JP2008071763A - 非水電解質二次電池の化成方法および製造方法 - Google Patents

非水電解質二次電池の化成方法および製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】低コストで、高容量の非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な物質および/または金属リチウムを負極活物質として含む負極、セパレータ、式:Li[Lix(NiyMnyp1-x]O2(式中、CはNiおよびMnと異なる少なくとも1種の添加元素、0.1≦x≦0.3、0<2y+p≦1、0≦p)で表されるリチウム含有酸化物を含む正極、ならびに電解質を有する非水電解質二次電池の化成方法であって、前記リチウム含有酸化物を過充電状態にすることにより、前記リチウム含有酸化物の結晶構造を変化させる、非水電解質二次電池の化成方法。
【選択図】図11

Description

本発明は、特に非水電解質電池用正極活物質に関する。さらに本発明は、特定の正極活物質を含む正極を有する高容量で安価な非水電解質二次電池の化成方法および製造方法に関する。
近年、コードレスおよびポータブルなAV機器およびパソコンなどの普及にともない、それらの駆動用電源である電池についても、小型、軽量および高エネルギー密度の電池への要望が強まっている。特に、リチウム二次電池は、高エネルギー密度を有する電池であることから、次世代の主力電池として期待され、その潜在的市場規模も大きい。
現在市販されているリチウム二次電池の大半においては、正極活物質として4Vの高電圧を有するLiCoO2が用いられているが、Coが高価であることからLiCoO2の値段が高い。このことからLiCoO2に代わる様々な正極活物質が研究されている。なかでも、リチウム含有遷移金属酸化物が精力的に研究され、LiNiaCob2(a+b≒1)が有望であり、また、スピネル構造を有するLiMn24が商品化されているようである。
また、高価なコバルトの代替材料として、ニッケルおよびマンガンについての研究が盛んに行われている。
例えば、層構造を有するLiNiO2は大きな放電容量が期待されるが、充放電にともなって結晶構造が変化することから劣化の程度が大きい。そこで、充放電時の結晶構造を安定化し、劣化を抑制することのできる元素をLiNiO2に添加することが提案されている。このような添加元素としては、具体的には、コバルト、マンガン、チタンおよびアルミニウムなどの元素があげられている。
さらに、NiおよびMnの複合酸化物をリチウム二次電池用の正極活物質として使用する従来技術について説明する。
例えば、特許文献1においては、Niの水酸化物、Mnの水酸化物およびLiの水酸化物を一度に乾式混合して焼成し、さらに室温まで冷却した後再び加熱焼成して、式:LiyNi1-xMnx2(式中、0≦x≦0.3、0≦y≦1.3)で示される組成の活物質を製造する方法が提案されている。
また、特許文献2では、水溶液にLi塩、Ni塩およびMn塩を一度に混合し、得られる混合物を乾燥および焼成し、式:LiNi1-xMnx2(式中、0.005≦x≦0.45)で示される活物質を得る方法が提案されている。
また、特許文献3においては、ニッケルおよびマンガンの水酸化物または酸化物と過剰の水酸化リチウムとを混合して焼成する乾式合成方法、水酸化リチウムの飽和水溶液中でニッケルおよびマンガンの酸化物などをスラリーにした後、減圧乾燥および焼成して、式:LixNi2-x-yMny2(式中、0.8≦x≦1.0、y≦0.2)で示される活物質を得る合成方法が提案されている。
さらにまた、特許文献4には、β−Ni(OH)2を用いる乾式混合合成法により、式:LiNi1-xMnx2(式中、0<x≦0.2、y≦0.2)で示される活物質を得ることが提案されている。
また、特許文献5においては、マンガンとニッケルを含む水溶液中にアルカリ溶液を加えてマンガンとニッケルを共沈させ、これに水酸化リチウムを加え、ついで焼成することによって、式:LiNixMn1-x2(式中、0.7≦x≦0.95)で示される活物質を得る方法が提案されている。
また、特許文献6には、式:LiNix1-x2(式中、MはCo、Mn、Cr、Fe、VおよびAlのいずれか一種以上、1>x≧0.5)で示される組成を有する好ましい粒子状活物質が開示されており、NiおよびMnを含む活物質としてx=0.15のものが示されている。
また、特許文献7においては、共沈合成法で合成された、式:Liy-x1Ni1-x2x2(式中、MはCo、Al、Mg、Fe、MgまたはMn、0<x2≦0.5、0≦x1<0.2、x=x1+x2、0.9≦y≦1.3)で示される活物質が提案されている。前記公報には、MがMnの場合は本来放電容量が小さく、X2が0.5を超えると、高容量を目的とするリチウム二次電池の正極活物質としての本来の機能を失うと記載されている。また、最もMn比率が大きい活物質としては、LiNi0.6Mn0.42が例示されている。
なお、特許文献8には層構造を有するLiMnO2の製造方法が示されているが、これは実質的に3V級の活物質である。
上述のような米国特許公報および日本特許出願公開公報に記載された先行技術は、全てLiNiO2のサイクル特性などの電気化学的特性を改善するために、LiNiO2の特徴を残しつつ、LiNiO2に微量の元素を添加するものである。したがって、添加後に得られる活物質に含まれるNiの量がMnの量を常に上回っており、両者の比(Ni:Mn)としては0.8:0.2が多く提案されている。また、最もMn量が多い比としては、Ni:Mn=0.55:0.45が開示されている。
しかし、これら従来技術においては、LiNiO2がLiMnO2と分離してしまうため、単一相の結晶構造を有する複合酸化物を得るのは困難である。これは、共沈の際にMn2+が酸化されてMn3+になりやすく、Mn3+はNi2+と均質な複合酸化物を形成しにくいからである。
上述のように、現在市販されている4Vの高電圧を持つLiCoO2の代替材料として、同様の層構造を有しつつ高容量で低コストの正極活物質であるLiNiO2およびLiMnO2の研究開発がなされている。
しかし、LiNiO2は放電形状が平坦でなく、かつサイクル寿命も短い。さらに、耐熱性も低く、LiCoO2の代替材料として使用するには大きな問題がある。このため、LiNiO2に様々な元素を添加して改良することが試みられているが、未だ不充分である。また、LiMnO2では3Vの電圧しか得られないことから、層構造を有さず、容量の低いスピネル構造をもつLiMn24が研究されはじめている。
すなわち、LiCoO2と同等の4Vの電圧を有し、平坦な放電カーブを示し、さらにLiCoO2より高容量で低価格の正極活物質が求められ、さらに、かかる正極活物質を用いた高容量で充放電効率の優れた非水電解質二次電池が求められていた。
一方、特許文献9では、LiNiO2が持つ特性やLiMnO2が持つ特性を新たな添加元素を入れることで改良する技術ではなく、ニッケル化合物とマンガン化合物を原子レベルで均質に分散させて固溶体を形成することで、新たな機能を発現するニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質が提案されている。
すなわち、従来技術においては、添加元素として多くの元素が提案されているが、そのなかでどの元素が具体的に好ましいのかが、技術的に明確にはされていなかったのに対し、ニッケルとマンガンをほぼ同比率で組み合わせることにより新たな機能を発現し得ることが見出されたのである。
そこで、本発明者らは、ニッケル化合物とマンガン化合物を原子レベルで均質に分散させて固溶体を形成することで新たな機能を発現するニッケルマンガン複合酸化物が得られたことに基づき、種々の遷移金属を含む酸化物、その組成、結晶構造および機能などについて、さらに鋭意検討を行った。
米国特許第5393622号公報 米国特許第5370948号公報 米国特許第5264201号公報 米国特許第5629110号公報 特開平8−171910号公報 特開平9−129230号公報 特開平10−69910号公報 米国特許第5985237号公報 特開2002−42813号公報
