JP2008261037A - ショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】良好な面疲労強度を有し、軽量化、小型化、高応力負荷化の要求に応えることができるショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品の提供。
【解決手段】生地が、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.05〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.003〜0.05%、Cr:0.5〜3.0%、Al:0.01〜0.05%、N:0.008〜0.025%を含有し、残部はFeと不純物からなる化学成分の鋼で、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離で定義する硬化層深さが0.6〜1.0mm、表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であるショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
【選択図】なし

Description

本発明は、浸炭又は浸炭窒化後に、更にショットピーニングを施されて使用される鋼製の部品や、浸炭又は浸炭窒化後に焼戻しされ、その後更にショットピーニングを施されて使用される鋼製の部品(以下、それらの部品を「ショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品」という。)に関する。より詳しくは、優れた面疲労強度を確保するために浸炭又は浸炭窒化の後、あるいは、必要に応じて更に焼戻しされた後、ショットピーニングを施されて使用される歯車、プーリー及びシャフトなどショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品に関する。
従来、自動車や産業機械の歯車、プーリー及びシャフトなどの鋼製の部品(以下、「鋼製の部品」を単に「部品」ともいう。)は、JIS規格のSCr420、SCM420やSNCM420などの機械構造用合金鋼を素材として、浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れを施し、その後、200℃以下の焼戻しを行い、更に、必要に応じてショットピーニング処理を施すことにより、接触疲労強度、曲げ疲労強度や耐摩耗性など、それぞれの部品に要求される特性を確保することがなされていた。
しかしながら、近年、自動車の燃費向上やエンジンの高出力化への対応のために部品の軽量・小型化が進み、これに伴って、部品にかかる負荷、なかでも、部品表面に繰り返しかかる応力が飛躍的に高まる傾向にある。このため、産業界からは、部品における前記特性のうちでも特に接触疲労強度を高めたいとの要望が大きくなっている。
上記の「接触疲労」には「面疲労」、「線疲労」及び「点疲労」が含まれるが、実際には「線」接触や「点」接触になることはほとんどない。このため、接触疲労強度として「面疲労強度」を高めたいとの産業界からの要望が大きい。
なお、「ピッチング」は、面疲労の破壊形態の一つであり、歯車の歯面、プーリー及びシャフトにおける損傷形態は主にピッチングである。このため、ピッチング強度を向上させることが、上記の面疲労強度の向上に対応することになるので、以下、「面疲労」としての「ピッチング」について説明し、「ピッチング強度」を「面疲労強度」という。
上記の産業界からの要望に対しては、従来、部品の面疲労強度を向上させるために、浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れを施した部品に対して、
・部品表層部の硬さを上昇させること、
・部品表層部のCの含有量(以下、「濃度」ともいう。)、あるいは、「C+N」の濃度を制御すること、
・表面粗さを小さくすること、
などの対策が講じられ、例えば、特許文献1〜3に面疲労強度に優れた歯車やその製造方法に関する技術が提案されている。
すなわち、特許文献1には、化学成分を規定するとともに、浸炭窒化もしくは浸炭浸窒後焼入焼戻しによる表面硬化層を有し、表面から0.1mmまでのC+N量、更に、必要に応じて、表面から50μm深さでのビッカース硬さや表面粗さを規定した、面疲れ強度の優れた歯車用鋼が開示されている。
また、特許文献2には、化学成分を規定するとともに、必要に応じて、浸炭焼入れ焼戻しまたは浸炭窒化焼入れ焼戻しによる表面硬化層を有し、表面から深さ0.1mmまでのC、Si及びCr量、更には、表面から深さ50μmでのビッカース硬さや表面粗さを規定した、歯面強度の優れた歯車用鋼と歯車が開示されている。
更に、特許文献3には、ガス浸炭による微細炭化物分散浸炭層、窒素侵入させることによる残留オーステナイト量、並びに、マイクロショットピーニングによる表面粗さ、表面圧縮残留応力及び表面硬さを規定した、耐面圧(面疲労強度)及び曲げ疲労強度に優れた機械構造部品が開示されている。
特開平9−296250号公報 特開平7−242994号公報 特開2003−183808号公報
特許文献1で提案された歯車用鋼によれば、その実施例に示されているように、歯面のピッチング寿命(面疲労強度)が向上する。しかしながら、特許文献1で提案された技術は、表面から0.1mmを超える深さの部位、つまり、表面からの距離が0.1mmを超える内側の部位の影響について考慮されていない。
特許文献2で提案された歯車用鋼によっても、その実施例に示されているように、歯面強度(面疲労強度)が向上する。しかしながら、特許文献2で提案された技術は、前記特許文献1で提案された技術と同様に、表面からの深さが0.1mmを超える内側の部位の影響について考慮されたものではない。
