き液状媒体中で加熱して球形化するのが好ましい。加熱は二次凝集体の場合と同様の条件(融合工程の説明において述べるのと同様の条件)で行えばよい。
一方、加熱により凝集を行なう場合、温度条件は凝集が進行する限り任意である。具体的な温度条件を挙げると、通常15℃以上、好ましくは20℃以上、また、通常、重合体一次粒子の重合体のガラス転移温度〔Tg〕以下、好ましくは55℃以下の温度条件で凝集を行なう。凝集を行なう時間も任意であるが、通常10分以上、好ましくは60分以上、また、通常300分以下、好ましくは180分以下である。
また、凝集を行なう際には、攪拌を行なうことが好ましい。攪拌に使用する装置は特に限定されないが、ダブルヘリカル翼を有するものが好ましい。
得られた凝集体は、そのまま次工程の樹脂被覆層を形成する工程(カプセル化工程)に進んでもよいし、引き続き液状媒体中で加熱による融合処理を行なった後に、カプセル化工程に進んでもよい。そして、望ましくは、凝集工程の後に、カプセル化工程を行ない、カプセル化樹脂微粒子のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度で加熱して融合工程を行なう。こうした方法を採用することにより、工程を簡略化でき、トナーの性能劣化(熱劣化等)も生じにくくなる。
次にカプセル化工程について説明する。
凝集体を得た後、当該凝集体には、必要に応じて樹脂被覆層を形成することが好ましい。凝集体に樹脂被覆層を形成させるカプセル化工程とは、凝集体の表面に樹脂被覆層を形成することにより、凝集体を樹脂により被覆する工程である。これにより、製造されるトナーは樹脂被覆層を備えることになる。カプセル化工程では、トナー全体が完全に被覆されない場合もあるが、顔料は、実質的にトナー粒子の表面に露出していないトナーを得ることができるようになる。この際の樹脂被覆層の厚さに制限はないが、通常は0.01μm以上、0.5μm以下の範囲である。
上記の樹脂被覆層を形成する方法としては、特に制限はないが、例えば、スプレードライ法、機械式粒子複合法、in−situ重合法、液中粒子被覆法等が挙げられる。
スプレードライ法により樹脂被覆層を形成する方法としては、例えば、内層を形成する凝集体と樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子とを水媒体中に分散して分散液を作製し、分散液をスプレー噴出し、乾燥することによって、凝集体表面に樹脂被覆層を形成することができる。
機械式粒子複合法により樹脂被覆層を形成する方法としては、例えば、内層を形成する凝集体と樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子とを気相中に分散させ、狭い間隙で機械的な力を加えて凝集体表面に樹脂微粒子を成膜化する方法であり、例えばハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)等の装置が使用できる。
in−situ重合法としては、例えば、凝集体を水中に分散させ、単量体及び重合開始剤を混合して、凝集体表面に吸着させ、加熱して、単量体を重合させて、内層である凝集体表面に樹脂被覆層を形成する方法である。
液中粒子被覆法としては、例えば、内層を形成する凝集体と外層を形成する樹脂微粒子とを、水媒体中で反応あるいは結合させ、内層を形成する凝集体の表面に樹脂被覆層を形成させる方法である。
外層を形成させる場合に用いる樹脂微粒子は、凝集体よりも粒径が小さく樹脂成分を主体とする粒子である。この樹脂微粒子は、重合体で構成された粒子であれば特に制限はない。ただし、外層の厚みがコントロールできるという観点から、上述した重合体一次粒子、凝集体、又は、前記の凝集体を融合した融合粒子と同様の樹脂微粒子を用いることが好ましい。なお、これらの重合体一次粒子等と同様の樹脂微粒子は、内層に使用する凝集体における重合体一次粒子等と同様に製造することができる。
樹脂微粒子の使用量は任意であるが、トナー粒子に対して、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは25重量%以下とする。
さらに、凝集体に対する樹脂微粒子の固着又は融合を効果的に行なうためには、樹脂微粒子の粒径は、通常、0.04μm以上、1μm以下のものが好ましく用いられる。
樹脂被覆層に用いられる重合体成分(樹脂成分)のガラス転移温度〔Tg〕としては、通常60℃以上、好ましくは70℃以上、また、通常110℃以下とする。さらに、樹脂被覆層に用いられる重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕は、重合体一次粒子のガラス転移温度〔Tg〕より5℃以上高いものであることが好ましく、10℃以上高いものであることがより好ましい。ガラス転移温度〔Tg〕を上記範囲とすれば、一般環境での保存性を確保しやすくなる一方で、充分な溶融性も確保しやすくなる。
さらに、樹脂被覆層中にはポリシロキサンワックスを含有させることが好ましい。これにより、耐高温オフセット性の向上という利点を得ることができる。ポリシロキサンワックスの例を挙げると、アルキル基を有するシリコーンワックス等が挙げられる。
ポリシロキサンワックスの含有量は、制限はないが、トナー中、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.08重量%以上とする。樹脂被覆層中のポリシロキサンワックスの量を上記範囲とすれば、耐高温オフセット性が確保されやすくなる。また、ポリシロキサンワックスの含有量は、トナー中、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下とする。樹脂被覆層中のポリシロキサンワックスの量を上記範囲とすれば、耐ブロッキング性を確保しやすくなる。
樹脂被覆相中にポリシロキサンワックスを含有させる方法は任意であるが、例えば、ポリシロキサンワックスをシードとして乳化重合を行ない、得られた樹脂微粒子と、内層を形成する凝集体とを、水系媒体中で反応あるいは結合させ、内層を形成する凝集体の表面にポリシロキサンワックスを含有する樹脂被覆層を形成させることにより含有させることが可能である。
次に、融合工程について説明する。
融合工程では、凝集体を加熱処理することにより、凝集体を構成する重合体の溶融一体化を行なう。
また、凝集体に樹脂被覆層を形成してカプセル化樹脂微粒子とした場合には、加熱処理をすることにより、凝集体を構成する重合体及びその表面の樹脂被覆層の融合一体化がなされることになる。これにより、顔料粒子は実質的に表面に露出しない形態で得られる。
