図1は、本発明の実施例に係る車両挙動制御装置が設けられた車両の概略図である。同図に示す車両1には、本発明の実施例に係る車両挙動制御装置5が備えられており、この車両挙動制御装置5は、運転時には内部で燃料を燃焼させることにより作動するエンジン10を有している。このエンジン10は、当該エンジン10を搭載する車両1の進行方向における前半部分に設けられており、エンジン10には、トルクコンバータ(図示省略)を介して、変速手段であるトランスミッション15が接続されている。このトランスミッション15は、エンジン10の運転時に、運転者が操作しなくても変速比を自動的に変速する、いわゆるオートマチックトランスミッションとして設けられている。これにより、トランスミッション15は、車両1の走行時におけるエンジン10の回転と、車両1が有する車輪40の回転との回転比を変化させることができる。なお、このトランスミッション15は、乾式単板クラッチ(図示省略)を介してエンジン10に接続され、運転者が手動で変速比を変速する、いわゆるマニュアルトランスミッションを用いてもよい。
このように設けられるトランスミッション15には、当該トランスミッション15によって変速されたエンジン10の回転が伝達される前輪用デファレンシャルギア25が接続されている。さらに、この前輪用デファレンシャルギア25には、車両1が有する複数の車輪40のうち、車両1の進行方向における前側に位置する車輪40である前輪41に、エンジン10の動力を伝達する前輪用ドライブシャフト27が接続されている。つまり、前輪用デファレンシャルギア25は、トランスミッション15によって変速されたエンジン10の回転を、前輪用ドライブシャフト27を介して車両1の前輪41に伝達可能に設けられている。
また、この前輪用ドライブシャフト27は、前輪用デファレンシャルギア25から2方向に向けて設けられており、2方向の前輪用ドライブシャフト27は、車両1の左右の前輪41に接続されている。これにより、前輪用ドライブシャフト27は、車両1の左右に設けられる2つの前輪41に、トランスミッション15から前輪用デファレンシャルギア25に伝達された回転を伝達可能になっている。さらに、前輪用デファレンシャルギア25は、2方向の前輪用ドライブシャフト27、或いは左右の前輪41に対して、回転差を有してトランスミッション15からの回転を伝達可能に設けられている。
また、エンジン10には、車両1が有する各電機部品で使用される電気を発電するオルタネータ11が備えられている。さらに、エンジン10には、車両1に備えられる空調機のコンプレッサ(図示省略)など、エンジン10の運転時にエンジン10の動力によって作動可能な補機12が備えられている。
これらのオルタネータ11と補機12とには、それぞれに回転可能なプーリ30が設けられており、これらはエンジン10に設けられたプーリ30とベルト38によって接続されることにより、作動可能に設けられている。詳しくは、エンジン10には、エンジン10の内部に設けられ、エンジン10の運転時に回転するクランクシャフト(図示省略)と一体に形成されている回転軸に接続されたクランクプーリ31が設けられている。また、オルタネータ11には、オルタネータ11が有すると共にオルタネータ11で発電をさせる際に回転させる軸である回転軸に接続されたオルタネータ用プーリ32が設けられている。また、補機12には、補機12が有すると共に補機12を作動させる際に回転させる軸である回転軸に接続された補機用プーリ33が設けられている。
これらのクランクプーリ31、オルタネータ用プーリ32及び補機用プーリ33には、エンジン10の動力をオルタネータ11と補機12とに伝達するベルト38が掛けられている。このベルト38は、輪状に形成されており、輪状の外側から内側に向かうに従って幅が狭くなって形成される、いわゆるVベルトとなっている。このように形成されるベルト38は、1本のベルト38がクランクプーリ31、オルタネータ用プーリ32、補機用プーリ33の全てのプーリ30に掛けられている。
なお、ベルト38は、輪状に形成されるベルト38の内側に周方向に形成される複数本の溝を有するVリブベルトなど、Vベルト以外のベルト38を用いてもよい。また、ベルト38は、1本のベルト38を全てのプーリ30に掛けるのではなく、複数本のベルト38をクランクプーリ31に掛け、オルタネータ用プーリ32、補機用プーリ33に、別々にベルト38を掛けてもよい。
