JP2008225421A - 光学素子、光学膜平面化方法及び光学素子の製造方法 - Google Patents

光学素子、光学膜平面化方法及び光学素子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】薄型の基板に光学膜が形成されたときに、特別な修正用の薄膜を形成することなく、光学膜による膜応力を緩和して、光学膜の平面化を図ることを目的とする。
【解決手段】反射多層膜12の応力を緩和するために、透明基板10の被成膜面10Sと被摺面10Rとで面の粗さに差を持たせて、被成膜面10Sには反射多層膜12を形成し、被摺面10Rを摺面化して摺面13を形成する。反射多層膜12は膜応力を有しているため、被成膜面10の方向に凸の歪みを生じさせ、また摺面13が形成されることにより、トワイマン効果による応力が作用し、摺面13の方向に凸の歪みを生じさせる。膜応力と摺面形成による応力とは、相互に逆の方向に湾曲させるため、相互に応力をキャンセルし合い、反射多層膜12を平面化させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、基板の1面に光学膜を形成したときに、基板に対して作用する光学膜の応力を緩和して光学膜が形成された面を平面化させる光学素子、膜応力を緩和して基板の表面を平面化する光学膜平面化方法及び前記の光学素子の製造方法に関するものである。
液晶プロジェクタや光ピックアップ等の光学装置は種々の光学素子から構成され、光学素子は、一般にガラス素材等の透明基板の一面に光学膜が形成されている。光学膜としては、誘電体単層膜や誘電体多層膜、金属膜等の種々の光学膜があるが、これらの光学膜は内部応力(膜応力)を有しているため、蒸着法等により透明基板に形成させた後には、膜応力によって透明基板全体に変形が生じる。その結果、光学膜の性能が劣化又は損失する。
近年の光学装置はコンパクト化の要請が極めて高いため、透明基板の板厚の薄型化が求められている。そうすると、その分膜応力によって透明基板に与える影響が顕著なものとなる。このため、(1)板厚の薄型化の要請を充足しつつ、(2)透明基板の形状の変形を修正する必要がある。
上記(1)、(2)の要請を同時に充足する手法としては、例えば透明基板の光学膜が形成されている反対の面に、光学膜の膜応力による基板の変形を修正するための膜(修正用の薄膜とする)を形成する手法がある。この手法は、特許文献1に開示されており、光学素子の非光学機能面(裏面)に内部応力を有する薄膜を形成し、薄膜の内部応力(膜応力)の作用を利用して光学素子に変形を生じさせ、これにより光学素子の光学機能面の形状を修正している。つまり、基板の1面に形成される光学膜の反対の面に膜応力の作用を修正するような薄膜を形成して、素子全体の形状の修正を図っている。
特開2005−19485号公報
ところで、特許文献1では、基板形状修正用に薄膜を基板(非光学機能面)に形成する必要があるが、一般に、所望の薄膜を得るためには、微細なコントロールが必要となる。一方で、基板は薄型にする必要があり、薄い基板に対しては、光学膜による膜応力による変形の度合いが大きいが、同時に修正用の薄膜の膜応力も強力に作用する。そうすると、光学膜による膜応力を正確且つ高精度に修正するように、薄膜の形成精度は極めて微細にコントロールしなくてはならず、極めて困難である。
また、修正用の薄膜は、基本的には、基板形状の修正という機能のみを発揮し、他の光学的機能を発揮していない。このような薄膜は、光学的機能という観点からは不要な要素であるため、余剰コストとなる。また、薄膜の形成には比較的時間がかかることから、この工程に時間がかかると、生産効率の低下という問題を招来する。さらに言えば、本来不要な修正用の薄膜が薄型の基板に形成されているため、ストレスに対する耐性という点でも問題がある。
そこで、本発明では、修正用の薄膜を形成することなく、光学膜による膜応力を緩和して、光学膜の平面化を図ることを目的とする。
