以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る電極の構成を表しており、(A)は平面構成、(B)は断面構成をそれぞれ示している。また、図2は電極の機能を説明するためのものであり、図1(B)に対応する断面構成を示している。以下では、電極の長手方向における寸法を「長さ」、短手方向における寸法を「幅」とそれぞれ称する。
この電極は、正極あるいは負極として電池などの電気化学デバイスに用いられるものであり、図1に示したように、対向する一対の面を有する帯状の集電体1と、その少なくとも一方の面に設けられた活物質層2と、集電体1および活物質層2に設けられた導電体3とを含んでいる。
集電体1は、その長手方向において、活物質層2により被覆された被覆部分1Aと、活物質層2により被覆されていない非被覆部分1Bとを有している。この集電体1は、例えば、長手方向における端部に非被覆部分1Bを有している。この場合には、集電体1は図1に示したように非被覆部分1Bを両端部に有していてもよいし、一端部だけに有していてもよい。集電体1の厚さは、できるだけ薄いのが好ましい。電極全体の体積を一定とする場合に、その体積中に占める活物質層2の割合が大きくなるからである。
この集電体1は、良好な電気伝導性、電気化学的安定性および機械的強度を有する金属材料により構成されており、例えば、金属箔からなる。この種の金属材料としては、例えば、アルミニウムあるいは銅などが挙げられる。ただし、金属材料については、電極の種類やその用途に応じて任意に選択可能である。
特に、金属材料としては、電極反応物質と金属間酸化物を形成しない1種あるいは2種以上の金属元素を含有するものが好ましい。電極反応物質と金属間酸化物を形成すると、電気化学デバイスの動作時(例えば電池の充放電時)において集電体1が活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けやすくなるため、集電性が低下したり、活物質層2が剥離する可能性があるからである。
また、金属材料としては、活物質層2と合金化する1種あるいは2種以上の金属元素を含有するものが好ましい。集電体1と活物質層2との間の密着性が向上するため、その活物質層2が剥離しにくくなるからである。
なお、集電体1は、単層構造あるいは多層構造のいずれであってもよい。多層構造である場合には、例えば、活物質層2に隣接する層がそれと合金化する金属材料により構成されており、活物質層2に隣接しない層が他の金属材料により構成されているのが好ましい。
集電体1の表面は、粗面化されているのが好ましい。いわゆるアンカー効果により、集電体1と活物質層2との間の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも活物質層2に隣接する部分(被覆部分1A)の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法としては、例えば、電解処理によって微粒子を形成する方法などが挙げられる。この電解処理とは、電解槽中で電解法によって金属の表面に微粒子を形成することにより凹凸を設ける方法である。この金属として銅箔を用いた場合、電解処理が施された銅箔は電解銅箔と呼ばれている。
集電体1が金属箔からなる場合、その金属箔は熱処理(いわゆるアニール処理)されているのが好ましい。金属箔が熱処理されると柔軟性(外部応力に対する伸縮性)が向上するため、集電体1自体の変形(伸縮)によって活物質層2の膨張および収縮による応力を吸収しやすくなるからである。一例として、熱処理の前後における電解銅箔の物性変化(熱処理温度=80℃,熱処理時間=24時間)をその厚さごとに挙げれば、厚さ=8μmの場合、熱処理前の引張強さ=578N/mm2 および伸び率=5.2%、熱処理後の引張強さ=288N/mm2 および伸び率=10.1%であり、厚さ=10μmの場合、熱処理前の引張強さ=580N/mm2 および伸び率=6.2%、熱処理後の引張強さ=280N/mm2 および伸び率=12.1%であり、厚さ=12μmの場合、熱処理前の引張強さ=580N/mm2 および伸び率=7.0%、熱処理後の引張強さ=280N/mm2 および伸び率=15.5%である。上記した物性変化に基づき、金属箔が熱処理されているか否かを事後的に確認することができる。
活物質層2は、電極反応に寄与する1種あるいは2種以上の活物質を含んでおり、必要に応じて結着剤や導電剤などを含んでいてもよい。活物質については、電極の種類やその用途などの条件に応じて任意に選択可能である。一例を挙げれば、電極が電池に用いられる場合には、活物質として炭素材料、金属材料あるいは合金材料などが好ましい。この活物質層2は、図1に示したように集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。活物質層2の厚さは、できるだけ厚いのが好ましい。電極反応に寄与する活物質の量が多くなるため、電極の性能が向上するからである。
なお、体積密度などに代表される活物質層2の特性値は、活物質の種類や電極の用途などの条件に応じて任意に設定可能である。ただし、電極の性能を向上させるためには、体積密度はできるだけ高いのが好ましい。
導電体3は、非被覆部分1Bおよび活物質層2を電気的に接続させることにより、電極の電気的導通バイパスとして機能するものである。この導電体3は、例えば、非被覆部分1Bの表面から活物質層2の表面に至る範囲を連続的に被覆している。この場合には、導電体3は図1に示したように非被覆部分1Bおよび活物質層2の表面の一部を被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。ただし、電極が電気化学デバイスに用いられた場合に、導電体3の存在に起因して不要な電気化学的反応が生じることなどを防止するためには、導電体3は非被覆部分1Bおよび活物質層2の表面の一部を被覆しているのが好ましい。また、集電体1が両端部に非被覆部分1Bを有する場合、導電体3は図1に示したように一端部における非被覆部分1Bおよび活物質層2に設けられていてもよいし、両端部における非被覆部分1Bおよび活物質層2に設けられていてもよい。確認までに、図1(B)および図2では、非被覆部分1Bおよび活物質層2と導電体3との電気的接続状態を見やすくするために、それらの厚さを誇張している。
導電体3が設けられているのは、図2に示したように、電極が電気化学デバイスに用いられた場合に、活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けて集電体1に破断Cが生じても、それにより分離された一方の集電体1と他方の集電体1とが活物質層2および導電体3を電気的導通バイパスとして電気的に接続されたままであるため、その導電体3により電極の電気的導通(集電体1の両端部間における電気的導通)が維持されるからである。
