JP2008161138A - 抗原賦活化液、抗原賦活化方法及び細胞の検出方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】非架橋型固定化液を用いて液相固定された細胞の抗原を賦活化するための、水素結合切断剤である尿素を含有する抗原賦活化液、及び該抗原賦活化液を用いる抗原賦活化方法。更に該方法により賦活化された抗原を認識しうる抗体を用いて、該抗原を有する細胞を免疫染色する段階を含む、細胞検出方法。
【選択図】なし
Description
細胞診では、病院などの臨床現場で採取された検体中の細胞をできるだけ採取されたままの形態に保ち、検査時に染色等の処理を施して顕微鏡観察や各種分析が行われる。よって、検体中に含まれるタンパク質分解酵素などの影響を受けないようにして、細胞を採取されたままの状態に保存することが重要である。このような保存は、通常、細胞を固定することにより行われる。
細胞の固定方法の例として、ホルムアルデヒド、アルコールなどを含む液体中で細胞を保存する液相固定が知られている。
例えば、スライドグラス上でホルマリン固定された細胞の抗原賦活化のために、メチル無水マレイン酸を用いる方法が、特開2002−350430号(特許文献1)に開示されている。
しかし、上記のような従来の抗原賦活化の方法では、固定された細胞に対して60〜121℃まで加熱して抗原を賦活化する必要があるが、特に液相固定された細胞の抗原賦活化の際には熱によって細胞が破損することがあり、正確な診断を行うことができなくなる可能性があった。
そして、水素結合を切断できる物質を含む液体を用いることにより、加熱により細胞を破損することなく、液相固定された細胞が有する抗原を賦活化できることを見出して、本発明を完成した。
本発明はまた、非架橋型固定液を用いて液相固定された細胞と、上記の抗原賦活化液とを接触させることを含む、細胞の抗原を賦活化する方法を提供することをも目的とする。
本発明はさらに、非架橋型固定液を用いて液相固定された細胞と、上記の抗原賦活化液とを接触させて細胞が有する抗原を賦活化し;上記の賦活化された抗原を認識し得る抗体を用いて該抗原を有する細胞を免疫染色し;上記の染色された細胞を検出することを含む、細胞の検出方法を提供することをも目的とする。
本明細書において「非架橋型固定液」とは、細胞を脱水及び脱脂させ、水素結合によって細胞の抗原を安定化させる非架橋型固定剤(例えば、アルコールなど)を含む固定液のことをいう。すなわち、「非架橋型固定液」は、タンパク質を架橋することによって細胞の抗原を安定化させる架橋型固定剤(例えば、アルデヒドなど)を含む固定液とは異なるものである。なお、非架橋型固定液は、主に水素結合によって抗原の安定化を行うものであればよく、本発明の抗原賦活化液による抗原賦活化処理に影響を与えない程度の架橋型固定剤を含んでいてもよい。
また、「液相細胞診」とは、液体中に懸濁された細胞に基づいて疾患の診断を行う診断方法のことをいう。
また、本明細書では上記のように液中で細胞を固定する方法を「液相固定」と呼ぶ。例えば、パラフィン包埋による固定などは、ここでいう「液相固定」には含まれない。
液相細胞診用の試料中の細胞は、上記のようにして固定することにより、細胞の形態を損なうことなく、例えば検査機関などに運搬され得る。
本明細書において、「固定」とは、診断用の試料の作製を目的として、細胞及び組織の形態や構造をできるだけ変化させずに保持するように処理することをいう。一般的に、ホルマリン固定、アルコール固定などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。
細胞内に存在する抗原分子を水よりも極めて極性の小さい溶媒である固定液と接触させると、抗原分子は極性の小さい固定液の溶媒よりもその近傍に存在する極性の大きな分子と強固な水素結合を形成する。この水素結合によって抗原分子の立体構造が変化する。このため、溶媒を水に置換しても容易には水に溶解しない。上述したように、本発明者らの検討によると、細胞を保存した固定液を加熱することによって抗原が賦活化されるのは、熱エネルギーによって固定液中で抗原分子が近傍の分子と形成していた水素結合が切断され、再び抗原分子が水分子を引きつけることで本来の立体構造に戻るためであると考えられる。また、固定液内の抗原分子が周辺に存在する分子にマスクされているだけであれば、この分子を分解する酵素で処理すれば抗原は賦活化されるはずであるが、本発明者らによりこのような酵素処理では抗原を賦活化できないことが確認された。
以上のことより、固定液中の抗原分子が抗体と反応しない(或いは反応し難い)のは、固定液中の抗原分子と近傍の分子(抗原分子又は他の分子)との間の水素結合及び/又は抗原分子の周辺に存在する分子同士の水素結合が原因であると考えられる。
