本発明の請求項1に記載の真空断熱箱体の発明は、少なくともガスバリア性材料からなる外箱及び内箱と、前記外箱と前記内箱とにより構成される空間に減圧密封される芯材とからなる真空断熱構造を有する真空断熱箱体であって、前記芯材の減圧前後の体積変化率が50%以内であり、かつ、イオン交換率が130%以上250%以下の範囲で銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含む少なくとも窒素を吸着可能な気体吸着材を前記空間と通気可能な部位に配設することを特徴とするものである。
ここで、芯材の体積変化率とは、例えばラミネートフィルムの袋等のガスバリア性が高い袋に芯材を封入し、減圧することにより大気圧縮され減少した芯材体積が、減圧する前の芯材体積に対して減少した芯材体積の変化率のことである。このとき、例えば真空断熱箱体より取り出した芯材の体積を測定し、その後プラスチックラミネートフィルム中に同じ芯材を挿入、減圧、密封した真空断熱箱体の体積を測定し、その体積変化率が50%以内であるというような測定方法を用いてもよい。
体積変化率が50%以内であることにより、大気圧縮によって箱体が圧縮されても、芯材の体積変化が小さいため、箱体の変形が抑制でき、さらに、変形およびクラックの抑制による信頼性向上を図ることができる。特に、箱体を構成する材料が薄く、強度が弱いものであれば、その効果は高く、また、箱体材料を薄くできるので、有効容積比率(容積効率)も向上する。
また、体積変化率は小さいほど、外箱および内箱の厚さを薄くすることが可能であり、加えて、伸び性や強度が劣る材料でも使用することができるため、省スペース、材料削減の効果が得られる。また、より長期の信頼性を維持するためには、体積変化率は望ましくは20%以内がよい。
また、表面変形をほぼ完全に防ぎ、外観をより美しくするためには、体積変化率は5%以内にすることがより好ましい。
一方、体積変化率が50%より大きいと、万一箱体が大きく変形した場合、外観が著しく損なわれるとともに、外箱、内箱にクラック、へこみ、ゆがみ等が生じ、外気が流入することで、断熱効果は失われるおそれがある。クラック等の劣化は減圧時に生じるものだけではなく、長期間応力が加わることで、変形、クラックを生じる現象も含む。
前記芯材は材料系を特に限定するものではなく、有機あるいは無機繊維、粉末、粉末を固形化したもの、発泡樹脂など、特に限定するものではない。
例えば繊維を用いた芯材では、グラスウール、グラスファイバー、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、炭化ケイ素繊維等の無機繊維、あるいは木綿等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維等の有機繊維など、公知の材料を使用することができる。
体積変化率を50%以内にするには、繊維を圧縮もしくは加熱圧縮、水やバインダーを用いての圧縮もしくは加熱圧縮、ニードリング、スパンレース、抄造等の方法により可能となる。
一方、粉末を用いた芯材ではシリカ、パーライト、カーボンブラック等の無機粉末、あるいは合成樹脂粉末等の有機粉末、あるいはそれらの混合物などを、粉末そのままで充填、あるいは通気性のある袋に充填して用いる、あるいは繊維バインダーあるいは無機や有機の液状バインダーにて固形化する等の方法により達成できる。
また、発泡樹脂ではウレタンフォーム、フェノールフォーム、スチレンフォーム等を使用することができる。
また、ここでの気体吸着材とは、物理吸着、化学吸着、また、吸着、吸収、収着、吸蔵等が可能な材料を指している。
従来から、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、窒素に対して、物理吸着に加え、化学吸着可能であることは知られている。その技術は、ZSM−5型ゼオライトを、塩化銅水溶液やアンミン酸銅水溶液、酢酸銅水溶液など、銅の可溶性塩の水溶液にてイオン交換し、その後、熱処理を行うことにより、銅イオンを1価へ還元し、窒素吸着活性を付与するものである。
しかし、従来の既知の方法で調製された銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでは、イオン交換率は最大でも150%程度であった。また、従来既知の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでは、70%から140%の範囲において、特に120%近傍で優れた吸着性能を示すとの報告がされていた。
しかしながら、本願の発明者らは、イオン交換率が、200%以上となる現象を見出し、130%以上、250%以下の範囲において、窒素の吸着容量が増大することに加え、一酸化炭素のみならず、水素、酸素などの気体種の吸着までが可能となることを見出した。
従来、気体吸着量を最大とするためのイオン交換率の最適範囲は、70%から140%の範囲と考えられてきたが、本発明による最適範囲は、130%以上、250%以下であり、より望ましくは、140%以上、220%以下である。
ここで、本発明における銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率の求め方について、以下に説明する。
まず、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを過塩素酸などで溶解し、EDTA滴定やICP測定などによって、ゼオライトの単位重量あたりに含まれる銅モル量を求める。
一方で、熱重量測定を用いて加熱による重量減少率からゼオライトに含まれる水分量を計測し、水分を除いたゼオライトの真重量を求める。
上記2つのデータから、ゼオライトの真重量に対する銅の含有率が算出でき、銅と交換される前に含まれていた陽イオンに対して、銅イオン交換された割合を算出することができる。
ここで示すイオン交換率とは、銅交換前の陽イオンをNa+とすると、2つのNa+あたりにCu2+が交換されることを前提とした計算値である。従って、銅がCu+として交換された場合、計算上は100%を越えて算出され、完全に交換された場合は200%となるが、理論的に200%を超えることはない。
しかし、本発明によると、200%を超えるイオン交換率が得られるものである。
イオン交換率130%以上、250%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの特徴は、常温・常圧において白褐色を帯びており、従来既存のイオン交換率70%から140%の範囲の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの淡青色とは、明らかに色が異なる。
