JP4743762B2 - 重荷重用空気入りラジアルタイヤ - Google Patents

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Description

本発明は、小型トラックやトラック・バスなどの重荷重用空気入りラジアルタイヤ(以下単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、走行耐久性を損なうことなく軽量化を実現し得る重荷重用空気入りラジアルタイヤに関する。
小型トラックやトラック・バス用空気入りラジアルタイヤは、カーカスプライにスチールコードを使用するのが一般的であり、そのため高重量となることは避けられなかった。しかし、近年、特に環境保護や省エネルギーの観点から、タイヤの軽量化が強く求められており、スチールコードに比べて軽量な高強度有機繊維コードが注目されている。
かかる観点から、スチールコードに比べて軽量で、かつ高弾性、高耐疲労性を示すポリケトン繊維が注目されている(例えば、特許文献1参照)。また、同様の観点から、特許文献2では、ポリケトン繊維と所定物性のコーティングゴムとからなるカーカスプライを使用することにより、コード−ゴム間の剛性段差を小さくし、現行と同等の走行耐久性を保ちつつ軽量化を達成することができることが報告されている。
特開2000−142019号公報(特許請求の範囲等) 特開2004−306631号公報(特許請求の範囲等)
上記特許文献等に開示されたポリケトン繊維のカーカスプライへの適用により、タイヤの軽量化が可能となったが、今日ではより一層の軽量化に伴う性能向上が望まれている。例えば、これまでのポリケトン繊維に代わり、アラミド繊維など従来タイヤに使用されてきた高強度有機繊維を使用して、十分なカーカス強度を得るためには、コードの単位幅あたりの打込み本数をスチールコードに比べ多くしたり、カーカス層を2層以上にしたりする必要があった。しかし、コードの単位幅あたりの打込み本数を増やした場合には、カーカスプライ端部での亀裂進展が促進されてしまい、走行耐久性の低下に繋がるおそれがあるという問題があった。
また、カーカス層を2層以上にした場合には、タイヤ製造時に生じる内外径差をカーカスコードが吸収できずに、タイヤ内面側のカーカスコードに弛みを生じてしまい、十分な強度・剛性を発現できなかったり、耐久性を低下させたりするという問題があった。
そこで本発明の目的は、カーカスとして十分な強度・剛性を発現して、現行と同等の走行耐久性を保ちつつ、これまで以上の軽量化を達成し得る重荷重用空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の物性値を満足するポリケトン繊維をカーカスに使用することにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の重荷重用空気入りラジアルタイヤは、一対のビードコア間にトロイド状に延在する少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部径方向外側に配置され、少なくとも1枚のベルトプライからなるベルト層とを備え、前記カーカスプライが有機繊維コードと該有機繊維コードを被覆してなるコーティングゴムとからなる重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記有機繊維コードが、150℃における乾熱収縮率が1〜7%であるポリケトン繊維コードからなり、前記ポリケトン繊維原糸の引張強度が10cN/dtex以上、かつ、引張弾性率が200cN/dtex以上であることを特徴とするものである。
本発明においては、前記ポリケトン繊維コードの150℃における乾熱収縮率は、好ましくは2〜4%であり、前記カーカスプライは、好ましくは2〜3枚である。
本発明によれば、重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、カーカスとして十分な強度・剛性を発現して、現行と同等の走行耐久性を保ちつつ、これまで以上の軽量化を実現することが可能となる。
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る小型トラック用空気入りラジアルタイヤの断面図である。図1に示すように、タイヤ1は、一対のビードコア2(図1では一方のみ示す)と、少なくとも2枚(図示例では2枚)のカーカスプライ3と、補強層4,5と、少なくとも1枚(図示例では3枚)のベルトプライからなるベルト層6とを備えている。カーカスプライ3は、以下で詳述する本発明に係るポリケトン繊維(以下「PK繊維」と略記する)コードとこのPK繊維コードを被覆しているコーティングゴムとからなる。
図示する好適例のタイヤ1においては、カーカスプライ3は、各ビードコア2間でトロイド状に跨がるカーカス骨格を有し、各ビードコア2のまわりにタイヤの内側から外側へ巻き返し、折り返されて延びる折り返し部3Aを有している。
