JP2008123999A - 収差補正装置及び収差補正方法 - Google Patents

収差補正装置及び収差補正方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 比較的簡便な系で透過型電子顕微鏡の電子光学系の色収差補正を行うことができ、かつ高分解能観察を実現できる色収差補正装置を提供する。
【解決手段】 第1の四極子場発生多極子21で凹レンズ効果を発生しても余分な2回非点が残留している。この余分な2回非点を2番目の四極子場のような第2の四極子場発生多極子23を挿入することで除去する。第2の四極子場発生多極子23は、その極性を第1の四極子場発生多極子21と逆極性にする。すなわち、第1と第2の四極子場発生多極子の組み合わせにより、2回非点を相殺し、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して、凹レンズ効果による色収差補正が行える。
【選択図】 図3

Description

本発明は収差補正装置及び収差補正方法に関し、特に対物レンズや、収束レンズが作る系全体の色収差を補正する収差補正装置及び収差補正方法に関する。
透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子線装置において、色収差は分解能低下要因の一つである。色収差を補正することができると、分解能が向上する。透過型電子顕微鏡などの高分解能電子顕微鏡にあっては、対物レンズや、収束レンズが作る系全体の色収差を補正する必要がある。
下記非特許文献1には、磁場・電場四極子を組み合わせた色収差補正に関する技術が記載されている。これは、現在、走査型電子顕微鏡(SEM)で用いられる方法である。静電四極子による偏向力は、角度(多極子内では位置)に一次で比例する。また、磁場四極子の場合も偏向力は、角度に一次で比例するので片方を光軸から発散方向、片方を収束方向に寄与させることにより、電子線の軌道を変えないように保つことができる。一方、電場に対する電子線の屈折率(偏向力波長依存性、或いは偏向力加速電圧依存性)は、磁場のそれとは異なるため、電場と磁場を組み合わせることにより、軌道を変えずに屈折率のみを変化させることができる。この磁場・電場四極子により生み出した屈折率を、対物レンズの屈折率を打ち消すように設定すれば、色収差補正ができる。
この方法では、x或いは、y方向片方向のみしか色収差補正ができないため、補正系を二つ用意して両方向補正するのが一般的である。
図1は磁場・静電四極子を組み合わせた色収差補正の光学系の例を示す。この光学系は対物レンズ(OL)5に発生する色収差を補正する。この光学系では色収差補正は、片側(x)のみしか行えないため、はじめにビームをラインフォーカス(Line focus)にする磁場四極子1が必要となる。この磁場四極子1によって作られたLine focus面上で、磁場四極子と電場四極子を組み合わせた磁場・電場四極子2により磁場と電場を重畳し片側(x)の色収差補正を行う。その後、y方向の色収差を、磁場四極子と電場四極子を組み合わせた磁場・電場四極子3により補正する。最後に、ラインフォーカス(Line focus)を丸いビームに戻す四極子4を磁場・電場四極子3と対物レンズ5との間に配置する。
特開2003−203593号公報 O. Scherzer, Optik 2, 114-132(1947)
ところで、図1に示した収差補正の光学系は、SEMで用いられる対物レンズ5の色収差を補正するためのものなので、磁場四極子1に入射する電子線は細く絞られた状態にあることを前提としている。透過型電子顕微鏡の場合、走査モード(STEMモード)における照射系の色収差であればSEMで用いられる方法を原理的に利用できるが、透過モード(TEMモード)においては、SEMと異なる方法で色収差補正を行う必要がある。なぜならば、SEMやSTEMモードの場合は、細く絞った電子線を試料に照射するため、その収束点近傍の電子線についてのみ収差補正をおこなえば十分である。しかしながら、TEMモードの場合、試料に照射される電子線は拡がりを持つので、広さを持った視野全般に対して同じ収差補正が必要となる。従って、図1に示したようなSEM用の収差補正の光学系によっては色収差補正を行うことができない。そのため、現在までのところ、透過電子顕微鏡のSTEMモード、TEMモードとも、色収差補正は行われてこなかった。
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、比較的簡便な系で電子線進行方向に配置されたレンズの色収差補正を行うことができ、透過型電子顕微鏡などの高分解能電子顕微鏡において高分解能観察を実現するための収差補正装置及び収差補正方法、とりわけ色収差補正装置及び色収差補正方法を提供すること目的とする。