これらの要因について詳細は明らかでないが、少なくとも一部の銅がゼオライト中に導入される形態が、従来既存のZSM−5型ゼオライトとは異なるためであると考える。その結果、イオン交換率の最適範囲も異なっているものと考える。
すなわち、従来既存のイオン交換で交換される銅の形態は、通常、銅2価イオンまたは銅1価イオンである。よって、イオン交換率は、200%を超えることはない。
一方、本発明においては、少なくとも一部の銅は、有機−銅化合物イオン複合体の形態でイオン交換されていると推測される。ここでの有機−銅化合物イオン複合体とは、有機物および銅化合物の重合物やオリゴマーのイオンを指し、1つの陽イオン中に銅が1つであっても、複数含まれていてもよい。その結果、1つのイオン交換サイトに、1つの銅を持つ陽イオンだけではなく、複数の銅を有する陽イオンが交換されるため、見かけ上、イオン交換率が200%を超えるのである。
なお、有機−銅化合物イオン複合体の形態でのイオン交換は、イオン交換溶液の適切な加熱や、マイクロ波照射、超音波による加熱などで実現できる。
本発明によるイオン交換率の増大により、吸着活性サイトが増大し、吸着量の増大および低圧領域での吸着活性の増大が得られるものである。
その結果、既存の気体吸着材よりも、一層大容量の気体種を吸着、固定化でき、このような気体吸着材を備えた真空断熱箱体は、空間中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、優れた断熱性能を有する真空断熱箱体を提供できるものである。
また、本発明の気体吸着材は、少なくともイオン交換率が130%以上、250%以下の範囲の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが一部含まれているものであり、その他の気体吸着材や加工のためのバインダーなどが含まれていても良い。
例えば、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトに加え、水分吸着材や酸素吸着材などが、ともに存在していて気体吸着材を形成していてもよい。
もちろん、イオン交換率が130%以上、250%以下の範囲の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが単独であっても、イオン交換率が130%以上、250%以下の範囲外の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトとの混合体であってもよい。
その気体吸着成分の構成比は、使用環境や内部発生ガスの種類により選択できるものである。
また、気体吸着材は粉末あるいは成形体として使用することができるが、特に指定するものではない。また、成形した気体吸着材とは、圧縮成型、錠剤化、ペレット化等の形態で使用することも可能であり、あるいは別容器に粉体を入れその容器中の粉末を圧縮したもの等が考えられ、さらに複数の吸着材を組み合わせて利用することも可能であり、1種の気体吸着材を別の気体吸着材で覆っていてもよい。
また、気体吸着材の使用方法として、例えば、真空断熱箱体と気体吸着材とを収容した容器を通気可能にした状態で真空断熱箱体中を真空排気し、その後、真空断熱箱体を密閉化することにより真空断熱空間を作り出し、その後気体吸着材にて真空断熱箱体中の真空度を維持する方法がある。
また、真空断熱箱体と気体吸着材とを収容した容器を通気可能にした状態で工業的に到達容易な程度、数分間の真空排気をし、その後、真空断熱箱体を密閉化し、まだ残存する箱体中の気体を気体吸着材で吸着することにより、二段減圧のような使用方法を実践することも可能である。
また、あるいは気体吸着材は別容器に密閉しておき真空断熱箱体内を所定圧に真空排気後、気体吸着材を何らかの方法で真空断熱箱体内と通じることを可能とすることにより、気体吸着材を高活性に保ったまま二段減圧のような働きをさせることも可能であるが、使用方法については特に指定するものではない。
この二段減圧の使用方法では、真空ポンプなどに接続することなく、気体吸着材の作用で高真空が実現できるため、生産効率が向上する。
また、気体吸着材の配設場所については、1カ所、またさらに生産効率を向上させるために複数箇所に配設してもかまわない。
また、リサイクル時等には、気体吸着材を取り外すことも可能である。
請求項2に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項1に記載の発明における前記芯材が、三次元形状であることを特徴とするものである。
例えば、粉体材料を空間に注入するような場合、複雑な形状を有する空間であれば、未充填部や充填密度にムラが生じ、性能や体積変化率にムラが生じ、断熱性能や体積変化率にバラツキが生じる恐れがある。しかし、芯材が予め三次元形状をしていることにより、未充填部や充填密度のムラをなくし、さらに寸法精度よく芯材を充填することができるため、均一な断熱性能および体積変化率を有することができる。
また、繊維材の様に、箱体成形後、充填が困難な芯材においても、三次元形状とすることで、芯材を外箱と内箱で挟むことが可能となり、工法の簡便化を図ることができる。
請求項3に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項2に記載の発明における前記三次元形状をした芯材が、少なくとも2つに分割されていることを特徴とするものである。
三次元形状芯材を2つ以上に分割することで、複雑な形状を有し、一度の成形では困難な形状なものであっても、簡便に作製することができる。
また、繊維材のように熱伝導率に異方性があることが明らかとなっている材料においては、断熱性能が向上する方向に、芯材方向を揃えることが重要である。
請求項4に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明における前記ガスバリア性材料が、樹脂材と金属箔を複層化したものであることを特徴とするものである。
樹脂材のみでは温度が高くなるほどガスバリア性が低下するものが多く、一方、金属材料のみでは外箱、内箱からの熱の回りこみによるヒートリークが大きく断熱性能が低下するという問題があったが、金属箔と樹脂材の複合化により、幅広い温度領域でガスバリア性を向上させるとともに、箔を用いることで、ヒートリークも減少できるものである。
また、金属箔との複層化は、樹脂へ高ガスバリア性を付与する他の手段である樹脂表面への金属蒸着法やメッキ法よりも、ガスバリア性が高く、設備、工程の負荷も小さい。
また、ガスバリア性は金属箔と複層化している面積が大きいほど良好になる。
また、金属箔は温度や湿度への依存性が小さく、環境変化に強いより良好なガスバリア性を有することができる。