すなわち、本発明は、異なる遷移金属元素を原子レベルで均質に分散させて固溶体を形成する技術により、さらに新規な機能を発現する複合酸化物からなる正極活物質を見出すことを目的とする。
本発明は、2種の遷移金属元素を含むリチウム含有酸化物の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の結晶構造が層構造であり、前記リチウム含有酸化物を構成する酸素原子の配列が立方最密充填である非水電解質電池用正極活物質を含む非水電解質二次電池に関する。
前記リチウム含有酸化物は、式(1):Li[Lix(NiyMnyp1-x]O2(式中、CはNiおよびMnと異なる少なくとも1種の添加元素、0.1≦x≦0.3、0<2y+p≦1、0≦p)で表される。
前記結晶粒子においては、ニッケル原子とマンガン原子が均一に分散しているのが好ましい。
前記結晶粒子の結晶構造においては、ミラー指数(003)および(104)に帰属されるX線回折ピークの積分強度の比I003/I104が1未満であるのが好ましい。
さらに、前記結晶粒子の結晶構造において、ミラー指数(108)および(110)に帰属される粉末X線回折ピークが2本のスプリットしたピークとして観測されるのが好ましい。
また、前記リチウム含有酸化物は、NiとMnとを実質的に同比率で含む。また、前記結晶粒子が球形であるのが有効である。
また、前記正極活物質は、0.1〜2μmの粒径を有する前記リチウム含有酸化物の結晶粒子と、2〜20μmの粒径を有する前記結晶粒子の二次粒子との混合物からなるのが有効である。
また、前記結晶粒子は、酸化によって単位格子の体積が減少するものであるのが有効である。
また、ニッケル元素とマンガン元素の比率の誤差が10原子%以内であるのが有効である。
また、前記リチウム含有酸化物に含まれるリチウム元素、ニッケル元素およびマンガン元素が、0.97≦Li/(Ni+Mn)≦1.03を満たすのが有効である。
ここで、前記リチウム含有酸化物を得るためには、NiとMnを含む水酸化物または酸化物であって、銅のKα線で測定したX線回折ピークにおいて15〜20°に観測されるピークの半値幅が3°以下である水酸化物または酸化物を前駆体として用いるのが好ましい。
前記X線回折ピークにおいて、15〜20°に観測されるピーク高さH1と30〜40°に観測されるピーク高さH2が、関係式:
1≧2×H2
を満たすのが好ましい。
したがって、前記リチウム含有酸化物は、前記前駆体と炭酸リチウムおよび/または水酸化リチウムなどのリチウム化合物を混合、焼成することにより得られる。焼成は、900℃以上の温度で行うのが好ましい。
また、前記リチウム含有酸化物は、式(2):
Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2
(式中、0≦x≦0.3)で表されるのが好ましい。
前記添加元素Cは、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウム、イッテルビウム、鉄およびコバルトよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
さらに、NiとMnと前記添加元素Cとの合計に対する前記添加元素Cの割合が、5〜35モル%であるのが好ましい。
本発明によれば、高容量で充放電効率の良い非水電解質二次電池を提供することができる。
ニッケル化合物とマンガン化合物を原子レベルで均質に分散させて固溶体を形成することで新たな機能を発現するニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質が得られる。特に、組成の観点からは、遷移金属を原子レベルで固溶させること、さらにNi原子とMn原子が実質的にほぼ同数であることが重要であり、結晶構造の観点からは、層構造で酸素の配列は立方最密充填であることが重要である。
本発明に係る正極活物質は、NiとMnとを含むリチウム含有酸化物の結晶粒子からなり、前記結晶粒子の結晶構造が層構造であり、前記リチウム含有酸化物を構成する酸素原子の配列が立方最密充填である。
(1)本発明の正極活物質の組成および構造
まず、結晶構造の観点から、本発明の正極活物質の特徴を説明する。
本発明の正極活物質は、結晶構造的には層構造を有し、ミラー指数(003)および(104)に帰属されるX線回折ピークの積分強度比I003/I104がI003/I104<1を満たし、さらに、ミラー指数(108)および(110)に帰属される粉末X線回折ピークが2本のスプリットしたピークとして観測されるものであるのが好ましい。
一般的に、層構造の場合は、(003)および(104)のピークの積分強度比I003/I104はI003/I104>1を満たす。現在、主にリチウム二次電池用の正極活物質として使用されるLiCoO2およびLiNiO2などはこの関係を満たす。そして、もしI003/I104<1を満たす材料においては、層構造のLiイオンの層に遷移金属が落ち込み、結果として容量が低くなり、その利用価値が下がってしまうことを意味する。また、同時に、LiCoO2およびLiNiO2などにおいてはミラー指数(108)および(110)に帰属される粉末X線回折ピークが明確には2本のスプリットしたピークとしては観測されない。
これに対し、本発明の正極活物質は、I003/I104<1を満たし、かつ(108)および(110)ピークが2本のスプリットとして明確に観測されることが大きな特徴である。詳細な結晶格子中の原子位置に関してはまだ明らかになっていないが、構造解析の結果、本発明の正極活物質は層構造を有し、酸素の配列が立方最密構造であることがほぼ明らかになった。
つぎに、元素組成の観点から本発明の正極活物質の特徴を説明する。層構造を有するLiNiO2、LiCoO2およびLiMnO2の充放電曲線を基準に考察すると、電位はそれぞれCoが4V、Niが3.7V、Mnが3Vである。したがって、4Vクラスの層構造を有する活物質を調製しようとする場合は、通常は、CoおよびNiを組み合わせることや、これらの元素の電位的な特徴を残したまま微量の第三元素を結晶構造の安定化のために添加する試みがなされる。このような取り組みは以下のような従来技術において示されている。なお、従来技術においては、添加元素をMと表現し、Mが種々の元素を取りうると述べているだけで、添加元素に対する電位の変化について詳細には検討されていない。
米国特許第5264201号明細書は、式:LixNi2-x-yy2(式中、0.8≦x≦1.0、y≦0.2、ただしMがCoの場合y<0.5を満たす)の組成を有する活物質が開示されている。添加元素Mとしては、Co、Fe、Ti、Mn、CrおよびVが開示されている。この従来技術からわかるように、Niを基準にして多くの添加元素Mが示され、その添加量は微量とされている。したがって、前述したようにNiの電位的な特徴を生かしつつ添加元素を加えるだけで、添加元素の組合せによって電位的な制御を行うことについては開示も示唆もされていない。Coの添加量が多いことのみが記述されているが、Coが高い電位を有すること、およびCoの電位がNiの電位にほぼ等しいことが従来から良く知られているため、このような組み合わせが検討されているものと考えられる。
さらに特開平4−267053号公報には、式:Lixyz2(M:Fe、Co、Ni、N:Ti、V、Cr、Mn)の組成を有する活物質が開示されており、M元素で4Vの電圧を実現し、Nで構造の安定化を図って合成されることが記載されている。
このような先行技術の思想は、本発明のようにNiとMnをほぼ同一の比率で混合し新たな機能を発現させる思想とは明らかに異なる。具体的には、NiとCoを同比率で混合した層構造を有する活物質の電位は、Ni単独のものの電位に比べて低い。一方、NiとMnを同比率で混合した層構造を有する活物質の電位は、Ni単独のものの電位に比べて高い。
