本発明のゴルフボールは、コアとカバーとを有するゴルフボールであって、前記カバーは、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタン(A)と、少なくともイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)とを含有するカバー用組成物により形成されていることを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
まず、熱可塑性ポリウレタン(A)について説明する。本発明で使用する熱可塑性ポリウレタン(A)は、分子内にウレタン結合を複数有し熱可塑性を示すものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させることによって、ウレタン結合が分子内に形成された生成物であり、必要に応じて、さらに低分子量のポリオールやポリアミンなどにより鎖長延長反応させることにより得られるものである。
前記熱可塑性ポリウレタン(A)を構成するポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)等の芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)等の脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネート等のうちの1種、または、2種以上の混合物などである。
耐擦過傷性を向上するという観点からは、熱可塑性ポリウレタン(A)のポリイソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートを使用することが好ましい。芳香族ポリイソシアネートを使用することにより、得られるポリウレタンの機械的特性が向上し、耐擦過傷性に優れるカバーが得られる。また、耐候性を向上するという観点からは、熱可塑性ポリウレタン(A)のポリイソシアネート成分として、非黄変性のポリイソシアネート(TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI、H12MDI、NBDIなど)を使用することが好ましく、さらに好ましくは4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)を使用する。4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)は剛直な構造を有しており、得られるポリウレタンの機械的特性が向上し、耐擦過傷性に優れるカバーが得られるからである。
前記熱可塑性ポリウレタン(A)を構成するポリオール成分としては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール(例:1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールなど)、ジプロピレングリコール、ブタンジオール(例:1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオールなど)、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、1,6−シクロへキサンジメチロール、アニリン系ジオール、ビスフェノールA系ジオール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオール;ペンタエリスリトール、ソルビトールなどのテトラオールまたはヘキサオールなどが挙げられる。高分子量のポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などの縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートなどのポリカーボネートポリオール;及びアクリルポリオールなどが挙げられ、上述したポリオールの少なくとも2種以上の混合物であってもよい。
高分子量のポリオールの数平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、400以上であることが好ましく、より好ましくは1,000以上である。高分子量ポリオールの数平均分子量が小さくなりすぎると、得られるポリウレタンが硬くなり、ゴルフボールの打球感が低下するからである。高分子量ポリオールの数平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、10,000、より好ましくは8,000である。
また、必要に応じて前記熱可塑性ポリウレタンを構成するポリアミンは、少なくとも2以上のアミノ基を有するものであれば特に限定されない。前記ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族系ポリアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンなどの脂環式系ポリアミン、及び、芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
前記芳香族ポリアミンは、少なくとも2以上のアミノ基が芳香環に直接または間接的に結合しているものであれば、特に限定されない。ここで、間接的に結合しているとは、アミノ基が、例えば低級アルキレン基を介して芳香環に結合していることをいう。前記芳香族ポリアミンとしては、例えば、1つの芳香環に2以上のアミノ基が結合している単環式芳香族ポリアミンでもよいし、少なくとも1つのアミノ基が1つの芳香環に結合しているアミノフェニル基を2個以上含む多環式芳香族ポリアミンでもよい。
