従来の再循環方式の洗浄操作で重要になってくるのが、血液回路内に送液する補液ポンプの送液量と血液回路内で送液する血液ポンプの送液量である。プライミング液を回路外から血液回路内に送液する補液ポンプの送液量より、血液回路内で血液やプライミング液等の液を送液する血液ポンプの送液量の方が多くなると、ろ過器を流れるプライミング液に過剰な陰圧がかかる場合がある。そのため、従来は、外部からろ過器内に空気を取り込み、プライミング後のろ過器内に空気が残ってしまうという問題がある。
プライミング後に回路内に空気が残留していると、回路内の血液が凝固し、血液の浄化ができなくなる危険がある。また、残留した空気が回路を通して患者の体内に入り込むと、患者の生命に関わる。
逆に、血液ポンプの流量よりも、補液ポンプの流量の方が多くなると、ろ過器に過剰な圧力がかかり、ろ過器を損傷するおそれがある。その結果、安全かつ十分に患者の血液を浄化することができない。
ポンプによりかけられる圧力には一定の誤差がある。血液浄化制御装置に一般的に利用されるポンプでは、この誤差により、ろ過器にかける陽圧と陰圧とを一定にバランスするように制御することは、実際には困難である。すなわち、従来の技術では、安全な施術が実現できるようなプライミングができないという問題がある。
また、血液浄化回路は、1つの血液浄化回路によって様々な方法での血液浄化を実現するため、複雑な構成となる。そのため、プライミングの手順も複雑になり、マニュアル操作では操作者の負担が大きいという問題もある。
さらに、従来は、プライミング時にプライミング液を蓄えたパックを返血口に接続し、プライミング完了時にそれを取り外す必要があり、手間がかかるという問題がある。
従来は、プライミング液を、血液回路の返血口から流し込み、採血口から排出する。そのため、操作者は、プライミング時に、プライミング液を蓄えたパックを返血口に接続し、プライミングが完了すると、返血口に返血用の器具を取り付けるため、プライミング液を蓄えたパックを取り外す。このように、プライミング液を蓄えたパックを接続し、後に取替えたり、取外したりすることは、操作者に手間である。また、このように、回路を接続したり、外したりする手順はできるだけ少ない方が、衛生上も望ましい。
また上述のように、パックの取換えの手間を省くためにも、またコストの低減の点からもプライミング操作を完遂するための液量は少ない方が望ましい。
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、プライミング液を蓄えたパックを施術時に着脱したり、施術中に取替えたりすることなく、プライミング操作を安全に且つ自動的に実行することが可能な血液浄化回路の提供を目的とする。
ここで、本明細書で使用する用語を定義する。
「施術時」とは患者の血液浄化を開始してからそれを終了するまでのことをいう。
「ろ過器」とは、血液を浄化する器具のことである。一般的なろ過器は、円筒の内部に多数の中空糸の束を貫通させ、その中空糸の内部に血液を導通させ、円筒内を流れる透析液と、中空糸膜を介して間接的に接触させることにより、血液を浄化する。拡散、限外ろ過および浸透圧の原理によって、尿素や尿酸、クレアチン、余剰水分などの血液中の老廃物は透析液中に排出され、また、透析液中の電解質などは血液中に取り込まれる。
「チャンバ」とは、内部に流入する液体中に含まれる気泡を取り除き、気泡を取り除いた液体を流出させる気液分離器である。血液浄化回路のチャンバは、一般に、気泡が液体中を上昇する性質を利用して、液体中の気泡をチャンバの流入口側に集めることで、チャンバの内部を流れる液体中の気泡をトラップする。「チャンバ」は、さらに、メッシュを内蔵することにより、異物を分離する機能を有するものもある。
「給液」とは、「プライミング液」と、「補液」と、「透析液」との総称である。「給液」には、一般に、体液と浸透圧や電解質が等しくなるよう調整された等張液などが用いられる。
「プライミング液」とは、血液浄化制御装置のプライミングに利用する液体のことをいう。「補液」とは、ろ過器を通過することにより失われた血液の水分を補給するため、返血中に混ぜられる液体のことをいう。「透析液」とは、ろ過器内で血液と物質交換をする液体のことをいう。「プライミング液」として、「補液」が使用されることが多い。
「ろ液」とは、血液を浄化した後の透析液のことをいう。
「ポンプ」とは、回路内の液体を流動させるための圧力をかける機器である。
「バルブ」とは、その取付位置における、回路内の液体の流量の調整および流路の閉鎖をする機器である。「バルブを閉める」とは、その取付位置における回路内の液体の流路を閉鎖することをいい、「バルブを開ける」とは、その取付位置における回路内の液体を流すことをいう。例えば、回路が一定の弾性のある管である場合には、管を外部から挟み込む器具を取り付けることにより、通常は開けられている管を外部から挟み込むことによって、流路を閉じることが実現できる。
「回路」とは、ある特定種類の液体が流れる流路全体のことである。具体的には、回路は、血液やプライミング液、補液、透析液が流れる流路であり、ろ過器、チャンバ、分岐管、管などの組み合わせにより実現される。また、回路は、施術時に内部を流れる液体によって、「血液回路」と「給液回路」とに分かれ、血液回路には血液が流れ、給液回路には補液および透析液が流れる。「ライン」とは、回路の部分を示す。
「順方向」とは、施術時に回路内を液体が流れる方向のことをいう。また、「逆方向」とは、順方向と逆の方向をいう。施術時に取り付けられていない回路や液体が流れないラインの「順方向」については、個別に定義する。
上記目的を達成するために、本発明に係る血液浄化回路は、ろ過器によって血液を浄化する血液回路であって、一端が、前記ろ過器の血液入口に接続される脱血ラインと、一端が、前記ろ過器の出口に接続される返血ラインと、前記脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および前記返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させるバイパスラインとを備える。
または、ろ過器によって血液を浄化する血液回路であって、一端が、前記ろ過器の血液入口に接続される脱血ラインと、一端が、前記ろ過器の血液出口に接続される返血ラインと、血液回路外から、返血ラインに注液するための連絡ラインと、前記脱血ラインにおけるろ過器の血液入口と、前記返血ラインにおけるろ過器の血液出口にかかるプライミング液の圧力の差を低減させるバイパスラインとを備えることを特徴とする血液回路である。