この現象は、層構造を有するCo、NiまたはMn単独からなる活物質から予想することはできない。なぜなら、これらの活物質の電位は、Co>Ni>Mnの順に高いからである。つまり、先行技術や単独材料の電位からは、Ni−Co>Ni>Ni−Mnの順で活物質の電圧が高くなることが予想されるが、実際にはNi−Mn>Ni>Ni−Coの順で高くなり、全く逆の現象が起こる。このことは、2種の遷移金属を同比率で混合し層構造を有する活物質を合成することにより、新たな機能を発現させることが可能であることを示唆している。
ニッケルとマンガンを組み合わせて用いることが好ましい理由は以下のとおりである。すなわち、前記リチウム含有酸化物をリチウム二次電池用の正極活物質に適用したとき、充放電によってLiが結晶内を出入りする。通常の活物質では、放電末期で活物質の電子電導度が低下し、放電カーブがなだらかになってしまう。これは、電子電導度が低下することによって引き起こされる分極であると考えられる。しかし、ニッケルとマンガンを組み合わせた場合は、各々の固有の電子状態が相互作用するため、放電末期に電子電導度が著しく低下することを抑えることが可能である。結果として、充放電カーブが好ましい平坦な形状になる。
(2)本発明の正極活物質の製造方法
一方、本発明の正極活物質を得るためには、上記リチウム含有酸化物を合成するための製造方法にも工夫が必要である。
従来、正極活物質であるリチウム含有酸化物を合成する場合、それぞれの元素を含む水酸化物、オキシ水酸化物および酸化物などを混合して焼成する。例えば、本発明の代表的なLiNi0.5Mn0.52を合成する場合、LiOH・H2O、Ni(OH)2およびMnOOHを2:1:1(モル比)で充分に混合した後、反応が進行する適当な温度で焼成する。
このような乾式混合合成法は、米国特許第5393622号、第5370948号および第5264201号各明細書に記載されているが、いずれにおいてもMnの含有量が低く、乾式合成法で充分であるとの説明がなされている。
ところが、実際には、上記米国特許に係る乾式混合合成法を用いた場合、ニッケルとマンガンが原子レベルで固溶することが難しく、単一相が極めて得られにくい。一方、上記の3種類の混合粉末が非常に細かい粒子である場合、例えば0.3μm以下の粒子を用いることでX線回折パターンだけで見る限りでは単相のものが得られる。
さらに、このような乾式混合焼成法より以下のような共沈法によれば、より理想的な酸化物が得られることがわかった。
ニッケルの複合酸化物を作成するためには湿式共沈法を用いると良い結果が得られることが最近の研究で明らかになってきた。例えば、ニッケルとマンガン共沈法は特開平8−171910号公報に開示されている。共沈法は、水溶液中で中和反応を利用して2元素を同時に沈殿させて前駆体である複合水酸化物を得る手法である。現在までは、ニッケルの一部を少量の他元素で置き替えるだけであったため、通常の共沈法で充分であった。しかし、本発明のように実質的に同じ量のニッケル元素とマンガン元素を原子レベルで固溶させるためには高度の技術を要し、従来の方法では無理であった。共沈法で得られた前駆体である水酸化物とリチウムを反応させ、目的のリチウム含有複合酸化物を得る場合にも、その粒子形状よって電池に使用した場合の電気化学的特性に大きな差が生じ、従来の方法ではその差の制御が困難である。また、焼成温度も電気化学特性に大きな影響を及ぼすことから、適当な焼成温度を選ぶべきである。
すなわち、2種の遷移金属元素を原子レベルで固溶させるために共沈法が好ましい。共沈法で固溶させるとき、水溶液中での2種の遷移金属元素はイオン(特にニッケルとマンガンの場合は2価のイオン)である。このまま同じ価数で存在して同時に滴下されたアルカリと中和することによって共沈させるのが望ましい。しかし、マンガンおよびニッケルを用いた場合、マンガンは非常に酸化されやすく、水溶液中に微量存在する溶存酸素でも充分に酸化されてMnが3価イオンになってしまう。このように、2価のイオンと3価のイオンが混在することで、原子レベルの固溶は不充分になってしまう。
本発明においては、このようなことを抑制するため、水溶液中に不活性ガスである窒素やアルゴンなどをバブリングして溶存酸素を除去するか、またはヒドラジンなどの酸化防止剤(還元剤)をあらかじめ水溶液中に添加するなどの方法をとることが好ましい。したがって、共沈法の従来技術との違いは不活性雰囲気で共沈させることである。
そして、NiとMnを含む酸化物の結晶粒子の結晶構造を層構造とし、前記酸化物を構成する酸素原子の配列を立方最密充填とするためには、例えば酸化雰囲気下において、前記酸化物を、一次焼成(リチウム塩が水酸化リチウムの場合は400〜650℃、リチウム塩が炭酸リチウムの場合は600〜650℃)、必要に応じて粉砕、二次焼成(950〜1000℃)および三次焼成(700〜800℃)すればよい。
前記酸化物がこのような結晶構造を持つと、ミラー指数(003)および(104)に帰属されるX線回折ピークの積分強度の比I003/I104が、I003/I104<1を満たし、また、ミラー指数(108)および(110)に帰属される粉末X線回折ピークが2本のスプリットしたピークとして観測される。
本発明において、ニッケルとマンガンの組み合わせを選ぶことには大きな意味があり、従来のようにLiNiO2を改良するために様々な元素を微量加えることとは異なる。
NiとMnの比率は1:1が理想的である。このような比率の化合物は従来は実用化されていない。さらに、本発明における合成法は、改良した共沈法であり、さらに焼成条件を工夫したものである。共沈法の条件やその後の焼成の条件により、得られる活物質の粒子形状が異なるとともに電気化学特性まで変化するため、目的に応じた条件を選択すればよい。
共沈法で正極活物質を製造する場合をより具体的に説明する。ここで用いた実験設備の概略図を図1に示す。原料としては、硫酸ニッケルおよび硫酸マンガンを使用した。
各々1.2モル/リットルのNiSO4水溶液とMnSO4水溶液の混合溶液と、4.8モル/リットルのNaOH水溶液と、4.8モル/リットルのNH3溶液とを、0.5ミリリットル/minの速度で反応槽1に同時に投入する。反応槽1の中には円筒状のチューブ2が設置されており、チューブの中には撹拌棒3が備えられている。
このチューブの中で共沈による前駆体である水酸化物が得られるが、同時にチューブの中に設置されている攪拌棒によって下向き(反応槽の底向き)の力が加えられる。この力で得られた水酸化物の微結晶が互いに衝突して結晶成長し、結晶粒子を形成する。
これらの粒子は、図1における矢印で示すようにチューブの外側を通過し、オーバーフローによって系外に取り出される。このとき得られる粒子は衝突の力などによって実質的に球状である。このとき反応槽の温度は30〜50℃に保つ。
また、水溶液中に酸素が溶存すると、マンガンが非常に酸化し易く二価から三価になってしまう。したがってβ型のNi1-xMnx(OH)2を得ようとすると、この反応槽から溶存酸素を追い出すために窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをバブリングしたり、何らかの還元剤を添加するなどしてマンガンの酸化を抑制する必要がある。
一方、α型のNi1-xMnx(OH)2・xSO4 2-・yH2Oが得られても問題がない場合や、逆にこれを製造したい場合は液中の溶存酸素をうまく利用すればよい。
本発明者らの実験によれば、X線回折像の結果から、約30℃の低温領域の方が結晶性のより高い水酸化物が得られることがわかった。このような反応槽は連続的にしかも高速で複合水酸化物を製造することができるため、工業的には非常に有用である。しかし、得られる粒子の粒度分布が広くなり、大小さまざまな粒径の粒子が混合されてしまうことになる。
また、10μmを超えるような大きな球状の粒子は反応槽の底にたまってしまい、取り出しにくくなり、粒径をあまり大きくできないという欠点もある。
ここで、図2に、このような反応槽で得られた代表的な粒子の表面のSEM(走査式電子顕微鏡)写真を示した。
さらに、図3に、このような反応槽で得られた代表的な粒子の断面のSEM(走査式電子顕微鏡)写真を示した。なお、これらの写真の倍率は、1000、3000、10000および30000倍である。
