以下に、本発明を詳しく説明する。
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法では、所望の微細形状に描画塗布された塗布層に含まれる銅微粒子の表面に存在する酸化銅被膜層または酸化銅微粒子を、特に、水素分子を利用して還元する。この、第一の処理過程では、水素ガス雰囲気下、あるいが、不活性気体中に混合されている、水素分子の存在下、加熱温度を300℃以下、150℃以上に選択して、加熱処理を行う。塗布層中に含まれる該微粒子表面に対して、気相から供給される、水素分子を「還元剤」として作用させることで、加熱温度が、300℃以下、150℃以上と低温であっても、表面の酸化銅の還元反応が速やかに進行する。一旦、表面に生成した、非酸化状態の銅原子と、その内部に存在する酸化銅分子との固相反応により、内部の酸化銅は非酸化状態の銅原子に変換され、代わって表面に酸化銅が生成される。引き続き、この表面に生成された酸化銅は、継続して供給される水素分子を「還元剤」とする還元反応によって、非酸化状態の銅原子まで還元される。前記の一連の反応サイクルが繰り返される結果、当初は、微粒子の内部まで達していた酸化銅被膜層は徐々に減少して、最終的には、微粒子全体が、銅ナノ粒子に復する。
仮に、この銅ナノ粒子に復した状態を、加熱下、再び大気中の酸素分子などに一定時間以上接触させると、再び表面酸化膜が生じる。それを避けるため、本発明の方法では、加圧条件、加熱下、水素分子を含む雰囲気に保ち、再生された銅ナノ粒子相互の融着を行わせる。再生された銅ナノ粒子では、その表面全体に、表面マイグレーション可能な銅原子が存在しているため、銅ナノ粒子相互の接触点には、表面マイグレーションによって、周囲から銅原子が供給される。その結果、二つの銅ナノ粒子は相互に一体化され、塗布膜全体にわたり、緻密な焼結体層を形成することが可能となる。
まず、本発明の方法では、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液を用いて、目的とする微細形状導電体の平面形状パターンに合わせて、該分散液の塗布層を描画する。その際、分散質とする表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の平均粒子径は、100nm以下であり、極めて微細な配線パターンの形成にも応用できる。
例えば、本発明にかかる微細な銅系配線パターンの形成方法では、第一に、極めて微細な配線パターンを形成した際に、その最小な配線幅の部分において、最も顕著に見出されるエレクトロマイグレーション現象に起因する断線を回避する目的で、焼結体銅系配線を利用するものであり、その配線パターンの最小の配線幅を、0.1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に、対応させて、最小の配線間スペースを、0.1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に選択する際に、より好適な方法となる。
前記最小の配線幅を考慮して、その精度に対応可能な、焼結体層の形成に用いる銅微粒子として、少なくとも、平均粒子径が100nm以下のナノ粒子を利用している。一方、前記数μm程度の最小の配線幅に対応して、焼結体層の膜厚もサブμm〜数μmの範囲に選択される。そのため、かかる膜厚における平坦性を十分に満足させる観点からも、使用する表面に酸化銅被膜層を有するナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択する。少なくとも、本発明にかかる微細配線パターンの形成方法は、前記の極めて微細な配線パターンを、ナノ粒子の分散液を用いて、高い配線幅の均一性で描画する上では、使用するナノ粒子の平均粒子径は、目標とする最小の配線幅ならびに最小の配線間スペースに対して、その1/10以下に選択することが望ましい。同時に、最小の配線幅に応じて、焼結体銅系配線層の層厚も適宜決定されるが、通常、最小の配線幅と比較し、配線層の層厚は有意に小さな形態である。その際、ナノ粒子の平均粒子径を、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、配線層の層厚のバラツキ、局所的な高さの不均一を抑制することが可能となる。
本発明にかかる銅薄膜の形成方法は、使用する表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子の平均粒子径は、1〜100nmの範囲に、より好ましくは、1〜20nmの範囲に選択することで、平均膜厚がサブμm〜数μmの極薄い銅薄膜を形成する際、高い膜厚の均一性、制御性を達成できる。一方、本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法は、例えば、平均膜厚が数μm〜10数μm程度の銅薄膜の形成にも適用できる。
なお、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液中に含有される、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子は、少なくとも、前記表面酸化膜層は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅酸化物の混合物のいずれかを含んでなり、また、該ナノ粒子は、酸化第一銅、酸化第二銅、またはこれら銅の酸化物の混合物、ならびに金属銅のうち、2つ以上を含んでなる混合体状微粒子であってもよい。特に、含有される表面酸化膜層を有する銅微粒子として、平均粒子径が100nm以下の表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子が含まれる際には、かかる銅ナノ粒子の表面は、酸化銅被膜層で均一に被覆される形態とすることで、分散液中において、ナノ粒子の金属表面が直接接触して、相互に融合した凝集体の形成を引き起こす現象を回避することが可能となる。
本発明にかかる銅微粒子焼結体型の微細形状導電体の形成方法では、銅微粒子相互の電気的な接触を、焼結体形成で達成するので、利用する分散液中には、微粒子相互を硬化固定化する接着性バインダーとなる樹脂成分を配合しない組成とされる。従って、分散液中に含まれる分散媒体は、かかる分散液を塗布して、目的の微細なパターン形状の塗布膜層の形成に利用可能な分散溶媒であれば、種々の分散溶媒が利用可能である。
一方、下記する、水素ガス雰囲気、あるいは、水素分子を含有する混合気体の雰囲気下、加熱処理を実施する際、塗布膜層内部に対して、気相から供給される水素分子が「還元剤」として作用可能である必要があり、また、焼結体を形成する際には、不必要に多量の分散溶媒が残留することを回避することが必要である。従って、利用される分散溶媒は、加圧条件下、かかる加熱処理温度において、蒸散がなされる分散溶媒であることが必要となる。
従って、利用される分散溶媒は、室温では、液状である必要があり、融点は、少なくとも、20℃以下、好ましくは、10℃以下であり、一方、300℃以下に選択される加熱処理温度では、高い蒸散性を示す必要もある。従って、分散溶媒として利用する有機溶剤の沸点は、少なくとも、300℃以下、好ましくは、250℃以下であることが好ましい。但し、その沸点が、100℃を下回ると、塗布膜層の描画を行う過程で、分散溶媒の蒸散が相当に進行するため、塗布膜層に含有される表面酸化膜層を有する銅微粒子の量にバラツキを引き起こす要因ともなる。従って、分散溶媒には、沸点が、少なくとも、100℃以上、300℃以下の範囲である有機溶剤を選択することが好ましい。
表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液の調製に利用される分散溶媒には、例えば、テトラデカン(融点5.86℃、沸点253.57℃)などの高い沸点を有する鎖式炭化水素溶媒を利用することができる。
一方、分散液を塗布する際、分散液全体の流動性が高いと、横方向の拡がりが大きく、微細な線幅の描画が困難となる。すなわち、分散液全体の粘度を、描画する塗布膜層の形状精度、例えば、最小の線幅に応じて、適宜調整する必要がある。分散液全体に粘性を付与する目的で、分散溶媒中に付粘性成分を添加することができる。また、分散溶媒として利用する有機溶剤として、粘性を有する炭化水素溶媒を利用することができる。例えば、付粘性成分としての機能を有する炭化水素溶媒として、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上 50%蒸留性状 約450℃)、イソパラフィン(分岐炭化水素;水素添加ポリブテン(イソブテン/ブテン共重合体);沸点:250℃以上 50%蒸留性状 約316℃)などを利用することができる。また、流動パラフィン、イソパラフィンは、その炭素数が異なる複数の成分からなる混合物であり、個々の成分の沸点は、その炭素数に依存して異なっている。加熱処理を進める際、徐々に蒸散するが、含有されている高沸点成分が残余し、付粘性成分としての機能を有する。従って、含有されている高沸点成分の含有比率の指標:50%蒸留性状の値が、少なくとも、250℃以上、好ましくは、300℃以上、500℃以下の流動パラフィン、イソパラフィンを利用することが望ましい。さらには、複数の成分の混合物の形態をとる、鉱物油、化学合成油、植物油のうち、含有されている高沸点成分の含有比率の指標:50%蒸留性状の値が、少なくとも、250℃以上、好ましくは、300℃以上、500℃以下のものも利用できる。例えば、沸点300℃以上の植物油の例として、オレイン酸メチル(沸点:320〜340℃)、オレイン酸エチル等の脂肪酸エステル(沸点:340℃〜360℃)、ジオクチルフタレート(沸点:384℃)、セバシン酸ジエチル(沸点:318℃)、セバシン酸ジブチル(沸点:330〜350℃)、スクワラン(沸点:440〜460℃)などをあげることができる。
この付粘性成分は、通常、高い沸点を示す液状の有機物であるため、例えば、分散溶媒中に含まれる、比較的に沸点の低い他の溶剤成分と比較すると、蒸散性は劣っている。従って、分散液の塗布膜を、加圧条件下で、加熱する際、その昇温過程において、比較的に沸点の低い他の溶剤成分の蒸散が先に進み、分散溶媒全体の量が減少した段階でも、相当の比率で残留する。温度の上昇とともに、付粘性成分の流動性が徐々に増すため、分散液の塗布膜全体の膜厚を平均化させる機能を発揮する。すなわち、分散溶媒全体の量が減少するに伴って、塗布膜全体の膜厚が低減するが、その際、付粘性成分の徐々に流動性が増すため、分散液の厚さが均一化されるように、分散質の表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の積層構造が構成される。換言するならば、加熱処理が進行し、分散溶媒が蒸散した段階では、残余している付粘性成分は、バインダー、レベリング剤の機能を発揮する。最終的に、この付粘性成分も蒸散すると、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を還元処理して、再生される銅微粒子が緻密に積層された構造となっている。
上記のバインダー、レベリング剤の機能を発揮するため、付粘性成分として利用される、炭化水素は、沸点は、少なくとも、150℃以上、好ましくは、200℃以上であることが望ましい。一方、かかる付粘性成分の配合量は、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の含有量に応じて、再生される銅微粒子が集積した際、バインダーとして機能する上では、少なくとも、その隙間を充填可能な量であることが好ましい。なお、最終的に、焼結処理を進める際には、残余している付粘性成分の量が不必要に多いと、還元処理が施された銅微粒子が付粘性成分を分散溶媒として、離散的に分散された状態となる。その場合、還元処理が施された銅微粒子が沈降し、相互に緻密な接触を達成することに対して、付粘性成分は、その阻害要因となる場合がある。従って、還元処理が施された銅微粒子が集積する際、最蜜充填状態を達成した場合に、その隙間を占めるに必要な量の付粘性成分が、加熱処理を開始する時点で残留していることが好ましい。例えば、パラジウムナノ粒子の体積の総和:VPdと、還元処理が施された銅微粒子の体積の総和:VCuに対して、配合される付粘性成分の体積:V1は、{VPd+VCu}:V1の比率が、少なくとも、30:70〜70:30の範囲、好ましくは、50:50〜70:30の範囲に選択することが望ましい。あるいは、分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、付粘性成分が、20質量部〜2質量部の範囲、好ましくは、10質量部〜2質量部の範囲で含有されている状態とすることが望ましい。
加えて、本発明では、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液中には、水素分子を「還元剤」として利用する還元過程において、その還元過程に関与する成分として、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素を添加する。この水素原子の供給源として機能を有する炭化水素は、分散液中において、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が均一な分散状態を示す上で、その分散溶媒としての機能も有することができる。すなわち、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面は、一般に、酸化銅(II):CuOが表出している。この表面を構成するCuOに対して、例えば、水素原子の供給源として機能を有する炭化水素中に存在する、メチン(>C(−CH2−R)−H)の構造を利用して、>C(−CH2−R)−H…OCuの形態で分子間結合を形成する。その結果、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面は、部分的に水素原子の供給源として機能を有する炭化水素が溶媒和している状態として、分散溶媒中に分散される。
また、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面に表出している銅原子[Cu(0)]、酸化銅(II):CuOを構成する二価の銅[Cu(II)]に対して、窒素原子上の孤立電子対を利用して、配位的な結合が可能なアミン化合物が配合されている。このアミン化合物は、分散液中において、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が均一な分散状態を示す上で、その分散剤としての機能を有する。すなわち、分散溶媒として、炭化水素溶媒を利用しており、該アミン化合物中に存在する炭化水素基部分に起因する溶媒分子との親和性を利用して、分散剤としての機能を発揮する。
なお、分散剤として配合されている、該アミン化合物は、分散溶媒に対して、親和性は有するため、配合されているアミン化合物の一部が、分散溶媒中に溶解している。本発明においては、アミン化合物を、分散液中において、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の分散性を保持する分散剤として利用するため、均一な被覆状態を達成可能な添加量とする。このアミン化合物は、平均粒子径100nm以下のナノ粒子表面を被覆するため、分散溶媒中に溶存している濃度と、この表面上の付着密度とは平衡した状態となる。
