本発明は、空気入りタイヤに関し、詳しくは、タイヤ周方向に巻回された補強コードからなるスパイラル補強層を備えた空気入りタイヤであって、操縦安定性能を維持しつつ、高速走行時の耐久性能を向上させた空気入りタイヤに関する。
高性能乗用車用タイヤでは、走行時のタイヤの回転速度が高速となるため、遠心力の影響が大きく作用して、タイヤのトレッド部分が外側に膨張してしまい、操縦安定性能を害する場合がある。このため、近年、タイヤのトレッド部分に、有機繊維やスチールの補強部材(スパイラル部材)を、タイヤ赤道面と概略平行になるように、螺旋状に巻き付けて形成される補強素子(以下、「スパイラルベルト補強層」または単に「スパイラル補強層」と称する)を備えた空気入りタイヤが開発されている。
また、トラック・バス用タイヤや自動二輪車用のタイヤにおいても、近年、同様の構造が見られるようになってきている。特に、トラック・バス用タイヤのように、高内圧で使用される重荷重用ラジアルタイヤでは、トレッド部の剛性が不足するため、波形またはジグザグ形をなしてタイヤ赤道面に沿って延びる多数本のスチールコードまたはスチールフィラメントを補強素子として、これら補強素子をゴムで被覆してなるプライの複数層を、ベルトに代えて、またはベルトに追加して用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
タイヤ赤道面に沿ってスパイラル状に巻きつける補強部材としては、従来、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)、スチールなどが用いられている。中でも、芳香族ポリアミドやスチールは、高温時においても伸張せずにトレッド部分の膨張を抑制することができるため、注目されつつある。特に、芳香族ポリアミドは、スチールに比べて軽量であるため、タイヤ重量を低減することができ、操縦安定性能に優れた効果を奏するため、大いに注目を集めている。
これら部材をタイヤのクラウン部分に巻付けることで、いわゆる「たが」効果(風呂桶のたがのようにタイヤのクラウン部分を押さえつけて、高速でタイヤが回転した場合でもタイヤが遠心力で膨らむことなく、高い操縦安定性能や耐久性を示す効果)を高めることが可能である。スパイラル補強層に係る改良技術としては、例えば、特許文献2に、有機繊維コードが実質的にタイヤ周方向に巻回されてなるベルト補強層を、所定の範囲の伸びを有する2種以上の有機繊維コードからなるものとし、これら有機繊維コードにつき、タイヤ幅方向中央部とショルダー部とで異なる材質および/または撚りを規定することで、タイヤ幅方向中央部における有機繊維コードの熱収縮率S(A)とショルダー部における有機繊維コードの熱収縮率S(B)とがS(A)<S(B)を満足するものとした空気入りタイヤが開示されている。
特開平2−81708号公報
特開2007−50726号公報(特許請求の範囲等)
上記スパイラル部材からなるベルト補強層を有するタイヤは、高速時の操縦安定性能に優れるとともに、トラクションが非常に高いことが知られている。しかしながら、かかるスパイラルベルト補強層を設けたタイヤにおいては、ベルト層とスパイラルベルト補強層との間で亀裂が生じて、セパレーションに至る場合があり、問題となっていた。特に近年、車両の高速化、空気入りタイヤの偏平化が進行し、これにより、ベルト層とベルト補強層との間のセパレーションを強力に抑制する必要性が高まってきた。
そこで本発明の目的は、ベルト層とスパイラルベルト補強層との間のセパレーションを強力に抑制して、操縦安定性能を維持しつつ、高速走行時の耐久性能を向上させることのできる空気入りタイヤを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、交錯ベルト層とスパイラルベルト補強層との間でセパレーションが生ずるに至る挙動につき鋭意検討した結果、赤道方向に巻き付けられたスパイラル部材が張力を持つことにより当該ベルト補強層が硬く振る舞って、これに伴い、スパイラルベルト補強層と交錯ベルト層のベルト端部との間に介在するゴム(交錯ベルト層のコーティングゴムやベルト補強層のコーティングゴム)のせん断歪が大きくなり、これにより亀裂が発生し易くなることを見出し、さらにその挙動につき詳細に検討した結果、以下のことを見出した。
即ち、2枚の交錯ベルト層のベルト端部は、タイヤが路面に接地したときに、タイヤ周方向(赤道方向)にずれる動きをして周方向に伸びようとする。これは、タイヤのトレッド部がトレッドセンターからトレッド端に向かうに従い外径が小さくなって径差が設けられていることによる。このような径差は接地時にトレッド部(ベルト層、ベルト補強層等)が幅方向に曲げ変形することで吸収されるが、タイヤは赤道方向にも360度丸いため、赤道方向(周方向)についても丸みを吸収しようとして、半径の小さいベルト端部が伸びて、平らな路面に接触することになる。
しかしここで、ベルト補強層内には実質上周方向に延びる補強素子が埋設されているため、このベルト補強層は周方向に殆ど伸びることができない。一方、前記のように交錯ベルト層のベルト端部は周方向に伸びようとするため、交錯ベルト層のベルト端部とベルト補強層のスパイラル部材との重なりあう部分で変形に周方向のズレが生ずる。このズレが歪となって両者の間に介在するゴムに加わるために、この部分から亀裂が生じやすくなる。すなわち、交錯ベルト層の両端部とベルト補強層との間に大きな周方向のせん断歪が発生する結果、亀裂を生ずることになるのである。この亀裂は、交錯ベルト層のベルト端部から発生するのが普通である。
