JP2008072902A - 溶液受粉方法およびそれに用いる製剤 - Google Patents

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Kimietsu Ueda
仁悦 上田
Izumi Morita
泉 森田
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Abstract

【課題】 花粉の発芽率を高く維持したまま、花粉を水溶液に均一かつ安定的に分散することができる溶液受粉方法およびそれに用いる製剤を提供する。
【解決手段】 油21を用いて葯付き状態の花粉10を精製し、この油に浸漬した状態の精製花粉12に粉末活性炭などの多孔質粉粒23を混和し、この混和物14を水溶液27に分散して水性分散液18を調製し、そしてこの水性分散液18を花に散布することで、溶液受粉を行う。
【選択図】 図1

Description

本発明は、花粉を水溶液に分散させて、これを花に散布して人工受粉を行う溶液受粉方法およびそれに用いる製剤に関する。
果樹栽培をはじめとする農業一般は、生産者の高齢化や後継者不足からより一層の省力的管理技術が求められている。特に、春の受粉や摘果作業は、年間作業の約25%を占め、最も省力化が求められる部分であるが、既存の摘花、摘果剤は、結実の安定確保を優先するため、思い切った散布体系が組めない状況にある。摘花剤として登録のある石灰硫黄合剤等をより効果的に使用するためには、その前提として中心果の結実を短時間で確保する必要があり、これを可能とする栽培技術として、溶液に混合した花粉を散布により受粉させる溶液受粉の開発が研究されてきた。
非特許文献1には、キウイフルーツの花粉を、寒天により粘度をもたせた水溶液に分散させて、これをスプレー散布して人工受粉を行う溶液受粉技術が記載されている。本技術は、樹体や人体に与える影響はほとんどなく、取扱いは簡便且つ安全である。しかし、キウイフルーツでは既に実用化されているものの、それ以外の花粉では、水溶液に混入した場合、花粉が吸水により急激に膨張し、発芽力を急速に失ってしまうため、これまで成功例は報告されていない。
矢野隆,「液体増量剤を用いたキウイフルーツの人工受粉」,果試ニュース,愛媛県立果樹試験場,平成15年3月,第18号
一方で、本発明者らは、開葯した葯付き花粉を油で精製する方法を共同研究していた。この方法により精製した花粉は、油に浸漬した状態であるが、花粉の発芽率を高く維持することができるとともに、そのまま手で受粉することで高い結実率を得ることができた。そこで、この油を用いて精製した花粉を、水溶液に溶かし込み、これを散布する溶液受粉方法が考えられるが、油は水と混じり合わないという問題がある。また、界面活性剤を用いて乳化しようとしても、花粉の表面が界面活性剤で親水性に変わることにより、発芽率が急激に低下するという問題がある。
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、花粉の発芽率を高く維持したまま、花粉を水溶液に均一かつ安定的に分散することができる溶液受粉方法およびそれに用いる製剤を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明に係る溶液受粉方法は、油を用いて葯付き状態の花粉を精製する工程と、この油に浸漬した状態の精製花粉に多孔質粉粒を混和する工程と、この混和物を水溶液に分散して水性分散液を調製する工程と、この水性分散液を花に散布する工程とを含むことを特徴とする。
前記多孔質粉粒の混和量としては、前記精製した花粉の重量に対して10分の1以下とすることが好ましい。前記多孔質粉粒の重量としては、前記水性分散液2500ml当り1g以下とすることが好ましい。前記多孔質粉粒に加えて、さらに増粘剤を前記精製花粉に混和することが好ましい。
また、本発明は、別の態様として、溶液受粉用の製剤であって、油と、この油に浸漬されている花粉と、この油に浸漬した花粉と混和されている多孔質粉粒とを含んでなることを特徴とするものである。
