JP2008076297A - アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法および耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】評価対象となるアルミニウム合金材試験片を、所定割合の応力を負荷させた、C リング試験片とし、30℃でpH10に調整した5.8 質量%NaCl 水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定し、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配によって耐応力腐食割れ性を評価し、6000系アルミニウム合金鍛造材では、この電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2以下を耐応力腐食割れ性が優れるものとする。
【選択図】図4
Description
この図1では、評価対象となるアルミニウム合金材で作製したCリング型試験片に、所定割合の応力を負荷させてアノード電極とし、アノード分極曲線を測定する態様を示している。
以上のような装置構成において、照合電極5 に対する電圧 (電位) を0Vから経時的に増加させることによって、評価対象となるアルミニウム合金材の試験片3は、電解作用を受けて電流が生じる。この電解作用は、前記実際のアルミニウム合金材の使用環境における、応力腐食割れと同様の挙動である。
この際、電位を増加させる速度 (電位送り速度) は20A/cm2 〜100mA/cm2 の範囲とすることが好ましい。電位送り速度は、より好ましくは30A/cm2 〜80mA/cm2の範囲とする。上記電流/ 電位の勾配測定において、電位送り速度が大きすぎると、試験片の溶解反応が電位変化に追いつかなくなる。このため、正確な電位- 電流の関係が得られない。また、反対に、電位を増加させる速度 (電位送り速度) が小さすぎると、測定に要する時間が長くなり、腐食生成物の堆積によって、上記溶解反応が緩和してしまい、やはり正確な電位- 電流の関係が得られなくなる。
(応力負荷試験片)
負荷応力を作用させる試験片3 は、図3 に示すように、JIS H8711の付属書5 に記載されている外径19mmのCリング試験片とし、負荷応力は、ボルト6 の締め付けにより、定ひずみ条件で負荷するものとする。負荷応力は、試験片3 の最大応力点(頂点)における応力値を意味し、外側の面の頂点部にひずみゲージを貼り付けて、ボルト6 の締め付けにより負荷応力を制御することが好ましい。
この負荷応力は、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性と対応、相関させ、かつ、測定に再現性を持たせるために、測定の際には、アルミニウム合金材の0.2%耐力値に対する同じ割合の (同じ、一定割合の) 負荷応力とする。この負荷応力は、より良く相関させるために、アルミニウム合金材の使用環境 (用途) で負荷される応力に応じて、これと同等に決定することが好ましい。
アノード分極曲線の測定に用いる試験溶液2 は、NaOHによりpHを10(±0.2 )に調整した、5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液とする。ウォーターバスなどにより、このNaCl水溶液温度を30℃に調整し、大気開放条件にて測定を行う。比液量は試験片1 個当たり300mL 以上とする。
上記本発明アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法は、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系、などの種々のアルミニウム合金を対象にし、かつ、これらアルミニウム合金の鍛造材、圧延材、押出材などの展伸材を対象にすることができる。
ただ、これらアルミニウム合金材の中でも、応力腐食割れ発生条件が多く、使用環境 (用途) が厳しくて、耐応力腐食割れ性がより求められる、自動車構造部材(パネル、形材、鍛造品)としてのAl-Mg-Si系(60000 系)Al合金材に適用されて好ましい。また、この中でも、負荷される応力が高く、しかも塩水環境下に曝されるなど、使用環境での応力腐食割れ発生条件が多く、かつ、より耐応力腐食割れ性が厳しく求められる、自動車などの足回り部材(保安部品、サスペンションアームなど)としての、Al-Mg-Si系Al合金鍛造材に適用されて好ましい。
次に、本発明Al合金鍛造材の上記各元素の含有量について、臨界的意義や好ましい範囲について以下に説明する。
Mgは人工時効により、SiとともにMg2Si(β' 相) として析出し、最終製品使用時の高強度 (耐力) を付与するために必須の元素である。Mgの0.30% 未満の含有では時効硬化量が低下する。一方、5.0%を越えて含有されると、強度 (耐力) が高くなりすぎ、鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMg2Si が析出しやすくなり、耐食性や靱性を低下させる。したがって、Mgの含有量は0.30〜5.0%の範囲、好ましくは0.45〜4.0%の範囲、更に好ましくは0.6 〜3.0%の範囲とする。
SiもMgとともに、人工時効処理により、Mg2Si(β' 相) として析出して、最終製品使用時の高強度 (耐力) を付与するために必須の元素である。Siの0.20% 未満の含有では人工時効で十分な強度が得られない。一方、2.0%を越えて含有されると、鋳造時および溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出および析出して、前記した通り、耐食性と靱性を低下させる。更に伸びが低くなるなど、加工性も阻害する。したがって、Siの含有量は0.20〜2.0%の範囲とし、この範囲の中でも、Mg含有量との関係で、できるだけ過剰Siは少なくするこのが好ましい。
Crは均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al12Mg2Cr 、Al-Cr 系などの分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。この結晶粒の微細化、亜結晶粒化は、破壊靱性や疲労特性などの向上効果が大きい。Cr含有量が少なすぎると、これらの効果が期待できず、一方、Crの過剰な含有は溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり、靱性や疲労特性を低下させる原因となる。したがって、高靱性や高疲労特性を得ることができない。このため、Crの含有量は0.01〜2.0%の範囲とする。
Cu は固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果も有し、高強度化に必須である。しかし、Cuは、Al合金鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、Al合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。したがって、本発明では、これらの観点からCu含有量を0.01〜2.0%の範囲、好ましくは0.05〜1.5%の範囲、更に好ましくは0.10〜1.0%の範囲とする。
Mnは均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al20Cu2Mn3などのAl-Mn 系の分散粒子を生成し、この分散粒子により、再結晶後の粒界移動を妨げ、微細な結晶粒を得る効果がある。そして、固溶による強度およびヤング率の増大も見込める。しかし、Mnは、一方では、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の晶析出物を生成するため、Mnの含有量が多いと、耐食性と靱性を低下させる。したがって、本発明では、これらの観点からMn含有量を0.01〜1.0%の範囲、好ましくは0.02〜0.8%の範囲、更に好ましくは0.03〜0.6%の範囲とする。
