JP2008202197A - 漂白クラフトパルプの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白して、充分に低いカッパー価と高白色度を兼ね備えた漂白クラフトパルプを製造する方法を提供する。
【解決手段】 未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種の銅化合物(A)を、対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppm存在させ、さらに、銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する少なくとも1種の含窒素配位性化合物(B)を前記銅化合物(A)に対しモル数で3当量以下存在させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含む。
【選択図】 なし
【解決手段】 未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種の銅化合物(A)を、対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppm存在させ、さらに、銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する少なくとも1種の含窒素配位性化合物(B)を前記銅化合物(A)に対しモル数で3当量以下存在させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含む。
【選択図】 なし
Description
本発明は、未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白処理して晒しクラフトパルプを得る方法であって、カッパー価の低減と白色度の向上を同時に促進することができる、漂白クラフトパルプの製造方法に関する。
漂白クラフトパルプ(以下、「晒しクラフトパルプ」と称することもある)の製造においては、針葉樹又は広葉樹由来の木材をクラフト蒸解し得られた未晒しクラフトパルプに種々の漂白剤を作用させ、パルプに含まれる主な有色物質であるリグニンやヘミセルロースを低分子まで分解するか、分子構造を変化させて無色化することにより、パルプ中から発色分子構造をなくし、高白色のクラフトパルプを得ることを目的とする。
リグニンは、ヘミセルロースを介してセルロースに結合している有色物質であり、不均一なポリフェニルプロパン構造を有する高分子化合物であることが知られている。ヘミセルロースは、多糖類であり、加水分解すると漂白の障害や褪色原因となるヘキセンウロン酸を生じることが知られている。晒しクラフトパルプにおいて有用な部分は白色のセルロースのみである。そのため、パルプの漂白は、繊維製品や無機物質の漂白のように、単に染料や有色物質中の特定の分子構造を分解又は変化させるだけでよい漂白反応とはメカニズムが異なり、非常に複雑な手法が必要である。特に、未晒しクラフトパルプの漂白は、白色度だけを上げる為に主に特定の発色分子構造を変化させて無色化する機械パルプの漂白とは異なり、さらに高白色度にしたり褪色を防止したりする為に、リグニンやヘミセルロース又はそれから生じるヘキセンウロン酸を除去することが重要となる。
本明細書中では、リグニンを低分子化して除去することを「脱リグニン」と呼び、ヘミセルロース又はそれから生じるヘキセンウロン酸を分解除去することを「ヘキセンウロン酸の除去」と呼ぶこととする。脱リグニン及びヘキセンウロン酸の除去は、カッパー価の低下に反映される。つまり、脱リグニン及びヘキセンウロン酸の除去の両方が進行しないと、充分にカッパー価を低下させることはできない。また、直接法又は間接法にてヘキセンウロン酸量を定量することによって、カッパー価の低下に貢献する脱リグニン効果及びヘキセンウロン酸の除去効果のうちヘキセンウロン酸の除去による効果のみを区別することができる。ところで、脱リグニンとヘキセンウロン酸の除去によってカッパー価を低下させただけでは、高白色のクラフトパルプが得られないことがある。その原因としては、例えば低分子化したリグニンなどに由来する微量成分がその分子構造中にカッパー価の低下にほとんど関与しない発色団を有していることが考えられる。そこで、カッパー価の低下にほとんど関与しない発色団の分子構造を無色化することも必要とされており、未晒しクラフトパルプの漂白はこれらが脱リグニン、ヘキセンウロン酸の除去とともに相乗的に絡み合ったものであると言える。脱リグニン、ヘキセンウロン酸の除去、及びカッパー価の低下にほとんど関与しない発色団の分子構造の無色化の総合的な効果は、白色度の上昇によって表される。
脱リグニン反応とヘキセンウロン酸の分解反応とこれら以外の白色度向上をもたらすそれぞれ異なるメカニズムの漂白反応は、進行速度の差はあるものの同時に並行して起こるものであり、いずれか1つのみが起こるものではない。しかし、脱リグニン反応が主に進行した場合は、カッパー価が低下していても白色度が低く、高い白色度が要求される紙の原料としては使用できない。ヘキセンウロン酸は、漂白剤の種類によっては分解反応自体がほとんど起こらず、脱リグニンが進んでいても褪色しやすい紙となってしまう。また、漂白反応が主に進行した場合は、白色度は高いものの、リグニンやヘミセルロースが多く残存することとなりカッパー価が低下せず、褪色しやすい低品質の紙となってしまう。高品質の晒しクラフトパルプを製造するためには、脱リグニン反応とヘキセンウロン酸分解反応とそれら以外の白色度向上にかかる反応のすべてを、要求される品質まで同時に進行させることが必要である。
現在、紙パルプ産業において一般的に実施されている晒しクラフトパルプ製造工程は、針葉樹又は広葉樹由来の木材チップをクラフト蒸解した後、分子状塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、オゾン、過酸化水素、有機過酸化物、無機過酸化物などから選ばれる少なくとも1つの漂白剤による処理段と、酸、アルカリ、酵素、キレート剤のいずれか1つによる処理段とを複数組み合わせた多段漂白工程、及び洗浄工程を適宜設けることによって構成されている。通常、多段漂白工程の初期では主に脱リグニン反応が進行し、後期では主に白色度向上反応が進行するように漂白剤が使い分けられている。
従来、前記多段漂白工程は、安価で脱リグニン力及び漂白力の高い分子状塩素、次亜塩素酸塩などの塩素系漂白剤を中心に構成されてきた。しかしながら、これらの塩素系漂白剤が反応時に有害な有機塩素化合物を副生することが環境問題として重要視されるようになってきている。そこで、近年のクラフトパルプの多段漂白工程は、塩素系漂白剤を使用する従来法から分子状塩素を含む漂白剤を全く使用しない非塩素漂白(ECF=Elemental Chlorine Free)法へと徐々にシフトしてきている。
ECF法は、分子状塩素及び次亜塩素酸塩を使用しない代わりに、比較的パルプ繊維の損傷が少なく脱リグニン力及び漂白力の高い二酸化塩素を主たる漂白剤とし、さらに、酸素、オゾン、過酸化水素、有機過酸化物、無機過酸化物から選ばれる少なくとも1つを組み合わせた漂白剤による処理段と、酸、アルカリ、酵素、キレート剤のいずれか1つによる処理段とを複数組み合わせて多段漂白を行う方法である。ECF化により、晒しクラフトパルプ製造工程の漂白排水から検出される有機塩素化合物の含有量は、塩素系漂白剤を使用する従来法に比べ激減したことが確認されている。
しかしながら、二酸化塩素はその製造時や反応時に微量の他の塩素系漂白剤を生じてしまう為、ECF法においても僅かながら有機塩素化合物を副生してしまう。そこで、塩素原子を全く含まない酸素系漂白剤のみを使用して多段漂白を行う無塩素漂白(TCF=Total Chlorine Free)法も一部で行われている。
TCF法は、分子状塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素などの塩素原子を含む漂白剤を全く使用しないで、酸素、オゾン、過酸化水素、有機過酸化物、無機過酸化物から選ばれる少なくとも1つの酸素系漂白剤による処理段と、酸、アルカリ、酵素、キレート剤のいずれか1つによる処理段とを複数組み合わせて多段漂白を行う方法である。理論上、このような多段漂白工程からは有機塩素化合物は副生しない為、漂白排水に含まれる環境有害物質が非常に少なくなるという利点がある。
ところが、酸素系漂白剤は、一般にセルロースの重合度を低下させて強度の低下を引き起こすこと、脱リグニン効果が不足するため添加量を増やす必要があり高コストとなること等の欠点があり、TCF法普及の妨げとなっている。
酸素系漂白剤のうち、例えばオゾンは、脱リグニン力には優れるものの、分子状塩素や二酸化塩素に比べるとセルロース重合度の低下が激しいため、大量に使用すると強度の低下が著しく、また、貯蔵が困難なため高価なオゾン発生装置を漂白工程現地に設置する必要がある。酸素は、非常に安価であるものの、反応性が乏しいため高温高圧下において強アルカリ中で反応を行わなければならず、特殊で高価な漂白反応装置が必要となってしまう。有機過酸化物や無機過酸化物は、脱リグニン力に優れ、セルロース重合度の低下も比較的小さいが、他の漂白剤に比べ非常に高価であり、一般に安定性が悪いため使用や貯蔵に際して安全性の問題もある。これらに対して、過酸化水素は、比較的製造コストが安く、取り扱いが容易であり、しかも反応後に水しか副生しないという環境的に非常にクリーンな化合物であるという利点を有している。しかし、過酸化水素は、通常、漂白反応を促進するために強アルカリ中で使用するのが一般的であり(pH10以上のアルカリ性下にある過酸化水素を、以下「アルカリ性過酸化水素」と称することもある)、これにより、リグニン中の特定構造部位のみと反応して白色度を向上させることができるが、自己分解反応も起こりやすく、脱リグニン効果が分子状塩素や二酸化塩素に比べ大きく劣るのが欠点であった。なお、過酸化水素は、強酸性下では白色度はほとんど向上せず、やはり自己分解反応を起こしやすいことが知られている(pH5以下の酸性下にある過酸化水素を、以下「酸性過酸化水素」と称することもある)。
そこで、助剤を用いて過酸化水素の反応性を向上させることで上記欠点を補おうとする研究が盛んであり、未晒しクラフトパルプに対する漂白力を高める技術がいくつか開示されている。
従来、アルカリ性過酸化水素の漂白促進剤として用いられてきたのは、EDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)やDTPA(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム)のような各種キレート剤や硫酸マグネシウムのような無機塩である。これらの助剤は、鉄、マンガン、銅のような重金属イオンによる過酸化水素の触媒的分解反応が起こらないように不活性化し、アルカリ性過酸化水素の無駄な分解を防いで効率的に反応させることにより、漂白を促進するものと考えられている。しかし、アルカリ性過酸化水素の反応性自体が変化するわけではないので、未晒しクラフトパルプに対する脱リグニン力やヘキセンウロン酸分解力が著しく向上するものではなかった。
