JP2008271791A - 回転部材支持ユニット - Google Patents

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Abstract

【課題】内部に封入したグリースの軟化を抑制して外部への漏洩を防止するとともに、潤滑状態を良好に保ち、回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることが可能な回転部材支持ユニットを提供する。
【解決手段】所定方向に延出して立設された主軸8と、当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受2,4と、駆動装置34によって回転される駆動軸38の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車G1,G2と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材32と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケース40とを備えた回転部材支持ユニットU1であって、当該ユニット内には、前記歯車を潤滑するための潤滑剤が封入されており、当該潤滑剤には増ちょう剤を含有させるとともに、当該増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用する。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば、地表に生育する草木(例えば、芝生や雑草など)を根元付近から刈り払う作業に用いられる草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは、電動工具やコンクリートドリルなどに関し、特に、これらに取り付けられた刈刃(回転刃)などの回転部材を軸支する回転部材支持ユニットの改良に関する。
図4には、このような回転部材支持ユニットが備えられた草刈機の構成が一例として示されている。同図に示す構成において、かかる草刈機Aには、直線状に延出した操作管30と、当該操作管30の一端側に設けられた回転部材支持ユニット(以下、回転刃ユニットという)U2と、当該操作管30の他端側に設けられた駆動装置(エンジン)34とが備えられている。
この場合、操作管30には、その内部にエンジン34で発生された駆動力(回転出力)により回転される駆動軸38(図3(a))が設けられており、当該駆動軸38は、転がり軸受(以下、駆動軸軸受という)6(同図)によって回転自在に支持されている。なお、駆動軸38のエンジン34とは反対側の端部には、歯車(以下、駆動軸歯車という)G1が設けられており、駆動軸軸受6は、当該駆動軸歯車G1に外嵌されて、駆動軸38を回転自在に支持している。
また、図3(a),(b)に示すように、回転刃ユニットU2には、所定方向に延出して立設された主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する2つの転がり軸受(以下、回転刃側軸受2(図3(a)の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受)という)と、駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(同図の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する1組の歯車(同、駆動軸歯車G1(同図の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車)という)と、主軸8の他端側(同図の下端側)に取り付けられた回転可能な回転部材(刈刃)32とが備えられている。
なお、この場合、主軸8は、草刈機Aの使用状態において略垂直方向に延出するように立設されており、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。
また、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と主軸歯車G2の間に位置付けられており、一方、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図3(a)の上端部)に位置付けられている。さらに、操作管30には、作業者を刈刃32から保護するための保護カバー42(図4)が、当該刈刃32寄りの所定位置に設けられている。
このような構成によれば、エンジン34が駆動軸38を回転させると、当該回転力は駆動軸歯車G1を介して主軸歯車G2に伝達され、当該回転力によって主軸8を回転させることができる。これにより、エンジン34から発生した回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させることができる。そして、作業者は、操作管30のエンジン34寄りの所定位置に取り付けられた操作ハンドル36により草刈機Aの全体を支えるとともに、刈刃32を移動させることで、草木を刈り払うことができる。
ところで、このような草刈機に関しては、従来からその利便性の向上や安全性の向上を図るための各種の方策が知られている。例えば、特許文献1においては、連結管(操作管)の角度を任意に変更することが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、傾斜地でも草木の刈り払い作業を軽快に行うことなどを可能とし、当該草刈機における利便性の向上を実現している。一方、例えば、特許文献2においては、容易且つ確実に刈刃(回転刃)を主軸に取り付けることが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、刈刃(回転刃)が主軸から外れることを有効に防止することができ、当該草刈機における安全性の向上を実現している。
また、かかる草刈機Aにおいて、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該各軸受2,4,6の潤滑を行うことによっても、結果として、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させることができ、当該草刈機Aにおける利便性の向上や安全性の向上を図ることができる。
このため、例えば、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を潤滑すべく、当該歯車G1,G2を取り囲む所定の空間部Sには、極圧剤入りのグリース(以下、歯車潤滑グリースという)が当該空間部Sの空間容積に対して略70〜100%の体積比となるように充填(封入)されている。この場合、歯車潤滑グリースとしては、アメリカグリース協会(NLGI:National Lubricating Grease Institute)が規定するちょう度No.2(ちょう度番号2号)のグリースが用いられており、当該グリースは、一例として、増ちょう剤がリチウム石けん、基油が鉱油系で構成されている。
