JP4690279B2 - アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法 - Google Patents

アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法に関する。そして、実際の耐応力腐食割れ性試験結果と良く対応するとともに、実際の耐応力腐食割れ性試験よりもごく短期間で試験できる耐応力腐食割れ性の評価方法に関するものである。以下、アルミニウムをAlとも言う。
応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking)は、環境の腐食作用と負荷される応力の機械的作用とが重畳されて、金属材料が破壊に至る現象である。応力腐食割れは、金属材料、環境及び応力の三者がある特定の条件を満足する時に発生するものであり、様々な組み合わせで発生することが知られている。
応力腐食割れは、その作用応力が金属材料の強度(=実環境ではなく実験室などで通常評価される破壊の限界)以下であっても発生する。従って、構造材の設計強度を定める場合には、応力腐食割れの限界応力を正確に把握する必要があり、その特性評価技術は実用上極めて重要である。また、金属材料の応力腐食割れの抑止策を講じる材料開発の場合にも、応力腐食割れの、短期間で実験室的な特性評価技術が必要不可欠である。
応力腐食割れの試験方法としては、定荷重法や定ひずみ法などが知られており、JISやASTM(American Society for Testing Material )などで規格化されている。例えば、アルミニウム合金の応力腐食割れ試験方法はJIS H8711に規格されている。
一方で、周知の通り、車両、船舶、航空機、自動二輪あるいは自動車などの輸送機の構造材乃至部品用として、JIS 6000系(Al-Mg-Si 系) などのAl合金が使用されている。このJIS 6000系Al合金は、比較的高強度で、耐食性にも優れており、また、スクラップをJIS 6000系Al合金溶解原料として再利用できるリサイクル性の点からも優れている。
ただ、これらアルミニウム合金鍛造材を高強度化する場合、通常、過剰Siを多くしたり、あるいはCuのような高強度化元素を添加する。しかし、このように、過剰Si量を多くしたり、Cuのような高強度化元素を含んだ場合には、Al合金鍛造材の組織の、粒界腐食や応力腐食割れの感受性が著しく高くなり、耐食性が低下するという、別の問題が生じる。そして、この耐食性低下の問題は、構造材としての基本的要求特性である耐久性や信頼性にかかわる問題として重大となる。
前記輸送機などの構造材では、構成がAl合金鍛造材だけではなく、Al合金よりも貴な他の鉄などの金属材料と組み合わせたり、接合されて用いられることも多い。また、使用環境としても、海水や塩水を含み、氷点下以下の低温から真夏の高温までの、厳しい塩水腐食環境下となる。
したがって、このような使用環境下にあっても、また、前記した通り、自身が高強度化された場合でも、耐応力腐食性に優れるという要求特性および技術的課題が、Al合金鍛造材にはある。
この課題に対して、特定組成の6000系アルミニウム合金鍛造材として、組織の粒界上に存在する晶析出物サイズなどを制御するとともに、更に、このアルミニウム合金鍛造材をアノードとし、30℃で5 % 濃度のNaCl水溶液中において、100 μA/cm2 で30分間直流電解後に測定されるアルミニウム合金鍛造材の自然電位の最低値を特定値以上とした技術が提案されている(特許文献1参照)。
また、6000系アルミニウム合金鍛造材の耐応力腐食性評価方法として、このアルミニウム合金鍛造材をアノードとし、1 〜10% 濃度のNaCl水溶液中において、10〜1000μA/cm2 で10〜60分間直流電解後に測定されるアルミニウム合金鍛造材の自然電位の値により評価することも提案されている(特許文献2参照)。
特開2002−294382号公報 (全文) 特開2001−99812号公報 (全文)
上記特許文献1や2におけるAl合金鍛造材の自然電位を用いた耐応力腐食割れの簡易評価方法は、輸送機の構造材の海水などの塩水腐食環境下を模擬したNaCl水溶液中において、まず、Al合金鍛造材の直流電解による強制的なエッチングを行い、しかる後に、このNaCl水溶液中におけるAl合金鍛造材の自然電位の経時変化を測定して、自然電位の最低値を測定するものである。
これら自然電位を用いた耐応力腐食割れの簡易評価方法は、実際の耐応力腐食割れ性試験よりもごく短期間で試験でき、測定自然電位の傾向は、実際の耐応力腐食割れ性の傾向と良く対応している。
これら自然電位を用いた耐応力腐食割れの簡易評価方法は、ただ、実際の6000系アルミニウム合金鍛造材の耐応力腐食割れ性挙動との対応について、より改善すべき点もある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなしたものであって、その目的は、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性挙動との対応につき、より改善された評価方法を提供するものである。