電極(集電体1)が長手方向において巻回されることにより電気化学デバイスに用いられる場合、導電体3は、少なくとも集電体1の巻外側における非被覆部分1Bおよび活物質層2に設けられているのが好ましい。一定の張力を負荷されながら電極が巻回されると、巻内側の非被覆部分1Bは張力の影響を強く受けて固定されるのに対して、巻外側の非被覆部分1Bは張力の影響をほとんど受けずにほぼ自由端となるため、前者よりも後者において活物質層2の膨張および収縮時による応力の影響を受けやすいからである。もちろん、この場合には、導電体3が集電体1の巻内側における非被覆部分1Bおよび活物質層2に設けられていてもよい。
この導電体3は、導電性を有して非被覆部分1Bおよび活物質層2を電気的に接続させるものであれば、いかなる材質および構成(例えば厚さおよび形状など)のものであってもよい。ただし、導電体3が設けられた箇所において電極の厚さが極端に厚くなり、すなわち同箇所において電極が極端に突出することを回避するためには、導電体3は薄いシート状であるのが好ましい。
具体的には、導電体3は、例えば、金属箔からなる。この場合には、導電体3が集電体1と同一の材料からなるのが好ましい。集電体1と導電体3との間で電気抵抗などの物性が等しくなるため、不要な電気化学的反応が生じることなどが防止されるからである。
導電体3の幅W1は、図1に示したように集電体1の幅Wと一致していてもよいし、異なっていてもよい。もちろん、後者の場合には、幅W1が幅Wより狭くてもよいし、広くてもよい。ただし、導電体3が電気的導通バイパスとして機能した場合における電気抵抗を小さくするためには、幅W1はできるだけ広いのが好ましく、少なくとも幅Wの1/2以上であるのが好ましい。
また、導電体3の長さL1は、集電体1に生じる破断の程度などの条件に応じて任意に設定可能である。この場合には、導電体3の設置範囲を規定する長さL2,L3、すなわち非被覆部分1Bと導電体3とが互いに重なる範囲の長さおよび活物質層2と導電体3とが互いに重なる範囲の長さも任意に設定可能である。ただし、導電体3の存在に起因して不要な電気化学的反応が生じることなどを防止するためには、長さL1は電気的導通バイパスとしての機能を確保し得る範囲においてできるだけ短いのが好ましい。また、活物質層2の膨張および収縮による応力は集電体1のうちの活物質層2の端部近傍部分に集中しやすいことから、その集中箇所において導電体3を電気的導通バイパスとして有効に機能させるためには、長さL2が長さL3よりも長いのが好ましい。
また、導電体3の厚さは、できるだけ薄いのが好ましい。上記した電極の部分的突出が抑えられると共に、導電体3を備えることにより生じる電気量(例えば電極が電池に用いられた場合における容量)のロスが小さくなるからである。
なお、導電体3は、非被覆部分1Bおよび活物質層2に固定されていなくてもよいし、それらの少なくとも一方に固定されていてもよい。導電体3を固定しない方法としては、例えば、電極が長手方向において巻回される場合に、一定の張力を負荷しながら電極を巻回させる際に導電体3を巻き込む方法などが挙げられる。一方、導電体3を固定する方法としては、例えば、固定用部材を用いる方法や、それを用いない方法などが挙げられる。この固定用部材としては、例えば、非被覆部分1Bあるいは活物質層2と導電体3との間に挿入される接着剤(例えば導電性接着剤)や、非被覆部分1Bあるいは活物質層2と導電体3とを一緒に被覆するテープ(例えば導電性テープあるいは絶縁性テープ)などを用いることが可能である。固定用部材を用いない方法としては、例えば、電気溶接などを用いることが可能である。ただし、導電体3を固定する際の作業を簡単にするためには、電気溶接などを用いるよりも固定用部材を用いるのが好ましい。
導電体3が固定される場合には、それが非被覆部分1Bあるいは活物質層2のいずれか一方に固定され、固定されない導電体3の一端部が自由端となるのが好ましい。導電体3が非被覆部分1Bおよび活物質層2の双方に固定されると、活物質層2の膨張および収縮による応力の影響が集電体1だけでなく導電体3まで及ぶため、その応力の大きさによっては集電体1と共に導電体3も破断する可能性があるからである。
ここで、固定用部材を用いて導電体3を固定する場合について一例を挙げれば、図1に対応する図3に示したように、絶縁性テープ4で導電体3を貼り付けるのが好ましい。導電性を有しない絶縁性テープ4は、導電体3を固定する機能だけを発揮して電極の電気的性能に影響を与えず、しかも取り扱いが簡単だからである。この絶縁性テープ4としては、例えば、ポリイミドテープなどを用いることが可能である。ポリイミドは絶縁性、電気化学的安定性および耐酸化還元性に優れているからである。この場合には、上記したように導電体3の一端部を自由端とするために、絶縁性テープ4で導電体3を非被覆部分1Bだけに貼り付けるのが好ましい。活物質の種類によっては、絶縁性テープ4が活物質層2に接着しにくい可能性があるからである。
絶縁性テープ4の幅W2は、導電体3の幅W1に一致していてもよいし、異なっていてもよい。ただし、絶縁性テープ4が非被覆部分1Bおよび導電体3以外の他のものにまで意図せずに接着することを防止するためには、図3に示したように、幅W2が幅W1よりも狭いのが好ましい。
なお、非被覆部分1Bおよび活物質層2に導電体3を設ける側(集電体1の一面側あるいは他面側)は、任意に設定可能である。この場合には、導電体3を集電体1の両面に設けてもよいし、片面だけに設けてもよい。ただし、電極が正極あるいは負極のいずれか一方として電気化学デバイスに用いられる場合には、他方の電極と対向しない側に導電体3を設けるのが好ましい。他方の電極と対向する側に導電体3が設けられていると、その他方の電極と導電体3との間に不要な電気化学的反応が生じる可能性があるからである。
この電極は、集電体1の被覆部分1A上に活物質層2を形成したのち、非被覆部分1Bおよび活物質層2の上に導電体3を配置し、その導電体3を介して非被覆部分1Bおよび活物質層2を電気的に接続させることにより製造される。この場合には、上記したように、一定の張力を負荷しながら活物質層2が形成された集電体1を巻回させる際に導電体3を巻き込んでもよいし、図3に示したように固定用部材として絶縁性テープ4を用いて導電体3を集電体1に貼り付けてもよい。
この電極によれば、集電体1の非被覆部分1Bおよび活物質層2に、それらを電気的に接続させるように導電体3が設けられているので、以下の理由により、集電体1が破断しても電気的性能を確保することができる。
図4および図5は比較例の電極の構成および問題点を説明するためのものであり、いずれも図1(B)に対応する断面構成を示している。この比較例の電極は、非被覆部分1Bおよび活物質層2に導電体3が設けられていないことを除き、本実施の形態の電極と同様の構成を有している。
比較例の電極では、図4に示したように、両端部間における電気的導通が集電体1だけによって確保されている。この場合には、図5に示したように、活物質層2が膨張および収縮した場合に、その応力の影響を受けて集電体1に局所的破断や完全破断などの破断Cが生じると、その集電体1による電気的導通が阻害されるため、電極の両端部間における電気的導通が劣化する。この破断Cは、活物質層2の端部近傍において生じやすい。これにより、電気伝導性などの電気的性能が低下あるいは喪失してしまう。