その際、一例として、歯車側軸受4は、その内部を密封する密封部材(接触型のシール、及び非接触型のシールやシールドなど)が設けられていない、いわゆるオープンタイプ(開放型)の軸受構造を成しているのに対し、回転刃側軸受2は、その内外輪10,12間に接触型のゴムシール(以下、シールという)20,22が介在された密封タイプの軸受構造を成し、転動体14として玉が内外輪10,12間に組み込まれた密封玉軸受となっている。そして、かかる回転刃側軸受2には、当該回転刃側軸受2を潤滑するために、一例として、増ちょう剤がリチウム石けん、基油が鉱油系で構成されたグリース(以下、軸受潤滑グリースという)が当該軸受内部に封入されている。この場合、シール20,22は、一例として、その外径部が回転刃側軸受2の外輪12に固定されているとともに、その内径部(リップ部)20l,22lが当該回転刃側軸受2の内輪10に形成されたシール溝20g,22gに摺接されるように位置付けられている。
このように各歯車G1,G2及び各軸受2,4が潤滑された回転刃ユニットU2において、回転刃側軸受2は、シール(歯車G1,G2側に位置するシール)20を介するだけで、常時歯車潤滑グリースと接触している。
また、草刈機Aの使用状態においては、駆動軸歯車G1と回転刃側軸受2及び主軸歯車G2と回転刃側軸受2が当該歯車G1,G2を上にして縦に並んでいるため、歯車潤滑グリースは、その自重により歯車G1,G2側に位置するシール20の外面(図2(b)の上側の面(以下、シール上面という))20aへ大量に堆積し、当該シール20を押圧することとなる。加えて、主軸8の回転による空間部Sの圧力変化、さらには、当該回転刃側軸受2の回転による振動によっても、歯車潤滑グリースが歯車G1,G2側に位置するシール20のシール上面20aと大量に接触する。
シール20のシール上面20aと接触した歯車潤滑グリースは、主軸8の回転に伴う遠心力の作用により、ケース40の内壁40sを伝って上方へ移動する。また、駆動軸歯車G1に引き込まれるとともに、相互に噛合する歯を介して主軸歯車G2へ移動されることによっても、シール上面20aと接触した歯車潤滑グリースが上方へ移動する。そして、当該歯車潤滑グリースは、主軸8の近傍まで達した後、再度、その自重及び前記回転による振動により、シール20のシール上面20aと接触する。このように、歯車潤滑グリースは、草刈機Aの使用状態、すなわち回転刃ユニットU2の運転時において、空間部S内で循環を繰り返す。
かかる循環過程においては、主軸8の回転に伴う温度変化や、駆動軸歯車G1と主軸歯車G2との噛み合いによる剪断及び撹拌などの作用を継続的に激しく受けるため、歯車潤滑グリースが軟化するとともに、これらの作用の程度によっては一部が液状化してしまう場合がある。液状化した歯車潤滑グリース(図3(b)におけるグリースGcの状態)は、空気層Lyをほとんど含んでおらず、空間部Sの圧力変化(具体的には、内圧の上昇に伴う押圧力)の影響を全体で受けると同時に、非常に流動し易い状態となっているため、シール20のリップ部20lと回転刃側軸受2のシール溝20gとの摺接部から当該歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)してしまう場合がある。
なお、この場合、例えば、回転刃側軸受2の内部に封入されるグリース(以下、軸受潤滑グリースという)として、歯車潤滑グリースと類似した構成(基油や増ちょう剤)のグリースを適用することで、軸受潤滑グリースが当該歯車潤滑グリースと混合することによって生じるグリースの変質や不具合などを最小限に止めることができる。
また、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部へ継続的に漏洩(侵入)すると、歯車潤滑グリースが不足し、その程度によっては、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を十分に潤滑することができなくなってしまう。このような潤滑状態においては、駆動軸歯車G1と主軸歯車G2とが噛み合う際に過剰な衝撃荷重が作用するため、これらが早期に摩耗する事態を招き易い。例えば、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗した場合、当該歯車G1,G2がスムーズに回転せず、これらの回転精度が悪化してしまう。
そこで、上述したように歯車潤滑グリースに対して極圧剤を添加し、当該歯車潤滑グリースの耐摩耗特性を向上させることで、前記衝撃荷重の緩和を図っている。
特開2004−194521号公報 特開平8−130959号公報
しかしながら、上述したような歯車潤滑グリースの軸受内部への漏洩(侵入)が進行すると、軸受潤滑グリースが当該歯車潤滑グリースと混合され、回転刃側軸受2内のグリース量が設定値よりも増加するため、撹拌や剪断が活発化され、当該グリース(歯車潤滑グリースと軸受潤滑グリースの混合グリース(以下、混合グリースという))が軟化してしまう場合がある。このような混合グリースの軟化が発生すると、回転刃側軸受2のシール(刈刃32側に位置するシール)22のリップ部22lと当該回転刃側軸受2のシール溝22gとの摺接部や、当該シール22に空気孔が設けられている場合には当該空気孔などから、当該混合グリースが回転刃側軸受2の外部へ漏洩してしまう場合がある。この場合、例えば、漏洩した混合グリースが刈刃32に付着し(図3(a)におけるグリースGbの状態)、当該刈刃32の回転精度を悪化させる虞があるだけでなく、草木や土壌に対して悪影響を与える虞もある。
このような不都合を回避するための方策として、例えば、NLGIちょう度がNo.3やNo.4のグリース、すなわち、NLGIちょう度No.2のグリースよりも硬いグリースなどを歯車潤滑グリースとして適用し、当該グリースが撹拌や剪断されることによる軟化を抑制させ、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部Sの内壁に当該グリースを付着させる方策や、当該グリースの充填量(封入量)を減少させる方策などがある。
しかしながら、歯車潤滑グリースの硬度を高めると、当該グリースの流動性が低下し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑に寄与するグリースの量が少なくなり、結果として、当該歯車G1,G2が潤滑不足となって、例えば、上述の場合と同様に、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗してしまう場合がある。また一方、歯車潤滑グリースの充填量(封入量)を減少させると、グリースが充分に空間部S内に行き渡らず、結果として、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となり、同様の事態になってしまう場合がある。