図2の(a)および(b)ならびに図3の(a)および(b)から、粒子は実質的に球状であることがわかる。また、図2の(c)および(d)から、表面には均一にひだの様な形状の凹凸があり、さらに粒子が多孔体であることがわかる。また、図3に示した粒子の断面のSEM写真から、内部に至るまで表面と同様に均一なひだが観察され、粒子がほぼ均一サイズの孔をもつ多孔体であることがわかる。参考のため、得られた複合水酸化物の化学分析(元素分析)結果の一例を表1に示す。
より高密度で、大きな粒径をもつ球状の複合水酸化物を得るためには、以下のように製造方法を変更すればよい。変更した実験設備の構成を示す概略図を図4に示す。図4に示す設備では、ポンプ4を用いて供給口5から混合溶液を反応槽6に導入し、反応槽6の下から上にフローさせ、共沈して沈降する微結晶に衝突させる。材料の捕集部7は設備の下部に設けてある。したがって、結晶がある程度発達して比重が増加した結晶粒子は、沈降して下部の捕集部7に到達するが、未発達の結晶粒子は下部からフローされる溶液の力に押し戻され、下部に落ちないシステムになっている。
このような方法によって、10〜20μmの大きな粒径でしかもタップ密度が2.2g/cm3の高密度の複合水酸化物を得ることができる。
ここで、この方法で得られた粒子の代表的なSEM写真を図5に示す。図5の(a)、(b)および(c)に、それぞれ1000、2000および20000倍のSEM写真を示した。粒子の中には、前述した多孔質のものとは少し異なり、結晶子が高密度に充填され、大きな球状の粒子が形成されている。なお、結晶粒子は水酸化物のままでも良いが、保存中の経時変化が問題となる場合は低温で乾燥・焼成することで酸化物にすることもできる。
以上のように、本発明によれば、共沈方法の条件をその目的にあわせて変更することで、多孔質な球状粒子も高密度の球状粒子も製造することができる。さらに、粒径も、小さな粒径から20μm付近まで自在に制御可能である。X線で観測することのできる結晶性も、反応槽の温度を適宜変更することで、制御可能である。
つぎに、得られた前駆体である水酸化物または酸化物を水酸化リチウムなどのリチウム源と混合し、焼成することによって、目的とするリチウム二次電池用の正極活物質であるLiyNi1-xMnx2を得る。
このとき、リチウム源としては水酸化リチウムを用いればよい。炭酸リチウムを検討したところ、目的の単一相を得ることは可能であるが、粒子形状の制御や結晶性などの面で水酸化リチウムの方が有利であった。
球状のニッケルマンガン水酸化物(前駆体)の内部にまで、均一にリチウムを供給することが望ましい。水酸化リチウムを使用した場合は、まず比較的低温で水酸化リチウムが溶融し、ニッケルマンガン水酸化物粒子の内部までリチウムが供給され、ついで、温度が上昇するに伴って、粒子の外側から徐々に酸化反応がおこるため、理想的である。
一方、炭酸リチウムを使用した場合は、一度脱炭酸反応が起こらなければならず、この反応は水酸化リチウムの場合と比較し高温でおこる。したがって、脱炭酸反応と酸化反応がほぼ同時に起こってしまう。このことが、粒子形状の制御や結晶性などの面で、水酸化リチウムの方が有利である理由と考えられる。
つぎに、好ましい焼成条件に関して説明する。
前駆体であるニッケルマンガン複合水酸化物と水酸化リチウムを乾式で充分に混合する。このとき、水酸化リチウムとニッケルマンガン水酸化物は、Li、NiおよびMnの原子比がLi/(Ni+Mn)=1を満たすように混合するのが理想的である。しかし、焼成の温度や粒子形状の制御のために、一方の量を若干増やしたり減らしたりすることもできる。例えば、焼成温度が高温のときや、焼成後の一次粒子を大きくしたいときは、リチウムを多少多めに混合する。この場合、約3%程度の増減が好ましい。
ここで、さらに好ましい前駆体について説明する。この前駆体の好ましい状態は、X線回折で観測される低角のピークの半値幅、およびピークパターンの強度比から同定することができる。なお、以下においては、前記遷移金属元素としてニッケル、マンガンおよびコバルトを用いた場合に代表させて詳細に記載することがあるが、他の遷移金属元素を用いた場合であっても、同様に好ましい前駆体を得ることができる。
図6に、各種条件で作製した前駆体のX線回折パターンを示す。なお、これらの前駆体を得るためには、上述のように共沈を行う際、水溶液中に不活性ガスである窒素やアルゴンなどをバブリングして溶存酸素を除去するか、またはヒドラジンなどの酸化防止剤(還元剤)をあらかじめ水溶液中に添加するなどの方法をとることが好ましい。この場合、還元反応が進み、前駆体である水酸化物が磁性を帯びる可能性がある。この場合は、例えば磁洗などによって磁性を除去するのが好ましい。
また、ヒドラジンの添加量に関しては、反応槽の大きさ、温度、pH、攪拌速度、反応物の濃度などの種々の条件によって変化するが、当業者であれば上記X線回折パターンを得るべく、適宜制御することができる。
図6の(a)はNi、MnおよびCo元素を1:1:1の割合で共晶させて得られる材料を示し、(b)〜(j)はNiおよびMnを1:1の割合で共晶させて得られる材料を示す。これらのピークパターンを見ると、(a)および(b)とそれ以外のものには2点の顕著な違いが有ることがわかる。
まず1点目は、(c)〜(j)においては、36°に非常にシャープなピークが存在することである。特に(e)のピークは著しくシャープで認識し易い。
(c)〜(j)は、全体としてブロードなピークを有するが、(e)に代表されるように一部にシャープなピークX(図6を参照)が存在する。これらのピークはマンガン酸化物、特にMn23に帰属されるピークであると考えられ、JCPDSカードのNo.330900に示されている。
したがって、ニッケル、マンガンまたはコバルトを共晶させた酸化物または水酸化物においては、原子レベルで元素が混合されているのが好ましいが、すでにこの時点で偏在する部分ができ上がっている可能性がある。そして、このようにMn23のピークが観測される酸化物または水酸化物を用いると、後述する実施例で示すが、電池容量の低下を引き起こすことがわかった。
第2点目は、(a)および(b)では、他のものと比較して、15〜20°に観測されるピークの半値幅が小さいことである。さらに図6の(a)〜(j)を解析すると、15〜20°において観測されるピーク高さH1は30〜40°において観測されるピーク高さH2に比べ極めて高く、関係式:
1≧2×H2
を満たすことがわかる。
上記相違点は、(a)および(b)では、前駆体の時点で結晶性がある程度発達していることを意味する。このことは、(a)および(b)と(i)および(j)とを比較するとわかりやすい。(i)および(j)では、明らかなMn23のピークは存在しないものの、これらのピーク強度比および半値幅が(a)および(b)の場合とは明らかに異なる。
従来からは、実際に作製される正極活物質およびそれを用いた電池の性能は、前記正極活物質が同じ条件で作製されたとしても、ロットによって微妙に異なることがある。これに対し、(a)および(b)に示すパターンを有する本発明の前駆体を用いてリチウム含有遷移金属酸化物からなる正極活物質を合成すると、ロットにかかわらず、得られる電池の容量にバラツキが少なく、また容量劣化率の少ない正極活物質が得られる。
つぎに、特定の構造を有する正極活物質を得るには、Li/(Ni+Mn)=1を満たすのが理想的であるが、後述するような種々の目的のために、この比を増加させることも可能である。すなわち、式(2):
Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2
(式中、0≦x≦0.3)で表されるリチウム含有酸化物があげられる。このリチウム含有酸化物中のリチウム原子比をこれ以上に増加させると、活物質としての電気容量が低下するのみならず、目的とする層構造の活物質が合成できなくなる。したがって、0≦x≦0.3を満たすのが好ましい。さらには、0.03≦x≦0.25を満たすのが特に好ましい。焼成の雰囲気は酸化雰囲気であればよい。ここでは、通常の大気雰囲気で検討した。
