JP4151385B2 - 異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法及び寿命予測方法、構造物の設計方法及び金属材の製造方法 - Google Patents

異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法及び寿命予測方法、構造物の設計方法及び金属材の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測及び寿命予測方法構造物の設計方法及び金属材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
2種の異なる金属が接触する部位を有する構造物において、2種の金属のうち卑な金属部が優先的に腐食される現象は異種金属接触腐食と呼ばれ、しばしば構造物を著しく損傷する。この異種金属接触腐食について、海水などに浸漬された環境ではこのような腐食速度を計測し、解析した例がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、大気環境における異種金属接触腐食の腐食速度を計測する技術は従来なかった。腐食における大気環境とは、異種金属上に形成される薄い水膜環境であり、浸漬環境のように全体が水溶液に浸っていないため、電気化学的なモデルを構成することが困難であり、上述のような海水中のモデルを直接適用することができなかった。このため、大気環境における異種金属接触腐食の腐食速度を求めることは専ら経験やノウハウに依存しており、定量的に求めることはできなかった。
【0004】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、異種金属接触腐食を高精度に予測することを可能にした異種金属接触腐食による金属材の腐食量及び寿命予測方法構造物の設計方法及び金属材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の一つの態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は、複数の実環境において、絶縁材を介して接合された2種の金属片を外部接触させたときに流れる電流及びその経時的な推移を計測する第1の工程と、前記第1の工程において計測された電流の経時的な推移に基づいて、前記2種の金属片の内、複数の実環境における卑な金属の異種金属接触腐食の進行を予測する第2の工程と、前記複数の実環境において、前記2種の金属片の近傍又は周囲の環境因子を測定する第3の工程と、前記複数の実環境における環境因子と前記腐食の進行の予測とに基づいて、前記環境因子における腐食の進行を予測する第4の工程とを有し、前記2種の金属片の内、貴な金属には、異種金属腐食電流が飽和して最大値が一定となるような、所定値以上の面積を有するものを用いる。なお、本発明における金属材とは、部品、部材、及び部品・部材に適用しようとする金属材料を含むものである。
【0008】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は前記環境因子が複数ある場合に、前記環境因子と腐食量との相関係数が相対的に大きなものを支配的環境因子とし、前記第4の工程においては前記支配的環境因子における腐食の進行を予測する。
【0009】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は対象となる実構造物又はその実構造物を模擬した構造物(以下実構造物等という)の中又はその表面に設けられる基準位置、又は前記実構造物等の外に設けられた基準位置で計測した腐食量を基準値とし、前記実構造物等における各部位で測定した腐食量と、前記基準値との比を部位係数としたときに、前記基準値と所定の環境因子との対応関係と前記部位係数とに基づき、前記測定地域とは異なる地域における前記実構造物等の各部位の腐食量を求める。
【0010】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は前記所定の環境因子を飛来海塩量とする。
【0011】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法において、前記環境因子の計測は、少なくとも1ヶ月とする。
【0012】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法おいて、前記環境因子は、飛来海塩量、温度、湿度、日光照射量又はSOxである。
【0013】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は、腐食量の予測に際して、予め評価する地域を類似する環境の地域に区分してから実行する。
【0014】
発明の他の態様に係る異種金属接触による金属材の腐食量予測方法は、環境因子と異種金属接触腐食による金属材の腐食の進行との関係を示すデータを予め求めておいて、前記データと、対象となる実構造物の施工予定地域の環境因子とに基づいて、前記実構造物等における異種金属接触腐食による金属材の腐食量を予測する。
【0015】
発明の他の態様に係る異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法は、各地域における各種の異種金属接触腐食による金属材の腐食量の予測値をデータベース化しておく。
【0016】
発明の他の態様に係る異種金属接触腐食による金属材の寿命予測方法は、上記の金属材の腐食量予測方法に予測された腐食量に基づいて金属材の寿命を予測する。
【0017】
発明の他の態様に係る異種金属接触腐食による金属材の寿命予測方法は、2種類の金属の接合構造に対応した減肉量を算出して寿命予測を行う。
【0021】
本発明の他の態様に係る構造物の設計方法は、上記の寿命予測方法により腐食の進行が予測された1組以上の金属材から、実構造に適用するための金属材を選定する。
【0022】
本発明の他の態様に係る金属材の製造方法は、上記の構造物の設計方法により設計された金属材を製造する。
【0023】
【発明の実施の形態】
実施形態1.
