JP2008179535A - 次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法および該製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液 - Google Patents

次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法および該製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液 Download PDF

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Abstract

【課題】臭素酸イオン濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満であることを特徴とする。式(1):Y<−0.03970X+99.95(上記式(1)中、Xは液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wpp
m)であり、Yは液体塩素(A)の蒸発率(%)である。)
【選択図】図1

Description

本発明は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法および該製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液に関し、詳しくは、BrO3 -の濃度を効率よく低減できる新規な次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法および該製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液に関する。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、漂白剤、殺菌剤、消毒水、各種酸化剤等として、浄水処理や廃水処理、病院、家庭の台所や洗濯等の幅広い分野に使用されている。飲料水等に用いられる水道水を供給する浄水場において、消毒、殺菌用として投入される次亜塩素酸ナトリウムに関し、毒性や臭気を原因とする環境調和性や化学安定性等の問題が重視されてきており、近年特にBrO3 -を低減した次亜塩素酸ナトリウム水溶液が望まれている。
通常、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、水酸化ナトリウム水溶液と、気体塩素とを反応させることにより製造されるが、該気体塩素には気体臭素が含まれており、これが次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の主な原因となっている。
前記気体塩素は通常、工業塩を電気分解することにより製造される。工業塩には塩化ナトリウム以外の種々の不純物(例えば含臭素無機化合物)が含まれているため、工業塩を電気分解して得られる気体塩素には、様々な不純物(例えば気体臭素)が含まれている。この気体塩素を、通常の精製法により精製したのちに次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造に用いたとしても、通常の精製法では臭素と塩素とは物理的性質が類似しているため、気体塩素から気体臭素を除去することは困難であり、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中にはBrO3 -が含有されていた。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の濃度を低減する方法としては、原料として用いる気体塩素の一部を液化し、残存した気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させる方法が検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。前記方法は、塩素と臭素とを比較すると、臭素の方がより液体になりやすいことを利用したものである。
上記方法は、BrO3 -の濃度を低減することは可能であるが、該方法で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液には炭酸ナトリウム(Na2CO3)が比較的多く含まれていた。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に炭酸ナトリウムが含まれていると厳寒期には炭酸ナトリウムの水和物が析出するといった問題を生じるため、上記方法には未だ改善の余地があった。
また、上記方法は気体塩素を原料として用いるため、長期間連続的に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造する際には、気体塩素の原料である工業塩の品質、工業塩の電気分解条件および液化条件を一定に保たなければ原料の気体塩素中に含有される気体臭素の含有量が変動する。原料の気体塩素に含有される気体臭素の含有量が変動すると、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の濃度が変動することで、BrO3 -の濃度の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液が得られるといった問題点があった。このことは、原料の気体塩素中に含まれる気体臭素の含有量を常に測定し、その含有量に応じ、製造条件を変動させることにより、解決することは可能だが、このようにすると手間とコストが上昇するという問題が生じる。
一方、ダイオキシンを除去する目的で気体塩素の液化、それに続く少なくとも一部の気
化を行う次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、ダイオキシンは融点が100〜300℃以上、常温で蒸気圧2.5×10-10Pa〜1×10-2Paの有機物であり、融点が−7.2℃で常圧における沸点が5
8.8℃、常温で蒸気圧3.0×104Paの無機物である臭素と比べ物理化学的性質は
大きく異なることから、ダイオキシンを除去するための製造条件と、気体臭素を除去するための条件とでは当然異なる。また、特許文献3には塩素中の臭素の除去に関しては記載も示唆もない。
特開2005−314132号公報 特開2006−131478号公報 特開2004−51431号公報