また、特許文献3で提案された機械構造部品によれば、その実施例に示されているように、歯面強度(面疲労強度)が向上する。しかしながら、特許文献3で提案された技術も、最表層近傍の部位のみを制御するものである。
しかしながら、上記特許文献1〜3で開示されたような表層部近傍の高硬度化技術ではいずれも、近年、産業界から要望されている部品の軽量化、小型化、高応力負荷化に十分対応できる面疲労強度を得ることはできなかった。
そこで、本発明の目的は、部品の軽量化、小型化、高応力負荷化の要求に十分応えることができるショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品を提供することである。
なお、本発明における面疲労強度の目標は、後述するローラーピッチング試験の評価で2860MPa以上の面疲労強度を有することとした。
本発明者らは、前記した課題を解決するためには、表層部近傍の性状だけではなく、表面からの距離が大きい内側の部位(すなわち部品内部)の性状を制御することが重要であるとの着想の下、硬さ分布、ミクロ組織などに着目した調査・研究を重ね、更に、それに付帯する条件について種々の検討を行った。その結果、先ず、下記(a)〜(d)の知見を得た。
(a)面疲労強度の向上にはピッチングの発生を抑制する必要があるが、ピッチングの起点となる亀裂は最表層部近傍で発生し、それが徐々に伝播して部品の破損に至る。したがって、ピッチングの発生を抑止して大きな面疲労強度を確保するためには、亀裂の発生に加え亀裂の伝播速度をも抑制する必要がある。
(b)亀裂の発生を抑制するためには、表層部近傍を高硬度化すればよい。高硬度化するためには、表層部のC濃度、あるいは、「C+N」の濃度を高めて、且つマルテンサイト主体の組織にすることが有効があるが、表層部のC濃度、あるいは、「C+N」の濃度を高めると、ラスマルテンサイトが減少し、レンズ状マルテンサイトが増加する。そして、レンズ状マルテンサイトが増加すると、亀裂が発生しやすくなる。
(c)一方、亀裂の伝播速度の抑制には、表層部近傍だけでなく、表面からの深さ(以下、「表面からの距離」ともいう。)が0.1〜1mm程度の内部の領域まで高硬度化することが有効である。これは接触部では、表層部近傍だけでなく、それより内部の領域でも高い応力が繰り返し付与されるためである。
(d)しかしながら、硬化層深さが過大であると、面疲労強度が飽和するだけでなく、浸炭、あるいは浸炭窒化処理の長時間化によるコストの増大、また、焼入れ後の変形量が大きくなる、という問題が生じる。
次に、本発明者らは、格段に優れた面疲労強度を得るための組織と鋼組成の条件についても調査・研究を重ね、その結果、下記(e)の知見を得た。
(e)部品は接触時に温度が上昇するため、表層部の硬さが低下しやすい。このため、生地の鋼の化学組成は、焼戻し軟化抵抗を高める元素であるMoの含有量を高めることが有効である。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(3)に示すショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品にある。
(1)生地が、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.05〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.003〜0.05%、Cr:0.5〜3.0%、Al:0.01〜0.05%及びN:0.008〜0.025%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学成分の鋼で、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6〜1.0mm及び表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であることを特徴とする、ショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
但し、硬化層深さとは、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離と定義する。
(2)生地の鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.8%以下を含有することを特徴とする上記(1)に記載のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
(3)生地の鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.08%以下及びV:0.15%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
なお、上記の表層部の硬さとしての「ビッカース硬さ」とは、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置で試験力を1.961Nとして任意に10点測定した場合の算術平均値を指す。
以下、上記(1)〜(3)のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(3)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、面疲労強度が極めて優れているので、自動車や産業機械の部品である歯車、プーリー及びシャフトなどに用いることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)生地の鋼の化学組成