また、本発明における金属箔とは金属単体である必要はなく、金属の薄層を含む高ガスバリア性の材料であれば利用できる。例えば、密着性や取り扱い性を向上させるために、ラミネートフィルムの様な樹脂材と金属箔との複層フィルムを用いてもかまわない。また、樹脂材に金属を蒸着させた蒸着フィルムであっても、同様の効果が得られるため、問題はない。
また、複層フィルムとして、金属箔、金属蒸着膜の表面にピンホール等の防止のための表面保護層を設けてもかまわない。表面保護層としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品などが利用でき、さらに外側にナイロンフィルムなどを設けると可撓性が向上する。
また、金属は厚くなりすぎると、金属箔を通じて、熱リークするため、1mm以下が望ましい。また、薄すぎると成型時に破れる恐れがあり、また、ピンホールも形成しやすいため1μm以上が望ましい。
また、金属箔はアルミニウム、ステンレス、鉄、銅等材質は問わないが、加工性、コストの面からアルミニウム箔が最も望ましい。
また、金属箔は全面被覆することが好ましいが、例えば金属箔にしわが寄り、破損しやすいコーナー部分などは被覆しないようにし、必要な部分だけ複層化することで、成形性や外観を向上させる。そのため、ガスバリア性の高い樹脂材料と複層化することで、金属箔が被覆できない部分のガスバリア性を補強し、真空断熱箱体の断熱性を長期間維持できる。
また、金属箔は通常、成型の型側に設置し、インサート成型やインモールド成型を行うが、体積変化率の小さい三次元形状芯材を用いれば、芯材側に金属箔を設置することが可能となり、樹脂材料の成型自由度が著しく向上する。さらに、芯材の体積変化率が50%以内であるため、大気圧縮による箱体および芯材の変形が抑制されるとともに、金属箔の破損する部分が著しく少なく、ガスバリア性を確保することができる。
また、樹脂材に金属材料を蒸着したフィルムであれば、金属箔と異なり結晶化度が少ないため、伸びやすく、より良好な複層材料を形成することができる。
また、樹脂材料にシリカ、アルミナ等の無機酸化物の蒸着膜を形成しガスバリア性を高めてもかまわない。
また、樹脂材としてエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンフルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドからなる群から少なくとも一つを用いることが好ましいが、特に指定するものではない。
上記ガスバリア性材料は特にガスバリア性が高いため、より信頼性の高い真空断熱箱体を形成することができる。さらに、金属箔との複層化部分を減らすことが可能となり、例えば金属箔を複層化しにくい複雑な形状の真空断熱箱体であっても、同等のガスバリア性を保持することが可能となり、自由性形成を向上させることができる。
また、樹脂材の厚さを薄くしても同等のガスバリア性を有することが可能であり、省スペース化を図ることができる。
請求項5に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトと共に、少なくとも有機−銅化合物を含むことを特徴とするものである。
本発明における気体吸着材に含まれる有機−銅化合物を、蛍光X線、および、FT−IRにより分析した結果、蛍光X線からは、銅を主成分とする有機複合体であることが確認された。さらに、FT−IRの結果を加え、有機−銅を含む酸化物、水酸化物などの複合物であることが明らかとなった。これを本発明においては、有機−銅化合物と表記し、そのイオンを有機−銅化合物イオン複合体と示す。
本発明における有機−銅化合物のFT−IRスペクトルを図1に示す。蛍光X線の結果及び図1より、有機−銅化合物はO−H結合、C=O結合、C−H結合などを含む銅の有機複合体であると考えられる。
イオン交換溶液中に存在するこれらの有機−銅化合物は、有機−銅化合物イオン複合体の形態でイオン交換されるとともに、不純物としても銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトに混在する。この有機−銅化合物は、イオン交換率を求めるにあたって、過塩素酸などでゼオライトを溶解する際にも一緒に溶解されるため、イオン交換率を増大する要因となる。
また、この有機−銅化合物の存在自体が、何らかの形で吸着活性に寄与し、吸着量の増大を促進していると推測される。おそらくは、熱処理により有機−銅化合物自身も、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトともに還元処理がなされ、吸着活性を有していると考えられる。
また、熱処理の際、有機−銅化合物中の有機成分が、銅イオンの還元を促進する作用を有するために、吸着活性サイトである銅1価の割合を増大させ、その結果、気体吸着量、特に化学吸着量の増大が得られるものである。
その結果、既存の気体吸着材よりも、一層大容量の気体種を、より強固に吸着、固定化でき、真空断熱箱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、信頼性に優れた、高性能な真空断熱箱体を提供できるものである。
請求項6に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項5に記載の発明における銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、少なくとも、銅イオンと、有機−銅化合物とを含むイオン交換溶液にてイオン交換されたことを特徴とするものである。
ここでの有機−銅化合物とは、銅と有機物の重合物やオリゴマーなどの有機−銅化合物であり、さらに酸化物や水酸化物を含むものであってもよい。
これらを含むイオン交換溶液にてイオン交換することにより、イオン交換率が130%以上となり、その結果、吸着量の増大および低圧領域での吸着活性の増大が得られるものである。
また、熱処理の際、有機−銅化合物中の有機成分が、銅イオンの還元を促進する作用を有するために、吸着活性サイトである銅1価の割合を増大させ、その結果、気体吸着量、特に化学吸着量の増大が得られるものである。
その結果、既存気体吸着材よりも、一層大容量の気体種を、より強固に吸着、固定化でき、真空断熱箱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、信頼性に優れた、高性能な真空断熱箱体を提供できるものである。
請求項7に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項6に記載の発明における有機−銅化合物が、イオン交換溶液を加熱することにより形成されたことを特徴とするものである。