また、オルタネータ11には、高圧バッテリ50と12Vバッテリ51とが接続されており、12Vバッテリ51よりも高圧バッテリ50の方が、充電や放電をできる電気の電圧が高くなっている。これらの高圧バッテリ50と12Vバッテリ51とのうち、高圧バッテリ50には、オルタネータ11で発電した電気が供給される。また、オルタネータ11と12Vバッテリ51との間には、電圧を変化させるDC(Direct Current:直流)/DCコンバータ52が設けられており、このDC/DCコンバータ52には、高圧バッテリ50も接続されている。即ち、12Vバッテリ51は、DC/DCコンバータ52を介してオルタネータ11と高圧バッテリ50とに接続されており、オルタネータ11で発電した電気が12Vバッテリ51に供給される際には、DC/DCコンバータ52を介して供給される。また、この12Vバッテリ51には、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)90が接続されている。
また、高圧バッテリ50には、インバータ53を介してモータジェネレータ20が接続されており、このモータジェネレータ20は、インバータ53を介してオルタネータ11にも接続されている。即ち、モータジェネレータ20は、インバータ53を介してオルタネータ11と高圧バッテリ50とに接続されている。これにより、オルタネータ11で発電した電気や、高圧バッテリ50に充電されている電気は、インバータ53を介してモータジェネレータ20に供給可能になっている。モータジェネレータ20は、インバータ53を介してオルタネータ11や高圧バッテリ50から供給される電気により作動可能に形成されている。
また、モータジェネレータ20には、オルタネータ11や高圧バッテリ50からの電気によって作動するモータジェネレータ20の回転が伝達されるリダクション機構21が接続されており、リダクション機構21には、後輪用デファレンシャルギア26が接続されている。このリダクション機構21は、モータジェネレータ20の回転を後輪用デファレンシャルギア26に伝達可能に設けられていると共に、この回転を伝達する際における回転比を変更可能に形成されている。つまり、リダクション機構21は、モータジェネレータ20の回転を後輪用デファレンシャルギア26に伝達する際における変速比を変更可能に形成されている。換言すると、後輪用デファレンシャルギア26は、リダクション機構21を介してモータジェネレータ20に接続されており、モータジェネレータ20の回転は、リダクション機構21によって変速比を変更しつつ、リダクション機構21を介して後輪用デファレンシャルギア26に伝達可能に設けられている。
さらに、後輪用デファレンシャルギア26には、車両1が有する複数の車輪40のうち、車両1の進行方向における後側に位置する車輪40である後輪42に、モータジェネレータ20の動力を伝達する後輪用ドライブシャフト28が接続されている。これにより、後輪用デファレンシャルギア26は、リダクション機構21を介して伝達されたモータジェネレータ20の回転を、後輪用ドライブシャフト28を介して車両1の後輪42に伝達可能に設けられている。
また、後輪用ドライブシャフト28は、前輪用ドライブシャフト27と同様に、後輪用デファレンシャルギア26から2方向に向けて設けられている。このため、後輪用ドライブシャフト28は、車両1の左右に設けられる2つの後輪42に、リダクション機構21を介してモータジェネレータ20から後輪用デファレンシャルギア26に伝達された回転を伝達可能になっている。また、後輪用ドライブシャフト28が接続される後輪用デファレンシャルギア26は、2方向の後輪用ドライブシャフト28、或いは左右の後輪42に対して、回転差を有してモータジェネレータ20からの回転を伝達可能に設けられている。
また、車両1には、車両1の運転状態を検出するセンサが設けられており、例えば、エンジン10のクランクシャフトの近傍には、クランクシャフトの回転角であるクランク角を検出するクランク角センサ55が設けられている。また、トランスミッション15の出力軸(図示省略)の近傍には、当該出力軸の回転速度を検出することにより、この回転速度を介して車速を検出する車速センサ56が設けられている。また、車両1の運転席に設けられたステアリング61の回転軸であるステアリングシャフト62の近傍には、ステアリング61の回転状態を検出するステアリングセンサ57が設けられている。また、運転席に設けられたアクセルペダル63の近傍には、アクセルペダル63の状態を検出するアクセルセンサ58が設けられている。
また、これらのエンジン10、トランスミッション15、モータジェネレータ20、リダクション機構21、クランク角センサ55、車速センサ56、ステアリングセンサ57及びアクセルセンサ58は、ECU90に接続されており、ECU90によって制御可能に設けられている。