また、TAED(テトラアセチルエチレンジアミン)やNOBS(ノナノイルオキシベンゼンスルホン酸塩)やトリアセチン(グリセリン三酢酸)のような有機過酸前駆体からなる漂白活性化剤を用いてパルプを漂白する方法が開示されている(特許文献1、2)。これらの有機過酸前駆体は、アルカリ性過酸化水素と反応して脱リグニンや白色度の向上が大きい過酢酸の如き有機過酸を生じることにより、過酸化水素漂白段における脱リグニン及び漂白を促進するものである。しかし、これらの有機過酸前駆体は、理論上最大でも過酸化水素1当量から有機過酸を1当量しか生じない量論的な反応であるため、過酸化水素に対し大量に添加しなければならず、経済的とは言えない。また、反応後の有機過酸前駆体は、再反応に利用されることなく漂白系内に留まってしまい、後の工程や排水に悪影響を及ぼす恐れもあった。
一方、白色腐朽菌やこれらの菌から単離されるリグニン分解酵素を用いた生化学的手法によるパルプ漂白方法が研究されている。自然界における白色腐朽菌から産出されるリグニン分解酵素としては、ラッカーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼがよく知られている。これらは、自然界に存在するため安全かつ環境負荷の少ないものであり、少量でも繰り返し効果を発揮する触媒として機能するという利点がある。
例えば、ラッカーゼは、活性中心に銅を含む金属酵素と言われており、空気中の酸素を用いて非フェノール性リグニンの芳香環構造を直接酸化できるとされている。しかし、ラッカーゼ単独では、漂白反応は促進されず、ABTS(2,2’−アジノビス3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホネート)やHBT(ヒドロキシベンゾトリアゾール)のようなメディエーターの共存が必要であることは分かっているが、実際の自然界での漂白システムは未だ明らかになっていない(非特許文献1、2)。また、マンガンペルオキシダーゼは、活性中心に鉄を含む金属酵素とされており、過酸化水素によるリグニン酸化の触媒となる。有機酸などによって錯化されたマンガンイオンをメディエーターとして漂白反応が進行していると考えられているが、実際の自然界での漂白システムは未だ明白ではない(非特許文献3)。このように、これらの生化学的手法は、菌の培養や酵素の単離を伴う製造コストの問題ばかりでなく、メディエーターを必要とする漂白システムが明らかでないため反応条件の最適化が難しく、実用化には程遠いものであった。
他方で、これらの金属酵素の活性中心を模倣した金属錯体を用いるバイオミメティック(生体模倣的)な手法によるパルプ漂白方法が研究されている。金属酵素による反応は、金属原子が結合した活性中心で起こるとされており、活性中心部分の分子構造を模倣した金属錯体を用いて同様の反応を起こすことができれば、触媒の効率的な製造や反応条件の最適化が可能となり、さらに、配位子の分子構造の最適化により触媒効果向上も見込まれる。
例えば、リグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼの活性中心は、鉄−ポルフィリン錯体から構成されている。鉄−ポリフィリン錯体は、過酸化物によって酸化され、鉄−オキソ活性種を生じ、リグニンを酸化した後、元の状態へ還元される。これが再び過酸化物により酸化されるという触媒サイクルを形成する。これを模倣した水溶性鉄−ポルフィリン錯体を用いたパルプ漂白の研究がなされている(非特許文献4〜6)。しかし、これらの水溶性鉄−ポルフィリン錯体による過酸化物漂白では、高価なTBH(tert−ブチルヒドロペルオキシド)を用いなければならなかったり、セルロースの損傷が激しく強度が低下したりするという問題があった。また、鉄−ポルフィリン錯体には強い染色性があるため、パルプが着色してしまう恐れもあった。さらに、カッパー価低減効果や白色度向上効果も不充分であり、実用化には程遠いものであった。
また、鉄−ポリフィリン錯体に代えて、鉄、マンガン、コバルト等の遷移金属と種々の配位子との金属錯体をパルプ漂白触媒として用いた例も開示されている(特許文献3、4)。しかし、これらの金属錯体は、複雑な構造の配位子及び錯体を合成するための製造コストに対して、カッパー価低減効果や白色度向上効果は未だ不充分であり、実用化には程遠いものであった。
過酸化物の触媒として、タングステン、モリブデン、バナジウム、チタン等の酸素酸やヘテロポリ酸(ポリオキソメタラート)を用いてパルプ漂白を行う技術も開示されている(特許文献5〜7)。しかし、これらの高価な触媒は、強酸性pHで90℃以上という高温で漂白反応を行わなければならず、特殊な反応装置が必要となってしまう。また、アルカリ性過酸化水素漂白に比べ、酸性過酸化水素漂白では、触媒を使用したとしてもカッパー価低下の進行に比べて白色度が向上しにくく、満足な効果が得られているとは言えなかった。
最近では、銅化合物とピリジン等の配位性化合物と過酸化物による処理を行ってリグニンを解重合する方法が開示されている(特許文献8)。しかし、この方法では、tert−ブチルヒドロペルオキシドやクメンヒドロペルオキシドを用いており、これらのような高価な過酸化物を大量に添加する方法は経済的に見て実用的とは言えない。また、アルカリ性過酸化水素を用いた例では、予めキレート処理を行なった後に大量のアルカリ及び銅化合物並びにピリジンを添加しているが、薬品コストに対するカッパー価低減効果や白色度向上効果は充分とは言えず、環境的にも負荷が大き過ぎるという問題もある。さらに、該文献では何ら言及されていないが、キレート剤やアルカリの添加によって銅イオンが触媒として不活性化されてしまうという致命的な欠点もある。また、アルカリ性過酸化水素では、ヘキセンウロン酸については殆ど分解反応が起こらないことが知られており(非特許文献7)、近年のクラフトパルプ特有の品質的要求に対して実用には適さないと言える。
また、過酸化水素と硫酸銅を用いてpH中性付近にて繊維又は木材パルプを漂白する例が開示されている(特許文献9)。この例では、白色度の向上が目的であり、脱リグニン効果やヘキセンウロン酸除去効果に関しては検証されておらず、クラフトパルプ特有の品質的要求を満たしているとは言えない。また、この例では、木材パルプに対して大量の過酸化水素及び硫酸銅及びピロリン酸ソーダを添加しているが、薬品コストや環境負荷に比して実用的な効果が得られているとは言えないものであった。さらに、該文献には木材パルプとしか記載されておらず、その樹種やパルプ種は不明であるが、中性過酸化水素と銅触媒によって機械パルプやそれを含む古紙パルプを漂白した場合、全く効果が無いばかりか、むしろ逆効果であった。
Bourbonnais, R., Paice, M.G., Appl. Microbiol. Biotechnol., 36, 823-827(1992)
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大井洋,紙パルプ技術協会誌,11(60),1659-1663(2006)
本発明の課題は、未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白して、充分に低いカッパー価と高白色度を兼ね備えた漂白クラフトパルプを製造する方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物である銅化合物と、銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する含窒素配位性化合物とを各々特定量存在させた条件下で、pHを6〜9の中性〜弱アルカリ性範囲とし、未晒しクラフトパルプを処理することにより、脱リグニン、ヘキセンウロン酸の除去、及び発色団の分子構造を無色化する漂白反応が総合的に効率よく進行し、充分に低いカッパー価と高白色度を兼ね備えた漂白クラフトパルプが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、下記(A)で表される銅化合物を対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppm存在させ、さらに下記(B)で表される含窒素配位性化合物を前記銅化合物に対しモル数で3当量以下存在させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含むことを特徴とする漂白クラフトパルプの製造方法。
(A)1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種の銅化合物。
(B)銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する少なくとも1種の含窒素配位性化合物。
(2)前記(A)で表される銅化合物が、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、ヘキサフルオロリン酸テトラキス(アセトニトリル)銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、水酸化銅(II)、及びヘキサフルオロリン酸銅(II)から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(3)前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、銅イオンに配位できる1〜3級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アミド基、ニトリル基、グアニジノ基、ヒドラジノ基、オキシム基、N−オキシル基、及び含窒素ヘテロ環から選ばれる1種以上の含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物である、前記(1)又は(2)記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(4)前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、エチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、4−アミノピリジン、2−(2−アミノエチル)ピリジン、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ピペラジン、ホモピペラジン、ジピペリジノエタン、ジメチルグリオキシム、1,2−シクロヘキサンジオンジオキシム、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、2,2'−ジピリジルエーテル、2,2'−ジピリジルメタン、2,2'−ジピリジルアミン、ジエチレントリアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、1,4−(2−アミノエチル)ピペラジン、メラミン、及びこれらのN−置換誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(5)前記未晒しクラフトパルプが、針葉樹又は広葉樹由来の木材を原料とし、クラフト蒸解によって得られる未晒しクラフトパルプである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の晒しクラフトパルプの製造方法によって未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白処理して漂白クラフトパルプを製造する工程を含む、紙の製造方法。
