JP2008133502A - クロムフリー化成処理液および処理方法 - Google Patents

クロムフリー化成処理液および処理方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複雑形状の部材にも均一に防錆皮膜を形成できる反応型のノンクロム化成処理により、亜鉛系めっき部材に対して、クロメート処理に匹敵するような外観と耐食性を付与する。
【解決手段】アルミニウムイオン、ケイ酸塩およびシリカから選ばれたケイ素化合物、チタン化合物、硝酸イオン、ならびにクエン酸を含有する酸性溶液からなる、反応型化成処理液を用いて金属表面に防錆皮膜を形成する。この化成処理液は、Mo,W,Ce,Co,Ni,Mg,Ca,Mn,Li,Zr,Fe,Sn,Y,La,Nd,Smから選ばれた1種以上の金属の化合物、ならびに/または多価カルボン酸およびヒドロキシ多価カルボン酸から選ばれた有機酸をさらに含有していてもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、金属表面、特に亜鉛系めっき部材表面に防錆皮膜を形成するための化成処理液および表面処理方法、ならびにその表面処理の仕上げ剤に関する。本発明の方法によれば、完全クロムフリーの反応型化成処理によって、美麗な外観と優れた耐食性を有する防錆皮膜を亜鉛系めっき部材表面などの金属表面に形成することができる。本発明はまた、こうして形成された防錆皮膜を有する亜鉛系めっき部材にも関する。本発明において、亜鉛系めっきとは、亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを総称する意味である。
鋼部品の表面に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき部材は、亜鉛系めっきの犠牲防食能による優れた耐食性を示すが、そのままでは白錆が発生しやすいため、特に無塗装の場合、さらに防錆処理が施されることが多い。
亜鉛系めっき部材の防錆処理として、従来はクロメート処理で代表されるクロム化合物を用いた化成処理が主に行われてきた。クロメート処理は、優れた耐食性を付与し、かつ処理液の組成によっては、黒、黄色、銀系干渉色などの美麗な外観も付与することができる。また、塗布型、反応型、電解型のクロメート処理液が開発され、一般に均一塗布が容易な鋼板には塗布型、それが難しい加工部品には反応型などと使い分けられてきた。
しかし、6価クロムの有害性や環境規制の観点から、近年は6価クロムの使用が制限されるようになった。そのため、6価クロムはもとより、3価クロムも含まない、完全にクロムフリーのノンクロム化成処理が求められるようになってきた。
3価と6価のいずれのクロムも含まないノンクロム化成処理に関する提案はこれまでも数多くなされているが、その多くが、亜鉛系めっき鋼板を対象とする塗布型処理、即ち、化成処理液で処理した後に水洗せず、そのまま乾燥する処理方法によるものである。
反応型のノンクロム化成処理として、下記特許文献1に、酸化性物質、珪酸塩および/または二酸化珪素、Ti,Zr,Sr,V,Wの金属カチオン、および錯化成分を含有し、クロムと亜鉛を含有しない反応型の化成処理液が記載されている。
下記特許文献2には、反応型クロメートと同一の方法で防錆皮膜を形成できる金属表面処理剤として、アルミニウムとケイ素と1種以上の酸(有機酸および/もしくは無機酸)を含有し、場合によりさらにフッ素を含有する水溶液が記載されている。有機酸はカルボン酸に限られ、ヒドロキシカルボン酸は使用されない。
特開平9−53192号公報 特開平11−181578号公報
上記特許文献1および2に提案されたノンクロム型のクロメート代替技術は、加工部品などの複雑形状の品物、例えば、自動車用ボルト、ナットなどの防錆処理に対しては、従来の6価クロメート或いは3価クロム化成処理に匹敵する美麗な外観と白錆耐食性を兼ね備えているとは言い難い。特に自動用ボルトを処理した場合を例にとると、ボルトのネジ部分や頭部分などのエッジを含む部位の耐食性が著しく悪くなる。特許文献1および2では、いずれも亜鉛系めっき鋼板を試験片として耐食性を評価しており、ネジ部などのエッジ部を含む加工部品については試験していない。