これに対して、本実施の形態の電極では、図1(B)に示したように、導電体3により非被覆部分1Bおよび活物質層2が電気的に接続されているため、両端部間における電気的導通が集電体1だけでなく導電体3によっても確保されている。この場合には、図2に示したように、破断Cが生じて集電体1による電気的導通が阻害されても、電気的導通バイパスとして導電体3による電気的導通が残っているため、電極の両端部間における電気的導通が維持される。これにより、非被覆部分1Bおよび活物質層2が導電体3を介して電気的に接続されている範囲内で破断Cが生じれば、電極の電気的導通が確保される。したがって、電気伝導性などの電気的性能を確保することができるのである。
特に、本実施の形態では、電極全体の体積を維持しながら電気的性能を向上させるために、集電体1の厚さを薄くする一方で活物質層2の厚さを厚くすれば、その活物質層2が膨張および収縮しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
また、集電体1が長手方向において巻回される場合に、導電体3が巻外側の端部における非被覆部分1Bおよび活物質層2に設けられていれば、活物質層2の膨張および収縮による応力の影響を受けやすい巻外側において導電体3により電気的導通が確保されるため、より高い効果を得ることができる。
また、導電体3が固定される場合に、それが非被覆部分1Bあるいは活物質層2のいずれか一方に固定されていれば、活物質層2の膨張および収縮による応力が導電体3に及ばないため、その応力の影響を受けて導電体3が破断することを防止することができる。
また、導電体3が絶縁性テープ4で固定されていれば、導電体3が非被覆部分1Bに接触して直に接続されると共に、導電性を有しない絶縁性テープ4が電極の電気的性質に影響を与えない。しかも、導電体3を固定する際の作業を考えれば、絶縁性テープ4は取り扱い性に優れている。したがって、電極の電気的性能を確保しつつ、導電体3を簡単に固定することができる。
また、導電体3が集電体1と同一の材料からなれば、集電体1と導電体3との間で電気抵抗などの物性が等しくなるため、不要な電気化学的反応が生じることなどを防止することができる。
また、集電体1が金属箔からなる場合に、その金属箔が熱処理されていれば、集電体1の伸縮性(活物質層2の膨張および収縮による応力を吸収する性質)が向上するため、より高い効果を得ることができる。
なお、本実施の形態では、導電体3が電気的導通バイパスの機能だけを担うようにしたが、必ずしもこれに限られない。例えば、図1(A)に対応する図6に示したように、電極の用途に応じて集電体1(非被覆部分1B)に電極リード5が設けられる場合には、導電体3が電極リード5として機能する(電極リード5の機能を兼ねる)ようにしてもよい。この場合における導電体3の平面形状は任意に設定可能である。また、集電体1と電極リード5との間で本来的に材料が異なる場合には、導電体3はいずれかの材料と一致しているのが好ましい。一例を挙げれば、十分な接触面積を確保しながら非被覆部分1Bおよび活物質層2に接触しつつ、外部との電気的導通を確保しやすくするために一端部を電極の外側に引き出すためには、導電体3が凸型の平面形状を有しているのが好ましい。この場合には、導電体3と電極リード5とを別個に設ける場合よりも構成部品数が少なくなるため、電極の構成を簡素化することができる。
次に、上記した電極の使用例について説明する。ここで、電気化学デバイスの一例として電池を例に挙げると、電極は以下のようにして電池に用いられる。
図7〜図9は電池の構成を表しており、図7は断面構成、図8は図7に示した主要部の拡大断面構成、図9は図7に対応する斜視断面構成をそれぞれ示している。ここで説明する電池は、例えば、負極の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池である。
この二次電池は、図7に示したように、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21および負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されたものであり、いわゆる円筒型の構造を有している。電池缶11は、例えば、ニッケル(Ni)めっきが施された鉄(Fe)により構成されており、その一端部および他端部はそれぞれ閉鎖および開放されている。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とがガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。この安全弁機構15では、内部短絡あるいは外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転することにより、電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断されるようになっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増大することにより電流を制限し、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20では、例えば、正極21および負極22が長手方向において負極22が外側に位置するようにセパレータ23を介して互いに重ねて巻回されており、その中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20では、アルミニウムなどにより構成された正極リード25が正極21に接続されていると共に、ニッケルなどにより構成された負極リード26が負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されて電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は、電池缶11に溶接されて電気的に接続されている。