さらに、本発明は、別の側面として、受精阻害を引き起こす摘花方法である。この摘花方法は、多孔質粉粒を分散させた水性分散液であって、前記多孔質粉粒の重量が前記水性分散液500ml当り1g以上である水性分散液を、花に散布することを特徴とする。
このように、油を用いて葯付き状態の花粉を精製し、この油に浸漬した状態の精製花粉に多孔質粉粒を混和し、この混和物を水溶液に分散して水性分散液を調製することで、基本的に水と混じり合わない油に含浸された状態の精製花粉を水溶液に分散させることができるとともに、長時間にわたって花粉が水中に分散していても発芽率を維持することができる。
そして、この水性分散液は、容易にスプレー散布することができるので、従来の手受粉による人工受粉と比べて受粉作業の大幅な省力化および効率化が達成される。さらには、溶液受粉により不安定な気象条件下でも結実が安定的に確保されるようになり、これまで遠慮がちに散布していた摘花剤を思い切って適期に使用することができるようになるため、摘果作業の大幅な削減につながるなど超省力栽培も可能となる。
以上のように、本発明によれば、花粉の発芽率を高く維持したまま、花粉を水溶液に均一かつ安定的に分散することができる溶液受粉方法およびそれに用いる製剤を提供することができる。
また、本発明の摘花方法によれば、500倍以上の高濃度で多孔質粉粒を分散させた水性分散液を花に散布するだけで、受粉阻害が発揮されることから、人と環境に優しい安価な摘花剤を提供することができる。
以下、本発明に係る溶液受粉方法の一実施の形態について説明する。図1は、この溶液受粉に用いる水性分散液を調製する手順の一例を模式的に示すフロー図である。図1に示すように、先ず、貯蔵容器31内に貯蔵された葯付き状態の花粉(粗花粉)10を、秤33で秤量する。一回の溶液調製では、粗花粉を10〜20g使用するのが好ましい。
次に、吸引式濾し器40を用いて、この粗花粉を精製する。吸引式濾し器40の本体容器41内には、葯が除かれた花粉は通過するが葯は通過しない目開きを有する葯濾し用のフィルタ42と、純花粉が通過しないが油は通過する目開きを有する花粉濾し用のフィルタ43とが敷設されている。吸引式濾し器の本体容器41の下部には、真空ポンプ45が接続されており、本体容器41内の内容物を吸引して、本体容器41の下方に設けられた受器47に内容物を流下させるように構成されている。
そして、この本体容器41内に敷設した葯濾し用のフィルタ42上に、秤量した粗花粉10を置き、さらにその上から油21を注ぐ。これにより、葯は葯濾し用のフィルタ42を通過せずに残るが、花粉は油とともに葯濾し用のフィルタ42を通過する。すなわち、葯が除去されて花粉が精製される。また、花粉は花粉濾し用のフィルタ43を通過しないが、油21のほとんどは花粉濾し用のフィルタ43を通過して受器47へと流れる。これにより、花粉濾し用のフィルタ43上に、精製された花粉が油の中に浸漬した状態である油含有精製花粉12を得ることができる。得られた油含有精製花粉12は、油によって花粉が外気から保護されているので、常温でも発芽率が低下せず、取扱いが簡便である。
なお、油21としては、花粉を外気中の水分から保護して、花粉を外気に対して不活性にするものであれば特に限定されないが、取り扱いが容易であるという観点から、常温で液体のものが好ましい。また、植物由来の植物油や、動物由来の動物油、鉱物由来の鉱物油、化学合成により得られる合成油のいずれの油も使用することができるが、入手の容易さ、人体への安全性の面から、植物由来であるものが好ましい。植物油の具体例としては、コーン油、菜種油、紅花油、ひまわり油、胡麻油、綿実油、大豆油、オリーブ油、ひまし油などが挙げられ、市販の食用油を使用することもできる。動物油の具体例として、魚油などが挙げられる。鉱物油の具体例として、流動パラフィンなどが挙げられる。合成油の具体例として、シリコーン油などが挙げられる。また、植物油、動物油、鉱物油、合成油の中で又は間で各種混合してもよい。葯付き花粉(粗花粉)10〜20gに対して油100〜200mlを用いることが好ましい。
