JP2008224405A - 腐食速度評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ACMセンサの設置箇所での腐食速度に基づいてACMセンサの設置されていないエリアの腐食速度を精度よく求めることができる腐食速度評価方法を提供することである。
【解決手段】金属材料の腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子と地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求める。
【選択図】 図1

Description

本発明は、屋外に設置された金属材料の腐食劣化を評価するための腐食速度評価方法に関する。
広範囲の地域に点在して屋外に設けられる金属材料を用いた設備としては、例えば、鋼や亜鉛めっき、アルミニウムを用いた変圧器、鉄塔、構造部材、電線がある。このような電力設備に対して、その金属材料の腐食速度を評価し適切かつ効率的にメンテナンスすることは近年非常に重要になっている。金属材料の腐食速度の定量的評価は、通常、暴露試験により行われる。最近は、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)センサ(大気腐食センサ)により大気環境のモニタリングを行い、腐食速度の評価を行うようになってきた。これは、ACMセンサによる大気環境のモニタリングは、暴露試験に比べて短時間かつ簡便に腐食速度の定量的評価が可能となるからである。
ここで、金属材料の腐食性をぬれ時間TOW(time of wetness)で評価するにあたり、ISO(International Standard Organization)の標準基準では、1年間を通して気温0℃以上で相対湿度が80%以上である時間をぬれ時間としている。
評価対象の所在地に応じたぬれ時間、塩分付着量、及び亜硫酸ガス量を考慮して、屋外に設置された金属性部材の腐食劣化を精度良く予測評価できるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のものは、ISOの標準基準のように一律に相対湿度を80%以上とするものではなく、水分による腐食を評価するために例えば湿度80%以上のぬれ時間T1を用い、塩分付着による腐食を評価するために例えば湿度70%以上のぬれ時間T2を用い、亜硫酸ガスによる腐食を評価するために例えば湿度60%以上のぬれ時間T3を用いるものである。
特開2005−337838号公報
しかし、ACMセンサによる腐食速度の評価は、ACMセンサを設置した箇所での評価となるため、ACMセンサのみで広範囲な地域に設置される設備の金属材料の腐食速度(腐食性)を評価することは困難である。鉄塔や変圧器等の電力設備は広い地域に広範囲に点在しているため、腐食速度評価もその電力設備が設置された広範囲をカバーするものであることが必要である。
ACMセンサのみで広範囲な地域に設置された設備の金属材料の腐食速度を評価するには、多数のACMセンサを広範囲の地域に点在して設置し、多数のACMセンサで得られた腐食速度を集計し、広範囲な地域の腐食性(腐食速度)を評価しなければならない。そのため、多大な労力、コスト、時間を要することになり、多数のACMセンサを広範囲の地域に点在して設置し測定データを集計することは現実的ではない。
また、特許文献1のものでは、ぬれ時間は、湿度がしきい値(80%以上、70%以上、60%以上)を超えたか否かで求められるので、しきい値の近傍でしきい値を超えない状態が長時間継続した場合であっても、ぬれ時間は零と評価される。湿度60%以下でも金属材料の表面の付着物や錆びの状態によって、材料表面が濡れた状態になり腐食を生じる。従って、ぬれ時間が精度よく考慮されたものではないので、腐食劣化の予測評価も精度が落ちることになる。
本発明の目的は、ACMセンサの設置箇所での腐食速度に基づいてACMセンサの設置されていないエリアの腐食速度を精度よく求めることができる腐食速度評価方法を提供することである。
請求項1の発明に係わる腐食速度評価方法は、金属材料の腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子や地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求めることを特徴とする。