上記のpHを保つために、本発明の抗原賦活化剤は、適切な緩衝剤を含有するものが好ましい。7〜9の範囲のpHを保つことができる緩衝剤としては、下記の一般式(I):
で表される化合物が好ましい。このような化合物としては、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−ヒドロキシ−3−プロパンスルホン酸)二水和物(POPSO)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)などが挙げられる。これらの化学式を、以下に示す。
本発明において、液相固定された細胞とは、生体から採取した検体に固定液を加えることにより、又はこれに相当する方法によって検体中の細胞の形態を保存する目的で処理された細胞のことである。固定は、一般に、アルコール、例えばメタノール、エタノール、ブタノールなどを含む市販の固定液を用いて行われるが、グルタルアルデヒドなどのアルデヒドを含んだ市販の固定液を用いても行うことができる。
上記の細胞と抗原賦活化液とを混合し、細胞を抗原賦活化液中に一定時間浸漬させることが好ましい。この浸漬時間は、5〜60分が好ましい。この範囲の浸漬時間であれば、抗原の賦活化を充分に行うことができる。検査の迅速性の観点からは、30分以内がより好ましい。この浸漬の間に、攪拌を数回行ってもよい。
従来、固定された細胞に対して、細胞の表面に存在する抗原を認識する抗体を用いて、抗原を賦活化させずに免疫染色することが知られている。しかしながら、本発明による抗原賦活化を行うことにより、細胞の内部に存在する抗原をも賦活化することができ、これらの抗原に対する抗体を用いて免疫染色を行うことができる。
例えば、免疫染色された細胞を含む試料をスライドグラスに塗沫し、スライドグラス上の細胞を顕微鏡で観察し、免疫染色された細胞を検出することができる。顕微鏡による検出の際は、目視により免疫染色された細胞を検出してもよく、スライドグラス上の細胞をカメラで撮像し、画像処理用のソフトウェア等を用いて画像を解析することにより免疫染色された細胞を検出してもよい。
また、図5に示すような構成を有する撮像手段を備えたフローサイトメータを用いて、免疫染色された細胞を検出することもできる。この装置140では、F1〜F3でフローセルを通過した細胞からの側方蛍光を検出し、FFLで前方蛍光、FSCで前方散乱光、SSCで側方散乱光を検出するとともに、カメラで細胞画像を撮像する。
レンズ101を通して出射された励起光が、フローセルを経てビームストッパ102に結像し、一次光はここで遮られる。細胞からの蛍光/散乱光は対物レンズ103で集められ、530nm以上の波長の光が通過する性質を持ったダイクロイックミラー104を経て、10度前後の立体角の蛍光が検出器105(光電子増倍管:PMT)に入射され、そこで前方蛍光(FFL)が検出される。530nm以下の波長を持つ光は、同様に10度前後の立体角の散乱光が検出器106(フォトダイオード:PD)に入射され、そこで前方散乱光(FSC)が検出される。
<目的>
子宮頸がんは、子宮頸部から採取した細胞を用いて診断が行われる。子宮頸部の細胞は、性周期により細胞の形態が大きく変化することが知られている。すなわち、エストロゲンが放出される増殖初期、増殖中期及び増殖後期には、形態が安定した比較的強固な細胞が多く存在するが、プロゲステロンが放出される分泌前期、分泌中期及び分泌後期には、デーデルライン桿菌が出現して細胞を溶解するので、裸核が出現し、赤血球や粘液などの夾雑物も増加する。
このように、異なる形態の細胞を含む可能性がある検体に含まれる細胞を固定した後に抗原の賦活化を行う場合、熱を加える従来の抗原賦活化方法を用いると、熱に感受性の高い細胞は熱により溶解してしまう可能性がある。本発明の抗原賦活化液を用いた抗原賦活化方法では、このような種々の形態の細胞を含む可能性がある子宮頸部から採取した検体であっても、細胞を元の状態からほとんど変化させずに抗原を賦活化できることを確かめるために、以下の実験を行った。
本発明の抗原賦活化液中の尿素の濃度による抗原の賦活化への影響を調べるために、次の実験を行った。
<アルカリホスファターゼ(ALP)/ベクターレッド染色>
分泌期の子宮頸部から採取した細胞5万個に、固定液(Preservcyt、Cytyc社)を添加し、キュベット(EZ Megafunnel, Shandon Inc)に入れ、サイトスピン(1500rpm、5分:Shandon Inc.)を用いてスライド(Dako corp cat#S4103)に貼り付けた。これを一晩、室温で乾燥させた。