以上の目的を達成するため、本発明の請求項1の光学素子は、基板の表面と裏面とで面の粗さに差を持たせて、前記表面又は前記裏面のうち粗さの細かい方の面に光学膜を形成し、前記光学膜の応力を緩和させることを特徴とする。
基板が非常に薄型である場合、基板の表面と裏面との間で面の粗さに差を持たせると、基板の粗い面の方向に凸の歪みが生じる効果(所謂トワイマン効果)がある。一方、光学膜には、基板の成膜面の方向に凸の歪みを生じさせる膜応力が存在する。そこで、粗さの細かい方の面に光学膜を形成すれば、膜応力の作用による歪みの方向と前記のトワイマン効果による歪みの方向とが相互に逆の凸方向の関係となるため、相互の応力をキャンセルし合う。そうすると、基板全体としての形状は修正され、光学膜を平面化することができる。
ここで、光学膜は、許容誤差範囲内であれば、完全に平面化されなくてもよい。つまり、摺面が形成されれば光学膜の膜応力はキャンセルされて平面化の度合いを高くすることができるが、光学的機能を発揮する許容誤差範囲内であれば、完全に平面化されなくても、微小に湾曲している状態であってもよい。
本発明の請求項2の光学素子は、請求項1記載の光学素子であって、前記粗さの細かい方の面は鏡面研磨により仕上げて成膜面となし、この成膜面とは反対の面を摺面に形成することを特徴とする。
鏡面研磨を行って成膜面を形成し、反対の面を摺面の形成をすることにより、面の粗さに差を持たせることができる。ここで、摺面の形成とは、粒度の粗い研磨剤を用いて基板の一面を摺ることをいい、摺面とは、摺面の形成が行われた面をいう。摺面の形成を行うための手段(摺面の形成手段)としては、他に研削剤を用いた研削処理や研磨剤を基板表面に吹き付けるサンドブラストやダイヤモンドによる切削、サンドペーパー、ブラッシング等の種々の手段も適用することができる。換言すれば、摺面の形成とは、基板表面に微小な傷、つまり微小な凹凸を形成することをいい、梨地を面上に形成することをいう。
一方、鏡面研磨は基板表面を鏡面仕上げするもの(基板表面上の凹凸をなくすもの)であり、所謂ラップ処理やバニッシュ処理、ポリッシュ処理等の手法を適用することができる。前記の摺面の形成において研磨剤を用いる場合は摺面研磨となるが、摺面研磨と鏡面研磨とは、研磨という同じ用語が用いられる。しかし、摺面研磨は基板表面に微小凹凸を形成する手法であり、鏡面研磨は基板表面の微小凹凸をなくす手法である点で、両者は用途も機能も全く逆のものとなる。
摺面が形成される前の面(被摺面)は、予め鏡面仕上げをしている必要はないが、被摺面も光学膜が形成される面(被成膜面)も平面状態を基準として湾曲量を制御するという点で、被摺面は被成膜面と同様に鏡面仕上げをすることが好ましい。つまり、湾曲量の基準を一致させておくことが好ましい。
また、基本的には、基板の形状は平板状であるが、平板状以外の他の形状であってもよい。光学膜の膜応力を摺面がキャンセルするという意味では、被摺面と被成膜面とが平行であれば、四角形の平板状の形状だけではなく、円形、三角形等任意の板状の基板に適用することができる。ここで、成膜面は所定の光学的機能を発揮するために平面化の度合いを高くしなくてはならないが、反対の面である摺面は基本的には光学的機能を発揮しないため、その形状は任意にすることができる。従って、光学膜の膜応力をキャンセルして、光学膜を平面化できれば、摺面は平面でなくても多少異形であってもよい。
そして、本発明の請求項3の光学素子は、請求項2記載の光学素子であって、前記摺面は、前記光学膜が平面化されるような粒度で摺られていることを特徴とする。被摺面が形成されれば、膜応力を緩和することができるが、最適な粒度で摺面を形成することにより、光学膜を平面化に近づけることができる。摺面の形成を行うときの粒度は、粗ければ大きく応力を作用し、細かければ作用する応力が小さい。そこで、光学膜の膜応力に応じた最適な粒度を選択すれば、平面化に近づけることができる。