本発明は、簡便な方法でBrO3 -の濃度が均一かつ低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ることが可能な、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法および該製造方法によって得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意研究を重ね、本発明を完成させた。
すなわち本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満であることを特徴とする。
また、本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が、有効塩素濃度13.0%換算で20wppm未満であることを特徴とするものであってもよい。
式(1): Y<−0.03970X+99.95
(上記式(1)中、Xは液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wppm)であり、Yは液体塩素(A)の蒸発率(%)である。)
前記液体塩素(A)中の臭素の含有量が80〜600wppmであることが好ましい。
前記第1工程において、液体塩素(A)を圧力が100〜550kPa(ゲージ圧)、温度が−15〜30℃の条件で蒸発させることが好ましい。
前記気体塩素中の気体臭素の含有量が90wppm以下であることが好ましい。
得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のNa2CO3の濃度が0.1重量%未満であることが好ましい。
本発明には上記記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法によって得られることを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液を含む。
本発明の方法によれば、BrO3 -の濃度が低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ること
ができる。
また、本発明の方法は、原料として、液体塩素を用いることにより、従来の塩水を電気分解して得られる気体塩素を直接原料として用いる方法と比べ、電気分解の運転条件および液化条件の違いに影響されることがないため、BrO3 -の濃度を安定して低減することができる。
本発明の方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液はBrO3 -の濃度が低減されているため、従来の各種用途に好適に用いることができ、飲料水等を供給する浄水場においても好ましく用いることができる。
次に本発明について具体的に説明する。
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満であることを特徴とする。
また、本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法は、臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が、有効塩素濃度13.0%換算で20wppm未満であることを特徴とするものを含む。
式(1): Y<−0.03970X+99.95
(上記式(1)中、Xは液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wppm)であり、Yは液体塩素(A)の蒸発率(%)である。)
なお、本発明において次亜塩素酸ナトリウム水溶液をNaClOaqとも記す。また、本発明において圧力を記す際に、特に断りのない場合、該圧力はゲージ圧を示す。
図1に本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法の一例を概略図で示す。
本発明の製造方法においては、液体塩素(A)が気化装置1に供給され、気化装置1内で液体塩素(A)の一部が気化され、気体塩素と、液体塩素(B)とになる(第1工程)。この気体塩素は供給管を通して、反応槽2に供給され、液体塩素(B)は貯蔵槽3へ貯蔵される(第2工程)。反応槽2には水酸化ナトリウム水溶液が供給され、反応槽2内で気体塩素と水酸化ナトリウムとが反応し、BrO3 -の濃度が20wppm未満である次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造することができる(第3工程)。
以下、各工程について詳述する。
〔第1工程〕
本発明に係る第1工程とは、臭素を含む液体塩素(A)を、上記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る工程である。
なお、第1工程において気化せずに残存する液体塩素を、液体塩素(B)と記す。
本発明に用いる液体塩素(A)は、臭素を含有している液体塩素であり、市販品の液体塩素を用いても、工業塩を電気分解して得られる気体塩素(以下、生気体塩素とも記す。)を液化したものを用いても良いが、通常は生気体塩素を液化したものを用いる。本発明
に用いる液体塩素(A)としては、生気体塩素を圧力が0.3〜0.4MPa(ゲージ圧)、温度が3〜10℃の条件で液化し、数日〜数週間分の製造に用いる液体塩素を貯蔵することが可能な貯蔵槽に貯めたものを用いることが、工業的な大量生産の観点から好ましい。貯蔵槽に生気体塩素を液化し、貯蔵することにより、電気分解の条件および液化条件の変化に起因する気体塩素中の気体臭素の含有量の変化に左右されずに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造することができる。
すなわち、従来の電気分解によって得られた生気体塩素をそのまま次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造に用いる方法では、工業塩の品質、電気分解の条件および液化条件の変化によって、気体塩素中の気体臭素の含有量が変化し、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の臭素の含有量が一定にならないという欠点があった。仮に気体塩素中の気体臭素の含有量を常に測定し、その濃度に併せて製造条件をコントロールすれば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を一定にすることは可能となるが、手間やコストが増えるという欠点が存在した。
