JP2008208490A - ピッチ系炭素繊維及び炭素繊維強化複合材料 - Google Patents

ピッチ系炭素繊維及び炭素繊維強化複合材料 Download PDF

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Abstract

【課題】成形材料全体としての熱伝導性が極めて高く、しかも機械特性に優れる炭素繊維強化材料の開発。
【解決手段】平均直径が8〜12μm、繊維長が20〜500μmであるピッチ系炭素繊維であって、該ピッチ系炭素繊維の六角網面の面間隔が0.3365〜0.3375nmであり、結晶成長方向の微結晶サイズ(Lc)が30〜50nmであり、繊維軸と交差する方向の微結晶サイズ(La)が45〜100nmであり、灰分が0.1重量%以下であって、該ピッチ系炭素繊維が体積分率で10〜500体積%を含有する炭素繊維強化複合材料の厚さ方向の熱伝導率が少なくとも1W/(m・K)あることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、ピッチ系炭素繊維を強化材の主原料に用いるピッチ系炭素繊維に関わり、また当該ピッチ系炭素繊維に合成樹脂からなるマトリックスを含浸して得られる炭素繊維強化複合材料に関する。さらに詳しくは、補強材としての性能に加え、不純物の少なく、熱伝導性に優れたピッチ系炭素繊維を用いることにより、炭素繊維充填率が高く、機械特性や熱伝導性に優れたピッチ系炭素繊維を得ると共に、マトリックスと複合して使用することにより、その優れた性能を一層発現できる炭素繊維強化複合材料に関する。
高性能の炭素繊維は鎖状高分子であるセルローズ、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(PAN)等を原料とする繊維形状の鎖状高分子に由来する炭素繊維と、環状炭化水素からなる石油・石炭等のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。
前者の鎖状高分子由来の炭素繊維は、炭化処理を施すのみで強靭な繊維として利用できる。そして、殊にPAN系炭素繊維は、機械的強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高い性能を備えているため、この性質を有効的に利用し、航空・宇宙機材用途、建築・土木資材用途、スポーツ・レジャー用具などに広く用いられている。
これに対し、後者のピッチ系炭素繊維は、高温度熱処理である黒鉛化処理を経た後に、その特性が発揮され、黒鉛結晶の性能が発現するという特徴を有する。
つまり、前者の炭化繊維と後者の黒鉛化繊維とを比較すると、後者は、黒鉛結晶として結晶自体は小さく、単結晶ではないものの、微結晶性の多結晶体であり、しかも網面構造を有することから、顕著な異方性を呈するので、黒鉛化(結晶化)が充分に進むと、この黒鉛化繊維の方が炭化繊維よりも電気伝導率、熱伝導率が高い性能を備え、機械的特性も優れてくる。
そこで、単に強化材料としての炭素繊維複合材料の役割から、黒鉛化繊維、即ちピッチ系炭素繊維としての熱伝導性をも利用し、複合材料としての蓄熱性や放熱性を利用することによって、この炭素繊維複合材料の総合的利用の途が拓ける期待がある。
昨今、一方で、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されているが、畜熱性を応用して暖房、保温等に炭素繊維を適用し得る可能性がある。また、他方で、高速化に伴う電子計算機のCPUの発熱や集積回路のジュール熱による発熱が問題になっているが、これらを解決するためには、熱を効率的な伝達経路により処理することや有効な放熱手段を開発する必要がある。つまり、これらの課題に対し、所謂ヒートマネジメントを達成する要請がある。
かような観点から、炭素繊維を見直すと、一般に炭素繊維は、通常の有機合成高分子に比較しての熱伝導率が高いが、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さく、ヒートマネジメントの観点からは、満足できる性能を有する好適材料であるとは必ずしも言えない。これに対して、ピッチ系炭素繊維はPAN系炭素繊維に較べて高熱伝導率を達成しやすい長所を潜在的に備えている。
ところで、炭素繊維の高い熱伝導率を効果的に利用するためには、炭素繊維集合体の間隙を充填できる何らかのマトリックスとなる材料を介在させ、しかる状態において、炭素繊維が高充填率でかつ熱伝導を維持するためのネットワーク構造を形成していることが好ましい。ネットワーク構造が三次元的に形成されている場合には、成形体の面内方向のみならず厚さ方向に対しても炭素繊維固有の高い熱伝導が達成されるため、例えば放熱板の用途には非常に効果的であると考えられる。ところが、従来から用いられている炭素繊維を織物状にしてマトリックスと複合化した複合材は、面内の熱伝導率は向上しているものの、厚さ方向の熱伝導は、炭素繊維のネットワーク形成が充分にできないことから、熱伝達が不充分であり、放熱性が良好であるとは言い難い。
このような理由から、抜本的に炭素繊維の熱伝導率を改善しようとする試みが多数なされている。例えば、特許文献1には、一方向に引揃えた炭素繊維に黒鉛粉末と熱硬化性樹脂を含浸した機械的強度の高い熱伝導性成形品が開示されている。また、特許文献2においては、炭素繊維の物性向上を課題として、熱伝導度等の性能を改良させることが開示されているものの、成形体の熱物性の明確な性能向上が果たされているか否かの点に関しては検討が充分に為されておらず、その性能や実用性に関し、詳細は不明としか言いようがない。
