JP2008280198A - ダイヤモンド膜被覆部材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】鉄基合金上に密着性良くダイヤモンド膜が被覆されたダイヤモンド膜被覆部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材1上にタングステンから成る中間層10と、中間層10上にダイヤモンド膜を被覆する。また中間層10上は溝部3によって分割された微小区域4を有し、微小区域4の表面上の最長距離8を100μmを超え450μm未満とする。さらに、溝深さ12を10μm以上中間層厚さ11以下とする。また、溝部3によって分割された微小区域4と隣接する微小区域4との最短距離2を10μm以上とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、ダイヤモンド膜が被覆された部材およびその製造方法に関する。
ダイヤモンドは現存物質中で最大の硬さを持つという特徴を持つことが良く知られており、摩擦係数、耐食性、光学特性などでも優れている。よってダイヤモンド膜が耐摩耗用途で被覆されることで、優れた特性を有することから超硬合金製基材にダイヤモンド膜が被覆された切削工具が市販されており、アルミニウムや黒鉛の切削で高い性能を出している。しかし、ダイヤモンド膜を被覆させる方法等によって前記膜の密着性が不安定となる問題があった。
一方、構造材料等で汎用されている鉄基合金を基材に用いた場合、基材上に直接ダイヤモンドを被覆させることは困難である。それは、鉄やコバルトなどの材料はダイヤモンドの合成に用いる炭化水素原料ガスを分解し、前記基材表面上に煤を生成させるためである。よって基材表面上が煤により被覆されると、煤上にダイヤモンド膜が被覆されたとしても密着性は著しく低くなるので、実用化への適用は困難であった。そのためダイヤモンド膜の密着性を確保する努力が長い間続けられてきた。
例えば、ダイヤモンド膜との密着性向上の問題に対して、特許文献1および2ではWC(タングステンカーバイド)を主成分とする超硬合金製基材の表面上に溝加工によりダイヤモンド膜との接触面積を増大させて、基材とダイヤモンド膜とのアンカー効果で膜の密着性を確保する方法が開示されている。
また、ダイヤモンド膜を被覆させ難い鉄基合金等との密着性を改善するために、特許文献3では基材上にタングステン粉末の焼結体から成る多孔質の金属層を設けたうえで前記多孔質金属層とダイヤモンド膜とのアンカー効果で膜の密着性を確保する方法が開示されている。
特許公報 第2737521号公報 特許公報 第3448884号公報 特許公報 第2722726号公報
しかしながら、特許文献1に示す方法では、大きさまたは間隔が1〜100μmの多数の孔または溝の存在によって個々の孔や溝の強度が低下し、表面が損傷を受けやすいという問題がある。また前記孔又は溝の大きさ又は間隔が100μmを超える場合については、具体的なデータが開示されていない。さらに前記大きさ又は間隔が100μmを超える場合には、前記文献内で開示されているダイヤモンド膜とのアンカー効果は著しく低下するという問題もある。
また特許文献2に示す方法では、基材上に穴または溝の間隔が大きい場合、使用前後の温度差が大きいと容易にダイヤモンド膜の剥離が生じるという問題がある。
さらに特許文献3に示す方法では、前記と同様に使用前後の温度差が大きいと容易にダイヤモンド膜の剥離が生じるという問題がある。また同時にダイヤモンド膜被覆後の面粗度も大きくなるため、平滑面加工にも多大な時間が必要となる。
本発明は前述した問題点を解決するためになされたものであり、ダイヤモンド膜を安定的に密着させるダイヤモンド膜被覆部材およびその製造方法を提供することにある。また品質のバラツキを抑えて、低コストで製作容易なダイヤモンド膜被覆部材およびその製造方法を提供することにある。
