JP2008193987A - 甲殻類幼生の飼育方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】甲殻類の中でも人工飼育が非常に困難とされているイセエビの幼生を含め、甲殻類の幼生をふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、抗生物質を使用することなく、抗生物質を使用したのと同じ程度の飼育効果を奏する甲殻類幼生の飼育方法を提供する。
【解決手段】甲殻類の幼生がふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、グリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に採り入れて、抗生物質を使用しないで甲殻類幼生を飼育する方法。イセエビ幼生の場合は、ふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、流水飼育を基本としながらグリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を5〜7日毎に併用し、抗生物質を使用しないでイセエビ幼生を飼育する方法。グリシンの濃度を、ふ化から150日頃までは50〜200ppm、それ以降は100〜200ppmに維持すると共に、フィロソーマの脱皮時には飼育水中にグリシンを残存させないようにすることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、甲殻類幼生の飼育方法に関する。詳しくは、イセエビを代表例とする甲殻類の幼生を、ふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、抗生物質を使用しないで飼育する方法に関する。
イセエビ、クルマエビ、トヤマエビ(通称ボタンエビ)、ガザミ(通称ワタリガニ)、ケガニ、ズワイガニ、タラバガニ、ハナサキガニなど甲殻類の幼生は、ふ化幼生(ふ化した当日の幼生)から脱皮を重ねて変態し、稚エビ又は稚ガニを経て親エビ又は親ガニに成長する。これら甲殻類の幼生の飼育方法は、幼生期の3分の1ないし3分の2の期間は止水飼育を採り、その後に流水飼育に切り替える方法や、ふ化幼生のときから流水飼育を基本とし、これに止水飼育を間欠的に採り入れる方法などが多い。いずれにしても、甲殻類の幼生を病原性細菌の汚染から防除するために、止水飼育の際に抗生物質を添加した海水を用いて薬浴させる方法が採られている。
甲殻類の中でもイセエビの幼生は、病原性細菌への耐性がきわめて弱いことが知られている。そのため、イセエビの幼生は、飼育が最も難しく、イセエビの幼生を稚エビまで安定的に飼育できれば、その飼育方法は他の甲殻類の幼生の飼育にも容易に適用できるとされている。よって、以下、甲殻類の代表例であるイセエビの幼生の飼育方法を基本として、本発明を説明する。
イセエビの幼生は、ふ化後、ふ化フィロソーマから脱皮を重ねて最終齢フィロソーマに達した後、プエルルスに変態し、稚エビを経て親エビに成長する。イセエビの幼生は、従来、飼育の中心的な規模である50Lボウル型水槽において、ふ化フィロソーマから最終齢フィロソーマに至るまでの生残率は0〜5%、プエルルスから稚エビに至るまでの生残率は30〜70%であり、非常に不安定である。
イセエビフィロソーマの人工飼育に関する研究は、ふ化フィロソーマを用いた飼育が1899年に報告されて以来、100年以上にも及ぶ歴史があるが、1989年に三重県水産技術センター(当時)と北里大学が稚エビまでの人工飼育に初めて成功した。その後人工飼育に関する多くの知見が蓄積されたが、未だ量産段階には至っていない。現在の飼育技術レベルでは1機関における年間の稚エビ育成尾数は200〜300尾程度であるが、ここ数年間で数十尾から数百尾まで増加しており、飼育技術レベルは急速に向上しつつある。
イセエビフィロソーマ(以下単に「フィロソーマ」と記す。)の飼育が難しい原因として以下の理由が挙げられる。
(1)フィロソーマは、プエルルスへの変態完了までに300日以上を要するため、その全期間を通して良好な飼育条件を維持することが困難である。