本発明の課題は、ボルト、ナット、プレス品などを含む、鋼材の加工部品に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき部材に対して、反応型のノンクロム化成処理により、クロム化成処理に匹敵するような美麗な外観と白錆耐食性(塩水噴霧耐食性)を有する防錆皮膜を形成することができる化成処理技術を開発することである。
上記課題は、下記(1)に示す化成処理液を用いて反応型の化成処理を行うことにより解決することができる。この化成処理の後で仕上げ被覆処理すると、耐食性はさらに一段と改善される。
本発明は下記を包含する。
(1)アルミニウムイオン、ケイ酸塩およびシリカから選ばれたケイ素化合物、チタン化合物、硝酸イオン、ならびにクエン酸を含有する酸性溶液からなることを特徴とする、亜鉛系めっき表面に防錆皮膜を形成するための反応型化成処理液。
(2)Mo,W,Ce,Co,Ni,Mg,Ca,Mn,Li,Zr,Fe,Sn,Y,La,Nd,Smから選ばれた1種以上の金属の化合物をさらに含有する、上記(1)の化成処理液。
(3)多価カルボン酸およびヒドロキシ多価カルボン酸から選ばれた有機酸をさらに含有する、上記(1)または2請求の化成処理液。
(4)皮膜形成性ケイ素化合物を主成分として含有する溶液からなることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの化成処理液により形成された防錆皮膜の被覆処理のために使用される仕上げ処理剤。
(5)亜鉛系めっき部材を上記(1)〜(3)のいずれかの化成処理液に浸漬した後、水洗し、乾燥して、該部材の表面に防錆皮膜を形成することからなる、亜鉛系めっき部材の防錆処理方法。
(6)前記乾燥の前に、皮膜形成性ケイ素化合物を主成分として含有する溶液による仕上げ被覆処理を行う上記(5)の方法。
(7)上記(5)または(6)の方法により形成された防錆皮膜を表面に有する亜鉛系めっき部材。
本発明の化成処理液は、アルミニウム、チタン、およびケイ素を含有する酸性溶液であり、クエン酸はアルミニウムおよびチタンを安定化させるために配合される。また、硝酸イオンは、その酸化性により処理表面の金属、特に亜鉛を溶出させて防錆皮膜の形成を促進する作用を果たす。
形成された防錆皮膜は、アルミニウム、ケイ素およびチタンの酸化物および/または水酸化物を主成分とする複合皮膜であって、シルバー系干渉色を有する、厚みがサブミクロンオーダー(数〜数百ナノメータ)の不働態皮膜である。
本発明によれば、クロムを全く含有しないノンクロムの反応型化成処理により、塩水噴霧試験において3価クロムや6価クロムを含有する化成処理皮膜に匹敵するような高い耐食性を示すと同時に、シルバー色3価クロム化成処理、光沢クロメート(ユニクロ)、黄色クロメートなどと同等の美麗な光沢外観を付与する防錆皮膜を形成することができる。また、化成処理液の主成分であるアルミニウム化合物、ケイ素化合物およびチタン化合物はいずれも比較的安価であるため、低コストで処理を行うことができる。
本発明の化成処理液を使用して反応型の化成処理を行うと、自動車用のネジやボルトといった複雑な形状の亜鉛系めっき部材に対しても均一に防錆皮膜を形成することができ、液だまりやムラが発生しない。
形成された防錆皮膜は、アルミニウム、ケイ素およびチタンの酸化物/水酸化物を主成分とする、非常に緻密な不働態皮膜であるので、優れた耐食性を示す。また、この防錆皮膜を皮膜形成性ケイ素化合物を主成分とする溶液を塗布することによりケイ酸質皮膜で被覆すると、外観を損ねることなく、耐食性を格段に向上させることができる。
本発明にしたがって形成された防錆皮膜の乾燥後の膜厚は、従来のクロム化成処理皮膜と同様に厚みが1μm未満、通常は数〜数百nmの範囲の薄膜である。また、その上に仕上げ処理により無機/有機複合被覆を形成する場合でも、この被覆の厚みは数μm以下程度の薄膜とすることができる。従って、本発明の処理は、亜鉛系めっき部材の寸法精度を損なわずに実施できるため、例えば、微小ネジ部を有する微小ボルトといった小型および/または精密な部品に対しても本発明を適用することができる。
本発明の好適態様について説明する。本発明による亜鉛系めっき部材の化成処理方法の工程順は次の通りである(かっこ内は任意工程):
(活性化処理→水洗)→化成処理→水洗→(仕上げ処理)→乾燥