前記単環式芳香族ポリアミンとしては、例えば、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミンなどのアミノ基が芳香環に直接結合しているタイプ;キシリレンジアミンのようなアミノ基が低級アルキレン基を介して芳香環に結合しているタイプなどが挙げられる。また、前記多環式芳香族ポリアミンとしては、少なくとも2つのアミノフェニル基が直接結合しているポリ(アミノベンゼン)でもよいし、少なくとも2つのアミノフェニル基が低級アルキレン基やアルキレンオキシド基を介在して結合していてもよい。これらのうち、低級アルキレン基を介して2つのアミノフェニル基が結合しているジアミノジフェニルアルカンが好ましく、4,4’−ジアミノジフェニルメタン及びその誘導体が特に好ましい。
前記熱可塑性ポリウレタン(A)の構成態様としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分によって構成されている態様;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分と低分子量ポリオール成分によって構成されている態様;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分と低分子量ポリオール成分とポリアミン成分とによって構成されている態様;ポリイソシアネート成分と高分子量ポリオール成分とポリアミン成分とによって構成されている態様などを挙げることができる。
次に、少なくともイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)について説明する。
前記ウレタンプレポリマー(b−1)としては、分子内にウレタン結合を複数有するとともに、イソシアネート基を2つ以上有する化合物であって、前記熱可塑性ポリウレタン(A)に比べて分子量が低いものであれば特に限定されず、例えば、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを、ポリイソシアネート成分が過剰な条件で反応させることによって、ウレタン結合が分子内に形成されたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを挙げることができる。なお、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の配合比は、ポリオール成分のヒドロキシ基(OH)に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基(NCO)のモル比率(NCO/OH)は、1.1以上とすることが好ましく、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上であり、3.0以下とすることが好ましく、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。
前記ウレタンプレポリマー(b−1)の原料として用いられるポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、前記熱可塑性ポリウレタン(A)を構成するポリイソシアネート成分として例示したものを挙げることができる。前記ウレタンプレポリマー(b−1)の原料として用いられるポリオール成分としては、ヒドロキシル基を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、前記熱可塑性ポリウレタン(A)を構成するポリオール成分として例示した低分子量のポリオールや高分子量のポリオールなどを挙げることができる。
前記ウレタンプレポリマー(b−1)として用いられるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーとしては、TDI系ウレタンプレポリマー;MDI系ウレタンプレポリマー;H12MDI系ウレタンプレポリマーなどを挙げることができ、MDI系ウレタンプレポリマー;H12MDI系ウレタンプレポリマーが好ましく用いられる。ここで、前記TDI系ウレタンプレポリマーとは、TDIまたはこれを主成分とするポリイソシアネート化合物とポリオール(好ましくはPTMG)とを反応することにより得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのことをいい、前記MDI系ウレタンプレポリマーとは、MDIまたはこれを主成分とするポリイソシアネート化合物とポリオール(好ましくはPTMG)とを反応することにより得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのことをいい、H12MDI系ウレタンプレポリマーとは、H12MDIまたはこれを主成分とするポリイソシアネート化合物とポリオール(好ましくはPTMG)とを反応することにより得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーのことをいう。
ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを反応させる際には、ウレタン反応で使用される従来公知の触媒を用いることができる。前記触媒としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロへキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒;アゼライン酸、オレイン酸、アジピン酸などの有機カルボン酸類などが挙げられる。
前記ウレタンプレポリマ(b−1)のイソシアネート基量(NCO%)は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が更に好ましく、10.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下が更に好ましい。ウレタンプレポリマー(b−1)のイソシアネート基量(NCO%)が、低すぎると架橋効果がなく、耐擦過傷性が悪くなるおそれがあり、高すぎるとカバー用組成物の粘度が過剰に上昇し成形性が悪くなるおそれがある。なお、ウレタンプレポリマー(b−1)のイソシアネート基量(NCO%)は、(ウレタンプレポリマー(b−1)中のイソシアネート基のモル数×42(NCOの分子量))/ウレタンプレポリマー(b−1)の総量(g)×100で表わすことができる。