請求項2の発明に係わる腐食速度評価方法は、請求項1の発明において、前記仮想ぬれ時間の重み付けは、相対湿度に加え金属材料への付着物の種類と量も考慮に入れて重み付けをすることを特徴とする。
請求項3の発明に係わる腐食速度評価方法は、請求項1または2の発明において、前記仮想ぬれ時間の重み付けは、腐食速度を推定演算する対象エリアごとにその対象エリアの環境、気象条件と地形条件を考慮に入れて重み付けをすることを特徴とする。
請求項4の発明に係わる腐食速度評価方法は、請求項1または2の発明において、前記仮想ぬれ時間の重み付けは、前記ACMセンサで検出した金属材料の腐食速度、暴露試験で求めた金属材料の腐食速度、または実際の金属材料の腐食状況から求めた腐食速度に基づいて重み付けをすることを特徴とする。
請求項5の発明に係わる腐食速度評価方法は、請求項1ないし4のいずれか1項の発明において、前記推定演算して求めた金属材料の腐食速度に基づいて、広範囲な地域における金属材料の腐食速度マップを作成することを特徴とする。
本発明によれば、金属材料の腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子や地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求めるので、非測定エリアの金属材料の腐食速度を精度よく求めることができる。
また、金属材料への付着物の種類と量や対象エリアの環境,気象条件と地形条件を考慮して仮想ぬれ時間の重み付けを変化させるので、付着量や非測定エリアの環境条件に応じた精度のよい腐食速度を求めることができる。また、推定演算して求めた非測定エリアの腐食速度に基づいて、広範囲な地域における金属材料の腐食速度分布のマップを作成するので、広範囲な地域における金属材料の腐食速度を容易に把握できる。
本発明の実施の形態では、金属材料の腐食速度を求めるにあたり重回帰分析法を用い、目的変数を腐食速度とし説明変数を環境因子や地形因子とし、説明変数の一つとして、少なくとも相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、目的変数である腐食速度の推定式を求める。重回帰分析法はいくつかの説明変数X1〜Xnに基づいて目的変数Yを求めるものであり、その重回帰式は、a1〜anを係数、bを定数としたとき、下記の(1)式で示される。
Y=a1・X1+a2・X2+…an・Xn+b …(1)
目的変数Yである腐食速度を複数箇所の特定の測定点で測定し、また、その測定点での説明変数X1〜Xnを取得し、その説明変数の一つとして、少なくとも相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含める。この場合の仮想ぬれ時間TOWaは、一例として下記の(2)式で示される。α1〜α5は重み係数、T1〜T5はある相対湿度の値の幅に応じた時間である。例えば、T1は相対湿度が100%〜80%であるときの時間、T2は相対湿度が80%〜60%であるときの時間、T3は相対湿度が60%〜40%であるときの時間、T4は相対湿度が40%〜20%であるときの時間、T5は相対湿度が20%〜0%であるときの時間である。
TOWa=α1・T1+α2・T2+α3・T3+α4・T4+α5・T5 …(2)
そして、測定した腐食速度及び説明変数のデータに基づいて、最小二乗法や正規方程式を用いて(1)式の係数a1〜an及び定数bを求め、目的変数である腐食速度の推定式を求める。
ここで、相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を説明変数に含めるようにしたのは、相対湿度が低い場合であっても金属材料の腐食に影響を与えることがあり、また、逆に相対湿度が高くても、例えば雨洗効果により金属材料の腐食に影響を与えない場合などがあり、これらを考慮し金属材料の実際の腐食速度により近似させるためである。また、金属材料は、亜鉛めっき、鋼(鉄)部材、アルミや銅などである。
図1は本発明の実施の形態に係わる腐食速度評価方法の一例を示すフローチャートである。まず、特定の測定点での目的変数である金属材料の腐食速度を測定する(S1)。金属材料の腐食速度の測定は、例えば、鋼、亜鉛めっき、アルミニウムを用いた変圧器、鉄塔、構造部材、電線の近傍にACMセンサを設置し、ACMセンサの設置箇所での腐食速度を検出する。