図2は異種金属接触腐食の現象を説明するための図である。貴な金属S1と卑な金属S2とが接触すると、両者の間には図示のような電位分布が生じる。貴な金属S1と卑な金属S2との上にそれらを跨るようにして水膜10が形成されると、電流回路が形成されることになり、貴な金属S1と卑な金属S2との間には図示のような分布の電流が流れることになる。この電流が流れることによって、2種の金属のうち卑な金属部S2が腐食され、その腐食量は貴な金属S1に流れる電流(異種金属腐食電流)に依存することが海水モデルの例から知られている。
【0024】
図1は図2の異種金属接触腐食の現象を利用したセンサの構成図である。貴な金属S1と卑な金属S2との間に絶縁部材11を挿入して、金属S1とS2との間で電流が直接流れないようにする。この絶縁部材11は金属S1,S2間を絶縁するためのものであり、出来るだけ薄いことが望ましい。また、貴な金属S1と卑な金属S2との間に電流計(ガルバニック電流計)12を接続して両者を外部接触させたときに流れる電流を計測する。図1の説明から明らかなように、金属S1とS2との間に流れる電流を計測するのが望ましいわけであるが、それは計測できないので、上記のように金属S1とS2との間に絶縁部材10を挿入し、そこに流れる電流を電流計(ガルバニック電流計)12に流すようにしており、金属S1とS2とを跨るようにして水膜10が形成されると、電流計(ガルバニック電流計)12に電流(異種金属腐食電流)が流れる。
【0025】
図3は図1のセンサにおいて貴な金属S1の面積(長さ)と異種金属腐食電流との関係を求めるために用意された複数の面積(長さ)のものS1a乃至S1cの説明図である。図3に示された貴な金属S1の複数の面積(長さ)のものS1a乃至S1cのそれぞれについて電流計12に流れる電流を計測することにより、貴な金属S1に流れる異種金属腐食電流の分布(最大電流imax、長さl)を求める。なお、本実施形態1においては貴な金属S1a乃至S1cの幅Aは一定であるから面積と長さとは同義である。
【0026】
図4は貴な金属の面積(長さ)と異種金属腐食電流との関係を示した特性図である。同図に示されるように、金属の面積(長さ:l)が所定値以上になると、異種金属腐食電流は飽和して最大値が一定値になる(この異種金属腐食電流の最大値は図1の斜線部の面積に相当する)。卑な金属S2の腐食量はその最大値に依存するので、図1のセンサの貴な金属S1の面積(長さ)は所定の面積(長さ)以上であればよいことが分かる。
【0027】
図5は図4の特性の経時的な変化を示した特性図である。図1のセンサの上に形成される水膜10は、時間の経過に従って腐食生成物が生じるとその伝導率が低くなり異種金属腐食電流の最大値(imax)は時間の経過に従って小さくなる。
【0028】
図6は経時年数(暴露時間)と図5の異種金属腐食電流の最大値との関係を示した特性図である。図5の最大値を経時的にプロットし、それを適当な線型モデル(回帰式)に変換することにより、経過年数と異種金属腐食電流の最大値との関係を示した特性式を得ることができる。このようにして図6の特性図が得られ、将来に亘る異種金属腐食電流の最大値の予測値が求められる。
【0029】
図7は経過年数と腐食量との関係を示した特性図である。ここでは、異種金属腐食電流の最大値に基づいて腐食量を算出しているが、その算出に際しては次のような処理を行う。
【0030】
imaxは経時的に減少し、
imax=atb …(1)
但し、a,bは経時的に測定されたimaxから決定される定数であり、
−1≦b<0
である。また、電気量Cは、
C=∫imax (t) dt=a/(b+1)×t(b+1) …(2)
で与えられる。
【0031】
ファラデー(Faraday)の法則を用いて、
ΔW=M/n・C/F
ΔW:質量減量(腐食量)
M:原子量
n:価数
F:ファラデー定数=96485[C/g]
で求められる。
ΔWは経時的に増加し、
ΔW(t)=M/n・C/F=(M/nF)×a/(b+1)×t(b+1) …(3)
の数式で表される。
【0032】
以上のようにしてΔW:質量減量、即ち腐食量を求めることにより、将来に亘る腐食量の予測値が求められる。この腐食量の予測値により、貴な金属S1と卑な金属S2との接合構造における寿命予測が可能になっている。
【0033】
なお、本実施形態1においては、貴な金属S1及び卑な金属S2を特定しないで説明したが、両者は相対的な関係にあり、その関係が成り立つ2種の金属に対しては何れの場合においても本実施形態1が適用される。
【0034】
実施形態2.