(2)フィロソーマの成長に有効な餌料は、アルテミアとムラサキイガイの生殖巣しかなく、プエルルスまで育成するにはムラサキイガイの生殖巣が必要不可欠である。
(3)フィロソーマは、体が偏平で顎脚や胸脚が非常に長い特異的な形態であるため、個体干渉によって脱皮時に胸脚が欠損しやすい。
(4)フィロソーマは沈みやすく、水槽底の糞や残餌などの影響を受けやすいため、定期的に新しい水槽へ移し替えなければならず、小型の容器でしか飼育できない。
(5)フィロソーマは細菌性疾病に罹病しやすく、健全に飼育するためには抗生物質による定期的な薬浴が必須である。
フィロソーマの飼育において発生する細菌性疾病様の症状には、親エビが腹部に抱く卵塊由来と考えられる糸状細菌がフィロソーマの体表に着生して不完全脱皮を起こす他、フィロソーマの触角線、中腸線、口器周辺、腸管、顎脚、胸脚、遊泳肢などの壊死による白濁などが認められる。これらの疾病に対する2次感染の防止には抗生物質による薬浴が効果的である。初期フィロソーマで顕著に発生する糸状細菌の着生防止対策としては、硫酸ストレプトマイシン又はアンピシリン10ppmで15時間以上の薬浴が有効であり、顎脚、胸脚、遊泳肢及び中腸線が白濁する疾病については、クロラムフェニコール10ppmで24時間薬浴すると2次感染を防止できる効果が認められている。また、これらを含めた細菌性疾病の予防には、103 CFU/mL以下に減菌処理した飼育水を使用することを前提として、長い幼生期間を通して水槽交換とアンピシリン20〜40ppmで15〜18時間の薬浴を5〜7日に1回程度のパターンで実施すると効果的である。すなわち、従来から、ふ化フィロソーマからプエルルスまでの飼育を成功させるためには、抗生物質の飼育水への添加が必須であるとされている。
しかしながら、近年、食の安全性の観点から抗生物質の使用が制限されつつあることから、イセエビをはじめとする甲殻類についても、幼生期の飼育過程において抗生物質を使用しない飼育方法の開発が望まれている。
このような状況から、本発明者らは、甲殻類の幼生、特にイセエビの幼生を人工飼育するに際し、抗生物質の代替品について研究した結果、食品添加物として使用されているグリシンの抗菌性に着目し、さらに試験・研究を重ね、本発明を完成するに至った。
グリシンは、食品中に2〜5%存在していると多くの細菌が生育を阻害されるため、その抗菌性を利用して、主に食中毒病原菌や腐敗菌に対する食品添加物として使用されている。すなわち、耐熱性芽胞細菌であるバチルス属の細菌の多くはグリシン2%以上で生育を阻害されるので、グリシンは熱処理食品などの保存料として使用されている。また、水産練り製品、畜肉練り製品、麺類、漬物、野菜サラダ、カスタードクリーム、豆腐、飴などにも保存料として使用され、効果を上げている。グリシンは、これら食品の場合は1〜10%の濃度で使用されており、調味料の場合は0.01〜0.03%添加するのが普通である。グリシンは、飼料にも使用されており、例えば、特許文献3には、植物性原料のみから構成されたブロイラー用飼料にグリシンを0.05〜0.3%配合してブロイラーの軟便発生を緩和・防止する発明を開示している。また、特許文献1と特許文献2には、甲殻類の幼生を高い生残率で効率よく大量飼育する方法と装置について開示している。しかし、甲殻類の幼生を人工的に飼育するについて、抗生物質の代替品としてグリシンを使用することは、いかなる文献にも未だ開示されていない。
特開2002−262702号公報 特開2004−097070号公報 特開2002−233315号公報
上記の状況に鑑み、本発明は、甲殻類の幼生を飼育するに際し、ふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、抗生物質を使用することなく、抗生物質を使用したのと同じ程度の飼育効果を奏する甲殻類幼生の飼育方法を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、甲殻類の中でも最も飼育が困難とされているイセエビの幼生を人工飼育するに際し、ふ化フィロソーマから稚エビに至るまでの期間、抗生物質を使用することなく、抗生物質を使用したのと同じ程度の飼育効果を奏するイセエビ幼生の飼育方法を提供することを第2の課題とする。