本発明の請求項4の光学素子は、請求項1乃至3何れか1項に記載の光学素子であって、前記光学膜は、所定の波長域の光を反射する反射多層膜であることを特徴とする。基本的には、摺面は光学的に使用されない面となるため、種々の光学素子のうち、最も本発明を適用することができる光学素子は、反射ミラーとなる。
反射ミラーとして機能させる場合には、誘電体多層膜ではなく金属膜による反射多層膜であってもよい。ただし、金属膜は全ての波長域の光を反射させるものの、光吸収率が高いため、反射効率が若干低下する。従って、光量損失抑制の観点から誘電体多層膜による反射多層膜を適用することが好ましい。金属膜は単層膜でよいが、誘電体多層膜による反射多層膜は、所望の波長域で極めて高い反射率を得るために、比較的多くの膜層数を必要とする。そうすると、基板に対する膜応力が強力になるため、誘電体多層膜による反射多層膜の場合には、特に有利な効果を奏する。
また、摺面を他の用途に使用することができる場合には、反射ミラー以外の光学素子としても本発明を適用することができる。摺面には微小凹凸が形成されているため、摺面に光を透過させることによって、光の散乱を利用して光分布の均一化を図ることができる。また、散乱光を利用して光の強度を測定する、例えばAPC(Auto Power Control)としても利用することができる。このような場合には、光学膜を反射多層膜とせず、例えば所定条件の光を透過させる透過特性を有する膜としても適用することができる。
本発明の請求項5の光学膜平面化方法は、基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、鏡面研磨した1面の反対の面を摺ることにより摺面を形成する摺面形成工程と、前記摺面形成工程の後に行われる工程であって、前記鏡面研磨された1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、を有し、前記基板に対する前記光学膜の応力を、前記摺面が緩和して、前記光学膜を平面化することを特徴とする。
本発明の請求項6の光学膜平面化方法は、基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、鏡面研磨した1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、前記光学膜形成工程の後に行われる工程であって、前記光学膜が形成される面の反対の面を摺ることにより摺面を形成する摺面形成工程と、を有し、前記基板に対する前記光学膜の応力を、前記摺面が緩和して、前記光学膜を平面化することを特徴とする。
請求項5の光学膜平面化方法と請求項6の光学膜平面化方法とは、摺面を形成することにより光学膜の膜応力をキャンセルして光学膜の平面化を図るという点では一致しているが、請求項5の光学膜平面化方法では、摺面の形成工程を光学膜形成工程より先に行い(先摺り)、請求項6の光学膜平面化方法では、摺面の形成工程を光学膜形成工程より後に行う(後摺り)点で、相違する。
先摺りの場合には、予め光学膜を形成したときの基板の湾曲量に応じた粒度で被摺面を形成する。つまり、膜応力による基板の湾曲量を見越して、その分を摺面の形成による応力により事前に緩和しているものとなる。この場合は、画一的な粒度で事前に摺面の形成することができるため、大量生産に好適である。
一方、後摺りの場合には、基板に光学膜を形成した時点で、光学膜の応力により基板は光学膜側の凸方向に湾曲することになる。そして、基板の湾曲状態に応じて、事後的に合わせて補正を行うための摺面を形成することができる。このため、夫々の基板の湾曲具合に応じて微細に光学膜の平面化を図ることができる。
ここで、先摺りの場合は、摺面を形成したときに、後摺りの場合は、光学膜を形成したときに、基板はトワイマン効果による応力又は光学膜の膜応力により湾曲する。この場合、基板を固定していない状態では、トワイマン効果による応力又は光学膜の膜応力により、基板は一方向に湾曲しようとする。このため、粘着剤等を用いて、平面状態が維持された固定治具等に基板を固着させておき、強制的に基板を平面状態に維持させる。この状態で光学膜の形成又は摺面の形成を行うことにより、正確に行うことができる。