分散液中に配合するアミン化合物の量は、分散溶媒中における濃度を適正な範囲に設定するように選択する。分散溶媒の種類、分散質のナノ粒子に対する、分散溶媒の量比と、該分散溶媒中での溶解度を考慮して、アミン化合物の配合比率を適宜選択する。好ましくは、加圧条件下、温度を上昇させて、分散溶媒を徐々に蒸散させる際、この分散液の液相中における、アミン化合物の濃度が徐々に上昇し、ナノ粒子表面を被覆しているアミン化合物の密度が徐々に低下する形態とする。具体的には、分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、分散剤として機能するアミン化合物が、2質量部〜20質量部の範囲、好ましくは、3質量部〜15質量部の範囲で含有されている状態とすることが好ましい。
また、利用されるアミン化合物の蒸散が、分散溶媒の蒸散よりも、顕著に早く進むことは望ましくない。一方、還元処理が終了し、焼結処理に移行する際、蒸散せず、多量のアミン化合物が残留することは望ましくない。従って、利用されるアミン化合物は、沸点が、少なくとも、100℃以上、好ましくは、200℃以上、300℃以下のものを利用することが望ましい。例えば、前記の沸点範囲のモノアルキルアミン(R1−NH2)、ジアルキルアミン(R1−NH−R2)、トリアルキルアミン(NR1R2R3)が、分散剤用のアミン化合物として、好適に利用可能である。
なお、加熱処理を施す際には、温度の上昇とともに、分散溶媒中に溶解する濃度が増加し、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の表面を被覆しているアミン化合物の表面密度は減少する。一方、熱的に離脱したアミン化合物に代わって、水素原子の供給源として機能を有する炭化水素が、表面酸化膜層を有する銅微粒子の表面を構成するCuOに対して、上記の分子間結合を形成する頻度は、相対的に増加する。
場合によっては、この微粒子分散液を配線形成に用いる場合、分散液を均一分散化、高濃度化、液粘度の調整を行うために、粘度調整用のチキソ剤あるいは希釈用の有機溶剤を添加し、さらに混合・攪拌して、塗布、描画に用いる微粒子分散液を調製することもできる。一方、表面に酸化銅被膜層を有する銅微粒子、あるいは酸化銅微粒子自体は、その表面に存在する酸化膜被覆のため、互いに接触しても、微粒子間の融着は起こらず、凝集体形成など、均一な分散特性を阻害する現象は生じないものとなっている。従って、描画した塗布層中では、分散溶媒の蒸散とともに酸化銅被膜層を有する銅微粒子は、沈積・乾固して、最終的に緻密な積層状態を達成できる。
また、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液を用いて、所望の配線パターンを基板上に描画する手法としては、従来から、金属微粒子を含有する分散液を利用する微細配線パターンの形成において利用される、スクリーン印刷、インクジェット印刷、または転写印刷のいずれの描画手法をも、同様に利用することができる。具体的には、目的とする微細配線パターンの形状、最小の配線幅、配線層の層厚を考慮した上で、これらスクリーン印刷、インクジェット印刷、または転写印刷のうち、より適するものを選択することが望ましい。
一方、利用する該微粒子を含有する分散液は、採用する描画手法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するものに、調製することが望ましい。例えば、微細配線パターンの描画にスクリーン印刷を利用する際には、該微粒子を含有する分散液は、その液粘度を、30〜300 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。また、転写印刷を利用する際には、液粘度を、3〜300 Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。インクジェット印刷を利用する際には、液粘度を、1〜100 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。該微粒子を含有する分散液の液粘度は、用いる微粒子の平均粒子径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、前記の三種の因子を適宜選択して、目的とする液粘度に調節することができる。
基板上に形成される表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子を含有する分散液の塗布膜層に対して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、加熱処理を行うことによって、還元処理と、その後の焼成処理を行う。この還元処理を進める第一の処理過程では、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素と、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物の存在下、水素分子を「還元剤」として利用し、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子の還元がなされる。かかる還元過程では、下記の二つの経路を介して、酸化銅:CuOから金属銅:Cuへの還元がなされる可能性がある。その際、本発明では、分散液中に配合される、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素と、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物が関与する還元反応を主に利用する。この水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素と、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物が関与する還元反応を以下に説明する。
水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素として、テトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン:分子量132.21、沸点 207.2℃)、あるいは、デカリン(デカヒドロキシナフタレン:分子量 138.25、cis体沸点195.7℃、trans体沸点185.5℃)を例に採り、それが関与する酸化銅(II):CuOの還元過程の技術的な特徴を説明する。
テトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン:分子量132.21、沸点 207.2℃)は、下記の式で示され、ナフタレンに水素添加して作製され、逆に、脱水素によって、ナフタレンに復する。すなわち、テトラリンは、水素供与能を有する炭化水素化合物である。また、テトラリンに水素添加を施すと、デカリン(デカヒドロキシナフタレン:分子量 138.25、cis体沸点195.7℃、trans体沸点185.5℃)に変換可能である。このデカリンは、脱水素によって、テトラリンへ復する。すなわち、デカリンも、水素供与能を有する炭化水素化合物である。
また、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子、または金属塩、金属錯体、金属酸化物としては、一般に、水素化触媒として利用可能な、周期表第8族、第9族、第10族の元素:鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni);ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd);オスミウム(Os),イリジウム(Ir),白金(Pt)の各金属からなる微粒子、ならびに、これら金属の金属塩、金属錯体、金属酸化物が利用可能である。その際、これらの金属の金属塩、金属酸化物の一部は、還元処理を施すと、かかる金属が生成し、金属触媒として機能する。本発明では、還元処理の過程において、金属塩、金属酸化物の還元が進行し、相当部分は、金属触媒として機能していると、推定される。その他、銅(Cu)、レニウム(Re)の金属も、C=C結合に対する接触水素化反応において、水素化触媒として利用可能である。さらには、タングステン(W)やモリブデン(Mo)も、水素化触媒として、利用可能である。また、利用可能な金属酸化物としては、ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd);オスミウム(Os),イリジウム(Ir),白金(Pt)の酸化物などを挙げることができる。利用可能な金属塩としては、酢酸パラジウム(Pd(CH3COO)2)、ギ酸ニッケル(Ni(HCOO)2)などのカルボン酸塩など、また、金属錯体として、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(Pd(acac)2)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(Ru(acac)3)などのアセチルアセトナト錯体、モリブデン(II)アセテートダイマー(Mo2(OCOCH3)4)、ロジウム(II)ビスアセテートダイマー(C8H2O8Rh2)、さらには、クロロトリストリフェニルホスフィンロジウム(RhCl{P(C6H5)3}3)などのトリフェニルホスフィン錯体などを挙げることができる。
なお、利用可能な金属錯体は、有機溶媒に可溶であり、均一系水素化触媒として、利用されるものに相当する。例えば、前記のアセチルアセトナト錯体は、中心金属は、4配位であるが、分子状水素が配位して、過渡的に6配位に変移し、この中心金属上に配位している分子状水素を利用して、C=C結合に対する接触水素化反応を可能としている。また、トリフェニルホスフィン錯体も、中心金属は、4配位であるが、分子状水素が配位して、過渡的に6配位に変移し、この中心金属上に配位している分子状水素を利用して、C=C結合に対する接触水素化反応を可能としている。
なお、水素化触媒として利用される、金属触媒微粒子、または金属塩、金属錯体、金属酸化物は、その触媒活性に関与する金属種、ならびに、触媒として機能する表面積に応じて、その配合量を選択する。そのため、金属触媒微粒子は、平均粒子径が1〜100nmの球状微粒子、よく好ましくは、平均粒子径が1〜20nmの球状微粒子とする。あるいは、ラネーニッケル触媒のように、全体の表面積を拡大し、単位体積当たりの触媒活性を高めたものが好適に利用できる。
特に、有機溶媒に可溶であり、均一系水素化触媒として、利用可能な、金属錯体は、その溶解度に応じて、添加量を調整することが必要となる。また、金属塩に関しても、その溶解度に応じて、添加量を調整することが必要となる。
先ず、テトラリン上、水素添加された環状の炭素原子は、−CH2−CH2−CH2−CH2−となっている。例えば、1位の炭素原子と2位の炭素原子上の水素原子の立体配置に着目すると、axicial配置を有する水素原子二つが隣接する形状を採りえる。このaxicial配置を有する水素原子二つを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i) CuO+C10H12 → C10H10+Cu+H2O
(ii) C10H10+Pd → 〔C10H10:Pd〕
〔C10H10:Pd〕+H2 → Pd+C10H12
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、テトラリン上、環上のメチレン基(−CH2−)のaxicial配置の水素原子が、>C(H)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i-1) CuO+>C(H)−H→〔>C(H)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i-2) 〔>C(H)−H…OCu〕→〔>CH・…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(H)]に、隣接するメチレン基(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i-3) 〔−CH2−C・(H)−…HOCu(I)〕→−CH=CH−+Cu+H2O
その際、系内に、例えば、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子が添加されていると、下記の水素添加反応(接触水素化反応)が進行する。系内に添加されている金属触媒微粒子表面の金属原子Mの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C10H10分子中、−CH=CH−CH2−CH2−のC=C部分に水素添加がなされ、テトラリンに再生される。
まず、金属触媒微粒子表面の金属原子Mに対して、C10H10分子は、その−CH=CH−CH2−CH2−のC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C10H10:Pd〕となる。その状態〔C10H10:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、金属原子Mが、水素添加反応の触媒中心として機能して、C10H10分子中、その−CH=CH−CH2−CH2−中のC=C部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンの再生が行われる。
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i+ii) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程も繰り返される。
また、デカリン上、例えば、9位、ならびに10位の炭素原子は、>CH−のメチン構造となっている。例えば、cis−デカリンでは、9位、ならびに10位の炭素原子上の水素原子二つを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i) CuO+C10H18 → C10H16+Cu+H2O
(ii) C10H16+Pd → 〔C10H16:Pd〕
〔C10H16:Pd〕+H2 → Pd+C10H18
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、デカリン上、9位の炭素原子のメチン基(>CH−)の水素原子が、>C(CH<)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i-1) CuO+>C(CH<)−H→〔>C(CH<)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i-2) 〔>C(CH<)−H…OCu〕→〔>C・(CH<)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(CH<)]に隣接するメチン基(−CH<)から、水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i-3) 〔>C・(CH<)−…HOCu(I)〕→>C=C<+Cu+H2O