このECU90には、処理部91、記憶部101及び入出力部102が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、ECU90に接続されているエンジン10等は、入出力部102に接続されており、入出力部102は、これらのエンジン10等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部101には、本発明に係る車両挙動制御装置5を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部101は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、処理部91は、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくともモータジェネレータ20を制御するモータジェネレータ制御手段であるモータジェネレータ制御部92と、車両1の運転状態情報を取得する運転状態情報取得手段である運転状態情報取得部93と、運転状態情報取得部93で取得した車両1の運転状態情報より車両1が旋回中であるかを判定する旋回状態判定手段である旋回状態判定部94と、運転状態情報取得部93で取得した車両1の運転状態情報よりアクセルペダル63がOFFであるかを判定するアクセル状態判定手段であるアクセル状態判定部95と、運転状態情報取得部93で取得した車両1の運転状態情報よりエンジンブレーキ力を算出するエンジンブレーキ力算出手段であるエンジンブレーキ力算出部96と、モータジェネレータ20が後述する回生制動を行なう際における制動力である回生制動力を、エンジンブレーキ力算出部96で算出したエンジンブレーキ力に基づいて算出する回生制動力算出手段である回生制動力算出部97と、車両1の旋回中に、エンジン10のエンジンブレーキ力に基づいた大きさの回生制動力をモータジェネレータ20に発生させる回生制動力制御手段である回生制動力制御部98と、を有している。
当該車両挙動制御装置5が有するエンジン10やトランスミッション15などの制御は、例えばクランク角センサ55など、車両1の各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部91が前記コンピュータプログラムを当該処理部91に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてエンジン10に設けられた燃料噴射インジェクタ(図示省略)などを作動させることにより制御する。その際に処理部91は、適宜記憶部101へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このように車両挙動制御装置5を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU90とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
この実施例に係る車両挙動制御装置5は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1を走行させる際には、エンジン10を運転させることにより、エンジン10の駆動力を車輪40に伝達して走行させる。このように、エンジン10の駆動力を車輪40に伝達する際には、まず、エンジン10の回転をトランスミッション15に伝達する。
エンジン10の回転が伝達されたトランスミッション15は、エンジン10の回転数や車両1の速度、車両1の室内に設けられたアクセルペダル63の開度など、車両1の運転状態に応じて、変速して出力をする。つまり、トランスミッション15は、エンジン10から伝達された動力の回転数を変化させて前輪用デファレンシャルギア25に伝達するが、その際におけるエンジン10から入力される回転と前輪用デファレンシャルギア25に出力する回転との回転比を、車両1の運転状態に応じて変化させる。
なお、このようにエンジン10から入力される回転と前輪用デファレンシャルギア25に出力する回転との回転比を変化させる、即ち、変速する際には、予めECU90の記憶部101に記憶された変速のマップ(図示省略)に従って変速する。この変速のマップは、車両1の運転状態に応じた変速のタイミングを示すマップとなっている。
トランスミッション15で変速されたエンジン10の動力が伝達された前輪用デファレンシャルギア25は、前輪用ドライブシャフト27を介して、車両1の左右の前輪41に動力を伝達する。これにより、左右の前輪41は駆動する。
また、エンジン10の運転時には、クランクシャフトの回転に伴ってクランクプーリ31が回転し、この回転は、クランクプーリ31に掛けられたベルト38によって、当該ベルト38が掛けられたオルタネータ用プーリ32や補機用プーリ33に伝達される。これにより、オルタネータ11、補機12は作動する。
このうち、オルタネータ11が作動すると電気を発電し、オルタネータ11が発電した電気は、高圧バッテリ50や、DC/DCコンバータ52を介して12Vバッテリ51などに供給される。また、補機12として設けられる空調機のコンプレッサなどは、その補機12に応じた作用をする。また、オルタネータ11の作動時にオルタネータ11から12Vバッテリ51に供給される電気は、DC/DCコンバータ52によって電圧が下げられた後、12Vバッテリ51に供給される。