本願の発明者は鉄基合金製の基材表面とダイヤモンド膜の間にタングステンから成る中間層を設けて、前記タングステン膜上に微小区域を形成させることによりダイヤモンド膜の成膜面積を分割して、基材とダイヤモンド膜との熱膨張差に基づく冷却時の収縮差を緩和できることを知得した。
この知得に基づき、本発明においては基材上にタングステンから成る中間層と、
前記中間層上に被覆されたダイヤモンド膜と、から成るダイヤモンド膜被覆部材であ
って、前記中間層上に溝部によって分割された微小区域を有し、前記微小区域表面上
の最長距離が100μmを超え450μm未満であるダイヤモンド膜被覆部材を提
供することにより前述した課題を解決した。
すなわち、ダイヤモンド膜と鉄基合金との密着性を阻害する原因の1つが、ダイヤモンドの熱膨張係数(3×10−6K)と鉄基合金の熱膨張係数(11〜12×10−6K)の差異であることに着目し、熱膨張係数がダイヤモンドに近似しているタングステン(4.4×10−6K)を、鉄基合金上に被覆させる中間層材料として用いた。
それにより、材料同士の熱膨張係数による密着性の問題を緩和させた。
さらに前記タングステンから成る中間層上に溝部を設けて微小区域を形成させ、前記微小区域の表面上の最長距離を100μmを超え450μm未満とすることによって、熱膨張差による収縮差を緩和させて、剥離の問題を解決することができた。最長距離については、前記距離が100μm以下の場合、前述したように個々の微小区域の強度が低下し、表面が損傷を受けやすい。また、前記距離が450μm以上の場合、熱膨張差による膜剥離が生じる可能性が高まる傾向にある。
なお本発明中の溝部とは、溝加工が施されている溝底面および溝側面を含む平面もしくは曲面を含む。また中間層に用いられる材料には、純粋なタングステンの他に熱膨張係数や熱伝導度等の特性変化が小さい不純物や添加物を加えたタングステンあるいはWCやWCに代表されるタングステン化合物やタングステン合金も含む。
また、請求項2に記載の発明においては、前記中間層およびダイヤモンド膜の各表面が研磨により平滑化されているダイヤモンド膜被覆部材とした。すなわち、前記中間層表面の平滑化によりダイヤモンド膜との密着性を向上させて、ダイヤモンド膜の表面の平滑化によって、高精度の表面粗さが得られる。
さらに、請求項3に記載の発明においては、前記溝部が10μm以上前記中間層の厚さ以下の深さであるダイヤモンド膜被覆部材とした。すなわち前記中間層上に10μm以上の溝加工を施すことによって、ダイヤモンド膜の基材表面に平行方向の熱応力を逃がすことができる。一方、中間層を残さずに基材表面が露出すると、煤の発生による問題が生じるので、前記溝深さはダイヤモンド膜厚(通常10μm以上)以上が必要であるが、前記の問題から中間層が10μm程度残る溝深さとすること
が好ましい。
なお、本発明中の溝深さとは、溝加工が施されている中間層表面から溝の最大深さをいう。また溝断面の形状については矩形断面の他に台形、V字型、U字型、半円状型および多角形型なども適用可能である。
また、請求項4に記載の発明においては、前記微小区域と隣接する微小区域との最短距離が10μm以上であるダイヤモンド膜被覆部材とした。すなわち溝部により分割された微小区域同士の相互間距離を少なくとも10μm以上隔たせることにより、タングステンから成る中間層とダイヤモンド膜との熱膨張差による微小区域の収縮差を微小区域間で吸収させることができる。
かかるダイヤモンド膜被覆部材は、次のようにして得られる。すなわち、鉄基合金製の基材上にタングステンから成る中間層を被覆し、前記中間層上の溝加工により形成された微小区域表面上の最長距離が100μmを超え450μm未満となるように分割した後、ダイヤモンド膜を被覆する、ダイヤモンド膜被覆部材の製造方法を提供する(請求項5)。
すなわち、前記中間層上の溝加工により形成された微小区域表面上の最長距離を100μmを超え450μm未満とすることにより、前記熱膨張差による収縮差を緩和できるダイヤモンド膜被覆部材を得ることができる。