C:0.1〜0.3%
Cは、浸炭焼入れ、あるいは、浸炭窒化焼入れしたときの部品の生地の強度(芯部強度)を確保するために必須の元素である。しかし、その含有量が0.1%未満では前記の効果が不十分である。一方、Cの含有量が0.3%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、被削性が大きく低下する。したがって、生地の鋼のCの含有量を0.1〜0.3%とした。なお、生地の鋼のC含有量の望ましい範囲は0.2〜0.25%である。
Si:0.05〜1.5%
Siは、脱酸作用を有する。しかしながら、その含有量が0.05%未満では前記の効果が不十分である。一方、Siの含有量が1.5%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、被削性が大きく低下する。したがって、生地の鋼のSiの含有量を0.05〜1.5%とした。なお、Siの含有量が0.3%以上であれば、面疲労強度を高める効果が十分に得られる。このため、生地の鋼のSiの含有量は、より好ましくは0.3〜1.5%である。
Mn:0.2〜1.5%
Mnは、焼入れ性を高める効果があるため、面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が0.2%未満では前記の効果が不十分である。なお、Mnの含有量が0.4%以上になると、面疲労強度の向上が顕著になる。一方、Mnの含有量が1.5%を超えると、面疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、被削性が大きく低下する。したがって、生地の鋼のMnの含有量を0.2〜1.5%とした。より好ましい生地の鋼のMn含有量は、0.4〜1.5%である。
S:0.003〜0.05%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる。しかしながら、その含有量が0.003%未満では、前記の効果が得難い。一方、Sの含有量が多くなると、粗大なMnSを生成しやすくなって、面疲労強度を低下させる傾向があり、特に、その含有量が0.05%を超えると、他の要件を満たしていても面疲労強度の低下が顕著になる。したがって、生地の鋼のSの含有量を0.003〜0.05%とした。なお、生地の鋼のS含有量の望ましい範囲は0.01〜0.03%である。
Cr:0.5〜3.0%
Crは、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高める効果があり、面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が0.5%未満では前記の効果が不十分である。なお、Crの含有量が1.2%以上になると、面疲労強度の向上が顕著になる。一方、Crの含有量が3.0%を超えると、面疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、被削性が著しく低下する。したがって、生地の鋼のCrの含有量を0.5〜3.0%とした。より好ましい生地の鋼のCr含有量は1.2〜2.5%である。
Al:0.01〜0.05%
Alは、脱酸作用を有すると同時に、Nと結合してAlNを形成しやすく、焼入れ部の結晶粒微細化に有効で、面疲労強度を高める効果がある。しかしながら、Alの含有量が0.01%未満ではこの効果は得難い。一方、Alは硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、Alの含有量が0.05%を超えると、面疲労強度の低下が著しくなり、他の要件を満たしていても目標とする面疲労強度(後述するローラーピッチング試験の評価で2860MPa以上の面疲労強度)が得られなくなる。したがって、生地の鋼のAlの含有量を0.01〜0.05%とした。なお、生地の鋼のAl含有量の望ましい範囲は0.02〜0.04%である。
N:0.008〜0.025%
Nは、Al、Nb、VやTiと結合してAlN、NbN、VNやTiNを形成しやすく、このうちAlN、NbN、VNは結晶粒微細化に有効で、面疲労強度を高める効果がある。しかしながら、N含有量が0.008%未満ではこうした効果は得難い。一方、Nの含有量が0.025%を超えると、不純物中のTiと結合した粗大なTiNが形成されやすくなって面疲労強度が低下し、他の要件を満たしていても目標とする面疲労強度(後述するローラーピッチング試験の評価で2860MPa以上の面疲労強度)が得られなくなる場合がある。したがって、生地の鋼のNの含有量を0.008〜0.025%とした。より好ましい生地の鋼のN含有量は0.012〜0.020%である。
上記の理由から、本発明(1)に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、生地が、C、Si、Mn、S、Cr、Al及びNを上述した範囲で含有し、残部はFe及び不純物からなる化学成分の鋼であることと規定した。
なお、本発明(1)に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、生地が、上記本発明(1)におけるFeの一部に代えて、
第1群:Mo:0.8%以下、
第2群:Nb:0.08%以下及びV:0.15%以下のうちの1種以上、
の少なくとも1つの群の元素のうち1種以上を含有する鋼とすることができる。
すなわち、更により優れた特性を得るために、前記第1群と第2群の少なくとも1つの群の元素のうち1種以上を、本発明(1)の生地の鋼におけるFeの一部に代えて、含有してもよい。
