JP2008195553A - 多面取り用防曇性ガラス基材 - Google Patents

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Abstract

【課題】良好な防曇性が発現し且つ良好な耐久性を有する防曇性被膜を有する防曇性ガラス物品を効率的に生産できるように、多面取り用防曇性ガラス基材を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るための多面取り用防曇性ガラス基材であり、該防曇性ガラス基材は、ガラス基材とガラス基材上に形成される防曇性被膜とを有し、該被膜は吸水率が10〜40重量%のウレタン樹脂よりなり、該ウレタン樹脂は、少なくとも平均分子量1000〜4000のアクリルポリオールを用いて形成されること。
【選択図】なし

Description

防曇性被膜が形成されたガラス物品に関する。
ガラス等の透明基材は、車両用窓ガラス、建築用窓ガラス、レンズ、ゴーグル等に使用されている。しかし、ガラスを高湿の場所、又は温度差、湿度差の大きい境界で使用した場合、表面に結露が生じ、曇りが発生する。
そして、ガラス物品の曇りを防止する技術として、特許文献1及び2等で、ウレタン樹脂による防曇性被膜を有する防曇性ガラス物品を提案してきている。これら防曇性物品では、被膜の吸水により先ず防曇性を発現せしめ、吸水飽和後には被膜の親水性によって防曇性を継続させるように設計されている。また、ウレタン樹脂固有の弾性により耐擦傷性も優れたものとなっている。
国際公開2004/13063号のパンフレット 国際公開2006/64904号のパンフレット
本発明者は、前記優れた防曇性ガラス物品を効率的に生産するために、所望とする大きさの防曇性ガラス物品よりも大サイズのガラス基材に被膜を形成し、その後、被膜が形成されたガラス基材を割断する方法を検討した。ガラス基材の割断は、ガラス表面にダイヤモンドカッターやオイルカッター等のガラスカッター、レーザー等で形成せしめた線(以降、「割断スジ」と表記する場合あり)、例えば、傷からなるスジを描き、折割を実施して行われる。
しかしながら、前記した防曇性被膜は、ウレタン特有の弾力性を有することから、被膜が形成されたガラス基材の折割は、ガラス基材だけを折割する場合よりも難しくなる。結果、被膜が形成されたガラス基材は、割断スジに沿って割断できない確率が高くなり、却って防曇性物品の生産効率の低下が生じやすくなる。
また、被膜の防曇性の発現への寄与について、被膜の親水性の寄与を小さくし、被膜の吸水性の寄与を高いものとしようとすると、被膜で吸水できる水量を高いものとするために被膜の膜厚を厚いものとする必要が生じる。例えば、被膜に親水性を発現させない場合、例えば、被膜への水滴の接触角を50°〜160°、好ましくは、55°〜120°とした場合、被膜の膜厚は、5〜80μmとすることが好ましい。そして、被膜の膜厚が厚い程、割断スジに沿って割断できない確率が高くなり、より防曇性ガラス物品の生産効率低下を引き起こしやすくなる。
本発明は、良好な防曇性が発現し且つ良好な耐久性を有する防曇性被膜を有する防曇性ガラス物品を効率的に生産できるように、多面取り用防曇性ガラス基材を提供することを課題とする。
本発明の防曇性被膜が形成されたガラス物品は、少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るための多面取り用防曇性ガラス基材であり、該防曇性ガラス基材は、ガラス基材とガラス基材上に形成される防曇性被膜とを有し、該被膜は吸水率が10〜40重量%のウレタン樹脂よりなり、該ウレタン樹脂は、少なくとも平均分子量1000〜4000のアクリルポリオールを用いて形成されることを特徴とする。
ここで、少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るための多面取り用防曇性ガラス基材とは、所望とする大きさの防曇性ガラス物品よりも大サイズのガラス基材とそのガラス基材上に形成される防曇性被膜とを有したものである。該ガラス基材を割断することで、効率的に防曇性物品が生産される。
多面取り用防曇性ガラス基材を割断スジに沿って割断することで防曇性物品を得る工程の効率化のためには、該多面取り用防曇性ガラス基材がガラス基材だけを割断する場合と同じか、それに近い確率で割断できる必要がある。
ガラス基材上に形成される防曇性被膜を割断する状況について考察したところ、防曇性被膜の割断は、防曇性被膜の機械的強度に大きく左右されるとの知見を得た。従って、本発明者は、防曇性ガラス基材を割断するためには、防曇性被膜の機械的強度で特に靭性に焦点をあてれば、課題解決につながるとの認識を得るに至った。