上記工程順は、従来の反応型クロム化成処理と同様であり、各処理に用いる処理液は異なるが、処理操作そのものは従来のクロム化成処理と同様であるので、クロム化成処理設備をそのまま用いて実施することができる。なお、活性化処理(およびその後の水洗)と仕上げ処理はいずれも省略可能であるが、活性化処理は防錆皮膜の均一形成に有効であり、仕上げ処理は耐食性向上に有効であるので、いずれも実施した方が好ましい。
本発明は亜鉛系めっき部材に適用することを意図しているが、他の金属表面にも適用することができよう。亜鉛系めっき部材は、浸漬処理が可能であれば特に制限されるものではないが、特に好ましいのは鋼材の二次加工品に亜鉛系めっきを施したものである。部材の例としては、例えば、ボルト、ナット、リベット、ワッシャーなどの小物部品、プレス加工品、切断加工品、鍛造品などの各種加工部品などが挙げられる。ただし、線材、薄板などの一次加工品に対して本発明を適用することも不可能ではない。
亜鉛系めっき部材のめっき種は特に制限されず、純亜鉛めっきと亜鉛合金めっきのいずれでもよい。亜鉛合金の例としては、これらに限られないが、亜鉛−鉄合金、亜鉛−ニッケル合金、亜鉛−アルミニウム合金めっき等が挙げられる。亜鉛合金の亜鉛含有量は50質量%を下回る量(例、Zn−55%Al合金)であってもかまわない。
亜鉛系めっきの厚みは特に制限されないが、寸法精度を要求される場合には、3〜15μm程度の薄膜とすることが好ましい。めっき方法は、溶融めっきや気相めっきも場合により適用できるが、特に小物部品の場合には、バレルを利用した電気めっきが、操業の容易さと生産性の点から好ましい。
活性化処理工程:
活性化処理は、亜鉛系めっき表面の活性化のための任意の処理液を用いて実施することができるが、一般には酸洗により行われる。酸洗は、硝酸、塩酸、硫酸などの無機強酸水溶液を用いて行うことが好ましい。特に好ましいのは、硝酸水溶液である。
活性化用の無機酸水溶液には、表面調整の目的で、Znより貴な金属イオンとキレート剤と、好ましくはさらに界面活性剤とを含有させてもよい。このようにすると、酸による亜鉛系めっき表面の活性化(反応を阻害する表面酸化層などの除去)を行うだけでなく、活性が高すぎて化成反応が過度に起こり易い、部材の端部などの部位では、Znが溶解して代わりにZnより貴な金属イオンが析出する置換めっきによる金属マスキングによる表面調整作用も達成される。それにより、亜鉛系めっき部材が複雑形状であっても、次工程の化成処理が部材の全体にわたって均一に起こるようになる。
Znより貴な金属イオンの好ましい例としてはFe,In,Co,Ni,Mo,Sn,Cu,Pd,Agなどの金属のイオンが挙げられる。Pb,Cr,Cdのように有害性が指摘されている金属のイオンは避けることが好ましい。金属イオンの供給源は、無機酸または有機酸との塩、あるいは酸性水溶液に可溶性であれば、水酸化物もしくは酸化物、さらには金属それ自体であってもよい。
キレート剤は、上記の金属イオンに配位して、金属イオンによる置換めっきが起こりすぎるのを防止する。それにより、置換めっきが特に活性な部分だけに起こるようになる。キレート剤としてはEDTAのような従来から公知の各種のキレート剤を使用することができるが、好ましいのは多価アミン(例、EDTAおよびその誘導体)ならびにチオール基含有化合物(例、チオグリコール酸、メルカプトコハク酸)といった、窒素またはイオウを含有する有機化合物である。この種のキレート剤は有機インヒビターとしても機能しうる。
亜鉛系めっき部材の表面を清浄化する目的で、界面活性剤を所望により活性化処理液に含有させることができる。界面活性剤の種類は特に制限されず、ノニオン型、カチオン型、アニオン型のいずれでもよい。
活性化処理は、亜鉛系めっき部材を活性化用無機酸水溶液に浸漬した後、水洗することにより行う。処理条件は、処理の目的が達成されれば特に制限されないが、温度は室温〜80℃の範囲が一般的であり、好ましくは20〜50℃である。処理(浸漬)時間は温度にもよるが、通常は5〜300秒の範囲内であろう。活性化処理液に浸漬した後の水洗は常法により行えばよい。例えば、浸漬または噴霧により行うことができる。
化成処理工程:
化成処理は、活性化処理とその後の水洗の後、乾燥させずに直ちに行うことが好ましいが、乾燥してしまっても、経過時間が短ければ、そのまま化成処理を施すことができる。
