具体的な例として、鋳肌仕上げの車両用ホイールにおけるホイールバランスの崩れの問題が挙げられる。
軽合金製車両用ホイールでは、軽合金の光輝性を強調した切削光輝仕上げは美しいものであるが、独特の表面状態を呈することから、鋳型で形成される鋳肌を全部又は一部に残した鋳肌仕上げも審美的である。
一方、車両用ホイールを鋳造法で作製すると、真円にはならないので、鋳造して得られる鋳造品では、一般にホイールバランスは完全には取れていない。しかし、タイヤを取り付けた車両用ホイールには回転したときに遠心力が生じるので、ホイールバランスが崩れていると、回転数が上昇することによって大きな振動が発生してしまう。そこで、多くの場合、振動発生を防止するため、バランスウエイト(後付バランサ)を取り付けてホイールバランスをとる、という処置がなされる。ところが、後付バランサを取り付けると、意匠性が低下する(見た目、格好が悪い)ので、これを行いたくないというデザイナーの要望がある。
これに対し、切削(機械加工)を施してホイールバランスをとる(重量のバランスをとる)ことは可能であるが、軽合金を切削すると光輝面となるため、鋳肌仕上げのよさが失われてしまう。従って、後付バランサを付さなくてもバランスがとれていて、意匠性に優れた鋳肌仕上げの車両用ホイールは存在しない、というのが現状である。
又、軽合金製車両用ホイールでは、リム径を1サイズ大きくみせ愛車を格好よくする効果を有することから、いわゆるラウンドリムタイプの車両用ホイール(ラウンドリムホイール)の人気が高い。このような事情により、好ましい車両用ホイールのデザインとして、鋳肌仕上げのラウンドリムホイールという一類型が存在する。
ところが、ラウンドリムホイールは、リムを滑らかにラウンドさせたものであることから、ラウンドさせたリムの一部が厚肉になりがちである。そのため、必然的に、ホイールバランス(重量バランス)の崩れは、ラウンドリムタイプでないものより大きくなり易い。従って、意匠性を考慮し、後付バランサを付さないようにするには、必ず切削(機械加工)を施す必要があり、鋳肌仕上げのものとしては、後付バランサが付いていなくてホイールバランスがとれているラウンドリムホイールは実現困難なものと思われており、現に存在していない。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バランスウエイトを取り付けなくともホイールバランスがとれていて意匠性に優れている、鋳肌仕上げの車両用ホイールを提供することにある。研究が重ねられた結果、以下に示す手段によって、上記目的が達成されることが見出された。
即ち、先ず、本発明によれば、軽合金材料を用い鋳造法によって車両用ホイールの形状に成形してホイール成形品を得て、そのホイール成形品のデザイン面に機械加工を施してホイールバランスをとった後に、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に比重が2以上10以下で径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を上下方向に揺動をさせ、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に加工材の衝突をさせる、という工程を含む、鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法が提供される。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法においては、(車両用ホイールが)ラウンドリムホイールであることが好ましい。
デザイン面に閉空間を形成し、という態様には、閉空間を形成する面の一部がデザイン面である場合と、閉空間の中にデザイン面が存在するように当該閉空間が形成される場合と、がある。
次に、本発明によれば、デザイン面が、縁を含めて滑らかに形成された凹部が連続して存在する鋳肌仕上げ面であり、動不つり合い量が、70g以下(0〜70g)である鋳肌仕上げ車両用ホイールが提供される。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールにおける鋳肌仕上げとは、面を、人工的に、外見上、鋳放し状態の表面(鋳肌面)に似せた面とする仕上げを意味し、鋳肌仕上げが施された面を、鋳肌仕上げ面という。
より好ましい動不つり合い量は、50g以下である。換言すれば、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールは、(例えばクリップ式の)後付バランサ(バランスウエイト)が付かずに、概ねホイールバランスがとれている車両用ホイールである、ということが出来る。本明細書において、(ホイール)バランスがとれているとは、動不つり合い量が小さく、一定範囲内であることを意味し、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールでは、既述の通り、その動不つり合い量が70g以下(0〜70g)になっている。
