ところで、上記制御装置では、回転角度の算出に際してノイズに対する耐性が低くなるおそれがあることが発明者らによって見出されている。このため、3相電動機の回転速度が一定であるときであっても、回転角度の算出値の誤差相当量が振動する現象等が生じるおそれがある。これに対し、回転角度の算出に際してフィルタ処理を施すことでこうした問題を回避することも考えられるが、この場合、回転角度や回転速度を算出する際の応答性が低下するおそれがある。このように、回転角度の算出に関しては、ノイズに対する耐性を向上させることと応答性を高めることとの両立が課題となっている。
更に、上記制御装置では、回転速度が急激に変化する際、算出される回転角度に定常偏差が生じることも発明者らによって見出されている。
なお、上記制御装置に限らず、インバータのスイッチング素子を操作することで回転機を駆動するに際し、前記回転機の電気的な状態量に基づき前記回転機の回転角度に関する情報を取得するものにあっては、上記課題が生じ得る。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転機の電気的な状態量に基づき前記回転機の回転角度に関する情報を取得するに際し、ノイズに対する耐性の向上と応答性の向上との好適な両立を図ることのできる回転機の制御装置を提供することにある。また、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回転速度の急激な変化時においても、算出される回転角度に定常偏差が生じることを好適に抑制又は回避することのできる回転機の制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明は、前記電気的な状態量に基づき、現在取得されている回転角度についての誤差相当量を算出する誤差相当量算出手段と、前記誤差相当量に基づき前記回転機の回転角度を算出する高応答角度算出手段と、該高応答角度算出手段よりもノイズ除去の度合いの強い処理によって、前記誤差相当量に基づき前記回転機の回転角度を算出する耐ノイズ角度算出手段と、前記回転機を駆動するために用いる回転角度として、前記耐ノイズ角度算出手段の出力及び前記高応答角度算出手段の出力のいずれを用いるかを切り替える切替手段とを備えることを特徴とする。
ノイズ除去の度合いの強い処理によって回転角度を算出する場合、回転角度の算出に際しての応答性が低下する。一方、ノイズ除去の度合いの弱い処理によって回転角度を算出する場合、応答性は向上するものの、ノイズに対する耐性が低下する。この点、上記発明では、耐ノイズ角度算出手段と高応答角度算出手段とを備えて状況に応じていずれを用いるかを切り替えることで、ノイズに対する耐性の向上と応答性の向上との好適な両立を図ることができる。
請求項2記載の発明は、前記電気的な状態量に基づき、現在取得されている回転角度についての誤差相当量を算出する誤差相当量算出手段と、フィルタ手段を備えて且つ前記誤差相当量に基づき前記回転機の回転角度を算出する耐ノイズ角度算出手段と、前記誤差相当量に基づき、フィルタ手段を備えることなく前記回転機の回転角度を算出する高応答角度算出手段と、前記回転機を駆動するために用いる回転角度として、前記耐ノイズ角度算出手段の出力及び前記高応答角度算出手段の出力のいずれを用いるかを切り替える切替手段とを備えることを特徴とする。
フィルタ手段を備えて回転角度を算出する場合、ノイズに対する耐性は向上するものの、回転角度の算出に際しての応答性が低下する。一方、フィルタ手段を備えることなく回転角度を算出する場合、応答性は向上するものの、ノイズに対する耐性が低下する。この点、上記発明では、耐ノイズ角度算出手段と高応答角度算出手段とを備えて状況に応じていずれを用いるかを切り替えることで、ノイズに対する耐性の向上と応答性の向上との好適な両立を図ることができる。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記高応答角度算出手段は、前記誤差相当量を入力とする多重積分演算に基づき回転速度及びその相当値のいずれかを算出する速度算出手段と、該速度算出手段の出力の積分演算に基づき前記回転角度を算出する手段とを備えることを特徴とする。
上記発明では、誤差相当量及び回転角度を入出力とする伝達関数が3次以上の伝達関数となる。このため、回転速度がランプ状に変化する場合であっても、回転角度に定常偏差が生じることを回避することができる。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記高応答角度算出手段は、前記積分演算に基づき算出される回転角度を前記誤差相当量に基づき補正する補正手段を更に備えることを特徴とする。
上記発明では、補正手段を備えることで、安定性と応答性とを個別に設計することが可能となる等、制御の設計の自由度を向上させることができる。
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記耐ノイズ角度算出手段は、前記耐ノイズ角度算出手段の出力する回転角度の微分演算及びフィルタ処理によって前記回転機の回転速度及びその相当値のいずれかを算出する速度算出手段と、前記誤差相当量に基づき前記速度算出手段の出力を補正する補正手段と、該補正された出力の積分演算に基づき前記耐ノイズ角度算出手段の出力としての回転角度を算出する手段とを備えることを特徴とする。
上記発明では、回転角度にノイズが混入していても、その微分演算により回転速度を算出するに際し、フィルタ処理を施すことでノイズ成分が除去される。そして、これに基づき回転角度が算出されるために、回転角度のノイズ成分も好適に除去されるようになる。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記耐ノイズ角度算出手段は、前記積分演算に基づき算出される回転角度を前記誤差相当量に基づき補正することで前記耐ノイズ角度算出手段の出力としての回転角度を算出することを特徴とする。
上記発明では、積分演算に基づき算出される回転角度を誤差相当量に基づき補正する項を有するために、積分演算から回転角度を直接算出する場合と比較して、制御の設計の自由度を向上させることができる。
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記高応答角度算出手段及び前記耐ノイズ角度算出手段は、いずれも前記電気的な状態量に基づき算出される回転速度及びその相当値のいずれかの積分演算に基づき前記回転角度を算出するものであり、前記切替手段は、前記切り替えに際し、前記回転角度を算出する手段として切り替え後に採用する方の積分演算の初期値として、切り替え前に採用していた方の積分演算の値をセットすることを特徴とする。
回転速度やその相当値の積分演算に基づき回転角度を算出する場合、その回転角度が実際に用いられることでこれにフィードバック補正がかけられる。このため、回転角度が実際に用いられることで、積分演算の結果も適切な値へと収束していく。しかし、回転角度が実際に用いられない場合には、積分演算の結果は適切な値とならない。このため、切り替え直後には、新たに選択された角度算出手段の積分演算結果が適切な値とならず、回転角度の算出精度が低下するおそれがある。この点、上記発明では、切り替えによって新たに採用された角度算出手段の積分演算の初期値として、切り替え前に採用していた角度算出手段の積分演算値をセットすることで、こうした問題を好適に抑制することができる。
なお、請求項7記載の発明における高応答角度算出部が請求項3記載の速度算出部を備えて且つ耐ノイズ角度算出部が、請求項5,6に例示される速度算出手段を備える場合、前記耐ノイズ角度算出手段から高応答角度算出手段への切り替えに際しては、速度算出部の初期値として、耐ノイズ角度算出部の算出する回転速度をセットすることが望ましい。
請求項8記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記高応答角度算出手段及び前記耐ノイズ角度算出手段は、いずれも前記電気的な状態量に基づき算出される回転速度及びその相当値のいずれかの積分演算に基づき前記回転角度を算出するものであって且つ、前記積分演算にかかる処理を行う手段を共有化するものであることを特徴とする。