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、歯車を潤滑するための潤滑剤(一例として、グリース)の増ちょう剤として、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用することで、耐熱性、防錆性及び耐荷重性の向上を図るとともに、当該歯車の潤滑状態を良好に保つことが可能であるのみならず、内部に封入した当該グリースの軟化を抑制して外部への漏洩を有効に防止し、回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることが可能な回転部材支持ユニットを提供することにある。
このような目的を達成するために、本発明に係る回転部材支持ユニットは、所定方向に延出して立設された主軸と、当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備えている。
かかる回転部材支持ユニットにおいて、当該ユニット内には、前記歯車を潤滑するための潤滑剤が封入されており、当該潤滑剤には増ちょう剤が含有されているとともに、当該増ちょう剤としては、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されている。
この場合、前記カルシウムスルホネートコンプレックス石けんは、前記潤滑剤の混和ちょう度がNLGIの規定するちょう度番号No.2〜No.3の範囲内に設定されるように、当該潤滑剤に含有させればよい。
なお、主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃を取り付けることができる。
本発明の回転部材支持ユニットによれば、歯車を潤滑するための潤滑剤(一例として、グリース)の増ちょう剤として、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用することで、当該グリースの耐熱性、防錆性及び耐荷重性の向上を図るとともに、歯車の潤滑状態を良好に保つことができるのみならず、内部に封入した当該グリースの軟化を抑制して外部への漏洩を有効に防止することができる。この結果、回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
以下、本発明の実施形態に係る回転部材支持ユニットについて、添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、例えば、草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは電動工具やコンクリートドリルなど、主軸が所定方向に延出して立設され、当該主軸とともに回転する各種の回転部材を軸支する回転部材支持ユニットに適用することができるが、以下では、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃(回転刃)が、回転部材として主軸へ取り付けられた草刈機に用いられる回転刃ユニットを一例として想定し、当該回転刃ユニットの構成について説明する。
また、この場合、本実施形態に係る草刈機の全体構成としては、上述した従来の草刈機A(図4)と同様の構成を一例として想定する。さらに、本実施形態に係る回転刃ユニットの基本的な構成は、上述した従来の回転刃ユニットU2(図3(a))と同様であるため、当該回転刃ユニットU2と同一若しくは類似の構成については、図面上で同一の符号を付して、その説明を省略若しくは簡略化する。
図1(a),(b)には、本発明の一実施形態に係る草刈機の回転刃ユニットU1(回転部材支持ユニット)が示されており、係る回転刃ユニットU1には、所定方向に延出した主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する複数の転がり軸受2,4と、駆動装置(エンジン34(図4参照))によって回転される駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(図1(a)の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車G1,G2と、主軸8の他端側(同図の下端側)に取り付けられた回転部材(刈刃32)とが備えられている。
なお、主軸8、転がり軸受2,4及び歯車G1,G2は、略筒状を成す所定のケース40内にそれぞれ収容されており、刈刃32は、締結部材(ねじ)で主軸8に締結固定され、当該ケース40の外側(図1(a)の下側)に取り付けられている。
また、主軸8は、草刈機の使用状態において略垂直方向に延出するように立設されているのに対し、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。なお、当該傾斜角度は、例えば、草刈機の使用環境や使用目的などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しないが、一例として、本実施形態においては、駆動軸38が主軸8に対して約120°(別の捉え方をすると、刈刃32に対して約30°)の傾斜角度を成して傾斜するように構成している(図1(a))。
また、図1(a),(b)に示す構成において、主軸8は、所定の段差部8gを境界にして、歯車G1,G2側(同図の上側)に比較的大径の大径部8aを設け、刈刃32側(同図の下側)に比較的小径の小径部8bを設けて構成されている。
図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、2つの転がり軸受(回転刃側軸受2(同図の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受))が設けられており、当該回転刃側軸受2及び当該歯車側軸受4は、主軸8に外嵌されるとともに、ケース40に内嵌されて、当該主軸8を回転自在に支持している。この場合、一例として、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と歯車G2(後述する主軸歯車)の間に位置付けられており、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図1(a)の上端部)に位置付けられている。その際、回転刃側軸受2は、主軸8に外嵌された刈刃押さえ蓋18に回転輪10(図1(b))を当接させて、当該主軸8の延出方向(同図(a)の上下方向)に位置決めされている。
また、図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、1組の歯車(駆動軸歯車G1(同図の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車))が設けられており、当該駆動軸歯車G1は駆動軸38に外嵌され、当該主軸歯車G2は主軸8に外嵌されて、相互に噛合している。これにより、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2は、エンジン34(図4)で発生させた回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させており、いわゆる変速機の機能を果たしている。