正極21は、例えば、図8および図9に示したように、対向する一対の面を有する正極集電体211(被覆部分211A,非被覆部分211B)の両面に正極活物質層212が設けられたものである。正極集電体211は、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されており、中でもアルミニウムより構成されているのが好ましい。高い耐食性が得られるからである。この正極集電体211では、例えば、巻外側の非被覆部分211Bの長さが1周分となるように調整されているのが好ましい。正極活物質層212は、正極活物質として電極反応物質であるリチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電剤や結着剤などを含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムあるいはこれらを含む固溶体(Li(Nix Coy Mnz )O2 ;x、yおよびzの値はそれぞれ0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1である。)、またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn2 O4 )あるいはその固溶体(Li(Mn2-v Niv )O4 ;vの値はv<2である。)などのリチウム複合酸化物や、リン酸鉄リチウム(LiFePO4 )などのオリビン構造を有するリン酸化合物などが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。この他、上記した正極材料としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガンなどの酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデンなどの二硫化物や、硫黄や、ポリアニリンあるいはポリチオフェンなどの導電性高分子も挙げられる。
負極22は、上記した電極と同様の構成を有しており、例えば、図1に示した構成を有している。具体的には、負極22は、例えば、図8および図9に示したように、対向する一対の面を有する負極集電体221(被覆部分221A,非被覆部分221B)の両面に負極活物質層222が設けられたものであり、その負極集電体221の巻外側における非被覆部分221Bおよび負極活物質層222に導電体27が設けられている。この導電体27は、例えば、負極集電体221の外面側に設けられている。負極集電体221では、例えば、巻外側の非被覆部分221Bの長さが1周分となるように調整されているのが好ましい。負極22が上記した電極と同様の構成を有しているのは、正極21に対して負極22が外側に位置しているため、前者よりも後者において活物質層の膨張および収縮による応力の影響を受けやすいからである。この導電体27の幅(図1(A)に示した幅W1)は、例えば、負極集電体221の幅(図1(A)に示した幅W)が57mmの場合、28.5mm〜57mm程度あればよい。また、導電体27の長さ(図1(A)に示したL1〜L3)は、例えば、負極集電体221が破断した箇所よりも巻内側および巻外側にそれぞれ1mm以上の範囲において、導電体27と非被覆部分221Bおよび負極活物質層222との電気的導通を確保できる程度あればよい。この場合には、導電体27を設けることによる容量のロスおよび負極22の製造歩留まりを考えれば、導電体27の長さは40mm(例えば、L2=L3=20mm)程度であるのが好ましい。
負極集電体221は、例えば、銅、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されており、中でも銅により構成されているのが好ましい。高い電気伝導性が得られるからである。
負極活物質層222は、負極活物質としてリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて、導電剤あるいは結着剤などを含んでいてもよい。負極活物質層222の厚さおよび体積密度は任意に設定可能である。ただし、高い容量を得るためには、負極集電体221の片面側における厚さは65μm、さらに75μmであるのが好ましく、体積密度は1.6g/cm3 以上、さらに1.8g/cm3 以上であるのが好ましい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。このような炭素材料としては、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素あるいは(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などが挙げられる。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成し、炭素化したものをいう。炭素材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う結晶構造の変化が非常に少ないため、高エネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られる上、さらに導電剤としても機能するので好ましい。
また、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料が挙げられる。このような負極材料は、高いエネルギー密度が得られるので好ましい。この負極材料は、金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またはこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。ここで、合金には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などが挙げられる。このうち、特に好ましいのは、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種である。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金あるいは化合物、スズの単体、合金あるいは化合物、またはこれらの1種あるいは2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
ケイ素の合金としては、例えば、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン(Sb)およびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。スズの合金としては、例えば、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンおよびクロムからなる群のうちの少なくとも1種を含むものが挙げられる。
ケイ素の化合物あるいはスズの化合物としては、例えば、酸素あるいは炭素を含むものが挙げられ、ケイ素またはスズに加えて、上記した第2の構成元素を含んでいてもよい。
中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を含む負極材料としては、例えば、スズを第1の構成元素とし、そのスズに加えて第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム(V)、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀、インジウム、セリウム(Ce)、ハフニウム、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンからなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性が向上するからである。