また、本発明の請求項7の光学膜平面化方法は、請求項5又は6記載の光学膜平面化方法であって、前記摺面を形成するときには、前記基板が平面化されるような粒度で摺ることを特徴とする。最適な粒度で摺面を形成すれば、光学膜を平面に近づけることができる。
本発明の請求項8の光学膜平面化方法は、請求項7記載の光学膜平面化方法であって、 前記摺面形成工程で摺面を形成した粒度よりも粗い粒度又は細かい粒度で、前記摺面を摺ることにより、前記成膜面をさらに平面に近づけるような微調整を行う微調整工程を行うことを特徴とする。
摺面を形成した後に、再度摺面を摺ると、摺面を形成したときの粒度よりも粗い粒度で研磨した場合には、膜応力を緩和する応力を作用し、細かい粒度で研磨した場合には、トワイマン効果による応力を緩和する応力を作用する。つまり、より粗い粒度で再び摺面を研磨した場合には、摺面の方向に凸の歪みを生じさせる応力を作用し、より細かい粒度で再び摺面を研磨した場合には、成膜面の方向に凸の歪みを生じさせる応力を作用させる。そこで、後摺りの場合に、未だ成膜面の方向に凸の歪みが生じている場合には、より粗い粒度で再び摺面を研磨して、トワイマン効果による応力を作用させて光学膜の平面化を図る。
一方、摺面を形成したことによる応力が膜応力を超えて、粗い方の面(成膜面の反対の面)に凸の歪みを生じている場合には、より細かい粒度で再び摺面を研磨して、摺面の形成による応力を軽減させて光学膜の平面化を図る。摺面を形成することによる応力が不足している場合又は過剰に作用させた場合には、摺面を形成した後に、再び粗い粒度又は細かい粒度で摺面を研磨することにより、きめ細かい微調整の補正をすることができ、光学膜の平面化を図ることができる。つまり、摺面形成後に粗い粒度又は細かい粒度で摺面を研磨するということは、応力の過不足分を微調整して補正を行っていることになる。
また、本発明の請求項9〜12の光学素子の製造方法は、前記の光学膜平面化方法を適用して、前記の光学素子を製造することを特徴とする。
基板の素材としては、主に透明性のガラス素材が対象となるが、透明性のプラスチック素材にも適用することができる。また、反射ミラーとして用いる場合には、基板内部を光が透過しないため、非透明性の素材にも適用することができる。
光学膜としては、複数層の誘電体膜から構成される誘電体多層膜、単層の誘電体膜から構成される誘電体単層膜、金属膜等を適用することができる。これらのうち、誘電体多層膜、特に膜層数の多い誘電体多層膜は膜応力が強くなるため、このような誘電体多層膜に対して本発明は特に効果を奏する。
基板に光学膜を形成する手段としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト法、スパッタ法、CVD(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition)、スプレー、印刷等の種々の手法を適用することができる。
本発明の光学素子を反射ミラーとして適用する場合には、当該光学素子を構成部品とする光学装置として、例えば光ピックアップや液晶プロジェクタ(投射型表示装置)等を適用することができる。
本発明は、光学膜が形成される面の反対の面に摺面を形成することにより、光学膜の膜応力を摺面の形成による応力がキャンセルし、特別な修正用の薄膜を形成しなくても、光学膜の平面化を図ることができる。特に、基板が薄い場合には、膜応力は強力になる傾向にあり、光学膜を大きく歪ませることになるが、膜応力が強くなっても反対の面に摺面を形成することにより光学膜の平面化を図ることができるため、この場合に特に有利な効果を奏する。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ここでは、光学素子として光を反射させる反射ミラーについて説明する。図1において、反射ミラー1は、主にガラス板等の平板状の透明基板10から構成される。透明基板10の一面(被成膜面10S)には光学膜として反射多層膜12が形成されている。被成膜面10Sは反射多層膜12の光学的精度を保証するという観点から、厳格に平面性を維持している必要がある。このため、被成膜面10Sは予め鏡面研磨が行われている。そして、透明基板10の被成膜面10Sの反対の面は摺面13となっている。ここでは、粒度の粗い研磨剤により摺面の形成されているものとする。