Al合金に含まれるFeは、結晶粒を微細化させる効果があり、高強度化に有効である。しかし、Feは、一方では、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6、或いは粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の晶析出物を生成する。これらの晶析出物は、破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。したがって、本発明では、これらの観点からFe含有量を0.01〜1.0%の範囲、好ましくは0.02〜0.3%の範囲とする。特に、Feの含有量を0.30% 以下、より厳密には0.25% 以下とすることで、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは、1.0%以下とでき、輸送機の構造材などに要求される、より高強度で高靱性を得ることができる。
Zn は人工時効時において、MgZn2 を微細かつ高密度に析出させ高い強度を実現させる。また、固溶したZnは粒内の電位を下げ、腐食形態を粒界からではなく、全面的な腐食として、粒界腐食や応力腐食割れを結果として軽減する効果が期待できる。Znの0.005%未満の含有では人工時効で十分な強度が得られず、前記耐食性の向上効果もない。一方、10.0% を越えて含有されると、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量は0.005 〜10.0% の範囲とする。
Tiは鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、Tiの0.001%未満の含有では、加工性向上の効果が得られず、一方、Tiを0.5%を越えて含有すると、粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、Tiの含有量は0.001 〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
B はTiと同様、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、B の0.0001% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、0.05% を越えて含有されると、やはり粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、B の含有量は0.0001〜0.05% の範囲とすることが好ましい。
Nbも、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、やはり粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、Nbの含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
V は、Mn、Cr、Zr系などと同様に、均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、の分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、溶解、鋳造時に、やはりAl-Fe-Si-V系の粗大な金属間化合物や晶析出物を形成し、破壊の起点となって、靱性を低下させる。したがって、V の含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
Zrも、均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、微細なAl-Zr 系などの分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、溶解、鋳造時に、粗大な金属間化合物や晶析出物を形成し、破壊の起点となって、靱性を低下させる。したがって、Zrの含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
次に、本発明におけるAl合金材は常法にしたがって製造できるが、特に鍛造材の好ましい製造方法について以下に説明する。Al合金鍛造材の製造自体も常法により可能であるが、前記足回り部品などとして必要な、強度、靱性、耐蝕性などの要求特性を得るための好ましい条件について以下に説明する。
これら製造したAl合金鍛造材の機械的な性質、引張強度 (σB 、MPa)、耐力 (σ0.2 、MPa)、伸び (δ、%)を、板厚方向と直角な方向を長手方向とするJIS 5 号引張試験片を採取し、JIS Z 2201にしたがって測定した。クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。各サンプルについて3回の試験を行い、その平均値を採用した。
前記各アルミニウム合金鍛造材から試験片を採取し、前記図3 のCリング試験片に加工し、ボルト締め付けにより、このアルミニウム合金鍛造材の0.2%耐力値に対する表 2に示す各割合(%) の応力を負荷した試験片をCリング型アノード電極試験片3 として準備した。この試験片では頂点(応力最大点)を挟んで幅10mm以外はシリコンシーラントで被覆し、ボルト・ナットなどが露出して電解されないようにした。
更に、この電位差と、応力腐食割れとの関係をみるために、前記各Al合金鍛造材から採取した試験片 (前記電位差測定試験片採取位置と隣接する部位から採取した試験片) を、応力腐食割れ性評価試験として汎用されている、JISH8711に記載されている交互浸漬試験法により、応力腐食割れ性を評価した。
5:照合電極、6:分極測定装置
Claims (4)
- アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法であって、評価対象となるアルミニウム合金材試験片に所定の応力を負荷させた状態において、温度30℃、pH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定し、この測定されたアノード分極曲線の電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における電流/ 電位の平均勾配によって、このアルミニウム合金材の耐応力腐食割れを評価することを特徴とするアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法。
- 請求項1の評価方法によって耐応力腐食割れ性が評価されたAl-Mg-Si系アルミニウム合金材であって、このアルミニウム合金材の0.2%耐力値の80% の応力がこのアルミニウム合金材試験片に負荷された状態において、3 電極法により測定された、温度30℃、pH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中でのアノード分極曲線における、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2以下であることを特徴とする、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材。
- 前記Al-Mg-Si系アルミニウム合金材が、質量% にて、Mg:0.30 〜5.0%、Si:0.20 〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%、Mn:0.01 〜1.0%、Fe:0.01 〜1.0%、Cr:0.01 〜2.0%、Zn:0.005〜10.0% を各々含み、残部Alおよび不可避的不純物からなる鍛造材である請求項2に記載の耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材。
- 前記Al-Mg-Si系アルミニウム合金鍛造材が、更に、質量% にて、Ti:0.001〜0.5%、B:0.0001〜0.05% 、Nb:0.01 〜1.0%、Zr:0.01 〜1.0%、V:0.01〜1.0%から選択される1 種または2 種以上を含有する請求項3に記載の耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材。
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