特開平5−17593号公報 特開平2−242919号公報
上記のように、炭素繊維の高熱伝導率化という観点から素材開発が進みつつある。もっとも、サーマルマネジメントの観点からは、成形体としての熱伝導性が高く、優れた放熱効果を備えることが必要となる。そこで、適切な熱伝導率を有し、さらに成形体中の炭素繊維含有率を高めることが可能となる炭素繊維強化材及び成形用複合材料全体としての熱伝導性が極めて高く、しかも機械特性に優れる炭素繊維強化複合材料が強く望まれている。
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料の面内方向及び厚さ方向の双方向における熱伝導度を向上させることを試み、特定の熱伝導率及び形状を有するピッチ系炭素繊維に合成樹脂からなるマトリックスを含浸せしめた場合に、含浸処理された複合材料中に占める炭素繊維の充填率が増加し、しかも厚さ方向の熱伝導率が著しく改善されることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、請求項1に関わる発明は、単繊維の平均直径(D)が8〜12μmの範囲、かつ繊維直径(D)に対する繊維直径分布(S)の比(CV)が5〜15%の範囲にあり、単繊維の平均繊維長(L)が20〜500μmの範囲であるピッチ系炭素繊維である。この炭素繊維は黒鉛化処理を施されて黒鉛結晶となり、その六角網面の面間隔は0.3365〜0.3375nmであり、c軸方向の結晶子サイズ(Lc)は30〜50nmであり、またLcと直交するab軸方向の結晶子サイズ(La)は45〜100nmである特徴を有する。この黒鉛結晶状態は、その熱伝導性の観点から好適である。
また、請求項2に関わる発明は、ピッチ系炭素繊維の真密度は1.5〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が少なくとも200W/(m・K)である請求項1に記載のピッチ系炭素繊維である。
さらに、請求項3に関わる発明は、灰分が1重量%以下である請求項1又は請求項2に記載のピッチ系炭素繊維である。
即ち、上述の本発明における課題は、炭素繊維として、その繊維の平均直径(D)が8〜12μmの範囲であり、繊維長(L)が20〜500μmの範囲であり、かつ六角網面の面間隔が0.3365〜0.3375nmであり、c軸方向の結晶子サイズ(Lc)が30〜50nmであり、またLcと交差するab軸方向における結晶子サイズ(La)が45〜100nmであるピッチ系炭素繊維によって達成される。
即ち、本発明に供されるピッチ系炭素繊維は、その黒鉛結晶の六角網面としての面間隔が前述の値を示すことから、面間隔が比較的狭く、したがって緻密な結晶構造を有し、これに起因して熱伝導率が高くなる特徴がある。かような黒鉛化処理を施された黒鉛結晶を持つことが本発明では極めて有用である。
更に、本発明では、ピッチ系炭素繊維の真密度が1.5〜2.5g/ccの範囲であり、繊維軸方向の熱伝導率が少なくとも200W/(m・K)であり、灰分は0.1重量%以下である。
また、本発明では、ピッチ系炭素繊維に熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂(未硬化状態の前躯体を含む)からなるマトリックスを含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料として使用される場合が多い。実施態様としては、例えば、マトリックスが熱可塑性樹脂を含有する炭素繊維強化複合材料のとき、ピッチ系炭素繊維がマトリックス樹脂に対して体積分率で3〜500体積%を占めるように形成する。
炭素繊維強化複合材料は、平板状に成形した状態における厚さ方向の熱伝導率が少なくとも1W/(m・K)である。炭素繊維強化複合材料の基材となる炭素繊維はピッチ系炭素繊維のみであることが好ましい。
炭素繊維強化複合材料では、例えば、マトリックスは熱可塑性樹脂であり、その例示として、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、芳香族ポリアミド類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリ乳酸類が特定できる。このような本発明の炭素繊維強化複合材料は平板状(平面状)に成形された場合における厚さ方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上を呈する。
マトリックスには、例えば、熱硬化性樹脂又はその前躯体を適用することができ、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂を例示できる。
ピッチ系炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させる工程では、液体状態もしくは溶融状態で実施する事ができるが、含浸を真空状態において加圧条件下で実施することも可能である。
