JP2008093154A - 化学物質徐放性の中空糸膜体 - Google Patents

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Abstract

【課題】脈管の外部からその脈管を保護するための医療用デバイスであって、化学物質徐放性機能も有するデバイスを提供すること。
【解決手段】中空糸膜の微細孔が水溶性高分子物質で充填されており、その中空糸膜にさらに化学物質が担持されていることを特徴とする化学物質徐放性の中空糸膜体である。好ましい態様は狭窄した脈管の周囲を覆う管形状をなしている脈管保護用の中空糸膜体である。好ましくは水溶性高分子物質がアルブミンまたはヒアルロン酸であり、化学物質が抗血液凝固剤である。
【選択図】図8

Description

本発明は、化学物質徐放性の中空糸膜体、その製造方法および徐放機能の制御方法に関する。
医工学技術の進歩により、改良が進められ機能化が図られている医療器具の中に心臓冠動脈閉塞症などの治療に用いられるバルーンカテーテル、ステントがある。バルーンカテーテルを使用して血管内部に留置されるステントは、切開部分を補綴するとともに血管の収縮を防止して、動脈閉塞症患者の再狭窄の発生率を有効に減少させようとするものである。近年、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に関連して、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生剤、抗血液凝固剤などと、種々の高分子材料とを組み合わせた、薬剤放出型のステントが研究されてきた(非特許文献1)。しかしながら、このような薬剤放出型のステントにおいては、放出される薬剤のタイミングとその放出速度、放出の全量および期間を所望するように制御することは実際問題として容易ではない。
同じく医薬を徐放させて効果的に患部へ送達する各種のドラッグデリバリー治療デバイスの開発が進められている。特に微小な血管治療用デバイスになると、担持される薬剤の有効量の確保ならびにその放出の制御が一層困難になることはいうまでもない。そのため新規材料の開発と微細加工・処理技術の適用が求められる。人工腎臓、人工透析用フィルターなどには中空糸繊維が医用材料として利用されている。流体透過性、機械的強さに優れた非対称微孔性中空繊維が血液処理用の医用材料として提案されている(特許文献1)。そうした中空繊維の材料特性、材質を応用した血管治療用デバイスは未だ存在しない。
特許第2916446号公報 "Drug-Eluting Stent"、医学書院、2003年
ステントに見られる上記問題点に鑑み、本発明者らは鋭意検討して従来のステントとは異なる発想に立つ本発明に至った。すなわち本発明は、血管の外部からその血管を保護する医療用デバイスがあってもよいとの新たな着想に基づく。例えば静脈と動脈との交錯部位においては、動脈側応力により静脈が圧迫されて血行不良、静脈閉塞を招く。本発明者はこのような静脈の外側に静脈保護用デバイスを置いて、圧迫解除を図る医療用デバイスを想定する。さらに物質の担持能力を増大させるために中空糸膜を使用し、水溶性高分子物質を薬剤の封止物質として使用することにより初期バーストを回避して徐放性を実現することが可能であることも見出し、本発明を完成させるに至ったものである。本発明は、ステントに準じた脈管狭窄防止効果を発揮するとともに、かつ薬剤を長期間安定に放出し続ける薬剤徐放性の医療用デバイスを提供する。
本発明に係る化学物質徐放性の中空糸膜体は、中空糸膜の微細孔が水溶性高分子物質で充填されており、その中空糸膜にさらに化学物質が担持されていることを特徴としている。
前記中空糸膜体は、脈管に対して用いられる医療用デバイスである。
脈管の周囲を覆う保護体の形状をなしていてもよい。
前記の保護体の形状が、内径としてμm〜mmのオーダーにある管状であることが好ましい。
前記の水溶性高分子物質の分子量は、中空糸膜の分画分子量よりも大きいことが望ましく、前記水溶性高分子物質が好ましくはアルブミンまたはヒアルロン酸である。また前記化学物質が好ましくは抗血液凝固剤である。
本発明による化学物質徐放性の中空糸膜体の製造方法は、中空糸膜に水溶性高分子物質溶液を浸透させることにより、該中空糸膜が有する微細孔をその水溶性高分子物質で充填し、その後に該中空糸膜に化学物質溶液を含浸させて中空糸膜に化学物質を担持させることを含む。
また、本発明による中空糸膜体からの化学物質の徐放制御方法は、化学物質を中空糸膜体に担持させるために水溶性高分子物質をその中空糸膜体の微細孔に充填して中空糸膜体内に該化学物質を封止させた中空糸膜体において、該中空糸膜体が水性環境内に留置されると、該化学物質が膜体の外部に徐々に放出されることを特徴としている。
本発明の中空糸膜体は、従来の脈管内腔に挿入するステントでは適用できない微細な脈管が外部応力を受けることによる狭窄を防止することができる。
薬剤放出型のステントに対応する態様として、本発明の中空糸膜体は薬剤を水溶性高分子物質によって多孔質の中空糸膜体の微細孔内に封止させているために徐放性が達成され、薬剤を患部に効果的かつ長期的に送達することができる。
薬剤の担体として、中空糸膜を使用しているために、送達する薬剤、封止用の水溶性高分子の担持容量が極めて大きく、これにより有効薬効濃度での長期徐放を可能としている。
本発明の中空糸膜体は、流体透過性に優れ、加工性に優れるために作製が容易であり、様々な用途、特に血管治療デバイスとして応用が可能である。
[発明の詳細な説明]
中空糸膜体
本発明の化学物質徐放性の中空糸膜体は、中空糸膜の微細孔が水溶性高分子物質で充填されており、その中空糸膜にさらに化学物質が担持されていることを特徴としている。