なお前記の溝加工の方法については、溝幅、溝間隔および溝深さなどを自由に調節できるエッチングやショットブラスト加工などでも可能である。また前記微小区域表面上の最長距離は100μmを超え450μm未満であるが、容易に溝加工を行える点からは前記距離は150μm以上400μm以下とすることが好ましい。
また、請求項6に記載の発明においては、前記中間層およびダイヤモンド膜を被覆した後、前記中間層およびダイヤモンド膜の各表面を研磨により平滑化するダイヤモンド膜被覆部材の製造方法を提供する。さらに、請求項7に記載の発明においては、前記溝加工は、10μm以上前記中間層の厚さ以下の溝深さとなるダイヤモンド膜被覆部材の製造方法を提供する。また、請求項8に記載の発明においては、前記溝加工は、前記微小区域相互間の最短距離を10μm以上とするダイヤモンド膜被覆部材の製造方法を提供する。
以上述べたように、本発明においては、鉄基合金製の基材上に被覆されたタングステンから成る中間層上に微小区域を形成させ、前記微小区域表面上の最長距離が100μmを超え450μm未満であるダイヤモンド膜被覆部材を用いることによって、鉄基合金とダイヤモンドの熱膨張差による収縮差を緩和することができるので、使用前後で大きな温度差が生じる金型等の部材に適用させることができる。
さらにはダイヤモンド膜表面に生じる凹部を油溜まりとして機能させた場合、例えば湿潤面での使用環境が要求される摺動部材等にも適用できる。
また、請求項2に記載の発明においては、前記中間層およびダイヤモンド膜の各表面を研磨により平滑化させるダイヤモンド膜被覆部材を用いることにより高精度の表面粗さが得られるので、金型等の比較的表面積の広い部材に適用させた場合、安定した密着力を保つことができる。
さらに、請求項3に記載の発明においては、前記溝深さを10μm以上前記中間層の厚さ以下とするダイヤモンド膜被覆部材を用いることによりダイヤモンド膜の基材表面に平行方向の熱応力を逃がすことができるので、ダイヤモンド膜を安定的に密着させて、例えば切削工具等のような大きな圧縮応力もしくは引張応力が発生する部材に適用できる。
また、請求項4に記載の発明においては、前記微小区域と隣接する微小区域との最短距離を10μm以上とするダイヤモンド膜被覆部材を用いることにより、タングステンから成る中間層とダイヤモンド膜との熱膨張差による収縮差を微小区域間で吸収させることができるので、ダイヤモンド膜の連続的な剥離を防止することができる。
かかるダイヤモンド膜被覆部材の製造方法にあたって、前記中間層上の溝加工により形成された微小区域表面上の最長距離が100μmを超え450μm未満となるように分割させることにより、低コストで容易にダイヤモンド膜被覆部材を製作することができる(請求項5)。
また、請求項6乃至8に記載の発明においては、前記ダイヤモンド膜を被覆した後、研磨により前記ダイヤモンド膜表面等を平滑化する等の工程により、ダイカスト用金型のように高精度の表面粗さが要求される部材の製作にも適用させることができる。
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1(a)は鉄基合金か
ら成る基材表面上に中間層を形成させた後に矩形断面の溝加工を格子状に施して微小区域を形成させた状態の基材平面図、(b)は(a)の表面を部分的に拡大した模式平面図、(c)は(a)の表面を部分的に拡大した模式断面図である。
本発明においては、図1(a)に示すように、中間層形成後の基材1の表面上には隈なく溝加工が施されて、微小区域4が形成されている。また図1(b)に示すように、基材1の表面上には一定の溝幅を有する溝部3の加工が縦横方向に対して直角を形成するように施されており、微小区域4同士は最短距離2を隔てて形成されている。例えば、図1(b)に示すような微小区域4が四角形の場合、その大きさは、縦寸法6および横寸法7により決定されるが、微小区域4の表面上の最長距離8は、その対角線上の長さとなる。