かかるカーカスプライ3は、所望の効果を得る上で、少なくとも2枚、好ましくは2〜3枚である。各折返し部3Aは、図示するように、その少なくとも末端部3Bにおいて、補強層、例えば、スチールコードによる第1補強層4および有機繊維コードによる第2補強層5にてタイヤの外側から覆われていることが好ましい。特に、第1補強層4は、カーカスプライ3のPK繊維コードに対し傾斜して、好ましくは55〜80°の傾斜角度で配列した多数本のスチールコードによるゴム被覆層の1層であるか、または複数層を層間でスチールコードが互いに交差する配置で重ね合わせた構造を有することができる。
また、第1補強層4の外側に配置する第2補強層5は、カーカスプライ3のPK繊維コードに対し傾斜して、好ましくは25〜65°の傾斜角度で配列した多数本の有機繊維コードによるゴム被覆層の複数層を、その層間で有機繊維コードが互いに交差する配置で重ね合わせた構造とすることができる。
第2補強層5のうち、第1補強層4に接する層は、その末端部を第1補強層4の末端部より径方向外側に、かつ第2補強層5の残りの層より径方向内側に配置すること、更に第補強層4に接する層を構成する有機繊維コードを、第1補強層4のスチールコードと同じ向きに配列することが好ましい。
上述のように、折返し部3Aの末端部3Bよりタイヤ径方向外側の位置から、ビードコア2の下端を経由して、カーカスプライ3に沿うように、第1補強層4および第2補強層5を順次に積み重ねることによって、特に、折返し部3Aの末端部3Bに集中する応力を緩和し、該末端部3Bを起点とするセパレーションを抑制した、ビード部補強構造とすることができる。なお、第2補強層5のタイヤ径方向外側の末端部は、第1補強層4の同末端部より、タイヤ径方向外側の位置に設定することができる。
図示する好適例のタイヤ1は、カーカスプライ3のクラウン部径方向外側に、ベルト層6及びトレッド層7を配置してなる。ベルト層6は、少なくとも1層のベルトプライを有することができる。また、トレッド層7には、タイヤの赤道面Oに沿うように延びる複数本の周溝7Aが設けられ、更に必要に応じて、これら周溝7Aを横切る向きに延びる横溝を適宜配置することができる。なお、ベルト層6および周溝7Aは、特に制限されるべきものではなく、既知の構造等を適宜採用することができる。
本発明においては、上述のカーカスプライ3に適用する有機繊維コードが、150℃における乾熱収縮率が1〜7%、好ましくは2〜4%であるポリケトン繊維コードからなり、かつ、かかるカーカスプライ3を少なくとも2枚適用することが肝要である。乾熱収縮率を1%以上とすることにより、タイヤ製造時に生じる内外径差を吸収し、カーカスとして十分な強度・剛性を発現して、現行と同等の走行耐久性を保ちつつ、これまで以上の軽量化を達成することが可能となる。なお、乾熱収縮率が大きすぎる場合、加硫後寸法安定性が悪化し製品としてのユニフォミティーが悪化してしまうという問題が生じるため、7%以下とする必要がある。
また、このPK繊維原糸の引張強度は、好ましくは10cN/dtex以上、より好ましくは15cN/dtex以上である。この引張強度が高いほど、強度の要求される分野での使用が可能となり、また、使用する繊維の重量を低く抑えることができるようになる。
さらに、その引張弾性率は、好ましくは200cN/dtex以上、より好ましくは300cN/dtex以上である。この引張弾性率が高いほど同一荷重下での寸法変化が小さく、形態安定性に優れた効果を奏することとなる。
ここで、乾熱収縮率は、一般的なディップ処理を施した加硫前のPK繊維について、オーブン中で150℃、30分の乾熱処理を行ない、熱処理前後のコード長を、1/30(cN/dtex)の荷重をかけて計測して下式により求められる値である。
乾熱収縮率(%)=(Lb−La)/Lb×100
(但し、Lbは熱処理前の繊維コード長、Laは熱処理後の繊維コード長である。)
また、PK繊維原糸における引張強度および引張弾性率は、JIS−L−1013に準じて測定することにより得られる値であり、引張弾性率は伸度0.1%における荷重と伸度0.2%における荷重から算出した初期弾性率の値である。
本発明に用いるPK繊維コードは、具体的には、以下に詳述するPK繊維コードが好適である。即ち、コード1本あたりの総デシテックスが3000〜17000デシテックスであるマルチフィラメント撚りのPK繊維である。1本あたりの総デシテックスが3000〜17000デシテックスの範囲内であるコードであれば、高剛性で、かつ、有機繊維のメリットであるスチールコード対比の軽量化が達成できる。総デシテックスが3000デシテックス未満ではカーカスプライ3として十分な高剛性を得ることができず、一方、17000デシテックスを超えると、カーカスプライ3のゲージが厚くなってしまい、タイヤ質量増加となってしまう。
また、本発明に用いるPK繊維コードは、所期の効果を得る上で、下記式(I)および(II)で表される関係を満足することが好ましい。
σ≧−0.01E+1.2 (I)
σ≧0.02 (II)
但し、σが1.5より大きくなると加硫時の収縮力が大きくなりすぎ、結果的にタイヤ内部のコード乱れやゴムの配置乱れ引き起こし、耐久性悪化やユニフォミティー悪化を招くおそれがあるため、上限として、下記式、
1.5≧σ