融合工程の加熱処理の温度は、通常、凝集体を構成する重合体一次粒子のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度とする。また、樹脂被覆層を形成した場合には、通常、樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度とする。具体的な温度条件は任意であるが、樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕よりも、通常5(℃)以上高温であることが好ましい。その上限に制限はないが、「樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕よりも50(℃)高い温度」以下が好ましい。
なお、加熱処理の時間は処理能力、製造量にもよるが、通常、0.5時間以上、6時間以下である。
最後に、洗浄・乾燥工程について説明する。
上述した各工程を液状媒体中で行なっていた場合には、融合工程の後、得られたカプセル化樹脂粒子を洗浄し、乾燥して液状媒体を除去することにより、トナーを得ることができる。洗浄及び乾燥の方法に制限は無く任意である。
こうして得られたトナーの物性値について次に説明する。まず、トナーの粒径に関する物性値について説明する。
トナーの体積平均粒径〔Dv〕は、制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常4μm以上、好ましくは5μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは8μm以下である。トナーの体積平均粒径〔Dv〕を上記範囲とすれば、画質の安定性を確保しやすく、解像度の低下も抑制しやすくなる。
また、トナーは、体積平均粒径〔Dv〕を個数平均粒径〔Dn〕で除した値〔Dv/Dn〕が、通常1.0以上、また、通常1.25以下、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.15以下であることが望ましい。〔Dv/Dn〕の値は、粒度分布の状態を表わし、この値が1.0に近い方ほど粒度分布がシャープであることを表わす。粒度分布がシャープであるほど、トナーの帯電性が均一となるので望ましい。
トナーは、粒径25μm以上の体積分率が、通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下、更に好ましくは0.05%以下である。この値は小さいほど好ましい。これは、トナーに含まれる粗粉の割合が少ないことを意味しており、粗粉が少ないと、連続現像の際のトナーの消費量が少なく、画質が安定するので好ましいのである。なお、粒径25μm以上の粗粉は全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、通常は0.005%以下にしなくとも構わない。
また、トナーは、粒径15μm以上の体積分率が、通常2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下である。粒径15μm以上の粗粉も全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、通常は0.01%以下にしなくとも構わない。
さらに、トナーは、粒径5μm以下の個数分率が、通常15%以下、好ましくは10%以下であることが、画像カブリの改善に効果があるので、望ましい。
ここで、トナーの体積平均粒径〔Dv〕、個数平均粒径〔Dn〕、体積分率、個数分率等は、以下のようにして測定することができる。即ち、トナーの粒子径の測定装置としては、コールターカウンターのマルチサイザーII型あるいはIII型(ベックマン・コールター社製)を用い、個数分布・体積分布を出力するインターフェイス及び一般的なパーソナルコンピューターを接続して使用する。また、電解液はアイソトンIIを用いる。測定法としては、前記電解液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1〜5ml加え、更に測定試料(トナー)を2〜20mg加える。そして、試料を懸濁した電解液は超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行ない、前記コールターカウンターのマルチサイザーII型あるいはIII型により、100μmアパーチャーを用いて測定する。このようにしてトナーの個数及び体積を測定して、それぞれ個数分布、体積分布を算出し、それぞれ、体積平均粒径〔Dv〕、個数平均粒径〔Dn〕を求める。
次に、トナーの分子量に関する物性値について説明する。
トナーのTHF可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略す場合がある)におけるピーク分子量のうち少なくとも1つは、通常1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上となる。ピーク分子量のうち少なくとも1つを上記範囲とすれば、非磁性一成分現像方式における機械的耐久性を確保しやすくなる。また、上記のピーク分子量のうち少なくとも1つは、通常15万以下、好ましくは10万以下、より好ましくは7万以下となる。ピーク分子量のうち少なくとも1つを上記範囲とすれば、低温定着性や定着強度を確保しやすくなる。なお、THFはテトラヒドロフランのことをいう。
さらに、トナーのTHF不溶分は、後述するセライト濾過による重量法で測定した場合、通常10%以上、好ましくは20%以上であり、また、通常60%以下、好ましくは50%以下である。上記範囲とすれば、機械的耐久性と低温定着性との両立が確保しやすくなる。
なお、本発明のトナーのピーク分子量は、測定装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)を用いて次の条件で測定される。
すなわち、40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を毎分1mL(ミリリットル)の流速で流す。次いで、トナーをTHFに溶解後0.2μmフィルターで濾過し、その濾液を試料として用いる。
測定は、試料濃度(樹脂の濃度)を0.05〜0.6質量%に調整した樹脂のTHF溶液を測定装置に50〜200μl注入して行なう。試料(トナー中の樹脂成分)の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を、数種の単分散ポリスチレン標準試料により作製された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。検量線作製用の標準ポリスチレン試料としては、例えば、PressureChemical Co.製あるいは、東洋ソーダ工業社製の、分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。また、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いる。
