JP2008221710A - インクジェットヘッド - Google Patents

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耕治 木谷
Hideo Iwase
秀夫 岩瀬
Hiroyuki Suzuki
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Abstract

【課題】 インクジェットヘッドの寿命を律速している一つであるヒータの保護膜の耐久を延ばす。
【解決手段】 保護膜(耐キャビテーション膜)を2層構造にして、下層を縦弾性係数大の材料、上層を比較して縦弾性係数の小さい材料として、耐キャビテーション膜の破壊に対する抵抗(≒硬さ)を保ったまま、膜にかかる応力を小さくする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、耐久性、特に耐キャビテーション性に優れた保護膜を有するインクジェットヘッドに関する。
印刷手法として、インクジェット方式は、高速高密度で高精細高画質の記録が可能で、且つカラー化、コンパクト化に適しており、近年普及にはずみがついている。この方式を用いる装置の代表例においては、インク(記録用液体等)を熱エネルギーを利用して吐出させるため、インクに熱を作用させる熱作用部が存在する。すなわち、インク路に対応して熱作用部を有する発熱抵抗体を設け、この発熱抵抗体から発生した熱エネルギーを利用してインクを急激に過熱して発泡させ、この発泡によってインクを吐出するものである。
この熱作用部は、対象物に熱を作用させるという観点からすると、従来のいわゆるサーマルヘッドの構成と一見類似している部分もあるが、熱作用部がインクに直接接する点や、熱作用部がインクの発泡と消泡の際に発生するキャビテーションの繰り返しによる機械的衝撃にさらされるという点、また熱作用部が10-1〜10μsecというオーダーの極めて短い時間に1000℃近い温度の上昇及び下降にさらされるといった点などで、サーマルヘッドとは条件が大きく異なる。つまり、発熱抵抗体の保護膜としては、インクとヒータを電気的に絶縁する絶縁層、インクの腐食性に耐える耐腐食層、またキャビテーションの衝撃に耐える耐キャビテーション層が必要で、サーマルヘッドに一般的に用いられているTa2O5等からなる耐摩耗層が、耐キャビテーション性に優れているとは必ずしも限らない。現状では、発熱抵抗体上に保護膜として例えばSiO2,SiC,SiN 等からなる電気的絶縁性層と、更にその上にTa等からなる耐キャビテーション&耐腐食層の二層構造とし、使用環境から発熱抵抗体を保護するのが一般的である。このようなインクジェットヘッドに用いられる耐キャビテーション&耐腐食層の構成材料としては、例えば米国特許第4335389号明細書に記載されているキャビテーションに対して強い材料を挙げることができる。
米国特許第4335389号明細書 特開平5−301345号公報 特開平6−297713号公報
前述のような保護膜が設けられた形態のインクジェットヘッドでは、耐久性の点で実用上採用できるものが提案されているが、いずれの場合であってもインクによる腐食とキャビテーションの機械的衝撃に対して十分な耐久性を示すものがない。そして、記録の高速化、高密度化が一層求められ、それに対応して小さなインク粒を多数回印字してひとつのドットを形成し階調印字を行うようになっている。階調印字は、ひとつのドットをより多くの小さな点で形成するほど緻密になり表現力が増す。しかし多くの点を打つためには多くのパルスをヘッドに加える必要があり、上記保護膜では多数のパルスを加えると実質の寿命が短くなるなどの問題があった。さらに、環境保護、コストダウンの観点から、交換部品を最低にするために、インクジェットヘッドはパーマネント化の方向に向かっており、従来の耐久性では充分な寿命を保証できないという欠点があった。
図2は、従来のインクジェットヘッドの保護膜の構成を示す説明図であり、図3は上記の不良表面観察図である。従来いわゆるキャビテーションと言われる不良発生原因は、泡が消える時の衝撃(キャビテーション)によって機械的に破壊され、摩耗していくものの他に、印字中の熱により保護膜が酸化しこの酸化膜がインクによって化学的に腐食するものとがある。特に、キャビテーションによる破壊がヘッドの寿命を律速するとされており、その破壊後の形態から、耐キャビテーション膜と絶縁保護層の密着力を高める工夫をしたり(特開平5−301345号)、耐キャビテーション膜の内部応力をある範囲の圧縮応力にして、引張応力による亀裂を防いだり(特開平6−297713号)することで、膜をはがれにくくしそれぞれ効果があった。
さて、現状使われているTa膜の経時変化を観察するために、駆動時間を変えた各段階のサンプルを作り、抵抗の変化とTa膜の表面の変化を観察した。その結果、時間のバラツキはあるが、次のような経過であることがわかった。