前記ウレタンプレポリマー(b−1)の数平均分子量としては、例えば、1000以上が好ましく、1500以上がより好ましく、2000以上が更に好ましく、30000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましい。数平均分子量を1000以上とすることによって、架橋反応時の架橋点間距離が長くなって、得られるポリウレタンカバーが、硬くなり過ぎず耐久性が向上する。一方、数平均分子量が30000を超えると、架橋点密度が低くなって、得られるカバーの耐擦過傷性が低下する場合がある。
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリイソシアネート成分およびポリオール成分としては、熱可塑性ポリウレタン(A)を構成する成分として上記したものの中から適宜選択して使用することができる。
前記ウレタンプレポリマーを構成するポリオール成分の数平均分子量としては、650以上が好ましく、700以上がより好ましく、800以上がさらに好まく、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましく、3000以下がさらに好ましい。数平均分子量を650以上とすることによって、架橋反応時の架橋点間距離が長くなって、得られるポリウレタンカバーが、硬くなり過ぎず耐久性が向上する。一方、数平均分子量が10000を超えると、架橋点密度が低くなって、得られるカバーの耐擦過傷性が低下する場合がある。前記ウレタンプレポリマー(b−1)やポリオール成分の数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとしてTSK−GEL SUPERH2500(東ソー株式会社製)2本を用いて測定すればよい。
本発明で使用するウレタンプレポリマー(b−1)のイソシアネート基の官能基数は、2以上であれば特に限定されず、例えば、3官能あるいは4官能であっても良い。3官能以上の多官能のウレタンプレポリマーは、ウレタンプレポリマーを構成するポリオールまたはポリイソシアネートとして3官能以上のものを使用することによって得ることができる。
3官能以上のポリイソシアネートとしては、例えば、ポリメリックMDI、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの3官能イソシアネート;ジイソシアネートのイソシアヌレート体;ジイソシアネートとトリメチロールプロパンあるいはグリセリンなどの低分子量トリオールとを反応させて得られるアダクト体(好ましくは、遊離ジイソシアネートを除去されている);アロハネート変性体;ビュレット変性体などを挙げることができる。前記アロハネート変性体とは、例えば、ジイソシアネートと低分子量ジオールとの反応によって形成されるウレタン結合にさらにジイソシアネートが反応して得られる3官能ポリイソシアネートであり、前記ビュレット変性体とは、例えば、ジイソシアネートと低分子量ジアミンとの反応によって形成されるウレア結合にさらにジイソシアネートが反応して得られる3官能ポリイソシアネートである。
これらの中でも、本発明では、下記式(1)で示される2官能のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを用いることが好ましい態様である。
ポリイソシアネート−(ポリオール−ポリイソシアネート)n (1)
式(1)中、連結数nは、1以上10以下が好ましく、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3以下である。連結数nを1以上とすることによって、架橋反応時の架橋点間距離が長くなって、得られるポリウレタンカバーが、硬くなり過ぎず耐久性が向上する。一方、連結数nが10を超えると、架橋点密度が低くなって、得られるカバーの耐擦過傷性が低下する場合がある。
前記イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)としては、イソシアネート基に対して、実質的に不活性なもの(イソシアネート基に対する活性水素を実質的に有していないもの)であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、エステルゴム、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(好ましくはポリエチレンテレフタレート)、ポリオレフィン、ポリアセタール、二フッ化樹脂、四フッ化樹脂、アイオノマー樹脂などが挙げられる。これらの中でも、前記熱可塑性樹脂(b−2)として、ゴム弾性を有する熱可塑性エラストマーが好ましく、例えば、ポリエステル系エラストマー、アクリル系エラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。前記ポリエステル系エラストマーとしては、例えば、東レ・デュポン(株)の「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3046」、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」など)」を挙げることができ、前記スチレン系エラストマーとしては、三菱化学(株)の「ラバロン(登録商標)」を挙げることができる。
前記ポリイソシアネート混合物(B)中のウレタンプレポリマー(b−1)と熱可塑性樹脂(b−2)との配合比率(合計100質量%)は、ウレタンプレポリマー(b−1)/熱可塑性樹脂(b−2)=5質量%〜50質量%/50質量%〜95質量%が好ましく、より好ましくは10質量%〜50質量%/50質量%〜90質量%であり、さらに好ましくは20質量%〜45質量%/55質量%〜80質量%である。配合比率が上記範囲外の場合には、所望の架橋構造が得られなかったり、架橋密度が高くなりすぎて、耐久性が損なわれる場合があるからである。