さらに図1(c)に示すように、タングステンからなる中間層10は基材1の鉄基合金13の上に形成されている。また基材1の表面上に施された溝部3の溝深さ12は、中間層10による中間層厚さ11に比べて浅く加工されている。これにより、中間層10上にダイヤモンド膜が被覆された場合においてもダイヤモンド膜が鉄基合金13からなる基材1と接することがないため、煤の発生がなくダイヤモンド膜と中間層10の密着性を向上させることができる。
図2(a)および(b)は鉄基合金から成る基材上に中間層を形成させた後に溝加工を施した微小区域4を形成させた例を示す斜視図である。このように前述した格子状の微小区域4の他に、図2(a)に示すように矩形状の微小区域4を千鳥配置させる形状や図2(b)に示すように円状の微小区域4を規則的に配置させる等、種々の形態が可能である。
鉄基合金製の基材表面上に下記に示す6種類の材料を用いて中間層を形成させて、図1に示す矩形断面の溝加工を格子状に施した後にダイヤモンド膜を被覆させた場合のダイヤモンド膜の剥離の有無を調査した結果について説明する。
まず、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、アルミナ(Al)、イットリア(Y)およびイットリア安定化ジルコニア(ZrO・8%Y)の6種類の材料を中間層10の材料として、プラズマ溶射法により直径36mm、厚さ7mmの冷間金型用鋼SKD11製の基材表面に30〜300μmの厚さで被覆させた。その後、前記材料を研磨して表面を平滑化し、前記中間層上に熱フィラメントCVD法(化学的気相成長法)でダイヤモンド膜を約15μmの厚さで被覆させた。
前記ダイヤモンド膜の成膜の可否については、前記全ての中間層材料上で可能であったが、アルミナ、イットリアおよびイットリア安定化ジルコニアを用いた中間層表面に被覆させたダイヤモンド膜は、被覆時の基材温度約800℃から室温まで冷却する途中で全て被膜が剥離した。また、前記ダイヤモンド膜を被覆させた残りの基材については、室温での放置状態にてタングステンを中間層に用いた基材は徐々に被膜の剥離が進行し、モリブデンとシリコンを中間層に用いた基材は短時間で大部分の被膜が剥離した。
以上の結果から、ダイヤモンド膜の密着性に関しては前記の中間層材料中ではタングステンが最も良いことが判った。しかし、前記基材上にタングステンを中間層材料として被覆させた場合でも部分的に剥離が生じたことから、中間層とダイヤモンド膜の密着性が限界に近いレベルであることがわかった。
次に、本発明の中間層材料であるタングステンおよび前記調査で改善の可能性が見込まれたモリブデンとシリコンを本発明の比較例として用いて、前記方法と同様に約300μm厚さの中間層を被覆させた。しかる後に、前記中間層材料を研磨で平滑に加工し、さらに格子状のマスクを用いて、その窓形状の樹脂パターンを形成し、これにショットブラスト装置を用いて前記平滑加工後の基材表面上に溝幅42〜55μm、溝深さ20〜56μmの矩形断面の溝加工を格子状に施し、縦横150μm四方の微小区域(最長距離:約210μm)を形成させた。
図3(a)は本発明の実施例1に係る中間層上に矩形断面の溝加工を格子状に施された後の基材の写真、(b)は(a)の部分拡大写真である。前記溝加工を施した後、前記3種類の材料を中間層とした基材表面にCVD法で約15μmの厚さのダイヤモンド膜を被覆させた。
その後、前記基材を約800℃のダイヤモンド被覆温度から室温まで冷却させて、大気中に放置して置いた。図4(a)は本発明の実施例1に係る中間層材料にタングステンを被覆させた後ダイヤモンド膜コーティングを行った基材表面の外観写真であり、(b)は比較例として中間層材料にモリブデンを被覆させた場合の外観写真であり、(c)は比較例として中間層材料にシリコンを被覆させた場合の外観写真を示す。
図4(b)及び(c)に示すようにモリブデンおよびシリコンを中間層材料とした基材上のダイヤモンド膜は部分的に剥離が生じ、剥離箇所が拡大していった。一方、図4(a)に示すようにタングステンを中間層材料とした基材については、室温放置後も剥離はなく、被覆後の熱応力に由来する剥離も全く無く健全であった。