回転速度やその相当値の積分演算に基づき回転角度を算出する場合、その回転角度が実際に用いられることでこれにフィードバック補正がかけられる。このため、回転角度が実際に用いられることで、積分演算の結果も適切な値へと収束していく。しかし、回転角度が実際に用いられない場合には、積分演算の結果は適切な値とならない。このため、高応答角度算出手段及び耐ノイズ角度算出手段間で各別に積分演算処理を行う手段を備える場合には、切り替え直後には、新たに選択された角度算出手段の積分演算結果が適切な値とならず、回転角度の算出精度が低下するおそれがある。この点、上記発明では、積分演算を行う手段を共有化することで、切り替えにかかわらず積分演算結果の連続性を保つことができる。
なお、請求項8記載の発明における高応答角度算出部が請求項3記載の速度算出部を備えて且つ耐ノイズ角度算出部が、請求項5,6に例示される速度算出手段を備える場合、前記耐ノイズ角度算出手段から高応答角度算出手段への切り替えに際しては、速度算出部の初期値として、耐ノイズ角度算出部の算出する回転速度をセットすることが望ましい。
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の発明において、前記切替手段は、前記回転機の回転角度が所定以上のときに、前記回転機を駆動するために用いる回転角度として前記耐ノイズ角度算出手段の出力を選択することを特徴とする。
回転機の始動に際しては、回転速度が上昇する。また、回転機の減速運転時においては、回転速度が低下する。このため、回転速度が低回転速度であるときには、回転速度が変動しやすい傾向にある。これに対し、回転速度が高回転速度であるときには、回転速度が定常状態となる傾向にある。上記発明では、この点に鑑みて、回転速度が安定する傾向にある高回転速度領域において耐ノイズ角度算出手段の出力を用いることで、切り替えを適切に行うことができる。
なお、高応答角度算出手段や耐ノイズ角度算出手段が速度算出手段を備える場合、上記回転速度として、これら速度算出手段の算出値を用いてもよい。
請求項10記載の発明は、請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、前記切替手段は、前記回転機の回転速度が安定する状況下、前記回転機を駆動するために用いる回転角度として前記耐ノイズ角度算出手段の出力を選択することを特徴とする。
回転機の回転速度が安定する状況下において、高応答角度算出手段による角度誤差は、回転速度の数倍程度のノイズ等に起因した振動成分を有することがある。これに対し、耐ノイズ角度算出手段によれば、こうした振動成分は十分抑制可能である。この点、上記構成では、回転速度が安定する状況下、耐ノイズ角度算出手段を用いることで、回転速度が安定しているときの角度誤差の変動を好適に抑制することができる。
請求項11記載の発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の発明において、前記切替手段は、前記回転機の回転速度の変化量が所定以上であるときに、前記回転機を駆動するために用いる回転角度として、前記高応答角度算出手段の出力を選択することを特徴とする。
回転速度が変化するときには、特に回転角度や回転速度の算出に関して高い応答性が要求される。この点、上記発明では、回転速度の変化量が所定以上であるときに高応答性角度算出手段の出力を用いることで、切り替えを適切に行うことができる。
なお、高応答角度算出手段や耐ノイズ角度算出手段が速度算出手段を備える場合、上記回転速度として、これら速度算出手段の算出値を用いてもよい。
請求項12記載の発明は、請求項1〜11のいずれかに記載の発明において、前記切替手段は、前記耐ノイズ角度算出手段から前記高応答角度算出手段へと切り替える条件と、前記高応答角度算出手段から前記耐ノイズ角度算出手段へと切り替える条件とを互いに相違するように設定してなることを特徴とする。
上記発明では、耐ノイズ角度算出手段から高応答角度算出手段へと切り替える条件と、高応答角度算出手段から耐ノイズ角度算出手段へと切り替える条件とを互いに相違させることで、これら2つの手段の切り替えが頻繁になされることを回避することができる。
請求項13記載の発明は、請求項1〜12のいずれかに記載の発明において、前記回転機は、その構造上突極性を有するものであり、前記回転角度に関する情報に基づき、前記回転機の電気角の回転周期とは異なる周期を有して且つ任意の位相角方向に振動する周波数信号を前記インバータの出力信号に重畳する重畳手段を更に備え、前記誤差相当量算出手段は、前記重畳により実際に伝播する周波数信号の振動方向に基づき前記誤差相当量を算出することを特徴とする。
上記発明では、インバータの出力信号に周波数信号を重畳する。これにより、回転機を所定の周波数信号が伝播する。ただし、取得されている回転角度と実際の回転角度とがずれている場合、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間にずれが生じると考えられる。上記発明では、この点に着目し、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間のずれに基づき、誤差相当量を算出する。
なお、重畳により実際に伝播する周波数信号とは、回転機の電気的な状態量の検出値のうち、周波数信号を重畳するためにインバータの出力として直接操作される状態量と同一でない状態量の検出値に基づき算出される信号とする。例えば、周波数信号を重畳すべくインバータの出力電圧(回転機の相電圧)が指令電圧に操作される場合には、実際に伝播する周波数信号とは、電圧以外の状態量(例えば電流)の検出値に基づき算出される信号のこととする。
請求項14記載の発明は、請求項13記載の発明において、前記実際に伝播する周波数信号の検出値及び前記誤差相当量算出手段の出力の少なくとも一方に移動平均処理を施す移動平均処理手段を更に備え、前記移動平均処理手段は、前記重畳手段によって重畳される周波数信号の周期の整数倍の時間間隔に基づき前記移動平均処理を行うことを特徴とする。
移動平均処理を行うことで、ノイズの影響を抑制することができる。ただし、周波数信号の重畳に対する応答を検出する場合、この検出結果の移動平均処理を周波数信号の周期と無関係に行ったのでは、移動平均処理を適切に行うことが困難である。上記発明では、この点に鑑み、周波数信号の周期の整数倍の時間間隔で移動平均処理を行うことで、これを適切に行うことができる。
請求項15記載の発明は、請求項13又は14記載の発明において、前記回転機の駆動のための電流の振幅の絶対値の変動に起因して前記誤差相当量算出手段の出力が変動することを抑制すべく、前記誤差相当量算出手段に入力される前記実際に伝播する周波数信号の検出値及び前記誤差相当量算出手段の出力の少なくとも一方を前記回転機の駆動のための電流の振幅の絶対値及び前記実際に伝播する周波数信号の振幅の絶対値の少なくとも一方によって補正する手段を更に備えることを特徴とする。
周波数信号の重畳によって実際に伝播する周波数信号の振幅の絶対値は、駆動のための電流の振幅の絶対値に依存する。そして、実際に伝播する周波数信号の振幅の絶対値が変化すると、角度誤差が同一であっても、誤差相当量算出手段の出力は変化する。この点、上記発明では、誤差相当量算出手段に入力される実際に伝播する周波数信号の検出値及び誤差相当量算出手段の出力の少なくとも一方を回転機の駆動のための電流の振幅の絶対値及び実際に伝播する周波数信号の振幅の絶対値の少なくとも一方によって補正することで、上記変化を好適に抑制又は解消することができる。
なお、「回転機の駆動のための電流」とは、駆動のために実際に流れる電流の検出値のみならず、駆動のための回転機に対する指令電流も含まれる。