さらに、本発明者らの検討により、この周方向せん断歪はベルト端部での接地長と相関があることについても見出された。すなわち、ベルト端部における接地長が長いと、踏み込みおよび蹴り出し位置において、それぞれ踏み込みおよび蹴り出し角が大きくなるために、各位置での局所的な周方向曲げの曲率が大きくなり、曲げによる周方向のせん断歪が増大する一方、接地長を短くすると、踏み込みおよび蹴り出し位置での周方向曲げの曲率は小さくなるため、周方向曲げによるせん断歪を抑えることができるのである。したがって、セパレーション防止のためには、ベルト端部での接地長を短くして、せん断歪を低減することが有効となる。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、タイヤトレッドゴムとカーカスプライとの間に、少なくとも2枚の交錯ベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に配置され、単線または並列した複数本のコードを被覆ゴム中に埋設してなる帯状のゴム被覆コード層を実質的にタイヤ周方向にスパイラル状に巻回してなる少なくとも1層のスパイラル補強層とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトのコード角がタイヤ周方向に対し85〜45度であり、
前記スパイラル補強層が芳香族ポリアミドコードと、該芳香族ポリアミドコードよりも熱収縮性の高い1種以上の有機繊維コードとからなり、かつ、該有機繊維コードの巻回部分が、前記交錯ベルト層の端部とタイヤ径方向に重なる位置に配置されるとともに、トレッド幅をTwとしたときタイヤセンター部を中心とする0.3Twの領域に配置されていないことを特徴とするものである。
本発明においては、前記芳香族ポリアミドコードと有機繊維コードとの、177℃における最大熱収縮応力の差が、0.3cN/dtex以上であることが好ましく、より好適には、前記有機繊維コードとして、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上含むコードを用いる。ここで、コードの177℃における最大熱収縮応力とは、一般的なディップ処理を施した加硫前のコードの、25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する最大応力(単位:cN/dtex)である。
また、前記有機繊維コードのコード角度は、好適には、タイヤ周方向に対して0〜20度である。さらに、本発明においては、前記芳香族ポリアミドコードが、少なくともタイヤセンター部を中心とする0.3Twの領域に配置されていることが好ましい。さらにまた、前記スパイラル補強層のうち前記ベルト端部よりタイヤ幅方向外側に位置する終端部分が、該ベルト端部よりもタイヤ半径方向内側であって、タイヤ横断面において、該ベルト端部を中心とした半径0.7mmの円と半径10mmの円との間の領域内に配置されていることが好ましく、特には、前記スパイラル補強層の終端部分が、該終端部分と前記ベルト端部との間の距離の最大値と最小値との差が2.0mm以内となる形状を有することが好ましい。
本発明によれば、上記構成としたことにより、スパイラル補強層を用いた高性能タイヤにおいて、操縦安定性能を損なうことなくベルト端部の亀裂を抑制して、高速耐久性能、高荷重時耐久性能を向上した空気入りタイヤを実現することが可能となった。
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。
図1に、本発明の空気入りタイヤの一例の幅方向断面図を示す。図示するように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤトレッドゴム1とカーカスプライ2との間にベルト3と、そのタイヤ径方向外側に配置されるスパイラル補強層4とを備えている。
本発明において、ベルト3は少なくとも2枚の交錯ベルト層からなり、ベルトのコード角度は、ベルトの面内せん断剛性を高く保つために、好適にはタイヤ周方向に対し85〜45度とする。ベルト3の補強素子は、通常、金属製(一般的にはスチール)であり、2枚のスチールベルトからなるものとすることが好ましいが、1枚を芳香族ポリアミドなどの有機繊維コードからなるベルトとしてもかまわない。本発明においては、ベルトの材質に特に制限はない。
また、スパイラル補強層4は、単線または並列した複数本のコードを被覆ゴム中に埋設してなる帯状のゴム被覆コード層を、実質的にタイヤ周方向にスパイラル状に巻回してなり、少なくとも1層にて配設される。本発明において、スパイラル補強層4は少なくとも2種類の有機繊維コードからなり、そのうちの1種には芳香族ポリアミドを用いる。
芳香族ポリアミドコードを用いることで、高強度、軽量の特徴を活かして、タイヤ高速回転時の遠心力によるトレッド部分の膨張を抑制することが可能である。したがって、芳香族ポリアミドコードは、タイヤセンター部近傍に配置することが有効であり、好適には、少なくともタイヤセンター部を中心とする0.3Twの領域に配置する。スパイラル補強層のこの領域に芳香族ポリアミドコードを適用することで、トレッド部分の膨張抑制効果を良好に得ることができる。
また、芳香族ポリアミドコード以外の有機繊維コードとしては、芳香族ポリアミドコードよりも熱収縮性の高い1種以上の有機繊維コードを用いる。本発明においては、かかる熱収縮性の高い有機繊維コードの巻回部分を、交錯ベルト層3の端部とタイヤ径方向に重なる位置に配置する。交錯ベルト層3の端部において、熱収縮性の高い有機繊維コードを周方向にスパイラル部材として配置することにより、高速走行時においてベルト端部の温度が高くなった際に、この熱収縮性の高いスパイラル部材がベルト端部で周方向に収縮することで、接地長を短くすることができるため、結果として踏み込みおよび蹴り出し位置での周方向曲げの曲率が小さくなって、周方向曲げによるせん断歪の増大を抑えることができる。