本明細書において、動不つり合い量は、自動車技術会規格JASO C614:2004、附属書1、ディスクホイールの動不つり合い量の測定方法により測定されるものとする。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールは、軽合金材料を用い鋳造法によって車両用ホイールの形状に成形してホイール成形品を得て、そのホイール成形品のデザイン面に機械加工を施してホイールバランスをとった後に、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に、比重が2以上10以下で径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材の衝突をさせる、という工程を経て製造されたモノであることが好ましい。この場合において、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールは、上記工程において、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を上下方向に揺動をさせることによって、機械加工が施されたデザイン面に、加工材の衝突をさせたものであることが好ましい。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールは、(車両用ホイールが)ラウンドリムホイールであることが好ましい。
ラウンドリムホイールの語は、車両用ホイールの業界では、日常的に使用されている。本明細書にいうラウンドリムホイールも、通常、認識されるそのラウンドリムホイールである。但し、ラウンドリムホイールについて公の定義は存在しないようである。そこで、本明細書におけるラウンドリムホイールとは、リムと、スポークタイプのディスクと、からなる車両用ホイールであって、(ディスクを構成する)スポークの間の窓部(空間)を通して見えるリムの縦壁部分がラウンドしている(曲面を構成している)車両用ホイールを指すものとする。ラウンドリムホイールでは、上記リムの縦壁部分がラウンドすることによって、ディスクを外側から(デザイン面側から)見たときに、アウターリムフランジの輪郭が細くなっている。そのため、ラウンドリムホイールは、そうでないホイールと比して、ディスクの(例えば)スポークがアウターリムフランジの外郭ぎりぎりまで伸びたようになり、リム径を1サイズ大きくみせる視覚的効果(意匠的効果)を有する。そのため、ラウンドリムホイールは、デザイナーに好んで採用されるホイールデザインである。
一般に、ラウンドリムホイールでは、強度確保の観点から、ラウンドさせた上記リムの縦壁部分が、他の部分と比して相対的に厚肉になり易く、既述のように、ホイールバランスが大きく崩れ易い。ところが、ラウンドリムホイールでは、そのデザイン上、クリップ式のバランスウエイトを取り付けることが出来ない。本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの好ましい態様は、鋳肌仕上げであって、クリップ式のバランスウエイトが付かない、デザイナーが好むラウンドリムホイールである。
本明細書において、ホイール成形品のデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に比重が2以上10以下で径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を上下方向に揺動をさせ、機械加工が施されたホイール成形品のデザイン面に加工材の衝突をさせる、という処理(工程)を、表面層加工処理という。表面層とは、表面と表層の両方を含む概念である。又、表層とは、表面を除き、表面側の近傍の(車両用ホイールの)実体部分を指す。
車両用ホイールの形状に成形して得られるホイール成形品は、鋳肌仕上げ車両用ホイールの前駆体(のちに鋳肌仕上げ車両用ホイールになるもの)である。
軽合金材料とは、鋳造用のアルミニウム合金、マグネシウム合金等を指し、アルミニウム合金としては、日本工業規格(JIS)に基づくAC4C、AC4CH、AC4B、AC4D、AC2A、AC2B、AC3A等を例示することが出来る。マグネシウム合金としては、AZ91、AM60等を例示することが出来る。