以下、上記の元素に関して説明する。
第1群:Mo:0.8%以下
Moは、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高める効果があり、面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、Moの含有量が多くなり、特に、0.8%を超えると、面疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎて、被削性が大きく低下する。したがって、添加する場合の生地の鋼のMoの含有量を0.8%以下とした。
なお、前記したMoの効果を確実に得るためには、生地の鋼のMo含有量を0.1%以上とすることが好ましい。このため、添加する場合の生地の鋼のより望ましいMo含有量は0.1〜0.8%であり、0.1〜0.4%であれば一層好ましい。
第2群:Nb:0.08%以下及びV:0.15%以下のうちの1種以上
Nbは、C、Nと結合してNbC、NbN、Nb(C、N)を形成しやすく、前述したAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完するのに有効で、面疲労強度を高める効果がある。しかしながら、Nbの含有量が多くなり、特に、0.08%を超えると、中心偏析部に粗大なNb(C、N)が生成しやすくなり、面疲労強度が低下する。したがって、添加する場合の生地の鋼のNbの含有量を0.08%以下とした。
なお、前記したNbの効果を確実に得るためには、生地の鋼のNb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。このため、添加する場合の生地の鋼のより望ましいNb含有量は0.01〜0.08%であり、0.02〜0.05%であれば一層好ましい。
Vは、C、Nと結合してVN、VCを形成しやすく、このうち、VNは前述したAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完するのに有効で、面疲労強度を高める効果がある。また、浸炭窒化時にVNが析出すると、面疲労強度をより高める効果がある。しかしながら、Vの含有量が多くなり、特に、0.15%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎて、被削性が大きく低下する。したがって、添加する場合の生地の鋼のVの含有量を0.15%以下とした。
なお、前記したVの効果を確実に得るためには、生地の鋼のV含有量を0.02%以上とすることが好ましい。このため、添加する場合の生地の鋼のより望ましいV含有量は0.02〜0.15%であり、0.05〜0.10%であれば一層好ましい。
上記の理由から、本発明(2)に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、生地の鋼が、本発明(1)の生地の鋼におけるFeの一部に代えて、Mo:0.8%以下を含有することと規定した。
また、本発明(3)に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、生地の鋼が、本発明(1)又は本発明(2)の生地の鋼におけるFeの一部に代えて、Nb:0.08%以下及びV:0.15%以下のうちの1種以上を含有することと規定した。
なお、本発明に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、より安定した特性を得るために、その生地の鋼における不純物元素としてのP、Ti及びO(酸素)の含有量を下記のとおりに制限することが好ましい。
P:0.025%以下
Pは、粒界偏析して粒界を脆化させやすい元素であるため、0.025%を超えると、他の要件を満たしていても少ない頻度であるが、面疲労強度が低下する場合がある。したがって、生地の鋼のPの含有量は、0.025%以下とすることが好ましい。
Ti:0.005%以下
Tiは、Nと結合してTiNを形成しやすく、特に、Ti含有量が0.005%を超えると、粗大なTiNが形成されやすくなり、他の要件を満たしていても少ない頻度であるが、面疲労強度が低下する場合がある。したがって、生地の鋼のTiの含有量は、0.005%以下とすることが好ましい。更に、不純物元素としてのTi含有量はできる限り少なくすることが望ましいが、製鋼でのコストを考慮すると、0.002%以下にすることがより好ましい。
O(酸素):0.002%以下
Oは、Alと結合して硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、特に、O含有量が0.002%を超えると、他の要件を満たしていても少ない頻度であるが、面疲労強度が低下する場合がある。したがって、生地の鋼のOの含有量は、0.002%以下とすることが好ましい。更に、不純物元素としてのO含有量はできる限り少なくすることが望ましいが、製鋼でのコストを考慮すると、0.001%以下にすることがより好ましい。
(B)硬さ及び組織
本発明者らの検討によって、本発明に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6〜1.0mm及び表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下でなければならないことが明らかになった。
以下、上記の事項について詳しく説明する。
面疲労は、接触部近傍の硬さや組織に大きく影響されることが知られており、従来、表層部近傍の高硬度化が面疲労強度の向上に有効であるといわれてきた。しかしながら、表層部近傍の高硬度化による面疲労強度向上では、産業界からの要望である前述した部品の軽量化、小型化、高応力負荷化に対応できる面疲労強度の確保に対して十分ではない。