その際、系内に、例えば、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子が添加されていると、下記の水素添加反応(接触水素化反応)が進行する。系内に添加されている金属触媒微粒子表面の金属原子Mの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C10H16分子中、>C=C<部分に水素添加がなされ、デカリンに再生される。
まず、金属触媒微粒子表面の金属原子Mに対して、C10H16分子は、その>C=C<の部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C10H16:Pd〕となる。その状態〔C10H16:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、金属原子Mが、水素添加反応の触媒中心として機能して、C10H16分子中、そのの>C=C<の部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、cis−デカリンの再生が行われる。
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i+ii) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程も繰り返される。
加えて、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)中に含まれる、アルキルナフテン系炭化水素、例えば、C6H11−CH2−Rは、シクロヘキサン環上にアルキル基:−CH2−Rが連結される炭素原子は、メチン構造:>CH−となっている。このメチン構造:>CH−の水素原子と、隣接するアルキル基:−CH2−Rのメチレン構造:−CH2−の水素原子とを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i’) CuO+C6H11−CH2−R → C6H10=CH−R+Cu+H2O
(ii’) C6H10=CH−R+Pd → 〔C6H10=CH−R:Pd〕
〔C6H10=CH−R:Pd〕+H2 → Pd+C6H11−CH2−R
まず、ステップ(i’)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、シクロアルキル環上のメチン水素(>CH−CH2−R)が、>C(−CH2−R)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i’-1) CuO+>CH−CH2−R→〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i’-2) 〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕→〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(−CH2−R)]から、隣接するアルキル基(−CH2−R)のメチレン(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i’-3) 〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕→〔>C=CH−R:Cu〕+H2O
その際、系内に、例えば、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子が添加されていると、下記の水素添加反応(接触水素化反応)が進行する。系内に添加されている金属触媒微粒子表面の金属原子Mの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C6H10=CH−R分子中のC=C部分に水素添加がなされ、C6H11−CH2−Rに再生される。
まず、金属触媒微粒子表面の金属原子Mに対して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C6H10=CH−R:Pd〕となる。その状態〔C6H10=CH−R:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、金属原子Mが、水素添加反応の触媒中心として機能して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii’)の水素添加反応によって、アルキルナフテン(例えば、C6H11−CH2−R)の再生が行われる。
このステップ(i’)+ステップ(ii’)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i’+ii’) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i’+ii’)〜(iv)の素過程も繰り返される。
第二の還元過程として、周期表第5周期、第6周期の第8族、第9族、第10族の元素:Ru,Rh,Pd;Os,Ir,Ptの各金属中には、水素吸蔵能を有する金属が存在している。これら水素吸蔵金属微粒子に対して、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が近接した状態にある場合、加熱状態では、吸蔵されている水素を利用して、酸化銅(II):CuOを直接還元する反応が想定される。なお、消費された水素に関しては、水素吸蔵能を有する金属微粒子が、加熱状態で、水素分子(H2)と接すると、その吸蔵がなされる結果、補填がなされる。なお、この水素吸蔵過程は、水素ガス分圧に依存しており、水素ガス分圧が一定水準以上の範囲で機能する。
本発明の方法では、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素と、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩、金属錯体、金属酸化物が関与する還元反応を主に利用している。そのため、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩、金属錯体、金属酸化物と、表面酸化膜層を有する銅微粒子または酸化銅微粒子が直接接する必要はなく、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物の配合比率は、上記の水素化反応が進行可能な触媒量に選択することができる。具体的には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子中に含まれる銅原子、100原子あたり、前記C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩、金属錯体、金属酸化物が、該金属触媒微粒子または金属塩、金属錯体、金属酸化物中に含まれる、該金属原子が、0.1原子〜10原子の範囲、好ましくは、0.1原子〜10原子の範囲となる量で添加することが好ましい。なお、加圧下、水素ガス分圧が、少なくとも0.1気圧以上となる条件では、該金属触媒微粒子または金属塩、金属錯体、金属酸化物中に含まれる、該金属原子が、0.5原子〜5原子の範囲となる量で添加することが望ましい。
なお、金属塩、金属酸化物を配合する場合には、該金属塩、金属酸化物が還元されて、生成する金属原子が、金属ナノ粒子を形成する以外に、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子の表面の一部を被覆する状態となる場合もある。すなわち、水素吸蔵能を有する金属の被膜が、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子の表面の一部を被覆する状態となる場合もある。この状態では、上記の第二の還元過程の寄与が見られるようになる。
一方、分散液中における、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の含有比率は、ステップ(I)において、酸化銅(II)の還元で使用された後、ステップ(II)で、水素添加を受け、再生されるため、原理的には、やはり、触媒量に相当する濃度で十分である。但し、ステップ(I)の第1の素過程(i-1)は、酸化銅(II):CuOに対して、水素結合をする過程であり、この水素結合は、比較的に弱い相互作用であるため、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の含有濃度を高くすることが好ましい。また、加熱処理を進める段階で、蒸散するため、その蒸散量をも考慮に入れ、分散液中における、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の含有濃度を高くすることが好ましい。従って、前記分散液中には、表面酸化膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子100質量部当たり、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素が、3質量部〜20質量部の範囲、好ましくは、5質量部〜15質量部の範囲で添加されていることが好ましい。
水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素は、分散溶媒、あるいは、希釈溶媒としての機能を有するため、分散液に含まれる溶媒中の主要成分とすることが可能である。
水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の沸点が、不必要に高いと、焼結体を形成する際、余剰の分散溶媒とともに、蒸散除去することが困難となる。その点を考慮すると、該炭化水素の沸点は、150℃以上、300℃以下の範囲、好ましくは、250℃以下の範囲であることが好ましい。水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素として、本発明で利用可能な炭化水素化合物の例は、テトラリン(沸点:207.2℃)、デカリン(沸点:195.7℃(cis体))などが挙げられる。その他、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素として、プロピルシクロヘキサン(沸点:156.8℃)、ジシクロヘキサン(沸点:320℃)、ならびに、ライトサイクルオイル(沸点:220〜430℃)等も挙げることができる。
この水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素は、ステップ(I)の第1の素過程(i-1)は、酸化銅(II):CuOに対して、水素結合をする過程に関与する水素原子として、メチン構造(>CH−)の水素を有するものが利用できる。また、上記のテトラリンや、デカリンのように、隣接する炭素原子上に存在する二つの水素原子が、syn−型の配置を採り、酸化銅(II):CuOの酸素に対して、同時に作用することが容易な立体配置を示すものが好ましい。
一方、ステップ(II)において、ステップ(I)の過程で形成されたC=C結合に対する水素化還元が容易に進行する立体配置を示すものが好ましい。その点を含めると、上記のテトラリンや、デカリンは、特に好ましいものである。
本発明では、上記の第一の機構と第二の機構の双方が寄与するが、特に、第一の機構の寄与が主要な比率を占める条件を選択する。すなわち、第二の工程における、還元処理と、その後の焼成処理を行う際、加熱温度を、150℃以上、300℃以下に選択して、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気下において、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物を触媒する水素添加に好適な条件としている。なお、この水素添加反応の反応速度は、水素ガス分圧に依存する。従って、水素ガス雰囲気下、または水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子の含有率は、1体積%〜100体積%の範囲、好ましくは、2体積%〜100体積%の範囲に選択することが望ましい。
なお、前記還元処理と焼成処理における、水素分子を含有する混合気体の雰囲気は、水素分子と不活性気体の混合物とする。すなわち、前記不活性気体は、水素分子を希釈する役割を有するが、一旦、換言された銅ナノ粒子の表面に対して、加熱状態で銅原子と何らの反応を起こすことも無いものとする。水素分子の希釈ガスとして、利用される該不活性気体としては、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものであることが好ましい。特には、該不活性気体としては、加熱状態で銅ナノ粒子表面に吸着を起こすこともない、希ガス分子:ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、あるいは、それらの二種以上を混合したものを使用することがより好ましい。
加圧条件下、加熱すると、更に、圧が上昇する。その際、加熱温度に達した際、気相の圧力を5気圧〜10気圧の範囲とする加圧状態を達成していることが好ましい。加圧条件下、温度を上昇させる際、分散溶媒を蒸散させるが、例えば、その段階で、10気圧を超える状態となっていると、分散溶媒の種類によっては、完全に蒸散していない状態となる場合もある。前記の加圧条件の範囲であれば、加熱温度に達した時点では、分散溶媒の蒸散が完了した状態となる。一方、気相の圧力を4気圧〜10気圧の範囲とすることで、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素が、急速に蒸散することを抑制する効果が得られる。一般に、圧力上昇を伴う反応は、抑制を受ける。上述する第二の機構、第一の機構は共に、還元反応が進行する間は、「還元剤」として使用する、水素分子(H2)から、水分子(H2O)が生成するため、実質的に圧力上昇を回避している。
配線パターンの描画は、表面に酸化銅被膜層を有する銅ナノ粒子または酸化銅ナノ粒子を含む分散液を用いて実施できるため、その微細な描画特性は、従来の、金、銀のナノ粒子を利用する微細な配線パターン形成と遜色の無いものとなる。具体的には、形成される微細な配線パターンは、最小配線幅を、1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲、対応する最小の配線間スペースを、1〜50μmの範囲、実用的には、5〜50μmの範囲に選択して、良好な線幅均一性・再現性を達成することができる。加えて、得られる配線層は、界面に酸化物皮膜の介在の無い、銅ナノ粒子の焼結体層となり、前記の最小配線幅における、その体積固有抵抗率も、10×10-6Ω・cm以下とすることができ、良好な導通特性を達成できる。また、銅薄膜の形成に応用する際には、形成される銅薄膜の平均膜厚は、2〜20μmの範囲、実用的には、3〜15μmの範囲に選択して、良好な表面平坦性と膜厚の均一性を高い再現性で達成することができる。