前記課題を解決するために、
本発明に係る収差補正装置は、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して、電子線進行方向に配置されたレンズに発生する収差を補正する収差補正装置において、
収差補正前の該電子線が入射する第1の四極子場発生多極子と収差補正された該電子線が出射される第2の四極子場発生多極子を備え、
前記第1の四極子場発生多極子及び第2の四極子場発生多極子は、それぞれ第1の四極子場及び第2の四極子場を発生し、
前記第1の四極子場及び第2の四極子場は、四極子場の電子線進行方向の長さを増加させるのに伴い強度を増すプライマリー項の2回非点効果と、該長さを増加させるのに伴い該プライマリー項よりも強度を増す割合が大きい四極子場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果を持つ光学系をそれぞれ形成し、
前記第1の四極子場と前記第2の四極子場の極性を逆に設定することにより、前記拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して、前記第1の四極子場と第2の四極子場が持つ2回非点効果を相殺し、前記円筒対称型発散方向フォーカス効果のみを前記レンズの収差補正に用いるようにしたことを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子が発生する前記四極子場の場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果の大きさと前記四極子場の電子線進行方向の長さとの関係を予め求めておき、前記効果を収差補正に用いるために必要とする前記効果の大きさに基づき、前記関係を用いて前記レンズの収差補正に用いる前記四極子場の電子線進行方向の必要な長さを決めるようにしたこと特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記第1の四極子場発生多極子及び第2の四極子場発生多極子を組み合わせて行う前記レンズの収差補正は色収差補正であることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子により電子線進行方向に長さを持つ四極子場を発生させ、前記レンズに対して屈折率が異なる円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系を作成することにより、前記レンズの色収差補正を行うことを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子により電子線進行方向に長さを持った四極子場を発生させて円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系を作成し、前記光学系と前記レンズの持つ屈折率の大きさが同じでも、前記光学系のもつ負の色収差量の絶対値が前記レンズの色収差量と比べて相対的に大きいことを利用して前記レンズの色収差補正を行うことを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子により発生する前記四極子場は、静電四極子場若しくは磁場四極子場若しくは静電四極子場と磁場四極子場とを重畳させた四極子場の何れかであることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、2つの前記四極子場発生多極子間に転送レンズ対を配置することを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、2つの前記四極子場発生多極子によって発生する四極子場の電子線進行方向の長さがそれぞれ異なること特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた六極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた十二極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた八極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正装置は、前記第2の四極子場発生多極子と対物レンズの間に転送レンズ対を配置させることを特徴とする。
また本発明に係る収差補正方法は、電子線進行方向に配置されたレンズに発生する収差を補正する収差補正方法において、
電子線進行方向に長さを持つ四極子場を発生する2つの四極子場発生多極子を準備し、