また表1はダイヤモンド膜の成膜中および室温における前記3種類の材料を用いて中間層とした基材上のダイヤモンド膜の剥離の有無を示す。
表1に示すように、本発明の中間層材料であるタングステンを用いた基材表面には成膜中および室温中においてダイヤモンド膜の剥離は無かった。しかし、本発明の比較例としてモリブデンおよびシリコンを中間層材料とした基材表面には成膜中にはダイヤモンド膜の剥離は無かったが、室温中ではダイヤモンド膜の剥離が確認された。なお、前記微小区域の最長距離が450μm以上のものについても、剥離の発生が認められている。
このように鉄基合金製の基材上へタングステンを用いた中間層を形成させ、前記中間層上に溝加工を施して微小区域を形成させた後、ダイヤモンド膜を被覆させることによって、前記モリブデンやシリコンを中間層材料とする場合に比較して、大きな温度差が生じる環境下においても基材とダイヤモンド膜との間に高い密着性が得られることが実証された。特に熱処理過程において空冷や炉冷が行われる鉄基合金、例えばSKD材に代表される切削工具や金型等への用途が可能となった。
また、本実施例ではタングステン等を用いた中間層を被覆させた後の表面を研磨で平滑に加工したが、前記工程は例えばPVD法(物理的気相成長法)などの平滑な膜が得られる方法を用いた場合には省略することができる。
次に、本発明に係る中間層材料であるタングステンを用いて中間層を形成させた後にダイヤモンド膜を被覆した基材の密着性を測定した結果について説明する。
密着性測定の試験片は、ダイヤモンド膜を被覆した後にダイヤモンド砥石を用いて前記膜表面を軽く研磨したものを用いた。前記表面上を研磨する理由は、ダイヤモンド膜被覆後の基材表面はダイヤモンド膜自身の表面粗さと前記中間層に溝加工を施したことによる凹凸部形成のため、そのまま試験片として使うには、粗く摩擦抵抗が大きくなるためである。図5(a)および(b)は、本発明の実施例2に係る研磨前後のダイヤモンド膜表面のSEM画像である。図5(a)に示すようにダイヤモンド膜被覆のままでは前記膜表面にダイヤモンド粒子による多数の凹凸部が存在しているが、図5(b)に示すように前記膜表面を研磨することによって表面の凸部が平滑化されていることがわかる。
密着性の測定方法は、3個の軸受鋼SUJ2製の鋼球(直径6.35mm)を前記試験片上に押しつける方式で行い、滑り速度15.7mm/秒、押しつけ荷重100〜1000Nを5分間隔でステップ状に上昇させて摩擦係数を測定する方法とした。
図6は、本発明の実施例2に係る摩擦試験において試験片上に発生する摩擦係数の経時変化を表すグラフである。図6に示すように試験片2個の内の一方は1000Nまで剥離が生じなかったが、他方は800Nで剥離が生じ、摩擦係数が上昇した。しかしながら、600Nという高い荷重まで耐えることができたことから、タングステンを中間層とし、中間層表面に微小区域を形成させてからダイヤモンドを被覆し、さらに被覆後のダイヤモンド膜表面を研磨することで、実用の負荷に耐えることのできる密着性を持ったダイヤモンド膜を鉄基合金製の基材上に形成できることが確かめられた。
なお本実施例では、基材の材料として金型用鋼SKD11を用いたが、SKD61あるいは他の構造用鋼についても熱膨張係数が近いので同様な特性が得られることは容易に理解され、さらにタングステンを用いて中間層を形成させることで基材の影響がさらに小さくなることは言うまでもない。
また、本実施例でのタングステン層の形成方法では厚い被膜を容易に形成させることができるため、プラズマ溶射法を用いたが、PVD法などの方法でも可能である。また基材上にタングステンを用いて中間層を形成させた後、研磨で中間層表面を平滑に加工したが、PVD法などで平滑な中間層を形成した場合には前記研磨の工程は省くことができる。