ここで、一例として、式(2)で表され、かつXが0.1、0.2および0.3の3種のリチウム含有酸化物を合成した。合成の方法としては、共沈法を用いて調製した前駆体であるニッケルマンガン複合水酸化物と水酸化リチウムを乾式で充分に混合する際に、上記比率になるよう水酸化リチウムの量を調整した。また、得られた酸化物を、500℃で8時間の一次焼成、マスコロイダーによる粉砕、950℃で10時間の二次焼成および700℃で5時間の三次焼成に供して、上述のような特定の結晶構造をもたせた。なお、前記酸化物の結晶粒子の結晶構造が層構造であり、前記酸化物を構成する酸素原子の配列が立方最密充填であることは、粉末X線回折像のパターンをリードベルト法によって解析することで確認することができる。
得られた活物質のX線回折像を図7に示す。図7から明らかなように、Xが0.1、0.2および0.3のいずれの場合においても、上段に示したLi/(Ni+Mn)=1を満たす場合と同様のX線回折パターンが観測された。すなわち、ほぼ同じ結晶構造を有していることがわかる。
ただし、(003)のピークの強度が増加すると、(003)および(104)のピーク強度比が変化する。その結果、(003)および(104)に帰属されるX線回折ピークの積分強度比I003/I104の範囲がI003/I104<1から若干ズレる場合が考えられる。
このズレは、結晶構造が変化したことによるものではなく、遷移金属とリチウム元素の比率が変わったことにより散乱強度比が微妙に変化したことによるものと考えられる。a軸長およびc軸長は、共にリチウム元素比が増加するに伴って減少した。
(3)本発明の正極活物質の特性
つぎに、得られた正極活物質の電気化学特性を、コイン型電池を作製することにより評価した。
コイン型電池は以下の手順で作製した。各焼成温度で得られた正極活物質、導電材であるアセチレンブラック、結着剤であるポリフッ化ビニリデン樹脂(以下、「PVDF」という。)を80:10:10の重量比で混合し、シート状成形物を得る。そしてこの成形物を円盤状に打ち抜き、真空中で80℃の温度で約15時間乾燥させ、正極を得た。また、シート状に成形されたリチウム金属を円盤状に打ち抜いて負極とした。セパレータとしてはポリエチレンの微多孔膜を用い、電解液は、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)の1:3(体積比)の混合溶媒に、1モルのLiPF6を溶解して調製した。
そして、これらを用いて常法により、2016サイズ(径が20ミリ、厚み1.6ミリ)のコイン型電池を作製した。作製したコイン型電池を用い、10時間率相当の定電流値で3.0〜4.5Vの間で充放電を繰り返した。いずれの場合も、初期150mAh/g以上の充放電容量を得ることができ、かつ、放電電圧も4V級であることがわかった。
ここで、図8に、特定の構造を有する本発明に係る正極活物質であるLi[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2(式中、Xが0.1、0.2または0.3)の充放電カーブを重ねて示した。この図より、これら3種の充放電電位は同一であることがわかる。また、遷移金属の総量に比例するように充放電容量のみが変化している。図7のX線回折パターンに加えて、このことからもこれら3種の物質が同一の構造を有していることがわかる。さらに、このことを利用して、充放電電位を一定にしつつ、物質中のリチウム元素数をこの範囲で自由に制御することにより、充放電容量をコントロールすることが可能となる。このような充放電挙動をする物質を非電気化学的に合成可能にする本発明は、新しい材料設計の指針を示すことになる。
図9に、Li[Li0.2(Ni1/2Mn1/20.8]O2の5〜2.5Vにおける充放電カーブを示した。この物質は通常リチウム金属に対して4.3Vまでの電位に制御されて電池に適用されている。一般的に用いられているLiCoO2も同様である。しかし、これらの制御が故障した場合は過充電の状態になる。つまり、5V付近まで充電されることになる。このような過充電状態になるとLiCoO2の結晶構造は非常に不安定になる。LiNiO2については後述する実施例4において示すが、LiCoO2の場合も同様である。しかし、Li[Li0.2(Ni1/2Mn1/20.8]O2は1回目の充電でその結晶構造を大きく変化させ熱的に安定な構造となる。図9に示した充放電カーブからもわかるように、1回目の充電とその後の充放電挙動は明らかに異なる。また、図8に示した4.3Vまでの充放電カーブも全く違うものとなっている。
また、Li[Li0.1(Ni1/2Mn1/20.9]O2で示される活物質の場合も、Li[Li0.3(Ni1/2Mn1/20.7]O2で示される活物質の場合も同じ結果が得られた。したがって、このようにリチウムを過剰に含んでいるLi[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2(X=0.1〜0.3)についての結果から、上記のようなメカニズムにより過充電での活物質の熱的安定性が改善され得るというメリットがあることがわかる。このことも従来技術では開示も示唆もされておらず、全く新しい材料設計の指針を示していることになる。
つぎに2種の遷移金属をほぼ同比率で混合することにより新たな機能が発現することを提供している本発明と、LiNiO2などの基準となる物質に何らかの微量の添加元素を添加して構造の安定化を図ろうとする従来技術との違いを再度実験結果をもとに説明する。
従来技術では、4Vクラスの層構造を有する活物質材料を調製しようとする場合は、CoとNiとを組み合わせたり、これらの元素の電位的な特徴を残したまま微量の第三元素を結晶構造の安定化のために添加する方法が通常なされている。しかし、上述のように、このような従来技術は、本発明のように2種の元素をほぼ同一の比率で混合し、新たな機能を発現させるものとは明らかに異なる。
つまり、先行技術および単独の遷移金属元素を含む活物質の電位から予想されることは、Ni−Co>Ni>Ni−Mnの順で、これらを含む酸化物の電圧が高くなることである。しかし、実際にはNi−Mn>Ni>Ni−Coの順で電圧が高くなり全く逆の現象である。この例を図10に示した。LiNiO2を基準に見ると、Coの場合は電位が低下して、電位が低くなるであろうと考えられるMnの場合は電位が上昇している。このことからも、2種の遷移金属を同比率で混合し層構造を有する活物質を合成することで、新たな機能を発現させ得ることは明らかである。
なお、本発明に関する研究は、LiNi1-xMnx2を中心に進めてきた。そして、実質的にニッケルとマンガンが同比率で固溶することで新たな機能を発現することが明らかとなった。これらの材料にさらに新たな添加元素を添加することによって付加価値が得られることは容易に予測可能である。
例えば、式:LiNi1-xMnxz2で表される材料があげられる。例えばAにアルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、イットリウムまたはイッテルビウムなどを適量添加することで、得られる材料の熱的な安定性を改善できることが予想される。また、Aに他の遷移金属を添加することでサイクル寿命や分極の改善を図ることができるとも予想される。さらに、これらの元素を組み合わせることでそれぞれの効果を同時に改善されることも予想される。
具体的な一例を示す。遷移金属であるコバルトを添加した場合、分極の改善を図ることができる。ニッケルとマンガンの比率が1:1であることは重要であるため、この比率を維持したままで、ニッケルおよびマンガンそれぞれとほぼ同数の元素数のコバルトを添加した。すなわち、式:LiCo1/3Ni1/3Mn1/32で表される酸化物を得、その充放電カーブを図11に示した。この図からわかるように、LiNi1/2Mn1/22での場合に比べて放電末期の分極が低減されていることがわかる。鉄を添加した場合にも同様の効果が観測された。
また、アルミニウムを添加した場合は、熱的安定性が向上するという効果が得られることが知られているが、これについては、実施例において示す。