そこで、本発明者らは、表層部近傍だけでなく、表面からの距離がそれより大きい内部の領域も制御することにより、面疲労強度を向上させるという、従来とは異なる視点にたって、以下に示す検討を行った。
先ず、表1に示す前記(A)項で述べた生地の鋼の化学組成を満たす鋼α〜εを150kg真空溶解炉で溶解した後、インゴットに鋳造した。
Figure 2008261037
各インゴットを1250℃で4時間加熱し、一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径が35mmの各丸棒に、920℃で1時間保持して室温まで放冷する処理を行った後、機械加工により図1(a)に示す形状のローラーピッチング試験用小ローラーを作製した。
上記のローラーピッチング試験用小ローラーには、ガス浸炭炉を用いて、図2及び表2に示す条件で浸炭焼入れ(表2に示す処理条件A〜E、G及びI)又は浸炭窒化焼入れ(表2に示す処理条件F、H、J及びK)を行い、次いで、170℃で2時間の焼戻しを行った後、熱処理ひずみを除く目的で、つかみ部の仕上げ加工を行い、更に、試験部を30μm研削した。なお、図2及び表2における「CP」は、カーボンポテンシャルを意味する。
Figure 2008261037
更に、上記の浸炭焼入れ・焼戻し及びつかみ部の仕上げ加工と30μmの試験部研削を行ったローラーピッチング試験用小ローラーの試験片は、下記の条件でショットピーニング処理を行った。なお、このショットピーニングには、直圧式ショットピーニング装置を用いた。
・投射材の種類:高炭素鋼、
・投射材の直径(ショット粒の粒径):0.3mm、
・投射材の硬さ:ビッカース硬さで700〜800、
・投射圧力:0.3MPa、
・カバレージ:200%、
・投射距離:120mm。
上記のようにして得たローラーピッチング試験用小ローラーの試験部近傍のビッカース硬さを、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、次の方法で測定した。
すなわち、前記試験部を小ローラーの軸方向に垂直な面で切断し、その切断面を鏡面研磨して試験部の表面からの深さが0.03mmの位置で、試験力を1.961Nとして10点測定し、その算術平均値を表層部のビッカース硬さとした。
また、表面からの深さが、0.03mmの位置、0.05mmの位置、これ以降1.0mmの位置までを0.05mmピッチで、更に、前記1.0mmの位置以降2.4mmの位置までを0.1mmピッチで、試験力を1.961Nとして各部位において2点ずつ測定し、その算術平均値を各位置のビッカース硬さとして、硬さ分布図を求め、この硬さ分布図を用いて、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離である「硬化層深さ」及び550の位置までの距離を測定した。
なお、表面からビッカース硬さで550の位置までの距離は、JIS G 0557(1996)などにおいて定義されている一般的な硬化層深さで、以下これを「硬化層深さ550」という。
一方、前記の表面からビッカース硬さで700の位置までの距離は、本発明でいう硬化層深さである。
本発明において、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離をもって「硬化層深さ」とするのは、以下の理由である。
・表層部近傍に大きな応力が繰り返し付与されることは、従来から知られており、表層部近傍の硬さをビッカース硬さで700以上にするのは、一般的である。
・表面からの深さが数百μmの位置でも、表層部近傍と大差ない応力が繰り返し付与されることが明らかになった。
次いで、上記のようにして得たローラーピッチング試験用小ローラー及び表1に示す鋼γを素材とし、図1(b)に示す形状、すなわち、直径が130mmで、接触部のR形状が150mmRの形状のローラーピッチング試験用大ローラーを用いて、表3に示した条件でローラーピッチング試験を行った。
なお、ローラーピッチング試験は、一般には油温を80〜90℃として行われることが多いが、今回は油温を100℃として実施した。これは、油温を上げることで面疲労強度が低くなることが知られているため、極端に高い面圧での試験を避けることができるためである。
なお、上記ローラーピッチング試験用大ローラーは一般的な製造工程、つまり、「焼きならし、試験片加工、ガス浸炭炉による共析浸炭、低温焼戻し及び研磨」の工程によって作製したものである。
Figure 2008261037
各試験番号について、ローラーピッチング試験における試験数は5とし、縦軸に面圧、横軸にピッチング発生までの繰り返し数をとったS−N線図を作成し、繰り返し数1.0×107回での面圧を、面疲労強度とした。なお、小ローラーの試験部の表面が損傷している箇所のうちで、最大のものの面積が1mm2以上になった場合をピッチング発生とした。
なお、本発明における面疲労強度は、鋼組成がJIS G 4053(2003)に規定されたSCR420の規格を満たす鋼αを用いて、表2に示す処理条件Aで処理し、次いで、170℃で2時間の焼戻しを行った後、更に、試験部を30μm研削して、ショットピーニングを施した場合の面疲労強度(後述の表4の試験番号1の面疲労強度)である2200MPaを30%以上上回ること、すなわち、2860MPa以上であることを目標とした。そして、面疲労強度が2860MPa以上の場合に、面疲労特性に優れるものとした。
また、面疲労強度が、上記の2200MPaを40%以上上回る3080MPa以上の場合に、面疲労特性に極めて優れるものとした。