このように、本発明に係る血液浄化回路は、前記脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および前記返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させるバイパスラインを備える。これにより、ろ過器にかかる圧力は、バイパスラインがない場合より低くなる。そのため、ろ過器内部中空糸膜に過剰な圧力がかかることを防止することができ、過剰な圧力によりろ過器の機能を損なうことを防止することができる。したがって、ろ過器の機能を損なうことなくプライミングができ、安全な施術のためのプライミングを自動的に実行することが可能となる。
好ましくは、前記脱血ラインは、ポンプが取り付けられるポンプ取付部をその途中に有し、前記返血ラインは、バルブが取り付けられるバルブ取付部をその途中に有し、前記バイパスラインは、一端が、前記脱血ラインの前記ポンプ取付部と前記血液入口との間、または、前記返血ラインの前記血液出口と前記バルブ取付部との間に接続され、他端が、前記脱血ラインの他端と前記ポンプ取付部との間、または、前記返血ラインの他端と前記バルブ取付部との間に接続される。
また、さらに、一端が前記脱血ラインの他端に接続され、他端が前記返血ラインに接続される循環ラインを備えてもよい。また、前記バイパスラインは、他端が、前記循環ラインの途中、前記脱血ラインの他端と前記ポンプ取付部との間、または、前記返血ラインの他端と前記バルブ取付部との間に接続されてもよい。
さらに、前記返血ラインは、前記ろ過器から排出される血液中の気泡をトラップする第2のチャンバを有し、前記バイパスラインは、前記一端が、前記第2のチャンバの前記ろ過器側に接続されてもよい。これは、バイパスラインの他端が前記返血ラインの他端と前記バルブ取付部との間に接続される場合の例である。
このように、バイパスラインは、一端が、脱血ラインのポンプ取付部と血液入口との間、または、返血ラインの血液出口とバルブ取付部との間に接続され、他端が、前記脱血ラインの他端と前記ポンプ取付部との間、または、前記返血ラインの他端と前記バルブ取付部との間に接続される。
これにより、ろ過器に流れるプライミング液の一部をバイパスラインに逃がすことができる。そのため、バイパスラインが無い場合より、ろ過器を流れるプライミング液の流量は減少し、ろ過器にかかる圧力は低くなる。そのため、ろ過器に過剰な圧力がかかることを防止することができ、過剰な圧力によりろ過器の機能を損なうことを防止することができる。したがって、ろ過器の機能を損なうことなくプライミングができ、安全な施術のためのプライミングを自動的に実行することが可能となる。
さらに好ましくは、前記循環ラインは、前記脱血ラインから前記返血ラインへ流れるプライミング液中の気泡をトラップする第1のチャンバを有し、前記バイパスラインは、前記他端が、前記第1のチャンバの排出ライン側に接続される。
このように、循環ラインは、脱血ラインから返血ラインへ流れるプライミング液中の気泡をトラップする方向で取り付けられる第1のチャンバを有する。これにより、プライミング液で血液浄化回路を充填した後に、血液回路内にプライミング液を循環させることにより、血液回路内に残った空気をさらに除去することができる。さらに、循環ラインは施術時には取り外して廃棄される。すなわち、第1のチャンバにトラップされた空気は施術時には廃棄されるので、循環ラインとともに廃棄される。そのため、循環ラインが第1のチャンバを有することにより、より安全な施術が可能となる。
さらに、バイパスラインは、第1のチャンバの返血ライン側から分岐する。ろ過器を逆方向からプライミングするため、プライミング時には、脱血ラインから第2のチャンバの方向にプライミング液が流れる。バイパスラインを第2のチャンバの返血ライン側から分岐することにより、バイパスラインから押し出される空気が第2のチャンバにトラップされず、血液浄化回路から確実に空気を除去することができる。そのため、安全な施術が可能となる。
さらに好ましくは、前記バイパスラインは、前記血液浄化回路を構成する他のラインより、その流路抵抗が大きい。
このように、バイパスラインの流路抵抗は他のラインより大きいことにより、バイパスラインを流れるプライミング液の流量は他のラインより少なくなる。そのため、ろ過器にかかる過剰な圧力を逃がすことができる。したがって、安全な施術のためのプライミングを実行することが可能となる。
さらに好ましくは、前記バイパスラインは、両端のいずれか一方に、接続されているラインから取り外し可能な接続部を有する。
このように、バイパスラインは両端のいずれか一方に、接続されているラインから取り外し可能な接続部を有する。そのため、他方を接続した状態で、取り外した一方にシリンジ・ポンプのような抗凝固剤を注入する抗凝固剤注入装置を取り付けることができる。施術中には、血液浄化回路を流れる血液が凝固しないように、回路を流れる血液に抗凝固剤などが投入されるのが一般である。したがって、バイパスラインをこのような抗凝固剤などの投入回路として転用することができ、新たなラインを追加するなどの手間をかけることなく施術することが可能になる。
また、前記バイパスラインは、他端が、循環ラインに接続されている場合、当該他端が取り外し可能な接続部を有する。
このように、循環ラインに接続されている他端を取り外し可能とする。バイパスラインの他端は施術時に取り外される。上記のように循環ラインは施術時に廃棄されるため、他のラインとは異なり、バイパスラインの他端が接続していた部分を施術時に塞ぐなどの措置をする必要がない。施術時に塞ぐなどの措置をする場合、手間がかかるだけでなく、そこからウィルスなどが混入するなど衛生上も好ましくない。したがって、循環ラインに接続されている他端を取り外し可能とすることにより、プライミングまたはリサーキュレーションから血液浄化への移行のための作業を簡単にできるとともに、衛生的な施術が可能になる。
上記目的を達成するために、本発明に係る血液浄化回路は、ろ過器によって患者の血液を浄化するための回路である血液回路であって、一端が、前記ろ過器の血液流入口に接続される流入ラインと、一端が、前記ろ過器の血液排出口に接続される排出ラインと、一端が前記流入ラインの他端に接続され、他端が前記排出ラインの他端に接続され、前記流入ラインに接続する一端から、前記排出ラインに接続する他端へ流れるプライミング液中の気泡をトラップする第1チャンバを有する循環ラインとを備える。