上記課題を解決するための本発明のうち特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、甲殻類の幼生がふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、グリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に採り入れて、抗生物質を使用しないで甲殻類幼生を飼育する方法である。
また、同請求項2に記載する発明は、甲殻類がイセエビである請求項1に記載の甲殻類幼生の飼育方法である。
また、同請求項3に記載する発明は、請求項2に記載の飼育方法において、イセエビの幼生がふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、流水飼育を基本としながらグリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に併用し、抗生物質を使用しないでイセエビ幼生を飼育する方法である。
また、同請求項4に記載する発明は、グリシンの濃度を、ふ化から150日頃までは50〜200ppm、それ以降は100〜200ppmに維持すると共に、フィロソーマの脱皮時には飼育水中にグリシンを残存させないようにする請求項3に記載のイセエビ幼生の飼育方法である。
また、同請求項5に記載する発明は、流水飼育を4〜6日続けた後グリシンを溶解した海水に15〜18時間浸漬する止水飼育を行なってまた流水飼育を4〜6日続けた後前記と同様の止水飼育を行なうことを繰り返す請求項3又は4に記載のイセエビ幼生の飼育方法である。
本発明によって、甲殻類の幼生を飼育する際に抗生物質の代替品としてグリシンを使用できることが明らかとなった。そのため、本発明によれば、抗生物質を使用せず、食の安全性が担保された状態で、甲殻類の幼生を飼育できるようになった。
特に、本発明によって、甲殻類の中でも飼育が最も困難とされているイセエビの幼生を飼育する際に、抗生物質の代替品としてグリシンを使用できることが明らかとなった。そのため、本発明によれば、抗生物質を使用せず、食の安全性が担保された状態で、イセエビの幼生を飼育できるようになった。
甲殻類、特にイセエビの幼生を、ふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、安定的に飼育するためには、疾病の防除対策の他、以下に説明するとおり、飼育水の減菌処理、飼育水の温度、飼育水槽の構造、餌料の供与などについても配慮する必要がある。
一般に、フィロソーマの人工飼育には、可能な限り細菌を除去した清浄な海水を使用する必要がある。そのため、飼育に用いる海水は、前処理として、例えば細菌を物理的に除去可能な0.2μの中空糸フィルターで濾過する方法か又は0.45μの簡易膜濾過の後に紫外線殺菌処理する方法などによって、できるだけ減菌させておくことが好ましい。
フィロソーマを飼育する海水の水温は、試験の結果、ふ化から140〜150日よりも前は26〜27℃、それ以降は24℃が適温であることが判明している。このように、フィロソーマの飼育適水温は24〜27℃と比較的高く、飼育水中で病原性細菌などが増殖しやすい飼育環境である。加えて脱皮直後に頻発する胸脚の欠損や体表の物理的な外傷などに起因して細菌性疾病に罹病しやすいため、その防除対策として、従来から抗生物質の使用は必須の条件とされている。
また、フィロソーマの量的な飼育のためには、(独)水産総合研究センター・南伊豆栽培漁業センターで開発した流水方式のボウル型水槽(例えばφ600×500mmH、実水量約50Lのもの)や回転型飼育装置(特許文献2)を使用することが好ましい。フィロソーマをプエルルスまで育成可能な餌料は生のムラサキイガイ生殖巣であるが、例えば回転型飼育装置では、縦方向に飼育水槽を回転させることができるので、水槽内に任意の強さの水流を発生させ、水槽の底面に沈みやすいムラサキイガイ生殖巣の細片にフィロソーマが遭遇する機会を増加させることができ、しかも、脱皮前後におけるフィロソーマどうしの個体干渉を軽減できる。