この靭性とは、物質のねばり強さを意味し、靭性は材料が破断する直前における最大の変形量である伸びによりあらわすことができる。
そして、この靭性が小さい防曇性被膜をガラス基材に形成することで、防曇性ガラス基材を割断する場合があっても、被膜の伸びが小さいために割断時に防曇性被膜が切断しやすくなる。かくして、本発明の多面取り用防曇性ガラス基材は、少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るために割断したとしても、割断不良を抑えることができ、効率的に生産することができる。
ウレタン樹脂における一般的なポリオール成分としては、ポリカプロラクタムポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリエステルポリオールであり、これらを使用したウレタン樹脂は靭性が大きい。
これに対して、本発明で使用しているアクリルポリオールは、硬度が高く耐擦傷性に優れており、さらに、靭性が小さいため、伸びが小さい性質を有している。このため、アクリルポリオールを含有した防曇性被膜が形成されたガラス基材を折割した場合、防曇性被膜が切断しやすくなり、結果として、防曇性ガラス基材を容易に割断できる。
本発明では、ウレタン樹脂中のアクリルポリオールの分子量を調整することにより、防曇性被膜の靭性を調整している。そして、この観点から、アクリルポリオールの平均分子量を1000〜4000、好ましくは、1500〜4000、より好ましくは、2000〜3500としている。1000未満では、得られる被膜の靭性が大きくなり、割断しにくくなると考えられ、加えて、被膜の耐擦傷性の低下が生じるものと考えられる。他方、4000超では、防曇性被膜に吸水性をもたらす成分との相溶性が悪くなり、被膜を形成させることが難しくなると考えられる。尚、本発明での平均分子量は、数平均分子量のことを指している。
これ以外にこのアクリルポリオールは被膜に主として耐摩耗性、耐水性、及び表面摩擦係数を下げる効果、すなわち、膜表面にスリップ性を発揮させるものであり、さらに被膜を形成するための塗布剤を基材に塗布した際の膜厚偏差を均一化するレベリング工程を短縮化させることに奏功する。加えて、被膜に吸収された水を脱水する速度を早くすることにも奏功していると考えられる。
さらに、本発明の多面取り用防曇性ガラス基材では、前記した被膜の吸水飽和時の吸水率を10重量%以上、40重量%以下、好ましくは15重量%以上、35重量%以下とすることにより、防曇性と被膜の耐久性との両立、そして折割の効率向上を図っている。
吸水率の好適範囲として、該範囲とした理由は、10%重量未満では、防曇性発現に効果が少なく、40重量%超では、被膜のべたつき感が大きくなる、被膜の強度が低下する等の問題が生じるからである。
被膜のべとつき感が大きくなり、被膜の強度が低下すると、防曇性ガラス基材の割断時に発生するガラス片が膜表面に付着した場合、除去が難しくなる。また、払拭時にガラス片が膜表面を擦りつけるため、擦り傷が発生する。このため、防曇性ガラス基材を割断するときの取扱いが難しくなり、防曇性物品の生産効率が低下する。
本発明では、ウレタン樹脂を、平均分子量400〜5000のポリオキシアルキレン系ポリオールも用いて形成することで、被膜の吸水率を前記した範囲とすることが好ましい。
ポリオキシアルキレン系ポリオールは、被膜となったときに主として被膜に吸水性の機能を発揮させることができる。このポリオールには、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等を有するポリオールを使用できる。特にオキシエチレン鎖は、水を結合水として吸収する機能に優れるので、脱水時の脱水速度の速い可逆的な吸脱水を呈する防曇性被膜の達成に有利である。かくして、雰囲気温度が5℃以下となるような冬季等の低温環境での防曇性を考慮するとオキシエチレン鎖を有するポリオールを使用することが好ましい。
前記ポリオキシアルキレン系のポリオールの平均分子量は、400〜5000とするもので、平均分子量が400未満の場合、水を結合水として吸収する能力が低く、平均分子量が5000を超える場合は、塗布剤の硬化不良や膜強度の低下等の不具合が生じやすくなる。被膜の吸水性や膜強度等を考慮すると、該平均分子量は、400〜4500がより好ましい。
特に前記ポリオキシアルキレン系のポリオールが、ポリエチレングリコールの場合、水を吸水する能力、硬化不良や膜強度を考慮すると、平均分子量を400〜2000とすることが好ましい。又、オキシエチレン/オキシプロピレンの共重合体ポリオールの場合、平均分子量を1500〜5000とすることが好ましい。