表4及び表5に、上記の各試験結果をまとめて示す。また、図3に、表層部の硬さと面疲労強度の関係を整理して示す。表4及び表5における「硬化層深さ550」は、表面からビッカース硬さで550の位置までの距離を指す。なお、表4、表5及び図3においては、ビッカース硬さを「Hv」と表記した。
Figure 2008261037
Figure 2008261037
図3からわかるように、表層部の硬さがビッカース硬さで850未満の場合には、目標とする2860MPa以上の面疲労強度が得られていない。一方、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上であっても、目標とする2860MPa以上の面疲労強度が得られない場合のあることも明らかである。
そこで、図4に、表層部の硬さがビッカース硬度で850以上である試験番号、具体的には、試験番号3〜8、試験番号10、試験番号11、試験番号14〜19、試験番号21、試験番号22、試験番号25〜30、試験番号32、試験番号33、試験番号36〜41、試験番号43、試験番号44及び試験番号47〜55について、硬化層深さと面疲労強度の関係を整理した。
図4からわかるように、硬化層深さが0.6mm未満の場合には、目標とする2860MPa以上の面疲労強度が得られていない。
このように、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上及び硬化層深さが0.6mm以上であっても安定して目標とする2860MPa以上の高い面疲労強度が得られないため、本発明者らは、次に、表層部の組織を観察した。
その結果、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上及び硬化層深さが0.6mm以上であっても、目標とする2860MPa以上の面疲労強度が得られなかったものでは、レンズ状マルテンサイトが頻繁に観察され、その部分に微小な亀裂が発生していることがわかった。
そこで、前記の硬さを測定した鏡面研磨面をナイタールで腐食して、光学顕微鏡によって、試験片最表層を含むように、倍率400倍で各4視野撮影した。なお、各視野の大きさは0.22mm×0.15mmである。
上記の各視野について、表面からの深さが0.1mmまでの領域の、長さが0.22mmの範囲について、通常の方法による画像解析を行って、レンズ状マルテンサイトの面積分率を求めた。なお、各試験番号について4視野の面積分率の平均値をその試験番号のレンズ状マルテンサイトの体積分率とした。
高炭素鋼においては、ラスマルテンサイトとレンズ状マルテンサイトが混在することが知られているが、レンズ状マルテンサイト組織は、ラスマルテンサイト組織に較べて腐食されにくく、またラス構造を有しないことから、ラスマルテンサイト組織と区別可能である。さらにレンズ状マルテンサイト組織の形状から、残留オーステナイト組織とも区別が可能である。
表4及び表5に、上記のようにして求めた表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率を併せて示した。
表4及び表5から、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6mm以上で、且つ表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であれば、安定して目標とする2860MPa以上の面疲労強度が得られることがわかる。
そこで、確認のため、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上で、且つレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下である試験番号、具体的には、試験番号3〜7、試験番号10、試験番号14〜18、試験番号21、試験番号25〜29、試験番号32、試験番号36〜40、試験番号43、試験番号47〜51及び試験番号54について、図5に、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離として定義した本発明の硬化層深さと面疲労強度の関係を、また、図6に、硬化層深さ550と面疲労強度の関係を整理した。
図5と図6の比較から、本発明で定義する硬化層深さで整理した方が、硬化層深さ550で整理した場合に比べて、安定して目標とする2860MPa以上の高い面疲労強度が得られることが明らかである。
なお、図5から、硬化層深さが1.0mmを超えても、面疲労強度が飽和することがわかる。
硬化層深さを大きくするためには、浸炭や浸炭窒化の処理時間を長くする必要があるためコストの増大を招く。しかも、長時間にわたる浸炭処理や浸炭窒化処理の場合には、熱処理ひずみが大きくなりやすい。したがって、硬化層深さは、1.0mm以下にするのがよい。
以上のことから、本発明に係るショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品の硬さ及び組織について、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6〜1.0mm及び表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であることと規定した。
上記の本発明でいう「硬化層深さ」とは、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離を指すことは既に定義したとおりである。
