JP2008202113A - 缶用鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】例えば溶接缶のフランジ加工性に最低限必要な延性を確保しつつ高強度の缶用鋼板を製造する方法を提案する。
【解決手段】小さい異方性が要求されない用途を対象とするため、再結晶焼鈍は行わず、冷延後は(回復)焼鈍を行う。その焼鈍温度は、(再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃である。また、その他の製造条件として、Ar3変態点以上の仕上げ温度で熱間圧延を行う。このようにして製造される缶用鋼板の引張強度は550MPa〜600MPa、全伸びは5%以上となる。さらにNb:0.001%〜0.05%、B:0.0001%〜0.005%の1種または2種を含有することにより、通常の缶用鋼板と同じ温度域で焼鈍することも可能となる。
【選択図】図1

Description

本発明は、飲料缶詰や食品缶詰の容器として用いられる2ピースDRD缶や3ピース溶接缶に用いられる缶用鋼板の製造方法に関するものである。
近年、缶用鋼板としてのスチール缶の需要を拡大するため、製缶コストの低減がとられている。
製缶コストの低減策としては、素材の低コスト化が挙げられ、絞り加工を行う2ピース缶はもとより、単純な円筒成形が主体の3ピース缶であっても、使用する鋼板の薄肉化が進められている。
ただし、単に鋼板を薄肉化すると缶体強度が低下するので、DRD缶や溶接缶の缶胴部のような高強度材が用いられている箇所には薄肉化した鋼板を用いることができず、高強度で極薄の缶用鋼板が望まれていた。例えば、板厚0.16mmの鋼板を利用する場合には、少なくとも缶胴部にはロックウェル硬さで73〜76程度、引張強度で550MPa〜620MPa程度の高強度材を用いる必要がある。
現在、極薄で硬質な缶用鋼板は、焼鈍後に2次冷延を施すDuble Reduce法(以下、DR法と称す)で製造されている。しかし、DR法は、熱延、冷延、焼鈍、二次冷延と通常の焼鈍までの工程に比べて1工程多いのでその分コストが高くなる。従って、この種の製缶用鋼板においては、コストダウンが要望されており、各種強化元素を添加して再結晶焼鈍工程までで製造する方法が提案されている。
例えば、特許文献1および特許文献2では、再結晶焼鈍を行うことで高r値および小さい異方性を特徴とする鋼板を提供している。このような異方性が小さい鋼板は、耳発生をできるだけ抑制すべき絞り缶等には適している。
しかし、小さい異方性をそれほど必要としない鋼板については、冷間圧延後、必ずしも再結晶焼鈍を行う必要はない。冷間圧延で強度を高めた後に冷間圧延工程で導入され過ぎた歪の解放や、材料の延性が必要最小限の範囲で回復するように、低温での加熱処理を行う方法が再結晶焼鈍に代わって適用できる。この方法では、再結晶焼鈍を行わないため、析出強化能や固溶強化能のある元素を添加する必要がなく、こうした元素の耐食性への影響を懸念する必要がない。従って、小さい異方性が要求されない鋼板については、回復焼鈍を行う方法が有効であり、以下のような技術が提案されている。
特許文献3では、Ar3変態点以下で仕上げ圧延を行い、高温巻取りして、熱延後の結晶粒径を50μmとすることで、85〜90%の圧下率で冷間圧延を行った後、450〜580℃の連続焼鈍を行って、TSが530〜570MPaでElが6〜8%の鋼板を得る技術を開示している。
特許文献4では、熱延時にAr3変態点以下で仕上げ圧延を行い、85%以下の圧下率で冷間圧延を行った後、200℃から500℃の範囲で10分間熱処理することで、YSが640MPaの鋼板を得る技術を開示している。
特許文献5では、冷間圧延をした後400℃以上再結晶温度以下で焼鈍することで、ロックウェル硬さ(HR30T)で70程度を得る技術が開示されている。
特許文献6では、特許文献5と同じ組成の鋼でAr3変態点以下の温度で少なくとも50%以上の熱間圧延をし、50%以上の圧下率で冷間圧延を行った後、400℃以上再結晶温度以下で焼鈍することで、ロックウェル硬さ65程度の鋼を得る技術を開示されている。なお、ここでいう再結晶温度とは再結晶率が10%未満の組織になる温度のことを指している。
特許文献7では、熱延時にAr3変態点以下での合計圧下率を40%以上で仕上げ圧延を行い、50%以上の圧下率で冷間圧延を行った後350〜650℃の短時間で焼鈍することで、YSが540MPa〜700MPaの鋼を得る技術を開示している。