本明細書でいう「徐放性」とは、バースト放出に対立するものであり、担持されていた化学物質が連続的に長期間、放出されることをいう。また「担持」とは、高分子マトリックスまたは多孔体中に、薬剤を分子分散あるいはナノメーターからサブミクロンオーダーの凝集塊を形成して分散させることをいう。
本発明の中空糸膜体における化学物質徐放機能は、数週間、例えば20日ほどの期間にわたり有効薬効濃度での徐放を可能とする特徴を有する。そうした徐放機能は、次のようにして発現される。徐放される化学物質が中空糸膜体に担持されている。その中空糸膜体には微細孔が多数存在している。中空糸膜体の微細孔に、この膜が有する分画分子量よりも大きい分子量の水溶性高分子物質が充填されているために、中空糸膜に担持されている化学物質は、この水溶性高分子物質により封止され、膜外にバースト的に出ることはない。生体内に中空糸膜体が留置されると、生体内の水性環境(間質液など)において、その水溶性高分子物質が膨潤し、それに伴って封止されていた化学物質が拡散移動して膜体外に放出される。このように水溶性高分子物質を中空糸膜の孔中に充填して微細孔が目詰まりの状態にさせることで化学物質の封止とその放出のタイミング、放出速度を制御することができる。
・化学物質徐放性の膜体
化学物質徐放性の膜体として、生体適合性を備え、多孔体を構成する高分子物質からなる多孔性の構造体であれば本発明の膜体に使用できる。例えばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースなどである。さらに生分解性である多孔性高分子も好適に用いることができる。そうした生分解性高分子として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリリンゴ酸およびそれらの共重合体などのポリヒドロキシエステル系、ポリカプロラクタムなどのポリアミド系などがある。また生体由来物質としてキチン、キトサンなどが例示される。
特に本発明の多孔性構造体として、微細孔径の分布が比較的均一であり、しかも物質の担持容量が極めて大きい中空糸繊維膜が好ましく使用される。その中空糸膜は、通常、限外ろ過など、物質の分離に広く使用されている構造のもので、内表面から外表面の間の膜側面には多数の微細孔が開いている。その微細孔は、0.001μm〜数μm、好ましくは0.03
〜1μmの径である。膜の分画分子量としては1万〜2万のものが好適である。中空糸を使用する膜体では、その構造特性から、他の多孔性物質と比べて単位表面積当たりの物質の担持量または収容容量は極めて大きい。したがって微小な医療デバイスに対しても極めて多い担持能力を有する担体として利用できる。
好ましい中空糸繊維膜としては、血液透析用の中空糸膜が挙げられ、中でも人工腎臓用の合成高分子中空糸膜が特に好ましく採用される。非対称微孔性中空繊維の製造方法が特許第2916446号に開示されている。この中空繊維は、外側に向かって孔径が順次大きくなる連続多孔性スポンジ構造と微孔性バリヤー層を有する内面を有する構造を有する。このため該中空糸繊維は好適な限外濾過用の材料であり、10,000〜20,000の分画分子量を有し、流体透過性、機械的強さおよび加工性にも優れているために、本発明の中空糸膜体または広く多孔性構造体を有する医療用デバイスの材料として好適である。
化学物質徐放性膜体の形状としては、固体成形物として筒状、ジャバラ状、屈曲箇所を有する構造、メッシュ状、ワイヤー状などの各種形状をとってもよく、特に制限はない。また中空糸材料にあっては、多数の中空糸を結束させた織物状集合体であってもよく、あるいは微細な脈管を保護する場合には1本の中空糸をそのまま用いた、脈管を挟み込む態様のものであってもよい。
本発明に係る中空糸膜体は、好ましくは脈管に対して用いられる医療用デバイスである。かかる医療用デバイスは、脈管の周囲を覆う保護体の形状をなしていてもよい。そうした保護体は、基本的には脈管内留置後の強度、脈管壁に対する物理的損傷性に関して問題の生じないものであれば種々の形状のものが使用できる。好ましくは脈管の周囲を覆う管形状をなす管状体であり、あるいはシート、ストリップ、架台などの形態もとり得る。前記の保護体の形状が管状体である場合、その内径としてマイクロメーターからミリメーター(μm〜mm)のオーダーにあることが好ましい。管形状は、円筒、角柱もしくは筐体、錐体などであり、特に限定されない。
化学物質徐放性膜体のサイズは、用途、適用される脈管(血管、リンパ管、胆管、尿管、気管など)の種類などによって適宜変えるのであるが、脈管の内径がマイクロメーターからミリメーター(μm〜mm)のオーダーにある網膜血管を対象とすることもできる。・水溶性高分子物質
化学物質を多孔質構造体(中空糸膜体を含む)の表面にコーティングする様式で担持させる場合、そのコート層の厚みは、コート層がひび割れたり、剥がれて脱落するおそれがあるために厚くすることができず、反対に薄いと担持量は充分でなく、目標とする期間の薬剤放出が確保できない。一方、化学物質を中空糸膜体などの微細孔内に直接、担持させた場合には、該膜体を生体内に留置すると、比較的早い時期にほぼバースト的に該化学物質は放出されてしまう。そこで化学物質を微細孔内に封止する目的で中空糸膜体の中心空
洞および微細孔に水溶性高分子物質が充填される。そうした水溶性高分子物質は、水溶性で、かつ、膜体の分画分子量より大きい分子量を有する分子であれば特に限定されない。充填された水溶性高分子が生体の水性環境(間質液など)中で膨潤すると、担持されていた化学物質の拡散移動が容易となり水性環境に向かって放出されていく。本発明の中空糸膜体では、このようにして化学物質の徐放性が達成される。また、該高分子の充填量、水性環境での膨潤度は、封止する化学物質の放出のタイミングと速度に関係する。
本発明の中空糸膜体に充填される水溶性高分子物質の分子量は、中空糸膜の分画分子量以上、好ましくはこれよりも大きい。膜を目詰まりさせて、担持した化学物質がバースト的に放出されることを防止するためである。