このうち、負極材料としては、スズ、コバルトおよび炭素を構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、スズおよびコバルトの合計に対するコバルトの割合(Co/(Sn+Co))が30質量%以上70質量%以下の範囲内であるCoSnC含有材料が好ましい。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られると共に優れたサイクル特性が得られるからである。
このCoSnC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムあるいはビスマスなどが好ましく、それらの2種以上を含んでいてもよい。容量あるいはサイクル特性がさらに向上するからである。
なお、CoSnC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、CoSnC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下は、スズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集または結晶化が抑制されるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSでは、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、グラファイトであれば、炭素の1s軌道(C1s)のピークは284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば、炭素が金属元素あるいは半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、CoSnC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、CoSnC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素あるいは半金属元素と結合している。
なお、XPSでは、例えば、スペクトルのエネルギー軸の補正に、C1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPSにおいて、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとCoSnC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、CoSnC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
特に、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料がケイ素の単体、合金あるいは化合物、またはスズの単体、合金あるいは化合物を含む場合、負極活物質層222は、例えば、気相法、液相法、溶射法あるいは焼成法、またはそれらの2種以上の方法を用いて形成されたものであり、負極活物質層222と負極集電体221とが界面の少なくとも一部において合金化しているのが好ましい。具体的には、界面において負極集電体221の構成元素が負極活物質層222に拡散し、あるいは負極活物質層222の構成元素が負極集電体221に拡散し、または両者の構成元素が互いに拡散し合っているのが好ましい。充放電に伴う負極活物質層222の膨張および収縮による破壊が抑制されると共に、負極活物質層222と負極集電体221との間の電子伝導性が向上するからである。
なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法、具体的には真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法あるいはプラズマ化学気相成長法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法とは、例えば、粒子状の負極活物質を結着剤などと混合して溶剤に分散させることにより塗布したのち、結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
さらに、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能な金属酸化物あるいは高分子化合物なども挙げられる。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムあるいは酸化モリブデンなどが挙げられ、高分子化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンあるいはポリピロールなどが挙げられる。
もちろん、上記した一連の負極材料を組み合わせて用いてもよい。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラックなどの炭素材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。なお、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料あるいは導電性高分子などであってもよい。
結着剤としては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエンなどの合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子材料が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。
この二次電池では、例えば、正極活物質とリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料との間で量が調整されることにより、正極活物質による充電容量よりもリチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料による充電容量が大きくなり、完全充電時においても負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどよりなる合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多硬質膜により構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、ショート防止効果に優れ、かつシャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100℃以上160℃以下の範囲内でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性にも優れているので好ましい。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合させたものであったり、ブレンド化したものであってもよい。