特開2001-107186号公報 特開2005-336610号公報 特開昭53-20445号公報 特開平8-269568公報 特開平6-248338号公報 特開平6-248339号公報 特開平8-41549号公報
しかしながら、上記従来技術には下記に示す問題が挙げられる。
例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献6、特許文献7では、熱延時にAr3変態点以下で仕上げ圧延を行う必要がある。確かにAr3変態点以下で仕上げ圧延を行うと、熱延材のフェライト粒径は大きくなり、特許文献3で示されている第3図のように熱延後の鋼の強度は低下するので、鋼自体の強度を低下させる方法として有効である。しかし、中央部より冷却速度の速いエッジ部は仕上げ圧延時の温度が低くなる傾向があり、仕上げ圧延時に導入された歪が再結晶や回復で解放されずにエッジ部の強度を高くする傾向がある。そのため、中央部とエッジ部の強度差が大きくなり、幅方向に均一な熱延板が得られにくいことから、現状の操業で均一なものを得ることは困難である。
特許文献4では、冷圧後200〜500℃で10分間以上焼鈍して歪をとることでYSが640〜680MPaの鋼を得ている。しかし、連続焼鈍炉で10分間以上焼鈍をするとなるとラインスピードを低速にしなければならず、生産性を著しく低下させる。
特許文献5や特許文献6では400℃以上、再結晶温度以下で焼鈍することを特徴としているが、得られる鋼の強度はロックウェル硬さで65〜70程度であり、本発明で目的としている強度レベルの鋼を得るためには焼鈍温度を低下する必要がある。そのため、通常の缶用材料で製造している焼鈍温度では得ることができないため、焼鈍サイクルを別途設ける必要があり、生産性が低下する。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、上記した従来技術の問題を解決し、高強度な缶用鋼板を製造する方法を提案することを目的とする。
すなわち、本発明は、小さい異方性が要求されない用途、例えば溶接缶等に適用され、強度の他に加工性が要求される缶用鋼板を対象とし、例えば溶接缶のフランジ加工性に最低限必要な延性を確保しつつ高強度の缶用鋼板を製造する方法を提案することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
回復焼鈍で強度を低下させて目的の強度を得ることを前提に、成分組成、製造条件の適正化を検討した。そして、中でも、Ar3変態点以上で仕上げ圧延を行うことで中央部とエッジ部で強度差がない幅方向に均一な熱延鋼板を得ること、そして、冷延後、再結晶開始温度−200℃以上再結晶開始温度−20℃で焼鈍し、いわゆる回復段階で目的の強度レベルまで低下させること、この2つを本発明の特徴とし、主要な要件とすることで目的とする特性が得られることを知見した。
更に、Nb:0.005〜0.05%、B:0.0005〜0.005%を加えることで、上記製造条件で、現在缶用鋼板で製造されている焼鈍温度と同じ温度域(500〜700℃)での焼鈍を可能とし、引張強度550MPa〜650Mpaが得られることも知見した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.003%以下、N:0.004%以下、Mn:0.05%〜0.5%以下、P:0.02%以下、Si:0.02%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を、Ar3変態点以上の仕上げ温度で熱間圧延し、600〜750℃の巻取り温度で巻取り、酸洗し、次いで、60〜95%の圧下率で冷間圧延を行った後に、(再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行うことを特徴とする板厚0.18mm以下である缶用鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記鋼として、質量%で、さらに、Nb:0.001%〜0.05%、B:0.0001%〜0.005%の1種または2種を含有することを特徴とする缶用鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