反射多層膜12は内部応力(膜応力)を有していることから、透明基板10に反射多層膜12が形成されると、凸方向(反射多層膜12側に凸となる方向)に湾曲する力が透明基板10に作用する。しかし、反射多層膜12が形成されている面の反対の面(被摺面10R)には、摺面13が形成されている。
薄型の透明基板10の一面(被摺面10R)を研磨剤で摺ると、透明基板10は凸方向(摺面13側に凸となる方向:透明基板10に反射多層膜12を形成したときに湾曲しようとする方向とは逆の方向)に湾曲しようとする。この湾曲する応力は、トワイマン効果と呼ばれる。特に、透明基板10が薄いときに、湾曲しようとする応力(摺面の形成応力)は大きくなる。反射ミラー1は、コンパクト化の要請から、極めて薄型の光学素子となるため、透明基板10の板厚も極めて薄いものが使用される。そうすると、膜応力と摺面の形成応力とが相互に逆の方向の応力であるため、両者の応力をキャンセルすることができる。
ここで、最終的な目的となるのは、透明基板10全体の形状を元の形状にすることではなく、反射多層膜12を平面化することにある。従って、反射多層膜12とは異なり、摺面13の形状は多少いびつな形状であってもよい。なお、反射多層膜12は被成膜面10Sに形成されているため、反射多層膜12が平面化されれば、当然に被成膜面10Sも平面化されることになる。
被摺面10Rは、予め被成膜面10Sと同様に鏡面研磨を行うことにより、被摺面10Rを被成膜面10Sとが平行になるようにする。反射多層膜12の膜応力による湾曲量は平面を基準としているため、被摺面10Rも平面を基準とすることにより、両者の基準を一致させる。これにより、湾曲量の測定を容易にすることができる。
次に、膜応力について説明する。膜応力は、透明基板10に形成される反射多層膜12の膜厚、膜層数、材料等の膜自体の要因の他に、透明基板10の材料、板厚等によっても変化する。ここでは、透明基板10の板厚が「1.5mm」、そして反射多層膜12は真空蒸着法によって透明基板10に形成される場合について説明する。例えば、反射多層膜12が、3波長対応(CDの波長域の光(波長780nm近傍の光)、DVDの波長域の光(波長650nm近傍の光)、大容量光ディスクの光(波長405nm近傍の光)の3つの波長域の光の反射率を高くした反射多層膜)の場合は、2波長対応(CD及びDVDの波長域の光の反射率を高くした反射多層膜)の場合や1波長対応(CDの波長域の光の反射率を高くした反射多層膜)の場合と比べて膜応力が強くなる傾向にある。
一方、摺面を形成することにより透明基板10に作用する応力(トワイマン効果による応力)は、研磨剤を用いている場合には、研磨剤の粒度によって異なる。ここでは研磨剤の粒度の一例として、粒径7μm、粒径16μm、粒径23μmの3つを用いている。摺面の形成による応力は研磨剤の粒度が粗くなるほど(粒径が大きくなるほど)強くなるため、粒径23μmで研磨した場合に最も強い応力を作用し、粒度が細かくなるほど(粒径が小さくなるほど)弱くなるため、粒径7μmで研磨した場合に最も応力が弱くなる。
そこで、反射多層膜12が透明基板10に作用する膜応力と釣り合った粒度で摺面を形成すれば、両者の応力は相互に反対方向に湾曲しようとする応力であるため、相互に応力を完全にキャンセルすることができる。また、膜応力と釣り合っていない粒度を用いる場合でも、膜応力を完全にキャンセルすることができないまでも、膜応力の緩和機能を発揮している。このため、摺面を形成した後に、反射多層膜12の平面化の度合いが許容誤差範囲内であれば、任意の粒度を用いることができる。