なお、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の種類、大きさ、形状、並びに歯の数やピッチなどは、例えば、駆動軸38及び主軸8の大きさ、両軸の位置関係などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、本実施形態に係る草刈機のように、駆動軸38と主軸8とが所定の傾斜角度(例えば、約120°)を成して連結される構成の場合(図1(a)参照)、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2としては、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車及びまがりばかさ歯車などのかさ歯車を適用すればよい。
本実施形態において、回転刃側軸受2は、図1(b)に示すように、回転輪(以下、内輪という)10及び静止輪(以下、外輪という)12が相対回転可能に対向して配置され、当該内輪10及び外輪12間へ複数の転動体(玉)14が転動可能に組み込まれて構成されている。この場合、転動体(玉)14は、環状を成す保持器(一例として、波型の合せ保持器)16に形成されたポケット内に1つずつ回転自在に保持された状態で、内輪10及び外輪12の軌道面間へ組み込まれている。これにより、各転動体(玉)14は、その転動面が相互に接触することなく、内外輪10,12間(軌道面間)を転動することができ、結果として、当該各転動体(玉)14が相互に接触して摩擦が生じることによる回転抵抗の増大や、焼付きなどを防止することができる。
なお、回転刃側軸受2、転動体(玉)14及び保持器16の形式や大きさなどは、例えば、草刈機の大きさや駆動装置(エンジン)の回転出力などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、回転刃側軸受2としては、図1(a),(b)に示す単列の深溝玉軸受の他、複列の深溝玉軸受や各種のころ軸受などを適用することができる。また、転動体14としては、図1(a),(b)に示すような玉の他、円筒ころ、円すいころ及び球面ころ(たる形ころ)などのころを適用してもよい。さらに、保持器16としては、図1(a),(b)に示すようないわゆる波型の合せ保持器の他、冠型保持器やかご形保持器などを適用してもよい。
また、かかる回転刃側軸受2においては、内輪10と外輪12の間に、転動体(玉)14を挟んで、その両側(図1(b)の上側と下側)へ当該回転刃側軸受2を密封するための密封部材(接触型ゴムシール(以下、単にシールという))20,22がそれぞれ設けられている。このようにシール20,22を設けることで、回転刃側軸受2の外部(すなわち、回転刃ユニットU1の外部)から異物(例えば、刈り払った草木の屑、泥水及び塵埃など)が内部に侵入することを防止しているとともに、内部に封入された潤滑剤(例えば、後述する軸受潤滑グリースなど)が外部へ漏洩することを防止している。さらに、後述する歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)し、前記軸受潤滑グリースと混合されることも併せて防止している。
図1(b)に示す構成において、シール20,22は、一例として、鋼板等を断面がL字状を成すようにプレス加工などにより成形した環状の芯金20c,22cの一部を、各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結した構造を成している。なお、シール20,22の内径部には、かかる弾性材で構成されたシールリップ20l,22lが形成されている。そして、かかるシール20,22は、その外径部が回転刃側軸受2の外輪12に形成された取付溝に固定され、その内径部が回転刃側軸受2の内輪10に形成されたシール溝20g,22gに摺接するように位置付けられている。
ただし、シール20,22の形状は、上述した形状には特に限定されず、例えば、芯金を平坦状の環状平板として構成してもよいし、芯金の全体を弾性材と連結させてもよい。また、シールリップは、複数個(例えば、3つ)形成してもよい。なお、芯金20c,22cと各種の弾性材とを連結する場合、その連結方法としては、接着、かしめ、コーティング、射出成形及び加硫成形など、各種の方法を任意に選択して使用することができる。
また、シール20,22の大きさ(例えば、幅(図1(b)の左右方向の距離)や厚さ(同図の上下方向の距離)など)は、例えば、回転刃側軸受2の大きさなどに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。ただし、シール20,22の厚さ(図1(b)の上下方向の距離)は、シール20,22が回転刃側軸受2の内輪10及び外輪12の歯車G1,G2側の側面(同図の上側の面)よりも当該軸受2の内側へ凹んだ状態となる厚さに構成することが好ましい。
ここで、本実施形態においては、一例として、密封部材には、図1(b)に示すような接触型のシール20,22を適用したが、例えば、密封部材として、その外径部が外輪12の取付溝に固定され、その内径部が内輪10のシール溝20g,22gに接触しない非接触型のシール(例えば、鋼板製の芯金の全体若しくは一部を各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結して成るシールなど)や、非接触型のシールド(例えば、ステンレス板、鉄板などの薄い金属板からプレス成形等されたシールド)を適用してもよい。
また、図1(b)に示す構成においては、2つのシール20,22のいずれにも、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔、すなわち、回転刃側軸受2の内気を排出若しくは当該軸受2の外気を流入させる空気孔は設けられていない。
これにより、回転刃側軸受2は、その内部が完全に密封され、軸受内に封入されたグリース(前記軸受潤滑グリースなど)の軸受外部への漏洩を確実に防止可能な構成となる。
すなわち、本実施形態のように、駆動装置としてエンジン34(図4)が搭載された草刈機などにおいては、その駆動力(回転出力)が大きいため、例えば、シール20,22のシールリップ20l,22lが軸受内圧の低下によりシール溝20g,22gの壁部に吸着し、回転刃側軸受2の回転トルクが増大したとしても、刈刃32の回転精度にはほとんど影響を与えず、当該回転トルクの増大による刈刃32の回転精度の悪化を最小限に抑えることができる。このため、例えば、刈刃32側(図1(b)の下側)のシール22に貫通孔を設けた場合に想定される、当該貫通孔から回転刃側軸受2の外部へのグリース(後述する軸受潤滑グリースなど)の漏洩を考慮し、2つのシール20,22にはいずれも貫通孔を設けていない。ただし、例えば、回転部材である刈刃32側(図1(b)の下側)に位置するシール22に対し、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔(空気孔)を設けた構成としてもよい。