前記ポリイソシアネート混合物(B)のイソシアネート基量(NCO%)は、ポリイソシアネート混合物(B)中のウレタンプレポリマー(b−1)のイソシアネート基量(NCO%)×ポリイソシアネート混合物(B)中のウレタンプレポリマー(b−1)の質量(g)/ポリイソシアネート混合物(B)の総量(g)で表わすことができる。前記イソシアネート基量(NCO%)は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が更に好ましく、10.0質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下が更に好ましい。
前記ポリイソシアネート混合物(B)のイソシアネート基量(NCO%)が、低すぎると架橋が少なくなり、耐擦過傷性に効果がなくなるおそれがあり、高すぎるとカバー用組成物の粘度が高くなり成形性が悪くなるおそれがある。
本発明で使用するカバー用組成物は、熱可塑性ポリウレタン(A)100質量部に対して、ポリイソシアネート混合物(B)を1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上、50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下含有するものであることが好ましい。前記ポリイソシアネート混合物(B)が上記範囲外の場合には、十分な架橋構造が得られなかったり、架橋密度が高くなりすぎて、耐久性が損なわれる場合があるからである。
本発明で使用するカバー用組成物は、基材樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタン(A)と、少なくともイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)とを含有することが好ましい。ここで、基材樹脂成分とは、カバー用組成物中に含まれる全樹脂成分に占める配合比率が50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上の成分であることを意味する。また、本発明で使用するカバー用組成物が、基材樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタン(A)と、少なくともイソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)のみを含有することも好ましい態様である。
本発明においてカバー用組成物の樹脂成分として、本発明の効果を損なわない範囲で使用できる他の樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂や熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。前記アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物を挙げることができる。前記アイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(登録商標)」、さらにデュポン(株)から市販されている「サーリン(登録商標)」、エクソンモービル化学(株)から市販されている「アイオテック(登録商標)」などを挙げることができる。前記熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えばアルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリスチレンエラストマー等が挙げられる。
本発明で使用するカバー用組成物は、上述した樹脂成分等の他、酸化チタンや青色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下、より好ましくは8質量部以下であることが望ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
本発明のゴルフボールの製造方法では、熱可塑性ポリウレタン(A)とウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)とを配合してカバー用組成物を得る。カバー用組成物の配合は、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。カバー用組成物を配合する態様としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン(A)に、酸化チタンなどのカバー用添加剤を混合し、押出して、予め白ペレットを調製し、前記白ペレットとポリイソシアネート混合物(B)のペレットとをドライブレンドする態様;熱可塑性ポリウレタン(A)とポリイソシアネート混合物(B)と、酸化チタンなどのカバー用添加剤とを混合し、押出して、予め白ペレットを調製する態様;(B)ポリイソシアネート混合物と、酸化チタンなどのカバー用添加剤とを混合し、押出して、予め白ペレットを調製し、前記白ペレットと、熱可塑性ポリウレタン(A)のペレットとをドライブレンドする態様などを挙げることができる。
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバー用組成物をコア上に射出成形してカバーを成形する場合、カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、加熱溶融されたカバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、980KPa〜1,500KPaの圧力で型締めした金型内に、150℃〜230℃に加熱溶融したカバー用組成物を0.1秒〜1秒で注入し、15秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。また、カバーが成形されたゴルフボールを、40℃以上で4時間〜96時間ポストキュアすることにより、さらに架橋促進させることもできる。
ここで、本発明のゴルフボールは、前記熱可塑性ポリウレタン(A)とポリイソシアネート混合物(B)とを用いることによって、カバー成形時には架橋反応を抑制しつつ、カバー成形後に架橋反応を進めることによって、ゴルフボールの生産性を低下させることなく、カバーの耐擦過傷性を向上させるものであるが、カバー成形後に架橋されているかどうかは、例えば、以下のようにして確認することができる。