また、本発明において、再結晶開始温度とは、図1に示すように、温度に伴い強度変化率が大きく変わる温度であり、全体の組織の中で再結晶組織が5%を占める組織が得られる温度である。
本発明によれば、550〜600MPaの引張強度、5%以上の全伸びを有した缶用鋼板が得られる。そして、DRおよび再結晶焼鈍工程を省略した方法でも、Nb、Bを添加した場合で、引張強度が550〜650MPaの強度、4%以上の伸びが得られることになる。
その結果、本発明の製造方法を適用することで、小さい異方性が必要とされない缶用途に対して、耐食性を損なうことなく、高強度缶用鋼板を低コストで製造し提供することが可能になる。
さらに、本発明の製造方法は、通常の缶用鋼板の製造方法に比べて低温域で焼鈍するためエネルギーコストを削減することが可能となる。また、Nb、Bを添加することで、通常の缶用鋼板と同じ温度域で焼鈍することも可能となる。この場合、焼鈍チャンスを別途設ける必要がない。その結果、生産性を阻害することなく、TS550〜650MPa級の鋼板を製造することが可能となる。
さらに、本発明では、焼鈍温度によって強度の変化が小さい温度域で焼鈍するため、焼鈍温度にばらつきが生じても幅方向に均一な強度レベルの鋼板が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の缶用鋼板は、引張強度(以下、TSと称することもある)550〜600MPa、全伸び5%以上の缶用鋼板である。もしくは、Nb、Bを添加する場合は、引張強度550〜650MPa、全伸び4%以上の缶用鋼板である。そして、前記缶用鋼板を製造するにあたっては、Ar3変態点以上の仕上げ温度で熱間圧延し、(再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行うことを特徴とする。これらは、本発明の最も重要な要件である。
次に、本発明の缶用鋼板の成分組成について説明する。
C: 0.003%以下
本発明で提案する缶用鋼板は、1次冷延で導入される歪で高強度化を図るので、強度を増加する合金元素は極力低減する必要がある。延性に関しても、缶成形時に必要な局部延性を十分に得ることができなくなる。また、残存固溶炭素量が増加すると、製缶の最終工程である巻き締め部の伸びフランジ成形時に割れを生じたり、加工硬化量についても大きくなるためネック加工やフランジ加工をする際にしわが発生したりする恐れがある。以上より、C含有量は0.003%以下とする。
N:0.004%以下
Nは、不可避的に鋼中に混入する不純物元素である。N量が増加すると連続鋳造時、矯正帯でスラブ割れが生じやすくなる。また、析出物を形成し伸びを低下させ、固溶状態で残存した場合鋼を硬質化させる。上記内容を防止する条件として、Nは0.004%以下とする。なお、さらに加工性を必要とする用途には0.002%以下とすることが好ましい。
Si:0.02%以下
Siは固溶強化により鋼の強度を増加させる元素であるが、多量に添加すると耐食性が著しく損なわれる。よって、0.02%以下とする。
Mn:0.05%〜0.3%
Mnは固溶強化により鋼の強度を増加させ、結晶粒径も小さくする。また、微細化強化としても強度を増加させる元素である。上記特性を生じさせないように、Mnの上限は0.3%とする。一方、Mn含有量が0.05%を下回ると、S含有量を低下させた場合でも、いわゆる熱間脆性を回避することが困難で、熱延時に表面割れ等の問題を生じる。よって、Mnの下限は0.05%とする。
P:0.02%以下
P含有量が多いと固溶強化により鋼の強度を著しく増加させ、耐食性を劣化させるので、0.02%以下とする。
S:0.03%以下
Sは鋼中で介在物として存在し、鋼板の延性および耐食性にとって不利になる元素なので、0.03%以下とする。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として清浄度を向上させる。また、固溶Nと結合し、AlNを形成し、固溶N量を低減する効果を有する。ゆえに、鋼中にある程度含有することが必要である。その条件として概ね0.005%以上添加するのが望ましい。一方、Al含有量が0.1%を超えると、その清浄度改善効果が飽和することに加え、製造コストの上昇、表面欠陥発生傾向の増大などの問題を生ずる。よって、0.1%以下とする。
Nb:0.001〜0.05%