これら添加元素の量は、添加元素と遷移金属元素の合計に対して5〜35モル%の範囲であるのが有効である。5モル%未満では充分な効果が得られず、35モル%を超えると容量が低下するという不具合が生じるからである。また、コバルトを除く添加元素は、結晶粒子を構成する前記リチウム含有酸化物の表面近傍にのみ添加されるのが好ましい。
(4)非水電解質二次電池
以下、本発明の正極を用いた非水電解質(リチウム)二次電池を作製する場合に使用可能な他の構成材料に関して述べる。
本発明における正極を作製するために用いる正極合剤中の導電剤は、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)および人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維および金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀などの金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。
これらのなかでも、人造黒鉛、アセチレンブラック、ニッケル粉末が特に好ましい。導電剤の添加量は、特に限定されないが、1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好ましい。カーボンやグラファイトでは、2〜15重量%が特に好ましい。
本発明における正極合剤中の好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。このようなポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などをあげることができる。これらは、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に混合して用いることができる。
特に、この中で最も好ましいのはポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
正極の集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、種々の合金および炭素などの他、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させた複合体なども用いることができる。
特に、アルミニウムあるいはアルミニウム合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化しておくこともできる。また、表面処理により集電体表面に凹凸を付けてもよい。形状としては、電池の分野において採用されているものであってよく、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群および不織布などがあげられる。厚さは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
本発明で用いられる負極材料としては、リチウム、リチウム合金、合金、金属間化合物、炭素、有機化合物、無機化合物、金属錯体および有機高分子化合物など、リチウムイオンを吸蔵・放出できる化合物であればよい。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができる。
リチウム合金としては、Li−Al系合金(米国特許4002492号など)、Li−Al−Mn系合金、Li−Al−Mg系合金、Li−Al−Sn系合金、Li−Al−In系合金、Li−Al−Cd系合金、Li−Al−Te系合金、Li−Ga系合金(特開昭60−257072号公報)、Li−Cd系合金、Li−In系合金、Li−Pb系合金、Li−Bi系合金およびLi−Mg系合金などがあげられる。この場合、リチウムの含有量は10重量%以上であることが好ましい。
合金、金属間化合物としては遷移金属と珪素の化合物や遷移金属とスズの化合物などがあげられ、特にニッケルまたはチタンと珪素の化合物が好ましい。
炭素質材料としては、コークス、熱分解炭素類、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、黒鉛化メソフェーズ小球体、気相成長炭素、ガラス状炭素類、炭素繊維(ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、セルロース系、気相成長炭素系)、不定形炭素および有機物の焼成された炭素などがあげられる。これらはそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いてもよい。なかでも、メソフェーズ小球体を黒鉛化したもの、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛材料が好ましい。
なお、炭素質材料には、炭素以外にもO、B、P、N、S、SiCおよびB4Cなどの異種化合物を含んでもよい。含有量としては0〜10重量%が好ましい。
無機化合物としては、例えばスズ化合物および珪素化合物などがあげられ、無機酸化物としては、例えばチタン酸化物、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物および鉄酸化物などがあげられる。
また、無機カルコゲナイドとしては、例えば硫化鉄、硫化モリブデンおよび硫化チタンなどがあげられる。
有機高分子化合物としては、例えばポリチオフェンおよびポリアセチレンなどの高分子化合物があげられ、窒化物としては、例えばコバルト窒化物、銅窒化物、ニッケル窒化物、鉄窒化物およびマンガン窒化物などがあげられる。
これらの負極材料は、組み合わせて用いてもよく、例えば炭素と合金の組合せ、または炭素と無機化合物の組合せなどが考えられる。
本発明で用いられる炭素材料の平均粒径は0.1〜60μmが好ましい。より好ましくは0.5〜30μmである。前記炭素材料の比表面積は1〜10m2/gであるのが好ましい。また、結晶構造上は、炭素六角平面の間隔(d002)が3.35〜3.40Åでc軸方向の結晶子の大きさ(LC)が100Å以上の黒鉛が好ましい。
本発明においては、正極活物質にLiが含有されているため、Liを含有しない負極材料(炭素など)を用いることができる。また、そのようなLiを含有しない負極材に、少量(負極材料100重量部に対し、0.01〜10重量部程度)のLiを含有させておくと、一部のLiが電解質などと反応したりして不活性となっても、上記負極材料に含有させたLiで補充することができるので好ましい。
上記のように、負極材料にLiを含有させるには、例えば、負極材料を圧着した集電体上に加熱・溶融したリチウム金属を塗布して負極材にLiを含浸させたり、あるいは予め電極群中に圧着などによりリチウム金属を貼付し、電解液中で電気化学的に負極材料中にLiをドープさせたりすればよい。
負極合剤中の導電剤は、正極合剤中の導電剤と同様に、構成された電池において、化学変化を起こさない電子伝導性材料であれば特に制限はない。また、負極材料に炭素質材料を用いる場合は炭素質材料自体が電子伝導性を有するので導電剤を含有してもしなくてもよい。
負極合剤中の結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、好ましい結着剤は、分解温度が300℃以上のポリマーである。
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロ
トリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重
合体およびフッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などあげることができる。より好ましくは、スチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデンである。なかでも最も好ましいのは、スチレンブタジエンゴムである。