ポリイソシアネート混合物(B)によって架橋された熱可塑性ポリウレタン(A)は、直鎖状の熱可塑性ポリウレタン(A)を溶解する溶媒に不溶性を示す。直鎖状の熱可塑性ポリウレタン(A)を溶解する溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)などを挙げることができる。すなわち、架橋されていない熱可塑性ポリウレタン(A)は前記溶液に容易に溶解するが、ポリイソシアネート混合物(B)によって架橋されると前記溶液に対して不溶となるため、これにより架橋の有無を確認することができる。
また、ポリイソシアネート混合物(B)によって架橋された熱可塑性ポリウレタン(A)には、アロハネート結合またはビュレット結合が形成されているが、これらの結合は、熱可塑性ポリウレタンの主鎖を構成するウレタン結合やウレア結合に比べて弱い。そのため、例えば、n−ブチルアミンのDMF溶液で処理したり、あるいは、熱処理によって、架橋構造を形成するアロハネート結合およびビュレット結合を切断することができる。
前記n−ブチルアミンのDMF溶液の濃度としては、0.01mol/l〜0.25mol/lが好ましく、0.05mol/lのDMG溶液がより好ましい。前記熱処理としては、例えば、130℃〜150℃で2時間〜4時間程度熱処理することが好ましい。
なお、熱可塑性ポリウレタンがどのようなポリイソシアネート混合物によって架橋されているかは、n−ブチルアミンのDMF溶液または熱処理した被処理物を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、核磁気共鳴装置(NMR)などにより分析することにより確認することができる。
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、ペイント層やマークを形成することもできる。
本発明において、ゴルフボールのカバーの厚みは、2.0mm以下が好ましく、1.6mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましい。2.0mm以下とすることによって、ゴルフボールの反発性が高くなり、トータルの飛距離が長くなるからである。カバーの厚みの下限は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1mmである。0.1mm未満では、カバーの成形が困難になる虞があるからである。
本発明のゴルフボールのカバーのスラブ硬度は、ショアD硬度で20以上であり、より好ましくは25以上であり、さらに好ましくは30以上であって、60以下であって、より好ましくは55以下であり、さらに好ましくは50以下であることが望ましい。カバーのスラブ硬度を20以上とすることによって、反発性(飛距離)及びスピン性能に優れるゴルフボールが得られる。一方、スラブ硬度を60以下とすることによって、ゴルフボール打撃時の打球感が向上する。ここで、カバーのスラブ硬度とは、カバー用組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
次に、本発明のゴルフボールのコアの好ましい態様について説明する。
本発明のゴルフボールのコアの構造としては、例えば、単層のコア、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコア、センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアなどを挙げることができる。また、コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。一方、センターの形状としては、球状が一般的であるが、球状センターの表面を分割するように突条が設けられていても良く、例えば、球状センターの表面を均等に分割するように突条が設けられていても良い。前記突条を設ける態様としては、例えば、球状センターの表面にセンターと一体的に突条を設ける態様、あるいは、球状センターの表面に突条の中間層を設ける態様などを挙げることができる。
前記突条は、例えば、球状センターを地球とみなした場合に、赤道と球状センター表面を均等に分割する任意の子午線とに沿って設けられることが好ましい。例えば、球状センター表面を8分割する場合には、赤道と、任意の子午線(経度0度)、および、斯かる経度0度の子午線を基準として、東経90度、西経90度、東経(西経)180度の子午線に沿って設けるようにすれば良い。突条を設ける場合には、突条によって仕切られる凹部を、複数の中間層、あるいは、それぞれの凹部を被覆するような単層の中間層によって充填するようにして、コアの形状を球形とするようにすることが好ましい。前記突条の形状は、特に限定されることなく、例えば、円弧状、あるいは、略円弧状(例えば、互いに交差あるいは直行する部分において切欠部を設けた形状)などを挙げることができる。
本発明のゴルフボールのコアまたはセンターには、従来より公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を採用することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤、および、充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。コアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、カバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的にカバー性能が低下する箇所が生じるからである。
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらの中でも、特に、反発に有利なシス結合が40%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。0.2質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、反発性が低下する傾向があり、3質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を増加する必要があり、反発性が不足気味になる。