さらに、本発明においては、上記熱収縮性の高い有機繊維コードの巻回部分を、トレッド幅をTwとしたときタイヤセンター部を中心とする0.3Twの領域には配置しないものとする。これは、熱収縮性の高いスパイラル部材がトレッド幅全体に配設されていると、全体的に収縮を生じて、全体的に径がやや小さいタイヤとなるためである。一方、タイヤの接地圧は、内圧でほぼ決まることが知られており、結果的に接地長を交錯ベルト層端部において短くすることはできない。つまり、本発明では、交錯ベルト層端部にのみ熱収縮性の高い部材を配置することにより、交錯ベルト層端部においては接地長をやや短く、センター部においてはやや長くすることができ、上記周方向曲げに起因するせん断歪を抑えることが可能となるのである。ここで、上記領域をタイヤセンター部を中心とする0.3Twの範囲内とするのは、この範囲よりセンター部側に熱収縮性の高いスパイラル部材があると、交錯ベルト層端部での接地長がほとんど変わらず、本発明による上記せん断歪の抑制による亀裂抑制効果が得られないためである。
本発明において、上記芳香族ポリアミドコードと熱収縮性の高い有機繊維コードとの接合部については、互いにほぼつき合わせた状態で配置することが好ましい。ここで、つき合わせた状態とは、異種材料のコード間に約1.5mm、例えば、0.7mm〜10.0mmの空隙を設けた状態を意味する。この空隙量があまり小さすぎると、各コードの周方向剛性が違うためにせん断歪を生じ、亀裂の原因となる。一方、大きすぎると、高速時の遠心力に拮抗することができなくなるため、1.5mmという値を決めている。なお、本発明においてスパイラル補強層4は、図示するように、タイヤ幅方向にベルト3の全体を覆うキャップ部材のみとしてもよいが、キャップ部材と、ベルト3の端部近傍を覆うレイヤー部材との組合せにて配置してもよく、この場合、本発明に係る熱収縮性の高い有機繊維コードからなるスパイラル部材は、キャップ部材の一部として配置しても、レイヤー部材として配置してもよい。
さらにまた、本発明においては、スパイラル補強層4のうちベルト3の端部よりタイヤ幅方向外側に位置する終端部分4Aが、ベルト端部よりもタイヤ半径方向内側であって、タイヤ横断面において、ベルト端部を中心とした半径0.7mmの円と半径10mmの円との間の領域内に配置されていることが好ましい。図2に、ベルト3の端部近傍におけるスパイラル補強層4の断面形状の拡大図を示す。
これにより、スパイラル補強層4が、交錯ベルト層からなるベルト3のタイヤ半径方向外側のみならずタイヤ幅方向外側についても十分に覆うことができるとともに、ベルト端部とスパイラル補強層4との間のゴムゲージを適正な厚さにすることができ、ベルト端に入力する応力によるせん断歪を抑制できるので、これに起因してベルト端部から発生する亀裂の発生や進展を効果的に抑制することが可能となる。ベルト3の端部とスパイラル補強層4の終端部分4Aの任意の位置との間の距離が0.7mm未満であると、ベルト端部とスパイラル補強層4との間のゴムが緩衝層としての役割を十分に達成できないため、亀裂の抑制効果が十分得られないおそれがある。一方、上記距離が10mmを超えると、ゴムのボリュームの増加により発熱の影響が大きくなり、亀裂の進展に大きな影響を与えることになる。
より好適には、スパイラル補強層4は、その終端部分4Aとベルト3の端部との間の距離の最大値と最小値との差が2.0mm以内、特には1.0mm以内となる形状を有することが好ましい。具体的には、ベルト端と、スパイラル補強層4の終端部分上の任意の点A,B,C,Dとの間の距離をそれぞれa,b,c,dとしたときに、|a−b|,|b−c|,|c−d|,|d−a|等がいずれも2.0mm以内となるような形状とする。これにより、一方向に強い歪が発生することがなくなるため、ベルト端部の亀裂をより確実に抑制することができる。
スパイラル補強層4の終端部分4Aは、具体的には図示するように、滑らかな曲線状に形成することが好ましく、より好ましくは、ベルト3の端部を中心とする円弧状に形成する。これは、この終端部分4Aが屈曲点を有する形状を呈する場合、前述したタイヤ周方向曲げによるせん断歪に加えて、タイヤ幅方向曲げによる局所せん断歪が発生して、亀裂性に対して悪影響を与えるためである。かかる観点からは、この終端部分4Aが屈曲部分を持たないことが重要であり、特には、終端部分4Aを、実質的にベルト端部を中心とする真円の円弧状とすることで、タイヤ幅方向曲げによるせん断歪を均一にすることができ、亀裂の抑制により有効である。
なお、かかるスパイラル補強層4のうち、有機繊維コードのコード角度は、タイヤ周方向に対して0〜20度とすることが好ましい。これにより、交錯ベルト層端部において接地長を短くでき、スパイラル補強層の周方向の伸びを効果的に抑制して、曲げ変形を抑制することが可能となる。有機繊維コードのコード角度が20度を超えると、パンタグラフ変形により周方向伸びを生じて、熱収縮性の高いスパイラル部材の特性を活かすことができず、高速回転時の遠心力により、せん断歪が大幅に増加するおそれがある。同様の理由により、このコード角度は、0〜10度がより好ましく、0〜5度が特に好ましい。
本発明において、上記熱収縮性の高い有機繊維コードとしては、芳香族ポリアミドコードより高い熱収縮性を有するものであれば、特に制限されるものではないが、好適には、芳香族ポリアミドコードとの177℃における最大熱収縮応力の差が0.3cN/dtex以上である有機繊維コードを用いることができ、より好適には、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上含むコード(以下、「ポリケトン繊維含有コード」とも称する)を用いる。