このように、血液回路は、流入ラインおよび排出ラインの端部を接続する循環ラインを備える。一般に、補液とプライミング液に使用される液では、同じものが使用される。循環ラインを備えない場合、ろ過器やチャンバに施術時とは逆方向からプライミング液を流し込むためには、排出ラインからプライミング液を流し込む必要がある。そのため、この場合、施術時に、プライミング液(補液)が接続されているラインを取り替える必要がある。
循環ラインを備えることにより、施術時に補液を流すラインから、プライミング液を流すことによって、血液回路全体をプライミングすることができる。そのため、施術時とプライミング時とでプライミング液(補液)が接続されているラインを取り替える必要がない。したがって、プライミングが完了してから施術を開始するまでの手順を簡素化することができ、プライミングの自動実行を容易にすることが可能となる。
また、循環ラインは、流入ラインから排出ラインへ流れるプライミング液中の気泡をトラップする第1のチャンバを有する。これにより、プライミング液で血液浄化回路を充填した後に、血液回路内にプライミング液を循環させることにより、血液回路内に残った空気をさらに除去することができる。そのため、より安全な施術が可能となる。
さらに好ましくは、前記循環ラインは、前記流入ラインおよび前記排出ラインから取り外し可能な接続部を有する。
このように、循環ラインは取り外し可能な接続部を有する。そのため、施術時に循環ラインを取り外し、取り外した箇所に患者と接続するため針などを一端に有するラインを取り付けることができる。したがって、循環ラインが取り外し可能な接続部を有することにより、プライミングが完了してから施術を開始するまでに必要な作業を容易にすることが可能となる。
さらに、一端が取り外し可能に前記循環ラインに接続され、前記脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および前記返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させ、前記循環ラインから取り外された場合に抗凝固剤を注入する抗凝固剤注入装置に取り付け可能であるバイパスラインを備える。
このように、一端が取り外し可能に前記循環ラインに接続され、前記循環ラインから取り外された場合に抗凝固剤を注入する抗凝固剤注入装置に取り付け可能であるバイパスラインを備える。これにより、プライミングが完了してから施術を開始するまでに必要な作業を容易にすることが可能となる。
また、バイパスラインは、前記脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および前記返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させる。このようにバイパスラインが接続されることにより、ろ過器の出入口にかかる差圧をバイパスラインがない場合より低くすることができる。そのため、ろ過器内部中空糸膜に過剰な圧力がかかることを防止することができ、過剰な圧力によりろ過器の機能を損なうことを防止することができる。したがって、ろ過器の機能を損なうことなくプライミングができ、安全な施術のためのプライミングを自動的に実行することが可能となる。
本発明に係る血液回路によると、回路内の洗浄と空気の除去を確実にするプライミングが可能になる。また、プライミングのために操作者に要求される操作を簡単にすることが可能になる。したがって、手軽なプライミング操作によって、確実なプライミングをすることが可能になる。
本発明に係る血液浄化回路は、血液浄化制御装置に取り付けられる。血液浄化制御装置は、センサなどから得られる情報に基づき、予め定められた規則に従って、ポンプやバルブを制御する。患者の血液および給液は、血液浄化制御装置の制御に従って、血液浄化回路の中を流れる。これにより、血液は浄化される。
まず、血液浄化制御装置の構成について、図を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る血液浄化制御装置の構成を示すブロック図である。
本実施の形態に係る血液浄化制御装置10は、プライミングを自動的に実行するための制御をする装置である。また、血液浄化制御装置10は、複数の動作方法(動作モード)による患者の血液浄化を制御する装置でもある。本実施の形態では、動作モードとして、自動プライミングモードと、CHD(Continuous Hemodialysis)モードと、CHDF(Continuous Hemodiafiltration)モードと、CHF(Continuous Hemofiltration)モードと、ECUM(Extra Corporeal Ultrafiltration Method)モードを備えるとする。
血液浄化制御装置10は、入力部12と、表示部14と、モード受付部16と、血液ポンプ20と、透析ポンプ22と、ろ液ポンプ24と、補液ポンプ26と、給液バルブ30と、ろ液バルブ32と、返血バルブ34と、プライミング液排出バルブ36と、ろ液圧センサ40と、脱血圧センサ42と、流入圧センサ44と、排出圧センサ46と、制御方法記憶部48と、制御部49とを備える。
入力部12は、血液浄化制御装置10の操作者が、血液浄化制御装置の動作モードを入力する。
表示部14は、操作者に情報を提示し、例えば、モニタ画面などである。
モード受付部16は、入力部12に入力された動作モードを示す情報を受け付ける。
血液ポンプ20は、患者から血液を取り出すための圧力をかけるポンプである。血液ポンプ20は、施術時に回路内の液体を流動させる方向(以下、このようなポンプの加圧方向を「順方向」という。)だけでなく、それとは逆の方向(以下、このようなポンプの加圧方向を「逆方向」という。)に圧力をかけることもできる。
透析ポンプ22は、透析液を流動させるための圧力をかけるポンプである。
ろ液ポンプ24は、ろ液を流動させるための圧力をかけるポンプである。
補液ポンプ26は、補液を流動させるための圧力をかけるポンプである。
給液バルブ30は、給液の供給量の調整および供給の停止をするバルブである。
ろ液バルブ32は、ろ液の排出量の調整および排出の停止をするバルブである。
返血バルブ34は、ろ過器から排出された血液の患者への返血量の調整および返血の停止をするバルブである。
プライミング液排出バルブ36は、プライミング液を排出するために利用され、補液を急速に補う必要が生じた場合の急速補液バルブとしても利用が出来る。
ろ液圧センサ40は、ろ液が流れるラインの圧力を測定するセンサである。
脱血圧センサ42と流入圧センサ44とは、血液ポンプ20の働きによって患者から取り出された、浄化前の血液が流れる圧力を測定するセンサである。脱血圧センサ42は血液ポンプ20より患者側にあるラインを流れる血液の圧力を測定し、流入圧センサ44は血液ポンプ20よりろ過器側にあるラインを流れる血液の圧力を測定する。