で表される関係を満足することが好ましい。ここで、熱収縮応力σは、一般的なディップ処理を施した加硫前の上記PK繊維コードの、25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する応力(単位:cN/dtex)であり、また、弾性率Eは、同様のPK繊維コードの25℃における49N荷重時の弾性率であって、JISのコード引張り試験によるSSカーブの49N時の接線より算出される単位cN/dtexの弾性率である。
また、上記PK繊維コードは、さらに、下記式(III)、
α=T×D1/2 (III)
(式中、Tは撚り数(回/100mm)であり、Dはコードの総繊度(dtex)である)で定義される撚り係数αが850〜4000の範囲であることが好ましい。PK繊維コードの撚り係数αが850未満では、熱収縮応力が十分に確保できず、一方、4000を超えると、弾性率が十分に確保できず、補強能が小さくなる。
さらに、上記PK繊維コードは、繊度が1500〜8500dtexのポリケトンからなるフィラメント束を2本または3本撚り合わせてなることが好ましい。PK繊維コードに用いるフィラメント束の繊度が500dtex未満では、弾性率・熱収縮応力ともに不十分となる一方、3000dtexを超えると、コード径が太くなって、打ち込みを密にできなくなる。
上記PK繊維コードの原料のポリケトンとしては、下記一般式(IV)、
Figure 0004743762
(式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分であり、各繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい)で表される繰り返し単位から実質的になるものが好適であり、その中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1−オキソトリメチレン[−CH2−CH2−CO−]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
かかるポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基とが交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
また、上記式(IV)において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン、ブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、アセチレン、アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、スルニルホスホン酸のジエチルエステル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドンおよび塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
さらに、上記ポリケトンの重合度としては、下記式(V)、
Figure 0004743762
(上記式中、tおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、cは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である)で定義される極限粘度[η]が、1〜20dL/gの範囲内にあることが好ましく、3〜8dL/gの範囲内にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時および延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間およびコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性および物性に悪影響が出ることがある。
さらにまた、PK繊維は、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が95%以上の結晶構造を有することが好ましい。結晶化度が50%未満の場合、繊維の構造形成が不十分であって十分な強度が得られないばかりか加熱時の収縮特性や寸法安定性も不安定となるおそれがある。このため、結晶化度としては50〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%である。
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度および倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)または(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載されているようなヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載されているような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、さらに脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、さらに、かかる未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲内が好ましく、総延伸倍率は、好適には10倍以上とする。