前記水溶性高分子物質としては、生体適合性ポリマーまたは生分解性のバイオポリマーであってもよい。例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの水溶性合成高分子、アルブミン、コラーゲンなどのタンパク質、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、アルギン酸、キトサン、ペクチンなどの水溶性多糖類などが挙げられる。しかしこれらの例示に限定されるものではない。これらの中で、充填のしやすさ、封止効果、コストなどの観点から特に好ましいものは、アルブミン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸などである。
・化学物質
本発明の中空糸膜体に担持する化学物質は、利用目的に応じて適宜、選択すればよく、特に制限されない。通常、そうした化学物質は低分子の薬剤であることが望ましい。医療用デバイスとして応用する場合には、担持し、徐放される化学物質は、医薬品物質、すなわち治療用、予防用、検査用の各種薬剤などが一般的であり、それに付随してさらに助剤、安定化剤などを必要に応じて含めることもできる。水溶性の薬剤であっても、水難溶性の薬剤でもかまわない。1種の薬剤に限らず、複数の薬剤を共存させる形で内包することもできる。例えば、胃潰瘍、結核、感冒などの治療において採用される2剤、3剤あるいは4剤併用療法では、複数の薬剤を同時に使用して、組み合わせによる相乗効果、相補的作用を確保している。
薬剤を具体的に例示すると、抗腫瘍剤抗生物質、解熱鎮痛剤、抗炎症剤、鎮咳去痰剤、抗潰瘍剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、抗結核剤、抗不整脈剤、血管拡張剤、強心剤、抗アレルギー剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗凝血剤、止血剤、ホルモン剤、生理活性ペプチド類、血管新生抑制剤、血管補強剤、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤抗リウマチ剤、避妊剤、利肝剤、健胃消化剤、整腸剤、ビタミン剤、ワクチン剤、便秘治療剤、痔治療剤、各種酵素製剤、抗原虫剤、インターフェロン誘起物質、駆虫剤、外皮用殺菌消毒剤、寄生性皮膚疾患剤などが挙げられる。本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
さらに上記薬剤のなかで具体的な例を個別に説明する。
中空糸膜体を血管治療用デバイスとして用いる場合には、担持する薬剤は抗血液凝固剤であることが望ましい。とりわけ初期血栓形成の抑制に極めて有効である、アルガトロバン(抗トロンビン薬)および塩酸サルポグレラート(抗血小板薬)が好ましい。血液凝固を抑制する薬剤の一つとして、本発明で使用される抗トロンビン薬のアルガトロバンは、アルギニン誘導体系合成抗トロンビン薬である。トロンビンに直接作用するために、ヘパリンよりも抗凝血作用に個人差がなく、確実であり、作用発現も迅速である。また、天然阻止物質がなく、分子量も小さいことから、フィブリン結合トロンビンにも作用でき、確実に血栓の成長を阻止することができる。
塩酸サルポグレラートは、血小板活性化を抑制する働きをもち、慢性動脈閉塞症モデル
をはじめ、種々の血栓モデルに対して有効性を示す。なお、抗血液凝固薬剤は、抗凝固剤、抗凝血剤としても表現される。
一般に脈管保護のために用いられる本発明の中空糸膜体の他、ステント、眼内レンズ、生体に埋め込んだ器具、装置の全面、またはその周囲において、内皮細胞が過剰に増殖する傾向にある。装置内、装置上、または装置の周りにおける組織の成長やタンパク様物質の蓄積によりその機能が損なわれることがよくある。これは、一つまたは複数の薬剤と器具を組み合わせることにより最小限に抑えることができる。すなわち防止する薬剤を組み合わせることでその発生を抑制することが可能であるが、そうした薬剤として血管形成手術後の血管組織の増殖を抑制するのに使用される細胞増殖抑制剤も使用することができる。具体的には抗血小板薬(アスピリン、ジピリミダモール、ヘパリン、抗トロンビン製剤など)、血管平滑筋増殖抑制薬(低分子ヘパリン、アンギオテンシン変換酵素阻害薬など)、抗炎症薬(ステロイドなど)、カルシウム拮抗薬(ニフェジピンなど)、脂質改善薬(ロバスタチン、シンバスタチンなど)、抗アレルギー剤(トラニラストなど)、および試験管内で血管平滑筋の増殖または走化性を抑制することが示されている、DNA合成阻害剤(マイトマイシンC、アドリアマイシンなど)、チロシンキナーゼ阻害剤(ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチンなど)などが挙げられる。
含浸用溶液は、薬剤を適切な溶媒、例えば、水、緩衝液、酢酸、塩酸などの酸溶液、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、塩化メチレンなどに溶解して調製される。
化学物質の徐放制御方法
本発明の中空糸膜体を脈管、例えば血管の所定部もしくは患部に留置するとき、治療薬剤などが該膜体から調節された速度で放出され、脈管系に拡散し得ることが重要である。したがって拡散速度は、意図する目的と周囲の状況に適合するように調節され、極めて迅速な拡散速度から、緩慢な拡散速度まで適宜制御されることが望まれる。
本発明による化学物質の徐放制御方法は、
化学物質を中空糸膜体に担持させるために水溶性高分子物質をその中空糸膜体の微細孔に充填して中空糸膜体内に該化学物質を封止させた中空糸膜体において、該中空糸膜体が水性環境内に留置されると、該水溶性高分子物質が膨潤し、化学物質の拡散移動が容易になることで、該化学物質が膜体の外部に向かって徐々に放出されることを特徴としている。
