本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、軽合金製品に対し、部分的に機械的性質を高め得る手段を提供することにある。
検討がなされた結果、本出願人が開発した鋳物の硬化方法(特許文献1を参照)を応用することによって、軽合金製品の一部分の機械的性質を高められるのではないかとの考えに至り、これを試みた。この鋳物の硬化方法は、鋳物の表面に硬化材を衝突をさせることによって、鋳物(鋳造品)の表面側に、ショットピーニング処理による塑性変形層より厚い緻密層を形成し得る手段であり、この手段によれば、鋳造品に所望の機械的性質を付与することが可能である。
ところが、車両用ホイールのインナーリムの一部分に対し、その部分の疲労強度を高めるべく、鋳物の硬化方法の適用を試みたところ、効率よく一部分の表面に硬化材を衝突をさせることは困難である、という現実に直面した。
即ち、本出願人の開発した鋳物の硬化方法では、鋳造品の表面に硬化材の衝突をさせるために、鋳造品を硬化材とともに水平方向に揺動をさせるが(揺動装置については特許文献1及び特許文献2を参照)、車両用ホイールのインナーリムの更に一部分のみの機械的性質を高めるためには、機械的性質を高める対象部分以外に硬化材が衝突しないような処置を施さなければならず、煩雑で長時間を要し、そのままでは量産工程に適用出来ない、という改善すべき課題に直面したのである。
一方、ショットピーニング処理は、軽合金製品の一部分に対して行い易い処理であるといえ、処理を行わない場合と比較すれば疲労強度の向上は実現される。しかし、ショットピーニング処理は、製品の概ね表面だけを処理するに止まるので、疲労強度の改善にかかる効果は限定的である。
そこで、更に、軽合金製品の一部分の機械的性質を高めることが出来、量産工程に適する手段を求めて研究が重ねられ、以下に示す本発明を完成するに至った。
先ず、本発明によれば、軽合金製品の一部分の表面層を加工するために用いられる治具であって、1以上の開口を有する袋状の容器と、その容器に収容された、比重が2以上であり径がφ1.5mm以上の球状体又は多面体を少なくとも含む加工材と、1以上の開口が軽合金製品の一部分の表面で閉じられるように容器を軽合金製品に固定するための取付手段と、を有する軽合金製品加工用治具が提供される。
本明細書において、表面層とは表面及び表層を意味し、単に表層という場合には表面を除き、表面の近傍を示すものとする。表面層を加工する、表面層加工、又は表面層加工処理というとき、表面に加工材を衝突させ、表面層を含む軽合金製品の一部分の機械的性質を高めることを意味する。鋳造製品の場合には、表面層加工処理によって、表面層に存在し得る微小欠陥は修復又は封孔される。加工材について、正多面体ではない場合の多面体の径は、多面体の中心を通り多面体の外面と外面とを結ぶ距離の最大値と最小値の平均とする。
又、本明細書において、軽合金とは、鋳造用又は鍛造用の軽合金のことを指す。即ち、軽合金製品は、軽合金鋳造製品又は軽合金鍛造製品である。具体的な軽合金は、アルミニウム合金、マグネシウム合金等である。更に、アルミニウム合金としては、日本工業規格(JIS)に基づくAC4C、AC4CH、AC4B、AC4D、AC2A、AC2B、AC3A等を例示することが出来る。マグネシウム合金としては、AZ91、AM60等を例示することが出来る。
容器を軽合金製品に固定するための取付手段としては、例えば、ボルト締め、クランプ締めが挙げられる。
本発明に係る軽合金製品加工用治具においては、加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の70体積%以上を占めることが好ましい。より好ましくは、加工材に占める径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体の割合は、加工材全体の80体積%以上100体積%以下であり、更に好ましくは、90体積%以上100体積%以下である。又、加工材の径はφ5mm以上φ8mm以下であることが好ましい。更に、加工材の比重は、好ましくは2〜10であり、より好ましくは5〜10である。
本発明に係る軽合金製品加工用治具においては、加工材が、少なくとも金属材料又はセラミック材料からなるものを含むことが好ましい。
本発明に係る軽合金製品加工用治具においては、加工材が、少なくとも鋼球又はジルコニア球を含むことが好ましい。