上記の目的を達成するために、本発明の要旨は、アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法であって、評価対象となるアルミニウム合金材試験片に所定の応力を負荷させた状態において、温度30℃、pH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定し、この測定されたアノード分極曲線の電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2 以下であることによって、このアルミニウム合金材の耐応力腐食割れが優れていると評価することである。
本発明は、前提として、上記特許文献1や2におけるアルミニウム合金鍛造材の塩水腐食環境下を模擬したNaCl水溶液中における自然電位測定を用いた耐応力腐食割れの評価方法を踏襲する。
但し、本発明では、この自然電位測定に際し、負荷応力を作用させたアルミニウム合金材試験片をアノードとした3 電極法により測定するとともに、上記特定電流密度範囲における、アノード分極曲線の勾配、即ち電流/ 電位の平均勾配によって耐応力腐食割れを評価することが特徴的である。
これによって、本発明は、上記特許文献1や2における耐応力腐食割れの評価方法と同様に、短期間での耐応力腐食割れ性評価や、耐応力腐食割れ性向上のための構造物設計や材料開発の迅速化が可能となる。
また、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性挙動との対応につき、より対応や相関ある、改善された評価方法、およびこの評価方法で評価された耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金鍛造材を提供できる。
以下、本発明の実施形態に係る耐応力腐食割れ性評価方法を図面を参照して説明する。図1は、本発明評価方法に用いる測定装置の概念図である。
(測定装置)
この図1では、評価対象となるアルミニウム合金材で作製したCリング型試験片に、所定割合の応力を負荷させてアノード電極とし、アノード分極曲線を測定する態様を示している。
図1において、1は容器、2は容器内に充填されたNaCl水溶液である。3は応力を負荷した評価対象となるアルミニウム合金材のCリング型アノード電極試験片、4は対極となるカソード電極である。5は照合電極、6 は分極曲線測定装置である。これら電極3 、4 、5 は、いずれもNaCl水溶液2内に浸漬される。
1の容器は、ガラス容器やポリ容器など、NaCl水溶液に侵されにくい材質のものを選択する。また、ウオーターバスや投げ込みヒータなどを用いてNaCl水溶液の温度調節を行う。4のカソード電極には、白金板やカーボンなど、通常の電気化学測定に用いられる対極が使用できる。対極4の面積は1cm2以上とする。照合電極5 は、銀/ 塩化銀電極や、飽和カロメル電極などの、通常の電気化学測定に用いられる電極が使用できる。また、照合電極5 は、NaCl水溶液に侵されにくくするために、塩橋を介して、NaCl水溶液を満たした容器2 とは別の容器に浸漬して用いてもよい。
分極曲線測定装置6 は、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータなどの、通常の分極曲線測定装置を、単独あるいは組み合わせて用いることができる。得られた電位および電流値( 電流密度) はパーソナルコンピュータやデータロガーなどで収集することが可能である。
(電流/ 電位の勾配測定)
以上のような装置構成において、照合電極5 に対する電圧 (電位) を0Vから経時的に増加させることによって、評価対象となるアルミニウム合金材の試験片3は、電解作用を受けて電流が生じる。この電解作用は、前記実際のアルミニウム合金材の使用環境における、応力腐食割れと同様の挙動である。
試験片3の粒界腐食や応力腐食割れの感受性が高い場合、試験片3の腐食の先端部分では、腐食溶解したAlイオンの加水分解などによって、水素イオン生成が顕著であり、かつClイオンの濃縮も顕著となることによって、試験片3の溶解速度を表す電流密度の電位に対する増加が著しくなるという現象が生じる。
本発明では、この電流増加現象を、動電位法でとらえ、応力腐食割れ性に対する感受性として、応力を負荷させたCリング型アノード電極試験片(評価対象アルミニウム合金材試験片)3の電流密度が1mA/cm2 〜10mA/cm2の範囲における、電流/ 電位の勾配 (電位- 電流曲線の勾配) でとらえる。
(電位送り速度)
この際、電位を増加させる速度 (電位送り速度) は20A/cm2 〜100mA/cm2 の範囲とすることが好ましい。電位送り速度は、より好ましくは30A/cm2 〜80mA/cm2の範囲とする。上記電流/ 電位の勾配測定において、電位送り速度が大きすぎると、試験片の溶解反応が電位変化に追いつかなくなる。このため、正確な電位- 電流の関係が得られない。また、反対に、電位を増加させる速度 (電位送り速度) が小さすぎると、測定に要する時間が長くなり、腐食生成物の堆積によって、上記溶解反応が緩和してしまい、やはり正確な電位- 電流の関係が得られなくなる。
図2に、これらのアルミニウム合金材試験片をアノードとした3 電極法により、温度30℃、pH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中において、直流電解した際のアノード分極曲線 (電位- 電流曲線) を動電位法で測定した1 例を示す。この例では電位送り速度を50A/cm2 としている。