加えて、形成される焼結体層は、銅自体は、エレクトロマイグレーションの少ない導電性材料であるので、上記の微細な配線パターンにおいても、エレクトロマイグレーションに起因する配線厚さの減少、断線の発生を抑制できる。
また、還元処理、焼成処理工程における加熱処理温度は、還元処理に関与する、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の反応性、また、「還元剤」として利用する水素分子の反応性を考慮して、適宜選択すべきものである。その際、C=C結合に対する接触水素化反応を触媒する機能を具える、平均粒子径が1〜100nmの金属触媒微粒子または金属塩化合物の触媒活性、添加量をも考慮して、条件を選択する。加熱時の加圧条件を、4気圧〜10気圧の範囲に選択する場合、少なくとも、300℃以下の範囲で、例えば、150℃以上、通常、200℃以上の範囲に選択することが好ましい。加えて、処理装置内に設置される基板自体の材質に応じた耐熱特性を満足する温度範囲内、300℃以下、例えば、200℃〜300℃の範囲に維持されるように、温度の設定・調節を行う。
還元処理の進行速度は、前記の設定温度、「還元剤」として利用する、水素分子の分圧、加圧条件、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の種類などの条件に依存する。勿論、還元処理が完了するまでに要する時間は、銅ナノ粒子の表面に存在している表面酸化皮膜の厚さに依存している。これらの条件を考慮した上で、一般に、還元処理と焼成処理の時間合計は、10分間〜1時間の範囲、好ましくは、20分間〜1時間の範囲に選択することが可能である。具体的には、酸化銅ナノ粒子の平均粒子径、あるいは、銅ナノ粒子表面を覆う酸化銅被膜層の厚さを考慮した上で、その還元に要する時間を調整するため、設定温度、水素分子の分圧、加圧条件、水素原子の供給源として機能を有する、沸点150℃以上の炭化水素の種類を適宜選択する。
本発明の方法では、第一の処理過程において、銅微粒子表面を覆う酸化銅被膜層を還元除去して、銅微粒子に復する。その時点では、銅微粒子の表面は、銅原子に対して、配位的な結合形成が可能な、孤立電子対を有する窒素原子を含んでいるアミン化合物によって、相当の部分が被覆された状態となっている。しかし、その後、第二の処理過程では、徐々に、この配位的な結合を解消して、表面からアミン化合物の離脱が進行する。そして、銅ナノ粒子相互の接触が可能となり、銅ナノ粒子相互の焼結が進行する。
実際には、塗布層中に含まれる銅ナノ粒子の表面に存在している表面酸化皮膜の厚さは、分布を有しているため、個々の銅ナノ粒子で、第一の処理過程が完了する時間には、有る程度のバラツキが生じる。しかしながら、塗布層全体として、上述する処理時間の間には、第一の処理過程を終え、第二の処理過程が十分に進行した状態となる。
なお、第二の処理過程では、再生された銅ナノ粒子の表面の相当の部分を被覆しているアミン化合物の離脱とともに、銅ナノ粒子相互の焼結が進行する。その際、アミン化合物の離脱速度は、処理を行う系内の加圧条件ならびに加熱温度に依存する。加熱時の加圧条件を、1気圧〜10気圧の範囲(1×103 hPa〜10×103 hPaの範囲)に選択する場合、少なくとも、300℃以下の範囲で、例えば、150℃以上、通常、200℃以上の範囲に選択すると、アミン化合物の離脱が十分に進行可能な条件となる。
一方、分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物は、ナノ粒子表面を被覆している表面酸化皮膜中のCuO、あるいは、部分的に存在しているCu表面とは、極弱い相互作用を示すのみである。そのため、加圧条件下、昇温過程において、分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物の蒸散は、相対的に速やかに進行する。分散溶媒、あるいは、付粘性成分として利用される炭化水素化合物の蒸散が進むにつれて、単位面積当たりの塗布膜を形成するペースト状の分散液の体積が減少する。すなわち、加熱処理前の塗布膜の膜厚から、その膜厚の均一性を保ったまま、膜厚が徐々に低減する。
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例により限定を受けるものではない。
(実施例1)
市販されている銅の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子パーフェクトカッパー真空治金(株))、具体的には、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子100質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36,沸点:248℃)15質量部、有機溶剤(分散溶媒)として、トルエン(沸点:110.6℃)75質量部を含む、平均粒径5nmの表面酸化被膜層を有する銅ナノ粒子の分散液を利用した。
この分散液100質量部に、メタノール(沸点:64.65℃)100質量部を加える。極性溶媒のメタノールを加えると、含有されている表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は沈降する。同時に、ドデシルアミンの大半は、メタノールによって溶離されて、混合溶媒中に溶解した状態となる。その後、沈降している表面に酸化皮膜を有する銅微粒子と、液相成分を、デカンテーテーション処理によって分離する。この段階では、沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は、残余する液相成分に浸されている状態となる。すなわち、容器の底に沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の体積に対して、約2倍の体積の液相成分が残余した状態である。
さらに、含有される銅微粒子80質量部当たり、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を6質量部添加する。アミン化合物として、ビス(2−エチルヘキシル)アミン(沸点:281℃)を4質量部、付粘性成分として、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上、50%蒸留性状 約450℃)を4質量部添加する。これらを混合した後、室温(25℃)において、減圧処理を施し、メタノール(沸点:64.65℃)、ヘキサン(沸点:69℃)ならびにトルエン(沸点:110.6℃)を除去する。攪拌して調製されたペーストに対して、その粘度を調整するため、チキソ剤もしくは希釈溶剤(テトラデカン:沸点 253.57℃)を加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、作製されるペーストの組成は、銅60質量部、分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン20質量部、パラジウムナノ粒子0.6質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン4質量部、流動パラフィン4質量部、希釈溶剤(テトラデカン)11質量部の比率である。作製されるペースト中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(テトラデカン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚12.6μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚12.6μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、689 μΩ・cmであった。
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が焼結され、焼結体層を形成していることが確認された。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例1において、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理には、下記のメカニズムを介する、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)の関与する還元過程に因っていると推定される。
アルキルナフテン系炭化水素、例えば、C6H11−CH2−Rは、シクロヘキサン環上にアルキル基:−CH2−Rが連結される炭素原子は、メチン構造:>CH−となっている。このメチン構造:>CH−の水素原子と、隣接するアルキル基:−CH2−Rのメチレン構造:−CH2−の水素原子とを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i’) CuO+C6H11−CH2−R → C6H10=CH−R+Cu+H2O
(ii’) C6H10=CH−R+Pd → 〔C6H10=CH−R:Pd〕
〔C6H10=CH−R:Pd〕+H2 → Pd+C6H11−CH2−R
まず、ステップ(i’)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、シクロアルキル環上のメチン水素(>CH−CH2−R)が、>C(−CH2−R)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i’-1) CuO+>CH−CH2−R→〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i’-2) 〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕→〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(−CH2−R)]から、隣接するアルキル基(−CH2−R)のメチレン(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i’-3) 〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕→〔>C=CH−R:Cu〕+H2O
その際、系内に添加されているパラジウムナノ粒子表面のPdの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C6H10=CH−R分子中のC=C部分に水素添加がなされ、C6H11−CH2−Rに再生される。
まず、パラジウムナノ粒子表面のPdに対して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C6H10=CH−R:Pd〕となる。その状態〔C6H10=CH−R:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、パラジウム原子が、水素添加反応の触媒中心として機能して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii’)の水素添加反応によって、アルキルナフテン(例えば、C6H11−CH2−R)の再生が行われる。
このステップ(i’)+ステップ(ii’)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i’+ii’) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i’+ii’)〜(iv)の素過程も繰り返される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
(実施例2)
上記実施例1に記載の手順で調製される、ペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてテトラリンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、テトラリン(1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン:分子量132.21、沸点 207.2℃)は、下記の式で示され、ナフタレンに水素添加して作製され、逆に、脱水素によって、ナフタレンに復する。すなわち、テトラリンは、水素供与能を有する炭化水素化合物である。また、テトラリンに水素添加を施すと、デカリン(デカヒドロキシナフタレン:分子量 138.25、cis体沸点195.7℃、trans体沸点185.5℃)に変換可能である。このデカリンは、脱水素によって、テトラリンへ復する。すなわち、デカリンも、水素供与能を有する炭化水素化合物である。
なお、作製される粘度調整済の分散液の組成は、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子:60質量部、分散剤ドデシルアミン:20質量部、流動パラフィン:4質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン:4質量部、パラジウムナノ粒子:0.6質量部、希釈溶剤(テトラリン):11質量部の比率である。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
作製される分散液中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(テトラリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚13μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚13μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、468 μΩ・cmであった。
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が焼結され、焼結体層を形成していることが確認された。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例2において、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、下記のメカニズムを介する、テトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
テトラリン上、水素添加された環状の炭素原子は、−CH2−CH2−CH2−CH2−となっている。例えば、1位の炭素原子と2位の炭素原子上の水素原子の立体配置に着目すると、axicial配置を有する水素原子二つが隣接する形状を採りえる。このaxicial配置を有する水素原子二つを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i) CuO+C10H12 → C10H10+Cu+H2O
(ii) C10H10+Pd → 〔C10H10:Pd〕
〔C10H10:Pd〕+H2 → Pd+C10H12