そして、炭素繊維強化複合材料を主たる材料とする特定用途として、電子部品用放熱板、熱交換器、湿式太陽電池用対向電極材、電磁波遮蔽用基材、電子部品用接着剤、電子部品用コーティング剤、電子部品用シーラント及び固体研磨材を例示できる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、ピッチ系炭素繊維を効果的に使用することによって、合成樹脂からなるマトリックスの存在下において、成形体の熱伝導率の分布がその平面内のみならず、成形体の厚さ方向にもほぼ同等になることから、電子部品用放熱板や熱交換器等の熱伝導効率を高めるとともに、筐体などに必要となる機械的強度を高め、成形体としての軽量化をも達成できる。
本発明に開示された黒鉛化繊維、即ち、極めて微細なピッチ系炭素繊維は、繊維同士の接触機会を増大させ、このため熱伝導率が増加し、しかも熱伝導率は方向性(異方性)がなく均質である優位性を備えている。
熱伝導・熱伝達に異方性のない成形材料は、成形が容易で、格別な条件設定や注意が不要となる利点を有する。成形体としても部品としても、均質で互換性に富む利点がある。
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
請求項1の発明は、単繊維の平均直径(D)が8〜12μmの範囲であり、単繊維の平均繊維長(L)が20〜500μmであるピッチ系炭素繊維を紡糸して得られる炭素繊維であって、該ピッチ系炭素繊維は、その六角網面の面間隔が0.3365〜0.3375nmであり、c軸方向の結晶子サイズ(Lc)は30〜50nmであり、またLcと直交するab軸方向の結晶子サイズ(La)は45〜100nmである。
本発明の炭素繊維を得る原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンの如き縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチの如き縮合複素環化合物等を挙げることができる。なかんずく、ナフタレンやフェナントレンのような縮合多環炭化水素化合物が好ましく、光学的異方性を呈するピッチ、すなわちメソフェーズピッチが特に好ましい。これらは、その1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが熱伝導性の高い炭素繊維を得るうえで望ましい。
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができる。原料ピッチとしては軟化点が250℃以上350℃以下の範囲のピッチが好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生するので好ましくない。また、軟化点が350℃より高いものはピッチの熱分解が生じやすく、繊維状に成形し難く,したがって紡糸・製糸に適さない。
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化処理、さらに焼成加工よって、三次元ランダムシート状の炭素繊維集合体とすることができる。要すれば、さらに高温度において黒鉛化(結晶化)できる。
以下に製造・加工工程について補説する。
本発明においては、前述の適切な軟化点を備えたメゾフェースピッチの如き好ましいピッチ原料から紡糸ノズルを用いてピッチ繊維を得る。
この工程において使用される紡糸ノズルの形状については格別な制約はないものの、ノズル孔のラウンド長と孔径の比(所謂L/D)が20以下のものが好ましく用いられ、更に好ましくは15よりもさらに小さいものが用いられる。
本発明のように、炭素繊維の繊維長を変えるためには、或いは同様に、繊維径を変えるにも、このノズル孔のランド長と孔径の比を変えることによって達成できる。また、紡糸時のノズルの温度を適宜変化させても長短の繊維長の異なる繊維を容易に得ることができる。さらに後述する加熱ガスの吹き付け速度を変えることによっても、ピッチ繊維の繊維長と繊維径を変えることが可能である。ノズルの形状、ピッチの熔融粘度、細化条件等を含め、これら紡糸条件は試行錯誤により好適条件を決定でき、原料ピッチの選択と共に経験的に条件設定が可能である。
一般には、紡糸温度についても特段の制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜80Pa・S、好ましくは5〜30Pa・Sになる温度であればよい。
ノズル孔から紡出されたピッチ繊維(即ち、炭素繊維の前躯体に該る)は、100〜450℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって細化・繊維化される。吹き付けるガスは空気又は窒素、二酸化炭素、アルゴン等の不活性ガスを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気で充分である。
繊維化(細化)のガスは加熱空気以外に燃焼ガス(二酸化炭素)が利用できることは言うもでもない。この加温ガスはその温度、吹き付け速度等を適宜選んで長短の繊維長を持つピッチ繊維とすることもできる。この場合の細化条件も当業者であれば試行錯誤法により好適条件を設定できる。
かくして得られたピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され、連続的な三次元ランダム形状を有するシート状物になり、さらにクロスラッピングなどを施してシート状物をランダムに積層することが可能である。