なお、上記の表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6〜1.0mm及び表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であるという規定を満たす試験番号、具体的には、試験番号5〜7、試験番号10、試験番号16、試験番号17、試験番号21、試験番号27、試験番号28、試験番号32、試験番号38、試験番号39、試験番号43、試験番号49、試験番号50及び試験番号54のうちでも、3080MPaを上回る面疲労強度が得られているものには、浸炭窒化処理したものが多い(試験番号6、試験番号10、試験番号17、試験番号21、試験番号28、試験番号32、試験番号39、試験番号43、試験番号50及び試験番号54)。このことから、本発明に係るショットピーニングを施した鋼製の部品は、浸炭窒化処理によって本発明の規定を満たすようにした部品であることがより好ましい。
また、硬化層深さ550が1.5mmを超えると、熱処理ひずみが顕著になる。このため、硬化層深さ550は1.5mm以下であることが好ましい
なお、本発明で規定した硬さ及び組織を得る方法については、いずれの方法でもよく、特に規定しないが、例えば、以下に示す〈1〉〜〈4〉の手順によって得ることができる。
〈1〉Mn、Cr及びMoの含有量をそれぞれ、Mn(%)、Cr(%)及びMo(%)としたときに、Mn(%)+Cr(%)+2Mo(%)が2.2以上である鋼材を用いる。
〈2〉表面から深さ0.1mmまでの「C+N」濃度が0.80〜0.95%、表面から深さ0.1〜0.6mmの「C+N」濃度が0.50〜0.85%となる浸炭あるいは浸炭窒化を行い、これらの処理に続く焼入れを、油温を100℃以下とした油焼入れとし、その後、160〜180℃で1〜2時間の条件で焼戻しする。
〈3〉真空浸炭炉を用いて上記の浸炭あるいは浸炭窒化の処理を行う。又は、ガス浸炭炉を用いて上記の浸炭あるいは浸炭窒化の処理を行い、前記〈2〉の焼戻し後に20μm以上研削する。
〈4〉ショットピーニングを下記の条件範囲で行う。
投射材の種類:高炭素鋼、
投射材の直径(ショット粒の粒径):0.2〜0.8mm、
投射材の硬さ:ビッカース硬さで700〜800、
投射圧力:0.25〜0.35MPa、
カバレージ:120〜250%、
投射距離:100〜150mm。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表6に示す鋼a〜lを150kg真空溶解炉で溶解した後、インゴットに鋳造した。なお、表6中の鋼a〜iは、本発明で規定する生地の化学成分を満たす鋼である。一方、鋼j〜lは、本発明で規定する生地の化学成分の条件から外れた鋼である。
Figure 2008261037
各インゴットを1250℃で4時間加熱し、一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径が35mmの各丸棒に、920℃で1時間保持して室温まで放冷する処理を行った後、機械加工により図1(a)に示す形状のローラーピッチング試験用小ローラーを作製した。
上記のローラーピッチング試験用小ローラーには、ガス浸炭炉を用いて、図2及び表2に示す条件で浸炭焼入れ(表2に示す処理条件A〜E及びI)又は浸炭窒化焼入れ(表2に示す処理条件F、H、J及びK)を行い、次いで、170℃で2時間の焼戻しを行った後、熱処理ひずみを除く目的で、つかみ部の仕上げ加工を行い、更に、試験部を30μm研削した。
更に、上記の浸炭焼入れ・焼戻し及びつかみ部の仕上げ加工と30μmの試験部研削を行ったローラーピッチング試験用小ローラーの試験片は、下記の条件でショットピーニング処理を行った。なお、このショットピーニングには、直圧式ショットピーニング装置を用いた。
・投射材の種類:高炭素鋼、
・投射材の直径(ショット粒の粒径):0.3mm、
・投射材の硬さ:ビッカース硬さで700〜800、
・投射圧力:0.3MPa、
・カバレージ:200%、
・投射距離:120mm。
上記のようにして得たローラーピッチング試験用小ローラーの試験部近傍のビッカース硬さを、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、次の方法で測定した。
すなわち、前記試験部を小ローラーの軸方向に垂直な面で切断し、その切断面を鏡面研磨して試験部の表面からの深さが0.03mmの位置で、試験力を1.961Nとして10点測定し、その算術平均値を表層部のビッカース硬さとした。
また、表面からの深さが、0.03mmの位置、0.05mmの位置、これ以降1.0mmの位置までを0.05mmピッチで、更に、前記1.0mmの位置以降2.4mmの位置までを0.1mmピッチで、試験力を1.961Nとして各部位において2点ずつ測定し、その算術平均値を各位置のビッカース硬さとして、硬さ分布図を求め、この硬さ分布図を用いて、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離である「硬化層深さ」及び550の位置までの距離である「硬化層深さ550」を測定した。
また、上記の硬さを測定した鏡面研磨面をナイタールで腐食して、光学顕微鏡によって、試験片最表層を含むように、倍率400倍で各4視野撮影した。なお、各視野の大きさは0.22mm×0.15mmである。
上記の各視野について、表面からの深さが0.1mmまでの領域の、長さが0.22mmの範囲について、通常の方法による画像解析を行って、レンズ状マルテンサイトの面積分率を求めた。なお、各試験番号について4視野の面積分率の平均値をその試験番号のレンズ状マルテンサイトの体積分率とした。
次いで、上記のようにして得たローラーピッチング試験用小ローラー及び表1に示す鋼γを素材とし、図1(b)に示す形状、すなわち、直径が130mmで、接触部のR形状が150mmRの形状のローラーピッチング試験用大ローラーを用いて、表3に示した条件でローラーピッチング試験を行った。