乾燥させたスライドを染色バット金具(アズワンCH-0510-075)にセットし、CytoLyt(Cytec社)で満たされた染色バット(アズワンCH-0510-065)に移し、室温で30分間静置した。スライドを染色バット金具ごと、逆浸透膜ろ過した水(RO水)の入った染色バットに移し、5回、上下に出し入れして洗浄した。
スライドを染色バット金具に入れ、これを、EGTA含有洗浄液(50 mM Tris-HCl, 0.3 M NaCl, 0.1% Tween-20, 0.1% Brij, 及び10mM EGTAを含有)の入った染色バットに移し室温で5分間静置した。
次いで、このスライドを、EGTAを含まない洗浄液(50 mM Tris-HCl, 0.3 M NaCl, 0.1% Tween-20及び 0.1% Brijを含有)で洗い流し、染色バット金具に入れ、これをEGTAを含まない洗浄液の入った染色バットに移して室温で10分程度静置した(この工程を以下、洗浄工程という)。これ以降の工程で用いた洗浄液は、いずれもEGTAを含まないものである。
さらに、二次抗体Rabbit anti Mouse IgG(APAAPキットDako #Z0259)を25 mM TBSで80倍希釈し、スライドに500μl滴下し、37℃で15分間静置した。
次に、三次抗体 Alkaline phosphatase-anti-alkaline phosphatase complex solution(APAAPキット:DAKO #D0651)を25mM TBSで40倍希釈し、スライドに500μl滴下し、37℃で15分間静置した。
次に、二次抗体Rabbit anti Mouse IgG(APAAPキットDako #Z0259)を25 mM TBSで80倍希釈し、スライドに500μl滴下し、37℃で10分間静置した。
そして、三次抗体 Alkaline phosphatase-anti-alkaline phosphatase complex solution(APAAPキット:DAKO #D0651)を25mM TBSで40倍希釈し、スライドに500μl滴下し、37℃で10分間静置して、抗原抗体反応を行った。その後、洗浄工程を行った。
マイヤーのヘマトキシリン染色液(武藤化学社製)を3倍希釈し、ろ紙(ADVANTEC 定性ろ紙No.1)で濾過後、染色バットに入れた。ここに、スライドを染色バット金具ごと移し、室温で1分間静置して、カウンター染色を行った。染色後、水道水でスライドを洗浄した。
95% EtOH、室温、1分間静置
95% EtOH、室温、1分間静置
100% EtOH、室温、1分間静置
100% EtOH、室温、1分間静置
100%キシレン、室温、1分間静置
100%キシレン、室温、5分間静置
最後に、Clarion(Biomeda M05)を用いてスライドを封入した。
この結果、尿素の濃度が高くなるにつれて蛍光強度の強い細胞の割合が増加しており、尿素濃度が高くなると免疫染色をよりよく行うことができていること、つまり抗原の賦活化効果がより高くなることがわかる。
分泌期の子宮頸部から採取し、固定液(Preservcyt、Cytyc社)を加えた細胞105個を、エッペンドルフチューブに入れ、遠心分離機(HITACHI CF 15R)を用いて10,000rpmで1分間遠心分離した。上清を捨て、0.05%Tween含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS−T、pH7.4)750μlを加え、上記と同様の条件で遠心分離して上清を捨てた。得られた細胞を、固定された細胞として用いて、以下の抗原賦活化を行った。
尿素を0%、10w/v%、20w/v%及び30w/v%のそれぞれの濃度で含有する抗原賦活化液(その他の成分として、10mM EGTA、50mM HEPES、pH9.0を含有)500μlを上記の細胞に加え、室温で軽く混合した。15分間静置した後、2回混和し、再び室温で15分間静置した。上記と同様の条件で遠心分離し、上清を捨てた。
ここに、PBS−T 750μlを加え、同様に遠心分離して上清を捨てた。これを洗浄工程とし、この洗浄工程を3回繰り返した。
ここに、核マトリックスタンパク質を認識する西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗NMP179抗体溶液(マトリテック社製、2μg/ml)を400μl加え、室温で30分間、4rpmで振とうした。遠心して上清を捨て、細胞をPBS−T750μlで3回洗浄した。200μlのタイラマイド染色液(Fluorescein Tyramide Reagent、Perkin Elmer)を加え、遮光条件下、室温で30分間、4rpmで振とうした。その後、細胞を遠心して上清を捨て、PBS−T750μlで3回洗浄した。