(1)未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、下記(A)で表される銅化合物を対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppm存在させ、さらに下記(B)で表される含窒素配位性化合物を前記銅化合物に対しモル数で3当量以下存在させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含むことを特徴とする漂白クラフトパルプの製造方法。
(A)1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種の銅化合物。
(B)銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する少なくとも1種の含窒素配位性化合物。
(2)前記(A)で表される銅化合物が、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、ヘキサフルオロリン酸テトラキス(アセトニトリル)銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、水酸化銅(II)、及びヘキサフルオロリン酸銅(II)から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(3)前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、銅イオンに配位できる1〜3級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アミド基、ニトリル基、グアニジノ基、ヒドラジノ基、オキシム基、N−オキシル基、及び含窒素ヘテロ環から選ばれる1種以上の含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物である、前記(1)又は(2)記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(4)前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、エチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、4−アミノピリジン、2−(2−アミノエチル)ピリジン、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ピペラジン、ホモピペラジン、ジピペリジノエタン、ジメチルグリオキシム、1,2−シクロヘキサンジオンジオキシム、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、2,2'−ジピリジルエーテル、2,2'−ジピリジルメタン、2,2'−ジピリジルアミン、ジエチレントリアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、1,4−(2−アミノエチル)ピペラジン、メラミン、及びこれらのN−置換誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(5)前記未晒しクラフトパルプが、針葉樹又は広葉樹由来の木材を原料とし、クラフト蒸解によって得られる未晒しクラフトパルプである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の晒しクラフトパルプの製造方法によって未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白処理して漂白クラフトパルプを製造する工程を含む、紙の製造方法。
本発明によれば、未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、脱リグニン、ヘキセンウロン酸の除去、及び発色団の分子構造を無色化する漂白反応を総合的に効率よく進行させることができ、その結果、充分に低いカッパー価と高白色度を兼ね備えた漂白クラフトパルプを得ることができる、という効果がある。このような本発明の製造方法では、従来のアルカリ性過酸化水素や酸性過酸化水素による漂白方法に比べてカッパー価の低下効果や白色度の向上効果が大きいので、反応時間を短縮したり過酸化水素使用量を削減したりすることが可能となる。また、pHを前工程から大幅に変更することなく過酸化水素処理を行うことができるので、大量の酸やアルカリを添加する必要がなくなり、その結果、セルロース重合度の低下が抑制され、高品質の漂白クラフトパルプを効率的に生産することができるようになり、しかも排水のCODが減少して排水処理や環境的な負荷を軽減することができるという効果も得られる。さらに、本発明によれば、過酸化水素による漂白段が従来よりも強化されるので、適宜組み合わされる過酸化水素漂白段以外の漂白工程で使用される二酸化塩素やオゾンなどの高価な漂白剤の使用量を削減したり、これら高価な漂白剤を用いる漂白工程そのものを過酸化水素漂白段へ置き換えたりすることができる。
以下、本発明の漂白クラフトパルプの製造方法について詳細に説明する。
本発明の漂白クラフトパルプの製造方法は、未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、前記(A)で表される銅化合物と前記(B)で表される含窒素配位性化合物とを共存させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含むものである。なお、本発明の漂白クラフトパルプの製造方法においては、前述の過酸化水素による特定の漂白工程のほかに、過酸化水素以外の漂白剤(例えば、二酸化塩素、酸素、オゾン、有機過酸化物、無機過酸化物など)による漂白工程や、酸、アルカリ、酵素、キレート剤などによる処理工程等を、必要に応じて適宜組み合わせることができる。前述の過酸化水素による特定の漂白工程以外の工程に関しては、従来公知の方法を採用すればよく、特に制限はされない。
本発明の製造方法において、前記(A)で表される銅化合物及び前記(B)で表される含窒素配位性化合物は、過酸化水素による酸化反応における触媒として作用し、カッパー価低減効果及び白色度向上効果を発揮するのであるが、それには、処理時のpHを中性〜弱アルカリ性付近である6〜9の範囲内にすることが必須となる。より好ましい処理時のpH範囲は7.5〜9である。pHがこの範囲であれば、過酸化水素は自己分解反応に対して安定である(pH6〜9の中性〜弱アルカリ性下にある過酸化水素を、以下「中性過酸化水素」と称することもある)。pHが前記範囲よりも酸性側に外れると、カッパー価低減効果及び白色度向上効果が著しく低下し、一方、アルカリ性側に外れると、白色度向上効果が著しく低下する。これは、pHが前記範囲内から外れると、カッパー価低減効果及び白色度向上効果に関与する反応活性種が減少し、効率的な反応が起こらなくなるためと考えられる。処理時に未晒しクラフトパルプのpHがこの範囲を外れている場合には、pH調整剤として少量の酸やアルカリを添加して調整すればよい。
一般に、アルカリ性過酸化水素は、主に過酸化物イオン(HOO-)に解離しており、これが白色度向上効果をもたらす反応活性種であると考えられている。しかし、この過酸化物イオンは、リグニン構造中のカルボニル基としか反応できないと言われており、白色度向上効果はあるが脱リグニン効果やヘキセンウロン酸分解力には乏しい。また、酸性過酸化水素は、イオン解離せずにHOOHの状態か水素イオンと結合したカチオンの状態になっていると考えられ、過酸化物イオンを生じないため白色度向上効果はほとんどない。これに対して、本発明のようなpH6〜9の中性過酸化水素は、主にHOOHの状態にあると考えられ、通常はそのままでは反応性はほとんどない。
他方、過酸化水素は、鉄、マンガン、コバルトなどの遷移金属イオンの存在下では、触媒作用によりヘテロ解離して水酸化物ラジカル(HO・)を生じ(この反応はフェントン反応として知られている)、脱リグニン反応を引き起こすが、セルロースとも反応して重合度を低下させるためパルプ強度を著しく低下させる。しかし、特定の遷移金属イオンと特定の配位性化合物からなる金属錯体は、過酸化水素との反応により反応中間体として種々の金属−オキソ種を生じると考えられており、これがリグニンと選択的に反応する活性種になると考えられる。遷移金属の中でも銅化合物から生じる銅−オキソ種は、理由は明らかではないが、他の金属に比べ特にカッパー価低減効果に優れることが経験的に知られている。中性過酸化水素は、このような銅−オキソ種を安定的に生じやすいと推察される。
前記(A)で表される銅化合物(以下「銅化合物(A)」と称することもある)は、1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種である。この銅化合物(A)としては、例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、ヘキサフルオロリン酸テトラキス(アセトニトリル)銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、水酸化銅(II)、及びヘキサフルオロリン酸銅(II)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。このうち経済的な観点から特に好ましいのは、酸化銅(I)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、酢酸銅(II)、及び水酸化銅(II)である。
これらの銅化合物(A)は、銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する含窒素配位性化合物(B)と併用されることにより、カッパー価低減効果及び白色度向上効果を格段に促進する。併用する含窒素配位性化合物(B)の作用は明らかではないが、銅イオンに配位して錯体を形成することにより、フェントン反応によるラジカル種の発生を抑制し、かつ、銅−オキソ活性種を安定化して反応効率を高めるものと推察される。