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、テトラリン上、環上のメチレン基(−CH2−)のaxicial配置の水素原子が、>C(H)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i-1) CuO+>C(H)−H→〔>C(H)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i-2) 〔>C(H)−H…OCu〕→〔>CH・…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(H)]に、隣接するメチレン基(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i-3) 〔−CH2−C・(H)−…HOCu(I)〕→−CH=CH−+Cu+H2O
その際、系内に添加されているパラジウムナノ粒子表面のPdの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C10H10分子中、−CH=CH−CH2−CH2−のC=C部分に水素添加がなされ、テトラリンに再生される。
まず、パラジウムナノ粒子表面のPdに対して、C10H10分子は、その−CH=CH−CH2−CH2−のC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C10H10:Pd〕となる。その状態〔C10H10:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、パラジウム原子が、水素添加反応の触媒中心として機能して、C10H10分子中、その−CH=CH−CH2−CH2−中のC=C部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンの再生が行われる。
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i+ii) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程も繰り返される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
(実施例3)
上記実施例1に記載の手順で調製される、ペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてデカリンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
上述するように、デカリンは、脱水素によって、テトラリンへ復する。すなわち、デカリンも、水素供与能を有する炭化水素化合物である。
なお、作製される粘度調整済の分散液の組成は、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子:60質量部、分散剤ドデシルアミン:20質量部、流動パラフィン:4質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン:4質量部、パラジウムナノ粒子:0.6質量部、希釈溶剤(デカリン):11質量部の比率である。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
作製される分散液中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(デカリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚11μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚11μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、380 μΩ・cmであった。
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が焼結され、焼結体層を形成していることが確認された。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例3において、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、下記のメカニズムを介する、デカリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
デカリン上、例えば、9位、ならびに10位の炭素原子は、>CH−のメチン構造となっている。例えば、cis−デカリンでは、9位、ならびに10位の炭素原子上の水素原子二つを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i) CuO+C10H18 → C10H16+Cu+H2O
(ii) C10H16+Pd → 〔C10H16:Pd〕
〔C10H16:Pd〕+H2 → Pd+C10H18
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、デカリン上、9位の炭素原子のメチン基(>CH−)の水素原子が、>C(CH<)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i-1) CuO+>C(CH<)−H→〔>C(CH<)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i-2) 〔>C(CH<)−H…OCu〕→〔>C・(CH<)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(CH<)]に隣接するメチン基(−CH<)から、水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i-3) 〔>C・(CH<)−…HOCu(I)〕→>C=C<+Cu+H2O
その際、系内に添加されているパラジウムナノ粒子表面のPdの触媒作用、ならびに、吸着されている水素分子(H2)を利用して、C10H16分子中、>C=C<部分に水素添加がなされ、デカリンに再生される。
まず、パラジウムナノ粒子表面のPdに対して、C10H16分子は、その>C=C<の部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C10H16:Pd〕となる。その状態〔C10H16:Pd〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、パラジウム原子が、水素添加反応の触媒中心として機能して、C10H16分子中、そのの>C=C<の部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、cis−デカリンの再生が行われる。
このステップ(i)+ステップ(ii)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i+ii) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i+ii)〜(iv)の素過程も繰り返される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
(実施例4)
上記実施例2では、ペースト状の分散液を調製する際、銅超微粒子分散液80質量部に対して、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を6質量部添加しているが、本実施例では、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を11質量部添加している。それ以外は、実施例2と同じ条件として、ペースト状の分散液を調製する。調製されるペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてテトラリンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、作製される粘度調整済の分散液の組成は、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子:60質量部、分散剤ドデシルアミン:20質量部、流動パラフィン:4質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン:4質量部、パラジウムナノ粒子:1.1質量部、希釈溶剤(テトラリン):11質量部の比率である。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
作製される分散液中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(テトラリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚7μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚7μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、13 μΩ・cmであった。
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が焼結され、焼結体層を形成していることが確認された。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例4においても、上記実施例2と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高いため、より効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例2と比較して、実施例4における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例2で作製される焼結体と、実施例4で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例2においては、還元処理の達成比率は、全ての表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は、本来の銅微粒子に復するまでには達してなく、実施例2で作製される焼結体中には、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子が相当の比率で混入していると推断される。一方、実施例4で作製される焼結体中には、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、十分に低くなっていると推断される。
(実施例5)
上記実施例3では、ペースト状の分散液を調製する際、銅超微粒子分散液80質量部に対して、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を6質量部添加しているが、本実施例では、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を11質量部添加している。それ以外は、実施例3と同じ条件として、ペースト状の分散液を調製する。調製されるペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてデカリンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、作製される粘度調整済の分散液の組成は、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子:60質量部、分散剤ドデシルアミン:20質量部、流動パラフィン:4質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン:4質量部、パラジウムナノ粒子:1.1質量部、希釈溶剤(デカリン):11質量部の比率である。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
作製される分散液中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(デカリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚14μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚14μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、26 μΩ・cmであった。
本実施例で得られた銅超微粒子焼結体層に付いて、得られた焼結体層の微視的な構造をFIBで断面観察した。その結果、銅微粒子相互が焼結され、焼結体層を形成していることが確認された。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例5においても、上記実施例3と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したデカリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、デカリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高いため、より効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例3と比較して、実施例5における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例3で作製される焼結体と、実施例5で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例3においては、還元処理の達成比率は、全ての表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は、本来の銅微粒子に復するまでには達してなく、実施例2で作製される焼結体中には、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子が相当の比率で混入していると推断される。一方、実施例5で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、十分に低くなっていると推断される。
(比較例1)
上記実施例1では、ペースト状の分散液を調製する際、銅超微粒子分散液80質量部に対して、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を6質量部添加しているが、本比較例では、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を添加していない。それ以外は、実施例1と同じ条件として、ペースト状の分散液を調製する。調製されるペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてテトラデカンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、作製される粘度調整済の分散液の組成は、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子:60質量部、分散剤ドデシルアミン:20質量部、流動パラフィン:4質量部、ビス(2−エチルヘキシル)アミン:4質量部、パラジウムナノ粒子:0質量部、