請求項16記載の発明は、前記取得される回転角度についての情報に基づき、前記回転機の電気角の回転周期とは異なる周期を有して且つ任意の位相角方向に振動する周波数信号を前記インバータの出力信号に重畳する重畳手段と、前記重畳によって実際に伝播する周波数信号の振動方向に基づき、現在取得されている回転角度の誤差相当量を算出する誤差相当量算出手段と、前記誤差相当量及び前記回転角度を入出力とする3次以上の伝達関数に基づき、前記回転角度を算出する角度算出手段とを備えることを特徴とする。
上記発明では、インバータの出力信号に周波数信号を重畳する。これにより、回転機を所定の周波数信号が伝播する。ただし、取得されている回転角度と実際の回転角度とがずれている場合、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間にずれが生じると考えられる。上記発明では、この点に着目し、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間のずれに基づき、誤差相当量を算出することができる。
そして、誤差相当量及び回転角度を入出力とする3次の伝達関数を用いることで、回転速度がランプ状に変化する場合であっても、回転角度に定常偏差が生じることを回避することができる。
なお、重畳により実際に伝播する周波数信号とは、回転機の電気的な状態量の検出値のうち、周波数信号を重畳するためにインバータの出力として直接操作される状態量と同一でない状態量の検出値に基づき算出される信号とする。例えば、周波数信号を重畳すべくインバータの出力電圧(回転機の相電圧)が指令電圧に操作される場合には、実際に伝播する周波数信号とは、電圧以外の状態量(例えば電流)の検出値に基づき算出される信号のこととする。
請求項17記載の発明は、前記取得される回転角度についての情報に基づき、前記回転機の電気角の回転周期とは異なる周期を有して且つ任意の位相角方向に振動する周波数信号を前記インバータの出力信号に重畳する重畳手段と、前記重畳によって実際に伝播する周波数信号の振動方向に基づき、現在取得されている回転角度の誤差相当量を算出する誤差相当量算出手段と、前記誤差相当量を多重積分演算することで算出される前記回転機の回転速度及びその相当値のいずれかの微分演算に基づき、前記回転角度を算出する角度算出手段とを備えることを特徴とする。
上記発明では、インバータの出力信号に周波数信号を重畳する。これにより、回転機を所定の周波数信号が伝播する。ただし、取得されている回転角度と実際の回転角度とがずれている場合、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間にずれが生じると考えられる。上記発明では、この点に着目し、想定される周波数信号と実際に伝播する周波数信号との間のずれに基づき、誤差相当量を算出することができる。
また、上記発明では、誤差相当量及び回転角度を入出力とする伝達関数が3次以上の伝達関数となる。このため、回転速度がランプ状に変化する場合であっても、回転角度に定常偏差が生じることを回避することができる。
なお、重畳により実際に伝播する周波数信号とは、回転機の電気的な状態量の検出値のうち、周波数信号を重畳するためにインバータの出力として直接操作される状態量と同一でない状態量の検出値に基づき算出される信号とする。例えば、周波数信号を重畳すべくインバータの出力電圧(回転機の相電圧)が指令電圧に操作される場合には、実際に伝播する周波数信号とは、電圧以外の状態量(例えば電流)の検出値に基づき算出される信号のこととする。
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転機の制御装置をハイブリッド車に搭載される3相電動機の制御装置に適用した第1の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。
図示される電動機10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。すなわち、図2に示すように、電動機10のロータ10aは、鉄のボディに永久磁石が埋め込まれて構成されている。
先の図1に示すαβ変換部20は、電動機10を実際に流れる電流のうちのU相の実電流iu及びV相の実電流ivに基づき、電動機10を流れる電流を、静止座標系の電流、すなわちα軸及びβ軸の電流ベクトル成分に変換する部分である。ここでは、例えば、U相をα軸と同位相角とし、これと直交するようにβ軸を定める。
dq変換部22は、α軸上の実電流iα及びβ軸上の実電流iβを、回転座標系の電流、すなわちd軸上の実電流id及びq軸上の実電流iqに変換する部分である。この変換に際しては、電動機10の出力軸の回転角度θを用いる。より正確には、回転角度θは、電気角であり、α軸を基準としたd軸正方向の回転角度である。この際、ローパスフィルタにより、上記αβ変換部20の出力から後述する高周波成分を除去する処理をも行なう。このため、dq変換部22は、電動機10を実際に流れる電流のうち、電動機10を駆動する際に使用されるd軸成分及びq軸成分の電流を抽出することとなる。
指令電流設定部24は、電動機10に対する要求トルクTdに基づき、d軸上での指令電流idc及びq軸上での指令電流iqcを設定する部分である。
指令電圧設定部26は、指令電流idc及び指令電流iqc並びに実電流id及び実電流iqに基づき、d軸上での指令電圧vdc及びq軸上での指令電圧vqcを算出する部分である。この変換は、基本的には、d軸上での実電流idの指令電流idcへのフィードバック制御、及びq軸上での実電流iqの指令電流iqcへのフィードバック制御によって行われる。このフィードバック制御は、例えば比例積分制御とすればよい。
αβ変換部27では、d軸上での指令電圧vdc及びq軸上での指令電圧vqcを、α軸上での指令電圧vαcとβ軸上での指令電圧vβcとに変換する。この変換に際しては、回転角度θが用いられる。
3相変換部28は、α軸上の指令電圧vαcに応じた加算器30aの出力と、β軸上の指令電圧vβcに応じた加算器30bの出力とを、u相の指令電圧vuc、v相の指令電圧vvc、及びw相の指令電圧vwcに変換する部分である。
PWM信号生成部32では、指令電圧vuc、vvc,vwcを電動機10に印加するためのインバータ34の操作信号を生成する部分である。これにより、インバータ34のスイッチング素子SWが操作され、高圧バッテリ36の電圧が電動機10に印加されるようになる。
次に、本実施形態にかかる電動機10の回転角度θの取得にかかる処理について説明する。
本実施形態では、電動機10を駆動をする際、電動機10の電気角の回転周期よりも短い周期の高周波信号をインバータ34の出力に重畳する。換言すれば、上記指令電流idc,iqcに応じて実際に電動機10を流れる電流の周期よりも短い周期の高周波信号を重畳する。そして、これにより電動機10を実際に伝播する高周波信号に基づき、電動機10の回転角度θを算出する。これは、電動機10が突極性を有することに鑑みてなされるものである。
すなわち、電動機10は、その構造上、突極性を有するために、d軸方向のインダクタンスが最小であり、q軸方向のインダクタンスが最大となっている。したがって、q軸方向よりもd軸方向の方が電流が流れやすいために、上記高周波信号を重畳する際、電動機10を実際に伝播する高周波信号は、d軸方向に偏向する。具体的には、図3(a)に示すように、推定されるd軸(推定d軸)が実際のd軸(実d軸)に対して進角している場合には、推定d軸方向に高周波信号(図中、1点鎖線)を重畳する際、実際に伝播する高周波信号の方向(図中、実線)は、実d軸側に偏向するために、推定d軸に対して遅角側にずれる。また、図3(b)に示すように、推定d軸と実d軸とが一致する場合には、推定d軸方向に高周波信号(図中、1点鎖線)を重畳する際、実際に伝播する高周波信号の方向(図中、実線)は、推定d軸と一致する。更に、図3(c)に示すように、推定d軸が実d軸に対して遅角している場合には、推定d軸方向に高周波信号(図中、1点鎖線)を重畳する際、実際に伝播する高周波信号の方向(図中、実線)は、実d軸側に偏向するために、推定d軸に対して進角側にずれる。