このセパレータ23には、例えば、液状の電解質として電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒と、それに溶解された電解質塩とを含んでいる。
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒の1種あるいは2種以上を含有している。この非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸メチルプロピルなどの炭酸エステル系溶媒が挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、溶媒としては、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒とを混合したものが好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られるからである。
特に、溶媒は、ハロゲン化炭酸エステルを含有しているのが好ましい。負極22の表面に安定な被膜が形成されて電解液の分解反応が抑制されるため、サイクル特性が向上するからである。このハロゲン化炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンや4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどのフッ素化炭酸エステルが好ましい。より高い効果が得られるからである。
また、溶媒は、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有しているのが好ましい。サイクル特性が向上するからである。この不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、炭酸ビニレンあるいは炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩の1種あるいは2種以上を含んでいる。このリチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )あるいは六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )などが挙げられる。優れた容量特性、保存特性およびサイクル特性が得られるからである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種が混合されて用いられてもよい。中でも、電解質塩としては、六フッ化リン酸リチウムが好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。溶媒中における電解質塩の含有量は、例えば、0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下の範囲内である。優れた容量特性が得られるからである。
なお、この二次電池では、液状の電解質(電解液)に代えて、固体状あるいはゲル状の電解質を用いてもよい。
固体状の電解質は、イオン伝導性を有していれば、無機固体電解質でもよいし、高分子固体電解質でもよい。無機固体電解質としては、例えば、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどが挙げられる。高分子固体電解質としては、例えば、電解質塩とそれを保持する高分子化合物とを含むものが挙げられる。この高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはその架橋体などのエーテル系高分子や、ポリメタクリレートエステル系高分子や、アクリレート系高分子や、それらの共重合体あるいは混合物などが挙げられる。
ゲル状の電解質は、電解液とそれを保持する高分子化合物とを含んでおり、その高分子化合物が電解液を保持してゲル化しているものである。この高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとを成分とする共重合体などのフッ素系高分子や、ポリエチレンオキサイドあるいはその架橋体などのエーテル系高分子や、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、酸化還元に対する安定性の観点から、フッ素系高分子が好ましい。
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
まず、正極21を作製する。この場合には、まず、正極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合した正極合剤を有機溶剤に分散させることにより、ペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードあるいはバーコータなどを用いて正極集電体211(被覆部分211A)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布したのち、乾燥させる。最後に、必要に応じて加熱しながらロールプレス機などを用いて圧縮成型することにより、正極活物質層212を形成する。この場合には、圧縮成型を複数回に渡って繰り返してもよい。こののち、溶接などによって正極集電体211に正極リード25を取り付ける。
また、上記した電極の作製手順により、正極21と同様に負極22を作製する。この場合には、まず、負極活物質と、結着剤と、導電剤とを混合した負極合剤を有機溶剤に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとし、負極集電体221(被覆部分221A)の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのちに圧縮成型することにより、負極活物質層222を形成する。続いて、負極集電体221(非被覆部分221B)および負極活物質層222の上に導電体27を配置し、その導電体27を介して非被覆部分221Bおよび負極活物質層222を電気的に接続させる。こののち、溶接などによって負極集電体221に負極リード26を取り付ける。
次に、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回させることにより、巻回電極体20を形成する。この場合には、負極22が外側となるようにする。続いて、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26の先端部を電池缶11に溶接したのち、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。
最後に、電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図7〜図9に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。