ピッチ系炭素繊維集合体を構成する炭素繊維の繊維径は8〜12μmである。繊維径が5μm以下の場合には、繊維の形状が保持できなくなることがあり(殆ど粉体として扱う必要が生じるため)、生産性が低くなる。逆に、繊維径が20μm超になると、紡糸や細化の工程で、冷却ムラが発生し、この繊維のムラが原因となって、加熱条件が同一であっても不融化工程での繊維自体の温度ムラが大きく増幅され、部分的に繊維同士の融着が惹起される懸念が増大する。本発明請求項1で特定したように、ピッチ系炭素繊維の繊維径は8〜12μmという好ましいものである。
このようにして得られた三次元ランダムなピッチ繊維シート状物は、公知の方法により不熔融化を実施できる。即ち、不融化工程は、空気のみで処理するか、又は空気に少量の第三成分であるオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素若しくは臭素等を添加したガスを用いて処理するものであり、不融化温度を150〜400℃に設定することにより達成される。ピッチ系繊維の不融化では、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。
この不融化工程に継いで、ピッチ繊維シート状物は500〜3500℃で焼成・黒鉛化処理されて、黒鉛化(炭素)繊維として安定する。つまり、三次元ランダム形状を有するピッチ系炭素繊維集合体となる。この不融化ピッチ繊維の焼成工程は、真空中又は窒素、アルゴン若しくはクリプトン等の不活性ガス中で実施される。通常は常圧の窒素中で実施することが望ましく、コストの安い窒素が常用される。
ピッチ系繊維の焼成(黒鉛化)温度は、炭素繊維として高い熱伝導率を得るためには、2300〜3500℃の高温度を選択して黒鉛化を高めることが好ましい。さらに好ましくは2500〜3500℃の温度にする。焼成処理の際に黒鉛製容器に入れて黒鉛化すると、外部からの物理的作用、化学的作用の影響を遮断できるので好適な態様となる。黒鉛製容器は不融化処理を終えたピッチ繊維シート状物を所定量収納することができる容量であれば、その大きさ、形状に特に制約はない。もっとも、焼成処理中、又はその後の冷却中に、炉内の酸化性のガス又は炭素蒸気との反応によるピッチ系炭素繊維集合体の損傷を防ぐために、蓋付きの気密性の高いものを使用することが好ましい。
本発明で得られるピッチ系炭素繊維集合体は、金網ベルト上に捕集され、連続的な三次元ランダム形状を有するシート状物である。メルトブロー法で得られた比較的長い繊維長の炭素繊維は三次元ランダム形状に分散されており、炭素繊維同士が相互に所々密着した状態になっていて、しかもピッチ系炭素繊維集合体を構成する各々の繊維は特定の方向に配向していない。このように紡糸され・捕集されたピッチ系炭素繊維集合体が三次元ランダム形状となる。
そこで、繊維長が500μm以下の、極めて短い繊維長の炭素繊維を製造する方法としては一旦500〜1300℃で焼成されたピッチ系炭素繊維集合体を公知の粉砕手段により粉砕することによっても得られる。この粉砕方法は特に限定されないが、ビクトリーミル、ジェットミル、高速回転ミル等の粉砕機、切断機等が好ましく使用され、粉砕を効率よく行うためには、ブレードを取付けたロータを高速に回転させることにより、繊維軸に対して直角方向に繊維を寸断する方法が適切である。粉砕によって生じる炭素繊維の平均長さは、ロータの回転数、ブレードの角度等を調整することにより制御できる。さらに、篩により、所望の繊維長に分別できる。即ち、炭素繊維の繊維径や繊維長のサイズの調整は篩の目の粗さを組み合わせることによって達成することができる。
また、本発明の炭素繊維は、篩分けを終えたピッチ繊維を2300〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的な炭素繊維とするものである。尚、篩い分けは黒鉛化する前に実施しても後に実施してもその効果に変化はなく、適宜選択することができる。
本発明の炭素繊維の形状について補説する。炭素繊維の繊維長は、上述した粉砕方法および篩い分け方法で決まるが、直径及び径の分散率は紡糸工程によってほぼ一意的に決定される。そして、炭素繊維の直径は紡糸された際のピッチ繊維(原糸)の繊維直径より1〜2μm小さい値となる。これは不融化及び焼成処理に起因して繊維が少量痩せて緻密化するためである。
本発明で用いるピッチ系炭素繊維は、極めて良好な黒鉛結晶からなり、c軸方向における結晶子サイズ(Lc)が30〜50nmである。黒鉛結晶の大きさ、結晶子サイズは、公知の方法によって求めることができ、例えばX線回折法によって得られる炭素結晶の(002)面、(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子のサイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生する場所がこの黒鉛結晶であることに起因している。本発明では黒鉛結晶のab軸方向の結晶子サイズ(La)は45〜100nmである。
炭素繊維、殊にピッチ系炭素繊維は黒鉛化(結晶化)の加圧・加熱条件等によって六角網面の面間隔が僅かに変化するが、本発明に供する短繊維Aでは、X線回折法によって得られる炭素結晶の(002)面からの回折線の位置によって求められる面間隔は0.3365〜0.3375nmの範囲であり、このような結晶構造を呈する炭素繊維が好ましい熱伝導率を有している。