未使用のものは、Taの表面に亀裂はない。駆動最初期に2〜3%の抵抗の低下があり、徐々にTa粒界が見えてくる。BBB時間後のものには、粒界に沿って亀裂が入る。その後、亀裂の下の所から、耐キャビテーション膜がはがれて破壊に至る、という形態であった。
また、このはがれのプロセスを分析すると、
0.最初期の抵抗変化は、発熱抵抗体の熱による変化でTa膜は無関係。
1.Ta粒界が削れていく。
2.粒界の間に亀裂が入る。
3.亀裂からインクが染み込んだことで、なんらかの変化(抵抗の減少による発熱の増大等)が起こり膜がはがれた。
と、考えられる。
この現象中のキャビテーションによる作用を以下で考察する。
キャビテーションは別途、スクリュー、配管等、水流のあるところでの摩耗が研究されていて、キャビテーションによる摩耗は、偶発的に起きる衝撃によるものと、疲労によるものの二つの破壊機構が共存するものとされている。磁歪振動装置を使ったキャビテーション壊食試験(キャビテーションでは、摩耗のことを壊食と称する)においては、結晶層間のすべりの発生、亀裂の発生、進展という疲労破壊においては極めて普通の経過をたどる。表面に働く力によって、塑性変形、亀裂(破壊)等、材料によっては加工硬化を生じる。亀裂の場合、その亀裂の長さaとして、進展速度V(=da/dt)は、
V=da/dt=C'(K/E)m(C':const、K:応力拡大係数、E:縦弾性係数)
で表される。この中で、応力拡大係数Kは形状の関数となり、
K=C”(πa) (C”:const)
と表され、さらにいくつかの材料について、亀裂進展速度とEの関係を求めた結果、m=2の直線上に乗り、
V=C(a/E2) (C:const)
と定式化出来る。応力拡大係数が亀裂の長さに比例するというのは、てこの原理から容易に推測できる。亀裂の長さが大きくなると、亀裂によって生ずる破断面も広くなり、キャビテーションによる衝撃力をより多く受けることになり、亀裂の進展も加速される。そして、亀裂同士がつながるか、または、亀裂の進展が表面に戻った時、その囲まれた部分が脱落粉となり摩耗していく。
なお、耐キャビテーション膜の温度分布を考えると、発熱抵抗体に近い方が温度が高く、特に、熱伝導率が低い方が、実駆動時の発熱抵抗体が温度が高くなる。したがってインクによる化学変化による摩耗は、亀裂が深くなるほど、また、耐キャビテーション膜の熱伝導率が低いほど、進み易いと考えられる。
したがって、耐キャビテーション膜の機能として、キャビテーションの衝撃でも亀裂が入らないことが最も重要であると考えられる。
それを実現する手段として、耐キャビテーション膜を機能別に2層に分けることにした。
まず、上層を設けることで、局所的に作用するキャビテーションの衝撃力に対して、
上層:塑性+弾性変形することで、キャビテーションの衝撃を緩和する。
下層:上層の衝撃を支える剛性(≒ヤング率)と伝達される応力に対して破壊しない強度(≒硬さ)を備えている。
そして、熱伝導に関しては、現在のTaの耐キャビテーション膜と同等以上であることが目安となる。
以上、縦弾性係数の異なる材料を用い、上層に縦弾性係数の小さい方を複合配置した保護膜とすることにより、単体の膜で保護膜とするよりも寿命が長く、効率のいいインクジェットヘッドを得ることができた。
以下、実施例と比較例を記しながら、本発明について説明する。
図1は、本発明によるインクジェットヘッドの1実施例の流路位置での基板の断面図で、符号1〜5は、図2の従来のインクジェットヘッドを構成する各層と同様の機能であることを示す。
上記インクジェットヘッドの作成方法を順を追って説明する。下地の蓄熱層を有するSiウェハー1の上にTaN発熱抵抗体2と配線導体のAl3を順次スパッタする。次いで、フォトリソグラフィとエッチングによって配線パターンと発熱抵抗体パターンを形成し、その後、第1の保護膜4のSiNをCVDにより形成した後、本発明による第2の保護膜5のCrを150nmスパッタし、第3の保護膜6のTaを150nmスパッタする。耐キャビテーション性を必要とする部分に第2の保護膜Crと第3の保護膜Taを残すようにフォトリソ法によってレジストのパターニングをする。その後、第3の保護膜Taは塩素系ガスによるドライエッチングをする。そして、電気配線の外部引き出し端子として用いるAlパッド部のSiN、また第2の保護膜Crはドライエッチングで取り去る。そして、前記Alワイヤーを用い外部配線とワイヤーボンディングによって接続しボンディング部にはワイヤーを保護する為の樹脂を塗布し、発泡可能な熱作用部を完成させた。第2、第3の保護膜について、図4に記載の材料の組み合わせでそれぞれ適切なパターニング、エッチング法を用い8試料(各N=3)を作成し、それぞれ染料を含まないインク中に浸し、印字と同一条件で一定間隔ごとに抵抗変化を観察しながら破壊するまでパルス電圧を加える耐久試験を行い、破壊するまでのパルスの平均回数で比較した。結果も合わせて図5に示す。