以上のような構成を成す回転刃ユニットU1において、上述した従来の草刈機Aの場合と同様に、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させるため、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該軸受2,4,6の潤滑を行っている。
本実施形態においては、一例として、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部Sに潤滑剤としてグリースが封入されており、当該グリースには、増ちょう剤が含有されているとともに、当該増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されている(以下、かかる潤滑剤を歯車潤滑グリースという)。
この場合、歯車潤滑グリースは、潤滑油である基油に増ちょう剤を加えて構成されており、当該増ちょう剤としては、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されているが、潤滑性能の基本となる当該基油の成分構成は特に限定されず、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに基づく潤滑要件に応じて、任意の基油を選択すればよい。例えば、基油としては、鉱油、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合成油、シリコン油、及びフッ素油、あるいはこれらの混合油などを任意に選択し、かかる基油に増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを加えて歯車潤滑グリースを構成すればよい。
本実施形態においては、鉱油を基油とし、当該鉱油に増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを加えることで、歯車潤滑グリースが構成されている場合を一例として想定する。なお、必要に応じ、極圧剤を添加剤として歯車潤滑グリースに対して添加してもよい。
また、歯車潤滑グリースにおける基油(一例として、鉱油)とカルシウムスルホネートコンプレックス石けんとの混合比率は、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに基づく潤滑要件に応じて、任意に設定すればよいが、混和ちょう度(いわゆるNLGIちょう度)がNLGI番号のNo.2〜No.3の範囲内に設定されるように、鉱油とカルシウムスルホネートコンプレックス石けんとを混合させて、歯車潤滑グリースを構成することが好ましい。
なお、NLGI混和ちょう度をNo.4よりも大きくした場合、歯車潤滑グリースが硬くなり、当該歯車潤滑グリースを軟化あるいは液状化し難い状態に維持し易くなるため、空間部Sからの漏洩を抑制し易いというメリットがある一方で、当該歯車潤滑グリースの空間部Sでの流動性が悪化し、潤滑性能が低下してしまう虞がある。したがって、歯車潤滑グリースは、上述したようにNLGI混和ちょう度がNo.2〜No.3の範囲内となるように、鉱油とカルシウムスルホネートコンプレックス石けんとの混合比率を設定して構成することが望ましい。
このように、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用することで、優れた耐熱性、防錆性、及び耐荷重性を得ることができるのみならず、温度変化、剪断及び振動の影響を受ける環境下においても、当該歯車潤滑グリースを長期に亘って軟化し難い(ちょう度が増加し難い)成分構成とすることができる。すなわち、増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを基油に加えることで、歯車潤滑グリースがいわゆる増ちょう性を有する状態を保ち続けることができ、例えば、温度変化、剪断及び振動などを繰り返し受けた場合であっても、当該歯車潤滑グリースの軟化あるいは液状化を確実に防止することができる。
なお、歯車潤滑グリースの充填(封入)量は、多過ぎると撹拌による発熱によってグリース軟化が促進されてしまい、一方、少な過ぎると空間部S内に当該グリースが十分に行き亘らず、潤滑不良となってしまう。このため、歯車潤滑グリースは、空間部Sの空間容積に対して略30〜90%の体積比となる量だけ充填(封入)することが好ましく、さらに、略50〜80%の体積比となる量だけ充填(封入)すれば、なお好ましい。
また同様に、本実施形態においては、回転刃側軸受2の内部にも、所定の潤滑剤(一例として、グリース(以下、軸受潤滑グリースという))が充填(封入)されている。この場合、軸受潤滑グリースの増ちょう剤以外の成分構成は特に限定されず、回転刃側軸受2の潤滑要件に応じて、基油及び添加剤などを任意に選択して構成すればよい。例えば、基油としては、鉱油、合成炭化水素油、エステル系合成油、エーテル系合成油、シリコン油、及びフッ素油、あるいはこれらの混合油などを任意に選択して使用すればよいし、増ちょう剤としては、カルシウムスルホネートコンプレックス石けんを主とするが、金属石けん(リチウム石けん、ナトリウム石けん、あるいはカルシウム石けんなど)及びウレア化合物の少なくとも1つを選択して併用してもよい。なお、添加剤として、極圧剤をこれらの基油及び増ちょう剤に対して添加してもよい。
ただし、軸受潤滑グリースは、歯車潤滑グリースと類似した成分構成(基油や増ちょう剤)のグリースを適用することが好ましい。具体的には、軸受潤滑グリースの基油と同等の基油を使用するとともに、歯車潤滑グリースの増ちょう剤(カルシウムスルホネートコンプレックス石けん)と同様の金属石けんを増ちょう剤として使用することが好ましい。これにより、仮に回転刃側軸受2の内部に歯車潤滑グリースが侵入し、軸受潤滑グリースが当該歯車潤滑グリースと混合された場合であっても、かかる軸受潤滑グリースの物理的、化学的な変化(変質)を最小限に止めることができ、一定の潤滑性能を維持することが可能となる。
なお、カルシウムスルホネートの誘導体は、従来から一般に市販されているグリースに広く防錆剤として添加されている。したがって、例えば、増ちょう剤をリチウム石けん系とする軸受潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に封入され、当該軸受潤滑グリースとカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを増ちょう剤とする歯車潤滑グリースとが混合された場合であっても、かかる軸受潤滑グリースの物理的性質、化学的性質が大きく変化(変質)することはなく、一定の潤滑性能を維持させることができる。