上記性質を利用すれば、d軸を推定算出することができ、ひいては回転角度θを算出することができる。すなわち、実際に高周波信号が伝播する方向を推定d軸方向としつつ高周波信号の重畳を繰り返すことで、重畳する高周波信号の位相角を実際に伝播する高周波信号の位相角に一致させることができ、ひいては、推定d軸を実d軸と一致させることができる。
具体的には、先の図1に示すように、高周波電圧設定部40では、d軸方向の高周波信号としての電圧信号vhdcを、αβ変換部41に出力する。αβ変換部41では、電圧信号vhdcを、α軸上の電圧信号vhαcとβ軸上の電圧信号vhβcとに変換し、上記加算器30a,30bに出力する。このため、3相変換部28には、指令電圧vdc,vqcに電圧信号vhdcが重畳された信号が入力されることとなる。一方、高周波電流検出部42は、α軸上の実電流iαとβ軸上の実電流iβとの高周波成分のみを抽出する。すなわち、電動機10に実際に伝播する高周波信号としてのα軸上の電流信号ihαとβ軸上の電流信号ihβとを生成し出力する。誤差相当量検出部44は、上記αβ変換部41の出力するベクトル信号(電圧信号vhαc,vhβc)と高周波電流検出部42の出力するベクトル信号(電流信号ihα,ihβ)とに基づき、これらの外積の値を算出する。この外積値は、電圧信号vhdcと電流信号ihα,ihβとの位相角の差と相関を有するパラメータである。このため、この外積をゼロとすれば、高周波電圧設定部40の出力する電圧信号vhdcを、インダクタンスが最小の方向に重畳することができる。本実施形態では、位置/速度算出部46によって誤差相当量検出部44の出力する誤差相当量Δθをゼロとするように仮回転角度θpを算出して出力する。そして、αβ変換部41では、仮回転角度θpに基づき、αβ変換を行う。これにより、電圧信号vhdcは、インダクタンスが最小となると想定される方向に重畳される。
ところで、電動機10の出力トルクが増大すると、電動機10における電流の流通態様によっては部分的に磁気飽和が生じることがある。以下、図4に基づきこれについて説明する。図4(b)は、図4(a)に示すように振幅を一定としつつあらゆる方向に高周波信号を重畳したときに実際に伝播する高周波信号を示している。すなわち、図4(b)は、電動機10の駆動用の電流ベクトル(指令電流idc,iqc)がq軸上の電流ベクトルとなったとき、インダクタンスが最小となる方向がd軸方向から上記駆動用電流ベクトル方向側にずれる現象が生じる例を示している。この場合、高周波信号の重畳によって電動機10を実際に伝播するベクトル信号が駆動用の電流ベクトル側に偏向する。図4(b)に示す現象が生じると、仮回転角度θpをd軸方向とすることはできない。ここで、本実施形態において、図4(b)に示した現象に対処する手法について説明する。
図5に、駆動用の実際の電流ベクトル(実電流id,iq)の位相角と、電動機10の出力トルクと、電動機10を実際に伝播する周波数信号の振幅(目標振幅)との関係を示す。詳しくは、この関係は、インバータ34の出力信号に、電動機10のインダクタンスが最小となる方向の高周波信号を重畳した場合の関係を示している。図示されるように、駆動用の電流ベクトルの位相角や出力トルクによって目標振幅値は変化する。このため、実際の振幅値が目標振幅値からずれるときには、駆動用の電流の位相角として実際の位相角からずれた値を認識していると考えられる。換言すれば、実際の回転角度に対してずれた回転角度を電動機10の回転角度(正確には電気角)と認識していると考えられる。このため、実際の振幅値と目標振幅値との差を縮めるように、上記位置/速度算出部46の出力する仮回転角度θpを補正すべく、先の図1に示すように、位置補正部48を備える。図6に、位置補正部48の処理を示す。
トルク推定部48aは、実電流id,iqに基づき、電動機10の出力トルクの推定値Teを算出する部分である。位相角算出部48bは、実電流id,iqに基づき、電動機10を流れる電流ベクトル(実電流id,iqの作る電流ベクトル)の位相角φを算出する部分である。目標振幅値設定部48cは、出力トルクの推定値Teと実電流ベクトルの位相角φとに基づき、目標振幅値(先の図5に示した振幅値)を算出する部分である。ずれ量算出部48dは、上記高周波電流検出部42の出力する高周波信号の振幅値の検出値と上記目標振幅値との差を算出する部分である。補正量算出部46eは、実際の振幅値を目標振幅値に追従させるための仮回転角度θpの補正量corを算出する部分である。ここでは例えば、上記ずれ量算出部46dの出力信号の比例項及び積分項の和によって補正量corを算出すればよい。
上記処理により、電動機10に磁気飽和が生じた場合であっても、回転角度θを高精度に設定することができる。すなわち、図7に示すように、磁気飽和が生じることでインダクタンスが最小となる位相角がd軸からずれたものとなるため、仮回転角度θpがゼロとなる方向がd軸方向ではなくなる。しかし、上記補正量corによって仮回転角度θpを補正することで、回転角度θがゼロとなる方向をd軸方向と一致させることができる。
この際、本実施形態では、仮回転角度θpに基づき高周波信号(電圧信号vhdc)を設定した。これにより、回転角度θを真の値として収束させることが可能となる。これに対し、最終的な回転角度θに基づき高周波信号(電圧信号vhdc)を設定する場合には、電動機10に磁気飽和が生じているときであっても、高周波信号の重畳方向は真のd軸方向となり、インダクタンスが最小な方向ではなくなる。このため、重畳する高周波信号(電圧信号vhdc)と実際に伝播する高周波信号(電流信号ihα、ihβ)とには位相差が生じる。このため、位置/速度算出部46では、仮回転角度θpを変更することとなり、ひいては回転角度θが正しい値にもかかわらず変更されることとなる。
次に、上記位置/速度算出部46について詳述する。図8に、位置/速度算出部46の処理を示す。図示されるように、位置/速度算出部46は、耐ノイズ角度算出部50と、高応答角度算出部60とを備えている。以下、これらについて詳述する。
<耐ノイズ角度算出部50>
ここで、耐ノイズ角度算出部50では、その出力である回転角度θ1を微分演算部51にて微分演算した後、これを1次遅れの伝達関数であるローパスフィルタ52にてフィルタ処理することで、仮の回転速度ω1pを算出する。一方、速度補正量算出部53では、誤差相当量Δθの比例積分演算により速度補正量Δω1を算出する。そして、速度補正部54では、仮の回転速度ω1pに速度補正量Δω1を加算することで、回転速度ω1を算出する。積分演算部55では、回転速度ω1を積分演算することで仮の回転角度θ1pを算出する。一方、角度補正量算出部56では、誤差相当量Δθの比例積分演算により角度補正量Δθ1を算出する。そして、角度補正部57では、仮の回転角度θ1pに角度補正量算出部56の補正量Δθ1を加算することで回転角度θ1を算出する。
耐ノイズ角度算出部50は、誤差相当量Δθ及び回転角度θ1を入出力とする3次の伝達関数となっている。このため、回転速度ω1が急激に変化する場合であっても、回転角度の定常偏差を好適に抑制又は解消することができる。以下、これについて詳述する。
速度補正量算出部53の比例ゲインKp1及び積分ゲインKi1と、角度補正量算出部56の比例ゲインKp2及び積分ゲインKi2とを用いると、誤差相当量Δθと回転角度θ1とは、以下の伝達関数にて関係づけられる。
Δθ=θ1×Ts×s×s/(1+Ts)(Kp1×s+Ki1+Kp×s×s+Ki1×s)
ここで、回転速度ωの変化としてランプ状の変化を仮定すると、回転速度の変化は、定数ωincを用いて、「ωinc/s×s」と表現でき、回転角度θは、「ωinc/s×s×s」と表現できる。このため、誤差相当量Δθの定常偏差Δθ(∞)は、ラプラスの最終値定理により、以下のようにゼロとなる。
Δθ(∞)
=lim s×(ωinc/s×s×s)×Ts×s×s/(1+Ts)(Kp1×s+Ki1+Kp×s×s+Ki1×s)
=0
このため、回転速度がランプ状に変化したとしても、定常偏差をゼロとすることができる。なお、上記角度補正量算出部56の比例ゲインKp2及び積分ゲインKi2は、速度補正量算出部53の比例ゲインKp1及び積分ゲインKi1よりも小さい値に設定するこが望ましい。