ポリオキシアルキレン系ポリオールには、複種のポリオールを使用してもよいが、その場合、水を結合水として吸収する能力に特に優れる平均分子量を400〜2000のポリエチレングリコールを必ず使用することが好ましい。該ポリオールは水を結合水として吸収する能力に特に優れるので、ポリオキシアルキレン系ポリオールを全て該ポリオールとしてもよい。
そして、前記した被膜のスリップ性、清掃時等の払拭作業性を考慮すると、前記樹脂がさらに架橋単位としてジメチルシロキサンユニット(Si(CHO)の数が5〜300である直鎖状ポリジメチルシロキサンを有することが好ましい。この場合、該直鎖状ポリジメチルシロキサンは、末端部にウレタン結合が形成されることで樹脂中に導入される。
ここで、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンにおいてジメチルシロキサンユニット(Si(CHO)の数を5〜300としたのは、ジメチルシロキサンユニット数が5未満、又は300超の場合、直鎖状ポリジメチルシロキサンを架橋単位としてウレタン樹脂中に導入することが難しくなるからである。
この理由として次のことが考えられる。ジメチルシロキサンユニット数が5未満の場合、被膜のスリップ性向上に効果が無く、他方、300超の場合、直鎖状ポリジメチルシロキサンのウレタン結合が形成されるべき部位が相対的に低いものとなるため、樹脂形成時に直鎖状ポリジメチルシロキサンが架橋単位として樹脂中に取り込まれなく可能性が高くなり、結果、得られた被膜は、直鎖状ポリジメチルシロキサンが溶出しやすいものとなる。
そして、前記した被膜のスリップ性、清掃時等の払拭作業性の向上させる効果を考慮すると、前記直鎖状ポリジメチルシロキサンは、被膜に対して、重量濃度で0.05〜3.0重量%添加されることが好ましい。
さらに本発明では、被膜の膜厚を、5μm以上80μm以下、好ましくは、10μm〜60μmとすることが好ましい。被膜の吸水量は、膜厚にも依存する傾向があるので、被膜にある程度の吸水量を確保できるようにするためには、その膜厚は5μm以上とすることが好ましい。他方、厚い膜を形成しようとすると、被膜の製造に不利な条件をもたらす。特に、被膜の膜厚が80μmを超えると、外観品質において光学歪みが発生する等の不具合が生じやすくなる。
本発明の多面取り用防曇性ガラス基材は、防曇性被膜が、靭性の小さい防曇性被膜をガラス基材に形成しているので、防曇性ガラス基材を割断するときに、被膜の伸びが小さいために割断時に防曇性被膜が切断しやすくなる。かくして、本発明の多面取り用防曇性ガラス基材は、少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るために割断したとしても、割断不良を抑えることができ、効率的に生産することができる。
本発明の多面取り用防曇性ガラス基材は、ガラス基材とガラス基材上に形成されるウレタン樹脂よりなる防曇性被膜とを有する。そして、防曇性被膜は、例えば、ガラス基材に防曇性膜を形成するための塗布剤を塗布し硬化させることで得られる。該塗布剤は、イソシアネート基を有するイソシアネート成分を有する塗布剤A、ポリオール成分を有する塗布剤Bとからなる2液硬化型の塗布剤よりなるものとすることが好ましい。
イソシアネート成分には、有機ジイソシアネート等の有機ポリイソシアネートで、好ましくは、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット及び/又はイソシアヌレート構造を有する3官能のポリイソシアネートを使用できる。当該物質は、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に対して有効である。又、当該物質以外にも、ジイソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート等も使用することができる。
前記イソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1倍量〜3倍量、より好ましくは1倍量〜2.5倍量となるように調整することが好ましい。1倍量未満の場合は、塗布剤の硬化性が悪化するとともに、形成された膜は軟らかく、耐候性、耐溶剤性、耐薬品性等の耐久性が低下する。一方、3倍量を超える場合は、過剰硬化により、水蒸気の吸脱水が阻害されるために防曇性が低下する。