本発明では、複雑形状の部材にも均一な処理を施すことができる反応型の化成処理を採用する。使用する化成処理液は、アルミニウムイオン、ケイ酸塩およびシリカから選ばれたケイ素化合物、チタン化合物、硝酸イオン、ならびにクエン酸を含有する酸性溶液であり、液のpHは好ましくは1〜5である。この化成処理液はリン酸イオンを含有しないことが好ましい。従って、アルミニウムその他の金属成分としてもリン酸塩を使用しないことが好ましい。リン酸イオンを含有すると、処理液が不安定になる。
この化成処理では、めっき表面から亜鉛が亜鉛イオンとして溶出し、代わりに処理液中のアルミニウムイオンが水酸化物[Al(OH)3]としてめっき表面に析出する。同時に、ケイ素化合物およびチタン化合物も主に酸化物および/もしくは水酸化物として析出する。
アルミニウムイオンとは、アルミン酸イオンではなく、Al3+の意味である。アルミニウムイオンの供給源は、酸性水溶液中で可溶性のアルミニウム化合物であれば特に制限されないが、硝酸塩であると硝酸イオンの供給源ともなる。
硝酸イオンの供給源は遊離の硝酸、および上記のアルミニウム塩の他に、アルカリ金属塩などの他の金属またはアンモニウムの硝酸塩でもよい。
ケイ素化合物は、水溶性のケイ酸塩化合物およびシリカから選んだ少なくとも1種でよい。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩が好適である。シリカとしてはシリカゾル(コロイダルシリカ)を使用することが好ましいが、その前駆体であるエチルシリケートなどのケイ酸エステルまたはその部分加水分解物も使用可能である。
チタン化合物としては、水溶性チタン塩(例、塩化チタン、硫酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなど)ならびにチタニアゾルを使用することができる。
これらのケイ素化合物およびチタン化合物は、乾燥により水酸化物および/もしくは酸化物の皮膜を形成することができる。
クエン酸は、前述したように、処理液中のアルミニウムイオンおよびチタン化合物を析出しないように安定化させて、液の貯蔵安定性を高めるために化成処理液中に含有させる。クエン酸は、ヒドロキシトリカルボン酸であり、金属イオンに配位して錯体を形成することにより金属イオンを安定化させることができる。他の多価カルボン酸およびヒドロキシ多価カルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、をクエン酸に加えて、さらに含有させてもよい。また、EDTAのようなキレート剤を添加することも可能である。
化成処理液中の各成分の濃度は、例えば、次のような濃度とすることができる:
アルミニウムイオン:0.1〜50g/L、
ケイ素化合物:SiO換算で0.1〜100g/L
チタン化合物:TiO換算で0.1〜50g/L
硝酸イオン:0.1〜350g/L、
クエン酸:0.1〜200g/L。
クエン酸以外の他の酸およびキレート剤を添加する場合、その量は、100g/L以下で、かつクエン酸の半分以下とすることが好ましい。
化成処理液は、上記成分以外に、他の金属化合物および有機インヒビターから選ばれた1種または2種以上をさらに含有することができる。
他の金属化合物としては、これらに限られないが、Mo,W,Ce,Co,Ni,Mg,Ca,Mn,Li,Zr,Fe,Sn,Y,La,Nd,Smの1種以上の金属の化合物を挙げることができる。これらは、金属酸塩、酸との金属塩、有機金属化合物などの形態で使用できる。他の金属化合物の濃度は、金属イオンとして5g/L以下、好ましくは2g/L以下とし、かつアルミニウムイオンの濃度の半分以下とすることが好ましい。
有機インヒビターとしては、ZnやAlのインヒビターとして公知のもの、例えば、窒素および/またはイオウを含有する複素環式有機化合物、チオカルボニル化合物などを使用することができる。前記複素環式有機化合物の例としては、1,10−フェナントロリン、2,2'−ピピリジル、ジフェニルチオカルバゾン、ピロール−2−カルボキシアルデヒド、ベンゾトリアゾール、8−キシリノール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。チオカルボニル化合物の例としては、チオ尿素、1,3−ジエチルチオ尿素、ジメチルチオカルバミン酸、エチレンチオ尿素、フェニルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、ジメチルキサントゲンスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等が挙げられる。インヒビターは一般に2g/L以下、通常は1g/L以下の濃度で添加される。