次に、本発明によれば、上記した何れかの軽合金製品加工用治具を使用し、その軽合金製品加工用治具の開口が、軽合金製品の一部分の表面で閉じられるように、容器を軽合金製品に固定し、その容器を固定した軽合金製品の揺動をさせて、加工材を軽合金製品の一部分の表面に衝突をさせる軽合金製品の表面層加工方法が提供される。
軽合金製品の揺動の方向としては、上下方向(鉛直方向)、水平方向が例示される。
本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法においては、揺動にかかる振動数が、3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。
本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法においては、揺動にかかる揺動時間が、10秒以上3分以下であることが好ましい。より好ましい揺動時間は、10秒以上3分未満である。
本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法は、(加工対象である)軽合金製品が、鋳造製品(鋳造法によって製造された製品)である場合に好適に用いられる。
本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法は、(加工対象である)軽合金製品が、車両用ホイールである場合に好適に用いられる。
本発明に係る軽合金製品加工用治具は、1以上の開口を有する袋状の容器と、その容器に収容された加工材と、容器を軽合金製品に固定するための取付手段と、を有するものであるので、取付手段によって、1以上の開口が軽合金製品の一部分の表面で閉じられるように、容器を(軽合金製品加工用治具を)軽合金製品に固定することにより、軽合金製品の一部分の表面と、容器の内面と、で形成された閉空間を、容易に形成することが出来る。軽合金製品を選ばず、又、軽合金製品の一部分を選ぶこともなく、何れの製品又は何れの部分であっても、閉空間を形成し得る。
そして、この閉空間が形成された状態で、軽合金製品の揺動をさせると、加工材が往復運動し、容器の開口を閉じた部分に相当する軽合金製品の一部分の表面に衝突をする。本発明に係る軽合金製品加工用治具の使用による、このような作用によれば、軽合金製品の一部分のみを対象として、その一部分の機械的性質を高め得る、という優れた効果が導かれる。軽合金製品が鋳造製品の場合には、その一部分の表面に存在し得る微小欠陥を、容易に効率よく修復し、且つ、その一部分の表層に存在する微小欠陥を潰し封孔することが出来る。
例えば、量産品である鋳造製品の軽合金製車両用ホイールでは、押湯部分に近い製品の一部分においては溶湯の凝固の遅れに起因して鋳造欠陥が生じ易いが、その一部分の表面に加工材を衝突させ、表面層の加工を施せば、その一部分の機械的性質を高めることが出来、ひいては軽合金製車両用ホイール全体として、圧縮残留応力の作用によって疲労強度を向上させることが可能である。全体を処理する必要がないから、軽合金製車両用ホイールを所定の機械的性質を備えたものとするのに要する処理時間が短い。
本発明に係る軽合金製品加工用治具では、加工材は、常時、容器に収容されているから、別途に加工材を保管する必要がなく、容器で形成する閉空間への出し入れも不要であり、容器を(即ち軽合金製品加工用治具を)、軽合金製品に固定した後に、直ぐに加工が行える。従って、本発明に係る軽合金製品加工用治具を使用すれば、量産工程に表面層加工処理を適用することが可能になる。
本発明に係る軽合金製品加工用治具では、加工材として比重が2以上であり径がφ1.5mm以上の球状体又は多面体を少なくとも含むものを使用しているので、ショットピーニング処理を行った場合に比して、疲労強度の改善効果に優れる。
本発明に係る軽合金製品加工用治具では、その好ましい態様において、加工材は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の70体積%以上を占めるものである。加工材の(径の)大きさの好適な範囲は、本発明に係る軽合金製品加工用治具を用いて行う加工対象とその部分、及び目的によって異なる。例えば、加工対象が車両用ホイールである場合に、加工目的が機械的性質(疲労強度)の向上である場合には、加工材の径はφ5mm以上φ20mm以下であることが好ましい。この場合、加工部分としてはインナーリムやスポークを例示することが出来る。又、加工目的が鋳肌面の微小欠陥の修復(封孔等)である場合には、加工材の径はφ1.5mm以上φ8mm以下であることが好ましい。この場合、加工部分としてはスポークのデザイン面を例示することが出来る。更に、加工目的がタイヤ装着時の空気漏れ(圧力低下)の防止である場合には、連通した気孔を潰し易くするため、加工材の径はφ5mm以上φ20mm以下であることが好ましい。この場合、加工部分としてはリムのビードシートの間の部分を例示することが出来る。