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸又はその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、又は、これらの金属塩を挙げることができる。前記金属塩を構成する金属としては、例えば、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、反発性が高くなるということから、亜鉛を使用することが好ましい。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であって、50質量部以下、より好ましくは40質量部以下であることが望ましい。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が50質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下する虞がある。
コア用ゴム組成物に含有される充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの比重を1.0〜1.5の範囲に調整するための比重調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、50質量部以下、より好ましくは35質量部以下であることが望ましい。充填剤の配合量が2質量部未満では、重量調整が難しくなり、50質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤、及び、充填剤に加えて、さらに、有機硫黄化合物、老化防止剤、又は、しゃく解剤等を適宜配合することができる。
前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類を好適に使用することができる。前記ジフェニルジスルフィド類としては、例えば、ジフェニルジスルフィド;ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィド等のモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド等のジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィド等のトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド等のテトラ置換体;ビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィド等のペンタ置換体等が挙げられる。これらのジフェニルジスルフィド類はゴム加硫体の加硫状態に何らかの影響を与えて、反発性を高めることができる。これらの中でも、特に高反発性のゴルフボールが得られるという点から、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドを用いることが好ましい。ジフェニルジスルフィド類の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
前記老化防止剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成形条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱するか、あるいは130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
本発明のゴルフボールのコアの直径は、39.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは39.5mm以上、さらに好ましくは40.8mm以上である。コアの直径が39.0mm未満では、カバーが厚くなり過ぎて反発性が低下するからである。また、コアの直径の上限は、特に限定されないが、42.2mmであることが好ましく、より好ましくは42.0mmであり、さらに好ましくは41.8mmである。コアの直径が42.2mmを超えると相対的にカバーが薄くなり過ぎて、カバーによる保護効果が十分に得られないからである。
また、前記コアは、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量が2.50mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.60mm以上であり、さらに好ましくは2.70mm以上である。上記変形量が小さすぎると、コアが硬くなって打球感が低下する傾向がある。一方、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量の上限は、特に限定されないが、3.20mmであることが好ましく、より好ましくは3.10mmであり、さらに好ましくは3.00mmである。前記変形量が大きすぎると、柔らかくなりすぎて打球感が重く感じられる場合がある。
本発明のゴルフボールのコアとして、表面硬度が中心硬度より大きいコアを使用することも好ましい態様である。例えば、多層コア構造とすることによって、容易にコアの表面硬度を中心硬度より大きくすることができる。コアの表面硬度と中心硬度との硬度差は、ショアD硬度で20以上であることが好ましく、さらに好ましくは25以上である。コアの表面硬度を中心硬度より大きくすることによって、打出角が高くなり、スピン量が低くなって、飛距離が向上する。また、コアの表面硬度と中心硬度とのショアD硬度差の上限は、特に限定されないが、40であることが好ましく、より好ましくは35である。硬度差が大きくなりすぎると、耐久性が低下する虞があるからである。