また、オルタネータ11で発電した電気や、高圧バッテリ50に充電された電気は、インバータ53を介してモータジェネレータ20に供給される。ここで、モータジェネレータ20は、交流の電気で作動するのに対し、オルタネータ11は直流の電気を発電し、高圧バッテリ50は直流の電気を放電する。このため、インバータ53は、オルタネータ11や高圧バッテリ50から供給される直流の電気を交流に変換して、モータジェネレータ20に供給する。モータジェネレータ20は、このようにインバータ53によって交流に変換された電気が供給されることにより作動する。
インバータ53を介してオルタネータ11や高圧バッテリ50からの電気が供給されることにより作動するモータジェネレータ20は、作動時の動力を、リダクション機構21を介して後輪用デファレンシャルギア26に出力する。その際に、リダクション機構21は、車両1の走行状態に適した変速比で、モータジェネレータ20の動力を後輪用デファレンシャルギア26に出力する。モータジェネレータ20の動力が伝達された後輪用デファレンシャルギア26は、後輪用ドライブシャフト28を介して、車両1の左右の後輪42に動力を伝達する。これにより、左右の後輪42は駆動する。このように、前輪41はエンジン10によって駆動し、後輪42はモータジェネレータ20によって駆動することにより、四輪全てが駆動する。
また、モータジェネレータ20は、車両1の減速時に、後輪42、後輪用ドライブシャフト28、後輪用デファレンシャルギア26、リダクション機構21を介して車両1の運動エネルギーが伝達されることにより、運動エネルギーによって発電を行なう、いわゆる回生機構を有している。つまり、車両1の減速時には、後輪42の回転が後輪用ドライブシャフト28、後輪用デファレンシャルギア26、リダクション機構21の順でモータジェネレータ20に伝達され、モータジェネレータ20は、伝達された回転により発電する。
このように、モータジェネレータ20は、減速時に後輪42の回転が伝達されることにより発電をするが、このモータジェネレータ20は、交流の電気を発電する。モータジェネレータ20が発電した電気は、まず、インバータ53に伝達される。さらに、この電気は、インバータ53から高圧バッテリ50に伝達され、高圧バッテリ50に充電される。その際に、モータジェネレータ20が発電した交流の電気は、インバータ53によって直流の電気に変換され、直流の電気の状態で高圧バッテリ50に充電される。
また、車両1の減速時に後輪42の回転が後輪用ドライブシャフト28などを介してモータジェネレータ20に伝達され、伝達された回転によりモータジェネレータ20で発電をする場合、発電時におけるモータジェネレータ20は、後輪用デファレンシャルギア26の回転の抵抗になる。つまり、発電時におけるモータジェネレータ20は、リダクション機構21、後輪用デファレンシャルギア26及び後輪用ドライブシャフト28を介して後輪42の回転を低減する作用をし、これにより、走行中の車両1の制動をする作用をする。換言すると、モータジェネレータ20は、車両1の運動エネルギーを電気に変換することにより、走行中の車両1の制動を行なう。このように、モータジェネレータ20は、車両1の減速時には、車両1の運動エネルギーを電気に変換することより、発電と同時に車両1の運動エネルギーを低減させて行なう制動である回生制動を行なう。
また、このように、モータジェネレータ20で回生制動を行なう場合には、モータジェネレータ20の動力を後輪42に伝達する際においてリダクション機構21で最適な変速比で伝達するのと同様に、後輪42の回転は、リダクション機構21で最適な変速比に変速してモータジェネレータ20に伝達される。つまり、車両1の減速時には、後輪42の回転が後輪用ドライブシャフト28及び後輪用デファレンシャルギア26を順に伝わってリダクション機構21に伝達され、リダクション機構21で、モータジェネレータ20で最適な回生制動を行なうことのできる変速比に変速された後、モータジェネレータ20に伝達され回生制動を行なう。
図2は、モータジェネレータの特性を示す説明図である。同図は、モータジェネレータ20の回転数とトルクとの関係を示しており、横軸はモータジェネレータ20の回転数を示し、縦軸は、横軸の回転数におけるモータジェネレータ20のトルクを示している。なお、モータジェネレータ20は、モータジェネレータ20の出力時にモータジェネレータ20から出力されるトルクと、回生制動時にモータジェネレータ20を回転させるのに必要なトルクとが等しくなっている。このため、図2に示す特性は、モータジェネレータ20の出力時と回生制動時との双方における特性を示している。