ピッチ系炭素繊維の真密度は、焼成・黒鉛化温度に依存するが、1.5〜2.5g/ccの範囲のものが好ましい。より好ましくは、1.6〜2.5g/ccである。また、ピッチ系炭素繊維集合体を構成するピッチ系炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は200W/(m・K)以上であり、より好ましくは、300W/(m・K)以上である。また、集合体自体の厚さ方向の熱伝導率は、さらに好ましくは3W/(m・K)以上である。
またピッチ系炭素繊維の灰分は原料中の不純物や焼成・黒鉛化温度に依存するが、0.1重量%以下のものが好ましい。より好ましくは0.05重量%以下である。上記範囲を逸脱すると、得られる炭素繊維強化複合材料の特性を低減させたり、また熱硬化性樹脂前駆体中の触媒成分を不活性化させるなどするため好ましくない。
次に、本発明ではピッチ系炭素繊維に、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂若しくは熱硬化性樹脂前駆体を含浸させて、炭素繊維強化複合材料とする。
ピッチ系炭素繊維に含浸せしめるマトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を選択する場合は、樹脂を溶融した状態で配合することができる。これに対し、熱硬化性樹脂を適応する場合、一般に、未硬化液体状の熱硬化性樹脂前躯体(モノマー、重合触媒等を含む)を含浸させ、しかる後に重合処理する。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリエチレン2,6ナフタレート類、ナイロン類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類の群よりなるいずれか一つ以上の高分子樹脂組成物が好適に用いられるが、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸類(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステル)、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、アイオノマー等が挙げられる。そして、熱可塑性樹脂組成物は、1種を単独で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、2種以上の熱可塑性樹脂材料からなるポリマーアロイを使用してもよい。
また、熱硬化性樹脂としては、熱硬化性シリコーン系エラストマー、不飽和ポリエステル系エラストマー、ビニルエステル系樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂及び熱硬化型ポリエーテルエーテルケトン樹脂の群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む。これらは、1種で用いても、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、たとえば、2種類以上の熱硬化性樹脂材料からなるポリマーアロイを使用することもできる。
ピッチ系炭素繊維がマトリックス樹脂に対して占める体積分率は通常3〜500体積%程度である。本発明における炭素繊維強化複合材料中のピッチ系炭素繊維強化材の割合としては、5〜300体積%、好ましくは10〜100体積%である。ピッチ系炭素繊維強化材の割合が3%以下であると所望の熱伝導率を得ることができず、500%以上であると成型が困難となるため好ましくない。
このようにして得られる炭素繊維強化複合材は平板状に整形した状態における厚さ方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上となる。本発明における炭素繊維強化複合材料は、複合材料としての熱伝導率が高いものが望ましいが、表裏への熱拡散より算出される熱伝導率が1W/(m・K)以上である。より好ましくは2W/(m・K)以上、さらに望ましくは3W/(m・K)以上である。
本発明におけるピッチ系炭素繊維にマトリックス樹脂を浸漬させる方法としては特に限定されないが、マトリックス樹脂が常温で液状の場合にはミキサー等の混練装置により実施し得る。またマトリックス樹脂が常温で固体の場合には加温手段により溶融状態として二軸押出機等の混練装置により実施し得る。
本発明において炭素繊維強化複合材料を得るための成形方法としては特に限定はなく、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形法、押出成形法、注型成形法、ブロー成形法などが挙げられる。
上記方法において、ピッチ系炭素繊維をあらかじめマトリックス樹脂中に混練分散しておき、その後所望の形状を有する金型へ導入して得る方法が一般に採択しやすい。
またピッチ系炭素繊維を所定の形状に加工したピッチ系炭素繊維集合体とし、これをあらかじめ所望の形状を有する金型内へセットし、その後液体もしくは溶融状態となったマトリックス樹脂を導入する事により得る事も好ましく実施しうる。
マトリックスが熱可塑性樹脂である場合、加熱溶融状態の熱可塑性樹脂をピッチ系炭素繊維集合体中へ導入する方法が一般に採択しやすい。