フィロソーマの餌料は、ふ化後30日まではフェオダクティラムで栄養富化したアルテミア単独で給餌し、それ以降はムラサキイガイ生殖巣と養成によりサイズ調整をしたアルテミアを併用することが好ましい。なお、アルテミアの単独給餌ではプエルルスまで成長させることは不可能であり、現在のところ、プエルルスまで健全に育成可能な餌料はムラサキイガイ生殖巣のみである。
本発明は、甲殻類の幼生が、ふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、グリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に採り入れて、抗生物質を使用しないで甲殻類幼生を飼育する方法である。グリシンを溶解する海水は、可能な限り減菌した海水を使用する。また、止水飼育(グリシン浸漬処理)中には、外気温により水温が変化しないように室温や水温を調節・維持することが好ましい。
甲殻類幼生期の細菌性疾病としてはビブリオ病が多く、その他滑走細菌症や真菌症なども発生するが、いずれも海水中に常在する細菌(一般海洋細菌)や真菌が原因である。海水中の一般海洋細菌の増殖を抑制することは、甲殻類の幼生が、細菌が原因となる疾病に罹病するリスクを減らすことになる。
本発明を適用できる甲殻類は、イセエビの他、クルマエビ、トヤマエビ、ホッコクアカエビ、ガザミ、ケガニ、ズワイガニ、タラバガニ、ハナサキガニなど、種類を問わず挙げることができる。
イセエビの幼生は、病原性細菌への耐性がきわめて弱い上、プエルルスへ変態するまで300日以上を要し、甲殻類の幼生の中で幼生期間が最も長い。イセエビ以外の甲殻類の幼生は、稚エビ又は稚ガニに達するまでの期間が20〜70日程度であるため、イセエビ幼生に好適な飼育方法は、その他の甲殻類の幼生の飼育にも容易に適用できるものと考えられている。
グリシンは、自然界に多く存在しているα−アミノ酸の一つであり、その中で最も簡単な構造をしていて別名アミノ酢酸とも呼ばれている。グリシンは生体内でクレアチンの合成に関与しているが、必須アミノ酸ではなく、セリンなどから合成される。グリシンは、カニやエビの甘味の主成分でもあり、中性で水溶性であることから、広く食品分野において調味料として使用されている。また、砂糖の半分程度の甘味を有することから、併せて甘味料として使用されることも多い。
一般に、グリシンの抗菌作用機作については細胞壁合成に関与しているものと考えられており、細胞壁溶解酵素のリゾチームに対して非感受性の細菌の多くが、グリシンの存在下において培養するとリゾチームに対して感受性に変わることや、細菌細胞壁の合成を阻害することなどが報告されている。
本発明は、イセエビ幼生の場合、フィロソーマ幼生などをグリシン溶液に5〜7日毎に浸漬する。すなわち、ふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、フィロソーマ幼生などを流水状態の海水で4〜6日飼育した後、グリシンを溶解した止水状態の海水に15〜18時間浸漬する方法を採り、また流水状態の海水で4〜6日飼育した後、グリシンを溶解した止水状態の海水に15〜18時間浸漬する方法を繰り返すことが好ましい。グリシンの濃度は、ふ化から150日頃までは50〜200ppmに、それ以降は100〜200ppmに調整するのが好ましい。
中後期フィロソーマでは、脱皮時に水流を発生させないと脱皮前後の死亡が多発する。そのため、本発明では、フィロソーマの脱皮時刻には飼育水中にグリシンを残存させないようにする必要がある。フィロソーマは日の出頃に脱皮するので、例えば飼育室又は水槽自体の点灯時刻の2〜5時間ほど前に浸漬処理を終了し、水槽に注水を始める方法を採ることが好ましい。以下、試験例をもって本発明をさらに詳細に説明する。
《試験例1》
<グリシンの一般海洋細菌に対する増殖抑制効果確認試験>
(1)試験方法