インヒビターの添加により、耐食性の向上効果が期待される。ただし、本発明では、その後の仕上げ処理により良好な耐食性が確保されるため、化成処理液にインヒビターを添加しなくても、耐食性を確保することができる。
化成処理液には、上記以外に、金属成分の対アニオンを含有しうるが、前述したように、対アニオンはリン酸イオン以外のものとすることが好ましい。
化成処理は、化成処理液への浸漬とその後の水洗および乾燥により行う。処理条件は処理の目的に十分な厚みの防錆皮膜が形成されるように設定する。防錆皮膜の乾燥後の厚みは1μm未満であり、一般には数〜数百nmの範囲内である。化成処理温度は一般に10〜80℃であり、好ましくは20〜50℃である。処理(浸漬)時間は、温度にもよるが、通常は5〜300秒の範囲内であろう。化成処理液に浸漬した後の水洗は常法により行えばよい。
上記化成処理液に亜鉛系めっき部材を浸漬すると、部材表面からめっき中の亜鉛が溶出してイオン化する代わりにアルミニウムイオンがアルミニウム水酸化物としてめっき表面に析出し、さらに、ケイ素化合物およびチタン化合物も同時に析出して、防錆皮膜が形成される。形成された防錆皮膜は、乾燥後の状態で、アルミニウム、ケイ素、チタンの酸化物および/または水酸化物を主成分とする皮膜である。この防錆皮膜は、アルミニウム材の表面に自然に形成される不働態化した酸化皮膜と同じように非常に緻密で、耐食性に優れている。
仕上げ処理:
上記のように、本発明により亜鉛系めっき部材の表面に形成される防錆皮膜は耐食性に優れているが、その上にさらに仕上げの被覆処理を施すと、特に塩水噴霧試験における耐食性がさらに飛躍的に改善される。仕上げ処理は、化成処理とその後の水洗の後、直ちに行うことが好ましいが、防錆皮膜が乾燥した後に行ってもよい。
この仕上げ処理は、皮膜形成性のケイ素化合物を主成分とする溶液を用いて行うことが好ましい。皮膜形成性のケイ素化合物の例としては、アルキルシリケート(テトラアルコキシシラン、例えばエチルシリケート)、アルカリ金属ケイ酸塩(ケイ酸リチウム、カリウム、ナトリウムなど)、コロイダルシリカ(シリカゾル)、ならびにシランカップリング剤を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
一般にケイ素化合物から形成される皮膜は固くて脆いので、それを改善することと、塗布性を改善するために、仕上げ液に少量の有機結合剤を含有させることが好ましい。有機結合剤としては、各種の水性樹脂、非水性樹脂ならびに有機増粘剤を使用することができる。水性樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂と、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、エチレン系などの水分散性樹脂(エマルション樹脂)のいずれでもよい。非水性樹脂としては、これらに制限されないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン系樹脂、ブチラール樹脂などが使用できる。増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが例示される。
仕上げ液は、皮膜の耐食性を改善するために有機インヒビターを含有させてもよい。有機インヒビターとしては、ZnやAlの腐食抑制に有効であることが知られている公知のインヒビターを使用できる。例えば、チオール化合物、アゾール化合物、有機リン化合物などである。
場合により、無機結合剤として作用するアルカリ金属リン酸塩(例えば、リン酸第一アルミニウム)または塩化チタンその他の皮膜形成性金属化合物を、ケイ素化合物に加えて、仕上げ液に含有させることができる。これらは仕上げ皮膜の耐食性をさらに改善する効果がある。また、皮膜形成性ケイ素化合物がテトラアルコキシシランのように加水分解性ケイ素化合物である場合に、加水分解触媒として少量の酸(無機酸および/もしくは有機酸)を仕上げ液に含有させることができる。
仕上げ液中の各成分の濃度は、例えば下記の濃度とすることができる:
皮膜形成性ケイ素化合物:SiO換算で0.1〜300g/L、
有機結合剤:固形分換算で0.1〜50g/L、