例えば、前記銅化合物(A)が水酸化銅(II)である場合、該水酸化銅(II)単独で得られるカッパー価低減効果及び白色度向上効果は、他の銅化合物を単独使用した場合に比べて若干低くなる傾向がある。その理由としては、水酸化銅(II)は難水溶性でカチオン電荷を持つため水中では拡散せず不均一となってしまうこと、また、配位した水酸化物イオン(HO-)が銅−オキソ種の生成を妨げてしまうことなどが考えられる。ちなみに、後述する比較例でも明らかなように強アルカリ性下では前記銅化合物(A)の触媒効果が著しく低下してしまう理由の1つは、水酸化銅(II)を生じてしまうからであると推察される。本発明では、銅化合物(A)が水酸化銅(II)である場合にも、前記含窒素配位性化合物(B)によって錯化させることで上記問題を回避できる。
例えば、前記銅化合物(A)が水酸化銅(II)である場合、該水酸化銅(II)単独で得られるカッパー価低減効果及び白色度向上効果は、他の銅化合物を単独使用した場合に比べて若干低くなる傾向がある。その理由としては、水酸化銅(II)は難水溶性でカチオン電荷を持つため水中では拡散せず不均一となってしまうこと、また、配位した水酸化物イオン(HO-)が銅−オキソ種の生成を妨げてしまうことなどが考えられる。ちなみに、後述する比較例でも明らかなように強アルカリ性下では前記銅化合物(A)の触媒効果が著しく低下してしまう理由の1つは、水酸化銅(II)を生じてしまうからであると推察される。本発明では、銅化合物(A)が水酸化銅(II)である場合にも、前記含窒素配位性化合物(B)によって錯化させることで上記問題を回避できる。
前記(B)で表される含窒素配位性化合物(以下「含窒素配位性化合物(B)」又は「配位性化合物(B)」と称することもある)は、銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物のうちの少なくとも1種である。この含窒素配位性化合物(B)としては、銅イオンに配位できる1〜3級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アミド基、ニトリル基、グアニジノ基、ヒドラジノ基、オキシム基、N−オキシル基、及び含窒素ヘテロ環から選ばれる1種以上の含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物が挙げられる。
銅−オキソ種を安定に生成するためには、通常、4配位座を持つ銅イオンの配位座のうち少なくとも2つ以上を含窒素官能基の配位により埋めるのが好ましい。ただし、銅−オキソ種を生じるためには空配位座が少なくとも1つ以上必要である。よって、含窒素配位性化合物としては、含窒素官能基を1分子内に2つ以上有することが好ましいが、含窒素配位性化合物の有する含窒素官能基のすべてが必ずしも実際に銅イオンに配位していなくてもよい。含窒素配位性化合物の有する含窒素官能基のうち実際に銅イオン1つに対して配位する含窒素官能基数は、2つ以上かつ3つ以下であることがより好ましい。含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物の配位により、銅イオンは酸化剤存在下でも化学的に安定な銅錯体となり、安定なオキソ種を生じ、優れた触媒効果を効率よく発現するものと考えられる。
前記含窒素配位性化合物(B)としては、具体的には、エチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、4−アミノピリジン、2−(2−アミノエチル)ピリジン、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ピペラジン、ホモピペラジン、ジピペリジノエタン、ジメチルグリオキシム、1,2−シクロヘキサンジオンジオキシム、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、2,2'−ジピリジルエーテル、2,2'−ジピリジルメタン、2,2'−ジピリジルアミン、ジエチレントリアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、1,4−(2−アミノエチル)ピペラジン、メラミン、及びこれらのN−置換誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。N−置換誘導体としては、N−アルキル、N−アリール、N−アシル、N−ヒドロキシル、及びN−オキシル基誘導体等が挙げられる。N−アルキル基としては、炭素数1〜18の直鎖又は分岐状のアルキル基及びシクロアルキル基などが挙げられ、N−アリール基としてはフェニル基などが挙げられ、N−アシル基としては、アセチル基、トリフルオロアセチル基及びベンゾイル基及びフェナシル基などが挙げられる。
上記に例示した化合物のほかには、含窒素配位性化合物(B)の具体例として、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−フェニレンジアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N,N’,N’−テトラメチル−2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、2,2’−ジピリジルトリフルオロアセチルアミン、2,2’−ジピリジルエチルアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
上記に例示した化合物のほかには、含窒素配位性化合物(B)の具体例として、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,2−フェニレンジアミン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N,N’,N’−テトラメチル−2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、2,2’−ジピリジルトリフルオロアセチルアミン、2,2’−ジピリジルエチルアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
前記銅化合物(A)は、未晒しクラフトパルプに対し、対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppmの範囲で存在させるのが適正であり、より好ましくは100〜1500ppm、特に好ましくは200〜1000ppmである。前記銅化合物(A)が前記範囲よりも少なすぎると、その添加効果がほとんど現われない。一方、前記銅化合物(A)が前記範囲よりも多すぎると、過酸化水素の分解を促進してしまい、漂白反応に関与せずに消費されてしまう過酸化水素の割合を増加させるため、満足なカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られない。
前記含窒素配位性化合物(B)は、前記銅化合物(A)に対しモル数で3当量以下の範囲で存在させるのが適正であり、より好ましくは0.5〜2モル当量の範囲である。前記銅化合物(A)に対して含窒素配位性化合物(B)が過少であると、相乗効果が現れず、一方、過剰であると経済的に好ましくない。
前記銅化合物(A)と前記含窒素配位性化合物(B)は、漂白系内に別々に添加しても良いし、予め混合物として調製したものを添加しても良いし、予め銅錯体として単離したものを添加しても良い。また、それぞれ固体として添加しても良いが、水または/および有機溶媒の溶液もしくは分散液として予め調製したものを添加しても良い。
前記銅化合物(A)と前記含窒素配位性化合物(B)は、過酸化水素漂白段の反応装置内に存在させることができる時点であれば、漂白クラフトパルプ製造における全工程のうちどの時点で添加しても良い。また、前記範囲の量を一度に添加しても良いし、複数回に分けて添加しても良い。過酸化水素漂白段が複数設けられている場合は、前記範囲の量をそれぞれの過酸化水素漂白段に添加すれば良い。
本発明の製造方法に適用されるパルプ(使用パルプ)としては、針葉樹又は広葉樹由来の木材を原料とし、クラフト蒸解を経て得られる未晒しクラフトパルプが好ましい。より好ましくは、クラフト蒸解後に酸素脱リグニンを行い、さらに洗浄工程を経た以降の未晒しクラフトパルプであり、カッパー価が5〜20、白色度が30〜65の範囲であるものがよい。本発明によれば、カッパー価の低減及び白色度の向上を同時に進行させることができるので、使用パルプのカッパー価及び白色度がこの範囲にあるとき、本発明の効果が最も経済的に有利となる。なお、本発明の製造方法は、機械パルプ及びそれを含むパルプに対してはその効果を奏さない。すなわち、機械パルプに対して中性過酸化水素と銅触媒(前記銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B))で漂白反応を行った場合、全く効果が無いか、むしろ逆効果となる傾向があるからである。このように、本発明の製造方法に適さない使用パルプとしては、例えば、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、脱墨パルプ(DIP)及び古紙パルプなどが挙げられる。
本発明の製造方法において、過酸化水素により漂白する際の処理条件(漂白温度、漂白時間など)は、一般的に行われている晒しクラフトパルプ製造工程中の過酸化水素漂白段の条件に準ずることができる。例えば、漂白温度は、好ましくは25〜100℃、より好ましくは40〜90℃である。漂白時間は、好ましくは30分〜240分、より好ましくは60分〜180分である。本発明の効果によって、従来のアルカリ性過酸化水素による漂白方法と比べ大幅な白色度向上及びカッパー価低下を達成できる場合は、これらの処理条件は経済的に有利となるよう適宜変更しても良い。
本発明の製造方法においては、漂白クラフトパルプの製造工程中で一般的に使用される薬品が添加されていても構わない。そのような薬品としては、例えば、消泡剤、スライムコントロール剤、ピッチコントロール剤、工程洗浄剤、スケール防止剤、腐蝕防止剤、硫酸マグネシウム等の漂白助剤などが挙げられる。ただし、一般的に使用されている添加剤のうちキレート剤は、銅化合物(A)と強固な配位化合物を形成して触媒活性を不活性化させてしまうため、使用しないのが好ましい。このようなキレート剤としては、NTA、EDTA、DTPA等のアミノポリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等のホスホン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、ヘキサメタリン酸等のポリリン酸、蓚酸、乳酸、琥珀酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩等のポリカルボン酸塩などが挙げられる。