モータジェネレータ20は、図2に示すように、極低回転で回転している場合が、最もトルクが大きく、回転数が上昇するに従ってトルクが減少する。また、モータジェネレータ20で回生制動を行なう場合、モータジェネレータ20が発電を行なう効率である回生効率は、モータジェネレータ20の回転数によっても変化する。具体的には、トルクが最も大きくなる回転数よりも、回転数が少し高い付近の領域が回生効率が高くなっており、回転数がそこから離れるに従って、回生効率は悪くなる。つまり、図2で説明すると、図2におけるaの領域が最も回生効率が高くなっており、a、b、c、d、eの順で、次第に回生効率は悪くなり、eの領域が回生効率は最も悪くなる。
図3は、旋回中にエンジンブレーキが発生した場合における説明図である。また、車両1の走行時においてアクセルペダル63(図1参照)を戻した場合には、エンジンブレーキが発生するが、このエンジンブレーキは、エンジン10(図1参照)の動力が伝達される車輪40にのみ作用する。このため、本実施例に係る車両挙動制御装置5が備えられる車両1の場合には、エンジンブレーキは前輪41にのみ作用する。このように、前輪41にエンジンブレーキが作用した場合には、前輪41付近には、車両1の進行方向の反対方向に作用する力である前輪制動力65が作用する。また、車両1の減速時には、モータジェネレータ20(図1参照)は回生制動を行なうが、モータジェネレータ20の回生制動力は後輪42にのみ作用する。このように、後輪42に回生制動力が発生した場合には、後輪42付近には、車両1の進行方向の反対方向に作用する力である後輪制動力66が作用する。
また、車両1の走行中には車両1は旋回する場合があるが、車両1の旋回中は、車両1の進行方向は車両1の前後方向とは異なる方向になる。このため、車両1の旋回時にアクセルペダル63を戻し、エンジンブレーキが発生した場合には、前輪41付近に作用するエンジンブレーキによる制動力は、車両1の進行方向の反対方向に作用する力である旋回時前輪制動力71と、車両1の旋回円(図示省略)の内側方向に向かう力である旋回時前輪横力72とに分散される。
車両1の旋回中にエンジンブレーキによる制動力が作用した場合には、このように前輪41付近に旋回時前輪横力72が発生するが、この旋回時前輪横力72が作用する前輪41は、車両1の重心80よりも前方に位置している。このため、車両1には、重心80よりも前側部分に、旋回時前輪横力72の方向、即ち、旋回円の内側方向に向かう力が作用する。これにより車両1には、重心80よりも前側部分が重心80を中心として旋回円の内側方向に向かう回転力である回転モーメントが発生する。つまり、車両1の前後方向軸81及び左右方向軸82が、重心80を中心として旋回時前輪横力72の向きに回転する方向に回動して移動し、旋回中の車両1には、いわゆるタックインが発生する。
また、車両1の旋回中に減速し、回生制動をする場合には、後輪42付近に作用する回生制動による制動力は、車両1の進行方向の反対方向に作用する力である旋回時後輪制動力75と、車両1の旋回円の内側方向に向かう力である旋回時後輪横力76とに分散される。
車両1の旋回中に回生制動による制動力が作用した場合には、このように後輪42付近に旋回時後輪横力76が発生するが、この旋回時後輪横力76が作用する後輪42は、車両1の重心80よりも後方に位置している。このため、車両1には、重心80よりも後側部分に、旋回時後輪横力76の方向、即ち、旋回円の内側方向に向かう力が作用し、これにより車両1には、重心80よりも後側部分が重心80を中心として旋回円の内側方向に向かう回転力である回転モーメントが発生する。
ここで、回生制動による回転モーメントと、エンジンブレーキによる回転モーメントとは、重心80を中心とする回転方向が反対方向になっている。このため、車両1の旋回中のエンジンブレーキによって発生する回転モーメントと、回生制動による回転モーメントとは、互いに打ち消しあう作用をする。換言すると、回生制動による回転モーメントと、エンジンブレーキによる回転モーメントとは、重心80を中心とする回転方向が反対方向になっているため、旋回走行時における回転モーメントの釣り合いを取ることができる。これにより、旋回中にエンジンブレーキと回生制動とが共に作用した場合には、旋回中のエンジンブレーキによって発生するタックインは低減する。
図4は、車両の旋回中における旋回中心の移動を示す説明図である。また、車両1の旋回中は、旋回中の車速が速くなるに従って、車輪40にスリップが発生し易くなるため、旋回中心は前方に移動する。つまり、車両1の高速時における旋回中心である高速時旋回中心85は、車両1の低速時における旋回中心である低速時旋回中心86よりも車両1の進行方向における前方に移動する。
このように、車両1が高速旋回している場合には、旋回中心は前方に移動するが、アクセルペダル63(図1参照)を戻してエンジンブレーキが前輪41に作用した場合には、車輪40は路面との摩擦力であるグリップ力が上昇し、特に、前輪41のグリップ力が上昇する。このため、高速旋回によって低速旋回時よりも前方に移動していた旋回中心は、急激に車両1の進行方向における後方に移動する。これにより、車両1は急激に旋回し易くなると同時に、重心80を中心として、重心80よりも前側部分が旋回円(図示省略)の内側方向に向かう方向に車両1が回動し、車両1の向きが変わり易くなる。つまり、タックインが発生し易くなる。