この図2において、アルミニウム合金材A は、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配は比較的緩く350 Ω -1 ・m -2以下である。これに対して、アルミニウム合金材B は、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配は比較的きつく350 Ω -1 ・m -2を超えている。したがって、アルミニウム合金材A は応力腐食割れに対する感受性が小さく、アルミニウム合金材B は応力腐食割れに対する感受性が大きい。
即ち、電流/ 電位の勾配 (アノード分極曲線の勾配、電位- 電流曲線の勾配とも言う) が大きいほど、応力腐食割れ性に対する感受性が高く、耐応力腐食割れ性が劣ると言える。一方、電流/ 電位の勾配 (電位- 電流曲線の勾配) が小さいほど、応力腐食割れ性に対する感受性が低く、耐応力腐食割れ性が優れると言える。
言い換えると、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配は比較的緩く350 Ω -1 ・m -2以下であれば、実環境での腐食先端における、水素イオン発生やClイオン濃縮による、粒界腐食や粒界割れの促進は起こりがたく、評価試験片の3 の耐応力腐食割れ性が優れている。
このように、本発明では応力腐食割れに起因するアルミニウム合金材の電流増加挙動の傾向をよく捉えている (反映している) 測定条件となっているために、上記試験片3の電流/ 電位の勾配 (アノード分極曲線の勾配、電位- 電流曲線の勾配) が、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性と良く対応している。
なお、耐応力腐食割れ性評価の基準値となる、この電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配は、アルミニウム合金としての成分組成(合金元素の種類と含有量)や、組織(晶出物や析出物の粒界や粒内での大きさ、個数、あるいは結晶粒径など)によって大きく異なる。この結果、評価対象アルミニウム合金材の合金の種類や、展伸材の種類、あるいは、同じ合金の種類や展伸材の種類であっても、その製造条件の違いなどによって、大きく異なる。
これに対して、同じAl-Mg-Si系(6000 系) アルミニウム合金材の場合は、鍛造材を含めて、この電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配は、比較的緩い、350 Ω -1 ・m -2以下であれば、実環境での腐食先端における、水素イオン発生やClイオン濃縮による、粒界腐食や粒界割れの促進は起こりがたく、評価試験片の3 の耐応力腐食割れ性が優れている。一方、この電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配が、比較的きつい350 Ω -1 ・m -2を超えた場合には、応力腐食割れ感受性が高く、耐応力腐食割れ性に劣る。
以下、アノード分極曲線の具体的測定方法について説明する。
(応力負荷試験片)
負荷応力を作用させる試験片3 は、図3 に示すように、JIS H8711の付属書5 に記載されている外径19mmのCリング試験片とし、負荷応力は、ボルト6 の締め付けにより、定ひずみ条件で負荷するものとする。負荷応力は、試験片3 の最大応力点(頂点)における応力値を意味し、外側の面の頂点部にひずみゲージを貼り付けて、ボルト6 の締め付けにより負荷応力を制御することが好ましい。
Cリング試験片3 の外側の面の頂点を通る線を中心線として幅5mmの領域を電極面として、電極面以外はシリコンシーラントなどで被覆するものとする。これは、負荷応力したCリング試験片3 において、実際に応力が作用している領域のみのアノード分極曲線の勾配を測定するためである。
負荷応力を作用させる試験片3 、あるいは負荷応力を作用させない試験片3 の前処理としては、再現性のために、共通して、10質量%NaOH (70℃)に15秒間浸漬し、水洗を行った後に30質量%HNO3 (30℃)に30秒間浸漬する条件とする。
(負荷応力)
この負荷応力は、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性と対応、相関させ、かつ、測定に再現性を持たせるために、測定の際には、アルミニウム合金材の0.2%耐力値に対する同じ割合の (同じ、一定割合の) 負荷応力とする。この負荷応力は、より良く相関させるために、アルミニウム合金材の使用環境 (用途) で負荷される応力に応じて、これと同等に決定することが好ましい。
この点、Al-Mg-Si系(6000 系) アルミニウム合金鍛造材の場合は、最も使用環境 (用途) で負荷される応力が高い、自動車などの足回り部材としてのサスペンションアームに合わせて、この負荷応力をアルミニウム合金材の0.2%耐力値の80% の応力とすることが好ましい。
試験片への応力負荷方法については、Cリング試験片の他にも、従来一般的に使用されているU字曲げ試験片、3点曲げ試験片、4点曲げ試験片などにボルト締め付けで所定の応力を負荷する応力付加方法があるが、再現性を考慮して、本発明ではCリング試験片に特定する。
(試験溶液)
アノード分極曲線の測定に用いる試験溶液2 は、NaOHによりpHを10(±0.2 )に調整した、5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液とする。ウォーターバスなどにより、このNaCl水溶液温度を30℃に調整し、大気開放条件にて測定を行う。比液量は試験片1 個当たり300mL 以上とする。