図8は本発明の実施形態2に係る金属材等の設計方法、製造方法等の処理過程を示したフローチャートである。本実施形態2においては、上記の実施形態1の計測原理を更に発展させたものである。
【0035】
(S11)図1のセンサによって各地域(A,B,C…)における腐食量の推定を行って、図6の特性を各地域毎に求める。ここでは、例えば貴な金属としてステンレス鋼、卑な金属として鉄、その他の各種の組み合わせについての腐食量の推定をするものとする。
【0036】
図9(A)乃至(C)は各地域(A,B,C)における或る特定の2種の異種金属接触における腐食量の推定を行った際の特性図である。
【0037】
(S12)各地域(A,B,C…)の環境因子を計測する。環境因子としては例えば飛来海塩量、温度、湿度等があるが、これらを各地域(A,B,C…)毎に所定期間(最低1ヶ月以上)計測して平均値を求める。
【0038】
図10は各地域(A,B,C…)において計測された環境因子(平均値)をリストした例を示した図である。
【0039】
なお、その地域は例えば、沿岸部、山間部、都市部等に分類されているものとする。予測に際しては、ある程度、調査する地域を類似する環境の地域に区分評価するのが好ましい。類似する環境とは気温や気温の変化が似かよった地域、湿度や温度の変化が似かよった地域等を言う。国内を例にとれば北海道、沖縄南西諸島、太平洋沿岸等の区分である。このように区分し評価すれば簡便かつ、短期間に寿命予測を行うことができ、予測の精度も上がる。
【0040】
(S13)環境因子を分類・定量化して支配的環境因子を決定する。この工程においては、上述のデータ(図9、図10)から、飛来海塩量、温度、湿度、等の環境因子を収集して、環境因子を腐食量に対してプロットして後述の演算処理をすることにより、両者の相関係数(決定係数)を求めて、その相関係数(決定係数)が相対的に大きいものが、腐食速度を支配している支配的環境因子であると決定する。
【0041】
図11は飛来海塩量と腐食量との関係を示した特性図であり、上述のデータ(図9、図10)から、例えば図9の経過年数が3年、5年についての腐食量をそれぞれ抽出し、更に図10から各地域における飛来海塩量を抽出することにより、経過年数を3年、5年をパラメータとする飛来海塩量と腐食量との関係を求める。また、他の経過年数について同様にして求めておくものとする。更に、温度及び湿度についても図11と同様な特性を求めておいて、次の処理を行う。
【0042】
ここで、支配的環境因子の決定方法を具体的に説明する。環境因子(独立変数)X、腐食量(従属変数)Yについてそれぞれの対数を取って、線形モデルに変換して回帰分析を行う。更に、(3)式の相関係数(決定係数)R2を次の(4)式により求める。
logY=α+βlogX …(3)
【0043】
【数1】
Figure 0004151385
【0044】
上記の(3)式の定数α,βを求めるに際しては、環境因子である飛来海塩量、湿度、温度等のそれぞれについて求める。図11の例では例えば5年経過の腐食量及び飛来海塩量を上記の(3)式に適用して、上記の定数α、βをそれぞれ求めるとともにその相関係数(決定係数)を求める。また、湿度、温度等についても同様にしてその相関係数を求める。
【0045】
上記のようにして飛来海塩量、湿度、温度のそれぞれの相関係数(決定係数)が求まると、相互の大きさを対比して、決定係数が1番大きな値を示した環境因子を支配的環境因子として決定する。次の表1は貴な金属がステンレス鋼であり、卑な金属がアルミニウムの場合における各環境因子の相関係数の例である。
【0046】
【表1】
Figure 0004151385
【0047】
支配的環境因子を決定した後は、その環境因子についての上記の(3)式の定数α,βを少なくとも3年分(例えば3年、5年、10年)について求めておくものとする(この年数分が多い方が望ましい)。
【0048】