排出圧センサ46は、ろ過器56から排出される血液の圧力を測定するセンサである。
制御方法記憶部48は、血液浄化制御装置10が提供する動作モードの制御方法に関する情報を記憶している。本実施の形態の制御方法記憶部48は、自動プライミングモード情報48aと、CHDモード情報48bと、CHDFモード情報48cと、CHFモード情報48dとを記憶している記憶媒体である。
自動プライミングモード情報48aは、血液浄化制御装置10が自動的にプライミングする際に、ポンプやバルブを制御する方法を含む情報である。
CHDモード情報48bと、CHDFモード48c情報と、CHFモード情報48dとは、各血液浄化方法により血液を浄化するために、ポンプやバルブを制御する方法を含む情報である。CHDモード情報48bは持続緩除式血液透析(CHD)を施術する場合の制御方法を含む情報であり、CHDFモード48c情報は持続緩除式透析ろ過(CHDF)を施術する場合の制御方法を含む情報であり、CHFモード情報48dは持続緩除式血液ろ過(CHF)を施術する場合の制御方法を含む情報である。
制御部49は、モード受付部16が受け付けた動作モードに対応する情報を制御方法記憶部48から読み出し、読み出した情報に基づいて、圧力センサや図示しない各センサから取得した情報を参照し、各ポンプおよび各バルブを制御する。
次に、このような複数の血液浄化方法を実行できる血液浄化制御装置10に取り付けられる回路の構成について、図を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係るプライミング時の血液浄化回路の構成と、血液浄化制御装置のポンプ、バルブおよび圧力センサの位置関係を示す図である。
プライミング時の血液浄化回路は、第1給液パック50と、第2給液パック52と、ろ液パック54と、ろ過器56と、返血チャンバ58と、リサーキュレーション・チャンバ60と、給液分岐管62と、急速補液分岐管64と、抗凝固分岐管66と、脱血側継ぎ手68aと、脱血側継ぎ手68bと、返血側継ぎ手70aと、返血側継ぎ手70bと、第1給液ライン72と、第2給液ライン74と、透析液ライン76と、ろ液ライン78と、廃液ライン80と、補液ライン82と、第1脱血ライン84と、プライミング液排出(急速補液ライン)86と、第2脱血ライン88と、第3脱血ライン89と、抗凝固剤(バイパス)ライン90と、第1返血ライン92と、第2返血ライン94と、第1循環ライン96と、第2循環ライン98とを備える。
本図では、血液浄化制御装置10が備える各ポンプ、各バルブ、および各センサの血液浄化回路での位置関係を説明するため、血液ポンプ20と、透析ポンプ22と、ろ液ポンプ24と、補液ポンプ26と、給液バルブ30と、ろ液バルブ32と、返血バルブ34と、プライミング液排出バルブ36と、ろ液圧センサ40と、脱血圧センサ42と、流入圧センサ44と、排出圧センサ46とを併せて示している。これら血液浄化制御装置10が備える各部については、図1を参照して説明したため、ここでは説明を省略する。
第1給液パック50は、給液が最初に蓄えられている容器である。
第2給液パック52は、第1給液パック50から供給された給液が蓄えられる容器である。
ろ液パック54は、血液浄化後の透析液であるろ液が蓄えられる容器である。
本実施の形態では、プライミング液と補液と透析液として、同じ液体が使用される。第1給液パック50から供給された給液は、第2給液パック52に一旦蓄えられた後に、他の血液浄化回路に供給される。そして、血液浄化中には、第2給液パック52に蓄えられている給液が補液および透析液として利用され、また、血液浄化後のろ液は、ろ液パック54に蓄えられる。
これにより、例えば、第2給液パック52の給液の重量と、ろ液パック54の重量とを計測することにより、血液浄化の進行状況や、補液として患者の体内に取り込まれた量を把握することができ、適切な施術のための制御が可能となる。また、制御部49がこれらの計測結果を取得することにより、血液浄化の進行状況や補液として患者の体内に取り込まれた量に基づく自動制御を実現することが可能となる。
ろ過器56は、血液を浄化する器具である。本図に示すろ過器56では、円筒の上部に設けられている血液入口から血液が流入し、円筒の下部に設けられている血液出口から血液が排出される。また、円筒横の下部に設けられている透析液入口から透析液が流入し、円筒横の上部に設けられている透析液出口から血液を浄化した後の透析液、すなわち、ろ液が排出される。
本図では、ろ過器56中の点線の内部は血液の流路である中空糸の内部を、点線の外側は透析液の流路である中空糸の外部を、それぞれ模式的に示す。ろ過器56の点線の内部は血液回路の一部であり、血液入口から血液出口の方向が順方向となる。また、ろ過器56の点線の外部は給液回路の一部であり、透析液入口から透析液出口の方向が順方向となる。
返血チャンバ58は、ろ過器56側から排出される血液中の気泡や異物をトラップするとともに、返血に補液が混入される部位である。すなわち、返血チャンバ58は、ろ過器56から排出される血液中の気泡をトラップする「第2のチャンバ」の一例である。
リサーキュレーション・チャンバ60は、リサーキュレーション時に、プライミング後に血液回路中に残存している気泡をトラップするチャンバであり、血液浄化時には取り付けられていない。ここで、「リサーキュレーション」とは、血液浄化回路へのプライミング液の充填が完了してから、患者に施術するまでの間に、血液回路中にプライミング液を循環させることをいう。
これらのチャンバは、構造上、順方向に流れる液体中の気泡はトラップするが、逆方向ではトラップできない。したがって、逆方向に流体を流すことにより、チャンバをプライミングすることができる。
給液分岐管62は、給液を、透析液と補液とに分離するための分岐管である。急速補液分岐管64は、患者から取り出した血液に、急速に補液などを混入させるための分岐管である。抗凝固分岐管66は、患者から取り出した血液に抗凝固剤を混入させるための分岐管である。
脱血側継ぎ手68aと脱血側継ぎ手68bとは、着脱可能な継ぎ手部材である。プライミング時には、本図に示すように、脱血側継ぎ手68aと脱血側継ぎ手68bとが繋がれる。
施術時には、脱血側継ぎ手68aと脱血側継ぎ手68bとは切り離される。そして、施術時の脱血側継ぎ手68aには、脱血側継ぎ手68bに代えて、患者から血液を取り出すための器具が取り付けられる。脱血側継ぎ手68aに取り付けられる器具の一例として、患者に穿刺される針がある。患者の血液は、針のような器具を通して、血液浄化回路に取り込まれる。