次に、上記により得られた油含有精製花粉12を、花粉濾し用のナイロンフィルタ43ごとオイル吸着シート35上に移動する。そして、オイル吸着シート35上で油含有精製花粉12に多孔質粉粒23を加えて両者を混和する。このように、多孔質粉粒23を混和することで、基本的に水と混じり合わない油に含浸された状態の精製花粉、すなわち油含有精製花粉12を、水溶液に分散させることができるとともに、長時間にわたって花粉が水中に分散していても発芽率を維持することができる。
多孔質粉粒23の具体例としては、例えば、活性炭、ゼオライト等が挙げられる。多孔質粉粒23は、粉末(例えば粒径約20μm)の形状のものが好ましい。多孔質粉粒23の添加量としては、精製された花粉の重量の1/10〜1/2の範囲とすることが好ましい。多孔質粉粒23の添加量を精製された花粉の重量の1/10以上とすることで、上述した多孔質粉粒23を混和する効果を十分に発揮することができる。一方、多孔質粉粒23の添加量を精製された花粉の重量の1/2より多くすると、開花中の柱頭に対して受精阻害を引き起こし、結実率が大幅に低下するので好ましくない。
なお、精製された花粉の重量は、一般に、葯付き状態の花粉(粗花粉)10の重量の約2割であることから、秤33で秤量した葯付き花粉10の重量から、油含有精製花粉12中の精製された花粉の重量を算出することができる。より好ましい多孔質粉粒23の添加量は、精製された花粉の重量の1/10〜1/3の範囲である。
油含有精製花粉12に多孔質粉粒23を混和する方法としては、特に限定されないが、薬さじ等の器具を用いて両者を十分に撹拌する方法が挙げられる。これにより、油に浸漬した花粉と多孔質粉粒23とを十分に馴染ませることができる。以上の手順によって、本発明に係る溶液受粉用の製剤として、花粉と多孔質粉粒との混和物14を得ることができる。
なお、溶液受粉用の製剤には、上記の多孔質粉粒23に加えて、任意成分である増粘剤25を添加して混和することもできる。このように、増粘剤25を混和することで、増粘剤25が油を包み込みながら水に溶解して増粘作用を発揮することから、油分による精製花粉および多孔質粉粒の団粒化や、油分の容器壁面への付着などが防止され、精製花粉および多孔質粉粒の分散性を大幅に向上することができる。
増粘剤25としては、常温の水に溶解し、それにより水溶液の粘性を増大させるものが好ましく、具体的には、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘多糖類がある。増粘剤25は、常温の水に容易に溶解して増粘効果を発揮できるように、他の添加物を配合しても良いし、粉末や粒状の形状にしても良い。食品添加物、調味料、とろみ調整食品等として市販されているものを用いても良い。また、任意にホルモン剤等の植物生長調節剤を添加しても良い。これを添加することで結実率を高くすることができる。
増粘剤25の添加量としては、精製された花粉の重量の1/4〜2倍の範囲とすることが好ましい。増粘剤25の添加量をこのような範囲とすることで、上述した増粘剤25を混和する効果を十分に発揮することができる。増粘剤25を混和する方法としては、多孔質粉粒23と同様に、薬さじ等の器具を用いて両者を十分に撹拌する。これより、溶液受粉用の製剤として、花粉と多孔質粉粒と増粘剤との混和物16を得ることができる。より好ましい増粘剤の添加量は、精製された花粉の重量の1/2〜1倍の範囲である。
次に、この溶液受粉用の製剤を、スプレー等を用いて散布できるように、混和物16(増粘剤25を混和しない場合は、混和物14)を液体増量剤27で希釈して、液体増量剤27中に花粉が分散した水性分散液18を調製する。この液体増量剤27は、水に増粘剤と糖類を添加した水溶液である。この増粘剤と糖類は、液体増量剤27に所定の粘度を付与し、混和物を十分に分散できるものであって、発芽率に悪影響を及ぼすものでなければ特に限定されるものではなく、具体例としては、増粘剤は寒天、ゼラチンおよび上述した増粘剤25の各材料等が挙げられ、糖類はショ糖(スクロース)、ブドウ糖(グルコース)等が挙げられる。増粘剤の濃度は、寒天の場合であれば0.075〜0.1重量%の範囲が好ましい。糖類の濃度は、スクロースの場合であれば0.75〜10重量%の範囲が好ましい。