有機インヒビター:0.05〜3g/L、
無機結合剤:50g/L以下。
仕上げ液の溶媒は、通常は水または水とアルコールなどの水溶性有機溶媒との混合溶媒である。仕上げ処理は塗布型の処理であるので、亜鉛系めっき部材の形状に応じて適当な塗布方法により処理を行うことができる。例えば、浸漬以外に、噴霧、刷毛塗り、ディップスピンといった塗布方法も採用できる。仕上げ皮膜の膜厚は、一般に0.1〜3μmの範囲内である。
乾燥:
反応型の化成処理を施した亜鉛系めっき部材、またはその後にさらに仕上げ液を塗布した亜鉛系めっき部材を、最後に乾燥する。仕上げ液を塗布する場合には、化成処理後と仕上げ液塗布後に2回の乾燥を行うことも可能である。
乾燥により、防錆皮膜では、皮膜中の水酸化物が脱水反応により完全または部分的に酸化物(すなわち、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン)に変化する。仕上げ処理を行った場合には、仕上げ皮膜において、加水分解性のケイ素化合物および場合により他の金属化合物が完全に加水分解して金属水酸化物になり、さらに脱水により金属酸化物になるという変化が起こる。好ましい乾燥条件は、温度が10〜150℃、好ましくは40〜100℃である。乾燥時間は温度に応じて適宜設定すればよい。一般には1〜60分間の範囲であろう。
本発明の方法に従って処理された亜鉛系めっき部材は、6価クロメートや3価クロム化成処理で得られるものに匹敵する美しい外観(色調、光沢、均一性)を示す。防錆皮膜の色調は、シルバー系の干渉色を有し、化成処理液の組成および処理条件を変化させることにより色調が多少変化する。
この防錆皮膜は、浸漬後に水洗を行う反応型の処理によりゆっくり均一に形成されるため、微細な凹凸を有したり、凹部を有するような複雑形状の部材に対しても均一に防錆皮膜が形成され、従って、外観も均一で光沢のあるものとなる。
形成された防錆皮膜の膜厚は1μm未満であって、通常は数nm〜数百nmの範囲内である。この膜厚は従来のクロム化成処理皮膜の膜厚と同程度である。この防錆皮膜は、X線回折測定結果から非晶質(アモルファス)であると推定される。上述したように、この皮膜の主成分はアルミニウム、ケイ素およびチタンの酸化物および/または水酸化物であるが、原子%で数%以下のZnを含有することがある。化成処理液が他の金属化合物を含有する場合には、防錆皮膜はその金属化合物またはその水酸化物および/もしくは酸化物も含有する。
本発明にしたがって処理された亜鉛系めっき部材は、反応型化成処理により形成された緻密な防錆皮膜を有するため、特に塩水噴霧環境での耐食性に優れており、仕上げ処理を施した場合には、6価クロメートと同等以上の優れた耐食性を示すようになる。従って、有害な6価クロメートを使用せずに、6価クロメートと同等か、それを凌ぐような耐食性を付与することができ、海浜地域や凍結防止剤として塩が散布される寒冷地域においても、部材の長期的な耐食性を確保することが可能となる。
さらに、防錆皮膜と仕上げ皮膜はいずれも薄膜であり、寸法精度が要求される部材に本発明を適用した場合にも、寸法精度への悪影響は生じない。
このように、優れた外観と耐食性を付与することができるので、本発明に従って処理された亜鉛系めっき部材は無塗装でそのまま使用できるが、所望によりさらに塗装を施すことも可能である。
(亜鉛系めっき部材の作製)
本実施例で化成処理に供した亜鉛系めっき部材は、長さが100mm、ネジ部長さ50mmのM10ボルトと対応するナットに、下記のいずれかの亜鉛系電気めっきを施すことにより作製した。金属部材(ボルトおよびナット)の電気めっきは、いずれの場合も慣用のバレルめっき法により実施した。
亜鉛めっき:
酸性亜鉛めっき液を用いて電気亜鉛めっきを8μm厚に施した。めっき作業はユケン工業社製メタスMZ−11プロセスに従って実施した。
亜鉛−鉄合金めっき(表ではZn−Fe):
共析率が0.4%になるように調整したジンケート亜鉛−鉄合金めっき液を用いて、電気亜鉛−鉄合金めっきを8μm厚に施した。めっき作業はユケン工業社製メタスAZプロセスに従って実施した。
(比較例1〜4)
本例は、市販の6価または3価クロム化成処理液を用いた反応型化成処理を例示する。
上述した亜鉛系めっき部材1kgを、樹脂コーティングを施した金属製バスケットに入れ、常法に従って「活性化→水洗1→化成処理→水洗2→乾燥」の工程順で処理を実施した。乾燥以外の工程は、バスケットを揺動させながら処理液または洗浄水に浸漬することにより行った。