具体的な制御方法は、水溶性高分子物質の種類、充填量、中空糸膜体のサイズ、構造、微細孔の径、化学物質の担持様式などを所望する放出の様式と速度に適合するように選択すればよい。特に水溶性高分子物質の分子量は、中空糸膜の分画分子量よりも大きいことが望ましい。諸条件の設定のために薬剤の担持・放出を評価する試験を予め実施することが望ましく、その有用な方法として、所定の形状、サイズを有する中空糸膜体を作製して、充填する水溶性高分子物質、担持する化学物質を用いて、当該化学物質の放出挙動を調べる。後述するように担持させた化学物質の放出モデル系における放出量の経時変化を調べることによりグラフ曲線が作成され、これを解析して好適な条件を設定する。そのような放出プロフィールを基にして、該化学物質の放出パターンの適否、薬効有効濃度との関係、担持させる量などを検討し、適切に条件を選択することが可能となる。
・放出プロフィール
所望する化学物質の放出プロフィールを得るため、化学物質またはそれを含有する薬物製剤を担持する中空糸膜体を適当なインビトロの系または生体内モデルで試験することができる。例えば、薬剤を中空糸膜体に担持し、撹拌または循環している流体系、例えば、リン酸緩衝液またはエタノール水溶液中に置く。所定の時間が経過した時点で循環流体のサンプルを採取し、該化学物質の濃度を、HPLC、UV分析法などによって測定し、放出プロフィールを求めるのがよい。中空糸膜体から生体への放出様式は、適当な動物シス
テムでモデル化できる。薬剤放出プロフィールは、適当な手段、例えば、サンプルを特定の時点で採取し、サンプルを薬剤濃度について分析することによってモニターすることができる。
製造方法
本発明である中空糸膜体の製造方法は、中空糸膜に水溶性高分子溶液を浸透させることにより、該中空糸膜が有する微細孔をその水溶性高分子物質で充填し、その後に該中空糸膜に化学物質溶液を含浸させて中空糸膜に化学物質を担持させるようにすることを含むことを特徴としている。
用途に応じた形状、サイズ、構造、材質を有する中空糸膜体を用意する。そうした中空糸膜体の微細孔内に水溶性高分子を充填するには、特別の方法は必要とされないが、例えば水溶性高分子を低沸点溶媒、好ましくは水、緩衝液に溶解して調製した溶液として中空糸膜体に接触浸透させた後、溶媒を除去することによる。効率の観点からは加圧して充填することが好ましい。具体的には中空糸膜の外側を水溶性高分子水溶液で満たし、この液を数100mmHg、例えば150〜200mmHgで加圧すると、効率よく液が中空糸膜の内側へ滲みこんでいく。このような圧入法によって上記水溶性高分子が中空糸膜内に有効にトラップされる。
中空糸膜体の微細孔内に水溶性高分子を充填した後、化学物質を含浸させる前に中空糸膜体を乾燥させる。自然乾燥が好ましく、また完全乾燥させる必要はない。熱を加えて強制乾燥させると、中空糸膜の構造変化(小孔が広がる、中空糸にヒビが入るなど)が起きて、担持した化学物質の徐放性が損なわれるか、バースト放出を誘発させるおそれがある。また中空糸の孔径維持剤としてグリセリンなどを上記水溶性高分子を充填する際に添加してもよい。その添加量は、最終的に5〜20重量%。好ましくは10〜18重量%となるようにする。
次いで、中空糸膜に化学物質溶液を含浸させて中空糸膜に化学物質を担持させる。含浸の方法は、滴下法、吹き付け法、塗布法、溶液流延法などによる。その際、所定量を含浸させるように、溶液の濃度、含浸の時間などを適宜調整する。化学物質溶液の滴下による自然充填によって担持させる方式が簡便で好ましい。
なお、中空糸膜の微細孔を目止めする水溶性高分子物質を中空糸膜に充填してから、化学物質を含浸させて中空糸膜体に担持させるのは、所望する徐放様式に適う所定量の化学物質を担持させるためである。先に化学物質を中空糸膜体に含浸させると、その後に水溶性高分子物質を圧入して充填する際に担持された化学物質の一部または全部が漏れ出すおそれがある。
本発明の中空糸膜体に担持される化学物質(薬剤)は、治療を必要とする患者(ヒトおよび動物)に対し、毒性を示さない用量であればよい。中空糸膜体の本来の機能に悪影響を及ぼさない量であれば、任意量を該膜体に担持させてもよいが、例えば、医療用デバイスとしての中空糸膜体当たり0.001〜100mg、好ましくは該膜体当たり0.1〜10mgの範囲で担持させる。また、本発明に使用する水溶性高分子物質は、治療を必要とする患者(ヒトおよび動物)に対して毒性を示さない用量であり、実質的に上記薬剤を該膜体に封止し得る量を用いることができるが、デバイスとしての中空糸膜体当たり0.01〜100mg、好ましくは該膜体当たり0.1〜10mgの範囲で使用するのが望ましい。
直接、患部への治療薬剤の局所的投与は、薬効上、全身的投与に比べ極めて有効でありしかも副作用が小さいことから、治療薬剤の局部的供給を行なう技術が期待されている。これに応える手法として、治療薬剤を供給するカテーテル(これは、血栓溶解剤を投与す
るのに有効である)または対象領域を包囲する組織中に薬剤溶液を注入するカテーテルが使用されている。しかし、薬剤は供給部位から除去されやすいため、この方法により供給される薬剤の治療作用は比較的短い。対象部位に薬剤の長期間供給ができるようにするためには、治療薬剤は比較的永続的な構造物中に組込まれ、該構造物が生体内に留置されることが効果的である。すなわち、疾患を治療するための治療薬、治癒を促進する種々の薬剤、医用器具の植込みに対する生体の反応を最小限に抑える種々の薬剤(炎症および増殖を阻止する、あるいは複数の機構により増殖を阻止する薬物)と組み合わせた状態の植込み可能な医用器具が望ましい。上記の薬剤または化学物質は、3日〜8週間の期間にわたり当該薬物または化学物質を担持する構造体を標的の組織に接触させた状態で、高速放出または低速放出のいずれにも対応するように配合することができる。例えば、動脈の外面周囲には、バンデージ(包帯)構造をなす比較的多量の薬剤を備えた血管外ラップが適用される。この技術は、ヘパリンを用いて局部的抗凝血を行なうのに有効であるが、血管外ラップを対象部位に配置するのに観血的作業を要するため、適用は限定される。