なお、上記ローラーピッチング試験用大ローラーは一般的な製造工程、つまり、「焼きならし、試験片加工、ガス浸炭炉による共析浸炭、低温焼戻し及び研磨」の工程によって作製したものである。
各試験番号について、ローラーピッチング試験における試験数は5とし、縦軸に面圧、横軸にピッチング発生までの繰り返し数をとったS−N線図を作成し、繰り返し数1.0×107回での面圧を、面疲労強度とした。なお、小ローラーの試験部の表面が損傷している箇所のうちで、最大のものの面積が1mm2以上になった場合をピッチング発生とした。
表7に、上記の各試験結果をまとめて示す。
Figure 2008261037
表7から、本発明で規定する条件から外れた比較例の試験番号、具体的には、試験番号56、試験番号58、試験番号61〜63、試験番号65、試験番号67、試験番号68、試験番号71、試験番号73、試験番号74、試験番号77及び試験番号81〜85の場合には、ローラーピッチング試験における面疲労強度が目標とする2860MPaに達していないことが明らかである。
上記の比較例に対し、本発明で規定する条件を満たす本発明例の試験番号、具体的には、試験番号57、試験番号59、試験番号60、試験番号64、試験番号66、試験番号69、試験番号70、試験番号72、試験番号75、試験番号76及び試験番号78〜80の場合のローラーピッチング試験における面疲労強度は、目標とする2860MPa以上であり、良好な面疲労強度を有することが明らかである。
更に、本発明例のうちでも、浸炭窒化処理を施した試験番号60、試験番号64、試験番号69、試験番号70、試験番号72、試験番号75、試験番号76、試験番号79及び試験番号78〜80は、3080MPaを上回る大きな面疲労強度を有することが明らかである。
本発明のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品は、面疲労強度が極めて優れているので、自動車や産業機械の部品である歯車、プーリー及びシャフトなどに用いることができる。
ローラーピッチング試験用ローラーの形状を説明する図で、(a)は小ローラーの形状を(b)は大ローラーの形状を示す図である。 ガス浸炭炉を用いてローラーピッチング試験用小ローラーに施した表2に記載の浸炭焼入れ又は浸炭窒化焼入れの条件を示す図である。 試験番号1〜55における表層部の硬さと面疲労強度の関係を示す図である。 表層部の硬さがビッカース硬さ850以上である試験番号3〜8、試験番号10、試験番号11、試験番号14〜19、試験番号21、試験番号22、試験番号25〜30、試験番号32、試験番号33、試験番号36〜41、試験番号43、試験番号44及び試験番号47〜55について、硬化層深さと面疲労強度の関係を示す図である。 表層部の硬さがビッカース硬さで850以上で、且つレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下である試験番号3〜7、試験番号10、試験番号14〜18、試験番号21、試験番号25〜29、試験番号32、試験番号36〜40、試験番号43、試験番号47〜51及び試験番号54について、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離として定義した本発明でいう「硬化層深さ」と面疲労強度の関係を示す図である。 表層部の硬さがビッカース硬さで850以上で、且つレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下である試験番号3〜7、試験番号10、試験番号14〜18、試験番号21、試験番号25〜29、試験番号32、試験番号36〜40、試験番号43、試験番号47〜51及び試験番号54について、表面からビッカース硬さで550の位置までの距離を示す硬化層深さ550と面疲労強度の関係を示す図である。

Claims (3)

  1. 生地が、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.05〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.003〜0.05%、Cr:0.5〜3.0%、Al:0.01〜0.05%及びN:0.008〜0.025%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学成分の鋼で、表層部の硬さがビッカース硬さで850以上、硬化層深さが0.6〜1.0mm及び表面からの深さが0.1mmまでの領域に占めるレンズ状マルテンサイトの体積分率が3%以下であることを特徴とする、ショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
    但し、硬化層深さとは、表面からビッカース硬さで700の位置までの距離と定義する。
  2. 生地の鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.8%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
  3. 生地の鋼が、Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.08%以下及びV:0.15%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のショットピーニングを施した鋼製の浸炭部品又は浸炭窒化部品。
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