次に、(1)式の重回帰式を用いるにあたり説明変数を選択する(S2)。その際に、少なくとも、(2)式に示した相対湿度による重み付けをした仮想ぬれ時間を含める。
そして、測定した腐食速度、その測定点での選択した説明変数のデータに基づいて、最小二乗法や正規方程式を用いて(1)式の係数a1〜an及び定数bを求め、目的変数である腐食速度推定式を作成する(S3)。作成した腐食速度推定式に、非測定点での説明変数のデータを代入して非測定点での腐食速度を推定演算する(S4)。推定演算した非測定点での腐食速度に基づいて広範な領域の腐食速度分布を作成する(S5)。
図2は、図1のステップS1での金属材料の腐食速度を測定するACMセンサの説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は図2(a)のA−A’線での断面図である。ACMセンサ11は二つの異種金属を互いに絶縁した状態で樹脂中に埋め込み、両者の端部を環境へ露出して、両金属間に水膜が連結したときに流れる腐食電流を測定して金属の腐食速度を測定するものであり、大気環境の腐食性を定量的に評価するものである。
すなわち、図2に示すように、鋼基板12の表面に絶縁部材13及び導電部材(例えばAg)14を積層し、鋼基板12と導電部材14とからそれぞれ導線15、16を介して電流計測器17に接続して構成される。 このACMセンサ11の設置された環境が乾燥状態で表面に何も堆積していないときには、絶縁部材13により鋼基板12と導電部材14とが絶縁されているので、その間に電位は発生せず電流は計測されない。一方、ACMセンサ11の表面の導電部材(Ag)14と鋼基板(Fe)12とを絶縁して配置した部分に、図2(b)に示すように、雨や露により水膜18が形成されると、両金属間を水膜18が連結され、金属間に電位差が発生する。この電位差によりガルバニック電流が生じ、このガルバニック電流は、鋼材料や亜鉛材料の腐食量に対して相間があることから、ガルバニック電流を測定して腐食速度を定量評価することになる。
金属の腐食性に影響を与える因子としては、温度、湿度、降雨、大気中を飛来している海塩や腐食性ガス(SOx)などが挙げられるが、ACMセンサ11は、これら複雑な環境因子により電気化学的に発生する鋼の腐食電流を直接計測することができるので、ACMセンサ11の出力電流値を解析することにより、環境の腐食性を直接的かつ定量的に評価することができるものである。
以上の説明では、金属材料の腐食速度をACMセンサ11で測定して求めるようにしたが、暴露試験で求めた金属材料の腐食速度、または実際の金属材料の腐食状況から求めた腐食速度を用いるようにしてもよい。
次に、図3は、図1のステップS2での説明変数を選択する内容の詳細フローチャートである。説明変数を選択するにあたっては、本発明の実施の形態では、まず、最初に(1)式に示した重回帰式に取り入れる説明変数として、相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間TOWaを選択する(S11)。次に、重回帰式に取り入れるその他の説明変数の候補を抽出し(S12)、抽出した説明変数を絞り込み適した説明変数を選択する(S13)。
図3のステップS11で選択する仮想ぬれ時間TOWaは、例えば、(2)式で示されものである。以下、この仮想ぬれ時間TOWaについて説明する。図4は、金属材料の腐食速度と相対湿度との関係の一例を示すグラフである。ACMセンサ11を設置したある測定点でのグラフであり、相対湿度が低いときは腐食速度も小さく、相対湿度が高くになるにつれて腐食速度も大きくなっている。そこで、図4に示すように、相対湿度が100%〜80%であるときの重み係数をα1、相対湿度が80%〜60%であるときの重み係数をα2、相対湿度が60%〜40%であるときの重み係数をα3、相対湿度が40%〜20%であるときの重み係数をα4、対湿度が20%〜0%であるときの重み係数をα5とし、相対湿度に応じて異なる重み係数αを用意する。
そして、相対湿度が高くなるほど重み係数αを大きくし相対湿度が低くなるほど重み係数αを小さくする。例えば、α1は0.9、α2は0.7、α3は0.4、α4は0.1、α5は0とする。これにより、相対湿度が低いときはその時間が長くても小さな重み係数をかけてぬれ時間を短くし、相対湿度が高いときはその時間が短くても大きな重み係数をかけてぬれ時間を長くする。このようにするのは、相対湿度が高いほど金属材料の表面がぬれている確率が高く、逆に相対湿度が低いほど金属材料の表面がぬれていない確率が高いからである。仮想ぬれ時間TOWaを求めるにあたっては、(2)式に示すように、これら相対湿度による重み係数α1〜α5を各々の相対湿度の値の幅に応じた時間T1〜T5に乗算して仮想ぬれ時間TOWaとする。