さらに、前記の測定方法で用いるカラムとしては、103〜2×106の分子量領域を適確に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数組合せるのがよく、例えば、Waters社製のμ−styragel500,103,104,105の組合せや、昭和電工社製のshodex KA801,802,803,804,805,806,807の組合せが好ましい。
また、トナーのテトラヒドロフラン(THF)不溶分の測定は、以下のようにして行なうことができる。即ち、試料(トナー)1gをTHF100gに加え25℃で24時間静置溶解し、セライト10gを用いて濾過し、濾液の溶媒を留去してTHF可溶分を定量し、1gから差し引いてTHF不溶分を算出することができる。
次に、トナーの軟化点及びガラス転移温度について説明する。
トナーの軟化点〔Sp〕に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、低エネルギーで定着する観点から、通常150℃以下、好ましくは140℃以下である。また、耐高温オフセット性、耐久性の点からは、軟化点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上である。
なお、トナーの軟化点〔Sp〕は、フローテスターにおいて、試料1.0gをノズル1mm×10mm、荷重30kg、予熱時間50℃で5分、昇温速度3℃/分の条件下で測定を行なったときの、フロー開始から終了までのストランドの中間点での温度として求めることができる。
トナーのガラス転移温度〔Tg〕に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常80℃以下、好ましくは70℃以下であると、低エネルギーで定着できるので望ましい。また、ガラス転移温度〔Tg〕は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であると、耐ブロッキング性の点で好ましい。
なお、トナーのガラス転移温度〔Tg〕は、示差走査熱量計において、昇温速度10℃/分の条件で測定した曲線の転移(変曲)開始部に接線を引き、2つの接線の交点の温度として求めることができる。
トナーの軟化点〔Sp〕及びガラス転移温度〔Tg〕は、トナーに含まれる重合体の種類及び組成比に大きく影響を受ける。このため、トナーの軟化点〔Sp〕及びガラス転移温度〔Tg〕は、前記の重合体の種類及び組成を適宜最適化することにより調整することができる。また、重合体の分子量、ゲル分、ワックス等の低融点成分の種類及び配合量によっても、調整することが可能である。
次に、トナー中のワックスについて説明する。
トナーがワックスを含有する場合、トナー粒子中のワックスの分散粒径は、平均粒径として、通常0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上とする。ワックスの分散粒径を上記範囲とすれば、トナーの耐フィルミング性改良の効果が得られやすくなる。また、トナー粒子中のワックスの分散粒径は、平均粒径として、通常3μm以下、好ましくは1μm以下とする。ワックスの分散粒径を上記範囲とすれば、トナーの表面にワックスが露出しにくくなり帯電性や耐熱性を確保しやすくなる。
なお、ワックスの分散粒径は、トナーを薄片化して電子顕微鏡観察する方法の他、ワックスが溶解しない有機溶剤等でトナーの重合体を溶出した後にフィルターで濾過し、フィルター上に残ったワックス粒子を顕微鏡により計測する方法等により確認することができる。
また、トナーに占めるワックスの割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上とする。ワックスの割合を上記範囲とすれば、定着温度幅を確保しやすくなる。また、トナーに占めるワックスの割合は、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下とする。ワックスの割合を上記範囲とすれば、装置部材を汚染しにくくなる結果、画質低下を抑制しやすくなる。
トナーには外添微粒子を添着させてもよい。
具体的には、トナーの流動性、帯電安定性、高温下での耐ブロッキング性等を向上させるために、トナー粒子表面に外添微粒子を添着させてもよい。
外添微粒子をトナー粒子表面に添着させる方法としては、例えば、上述したトナーの製造方法において、液状媒体中で二次凝集体と外添微粒子を混合した後、加熱してトナー粒子上に外添微粒子を固着させる方法;二次凝集体を液状媒体から分離、洗浄、乾燥させて得られたトナー粒子に乾式で外添微粒子を混合又は固着させる方法等が挙げられる。
乾式でトナー粒子と外添微粒子とを混合する場合に用いられる混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、V型ミキサー、レディゲミキサー、ダブルコーンミキサー、ドラム型ミキサー等が挙げられる。中でもヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速攪拌型の混合機を用い、羽根形状、回転数、時間、駆動−停止の回数等を適宜設定して均一に攪拌、混合することにより混合することが好ましい。
また、乾式でトナー粒子と外添微粒子を固着させる場合に用いられる装置としては、圧縮剪断応力を加えることのできる圧縮剪断処理装置や、粒子表面を溶融処理することのできる粒子表面溶融処理装置等が挙げられる。
圧縮剪断処理装置は、一般に、間隔を保持しながら相対的に運動するヘッド面とヘッド面、ヘッド面と壁面、あるいは壁面と壁面によって構成される狭い間隙部を有し、被処理粒子が該間隙部を強制的に通過させられることによって、実質的に粉砕されることなく、粒子表面に対して圧縮応力及び剪断応力が加えられるように構成されている。このような圧縮剪断処理装置としては、例えば、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョン装置等が挙げられる。
粒子表面溶融処理装置は、一般に、熱風気流等を利用し、母体微粒子と外添微粒子との混合物を母体微粒子の溶融開始温度以上に瞬時に加熱し外添微粒子を固着できるように構成される。このような粒子表面溶融処理装置としては、例えば、日本ニューマチック社製のサーフュージングシステム等が挙げられる。
外添微粒子としては、この用途に用い得ることが知られている公知のものが使用できる。例えば、無機微粒子、有機微粒子等が挙げられる。