車両1が走行をする際には、上述したような挙動をするが、この車両1の走行中には、ECU90が車両1の各部を制御する。このため、ECU90の処理部91が有する運転状態情報取得部93では、車両1の各部に設けられたセンサによる検出結果より、車両1の運転状態情報を取得する。ECU90は、この運転状態情報取得部93で逐次車両1の運転状態情報を取得しながら、車両1の各部を制御する。
車両1の運転時における運転状態情報の取得としては、例えば、クランクシャフトの近傍に設けられたクランク角センサ55が、所定時間あたりのクランク角の変化を検出する。このように検出したクランク角センサ55による検出結果は運転状態情報取得部93に伝達され、運転状態情報取得部93は、所定時間あたりのクランク角センサ55の変化よりエンジン10の回転数を算出して取得する。また、トランスミッション15の出力軸の近傍に設けられた車速センサ56が、当該出力軸の回転数を検出する。このように検出した車速センサ56による検出結果は運転状態情報取得部93に伝達され、運転状態情報取得部93は、車速センサ56が検出したトランスミッション15の出力軸の回転数に基づいて、車速を算出して取得する。
また、ステアリングシャフト62の近傍に設けられたステアリングセンサ57が、ステアリングシャフト62の回転角を介してステアリング61の回転角を検出する。このように検出したステアリングセンサ57による検出結果は運転状態情報取得部93に伝達され、運転状態情報取得部93は、ステアリングセンサ57が検出したステアリング61の回転角を、車両1の旋回情報として取得する。さらに、アクセルペダル63の近傍に設けられたアクセルセンサ58が、アクセルペダル63の開度を検出する。このように検出したアクセルセンサ58による検出結果は運転状態情報取得部93に伝達され、運転状態情報取得部93は、アクセルセンサ58が検出したアクセルペダル63の開度より、アクセル情報を取得する。
また、ECU90の処理部91が有する旋回状態判定部94やアクセル状態判定部95は、運転状態情報取得部93が取得した運転状態情報より、車両1の走行状態を判定する。つまり、旋回状態判定部94は、運転状態情報取得部93が取得した運転状態情報より、車両1が旋回中であるかを判定する。また、アクセル状態判定部95は、運転状態情報取得部93が取得した運転状態情報より、アクセルペダル63が戻されているかを判定する。
図5は、エンジンブレーキの特性を示す説明図である。また、ECU90の処理部91が有するエンジンブレーキ力算出部96は、運転状態情報取得部93が取得した運転状態情報より、エンジンブレーキ力を算出する。ここで、エンジンブレーキ力は、エンジン10の回転数と車速とによって変化する。具体的には、エンジン10の回転数とエンジンブレーキ力との関係は、図5に示すように、エンジン10の回転数が高くなるに従ってエンジンブレーキ力は大きくなり、エンジン10の回転数が低くなるに従ってエンジンブレーキ力は小さくなる。車速とエンジンブレーキ力との関係の場合も同様に、車速が高くなるに従ってエンジンブレーキ力は大きくなり、車速が低くなるに従ってエンジンブレーキ力は小さくなる。
従って、エンジン10の回転数、及び車速とエンジンブレーキ力との関係は、エンジン10の回転数とエンジンブレーキ力との関係、及び車速とエンジンブレーキ力との関係を合わせた状態になる。即ち、エンジン10の回転数と車速とが共に高い場合に、エンジンブレーキ力は最も大きくなり、エンジン10の回転数と車速とが共に低い場合には、エンジンブレーキ力は最も小さくなる。エンジンブレーキ力を算出する場合には、このようなエンジン10の特性に基づいて算出する。エンジン10の回転数、及び車速とエンジンブレーキ力との関係は、このような関係になっているため、エンジンブレーキ力算出部96によってエンジンブレーキ力を算出する場合には、運転状態情報取得部93で取得したエンジン10の回転数と車速とにより、上記の特性に基づいてエンジンブレーキ力算出部96で算出する。
また、車両1の走行時において旋回中にアクセルペダル63を戻した場合には、前輪41にエンジンブレーキによる制動力が作用することによりタックインが発生するが、このタックインは、モータジェネレータ20で後輪42に回生制動力を作用させることにより低減できる。このため、車両1の旋回中にアクセルペダル63を戻した場合には、エンジンブレーキ力に相当する回生制動力を、ECU90の処理部91が有する回生制動力算出部97で算出する。即ち、回生制動力算出部97は、エンジンブレーキ力に基づいて回生制動力を算出する。さらに、ECU90の処理部91が有する回生制動力制御部98でリダクション機構21を制御し、回生制動力算出部97で算出した回生制動力をモータジェネレータ20に発生させて、後輪42を制動する。これにより、タックインを低減できる。