前記四極子場発生多極子を用いて、前記四極子場の電子線進行方向の長さを増加させるのに伴い強度を増す2回非点効果と前記四極子場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果を発生させ、
2つの前記四極子場が持つ2回非点効果を相殺するように2つの前記四極子場を組み合わせて前記円筒対称型発散方向フォーカス効果のみを取り出し、
拡がりを持つ円筒対称型電子線に対する前記レンズの収差補正を行うようにしたことを特徴とする。
以上は試料に照射するプローブを形成するための照射系を念頭に入れて説明しているが、像構築のための結像系においても同様に色収差補正が行える。
本発明によれば、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対しても比較的簡便な系で電子線進行方向に配置されたレンズの色収差補正を行うことができるので、透過型電子顕微鏡などの高分解能電子顕微鏡において高分解能観察を実現できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
以下に説明する本発明の実施の形態は、透過型電子顕微鏡に設けられる照射系収差補正器である。この照射系収差補正器は、静電多極子若しくは磁場多極子若しくはその二つの多極子重畳による二回場(四極子場)を用いて対物レンズや収束レンズが持つ色収差を補正する。特に、厚みを持った四極子場により、円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系(以下、「凹レンズ効果を持つ光学系」又は単に「凹レンズ」と略称することがある)を作成し、色収差の補正を行うものである。原理として、“厚み(電子線進行方向に長さ)を持った四極子場が作り出す凹レンズ効果”を色収差補正に利用しており、走査型電子顕微鏡(SEM)で行われている電磁場重畳方式(例えば特許文献1の特開2003−203593号公報に記載の従来技術に関する説明を参照)とは異なる。すなわち、本発明は厚みを持った四極子場で、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系、所謂凹レンズを作成するところに特徴がある。拡がりを持つ円筒対称型電子線とは、ラインフォーカスされる電子線とは異なり、位置又は角度の異方性を持たない状態にある電子線を意味している。
ここで、多極子として厚み(電子線進行方向に長さ)を持つことの意味を説明する。例えば四極子は2回場、六極子は3回場を発生させる機能が基本であり、これらの場はその多極子場のプライマリー項と称される。実際の多極子は、僅かであるがプライマリー項以外の高次項による場が発生している。通常の厚みを持たない(又は薄い)多極子においては、プライマリー項以外の高次項は多極子の使用目的に対して無視されるか又は単なる寄生要因に過ぎない。しかし、多極子の厚みを増していくと、プライマリー項以外の高次項による効果が表れてくる。この効果を色収差補正に用いることができるための電子線進行方向に必要な長さを持った多極子が、厚み(電子線進行方向に長さ)を持った四極子場発生多極子である。
図2は、照射系収差補正器を設けてなる透過型電子顕微鏡の構成図である。電子銃11は、高圧制御部12によって高圧電源が制御されて、電子線を発生する。電子線は収束レンズ13により収束される。収束レンズ13は非点補正素子を含んでいる。収束された電子線は照射系収差補正器14にいたる。照射系収差補正器14は、電子線偏向素子や多極子を含む各種補正素子を備えてなる。特に、本実施の形態では、多極子として厚み(電子線進行方向に長さ)を持った四極子場発生多極子を用い、この四極子場が作り出す凹レンズ効果により色収差を補正する。
照射系収差補正器14で収差が補正された電子線は、電子線偏向素子を含む収束レンズ15を通り、対物レンズ及び試料ステージ16に至る。対物レンズは電子線を試料ステージ上の試料に照射する。試料ステージ上の試料を透過した電子線は、中間・投影レンズ17により、投影され観察室18に至り、観察室18にて試料像が観察され、例えばカメラにより撮像される。
照射系収差補正器14は、前述したように、電子線進行方向に長さを持った、いわゆる厚みを有する四極子場を用いている。厚みを持った四極子場は2回非点と円筒対称性を持つ凹レンズ作用を示す。この凹レンズ効果を持つ光学系(厚みを持った四極子場)を対物レンズや、収束レンズが作る系全体の色収差の補正に用いる。
一般に、対物レンズと屈折率の異なる凹レンズを作ることができれば対物レンズの色収差補正を行うことができることは知られている。ここでは、厚みをもった四極子場によって、屈折率(偏向力の加速電圧依存性)の異なる凹レンズ効果が生み出される原理を説明する。
逆空間(焦点面)での位置の複素数表記をr、傾きをr’、複素角をΩ、複素角に対する微分をΩ’と示す。Aを単位長さあたりの二回非点係数とすると、二回非点(幾何収差)は、AとΩの複素共役を用いて、式(1)と表される。