Nbは炭化物生成能の高い元素であり、生成された炭化物による粒界のピン止めによって再結晶温度が上昇する。従って、Nb添加量を変化させることで、鋼の再結晶温度を変えて、随時目的の温度で焼鈍することが可能となる。そして、他の鋼板と焼鈍の機会を合わせることもできて、生産性の面から非常に効率的である。しかし、0.05%超えで含有すると、再結晶温度が高くなりすぎて、CAL通板性が低下すること、および炭化物の析出強化により目標の強度より高くなるため、Nb含有量は0.05%以下とする。基本的に、本発明では鋼板強度の高くなる元素は添加しないが、Nbについては焼鈍温度の観点から添加する必要があり、0.05%以下であれば、むしろ添加量を調整することでNbの析出強化を利用して所望の強度にすることが可能である。また、Nb添加は、溶接時の再結晶を抑制することで、溶接強度が低下するのを防止することにも有効である。一方、Nb添加量が0.001%未満では、上記の効果を発揮することができないため、0.001%を下限とする。
B:0.0005〜0.005%以下
Bは再結晶温度を上昇させる元素である。従って、Nb添加と同様の理由でBを添加する。しかし、過剰に添加すると熱間圧延時にオーステナイト域での再結晶を阻害し圧延荷重を大きくしなければならないため、B添加量は0.005%以下とする。また、0.0005%以下では再結晶温度を上昇させることはできないので、0.0005%を下限とする。
BもNbと同様に、上記の範囲内であれば、Bの析出強化により所望の強度にすることが可能である。また、溶接時の再結晶を抑制することで、溶接強度が低下するのを防止することにも有効である。
残部はFeおよび不可避不純物とする。
板厚:0.18mm以下
本発明において、板厚は重要な因子である。本発明の目的とする引張強度550MPa以上にすることが有効になるのは、板厚が0.18mm以下の範囲である。また、板厚が0.18mmを超える鋼板であれば、750℃を超える高温域でも容易に連続焼鈍を行うことができるが、0.18mm以下の鋼板では連続焼鈍時に破断や板の形状が悪くなる恐れがあり、生産性が低下する。本発明で行っている焼鈍温度は再結晶開始温度-20℃以下(実施例の記載温度:最も高温で700℃)としているため、板厚が0.18mm以下の鋼でも容易に生産できる。よって、本発明では、引張強度550MPa以上の範囲での効果を表すこと、低温域での焼鈍による生産性向上効果を顕著に表すため板厚は0.18mm以下に限定する。
引張強度:550〜650MPa
本発明は現在DR材のような高強度かつ極薄材を利用しているDRD缶や溶接缶の缶胴部への適用を考えている。板厚を0.18mm以下にした鋼で引張強度を550MPa以下にすると、缶体強度が不足するため缶の座屈が懸念される。これを回避するため引張強度を550MPa以上にする。一方、650MPa超えの強度を得ようとすると、多量の元素添加が必要となり、耐食性を阻害する危険がある。
なお、引張強度は成分、冷間圧延率、焼鈍温度により目標値に制御する。
具体的には、C:0.003%以下、N:0.004%以下、Mn:0.05%〜0.5%以下、P:0.02%以下、Si:0.02%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下を添加して冷間圧延率を60%以上として、均熱温度が再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行うことで、引張強度550〜600MPaに制御する。
一方、C:0.003%以下、N:0.004%以下、Mn:0.05%〜0.5%以下、P:0.02%以下、Si:0.02%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下、Nb:0.001%〜0.05%、B:0.0001%〜0.005%1種または2種を添加して冷間圧延率を60%以上として、均熱温度が再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行うことで、引張強度550〜650MPaに制御する。
全伸び: 4%以上
全伸びが4%を下回ると溶接缶のフランジ加工性が悪くなり、割れの発生率が高くなる等、加工性に影響する。これを回避するため、全伸びを4%以上と限定した。なお、加工性を極力高めるためには全伸びを5%以上確保することが望ましい。