無機微粒子としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化カルシウム等の炭化物、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化珪素等の窒化物、ホウ化ジルコニウム等のホウ化物、シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、タルク、ハイドロタルサイト等の酸化物や水酸化物、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の各種チタン酸化合物、リン酸三カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸イオンの一部が陰イオンによって置換された置換リン酸カルシウム等のリン酸化合物、二硫化モリブデン等の硫化物、フッ化マグネシウム、フッ化炭素等のフッ化物、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、滑石、ベントナイト、導電性カーボンブラックをはじめとする種々のカーボンブラック等を用いることができる。さらには、マグネタイト、マグへマタイト、マグネタイトとマグヘマタイトの中間体等の磁性物質等を用いてもよい。
有機微粒子としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、テトラフロロエチレン樹脂、トリフロロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の微粒子を用いることができる。
これら外添微粒子の中では、特に、シリカ、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、カーボンブラック等が好適に使用される。
なお、外添微粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
これらの無機又は有機微粒子の表面は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンワニス、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系シリコーンオイル、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するカップリング剤等の処理剤によって疎水化等の表面処理が施されていてもよい。なお、処理剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
外添微粒子の数平均粒径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.001μm以上、好ましくは0.005μm以上、また、通常3μm以下、好ましくは1μm以下であり、異なる平均粒径のものを複数配合してもよい。なお、外添微粒子の平均粒径は、電子顕微鏡観察やBET比表面積の値からの換算等により求めることができる。
トナーに対する外添微粒子の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、トナーと外添微粒子との合計重量に対する外添微粒子の割合として、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上とする。外添微粒子の割合を上記範囲とすれば、流動性、帯電安定性を確保しやすくなる。また、トナーと外添微粒子との合計重量に対する外添微粒子の割合として、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下、より好ましくは4重量%以下とする。外添微粒子の割合を上記範囲とすれば、定着性を確保しやすくなる。
(トナーその他)
トナーの帯電特性は、負帯電性であっても、正帯電性であっても良く、用いる画像形成装置の方式に応じて設定することができる。なお、トナーの帯電特性は、帯電制御剤等のトナー母粒子構成物の選択及び組成比、外添微粒子の選択及び組成比等により調整することができる。
また、トナーは、一成分現像剤として用いることも、キャリアと混合して二成分現像剤として用いることも可能である。
二成分現像剤として用いる場合には、トナーと混合して現像剤を形成するキャリアとしては、例えば、公知の鉄粉系、フェライト系、マグネタイト系キャリア等の磁性物質、又は、それらの表面に樹脂コーティングを施したものや磁性樹脂キャリアを用いることができる。
キャリアの被覆樹脂としては、例えば、一般的に知られているスチレン系樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が利用できるが、これらに限定されるものではない。
また、キャリアの平均粒径は特に制限はないが、10〜200μmの平均粒径を有するものが好ましい。これらのキャリアは、トナー1重量部に対して5〜100重量部の割合で用いるのが好ましい。
なお、電子写真方式によるフルカラー画像の形成は、マゼンタ、シアン、イエローの各カラートナー及び必要に応じてブラックトナーを用いて常法により実施することができる。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に制約されるものではない。なお、下記実施例で「部」とは「重量部」のことを示す。
(実施例1)
下引き層用分散液Aの作製;平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO55N」)と、その酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシランと、をボールミルにて混合して得られたスラリーを乾燥後、更にメタノールで洗浄し、乾燥して、疎水性処理酸化チタンを得た。次いで、この疎水性処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させて、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーを作製した。そして、この疎水化処理酸化チタンの分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエン(重量比7/1/2)の混合溶媒と、ε−カプロラクタム/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン/ヘキサメチレンジアミン/デカメチレンジカルボン酸/オクタデカメチレンジカルボン酸(組成モル比率:60%/15%/5%/15%/5%)からなる共重合ポリアミドのペレットと、を加熱しながら撹拌、混合した。こうした撹拌・混合により、ポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行うことにより、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する固形分濃度18.0%の下引き層用分散液Aを作製した。
下引き層の形成;上記の下引き層用分散液Aを、陽極酸化されていないアルミニウムシリンダー(外径30mm、長さ351mm、厚さ1.0mm)に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が1.5μmとなるように下引き層を設けた。