図5は、金属材料への付着物の種類と量をパラメータとした金属材料の腐食速度と相対湿度との関係の一例を示すグラフである。ACMセンサ11を設置したある測定点でのグラフであり、曲線C1は付着物量が少なく、曲線C2、C3、C4の順に付着物量が多くなった場合を示している。曲線C1〜C4は付着物の種類や複数の付着物の腐食への相乗効果によって変化する。曲線C1〜C4のいずれの場合も、相対湿度が低いときは腐食速度も小さく、相対湿度が高くになるにつれて腐食速度も大きくなっているが、金属材料への付着物量が多くなるにつれて金属材料の腐食速度も大きくなっている。
このように、金属材料への付着物量に応じて金属材料の腐食速度が変化することから、仮想ぬれ時間TOWaを求めるにあたって、相対湿度に加え金属材料への付着物量も考慮に入れて重み付けを行う。この場合、同じ相対湿度であるときは、付着物量が多くなるほど重み係数αを大きくし付着物量が少なくなるほど重み係数αを小さくする。例えば、付着物量が多い曲線C4の場合には、α14は0.95、α24は0.75、α34は0.45、α44は0.15、α54は0とし、付着物量が少ない曲線C1の場合には、α11は0.85、α21は0.65、α31は0.35、α41は0.05、α51は0とする。仮想ぬれ時間TOWaを求めるにあたっては、付着物量に応じて相対湿度による重み係数α1i〜α5iを定め、(2)式に示すように、これら相対湿度による重み係数α1i〜α5iを各々の相対湿度の値の幅に応じた時間T1〜T5の乗算して仮想ぬれ時間TOWaとする。図3のステップS11では、このようにして求められる相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間TOWaを説明変数として選択する。
以上の説明では、同じ相対湿度であっても付着物量により重み係数αを変化させる場合について説明したが、金属材料の腐食速度を推定演算する対象エリアごとに、その対象エリアの環境条件を考慮に入れて重み付けをするようにしてもよい。環境条件としては、例えば、SOxやNOxが多いエリアではSOxやNOxを考慮に入れた重み係数αする。
また、図4及び図5に示した金属材料の腐食速度と相対湿度との関係の一例を示すグラフの金属材料の腐食速度は、ACMセンサで検出した金属材料の腐食速度に代えて、暴露試験で求めた金属材料の腐食速度、または実際の金属材料の腐食状況から求めた腐食速度を用いるようにしてもよい。
次に、図3のステップS12では、この仮想ぬれ時間TOWa以外の説明変数の候補を抽出する。説明変数の候補の抽出は、目的変数である腐食速度を推定演算するにあたり、その目的変数である腐食速度に関連すると思われる説明変数を抽出することになる。
図6、図7は、図3のステップS11、S12で抽出した説明変数の一例の説明図である。図7では、目的変数である腐食速度を推定演算するにあたり、関連する説明変数として、気象因子(5因子)と地形因子(10因子)を抽出した一例を示している。図7に示すように、気象因子として、平均温度、波浪、波浪(重み付け)、湿度による重み付けした仮想ぬれ時間、積算降水量が抽出され、地形因子として、緯度、経度、標高、曲率(地形の凹凸)、海距離、海度(海の占める割合)、前方障害度、中間障害標高、地点中間距離、中間海距離が抽出された場合を示している。
次に、図3のステップS13での説明変数の絞り込り込みについて説明する。説明変数の絞り込みにあたっては、目的変数である金属材料の腐食速度との単相関の有無及び説明変数間での多重共線性の有無を検討して説明変数の一次絞り込みを行い、その後に変数減少法により二次絞り込みを行う。
まず、単相関の有無及び多重共線性の有無を検討による一次絞り込みについて説明する。単相関とは目的変数と単独で相関関係があるかどうかの関係であり、多重共線性とは説明変数間で強相関等があるかどうかの関係である。図7に示すように、気象因子(5因子)及び地形因子(10因子)はすべて腐食速度と単相関の関係があるので○印を付けられ、一方、多重共線性があるものには○印が付されている。目的変数である腐食速度と単相関の関係がありかつ多重共線性がない説明変数が総合判定で○印で示されている。