この二次電池によれば、負極22が上記した電極と同様の構成を有しているので、負極活物質層222の膨張および収縮による応力の影響を受けて負極集電体221が破断しても、導電体27により負極22の電気的導通が維持される。したがって、容量特性などの電気的性能を確保することができる。この場合には、負極活物質層222が膨張および収縮しやすい負極材料を含んでいたり、高容量を得るために負極活物質層222の厚さや体積密度が高く設定されていれば、負極集電体221が破断しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。特に、負極活物質層222の厚さおよび体積密度の双方が高い仕様(いわゆる厚塗り・高体密仕様)であれば、著しく高い効果を得ることができる。
なお、この二次電池では、上記した電極について図3を参照して説明した場合と同様に、図9に対応する図10に示したように、固定用部材として絶縁性テープ28を用いて導電体27を負極集電体221(非被覆部分221B)に貼り付けてもよい。この場合においても、図3に示した場合と同様に、負極22の電気的性能を確保しつつ、導電体27を簡単に固定することができる。
また、上記した電極について図6を参照して説明した場合と同様に、図9に対応する図11に示したように、導電体27が電極リード(負極リード26)として機能するようにしてもよい。この場合においても、図6に示した場合と同様に、負極22の構成を簡素化することができる。
また、この二次電池では、導電体27を負極22だけに設けたが、必ずしもこれに限られず、正極21だけに設けてもよいし、正極21および負極22の双方に設けてもよい。この場合には、導電体27を正極21および負極22の双方に設ければ、より高い効果を得ることができる。
もちろん、この二次電池では、負極22が外側に位置するように正極21および負極22を巻回させたが、必ずしもこれに限られず、正極21が外側に位置するように巻回させてもよい。この場合においても、同様の効果を得ることができる。
この二次電池に関する上記以外の効果および変形例は、上記した電極と同様である。
本発明の実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
以下の手順により、図7〜図9に示した円筒型の二次電池を作製した。この際、負極22の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池となるようにした。
まず、正極21を作製した。この場合には、まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合したのち、空気中において900℃で5時間焼成してリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質としてリチウム・コバルト複合酸化物96質量部と、導電剤としてケッチェンブラック1質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合して正極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、アルミニウム箔(厚さ=15μm)からなる正極集電体211の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して正極活物質層212を形成した。この場合には、圧縮成型後の総厚=160μm、体積密度=3.5g/cm3 としたと共に、正極集電体211の両端部に被覆部分211Bを設けた。最後に、正極活物質層212が形成された正極集電体211をスリットして帯状の正極21とした。この場合には、後工程において巻回された場合に巻外側の非被覆部分212Bの長さが1周分となるように正極活物質層212の塗布範囲を調整した。こののち、正極集電体211の一端に、アルミニウム製の正極リード25を溶接して取り付けた。
次に、負極22を作製した。この場合には、まず、負極活物質として人造黒鉛94質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン6質量部とを混合して負極合剤としたのち、N−メチル−2−ピロリドンに分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、電解銅箔(厚さ=12μm)からなる負極集電体221の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布して乾燥させたのち、ロールプレス機で圧縮成型して負極活物質層222を形成した。この場合には、圧縮成型後の負極22の総厚=190μm、体積密度=1.9g/cm3 (厚塗り・高体密仕様)としたと共に、負極集電体221の両端部に非被覆部分221Bを設けた。最後に、負極活物質層222が形成された負極集電体221をスリットして帯状の負極22(幅=57mm)とした。この場合には、正極21を作製した場合と同様に、巻外側の非被覆部分222Bの長さが1周分となるように負極活物質層222の塗布範囲を調整した。こののち、負極集電体221の一端に、ニッケル製の負極リード26を溶接して取り付けた。
次に、溶媒として炭酸エチレンと炭酸ジメチルとを1:1の質量比で混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液を調製した。この場合には、電解質塩の濃度が1mol/dm3 とした。
最後に、二次電池を組み立てた。この場合には、まず、微多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータ23(厚さ=20μm)を用意し、正極21と負極22とをセパレータ23を介して交互に積層させたのち、その積層体を負極22が外側となるように巻回させて外径=18mmの巻回電極体20を作製した。この場合には、図1および図9に示したように、一定の張力を負荷しながら負極22を巻回させる際に導電体27として銅箔(厚さ=6μm,幅W1=57mm)を巻き込むことにより、巻外側における非被覆部分221Bおよび負極活物質層222の上に導電体27を配置して固定した。この導電体27の長さとしては、L1=10mm、L2,L3=5mmとした。続いて、正極リード25を安全弁機構15に溶接すると共に負極リード26を電池缶11に溶接したのち、ニッケルめっきが施された鉄製の電池缶11の内部に巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で巻回電極体20を挟みながら収納した。続いて、減圧方式によって電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させた。最後に、アスファルトが塗布されたガスケット17を介して電池缶11をかしめることにより、安全弁機構15、熱感抵抗素子16および電池蓋14を固定した。これにより、電池缶11の内部の気密性が確保され、直径=18mmおよび高さ=65mmの円筒型の二次電池が完成した。