鋳造法とは、例えば軽合金材料を用い、これを熱して溶湯にして鋳型に流し込み冷却して固化させる加工方法であり、重力鋳造法、低圧鋳造法、スクイーズ法等を例示することが出来る。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法は、軽合金材料を用い鋳造法によって車両用ホイールの形状に成形してホイール成形品を得て、そのホイール成形品のデザイン面に機械加工を施してホイールバランスをとった後に、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に比重が2以上10以下で径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を上下方向に揺動をさせ、ホイール成形品の機械加工が施されたデザイン面に加工材の衝突をさせる、という工程を含むので、ホイールバランスがとれており、且つ、鋳肌仕上げになっていて、デザインのよさが失われていない鋳肌仕上げ車両用ホイールを得ることが可能である。
機械加工を施したホイール成形品のデザイン面は、加工後には平らな面になってしまう場合があり、少なくとも鋳肌感が維持されることはないが、そのような面に対し、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材の衝突をさせることによって、一見して鋳肌面のような鋳肌仕上げ面が現される。従って、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法によれば、厚肉な部分があるラウンドリムホイールであってもホイールバランスはとられており、外見的に見れば鋳放し状態に似た車両用ホイールを作製することが出来る。
特に、ラウンドリムホイールというデザインを採用する場合には、強度確保の観点から、リムを厚肉にせざるを得ない場合があった。又、魅力的なデザインを追求すべくリムにラウンドした肉盛感を表現すると、どうしても当該部分が厚肉になってしまいがちであった。そうなると、ホイールバランスの崩れが大きくなり、バランスウエイトの取り付けをせずに、これを修正するには、切削加工をせざるを得ず、鋳肌仕上げの製品を得ることは困難であった。本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法によれば、ラウンドリムホイールというデザインを採用する場合であっても(勿論、そうでなくても)、後付バランサを付けずに、少なくとも一定の範囲内にホイールバランスをおさめることが可能であり、許容出来ないアンバランスなホイールは少なくなり、不良率を低減することが出来る。
ところで、公知の表面加工技術としてショットピーニング処理が知られている。このショットピーニング処理では、処理後の表面は荒れてしまい、鋳肌仕上げと呼べる状態にはならない。鋳肌仕上げが得られるのは、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法が、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を衝突させているからである。
本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法は、機械加工が施されたホイール成形品のデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に上記加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を上下方向に揺動をさせることによって、デザイン面に加工材の衝突をさせている。そのため、得られる車両用ホイールのデザイン面に現される面は、常に安定して、鋳型で成形された直後の鋳放し状態に似た鋳肌仕上げとなる。ホイール成形品を上下方向に揺動をさせず、例えば水平方向に揺動をさせると、加工材の衝突位置が、重力によって、どうしてもデザイン面の一部に集中し易くなる。そのため、機械加工を施したデザイン面に対し、均一には、加工材が衝突しないおそれが高まり、鋳放し状態に似た鋳肌仕上げが得られ難い場合がある。本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法によれば、このような問題は生じない。ホイール成形品を上下方向に揺動をさせることによって、デザイン面に加工材の衝突をさせるから、デザイン面が水平になるように位置決めして、ホイール成形品を上下方向に揺動をさせることが好ましい。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールについて説明する。本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールは、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造法によって得ることが可能なものである。図1及び図2は、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの一の実施形態を示す図である。図1は鋳肌仕上げの車両用ホイールの平面図であり、ディスクを表した図である。図2は図1におけるCC断面を示す断面図であり、リムを表した図である。図1及び図2に示される車両用ホイール22は、インナーリム92及びアウターリム93を含むリムと、スポークタイプのディスク94と、を有している。