一方、本発明の製造方法を用いれば、貯蔵槽に予め数日〜数週間分の製造に用いる液体塩素(A)を貯めておくことにより、液体塩素(A)中の臭素の含有量がほぼ一定となり、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度をほぼ一定にすることができる。
本発明に用いる液体塩素(A)は臭素を通常は、80〜600wppm含んでおり、好ましくは100〜400wppmm含んでいる。本発明に用いる液体塩素(A)に含有される臭素の含有量は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を低減するためには少ないほど好ましい。しかし、液体塩素(A)として、通常は生気体塩素を液化して用いるため、工業塩に含有される臭素化合物に由来する臭素を含んでおり、通常の精製では低減することが難しい。そのため上記範囲を下回る濃度の臭素を含んでいる液体塩素(A)を得ようとすると、生気体塩素から液体塩素(A)を得る際に、液化工程以外の別の工程が必要になる場合があり、生産性に劣る傾向がある。一方、液体塩素(A)中の臭素が上記範囲内であれば、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を低減することができ、かつ生産性にすぐれる。
また、本発明の製造方法によると、生気体塩素を液化することなく次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造した場合と比べて、Na2CO3濃度が低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得ることができる。この理由は、生気体塩素中には通常CO2が含まれているが、生気体
塩素を、例えば上記条件により液化することにより、CO2濃度(wppm)の低い液体
塩素(A)を得ることができるためである。つまり、生気体塩素を上記条件で液化しても、CO2はほぼ気体のままであるため、液体塩素(A)のCO2濃度(wppm)は、生気体塩素中のCO2濃度(wppm)と比べて低くすることが可能となる。
本発明の製造方法における第1工程では前述した液体塩素(A)を蒸発率が上記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ、気体塩素を得ることを特徴としている。
本発明者らは、臭素の含有量の異なる種々の液体塩素(A)を用いて、様々な蒸発率で次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造を行った結果、液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wppm)と、液体塩素(A)の蒸発率(%)とが、上記式(1)の関係を満たす条件で、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造することにより、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満となることを見いだした。
上記式(1)を満たす蒸発率で次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造を行うことにより、本発明の製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を低減することができる。本発明の製造方法においては、液体塩素(A)中に含有される臭素
の含有量(wppm)が多いほど、同一の蒸発率で蒸発させた際に、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の濃度が高くなってしまうが、蒸発率の上限を上記式(1)に基づいて決定することにより、BrO3 -の濃度が低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を製造することができる。
ここで蒸発率とは、(気体塩素の質量/液体塩素(A)の質量)×100[%]で表される。
蒸発率は上記式(1)を満たすのであれば特に限定はないが、生産設備の運用面や原料塩素中の臭素の含有量によって最適値が異なり、通常50〜90%であり、好ましくは70〜85%である。本発明において蒸発率が高いほど次亜塩素酸ナトリウム水溶液の生産性がよく、蒸発率が低いほど得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を低減することができる。蒸発率が上記範囲内であれば、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液の生産性と、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の濃度とのバランスに優れている。
例えば、液体塩素(A)中の臭素濃度が80〜95wppmである場合には蒸発率96%以下、好ましくは50〜96%、液体塩素(A)中の臭素濃度が95wppmを超えて105wppm以下である場合には、蒸発率95%以下、好ましくは50〜95%、液体塩素(A)中の臭素濃度が105wppmを超えて203wppm以下である場合には、蒸発率91%以下、好ましくは50〜91%、液体塩素(A)中の臭素濃度が203wppmを超えて395wppm以下である場合には、蒸発率84%以下、好ましくは50〜84%、液体塩素(A)中の臭素濃度が395wppmを超えて600wppm以下である場合には、蒸発率76%以下、好ましくは50〜76%であることが好ましい。
なお、本発明において、液体塩素(A)中の臭素の含有量(wppm)は、液体状態で測定することが困難であるため、例えば気化を行い、水酸化ナトリウム水溶液中に吸収させて次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度として測定することが好ましい。
本発明においては、蒸発率の下限値としては、特に限定が無く、蒸発率が低いほど、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を低減することができる。一方、蒸発率が低いほど、同量の気体塩素を得るためには、多量の液体塩素(A)を供給することが必要になる。よって、蒸発率の下限については、適正な設備効率の観点と、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度とを考慮し、決定することが好ましい。