本願の発明者らは、イオン交換溶液が、中でもカルボキシラトを含むイオン交換溶液が、加熱されることにより、有機−銅化合物イオン複合体を生成しやすく、これがイオン交換されることにより、吸着活性が増大することを見出した。
ここでの有機−銅化合物イオン複合体とは、加熱により不安定になり、分解あるいは半分解した有機物と、銅イオンとが、複雑に結合した有機物および銅化合物の重合物やオリゴマーのイオンを指し、1つの陽イオン中に銅が1つであっても、複数含まれていてもよい。
その結果、1つのイオン交換サイトに、1つの銅を持つ陽イオンだけではなく、複数の銅を有する陽イオンが交換されるため、見かけ上、イオン交換率が増大し、200%を超えるものもできるのである。
また、加熱は、イオン交換前の溶液を予め加熱しても良いが、加熱しながらイオン交換する方が、イオン交換効率向上に優れる。
本発明による加熱によるイオン交換率の増大により、吸着活性サイトが増大し、その結果、吸着量の増大および低圧領域での吸着活性の増大が得られるものである。
その結果、既存気体吸着材よりも、一層大容量の気体種を、より強固に吸着、固定化でき、真空断熱箱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、信頼性に優れた、高性能な真空断熱箱体を提供できるものである。
請求項8に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項7に記載の発明における加熱温度が、50℃以上90℃以下の範囲であることを特徴とするものである。
加熱によるイオン交換率の増大は、50℃以上が顕著である。また、加熱が過ぎると、有機−銅化合物イオン複合体が分解し、銅水酸化物あるいは銅酸化物に変質し、イオン交換率の増大に寄与しない場合もあるため、90℃以下が好ましい。より好ましくは80℃以下である。
本構成によって、既存気体吸着材よりも、一層大容量の気体を、より強固に吸着、固定化でき、真空断熱箱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、信頼性に優れた、高性能な真空断熱箱体を提供できるものである。
請求項9に記載の真空断熱箱体の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の気体吸着材が窒素を吸着すると、前記気体吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm−1付近のピークが現れることを特徴とするものである。
本構成によって、大容量の窒素を吸着、固定化が可能となった銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを確認できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図2は本発明の実施の形態1における真空断熱箱体の外観図であり、図3は同実施の形態における真空断熱箱体の分解図である。図4は同実施の形態における真空断熱箱体の縦断面図である。
内部にお湯や水を溜められる貯湯容器構造をした真空断熱箱体1は、上部に内部へ水等を貯蔵するための注入口2を有し、外側はガスバリア性材料からなる外箱3で、断熱空間を減圧にするための排気口4がある。
図3の分解図では、注入口2を有するガスバリア性材料からなる内箱5と三次元形状をし、分割された芯材6と、さらに外側を分割した外箱3と外箱3に断熱空間を排気する排気口4から構成されている。
ガスバリア性材料は、空気透過速度が100[cm3・10μm/m2・day・atm]以下であり、好ましくは0.5[cm3・10μm/m2・day・atm]以下であることが望ましい。
空気透過速度が100[cm3・10μm/m2・day・atm]より大きくなると、外部からの空気浸入量が増大し、長期信頼性が劣る。また、吸着材による空気吸着で対応しても、吸着材の必要量が増大し、吸着材の固体熱伝導率が増加し、断熱性能が低下する。
また、成型方法も限定するものではないが、ブロー成形、射出成型、真空成型、圧空成型が最も成型しやすく、いずれの成型方法でも構わない。また、これらの成型方法を組み合わせても構わない。
そして、外箱3は一体で成型する場合は半分に切断し、分割して成型する場合はそのままで使用する。内箱5と外箱3の間の空間と同じ三次元形状に固形化し、さらに分割した芯材6と内箱5とを内部に挿入し、外箱3と内箱5の注入口2の首部分をそれぞれ溶着させる。その後、半分に切断した外箱3を切断部分で溶着し、密閉した後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体を作製する。
芯材6は内箱5に挿入するためには2つ以上に分割した方が挿入しやすい。また、複雑な形状になるほど、分割して挿入するほうが箱体形成が行いやすい。芯材と芯材の接合部は、密着していれば、断熱性能や箱体の強度に大きく影響は及ぼさない。
外箱3の溶着は端面同士を溶着しても構わないが、事前にフランジ部分を形成しておけば、容易に溶着ができる。
また、溶着方法は特に限定するものではないが、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着、IRAM、DSI、溶接、ホットメルト、電磁誘導、熱風溶着、インパルス溶着、熱風溶着、近赤溶着、拡散結合等が用いられる。また、これらの複合としても構わない。
図4の縦断面図では、真空断熱箱体1は外箱3と内箱5とからなり、外箱3と内箱5の間には断熱空間7が存在する。断熱空間の内部は芯材6で満たされており、気体吸着材8と水分吸着材9を有している。
断熱空間7は排気口4から排気され、減圧空間となり、その後、排気口4を封止することで密封する。
また、気体吸着材8は、少なくとも、イオン交換率が130%以上、250%以下の範囲の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含み、従来既存のものより大容量の気体を吸着可能である。その結果、箱体を構成する材料から浸入してくる気体や内部に残留していた吸着ガス等を吸着し、長期信頼性を確保することができる。
また、気体吸着材は、酸素、窒素、水、二酸化炭素、水素等を吸着可能な吸着材を単独または複合化して使用できる。