水性分散液中の花粉濃度は、250〜500倍(1g/250ml〜1g/500ml)にすることが好ましい。250倍以上に希釈することで広範囲に散布することができる。また、500倍以下に希釈することで充分な結実率を確保することができる。また、水性分散液中の多孔質粉粒の濃度は、2500〜5000倍(1g/2500ml〜1g/5000ml)にすることが好ましい。2500倍以上に希釈することで多孔質粉粒の柱頭への悪影響を緩和して高い結実率を維持することができる。また、5000倍以下に希釈することで油による精製花粉の団粒化を防ぎ、精製花粉を水溶液中に分散させることができる。水性分散液中の液体増量剤の濃度は、1000〜1250倍(1g/1000ml〜1g/1250ml)にすることが好ましい。この範囲にすることで、花粉の分散性を保持することができる。
なお、水性分散液18を調製する際、図1に示すように、少量の液体増量剤27で混和物16全体を馴染ませて、それから徐々に液体増量剤27を加えて、花粉濃度を250〜500倍に希釈することが好ましい。これにより、混和物16中の増粘剤25が油を包み込みながら液体増粘剤27に溶解し、精製花粉の分散をより確実に行うことができる。最終的にはタッチミキサ等の撹拌器具で水性分散液18の撹拌を十分に行うことが好ましい。
このようにして花粉を分散させた水性分散液は、ハンドスプレーや電動式のスプレー等のスプレー器材による散布が可能となり、溶液受粉を行うことができるので、人工受粉に要する作業を省力化することができる。また、花粉を油に浸漬しても、受粉能力に悪影響を及ぼすことがないので、安定した結実量を得ることができる。さらに、果樹に薬害を出すこともなく、環境への影響もない。なお、本発明に係る溶液受粉方法は、リンゴ、梨、桃、キウイフルーツなどの果樹に対して行うのが好ましいが、その他、蔬菜や花卉に対しても行うことができる。
また、上述したように、多孔質粉粒を多量に花に散布すると、受精阻害を引き起こす。このことから本発明は、受粉とは正反対の側面として、摘花方法でもある。この摘花方法としては、上記の多孔質粉粒を濃度100〜500倍(1g/100ml〜1g/500ml)に希釈した水性分散液を花に散布することが好ましい。この場合、水性分散液には花粉は含まれない。
(実験1:水性分散液の分散性および発芽率の調査)
以下の手順により、葯付き状態の花粉から、溶液受粉用の水性分散液を調整した。葯付き花粉の精製には、葯濾し用および花粉濾し用の2種類のナイロンフィルタ(前者は目開き70μmで寸法25cm×25cm、後者は目開き20μmで寸法15cm×15cm)が敷設され、真空ポンプ(アズワン株式会社製の商品名コンパクトエアステーションCAS−1)が接続された吸引式フィルタユニット(ミリポア社製の商品名ステリトップ)を使用した。
先ず、上記のユニット内の葯濾し用フィルタ上に、葯付き状態のリンゴ花粉を敷き詰め、その上から食用油(日清オイリオグループ株式会社製の商品名ヘルシーリセッタ)を流し込みながら、真空ポンプによる吸引を行った。これにより、ユニット内の油が2種類のフィルタを通過してその下の受器へと流れ、葯濾し用のフィルタ上に油に浸漬した状態の葯を、花粉濾し用フィルタ上に油に浸漬した状態の精製花粉を得た。
上記により得られた精製花粉を花粉濾し用フィルタのままオイル吸着シート上に移して、これに薬さじで、精製花粉量の1/10の量の粉末活性炭を加えて混和した。次に、この混和物を、液体増量剤(寒天濃度0.1%、スクロース濃度5.0%の水溶液)で段階的に精製花粉が250倍(1g/250ml)となるまで希釈し、水性分散液を調製した(試験例1)。また、上記の粉末活性炭に加えて、精製花粉量の1/2の量のとろみ調整食品(株式会社クリニコ製の商品名つるりんこ。原材料:キサンタンガム30%、乳酸カルシウム2.6%、クエン酸ナトリウム2.4%、デキストリン65.0%)を増粘剤として添加して混和し、上記と同様に希釈して水性分散液を調製した(試験例2)。