(S14)対象となる実構造物(又はそれを模擬した構造物)の複数の被対象部位に図1のセンサを設置して上述の電流を(imax)を測定する。この工程では、更に実構造物内でミクロに環境が異なることから、各部位の腐食速度を外部環境に対して数値化する。日本の気候は四季があり、1年間で大きく変化するので、望ましくは、1年間継続的に測定するのが良いが、1ヶ月の測定でも日本各地域の気候データから、推定することは十分可能である。
【0049】
なお、測定に際しては、例えば顧客から要請があった実構造物又はそれを模擬した構造物の複数の部位で図1のセンサを用いて計測する。部位によっては(例えば、躯体内とか狭い場所)、飛来海塩量を計測できない場所があるので、屋外で飛来海塩量の採取と図1のセンサによる計測とを併行して行い、各部位は図1のセンサの計測のみを行う。図1のセンサの出力は定量できるので、図1のセンサの出力から環境データの度合い(例えば、飛来海塩量、温度、湿度等)を次式(5)に示すように見積もることができる。実際には、屋外を1とした場合の比率で表現し、部位Aは腐食比率0.2とか、部位Bは腐食比率0.01といった具合に表現する。
【0050】
部位係数=部位の腐食量/屋外の腐食量 …(5)
【0051】
図12は上記にて計測された各部位の部位係数を示した図であり、ここでは屋外を1とし、部位1乃至部位3はそれぞれ異なった値をとっていることが分かる。
【0052】
ここで例えば、実構造物をプレハブやスチールハウス等の住宅部材を例として説明すると次のようになる。1ヶ月間の試験で屋外の飛来海塩量のデータと、金属材の腐食量のデータを取る。一方、軒先とか小屋裏、壁内部等の各使用部位の腐食量を図1のセンサにより計測する。屋外で測定した飛来海塩量と腐食量との関係から上記の(5)式により部位係数が求まることにより、上記にて測定された地域(例えば北海道)とは異なる地域(例えば沖縄)に上記と同様な構造物を設置する際にその部位係数を用いて各部位の腐食量を求める。
【0053】
(S16)次に、既に計測されている全国の気象データに基づいて異種金属腐食マップを作成する。ここでは、上記において計測されていない地域(地域A乃至Zを除く)における飛来海塩量を既存の気象データのデータベースから求めて、その地域における異種金属腐食量を求めてデータベース化する。例えば或る地域における飛来海塩量がa(mdd)であることが分かると、その飛来海塩量aと上記の部位係数に基づいて各部位の腐食量の経時変化を予測する。なお、飛来海塩量の単位mddは、mg/dm2・day(10cm×10cm四方の面積に1日当たり捕獲される海塩量)である。
【0054】
具体的には、各部位の飛来海塩量(例えば屋外、軒先、小屋裏、壁内部等の各部位の飛来海塩量)をそれぞれ図11の特性に当てはめて、腐食量と経過年数のデータを得る。図11の例においては例えば環境因子が飛来海塩量a(mdd)であった場合にはそれに対応した腐食量Ya3、Ya5、Ya10を求める。そして、経過年数(独立変数)T、腐食量(従属変数)Yについてそれぞれの対数を取って、線形モデルに変換して回帰分析を行い、定数γ、δを求める。
logY=γ+δlogT …(7)
【0055】
図13は、上記の(7)式により求められた、屋外、部位1乃至3における経過年数と腐食量との関係を概念的に示した特性図である。
【0056】
上記のようなデータを各地域毎に求めることにより異種金属腐食マップを作成してデータベース化しておく。この場合には各種の異種金属の組み合わせについてのデータについても同様に求めておくものとする。このようにしてデータベース化しておくと、例えば施工予定の地域の気象データから環境因子を抽出して、その環境因子と上記のデータベースとにより、対象構造物の腐食量を簡単に求めることができる。
【0057】
(S17)上記の異種金属腐食マップに基づいて構造物を設計する。ここでは、上記の異種金属腐食マップから該当する構造物の各部位の腐食量を求め、更に、その部位の構造から寿命(耐用年数)を求める。
【0058】
ここで、予測された腐食量をΔW[g]とし、単位面積あたりの予測された腐食量をΔW1を[g/m2]と定義すると、ΔW1は次式に表されるものとする。 ΔW1[g/m2]=ΔW[g]/(金属片の幅×l) …(8)
l:図4の最大電流が流れたときの貴な金属の長さ
【0059】