さらに、前記コアの中心硬度は、ショアD硬度で30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上であり、さらに好ましくは35以上である。コアの中心硬度がショアD硬度で30未満であると、軟らかくなりすぎて反発性が低下する場合がある。また、コアの中心硬度は、ショアD硬度で50以下であることが好ましく、より好ましくは48以下であり、さらに好ましくは45以下である。前記中心硬度がショアD硬度で50を超えると、硬くなり過ぎて、打球感が低下する傾向があるからである。本発明において、コアの中心硬度とは、コアを2等分に切断して、その切断面の中心点についてスプリング式硬度計ショアD型で測定した硬度を意味する。
本発明のゴルフボールのコアの表面硬度は、ショアD硬度で45以上であることが好ましく、より好ましくは50以上であり、さらに好ましくは55以上である。前記表面硬度が45より小さいと、軟らかくなり過ぎて、反発性が低下する場合がある。また、コアの表面硬度は、ショアD硬度で65以下であることが好ましく、より好ましくは62以下であり、さらに好ましくは60以下である。前記表面硬度がショアD硬度で65超であると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下する場合があるからである。
本発明のゴルフボールのコアは、PGAコンプレッションが、65以上であることが好ましく、より好ましくは70以上である。PGAコンプレッションが65未満であると、反発性が低下する。また、柔らかくなり過ぎて、打球感が重くなるからである。PGAコンプレッションの上限は、特に限定されるものではないが、115が好ましく、より好ましくは110である。PGAコンプレッションが115を超えると、硬くなりすぎて、打球感が低下するからである。
本発明のゴルフボールの構造は、コアとカバーとを有するものであれば、特に限定されず、単層のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する単層の中間層とからなるコアと前記コアを被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、センターと前記センターを被覆する複数もしくは複層の中間層とからなるコアと前記コアを被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボール、或いは、糸巻きコアとカバーとを有する糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できるからである。これらの中でも、本発明は、単層のコアと前記コアを被覆するカバーとを有するツーピースゴルフボールに好適に適用できる。
本発明のゴルフボールが、スリーピース、または、マルチピースゴルフボールである場合には、中間層を構成する材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂;ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、アイオノマー樹脂が好適である。
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、エチレンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、または、これらの混合物を挙げることができる。
前記α,β−不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。前記エチレンとα,β−不飽和カルボン酸との共重合体や、エチレンとα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられるが、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウムイオンが反発性、耐久性等から好ましく用いられる。
前記中間層には、上記樹脂成分に加えてさらに、硫酸バリウム、タングステン等の比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
本発明のゴルフボールが、糸巻きゴルフボールの場合、コアとして糸巻きコアを用いれば良い。斯かる場合、糸巻きコアとしては、例えば、上述したコア用ゴム組成物を硬化させてなるセンターとそのセンターの周囲に糸ゴムを延伸状態で巻き付けることによって形成した糸ゴム層とから成るものを使用すればよい。また、前記センター上に巻き付ける糸ゴムは、糸巻きゴルフボールの糸巻き層に従来から使用されているものと同様のものを使用することができ、例えば、天然ゴムまたは天然ゴムと合成ポリイソプレンに硫黄、加硫助剤、加硫促進剤、老化防止剤等を配合したゴム組成物を加硫することによって得られたものを用いてもよい。糸ゴムはセンター上に約10倍に引き伸ばして巻きつけて糸巻きコアを作製する。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)耐擦過傷性
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットに市販のピッチングウエッジを取り付け、ヘッドスピード36m/秒でボールの2箇所を各1回打撃し、打撃部を観察して、4段階で評価した。
評価基準
◎:ゴルフボールの表面にほとんど傷がない。
○:ゴルフボールの表面に傷がわずかに生じる。
△:ゴルフボールの表面が少し削れており、毛羽立ちが生じている。
×:ゴルフボールの表面がかなり削れており、毛羽立ちが目立つ。
(2)耐久性
ツルーテンパー社製のスイングロボットにメタルヘッド製#W1ドライバーを取り付け、各ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒で打撃して衝突板に衝突させた。これを繰り返して、ゴルフボールが壊れるまでの打撃回数を測定した。各ゴルフボールの耐久性は、ゴルフボールNo.15の打撃回数を100として、各ゴルフボールについての打撃回数を指数化した値で示した。指数化された値が大きいほど、ゴルフボールが耐久性に優れていることを示す。