Figure 2008123999
二回非点は、静電素子によるもの、磁極素子によるもの、或いはそれらの重畳によるものを想定する。四極子の入射面における電子線の位置rと傾きr’の複素数表記を式(2)と表す。また、四極子の射出面における電子線の位置rと傾きr’の複素数表記を式(3)と表す。
Figure 2008123999
Figure 2008123999
フォーカス距離をfとすると、実空間を試料空間として、それに対する逆空間での位置と傾きは、r=f・Ω、r’=f・Ω’と書ける。電子線進行方向に対する四極子場の厚みをtとして、厚い四極子場による射出点の傾きは以下の式(4)で記述できる。ただし、nは正数(n>0)とする。
Figure 2008123999
以上の式(4)で、A・|A2(n−1)の係数を持った項は、二回非点である。
一方、|A2nの項は、円筒対称性を持ったレンズ効果を発生し、符号が+のものは凹レンズ作用を示す。本発明では、この作用を生じる効果を「円筒対称型発散方向フォーカス効果」と称している。
加速電圧をUとすると、電場四極子場の場合、その強さ|AE2|は、式(5)となる。
Figure 2008123999
磁場四極子場の場合の強さ|AB2|は式(6)となる。
Figure 2008123999
厚みを持つ四極子場から生まれる凹レンズ効果を持った光学系の偏向力の加速電圧依存性は、式(4)の|A|が2n乗、2(n−1)乗で示されているから各種組み合わせにより、N(>0)を整数として1/Uに比例する形をとることができる。また、電場と磁場を重畳して特定の加速電圧で電子線の軌道を変えないようにした光学系においても、加速電圧が異なる電子線の軌道においては、|A|が有限の値となり、凹レンズ作用を受けることとなる。
一方、一般的に透過型電子顕微鏡が使われている磁場型の軸対称対物レンズのフォーカス距離をfとすると、この種のレンズの偏向力は一般的に以下の式(7)のように記述できる。
Figure 2008123999
式(4)で述べたように、厚い四極子場から生まれる凹レンズ効果を持った光学系の偏向力の加速電圧依存性は、先に述べたように1/Uで示される形をとり、式(7)で述べた1/Uの形と大きく異なる。よって、厚い四極子場により対物レンズと屈折率の異なる凹レンズ効果を持った光学系が作成できる。すなわち、対物レンズの屈折率の異なる凹レンズ効果を持った光学系が作成できるので、対物レンズの色収差補正が行える。
また、式(4)から、四極子場の厚み(電子線進行方向の長さ)を増加させていくと、凹レンズ作用を示す効果も増加していくことが分かる。従って、四極子場を色収差補正に用いる場合、凹レンズ効果の必要な大きさから厚みtを決めることができる。 以上に説明した本発明の要件をまとめると以下のようになる。四極子場発生多極子を用いて作られる、厚み(電子線進行方向に長さ)を持った静電四極子場若しくは磁場四極子場若しくは静電四極子場と磁場四極子場の重畳した四極子場により、凹レンズ効果を持った光学系を作成する。
さらに、詳細に記述すると、厚みを持った静電四極子場若しくは磁場四極子場若しくは静電四極子場と磁場四極子場の重畳した四極子場により作成された凹レンズ効果を持った光学系を用いて、色収差補正を行うレンズに対して、屈折率(偏向力の加速電圧依存性或いは波長依存性)が異なる凹レンズ効果を持った光学系を作成することにより、色収差補正を行うことができる。
次に、同じ厚みを持った四極子場をもう一つ用意した例を説明する。二つの四極子場の間に1対1の転送レンズ(トランスファーレンズ)を構成し、二つ目の四極子場を一つ目のそれと逆極性にする。二枚目の射出面における傾きをr’とすると、計算の結果以下の式(8)となる。ただし、n,mを整数(n,m>0)とする。
Figure 2008123999
式(8)中の各項はそれぞれレンズ効果を表しており、厚みtに対する次数が異なっている。
以上から、式(4)中の二回非点を表すA・|A2(n−1)の係数を持った項が、式(8)においてはキャンセルされて無くなっている様子が分かる。
すなわち、二つの四極子場を用いて、それらの極性を逆に設定することにより、収差補正に不要な二回非点項をキャンセルし、収差補正に必要な円筒対称レンズ効果のみを取り出すことが可能となる。
図3は、厚みを持った四極子場発生多極子を二つ用いた収差補正器の光学系を示す図である。四極子場発生多極子としては、静電四極子場、磁場四極子場を用いることができる。静電四極子場と磁場四極子場を用いてもよいし、静電四極子を二つ用いても、また磁場四極子を二つ用いてもよい。なお、これら静電四極子場と磁場四極子場の具体的な構成例は、図4及び図5を用いて後述する。