応力腐食割れは、前記した応力負荷と、特に塩化物イオンを含む環境で発生する場合が多い。このため、アルミニウム合金材の使用腐食環境を模擬するために、上記試験溶液2 は、再現性のために上記特定濃度としたNaCl水溶液とする。
この際、試験溶液2 のpHが低くなり過ぎると、すなわちH+ イオン濃度が高くなると、応力腐食割れ感受性の違いによるH+ イオン生成の違いが、電流勾配の違いとして現れない。このため、試験片 (アルミニウム合金材) の応力腐食割れ感受性 (応力腐食割れ特性) を正確に評価できない場合が起こり得る。一方、pHが高すぎると、逆に、全面腐食を促進したり、アルカリ脆性割れを生じて、試験片 (アルミニウム合金材) の応力腐食割れ特性を正確に評価できない場合がある。したがって、耐応力腐食割れ性の評価において、試験溶液2 のpHは中性からアルカリ性が好ましいが、本発明では、より良い再現性を考慮して、試験溶液2 のpHを10(±0.2 )に調整する。
試験溶液2 の温度は特に限定されるものではないが、室温が推奨され、本発明では、より良い再現性を考慮して、30℃とする。水溶液の温度が低すぎる場合には応力腐食割れのき裂進展が遅いので促進には不利であり、逆に、高すぎる場合には溶液の蒸発などの問題があるため、冷却を要することになる。
データ(電流、電位)の採取は1mV 当たりに1 点または1 秒当たりに1 点以上行い、電流密度が1 〜10mA/cm2に達した電位を読みとって、平均勾配を算出するものとする。また、データ(電流、電位)のばらつきを考慮すると、前記した勾配(電流、電位)の測定は5 回以上行って、平均値をとることが好ましい。
(アルミニウム合金材)
上記本発明アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法は、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系、などの種々のアルミニウム合金を対象にし、かつ、これらアルミニウム合金の鍛造材、圧延材、押出材などの展伸材を対象にすることができる。
(Al-Mg-Si系Al合金材)
ただ、これらアルミニウム合金材の中でも、応力腐食割れ発生条件が多く、使用環境 (用途) が厳しくて、耐応力腐食割れ性がより求められる、自動車構造部材(パネル、形材、鍛造品)としてのAl-Mg-Si系(60000 系)Al合金材に適用されて好ましい。また、この中でも、負荷される応力が高く、しかも塩水環境下に曝されるなど、使用環境での応力腐食割れ発生条件が多く、かつ、より耐応力腐食割れ性が厳しく求められる、自動車などの足回り部材(保安部品、サスペンションアームなど)としての、Al-Mg-Si系Al合金鍛造材に適用されて好ましい。
本発明Al-Mg-Si系Al合金材では、耐応力腐食割れ性を向上させるために、上記測定、評価方法にしたがい、このアルミニウム合金材の0.2%耐力値の80% の応力を負荷させた状態とした試験片の、温度30℃でpH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定し、このアノード分極曲線m の電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配を350 Ω -1 ・m -2以下とする。
また、本発明Al-Mg-Si系Al合金鍛造材では、上記自動車足回り部材としての必要強度や靱性などの基本要求特性を満足した上で、耐応力腐食割れ性を向上させるために、以下の成分組成とすることが好ましい。
即ち、本発明Al-Mg-Si系Al合金鍛造材としては、質量% にて、Mg:0.30 〜5.0%、Si:0.20 〜2.0%、Cu:0.01 〜2.0%、Mn:0.01 〜1.0%、Fe:0.01 〜1.0%、Cr:0.01 〜2.0%、Zn:0.005〜10.0% を各々含み、残部Alおよび不可避的不純物からなるものとする。また、このAl-Mg-Si系アルミニウム合金鍛造材は、更に、結晶粒の微細化のために、質量% にて、Ti:0.001〜0.5%、B:0.0001〜0.05% 、Nb:0.01 〜1.0%、Zr:0.01 〜1.0%、V:0.01〜1.0%から選択される1 種または2 種以上を含有してもよい。
(各元素量)
次に、本発明Al合金鍛造材の上記各元素の含有量について、臨界的意義や好ましい範囲について以下に説明する。
Mg:0.30 〜5.0%
Mgは人工時効により、SiとともにMg2Si(β' 相) として析出し、最終製品使用時の高強度 (耐力) を付与するために必須の元素である。Mgの0.30% 未満の含有では時効硬化量が低下する。一方、5.0%を越えて含有されると、強度 (耐力) が高くなりすぎ、鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMg2Si が析出しやすくなり、耐食性や靱性を低下させる。したがって、Mgの含有量は0.30〜5.0%の範囲、好ましくは0.45〜4.0%の範囲、更に好ましくは0.6 〜3.0%の範囲とする。
Si:0.20 〜2.0%