芯材6は、減圧前の体積が減圧下の大気圧縮により減少した体積の割合を示す体積変化率が50%以下であるため、真空断熱箱体1は、断熱空間7を減圧しても、芯材の体積減少以上には変形しないため、内箱および外箱材料へ負荷が小さくなり、大気圧縮による割れやひび、変形が起こりにくく、また、箱体強度及び信頼性がともに高い真空断熱箱体を構成できる。特に、内箱および外箱材料が大気圧縮よりも剛性が低い場合や、材料厚が薄い場合、その効果は大きい。また、長期的に応力が掛かることによる疲労破壊や、外環境による内箱および外箱材料の劣化、剛性の低下により、割れやひびが生じることがあるが、芯材の体積変化率が50%以下であれば、芯材の体積減少以上には変形しないため、これらの減少を抑制する効果を有し、やはり信頼性向上が得られる。
また、体積変化率は小さいほどその効果は高く、寸法精度や外観の美観は向上するため、望ましくは10%以下がよく、より正確な寸法精度をだすためには3%以下が望ましい。
体積変化率が50%より大きいと、外観や寸法精度も大きく低下する。また、内箱および外箱材料へ大気圧縮の負荷や変形率が大きくなり、内箱および外箱材料が短期もしくは長期的に割れやひびがおこりやすくなる。また、内箱および外箱材料を厚くして強度を増し、対応することは可能だが、容積効率が減少し、また、コストも高くなる。さらに、内箱および外箱材料の断面積が大きくなることで、内箱および外箱材料から回り込む熱量が増加し、断熱性能も低下する。
(実施例1)
内箱5は厚さ1mmのポリプロピレンと厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、ポリプロピレンが内側となり、成形はブロー成形で行う。また、ポリプロピレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
外箱3は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ100μmのEVOHとからなる多層材料で、高密度ポリエチレンが外側になり、内箱5同様、ブロー成形によって作製し、高密度ポリエチレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
ブロー成形によって成形した外箱3を半分に切断し、内箱5と外箱3の間の断熱空間7と同じ三次元形状に固形化した芯材6を挿入する。芯材6は平均繊維径5μmのガラス繊維を500℃で加圧成型し、250kg/m3の密度に調整して作製し、2分割して挿入する。
そして、内箱5を内部に挿入し、さらに気体吸着材8と水分吸着材9を挿入する。気体吸着材8は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含むものを用い、水分吸着材9として酸化カルシウムを加えた。
実施例1において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、次のように調整した。
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。50℃で、1時間のイオン交換を5回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。実施例1の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率は、178%であった。
この銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着量評価を実施した。Ar雰囲気中でコックつきの試験管に気体吸着材8を封入、その後試験管内をAr雰囲気から取り出し、コック部分から真空排気、窒素充填した。その窒素圧力の減少から気体吸着材8の窒素吸着量を読み取ると、18.6cc/gであった。
また、比較例3に比べて、イオン交換回数が1/6となっており、気体吸着材8の吸着量に対するプロセス効率が向上していることがわかる。
外箱3と内箱5は注入口2の首部分で溶着させ、半分に切断した外箱3を切断部分で溶着し、密閉した後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体1を作製する。
挿入した芯材6と同条件で作製した芯材6、もしくは真空断熱箱体1に用いた芯材6を取り出し体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は3.3%であった。作製した真空断熱箱体1は、目だった外観の変化もなく、比較例1に比べ良好であった。また、熱伝導率は0.0038W/mKであり、比較例1および2、3に比べ、高断熱性能を有する。
また、この熱伝導率0.0038W/mKは、気体吸着材8の吸着作用により、真空ポンプで3分真空排気し、その後放置しておくだけで上記熱伝導率に達することができた。
また、真空断熱箱体1を40℃で3ヶ月放置したが、やはり比較例1に比べ、外観、性能の変化は見られなかった。
(実施例2)
内箱5は厚さ0.3mmのABS樹脂と厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、ABSが内側となり、成形はブロー成形で行う。また、ABS樹脂とEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
外箱3は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ100μmのEVOHとからなる多層材料で、高密度ポリエチレンが外側になり、二重射出成形によって作製し、高密度ポリエチレンにはEVOHとの接合材が混入されている。
射出成形によって成型する際、半分にして成型し、内箱5と外箱3の間の空間と同じ三次元形状に固形化した芯材6を挿入する。また、接合しやすいようにフランジ部を設ける。芯材6は、平均一次粒子径が80μmの乾式シリカと乾式シリカに対して、10wt%のカーボンブラックと、10wt%の平均繊維径5μmのガラス繊維とを混合し、空間形状に加圧成型し、密度が260kg/m3に固形化した。
また、挿入できるようにあらかじめ半分ずつ成型し、挿入する。そして、内箱を内部に挿入し、さらに気体吸着材8と水分吸着材9を挿入する。気体吸着材8は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含むものを用い、水分吸着材9として酸化カルシウムを加えた。
実施例2において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、次のように調整した。
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。70℃で、1時間のイオン交換を5回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
実施例2の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率は、217%であった。
この銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着量評価を実施した。Ar雰囲気中でコックつきの試験管に気体吸着材8を封入、その後試験管内をAr雰囲気から取り出し、コック部分から真空排気、窒素充填した。その窒素圧力の減少から気体吸着材8の窒素吸着量を読み取ると、31.4cc/gであった。
実施例1と比較すると、イオン交換率の増大とともに飛躍的に窒素吸着量が増大していることがわかる。
これは、加熱温度の増大により、一層、有機−銅化合物イオン複合体の形態でのイオン交換が促進されたものと考えられる。有機−銅化合物を含むことによる比表面積の増大も寄与しているものと考えられる。
また、比較例3に比べて、イオン交換回数が1/6となっており、気体吸着材8の吸着量に対するプロセス効率が向上していることがわかる。
外箱3と内箱5は注入口2の首部分で溶着させ、半分に切断した外箱3を切断部分で溶着し、密閉した後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体1を作製する。
挿入した芯材6と同条件で作製した芯材6の体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は8.5%であった。作製した真空断熱箱体1は、目だった外観の変化もなく、比較例1に比べ良好であった。
また、熱伝導率は0.0048W/mKであり、比較例1および2、3に比べ高断熱性能を有する。熱伝導率が実施例1より大きいのは、芯材に依存するものであり、吸着材の能力によるものではない。
また、熱伝導率0.0048W/mKに達するのに、真空ポンプだけでは15分必要であったが、気体吸着材8により、真空ポンプで3分真空排気しその後放置しておくだけで上記熱伝導率に達することができた。
また、40℃で3ヶ月放置したが、やはり比較例1に比べ外観、性能の変化は見られなかった。
(実施例3)
内箱5は厚さ0.3mmのABS樹脂と厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、ABS樹脂が内側となり、成形はブロー成形で行う。また、ABS樹脂とEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
外箱3は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ100μmのEVOHとからなる多層材料で、高密度ポリエチレンが外側になり、二重射出成形によって作製し、高密度ポリエチレンにはEVOHとの接合材が混入されている。
射出成形によって成型する際、半分にして成型し、内箱5を挿入する。また、接合しやすいようにフランジ部を設ける。そして、内箱5を内部に挿入し、さらに気体吸着材8と水分吸着材9を挿入する。
気体吸着材8は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含むものを用い、水分吸着材9として酸化カルシウムを加えた。
実施例3において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、次のように調整した。
イオン交換溶液は、0.01Mの酢酸銅水溶液を用いた。50℃で、1時間のイオン交換を5回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
実施例1の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率は、135%であった。
この銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着量評価を実施した。Ar雰囲気中でコックつきの試験管に気体吸着材8を封入、その後試験管内をAr雰囲気から取り出し、コック部分から真空排気、窒素充填した。その窒素圧力の減少から気体吸着材の窒素吸着量を読み取ると、12.7cc/gであった。
実施例1および2比較すると、窒素吸着量は少ないが、加熱効果により、有機−銅化合物イオン複合体の形態でのイオン交換が促進されていることから、比較例3に比べて吸着量に優れている。これには、有機−銅化合物を含むことによる比表面積の増大も寄与しているものと考えられる。
また、比較例3に比べて、イオン交換回数が1/6となっており、気体吸着材8の吸着量に対するプロセス効率が向上していることがわかる。
外箱3と内箱5は注入口2の首部分で溶着させ、半分に切断した外箱3を切断部分で溶着し、密閉する。その後、排気口4から粉末状芯材6を封入する。芯材6は、平均一次粒子径が80μmの乾式シリカと乾式シリカに対して、10wt%のカーボンブラックとを混合したものを用いた。空間容積と封入量から、密度は90kg/m3となった。その後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体1を作製する。
気体吸着材8はAr雰囲気で袋に密閉しておき、外箱3と内箱5との間の空間7を減圧後、気体吸着材8を封入した袋が開口し、空間7と通気可能となるように配設した。
挿入した芯材6を、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定し、また、封入密度から減圧前の体積を求め、計算した結果、体積変化率は24.5%であった。これは、気相率が高い粉末を細口から封入したため、芯材6が十分に封入し切れなかったためと考えられる。
作製した真空断熱箱体1は、比較例1に比べ良好であった。また、熱伝導率は0.0053W/mKであり、比較例1に比べ高断熱性能を有する。
また、40℃で3ヶ月放置したが、外観、性能の変化は見られず、比較例1に比べ良好であった。
(実施の形態2)
図5は本発明の実施の形態2における真空断熱箱体の縦断面図である。
図5の縦断面図では、真空断熱箱体10は外箱11と内箱12とからなり、外箱11と内箱12の間には断熱空間7が存在する。また外箱11の内側と内箱12の外側に金属箔13がインサート成型されている。断熱空間7の内部は芯材14で満たされており、気体吸着材8を有している。断熱空間7は排気口4から排気され、減圧空間となり、その後、排気口4を封止することで密閉空間とする。
(実施例4)