治療薬剤ならびに医療用装置・器具は、それぞれ単独で使用するよりも組み合わせるか、複合化することによって治療効果を高めることができる。また装置と治療薬剤を組み合わせる方式の他に、組織や器官の構造および機能を改善させる装置もまた、好適な物質と組み合わせると効果を得ることができる。この観点より、本発明の化学物質が担持されている中空糸膜体の好ましい態様は、脈管に対して用いられる医療用デバイスである。例えば脈管の周囲を覆う保護体として用いられるデバイスである。脈管(血管、リンパ管、胆管、尿管、気管など)が疾患に起因する外部応力により圧迫を受けて、狭窄、閉塞することにより合併症を誘発することが往々にしてある。そうした医療用デバイスは、脈管の大小を問わずその再狭窄、再閉塞の防止を目的とするあらゆる局面に適用され得る。中空糸膜体の好ましい形状として狭窄した(または狭窄する可能性のある)脈管の周囲を覆う管形状をなしている。例えば、管腔内挿ステントが通常、狭窄した脈管の管径回復のために脈管内腔の狭窄部に挿入して留置するのに対して、脈管の外部から覆って脈管外部からその脈管を保護することを特徴とする医療用デバイスであり、「血管外ステント」ともいうべき血管支持体(または脈管支持体)である。他の態様として、止血用障壁、様々な種類の包帯、脈管シーラント、脈管系組織再生用足場などが挙げられる。
従来ステントが、ミリメーターオーダー以上の脈管を対象とし、1mm未満の微小脈管には適用が困難である。これに対して本発明の脈管保護用中空糸膜体は、そうした脈管の管径に制限されることはない。とりわけ従来のステントでは困難であった、1mm未満、特に500μm以下の微小脈管でも適用することができる。このように適用対象のサイズに制約されることがなく、しかも担持薬剤の必要量が確保されることは、本発明の中空糸膜体に特有である構造に基づく。
本発明の脈管保護用中空糸膜体は、好ましい態様の一例として局所的に外部応力により狭窄を引き起こされている微小脈管に保護体として適用され、外力を遮断して直接脈管に加わらないようにするものがある。
例えば静脈と動脈との交錯部位において、例えば網脈静脈と網脈動脈との交錯部位において、動脈圧に基く動脈側からの応力により静脈が圧迫されて血行不良、静脈閉塞を招く。このような静脈の外側に保護用デバイスを置いて、圧迫解除を図るものである。
本発明の脈管保護用中空糸膜体は、微小脈管の保護と同時に、膜体に担持されていた医薬(治療薬、抗血液凝固剤など)が徐放される。特に狭窄時に脈管内壁に損傷があった場合には、この損傷部位を病巣として合併症が発生するおそれがある。このようなリスクから回避するために、中空糸膜体から予測される合併症に対応する薬剤を徐放することで、合併症を治療または予防することができる。
例えば、微細脈管が網膜静脈であり、交錯する動脈からの圧力で狭窄している場合には、狭窄部位での血液凝固(血栓形成)の可能性があるために、抗血液凝固剤を放出する網膜静脈保護用中空糸膜体が適用することが望ましい。このような網膜静脈保護用中空糸膜体は内径0.1mmという網膜血管の極細サイズのために、これまで治療法が限られ、効果が
限定的であった網脈静脈分岐閉塞症、網脈中心静脈閉塞症などの治療に有効となる。
ステントなどの血管治療用デバイスは、留置した直後から最低3週間程度にわたり、血栓の形成を予防することが必須とされる。この期間を過ぎれば内皮細胞の再生などが進み、血栓形成のリスクは大きく低減する。したがって留置直後の放出速度に加え留置後3週間程度経過した時点での放出速度の維持が極めて重要である。血栓形成が生体防御の初期反応であることを考慮すると、少なくとも2週間、好ましくは3週間、より好ましくは3週間以上にわたり有効薬効量が徐放され続けることが望まれる。徐放性を実現するために、中空糸膜体の留置後にバースト的に薬剤の放出が起きないように、コントロールリリースすることが必要である。本発明の脈管保護用中空糸膜体は、中空糸膜の微細孔を分子レベルで目止めすることが必要であるとの着想に基づき、前記水溶性高分子物質としてアルブミンまたはヒアルロン酸を採用している。
本発明の脈管保護用中空糸膜体は、静脈外部から覆ってその静脈を保護することにより、交錯する動脈圧からの物理的な応力緩和を行って静脈の閉塞を防止する。併せて狭窄部位が回復するまでの間、短期的な血液凝固を防止するために、中空糸膜に担持されている抗血液凝固剤が徐放され、該静脈内へ移行して血栓形成抑制効果が発揮される。
上記の使用材料は本発明の範囲内の好適例にすぎない。また、以下の実施例中で用いる装置名及び、使用材料の濃度、使用量、処理時間、処理温度等の数値的条件、処理方法などは本発明の範囲内の好適例にすぎない。また、以下の説明をいくつかの図を参照して行うが、これらの図はこの発明を理解できる程度に示してあるにすぎない。
[実施例]
薬剤放出挙動解析用ミニモジュールの作製
本発明の網静脈保護用のデバイス(「血管外ステント」)は、内径100〜500μm、長さ
が0.5〜2mm、好ましくは内径200μm、長さ1mmである。このようなサイズの形状では、薬
剤の担持・放出の評価実験は困難であるため、有効長12cmの中空糸を50本束ねて得られるミニモジュールを作製して実験に供した。ここで用いた中空糸は、ニプロ社製人工腎臓PES-110Dから中空糸膜を取り出し、50本を1束として約14cmの長さに揃え、両端をエポキシ
樹脂で固めたもので、さらに両端部にシースを取り付け、ポリウレタンで固定し、図1に