またマトリックスが硬化触媒を含めて熱硬化性樹脂又はその前躯体であって、これらが常温で液状の場合には、金型内にあらかじめ仕込まれたピッチ系炭素繊維に対し、RIM法、RTM法などにて導入し、マトリックス樹脂を硬化させることにより、炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
ピッチ系炭素繊維を表面処理したのちサイジング剤を添着させることも可能である。表面処理の方法としては電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものでもよい。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの手段によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。
サイジング剤はピッチ系炭素繊維に対し0.1〜15重量%、好ましくは0.4〜7.5重量%サイジング剤としては通常用いられる任意のものが使用でき、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコール単独又はこれらの混合物を用いることができる。
次に、本発明の利用分野について述べると、本発明の炭素繊維強化複合材料の主たる用途は、電子部品用放熱板や電子部品用接着剤、電子部品用コーティング剤である。
具体的には半導体素子や電子部品が発生する熱を効果的に外部へ放散させるための放熱部材、伝熱部材あるいはそれらの構成材料等として、放熱板、半導体パッケージ用部品、ヒートシンク、ヒートスプレッダー、ダイパッド、プリント配線基板、冷却ファン用部品、ヒートパイプ、筐体等に成形加工して用いることができる。
本発明の炭素繊維の熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、特に炭素繊維複合材料の厚み方向の熱伝導率を向上させることを目的としているので、レーザーフラッシュ法が望ましい。レーザーフラッシュ法では、比熱容量Cp(J/gK)と熱拡散率α(cm/sec)を測定し、別に測定した密度ρ(g/cc)から、熱伝導度λ(W/cmK)をλ=α・Cp・ρで求め、単位換算を実施し得ることができる。
一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、成形体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。したがって、炭素繊維複合材料としての熱伝導率は実質的に1W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかるに、本発明では高熱伝導性のピッチ系炭素繊維を用いることでこれらの課題を解決し、炭素繊維複合材料として1W/(m・K)以上を達成できる。本発明の炭素繊維強化複合材料の熱伝導度は、好ましくは2W/(m・K)以上であり、さらに望ましくは3W/(m・K)以上である。
このようにして得られた炭素繊維強化複合材料は、サーマルマネジメントの用途に好適に用いることができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素繊維の直径は、焼成を経た繊維を走査型電子顕微鏡下800倍で任意の10視野を抽出して撮影し求めた。
(2)ピッチ系炭素繊維の糸長は、焼成を経た繊維を抜き取り測長器で測定した。
(3)ピッチ系炭素繊維の繊維軸方向の熱伝導率は、焼成後の糸の抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(1)より求めた。
[数1]
K=1272.4/ER−49.4 (1)
ここで、Kは炭素繊維の熱伝導率W/(m・K)、ERは炭素繊維の電気比抵抗μΩmを表す。
(4)炭素繊維強化複合材料の厚み方向の熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて測定した。
(5)三次元ランダムマット状炭素繊維の結晶サイズは、X線回折に現れる(002)面、(110)面からの反射を測定して学振法にて求めた。
(6)密度は浮沈法で求めた。
(7)ピッチ系炭素繊維の灰分は、酸素雰囲気中で灰化し、重量法にて求めた。
[実施例1]
(1)炭素繊維集合体の製造
ピッチ繊維を紡糸するには、スピナレット、紡糸温度、時間当たりの吐出量、スリットからの加熱ガスの温度・噴出速度、噴出位置等の条件を試行錯誤により適正化する。目標とする繊維直径は9〜14μm程度である。
そして、金網ベルト上にピッチ繊維を捕集し、要すれば、クロスラッピングにより目付けを調整し、不融化処理して、さらに焼成処理を施してから、ミリング装置を用いてこのピッチ繊維を短繊維化して、所定の繊維長の炭素繊維を得る。繊維長20〜500μmは篩により選別する。
具体的に実施例を示す。
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が284℃であった。直径0.2mmの円形断面孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分4800mの線速度で噴出させて、熔融ピッチを牽引して平均直径15μmのピッチ系繊維を作製した。紡出されたピッチ繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのシート状ピッチ繊維とした。