前記ポリオキシアルキレン系ポリオール量及び前記アクリルポリオール量は、防曇性ガラス基材が容易に割断できるために必要なアクリルポリオールの割合と吸水率が10〜40重量%になるように調整される。例えば、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの場合、重量比で「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=50:50〜70:30、好ましくは、55:45〜65:35」となる成分比とすることが好ましい。
そして、塗布剤A、B、又は、塗布剤AとBとの混合物には希釈溶媒に添加することができる。希釈溶媒としては、イソシアネート基に対して活性のない溶媒にする必要があり、塗布剤A、Bとの相溶性から、酢酸エステル系溶媒、ケトン類、ジアセトンアルコールを使用することが好ましい。該希釈溶媒は、塗布剤A、B総量に対して、重量比で1倍量〜10倍量、好ましくは、1.5倍量〜5倍量とされることが好ましい。
また、塗布剤A、B又は、塗布剤AとBとの混合物には、被膜の硬化速度を速くするために、硬化触媒である有機錫化合物を添加してもよい。該化合物には、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫マーカブチド、ジブチル錫チオカルボキシレート、ジブチル錫ジマレエート、ジオクチル錫マーカブチド、ジオクチル錫チオカルボキシレート等を使用することができる。
さらに、両側末端にイソシアネート基と反応可能な官能基を有する直鎖状ポリジメチルシロキサンを塗布剤B、又は塗布剤Aと塗布剤Bとの混合物に導入することで、被膜中に好適に導入される直鎖状ポリジメチルシロキサンは、被膜を形成する樹脂中の架橋単位として導入することができる。
該イソシアネート基と反応可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフィノ基、スルホ基等の電気陰性度の大きな酸素、窒素、硫黄に結合した活性水素を含む官能基を使用することができる。この中で、取扱いの容易さ、塗布剤としたときのポットライフ、得られる被膜の耐久性を考慮すると、イソシアネート基と反応可能な官能基としてはヒドロキシ基を使用することが好ましい。
またさらには、被膜の耐磨耗性、耐擦傷性を向上させるために被膜には上記した吸水率の範囲内となるようにケイ素化合物を導入してもよい。そのために塗布剤、特には塗布剤Bには、平均粒径が5〜50nmのコロイダルシリカ、アルコキシ基を有するケイ素化合物等を導入してもよい。尚、ここでいう平均粒径は、JIS H 7803(2005年)に準拠した方法で得られたものである。
上記のようにして得られた塗布剤A、Bを混合することで被膜を形成するための塗布剤が得られる。該塗布剤の透明基材への塗布手段としてはスピンコート、ディップコート、フローコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段を採用できる。塗布後、約20℃の室温で放置又は170℃までの熱処理で、基材に塗布された液を硬化させ、基材に防曇性被膜を形成する。この熱処理の温度が170℃を超えると、ウレタン樹脂の炭化が起こり、膜強度が低下する等の不具合が生じやすいので注意を要する。被膜の硬化促進を考慮すると、80℃〜170℃で熱処理を行うことが好ましい。
防曇性被膜を形成するためのガラス基材としては、自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス等、割断が可能な各種ガラス基材を使用できる。
板厚は特には、0.1mm以上10mm以下が好ましく、0.1mm以上5.0mm以下、特には、0.2mm以上3mm以下が好ましい。また、ガラス基材のガラス表面に形成される割断スジは、通常は、防曇性被膜の形成後になされるが、防曇性被膜を形成する前に形成してもよい。
ガラス基材に塗布剤を塗布して被膜を形成する場合、基材と被膜との密着性を向上させるためにシランカップリング剤を有する液を前記塗布剤の塗布前に塗布しておくことが好ましい。適切なシランカップリング剤としてはアミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシランが挙げられる。好ましいのはγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシ、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等である。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例で得られた防曇性被膜に対し、以下に示す方法により品質評価を行った。