中でも、177℃における最大熱収縮応力が、0.1〜1.8cN/dtex、より好ましくは0.4〜1.6cN/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.4cN/dtexの範囲にあるポリケトン繊維含有コードを用いることが望ましい。最大熱収縮応力が0.1cN/dtex未満の場合には、接地長を短くする効果が十分に得られない。一方、最大熱収縮応力が1.8cN/dtexを超える場合には、タイヤ製造時の加熱によりコードが著しく収縮するため、出来上がりのタイヤ形状が悪化する懸念がある。
上記ポリケトン繊維含有コードに用いるポリケトン繊維は、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が0.3%〜3%の範囲、好ましくは1%〜2%の範囲にあることが望ましい。150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が0.3%未満の場合には、タイヤ製造時の加熱による引き揃え効率が著しく低下し、タイヤとしての強度が不十分となる。一方、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が3%を超える場合には、タイヤ製造時の加熱によりコードが著しく収縮するため、出来上がりのタイヤ形状が悪化する懸念がある。ここで、ポリケトン繊維の乾熱処理時熱収縮率は、オーブン中で150℃、30分の乾熱処理を行ない、熱処理前後の繊維長を、1/30(cN/dtex)の荷重をかけて計測して下式、
乾熱処理時熱収縮率(%)={(Lb−La)/Lb}×100
により求められる値である。但し、Lbは熱処理前の繊維長、Laは熱処理後の繊維長である。
かかるポリケトン繊維は、引張強度が10cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは15cN/dtex以上である。この引張強度が10cN/dtex未満の場合、タイヤとしての強度が不十分となる。また、かかるポリケトン繊維の弾性率は200cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは250cN/dtex以上である。この弾性率が200cN/dtex未満の場合、弾性率が十分に確保できず、十分なたが効果を得ることができない。なお、ポリケトン繊維における引張強度および引張弾性率は、JIS−L−1013に準じて測定することにより得られる値であり、引張弾性率は伸度0.1%における荷重と伸度0.2%における荷重から算出した初期弾性率の値である。
次に、本発明に使用し得る、ポリケトン繊維(以下「PK繊維」と略記する)を少なくとも50質量%以上含むコードについて詳述する。
本発明に使用し得るPK繊維以外の繊維は、ナイロン、エステル、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、ビニロン等を挙げることができる。
本発明において好適なポリケトン繊維含有コードは、さらに、下記式(I)、
(式中、Tは撚り数(回/100mm)、Dはコードの総繊度(dtex)、ρはコードに使用される繊維素材の密度(g/cm
3)である)で定義される撚り係数αが0.25〜1.25の範囲であることが好ましい。ポリケトン繊維含有コードの撚り係数αが0.25未満では、熱収縮応力が十分に確保できず、一方、1.25を超えると、弾性率が十分に確保できず、補強能が小さくなる。
上記ポリケトン繊維の原料のポリケトンとしては、下記一般式(II)、
(式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分であり、各繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい)で表される繰り返し単位から実質的になるものが好適であり、その中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1−オキソトリメチレン[−CH
2−CH
2−CO−]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
かかるポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基とが交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
また、上記式(II)において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン、ブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、アセチレン、アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、スルニルホスホン酸のジエチルエステル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドンおよび塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
さらに、上記ポリケトンの重合度としては、下記式(III)、
(上記式中、tおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、cは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である)で定義される極限粘度[η]が、1〜20dL/gの範囲内にあることが好ましく、3〜8dL/gの範囲内にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時および延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間およびコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性および物性に悪影響が出ることがある。