本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法は、本発明に係る軽合金製品加工用治具を用いた、軽合金製品の一部分の表面に表面層加工処理を施す方法の具体的な態様であり、軽合金製品加工用治具の開口が軽合金製品の一部分の表面で閉じられるように容器を軽合金製品に固定し、その容器を固定した軽合金製品の揺動をさせて、加工材を軽合金製品の一部分の表面に衝突をさせることによって、上記した軽合金製品の一部分の機械的性質を高めるという優れた効果を導く。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
図1及び図2は、本発明に係る軽合金製品加工用治具の一の実施形態を示す図である。図1は斜視図であり、図2は内部を表した断面図である。図1及び図2に示される軽合金製品加工用治具1は、開口3を有する袋状の容器21と、その容器21に収容された加工材25と、取付手段と、を有する。容器21には、加工材25が常に収容されている。
又、図11は、本発明に係る軽合金製品加工用治具の他の実施形態を示す斜視図である。図11に示される軽合金製品加工用治具100は、袋状の容器121が2つの開口3を有するところが、軽合金製品加工用治具1と異なる。本発明に係る軽合金製品加工用治具においては、開口は袋状の容器に3つ以上備わっていてもよい。
図9及び図10は、車両用ホイールを示す図であり、図9は車両用ホイールの斜視図であり、図10は図9におけるCC断面を示す断面図である。図9及び図10に示される車両用ホイール22は、インナーリム92及びアウターリム93を含むリム91と、ディスク94(スポーク)とを有するものであり、これは、本発明に係る軽合金製品加工用治具を使用して行う本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法が、加工対象としている一部分を有する、軽合金製品の一例である。図10には、車両用ホイールの一部分であるアウターリム93に、図1及び図2に示される軽合金製品加工用治具1を取り付けた様子が描かれている。又、図12には、車両用ホイールの一部分であるディスク94(スポーク)に、図1及び図2に示される軽合金製品加工用治具1を取り付けた様子が描かれている。
図8は、車両用ホイール22を鋳造成形するための金型の一例を示す断面図である。図8に示される金型は、上型81、横型82、及び下型83でキャビティ84を形成してなるものである。この金型は、センターゲートタイプの金型であり、キャビティ84の、ディスク94の中心近傍に相当する部分に湯口が形成され、図8中の矢印方向に、溶湯が導入される。
図6は、鋳造後の車両用ホイールのディスク(スポーク)の表面及び表層を表した断面図であり、そこには微小欠陥が存在する様子が示されている。図7は、車両用ホイールのディスク(スポーク)に表面層加工処理を行っている様子を表した部分断面図であり、表面層加工処理の作用を説明するための図である。
図9及び図10に示される車両用ホイール22は、例えばAC4CHアルミニウム合金(日本工業規格)を用いて作製される鋳造品である。車両用ホイール22を、図8に示される金型を使用して成形する場合、湯口が1つなので、湯口に近いディスク94(スポーク)に、どうしても鋳造欠陥が残り易く、組織も粗くなり易い。
そこで、図1及び図2に示される軽合金製品加工用治具1を用い、取付手段によって、開口3が車両用ホイール22の一部分であるディスク94(スポーク)の表面94aで閉じられるように、容器21を車両用ホイール22に固定し(図12を参照)、軽合金製品加工用治具1ともども車両用ホイール22を揺動させれば、加工材25が、車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに衝突して、ディスク94(スポーク)の表面層が加工される。即ち、車両用ホイール22に軽合金製品加工用治具1を取り付け、図12に示される態様のまま、全体を(図12中における)上下方向に揺動させると、加工材25が、容器21と車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aとで形成された閉空間26の中で往復運動して表面94aに衝突する。