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留は大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
上記PK繊維コードは、上記ポリケトンのフィラメントを複数本撚り合わせてなるマルチフィラメント撚りのPK繊維からなり、例えば、上記ポリケトンからなるフィラメント束に下撚りをかけ、次いでこれを2本または3本合わせて、逆方向に上撚りをかけることで、撚糸コードとして得ることができる。
また、PK繊維コードの高い熱収縮特性を最も効果的に活用するには、加工時の処理温度や使用時の成型品の温度が、最大熱収縮応力を示す温度(最大熱収縮温度)と近い温度であることが望ましい。具体的には、必要に応じて行われる接着剤処理におけるRFL処理温度や加硫温度等の加工温度が100〜250℃であること、また、繰り返し使用や高速回転によってタイヤ材料が発熱した際の温度は100〜200℃にもなることなどから、最大熱収縮温度は、好ましくは100〜250℃の範囲内、より好ましくは150〜240℃範囲内である。
本発明に係るカーカスプライ3は、上述のポリケトンの繊維からなる繊維コードと、この繊維コードを被覆するコーティングゴムとからなり、コーティングゴムは、PK繊維を被覆し得る限り、種々の形状からなることができる。代表的には、被膜、シート等である。また、コーティングゴムは、カーカスプライ用として既知のゴム組成物を適宜採用することができ、特に制限されるべきものではない。
本発明に係るPK繊維コードは、ゴム組成物を用いて、浸漬、塗布、貼り合わせ等の公知の方法に従って被覆され、カーカスプライとなる。かかるカーカスプライは、種々のPK繊維コードの形状、配置、被覆形態等を有することができる。
(PK繊維の調製例)
常法により調製したエチレンと一酸化炭素が完全交互共重合した極限粘度5.3のポリケトンポリマーを、塩化亜鉛65重量%/塩化ナトリウム10重量%含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌溶解し、ポリマー濃度8重量%のドープを得た。
このドープを80℃に加温し、20μm焼結フィルターでろ過した後に、80℃に保温した紡口径0.10mmφ、50ホールの紡口より10mmのエアーギャップを通した後に5重量%の塩化亜鉛を含有する18℃の水中に吐出量2.5cc/分の速度で押出し、速度3.2m/分で引きながら凝固糸条とした。
引き続き凝固糸条を濃度2重量%、温度25℃の硫酸水溶液で洗浄し、さらに30℃の水で洗浄した後に、速度3.2m/分で凝固糸を巻取った。
この凝固糸にIRGANOX1098(Ciba Specialty Chemicals社製)、IRGANOX1076(Ciba Specialty Chemicals社製)をそれぞれ0.05重量%ずつ(対ポリケトンポリマー)含浸せしめた後に、該凝固糸を240℃にて乾燥後、仕上剤を付与して未延伸糸を得た。
仕上剤は以下の組成のものを用いた。
オレイン酸ラウリルエステル/ビスオキシエチルビスフェノールA/ポリエーテル(プロピレンオキシド/エチレンオキシド=35/65:分子量20000)/ポリエチレンオキシド10モル付加オレイルエーテル/ポリエチレンオキシド10モル付加ひまし油エーテル/ステアリルスルホン酸ナトリウム/ジオクチルリン酸ナトリウム=30/30/10/5/23/1/1(重量%比)。
得られた未延伸糸を1段目を240℃で、引き続き258℃で2段目、268℃で3段目、272℃で4段目の延伸を行った後に、引き続き5段目に200℃で1.08倍(延伸張力1.8cN/dtex)の5段延伸を行い、巻取機にて巻取った。未延伸糸から5段延伸糸までの全延伸倍率は17.1倍であった。また、この繊維原糸は強度15.6cN/dtex、伸度4.2%、弾性率347cN/dtexと高物性を有している。
以下の実施例及び比較例では、上記製造例におけるPK繊維の熱処理条件の他、コードの撚り条件並びにディップ処理条件を常法に従い適宜調整することにより下記の表1に示すコード物性を有するPK繊維を得た。各空気入りラジアルタイヤ(サイズ:11R22.5)を、下記表1および以下に示す条件に従い、常法により試作した。
得られた各供試タイヤにつき、下記評価方法に従い評価を行った。
(走行耐久性)
供試タイヤ(内圧:700kPa)にて劣化耐久ドラム試験を実施した。従来例のタイヤで故障が発生したときの走行距離を100とし、指数表示した。数値が大きいほど走行耐久性に優れていることを示す。得られた結果を下記の表1に示す。
Figure 0004743762
上記表1に示す試験結果より以下のことが確かめられた。
(実施例1)
150℃で3%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを2枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを2層積層することで、従来例であるスチールコードと同等の層内コード間隙とカーカスの総強力を確保することができ、コード重量の低減と走行耐久性との両立を図ることができた。