図3の構成は、厚みを持った四極子場発生多極子を二つ用いることにより対物レンズ25に発生する色収差を補正する例を示している。対物レンズ25には、コマフリー面(≒前方焦点面)25aと試料面25bが形成される。第1の四極子場発生多極子21と第2の四極子場発生多極子23はそれぞれ電子線進行方向に長さを有する厚みを持った多極子である。
第1の四極子場発生多極子21で色収差を発生しても余分な2回非点が残留していることがある。この余分な2回非点を2番目の四極子場のような第2の四極子場発生多極子23を挿入することで除去する。第2の四極子場発生多極子23は、その極性を第1の四極子場発生多極子21と逆極性にする。
また、図3に示したように、第1の四極子場発生多極子21と第2の四極子場発生多極子23との間には、レンズ22a及び22bからなる転送レンズ(トランスファーレンズ)を挿入している。また、第2の四極子場発生多極子23と対物レンズ25との間にも、レンズ24a及びレンズ24bからなる転送レンズを挿入している。
SEMの収差補正光学系では不要な転送レンズを本発明の色収差補正光学系で用いる理由は以下の通りである。既に発明が解決しようとする課題のなかで述べたように、TEMにおける色収差補正は、視野全般に拡がる電子線、すなわち拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して同じ補正が必要である。このためには、電子線の位置に依存しない空間でのみ電子線に偏向作用を与えなければならない。そのためには全て逆空間で多極子を作用させ、また各多極子間も転送レンズを用いて逆空間転送を行う必要がある。すなわち、これら転送レンズ22及び24を、第1及び第2の四極子場発生多極子21及び23と共に用いることにより、図3に示した光学系を持つ収差補正器は、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して比較的簡便な系で色収差を補正することができる。なお、本発明をTEMのSTEMモードやSEMの光学系における色収差補正に用いる場合、転送レンズは必ずしも必要としない。
二つの四極子場による凹レンズ効果を持つ光学系によって色収差補正を行うために、以下に説明する構成を形成することができる。色収差補正を行う光学系として、二回非点を残留させないために、厚みを持った静電四極子場を二つ配置させる。また、色収差補正を行う光学系として、二回非点を残留させないために、厚みを持った磁場四極子場を二つ配置させる。また、色収差補正を行う光学系として、二回非点を残留させないために、厚みを持った静電四極子場および磁場四極子場を重畳させた四極子場を二つ配置させる。また、二つの厚みを持った静電四極子場の間に、転送レンズ対を配置させる。また、二つの厚みを持った磁場四極子場の間に、転送レンズ対を配置させる。また、二つの厚みを持った静電四極子場および磁場四極子場を重畳させた四極子場間に、転送レンズ対を配置させる。また、上記の第2の四極子場発生多極子と対物レンズの間に、転送レンズ対を配置させる。
次に、対物レンズと同じ大きさの屈折率を持つ四極子場による凹レンズ効果を持つ光学系を用いて色収差補正が行えることを説明する。
一般に、色収差係数Cは、式(9)で表される。
Figure 2008123999
このため、比例係数をKとして、f=−K・Uの式で示される式(8)の凹レンズが作成できたとすると、C=U・(−K)=fとなり、色収差とフォーカス距離は同じ値となる。一方、対物レンズの色収差係数CC0は、フォーカス距離をfとすると、一般的にf>CC0となりフォーカス距離に比べて小さい。これから、対物レンズと屈折率が同じ凹レンズを用いて、ビームをフォーカスするために、f>fの系を作っても、全体として対物レンズが持つ色収差を凹レンズによる色収差で補正することにより最終的にはその色収差はf−fとなって減少させることができる。
つまり、厚みを持った静電四極子場で凹レンズをつくり、その凹レンズが対物レンズと同じ屈折率でも、その凹レンズのもつ負の色収差量の絶対値が対物レンズと比べて相対的に大きいことを利用して色収差補正を行うことができる。また、厚みを持った磁場四極子場で凹レンズを作り、その凹レンズが対物レンズと同じ屈折率でも、その凹レンズのもつ負の色収差量の絶対値が対物レンズと比べて相対的に大きいことを利用して色収差補正を行うことができる。
もちろん、厚みを持った静電四極子場および磁場四極子場を重畳させることで凹レンズを作り、その凹レンズが対物レンズと同じ屈折率でも、その凹レンズのもつ負の色収差量の絶対値が対物レンズと比べて相対的に大きいことを利用して色収差補正を行うことができる。
上記した、屈折率が対物レンズと同じ大きさの四極子場による凹レンズ効果を持つ光学系を用いて透過電子顕微鏡の電子光学系における色収差補正を行うことができる。