上記ローパスフィルタ52は、回転速度が定常であるときに回転角度θ1に生じ得る高次の振動成分を除去するように設計されている。すなわち、図9に示されるように、ローパスフィルタ52のゲインは、特定の周波数fc(遮断周波数)以上となることで「1」未満となって漸減する。このため、上記高次の振動成分の周波数よりも上記特定の周波数fcの方が小さくなるように設計することで、上記振動成分を好適に除去することができる。ここで高次の振動成分としては、電気角の回転周期の6次の振動成分が主であるため、回転速度に応じて変化する。このため、本実施形態では、上記遮断周波数fcを、回転速度ω1に応じて可変設定する。なお、この6次の振動成分は、電動機10の巻き線仕様が集中巻である場合に特に顕著となる傾向にある。
<高応答角度算出部60>
高応答角度算出部60では、速度算出部61において、誤差相当量Δθについての2重積分演算及び積分演算、比例演算の和として回転速度ω2を算出する。そして、積分演算部62では、回転速度ω2を積分演算することで、回転角度θ2を算出する。この高応答角度算出部60も、誤差相当量Δθ及び回転角度θ2を入出力とする3次の伝達関数となっている。このため、回転速度ω2が急激に変化する場合であっても、定常偏差を好適に抑制又は解消することができる。以下、これについて詳述する。
速度算出部61の比例ゲインKp3及び積分ゲインKi3、2重積分ゲインKiiを用いると、誤差相当量Δθと回転角度θ2とは、以下の伝達関数にて関係づけられる。
Δθ=θ2×s×s×s/(Kp3×s×s×s+Ki3×s+Kii)
ここで、回転速度ωの変化としてランプ状の変化を仮定すると、回転速度の変化は、定数ωincを用いて、「ωinc/s×s」と表現でき、回転角度θは、「ωinc/s×s×s」と表現できる。このため、誤差相当量Δθの定常偏差Δθ(∞)は、ラプラスの最終値定理により、以下のようにゼロとなる。
Δθ(∞)
=lim s×(ωinc/s×s×s)×s×s×s/(Kp3×s×s×s+Ki3×s+Kii)
=0
このため、回転速度がランプ状に変化したとしても、定常偏差をゼロとすることができる。
ところで、誤差相当量Δθは、高周波電流検出部42の出力する電流の検出値に基づき算出されるものであることなどから、ノイズが混入しやすいものとなっている。ここで、上記耐ノイズ角度算出部50は、ローパスフィルタ52を備えるために、ノイズ除去の度合いが強い。すなわち、誤差相当量Δθがノイズを含んでいたり、回転角度θ1の微分演算によってノイズが大きくなったとしても、ローパスフィルタ52によってこのノイズは好適に除去される。そして、ノイズの除去された仮の回転速度ω1pを補正量Δω1にて補正することで回転速度ω1を算出し、これから回転角度θ1を算出することで、回転角度θ1についてもノイズを好適に除去することができる。ただし、耐ノイズ角度算出部50は、ローパスフィルタ52を備えるために、応答性が低い。このため、回転速度ωが変化するときには、回転速度ω1や回転角度θ1の推定に遅れが生じる。
一方、高応答角度算出部60は、フィルタ手段を備えないため、応答性が高い。このため、回転速度が変化するときであっても、回転速度ω2や回転角度θ2の推定遅れが少ない。ただし、高応答角度算出部60は、フィルタ手段を備えないため、ノイズの影響を顕著に受ける。
図10に、回転速度がランプ状に変化するときの回転角度の推定誤差(位置誤差)と速度の推定誤差とを示す。詳しくは、図10(a)に、耐ノイズ角度算出部50を用いた場合を示し、図10(b)に、高応答角度算出部60を用いた場合を示す。図示されるように、耐ノイズ角度算出部50を用いる場合、図中1点鎖線にて示す真の回転速度に対して回転速度ω1の推定遅れが生じる。特にこの遅れは、回転速度の変化開始時において顕著となる。これに対し、高応答角度算出部60を用いた場合には、応答遅れが好適に解消している。
図11に、回転速度が定常状態であるときの回転角度の推定誤差相当量を示す。詳しくは、図11(a)に、耐ノイズ角度算出部50を用いた場合を示し、図11(b)に、高応答角度算出部60を用いた場合を示す。図示されるように、高応答角度算出部60を用いる場合には、フィルタ効果が弱いため、位置誤差に振動成分が含まれることとなる。
ちなみに、図12(a)に、先の図8の速度算出部61に代えて、誤差相当量Δの積分演算及び比例演算の和に基づき回転速度を算出する場合についての回転速度がランプ状に変化するときの回転角度の推定誤差(位置誤差)と速度の推定誤差を示す。この場合、図12(b)に示す高応答角度算出部60を用いる場合と比較して、回転角度の推定に定常的な誤差が生じる。これは、誤差相当量Δθ及び回転角度を入出力とする伝達関数が2次であるためである。
このように、耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60はいずれも速度がランプ状に変化する際の回転角度の推定に定常偏差が生じないものである。しかし、耐ノイズ角度算出部50は、フィルタ効果が強い反面応答性が低く、また、高応答角度算出部60は、応答性が高い反面フィルタ効果が弱いというように、互いにメリット及びデメリットを有している。そこで本実施形態では、先の図8に示すように、回転速度に応じて耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60のいずれを採用するかを切り替える切替部70と、セレクタ72とを備える。すなわち、切替部70では、回転速度ω1、ω2に基づきセレクタ72を操作することで、位置/速度算出部46の出力する仮回転角度θpを、耐ノイズ角度算出部50の出力する回転角度θ1とするか、高応答角度算出部60の出力する回転角度θ2とするかを切り替える。
図13に、耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60の切り替えにかかる処理手順を示す。この処理は、マイクロコンピュータ等により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、耐ノイズ角度算出部50が選択されているときであるか否かを判断する。そして、耐ノイズ角度算出部50が選択されていると判断されると、ステップS12において、回転速度ω1が所定速度α以下であるか否かを判断する。この処理は、高応答角度算出部60に切り替えるときであるか否かを判断するものである。すなわち、電動機10の起動時や電動機10の減速時においては、電動機10の運転状態が低回転速度領域に入るため、低回転速度領域では、回転速度が安定しないと考えられる。このため、こうした状況においては、高応答角度算出部60を用いることとする。
すなわち、ステップS14において、まず高応答角度算出部60の上記積分演算部62に、耐ノイズ角度算出部50の積分演算部55の値を代入する。この処理は、切り替え時の回転角度θ2の算出精度の低下を抑制するための処理である。すなわち、積分演算部62が正しい値を算出するためには、回転速度θ2が採用された状態で一定の時間にわたって積分演算が行われる必要があるため、切り替え直後においては積分演算部62の出力は正しい値とならない。このため、積分演算部62の値を代用する。なお、この際、速度算出部61の2重積分項の初期値として、耐ノイズ角度算出部50の回転速度ω1をセットするとともに、速度算出部61の積分項を初期化する。そして、ステップS16において、セレクタ72の出力を、高応答角度算出部60の出力に切り替える。
一方、ステップS10において高応答角度算出部60の出力が選択されていると判断されるときには、ステップS20において、回転速度ω2が所定速度β以上か否かを判断する。この処理は、耐ノイズ角度算出部50に切り替えるときであるか否かを判断するものである。また、上記所定速度βは、所定速度αよりも高い速度とされている。このように、高応答角度算出部60から耐ノイズ角度算出部50に切り替える条件と、耐ノイズ角度算出部50から高応答角度算出部60に切り替える条件とを相違させることで、高応答角度算出部60及び耐ノイズ角度算出部50の間の切り替えが頻繁になされることを回避する。