図6は、本発明の実施例に係る車両挙動制御装置の処理手順を示すフロー図である。次に、実施例に係る車両挙動制御装置5の制御方法、即ち、当該車両挙動制御装置5の処理手順について説明する。実施例に係る車両挙動制御装置5の処理手順では、まず車両1の運転状態情報を取得する(ステップST101)。この運転状態情報は、車両1の各部に設けられたセンサによる検出結果がECU90の運転状態情報取得部93に伝達され、この運転状態情報取得部93で取得する。例えば、運転状態情報取得部93は、運転状態情報として、クランク角センサ55による検出結果よりエンジン10の回転数を取得したり、車速センサ56による検出結果より車速を取得したりして、車両1の走行状態を取得する。また、運転状態情報取得部93は、運転状態情報として、ステアリングセンサ57による検出結果によってステアリング61の回転角を取得することにより車両1の旋回情報を取得したり、アクセルセンサ58による検出結果によってアクセルペダル63の開度を取得することによりアクセル情報を取得したりして、車両1の操縦状態を取得する。
次に、車両1が旋回中であるかを判定する(ステップST102)。この判定は、運転状態情報取得部93が取得した車両1の旋回情報が、ECU90の処理部91が有する旋回状態判定部94に伝達され、伝達された旋回情報より旋回状態判定部94によって判定する。具体的には、旋回状態判定部94は、運転状態情報取得部93から伝達された旋回情報であるステアリング61の回転角が所定の角度以上であるかを判断し、ステアリング61の回転角が所定の角度以上の場合には、車両1は旋回中であると判定する。旋回状態判定部94での判定により、車両1は旋回中ではないと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
次に、アクセルがOFFであるかを判定する(ステップST103)。この判定は、運転状態情報取得部93が取得したエンジン回転数とアクセル情報とが、ECU90の処理部91が有するアクセル状態判定部95に伝達され、伝達されたエンジン回転数とアクセル情報とよりアクセル状態判定部95によって判定する。具体的には、アクセル状態判定部95は、運転状態情報取得部93から伝達されたアクセル情報であるアクセルペダル63の開度が、運転状態情報取得部93から伝達されたエンジン回転数に対応するアクセルペダル63の開度よりも閉じている場合には、アクセルはOFFであると判定する。アクセル状態判定部95での判定により、アクセルはOFFではないと判定された場合には、この処理手順から抜け出る。
旋回状態判定部94での判定により車両1は旋回中であると判定され、アクセル状態判定部95での判定によりアクセルはOFFであると判定された場合には、次に、車速とエンジン回転数などから、エンジンブレーキ力を算出する(ステップST104)。このエンジンブレーキ力の算出は、運転状態情報取得部93が取得した車速とエンジン回転数とが、ECU90の処理部91が有するエンジンブレーキ力算出部96に伝達され、伝達された車速とエンジン回転数とより、エンジンブレーキ力算出部96によって算出する。
具体的には、車速とエンジン回転数とに対するエンジンブレーキ力のマップ(図5参照)を予め作成して記憶部101に記憶させておく。エンジンブレーキ力をエンジンブレーキ力算出部96で算出する際には、運転状態情報取得部93から伝達された車速とエンジン回転数とを用いて、記憶部101に記憶されたエンジンブレーキ力のマップを参照することにより算出する。なお、このエンジンブレーキ力の算出は、マップを用いて算出する以外の方法で算出してもよく、例えば、車速とエンジン回転数とからエンジンブレーキ力を導き出す関数を用いて算出してもよい。
次に、回生制動力を算出する(ステップST105)。この回生制動力の算出は、エンジンブレーキ力算出部96が算出したエンジンブレーキ力が、ECU90の処理部91が有する回生制動力算出部97に伝達され、伝達されたエンジンブレーキ力より、回生制動力算出部97によって算出する。詳しくは、回生制動力算出部97は、エンジンブレーキ力算出部96で算出したエンジンブレーキ力に相当する回生制動力、つまり、エンジンブレーキ力と同程度の回生制動力を、エンジンブレーキ力に基づいて算出する。
次に、回生制動をONにする(ステップST106)。即ち、回生制動力を算出した後は、次に、モータジェネレータ20で回生制動を行なう。このように、モータジェネレータ20で回生制動を行なう場合には、ECU90の処理部91が有するモータジェネレータ制御部92によって、モータジェネレータ20への電気の供給を停止する。これにより、モータジェネレータ20は動力を発生しなくなり、後輪42から伝達される回転によって発電をしつつ、後輪42を制動する回生制動を行なう状態になる。