さらに、本発明において色収差補正を行うことができる光学系の変形例として以下の構成も挙げることができる。二つの静電四極子場発生多極子として、厚み(電子線進行方向の長さ)の異なったものを用いても良い。また、二つの磁場四極子場発生多極子として、厚み(電子線進行方向の長さ)の異なったものを用いても良い。また、二つの静電四極子場および磁場四極子場を重畳させた多極子として、厚みの異なったものを用いても良い。
さらにまた、四極子からは二回場が発生するが、二回場発生多極子として以下の多極子も、本発明を実施するための四極子場発生多極子として挙げることができる。六極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせても良い。また、十二極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせても良い。また、八極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせても良い。
図4〜図7には、前述した静電四極子、磁場四極子、静電場・磁場重畳型四極子、静電場・磁場重畳型六極子の構成を示す。図4は静電四極子の模式図であり、電子線進行方向zに対して垂直なxy面上に正極31、負極32、正極33及び負極34の静電四極子を配置した構成である。各極は電子線進行方向zに厚みを持っている。
図5は磁場四極子の模式図であり、電子線進行方向zに対してxy面上にS極41、N極42、S極43及びN極44の磁場四極子を配置した構成である。各極は電子線進行方向zに厚みを持っている。
図6は静電場・磁場重畳型四極子の模式図であり、電子線進行方向zに対してxy面上にS極41、正極31、N極42、負極32、S極43、正極33、N極44及び負極34を配置した構成である。各極は電子線進行方向zに厚みを持っている。
図7は、静電場・磁場重畳型六極子の模式図であり、電子線の方向zに対してxy面上に負極51、S極52、正極53、N極54、負極55、S極56、正極57、N極58、負極59、S極60、正極61、N極62を配置した構成である。各極は電子線進行方向zに厚みを持っている。
なお、収差補正器の具体的構成図としては、図3に二つの四極子場発生多極子21及び23を用いた構成を挙げた。四極子場を一つのみ用いた構成は、図3にあって四極子場発生多極子21及びトランスファーレンズ22を省略したものとなる。
また、トランスファーレンズ24を用いず、四極子場発生多極子23のみを用いてもよいのはもちろんである。
上記した本発明の実施の形態は、試料に照射するプローブを形成するための照射系における色収差補正を例にとって説明したが、結像系における色収差補正にも用いることができる。
なお本発明は、拡がりを持つ円筒対称型電子線に対するレンズの収差補正を行うものであるが、円筒対称型電子線とは必ずしも試料に照射されるときの断面形状が円形である必要は無く、例えば、矩形スリット等を用いて電子線断面を円形以外の形状に整形した場合も、本発明の技術範囲に属することは明らかである。
従来の磁場電場四極子を組み合わせた色収差補正の方法を説明するための図である。 照射系の収差補正器を備える透過型電子顕微鏡の構成図である。 本発明を実施する四極子場を用いた色収差補正器の光学系の構成例である。 静電四極子の模式図である。 磁場四極子の模式図である。 静電場・磁場重畳型四極子の模式図である。 静電場・磁場重畳型六極子の模式図である。
符号の説明
11・・・電子銃
12・・・高圧制御部
13・・・収束レンズ
14・・・照射系収差補正器
15・・・収束レンズ
16・・・対物レンズ及び試料ステージ
17・・・中間・投影レンズ
18・・・観察室
21・・・四極子場発生多極子
22・・・トランスファーレンズ
23・・・四極子場発生多極子
24・・・トランスファーレンズ
25・・・対物レンズ
31,33,53,57,61・・・正極
32,34,51,55,59・・・負極
41,43,52,56,60・・・S極
42,44,54,58,62・・・N極

Claims (13)

  1. 拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して、電子線進行方向に配置されたレンズに発生する収差を補正する収差補正装置において、
    収差補正前の該電子線が入射する第1の四極子場発生多極子と収差補正された該電子線が出射される第2の四極子場発生多極子を備え、
    前記第1の四極子場発生多極子及び第2の四極子場発生多極子は、それぞれ第1の四極子場及び第2の四極子場を発生し、