SiもMgとともに、人工時効処理により、Mg2Si(β' 相) として析出して、最終製品使用時の高強度 (耐力) を付与するために必須の元素である。Siの0.20% 未満の含有では人工時効で十分な強度が得られない。一方、2.0%を越えて含有されると、鋳造時および溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出および析出して、前記した通り、耐食性と靱性を低下させる。更に伸びが低くなるなど、加工性も阻害する。したがって、Siの含有量は0.20〜2.0%の範囲とし、この範囲の中でも、Mg含有量との関係で、できるだけ過剰Siは少なくするこのが好ましい。
Cr:0.01〜2.0%
Crは均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al12Mg2Cr 、Al-Cr 系などの分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。この結晶粒の微細化、亜結晶粒化は、破壊靱性や疲労特性などの向上効果が大きい。Cr含有量が少なすぎると、これらの効果が期待できず、一方、Crの過剰な含有は溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の金属間化合物や晶析出物を生成しやすく、破壊の起点となり、靱性や疲労特性を低下させる原因となる。したがって、高靱性や高疲労特性を得ることができない。このため、Crの含有量は0.01〜2.0%の範囲とする。
Cu:0.01〜2.0%、
Cu は固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果も有し、高強度化に必須である。しかし、Cuは、Al合金鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、Al合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。したがって、本発明では、これらの観点からCu含有量を0.01〜2.0%の範囲、好ましくは0.05〜1.5%の範囲、更に好ましくは0.10〜1.0%の範囲とする。
Mn:0.01〜1.0%
Mnは均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al20Cu2Mn3などのAl-Mn 系の分散粒子を生成し、この分散粒子により、再結晶後の粒界移動を妨げ、微細な結晶粒を得る効果がある。そして、固溶による強度およびヤング率の増大も見込める。しかし、Mnは、一方では、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の晶析出物を生成するため、Mnの含有量が多いと、耐食性と靱性を低下させる。したがって、本発明では、これらの観点からMn含有量を0.01〜1.0%の範囲、好ましくは0.02〜0.8%の範囲、更に好ましくは0.03〜0.6%の範囲とする。
Fe:0.01 〜1.0%
Al合金に含まれるFeは、結晶粒を微細化させる効果があり、高強度化に有効である。しかし、Feは、一方では、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2 、(Fe,Mn)Al6、或いは粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系の晶析出物を生成する。これらの晶析出物は、破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。したがって、本発明では、これらの観点からFe含有量を0.01〜1.0%の範囲、好ましくは0.02〜0.3%の範囲とする。特に、Feの含有量を0.30% 以下、より厳密には0.25% 以下とすることで、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは、1.0%以下とでき、輸送機の構造材などに要求される、より高強度で高靱性を得ることができる。
Zn:0.005 〜10.0%
Zn は人工時効時において、MgZn2 を微細かつ高密度に析出させ高い強度を実現させる。また、固溶したZnは粒内の電位を下げ、腐食形態を粒界からではなく、全面的な腐食として、粒界腐食や応力腐食割れを結果として軽減する効果が期待できる。Znの0.005%未満の含有では人工時効で十分な強度が得られず、前記耐食性の向上効果もない。一方、10.0% を越えて含有されると、耐蝕性が顕著に低下する。したがって、Znの含有量は0.005 〜10.0% の範囲とする。
これ以外の元素として、結晶粒の微細化のために、Ti、B 、Nb、Zr、V から選択される一種または二種以上を選択的に含有してもよい。
Ti:0.001〜0.5%。
Tiは鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、Tiの0.001%未満の含有では、加工性向上の効果が得られず、一方、Tiを0.5%を越えて含有すると、粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、Tiの含有量は0.001 〜0.5%の範囲とすることが好ましい。
B:0.0001〜0.05%
B はTiと同様、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、B の0.0001% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、0.05% を越えて含有されると、やはり粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、B の含有量は0.0001〜0.05% の範囲とすることが好ましい。