希釈溶剤(テトラデカン):11質量部の比率である。
作製される分散液中に含有される、固形成分の銅微粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(テトラデカン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚16μmであった。この焼結体層を、平均膜厚16μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率の測定を試みた。しかしながら、その焼結体層の導電性は乏しく、測定ができない範囲であった。従って、その体積固有抵抗率は、10 mΩ・cmを超えていると推定される。
表1に、実施例1〜実施例5、ならびに、比較例1において、使用される分散液の組成、還元・焼結処理条件、ならびに、得られた焼結体層の評価結果を纏めて示す。
(実施例6)
実施例1で使用される、希釈溶剤として、テトラデカンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例6でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例1においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本実施例6では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚9.3μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、8.4μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例6においても、上記実施例1と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明した流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)の関与する還元過程が寄与していると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、アルキルナフテン系炭化水素が再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例1と比較して、実施例6における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例1で作製される焼結体と、実施例6で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例1と比較して、実施例6では、過程(II)において、水素ガス分圧が約7.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例1と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例6では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例1と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例6で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例1と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例7)
実施例2で使用される、希釈溶剤として、テトラリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例7でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例2においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本実施例6では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約50分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚8.2μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、7.5μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例7においても、上記実施例2と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例2と比較して、実施例7における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例2で作製される焼結体と、実施例7で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例2と比較して、実施例7では、過程(II)において、水素ガス分圧が約7.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例2と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例7では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例2と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例7で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例2と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例8)
実施例3で使用される、希釈溶剤として、デカリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例8でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例3においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本実施例6では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚10.5μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、7.2μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例8においても、上記実施例3と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例3と比較して、実施例8における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例3で作製される焼結体と、実施例8で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例3と比較して、実施例8では、過程(II)において、水素ガス分圧が約7.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例3と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例8では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例3と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例8で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例2と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例9)
実施例4で使用される、希釈溶剤として、テトラリン利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例9でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例4においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本実施例6では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚8.8μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、6.7μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例9においても、上記実施例2、実施例4と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高く、また、水素ガス分圧も高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例2、実施例4と比較して、実施例9における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例2、実施例4で作製される焼結体と、実施例9で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例2と比較して、実施例4では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることで、還元処理の達成比率を大幅に改善している。実施例9では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることに加え、水素ガス分圧が約7.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例4と比較しても、格段に速くなっている。そのため、実施例9では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例4と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例9で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例4と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例10)
実施例5で使用される、希釈溶剤として、デカリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例8でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例5においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本実施例6では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚9.4μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、7.7μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例10においても、上記実施例3、実施例5と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したデカリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、デカリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高く、また、水素ガス分圧も高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例3、実施例5と比較して、実施例10における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例3、実施例5で作製される焼結体と、実施例10で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例3と比較して、実施例5では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることで、還元処理の達成比率を大幅に改善している。実施例10では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることに加え、水素ガス分圧が約7.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例5と比較しても、格段に速くなっている。そのため、実施例10では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例5と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例10で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例5と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(比較例2)
上記比較例1で使用される、希釈溶剤として、テトラデカンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本比較例2でも使用している。従って、該分散液中には、パラジウムナノ粒子は含まれていない。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、比較例1においては、非加圧下、アルゴン96%-水素4%ガスの気流下において、加熱処理を施している。一方、本比較例2では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、アルゴン96%-水素4%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内をアルゴン96%-水素4%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚8.3μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、11.1 μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本比較例2においても、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理には、実施例1と類似するメカニズムを介する、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)の関与する還元過程に因っていると推定される。
アルキルナフテン系炭化水素、例えば、C6H11−CH2−Rは、シクロヘキサン環上にアルキル基:−CH2−Rが連結される炭素原子は、メチン構造:>CH−となっている。このメチン構造:>CH−の水素原子と、隣接するアルキル基:−CH2−Rのメチレン構造:−CH2−の水素原子とを利用して、酸化銅(II)の還元反応を進めることが可能である。