さらにまた、ポリケトン繊維は、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が95%以上の結晶構造を有することが好ましい。結晶化度が50%未満の場合、繊維の構造形成が不十分であって十分な強度が得られないばかりか加熱時の収縮特性や寸法安定性も不安定となるおそれがある。このため、結晶化度としては50〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%である。
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度および倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)または(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維含有コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載されているようなヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載されているような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、さらに脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、さらに、かかる未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲内が好ましく、総延伸倍率は、好適には10倍以上とする。
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留は大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
また、ポリケトン繊維含有コードの高い熱収縮特性を最も効果的に活用するには、加工時の処理温度や使用時の成型品の温度が、最大熱収縮応力を示す温度(最大熱収縮温度)と近い温度であることが望ましい。具体的には、必要に応じて行われる接着剤処理におけるRFL処理温度や加硫温度等の加工温度が100〜250℃であること、また、繰り返し使用や高速回転によってタイヤ材料が発熱した際の温度は100〜200℃にもなることなどから、最大熱収縮温度は、好ましくは100〜250℃の範囲内、より好ましくは150〜240℃の範囲内である。
本発明に係るポリケトン繊維含有コードを得るに際し、コードを被覆するコーティングゴムは、種々の形状からなるものとすることができ、代表的には、被膜、シート等である。また、コーティングゴムとしては、既知のゴム組成物を適宜採用することができ、特に制限されるべきものではない。
本発明の空気入りタイヤは、上記ベルトおよびスパイラル補強層に関する条件を満足するものであればよく、それ以外のタイヤ構造の詳細、各部材の材質等については、特に制限されるものではない。例えば、図示するタイヤにおいては、左右一対のビードコア5間に、トロイド状をなして跨って延在する2枚のカーカスプライ2が配置されている(図中では1本で示されているが2枚の積層を示す)。カーカスプライ2は、通常、ラジアル方向(タイヤ赤道方向に対する角度が90度)に配設されて、図示するように、ビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返される。カーカスプライの補強コードとしては、例えば、ナイロン等の有機繊維コードを用いることができる。
本発明の空気入りタイヤは常法により製造することができ、タイヤ内に充填する気体としては、通常のあるいは酸素分圧を変えた空気、または窒素等の不活性ガスを用いることができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
(PK繊維の調製例)
常法により調製したエチレンと一酸化炭素が完全交互共重合した極限粘度5.3のポリケトンポリマーを、塩化亜鉛65重量%/塩化ナトリウム10重量%含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌溶解し、ポリマー濃度8重量%のドープを得た。
このドープを80℃に加温し、20μm焼結フィルターでろ過した後に、80℃に保温した紡口径0.10mmφ、50ホールの紡口より10mmのエアーギャップを通した後に5重量%の塩化亜鉛を含有する18℃の水中に吐出量2.5cc/分の速度で押出し、速度3.2m/分で引きながら凝固糸条とした。
引き続き凝固糸条を濃度2重量%、温度25℃の硫酸水溶液で洗浄し、さらに30℃の水で洗浄した後に、速度3.2m/分で凝固糸を巻取った。
この凝固糸にIRGANOX1098(Ciba Specialty Chemicals社製)、IRGANOX1076(Ciba Specialty Chemicals社製)をそれぞれ0.05重量%ずつ(対ポリケトンポリマー)含浸せしめた後に、該凝固糸を240℃以上にて乾燥後、仕上剤を付与して未延伸糸を得た。なお、この乾燥温度を適宜コントロールすることで熱収縮率の調整が可能である。
仕上剤は以下の組成のものを用いた。
オレイン酸ラウリルエステル/ビスオキシエチルビスフェノールA/ポリエーテル(プロピレンオキシド/エチレンオキシド=35/65:分子量20000)/ポリエチレンオキシド10モル付加オレイルエーテル/ポリエチレンオキシド10モル付加ひまし油エーテル/ステアリルスルホン酸ナトリウム/ジオクチルリン酸ナトリウム=30/30/10/5/23/1/1(重量%比)。