車両用ホイール22は、ラウンドリムホイールであり、リムのうちアウターリム93において、ディスク94のスポークの間の窓部(空間)を通して見える(リムの)縦壁93aが、内側から外郭に向けて滑らかにラウンドしていて、アウターリム93の(フランジ部分の)輪郭の幅Wは細くなっている。このため、車両用ホイール22は、ディスク94のスポークが、ディスク94の表面側(デザイン面側、アウター側)では、アウターリム93の外郭ぎりぎりまで伸びたようになっており、リム径を1サイズ大きくみせる視覚的効果を発現している。尚、本明細書において、インナーリム及びアウターリムというとき、フランジ部分のみならず、ビードシートまで含めた部分を指すものとする(図2を参照)。
車両用ホイール22は、(例えば)AC4CHアルミニウム合金材料(日本工業規格)を主原料として用いて、(例えば)低圧鋳造法によって、ラウンドさせた縦壁93aを形成した車両用ホイールの形状に成形し、車両用ホイール22の前駆体であるホイール成形品を得て、そのホイール成形品の縦壁93aの表面を含むデザイン面に機械加工を施してホイールバランスをとった後に、機械加工が施されたホイール成形品のデザイン面に閉空間を形成し、その閉空間に径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材を投入し、その加工材を投入した閉空間が形成されたホイール成形品を、好ましくは閉空間を形成したデザイン面を概ね水平にして、上下方向に揺動をさせ、機械加工が施されたホイール成形品の縦壁93aの表面を含むデザイン面に加工材の衝突をさせる、という工程を経て、製造されたものである。製造に際しては、ショットピーニング処理に使用されるショット材より大きな加工材が使用され、これが、機械加工後のホイール成形品の表面(縦壁93aの表面を含むデザイン面)に衝突をすることによって、その表面(縦壁93aの表面を含むデザイン面)を、鋳放し状態と外見的に同等な状態にする。
車両用ホイール22では、ラウンドさせた縦壁93aは、他の部分と比して相対的に厚肉になっている。このため、鋳型で成形して得られたホイール成形品(車両用ホイール22の前駆体)の段階では、全体としてホイールバランスが崩れ易い。しかし、車両用ホイール22は、ホイール成形品に対し、その縦壁93aの表面を含むデザイン面に研磨、研削、切削等の機械加工を行い、更に表面層加工処理を施してなるものであるため、ホイールのアンバランス量が(動不つり合い量)が小さくなっており(改善されており)、且つ、既述の通り縦壁93aの表面を含むデザイン面は鋳放し同様の面状態になっている。
次に、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法について、具体的に説明する。図6A、図6B、図6Cは、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールの製造方法の工程の一の実施形態を示す図である。図6Aは鋳造法で成形されたホイール成形品の段階であり、図6Bはホイール成形品に機械加工を施した後の段階であり、図6Cはホイール成形品に表面層加工処理を施している段階であり、図6A、図6B、図6Cには、それぞれにおけるデザイン面における表面及び表層の一部分の断面が表されている。尚、ホイール成形品は、車両用ホイール22の前駆体であるから、ホイール成形品についての説明においても、各部分の符号として車両用ホイール22と同じものを付すこととする。スケールが異なる図9及び図10は、表面層加工処理を施し鋳肌仕上げとなった、ホイール成形品のデザイン面の写真である。表面層加工処理は、径がφ3mmの球状体からなる加工材を使用して2分間行ったものである。スケールが異なる図11及び図12も、表面層加工処理を施し鋳肌仕上げとなった、ホイール成形品のデザイン面の写真である。この表面層加工処理は、径がφ3mmの球状体からなる加工材を使用して1分間行ったものである。スケールが異なる図13及び図14は、表面層加工処理を施す前の鋳肌面である、ホイール成形品のデザイン面の写真である。スケールが異なる図15及び図16は、機械加工を施した、ホイール成形品のデザイン面の写真である。