加工材25が車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに衝突することによって、車両用ホイール22の表面94aに存在し得る微小欠陥が修復され、且つ、車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表層に存在する微小欠陥が潰され封孔処理が行われ(即ち、表面層加工処理がなされ)、車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の機械的性質が向上する。
図8に示される金型を使用し鋳造法によって成形された鋳造品である車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aには、図6に示されるように、微小欠陥である孔部12、突起部13が生じてしまうことが多く、更に、表層部14を含む表面94aの近傍には、表面94aに現れることにより孔部12となり得る気孔11が存在していることが多い。又、組織が粗く疲労強度が低くなりがちである。
このように微小欠陥が存在しあるいは組織が粗い車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに対して加工材25を衝突させると、ショットピーニング処理とは異なり、図7に示されるように、表面94aに存在していた孔部12及び突起部13は修復され、表面94aから3mm程度の深さまでの表層部14(表面94aを除く)に存在していた気孔11は潰される。この表層部14に存在していた気孔11が潰されることによって、新たな孔部12の発生原因が取り除かれる。加えて、圧縮残留応力が付与され、疲労強度が改善する。
加工材25は、揺動を終えると、重力で自然と容器21に収容された状態に戻る。この加工材25は、比重が2以上であり径がφ1.5mm以上の球状体又は多面体が少なくとも含まれるものである。径がφ1.5mm未満の場合には、表面94aに存在する微小欠陥を修復する作用が小さくなる。又、表面94aの近傍に存在する微小欠陥を封孔する作用が小さくなり、気孔11が潰れる表層部14の範囲が狭くなる。加工材25に含まれる球状体又は多面体の径の範囲は、好ましくはφ1.5mm以上φ20mm以下であり、更には、加工材25は、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の球状体又は多面体が、加工材全体の70体積%以上を占めるものであることが好ましい。
そして、加工材25には、カットワイヤ、金属粒、研削剤乃至研磨剤、乾燥砂、等を混合し、加工材25を2以上の混合物として用いることも出来る。又、加工材25に含まれる球状体又は多面体を、径(大きさ)の異なるものとすることも好ましい。大きさの異なるものを加工材25に混在させることにより、加工材25が、より均一に漏れなく車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに対し衝突及び擦り動きを繰り返すとともに、加圧されて車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aの微小欠陥を修復するものと考えられるからである。
加工材25としては、例えば金属球又はセラミック球を含むものが好ましく採用される。金属球又はセラミック球を単独で用いてもよく混合して用いてもよい。金属球として鋼球、ステンレス球が例示され、セラミック球としてジルコニア球、アルミナ球が例示される。比重、硬度の観点より、より好ましい金属球は鋼球であり、より好ましいセラミック球はジルコニア球である。
加工材25として混合可能なカットワイヤを例示すると、φ0.6〜1.2mm×長さ0.6〜1.2mmのステンレス製カットワイヤを挙げることが出来る。又、加工材25の全体に対し、径がφ1.5mm以上φ20mm以下の例えば鋼球が70体積%以上を占める場合に、それに混合可能な金属球又はセラミック球として、φ1mm以上φ1.5mm未満、及びφ20mm超φ40mm以下の、鋼球、ステンレス球、及びジルコニア球を挙げることが出来る。