〔割断評価〕:100mm×100mmで板厚1.8mmのガラス基材に防曇性被膜を形成し、その防曇性ガラス基材の割断は、ガラス表面にダイヤモンドカッターで傷からなるスジを描き、100mm×50mmに2分割した。防曇性ガラス基材を10枚割断して、2分割できた防曇性ガラス基材が9枚以上のときを合格(○)、それ以下であったものを不合格(×)とした。
〔被膜の膜厚測定〕:試料作製の際に基材の一部にマスキングフィルム(商品名「SPV−400X」日東電工製)を貼付しておき、防曇性物品を作製した後、マスキングフィルムを剥がす。そして、被膜と基材とで形成される段差部分を高精度微細形状測定器(SUREFCORDER ET 4000A 小坂研究所製)で測定することにより、被膜の膜厚を測定した。
〔被膜の吸水率〕:湿度50%、温度55℃の環境で12時間保持後、同湿度にて温度25℃の環境で12時間保持したときの防曇性物品の重量(a)を測定し、被膜に43℃飽和水蒸気を5分間接触させ、その後、すぐに被膜表面の水膜を払拭後に物品の重量(b)を測定し、[b−a]/[a−(ガラス基材の重量)]×100(%)の計算式で得られた値を吸水飽和時の吸水率とした。即ち、吸水率は防曇性被膜の重量に対する吸水可能な水分量を重量百分率で表したものである。尚、ここでの(a)値は、被膜が吸水していない状態のものに相当する。
〔被膜に吸水された水の脱水速度〕:上記のようにして得られた吸水飽和状態の防曇性被膜に関し、湿度50%、温度25℃の環境においたときに上記重量(b)から上記重量(a)までに到達する時間が3分以内のものを水の脱水性に優れる防曇性被膜として合格(○)、これを満たさないものを不合格(×)とした。
〔繰返防曇性〕:"JIS S 4030眼鏡用くもり止め剤試験法"に準拠して43℃に設定した温水からの飽和水蒸気中に1分間保持した時の曇り具合と、保持後に常温(23℃、湿度63%)中に取り出したときの呼気による曇り具合を観察する。この操作を1サイクルとして30サイクル行い、膜の外観に異常がなく曇りが発生しないものを合格(〇)、曇りが発生したものを不合格(×)とした。該評価は防曇性の持続性の指標とすることができる。
〔鉛筆硬度〕:"JIS K 5600 塗料一般試験方法"に準拠して、荷重1kgが負荷された鉛筆で膜表面を5回引っ掻き、膜の破れが2回未満であった鉛筆を鉛筆硬度とした。該鉛筆硬度は耐擦傷性の指標とすることができる。
〔被膜への水滴の接触角〕:被膜への水滴の接触角については、“JISR 3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」”に準拠して測定した。100mm角に切断した試験片を、湿度50%、温度55℃の環境で12時間保持後、同湿度にて温度25℃の環境で12時間保持することで、被膜が吸水されていない状態の試験片とした。該試験片を協和界面化学製接触角計(CA−2型)に設置し、被膜上に2μlの水を滴下させて、水滴の接触角を測定した。又、同試験片の被膜に43℃飽和水蒸気を5分間接触させ、被膜を吸水飽和状態し、該試験片を前記接触角計に設置し、被膜上に2μlの水を滴下させて、水滴の接触角を測定した。
実施例1
(防曇性被膜を形成するための塗布剤の調製)
イソシアネート成分として、ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプポリイソシアネート(商品名「N3200」住友バイエルウレタン製)を塗布剤Aとした。
平均分子量1540のポリエチレングリコール、及び平均分子量3000のアクリルポリオールを50重量%有する溶液(「デスモフェンA450MPA/X」;住化バイエルウレタン社製)を準備し、ポリエチレングリコールとアクリルポリオールの重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=60:40」となるように混合し、これを塗布剤Bとした。
塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、2.0倍量となるように、100gの塗布剤Bに対し、42gの塗布剤Aを添加混合し、ウレタン成分総量が45重量%となるように塗布剤A及び塗布剤Bの混合物に希釈溶媒として2−ブタノンを添加混合し、防曇性被膜を形成するための塗布剤を調製した。
(防曇性ガラス基材の作製)
γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(LS−3150、信越シリコーン社製)を、90重量%のエタノールと10重量%のイソプロピルアルコールからなる変性アルコール(エキネンF−1、キシダ化学社製)で1重量%となるように溶液を調製した。次に該溶液を吸収したセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M−1、50mm×50mm、小津産業製)で、フロート法によって得られた100mm×100mm(3.5mm厚)のガラス基材表面を払拭することで該溶液を塗布し、室温状態にて乾燥後、水道水を用いてワイパーで膜表面を水洗することで、ガラス基材を準備した。