Nb:0.01 〜1.0%
Nbも、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、やはり粗大な晶析出物を形成し、前記加工性を低下させる。したがって、Nbの含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
V:0.01〜1.0%
V は、Mn、Cr、Zr系などと同様に、均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、の分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、溶解、鋳造時に、やはりAl-Fe-Si-V系の粗大な金属間化合物や晶析出物を形成し、破壊の起点となって、靱性を低下させる。したがって、V の含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
Zr:0.01 〜1.0%、
Zrも、均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、微細なAl-Zr 系などの分散粒子 (分散相) を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。0.01% 未満の含有では、この効果が得られず、一方、1.0%を越えて含有されると、溶解、鋳造時に、粗大な金属間化合物や晶析出物を形成し、破壊の起点となって、靱性を低下させる。したがって、Zrの含有量は0.01〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
(Al合金鍛造材の製造方法)
次に、本発明におけるAl合金材は常法にしたがって製造できるが、特に鍛造材の好ましい製造方法について以下に説明する。Al合金鍛造材の製造自体も常法により可能であるが、前記足回り部品などとして必要な、強度、靱性、耐蝕性などの要求特性を得るための好ましい条件について以下に説明する。
まず、前記Al合金成分範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を鋳造する場合には、例えば、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)、ホットトップ鋳造法等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
ここで、Al合金鋳塊の結晶粒を微細化し、かつ、粒界上に存在するAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物を制御するためには、Al合金溶湯を、15℃/sec以上の冷却速度で鋳造して鋳塊とすることが好ましい。鋳塊の冷却速度を15℃/sec以上とすることにより、Al合金鋳塊の結晶粒が微細化され、強度、靱性などの機械的な特性が向上する。一方、冷却速度が15℃/sec未満と遅いと、粒界上に存在するAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物が粗大化し、かつ結晶粒が粗大化し、鋳塊のデンドライト二次アーム間隔(DAS) が大きくなるために、強度、靱性および耐食性が低下する。
次いで、このAl合金鋳塊 (鋳造材) の均質化熱処理温度は500 〜 560℃の温度範囲とすることが好ましい。この種Al合金鋳造材の通常の均質化熱処理温度は、通常は480 〜580 ℃程度であるが、本発明では、耐食性および靱性の向上のために、均質化熱処理時に、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物を十分に固溶させ、調質処理後の鍛造材の組織の粒界上に存在するMg2Si やAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物を微細化させることが好ましい。
このためには、前記500 〜 560℃の高温での均質化熱処理が必要で、均質化熱処理温度が500 ℃未満の温度では、Al-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物が十分に固溶せず、調質処理後の鍛造材の組織の粒界上に存在するMg2Si やAl-Fe-Si-(Mn、Cr、Zr) 系晶析出物が粗大化する。一方、均質化熱処理温度が560 ℃を越えると、却って、Al合金鋳塊 (鋳造材) にバーニング (溶損) 等が生じ、熱間加工時に割れが生じやすくなる。また、最終鍛造材の靱性や疲労特性等の機械的特性を著しく低下させる可能性がある。
均質化熱処理の後に、型鍛造により熱間鍛造して、前記足回り部品など最終製品形状( ニアネットシェイプ) のAl合金鍛造材に成形する。そして、鍛造後、必要な強度および靱性、耐食性を得るためのT6 (溶体化処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理) 、T7 (溶体化処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理条件を超えて過剰時効処理) 、T8 (溶体化処理後、冷間加工を行い、更に最大強さを得る人工時効硬化処理) 等の調質処理を適宜行う。また、均質化熱処理、溶体化処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉などが適宜用いられる。更に、人工時効硬化処理には、空気炉、誘導加熱炉、オイルバスなどが適宜用いられる。