(a)は本発明の実施形態に示す鉄基合金から成る基材表面上に中間層を形成させた後に矩形断面の溝加工を格子状に施して微小区域を形成させた状態の基材平面図であり、(b)は(a)の基材表面を部分的に拡大した模式平面図であり、(c)は(a)の基材表面を部分的に拡大した模式断面図である。 (a)本発明の実施形態に示す鉄基合金から成る基材上に中間層を形成させた後に溝加工により矩形上の微小区域を千鳥配置させた例を示す斜視図であり、(b)は(a)の微小区域を円状にして規則的に配置させた例を示す斜視図である。 (a)は本発明の実施例1に係る中間層上に矩形断面の溝加工を格子状に施された後の基材の写真であり、(b)は中間層上に矩形断面の溝加工が格子状に施された後の基材の部分拡大写真である。 (a)は本発明の実施例1に係る中間層材料にタングステンを被覆させた後ダイヤモンド膜コーティングを行った基材表面の外観写真であり、(b)は比較例として中間層材料にモリブデンを被覆させた後ダイヤモンド膜コーティングを行った基材表面の外観写真であり、(c)は比較例として中間層材料にシリコンを被覆させた後ダイヤモンド膜コーティングを行った基材表面の外観写真である。 (a)は本発明の実施例2に係るダイヤモンド膜表面研磨前のSEM画像であり、(b)はダイヤモンド膜表面研磨後のSEM画像である。 本発明の実施例2に係る摩擦試験において試験片上に発生する摩擦係数の経時変化を表すグラフである。
符号の説明
1 基材
2 最短距離
3 溝部
4 微小区域
8 最長距離
10 中間層
11 中間層厚さ
12 溝深さ
13 鉄基合金

Claims (8)

  1. 鉄基合金製の基材上に被覆されたダイヤモンド膜被覆部材において、基材上にタングステンから成る中間層と、前記中間層上に被覆されたダイヤモンド膜と、から成るダイヤモンド膜被覆部材であって、前記中間層上に溝部によって分割された微小区域を有し、前記微小区域表面上の最長距離が100μmを超え450μm未満であることを特徴とするダイヤモンド膜被覆部材。
  2. 前記中間層およびダイヤモンド膜は、研磨により中間層およびダイヤモンド膜の各表面が平滑化されていることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜被覆部材。
  3. 前記溝部は、10μm以上前記中間層の厚さ以下の溝深さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド膜被覆部材。
  4. 前記微小区域は、隣接する微小区域との最短距離が10μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のダイヤモンド膜被覆部材。
  5. 鉄基合金製の基材上にタングステンから成る中間層を被覆し、前記中間層上の溝加工により形成された微小区域表面上の最長距離が100μmを超え450μm未満となるように分割した後、ダイヤモンド膜を被覆することを特徴とするダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
  6. 前記中間層およびダイヤモンド膜の被覆後、中間層およびダイヤモンド膜の各表面を研磨により平滑化することを特徴とする請求項5に記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
  7. 前記溝加工は、溝深さが10μm以上前記中間層の厚さ以下となることを特徴とする請求項5または6に記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
  8. 前記溝加工は、前記微小区域相互間の最短距離を10μm以上とすることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一に記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
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