本発明の紙の製造方法は、上述した本発明の漂白クラフトパルプの製造方法によって未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白処理して漂白クラフトパルプを製造する工程を含むものである。これにより得られる紙は、環境的にクリーンな方法で製造されただけでなく、カッパー価が低く、高白色度を備えたものとなる。なお、本発明の紙の製造方法において、漂白工程以外の工程については特に制限はなく、抄紙方法や条件などは従来公知の方法の中から適宜採用すればよい。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに特に限定されるものではない。
表1及び表2に、実施例及び比較例で使用した化合物を列記する。以下の実施例及び比較例において、表1から選ばれる銅化合物(A)と表2から選ばれる含窒素配位性化合物(B)とを併用する場合は、予めそれぞれを混合した混合水溶液としてから未晒しクラフトパルプに添加した。
なお、表1および表2に列挙した各化合物については、それぞれ市販されている試薬を用いたが、本発明に使用する化合物の入手方法や製造方法はこれに限定されるものではない。
なお、表1および表2に列挙した各化合物については、それぞれ市販されている試薬を用いたが、本発明に使用する化合物の入手方法や製造方法はこれに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例では、下記の漂白条件及び漂白操作方法を標準的手法として、漂白後のクラフトパルプを得て、下記の評価方法にしたがってカッパー価及び白色度を測定した。
(漂白条件)
使用パルプ : 酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ
パルプ濃度 : 20重量%
過酸化水素添加量 : 2重量%(対絶乾パルプ純分)
漂白温度 : 60℃
漂白時間 : 90分
使用パルプ : 酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ
パルプ濃度 : 20重量%
過酸化水素添加量 : 2重量%(対絶乾パルプ純分)
漂白温度 : 60℃
漂白時間 : 90分
(漂白操作方法)
未晒しクラフトパルプとしては、広葉樹由来の木材チップをクラフト蒸解した後、酸素脱リグニンを行い、洗浄工程を経た後の未晒しクラフトパルプのうち、国内製紙工場より入手したものを適宜用いた。この未晒しクラフトパルプを絶乾重量で6g秤量し、必要に応じて所定の前処理を施した後、ポリエチレン製の袋に入れ、任意濃度の水溶液にした添加薬品を所定量(対絶乾パルプ重量比)添加し、水道水を加えてよく混合し、さらに過酸化水素を2重量%(対絶乾パルプ純分)添加して充分に混合させ、パルプ濃度20重量%のパルプスラリーを調製した。このとき、必要に応じて、希硫酸又は水酸化ナトリウムを添加して所定のpHに調整した。ポリエチレン袋を密閉したのち、60℃の恒温槽に浸漬させ、90分間静置することにより、漂白を行った。この後、直ちに漂白後のクラフトパルプをポリエチレン袋から取り出し、水道水でパルプ濃度1重量%まで希釈した後、JIS−P−8222で規定された抄紙方法に準じて、坪量100g/m2となるように評価用の手抄きシートを作成した。なお、使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)の漂白前もしくは前処理後のパルプについても同様に、水道水にてパルプ濃度1重量%となるように調整し、JIS−P−8222で規定された抄紙方法に準じて、坪量100g/m2となるように評価用の手抄きシートを作成した。
未晒しクラフトパルプとしては、広葉樹由来の木材チップをクラフト蒸解した後、酸素脱リグニンを行い、洗浄工程を経た後の未晒しクラフトパルプのうち、国内製紙工場より入手したものを適宜用いた。この未晒しクラフトパルプを絶乾重量で6g秤量し、必要に応じて所定の前処理を施した後、ポリエチレン製の袋に入れ、任意濃度の水溶液にした添加薬品を所定量(対絶乾パルプ重量比)添加し、水道水を加えてよく混合し、さらに過酸化水素を2重量%(対絶乾パルプ純分)添加して充分に混合させ、パルプ濃度20重量%のパルプスラリーを調製した。このとき、必要に応じて、希硫酸又は水酸化ナトリウムを添加して所定のpHに調整した。ポリエチレン袋を密閉したのち、60℃の恒温槽に浸漬させ、90分間静置することにより、漂白を行った。この後、直ちに漂白後のクラフトパルプをポリエチレン袋から取り出し、水道水でパルプ濃度1重量%まで希釈した後、JIS−P−8222で規定された抄紙方法に準じて、坪量100g/m2となるように評価用の手抄きシートを作成した。なお、使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)の漂白前もしくは前処理後のパルプについても同様に、水道水にてパルプ濃度1重量%となるように調整し、JIS−P−8222で規定された抄紙方法に準じて、坪量100g/m2となるように評価用の手抄きシートを作成した。
(評価方法)
作成した手抄きシートのハンター白色度を、JIS−P−8123に規定された方法に準じて、分光光度計(「ERP−80WX」有限会社東京電色社製)を用いて測定した。白色度は、数値が大きいほど白さが増したことを示す。
他方、パルプのカッパー価を、作成した手抄きシートを用いて、JIS−P−8211に規定された方法に準じて測定した。カッパー価は、数値が低いほど脱リグニン及びヘキセンウロン酸の除去が進行したことを示す。
なお、以下の実施例、比較例においては、使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)は、特に指定のない限り同一の国内製紙工場から採取したものであるが、原料の不均一性、採取時等に生じうる誤差を考慮して、表ごとに使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)の漂白前もしくは前処理後のパルプについても、白色度及びカッパー価を同様にして測定した。
作成した手抄きシートのハンター白色度を、JIS−P−8123に規定された方法に準じて、分光光度計(「ERP−80WX」有限会社東京電色社製)を用いて測定した。白色度は、数値が大きいほど白さが増したことを示す。
他方、パルプのカッパー価を、作成した手抄きシートを用いて、JIS−P−8211に規定された方法に準じて測定した。カッパー価は、数値が低いほど脱リグニン及びヘキセンウロン酸の除去が進行したことを示す。
なお、以下の実施例、比較例においては、使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)は、特に指定のない限り同一の国内製紙工場から採取したものであるが、原料の不均一性、採取時等に生じうる誤差を考慮して、表ごとに使用パルプ(酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプ)の漂白前もしくは前処理後のパルプについても、白色度及びカッパー価を同様にして測定した。
[実施例1〜2及び比較例1〜4]
前処理として、酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプを、希硫酸を用いてpH5に調整した後、EDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)を0.5重量%(対絶乾パルプ固形分)添加し、パルプ濃度10重量%、温度90℃で1時間、キレート処理(Q)段を行った。さらに、水道水でパルプ濃度1重量%まで希釈し、80メッシュワイヤーで脱水洗浄し、パルプ濃度23重量%とした。
次に、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)、パルプ濃度、漂白温度、漂白時間を表3に示したように変更し、添加薬品として銅化合物、含窒素配位性化合物(配位性化合物)、NaOH(苛性ソーダ)、MgSO4(硫酸マグネシウム)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム)を表3に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加した以外は、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
前処理として、酸素脱リグニン後の広葉樹由来未晒しクラフトパルプを、希硫酸を用いてpH5に調整した後、EDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)を0.5重量%(対絶乾パルプ固形分)添加し、パルプ濃度10重量%、温度90℃で1時間、キレート処理(Q)段を行った。さらに、水道水でパルプ濃度1重量%まで希釈し、80メッシュワイヤーで脱水洗浄し、パルプ濃度23重量%とした。
次に、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)、パルプ濃度、漂白温度、漂白時間を表3に示したように変更し、添加薬品として銅化合物、含窒素配位性化合物(配位性化合物)、NaOH(苛性ソーダ)、MgSO4(硫酸マグネシウム)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム)を表3に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加した以外は、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
実施例1〜2及び比較例1〜4の評価結果を表3に示す。
表3から、従来の強アルカリ性条件下での過酸化水素による漂白では、カッパー価はある程度低下するものの、白色度があまり向上しなかった(比較例1、2)。特に、本発明に係る銅化合物(A)と含窒素官能基を1つしか有さない本発明の範囲外の配位性化合物であるピリジンを添加した場合には、銅化合物の添加効果がほとんど現れておらず、むしろ黄変して白色度は悪化することが判る(比較例2)。また、中性〜弱アルカリ性条件下において、本発明に係る銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を併用して添加しない場合には、カッパー価は殆ど低下せず、白色度の向上も不充分であることが判る(比較例3、4)。これに対して、pH7.2の中性〜弱アルカリ条件下で、本発明に係る銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加した場合、カッパー価の低下と白色度の向上が同時に促進されることが明らかである(実施例1、2)。しかも、このような効果は、含窒素配位性官能基が1つであるピリジンを用いた比較例2と比べ、非常に少ない量の銅化合物及び含窒素配位性化合物によって発現されるものであった。また、漂白条件を変更した場合には、硫酸マグネシウムやDTPAを添加しなくても、より短時間でカッパー価低下と白色度向上を同時に促進させることができることも明らかである(実施例1)。
[実施例3〜35]
添加薬品として、表4に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
添加薬品として、表4に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