一般的な重力式で砂濾過した海水を1μのカートリッジフィルターで再濾過したものを海水原液とし、これに以下の13段階の濃度でグリシンを添加した海水を2サンプル用意して、フィロソーマの飼育水温である24℃で24時間培養し、一般海洋細菌の増殖抑制効果を調査した。グリシンの添加濃度は、0、10、20、30、40、50、100、200、300、400、500、1000、2000、5000ppmの14段階とした。培地には、マリンアガー培地(MA−2216)とビブリオ属細菌の選択培地(TCBS)を用いた。なお、フィロソーマの飼育水としては「103 CFU/mL以下」の細菌数を目安としている。
(2)試験結果
試験結果は、図1に示すとおりである。図1は、一般海洋細菌に対するグリシンの増殖抑制効果(グリシン濃度0〜5000ppmの海水中において24℃で24時間培養した後の一般海洋細菌の細菌数)を示すグラフであり、横軸に海水中のグリシン濃度、縦軸に細菌数を示してある。
24℃で24時間培養した後、マリンアガー培地(MA−2216)では、グリシンを添加しない海水の細菌数は104 〜105 CFU/mLに増殖したのに対し、グリシン濃度20ppm以上の海水では細菌の増殖を102 CFU/mL以下に抑制した。
また、ビブリオ属細菌の選択培地(TCBS)については、グリシンを添加しない海水では24時間後には103 CFU/mLまで増殖したが、今回試験したグリシン各濃度ではいずれも検出限界以下であった。
(3)所見
グリシンは、一般海洋細菌に対し、20ppm以上の濃度で24時間浸漬処理することによって、フィロソーマの飼育水の目標である103 CFU/mL以下に増殖を抑制できることが明らかとなった。また、グリシンは、ビブリオ属の細菌に対しては、強い増殖抑制効果を示すことが判明した。
《試験例2》
<ふ化フィロソーマのグリシン耐性試験>
(1)試験方法
ふ化フィロソーマを使用して、2齢に脱皮するまでのグリシン耐性を調査した。
試験区は、薬剤を使用しない「薬浴なし区」、定法である抗生物質アンピシリン(濃度20ppm)で薬浴する「AMP20ppm区」、グリシン濃度として100、200、500、1000ppmの各濃度で浸漬処理する「100ppm区」「200ppm区」「500ppm区」「1000ppm区」の6つの試験区を各2槽ずつ、合計12区を設定した。ふ化フィロソーマは各区10尾を供試し、水温24〜25℃で500mLアクリル製ボウル水槽を用いて止水方式で飼育した。飼育水槽は毎日交換し、水槽交換時に各試験区で設定した濃度になるように飼育水を調整した。餌料はふ化後キートセロスで5〜8日間培養したアルテミア(全長1.5〜2.5mm)を使用し、水槽ごとに毎日約200個体を給餌した。
(2)試験結果
試験結果は、図2に示すとおりである。図2は、ふ化フィロソーマから2齢までグリシンの耐性試験の結果として「生残尾数」を示すグラフであり、横軸にふ化後日数(0から13日目まで)、縦軸に生残尾数を示している。
イ)「薬浴なし区」では、ふ化後3日齢から目視上フィロソーマの体表に付着物(汚れ)が認められたが、他の試験区では試験期間を通して体表に付着物は認められなかった。
ロ)フィロソーマの1齢から2齢への脱皮は、いずれの試験区でもふ化後7〜8日目に起こった。また、グリシン1000ppm区では試験開始当初から摂餌不良が観察された。ハ)供試したふ化フィロソーマ10尾のうち2齢まで(ふ化後13日目まで)生残した尾数は、「薬浴なし区」が9尾、「AMP20ppm区」が10尾、グリシン「100ppm区」が6〜7尾、「200ppm区」が6尾、「500ppm区」が5〜6尾、「1000ppm区」では0尾であった。
(3)所見
イ)今回試験したグリシン濃度100ppm以上の試験区では、24時間浸漬処理した場合、脱皮時に悪影響を示すものと考えられる。特に「1000ppm区」では、異常脱皮を示すように体が変形していた。また、「100ppm区」〜「500ppm区」における脱皮個体は、脱皮時の変形は認められないが、脱皮殻を口器周辺に引っ掛けている個体が目だった。
ロ)今回の試験結果から、グリシン100ppm以上で24時間処理することで体表の汚れを防止する効果があり、100〜500ppmで2齢まで50%以上が生残することが判明した。なお、この濃度範囲では脱皮時にやや悪影響を示すが、脱皮しない期間には生残が安定していることから、悪影響はないと考えられる。