このシート状ピッチ繊維を空気中で170℃から310℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに3000℃で焼成することによりピッチ系炭素繊維を得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D)は10μm、繊維径(D)に対する繊維直径分散の比(CV)は12%であった。平均繊維長(L)は400μmであった。X線回折より求めた黒鉛結晶のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)は38nmであった。ab軸方向の結晶子サイズ(La)は、72nmであった。また、面間隔d(002)は0.3370nmであった。3000℃焼成の際に、未粉砕のマット状ピッチ繊維を少量入れておき、焼成後、単繊維の電気抵抗(2.12μΩm)から求めた繊維軸方向の熱伝導率は550W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素繊維の真密度は2.2g/ccであった。灰分は0.02重量%であった。
(2)炭素繊維とマトリックスとの強化複合材料の製造
次にマトリックス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維集合体を強化材として、成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚み方向の熱伝導率を測定したところ、4.3W/(m・K)であった。
[実施例2]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が284℃であった。実施例1と同じ円形断面孔のスピナレットを使用し、スリットから加熱空気を毎分5300mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径12μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された長繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付255g/mのマット状ピッチ繊維とした。
このマット状ピッチ繊維を空気中で170℃から305℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに3000℃で焼成することによりピッチ系炭素繊維を得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D)は8.5μm、Dに対する直径分散の比(CV)は11%であり、平均繊維長(L)は40μmであった。X線回折より求めた黒鉛結晶のc軸方向の結晶子サイズ(Lc))は42nmであった。ab軸方向の結晶子サイズは、75nmであった。また、面間隔d(002)は0.3369nmであった。3000℃焼成の際に、未粉砕のマット状ピッチ繊維を少量入れておき、焼成後、単繊維の電気抵抗(2.31μΩm)から求めた繊維軸方向の熱伝導率は500W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素繊維の真密度は2.2g/ccであった。灰分は0.02重量%であった。
次にマトリックス樹脂としてポリカーボネート(商品名:パンライト)フィルムを用い、ピッチ系炭素繊維強化材を成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、2.1W/(m・K)であった。
[実施例3]
ピッチ系炭素繊維は実施例1と同じ方法で作製した。
次にマトリックス樹脂としてシリコーン系熱硬化性樹脂(東レダウシリコーン製SE1882)を用い、ピッチ系炭素繊維強化材を成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で0.5mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、5.2W/(m・K)であった。
[実施例4]
ピッチ系炭素繊維は実施例2と同じ方法で作製した。
次にマトリックス樹脂としてシリコーン系熱硬化性樹脂(東レダウシリコーン製SE1882)を用い、ピッチ系炭素繊維強化材を成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で0.5mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、1.9W/(m・K)であった。
[比較例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が285℃であった。直径0.2mm円形断面孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分4800mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径15μmのピッチ系長繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mの三次元ランダム形状を有するピッチ繊維マットとした。