[活性化]
反応型化成処理の前に行う活性化は、全例において、67.5%硝酸3mL/L濃度の希硝酸溶液に常温で10秒間浸漬することにより行った。
[水洗1]
活性化処理後、亜鉛系めっき部材を入れたバスケットを常温の洗浄水に浸漬して亜鉛系めっき部材を10秒間水洗した。
[反応型化成処理]
化成処理は、市販の6価または3価クロム化成処理液を用いて、処理液に指定されている条件に従って、亜鉛系めっき部材を入れたバスケットを処理液に浸漬することにより実施した。使用した6価または3価クロム化成処理液と処理条件(かっこ内)および処理した亜鉛系めっき部材の種類は次の通りである。
比較例1:6価黄色クロメート処理液(被処理物:亜鉛めっき部材)
ユケン工業社製メタスCY−6(6mL/L、20℃、15秒浸漬)
比較例2:3価クロム化成処理液(被処理物:亜鉛めっき部材)
ユケン工業社製メタスYFA−M(100mL/L、40℃、40秒浸漬)
比較例3:6価黄色クロメート処理液(被処理物:亜鉛−鉄合金めっき部材)
ユケン工業社製メタスCYF−5(10mL/L、20℃、15秒浸漬)
比較例4:3価クロム化成処理液(被処理物:亜鉛−鉄合金めっき部材)
ユケン工業社製メタスYFA−M(100mL/L、40℃、40秒浸漬)
[水洗2]
反応型クロム化成処理後の水洗工程は、上記水洗1と同様に実施した。
[乾燥]
水洗処理した亜鉛系めっき部材をバスケットに入れたまま遠心脱水乾燥器に入れ、設定温度60℃で3分間処理して乾燥を行い、クロム化成処理亜鉛系めっき部材を得た。
(比較例5〜8)
上記特許文献1および2に開示されている従来の反応型ノンクロム化成処理により、上記亜鉛系めっき部材に化成処理を施した。処理手順は、比較例1〜4に記載した反応型クロム化成処理と同じく、「活性化→水洗1→化成処理→水洗2→乾燥」であった。化成処理工程以外の処理条件は比較例1〜4と同様であった。亜鉛系めっき部材としては、上記の亜鉛めっき品のみ(処理量はそれぞれ1kg)を使用し、上記と同様のバスケットによる浸漬により化成処理を行った。浸漬時間は常温で60秒(1分)であった。
(比較例9〜10)
クエン酸の代わりに他の有機酸を用いた比較用の化成処理液を化成処理工程に使用して、比較例1〜4と同様の処理工程で上記亜鉛めっき品の反応型ノンクロム化成処理を実施した。化成処理工程はにおける浸漬条件は25℃で90秒であった。
比較例1〜10における各処理工程の処理条件を表1にまとめて示す。
Figure 2008133502
(実施例1〜16)
上述した亜鉛系めっき部材各1kgを、樹脂コーティングを施した金属製バスケットに入れ、本発明に従って「活性化→水洗1→化成処理→水洗2(→場合により仕上げ処理)→乾燥」の工程順で処理を実施した。乾燥以外の工程は、バスケットを揺動させながら処理液または洗浄水に浸漬することにより行った。化成処理工程および仕上げ処理工程以外の処理条件は比較例1〜4と同様であった。化成処理は、活性化処理後に水洗した亜鉛系めっき部材を入れたバスケットを表4に示した所定温度の化成処理液に所定時間だけ浸漬することにより行った。
使用した化成処理液の組成を表2に、各実施例での各処理工程での処理条件を表3にまとめて示す。実施例13〜16において上げ処理に使用した仕上げ液組成は次の通りであった。
仕上げ液1:
テトラエトキシシラン25g、
アクリル樹脂0.1g、
(溶媒)エタノール40g、水30g、
(触媒)塩酸0.5g。
仕上げ液2:
コロイダルシリカ溶液(扶桑化学社製PL−2)50mL/L、
40%塩化チタン溶液0.3g/L、
ポリビニルアルコール(クラレ社製PVA−117)0.5g/L、
仕上げ液3:
コロイダルシリカ溶液(SiO220%)50mL/L、
シランカップリング剤(日本ユニカー社製A−1100)0.05mL/L、
アクリル樹脂分散液(BASF社製YJ−1550D)1g/L、
クエン酸3g/L、
リン酸第一アルミニウム4g/L。
仕上げ液4:
シランカップリング剤(日本ユニカー社製A−1100)50mL/L、
アクリル樹脂分散液(BASF社製YJ−1550D)1g/L、
2−メルカプトベンゾチアゾール0.1g/L、
ケイ酸カリウム(日産化学社製ST−K)30mL/L。
仕上げ処理は、化成処理後の水洗が済んだ亜鉛系めっき部材を入れたバスケットを仕上げ液に浸漬することにより実施した。全例において、処理液温度は常温、浸漬時間は10秒間であった。