そして、回転速度ω2が所定速度βより大きいと判断されるときには、ステップS22において、耐ノイズ角度算出部50の積分演算部55の初期値として、高応答角度算出部60の積分演算部62の積分値を代入する。この処理の趣旨は、上記ステップS14の処理の趣旨と同様である。なお、この際、速度補正量算出部53及び角度補正量算出部56を初期化する。そして、ステップS24において、セレクタ72の出力を、耐ノイズ角度算出部50の出力に切り替える。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)耐ノイズ角度算出部50と高応答角度算出部60とを備え、これらを選択的に利用することで、ノイズに対する耐性の向上と応答性の向上との好適な両立を図ることができる。
(2)高応答角度算出部60において、誤差相当量Δθを入力とする多重積分演算に基づき回転速度ω2を算出し、その積分演算に基づき回転角度θ2を算出した。これにより、回転速度がランプ状に変化する場合であっても、回転角度に定常偏差が生じることを回避することができる。
(3)耐ノイズ角度算出部50において、回転角度θ1の微分演算によって仮の回転速度ω1pを算出し、ローパスフィルタ52によるフィルタ処理を施した値を、誤差相当量Δに応じてこれを補正した後、積分演算することで、回転角度θ1を算出した。これにより、回転角度θ1から高次のノイズ成分を好適に除去することができる。
(4)耐ノイズ角度算出部50において、積分演算に基づき算出される仮の回転角度θ1pを誤差相当量Δθに応じて補正することで回転角度θ1を算出した。これにより、積分演算から算出される回転角度θ1pを直接用いる場合と比較して、制御の設計の自由度を向上させることができる。
(5)切り替えに際し、回転角度を算出する手段として切り替え後に採用する方の積分演算の初期値(積分演算部55の初期値又は積分演算部62の初期値)として、切り替え前に採用していた方の積分演算の値(積分演算部62の値又は積分演算部55の値)をセットした。これにより、切り替え直後から積分演算部55の値又は積分演算部62の値を適切な値とすることができ、ひいては、回転角度の算出精度を高く維持することができる。
(6)電動機10の回転速度が所定以上のときに、耐ノイズ角度算出部50の出力を選択した。これにより、切り替えを適切に行うことができる。
(7)耐ノイズ角度算出部50から高応答角度算出部60へと切り替える条件と、高応答角度算出部60から耐ノイズ角度算出部50へと切り替える条件とを互いに相違させた。これにより、切り替えが頻繁になされることを回避することができる。
(8)電動機10としてその構造上突極性を有するものを用い、インダクタンスが最小となる方向に振動する高周波信号を重畳し、重畳により実際に伝播する高周波信号の振動方向に基づき誤差相当量Δθを算出した。これにより、誤差相当量Δθを適切に算出することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図14に、本実施形態にかかる位置/速度算出部46の処理を示す。図示されるように、本実施形態では、高応答角度算出部60が角度補正量算出部63を備えている。角度補正量算出部63は、誤差相当量Δθを比例積分演算することで、角度補正量を算出する。そして、角度補正部64では、積分演算部62の出力を角度補正量で補正したものを上記回転角度θ2として出力する。
このように、角度補正量算出部63を備えることで、角度補正量算出部63の比例ゲイン及び積分ゲインを、制御設計のためのパラメータとして新たに用いることができる。このため、ほかのゲインと併せて、安定性と応答性とを個別に設計することが可能となる等、制御の設計の自由度を向上させることができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(8)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(9)高応答角度算出部60において、積分演算部62の出力を誤差相当量Δθに基づき補正した。これにより、制御の設計の自由度を向上させることができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図15に、本実施形態にかかる耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60の切り替えにかかる処理手順を示す。この処理は、マイクロコンピュータ等により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図15において、先の図13に示した処理と同一の処理については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、回転速度の変化量に応じて切り替えを行う。すなわち、回転速度ω1の変化量|Δω1|が所定量γ以上であるときには、高応答角度算出部60に切り替え、回転速度ω2の変化量|Δω2|が所定量ε以下であるときには、耐ノイズ角度算出部50に切り替える。これにより、回転速度が変化し、応答性が要求されるときに高応答角度算出部60を用いることができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(5)、(7)、(8)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(10)回転速度の変化量が所定以上であるときに、高応答角度算出部60を用いた。これにより、高い応答性が要求されるときに高応答角度算出部60を用いることができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、耐ノイズ角度算出部50と高応答角度算出部60で処理の一部を共有化する。図16に、本実施形態にかかる位置/速度算出部46の処理を示す。なお、図16において、先の図14に示した処理と対応する処理については便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、耐ノイズ角度算出部50の速度補正部54の出力と、高応答角度算出部60の速度算出部61の出力とのいずれを積分演算部62に入力させるかを、セレクタ72によって切り替える。これにより、切り替えに際して、積分演算部62の初期化等を行う必要がない。このため、耐ノイズ角度算出部50から高応答角度算出部60に切り替える際には、速度算出部61の2重積分の初期値を、切り替え直前のセレクタ72の出力として且つ、積分項を初期化すればよい。また、高応答角度算出部60から耐ノイズ角度算出部50に切り替える際には、速度補正量算出部53の積分項を初期化すればよい。このように、本実施形態によれば、耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60間で、積分演算部62及び角度補正量算出部63を共有化することにより、切り替えにかかる処理を簡素化することができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図17に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図17において、先の図1と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、誤差相当量検出部44の出力を移動平均処理部80にて移動平均処理し、移動平均処理部80の出力が上記誤差相当量Δθとして位置/速度算出部46に入力される。これにより、例えば電流センサ等に含まれるノイズに起因して高周波電流検出部42の出力である電流信号ihα,ihβに混入するノイズを好適に除去しつつ、誤差相当量Δθを算出することができる。ここで、移動平均処理部80では、誤差相当量検出部44の出力についての上記電圧信号vhdcの周期の「n(n:整数)」倍の時間間隔におけるサンプリング値に基づき移動平均処理を行う。