電荷発生層の形成;次に、電荷発生物質として、D型オキシチタニウムフタロシアニン20部と1,2−ジメトキシエタン280部を混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行って、微細化処理液を得た。一方、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)を、1,2−ジメトキシエタン253部と、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン85部と、の混合液に溶解させてバインダー液を得た。そして、上記の微細化処理液に、上記のバインダー液、及び230部の1,2−ジメトキシエタンを混合して分散液(電荷発生層形成用塗布液)を調製した。得られた電荷発生層形成用塗布液に、下引き層を設けた前記アルミニウムシリンダーを浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が0.3μm(0.3g/m2)となるように電荷発生層を形成した。
電荷輸送層の形成;次に、例示化合物(1−7)を40部、例示化合物(1−1)を30部、例示化合物(2−1)を2部、バインダー樹脂を100部、及びレベリング剤としてシリコーンオイル(商品名 KF−96 信越化学工業(株))0.03部を、テトラヒドロフラン/トルエン(8/2)混合溶媒640部に溶解させた電荷輸送層形成用塗布液を、上記の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるように浸漬塗布し、積層型感光層を有する感光体ドラムE1を得た。なお、バインダー樹脂として下記構造を繰り返し単位として持つポリアリレート(P−1:粘度平均分子量約40,000)を用いた。また、例示化合物(1−7)及び例示化合物(1−1)は化合物Aに対応し、例示化合物(2−1)は化合物Bに対応するものである。
(実施例2)
実施例1で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を、2部とする代わりに8部使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムE2を得た。
(比較例1)
実施例1で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用する代わりに、下記化合物(Irganox-1076)を使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP1を得た。
(比較例2)
比較例1で使用した化合物(Irganox-1076)を、2部使用する代わりに8部使用したこと以外は、比較例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP2を得た。
(比較例3)
実施例1で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP3を得た。
(比較例4)
実施例1で使用した例示化合物(1−7)と例示化合物(1−1)とを使用する代わりに、下記化合物(K−1)を55部使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP4を得た。
(比較例5)
比較例4で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用する代わりに、(Irganox-1076)を使用したこと以外は、比較例4と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP5を得た。
(比較例6)
比較例4で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用しなかったこと以外は、比較例4と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP6を得た。
(比較例7)
実施例1で使用した例示化合物(1−7)と例示化合物(1−1)とを使用する代わりに、下記化合物(K−2)を80部使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP7を得た。
(比較例8)
比較例7で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用する代わりに、(Irganox-1076)を使用したこと以外は、比較例7と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP8を得た。
(比較例9)
比較例7で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用しなかったこと以外は、比較例7と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP9を得た。
(実施例3)
実施例1で使用した例示化合物(1−7)を使用する代わりに、例示化合物(1−9)を使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムE3を得た。
(実施例4)
実施例1で使用した例示化合物(1−7)と例示化合物(1−1)とを使用する代わりに、例示化合物(1−18)を60部使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムE4を得た。なお、例示化合物(1−18)は、化合物Aに対応するものである。
(実施例5)
バインダー樹脂としてP−1を使用する代わりに、下記構造を繰り返し単位として持つポリカーボネート(P−2:粘度平均分子量40000)を40部と、下記構造を繰り返し単位として持つポリアリレート(P−3:粘度平均分子量30000:イソフタル酸成分/テレフタル酸成分=0.8)を60部と、使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムE5を得た。
(実施例6)
バインダー樹脂としてP−1を使用する代わりに、下記構造を有するポリアリレート(P−4:粘度平均分子量約45,000;m:n=7:3)を使用したこと、例示化合物(2−1)を2部とする代わりに5部使用したこと、例示化合物(1−18)を60部使用する代わりに80部使用したこと、以外は、実施例4と同様にして感光体E6を得た。
(比較例10)
バインダー樹脂としてP−1を使用する代わりに、下記構造を繰り返し単位として持つポリカーボネート(P−5:粘度平均分子量46000)を使用したこと以外は、実施例1と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP10を得た。
(比較例11)