上記により得た試験例1、2の水性分散液を調製してから1〜3時間経過したものを、定法で作成した寒天培地に滴下し、2時間経過後の発芽率を調査した。その結果を表1に示す。なお、比較のため、葯付き状態の上記花粉を通常の開葯器及び花粉精製器にて葯と花粉とを分離した無処理の花粉(試験例3)と、食用油に代えて有機溶媒のキシレンを用いて精製した花粉を上記の液体増量剤に分散させた水性分散液(試験例4)についても、同様に寒天培地を用いて発芽率を調査した。
また、上記の試験例1、2の水性分散液について、花粉の分散性を観察したところ、試験例1、2ともに、油に浸漬した花粉が、互いに固着することなく、また容器壁面に付着することなく、水溶液中に均一分散しているのを確認した。特に、活性炭に加えてとろみ調整食品を混和した試験例2では、油分を包み込みながらとろみを増す効果がみられ、油分の容器壁面への付着性や溶液中での分散性が改善された。
Figure 2008072902
表1に示すように、油で花粉を精製し、活性炭を混和してから調製した試験例1、2の水性分散液は、調製後1〜3時間経過した場合であっても、発芽率が約32〜50%と高かった。これは、試験例3の無処理の花粉の発芽率76.7%に対して約42〜65%である。一方、有機溶媒で花粉を精製し、混和せずに調製した試験例4は、調製後1時間経過で約26%と低く、3時間経過で約15%と更に低下した。これは、無処理の花粉の発芽率の約19〜35%であり、試験例1、2のような高い発芽率を維持することはできなかった。
なお、試験例2に用いたとろみ調整食品は、常温の水溶液に粉末を添加するだけで水溶液の粘性を増大することができるものであった。また、このとろみ調整食品は、表1に示すように、発芽率に対する悪影響もみられなかった。さらに、柱頭に及ぼす影響についてフィールド試験を行ったが、問題がないことを確認した。
(実験2:活性炭の大きさと発芽率について)
油として、シリコーンオイルを用いた点、活性炭として、粒径の異なる4種類の活性炭(和光純薬株式会社製の微粒A、細粒B、中粒C、粉末の各活性炭)をそれぞれ、精製花粉に対する容量比で約2倍混和した点、液体増量剤として、寒天濃度0.075%、スクロース0.75%の水溶液を用いた点、液体増量剤に対する精製花粉の重量が500倍(1g/500ml)になるように希釈した点を除き、実験1と同様の手順により発芽率および分散性を調査した(試験例5〜8)。その結果を表2に示す。なお、比較のため、活性炭を混和せずに液体増量剤で希釈した場合(試験例9)、活性炭を混和せずに寒天培地に直まきした場合(試験例10)、無処理の花粉を直まきした場合(試験例11)についても同様に発芽率を調査した。
Figure 2008072902
表2に示すように、水性分散液中の花粉の分散性は、粉末タイプを混和した試験例8が最も優れ、活性炭の粒子径が小さいほど良好な傾向を示した。また、花粉の発芽率も、活性炭の粒子径が小さいほど高まる傾向を示した。
(実験3:液体増量剤の濃度と発芽率について)
油として、シリコーンオイルを用いた点、液体増量剤として、寒天濃度0.01、0.05、0.075、0.01%と、スクロース0.1、0.5、0.75、0.1%とを組み合わせた水溶液を用いた点、液体増量剤に対する精製花粉の重量が500倍(1g/500ml)になるように希釈した点を除き、実験1と同様の手順により発芽率を調査した(試験例12〜27)。その結果を表3に示す。なお、比較のため、活性炭を混和せずに液体増量剤(寒天0.1%、スクロース1%)で希釈した場合(試験例28)、活性炭を混和せずに寒天培地に直まきした場合(試験例29)、無処理の花粉を直まきした場合(試験例30)についても同様に発芽率を調査した。
Figure 2008072902
表3に示すように、花粉の発芽率は、活性炭を混和しなかった試験例28が約10%であったのに対し、活性炭を混和することで約15〜57%まで向上した(試験例12〜27)。また、活性炭を混和した場合の発芽率は、液体増量剤のスクロース濃度が0.75%以上、寒天濃度が0.075%以上で安定しており、スクロース濃度を0.75%まで低下させることが可能であることがわかった。