このピッチ繊維マットを空気中で170℃から295℃まで平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに1300℃で黒鉛化することによりピッチ系炭素繊維を得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D)は11μm、D1に対する糸直径分散の比(CV)は14%であった。平均繊維長(L)は300μmであった。X線回折より求めた黒鉛結晶のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)は3nmであった。ab軸方向の結晶子サイズ(La)は、5nmであった。また、面間隔d(002)は0.3391nmであった。1300℃焼成の際に、未粉砕のマット状ピッチ繊維を少量入れておき、焼成後、単繊維の電気抵抗(420μΩm)が高く、熱伝導率の近似範囲を超えていた。また、ピッチ系炭素繊維の真密度は1.4g/ccであった。
念のために、実施例1と同様にマトリックス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維を強化材として成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、1W/(m・K)未満であり、熱伝導率の小さい値となった。
[比較例2]
実施例1において、ピッチ系炭素繊維集合体を用いることなく、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂単体を成形体として、その厚さ方向の熱伝導率を測定したところ0.2W/(m・K)であった。
[比較例3]
石油ピッチを主原料とした。光学的異方性割合は80%、軟化点が305℃であった。直径0.2mm円形断面孔の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分4800mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径15μmのピッチ系長繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mの三次元ランダム形状を有するピッチ繊維マットとした。
このピッチ繊維マットを空気中で170℃から325℃まで平均昇温速度3℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したマット状ピッチ繊維を700℃で焼成しその後粉砕装置にて短繊維化し、その後さらに3000℃で焼成することによりピッチ系炭素繊維を得た。ピッチ系炭素繊維の平均直径(D)は10μm、D1に対する糸直径分散の比(CV)は14%であった。平均繊維長(L)は300μmであった。X線回折より求めた黒鉛結晶のc軸方向の結晶子サイズ(Lc)は30nmであった。ab軸方向の結晶子サイズ(La)は、50nmであった。また、面間隔d(002)は0.3371nmであった。1300℃焼成の際に、未粉砕のマット状ピッチ繊維を少量入れておき、焼成後、単繊維の電気抵抗(10.2μΩm)より求めた熱伝導率は75W/(m・K)であった。また、ピッチ系炭素繊維の真密度は1.3g/ccであった。
念のために、実施例1と同様にマトリックス樹脂として株式会社三洋化成製マレイン酸変性ポリプロピレンフィルムを用い、ピッチ系炭素繊維を強化材として成形体の体積比率として30%になるようにセットし、北川精機株式会社製真空プレス機にて、内のり200mmの金型で1mm厚になるようにプレス成形を実施した。成形された炭素繊維強化複合材の厚さ方向の熱伝導率を測定したところ、1W/(m・K)未満であり、熱伝導率の小さい値となった。

Claims (7)

  1. 単繊維の平均直径(D)が8〜12μmの範囲であり、かつ該平均直径(D)に対する繊維直径分布(S)の比(CV)が5〜15%の範囲にあり、単繊維の平均繊維長(L)が20〜500μmであるピッチ系炭素繊維であって、該炭素繊維の六角網面の面間隔が0.3365〜0.3375nmであり、c軸方向の結晶子サイズ(Lc)が30〜50nmであり、ab軸方向の結晶子サイズ(La)が45〜100nmであることを特徴とするピッチ系炭素繊維。
  2. 真密度が1.5〜2.5g/ccの範囲であり、該繊維の繊維軸方向の熱伝導率が少なくとも200W/(m・K)である請求項1に記載のピッチ系炭素繊維。
  3. 灰分が0.1重量%以下である請求項1又は請求項2に記載のピッチ系炭素繊維。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維に熱可塑性樹脂からなるマトリックスを含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維に熱硬化性樹脂からなるマトリックスを含浸させて得られる炭素繊維強化複合材料。
  6. ピッチ系炭素繊維がマトリックスに対して体積分率で3〜500体積%を含有してなる請求項4又は請求項5に記載の炭素繊維強化複合材料。
  7. 平板状に成形した状態における厚さ方向の熱伝導率が少なくとも1W/(m・K)である請求項4〜6のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
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