また、このように回生制動を行なう際には、回生制動力算出部97で算出した回生制動力が、ECU90の処理部91が有する回生制動力制御部98に伝達され、回生制動力制御部98でリダクション機構21を制御することにより制御する。詳しくは、回生制動力制御部98はリダクション機構21を制御し、後輪42の回転が後輪用ドライブシャフト28やリダクション機構21などを伝わってモータジェネレータ20に伝達される際に、モータジェネレータ20のトルクが、回生制動力算出部97で算出した回生制動力になる回転数になるようにリダクション機構21の変速比を変更する。
このように、回生制動力制御部98でリダクション機構21を制御する場合には、モータジェネレータ20のトルクに対する回転数のマップ(図2参照)を予め作成して記憶部101に記憶させておく。モータジェネレータ20による回生制動力が、回生制動力算出部97で算出した回生制動力になるようにする制御するには、リダクション機構21の変速比を変更し、後輪42の回転が伝達されることにより回転するモータジェネレータ20の回転数を、回生制動力算出部97で算出した回生制動力、即ちモータジェネレータ20のトルクになる回転数にする。これにより、回生制動力算出部97で算出した回生制動力を、モータジェネレータ20に発生させることができる。
以上の車両挙動制御装置5は、車両1の旋回中にエンジンブレーキ力に基づいた回生制動力をモータジェネレータ20に発生させ、後輪42を回生制動している。このモータジェネレータ20は、車両1の走行中には、状況に応じて絶えず後輪42を駆動させたり回生制動を行なったりしているので、車両1の旋回中にエンジンブレーキ力に基づいた回生制動力で後輪42を回生制動する場合、高い応答性で制動することができる。これにより、旋回中の車両1の前輪41に、エンジンブレーキ力によって制動力が発生してタックインが発生した場合でも、素早くタックインを抑制できる。この結果、素早く車両挙動の安定化を図ることができる。
また、ECU90に回生制動力算出部97を備えているので、車両1の走行状況に応じて適切な回生制動力を算出することができ、適切な回生制動力で後輪42を制動することができる。従って、エンジンブレーキ力によって前輪41に制動力が発生し、タックインが発生する状況でも、適切な回生制動力によって、より確実にタックインを抑制できる。この結果、より確実に車両挙動の安定化を図ることができる。
また、車両1の挙動の安定化を図る手段として、後輪42を駆動するモータジェネレータ20の回生制動により後輪42を制動し、タックインを抑制しているので、車両1の挙動の安定化を図ると同時に、車両走行時の運動エネルギーを回収することができる。つまり、車両1の挙動の安定化を図りつつ、発電をすることができる。この結果、車両1の挙動の安定化を図る場合における運転効率の向上を図ることができる。
なお、上述した車両挙動制御装置5では、ECU90の回生制動力算出部97で回生制動力を算出する際には、エンジンブレーキ力算出部96で算出したエンジンブレーキ力に相当する回生制動力を算出しているが、回生制動力は、エンジンブレーキ力以外の条件も含めて算出してもよい。例えば、車両1走行時におけるヨーレートを含めて回生制動力を算出してもよい。この場合、ECU90の運転状態情報取得部93は、運転状態情報を取得する際に、車両1走行時における他の制御で用いられるヨーレートセンサ(図示省略)による検出結果も取得し、回生制動力算出部97が回生制動力を算出する際には、運転状態情報取得部93が取得した車両1のヨーレートを含めて算出する。
このように、回生制動力を算出する際にヨーレートを含めて算出することにより、より確実に、車両1の旋回時に適した回生制動力を算出することができ、適切な回生制動力で後輪42を制動することができる。この結果、より確実に車両挙動の安定化を図ることができる。
また、上述した車両挙動制御装置5では、モータジェネレータ20は、車両1の後輪42を駆動すると共に後輪42を回生制動可能に設けられているが、モータジェネレータ20は、前輪41の駆動や回生制動も可能に設けられていてもよい。モータジェネレータ20は、少なくとも、車両1の旋回時に前輪41にエンジンブレーキが作用して前輪41に制動力が作用することにより、タックインが発生する状況の場合に、前輪41に作用する制動力相当の回生制動力を後輪42に作用させることができるように設けられていればよい。これにより、前輪41に作用する制動力よって生じる、車両1の重心80を中心とする回転モーメントと、後輪42に作用する制動力によって生じる、車両1の重心80を中心とする回転モーメントとの釣り合いを取ることができるので、タックインを抑制できる。この結果、車両挙動の安定化を図ることができる。