(実験4:活性炭の添加量と結実率について)
液体増量剤として、寒天濃度0.1%、スクロース1.0%の水溶液を用いた点を除き、実験1と同様の手順により水性分散液を調製した(試験例31)。そして、この水性分散液を開花前の風船状の花に柱頭が湿るまでスプレー散布した。散布後、ハトロン紙で被袋し、訪花昆虫等による外部からの影響を遮断した。そして、2週間後に結実の有無を調査した。その結果を表4に示す。なお、参考のため、活性炭とともに同量の石松子を混和して液体増量剤で希釈した場合(試験例32)についても同様に結実率を調査した。また、参照のため、食用油を用いて精製した花粉に活性炭を混和せずに、綿棒で直接受粉した場合(試験例33)についても結実率を調査した。
さらに、比較のため、油として、食用油またはミネラルオイルを用いた点、活性炭または石松子を精製花粉に対する重量比で4倍混和した点、液体増量剤として、寒天濃度0.1%、スクロース濃度10.0%または1.0%の水溶液を用いた点、液体増量剤に対する精製花粉の重量が500倍(1g/500ml)になるように希釈した点を除き、実験1と同様の手順により水性分散溶液を調製し(試験例34〜39)、上記と同様に結実率を調査した。その結果を表5に示す。なお、参照のため、約付き状態の花粉を絵筆で直接受粉した場合(試験例40)についても同様に結実率を調査した。
Figure 2008072902
Figure 2008072902
表4に示すように、精製花粉に活性炭や石松子を混和することで、水溶液中での精製花粉の分散が可能になったとともに、混和する活性炭の量を極力少なくすることで、柱頭への悪影響が緩和され、高い結実率をしめした。なお、試験例33のように、油を用いて精製した花粉を、溶液受粉ではなく、直接柱頭に十分量付着させても、高い結実率を示し、油による阻害的な影響は認められなかった。
一方、表5に示すように、活性炭の量を精製花粉の重量の4倍と多量に混和した場合(水性分散液中の濃度は125倍)は、結実率が0〜13%と非常に低く、活性炭を混和せずに散布した場合と同レベルの結実率であった。このように、活性炭は多量に柱頭に付着すると受精阻害を引き起こすことから、溶液受粉を行う場合は所定の混和量を厳守する必要がある。換言すれば、受粉でなく、摘花を行う場合は、活性炭を高濃度に調製した水性分散液を花にスプレー散布すれば良いことがわかる。
本発明の溶液受粉方法に用いる水性分散液の製造方法の一実施の形態を模式的に示すフロー図である。
符号の説明
10 葯付き状態の花粉(粗花粉)
12 油含有精製花粉
14、16 混和物
18 水性分散液
21 油
23 多孔質粉粒
25 増粘剤
27 液体増量剤
31 貯蔵容器
33 秤
35 オイル吸着シート
40 濾し器
41 本体容器
42 葯濾し用フィルタ
43 花粉濾し用フィルタ
45 真空ポンプ
47 受器

Claims (6)

  1. 油を用いて葯付き状態の花粉を精製する工程と、この油に浸漬した状態の精製花粉に多孔質粉粒を混和する工程と、この混和物を水溶液に分散して水性分散液を調製する工程と、この水性分散液を花に散布する工程とを含む溶液受粉方法。
  2. 前記多孔質粉粒の混和量が、前記精製した花粉の重量に対して10分の1以下である請求項1に記載の溶液受粉方法。
  3. 前記多孔質粉粒の重量が、前記水性分散液2500ml当り1g以下である請求項1又は2に記載の溶液受粉方法。
  4. 前記多孔質粉粒に加えて、さらに増粘剤を前記精製花粉に混和する請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶液受粉方法。
  5. 油と、この油に浸漬されている花粉と、この油に浸漬した花粉と混和されている多孔質粉粒とを含んでなる溶液受粉用の製剤。
  6. 多孔質粉粒を分散させた水性分散液であって、前記多孔質粉粒の重量が前記水性分散液500ml当り1g以上である水性分散液を、花に散布して受精阻害を引き起こす摘花方法。
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