返血側継ぎ手70aと返血側継ぎ手70bとは、着脱可能な継ぎ手部材である。プライミング時には、本図に示すように、返血側継ぎ手70aと返血側継ぎ手70bとが繋がれる。
施術時には、返血側継ぎ手70aと返血側継ぎ手70bとは、切り離される。そして、施術時の返血側継ぎ手70aには、返血側継ぎ手70bに代えて、患者の体内に血液を戻すための器具が取り付けられる。返血側継ぎ手70aに取り付けられる器具の一例として、患者に穿刺される針がある。浄化された血液は、その針を通して、患者の体内に戻される。
このように、脱血側継ぎ手68aと返血側継ぎ手70aとには、施術時とプライミング時とで取り付けられる器具が異なる。そのため、脱血側継ぎ手68aは、脱血側継ぎ手68bと、患者から血液を取り出すための器具とをともに着脱可能な形状をしている。また、返血側継ぎ手70bは、返血側継ぎ手70aと、患者の体内に血液を戻すための器具とをともに着脱可能な形状をしている。
このような形状をしている脱血側継ぎ手68aと返血側継ぎ手70aとを備えることにより、血液浄化制御装置および血液浄化回路の操作者は、プライミング後のリサーキュレーションから、施術へ容易に移行することが可能になる。
第1給液ライン72は、施術中に、第1給液パック50から第2給液パック52の方向に、給液を流すラインである。また、第1給液ライン72は、途中に、給液バルブ30が取り付けられる部位である給液バルブ取付部を有する。給液バルブ取付部には、本図に示すように、給液バルブ30が取り付けられる。
第2給液ライン74は、施術中に、第2給液パック52から給液分岐管62の方向に給液を流すラインである。
透析液ライン76は、施術中に、給液分岐管62からろ過器56の透析液入口の方向に、透析液を流すラインである。また、透析液ライン76は、途中に、透析ポンプ22が取り付けられる部位である透析ポンプ取付部を有する。透析ポンプ取付部には、本図に示すように、透析ポンプ22が取り付けられる。
ろ液ライン78は、ろ過器56の透析液出口からろ液パック54の方向に、ろ液を流すラインである。また、ろ液ライン78は、途中に、ろ液ポンプ24が取り付けられる部位であるろ液ポンプ取付部を有する。ろ液ポンプ取付部には、本図に示すように、ろ液ポンプ24が取り付けられる。
廃液ライン80は、施術によりろ液パック54に蓄えられたろ液を廃棄するラインである。また、廃液ライン80は、途中に、ろ液バルブ32が取り付けられる部位であるろ液バルブ取付部を有する。ろ液バルブ取付部には、本図に示すように、ろ液バルブ32が取り付けられる。
ろ液バルブ32は、計量時に、閉められており、廃液ライン80にろ液は流れない。計量後に、ろ液バルブ32が開けられ、ろ液パック54から開放端の方向に、ろ液が流れる。このろ液が流れる方向を、廃液ライン80の「順方向」とする。
補液ライン82は、施術中に、給液分岐管62から返血チャンバ58の方向に、補液を流すラインである。すなわち、補液ライン82は、血液回路外から、返血ラインに注液するための連絡ラインの一例である。このように、返血ラインに注液する補液ライン82を備えることにより、ろ過器56を施術時に異なる位置に配置または変更しなくてもすむ。
また、補液ライン82は、途中に、補液ポンプ26を取り付ける部位である補液ポンプ取付部を有する。本図に示すように、補液ポンプ取付部には補液ポンプ26が取り付けられる。
第1脱血ライン84は、施術中に、脱血側継ぎ手68aから抗凝固分岐管66の方向に、浄化前の血液が流れるラインである。
プライミング液排出(急速補液)ライン86は、開放された排出口を一端に有し、プライミング時に、回路中の空気およびプライミング液を排出口から排出するラインである。プライミング液排出(急速補液)ライン86は、施術中に、浄化中の血液に急速に補液を補う必要があるときに、その補液を流すラインでもある。すなわち、施術時には、急速補充用の補液パック(図示しない)と、急速補液分岐管64とをつなぐラインである。補液パック(図示しない)から急速補液分岐管64の方向に、補液が流れる。プライミング時には、プライミング液の廃棄ラインとなり、一端は急速補液分岐管64に繋がれ、他端は開放されている。
また、プライミング液排出(急速補液)ライン86は、途中に、プライミング液排出バルブ36を取り付ける部位であるプライミング液排出バルブ取付部を有する。本図に示すように、プライミング液排出バルブ取付部にはプライミング液排出バルブ36が取り付けられる。
第2脱血ライン88は、施術中に、急速補液分岐管64から抗凝固分岐管66の方向に、浄化前の血液を流すラインである。また、第2脱血ライン88は、途中に、血液ポンプ20が取り付けられる部位である血液ポンプ取付部を有する。血液ポンプ取付部には、本図に示すように、血液ポンプ20が取り付けられる。
第3脱血ライン89は、施術中に、抗凝固分岐管66からろ過器56の血液入口の方向に、浄化前の血液を流すラインである。
すなわち、第1脱血ライン84、急速補液分岐管64、第2脱血ライン88、抗凝固分岐管66、および、第3脱血ライン89は、一端がろ過器56の血液入口に接続するラインである「脱血ライン」の一例である。
抗凝固剤(バイパス)ライン90は、プライミング時に、ろ過器56に過剰な圧力がかかることを防止するように、ろ過器56の血液入口側に接続されるラインとろ過器56の血液出口側に接続されるラインとを短絡するラインである。
すなわち、抗凝固剤(バイパス)ライン90は、脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させる「バイパスライン」の一例である。
ろ過器56を流すプライミング液の流量を、ポンプの稼動を制御しても、実際には、ろ過器56には過剰な圧力がかかる。そこで、プライミング時に、流路抵抗が大きいラインで血液回路を短絡させるバイパスにより、ろ過器56に過剰な圧力がかかることを防止することができる。このような流路抵抗の大きいラインは、他のラインを形成する管よりも、その径が細い管により実現できる。
このような抗凝固剤(バイパス)ライン90は、施術中には、一端に取り付けられた抗凝固剤注入装置(図示しない)から抗凝固分岐管66に、抗凝固剤を流すラインとなる。具体的には、施術時に取り付けられる抗凝固剤注入装置は、プライミング時に、リサーキュレーション・チャンバ60の流出側に取り付けられる抗凝固剤(バイパス)ライン90の一端に、取り付けられる。
ここで、抗凝固剤注入装置とは、血液回路に抗凝固剤を注入する装置であり、具体的には、ヘパリン添加溶液を収容されたシリンジや、そのシリンジのセットされたシリンジ・ポンプなどである。