予測された腐食量ΔW1[g/m2]は、貴な金属の面積倍(A1)だけ発生し、卑な金属部分の面積(A2)で消費されるため、減肉量ΔT[m]は直接卑な金属の腐食部の面積で割り付けて算出することができる。ρ[g/m3]を卑な金属の密度として、基本式は下記のとおりになる。
ΔT=ΔW1×A1/A2/ρ …(9)
【0060】
次に、接触部が直線と円弧の場合のΔTについて説明する。
(1)接触部が直線の場合
ΔT=ΔW1×(l×A)/(L×A)/ρ …(10)
但し、L[m]、A[m]は図14に定義される。なお、図14は貴な金属S1及び卑な金属S2を接合したときの平面を示した図である。
【0061】
ここで、上記のL[m]の求め方について説明する。上述の実施形態1において説明したのと同様にして、卑な金属S2についてもその電流分布(最大電流が流れる長さ)を求める。図15はその際の説明図である。貴な金属S1及び卑な金属S2のそれぞれについて異なった長さの金属片(試験片)S1a乃至S1c、S2a乃至S2cを用意しておいて、両者を外部接続したときの電流を電流計12により計測する。貴な金属S1及び卑な金属S2のそれぞれについて異なった長さの金属片(試験片)を用意しておいて、両者を外部接続したときの電流を電流計12により計測する。卑な金属S2においても、貴な金属S1の場合と同様にしてその長さを長くするに従って電流値が大きくなり、所定の長さLで飽和する。その長さLを上記(10)式及び後述の式のLとして実構造物の設計に適用する。
【0062】
(2)接触部が円弧の場合
図16(A)(B)は円弧の金属材が卑な金属S2で、貴な金属S1がその外周を覆っている状態の構成の説明図であり、半径rがLより大きな場合及び半径rがLより小さな場合をそれぞれ示している。
(a)円弧の半径rがLより大きな場合には、減肉量ΔTは
ΔT=ΔW1×π((r+l) 2−r 2)/π(r 2−(r−L)2)/ρ …(11)
(b)円弧の半径rがLより小さな場合には、減肉量ΔTは
ΔT=ΔW1×π((r+l) 2−r2)/πr 2/ρ …(12)
【0063】
以上の計算により減肉量ΔTが決定され、各々の構造物の強度などの減肉量の許容量より、寿命(耐用年数)を決定することができる。
【0064】
(S18)以上の処理により製品条件を満たした金属材又は部品の仕様が得られるが、次に、その金属材を製造・販売するまでの過程について説明する。
(S18a)金属材の材料を選定する。ここでは、上記の処理にて耐用年数(例えば30年)が満たされた金属材の中から材料を選定する。
【0065】
なお、上記の処理(S17)において、例えば寿命予測対象となった全ての金属材が耐用年数を満たさないような場合には、予測対象となった金属材よりも明らかに耐食性が高いとわかっている金属材を選定してもよい。同系統の金属材であればある程度の対応関係がつけられるので、例えば最も寿命が長いと予測された金属材と同系統かつ高耐食性の金属材を選定すればよい。
【0066】
更に、例えば寿命予測対象となった全ての金属材が耐用年数を満たさないような場合には、その予測結果に基づいて新たな金属材を設計してもよい。或る金属材にマイナーな設計修正を行うのであれば、耐食性の向上程度は予測がつけられることを利用する。寿命予測対象となった金属材の厚さを変更するとか、例えば化成処理の種類を変えるとか、焼付け工程の温度制御を変更するとか、めっき付着量を変更する等が考えられる。なお、本発明においては、材料選択、材料選定、材料設計の何れをも設計という概念に含まれるものとする。
【0067】
(S18b)材料の受注、製造及び販売を行う。
【0068】
以上のようにして製造された金属材には、上記の処理(S16)及び/又は(S17)のデータを添付する。なお、この添付とは機械的に添付するだけでなく、金属材とそのデータとが何らかの関連付けがなされている場合も含む。例えば上記の各部位の腐食の進行を予測した際のデータ又はそれを示す記号を金属材に付記したり、或いはそのデータ又はそれに関連するデータを電子情報として納入先に送付する。この電子情報はFD等の記録媒体でも良いし、ネットワークを介して納入先に送付(送信)したりしても良い。