[比較例5〜18]
添加薬品として、表4に示す金属化合物を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い、比較例5〜15ではpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整したこと以外、比較例16〜18ではpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を3.0に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
添加薬品として、表4に示す金属化合物を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い、比較例5〜15ではpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整したこと以外、比較例16〜18ではpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を3.0に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
[比較例19〜24]
比較例19では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行ったこと以外、比較例20では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)のみを表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例21では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)及びキレート剤としてのEDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)を各々表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例22では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行ったこと以外、比較例23では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpHを11.8に調整したのちに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例24では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpHを11.8に調整したのちに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)及び含窒素配位性化合物(b−23)を各々表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外は(いずれも前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
比較例19では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行ったこと以外、比較例20では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)のみを表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例21では、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2に調整するとともに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)及びキレート剤としてのEDTA(エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム)を各々表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例22では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行ったこと以外、比較例23では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpHを11.8に調整したのちに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)を表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外、比較例24では、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpHを11.8に調整したのちに、添加薬品として塩化銅(II)(a−1)及び含窒素配位性化合物(b−23)を各々表4に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ添加して漂白を行ったこと以外は(いずれも前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
実施例3〜35及び比較例5〜24の評価結果を表4に示す。
表4から、pH8.2の中性〜弱アルカリ条件下で本発明に係る銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加した場合、これらを添加しない場合や銅化合物(A)のみを添加した場合に比べ、カッパー価の低下と白色度の向上が同時に促進されることが明らかである(実施例3〜35及び比較例19、20)。また、銅化合物(A)としては、1価又は2価のいずれを用いても、カッパー価低減効果及び白色度向上効果が現れた(実施例34〜35)。ただし、pH11.8の強アルカリ性条件では、銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)の添加の有無に関わらず、カッパー価低減効果及び白色度向上効果は得られなかった(比較例22〜24)。また、EDTAのようなキレート剤の共存下では、銅化合物(A)の触媒効果は全く得られなかった(比較例21)。
[実施例36〜37及び比較例25〜37]
pH(漂白時のパルプスラリーのpH)による差異を調べるべく、添加薬品として、表5に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表5に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表5に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を表5に示すように各々3.8、5.2、6.8、8.2、11.7に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
pH(漂白時のパルプスラリーのpH)による差異を調べるべく、添加薬品として、表5に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表5に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表5に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を表5に示すように各々3.8、5.2、6.8、8.2、11.7に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
実施例36〜37及び比較例25〜37の評価結果を表5に示す。また、表5の結果に基づき、銅化合物及び配位性化合物を添加時、銅化合物のみを添加時、銅化合物及び配位性化合物を無添加時ごとに、pHとカッパー価との関係を表したグラフを図1に、pHと白色度との関係を表したグラフを図2に、それぞれ示す。
表5、図1及び図2から、本発明に係る銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加した場合、pH6〜9の弱アルカリ性〜中性の範囲で最も優れたカッパー価低減効果及び白色度向上効果が現れ、pHが酸性もしくは強アルカリ性の範囲であるとカッパー価低減効果及び白色度向上効果は劣ることが明らかである。これに対して、銅化合物(A)のみを添加した場合も、同様にpH6〜9の範囲で最大限のカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られるが、その程度は銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加した場合よりも劣ることが判る。また、銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加しない場合は、pHが高くなるほどカッパー価が低下し、白色度が向上する結果となったが、pHが最も高い場合であっても、pH6〜9で銅化合物(A)及び含窒素配位性化合物(B)を添加した場合よりも劣るレベルであることが判る。
[実施例38〜43及び比較例38〜47]
銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)の添加量による差異を調べるべく、添加薬品として、表6に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表6に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表6に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例39はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)の添加量による差異を調べるべく、添加薬品として、表6に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表6に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表6に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例39はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例39においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
実施例38〜43及び比較例38〜47の評価結果を表6に示す。また、表6の結果に基づき、銅化合物及び配位性化合物を添加時、銅化合物のみを添加時ごとに、銅化合物の添加量とカッパー価との関係を表したグラフを図3に、銅化合物の添加量と白色度との関係を表したグラフを図4に、それぞれ示す。