(実施例2)
150℃で1%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを2枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを2層積層することで、従来例であるスチールコードと同等の層内コード間隙とカーカスの総強力を確保することができ、コード重量の低減と走行耐久性との両立を図ることができた。
(実施例3)
150℃で7%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを2枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを2層積層することで、従来例であるスチールコードと同等の層内コード間隙とカーカスの総強力を確保することができ、コード重量の低減と走行耐久性との両立を図ることができた。
(実施例4)
150℃で3%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを3枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを3層積層することで、従来例であるスチールコード以上の層内コード間隙とカーカスの総強力を確保することができ、コード重量の低減と走行耐久性との両立を図ることができた。
(実施例5)
150℃で3%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをタイヤ半径方向に対して10°の角度でカーカスプライに適用し、カーカスプライを2枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを2層積層することで、従来例であるスチールコードと同等の層内コード間隙とカーカスの総強力を確保することができ、コード重量の低減と走行耐久性との両立を図ることができた。
(比較例1)
150℃で3%の乾熱収縮率を有するポリケトン繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを1枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライが1層である結果、従来例であるスチールコードと同等のカーカスの総強力を確保すると層内コード間隙が狭くなり、走行耐久性が低下した。
(比較例2)
150℃で0%の乾熱収縮率を有するアラミド繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを1枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライが1層である結果、従来例であるスチールコードと同等のカーカスの総強力を確保すると層内コード間隙が狭くなり、走行耐久性が低下した。
(比較例3)
150℃で0%の乾熱収縮率を有するアラミド繊維からなるコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを2枚積層してカーカスを形成した。このようにカーカスプライを2層積層することで、従来例であるスチールコードと同等の層内コード間隙は確保できるが、製造時の内圧径差をコードが吸収できないため、コードへの歪が不均一となり、結果として走行耐久性が低下した。
(従来例)
スチールコードをカーカスプライに適用し、カーカスプライを1枚積層してカーカスを形成した従来例である。
本発明の一例の重荷重用空気入りラジアルタイヤの断面図である。
符号の説明
1 重荷重用空気入りラジアルタイヤ
2 ビードコア
3 カーカスプライ
4,5 補強層
6 ベルト層
7 トレッド

Claims (3)

  1. 一対のビードコア間にトロイド状に延在する少なくとも2枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部径方向外側に配置され、少なくとも1枚のベルトプライからなるベルト層とを備え、前記カーカスプライが有機繊維コードと該有機繊維コードを被覆してなるコーティングゴムとからなる重荷重用空気入りラジアルタイヤにおいて、
    前記有機繊維コードが、150℃における乾熱収縮率が1〜7%であるポリケトン繊維コードからなり、前記ポリケトン繊維原糸の引張強度が10cN/dtex以上、かつ、引張弾性率が200cN/dtex以上であることを特徴とする重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
  2. 前記ポリケトン繊維コードの150℃における乾熱収縮率が2〜4%である請求項1記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
  3. 前記カーカスプライが2〜3枚である請求項1または2記載の重荷重用空気入りラジアルタイヤ。
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