該基材に上記で得られた防曇性被膜を形成するための塗布剤をスピンコートにより塗布し、該被塗布ガラス基材を約100℃で約30分間熱処理することにより、膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。上記方法で得られた防曇ガラス基材は、表1に示すように、割断が容易で、割断されて得られた防曇性ガラス物品は、吸水率、水の脱水性、繰返し防曇性、鉛筆硬度に優れた防曇性ガラス基材であることが確認された。
Figure 2008195553
実施例2
実施例1での塗布剤Bの調製での各成分の重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=50:50」となるように混合し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.8倍量となるように、100gの塗布剤Bへの塗布剤Aの添加混合量を36gとした以外は実施例1と同様の操作を行い膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。上記方法で得られた防曇ガラス基材は、表1に示すように、割断が容易で、割断されて得られた防曇性ガラス物品は、吸水率、水の脱水性、繰返し防曇性、鉛筆硬度に優れた防曇性ガラス基材であることが確認された。
実施例3
実施例1での塗布剤Bの調製での各成分の重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=70:30」となるように混合し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.4倍量となるように、100gの塗布剤Bへの塗布剤Aの添加混合量を28gとした以外は実施例1と同様の操作を行い膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。上記方法で得られた防曇ガラス基材は、表1に示すように、割断が容易で、割断されて得られた防曇性ガラス物品は、吸水率、水の脱水性、繰返し防曇性、鉛筆硬度に優れた防曇性ガラス基材であることが確認された。
実施例4
実施例1でのウレタン成分総量が15重量%である塗布剤A及び塗布剤Bの混合物にジメチルシロキサンユニットの数が7の両末端ヒドロキシ直鎖状ポリジメチルシロキサン(商品名「DMS−S12」アヅマックス製)をウレタン成分総量に対して1.0重量%添加した以外は実施例1と同様の操作を行い膜厚8μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。上記方法で得られた防曇ガラス基材は、表1に示すように、割断が容易で、割断されて得られた防曇性ガラス物品は、吸水率、水の脱水性、繰返し防曇性、鉛筆硬度に優れた防曇性ガラス基材であることが確認された。
実施例5
実施例1での塗布剤Bの調製で、平均分子量1600のアクリルポリオールを75重量%有する溶液(「デスモフェンA575X」;住化バイエルウレタン社製)とし、100gの塗布剤Bへの塗布剤Aの添加混合量を38gとした以外は実施例1と同様の操作を行い膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。上記方法で得られた防曇ガラス基材は、表1に示すように、割断が容易で、割断されて得られた防曇性ガラス物品は、吸水率、水の脱水性、繰返し防曇性、鉛筆硬度に優れた防曇性ガラス基材であることが確認された。
比較例1
塗布剤Bにて、ポリエチレングリコールを使用しないでアクリルポリオールのみを使用し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、2.0倍量となるように、100gの塗布剤Bに対し、40gの塗布剤Aを添加混合量した以外は実施例1と同様の操作で行い、膜厚75μmの被膜が形成された物品を得た。得られた防曇性ガラス基材は、表1に示すように、割断は容易であったが、防曇性を全く示さないものであった。
比較例2