表6、図3及び図4から、本発明に係る銅化合物(A)に本発明に係る含窒素配位性化合物(B)を併用した場合には、同量の銅化合物(A)のみを添加した場合に比べ、優れたカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られることが明らかである。ただし、銅化合物(A)と含窒素配位性化合物(B)を併用した場合であっても、銅化合物(A)の添加量が50ppm未満であると、アルカリ性過酸化水素により漂白した場合よりもカッパー価低減効果及び白色度向上効果は劣る結果となったことから、銅化合物(A)の添加量は50ppm以上が必要であることが判る。
[実施例44〜47及び比較例48〜51]
銅化合物に対する含窒素配位性化合物(配位性化合物)のモル当量比による差異を調べるべく、添加薬品として、表7に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表7に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表7に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例51はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
銅化合物に対する含窒素配位性化合物(配位性化合物)のモル当量比による差異を調べるべく、添加薬品として、表7に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表7に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表7に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例51はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例51においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
実施例44〜47及び比較例48〜51の評価結果を表7に示す。
表7から、本発明に係る銅化合物(A)の添加量に対し、本発明に係る含窒素配位性化合物(B)の添加量をモル数で3当量以下とした場合(実施例44〜47)には、含窒素配位性化合物(B)の添加量が前記範囲を超えた場合(比較例48、49)やアルカリ性過酸化水素により漂白した場合に比べ、優れたカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られることが明らかである。
[実施例48〜51及び比較例52〜59]
漂白時間による差異を調べるべく、添加薬品として、表8に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表8に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表8に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例56〜59はpH11.8)に調整し、漂白時間を表8に示すように各々30分、60分、90分、180分としたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
漂白時間による差異を調べるべく、添加薬品として、表8に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表8に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表8に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例56〜59はpH11.8)に調整し、漂白時間を表8に示すように各々30分、60分、90分、180分としたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例56〜59においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
実施例48〜51及び比較例52〜59の評価結果を表8に示す。また、表8の結果に基づき、銅化合物及び配位性化合物を添加時、銅化合物のみを添加時、アルカリを添加時(銅化合物及び配位性化合物は無添加、pH11.8)ごとに、漂白時間とカッパー価との関係を表したグラフを図5に、漂白時間と白色度との関係を表したグラフを図6に、それぞれ示す。
表8、図5及び図6より、アルカリ性過酸化水素のみにより漂白した場合には、漂白時間90分以降でカッパー価低下及び白色度向上が止まってしまうが、本発明に係る銅化合物(A)を用いた場合は、漂白時間180分の時点でもカッパー価低下及び白色度向上が進行し続けることが判る。さらに、その場合、銅化合物(A)のみを添加するよりも、銅化合物(A)と本発明に係る含窒素配位性化合物(B)を併用した方が、より優れたカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られることが明らかである。
[実施例52〜56及び比較例60〜71]
パルプ原料の樹種や初期カッパー価及び初期白色度による差異を調べるべく、添加薬品として、表9に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表9に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表9に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を表9に示すように調整し、使用パルプとして表9に示す入手先の異なる種々のパルプを用いたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例60、62、64、66、68、70においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を各々表9に示す値に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
パルプ原料の樹種や初期カッパー価及び初期白色度による差異を調べるべく、添加薬品として、表9に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表9に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表9に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を表9に示すように調整し、使用パルプとして表9に示す入手先の異なる種々のパルプを用いたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例60、62、64、66、68、70においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を各々表9に示す値に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
なお、表9に示すパルプのうち、「LOKP」と記載したものは、国内製紙工場の晒しクラフトパルプ製造工程から採取した広葉樹由来の酸素脱リグニン後の未晒しクラフトパルプであり、「NOKP」と記載したものは、国内製紙工場の晒しクラフトパルプ製造工程から採取した針葉樹由来の酸素脱リグニン後の未晒しクラフトパルプであり、「TMP」と記載したものは、国内製紙工場から入手した機械パルプ(サーモメカニカルパルプ)である。
実施例52〜56及び比較例60〜71の評価結果を表9に示す。
表9から、未晒しクラフトパルプであれば、どのような樹種であり初期カッパー価及び初期白色度がどの程度であっても、本発明に係る銅化合物(A)を添加することによりカッパー価低減効果及び白色度向上効果が得られ、その効果は、特に銅化合物(A)と本発明に係る含窒素配位性化合物(B)とを併用した場合に優れていることが判る。一方、機械パルプであるサーモメカニカルパルプ(TMP)を使用パルプとした場合には、中性過酸化水素と銅化合物(A)の共存により黄変が起こり、漂白前よりも白色度が低下した。これは、クラフトパルプでは蒸解や酸素脱リグニンによって除去されるフェノール性リグニンや不純物が機械パルプでは大量に残存しており、銅化合物によって逆に有色物質を生成する反応が促進されてしまったためと考えられる。
[実施例57〜58及び比較例72〜74]
過酸化水素による漂白過程における残留過酸化水素量から漂白作用の持続性を調べるべく、添加薬品として、表10に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表10に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表10に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例74はpH11.8)に調整し、漂白時間を表10に示す時間にしたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、得られたパルプスラリーについて下記方法にしたがって残留過酸化水素量を測定したのち、前記標準的手法にしたがって評価用の手抄きシートを作成した。
過酸化水素による漂白過程における残留過酸化水素量から漂白作用の持続性を調べるべく、添加薬品として、表10に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表10に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表10に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例74はpH11.8)に調整し、漂白時間を表10に示す時間にしたこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、得られたパルプスラリーについて下記方法にしたがって残留過酸化水素量を測定したのち、前記標準的手法にしたがって評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例73においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
(残留過酸化水素測定方法)
漂白後に得られたパルプスラリーを水道水でパルプ濃度1重量%に希釈した後、絶乾2g相当量を採取し、0.5mol/L硫酸を7mL、0.6mol/Lヨウ化カリウム水溶液を5mL、3重量%モリブデン酸アンモニウム水溶液を微量加え、0.06mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定を行い、遊離したヨウ素の黄褐色が消失した点を終点とした。なお、この滴定においては下記式(1)および式(2)の反応式で示される反応が起きていると考えられており、これらの反応式にしたがってチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴下量から残留過酸化水素量(添加量に対する残留量のmol%)を算出した。