図6Aに示されるように、鋳造法によって成形されたホイール成形品の段階では、縦壁93a(の表面)は、凸部(突部、出っ張り)を有する鋳肌面となっている(併せて、図13及び図14を参照)。図6Aには、併せて、鋳造欠陥が存在する様子が示されており、アウターリム93の表層14には気孔11が存在していることが多い。
図6Bに示されるように、ホイール成形品に機械加工を施した段階では、リムの縦壁93a及び表層14が削られるため、(新たな)縦壁93aは平らな面となってしまい、鋳肌面ではなくなっている(併せて、図15及び図16を参照)。このホイールバランスをとった後の段階でも、気孔11は存在している。
表面層加工処理については、図6Cに加えて、図7を参照して説明する。図7には、ホイール成形品のディスク94のデザイン面に袋状の容器21が取り付けられ、併せて、ディスク94は窓部(空間)を有するスポークタイプであることから、ディスク94のデザイン面(ディスク94の図7中の下側の面)とは反対側に蓋板23が取り付けられ、これらによって、閉空間26が形成され、その閉空間26に加工材25が収容されている様子が描かれている。このように、袋状の容器21及び蓋板23を取り付け、閉空間26を形成し、加工材25を投入し、デザイン面が水平になるようにして(図7の状態にして)、ホイール成形品を上下方向に揺動をさせれば、図6Cに示されるように、加工材25は、閉空間26の中で往復運動して、ディスク94のデザイン面に衝突をするとともに、ディスク94は窓部(空間)を有するスポークタイプであることから、縦壁93a(の表面)にも衝突をする。そして、リムの縦壁93aは、図6Bに示される平らな面から、外見的に鋳肌面に似た、凹部を有する鋳肌仕上げ面となる(図6Cを参照、併せて図9〜図12を参照)。この表面層加工処理が施された後の段階では、ホイール成形品に生じていた鋳造欠陥(気孔11)が潰されているという副次的効果も得られる。
鋳肌仕上げ面は、人工的に、外見上、鋳放し状態の表面(鋳肌面)に似せた面に仕上げられた面である。図9及び図11を、図15と対比させながら、図13と比較することで理解出来るように、鋳肌仕上げ面は、機械加工面とは明らかに異なるが、人間の視覚を通じて見ると、鋳肌面に等しいと感じさせる面になっている。しかし、拡大した図10及び図12を、拡大した図16と対比させながら、拡大した図14と比較することで理解出来るように、鋳肌仕上げ面は、機械加工面とは全く異なる面であり、厳密には鋳肌面とも異なる面である。鋳肌面は、鋳造材料が縮みながら結晶成長することで形成されるため、凸部(突部、出っ張り)で構成される面になっている(図14を参照)。これに対し、鋳肌仕上げ面は、加工材の衝突の連続によって形成された面であるため、凹部が連続して存在する面であるといえる。凹部とは、ゴルフボールのディンプルのようなものであるが、ゴルフボールのディンプルが、型で不連続に形成されることから、一定形状であり、球面との間に角が生じ、滑らかではないのに対し、鋳肌仕上げ面は、加工材の衝突の連続によって形成されているので、不定形状であり、縁を含めて滑らかなものとなっている。
尚、縦壁93aのみに研磨、研削、切削等の機械加工を行った場合には、図8に示されるように縦壁93aのみに表面層加工処理を施してもよい。図8には、ホイール成形品のリムのラウンドした縦壁93aに、袋状の容器121が取り付けられて閉空間126が形成され、その閉空間126に加工材25が収容されている様子が描かれている。このように、袋状の容器121を取り付け、閉空間126を形成し、加工材25を投入し、リムの縦壁93aが水平になるようにして(図8の状態にして)、ホイール成形品を上下方向に揺動をさせれば、加工材25は、容器121と、リムの縦壁93aと、で形成された閉空間126の中で往復運動して、縦壁93aに衝突をする。このような処理を、リムのラウンドした縦壁93aの全て(全周)に施す。このようにして、縦壁93aを、機械加工された平らな面から、外見的に鋳肌面に似た、凹部を有する鋳肌仕上げ面にすることが出来る。
表面層加工処理を施すのに用いる加工材25は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が少なくとも含まれるものである。径がφ1.5mm未満φ8mm超の場合には、表面に形成される凹部が、視覚的に鋳放し状態とは全く異なり、似たものではなくなってしまい、鋳肌仕上げとして好ましくない。加工材25は、径がφ1.5mm以上φ8mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の70体積%以上を占めるものであることが、より好ましい。