【0069】
本実施形態においては、上述のように、支配的環境因子を把握することにより金属材等の金属材の腐食の進行を定量的に精度良く得ることができるようにしたので、実構造物の腐食量及び寿命に対して定量的な見解を出せるようになっている。従来の経験等では、このような処理ができなかったために、実構造物の腐食量及び寿命に対し定性的な良否の示唆しかできなかった。
【0070】
実施形態3.
なお、上記の実施形態においては飛来海塩量が支配的環境因子である場合の例について説明しているが、本発明の支配的環境因子はそれに限定されるものではない。日本国内のような四面海に囲まれている環境では飛来海塩量が支配的環境因子として腐食との相関が強いが、内陸の極限られた地域では、温度が支配的環境因子であったり、湿度が支配的環境因子であったりする。また、都会の極限られた地域ではイオウ酸化物が支配的であったりもする。そのような環境でも、本発明は有効であり、金属材の寿命予測を簡便に短期間で行うことができる。また、上記の実施形態においては、支配的環境因子が1つの場合を説明したが、本発明は、支配的環境因子が2以上の場合にも適用できる。例えば、沿岸部で湿度が高い地方では、飛来海塩量と湿度の2つが支配的環境因子となる場合もある。
【0071】
なお、環境因子には上記のように飛来海塩量、温度、湿度、日照量(紫外線照射量)等があるが、これらの環境因子に対し、腐食因子計測はそれぞれガーゼ法、温度計、湿度計、紫外線計測器で計測することになる。
【0072】
実施形態4.
また、上述の実施形態においては金属材の寿命予測等について説明したが、本発明においては異種接合腐食が問題となる金属であれば、めっき処理材等の他の金属材も含まれる。
【0073】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、絶縁部材を介して接合された2種の金属片を外部接触させときに流れる電流及びその経時的な推移を計測し、その電流の経時的な推移に基づいて、2種の金属片の内、卑な金属の腐食の進行を予測するようにしたので、精度の高い長期の金属材の腐食量予測が可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】異種金属接触腐食の現象を利用したセンサの構成図である。
【図2】異種金属接触腐食の現象を説明するための図である。
【図3】図1のセンサにおいて貴な金属S1の面積(長さ)と異種金属腐食電流との関係を求めるために用意された複数種類の面積(長さ)のものの説明図である。
【図4】貴な金属の面積(長さ)と異種金属腐食電流との関係を示した特性図である。
【図5】図4の特性の経時的な変化を示した特性図である。
【図6】経過年数(暴露時間)と図5の異種金属腐食電流の最大値との関係を示した特性図である。
【図7】経過年数(暴露時間)と腐食量との関係を示した特性図である
【図8】本発明の実施形態2に係る金属材等の設計方法、製造方法等の処理過程を示したフローチャートである。
【図9】各地域(A,B,C)における或る特定の2種の異種金属接触における腐食量の推定を行った際の特性図である。
【図10】各地域(A,B,C…)において計測された環境因子(平均値)をリストした例を示した図である。
【図11】飛来海塩量と腐食量との関係を示した特性図である。
【図12】上記にて計測された各部位の部位係数を示した図である。
【図13】屋外、部位1乃至3における経過年数と腐食量との関係を概念的に示した特性図である。
【図14】貴な金属S1及び卑な金属S2を接合したときの平面を示した図である。
【図15】貴な金属S1及び卑な金属S2について電流分布(最大電流、最大電流が流れるときの長さ)を求める際の説明図である。
【図16】円弧の金属材が卑な金属S2で、貴な金属S1がその外周を覆っている状態の説明図である。

Claims (13)

  1. 複数の実環境において、絶縁材を介して接合された2種の金属片を外部接触させたときに流れる電流及びその経時的な推移を計測する第1の工程と、