つまり、単相関及び多重共線性の有無の検討により、気象因子の説明変数は、平均温度、波浪(重み付け)、湿度による重み付けした仮想ぬれ時間の3因子に絞り込まれ、地形因子の説明変数は、経度、標高、曲率(地形の凹凸)、海距離、海度(海の占める割合)、前方障害度の6因子に絞り込まれる。
次に、変数減少法による説明変数の二次絞り込みについて説明する。単相関及び多重共線性の有無の検討により絞り込まれた説明変数に対し、さらに変数減少法を用いて説明変数の絞り込みを行う。変数減少法では、一次絞り込みにより絞り込まれたすべての説明変数を含む重回帰式を作り、次に、その中から最も予測に有効でない説明変数を除去し、予測精度の低下が一定限度以内である間はこの操作を繰り返し説明変数の絞り込みを行う。
図8は、図3のステップS13で絞り込まれた説明変数の一例の説明図である。図8では、単相関の有無及び多重共線性の有無を検討による一次絞り込みにより絞り込まれた気象因子(3因子)及び地形因子(6因子)の説明変数に対し、変数減少法により気象因子(3因子)が湿度による重み付けした仮想ぬれ時間Xaの1因子に絞り込まれ、地形因子(6因子)が海度(海の占める割合)Xbの1因子に絞り込まれた場合を示している。
このようにして、目的変数Yを腐食速度Y1とする重回帰式の説明変数Xa、Xbを絞り込み、(1)式に代入すると、下記(3)式で示される腐食速度推定式が得られる。a1、a2は各々の説明変数X1、X2の係数、bは定数である。
Y1=a1・Xa+a2・Xb+b …(3)
説明変数X1、X2の係数a1、a2や定数bは、測定した腐食速度及び説明変数X1、X2のデータに基づいて、最小二乗法や正規方程式を用いて求められる。
次に、(3)式の腐食速度推定式を用いて、金属材料の腐食速度の非測定点での説明変数Xa、Xbのデータを代入して非測定点での腐食速度を推定演算する。(3)式の腐食速度推定式には、少なくとも説明変数の一つとしてで相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間Xaが含まれているので、非測定エリアの金属材料の腐食速度を精度よく求めることができる。
ISO基準のぬれ時間TOWを用いて腐食速度の推定を行った場合には、大きく分けて次のような2つの問題点があるが、本発明によれば、これらの問題点を改善できることになる。
まず、雨が多いエリアでは、付着物の量に関係なく腐食速度が大きく評価される傾向にあり、特に、多雨の山岳地帯では現実離れしたほど過大評価される場合がある。これは、雨洗効果(降雨時には塩化物などの付着物が流されて、金属腐食しにくくなること)を考慮していないためである。相対湿度が高くなれば腐食しやすくなるが、相対湿度が100%に到達し、かつ降雨時には逆に腐食しにくくなる場合がある。本発明では、対象エリアの年間降雨時間等を考慮して湿度100%を含む時間帯の重み係数を低減させることで、この問題に対応することができる。
逆に、ISO基準のぬれ時間TOWを用いた場合には、沿岸地帯で腐食速度が小さく評価される場合もある。沿岸地帯では、相対湿度が80%を大幅に下回る条件下でも金属腐食が発生することがある。これは、付着物の種類によっては、潮解現象が80%より低い相対湿度で発生するためと考えられる。潮解とはある物質が大気中の水分を吸って水溶液となる現象のことである。付着物が金属材料表面で潮解することにより、金属材料表面に電解質膜が形成され腐食電流が流れ、金属腐食しやすくなる。また埃や不溶性の大気浮遊物質などが付着した金属材料表面や錆びが生成した金属材料表面では、低湿度であっても多孔質の埃や錆が物理的に大気中の水分を毛管現象により吸着するため、金属材料表面に水膜や電解質膜が形成され腐食電流が流れ、金属腐食しやすくなる。例えば、純度の高い塩化ナトリウムの潮解相対湿度は約80%であるため、付着物が全て純塩の場合にはISO基準のぬれ時間TOWも用いても問題ない可能性がある。しかし、実際の海塩には、塩化マグネシウム(潮解相対湿度は約34%)、塩化カルシウム(潮解相対湿度は約32%)などが含まれており、これらの潮解相対湿度は塩化ナトリウムよりも低い。このため、沿岸地域では、相対湿度40%を下回る条件下でも金属腐食することがあるものと推定される。本発明では、ACMセンサなどの実測値に基づいて、低い相対湿度の段階から0以上の重み係数を付与してぬれ時間を算定することができるため、特に様々な塩を含む海塩の飛来量が多い沿岸地域、塩化カルシウムなどを主成分とする融雪塩が散布される山間部や道路及び埃などの多い環境などでの腐食速度予測精度を向上させることができる。