負極の集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限はない。集電体を構成する材料としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、銅、チタンおよび炭素などの他、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンまたは銀で処理したもの、Al−Cd合金などが用いられる。特に、銅または銅合金が好ましい。これらの材料の表面を酸化してもよい。また、表面処理により集電体表面に凹凸を付けてもよい。
形状は、上記正極の場合と同様に、例えば箔、フィルム、シート、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体および繊維群の成形体などが用いられる。厚みは、特に限定されないが、1〜500μmのものが好ましく用いられる。
電極合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤及びその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素などの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、0〜30重量%が好ましい。
本発明における正極および負極は、正極活物質または負極材料を含む合剤層の他に、集電体と合剤層の密着性、導電性、サイクル特性および充放電効率の改良などの目的で導入する下塗り層や合剤層の機械的保護や化学的保護の目的で導入する保護層などを有してもよい。この下塗り層や保護層は、結着剤や導電剤粒子、導電性を持たない粒子などを含むことができる。
セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の微多孔性薄膜が用いられる。また、80℃以上で孔を閉塞し、抵抗をあげる機能を持つことが好ましい。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレン、ポリエチレンなどの単独又は組み合わせたオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維などからつくられたシートや不織布が用いられる。
セパレータの孔径は、電極シートより脱離した活物質、結着剤および導電剤などが透過しない範囲であることが望ましく、例えば、0.1〜1μmであるのが望ましい。セパレータの厚みは、一般的には、10〜300μmが好ましく用いられる。また、空孔率は、電子やイオンの透過性と素材や膜圧に応じて決定されるが、一般的には30〜80%であることが望ましい。また、ガラスや金属酸化物フィルムなどの難燃材、不燃材を用いればより電池の安全性は向上する。
本発明における非水電解液は、溶媒とその溶媒に溶解したリチウム塩とから構成されている。好ましい溶媒は、エステル単独、または混合したエステルである。なかでも、環状カーボネート、環状カルボン酸エステル、非環状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステルなどが好ましい。さらには、環状カーボネートと非環状カーボネートとを含む混合溶媒、環状カルボン酸エステルと環状カーボネートとを含む混合溶媒が好ましい。
前記溶媒の具体例、および本発明において用いられるその他の溶媒を以下に例示する。
非水溶媒に用いるエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)などの非環状カーボネート、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、プロピオン酸メチル(MP)およびプロピオン酸エチル(MA)などの脂肪族カルボン酸エステル、γ−ブチロラクトン(GBL)などの環状カルボン酸エステルなどがあげられる。
環状カーボネートとしてはEC、PC、VCなどが特に好ましく、環状カルボン酸エステルとしてはGBLなどが特に好ましく、非環状カーボネートとしてはDMC、DEC、EMCなどが好ましい。また、必要に応じて、脂肪族カルボン酸エステルを含むものも好ましい。
脂肪族カルボン酸エステルは溶媒重量全体の30%以下、より好ましくは20%以下の範囲で含むことが好ましい。
なお、本発明の電解液の溶媒は上記エステルを80%以上含む以外に、公知の非プロトン性有機溶媒を含んでもよい。
また、前記溶媒に溶解するリチウム塩としては、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiAsF6、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiN(CF3SO2)(C25SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)などのイミド類をあげることができる。これらは、使用する電解液などに、それぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて使用することができる。なかでも、特にLiPF6を含ませることがより好ましい。
本発明において特に好ましい非水電解液は、溶媒としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを少なくとも含み、リチウム塩としてLiPF6を含む電解液である。また、GBLを主溶媒として含む電解液も好ましく、この場合には、VCなどの添加剤を数%添加し、リチウム塩としてLiPF6以外のLiBF4とLiN(C25SO22の混合塩を用いることが好ましい。
これら電解液を電池内に添加する量は、特に限定されないが、正極活物質や負極材料の量や電池のサイズによって必要量用いればよい。リチウム塩の非水溶媒に対する溶解量は、特に限定されないが、0.2〜2mol/リットルが好ましい。特に、0.5〜1.5mol/リットルであるのがより好ましい。
この電解液は、通常、多孔性ポリマー、ガラスフィルタ、不織布などのセパレータに含浸または充填させて使用される。
また、電解液を不燃性にするために、含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化塩化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性をもたせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
また、電解液の他に、つぎのような固体電解質も用いることができる。固体電解質としては、無機固体電解質と有機固体電解質に分けられる。
一般的な無機固体電解質として、例えばLiの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などがよく知られている。これらのなかでも、Li4SiO4、Li4SiO4−LiI−LiOH、xLi3PO4-(1-x)Li4SiO4、Li2SiS3、Li3PO4−Li2S−SiS2、硫化リン化合物などが有効である。
有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などのポリマー材料が有効である。
また、有機固体電解質に上記非水電解液を含有させたゲル電解質を用いることもできる。上記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンなどやこれらの誘導体、混合物、複合体などの高分子マトリックス材料が有効である。特に、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体やポリフッ化ビニリデンとポリエチレンオキサイドの混合物が好ましい。
電池の形状としては、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、偏平型、角型などいずれにも適用できる。電池の形状がコイン型やボタン型のときは、正極活物質や負極材料の合剤はペレットの形状に圧縮されて主に用いられる。そのペレットの厚みや直径は電池の大きさにより決定すればよい。