塗布剤Bにて、アクリルポリオールを使用しないでポリエチレングリコールのみを使用し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.4倍量となるように、100gの塗布剤Bに対し、33gの塗布剤Aを添加混合した以外は、実施例1と同様の操作を行い、膜厚50μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。得られた物品は、表1に示すように、割断が困難で、膜表面には、べとつき感があった。また、〔被膜に吸水された水の脱水速度〕試験において、水が脱水されるまで、6分間要し吸脱水の応答性の悪い物品でもあった。
比較例3
実施例1での塗布剤Bの調製での各成分の重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=80:20」となるように混合し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.8倍量となるように、100gの塗布剤Bへの塗布剤Aの添加混合量を38gとした以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。得られた基材は、表1に示すように、割断が困難で、膜表面には、べとつき感があった。また、〔被膜に吸水された水の脱水速度〕試験において、水が脱水されるまで、6分間要し吸脱水の応答性の悪い物品でもあった。
比較例4
実施例1での塗布剤Bの調製での各成分の重量比が「ポリエチレングリコール:アクリルポリオール=25:75」となるように混合し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、1.6倍量となるように、100gの塗布剤Bへの塗布剤Aの添加混合量を35gとした以外は実施例1と同様の操作を行い、膜厚75μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。得られた基材は、表1に示すように、割断は容易であったが、吸水率が低く、防曇性に劣るものであった。
比較例5
実施例1での塗布剤Bの調製で、アクリルポリオールの代わりに疎水性を呈するポリオールとして平均分子量500のポリカプロラクトンジオール(商品名「プラクセルL205AL」ダイセル化学工業製)を使用し、各成分の混合比を「ポリエチレングリコール:ポリカプロラクトンジオール=60:40」となるように混合し、塗布剤Aのイソシアネート成分に存在するイソシアネート基の数を、塗布剤B中のポリオール成分に存在する水酸基の数に対して、2.0倍量となるように、100gの塗布剤Bに対し、45gの塗布剤Aを添加混合量した以外は実施例1と同様の操作で行い、膜厚50μmの防曇性被膜が形成された防曇性ガラス基材を得た。得られた物品は、表1に示すように、割断が困難で、〔被膜に吸水された水の脱水速度〕試験において、水が脱水されるまで、5分間要し吸脱水の応答性の悪い物品でもあった。

Claims (7)

  1. 少なくとも2枚の防曇性ガラス物品を得るための多面取り用防曇性ガラス基材であり、該防曇性ガラス基材は、ガラス基材とガラス基材上に形成される防曇性被膜とを有し、該被膜は吸水率が10〜40重量%のウレタン樹脂よりなり、該ウレタン樹脂は、少なくとも平均分子量1000〜4000のアクリルポリオールを用いて形成されることを特徴とする防曇性ガラス基材。
  2. ウレタン樹脂が、平均分子量400〜5000のポリオキシアルキレン系ポリオールを用いて形成されることを特徴とする請求項1に記載の防曇性ガラス基材。
  3. ポリオキシアルキレン系ポリオールが、平均分子量が400〜2000のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項2に記載の防曇性ガラス基材。
  4. 前記樹脂がさらに架橋単位としてジメチルシロキサンユニット(Si(CHO)の数が5〜300である直鎖状ポリジメチルシロキサンを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3にいずれかに記載の防曇性ガラス基材。
  5. 被膜の膜厚が5〜80μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の防曇性ガラス基材。
  6. ガラス基材のガラス表面がガラスカッター又はレーザーで形成された線を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の防曇性ガラス基材。
  7. 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防曇性ガラス基材を用いる防曇性ガラス物品の製法であり、折割工程を有することを特徴とする防曇性ガラス物品の製法。
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