    前記第1の四極子場及び第2の四極子場は、四極子場のプライマリー項の2回非点効果と、電子線進行方向の長さを増加させるのに伴い強度を増す割合がプライマリー項より大きい四極子場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果を持つ光学系をそれぞれ形成し、
    前記第1の四極子場と前記第2の四極子場の極性を逆に設定することにより、前記拡がりを持つ円筒対称型電子線に対して、前記第1の四極子場と第2の四極子場が持つ2回非点効果を相殺し、前記円筒対称型発散方向フォーカス効果のみを前記レンズの収差補正に用いるようにしたことを特徴とする収差補正装置。
  2. 前記四極子場発生多極子が発生する前記四極子場の場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果の大きさと前記四極子場の電子線進行方向の長さとの関係を予め求めておき、前記効果を収差補正に用いるために必要とする前記効果の大きさに基づき、前記関係を用いて前記レンズの収差補正に用いる前記四極子場の電子線進行方向の必要な長さを決めるようにしたこと特徴とする請求項1記載収差補正装置。
  3. 前記第1の四極子場発生多極子及び第2の四極子場発生多極子を組み合わせて行う前記レンズの収差補正は色収差補正であることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載収差補正装置。
  4. 前記四極子場発生多極子により電子線進行方向に長さを持つ四極子場を発生させ、前記レンズに対して屈折率が異なる円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系を作成することにより、前記レンズの色収差補正を行うことを特徴とする請求項3記載の収差補正装置。
  5. 前記四極子場発生多極子により電子線進行方向に長さを持った四極子場を発生させて円筒対称型発散方向のフォーカス効果を持つ光学系を作成し、前記光学系と前記レンズの持つ屈折率の大きさが同じでも、前記光学系のもつ負の色収差量の絶対値が前記レンズの色収差量と比べて相対的に大きいことを利用して前記レンズの色収差補正を行うことを特徴とする請求項3記載の収差補正装置。
  6. 前記四極子場発生多極子により発生する前記四極子場は、静電四極子場若しくは磁場四極子場若しくは静電四極子場と磁場四極子場とを重畳させた四極子場の何れかであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  7. 2つの前記四極子場発生多極子間に転送レンズ対を配置することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  8. 2つの前記四極子場発生多極子によって発生する四極子場の電子線進行方向の長さがそれぞれ異なること特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  9. 前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた六極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  10. 前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた十二極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  11. 前記四極子場発生多極子として、静電あるいは磁場あるいは電磁場両方を用いた八極子に、四極子場を重畳させ、静電或いは電場二回場を発生させる役割を担わせることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  12. 前記第2の四極子場発生多極子と対物レンズの間に転送レンズ対を配置させることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の収差補正装置。
  13. 電子線進行方向に配置されたレンズに発生する収差を補正する収差補正方法において、
    電子線進行方向に長さを持つ四極子場を発生する2つの四極子場発生多極子を準備し、
    前記四極子場発生多極子を用いて、前記四極子場の電子線進行方向の長さを増加させるのに伴い強度を増す2回非点効果と前記四極子場の高次項により生じる円筒対称型発散方向フォーカス効果を発生させ、
    2つの前記四極子場が持つ2回非点効果を相殺するように2つの前記四極子場を組み合わせて前記円筒対称型発散方向フォーカス効果のみを取り出し、
    拡がりを持つ円筒対称型電子線に対する前記レンズの収差補正を行うようにしたことを特徴とする収差補正方法。
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