比較例10で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用する代わりに、(Irganox-1076)を使用したこと以外は、比較例10と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP11を得た。
(比較例12)
比較例10で使用した例示化合物(2−1)で表される化合物を使用しなかったこと以外は、比較例10と同様に感光体を作製し、感光体ドラムP12を得た。
(実施例7)
下引き層用分散液Bの作製;
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO55N」)と、その酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)と、をヘンシェルミキサーにて混合して、表面処理酸化チタンを得た。次いで、この表面処理酸化チタン50部と、メタノール120部と、を混合してなる原料スラリー1kgを、直径約100μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM−015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量10kg/時間の液循環状態で1時間分散処理し、酸化チタン分散液を作製した。
一方、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%である共重合ポリアミドのペレットを準備した。そして、上記の酸化チタン分散液と、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒と、上記の共重合ポリアミドのペレットと、を加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、出力1200Wの超音波発信器による超音波分散処理を1時間行い、更に孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック製 マイテックス LC)により濾過することにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒(重量比:7/1/2)中に、表面処理酸化チタン/共重合ポリアミド(重量比:3/1)を含有する固形分濃度が18.0重量%の下引き層用分散液Bを作製した。
下引き層の形成;上記の下引き層用分散液Bを、陽極酸化されたアルミニウムシリンダー(外径30mm、長さ351mm、厚さ1.0mm)に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が1.5μmとなるように下引き層を設けた。
なお、上記下引き層94.2cm2を、メタノール70cm3、1−プロパノール30cm3の混合用液に浸漬し、出力600Wの超音波発信器により5分間超音波処理して下引き層分散液を得て、該分散液中の金属酸化物粒子の粒度分布をUPAで測定したところ、体積平均径Mvは0.078μm、個数平均径Mpは0.059μm、Mv/Mpは1.32であった。
電荷発生層・電荷輸送層の形成;得られた下引き層の上に実施例1と同様にして電荷発生層及び電荷輸送層を形成し、感光体E7を得た。
なお、得られた感光体E7の感光層94.2cm2を、テトラヒドロフラン100cm3に浸漬し、出力600Wの超音波発信器により5分間超音波処理して溶解除去した後、同部分をメタノール70cm3、1−プロパノール30cm3の混合用液に浸漬し、出力600Wの超音波発信器により5分間超音波処理して下引き層分散液を得て、該分散液中の金属酸化物粒子の粒度分布をUPAで測定したところ、体積平均径Mvは0.079μm、個数平均径Mpは0.059μm、Mv/Mpは1.34であった。
(電気特性の評価)
実施例及び比較例において作製した電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電(マイナス極性)、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを露光光として照射した。そして、この露光光を1.0μJ/cm2の強度で照射したときの100ms後の露光後表面電位(VL)を測定した(−V)。得られた結果を表−1に示す。
(耐オゾン特性の評価:オゾン曝露試験)
耐オゾン特性の評価方法を以下に示す。川口電気社製EPA8200を使用し、各実施例及び各比較例で用いた、下引き層用分散液、電荷発生層形成用塗布液、電荷輸送層形成用塗布液を、膜厚75μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの表面に厚さ70nmのアルミニウム蒸着層を形成した導電性支持体上に、各実施例及び各比較例で形成したのと同様の層構成となるように塗布して得られた感光体を、コロトロン帯電器に25μAの電流を印可して帯電させ、その帯電値をV1とした。次いで、これらの感光体に200ppm濃度のオゾンを4時間曝露した。その後、上記と同様に帯電値を再度測定し、この値をV2とした。そして、オゾン曝露前後の帯電保持率(V2/V1×100)(%)を求めた。得られた結果を表−1に示す。
表−1の結果より以下のことがわかる。
感光体P3の結果から、ポリアリレート及び式(1)で表される化合物Aを使用した感光体において、式(2)で表される化合物Bを用いないと、帯電保持率が低く、使用に適さないことがわかる。
感光体E1のVLと感光体P1のVLとの比較、及び感光体E2のVLと感光体P2のVLとの比較から、ポリアリレート及び式(1)で表される化合物Aを使用した感光体において、さらに式(2)で表される化合物Bを併用することにより、他の化合物(Irganox1076)を用いた場合と比較して、感光体のVLが低く抑えられることがわかる。
また、感光体E1及び感光体E2それぞれのVLと、感光体P1及び感光体P2それぞれのVLとの比較から、感光体の耐オゾン性を向上させることを目的として、式(2)で表される化合物B又はIrganox1076の含有量を多くすると、一般的に、VLが悪化することがわかる。
なお、感光体E1〜E3それぞれのVLと、感光体P10〜P12それぞれのVLとの比較から、式(1)で表される化合物Aのようなイオン化ポテンシャルが相対的に大きいトリアリールアミン化合物を、ポリアリレートと併用すると、ポリカーボネートと併用したときに比べ、一般的にVLが悪化することが多い。したがって、本発明のように、ポリアリレートと、式(1)で表される化合物Aとを併用する系においては、VLの上昇を抑制しつつ耐オゾン性を改善できるような化合物をなるべく少量使用することが好ましい。
具体的に、感光体E1と感光体P2の感光体の結果を比べると、帯電保持率は殆ど変わらないことから、感光体としての酸化防止能は同様であるといえ、少量の化合物Bの採用で同様の効果を達成させた感光体E1の組成は非常に優れていることがわかる。感光体P2は、酸化防止剤であるIrganox1076を大量に用いているために酸化防止能(耐オゾン性)の向上はみられるが、VLの上昇が大きいため実使用に耐えない感光体であるといえる。