また、軸受潤滑グリースの充填(封入)量は、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに応じて任意に設定すればよいが、例えば、回転刃側軸受2内の空間容積に対して略25〜35%の体積比となる量だけ充填(封入)すればよい。
なお、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6に対しても、上述した回転刃側軸受2と同様の条件で潤滑を行えばよい。
ここで、本実施形態に係る草刈機の使用状態、すなわち回転刃ユニットU1の運転時における歯車潤滑グリースの状態変化について、以下、説明する。
歯車潤滑グリースは、その自重により、並びに駆動軸38及び駆動軸歯車G1が回転するとともに、主軸8及び主軸歯車G2が回転することによる振動や発熱により、空間部Sにおいて継続的に温度変化が生ずるとともに、攪拌及び剪断される。このように温度変化、攪拌及び剪断が繰り返された場合であっても、本実施形態においては、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されているため、当該歯車潤滑グリースの軟化、さらには液状化を有効に抑止することができる。このため、歯車潤滑グリースは、空気層Lyを有した状態で駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)に位置するシール20の外面(同図の上側の面(以下、シール上面という))20aと接触する(同図におけるグリースGaの状態)。
この際、回転刃ユニットU1の内部(空間部S)の温度上昇に伴って、空間部Sの圧力(内圧)が上昇するため、回転刃ユニットU1の内気や空間部Sに封入された歯車潤滑グリースに対して、回転刃ユニットU1の外部方向への押圧力、具体的には、歯車潤滑グリースに対して、ケース40の内壁40s、主軸8及びシール20への押付力が作用する。
このような押付力が作用した場合であっても、歯車潤滑グリースは、空気層Lyを有した状態でシール上面20aと接触しているため、当該歯車潤滑グリース中の空気のみがシール20のリップ部20lと回転刃側軸受2のシール溝20gとの摺接部から当該回転刃側軸受2の内部へ侵入するに過ぎない。すなわち、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部へ侵入することを有効に防止することができる。
また、歯車潤滑グリースがシール20のシール上面20aと接触した状態において、当該シール20は静止しているが、その一方で主軸8が回転しているため、シール上面20aに接触した歯車潤滑グリースに対しては、当該主軸8の回転により生じる遠心力が作用する。
かかる遠心力が作用された歯車潤滑グリースは、当該遠心力によって、ケース40の内壁40sを伝って上方へ移動する。また、駆動軸歯車G1に引き込まれるとともに、相互に噛合する歯を介して主軸歯車G2へ移動されることによっても、当該歯車潤滑グリースが上方へ移動する。そして、当該歯車潤滑グリースは、主軸8の近傍まで達した後、再度、その自重並びに前記回転による振動により、シール上面20aに落下して接触する。この結果、歯車潤滑グリースは、空間部S内で循環されることになる。
このような循環過程においては、歯車潤滑グリースが温度上昇、剪断及び撹拌などの作用を継続的に受けるが、本実施形態においては、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されているため、当該歯車潤滑グリースの軟化、さらには液状化を有効に抑止することができる。
これにより、空間部S内において、歯車潤滑グリースを適正な状態のままでその流動を活発化させる(循環を促進させる)ことができ、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となることもなく、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗することも抑制され、当該歯車G1,G2を長期に亘ってスムーズに回転させることができる。結果として、これらの歯車G1,G2の発熱も抑えられ、歯車潤滑グリースの劣化を防止することができ、当該グリースを長期に亘って駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑に寄与させることができる。
上述したように、歯車潤滑グリースは、草刈機の使用状態、すなわち回転刃ユニットU1の運転時において空間部S内で活発に流動する。また、シール上面20aへは歯車潤滑グリースが「かたまり」状で接触するため、当該歯車潤滑グリースは、シール上面20aに滞留(堆積)して当該シール上面20aを密封し、当該シール20を押圧することがない。これにより、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)することを確実に防止することができる。すなわち、シール上面20aの上に飛来する歯車潤滑グリース同士の間には空気層Lyがあるため、空間部Sの圧力上昇時には、当該空気層Ly及び回転刃側軸受2を通って空気のみが外部へ放出され、圧力の調整が行われる。
また、歯車潤滑グリースの増ちょう剤として使用されているカルシウムスルホネートコンプレックス石けんは、金属表面に吸着し易いという特質があるため、歯車潤滑グリースが駆動軸歯車G1に引き込まれるとともに、相互に噛合する歯を介して主軸歯車G2へ移動される際、当該駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2(具体的には、これらの歯)にカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを吸着させることができる。この結果、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に噛み合う際に、噛合する歯に対して作用する衝撃荷重が緩和され、当該駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の耐久性を有効に向上させることができ、これらの歯車G1,G2を長期に亘ってスムーズに回転させることができる。
加えて、上述したように、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(b)の上側)に位置するシール20には、軸受内部の圧力変化を抑制するための貫通孔が設けられていないため、かかる貫通孔から歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)し、軸受潤滑グリースと混合してしまうような不都合は全く生じない。