得られた未延伸糸を1段目を240℃で、引き続き258℃で2段目、268℃で3段目、272℃で4段目の延伸を行った後に、引き続き5段目に200℃で1.08倍(延伸張力1.8cN/dtex)の5段延伸を行い、巻取機にて巻取った。未延伸糸から5段延伸糸までの全延伸倍率は17.1倍であった。この繊維原糸は強度15.6cN/dtex、伸度4.2%、弾性率347cN/dtexと高物性を有していた。また、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率は1.9%であった。このようして得られたPK繊維を下記の条件下でコードとして使用した。
(タイヤの製造実施例)
タイヤサイズ245/45R18(タイヤの外径677mm、リム幅8.5インチ×リム径18インチ)の乗用車用高性能タイヤとして、以下に従い、従来例および実施例のタイヤを準備して、比較を行った。
<従来例>
図6に示すような、タイヤトレッドゴム1とカーカスプライ2との間に2枚の交錯ベルト層からなるベルト3と、そのタイヤ径方向外側に配置される1層のスパイラル補強層4とを備える供試タイヤを作製した。図示するタイヤにおいては、1対のビードコア5間にトロイド状をなして跨る2枚のカーカスプライ2が配置され、これらはいずれもラジアル方向(タイヤ赤道方向に対する角度が90度)に、ビードコア5の周りに折り返されて配設されている。かかるカーカスプライコードとしては、直径0.5mmの撚ったナイロンコードを用いた。
また、クラウン部分(トレッド部)を補強する2枚の交錯ベルト層3は、直径0.18mmのスチールの単線を3本合わせて撚った、いわゆる1×3タイプのスチールコードを、タイヤ周方向に対し50度傾けて、互いに交錯するよう配置した。かかるベルトコードの打込み間隔は35本/50mmとした。また、トレッド幅は245mmであり、交錯ベルト層の1枚目(内側)の配設幅は240mm、2枚目(外側)の配設幅は220mmとした。
スパイラル補強層4としては、直径0.7mmの撚った芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)コードを、打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。芳香族ポリアミドコードの撚り数は30回/100mmであり(コード長さ100mmの中に30回の撚りがあるとの意味)、177℃における最大熱収縮応力は0.0cN/dtexであった。また、スパイラル補強層の配設幅は250mmとし、全幅について1層で形成した。かかるスパイラル補強層の製造は、ケブラーコードを2本平行に並べて未加硫ゴムで覆いストリップ状として、これを、タイヤ成型時に交錯ベルト層3上に実質的にタイヤ周方向にスパイラル状に巻き付けて製造した。また、トレッド部には、所定の溝を配置した。
この従来例のタイヤでは、スパイラル補強層4の端部とベルト3の端部とのゲージを0.5mmに設定し、スパイラル補強層の端部は、図示するように、ベルト端部を覆うようにタイヤ幅方向外側まで達するものとした。
上記従来例のタイヤに対し、熱収縮性の高いスパイラル部材を交錯ベルト層端部に配した実施例のタイヤを、次のように準備した。
<実施例1>
図1および図3に示す構造にて、実施例1の供試タイヤを作製した。図示するタイヤは、基本構成は従来例と同様であり、スパイラル補強層4についてのみ、以下のように構成を変えて作製した。
スパイラル補強層4は、図示するように、タイヤセンター部を中心とする領域に従来例と同様の芳香族ポリアミドコードを配置し、それ以外の両端部の領域には、ポリケトン繊維コードを配置した。ポリケトン繊維からなるスパイラル部材としては、直径0.7mmの撚ったポリケトン繊維コードを打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。また、ポリケトン繊維コードの撚り数は30回/100mm、177℃における最大熱収縮応力は0.3cN/dtexであり、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し0度とした。
スパイラル補強層4の全配設幅は従来例と同様に250mmとし、このうちポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材は、ベルト端部を覆うようにそれぞれ幅45mmで配置した。このポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材のタイヤセンター側の端部は、タイヤセンター部に配置された芳香族ポリアミドコードからなるスパイラル部材の端部と、コード間に約1.5mmの空隙を設けた状態で配置した。また、交錯ベルト層端部よりタイヤ幅方向外側に位置するポリケトン繊維からなるスパイラル部材の終端部分4Aの形状は、図示するように滑らかな曲線からなるものとし、スパイラル補強層4とベルト3の端部との間のゲージが1.0mm、ベルト3の端部とスパイラル補強層4の端部との間のタイヤ半径方向距離が1.0mm、ベルト3の端部とスパイラル補強層4の端部との間のタイヤ幅方向距離が2.0mmとなるように設定した。
<実施例2>
図4に示す構造にて、実施例2の供試タイヤを作製した。図示するタイヤは、基本構成は従来例と同様であり、スパイラル補強層4についてのみ、以下のように構成を変えて作製した。