Figure 2008133502
Figure 2008133502
こうして処理した亜鉛系めっき部材について、耐食性ならびに外観の光沢および均一性を以下のように調査した。試験結果は表4にまとめて示す。
耐食性:
塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)により白錆発生までの時間を次の2条件で測定した。耐食性1は、処理の済んだ試験片(ネジおよびボルト)をそのままで塩水噴霧試験に供して試験した場合である。耐食性2は、処理の済んだ試験片を密閉容器に入れ、容器を所定条件で振動させて試験片どうしをぶつけて皮膜に傷をつけてから塩水噴霧試験に供して試験した場合である。
光沢:
目視により判定、○=光沢あり、△=光沢が低い、×=無光沢。
均一性:
目視により判定、○=ムラなく良好、△=ややムラがある、×=ムラが著しい。
Figure 2008133502
表4からわかるように、比較例1〜4に示す従来の6価および3価反応型クロム化成処理では、ネジといった凹凸のある小物部品に対して、光沢のある美麗な色調のクロム化成皮膜を均一に形成することができ、耐食性も良好であった。また、皮膜が薄いため、寸法精度への悪影響もなかった。
これに対し、特許文献1、2に記載された従来のノンクロム反応型化成処理では、比較例5〜8に示すように、化成処理皮膜は形成されるものの、皮膜の光沢や均一性に劣り、かつ特に皮膜に傷がついた場合の耐食性2の結果が非常に悪くなった(白錆発生までの時間が著しく低下)。ネジやボルトの実使用状況下では皮膜に傷がつくことは避けられないので、耐食性2の結果が悪いということは、実使用状況下での耐食性が劣ることを意味する。
一方、本発明に従った化成処理液を用いた実施例1〜16では、クロム化成処理に匹敵する光沢ある美麗な色調の化成処理皮膜が均一に形成され、耐食性についても、従来の反応型クロム化成処理に匹敵する良好な結果が得られた。また、仕上げ処理の有無については、仕上げ処理を施すと、耐食性がさらに改善され、特にめっきが亜鉛めっきである場合には、従来の反応型クロム化成処理を凌ぐような優れた耐食性を示すことがわかった。
なお、実施例7において皮膜の光沢がやや低下したが、これは処理液のpHが高いために皮膜形成が不完全であったことによるものと考えられる。しかし、この場合も皮膜それ自体は均一で、ねじ部の内部まで皮膜が形成されており、耐食性には問題がなかった。
しかし、クエン酸の代わりに他の有機酸を含有する化成処理液を用いた比較例9〜10では、耐食性が低下し、化成皮膜の均一性と光沢も損なわれた。
このように、本発明によれば、クロムを全く含有しないノンクロム化成処理により、従来のクロム化成と同等か、それを上回る優れた耐食性を亜鉛系めっき部材に付与することができる。

Claims (7)

  1. アルミニウムイオン、ケイ酸塩およびシリカから選ばれたケイ素化合物、チタン化合物、硝酸イオン、ならびにクエン酸を含有する酸性溶液からなることを特徴とする、亜鉛系めっき表面に防錆皮膜を形成するための反応型化成処理液。
  2. Mo,W,Ce,Co,Ni,Mg,Ca,Mn,Li,Zr,Fe,Sn,Y,La,Nd,Smから選ばれた1種以上の金属の化合物をさらに含有する、請求項1に記載の化成処理液。
  3. 多価カルボン酸およびヒドロキシ多価カルボン酸から選ばれた有機酸をさらに含有する、請求項1または2に記載の化成処理液。
  4. 皮膜形成性ケイ素化合物を主成分として含有する溶液からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化成処理液により形成された防錆皮膜の被覆処理のために使用される仕上げ処理剤。
  5. 亜鉛系めっき部材を、請求項1〜3のいずれかに記載の化成処理液に浸漬した後、水洗し、乾燥して、該部材の表面に防錆皮膜を形成することからなる、亜鉛系めっき部材の防錆処理方法。
  6. 前記乾燥の前に、皮膜形成性ケイ素化合物を主成分として含有する溶液による仕上げ被覆処理を行う、請求項5に記載の方法。
  7. 請求項5または6に記載の方法により形成された防錆皮膜を表面に有する亜鉛系めっき部材。
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