また、感光体P4〜P9の結果から、上記の効果は、ポリアリレートと、式(1)で表される化合物Aとを併用したときに顕著に発現するものであり、他の種類の化合物を併用したときには効果が小さくなることわかる。
(実施例8)
感光体E7を、A3印刷対応である市販のタンデム型カラープリンタ(沖データ社製 Microline3050c)のシアンドラムカートリッジに搭載した。そしてこのシアンドラムカートリッジを上記カラープリンタに装着し、温度25℃、湿度50%の条件下、1万枚の印刷を行なった。その結果、1万枚の印刷を通して、かぶりが少なく濃度の安定した画像が得られた。
(実施例9)
<現像用トナーの製造1>
ワックス・長鎖重合性単量体分散液T1の調製;
パラフィンワックス(日本精鑞社製HNP−9、表面張力23.5mN/m、融点82℃、融解熱量220J/g、融解ピーク半値幅8.2℃、結晶化ピーク半値幅13.0℃)27部(540g)、ステアリルアクリレート(東京化成社製)2.8部、20重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(第一工業製薬社製、ネオゲンS20A、以下適宜「20%DBS水溶液」と略称する)1.9部、脱塩水68.3部を90℃に加熱してホモミキサー(特殊機化工業社製 マークII fモデル)で8000rpmの回転数で10分間攪拌した。こうして分散液を得た。
次いで、この分散液を90℃に加熱し、ホモジナイザー(ゴーリン社製、15−M−8PA型)を用いて約25MPaの加圧条件で循環乳化を開始し、体積平均粒径をUPA−EXで測定しながら体積平均粒径を250nmまで分散してワックス・長鎖重合性単量体分散液T1(エマルション固形分濃度=30.2重量%)を作製した。
シリコーンワックス分散液T2の調製;
アルキル変性シリコーンワックス(融点72℃)27部(540g)、20%DBS水溶液1.9部、脱塩水71.1部を3Lのステンレス容器に入れ90℃に加熱してホモミキサー(特殊機化工業社製 マークII fモデル)で8000rpmの回転数で10分間攪拌した。こうして分散液を得た。
次いで、この分散液を99℃に加熱し、ホモジナイザー(ゴーリン社製、15−M−8PA型)を用いて約45MPaの加圧条件で循環乳化を開始し、体積平均粒径をUPA−EXで測定しながら体積平均粒径が240nmになるまで分散してシリコーンワックス分散液T2(エマルション固形分濃度=27.4重量%)を作製した。
重合体一次粒子分散液T1の調製;
攪拌装置(3枚翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた反応器(内容積21リットル、内径250mm、高さ420mm)に、ワックス・長鎖重合性単量体分散液T1を35.6重量部(712.12g)と、脱塩水259部とを仕込み、回転数103rpmで攪拌しながら窒素気流下で90℃に昇温した。
その後、下記のモノマー類及び乳化剤水溶液の混合物を重合開始から5時間かけて添加した。このモノマー類及び乳化剤水溶液の混合物を滴下開始した時間を重合開始とし、下記の開始剤水溶液を重合開始30分後から4.5時間かけて添加し、更に重合開始5時間後から下記の追加開始剤水溶液を2時間かけて添加し、更に回転数103rpm、内温90℃のまま1時間保持した。
[モノマー類]
スチレン 76.8部 (1535.0g)
アクリル酸ブチル 23.2部
アクリル酸 1.5部
トリクロロブロモメタン 1.0部
ヘキサンジオールジアクリレート 0.7部
[乳化剤水溶液]
20%DBS水溶液 1.0部
脱塩水 67.1部
[開始剤水溶液]
8%過酸化水素水溶液 15.5部
8%L(+)−アスコルビン酸水溶液 15.5部
[追加開始剤水溶液]
8%L(+)−アスコルビン酸水溶液 14.2部
重合反応終了後冷却し、乳白色の重合体一次粒子分散液T1を得た。UPA−EXで測定した体積平均粒子径は280nmであり、固形分濃度は21.1重量%であった。
重合体一次粒子分散液T2の調製;
攪拌装置(3枚翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた反応器(内容積21リットル、内径250mm、高さ420mm)に、シリコーンワックス分散液T2を23.6重量部(472.3g)と、20%DBS水溶液1.5重量部と、脱塩水324部とを仕込み、窒素気流下で90℃に昇温し、103rpmで攪拌しながら8%過酸化水素水溶液3.2部、8%L(+)−アスコルビン酸水溶液3.2部を一括添加した。
そして、5分経過後、下記のモノマー類・乳化剤水溶液の混合物を重合開始(8%過酸化水素水溶液3.2部、8%L(+)−アスコルビン酸水溶液3.2部を一括添加した時から5分後)から5時間かけて、下記の開始剤水溶液を重合開始から6時間かけて添加し、更に回転数103rpm、内温90℃のまま1時間保持した。
[モノマー類]
スチレン 92.5部 (1850.0g)
アクリル酸ブチル 7.5部
アクリル酸 1.5部
トリクロロブロモメタン 0.6部
[乳化剤水溶液]
20%DBS水溶液 1.5部
脱塩水 66.2部
[開始剤水溶液]
8%過酸化水素水溶液 18.9部
8%L(+)−アスコルビン酸水溶液 18.9部
重合反応終了後冷却し、乳白色の重合体一次粒子分散液T2を得た。UPA−EXで測定した体積平均粒子径は290nmであり、固形分濃度は19.0重量%であった。
着色剤分散液Tの調製;
攪拌機(プロペラ翼)を備えた内容積300Lの容器に、トルエン抽出液の紫外線吸光度が0.02であり、真密度が1.8g/cm3のファーネス法で製造されたカーボンブラック(三菱化学社製、三菱カーボンブラックMA100S)20部(40kg)、20%DBS水溶液1部、非イオン界面活性剤(花王社製、エマルゲン120)4部、電気伝導度が2μS/cmのイオン交換水75部を加えて予備分散して顔料プレミックス液を得た。導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて行なった。
プレミックス後の分散液中カーボンブラックの体積累積50%径Dv50は約90μmであった。上記プレミックス液を原料スラリーとして湿式ビーズミルに供給し、ワンパス分散を行なった。なお、ステータの内径はφ75mm、セパレータの径がφ60mm、セパレータとディスク間の間隔は15mmとし、分散用のメディアとして直径が50μmのジルコニアビーズ(真密度6.0g/cm3)を用いた。ステータの有効内容積は約0.5リットルであり、メデイアの充填容積は0.35リットルとしたので、メディア充填率は70%である。ロータの回転速度を一定(ロータ先端の周速が約11m/sec)として、供給口より前記プレミックススラリを無脈動定量ポンプにより供給速度約50リットル/hrで連続的に供給し、排出口より連続的に排出することにより黒色の着色剤分散体Tを得た。UPA−EXで測定した体積平均粒子径は150nmであり、固形分濃度は24.2重量%であった。