漂白後に得られたパルプスラリーを水道水でパルプ濃度1重量%に希釈した後、絶乾2g相当量を採取し、0.5mol/L硫酸を7mL、0.6mol/Lヨウ化カリウム水溶液を5mL、3重量%モリブデン酸アンモニウム水溶液を微量加え、0.06mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定を行い、遊離したヨウ素の黄褐色が消失した点を終点とした。なお、この滴定においては下記式(1)および式(2)の反応式で示される反応が起きていると考えられており、これらの反応式にしたがってチオ硫酸ナトリウム水溶液の滴下量から残留過酸化水素量(添加量に対する残留量のmol%)を算出した。
式(1):H2O2+2I-+2H+→I2+2H2O
式(2):I2+2Na2S2O3→2I-+Na2S4O6
式(2):I2+2Na2S2O3→2I-+Na2S4O6
実施例57〜58及び比較例72〜74の残留過酸化水素量及び評価結果を表10に示す。
表10から、アルカリ性過酸化水素による漂白の場合は、漂白時間90分の時点で残留過酸化水素が0%となり、90分を超えて処理を継続しても漂白作用は起こらず、それ以上のカッパー価低下効果及び白色度向上効果は得られないことが判る。これに対して、中性〜弱アルカリ性の過酸化水素を本発明に係る銅化合物(A)と本発明に係る含窒素配位性化合物(B)の共存下で用いた場合には、漂白時間180分でも過酸化水素が残存しており、カッパー価低減効果及び白色度向上効果が持続していることが明らかであった。一方、銅化合物(A)を添加しないで中性〜弱アルカリ性の過酸化水素を用いた場合には、過酸化水素が大量に残留しており、漂白反応も過酸化水素の分解反応もほとんど起きていないことが判る。これらのことから、銅化合物(A)と含窒素配位性化合物(B)の共存下でpHを中性〜弱アルカリ性条件にすると、過酸化水素は自己分解反応によって無駄に消費されることもなく最も効率的に漂白反応に利用されると言える。
[実施例59及び比較例75〜76]
漂白後のパルプ中に実際に含まれるヘキセンウロン酸の含有量を調べるべく、添加薬品として、表11に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表11に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表11に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例76はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、得られたパルプスラリーについて下記方法にしたがってヘキセンウロン酸含有量を測定するとともに、前記標準的手法にしたがって評価用の手抄きシートを作成した。
漂白後のパルプ中に実際に含まれるヘキセンウロン酸の含有量を調べるべく、添加薬品として、表11に示す銅化合物及び含窒素配位性化合物(配位性化合物)を表11に示す量(対絶乾パルプ重量比)だけ用い(表11に表示のない場合は用いず)、pH(漂白時のパルプスラリーのpH)を8.2(但し、比較例76はpH11.8)に調整したこと以外は(前処理はなし)、前記標準的手法にしたがって漂白を行い、得られたパルプスラリーについて下記方法にしたがってヘキセンウロン酸含有量を測定するとともに、前記標準的手法にしたがって評価用の手抄きシートを作成した。
なお、参考として、比較例76においては、水酸化ナトリウムを0.5重量%(対パルプ純分)添加してpH(漂白時のパルプスラリーのpH)を11.8に調整するとともに、添加薬品を一切用いずに過酸化水素のみで漂白を行うこととした。
(ヘキセンウロン酸含有量測定方法)
漂白後のパルプスラリーを絶乾パルプ5g相当量採取して100mLオートクレーブに入れ、pH3となるように蟻酸―蟻酸ナトリウム緩衝液と水道水を加えて100mLとした。オートクレーブ内を窒素ガス置換して密閉し、熱水浴中で100℃、4時間加熱処理した。オートクレーブを冷却後、パルプスラリーを取り出し、イオン交換水で500gまで希釈した後、ブフナー漏斗にて吸引濾過し、濾液を回収した。濾液中の2−フランカルボン酸及び5−ホルミル−2−フランカルボン酸についてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により定量した。HPLC条件及びヘキセンウロン酸量の算出式は以下の通りである。
漂白後のパルプスラリーを絶乾パルプ5g相当量採取して100mLオートクレーブに入れ、pH3となるように蟻酸―蟻酸ナトリウム緩衝液と水道水を加えて100mLとした。オートクレーブ内を窒素ガス置換して密閉し、熱水浴中で100℃、4時間加熱処理した。オートクレーブを冷却後、パルプスラリーを取り出し、イオン交換水で500gまで希釈した後、ブフナー漏斗にて吸引濾過し、濾液を回収した。濾液中の2−フランカルボン酸及び5−ホルミル−2−フランカルボン酸についてHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により定量した。HPLC条件及びヘキセンウロン酸量の算出式は以下の通りである。
(HPLC条件)
高速液体クロマトグラフ装置:LC−6A(株式会社島津製作所製)
カラム:WAKOSIL−II5C18HG、径4.6mm×250mm
(和光純薬工業株式会社製)
カラム温度:35℃
移動相:アセトニトリル/水/リン酸(重量比)=20/80/1.1
(和光純薬工業株式会社製)
流速:0.8mL/min
検出器:UV(波長220nm)
注入量:50μL
高速液体クロマトグラフ装置:LC−6A(株式会社島津製作所製)
カラム:WAKOSIL−II5C18HG、径4.6mm×250mm
(和光純薬工業株式会社製)
カラム温度:35℃
移動相:アセトニトリル/水/リン酸(重量比)=20/80/1.1
(和光純薬工業株式会社製)
流速:0.8mL/min
検出器:UV(波長220nm)
注入量:50μL
(ヘキセンウロン酸量算出式)
2−フランカルボン酸量[mmol/kg]
=50μL中の濃度[ppm]×(500/1000)/(112.082×0.001)
5−ホルミル−2−フランカルボン酸量[mmol/kg]
=50μL中の濃度[ppm]×(500/1000)/(140.13×0.001)
ヘキセンウロン酸量[mmol/kg]
=2−フランカルボン酸量+5−ホルミル−2−フランカルボン酸量
2−フランカルボン酸量[mmol/kg]
=50μL中の濃度[ppm]×(500/1000)/(112.082×0.001)
5−ホルミル−2−フランカルボン酸量[mmol/kg]
=50μL中の濃度[ppm]×(500/1000)/(140.13×0.001)
ヘキセンウロン酸量[mmol/kg]
=2−フランカルボン酸量+5−ホルミル−2−フランカルボン酸量
実施例59及び比較例75〜76の評価結果を表11に示す。
表11から、中性〜弱アルカリ性過酸化水素を本発明に係る銅化合物(A)と本発明に係る含窒素配位性化合物(B)の共存下で用いた場合には、アルカリ性過酸化水素を用いた場合に比べ、格段にヘキセンウロン酸含有量が減少していることが判る。
Claims (6)
- 未晒しクラフトパルプを過酸化水素で処理して漂白するにあたり、下記(A)で表される銅化合物を対絶乾パルプ重量比で50〜2000ppm存在させ、さらに下記(B)で表される含窒素配位性化合物を前記銅化合物に対しモル数で3当量以下存在させる条件下で、pH6〜9の範囲内で処理する工程を含むことを特徴とする漂白クラフトパルプの製造方法。
(A)1価又は2価の銅塩もしくは銅酸化物のうち少なくとも1種の銅化合物。
(B)銅イオンに配位することのできる含窒素官能基を1分子内に2つ以上有する少なくとも1種の含窒素配位性化合物。 - 前記(A)で表される銅化合物が、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、ヘキサフルオロリン酸テトラキス(アセトニトリル)銅(I)、酸化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、硫酸銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、水酸化銅(II)、及びヘキサフルオロリン酸銅(II)から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
- 前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、銅イオンに配位できる1〜3級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アミド基、ニトリル基、グアニジノ基、ヒドラジノ基、オキシム基、N−オキシル基、及び含窒素ヘテロ環から選ばれる1種以上の含窒素官能基を1分子内に少なくとも2つ以上有する化合物である、請求項1又は2記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
- 前記(B)で表される含窒素配位性化合物が、エチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、4−アミノピリジン、2−(2−アミノエチル)ピリジン、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ピペラジン、ホモピペラジン、ジピペリジノエタン、ジメチルグリオキシム、1,2−シクロヘキサンジオンジオキシム、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、2,2'−ジピリジルエーテル、2,2'−ジピリジルメタン、2,2'−ジピリジルアミン、ジエチレントリアミン、1,4,7−トリアザシクロノナン、N−(2−アミノエチル)ピペラジン、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン、1,4−(2−アミノエチル)ピペラジン、メラミン、及びこれらのN−置換誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
- 前記未晒しクラフトパルプが、針葉樹又は広葉樹由来の木材を原料とし、クラフト蒸解によって得られる未晒しクラフトパルプである、請求項1〜4のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の漂白クラフトパルプの製造方法によって未晒しクラフトパルプを過酸化水素で漂白処理して漂白クラフトパルプを製造する工程を含む、紙の製造方法。
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