内箱12は厚さ0.5mmのポリプロピレン2枚で厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)を挟んだ構造からなる多層材料で、成形はブロー成形で行う。また、ポリプロピレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。そしてナイロン(10μm)とアルミニウム箔(20μm)とポリプロピレン(7μm)の複層材からなる金属箔13を、ブロー成形時に金型内面の平面部に設置しておき、成型と同時に内箱に一体化するインサート成型を行う。金属箔13のナイロンとアルミニウム、アルミニウムとポリプロピレンはそれぞれ接合材(5μm)で接合されている。また、金属箔13はポリプロピレン側を内箱12と接合させる。
外箱11は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、二重射出成型で分割して作製する。ポリエチレンには接合材を配合し、EVOHとの密着性を上げる。金属箔13はナイロン(10μm)とアルミニウム箔(20μm)とポリエチレン(7μm)の複層材を用い、射出成型時に金型平面部に設置し、インサート成型する。金属箔13のナイロンとアルミニウム、アルミニウムとポリエチレンはそれぞれ接合材(5μm)で接合されている。また、金属箔13はポリエチレン側を外箱11と接合させる。外箱11はあらかじめ、中に内箱12、芯材14を挿入し、接合できるように、二つに分割して成型し、さらに接合部にフランジを設ける。
また、金属箔13による被覆率は全表面積の80%であった。
そして、内箱12と外箱11の間の空間7と同じ三次元形状に固形化した芯材14を挿入する。芯材14は平均繊維径7μmのガラス繊維に、バインダーとして水ガラス水溶液を塗布し、乾燥、500℃で加圧成型し、270kg/m3の密度に調整して作製し、2分割して挿入する。水ガラスはガラス繊維に対して重量比3wt%である。そして、内箱12を内部に挿入し、さらに水分吸着材9を内包した気体吸着材8を挿入する。
気体吸着材8は、実施例2と同様の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる気体吸着材8を用いた。外箱11と内箱12は注入口2の首部分で溶着させ、外箱11をフランジで溶着し、密閉した後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体1を作製する。
挿入した芯材14と同条件で作製した芯材14の体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は2.7%であった。作製した真空断熱箱体1は、目だった外観の変化もなく、比較例1に比べ良好であった。また、熱伝導率は0.0033W/mKであり、比較例1に比べ高断熱性能を有する。
また、熱伝導率0.0033W/mKに達するのに、真空ポンプだけでは15分必要であったが、気体吸着材8により、真空ポンプで3分真空排気しその後放置しておくだけで上記熱伝導率に達することができた。
また、40℃で3ヶ月放置したが、外観、性能の変化は見られなかった。さらに、90℃で3ヶ月放置したが、真空断熱箱体10は性能変化もなく良好であった。
(実施の形態3)
図6は本発明の実施の形態3における真空断熱箱体の縦断面図である。
図6の縦断面図では、真空断熱箱体15は外箱16と内箱17とからなり、外箱16と内箱17の間には断熱空間7が存在する。また外箱16の内側と内箱17の外側に金属蒸着膜18を有した樹脂シートが挿入されている。断熱空間7の内部は芯材19で満たされており、気体吸着材8と水分吸着9を有している。断熱空間7は排気口4から排気され、減圧空間となり、その後、排気口4を封止することで密閉空間とする。
(実施例5)
内箱17は厚さ1.0mmのポリプロピレンと厚さ1μmのアルミニウム蒸着膜を有する厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、成形はブロー成形で行う。また、ポリプロピレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
外箱16は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ1μmのアルミニウム蒸着膜を有する厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、二重射出成型で半分に分割して作製する。ポリエチレンには接合材を配合し、EVOHとの密着性を上げる。そして、射出成型時に金型平面部にアルミニウム蒸着を有するEVOHを設置し、インサート成型する。EVOHはEVOH側を高密度ポリエチレンと接合させる。外箱16はあらかじめ、中に内箱17、芯材19を挿入し、接合できるように、二つに分割して成型し、さらに接合部にフランジを設ける。
また、アルミニウム蒸着膜による被覆率は全表面積の80%であった。
そして、内箱17と外箱16の間の空間7と同じ三次元形状に固形化した芯材19を挿入する。芯材19は平均繊維径5μmのガラス繊維を500℃で加圧成型し、250kg/m3の密度に調整して作製し、2分割して挿入する。そして、内箱17を内部に挿入し、さらに気体吸着材8と水分吸着材9を挿入する。
気体吸着材8は、実施例2と同様の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる気体吸着材8を圧縮成型し、その周囲を水分吸着材である酸化カルシウムで被覆し圧縮成形したものを用いた。
外箱16と内箱17は注入口2の首部分で溶着させ、外箱16をフランジで溶着し、密閉した後、排気口4から減圧し、真空断熱箱体15を作製する。
挿入した芯材19と同条件で作製した芯材19の体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は3.4%であった。作製した真空断熱箱体15は、目だった外観の変化もなく、比較例1に比べ良好であった。また、熱伝導率は0.0035W/mKであり、高断熱性能を有する。
また、熱伝導率0.0035W/mKに達するのに、真空ポンプだけでは15分必要であったが、気体吸着材8により、真空ポンプで3分真空排気しその後放置しておくだけで上記熱伝導率に達することができた。
また、40℃で3ヶ月放置したが、外観、性能の変化は見られなかった。さらに、90℃で3ヶ月放置したが、真空断熱箱体15は性能変化もなく良好であった。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4における真空断熱箱体を適用した自動車の蓄熱式暖気装置の構成を示す図である。
図7において蓄熱式暖気装置20は、冷却水回路21を通じて、エンジン22で温められた冷却水がラジエーター23で冷却され、再びエンジン22に戻る循環経路である。また、エンジン始動時の冷却水が温まってない場合は、サーモスタット24が全閉されており、冷却水は放熱作用のあるラジエーター23を介さず、バイパス流路25を通り循環し冷却水の昇温を早める。