現像用母粒子Tの製造;
重合体一次粒子分散液T1 固形分として95部 (固形分として998.2g)
重合体一次粒子分散液T2 固形分として5部
着色剤微粒子分散液T 着色剤固形分として6部
20%DBS水溶液 固形分として0.1部
上記の各成分を用いて、以下の手順によりトナーを製造した。
攪拌装置(ダブルヘリカル翼)、加熱冷却装置、濃縮装置、及び各原料・助剤仕込み装置を備えた混合器(容積12リットル、内径208mm、高さ355mm)に重合体一次粒子分散液T1と20%DBS水溶液を仕込み、内温12℃40rpmで5分間均一に混合した。続いて、内温12℃で攪拌回転数を250rpmに上げ第一硫酸鉄の5%水溶液をFeSO4・7H2Oとして0.52部を5分かけて添加してから着色剤微粒子分散液Tを5分かけて添加し、内温12℃で250rpmのまま均一に混合し、更に同一の条件のまま0.5%硫酸アルミニウム水溶液を滴下した(樹脂固形分に対しての固形分が0.10部)。その後250rpmのまま75分かけて内温53℃に昇温して、その後170分かけて56℃まで昇温した。
ここでアパーチャー径を100μmとした精密粒度分布測定装置(マルチサイザーIII :ベックマン・コールター社製;以下適宜「マルチサイザー」と略称する)にて粒径測定を測定したところ50%体積径が6.7μmであった。
その後、250rpmのまま重合体一次粒子分散液T2を3分かけて添加してそのまま60分保持し、回転数を168rpmに落としてすぐに20%DBS水溶液(固形分として6部)を10分かけて添加してから30分かけて168rpmのまま90℃に昇温して60分保持した。
次いで、20分かけて30℃まで冷却して得られたスラリーを抜き出し、5種C(東洋濾紙株式会社製 No5C)のろ紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過をした。ろ紙上に残ったケーキを攪拌機(プロペラ翼)を備えた内容積10L(リットル)のステンレス容器に移し、電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgを加え50rpmで攪拌することにより均一に分散させ、その後30分間攪拌したままとした。
その後、再度5種C(東洋濾紙株式会社製 No5C)のろ紙を用いてアスピレーターにより吸引ろ過をし、再度ろ紙上に残った固形物を攪拌機(プロペラ翼)を備え電気伝導度が1μS/cmのイオン交換水8kgの入った内容積10Lの容器に移し、50rpmで攪拌することにより均一に分散させ30分間攪拌したままとした。この工程を5回繰り返したところ、ろ液の電気伝導度は2μS/cmとなった。導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて行なった。
ここで得られたケーキをステンレス製バッドに高さ20mm程度となるように敷き詰め、40℃に設定された送風乾燥機内で48時間乾燥することにより、現像用母粒子Tを得た。
現像用トナーTの製造;
攪拌機(Z/A0羽根)と上部より壁面に対し直角に向いたディフレクターを備えた内容積10L(直径230mm高さ240mm)のヘンシェルミキサー内に、現像用母粒子T100部(1000g)を投入し、続いてシリコーンオイルで疎水化処理された体積平均一次粒径0.04μmのシリカ微粒子0.5部と、シリコーンオイルで疎水化処理された体積平均一次粒径0.012μmのシリカ微粒子2.0部とを添加し、3000rpmで10分間攪拌・混合して150メッシュを通し篩別することにより現像用トナーTAを得た。マルチサイザーIIで測定したトナーTAの体積平均粒径は7.05μm、Dv/Dnは1.14、FPIA2000で測定した平均円形度は0.963であった。
以上のようにして得た現像用トナーTAを用い、画像特性の評価を行った。
具体的には、実施例8で使用したアルミニウムシリンダーの代わりに、外径30mm、長さ375.8nm、厚さ1.0mmのアルミニウムシリンダーを使用したこと以外は、実施例7と同様にして感光体E8を作製し、これを、A3印刷対応である市販のタンデム型LEDカラープリンタMICROLINE Pro 9800PS−E((株)沖データ社製)用のブラックドラムカートリッジに搭載し、かつ、上記現像用トナーTAを、上記のカラープリンタ用のブラックトナーカートリッジに搭載して感光体カートリッジを得た。そして、この感光体カートリッジを上記プリンタに装着した。なお、タンデム型LEDカラープリンタMICROLINE Pro 9800PS−Eの画像形成装置としての仕様は以下のとおりである。
MICROLINE Pro 9800PS−Eの仕様;
4連タンデム カラー36ppm、モノクロ40ppm
1200dpi
接触ローラ帯電(直流電圧印加)
LED露光
除電光あり
このカラープリンタを用いて、グラデーション画像(日本画像学会テストチャート)を1万枚プリントアウトした後に、白地画像及びグラデーション画像(日本画像学会テストチャート)をプリントアウトし、白地画像のカブリ値、及び、グラデーション画像でのドット抜けを評価した。この結果を表−2に示す。
なお、カブリ値は、以下のようにして求めた。すなわち、標準サンプルの白度が94.4となるように白度計を調節し、この白度計を用いて印刷前の紙の白度を測定した。そして、その同じ紙に対し、全面白色となる信号を上述のレーザープリンタに入力することにより印刷を行った後、印刷後の紙の白度を再度測定した。こうして得られた印刷前の白度と印刷後の白度との差を測定し、カブリ値を求めた。この値が大きいということは、印刷後の紙は、微小黒点が多く黒ずんでいる、つまり画質が悪いということになる。
グラデーション画像については、どの濃度規格までがドット抜けすることなく印字されたかで評価し、濃度値が小さいほど、より薄い部分まで描画できており良好だということになる。
(実施例10)
現像用トナーTAの代わりに、下記方法にて作製した現像用トナーTBを使用したこと以外は、実施例9と同様にして画像評価をした。
<現像用トナーの製造2>
実施例9の<現像用トナーの製造1>において、現像用母粒子Tの製造の中で、DBS水溶液を添加した後の“90℃に昇温して60分保持した”ところを、“90℃に昇温して180分保持した”以外は、現像用トナーの製造1と同様にして、現像用トナーTBを得た。FPIA2000で測定した平均円形度は0.981であった。
(参考例1)
感光体E7を、市販のカラープリンタMICROLINE 3050c((株)沖データ社製)のブラックドラムカートリッジに搭載し、上記プリンタに装着した。トナーには上記プリンタ用の溶融混練粉砕法により製造された市販のトナーを使用した。当該トナーの平均円形度は0.935であった。