これにより、誤差相当量Δθからノイズを十分に除去することができる。ここで、移動平均処理を行う時間間隔を定める上記整数「n」を大きくするほどノイズの除去効果が高まるものの、これにより遅延量が増大する。このため、電動機10の回転速度が速いほど整数「n」を小さくする。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(8)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(11)誤差相当量検出部44の出力を移動平均処理することで誤差相当量Δθを算出した。これにより、電流センサ等に含まれるノイズ成分を好適に除去しつつ誤差量Δθを算出することができる。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第5の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図18に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図17において、先の図1と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、高周波電流検出部42の出力である電流信号ihα,ihβを移動平均処理部82にて移動平均処理し、移動平均処理部82の出力が上記誤差相当量検出部44に入力される。これにより、例えば電流センサ等に含まれるノイズに起因して高周波電流検出部42の出力である電流信号ihα,ihβに混入するノイズを好適に除去しつつ、誤差相当量Δθを算出することができる。ここで、移動平均処理部82でも、電流信号ihα,ihβについての上記電圧信号vhdcの周期の「n」倍の時間間隔におけるサンプリング値に基づき移動平均処理を行う。これにより、誤差相当量Δθからノイズを十分に除去することができる。ここで、移動平均処理を行う時間間隔を定める上記整数「n」を大きくするほどノイズの除去効果が高まるものの、これにより遅延量が増大する。このため、電動機10の回転速度が速いほど整数「n」を小さくする。
以上説明した本実施形態によっても、先の第5の実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図19に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図19において、先の図1と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、振幅算出部84において、指令電流設定部24の出力する指令電流idc,iqcに基づき、3相の指令電流の振幅Nを算出する。そして、除算部86では、誤差相当量検出部44の出力Δを振幅Nで除算したものを、上記誤差相当量Δθとして位置/速度算出部46に出力する。これにより、指令電流idc,iqcの値にかかわらず、仮回転角度θの算出ゲインを略一定とすることができる。
すなわち、3相の指令電流の振幅が大きくなるほど磁気飽和が生じやすくなるため、電動機10を実際に伝播する電流の振幅が大きくなりやすい。このため、回転角度θの誤差が一定であっても、指令電流の振幅が大きいほど誤差相当量検出部44の出力Δが大きくなりやすい。これは、指令電流の振幅に応じて回転角度θの算出ゲインが変動することを意味する。これに対し、振幅Nで誤差相当量検出部44の出力Δを除算することで、出力Δが擬似的に規格化され、振幅Nの変動に起因する誤差相当量Δθの変動を抑制することができる。このため、指令電流の振幅Nにかかわらず、回転角度θの算出ゲインを略一定とすることができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(8)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(12)誤差相当量検出部44の出力Δを指令電流の振幅Nで除算することで誤差相当量Δθを算出した。これにより、振幅Nの変化による誤差相当量Δθの変化を好適に抑制又は解消することができる。
(第8の実施形態)
以下、第8の実施形態について、先の第7の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図20に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図20において、先の図19と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、除算部88において、誤差相当量検出部44の出力Δを、高周波電流ihα,ihβから定まる高周波信号の振幅ihnによって除算することで、誤差相当量Δθを算出する。これにより、指令電流idc,iqcの値にかかわらず、仮回転角度θの算出ゲインを略一定とすることができる。
すなわち、3相の指令電流の振幅が大きくなるほど磁気飽和が生じやすくなるため、電動機10を実際に伝播する電流の振幅が大きくなりやすい。このため、回転角度θの誤差が一定であっても、指令電流の振幅が大きいほど振幅ihnが大きくなりやすく、ひいては、誤差相当量検出部44の出力Δが大きくなりやすい。これは、指令電流の振幅に応じて回転角度θの算出ゲインが変動することを意味する。これに対し、振幅ihnで誤差相当量検出部44の出力Δを除算することで、出力Δが擬似的に規格化され、指令電流idc,iqcの変動に起因する誤差相当量Δθの変動を抑制することができる。
以上説明した本実施形態によっても、先の第7の実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第9の実施形態)
以下、第9の実施形態について、先の第7の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図21に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図21において、先の図19と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、乗算器90,92において、高周波電流ihα,ihβを、振幅算出部84の出力する指令電流の振幅Nによって除算したものを誤差相当量検出部44に入力する。これにより、誤差相当量検出部44では、これら乗算器90,92の出力と電圧信号vhαc,vhβcとの外積値に基づき誤差相当量Δθを算出することとなる。
以上説明した本実施形態によっても、先の第7の実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第10の実施形態)
以下、第10の実施形態について、先の第8の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図22に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図22において、先の図20と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、乗算器94,96において高周波電流ihα,ihβから算出される振幅ihnによって高周波電流ihα,ihβを除算したものを、誤差相当量検出部44に入力する。これにより、誤差相当量検出部44では、これら乗算器94,96の出力と電圧信号vhαc,vhβcとの外積値に基づき誤差相当量Δθを算出することとなる。
以上説明した本実施形態によっても、先の第8の実施形態と同様の効果を得ることができる。
(第11の実施形態)