一般に、抗凝固剤を投入するためのラインは、血液や給液が流れるラインを形成する管に比べて、その内径が3分の1程度の管により形成される。そのため、プライミング時のバイパスラインは、施術時の抗凝固剤(バイパス)ラインとして利用することができる。したがって、血液浄化時に抗凝固剤を投入するための新たなラインを追加するなど、血液浄化回路をさらに複雑にすることなく、ろ過器56のプライミングを効率的にすることが可能になる。
第1返血ライン92は、施術中に、ろ過器56の血液出口から返血チャンバ58の流入口に、血液を流すラインである。
第2返血ライン94は、施術中に、返血チャンバ58の排出口から返血側継ぎ手70aの方向に、血液を流すラインである。また、第2返血ライン94は、途中に、返血バルブ34が取り付けられる部位である返血バルブ取付部を有する。返血バルブ取付部には、本図に示すように、返血バルブ34が取り付けられる。
すなわち、第1返血ライン92、返血チャンバ58、および、第2返血ライン94は、一端がろ過器56の血液出口に接続される「返血ライン」の一例である。
第1循環ライン96は、プライミング時に、脱血側継ぎ手68bからリサーキュレーション・チャンバ60の流入口の方向に、プライミング液を流すラインである。血液浄化時には抜去される部位である。第1循環ライン96については、脱血側継ぎ手68bからリサーキュレーション・チャンバ60の流入口の方向を、順方向とする。
第2循環ライン98は、プライミング時に、リサーキュレーション・チャンバ60の排出口から返血側継ぎ手70bの方向に、プライミング液を流すラインである。第2循環ライン98も、血液浄化時には抜去される部位である。第2循環ライン98については、リサーキュレーション・チャンバ60の排出口から返血側継ぎ手70bの方向を、順方向とする。
これまでに説明した本実施の形態の血液浄化回路では、血液回路は、脱血側継ぎ手68aと、第1脱血ライン84と、急速補液分岐管64と、プライミング液排出(急速補液)ライン86と、第2脱血ライン88と、抗凝固分岐管66と、抗凝固剤(バイパス)ライン90と、第3脱血ライン89と、ろ過器56の内側と、第1返血ライン92と、返血チャンバ58と、第2返血ライン94と、返血側継ぎ手70aとから、構成される。
また、給液回路は、第1給液パック50と、第1給液ライン72と、第2給液パック52と、第2給液ライン74と、補液ライン82と、透析液ライン76と、ろ過器56の外側と、ろ液ライン78と、ろ液パック54と、廃液ライン80とから、構成される。
さらに、循環回路は、脱血側継ぎ手68bと、第1循環ライン96と、リサーキュレーション・チャンバ60と、第2循環ライン98と、返血側継ぎ手70bとから、構成される。
すなわち、循環回路は、一端が脱血ラインの他端に接続され、他端が返血ラインに接続される「循環ライン」の一例である。また、リサーキュレーション・チャンバ60は、脱血ラインから返血ラインへ流れるプライミング液中の気泡をトラップする方向で取り付けられる「第1のチャンバ」の一例である。
循環回路は、血液浄化時には取り付けられていない回路である。そのため、循環回路を構成する各ラインについては、プライミング液が流れる方向を、順方向とする。
また、本図に示す、廃液タンク100と、廃液タンク102とは、プライミング時に、回路の開放端から流出するプライミング液を溜めるタンクである。
以上が、本実施の形態に係る血液浄化回路の構成である。
このように、複雑な回路をプライミングするには、その手順も複雑になる。そのため、マニュアル操作でプライミングすると、手間がかかるだけでなく、操作ミスの危険がある。自動プライミングモードを備えることによって、操作者の手間や操作ミスの危険を抑えることができ、安全な血液浄化のためのプライミングを確実に実行することが可能になる。
このような、自動プライミングの手順について、図3から図16までを参照して、説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係るプライミング時の血液浄化回路の構成と、血液浄化制御装置10のポンプ、バルブおよび圧力センサの位置関係を、簡略化して示す図である。本図の矢印は、各ラインの順方向を示す。
本図では、図2に示した圧力センサを省略している。また、本図では、図2と対応する各部位について同一の番号を付している。そのため、各部位に関する、ここでの説明は省略する。また、リサーキュレーション・チャンバ60は、本図では図を簡単にするため横向きに置かれているが、実際には、リサーキュレーション・チャンバ60の流入口側(第1循環ライン96に接続されている側)が鉛直上方となるように、血液浄化制御装置10に取り付けられる。
図4は、本実施の形態において、自動プライミングモードが選択された場合に、血液浄化制御装置10が実行する自動プライミングの手順を示す図である。本図は、操作者によって入力部12に入力された自動プライミングモードの選択を、血液浄化制御装置10のモード受付部16が受け付けた場合に、制御方法記憶部48から自動プライミングモード情報48aを読み出し、読み出した自動プライミングモード情報48aを実行する制御部49が、血液浄化制御装置10が備える各ポンプおよび各バルブを制御する手順を示す。
また、図5は、本実施の形態のプライミング時の各手順での回路の状態をまとめて示す図である。さらに、図6から図15までは、プライミング時の各手順での回路の状態を示す回路構成図である。
以下、図4に示す各手順について説明するとともに、各手順での回路の状態を、対応する図とともに説明する。
初期状態において、血液浄化制御装置10には、図2および図3に示すような状態で血液浄化回路が取り付けられており、プライミング液は第1給液パック50のみに蓄えられていることとする。また、図5の初期状態に示すように、血液浄化制御装置10のすべてのポンプの稼動が停止し、すべてのバルブが開放していることとする。
制御部49は、給液バルブ30と、返血バルブ34を開く(S1)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態1となり、第1給液ライン72と、第2給液パック52とにプライミング液(以下、プライミングの手順の説明では、単に「液体」という。)が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図6に示す状態になる。
ここで、図6は、本実施の形態に係る血液浄化回路のプライミング時の状態のうち、状態1を示す図である。図6において、回路構成中にハッチングが施されている部分は、液体が充填されていること、すなわちプライミングされた部分を示す。また、ハッチングが施されていない部分は、液体が未だ充填されていないこと、すなわちプライミングされていない部分を示す。また、図6において、ハッチングが施されているバルブは閉じた状態であることを示し、ハッチングが施されていないバルブは開いた状態であることを示す。