ハ)グリシンを抗生物質の代替として使用する場合、脱皮時の悪影響を避ける必要があるため、脱皮時には処理時間を24時間より短縮して流水飼育に切り替え、脱皮時の飼育水中にグリシンが残存しないように流出させることが効果的であると考えられる。
《試験例3》
<ふ化フィロソーマから稚エビまでのグリシンを用いた飼育試験>
(1)試験方法
試験例1と試験例2の結果に基づいて、ふ化フィロソーマから稚エビに生育するまでの期間全体を通してグリシンを用いた飼育試験を実施した。
イ)アンピシリンで薬浴処理する定法を対照区(図3・図4の「AMP区」)とし、グリシンで浸漬処理する試験区としてグリシンの濃度を50ppm、100ppm、200ppm、500ppmに設定し(図3・図4と表1では各試験区を「GLY50ppm区」などと表している。)、各試験区当たりふ化フィロソーマを15尾ずつ供試した。
ロ)飼育方法は流水飼育を基本とし、アンピシリンの薬浴処理は、ふ化からふ化後約150日目までは5日毎に止水して20ppmで15時間処理(4日間は流水飼育、5日目に薬浴処理)、150日以降は7日毎に止水して40ppmで15時間処理(6日間は流水飼育、7日目に薬浴処理)とした。また、グリシンによる浸漬処理は、ふ化からふ化後約150日目までは5日毎に止水して各試験区の所定濃度で15時間処理(4日間は流水飼育、5日目に浸漬処理)、150日以降は7日毎に止水して各試験区の所定濃度で15時間処理(6日間は流水飼育、7日目に浸漬処理)とした。これは、特に中後期フィロソーマでは、脱皮時に水流を発生させないと脱皮前後の死亡が多発するためであり、対照区と各試験区は、いずれも脱皮時刻の5時間前に浸漬処理を中止して注水を開始した。すなわち、5〜7日毎に、午前9時には流水を止めて止水飼育に切り替えてグリシンを溶解し、15時間浸漬処理を続け、15時間を経過した午前零時には流水飼育に切り替えて注水を開始し、午前5時頃には水槽中にグリシンが全く残存しないようにした。
ハ)各試験区とも、飼育水槽は、ふ化から31日目までは1Lアクリル製ボウル水槽1槽を、それ以降は5Lアクリル製ボウル水槽1槽を使用し、150日以降は1試験区当たり2槽の5Lアクリル製ボウル水槽に生残個体を分槽した。
ニ)飼育水温は、ふ化から127日目までは26℃、127日目以降稚エビまでは24℃とした。
ホ)餌料は、ふ化から脱皮齢で5齢まで(ふ化後約30日目まで)はアルテミア単独で、それ以降はムラサキイガイの生殖巣とアルテミアを併用した。
(2)試験結果
試験結果は、図3・図4と表1に示すとおりである。図3は、グリシンの濃度別浸漬による飼育試験の結果としてふ化フィロソーマから稚エビに至るまでの「生残率」を示すグラフであり、横軸にふ化後日数(0から400日まで)、縦軸に生残率を示している。図4は、グリシンの濃度別浸漬による飼育試験の結果としてフィロソーマ幼生期間の「成長性」を示すグラフであり、横軸にふ化後日数(0から300日まで)、縦軸にフィロソーマの体長を示している。また、表1は、ふ化フィロソーマから稚エビに至るまでのグリシンの濃度別浸漬による飼育試験の結果として「生残尾数及び生残率」を表にまとめたものである。
[表1] グリシンの濃度別浸漬による飼育試験におけるふ化から
最終齢フィロソーマ、プエルルス及び稚エビまでの生残状況
イ)ふ化から31日目までは、各試験区とも生残にはほとんど差が見られなかった。グリシン500ppm区ではふ化後30〜50日の間に脱皮が集中したときにグリシンが水中に残存し、死亡が見られ、33.3%まで生残率が低下した。グリシン50ppm区では150日以降で死亡が認められ始めた。これを防ぐためには150日以前の段階で浸漬濃度を100ppmに上げる必要がある。また、150日までは200ppm以下の試験区で生残が比較的安定している。そのため、ふ化フィロソーマから150日頃まではグリシン濃度を50〜200ppmに維持するのが好ましいものと考えられる。
ロ)グリシン100ppm区と200ppm区では、アンピシリン区の生残とほぼ同様の生残状況であった。また、各試験区におけるフィロソーマ幼生の体長変化では、図4に示すように、200日以降100ppm区でやや成長が遅れる傾向を示したものの、他の試験区についてはアンピシリン区とほぼ同様の成長を示した。