前記調質処理における最大強さを得る人工時効硬化処理の温度は175 〜200 ℃の範囲、好ましくは180 〜195 ℃の範囲とする。この温度が低くすぎると、必要強度を得るための処理時間が長くなり、応力腐食割れ性が低下する。一方、この温度が高すぎると、析出物が粗大化して強度が低下する。
以下、本発明の実施例を説明する。表1 に示す成分組成の6000系Al合金鋳塊を、ホットトップ鋳造法により、表2 に記載した各冷却速度により鋳造した。この鋳塊を表2 に記載した各温度で8 時間均質化熱処理を施し、再加熱後、メカニカル鍛造により熱間鍛造し、厚さ20mmの板状のAl合金鍛造材を製造した。この鍛造材を空気炉を用いて、加熱速度300 ℃/hr で昇温し、共通して540 ℃で1 時間の溶体化処理した後水冷 (水焼入れ) を行い、その後室温(20 〜30℃) で1 時間放置したのち、表2 に記載した各温度で8 時間の時効処理(T6 処理) を行った。
(機械的特性測定)
これら製造したAl合金鍛造材の機械的な性質、引張強度 (σB 、MPa)、耐力 (σ0.2 、MPa)、伸び (δ、%)を、板厚方向と直角な方向を長手方向とするJIS 5 号引張試験片を採取し、JIS Z 2201にしたがって測定した。クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。各サンプルについて3回の試験を行い、その平均値を採用した。
(電流/ 電位の平均勾配測定)
前記各アルミニウム合金鍛造材から試験片を採取し、前記図3 のCリング試験片に加工し、ボルト締め付けにより、このアルミニウム合金鍛造材の0.2%耐力値に対する表 2に示す各割合(%) の応力を負荷した試験片をCリング型アノード電極試験片3 として準備した。この試験片では頂点(応力最大点)を挟んで幅10mm以外はシリコンシーラントで被覆し、ボルト・ナットなどが露出して電解されないようにした。
これら試験片を、共通して、前記した条件で前処理し、図1 で示した装置を用い、表 2に示す各応力 (割合:%) を負荷させた各Cリング型アノード電極試験片3 をNaCl水溶液 (試験水溶液) に浸漬した。NaCl水溶液の各温度と各pH条件を表 2に示す。そして、各Cリング型アノード電極試験片3 のアノード分極曲線を3 電極法により測定し、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配( Ω -1 ・m -2) を測定した。この際の電位送り速度は50mV/minとした。
試験溶液条件は、表 2の例1 〜例13までは、本発明の条件である、30℃でpH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液とした。これに対して、表 2の例16〜例19までは、温度とpHとを本発明の条件から敢えて外した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液として、応力腐食割れとの相関関係を比較した。また、表 2の例14、15は、アルミニウム合金鍛造材の0.2%耐力値の60% 、40% という比較的低い応力を負荷し、応力腐食割れとの相関関係を比較した。
( 応力腐食割れ性評価)
更に、この電位差と、応力腐食割れとの関係をみるために、前記各Al合金鍛造材から採取した試験片 (前記電位差測定試験片採取位置と隣接する部位から採取した試験片) を、応力腐食割れ性評価試験として汎用されている、JISH8711に記載されている交互浸漬試験法により、応力腐食割れ性を評価した。
この交互浸漬試験法は、3.5 質量% 濃度のNaCl水溶液(pH6.8 、25℃)に10分間浸漬した後に取り出して、温度25℃、湿度50%RH の恒温恒湿雰囲気下で50分保持して乾燥させる工程を繰り返した。そして、1 回/1日の試験片表面観察によって、応力腐食割れが発生するまでの日数 (時間) を測定した。30日以内に応力腐食割れが発生したものを×、31日〜90日の間に応力腐食割れが発生したものを△、91〜180 日の間に応力腐食割れが発生したものを○、181 日以上応力腐食割れが発生しなかったものを◎と評価した。これらの結果を表2 に示す。
図4 に、上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配( Ω -1 ・m -2) と、交互浸漬試験法による応力腐食割れ性評価結果との関係を示す。図4 において、縦軸が応力腐食割れ発生までの日数、横軸が電流/ 電位の平均勾配( Ω -1 ・m -2) であり、縦に引いた線が電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2の箇所である。なお、図4 において、表2 の例1 、2 の上への矢印は、例1 、2 の応力腐食割れ発生までの日数が縦軸にプロットできないほど多いことを示す。
図4 から明らかな通り、本発明試験条件内で測定した電流/ 電位の平均勾配は、表 2の例1 〜13までの応力腐食割れ発生までの日数と、良く対応 (相関) している。