また、(3)式の腐食速度推定式により推定演算した非測定点での腐食速度を広範な地域の腐食速度分布としてマップを作成する。図9は広範な地域の腐食速度分布のマップ19の一例を示す平面図である。海20を含んだ地図上に等高線で金属材料の腐食速度分布を表示する。これにより、対象エリアの全域の広範囲をカバーする腐食速度分布のマップ19の表示が可能となり、例えば、海岸に近いところでは高い腐食速度であることや海岸から離れた箇所であっても湿度の高い箇所では比較的に高い腐食速度であることなどが容易に把握できる。
本発明の実施の形態によれば、金属材料の腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子や地形因子を説明変数とする重回帰分析を用いて、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含めて、腐食速度推定式を求めるので、非測定エリアでの金属材料の腐食速度も精度よく求めることができる。
また、金属材料への付着物の種類と量や対象エリアの環境条件を考慮して仮想ぬれ時間の重み付けを変化させるので、非測定エリアの環境、気象条件、地形条件に応じた精度のよい腐食速度を求めることができる。また、推定演算して求めた非測定エリアの腐食速度に基づいて、広範囲な地域における金属材料の腐食速度マップを作成するので、広範囲な地域における金属材料の腐食速度を容易に把握できる。
本発明の実施の形態に係わる腐食速度評価方法の一例を示すフローチャート。 図1のステップS1での金属材料の腐食速度を測定するACMセンサの説明図。 図1のステップS2での説明変数を選択する内容の詳細フローチャート。 金属材料の腐食速度と相対湿度との関係の一例を示すグラフ。 金属材料への付着物量をパラメータとした金属材料の腐食速度と相対湿度との関係の一例を示すグラフ。 図3のステップS11で抽出した説明変数の一例の説明図。 図3のステップS12で抽出した説明変数の一例の説明図。 図3のステップS13で絞り込まれた説明変数の一例の説明図。 広範な地域の腐食速度分布のマップの一例を示す平面図。
符号の説明
11…ACMセンサ、12…鋼基板、13…絶縁部材、14…導電部材、15…導線、16…導線、17…電流計測器、18…水膜、19…マップ、20…海

Claims (5)

  1. 金属材料の腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子と地形因子を説明変数とする重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度による重み付けした仮想ぬれ時間を含め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を求め、求めた腐食速度推定式に基づいて非測定エリアの金属材料の腐食速度を推定演算して求めることを特徴とする腐食速度評価方法。
  2. 前記仮想ぬれ時間の重み付けは、相対湿度に加え金属材料への付着物量も考慮に入れて重み付けをすることを特徴とする請求項1記載の腐食速度評価方法。
  3. 前記仮想ぬれ時間の重み付けは、腐食速度を推定演算する対象エリアごとにその対象エリアの環境、気象条件と地形条件を考慮に入れて重み付けをすることを特徴とする請求項1または2に記載の腐食速度評価方法。
  4. 前記仮想ぬれ時間の重み付けは、前記ACMセンサで検出した金属材料の腐食速度、暴露試験で求めた金属材料の腐食速度、または実際の部材を構成する金属材料の腐食状況から求めた腐食速度に基づいて重み付けをすることを特徴とする請求項1または2に記載の腐食速度評価方法。
  5. 前記推定演算して求めた金属材料の腐食速度に基づいて、広範囲な地域における金属材料の腐食速度マップを作成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の腐食速度評価方法。
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