(実施例2)
負極22を巻回させる際に巻き込んで導電体27を固定する代わりに、図3および図10に示したように、絶縁性テープ28で導電体27を負極集電体221(非被覆部分221B)に貼り付けて固定したことを除き、実施例1と同様の手順により円筒型の二次電池を作製した。この絶縁性テープ28としては、住友スリーエム株式会社製のポリイミドテープ(テープ番号7417:厚さ=47μm,幅W2=50μm)を用いた。
(比較例)
導電体27を設けなかったことを除き、実施例1と同様の手順により円筒型の二次電池を作製した。
これらの実施例1,2および比較例の二次電池について、負極22の性能および状態の変化を調べたところ、表1に示した結果が得られた。
負極22の性能を調べる際には、以下の手順により、負極22の両端部間におけるインピーダンス変化を求めた。まず、23℃の雰囲気中において1サイクル充放電させることにより、1サイクル目のインピーダンス(mΩ)を測定した。続いて、同雰囲気中において299サイクル充放電させることにより、300サイクル目のインピーダンス(mΩ)を測定した。最後に、インピーダンス比=300サイクル目のインピーダンス/1サイクル目のインピーダンスを算出した。この際、充電条件としては、2000mAの定電流で電池電圧が4.2Vに到達するまで充電したのち、引き続き4.2Vの定電圧で充電開始からの総時間が4時間となるまで充電した。一方、放電条件としては、2000mAの定電流で電池電圧が3.0Vに到達するまで放電した。
また、負極22の状態を調べる際には、充放電後の二次電池を分解して負極22を取り出したのち、負極集電体221について破断の状況を目視で観察したと共に、破断の割合(%)を概算した。この破断の割合とは、負極集電体221(非被覆部分221B)の幅Wに対する破断の幅WCの割合(=[WC/W]×100)である。なお、破断が複数箇所に生じている場合、上記した幅WCは各箇所における破断の幅の総和である。
なお、負極22の性能および状態の変化を調べる際には、実施例1,2および比較例のいずれについても、調査数(n数)=3とした。
表1に示したように、実施例1,2および比較例では、いずれにおいても充放電後にインピーダンスが増加し、すなわちインピーダンス比が1よりも大きくなったと共に、負極集電体221に局所的破断あるいは完全破断が生じた。比較例だけでなく実施例1,2においても負極集電体221が破断したのは、その破断に伴う性能差を確認しやすくするために、負極活物質層222を厚塗り・高体密仕様、すなわち負極活物質層222の膨張および収縮による応力の影響を受けて負極集電体221が破断しやすい試験条件にしたからである。
しかしながら、実施例1,2では、比較例よりもインピーダンス比が小さくなった。なお、比較例では、局所的破断している二次電池については充放電後のインピーダンスを測定できたが、完全破断している二次電池については充放電後のインピーダンスを測定することができなかった。
これらの結果は、実施例1,2では負極集電体221が破断しているにもかかわらず、導電体27が電気的導通バイパスとして機能することにより負極22の電気的導通が維持されているため、インピーダンスの増加が抑えられていることを表している。また、比較例で生じているインピーダンスの増加は負極集電体221の破断に伴う電気伝導性の低下に起因していることを表している。すなわち、比較例の結果は、局所的破断が生じた場合にはその程度が激しいほどインピーダンスの増加量が大きくなり、完全破断が生じた場合には電気伝導性が失われることを表している。
これらのことから、負極集電体221の非被覆部分221Bおよび負極活物質層222を電気的に接続させるように導電体27が設けられた本発明の二次電池では、負極集電体221が破断しても電気的性能が確保されることが確認された。
なお、ここでは具体的な結果を開示していないが、負極22の総厚および体積密度をそれぞれ145μmおよび1.9g/cm3 (高体密仕様)あるいは220μmおよび1.85g/cm3 (厚塗り仕様)に変更した場合(負極集電体221の厚さは12μmで固定)においても、同様に負極22の性能および状態の変化を調べたところ、やはり実施例1,2と同様の結果が得られた。このことから、本発明の二次電池では、負極活物質層222の厚さおよび体積密度を高めに設定しながら変化させた場合においても同様の効果が得られることが確認された。もちろん、図11に示したように導電体27を負極リード26として機能させた場合においても同様の効果が得られることは言うまでもない。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の電極の用途は、必ずしも電池に限られず、電池以外の他の電気化学デバイスであってもよい。この他の用途としては、例えば、キャパシタなどが挙げられる。
また、上記した実施の形態および実施例では、電池の種類として、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分により表されるリチウムイオン二次電池について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。本発明の電池は、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵および放出に基づく容量成分とリチウムの析出および溶解に基づく容量成分とを含み、かつ、それらの容量成分の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態または実施例では、電池の構造が円筒型である場合を例に挙げて説明したが、本発明の電池は、正極および負極が巻回された状態で用いられる角型あるいはラミネートフィルム型などの他の構造についても同様に適用可能である。このラミネートフィルム型とは、巻回電極体がフィルム状の外装部材に収納された構造である。また、本発明の電池は、二次電池に限らず、一次電池などの他の種類の電池についても同様に適用可能である。
また、上記した実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1A族元素や、マグネシウム(Mg)あるいはカルシウム(Ca)などの2A族元素や、アルミニウムなどの他の軽金属を用いてもよい。これらの場合においても、負極活物質として、上記した実施の形態で説明した負極材料を用いることが可能である。
1…集電体、1A,211A,221A…被覆部分、1B,211B,221B…非被覆部分、2…活物質層、3,27…導電体、4,28…絶縁性テープ、5…電極リード、11…電池缶、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20…巻回電極体、21…正極、22…負極、23…セパレータ、24…センターピン、25…正極リード、26…負極リード、211…正極集電体、212…正極活物質層、221…負極集電体、222…負極活物質層、C…破断、L1〜L3…長さ、W,W1,W2…幅。