(i’) CuO+C6H11−CH2−R → C6H10=CH−R+Cu+H2O
(ii”) C6H10=CH−R+Pd → 〔C6H10=CH−R:Pd〕
〔C6H10=CH−R:Pd〕+H2 → Pd+C6H11−CH2−R
まず、ステップ(i’)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、シクロアルキル環上のメチン水素(>CH−CH2−R)が、>C(−CH2−R)−H…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i’-1) CuO+>CH−CH2−R→〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i’-2) 〔>C(−CH2−R)−H…OCu〕→〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[>C・(−CH2−R)]から、隣接するアルキル基(−CH2−R)のメチレン(−CH2−)から水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i’-3) 〔>C・(−CH2−R)…HOCu(I)〕→〔>C=CH−R:Cu〕+H2O
その際、系内にはパラジウムナノ粒子は添加されていないが、水素ガス分圧が高い状況下においては、銅金属原子Cuの触媒作用を利用して、C6H10=CH−R分子中のC=C部分に水素添加がなされ、C6H11−CH2−Rに再生される。
まず、還元反応で生成する銅原子Cuに対して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔C6H10=CH−R:Cu〕となる。その状態〔C6H10=CH−R:Cu〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素添加反応が進行する。すなわち、銅原子が、水素添加反応の触媒中心として機能して、C6H10=CH−R分子は、そのC=C部分への水素添加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii”)の水素添加反応によって、アルキルナフテン(例えば、C6H11−CH2−R)の再生が行われる。
このステップ(i’)+ステップ(ii”)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
(i’+ii”) CuO+H2→Cu+H2O
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i’+ii’)〜(iv)の素過程も繰り返される。
上記の過程(ii”)は、銅原子:Cu(0)が水素添加反応の触媒として、機能するが、その触媒活性は、パラジウム原子:Pd(0)と比較すると、有意に劣っている。そのため、上記比較例1においては、この水素添加反応に関与する水素分子の分圧が低い場合には、その進行速度は十分でない。そのため、上記の処理時間の間では、還元処理の達成比率は、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の一部は、本来の銅微粒子に復するが、大半は、酸化皮膜は減少しているが、なお、表面の大部分に酸化皮膜が残余している状態に留まっていると推察される。従って、比較例1で作製される焼結体中には、還元処理が十分でなく、表面に酸化皮膜が残余している銅微粒子が相当に高い比率で混入している結果、焼結体層全体として、測定可能な導電率を示していないと推断される。
それに対して、比較例2では、水素添加反応に関与する水素分子の分圧が大幅に高くなっているため、還元反応全体の進行速度は、一定水準を超えていると推定される。従って、還元処理の達成比率は、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の一部は、その表面の一部に酸化皮膜が残余している状態に留まっているが、大半は、酸化皮膜の還元処理が完了し、本来の銅微粒子に復していると推断される。そのため、比較例2で作製される焼結体層は、上記実施例1で作製される焼結体層と比較して、測定される体積固有抵抗率は、遜色の無い値となっている。
表2−1に、実施例6〜実施例8、ならびに、比較例2において、使用される分散液の組成、還元・焼結処理条件、ならびに、得られた焼結体層の評価結果を纏めて示す。
(参考例1)
市販されている銅の超微粒子分散液(商品名:独立分散超微粒子パーフェクトカッパー真空治金(株))、具体的には、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子100質量部、アルキルアミンとして、ドデシルアミン(分子量185.36,沸点:248℃)15質量部、有機溶剤(分散溶媒)として、トルエン(沸点:110.6℃)75質量部を含む、平均粒径5nmの表面酸化被膜層を有する銅ナノ粒子の分散液を利用した。
この分散液100質量部に、メタノール(沸点:64.65℃)100質量部を加える。極性溶媒のメタノールを加えると、含有されている表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は沈降する。同時に、ドデシルアミンの大半は、メタノールによって溶離されて、混合溶媒中に溶解した状態となる。その後、沈降している表面に酸化皮膜を有する銅微粒子と、液相成分を、デカンテーテーション処理によって分離する。この段階では、沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子は、残余する液相成分に浸されている状態となる。すなわち、容器の底に沈降している、表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の体積に対して、約2倍の体積の液相成分が残余した状態である。
さらに、含有される銅微粒子80質量部当たり、パラジウムナノ粒子の10%ヘキサン分散液を6質量部添加する。付粘性成分として、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素;沸点:300℃以上、50%蒸留性状 約450℃)を4質量部添加する。これらを混合した後、室温(25℃)において、減圧処理を施し、メタノール(沸点:64.65℃)、ヘキサン(沸点:69℃)ならびにトルエン(沸点:110.6℃)を除去する。攪拌して調製されたペーストに対して、その粘度を調整するため、チキソ剤もしくは希釈溶剤(テトラリン:沸点 ℃)を加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
なお、作製されるペーストの組成は、銅60質量部、分散剤ドデシルアミンと残余するトルエン20質量部、パラジウムナノ粒子0.6質量部、流動パラフィン4質量部、希釈溶剤(テトラリン)15質量部の比率である。作製されるペースト中に含有される、固形成分の銅微粒子ならびにパラジウムナノ粒子と、他の有機物成分の体積比率は、1:6〜7となっている。
上記パラジウムナノ粒子の粒子径は、2nm〜20nmの範囲となっている。また、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
[塗布層の形成、および還元・焼成処理条件]
基板表面上に、希釈溶剤(テトラリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚12.6μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚9.1μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、15.3 μΩ・cmであった。
(参考例2)
上記参考例1に記載の手順で調製される、ペースト状の分散液に対して、希釈溶剤としてデカリンを加えて、その粘度をおよそ80Pa・sに調整する。
基板表面上に、希釈溶剤(デカリン)で粘度調整したペースト状の分散液を、幅0.3cm、長さ2cm、目標塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。ガス焼成チャンバー内に、前記塗布層形成を終えた基板を設置した後、チャンバー内全体を還元ガス雰囲気下にするため、アルゴン96%−水素4%ガスを200cc/minの流速で流し、還元ガスの気流下とする。
チャンバー内の温度を、約10分間を要して、温度200℃(473K)まで加熱し、110分間、この温度を保持する。その後、降温過程は、水冷によっている。なお、内部温度が、50℃以下に降下するのに、約10分間を要した。
[銅超微粒子焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた銅超微粒子焼結体層の形状は、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚10.2μmであった。この銅超微粒子焼結体層を、平均膜厚9.1μmを有する均一な薄膜層と見做して、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、16.8μΩ・cmであった。
表2−2に、実施例9、実施例10、ならびに、比較例2、比較例3において、使用される分散液の組成、還元・焼結処理条件、ならびに、得られた焼結体層の評価結果を纏めて示す。
(実施例11)
実施例1で使用される、希釈溶剤として、テトラデカンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例11でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例1においては、非加圧下、アルゴン−水素4%ガスの気流下において、実施例6においては、加圧・密閉条件下、アルゴン−水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本実施例11では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚11.3μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、6.5μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例11においても、上記実施例1と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明した流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)の関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、アルキルナフテン系炭化水素が再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例1と比較して、実施例11における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例1で作製される焼結体と、実施例11で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例1と比較して、実施例11では、過程(II)において、水素ガス分圧が約162.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例1と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例11では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例1と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例11で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例1と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例12)
実施例2で使用される、希釈溶剤として、テトラリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例7でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例2においては、非加圧下、アルゴン−水素4%ガスの気流下において、実施例7においては、加圧・密閉条件下、アルゴン−水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本実施例12では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚11.0μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、6.9μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例11においても、上記実施例2、実施例7と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例2と比較して、実施例12における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例2で作製される焼結体と、実施例12で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例2と比較して、実施例12では、過程(II)において、水素ガス分圧が約162.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例2と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例12では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例2と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例7で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例2と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例13)