即ち液体塩素供給量が一定の場合、蒸発率が低くなるほど生産性が低下し、生産性の低下を避けるためには、液体塩素供給量を増やし、反応に供する気体塩素量を確保する必要がある。これでは次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造設備が過大となるため、蒸発率の下限値を設備規模に合わせて決定することが好ましい。
液体塩素(A)中の臭素の含有量が100〜600wppmの範囲において、式(1)で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満である蒸発率75%時の液体塩素供給量を基準とした場合、当該蒸発率において反応に供する気体塩素量が同一になるための液体塩素供給量と蒸発率75%時の液体塩素供給量との比が概ね20倍以下、好ましくは15倍以下となることを設備上の指標とすることができる。
なお、液体塩素(A)を上記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させる際の条件は通常、圧力が100〜550kPa、温度が−15〜30℃であり、冷媒設備を設けることが可能ならば圧力が100〜230kPa、温度が−15〜−2℃でも運用可能である。
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法においては、第1工程により得られる
気体塩素は液体塩素(A)と比べて、高沸点成分(wppm)の含有量を低減することができる。
すなわち上記蒸発させる際の条件では、液体の塩素の一部は気化するが、高沸点成分は必ずしも気化しないため、気体塩素に含まれる高沸点成分は、液体塩素(A)に含まれる高沸点成分と比べて低減することができる。なお、高沸点成分としては、含塩素無機化合物、含塩素有機化合物等が挙げられる。
第1工程により、高沸点成分の含有量の少ない気体塩素を得ることができるため、本発明の製造方法により得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含まれる高沸点成分量を、従来の製造方法で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液と比べて低減することができる。
〔第2工程〕
本発明に係る第2工程とは、第1工程において得られた気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する工程である。
気体塩素と液体塩素(B)との分離は通常、気体塩素を配管を通して、反応槽に導入し、液体塩素(B)を液体塩素貯蔵槽等へ移動させることにより行われる。第1工程において液体塩素(A)に含まれていた臭素の大半は液体塩素(B)に残存するため、気体塩素中の気体臭素の含有量を低減することができる。上記第1工程によって得た気体塩素中の気体臭素の含有量は通常、90wppm以下であり、好ましくは50wppm以下、より好ましくは25wppm以下である。本発明において、気体塩素中に含有される気体臭素は少ないほど、得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が低くなるため好ましく、気体塩素中に含有される気体臭素の下限としては特に限定はない。
なお、気体塩素中に含有される気体臭素の含有量は、気体塩素をサンプリングし、気体臭素の含有量を測定してもよいが、本発明の製造方法により製造される次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含まれる臭素酸の含有量と、有効塩素濃度とから換算値として求めることもできる。前記換算値は、下記式(2)を用いて算出することができる。
Figure 2008179535
なおBr2の分子量は159.818、BrO3 -の分子量は127.910として算出
した。
〔第3工程〕
本発明に係る第3工程とは、分離した気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る工程である。
本発明に用いる水酸化ナトリウム水溶液としては、通常は、電気分解で得られた濃度1
5〜50質量%のものを使用し、適宜水で希釈して濃度調整をしたものを使用することもできる。
気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させるには、通常は大気圧下で、温度25〜30℃に保持した水酸化ナトリウム水溶液中へ気体塩素を導入する方法が挙げられる。
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法によって得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満であり、好ましくは10wppm以下であり、特に好ましくは5wppm以下である。BrO3 -の濃度の下限としては特に限定はない。
なお、本発明において上記次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度は日本水道協会規格JWWA Z 109:2005に準拠してイオンクロマトグラフィー分析装置により測定される。詳しくは、濃度既知の臭素酸カリウム水溶液を複数調整し、該水溶液のBrO3 -の含有量をイオンクロマトグラフィー分析装置で測定し、検量線を作成する方法が挙げられる。
なお上記方法により行った、後述の実施例におけるBrO3 -の濃度分析の検出限界が5wppmであるため、それより低いBrO3 -の濃度は測定できていないが、後述の実施例においては、その液体塩素中の臭素の含有量や液化率等の条件を調節することで、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の含有量が5wppm未満となることを確認している。
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法によって得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の有効塩素濃度は通常10〜14%であり、上述のように次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満である。