以上のように、本実施形態に係る回転刃ユニットU1によれば、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用することで、内部(例えば、空間部S)に封入した当該グリースの軟化(あるいは、液状化)が抑制され、外部への漏洩を確実に防止することができる。これにより、回転刃ユニットU1の潤滑状態が良好に維持され、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の摩耗や、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付きなどが長期に亘って発生することなく、回転部材である刈刃32を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
ここで、本実施形態に係る草刈機に対し、搭載された回転刃ユニットU1の内部に封入したグリースの漏洩防止効果について所定の試験を行い、検証した。以下、当該試験内容及び試験結果について説明する。
当該試験においては、試験機として4つの草刈機(図4に示す草刈機A相当)を用意し、このうちの3つの草刈機には、それぞれの内部(図1(a)に示す空間部S)に対してカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを増ちょう剤として使用した所定の潤滑剤を所定量だけ充填した回転刃ユニット(図1(a)に示す回転刃ユニットU1)を搭載し、残りの1つの草刈機には、その内部(図4(a)に示す空間部S)に対してリチウム石けんを増ちょう剤として使用した所定の潤滑剤を所定量だけ充填した従来の回転刃ユニット(図3(a)に示す回転刃ユニットU2)を搭載した。
この場合、潤滑剤の潤滑油である基油には鉱油を使用し、増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用したグリース(協同油脂株式会社製 パワーライトWR2)と、増ちょう剤として市販のリチウム石けんを使用したグリースの2種類のグリースを用意した。以下、増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用したグリースを本件グリース、リチウム石けんを使用したグリースを比較グリースといい、さらに、本件グリースと比較グリースをまとめて歯車潤滑グリースという。
なお、この際、本件グリースは、40℃における基油動粘度を約132mm/S、NLGI混和ちょう度をNo.2とした。これに対し、比較グリースは、40℃における基油動粘度を約185mm/S、NLGI混和ちょう度をNo.2とした。
そして、本件グリースを3つの草刈機の回転刃ユニットの内部(空間部S)に対して、所定量(13.5g、10.5g及び6.8g)だけ充填した。ここで、以下の説明では、本件グリースを回転刃ユニット内部へ13.5g充填した草刈機を本件機1、10.5g充填した草刈機を本件機2、及び6.8g充填した草刈機を本件機3という。
一方、残りの1つの草刈機の回転刃ユニットの内部(空間部S)に対しては、比較グリースを所定量(6.8g)だけ充填した。ここで、以下の説明では、かかる草刈機を比較機という。
なお、これらの充填量は、回転刃ユニットの内部(空間部S)の空間容積に対して、本件機1が略100%の体積量、本件機2が略70%の体積量、並びに本件機3及び比較機が略50%の体積量にそれぞれ相当する。
また、各回転刃ユニットの主軸を支持する転がり軸受(図1(a)及び図3(a)に示す回転刃側軸受2)としては、軸受外径を32mm、軸受内径を12mm、軸受幅を10mmに設定し、接触型のゴムシールを取り付けて内部を密封状態にした玉軸受を用いた。なお、かかる接触型のゴムシールには、軸受内部の圧力変化を抑制(調整)するための貫通孔(空気孔)を形成せず、軸受内部が略完全に密封状態に保たれるようにした。また、軸受内部には、潤滑剤として、増ちょう剤がリチウム石けん、基油が鉱油系のグリース(昭和シェル石油株式会社製 シェルアルバニヤグリースS2(以下、軸受潤滑グリースという))を約0.4g充填した。
図2(a)には、草刈機に搭載した回転刃ユニットのグリース漏洩防止効果を検証するための試験装置が示されており、当該試験装置を用いて、本件機1,2,3及び比較機を、所定条件のもとに所定速度(刈刃の回転速度)で所定時間だけそれぞれ運転させた後、回転刃ユニット内部に充填した歯車潤滑グリース、及び転がり軸受(回転刃側軸受)内部に充填した軸受潤滑グリースの外部への漏洩状態を比較することで、これらの草刈機に対する回転刃ユニットのグリース漏洩防止効果について検証した。
併せて、上記試験運転後、回転刃ユニットの歯車(図1(a)及び図3(a)に示す駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2)近傍の歯車潤滑グリースを採取し、その鉄成分の含有状態を本件機1,2,3及び比較機について比較することで、回転刃ユニットに対する歯車潤滑グリースの潤滑性能(具体的には、本件グリース並びに比較グリースの歯車に対する摩耗防止効果)についても検証した。
この場合、歯車潤滑グリースを本件機1,2,3及び比較機の回転刃ユニットの内部(空間部S)へ充填した時点(試験前の状態)においては、当該歯車潤滑グリースには鉄成分は含有されていないが、試験運転中に歯車が噛み合い、相互に摩擦されることによって摩耗粉(鉄摩耗粉)が発生し、当該鉄摩耗粉が歯車潤滑グリースに混入するため、試験後の歯車潤滑グリースは所定量の鉄成分を含有することとなる。したがって、かかる試験後の鉄含有量(鉄摩耗粉含有量)が少ない歯車潤滑グリースほど、試験運転中における歯車の摩耗を抑制し、当該歯車に対する潤滑性能が優れているものと判断することができる。
なお、図2(a)に示すように、試験装置は、直方体の箱形を成し、その枠材として山形鋼が用いられており、当該枠材で囲まれた各面部がエキスパンドメタルでそれぞれ構成されている。そして、かかる試験装置を架台に対してボルトで締結固定するとともに、草刈機が当該試験装置内で宙吊り状態となるように、草刈機の操作管30及び操作ハンドル36(図4参照)を試験装置の枠材に対して紐で固定した。
そして、試験に当たっては、試験中の草刈機(本件機1,2,3及び比較機)の雰囲気温度を室温に保ち、この状態で、刈刃が1分間に8000回転する速度で、本件機1,2,3及び比較機をそれぞれ最長30時間連続して運転させた。なお、その際、所定のタイミングでエンジン34(図4参照)に燃料を給油し、本件機1,2,3及び比較機を連続運転させた。その後、本件機1,2,3及び比較機から回転刃ユニットを取り外し、転がり軸受(回転刃側軸受)の内部から漏洩したグリース(軸受潤滑グリース、あるいは、軸受潤滑グリースに歯車潤滑グリースが混合されたもの(以下、これらの漏洩グリースをまとめて単にグリースという))をスパチラ(小さなさじ)にて採取して、その漏洩量を本件機1,2,3及び比較機についてそれぞれ測定し、比較した。
また、取り外した回転刃ユニットの歯車近傍の歯車潤滑グリースを同様にスパチラにて採取し、採取した歯車潤滑グリースを蛍光X線分析器にて成分分析した。そして、その鉄含有量(鉄摩耗粉含有量)を本件機1,2,3及び比較機についてそれぞれ測定し、比較した。その際、鉄摩耗粉含有量は、採取した歯車潤滑グリースの質量に対する鉄摩耗粉の質量比(以下、mass%と記す)として算出した。