スパイラル補強層4は、タイヤセンター部を中心とする領域に従来例と同様の芳香族ポリアミドコードを配置し、それ以外の両端部の領域には、ポリケトン繊維コードを配置した。ポリケトン繊維からなるスパイラル部材としては、直径0.7mmの撚ったポリケトン繊維コードを打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。また、ポリケトン繊維コードの撚り数は30回/100mm、177℃における最大熱収縮応力は0.3cN/dtexであり、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し0度とした。
スパイラル補強層4の全配設幅は従来例と同様に250mmとし、このうちポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材は、ベルト端部を覆うようにそれぞれ幅45mmで配置した。このポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材のタイヤセンター側の端部は、タイヤセンター部に配置された芳香族ポリアミドコードからなるスパイラル部材の端部と、コード間に約1.5mmの空隙を設けた状態で配置した。また、交錯ベルト層端部よりタイヤ幅方向外側に位置するポリケトン繊維からなるスパイラル部材の終端部分4Aの形状は、図示するように、ベルト3の端部を中心とした実質上半径2.0mmの単一円弧からなるものとした。
<実施例3>
図5に示す構造にて、実施例3の供試タイヤを作製した。図示するタイヤは、基本構成は従来例と同様であり、スパイラル補強層4についてのみ、以下のように構成を変えて作製した。
スパイラル補強層4としては、図示するように、芳香族ポリアミドコードからなるスパイラル部材の1枚を配設幅250mmにて配設し、これに加えて、交錯ベルト層3の端部を覆うように、ポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材を幅45mmにて配置した。ポリケトン繊維からなるスパイラル部材としては、直径0.7mmの撚ったポリケトン繊維コードを打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。また、ポリケトン繊維コードの撚り数は30回/100mm、177℃における最大熱収縮応力は0.3cN/dtexであり、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し0度とした。また、交錯ベルト層3の端部よりタイヤ幅方向外側に位置するスパイラル部材の終端部分4Aの形状は、図示するように、いずれも滑らかな曲線からなるものとした。
また、比較例として以下のタイヤを準備した。
<比較例1>
図7に示すような、タイヤトレッドゴム1とカーカスプライ2との間に2枚の交錯ベルト層からなるベルト3を備える供試タイヤを作製した。図示するタイヤにおいては、1対のビードコア5間にトロイド状をなして跨る2枚のカーカスプライ2が配置され、これらはいずれもラジアル方向(タイヤ赤道方向に対する角度が90度)に、ビードコア5の周りに折り返されて配設されている。かかるカーカスプライコードとしては、直径0.5mmの撚ったナイロンコードを用いた。
また、クラウン部分(トレッド部)を補強する2枚の交錯ベルト層3は、直径0.18mmのスチールの単線を3本合わせて撚った、いわゆる1×3タイプのスチールコードを、タイヤ周方向に対し50度傾けて、互いに交錯するよう配置した。かかるベルトコードの打込み間隔は35本/50mmとした。また、トレッド幅は245mmであり、交錯ベルト層の1枚目(内側)の配設幅は240mm、2枚目(外側)の配設幅は220mmとした。さらに、トレッド部には、所定の溝を配置した。
この比較例1のタイヤは、上記従来例および実施例と比較すると、スパイラルベルトが配設されていない。
<比較例2>
図8に示す構造にて、比較例2の供試タイヤを作製した。図示するタイヤは、基本構成は従来例と同様であり、スパイラル補強層4についてのみ、以下のように構成を変えて作製した。
スパイラル補強層4は、図示するように、タイヤセンター部を中心とする領域に従来例と同様の芳香族ポリアミドコードを配置し、それ以外の両端部の領域には、ポリケトン繊維コードを配置した。ポリケトン繊維からなるスパイラル部材としては、直径0.7mmの撚ったポリケトン繊維コードを打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。また、ポリケトン繊維コードの撚り数は30回/100mm、177℃における最大熱収縮応力は0.3cN/dtexであり、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し0度とした。
スパイラル補強層4の全配設幅は従来例と同様に250mmとし、このうちポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材は、ベルト端部を覆うようにそれぞれ幅90mmで配置した。このポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材のタイヤセンター側の端部は、タイヤセンター部に配置された芳香族ポリアミドコードからなるスパイラル部材の端部と、コード間に約1.5mmの空隙を設けた状態で配置した。また、交錯ベルト層端部よりタイヤ幅方向外側に位置するポリケトン繊維からなるスパイラル部材の終端部分4Aの形状は、図示するように、滑らかな曲線からなるものとした。
<実施例4>
図9に示す構造にて、実施例4の供試タイヤを作製した。図示するタイヤは、基本構成は従来例と同様であり、スパイラル補強層4についてのみ、以下のように構成を変えて作製した。