しかし、上述の水酸化ナトリウム水溶液として、上記範囲よりも高濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合等には、有効塩素濃度が上記範囲を上回る次亜塩素酸ナトリウム水溶液が得られる場合がある。この場合には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm以上となることがある。このような場合であっても、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を13.0%と換算した際のBrO3 -の濃度が20wppm未満であれば、BrO3 -の濃度が低減された次亜塩素酸ナトリウム水溶液として用いることができる。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を13.0%と換算した際のBrO3 -濃度は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度を上述の日本水道協会規格JWWA
Z 109:2005に準拠して測定したのちに、下記式(3)に従って算出することにより求められる。
Figure 2008179535
なお、本発明において、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度は、日本水道協会規格JWWA K 120:2005に基づいて測定することができる。
また、本発明の製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の炭酸ナトリウム(Na2CO3)の濃度は、通常0.1重量%未満である。Na2CO3の濃度が1重量%を超えると、厳寒期に炭酸ナトリウムの水和物が析出するといった問題が生じるためNa2CO3の濃度は1重量%未満であることが望まれる。本発明の製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、Na2CO3の濃度が通常0.1重量%未満であるため、炭酸ナトリウムの水和物が析出する恐れがないため好ましい。
また次亜塩素酸ナトリウム水溶液に含まれるNa2CO3の濃度を低くすることにより、原料として用いる水酸化ナトリウムの使用量を低減することができるため、生産性の観点からもNa2CO3の濃度は低い程好ましく、0.1重量%未満であることが特に好ましい。
本発明の製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のNa2CO3の濃度が、従来の製造方法によって得られる次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のNa2CO3の濃度と比べ低い理由としては、上述のように、原料として液体塩素(A)を用いるためである。
なお、後述のNa2CO3の濃度の分析における検出限界が0.1重量%であるため、それよりも低いNa2CO3の濃度の測定はできていないが、本発明においては、0.1重量%未満であれば、生産性に優れると判断できる。
なお、Na2CO3の濃度は次亜塩素酸ナトリウム水溶液に過酸化水素水を加えて有効塩素分を分解後、フェノールフタレイン溶液を指示薬として塩酸溶液で中和滴定した液に、メチルオレンジ溶液を指示薬として塩酸で滴定し、メチルオレンジ溶液を指示薬として滴定に要した塩酸溶液量を用いて炭酸ナトリウム濃度を算出する方法が挙げられる。
上記製造方法で得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、BrO3 -の濃度が低く、またNa2CO3の濃度も低くすることが可能であるため、浄水場における、消毒、殺菌用等の様々な分野に用いることができる。
〔実施例〕
次の本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔分析方法〕
(I)イオンクロマトグラフィー分析装置によるBrO3 -の測定
BrO3 -の含有量は日本水道協会規格JWWA Z 109:2005に準拠してイオンクロマトグラフィー分析装置による測定を行った。
(II)酸化還元滴定による有効塩素濃度の測定
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度は、日本水道協会規格JWWA K 120:2005に基づいて測定した。
すなわち、次亜塩素酸ナトリウム水溶液によう化カリウムを加えて酢酸酸性にて、よう素を遊離させ、でんぷん溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、滴定に要したチオ硫酸ナトリウム溶液量を用いて有効塩素濃度を算出した。
(III)中和滴定による炭酸ナトリウム濃度の測定
次亜塩素酸ナトリウム水溶液に過酸化水素水を加えて有効塩素分を分解後、フェノールフタレイン溶液を指示薬として塩酸溶液で中和滴定した液に、メチルオレンジ溶液を指示
薬として塩酸で滴定した。メチルオレンジ溶液を指示薬として滴定に要した塩酸溶液量を用いて炭酸ナトリウム濃度を算出した。
臭素を105wppm含む液体塩素1000kgを温度が25℃、圧力が400kPa、蒸発率が8%の条件で気化させ、装置の上部の供給管から分岐した配管により気体塩素を採集した。
水酸化ナトリウム20%水溶液1,225gを反応容器に満たし、反応熱で温度が上昇しないように水溶液温度を27℃に保ちつつ前記気体塩素を温度24℃、流量1.59L/分で35分間反応容器へ導入し、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得た。
得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液1,387gは酸化還元滴定法による分析で有効塩素濃度11.7%、イオンクロマトグラフ法による分析でBrO3 -の濃度は5wppm未満(検出限界以下)、中和滴定による分析で炭酸ナトリウム濃度は0.1%未満(検出限界以下)であった。
液体塩素(A)中に含まれる臭素の量、蒸発率、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に含有されるBrO3 -の濃度、有効塩素濃度、有効塩素濃度13.0%換算のBrO3 -の濃度、BrO3 -の濃度から換算した気体塩素中の気体臭素の量、Na2CO3の濃度、有効塩素濃度を表1に示す。
実施例1と同様の液体塩素を用い、蒸発率を51%とした以外は実施例1と同様に行った。
結果を表1に示す。
冷媒設備を設け、蒸発は温度が−5℃、圧力が200kPa、蒸発率を80%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
実施例1と同様の液体塩素を用い、蒸発率を90%とした以外は実施例1と同様に行った。
結果を表1に示す。