次に、透明基板10の板厚、研磨剤の粒度、摺面の形成後の反射多層膜12の平面化の度合いの関係について図2のグラフを用いて説明する。同図は、反射多層膜12を透明基板10に形成した後に、異なる粒度で摺面を形成したときの反射多層膜12の平面化の度合いを示しているグラフである。同図において、平面化の度合いを中心変位(μm)で示し、図中の横軸が板厚、縦軸が中心変位を示している。
なお、中心変位が0μmの場合に、反射多層膜12は理想的に平面状態となり、中心変位の値が0μmから離れるほど、反射多層膜12の湾曲量は大きくなる。値が正の場合と負の場合とでは湾曲方向が反対になる。また、反射多層膜12としては、酸化チタンと二酸化珪素とのおおよそ30層程度の交互積層の多層膜、膜厚はおおよそ3.5nm程度であるものとする。
図中で示すグラフのうち通常状態が、全く摺面が形成されていない場合である。つまり、純粋に膜応力による湾曲量を示している。この場合、板厚が1.5mmのときには、中心変位が3μmとなり、板厚1mmのときには、中心変位がおおよそ7.5μmとなる。従って、板厚が薄いほど、反射多層膜12の膜応力によって透明基板10は大きく湾曲することになる。
次に、粒径7μmの研磨剤で摺面13を形成した場合には、図中に示されるように、板厚が1.5mmのときには、中心変位がおおよそ1μmとなり、板厚が1mmのときには、中心変位がおおよそ3μmとなる。従って、反射多層膜12の膜応力を緩和することができるため、摺面13が形成されていない場合と比較して、被成膜面10Sの湾曲量を小さくすることができる。つまり、平面化を図ることができている。
一方、粒径16μmの研磨剤で摺面13を形成した場合には、板厚が1.5mmのときには、中心変位がおおよそ0.7μmとなる。従って、粒度が粗い研磨剤で摺面13を形成する方が、さらに被成膜面10Sを平面化させることができる。
そして、粒径23μmの研磨剤で摺面13を形成した場合には、板厚が1mmのときには、中心変位がおおよそ−0.5μmとなっている。一方、板厚を0.3mm程度にまで極めて薄くした場合には、摺面の形成による応力よりも膜応力の方が勝るため、中心変位がおおよそ−2μmとなる。そして、同図から明らかなように、粒径23μmの研磨剤を用いて、板厚0.7mm程度の透明基板10に摺面を形成したときには、摺面13による応力と膜応力とがちょうど釣り合うため、反射多層膜12を完全に平面化することができる。
以上のようにして、反射ミラー1の1面(被成膜面10S)に反射多層膜12を形成し、反対の面(被摺面10R)に摺面13を形成することにより、膜応力を緩和して、反射多層膜12を平面化することができる。ここで、反射多層膜12の形成と摺面13の形成とのうち何れを先に行うかによって、膜応力の緩和量が異なる。
まず、先に摺面13を形成した後に反射多層膜12の形成を行うものについて説明する。図3に示されるように、最初に、同図(a)に示されるように、透明基板10の両面を鏡面研磨して、被成膜面10S及び被摺面10Rの両面を平面状態にする(鏡面研磨工程)。そして、同図(b)のように、被摺面10Rを摺ることにより摺面13を形成する(摺面の形成工程)。この時点では、前記のトワイマン効果により、摺面13側に透明基板10は湾曲する。最後に、同図(c)に示されるように、光学膜としての反射多層膜12を透明基板10に形成することにより(光学膜形成工程)、反射多層膜12の膜応力と摺面の形成による応力とが釣り合って、被成膜面10Sが平面化し、反射多層膜12が平面化される。
この方法を採用した場合、予め反射多層膜12を透明基板10に形成することによる湾曲量を把握しておく必要がある。予め膜応力を見越して、その分反対方向に透明基板10を湾曲させておくことによって、反射多層膜12を形成したときに平面化を図っている。この場合、画一的に透明基板10に一定の粒度の研磨剤を用いて摺面の形成することができるため、多数の透明基板10を予め一定の粒度で摺面の形成をしておき、後に反射多層膜12を形成して反射ミラーを製造することができるため、大量生産に好適である。