(3)スラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物を用いて、熱プレス成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板等の影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて測定した。
(4)球状コア硬度
ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えた高分子計器社製自動ゴム硬度計P1型を用いて、球状コアの表面部において測定したショアD硬度を、球状コアの表面硬度とし、球状コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したショアD硬度を球状コアの中心硬度とした。
(5)圧縮変形量(mm)
ゴルフボール、または、球状コアに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)を測定した。
[ポリイソシアネート混合物(B)の作製]
表1に示したポリイソシアネートとポリオールとを所定量用いて、80℃2時間、乾燥窒素雰囲気下で反応させて、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(b−1)を得た。
MDI:東京化成社製4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
H12MDI:東京化成社製4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
HDIイソシアヌレート体:三井化学ポリウレタン社製タケネートD−170N
PTMG1000:三菱化学社製ポリオキシテトラメチレングリコール、数平均分子量1000
PTMG2000:三菱化学社製ポリオキシテトラメチレングリコール、数平均分子量2000
次に、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリエステル系エラストマー(東レ・デュポン社製「ハイトレル3046」)を予め乾燥して水分を除去したもの(b−2)を用意した。上記で得たイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(b−1)と熱可塑性ポリエステル系エラストマー(b−2)とを質量比で1:2となるように配合して、ミキシングロールにて、120℃〜180℃で5〜10分間混練した。得られた混練物を取り出し、粉砕してポリイソシアネート混合物(B)のペレットを得た。
[ツーピースゴルフボールの作製]
(1)コアの作製
表2に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で160℃、13分間加熱プレスすることにより直径40.7mm、質量43.2gの球状のコアを得た。
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製のBR730(ハイシスポリブタジエン)
アクリル酸亜鉛:日本蒸留製のZNDA−90S
酸化亜鉛:東邦亜鉛製の銀嶺R
硫酸バリウム:堺化学製硫酸バリウムBD
ジクミルパーオキサイド:日本油脂製のパークミルD
ジフェニルジスルフィド:住友精化製
(2)カバー用組成物の調製およびゴルフボール本体の作製
表3および表4に示した(A)熱可塑性ポリウレタン(BASF社製エラストランXNY97A、ET890)のペレットと(B)ポリイソシアネート混合物のペレット、および、カバー用添加剤(酸化チタン)をタンブラー型混合機を用いてドライブレンドしてカバー用組成物を調製した。なお、(A)熱可塑性ポリウレタン(BASF社製エラストランXNY97A、ET890)に対する(B)ポリイソシアネート混合物の配合比率は、(A)熱可塑性ポリウレタン100質量部に対するイソシアネート基量が略同一となるようにした。
(2−1)射出成形の場合
得られたカバー用組成物をコア上に直接射出成形することにより、カバーを成形した。カバー成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボール本体を取り出した。
(2−2)圧縮成形の場合
得られたペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分間、および、成形圧力2.94MPaで行った。
上記で得られたコアを2枚のハーフシェルで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバー(厚み0.5mm)を成形した。圧縮成形は、成形温度150℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaで行い、ゴルフボール本体を得た。
(3)得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで4時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。
得られたゴルフボールについて、耐擦過傷性、および、耐久性について評価した結果を併せて表3および表4に示した。
ゴルフボールNo.1〜No.11は、(A)熱可塑性ポリウレタンと、ウレタンプレポリマー(b−1)を、イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたポリイソシアネート混合物(B)とを含有するカバー用組成物を用いてカバーを形成したゴルフボールである。ポリイソシアネート混合物(B)として、イソシアネート単量体をイソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂中に分散させたものを使用したゴルフボールNo.12およびNo.13と比べて、耐擦過傷性および耐久性が著しく向上していることがわかる。また、ゴルフボールNo.14およびNo.15は、熱可塑性ポリウレタンを架橋せずにカバーを成形した場合であるが、いずれもゴルフボールNo.1〜No.11と比べて、耐擦過傷性および耐久性が低下していることが分かる。