加工材25としては、例えば金属球又はセラミック球を含むものが好ましく採用される。金属球又はセラミック球を単独で用いてもよく混合して用いてもよい。金属球として鋼球、ステンレス球が例示され、セラミック球としてジルコニア球、アルミナ球が例示される。比重、硬度、コストの観点より、より好ましい金属球は鋼球であり、より好ましいセラミック球はジルコニア球である。加工材25の比重は2以上10以下であり、好ましくは、比重が5以上10以下である。
加工材25の投入量は、閉空間26,126を形成する容器21,121の容積に対し、体積比で概ね5%以上30%以下であることが好ましい。加工材25が、閉空間26,126の中で、自由に動き、加工材25の衝突回数が確保されることを担保するためである。5体積%未満では、加工材25は閉空間26,126の中で自由に動くもの、加工材25が少なすぎる結果、加工材25の衝突回数及び加圧力が確保されずに、デザイン面及び縦壁93a(の表面)(ホイールバランスをとるために機械加工を施した面であって、加工材25の衝突によって外見的に鋳肌面に似た凹部を形成すべき面、以下同じ)に外見的に鋳肌面に似た凹部を形成するのに多くの時間を要し、好ましくない。30体積%より多いと、加工材25が閉空間26,126の中で自由に動く範囲が限定され、加工材25の衝突回数及び加圧力が確保されずに、同じくデザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成するのに多くの時間を要することとなり、好ましくない。
次に、表面層加工処理を行う際の揺動条件について説明する。本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールを得るための、好ましい揺動条件は、以下の通りである。
上下方向の揺動における振動数は、概ね3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。より好ましい振動数は5Hz以上20Hz以下であり、特に好ましい振動数は8Hz以上15Hz以下である。加工材25の単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。振動数が3Hz未満では、加工材25の衝突回数が確保されず、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成することが出来ず、好ましくない。又、加工材25の数にもよるが、振動数が30Hzより多くても、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成するのにかかる時間に大差はないので、振動数を上げるために費やすエネルギー対効果は低下するため、好ましくない。尚、本明細書において、振動数とは時間あたり繰り返される揺動の回数を指し、単位はヘルツ(Hz)である。
又、上下方向に揺動をさせる場合の揺れ幅は、概ね10mm以上120mm以下であることが好ましい。より好ましい揺れ幅は20mm以上100mm以下であり、特に好ましい揺れ幅は30mm以上80mm以下である。閉空間26,126の中での加工材25の移動範囲を適切に設定することを通して、加工材25の単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。揺れ幅が10mm未満では、加工材25の衝突回数が確保されず、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成するのに多くの時間を要し、好ましくない。又、揺れ幅が120mmより大きくても、加工材25の衝突回数は増加せず、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成する効果は大きくはない。尚、閉空間26,126は、その鉛直方向の長さ(閉空間高さ)が30〜200mmとなるように形成することが望ましい。
更には、上下方向に揺動をさせる場合の延べ揺動時間は、概ね10秒以上3分以下であることが好ましい。より好ましい揺動時間は20秒以上2分以下である。加工材25の延べ衝突回数を確保するためである。延べ揺動時間が10秒未満では、加工材25の延べ衝突回数が確保されず、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成することが出来ず、好ましくない。又、延べ揺動時間が3分より多くても、デザイン面及び縦壁93aに外見的に鋳肌面に似た凹部を形成する効果は小さく、時間対効果は向上しないため、好ましくない。