次に、先に反射多層膜12を形成して、後に摺面13を形成する方法について説明する。この場合も、最初に透明基板10の両面を鏡面研磨する(鏡面研磨工程)。そして、図3(d)に示されるように、被成膜面10Sに光学膜としての反射多層膜12を形成し(光学膜形成工程)、同図(e)に示されるように、被摺面10Rに摺面13を形成する(摺面の形成工程)。この場合、反射多層膜12を形成したことによって膜応力の作用を、事後的に摺面13を形成することによって緩和を図っている。そうすると、固体によって膜応力による湾曲量が異なっている場合でも、実際の湾曲量に合わせた粒度で摺面13を形成することができるため、きめ細かい精度で平面化を実現することができる。
図4に示されるように、摺面13を形成しない場合(摺面なし)に比べて、先摺り(先に摺面13を形成して、後に反射多層膜12を形成する方法)による場合は、中心変位を0μmに近づけることができ、平面化精度を高めている。しかし、後摺り(先に反射多層膜12を形成して、後に摺面13を形成する方法)は、先摺りに比べてさらに中心変位を0に近づけることができ、最も平面化精度を高めている。つまり、先摺り又は後摺りの何れの方法を採用するかは、大量生産を重視するか、平面化精度を重視するか、によって適宜選択することになる。
また、先摺りの方法又は後摺りの方法の何れの方法を採用した場合においても、摺面13を形成したときの粒度よりも粗い粒度の研磨剤又は細かい粒度の研磨剤で、再度摺面13をすることにより、反射多層膜12の平面化を図ることができる。摺面13を形成した後に、より粗い粒度の研磨剤で再度摺面13を摺ると、前記のトワイマン効果による応力が作用し、反射多層膜12の膜応力とは反対方向の応力を作用する。一方、摺面13を形成した後に、より細かい粒度の研磨剤で再度摺面13を摺ると、前記のトワイマン効果による応力を軽減し、反射多層膜12の膜応力と同じ方向の応力を作用する。
つまり、先摺りの場合であれば反射多層膜12を形成したときに、後摺りの場合であれば摺面13を形成したときに、反射多層膜12の膜応力が未だ勝っているときには、より粗い粒度で再度摺面13を摺り、トワイマン効果による応力が反射多層膜12の膜応力よりも勝っているときには、より細かい粒度で再度摺面13を摺ることにより、平面化の微調整を行うことができる(微調整工程)。この微調整工程を行うことにより、反射多層膜12の平面化を図ることができる。この微調整工程は、反射多層膜12の膜応力を摺面13の形成による応力で緩和するときに、過不足が生じている場合には、この過不足分を調整する工程となる。
以上、説明したように、光学膜が形成された被成膜面の反対の面に摺面を形成することによって、光学膜の膜応力によって被成膜面が湾曲しても、摺面の形成による応力が緩和して、光学膜の平面化を図ることができる。
光学素子の外観図である。 板厚、粒度、中心変位の関係を示すグラフである。 摺面の形成工程を先に行った場合、及び光学膜形成工程を先に行った場合の、夫々の製造工程の流れを示す図である。 先摺り、後摺りによる中心変位の関係を示す他のグラフである。
符号の説明
1 反射ミラー 10 透明基板
10R 被摺面 10S 被成膜面
12 反射多層膜 13 摺面

Claims (12)

  1. 基板の表面と裏面とで面の粗さに差を持たせて、前記表面又は前記裏面のうち粗さの細かい方の面に光学膜を形成し、前記光学膜の応力を緩和させることを特徴とする光学素子。
  2. 請求項1記載の光学素子であって、
    前記粗さの細かい方の面は鏡面研磨により仕上げて成膜面となし、この成膜面とは反対の面を摺面に形成することを特徴とする光学素子。
  3. 請求項2記載の光学素子であって、
    前記摺面は、前記光学膜が平面化されるような粒度で摺られていることを特徴とする光学素子。