なお、全伸びは成分、熱間圧延時の仕上げ後の冷却速度により、目標値に制御する。
次に本発明の缶用鋼板の製造方法について説明する。
上述した化学成分に調整された溶鋼を、転炉等を用いた通常公知の溶製方法により溶製し、次に連続鋳造法等の通常用いられる鋳造方法で圧延素材とする。
次に、上記により得られた圧延素材を用いて熱間圧延により、熱延板とする。圧延開始時には、圧延素材が、1250℃以上になるのが好ましい。仕上げ温度はAr3変態点以上とする。次いで、600〜750℃の巻取り温度で巻取る。次いで、酸洗し、60〜95%の圧下率で冷間圧延を行った後に、(再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行う。
(1)熱間圧延条件
仕上げ温度:Ar3変態点以上
熱延の仕上げ温度はAr3変態点以上となるように終了する必要がある。Ar3変態点未満で仕上げ圧延を行うと熱延組織の粒径は大きくなり、熱延後の鋼の強度が低下することで冷延後の強度も低下させやすいので、鋼自体の強度を低下させる方法には有効である。しかしながら、スラブの中央部がAr3変態点未満になるように仕上げ圧延を行うと、中央部より冷却速度の速いエッジ部は仕上げ圧延時に導入された歪が再結晶や回復で消費されないため、エッジ部は硬くなり、中央部とエッジ部の強度差が大きくなり、不均一組織をもつ熱延板が得られやすい。従って、均一な組織を有する熱延板を得るためには、仕上げ温度はAr3変態点以上にする。
(2)巻取り温度:600℃〜750℃
熱延の巻取り温度は600℃以上750℃以下となるようにする必要がある。600℃未満だと、巻取り後の保熱効果が十分でなく、熱延板のフェライト粒径が小さくなるため、強度が高くなる傾向にあり、また混粒組織を作り易くなるため、好ましくない。一方、750℃を超える温度で巻き取った場合は、鋼板のスケール厚みが顕著に増大し、次工程の酸洗時の脱スケール性が悪化する可能性がある。なお、これらの問題をより一層改善するには700℃以下にするのが望ましい。
(3)冷間圧延条件(圧下率):60〜95%
冷間圧延は、圧下率を60〜95%とする。圧下率が60%未満であると、冷間圧延して熱処理を施した後に目的の強度に到達しない。また、材質の不均一、特に板厚方向の不均一性に基づくと考えられる不具合が生じる。一方、95%を超えると局部延性の劣化を回避することが困難になる。
(4)冷間圧延後の熱処理(焼鈍)条件:
温度:再結晶開始温度−200℃以上、再結晶開始温度−20℃以下
熱処理(焼鈍)は、再結晶開始温度−200℃以上、再結晶開始温度−20℃以下の温度域で行う。Nb、Bなどを添加して再結晶温度を変化させているので、温度範囲についてはそれぞれの鋼の再結晶開始温度−200℃〜−20℃としている。本発明における焼鈍の目的は、冷圧で導入した歪により強度が高くなっている状態から、歪取り焼鈍を行うことで目標の強度まで低下させることである。再結晶開始温度−200℃未満では、十分に歪みが解放されず、また目標の強度よりも高くかつ延性が低くなるため、再結晶開始温度−200℃を下限値とする。一方、温度が高すぎると再結晶が開始して、軟化しすぎて目標の強度が得られず、また部分的に再結晶して均一な組織が得られなくなるので、再結晶開始温度−20℃を上限値とする。
なお、本発明では、連続焼鈍炉で焼鈍することを考えている。ゆえに、生産性を阻害しないために、焼鈍時の均熱時間は10s以上、90s以下とすることが好ましい。
表1に示す成分組成を含有し、残部が不可避不純物とFeからなる鋼を溶製し、鋼スラブを得た。得られた鋼スラブを1250℃で再加熱した後、仕上げ圧延温度を800〜890℃、巻取り温度を620〜700℃の範囲で熱間圧延を行った。次いで、酸洗後、90%の圧下率で冷間圧延して、0.15mmの薄鋼板を製造した。得られた薄鋼板を、連続焼鈍炉にて焼鈍温度350〜620℃、焼鈍時間30sで(回復)焼鈍を行い、伸長率が1.5%以下になるように調質圧延を施し、通常のクロム鍍金を連続的に施してティンフリースチールを得た。なお、詳細な製造条件を表2に示す。
また、焼鈍温度に関しては、図1で表1の鋼板の再結晶挙動を確認した結果、600℃で再結晶が完了していることが確認できたため、鋼板1における焼鈍の本発明温度範囲を400〜580℃とした。
Figure 2008202113
Figure 2008202113