加工材25の投入量は、閉空間26を形成する容器21の容積に対し、体積比で概ね5%以上30%以下であることが好ましい。加工材25が容器21と表面94aとで形成された閉空間26の中で自由に動き、加工材25と車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aとの衝突回数が確保されることを担保するためである。5体積%未満では、加工材25は閉空間26の中で自由に動くもの、加工材25が少なすぎる結果、加工材25と車両用ホイール22の表面94aとの衝突回数及び加圧力が確保されずに、ディスク94(スポーク)の表面94aに対して均一に封孔処理及び所望の機械的性質の付与がなされないおそれがあり、好ましくない。30体積%より多いと、加工材25が閉空間26の中で自由に動く範囲が限定され、加工材25と車両用ホイール22の表面94aとの衝突回数及び加圧力が確保されずに、同じくディスク94(スポーク)の表面94aに対して均一に封孔処理及び所望の機械的性質の付与がなされないおそれがあり、好ましくない。
尚、アウターリム93の微小欠陥を修復し疲労強度を向上させたい場合には、同様に、軽合金製品加工用治具1を用いて、取付手段によって、開口3が車両用ホイール22の一部分であるアウターリム93の表面で閉じられるように、容器21を車両用ホイール22に固定し(図10を参照)、軽合金製品加工用治具1ともども車両用ホイール22を揺動させればよい。こうすることで、加工材25が、車両用ホイール22のアウターリム93の表面に衝突して、アウターリム93の表面層が加工される。
次に、加工材25と車両用ホイール22の表面とを衝突をさせる場合における揺動条件について説明する。本発明に係る軽合金製品の表面層加工方法においては、好ましい揺動条件は、以下の通りである。
揺動における振動数は、概ね3Hz以上30Hz以下であることが好ましい。より好ましい振動数は5Hz以上20Hz以下であり、特に好ましい振動数は8Hz以上15Hz以下である。加工材25と車両用ホイール22の表面との単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。振動数が3Hz未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面との衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の表面の微小欠陥を修復出来ず、又、表面の近傍(表層)の微小欠陥を潰せず、好ましくない。又、加工材25の数にもよるが、振動数が30Hzより多くても、微小欠陥を修復し又は潰す効果は小さく、振動数を上げるために費やすエネルギー対効果は低下するため、好ましくない。尚、本明細書において、振動数とは時間あたり繰り返される揺動の回数を指し、単位はヘルツ(Hz)である。
又、揺動の揺れ幅は、概ね10mm以上120mm以下であることが好ましい。より好ましい揺れ幅は20mm以上100mm以下であり、特に好ましい揺れ幅は30mm以上80mm以下である。閉空間26の中での加工材25の移動範囲を適切に設定することを通して、加工材25と車両用ホイール22の表面との単位時間あたりの衝突回数を確保するためである。揺れ幅が10mm未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面との衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の微小欠陥を修復出来ず又は潰せず、好ましくない。又、揺れ幅が120mmより大きくても、加工材25が車両用ホイール22の表面に接している時間が長くなるだけで、加工材25と車両用ホイール22の表面との衝突回数は増加せず、微小欠陥を修復し又は潰す効果は大きくはない。尚、閉空間26は、その鉛直方向の長さ(閉空間高さ)が30〜200mmとなるように形成することが望ましい。
更には、延べ揺動時間は、概ね10秒以上3分以下であることが好ましい。より好ましい揺動時間は20秒以上2分以下である。加工材25と車両用ホイール22の表面との延べ衝突回数を確保するためである。延べ揺動時間が10秒未満では、加工材25と車両用ホイール22の表面との延べ衝突回数が確保されず、車両用ホイール22の微小欠陥を修復出来ず又は潰せず、好ましくない。又、延べ揺動時間が3分より多くても、微小欠陥を修復し又は潰す効果は小さく、時間対効果は向上しないため、好ましくない。