  4. 請求項1乃至3何れか1項に記載の光学素子であって、
    前記光学膜は、所定の波長域の光を反射する反射多層膜であることを特徴とする光学素子。
  5. 基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    鏡面研磨した1面の反対の面を摺ることにより摺面を形成する摺面形成工程と、
    前記摺面形成工程の後に行われる工程であって、前記鏡面研磨された1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、を有し、
    前記基板に対する前記光学膜の応力を、前記摺面が緩和して、前記光学膜を平面化することを特徴とする光学膜平面化方法。
  6. 基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    鏡面研磨した1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、
    前記光学膜形成工程の後に行われる工程であって、前記光学膜が形成される面の反対の面を摺ることにより摺面を形成する摺面形成工程と、を有し、
    前記基板に対する前記光学膜の応力を、前記摺面が緩和して、前記光学膜を平面化することを特徴とする光学膜平面化方法。
  7. 請求項5又は6記載の光学膜平面化方法であって、
    前記摺面を形成するときには、前記基板が平面化されるような粒度で摺ることを特徴とする光学膜平面化方法。
  8. 請求項7記載の光学膜平面化方法であって、
    前記摺面形成工程で摺面を形成した粒度よりも粗い粒度又は細かい粒度で、前記摺面を摺ることにより、前記成膜面をさらに平面に近づけるような微調整を行う微調整工程を行うことを特徴とする光学膜平面化方法。
  9. 基板の鏡面研磨された1面に光学膜が形成され、この光学膜が形成された面の反対の面に摺面を形成することにより前記光学膜の応力を緩和した光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
    前記基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    鏡面研磨した1面の反対の面に摺面を形成する摺面形成工程と、
    前記摺面形成工程の後に行われる工程であって、前記鏡面研磨された1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
  10. 基板の鏡面研磨された1面に光学膜が形成され、この光学膜が形成された面の反対の面を摺ることにより摺面を形成することにより前記光学膜の応力を緩和した光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
    基板の少なくとも1面を鏡面研磨する鏡面研磨工程と、
    鏡面研磨した1面に光学膜を形成する光学膜形成工程と、
    前記光学膜形成工程の後に行われる工程であって、前記光学膜が形成される面の反対の面に摺面を形成する摺面形成工程と、を有し、
    前記基板に対する前記光学膜の応力を、前記摺面が緩和して、前記光学膜を平面化することを特徴とする光学素子の製造方法。
  11. 請求項9又は10記載の光学素子の製造方法であって、
    前記摺面を形成するときには、前記基板が平面化されるような粒度で摺ることを特徴とする光学素子の製造方法。
  12. 請求項11記載の光学素子の製造方法であって、
    前記摺面形成工程で摺面を形成した粒度よりも粗い粒度又は細かい粒度で、前記摺面を摺ることにより、前記光学膜による応力を緩和して、前記成膜面をさらに平面に近づけるような微調整を行う微調整工程を行うことを特徴とする光学素子の製造方法。
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