以下、第11の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図23に、本実施形態にかかる制御システムの全体構成を示す。なお、図23において、先の図1と対応する部分については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、インバータ34の出力信号に高周波信号を重畳させるべく、高周波電流設定部100を備えている。高周波電流設定部100では、仮回転角度θpによってd軸方向と推定される方向、すなわちインダクタンスが最小となると想定される方向に、高周波信号としての電流信号ihdc1を重畳すべく、αβ変換部41aに電流信号ihdc1を出力する。αβ変換部41aでは、仮回転角度θpに基づき、電流信号ihdc1を、αβ軸上の電流信号ihαc,ihβcに変換する。そして、これら電流信号ihαc,ihβcは、dq変換部41bに出力される。dq変換部41bでは、回転角度θに基づき、電流信号ihαc,ihβcを、dq軸上の電流信号ihdc2,ihqc2に変換する。そして、これら電流信号ihdc2,ihqc2が、加算器25a,25bを通じて指令電流idc,iqcに重畳される。
指令電圧設定部26は、上述したように、指令電流idc(詳しくは、電流信号ihdc2の重畳された指令電流idc)及びd軸上の実電流idの差に基づきd軸上の指令電圧vdcを設定し、指令電流iqc(詳しくは、電流信号ihqc2の重畳された指令電流iqc)及びq軸上の実電流iqの差に基づきq軸上の指令電圧vqcを設定する。これにより、指令電圧vdc,vqcは、仮回転角度θpによってd軸方向と想定される方向に電流信号ihdc1を重畳するためのものとなる。
一方、dq変換部22aは、実電流iu,ivから高周波成分を除去することなく、これらを実電流id,iqに変換する。このため、上記指令電圧vdc,vqcには、電流信号ihdcを重畳したときに(より正確には、電流信号ihdc2を重畳すべく指令電圧を設定したときに)実際に電動機10を流れる周波数信号が混入している。
指令電圧vdc、vqcは、αβ変換部27において、回転角度θに基づき、α軸上の指令電圧vαcとβ軸上の指令電圧vβcとに変換される。そして、高周波電圧検出部102では、これら指令電圧vαc,vβcから、電動機10を実際に伝播する高周波信号に応じたα軸上の電圧信号vhαとβ軸上の電圧信号vβcとを抽出する。
一方、誤差相当量検出部44では、電圧信号vhαc、vhβcのベクトル信号と、上記電流信号ihαc,ihβcのベクトル信号との外積値を算出する。そして、位置/速度算出部46では、上記外積値をゼロとするように仮回転角度θpを算出する。これにより、仮回転角度θpは、電動機10のインダクタンスが最小となる位置をゼロとする値とされる。なお、この仮回転角度θpの算出手法は、先の図1に示した位置/速度算出部46による算出手法に準ずる。
位置補正部104は、実電流id,iqに基づき出力トルクの推定値Te及び実電流iq,iqの電流ベクトルの位相φを算出し、これらに基づき電圧信号vhα、vhβの目標振幅値を設定する。そして、高周波電圧検出部102によって検出される実際の振幅vhnと目標振幅値との差をゼロとするための補正量corを設定する。
以上説明した本実施形態によっても、先の第1の実施形態の上記各効果に準じた効果を得ることができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記各実施形態では、耐ノイズ角度算出部50から高応答角度算出部60へと切り替える際、速度算出部61の2重積分項の初期値を、耐ノイズ角度算出部50の算出する回転速度としたが、これに限らない。例えば積分項の初期値を耐ノイズ角度算出部50の算出する回転速度として且つ、2重積分項を初期化してもよい。
・高応答角度算出部60と耐ノイズ角度算出部50との切り替え手法としては、上記のものに限らない。例えば電動機10の回転速度を指令速度に制御するものにあっては、指令速度に基づき切り替えを行ってもよい。
・先の第11の実施形態を、先の第1の実施形態に対する第2〜第10の実施形態の変更点によって変更してもよい。
・先の第3、第5〜第11の実施形態における高応答角度算出部60を、先の第2の実施形態の構成としてもよい。
・第4の実施形態において、角度補正量算出部63を省略してもよい。
・先の第5〜第11の実施形態における切り替え手法を、先の第3の実施形態の手法に変更してもよい。
・先の第1の実施形態に対する第5〜第10の実施形態のいずれかの変更点によって、先の第2〜第4の実施形態を変更してもよい。
・先の第6、第8の実施形態において、指令電流の振幅に代えて、実電流の振幅を用いてもよい。
・ローパスフィルタ52を、微分演算部51の上流に設けてもよい。
・ローパスフィルタ52としては、1次遅れフィルタに限らない。例えば2次遅れフィルタであってもよい。この際、電気角の回転周期の6次の高調波ノイズ等の高次の振動成分を除去可能な設計とすることが望ましい。ここでも、上記実施形態のように、遮断周波数を回転速度に応じて可変設定することが望ましい。ただし、フィルタ手段としては、遮断周波数を回転速度に応じて可変設定するものにも限られない。
・高応答角度算出部60としては、フィルタ手段を備えないものに限らない。例えば先の第5の実施形態においては、移動平均処理部80がフィルタ手段となっているため、位置/速度算出部46内に移動平均処理部80を包含させるなら、耐ノイズ角度算出部50及び高応答角度算出部60の双方がフィルタ手段を備える構成となる。しかし、この場合であっても、耐ノイズ角度算出部50の方が高応答角度算出部60よりもノイズ除去の度合いの強い処理がなされる代わりに、応答性が低下するため、上述した態様での切り替えは有効である。
・速度補正量算出部53としては、誤差相当量Δθの比例演算及び積分演算の和を出力するものに限らず、例えば比例演算及び積分演算及び微分演算の和を出力する構成であってもよい。また、誤差相当量Δθの積分演算結果を出力するものであってもよい。
・角度補正量算出部56としては、誤差相当量Δθの比例演算及び積分演算の和を出力するものに限らない。例えば比例演算及び積分演算及び微分演算の和を出力する構成であってもよい。また、誤差相当量Δθの積分演算結果を出力するものであってもよい。更に、誤差相当量Δθの比例演算結果を出力するものであってもよい。
・速度算出部61の構成としては、誤差相当量Δθの2重積分演算及び比例演算及び積分演算の和を算出するものに限らない。例えば誤差相当量Δθの2重積分演算及び比例演算及び積分演算及び微分演算の和を出力するものであってもよい。また、誤差相当量Δθの2重積分演算及び積分演算の和を出力するものであってもよい。更に、誤差相当量Δθの2重積分演算及び比例演算の和を出力するものであってもよい。また、誤差相当量Δθの3重積分演算結果を出力するものであってもよい。
・角度補正量算出部63としては、誤差相当量Δθの比例演算及び積分演算の和を出力するものに限らない。例えば誤差相当量Δθの比例演算及び積分演算及び微分演算の和を出力する構成であってもよい。また、誤差相当量Δθの積分演算結果を出力するものであってもよい。更に、誤差相当量Δθの比例演算結果を出力するものであってもよい。
・構造上、突極性を有する電動機としては、上記電動機10に限らない。例えば埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)や、同期リラクタンスモータ(SynRM)でもよい。
・回転機としては、電動機に限らず、発電機であってもよい。
・回転機の電気的な状態量に基づき回転機の回転角度に関する情報を取得する手法としては、インバータの出力信号に周波数信号を重畳した際に電動機を実際に伝播する周波数信号に基づき行なうものに限らない。例えば誘起電圧に基づき検出されるもの等であってもよい(例えば「特開2006−230120号公報」や「電子工学ハンドブック 第6版 電気学会 第21編 3.6」参照)。
・上記各実施形態では、ハイブリッド車に本発明にかかる制御装置を適用したが、これに限らず、例えば電気自動車に適用してもよい。更には内燃機関を動力源とする車両におけるパワーステアリング等の動力伝達手段としての電動機に本発明の制御装置を適用してもよい。
10…電動機、44…誤差相当量検出部(誤差相当量算出手段の一実施形態)、50…耐ノイズ角度算出部(耐ノイズ角度算出手段の一実施形態)、60…高応答角度算出部(高応答角度算出手段の一実施形態)。