回路およびバルブに施されているハッチングは、図7から図15までについても、同様の状態を示す。そのため、各図でのこれらのハッチングに関する説明は省略する。
さらに、図6においては、すべてのポンプにハッチングが施されていない。これは、すべてのポンプが停止していることを示す。図7から図15までについても、同様に、停止しているポンプにはハッチングが施されておらず、稼動しているポンプにはハッチングが施されている。ポンプのハッチングに関してはここで説明したため、各図での説明は省略する。
ここから、図4に戻る。
制御部49は、透析ポンプ22を稼動させる(S2)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態2となり、第2給液ライン74と、透析液ライン76と、ろ過器56の外側(給液回路を構成する部分)とに液体が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図7に示す状態になる。
制御部49は、ろ液ポンプ24を稼動する(S3)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態3となり、ろ液ライン78に液体が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図8に示す状態になる。
制御部49は、透析ポンプ22とろ液ポンプ24を停止させ、補液ポンプ26を稼動させ、給液バルブ30を閉める(S4)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態4となり、補液ライン82に液体が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図9に示す状態になる。
以上で、ろ液パック54を除く、給液回路にプライミング液が充填される。続けて、血液回路のプライミングが開始される。
補液ライン82に液体が充填され、返血チャンバ58の給液の流入口にまで液体が到達すると、制御部49は、プライミング液排出バルブ36を開く(S5)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態5となり、第2返血ライン94と、第2循環ライン98と、リサーキュレーション・チャンバ60と、第1循環ライン96と、第1脱血ライン84と、プライミング液排出(急速補液)ライン86とに液体が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図10に示す状態になる。ここで、返血チャンバ58には順方向に液体が流れるため、この時点で返血チャンバ58に液体が流れ込むものの、チャンバ58には、空気が残っている。
制御部49は、血液ポンプ20を血液浄化時とは逆方向に稼動させ、返血バルブ34を閉める(S6)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態6となり、返血チャンバ58と、第1返血ライン92と、ろ過器56の内側(血液回路を構成する部分)と、第3脱血ライン89と、第2脱血ライン88とに液体が充填される。具体的な血液浄化回路の状態は、図11に示す状態になる。
図11に示すように、返血チャンバ58の排出口に接続されているラインである第2返血ライン94の途中に設けられている返血バルブ34を閉じることにより、補液ライン82から流れ込むプライミング液は返血チャンバ58の鉛直下方から全体に充填される。そのため、返血チャンバ58内の気泡を第1返血ライン92に流出させることが可能となる。また、このように設けられている返血バルブ34を閉じることにより、ろ過器56の内側に液体を逆方向に流すことが可能となる。
また、血液ポンプ20は第3脱血ライン89の流量を調整し、補液ポンプ26は第1返血ライン92の流量を調整する。第3脱血ライン89の流量と、第1返血ライン92の流量とが同一であれば、ろ過器56の内側を流れる液体にかかる圧力を抑えることができるが、実際にはポンプによる圧力の誤差やムラなどのため、両者の流量をポンプの制御のみによって同じにすることは困難である。そのため、抗凝固剤(バイパス)ライン90が無い場合には、第3脱血ライン89の流量と、第1返血ライン92の流量との差のためにろ過器56にかかる過剰な圧力がかかる。抗凝固剤(バイパス)ライン90はそのような圧力を逃がすことができる。
したがって、液体のバイパスラインとなる抗凝固剤(バイパス)ライン90によって、ろ過器56にかかる圧力を低下させることができる。そのため、ろ過器56の内側(血液回路部分)をより確実にプライミングすることが可能になる。
ここから、図4の説明に戻る。
廃液タンク102に液体が廃棄された後に、制御部49は、血液ポンプ20を停止させる(S7)。これにより、血液浄化回路の状態は、図5に示す状態7となり、抗凝固剤(バイパス)ライン90に液体が充填される。すなわち、抗凝固剤(バイパス)ライン90が確実にプライミングされる。具体的な血液浄化回路の状態は、図12に示す状態になる。
以上で、血液回路のすべてにプライミング液が充填される。続けて、給液回路の中で、プライミングが未完了であるろ液パック54のプライミングを開始する。
制御部49は、補液ポンプ26を停止させ、透析ポンプ22とろ液ポンプ24を稼動させ、返血バルブ34を開き、プライミング液排出バルブ36を閉める(S8)。これにより、血液浄化回路の状態は、図13に示す状態8となり、ろ液パック54に液体が充填される。
以上で、血液浄化回路のすべてにプライミング液が充填される。
制御部49は、透析ポンプ22とろ液ポンプ24を停止させ、ろ液バルブ32を開く(S9)。これにより、血液浄化回路の状態は、図14に示す状態9となり、ろ液パック54に液体が充填された液体の一部が廃液タンク100に廃棄される。
施術時の血液浄化制御装置10は、第2給液パック重量とろ液パック54の重量とにより、浄化された血液の量を測定する。このように、ろ液パック54の液体の一部を廃棄することにより、第2給液パック52の重量とろ液パック54の重量とのバランスが調整されるため、施術中のより正確な血液浄化量の計測が可能となる。