    前記第1の工程において計測された電流の経時的な推移に基づいて、前記2種の金属片の内、複数の実環境における卑な金属の異種金属接触腐食の進行を予測する第2の工程と、
    前記複数の実環境において、前記2種の金属片の近傍又は周囲の環境因子を測定する第3の工程と、
    前記複数の実環境における環境因子と前記腐食の進行の予測とに基づいて、前記環境因子における腐食の進行を予測する第4の工程と
    を備え、
    前記2種の金属片の内、貴な金属には、異種金属腐食電流が飽和して最大値が一定となるような、所定値以上の面積を有するものを用いることを特徴とする異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  2. 前記環境因子が複数ある場合に、前記環境因子と腐食量との相関係数が相対的に大きなものを支配的環境因子とし、前記第4の工程においては前記支配的環境因子における腐食の進行を予測する請求項記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  3. 対象となる実構造物又はその実構造物を模擬した構造物(以下実構造物等という)の中又はその表面に設けられる基準位置、又は前記実構造物等の外に設けられた基準位置で計測した腐食量を基準値とし、前記実構造物等における各部位で測定した腐食量と、前記基準値との比を部位係数としたときに、前記基準値と所定の環境因子との対応関係と前記部位係数とに基づき、前記測定地域とは異なる地域における前記実構造物等の各部位の腐食量を求めることを特徴とする請求項又は記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  4. 前記所定の環境因子を飛来海塩量とすることを特徴とする請求項記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  5. 前記環境因子の計測は、少なくとも1ヶ月であることを特徴とする請求項乃至の何れかに記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  6. 前記環境因子は、飛来海塩量、温度、湿度、日光照射量又はSOxであることを特徴とする請求項乃至の何れかに記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  7. 腐食量の予測に際して、予め評価する地域を類似する環境の地域に区分してから実行することを特徴とする請求項乃至の何れかに記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  8. 環境因子と異種金属接触腐食による金属材の腐食の進行との関係を示すデータを予め求めておいて、前記データと、対象となる実構造物等の施工予定地域の環境因子とに基づいて、前記実構造物等における異種金属接触腐食による金属材の腐食量を予測することを特徴とする請求項乃至の何れかに記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  9. 各地域における各種の異種金属接触腐食による金属材の腐食量の予測値をデータベース化しておくことを特徴とする請求項記載の異種金属接触腐食による金属材の腐食量予測方法。
  10. 請求項1乃至の何れかに記載の金属材の腐食量予測方法により予測された腐食量に基づいて金属材の寿命を予測することを特徴とする異種金属接触腐食による金属材の寿命予測方法。
  11. 2種類の金属の接合構造に対応した減肉量を算出して寿命予測を行うことを特徴とする請求項10記載の異種金属接触腐食による金属材の寿命予測方法。
  12. 請求項1又は1記載の金属材の寿命予測方法により腐食の進行が予測された1組以上の金属材から、実構造に適用するために金属材を選定することを特徴とする構造物の設計方法。
  13. 請求項12記載の構造物の設計方法により設計された金属材を製造することを特徴とする金属材の製造方法。
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