ハ)ふ化フィロソーマから稚エビに至るまでの生残率は、表1に示すとおりで、アンピシリン区とグリシン100ppm区が46.7%、グリシン200ppm区が40.0%、グリシン50ppm区が20.0%、グリシン500ppm区が13.3%であった。
(3)所見
上記の試験結果から、イセエビ幼生の人工飼育において、ふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、抗生物質の代替としてグリシンが使用可能であることが確認された。なお、試験例3では、グリシンを溶解した海水に15時間浸漬して止水飼育したが、止水時間は18時間に延長しても差し支えないことが、その後の試験によって確認されている。
また、グリシンを使用する場合、脱皮時刻に飼育水中にグリシンを残存させないことが脱皮への悪影響を避けるための重要なポイントであることが確認された。さらに、グリシンの処理濃度は、ふ化から150日頃までは50〜200ppm、それ以降は100〜200ppmが適正であると考えられる。
止水飼育から流水飼育に切り替えるとき、飼育水中からグリシンを流出させる所要時間は、注水量によって異なるが、5Lボウル型水槽の場合、2時間で3〜6回転分の注水能力があるので2時間程度で十分である。むしろ、幼生の体長が小さいふ化から100日くらいまではフィロソーマの脱皮前の遊泳力が低下する時間が短く、100日以降になるとそれが長くなることから、これらの影響を避けるため、100日までは止水時間が18時間(朝9時から翌日3時)でも構わないが、100日以降は15時間(朝9時〜24時)にした方が安全である。なお、アンピシリンの場合は、使用している濃度では脱皮に悪影響がないので、定法での薬浴時間は100日までは18時間、それ以降は15時間としている。
栽培漁業の対象になっている多くの甲殻類は、一般に幼生期の飼育過程において、細菌性疾病、真菌症、ウイルス病などが発生しやすく、生残が不安定であるため、計画的な種苗生産を行なう上で大きな障害となっている。甲殻類の幼生は、成長のために脱皮を伴うことから、特に脱皮前後には飼育環境中の病原細菌の存在が大きく影響し、大量死を起こしやすい。そのため、従来から種苗生産現場や養殖場では抗生物質が使用されているが、食の安全性の観点から好ましいことではない。本発明は、イセエビをはじめとする甲殻類幼生の人工飼育におけるこれら全ての問題点を解決できる方法である。
一般海洋細菌に対するグリシンの増殖抑制効果を示すグラフである。 ふ化フィロソーマから2齢までのグリシンの耐性試験の結果(生残尾数)を示すグラフである。 ふ化フィロソーマから稚エビまでのグリシンの濃度別浸漬による飼育試験の結果のうち「生残率」を示すグラフである。 ふ化フィロソーマから稚エビまでのグリシンの濃度別浸漬による飼育試験の結果のうちフィロソーマ幼生期間の「成長性」を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 甲殻類の幼生がふ化幼生から稚エビ又は稚ガニに成育するまでの期間、グリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に採り入れて、抗生物質を使用しないで甲殻類幼生を飼育する方法。
  2. 甲殻類がイセエビである請求項1に記載の甲殻類幼生の飼育方法。
  3. 請求項2に記載の飼育方法において、イセエビの幼生がふ化フィロソーマから稚エビに成育するまでの期間、流水飼育を基本としながらグリシンを溶解した海水に浸漬する止水飼育を間欠的に併用し、抗生物質を使用しないでイセエビ幼生を飼育する方法。
  4. グリシンの濃度を、ふ化から150日頃までは50〜200ppm、それ以降は100〜200ppmに維持すると共に、フィロソーマの脱皮時には飼育水中にグリシンを残存させないようにする請求項3に記載のイセエビ幼生の飼育方法。
  5. 流水飼育を4〜6日続けた後グリシンを溶解した海水に15〜18時間浸漬する止水飼育を行なってまた流水飼育を4〜6日続けた後前記と同じ止水飼育を行なうことを繰り返す請求項3又は4に記載のイセエビ幼生の飼育方法。
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