このように、本実施の形態の血液浄化回路では、血液回路および循環回路だけでなく、給液回路にも一連の手順において、プライミング液を充填させることができる。さらに、一連の手順において、自動的に、第2給液パック52の重量とろ液パック54の重量とのバランスが調整されるため、施術の準備のために操作者に要求される操作の負担をかけることなく、安全な施術のための準備をすることが可能となる。
制御部49は、血液ポンプ20を稼動させる(S10)。これにより、血液回路内にプライミング液を循環させることにより、血液回路内に残存している空気を除くリサーキュレーションが行われる。
図15は、リサーキュレーション時の、本実施の形態に係る血液回路内のプライミング液の流れを示す図である。図15に示すように、本実施の形態に係る血液回路内をプライミング液が循環することにより、回路内に残存している空気、または施術前に回路内に発生した空気(気泡)は、リサーキュレーション・チャンバ60にトラップされる。このような、リサーキュレーションは施術開始まで継続される。
本発明の血液浄化回路は、プライミングする際に血液回路を循環構造とするための循環回路に、リサーキュレーション・チャンバを備える。このような血液浄化回路を取り付けた状態で、リサーキュレーション、すなわち、血液回路内にプライミング液を循環させることにより、プライミング後になお血液回路内に残存している空気をリサーキュレーション・チャンバにおいて捕捉し、収集することができる。そして、リサーキュレーション・チャンバを含む循環回路は、施術時には血液回路から取り外され廃棄されるため、リサーキュレーション・チャンバに収集された空気は、循環回路とともに廃棄される。
したがって、循環回路にリサーキュレーション・チャンバを設けるだけで、プライミングおよび施術という血液浄化に関連する一連の作業手順に、新たな手順を追加することなく、血液回路に残存している空気を除去することができる。したがって、操作者に負担をかけることなく、血液回路中の空気の除去をより確実にすることが可能となる。
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、実施の形態では、バイパスラインである抗凝固剤(バイパス)ライン90は、ろ過器56にかかる圧力を低減させるため、脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させるラインの一例として、ろ過器56の血液入口と血液ポンプ20との間に位置する抗凝固分岐管66と、リサーキュレーション・チャンバ60の排出口とをつなぐこととした。
ろ過器56にかかる圧力を低減させるには、バイパスラインの一端が、血液ポンプ20および補液ポンプ26によってろ過器56にかかる圧力を他のラインに逃がせばよい。ただし、バイパスラインは、リサーキュレーション時に空気が逆流しないように取り付けられる。
血液回路と循環回路とにより形成される環状の回路は、返血バルブ34と血液ポンプ20とにより、補液ライン82が接続される高圧側のラインと、急速補液ラインが接続される低圧側のラインとに分かれる。バイパスラインは、このような高圧側のラインと低圧側のラインとに接続される。
すなわち、脱血ラインを流れるプライミング液の圧力および返血ラインを流れるプライミング液の圧力の差を低減させるラインとは、一端が、血液ポンプ取付部とろ過器56の血液入口との間、ろ過器56の血液出口と返血バルブ取付部との間(返血チャンバ58を含む)、補液ポンプ26と返血チャンバ58との間に接続し、他端が、脱血ラインの血液ポンプ20より上流側のライン、又は返血ラインの返血バルブ34より下流側のラインのいずれかの部位に接続されれば良い。
より具体的には、第1に、バイパスラインの一端が、血液ポンプ取付部とろ過器56の血液入口との間に接続する場合に、他端が、血液ポンプ取付部と脱血側継ぎ手68aとの間に接続し、または循環ラインに接続し、または返血バルブ取付部と返血側継ぎ手70aとの間に接続し、またはプライミング液排出(急速補液)ライン86に接続する。本発明の実施の形態は、この場合に、他端が、循環ラインに接続する一例である。
第2に、バイパスラインの一端が、ろ過器56の血液出口と返血バルブ取付部との間(返血チャンバ58を含む)に接続し、他端が、血液ポンプ取付部と脱血側継ぎ手68aとの間に接続し、または循環ラインに接続し、または返血バルブ取付部と返血側継ぎ手70aとの間、またはプライミング液排出(急速補液)ライン86に接続する。
例えば、図16は、本発明の一変形例に係る血液浄化回路の構成を示す図であり、図16に示す抗凝固剤(バイパス)ライン106は、返血チャンバ58の流入口と、第1脱血ライン84とをつなぐ。本変形例は、第2の場合に、他端が、血液ポンプ取付部と脱血側継ぎ手68aとの間に接続する一例である。
第3に、バイパスラインの一端が、補液ポンプ26と返血チャンバ58との間に接続し、他端が、血液ポンプ取付部と脱血側継ぎ手68aとの間に接続し、循環ラインに接続し、排出バルブ取付部と返血側継ぎ手70aとの間に接続し、または、プライミング液排出(急速補液)ライン86に接続する場合がある。
このようなバイパスラインは、施術中に抗凝固剤を投入するためのラインとして転用できるため、抗凝固剤の投入にふさわしい箇所を、その一端に選択すればよい。このような回路構成によって、プライミング時にろ過器56にかかる圧力を低減させることが可能となり、さらに、バイパスラインを抗凝固剤ラインとして転用することが可能となる。 バイパスラインの他端が接続するラインは、取り外しが容易な位置またはプライミング液排出(急速補液)ライン86の排出口から離れた位置が好ましい。
取り外しが容易な位置の例がチャンバである。バイパスラインの他端は、プライミングとリサーキュレーションの後に抗凝固剤注入装置を取り付けるために、ラインから取り外される。そのため、取り外しが容易な位置に接続することにより、施術までの作業を容易にすることができる。
また、液排出(急速補液)ライン86の開放端から離れた位置の例としては、プライミング液排出(急速補液)ライン86以外の血液回路、すなわち、血液ポンプ取付部と脱血側継ぎ手68aとの間、循環ラインの途中、返血バルブ取付部と返血側継ぎ手70aとの間が挙げられる。
プライミング時、バイパスラインを通ったプライミング液は血液回路の一部を通った後にプライミング液排出(急速補液)ライン86を通って回路から排出される。そのため、バイパスラインを通ったプライミング液は、血液回路との接続口からプライミング液排出(急速補液)ライン86の開放端までを形成するラインのプライミングに利用される。したがって、プライミング液排出(急速補液)ライン86の開放端から離れた位置とすることにより、プライミング液をより長いラインのプライミングに利用することができ、プライミング液を有効に利用することができる。