示したバンドルを作製した。このバンドルをハウジング(円筒管)内に取り付け、図2に示すようなミニモジュールを作製した。その円筒管には、リン酸緩衝液を循環させるための入口管および出口管が設けられている。
中空糸への抗血液凝固剤の充填
中空糸にDDS機能を持たせるために、抗血液凝固剤であるアルガトロバンの充填方法を検討した。充填では以下の薬剤および機材を用いた。
A.薬剤および機材
・MD-805(アルガトロバン):三菱ウェルファーマ(株)社製
・グリセリン:84〜87%含有のもの(月島薬品(株))を中空糸の孔径維持剤として使用。
・脂肪乳剤:イントラリピッド20%、テルモ社製
・コンドロイチン硫酸:コンドロイチン硫酸Cナトリウム(特級)、和光純薬工業(株)社製
・アルブミン:ウシ血清アルブミン(グロブリン不含-HG)、生化学用、和光純薬工業
(株)社製
・ヒアルロン酸:ヒアルロン酸ナトリウム(鶏冠製)、生化学用、和光純薬工業(株)社製
・ピペット:Eppendorf社製 100〜1000μL
・スクリュー管瓶:アズワン社製 6, 20, 50mL
・チューブポンプ:アトー(株)社製 PERISTA PUMP Ser No SJ-1211H
東京理科器械製 MICRO TUBE PUMP MP-3
B.アルガトロバンの充填形態と充填方法
I 単体法:(参考例)
アルガトロバンのみで中空糸に含浸させる。
(1)アルガトロバン溶液の滴下
アルガトロバン10mgをメタノール0.5mLで溶解し、中空糸バンドル上にピペットを用い
て全体になじむように滴下した。
II 脂肪乳剤法:(参考例)
脂肪乳剤の油脂部分にアルガトロバンを溶解して、中空糸に含浸させるものである。
(3)脂肪乳剤+アルガトロバン10mg
脂肪乳剤0.5mLをI単体法の(1)のように滴下して自然乾燥させた後に、アルガトロ
バン10mgをメタノール0.5mLで溶解し、上記(1)のように滴下した。
III 高分子法
1)ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・アルブミン溶液にアルガトロバンを溶解して、中空糸に含浸させる方式
(4)コンドロイチン硫酸10mg+アルガトロバン10mg
コンドロイチン硫酸10mgを蒸留水2mLに溶解したものを(1)のように0.5mL滴下し自然乾燥させた後に、アルガトロバン10mgをメタノール0.5mLで溶かしたものを(1)と同じ
ように滴下した。
(5)コンドロイチン硫酸10mg&アルガトロバン10mg
コンドロイチン硫酸10mgを蒸留水2mLに溶解したものと、アルガトロバン10mgをメタノ
ール0.5mLで溶かしたものを0.5mLずつ1:1の割合で混ぜ、(1)のように滴下した。
(6)コンドロイチン硫酸10mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg
コンドロイチン硫酸10mgを蒸留水1.5gに溶かし、そこにグリセリン0.5g入れたものと、アルガトロバン10mgをメタノール0.5mLで溶かしたものを0.5mLずつ1:1の割合で混ぜ、
(1)のように滴下した。
(7)コンドロイチン硫酸10mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg(0.25mL)
(6)の組成を2(コンドロイチン硫酸):1(アルガトロバン)の割合で混ぜ、(1)のように滴下した。
(8)コンドロイチン硫酸20mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg(0.25mL)
(7)のコンドロイチン硫酸の溶質量を20mgにしたものを(1)のように滴下した。
(9)コンドロイチン硫酸20mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg(0.75mL)
(8)の組成を1(コンドロイチン硫酸):2(アルガトロバン)の割合で混ぜ、(1)のように滴下した。
(10)アルブミン10mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg
(6)のコンドロイチン硫酸をアルブミンに変更し、組成を1:1で混ぜたものを(1)のように滴下した。
(11)ヒアルロン酸10mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg
(6)のコンドロイチン硫酸をヒアルロン酸に変更し、組成を1:1で混ぜたものを(1
)のように滴下した。
(12)ヒアルロン酸10mg(グリセリン含有)&アルガトロバン10mg(0.75mL)
(11)の組成を1(ヒアルロン酸):2(アルガトロバン)の割合で混ぜ、(1)のように滴下した。
2)ヒアルロン酸・アルブミン水溶液を中空糸に圧入後、アルガトロバン溶液を含浸させる方式
(13)アルブミン(1g/50mL)150mmHg充填+アルガトロバン10mg
アルブミン1gを生理食塩水に溶解し、150mmHgの圧力下、中空糸に供給してアルブミン
を中空糸微細孔に充填し、目止めした後に自然乾燥させ、アルガトロバン(10mg)のメタノール溶液(0.5mL)を(1)のように滴下した。
(14)アルブミン(1g/50mL)300mmHg充填+アルガトロバン10mg
(13)の圧力を300mmHgに変更して充填を行った。
(15)ヒアルロン酸(75mg/50mL)150mmHg充填+アルガトロバン10mg
(13)のアルブミン1gをヒアルロン酸75mgに変更して同じ方法で充填・滴下した。
(16)ヒアルロン酸(75mg/50mL)150mmHg/1h充填+アルガトロバン10mg
(15)で圧力をかける際に150mmHgの圧力を1時間維持した状態で充填した。
(17)アルブミン(1g/50mL)150mmHg/1h充填+アルガトロバン10mg(アルブミン
・グリセリン含有)
(16)のヒアルロン酸をアルブミンに変更し、アルガトロバン10mgをメタノール0.