以上により得られためっき鋼板(ティンフリースチール)に対して、引張試験、r値試験を行った。引張試験は、JIS5号サイズの引張試験片を用いて行い、引張強さ、伸びを測定し、強度および延性を評価した。r値はJIS Z2254で規定している固有振動法により求めた。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2008202113
表3より、本発明例(水準1、2)は、引張強度が550〜600MPa、全伸びが5%以上得られている。
一方、比較例(水準3)は焼鈍温度が本発明の範囲を下回り、鋼中歪みの回復が少ないため延性が低下している。また、比較例(水準4)は焼鈍温度が本発明の範囲を超えて高く局所的に再結晶が開始するため強度が不足している。
表4に示す成分組成を含有し、残部が不可避不純物とFeからなる鋼を実機転炉で溶製し、鋼スラブを得た。得られた鋼スラブを1150〜1250℃で再加熱した後、仕上げ圧延温度を890℃、巻取り温度を620℃で熱間圧延を行った。次いで、酸洗後、80〜90%の圧下率で冷間圧延して、0.15〜0.25mmの薄鋼板を製造した。得られた薄鋼板を、連続焼鈍炉にて焼鈍温度300〜700℃、焼鈍時間30sで(回復)焼鈍を行い、伸長率が1.5%以下になるように調質圧延を施し、通常のクロム鍍金を連続的に施してティンフリースチールを得た。なお、詳細な製造条件を表5に示す。
また、焼鈍温度に関しては、鋼板2〜6の再結晶挙動を確認した結果、表5に示すように620〜750℃で再結晶が完了していることが確認できた。例えば、表4の鋼板5の再結晶挙動を確認した結果を図2に示す。
Figure 2008202113
Figure 2008202113
以上により得られためっき鋼板(ティンフリースチール)に対して、引張試験、r値試験を行った。各特性については実施例1と同様の方法で測定した。得られた結果を表6に示す。
Figure 2008202113
表6より、本発明例(水準5、7、9、10、12、13)は、引張強度が550〜650MPa、全伸びが4%以上得られている。
一方、比較例(水準6、8)は焼鈍温度が本発明の範囲を下回り低く鋼中歪みの回復が少ないため、強度が高く、延性が低下している。比較例(水準11)は焼鈍温度が本発明の範囲を超えて高く局所的に再結晶が開始するため強度が不足している。また、比較例(水準14)は成分が本発明の範囲を超えるため、強度が高く延性が低下している。
そして、本発明で得られた鋼板では、Nb、B添加量により再結晶挙動が変化するため、適用できる焼鈍温度を変化させることが可能である。また、Nb、B添加量により得られる強度を変化させることが可能である。従って、本発明の製造方法は、他の缶用鋼板と同じサイクルで焼鈍することができて、所望の強度を得られるため、実機製造する上で非常に効率的である。
本発明によれば、延性や耐食性などに弊害なく、DRおよび再結晶焼鈍工程を省略した方法でも、引張強度が550〜650MPaの強度、4%以上の伸びを有する缶用鋼板が得られる。ゆえに、本発明の製造方法により製造される缶用鋼板は、飲料缶詰や食品缶詰の容器として用いられる2ピースのDRD缶や3ピース溶接缶を中心に缶用鋼板として最適である。
焼鈍温度とTSおよび再結晶率との関係を示す図である。 焼鈍温度とTSおよび再結晶率との関係を示す図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.003%以下、N:0.004%以下、Mn:0.05%〜0.5%以下、P:0.02%以下、Si:0.02%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を、
    Ar3変態点以上の仕上げ温度で熱間圧延し、
    600〜750℃の巻取り温度で巻取り、酸洗し、
    次いで、60〜95%の圧下率で冷間圧延を行った後に、
    (再結晶開始温度−200)〜(再結晶開始温度−20)℃の温度で焼鈍を行うことを特徴とする板厚0.18mm以下である缶用鋼板の製造方法。
  2. 前記鋼として、質量%で、さらに、Nb:0.001%〜0.05%、B:0.0001%〜0.005%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の缶用鋼板の製造方法。
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