得られた細胞を、フローサイトメトリを用いた測定に供した。
本発明の抗原賦活化液が、診断に与える影響について調べるために、次の実験を行った。
従来、子宮頸がんは、パパニコロウ染色による診断が行われることが多い。パパニコロウ染色による診断は、子宮頸部から採取した細胞をパパニコロウ染色液で染色し、染色された細胞や核の形態、染色状態等を顕微鏡で観察して細胞の異型度を診断する方法であり、パパニコロウ染色液が、良性細胞の核と悪性の異型細胞の核とを染め分けることができることに基づく分類方法である。日本母性保護産婦人科会の分類によると、以下の表1に示す分類により判定が行われている。
検体として、増殖期前期(1検体)、増殖期中期(1検体)、増殖期後期(1検体)、分泌期前期(2検体)、分泌期中期(1検体)、分泌期後期(3検体)、及び閉経後(4検体)の患者から採取した細胞を用いた。
これらの検体は、採取後にPreservcyt (Cytyc)社を用いて固定されている。
固定された検体の一部分を、パパニコロウ染色に供して顕微鏡で観察し、パパニコロウ判定を行った。パパニコロウ染色は、武藤化学社製パパニコロウ染色液を用いて行った。
このようにして抗原賦活化した細胞を、上記と同様にしてパパニコロウ染色を行った。
結果を、以下の表2に示す。
子宮頸部検体において、子宮頸がんの診断を行うために必要な細胞は、扁平上皮細胞である。この細胞は、増殖期にはある程度の形状を保っている(膨化などにより破砕していない)ので、撮像すると、図3(A)の点線部(a)で示す領域(扁平上皮細胞出現領域)に出現する。しかし、裸核や細胞の破砕物などの夾雑物は、図3(A)の(b)で示す領域(夾雑物出現領域)に出現する。例えば、図3(A)で用いた検体を100℃で加熱処理(従来の抗原賦活化)すると、図3(B)に示すように、裸核や細胞破片が増え、形状を保った細胞が少なくなる。また、分泌期の検体でも、デーデルライン桿菌の影響により溶解した細胞が多くなるので、裸核や溶解された細胞が図3(B)の(b)の領域(夾雑物出現領域)に示すようなグラフの下部の領域に多く出現することとなる。なお、図3の横軸は細胞の真円度(左に行くほど細胞が丸形に近く、右に行くほど細胞の凹凸がある)を表し、縦軸は細胞の面積を表す。
102 ビームストッパ
103,107 対物レンズ
104,108,109,112,115 ダイクロイックミラー
105,106,111,114,117,119 検出器
110,113,116,118 干渉フィルタ
120 パルスレーザ
121 カメラ
130 解析部
131 表示部
140 フローサイトメータ
Claims (12)
- 非架橋型固定液を用いて液相固定された細胞の抗原を賦活化するための賦活化液であって、水素結合切断剤を含有することを特徴とする抗原賦活化液。
- 前記水素結合切断剤が尿素である、請求項1に記載の抗原賦活化液。
- 抗原賦活化液中の尿素の濃度が10〜30w/v%である、請求項2に記載の抗原賦活化液。
- 前記濃度が10〜15w/v%である、請求項3に記載の抗原賦活化液。
- 弱アルカリ性である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗原賦活化液。
- 次の一般式(I):
で表される緩衝剤をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗原賦活化液。 - 前記緩衝剤が、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸(HEPPS)である、請求項6に記載の抗原賦活化液。
- キレート剤をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の抗原賦活化剤。
- 前記キレート剤が、エチレングリコールビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N',N'−四酢酸(EGTA)である、請求項8に記載の抗原賦活化液。
- 非架橋型固定液を用いて液相固定された細胞と、水素結合切断剤を含有する抗原賦活化液とを接触させることにより、細胞の抗原を賦活化する方法。
- 10〜40℃の温度で行う請求項10に記載の方法。
- 非架橋型固定液を用いて液相固定された細胞と、水素結合切断剤を含有する抗原賦活化液とを接触させて前記細胞が有する抗原を賦活化し;
前記賦活化された抗原を認識し得る抗体を用いて該抗原を有する細胞を免疫染色し;
前記免疫染色された細胞を検出する
ことを含む、細胞の検出方法。
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