5mLで溶かしたものにグリセリンを0.17g入れ、アルブミン(1g/50mL)と1:1の割合で混
ぜたものを(1)のように滴下した。
(18)ヒアルロン酸(75mg/50mL)150mmHg/1h充填+アルガトロバン10mg(アルブ
ミン・グリセリン含有)
(17)のアルブミンをヒアルロン酸に変更したものを充填した。滴下は(16)と同様のものを滴下した。
アルガトロバン放出量とその時間経過の測定
アルガトロバンを上記3つの異なる方式で中空糸膜体に担持させた中空糸バンドルを、循環回路の流体中に置かれたモジュールとし、循環液中に放出されるアルガトロバン量を測定し、その放出様式を経時的に追跡した。
1)図1に示したバンドルをハウジング(円筒管)に挿入して、図2に示したモジュールを作製した。
2)次に図3に示した装置を用い、上記モジュールにpH7.4のリン酸緩衝液(PBS)、30mLをチューブポンプ(アトー(株)社製 PERISTA PUMP Ser No SJ-1211H、東京理科器械製
MICRO TUBE PUMP MP-3)を用いて毎分1.5mLの速度で循環させた。
3)分光光度計(日立製、U-3410型日立自記分光高度計 Ser No 0342-003)を使用してUV測定を行った。測定条件は次のとおりである。
測定波長範囲:600〜230nm、 スキャン速度:300nm/分、セル:標準石英セル、測定温度
:室温
4)チューブポンプによる送液開始後、1時間、2時間、3時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日のペースで還流しているPBSを一部取り出し、溶出したアルガトロバンの濃度を求めるためにUV測定を行った。
5)波長330nmでの吸光度(アルガトロバンの吸収スペクトルピーク)Absを測定した。アルガトロバン濃度C(mg/dL)を、別途求めた1mg/dL当たりのε(吸光係数)=0.092を
使用して算出した。
A.結果
I 単体法(参考例)
アルガトロバンのみで中空糸に含浸させた場合の濃度推移を図4に示す。同図において、(1)-1は中空糸を乾燥機中に入れて完全乾燥してから実験を行ったもの、(1)-2は、自然乾燥状態で実験を行ったものである。アルガトロバンの充填量は10mgであるので本来は10mg/30mLの値を超えないはずであるが、(1)-1ではその値を超えてしまっている。
II 脂肪乳剤法(参考例)
脂肪乳剤の油脂部分にアルガトロバンを溶解して、中空糸に含浸させる脂肪乳剤法における濃度推移を図5に示す。
III 高分子法
1)ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸・アルブミン溶液にアルガトロバンを溶解して、中空糸に含浸させる方式における濃度推移を図6に示す。同法の(9)、(12)
のケースでは、充填量が15mg/30mLであるために、値が15mg/30mLを超えており、(7)、(8)の場合、充填量が5mg/30mLであるので値は低くなっている。
2)ヒアルロン酸・アルブミン水溶液を中空糸に圧入後、アルガトロバン溶液を含浸させる方式における濃度推移を図7に示す。
(17)、(18)(乾燥処理を施した-4、-5を除く)の系については経時的にアルガトロバンの溶出量が増えており、徐放性の薬剤放出が起こっていることを示唆する。なお、(18)-1では、充填量が5mg/30mLであるので絶対値的には放出量が低い値にな
っている。(14)-1では、開始1時間後から値が低下しているが、これは測定不備
によるものであると考えられる。
B.考察
中空糸微細孔の目止めをしないアルガトロバン単体のみの担持方式(図4)では、放出量に差が認められるが、これは充填を手作業で行っているために、中空糸への含浸が完全に一定ではなく、ばらついたためと考えられる。また(1)-1と(1)-2とを比較すると中空糸の乾燥による影響も想定される。(1)-1は、循環開始1時間後の値が(1)-2よりも高い。このことから加熱による中空糸膜の強制乾燥は、膜構造の変化(小孔が広がる、中空糸にヒビが入るなど)が起きて、アルガトロバンが急速に放出されたのではないかと考えられる。
脂肪乳剤法(図5)は、実験開始1日以内に担持させたアルガトロバンのほぼ全量が放出され、放出が完了していることがわかる。したがって性能面で本系は好ましくないと判断される。
高分子法1)の図6において、(9)、(12)の条件で、アルガトロバンが一定量放出されており、3日後までは値が上昇し続けていることから、この方式中では最も見込みがあるが、(9)に関しては、PBS循環開始後1時間で充填量の約2/3が放出されてしま
っている。これでは長期間にわたる放出は期待できない。(12)についても開始1時間後の値が(9)のケースよりも低いとは言え、充填量の約半分が放出されてしまっているために同様の結論となる。
高分子法2)では、高分子法1)の問題を解決するために、中空糸に対してアルブミン・ヒアルロン酸の充填を強制的に行う方式をとった。すなわち本方式の充填法では、アルブミン、ヒアルロン酸などの膜微細孔を目止めする高分子物質をまず圧入してから、次にアルガトロバンを滴下による自然充填により担持させた。
アルブミンを使用する場合、アルブミンを圧入させた(13)、(14)では、開始1
時間後の溶出量が高い(図7)。これはアルブミンの分子量が大きいのにもかかわらず目止めまたはアルガトロバンのトラップが充分ではないことを表している。一方、圧入後に