実施例3で使用される、希釈溶剤として、デカリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例13でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約0.6原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例3においては、非加圧下、アルゴン−水素4%ガスの気流下において、実施例8においては、加圧・密閉条件下、アルゴン−水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本実施例13では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚10.2μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、7.2μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例13においても、上記実施例3、実施例8と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、水素ガス分圧が高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例3と比較して、実施例13における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例3で作製される焼結体と、実施例13で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例3と比較して、実施例13では、過程(II)において、水素ガス分圧が約162.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例3と比較して、格段に速くなっている。そのため、実施例13では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例3と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例8で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例3と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例14)
実施例4で使用される、希釈溶剤として、テトラリン利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例14でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例4においては、非加圧下、アルゴン水素4%ガスの気流下において、実施例9においては、非加圧下、アルゴン水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本実施例14では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚6.9μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、4.3μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例14においても、上記実施例2、実施例4、実施例9と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したテトラリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、テトラリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高く、また、水素ガス分圧も高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例4、実施例9と比較して、実施例14における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例4、実施例9で作製される焼結体と、実施例14で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例4と比較して、実施例14では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることで、還元処理の達成比率を大幅に改善している。実施例14では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることに加え、水素ガス分圧が約162.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例4と比較しても、格段に速くなっている。そのため、実施例9では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例4と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例9で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例4と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(実施例15)
実施例5で使用される、希釈溶剤として、デカリンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本実施例15でも使用している。従って、該分散液では、銅微粒子に含まれる銅原子と、パラジウムナノ粒子に含まれるパラジウム原子との比率は、Cu:100原子当たり、Pd:約1.1原子となっている。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、実施例5においては、非加圧下、アルゴン水素4%ガスの気流下において、実施例10においては、加圧・密閉条件下、アルゴン水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本実施例15では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚13.14μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、8.1μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本実施例15においても、上記実施例3、実施例5、実施例10と同様に、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理は、例えば、上で説明したデカリンの関与する還元過程に因っていると推定される。
なお、その一連の過程中、上記のステップ(ii)の水素添加反応によって、デカリンが再生される過程は、触媒となるパラジウムナノ粒子の含有比率が高く、また、水素ガス分圧も高いため、さらに効率的に進行する。従って、還元反応全体としても、その効率の向上が達成されていると推定される。
その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理を終え、引き続き、再生された銅微粒子相互の焼結を行っている。その段階では、含有されている有機物の大半は、蒸散しており、沸点が300℃以上の流動パラフィン中の高沸点成分が残留している。すなわち、再生された銅微粒子は、配合されている少量のパラジウムナノ粒子とともに、前記の残留している流動パラフィン中の高沸点成分により、その表面は被覆されている。その際、金属表面相互が接触した部位では、相互に溶融し、焼結体を形成する。
なお、実施例5、実施例10と比較して、実施例15における、その表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の還元処理はより短時間で完了していると推定され、また、還元処理の達成比率も、大幅に高くなっていると推定される。その差違が、実施例3、実施例5で作製される焼結体と、実施例15で作製される焼結体の導電性の差違の要因であると判断される。換言するならば、実施例3と比較して、実施例5では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることで、還元処理の達成比率を大幅に改善している。実施例15では、過程(II)に関与するパラジウムナノ粒子の含有比率を高くすることに加え、水素ガス分圧が約162.5倍に増しており、還元処理速度は、実施例5と比較しても、格段に速くなっている。そのため、実施例15では、加熱処理温度200℃に保持する時間は、実施例5と比較して、1/2以下であるが、その昇温過程においても、還元処理が進行していると推断できる。従って、実施例15で作製される焼結体中においては、還元処理が十分でなく、部分的に表面に酸化皮膜を有する銅微粒子の残存率は、実施例5と比較して、さらに低くなっていると推断される。
(比較例3)
上記比較例1、比較例2で使用される、希釈溶剤として、テトラデカンを利用して、粘性を調整しているペースト状の分散液を、本比較例3でも使用している。従って、該分散液中には、パラジウムナノ粒子は含まれていない。
この粘性調整済のペースト状の分散液を利用して、還元・焼成処理の条件を変更して、焼結体層を作製している。還元・焼成処理時、比較例1においては、非加圧下、アルゴン−水素4%ガスの気流下において、参考例1においては、加圧・密閉条件下、アルゴン−水素4%ガスの雰囲気中において、加熱処理を施している。一方、本参考例2では、オートクレーブ内において、加圧・密閉条件下、水素100%ガスの還元ガス雰囲気中において、加熱処理を施している。
[塗布層を形成および焼成条件]
基板表面上にペースト状の分散液を幅0.3cm、長さ2cm、平均塗布層厚50μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成した。オートクレーブ内に前記塗布層形成を終えた基板を設置後、オートクレーブ内を水素100%ガスで充分に満たし、還元ガス雰囲気下とした。還元ガスの充填により常温(25℃)で約5気圧(5×103 hPa)まで加圧し、約55分間を要して、温度200℃まで加熱し、30分間保持した。従って、前記加熱温度の達した際、還元ガス雰囲気の圧力は、約7.5気圧(7.5×103 hPa)まで上昇している。降温過程は自然冷却により約40分間を要した。冷却後のオートクレーブ内壁には、有機分が付着しており、加圧条件下、加熱処理する間に、ペーストに含有される溶剤の揮発または有機分の分解が進行し、焼結体層が形成されるものと判断される。
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
得られた焼結体層について、幅0.3cm、長さ2cmの平面形状、平均膜厚12.7μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、7.1 μΩ・cmであった。
[銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理のメカニズム]
本比較例3においても、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理には、上記比較例2と同様に、実施例1と類似するメカニズムを介する、流動パラフィン(アルキルナフテン系炭化水素)の関与する還元過程が大きな寄与を有していると推定される。
本比較例3において、銅超微粒子の表面酸化皮膜の還元処理には、さらに、ビス(2−エチルヘキシル)アミンが関与する、下記のメカニズムによる寄与も含まれると推定される。
表面酸化皮膜の最表面は、酸化銅(II):CuOの状態と考えられる。このCuOの還元は、系内に共存している、ビス(2−エチルヘキシル)アミンと水素分子(H2)が関与する下記の二段階のステップを介しても、進行すると考えられる。
(i”) CuO+HN(CH2CH(C2H5)C4H9)2
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2O
(ii”) 〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2
→Cu+HN(CH2CH(C2H5)C4H9)2
まず、ステップ(i)では、酸化銅(II):CuOのOに対して、ビス(2−エチルヘキシル)アミンが、>NH…Oの水素結合型の相互作用を介して、配位する。
(i”-1) CuO+HN(CH2R’)2→〔CuO…HN(CH2R’)2〕
その後、以下の部分還元が進行する。
(i”-2) 〔CuO…HN(CH2R’)2〕→〔>N・…HOCu(I)〕
さらに、生成したラジカル種[・N(CH2R’)2]中、隣接する−CH2−の水素原子が供与されて、還元反応が完了する。
(i”-3) 〔>N・…HOCu(I)〕
→〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕+H2O
その際、表面の生成される銅原子に対して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分のπ電子を利用して、π−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕となる。
その状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕に対して、気相から水素分子(H2)による、水素付加反応が進行する。すなわち、銅原子が、触媒中心として機能して、N(CH2R’)=CHR’分子は、その−HC=N−部分への水素付加反応を促進する。結果的に、上記のステップ(ii)の水素付加反応によって、ビス(2−エチルヘキシル)アミンの再生が行われる。
微視的には、表面で生成される銅原子Cu(0)の下層には、CuOが存在しているため、Cu(0)−O−Cu(II)は、Cuδ+−O−Cu(2-δ)+の状況にある。そのため、上述するπ−配位子型の配位を行った状態〔Cu:N(CH2R’)=CHR’〕を形成することが可能となっている。
このステップ(i”)+ステップ(ii”)の二段階の反応全体を考えると、見かけ上、下記の反応として、表記される。すなわち、水素分子(H2)が「還元剤」として、酸化銅(II):CuOに作用して、銅原子と、副生成物として、水分子(H2O)を生成している。
なお、超微粒子の表面に生成する銅原子Cuと、内部に存在する酸化銅(II):CuOの間で、酸化状態の交換が引き起こされる。
(iii) CuO+Cu→〔Cu2O〕
(iv) 〔Cu2O〕→Cu+CuO
結果的に、超微粒子の中心部には、銅原子Cu(0)が集積され、最表面には、酸化銅(II):CuOが表出している状態となる。このステップ(i”+ii”)〜(iv)の素過程が繰り返される。
表3に、実施例11〜実施例15、ならびに、比較例3において、使用される分散液の組成、還元・焼結処理条件、ならびに、得られた焼結体層の評価結果を纏めて示す。
実施例11〜15においては、添加されているパラジウムナノ粒子自体の水素化触媒の活性が高いため、水素ガス分圧が、0.2気圧を超えた範囲では、酸化銅の還元で消費される水素供与能を有する炭化水素を再生するステップ(ii)は、十分な速度を示すようになる。そのため、全体の還元速度は、水素供与能を有する炭化水素による酸化銅の還元反応のステップ(i)が律速となっていると推定される。その結果、実施例11〜15と、実施例6〜10とを対比すると、水素ガス分圧を高めた効果は、僅かなものとなっている。一方、比較例3と比較例2においては、生成する銅自体が、水素化触媒として機能するため、実効的な触媒活性には、水素ガス分圧を高めた効果がより明確に反映される。すなわち、水素ガス分圧が低い場合、その再生速度が遅く、十分な寄与を示していない、第二アミンの関与する還元反応の寄与がより顕著となっていると、推定される。