次に、車両用ホイール22の例えばディスク94(スポーク)の表面94aに、加工材25を衝突させるために用いられる揺動装置について説明する。図3は、揺動装置の一例を示す上面図であり、図4は、図3におけるA矢視図(正面図)であり、図5は、図3のB矢視図(右側面図)であって、錘24を除いて、揺動機構(後述する)を視た図である。このような揺動装置2を用いて、軽合金製品加工用治具1を取り付けた車両用ホイール22(被揺動体と呼ぶ)を、図10に示される態様・方向のまま、揺動板42の上に固定し、図4及び図10における上下方向に、揺動させることが可能である。
図3〜図5に示される揺動装置2では、揺動にかかる動力は、原動機36により与えられる。原動機36で生じた回転運動が、伝導部材であるベルト35により回転軸40に伝わり、これを回転させ、その回転軸40の回転運動は、それに備わるクランク38によって往復運動に変換される。そして、クランク38とコンロッド41を介し接続される揺動板42が、直線運動案内器として設けられた4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに沿って、上下方向(鉛直方向)に、直線状の往復運動を行い、この揺動板42の往復運動によって、揺動板42の上に固定された被揺動体は、上下方向に揺動をする。回転軸40に備わるもう1つのクランク39には、カウンターウエイト32が取り付けられており、揺動板42の往復運動及び被揺動体の揺動にともなって発生する悪振動を打ち消し抑制する。
揺動装置2では、原動機36、回転軸40(クランク38,39)、コンロッド41、揺動板42、リニア軸受け43a,43b,43c,43d(直線運動案内器)、及びカウンターウエイト32を有する揺動機構は、台板33を介して基台53の上に載置されている。即ち、揺動機構は、台板33の上にまとめて載置され、更に、その台板33が、基台53の上に載置されている。そして、基台53の下には、防振のために4つの空気ばね31が備わり、基台53の上には、空気ばね31の真上に2つの錘24が備わっている。揺動装置2では、1つの錘24は、2つの空気ばね31と対応して設けられている。
台板33には2つの軸受45が取り付けられ、回転軸40は、この2つの軸受45により、台板33と平行に、回転自在に取り付けられる。そして、回転軸40は、ベルト35を介して原動機36(の回転軸)と接続される。具体的には、原動機36(の回転軸)に設けられたプーリー37と、回転軸40に設けられたプーリー34と、をベルト35で接続して、原動機36で生じた回転運動を、回転軸40へ伝達する。インバータによる原動機36の回転制御と併せて、これらプーリー34,37の径等を変更することによって、回転軸40の回転数を制御することが出来る。そして、この回転数の制御によって、揺動板42の往復運動(即ち被揺動体の揺動)にかかる揺動数(振動数)を制御することが可能である。
被揺動体が載せられ固定される揺動板42は、使い勝手がよく応用性に優れた平板として構成されており、4つのリニア軸受43a,43b,43c,43dに、移動自在に取り付けられている。リニア軸受は直線運動案内器の1つであり、往復運動を行う揺動板の案内に、例えば玉やころを用いた軸受である。
回転軸40には、2つのクランク38,39が180°反対方向を向いて備わっている。そして、クランク38はコンロッド41を介して揺動板42と接続され、一方、クランク39にはカウンターウエイト32が取り付けられている。このようなクランク38,39の態様により、原動機36の与えた回転運動は、クランク38に接続された揺動板42の、上下方向の往復運動に変換され、揺動板42に固定された被揺動体が、悪振動を抑えつつ、上下方向に揺動をする。そうすると、その揺動によって、加工材25が、車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに衝突をし、その車両用ホイール22のディスク94(スポーク)の表面94aに対し封孔処理が施される。
尚、揺動装置2は、鋼板を加工し市販の各部材と組み合わせて作製することが出来るが、作製にあたっては、揺動条件及び処理対象である軽合金製品の仕様に合わせて、各構成要素のサイズや材料や機械的性質(例えば回転軸の径や材料等)が適正になるように決定することが好ましい。