アルブミンとアルガトロバンとを混ぜて含浸担持させると、放出速度の制御が可能になっている。なお、この方法を用いている(18)-4、(18)-5では、循環直後から薬剤のバースト放出が起きており、放出速度の制御が全くできていない。その原因は単体法で述べた乾燥に起因するものと考えられる。すなわち乾燥させすぎたために、中空糸に変性が起きて放出が急速に進んでしまったと推測される。
薬剤徐放性および薬効有効濃度の予測
(A)充填量と溶出量の経時変化の予測
実施例3における検討結果から、最良の成績を収めた高分子物質圧入法におけるアルブミン(17)、ヒアルロン酸(18)の結果(図7)を、横軸を時間(h)として再プロットし、併せてグラフの溶出曲線の近似式を算出して示したものが図8である。
ヒアルロン酸系の溶出近似式を用いて、20日後の溶出量を計算すると以下のとおりとなる。積算溶出量Y(mg)=4.2353・t0.0634から、ある時点における溶出速度Uは、下式のとおりとなる。
U(mg/h)=dY/dt=4.2353×0.0634・t-0.9366
この式を基に480時間後の中空糸膜体内の薬剤濃度を、以下の条件にて概算する。
・条件:膜体長=1mm、膜体内の液更新:1時間以内ではないものと想定
・溶出速度U'=U/S=3.99×10-3μg/cm2/h
(ミニモジュールの膜面積S=207.2cm2
・膜体内表面積s=6.28×10-3cm2
・内側体積V=3.14×10-5mL
薬剤濃度=(U'×1時間×s)÷V=0.798 μg/mL
(B)有効薬剤濃度
アルガトロバンはトロンビン活性を阻害する。一方、生体内では一旦生成したトロンビンはトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)となって失活する。したがってTATの産生量を求めることで抗凝固活性の発現有無が判定できると考え、TAT産生におけるアルガトロバン濃度の依存性を調べた。TATの測定は、所定量のアルガトロバンを添加した全血1mLを、37℃、90分間インキュベートした後に、所定の処理をし、ELISA法にてTATを定量することによった。その結果を図9に示す。
アルガトロバン濃度が0.06μg/mL以上であれば、トロンビンの血液凝固活性を阻害できると予測される。一方上記の放出速度の予測では、480時間後で0.798μg/mLであり、この濃度依存性の結果とを併せて考えると、480時間後においても薬効有効濃度にあることが
充分予測される。
(C)アルガトロバン担持中空糸の凝固活性阻害(抗血液凝固活性)
実施例1で作製したミニモジュール(中空糸数:275本、糸長:12cm)の糸内に全血を充
填し、90分間インキュベートしたときのTAT産生量を測定した結果を表1に示す。
これにより、中空糸内部よりアルガトロバンが放出され、トロンビンを阻害していることが示された。
図1は、完成したバンドルを示す写真である。 図2は、試験に使用したミニモジュールを示す写真である。 図3は、薬剤溶出試験に使用した循環回路を示す図である。 図4は、単体法での溶出アルガトロバン濃度の推移を示す。丸数字の内容は、本文の両括弧数字に対応して記載されている。 図5は、脂肪乳剤法での溶出アルガトロバン濃度の推移を示す。丸数字の内容は、本文の両括弧数字に対応して記載されている。 図6は、高分子法1)での溶出アルガトロバン濃度の推移を示す。丸数字の内容は、本文の両括弧数字に対応して記載されている。 図7は、高分子法2)での溶出アルガトロバン濃度の推移を示す。丸数字の内容は、本文の両括弧数字に対応して記載されている。 図8は、アルガトロバンの溶出曲線とその近似式を示す。 図9は、TAT産生量のアルガトロバン濃度依存性を示す。“pre”は、採血直後の全血である。

Claims (9)

  1. 中空糸膜の微細孔が水溶性高分子物質で充填されており、その中空糸膜にさらに化学物質が担持されていることを特徴とする化学物質徐放性の中空糸膜体。
  2. 脈管に対して用いられる医療用デバイスである、請求項1に記載の中空糸膜体。
  3. 脈管の周囲を覆う保護体の形状をなしていることを特徴とする請求項1または2に記載
    の中空糸膜体。
  4. 前記の保護体の形状が、内径としてμm〜mmのオーダーにある管状であることを特徴とする、請求項3に記載の中空糸膜体。
  5. 前記水溶性高分子物質の分子量が、中空糸膜の分画分子量よりも大きいことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜体。
  6. 前記の水溶性高分子物質がアルブミンまたはヒアルロン酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸膜体。
  7. 前記化学物質が抗血液凝固剤である、請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜体。
  8. 中空糸膜に水溶性高分子物質溶液を浸透させることにより、該中空糸膜が有する微細孔をその水溶性高分子物質で充填し、その後に該中空糸膜に化学物質溶液を含浸させて中空糸膜に化学物質を担持させることを含む、化学物質徐放性の中空糸膜体の製造方法。
  9. 化学物質を中空糸膜体に担持させるために水溶性高分子物質をその中空糸膜体の微細孔に充填して中空糸膜体内に該化学物質を封止させた中空糸膜体において、該中空糸膜体が水性環境内に留置されると、該化学物質が膜体の外部に徐々に放出されることを特徴とする、中空糸膜体からの化学物質の徐放制御方法。
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