さて、この結果を考察するために、試料No.1〜No.4のもの、即ち、第2の保護膜として、縦弾性係数が248(GPa)であるクロム(Cr) を150nm、第3の保護膜して、縦弾性係数が186(GPa)であるタンタル(Ta) を150nm設けた試料No.1、また、順序を逆にして、第2の保護膜としてCrを150nm、第3の保護膜して、Taを150nmを設けた試料No.2、さらに、第3の保護膜なしで、第2の保護膜をTaのみで300nm設けた試料No.3、Crのみで300nm設けた試料No.3の4種のデータで比較する。
第2の保護膜Crの上に似第3の保護膜Taをつけたものが最も良く、それぞれの材料の単体で成膜したものよりもいいのは、複合の効果があらわれていると考えられる。
また、抵抗率の変化で見た場合、No.2の試料がもっとも初期〜中期の抵抗の低下が少ないが、総合的にNo.1の試料の方が寿命が長いというのは、No.2の方が、第3の保護膜が強く、初期インクの染み込みが少なかったが、恐らく亀裂が入ってからは、第2の保護膜の剛性が低いため、劣化が進みやすかったため、また、No.1の場合は、No.2よりも第3の保護膜に早く亀裂が生じたが、第3の保護膜の縦弾性係数が低いため、第2の保護膜へ亀裂を入れる力が発生しづらく、結果的に寿命が延びたものと考えられる。単膜のものが、それぞれ寿命が試料No.1よりも短かったことも同様の視点から説明がつく。なお、
図4の同一材料組み合わせを第2の保護膜と第3の保護膜で入れ替えて試験した所、縦弾性係数が小さい方を第3の保護膜に形成したものの方が、寿命が長かった。第3の保護膜の
ただし、第3の保護膜として金(Au)を形成したものは、寿命が極端に短かった。観察の結果、Auが塑性流動した痕跡を残して発熱抵抗体の断線を起こしていることがわかった。この場合、塑性流動しやすさの直接のパラメータはその温度における塑性流動圧力であるが、塑性流動圧力の温度依存性が高いこと、また、密接な関係がある硬さは、常温では履歴や不純物によって大幅に上下することから、やや履歴依存性が少ない縦弾性係数で比較することとして、Auとチタン(Ti)の間を閾値として、100GPa以上を適切範囲とした。
また、Pt(白金)は第1の保護膜SiNとの密着性が悪く、第2の保護膜として用いられなかったが、Ti、Ta、Cr等の密着力の大きい材料を第1の保護膜の上に極薄くつけることで、同様の効果が出ることが推測できる。
試料No.1の発展形として、第2の保護膜であるCrと第3の保護膜であるTaの合計厚を300nmに固定して、比率r=(第2の保護膜の厚み)/(第3の保護膜の厚み)を振って、同様に寿命を比較した。結果を図6に示す。比率が1:1の所を頂点に寿命が変化している。第2の保護膜が第3の保護膜よりも厚い方は、厚くなるにしたがって単調に寿命が短く変化していくが、第3の保護膜が第2の保護膜よりも厚い方は、特に傾向はなく、単膜よりも寿命が劣るものもあった。
第2の保護膜、第3の保護膜全体の厚みは、第2の保護膜、第3の保護膜それぞれの材料の熱伝導率から、例えば、厚みt(nm)を熱伝導率ρ(W/m・K)で除したものを熱伝導しやすさのパラメータとして比較すれば、設計パラメータとして容易に比較設計できる。前述したように、単一材料の膜に比べ、同じ膜厚で寿命が延びるという結果からも、従来と同一寿命を得るためには、保護膜全体を薄くすることが出来、効率のいいインクジェットヘッドを得ることが出来る。また、従来と同一効率であれば、寿命のより長いインクジェットヘッドを得ることが出来る。
本発明による第3の保護膜を有するインクジェットヘッドの説明図である。 従来の第2の保護膜までを有するインクジェットヘッドの説明図である。 (A)は従来のインクジェットヘッドにおける不良発生の説明図であり、(B)は(A)の不良発生部のA−A’断面図である。 保護膜に使用した各種金属材料の物性表。 各種保護膜の組成と寿命。 第2の保護膜をCr、第3の保護膜をTaとした時の膜厚比と寿命の関係。
符号の説明
1 蓄熱層形成済Siウェハー
2 発熱抵抗体
3 配線用Al導体
4 第1の保護膜(SiN)
5 第2の保護膜
6 第3の保護膜

Claims (2)

  1. インクを吐出するために利用される熱エネルギーを通電によって発生する発熱抵抗体と、該発熱抵抗体に接続される電極とを有する電気熱変換体が具備されるインクジェットヘッドにおいて、前記抵抗体上に具備される実質絶縁体の第1の保護膜上に、第2の保護膜、第2の保護膜の上に第3の保護膜が順次具備され、第3の保護膜の縦弾性係数は、第2の保護膜の縦弾性係数よりも低く、かつ、100GPa以上の材料で構成したことを特徴とするインクジェットヘッド。
  2. 上記第2の保護膜の厚さt2が第3の保護膜の厚さt3以上であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
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