スパイラル補強層4は、図示するように、タイヤセンター部を中心とする領域に従来例と同様の芳香族ポリアミドコードを配置し、それ以外の両端部の領域には、ポリケトン繊維コードを配置した。ポリケトン繊維からなるスパイラル部材としては、直径0.7mmの撚ったポリケトン繊維コードを打ち込み間隔50本/50mmにて配置した。また、ポリケトン繊維コードの撚り数は30回/100mm、177℃における最大熱収縮応力は0.3cN/dtexであり、そのコード角度は、タイヤ周方向に対し0度とした。
スパイラル補強層4の全配設幅は従来例と同様に250mmとし、このうちポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材は、ベルト端部を覆うようにそれぞれ幅45mmで配置した。このポリケトン繊維コードからなるスパイラル部材のタイヤセンター側の端部は、タイヤセンター部に配置された芳香族ポリアミドコードからなるスパイラル部材の端部と、コード間に約1.5mmの空隙を設けた状態で配置した。また、交錯ベルト層端部よりタイヤ幅方向外側に位置するポリケトン繊維からなるスパイラル部材の終端部分4Aの形状は、図示するように、ベルト3の端部からタイヤ幅方向外側に2.0mmの位置でほぼ90度屈曲し、タイヤ半径方向内側に向かい、ベルト端部からタイヤ半径方向内側に1.0mmの位置で終端する折れ線状とした。
<耐久性評価>
これら各供試タイヤについて、下記に従い耐久性試験を実施して、実施例の効果を確認した。
試験は、直径3mのスチール製のドラムに、タイヤを押し付けて高速回転させることにより行った。タイヤは、CA(キャンバー角)−1度、SA(スリップ角)0度、荷重5kNで押し付けた。8.5J×18インチのリムに装着して、タイヤ内圧は指定内圧220kPaよりも低めの180kPaとした。タイヤ内圧を指定内圧よりも低めに設定したのは、タイヤのたわみ量を大きくして、タイヤの故障を促進させるためである。速度130km/hで100時間連続走行させた後、ドラムを止め、タイヤを解剖して、亀裂の有無を調べた。なお、ドラムの周りの温度は10℃に管理し、タイヤに向けて風速10m/sの風を吹き付け続けることで、タイヤの極端な発熱を防止し、実際の走行状態をなるべく再現させるようにした。これを試験条件Aとする。
また、このドラム試験機を用いて、荷重を通常はありえない8kNに増して、時速130キロで100時間連続走行させる試験についても実施した。荷重を増したこと以外の条件は、上記試験条件Aと同じである。この条件を試験条件Bとする。
各供試タイヤを2本ずつ準備して、上記試験条件Aおよび試験条件Bのそれぞれにて試験を実施し、その後、タイヤを解剖して、亀裂の有無を調べた結果を、下記の表1中に示す。
従来例に比べて、実施例1〜4では、ベルト層両端部とスパイラル補強層との間にゴム層を配置して距離を確保している。これにより、ベルト層端部に入力するせん断歪を抑制することができ、故障の発生を遅延できることがわかる。これに対し、十分なゴムの緩衝層によって距離を確保していない従来例のタイヤは、厳しい条件下では完走できなかった。
また、実施例1と実施例2〜4との比較から、スパイラル補強層端部の形状を変えることによる効果が確認でき、実施例2,3のタイヤにおいては、スパイラル補強層の端部の形状を滑らかな曲線にすることにより、局所歪を分散させ、歪レベルをよりマイルドにすることによって、耐久性能を上げることができることが確かめられた。
<走行評価>
次に、各供試タイヤで操縦安定性能に差がないのかを確認するために、熟練ドライバーによるテストコース走行を実施した。車両としては、後輪駆動のスポーツタイプの車両を使用した。限界時の操縦安定性能を見るために激しい走行を行い、最高速度は200キロに達した。4輪に従来例のタイヤを装着した場合と、実施例1〜4、比較例1,2のタイヤを装着した場合について、操縦安定性能および乗り心地性能を10点満点で評価した。数値が大なるほど高性能といえ、良好である。
その結果を、下記の表2中に示す。
従来例と実施例1〜4との比較から、本発明により操縦安定性能および乗り心地性能を損なうことはないことが確認できた。これに対し、比較例1ではタイヤに柔らかさが現れ、スパイラル補強層がないため、特に旋回時および高速レーンチェンジ時に挙動を乱す結果となった。また、比較例2においては、交錯ベルト層の端部近傍の幅90mmに熱収縮性の高いスパイラル部材を配設しているため、高速時の接地形状が大きく崩れ、ピーキーな挙動が現れた。さらに、乗り心地も熱収縮により張力が増加することによって、悪くなったと考えられる。
上記により、本発明において、スパイラルベルトを用いた高性能タイヤの操縦安定性能を損なうことなく、ベルト端部の亀裂を抑制し、高速耐久性能、高荷重時耐久性能を向上できることが確認された。
本発明の空気入りタイヤの一例を示す幅方向断面図である。
ベルト端部近傍におけるスパイラル補強層の断面形状を示す拡大図である。
実施例1の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
実施例2の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
実施例3の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
従来例の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
比較例1の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
比較例2の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
実施例4の空気入りタイヤを示す幅方向断面図である。
符号の説明
1 タイヤトレッドゴム
2 カーカスプライ
3 ベルト(交錯ベルト層)
4 スパイラル補強層
5 ビードコア