臭素を83wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を96%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を203wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を85%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を395wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を75%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を395wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を85%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を590wppm含む液体塩素1000kgを用い、冷媒設備を設け、蒸発は温度が−5℃、圧力が200kPa、蒸発率を51%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を590wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を75%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
臭素を83wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を3%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1と同様の液体塩素を用い、蒸発率を96%とした以外は実施例1と同様に行った。
結果を表1に示す。
〔比較例2〕
臭素を395wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を90%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
〔比較例3〕
臭素を590wppm含む液体塩素1000kgを用い、蒸発率を85%とした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
[比較例4]
液体塩素(A)に変えて、臭素を83wppm含む生気体塩素を用い、該生気体塩素を温度が3℃、圧力が300kPa、液化率が99.4%の条件で連続的に液化させ、残存した気体塩素を水酸化ナトリウム水溶液と反応させた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
なお、液化率が99.4%とは、生気体塩素100重量%あたり、99.4重量%を液化し、0.6重量%が気体塩素として残存することを意味する。
Figure 2008179535
本発明の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法の実施態様を示す概念図である。
符号の説明
1・・・気化装置
2・・・反応槽
3・・・液体塩素貯蔵槽
(A) Cl2[L]・・・液体塩素(A)
Cl2[G]・・・気体塩素
(B) Cl2[L]・・・液体塩素(B)
NaOHaq・・・水酸化ナトリウム水溶液
NaClOaq・・・次亜塩素酸ナトリウム水溶液

Claims (7)

  1. 臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、
    第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、
    第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、
    得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が20wppm未満であることを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
    式(1): Y<−0.03970X+99.95
    (上記式(1)中、Xは液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wppm)であり、Yは液体塩素(A)の蒸発率(%)である。)
  2. 臭素を含む液体塩素(A)を、下記式(1)を満たす蒸発率で蒸発させ気体塩素を得る第1工程と、
    第1工程において得た気体塩素と蒸発せずに残存する液体塩素(B)とを分離する第2工程と、
    第2工程において分離された気体塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応させ次亜塩素酸ナトリウム水溶液を得る第3工程とを有し、
    得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のBrO3 -の濃度が、有効塩素濃度13.0%換算で20wppm未満であることを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
    式(1): Y<−0.03970X+99.95
    (上記式(1)中、Xは液体塩素(A)に含まれる臭素の含有量(wppm)であり、Yは液体塩素(A)の蒸発率(%)である。)
  3. 前記液体塩素(A)中の臭素の含有量が80〜600wppmであることを特徴とする請求項1または2に記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
  4. 前記第1工程において、液体塩素(A)を圧力が100〜550kPa(ゲージ圧)、温度が−15〜30℃の条件で蒸発させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
  5. 前記気体塩素中の気体臭素の含有量が90wppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
  6. 得られた次亜塩素酸ナトリウム水溶液中のNa2CO3の濃度が0.1重量%未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造方法によって得られることを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム水溶液。
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