なお、本試験においては、上記草刈機(本件機1,2,3及び比較機)の運転、並びにグリース漏洩量の測定及び歯車潤滑グリースに対する鉄摩耗粉含有量の測定を1試験サイクルとして、当該試験サイクルを2回繰り返し、各結果をそれぞれ比較した。
図2(b)には、各試験結果が示されており、同図から明らかなように、回転刃ユニットの内部へ増ちょう剤としてリチウム石けんを使用した比較グリースが充填された比較機の場合、転がり軸受(回転刃側軸受)からのグリース漏洩量は、運転時間が30時間に達する以前の15時間経過時点において4g以上となり、軸受内部への充填量(約0.4g)よりも大量のグリース(10倍以上)が漏洩した。すなわち、軸受内部に漏洩(侵入)した歯車潤滑グリースが軸受潤滑グリースと混合し、さらに軸受外部へ漏洩していることが検証された。なお、この場合、漏洩したグリースは刈刃(図3(a)及び図4に示す刈刃32)にまで達しており、運転時間が15時間を経過した時点で試験を中止した。
一方、回転刃ユニットの内部へ増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用した本件グリースが充填された本件機1,2,3の場合、転がり軸受(回転刃側軸受)からのグリース漏洩量は、運転時間が30時間を経過した後であっても、0.06〜0.23gであった。これは、軸受内部への軸受潤滑グリース充填量(約0.4g)の15〜26%程度に過ぎず、比較機のグリース漏洩量(4g以上)の1.5〜2.6%程度に過ぎなかった。
この場合、本件機1(本件グリースの充填量が空間部Sに対して略100%の体積量)ではグリース漏洩量が0.3g以下、本件機2(同略70%の体積量)ではグリース漏洩量が0.2g以下に減少し、さらに本件機3(同略50%の体積量)ではグリース漏洩量が0.1g以下まで減少した。このように、本件グリースの充填量を回転刃ユニットの内部(空間部S)の体積に換算して略100%から50%の体積量まで少なくするにしたがって、グリース漏洩量も減少した。
その際、回転刃ユニット内部(空間部S)への歯車潤滑グリース充填量に対する前記グリース漏洩量は、本件機1の場合が1.1〜1.7%程度、本件機2の場合が0.9〜1.2%程度、及び本件機3の場合が0.9〜1.2%程度に過ぎなかった。
なお、本件機1,2,3のいずれにおいても、漏洩したグリースは、軸受のゴムシール(図1(a)に示すシール22)の表面、並びに刈刃押さえ蓋(図1(a)に示す刈刃押さえ蓋18)の上方に僅かに付着している程度であった。
また、試験終了後の歯車潤滑グリースの鉄摩耗粉含有量は、本件機1では0.05〜0.06mass%、本件機2では0.05〜0.07mass%、本件機3では0.06〜0.09mass%となった。このように、鉄摩耗粉含有量は、回転刃ユニット内部(空間部S)への歯車潤滑グリース(本件グリース)充填量にかかわらず、いずれも0.1mass%以下に抑えられており、当該充填量による差異は特に認めらなかった。すなわち、本件グリースに混入した鉄摩耗粉は、歯車の初期摩耗(いわゆる、なじみ摩耗)により発生されたものと考えられる。
なお、比較機の場合、運転時間が本件機1,2,3の約半分(15時間)であるにもかかわらず、試験終了後の歯車潤滑グリース(比較グリース)の鉄摩耗粉含有量は、0.06〜0.08mass%であり、かかる比較グリースには、本件機1,2,3と略同程度の鉄摩耗粉が含有されていた。したがって、この状態、具体的には、比較グリースが転がり軸受(回転刃側軸受)の内部へ侵入し、当該比較グリースの量が減少した状態で試験を継続すれば、歯車が潤滑不良となり、比較グリースの鉄摩耗粉含有量はさらに増加するものと考えられる。
以上、本実施形態に係る回転刃ユニットU1のように、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用することで、内部(例えば、空間部S)に充填(封入)した当該グリースの軟化(あるいは、液状化)が抑制され、外部への漏洩を確実に防止できることが、上述した試験により検証できた。
また、歯車潤滑グリースの増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんを使用すれば、例えば、歯車潤滑グリースの充填量を空間部Sに対して略70〜50%の体積量となる程度に抑制した場合であっても、当該歯車潤滑グリースの潤滑性能は低下することなく、略一定に保たれることが、上述した試験により検証できた。
すなわち、本実施形態に係る回転刃ユニットU1によれば、回転部材である刈刃32を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
本発明の一実施形態に係る回転刃ユニットの構成例を示す図であって、(a)は、断面図、(b)は、回転刃ユニットの内部に封入した潤滑剤(グリース)の状態を説明するための模式図。 草刈機に搭載された回転刃ユニットの内部に封入した潤滑剤(グリース)の漏洩防止効果についての試験を説明するための図であって、(a)は、試験装置の全体構成例を示す図、(b)は、試験結果を本件機及び比較機についてそれぞれ示す図。 従来の回転刃ユニットの構成例を示す図であって、(a)は、断面図、(b)は、回転刃ユニットの内部に封入した潤滑剤(グリース)の状態を説明するための模式図。 従来の草刈機の全体構成例を示す斜視図。
符号の説明
2 回転刃側軸受
4 歯車側軸受
8 主軸
20,22 シール
32 刈刃
34 エンジン
38 駆動軸
40 ケース
40s ケース内壁
A 草刈機
G1 駆動軸歯車
G2 主軸歯車
Ga 潤滑剤(グリース)
Ly 空気層
S 空間部
U1 回転刃ユニット

Claims (3)

  1. 所定方向に延出して立設された主軸と、当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備えた回転部材支持ユニットであって、
    当該ユニット内には、前記歯車を潤滑するための潤滑剤が封入されており、当該潤滑剤には増ちょう剤が含有されているとともに、当該増ちょう剤としてカルシウムスルホネートコンプレックス石けんが使用されていることを特徴とする回転部材支持ユニット。
  2. 前記カルシウムスルホネートコンプレックス石けんは、前記潤滑剤の混和ちょう度がNLGIの規定するちょう度番号No.2〜No.3の範囲内に設定されるように、当該潤滑剤に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の回転部材支持ユニット。
  3. 主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転部材支持ユニット。
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