また、自動車連続走行中、冷却水回路21の温まっている冷却水を、流量制御弁26を切り替え入口パイプ27から蓄熱タンクと称する真空断熱容器29に流入させ保温しておく。その後エンジン始動時に流動制御弁26を切り替え出口パイプ28から、冷却水回路に流出させ、冷却水に混合し冷却水の昇温を早める。従ってエンジン始動時の車の燃費を向上させることができる。
蓄熱タンクとして実施例4記載の真空断熱箱体を用いた。これにより、エンジン始動時の車の燃費を向上させることができる。
また、従来の魔法瓶では、金属性の内側容器と外側容器との間に真空の断熱空間を設けた構造で、強度の面から形状に制約があり、円筒形状等の単純な形状が一般的である。しかし、本発明の真空断熱容器であれば、成型自由度が高く、複雑な形状の蓄熱タンクを形成できるとともに、ヒートリークが小さく、断熱性能に優れ、長期信頼性を有し、保温効率が向上する。
また、蓄熱式暖気装置に用いられる真空断熱箱体の内箱の内面が耐水性樹脂であることが望ましい。前記内箱の内面が耐水性樹脂で覆うことによって、タンク内に冷却水を保温しても、水分が浸透することを抑制できるとともに、耐久性も向上させることができる。
また、耐水性樹脂は耐水性があれば、限定するものではないが、ポリプロピレン、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂であれば、特に耐水性に優れるとともに、汎用樹脂であるため、安価でもある。
(実施の形態5)
図8は本発明の実施の形態5における真空断熱箱体を適用した冷蔵庫の縦断面図である。
冷蔵庫30は真空断熱箱体構造を有しており冷蔵庫内を構成する内箱31と外壁構成する外箱32とからなり、内箱31と外箱32の間には断熱層33が存在する。また外箱32はPCM鋼板で構成され、内箱31はアルミニウム箔をインサート成形したABS樹脂とからなり、断熱層33側にアルミニウム箔がある。断熱層33の内部は芯材34が充填され、気体吸着材35と水分吸着材36を有している。また、符号37で示すものは排気口で、符号38で示すものは機械室で、符号39で示すものは圧縮機である。冷媒はイソブタンを使用している。
(実施例7)
芯材34は平均繊維径5μmのガラス繊維を用い、バインダーとしてケイ酸ナトリウム3wt%溶液を塗布し、断熱層の形状に450℃加圧成型しながら溶媒を乾燥させ、固形化したものからなる。
内箱31は厚さ3mmのABS樹脂と厚さ20μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)にアルミニウム箔(10μm)をインサート成形した多層材料で、ABS樹脂が庫内側となり、成形は真空圧空成形で行う。
外箱32は厚さ1mmのPCM鋼板で、プレス成型にて成型する。外箱32と内箱31とで芯材34を挟みこむ形で挿入し、外箱32と内箱31を接触部分で接合する。
断熱層33は、冷蔵庫30外の真空ポンプで排気口37から減圧し、真空度が700Pa程度になったところで排気口37部分を封止し、放置しておくと気体吸着材35により真空度が10a程度まで低減する。
また、芯材34の体積変化率は1%と小さいため、へこみ、ゆがみもなく高い信頼性を有した真空断熱箱体の冷蔵庫30を形成する。
次に本発明の吸着材に対する比較例を示す。
(比較例1)
内箱は厚さ1mmのポリプロピレンと厚さ100μmのエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層材料で、ポリプロピレンが内側となり、成形はブロー成形で行う。また、ポリプロピレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。
外箱は厚さ1mmの高密度ポリエチレンと厚さ100μmのEVOHとからなる多層材料で、高密度ポリエチレンが外側になり、内箱同様、ブロー成形によって作製し、高密度ポリエチレンとEVOHは接合材(10μm)で接合されている。ブロー成形によって成形した外箱を半分に切断し、内箱と外箱の間に芯材を挿入する。
芯材は平均繊維径5μmのガラス繊維を挿入する。外箱と内箱は注入口の首部分で溶着させ、半分に切断した外箱を切断部分で溶着し、密閉した後、排気口から減圧し、真空断熱箱体を作製する。
挿入した芯材と同条件で作製した芯材の体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は56%であった。作製した真空断熱箱体は、大きく変形し、また、熱伝導率は0.0125W/mKであった。
また、40℃で1ヶ月放置した時点で、クラックが生じた。
(比較例2)
内箱、外箱、芯材については実施例1と同様で、気体吸着材を用いずに真空断熱箱体を作製した。真空排気時間は15分で熱伝導率は0.0048W/mKに達したが、それ以下にはならなかった。これは、気体吸着材を用いていないため、物理的な真空排気だけでは到達真空度に限界があるためであると考える。
また、40℃6ヶ月経過後の断熱性能に悪化がみられた。
(比較例3)
内箱、外箱、芯材については実施例1と同様で、気体吸着材として従来既存の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを用い、水分吸着材として酸化カルシウムを加え、真空断熱箱体を作製した。
比較例3において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、次のように調整した。
イオン交換溶液は、0.01Mの酢酸銅水溶液を用いた。20℃(室温)で1時間のイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
比較例3の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率は、121%であった。
この銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着量評価を実施した。Ar雰囲気中でコックつきの試験管に気体吸着材を封入、その後試験管内をAr雰囲気から取り出し、コック部分から真空排気、窒素充填した。その窒素圧力の減少から気体吸着材の窒素吸着量を読み取ると、10.8cc/gであった。
挿入した芯材と同条件で作製した芯材、もしくは真空断熱箱体に用いた芯材を取り出し体積を測定し、その後、ラミネートフィルムに入れ、減圧後の体積を測定した結果、体積変化率は3.3%であったが、熱伝導率は0.0041W/mKであり、実施例1に比べ、断熱性能が低かった。
また、真空断熱箱体を40℃で3ヶ月放置すると、やはり実施例1に比べ、外観、性能の変化は大きかった。これは、吸着材の吸着性能が比較例1に比べ低いことに起因すると考える。