次に、本発明に係る鋳肌仕上げ車両用ホイールである車両用ホイール22を得るために表面層加工処理を行うに際し使用される揺動装置について説明する。図3は、揺動装置の一例を示す上面図であり、図4は、図3におけるA矢視図(正面図)であり、図5は、図3のB矢視図(右側面図)であって、振動抑制用錘24を除いて、揺動機構(後述する)を視た図である。このような揺動装置2を用いて、アウターリム93のラウンドした縦壁93aに袋状の容器21を取り付けて閉空間26を形成し、その閉空間26に加工材25を投入した、車両用ホイール22の前駆体であるホイール成形品(被揺動体という)を、図7に示される態様・方向のまま、揺動板42の上に固定し、図4及び図7における上下方向に、揺動させることが可能である。
図3〜図5に示される揺動装置2では、揺動にかかる動力は、原動機36により与えられる。原動機36で生じた回転運動が、伝導部材であるベルト35により回転軸40に伝わり、これを回転させ、その回転軸40の回転運動は、それに備わるクランク38によって往復運動に変換される。そして、クランク38とコンロッド41を介し接続される揺動板42が、直線運動案内器として設けられた4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに沿って、上下方向(鉛直方向)に、直線状の往復運動を行い、この揺動板42の往復運動によって、揺動板42の上に固定された被揺動体は、上下方向に揺動をする。回転軸40に備わるもう1つのクランク39には、カウンターウエイト32が取り付けられており、揺動板42の往復運動及び被揺動体の揺動にともなって発生する悪振動を打ち消し抑制する。
揺動装置2では、原動機36、回転軸40(クランク38,39)、コンロッド41、揺動板42、リニア軸受け43a,43b,43c,43d(直線運動案内器)、及びカウンターウエイト32を有する揺動機構は、台板33を介して基台53の上に載置されている。即ち、揺動機構は、台板33の上にまとめて載置され、更に、その台板33が、基台53の上に載置されている。そして、基台53の下には、防振のために4つの空気ばね31が備わり、基台53の上には、空気ばね31の真上に2つの振動抑制用錘24が備わっている。揺動装置2では、1つの振動抑制用錘24は、2つの空気ばね31と対応して設けられている。
台板33には2つの軸受45が取り付けられ、回転軸40は、この2つの軸受45により、台板33と平行に、回転自在に取り付けられる。そして、回転軸40は、ベルト35を介して原動機36(の回転軸)と接続される。具体的には、原動機36(の回転軸)に設けられたプーリー37と、回転軸40に設けられたプーリー34と、をベルト35で接続して、原動機36で生じた回転運動を、回転軸40へ伝達する。インバータによる原動機36の回転制御と併せて、これらプーリー34,37の径等を変更することによって、回転軸40の回転数を制御することが出来る。そして、この回転数の制御によって、揺動板42の往復運動(即ち被揺動体の揺動)にかかる揺動数(振動数)を制御することが可能である。
被揺動体が載せられ固定される揺動板42は、使い勝手がよく応用性に優れた平板として構成されており、4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに、移動自在に取り付けられている。リニア軸受は直線運動案内器の1つであり、往復運動を行う揺動板の案内に、例えば玉やころを用いた軸受である。
回転軸40には、2つのクランク38,39が180°反対方向を向いて備わっている。そして、クランク38はコンロッド41を介して揺動板42と接続され、一方、クランク39にはカウンターウエイト32が取り付けられている。このようなクランク38,39の態様により、原動機36の与えた回転運動は、クランク38に接続された揺動板42の、上下方向の往復運動に変換され、揺動板42に固定された被揺動体が、悪振動を抑えつつ、上下方向に揺動をする。そうすると、その揺動によって、被揺動体において、加工材25が、デザイン面及び縦壁93a(の表面)に衝突をし、機械加工によって、一度、平らな面になったそれらの面に、外見的に鋳肌面に似た凹部を形成する。
尚、揺動装置2は、鋼板を加工し市販の各部材と組み合わせて作製することが出来るが、作製にあたっては、揺動条件及び処理対象である車両用ホイールの仕様に合わせて、各構成要素のサイズや材料や機械的強度(例えば回転軸の径や材料等)が適正になるように決定することが好ましい。
2 揺動装置、11 気孔、14 表層、21,121 容器、22 (鋳肌仕上げ)車両用ホイール、23 蓋板、24 振動抑制用錘、25 加工材、26,126 閉空間、31 空気ばね、32 カウンターウエイト、33 台板、34,37 プーリー、35 ベルト、36 原動機、38,39 クランク、40 回転軸、41 コンロッド、42 揺動板、43a,43b,43c,43d リニア軸受、45 軸受、53 基台、92 インナーリム、93 アウターリム、93a (リムの)縦壁、94 ディスク。