これに対して、表 2の例14、15は、表 2の例10と、鍛造材の合金組成、製造条件は同じだが、上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配の測定条件のみが異なる。即ち、試験片 (電極3)への応力負荷のみを変更し、アルミニウム合金鍛造材の0.2%耐力値の60% 、40% という比較的低い応力を負荷している。
このため、表 2の例10のように、実際の鍛造材の応力腐食割れ性は低いにもかかわらず、表 2の例14、15の上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配は、350 Ω -1 ・m -2以下であり、本発明範囲を満たしている。したがって、実際の耐応力腐食割れ性と、上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配の傾向とが相関しておらず、評価方法として使用できない。
一方、表 2の例16〜例19は、温度とpHとを本発明の条件から敢えて外した5.8 質量%NaCl 水溶液としている。この結果、応力腐食割れとの相関関係は、温度とpHが本発明条件範囲内の例3 と同じであるものの、上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配は、互いに、また、例3 とも微妙に異なる。
したがって、これらの結果から、上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配による、耐応力腐食割れ評価の有効性が分かる。また、アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配の各測定条件の、測定の再現性のための意義が分かる。
更に、表2 の例1 〜8 は、本発明鍛造材の成分組成範囲内 (表1 の合金番号A 〜H)で、かつ、表2 に記載の通り、前記した好ましい製造方法で製造されている。この結果、表2 の例1 〜8 は、耐応力腐食割れ性が優れており、かつ、30℃でpH10に調整した5.8 質量%NaCl 水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定した、電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における、電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2以下である。
一方、本発明鍛造材の成分組成範囲内だが、表2 に記載の通り、鋳造冷却速度が小さすぎる例9 、人工時効温度が低すぎる例10、均質化処理温度が高すぎる例11、人工時効温度が低すぎる例12は、前記電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2を超え、耐応力腐食割れ性が劣っている。なお、人工時効温度が高すぎる例13は電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2を下回り、耐応力腐食割れ性は優れているが、好ましい人工時効温度の例8に比べると強度がかなり低下しており、合金元素添加による強度向上が得られていない。
したがって、これらの結果から、本発明6000系鍛造材における上記アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配値350 Ω -1 ・m -2の、耐応力腐食割れ性に対する臨界的な意義が分かる。
Figure 0004690279
Figure 0004690279
本発明によれば、実際のアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性挙動との対応につき、より改善された評価方法およびこの評価方法で評価された耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金材を提供できる。この結果、自動車部品、部材などの用途に、6000系アルミニウム合金材の適用を拡大できる。
本発明に係るアノード分極曲線測定装置を示す概念図である。 図1の装置で測定したアノード分極曲線を示す説明図である。 アノード分極曲線測定に用いるC リング試験片 (電極) 形状を示す説明図である。 実施例における、応力腐食割れ発生までの時間と、アノード分極曲線における電流/ 電位の平均勾配値との相関関係を示す説明図である。
符号の説明
1:容器、2:NaCl水溶液、3:カソード電極(試験片)、4:対極、
5:照合電極、6:分極測定装置

Claims (1)

  1. アルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法であって、評価対象となるアルミニウム合金材試験片に所定の応力を負荷させた状態において、温度30℃、pH10に調整した5.8 質量% 濃度のNaCl水溶液中でのアノード分極曲線を3 電極法により測定し、この測定されたアノード分極曲線の電流密度が1A/cm2から10A/cm2 までの範囲における電流/ 電位の平均勾配が350 Ω -1 ・m -2 以下であることによって、このアルミニウム合金材の耐応力腐食割れが優れていると評価することを特徴とするアルミニウム合金材の耐応力腐食割れ性の評価方法。
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