また、電池の形状がシート型、円筒型、角型のとき、正極活物質や負極材料の合剤は、集電体の上に塗布(コート)、乾燥、圧縮されて、主に用いられる。塗布方法は、一般的な方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、キャスティング法、ディップ法およびスクイーズ法などあげることができる。そのなかでもブレード法、ナイフ法およびエクストルージョン法が好ましい。
塗布は、0.1〜100m/分の速度で実施されることが好ましい。この際、合剤の溶液物性、乾燥性に合わせて、上記塗布方法を選定することにより、良好な塗布層の表面状態を得ることができる。塗布は、片面ずつ逐時でも両面同時でもよい。また、塗布層を集電体の両側に設けるのが好ましく、一方の面の塗布層が合剤層を含む複数層から構成されていてもよい。合剤層は、正極活物質や負極材料のようにリチウムイオンの挿入および放出に関わる物質の他に、結着剤や導電材料などを含む。合剤層の他に、活物質を含まない保護層、集電体上に設けられる下塗り層、合剤層間に設けられる中間層等を有していてもよい。これらの活物質を有さない層は、導電性粒子や絶縁性粒子、結着剤を含むのが好ましい。
また、塗布方法は連続でも間欠でもストライプでもよい。その塗布層の厚み、長さや巾は、電池の大きさにより決められるが、片面の塗布層の厚みは、ドライ後の圧縮された状態で、1〜2000μmが特に好ましい。
ペレットやシートの乾燥または脱水方法としては、一般に採用されている方法を利用することができる。特に、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低湿風を、単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。
温度は80〜350℃の範囲が好ましく、特に100〜250℃の範囲が好ましい。含水量は電池全体で2000ppm以下が好ましく、正極合剤、負極合剤や電解質ではそれぞれ500ppm以下にすることがサイクル性の点で好ましい。
シートのプレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やカレンダープレス法が好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、0.2〜3t/cm2が好ましい。カレンダープレス法のプレス速度は、0.1〜50m/分が好ましい。
プレス温度は、室温〜200℃が好ましい。負極シートに対する正極シートの幅の比率は0.9〜1.1が好ましく、特に0.95〜1.0が好ましい。正極活物質と負極材料の含有量比は、化合物種類や合剤処方により異なるため、限定できないが、容量、サイクル性、安全性の観点で最適な値に設定できる。
なお、本発明における電極の巻回体は、必ずしも真円筒形である必要はなく、その断面が楕円である長円筒形や長方形等の角柱状の形状であっても構わない。
以下に、実施例に代表させて本発明を説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
参考例1および比較例1
図12に作製した円筒型電池の概略縦断面図を示す。
正極板および負極板がセパレータを介して複数回渦巻状に巻回された極板群14が電池ケース11内に収納されている。そして、正極板からは正極リード15が引き出されて封口板12に接続され、負極板からは負極リード16が引き出されて電池ケース11の底部に接続されている。電池ケースやリード板は、耐有機電解液性の電子伝導性をもつ金属や合金を用いることができる。例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン、銅、アルミニウムなどの金属またはそれらの合金が用いられる。特に、電池ケースはステンレス鋼板、Al−Mn合金板を加工したもの、正極リードはアルミニウム、負極リードはニッケルが最も好ましい。また、電池ケースには、軽量化を図るため各種エンジニアリングプラスチックスおよびこれと金属の併用したものを用いることもできる。
極板群14の上下部にはそれぞれ絶縁リング17が設けられている。そして、電解液を注入し、封口板を用いて電池ケースを密封する。このとき、安全弁を封口板に設けることができる。安全弁の他、従来から知られている種々の安全素子を備えつけてもよい。例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC素子などが用いられる。また、安全弁のほかに電池ケースの内圧上昇の対策として、電池ケースに切込を入れる方法、ガスケット亀裂方法、封口板亀裂方法またはリード板との切断方法を利用することができる。また、充電器に過充電や過放電対策を組み込んだ保護回路を接続させてもよい。
また、過充電対策として、電池内圧の上昇により電流を遮断する方式を具備することができる。このとき、内圧を上げる化合物を合剤の中あるいは電解質の中に含ませることができる。内圧を上げる化合物としてはLi2CO3、LiHCO3、Na2CO3、NaHCO3、CaCO3およびMgCO3などの炭酸塩などがあげられる。キャップ、電池ケース、シート、リード板の溶接法は、公知の方法(例、直流もしくは交流の電気溶接、レーザー溶接または超音波溶接など)を用いることができる。また、封口用シール剤は、アスファルトなどの従来から知られている化合物や混合物を用いることができる。
正極板は以下のように作製した。本発明の正極活物質粉末85重量部に対し、導電剤の炭素粉末10重量部と結着剤のポリフッ化ビニリデン樹脂5重量部を混合する。これらを脱水N−メチルピロリジノンに分散させてスラリーを得、アルミニウム箔からなる正極集電体上に塗布し、乾燥・圧延した後、所定の大きさに切断する。負極板は、主材料である炭素質材料とスチレンブタジエンゴム系結着剤とを重量比で100:5の割合で混合したものを銅箔の両面に塗着し、前記銅箔を乾燥、圧延した後、所定の大きさに切断したものである。また、セパレータはポリエチレン製の微多孔フィルムである。また、有機電解液には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.5モル/リットル溶解したものを使用した。作製した円筒型電池は直径18mm、高さ650mmである。
正極活物質としては、式(2):Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2で表され、Xが0、0.1、0.2または0.3の4種類の正極活物質を用いた。
なお、比較のために正極活物資としてLiCO2を用いて同様の方法で円筒電池を作製した。表2にこれらの電池の電気特性を比較した結果を示した。
これらの電池を100mAの定電流で、まず4.2Vになるまで充電した後、100mAの定電流で2.0Vになるまで放電する充放電を行った。この充放電を数サイクル繰り返し、ほぼ電池容量が一定になったところで容量を確認した。
容量の確認の条件は以下のとおりである。まず充電は、4.2Vの定電圧充電で最大電流は1Aとした。充電の終了は電流値が50mAに達したときとした。
放電は300mAの定電流放電で2.5Vまで放電した。このとき得られた放電容量を、電池の放電容量とした。充放電の雰囲気は25℃で行った。また、ハイレート放電比率は電池容量を1Cとしたときに5時間率放電の電流値(0.2C)と0.5時間率放電の電流値(2C)でそれぞれの放電容量を測定し、0、2C/2Cの容量比率で表したものである。低温放電比率は1C電流で20℃で放電した場合と−10℃で放電した場合の放電容量比率(−10℃/20℃)で示した。また、サイクル寿命は100サイクル時点での初期容量に対する容量比率を示した。
Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2で表される酸化物を正極活物質として使用した場合は、前述したようにほぼ同じ放電電圧で充放電を繰り返した。また、表2からもわかるように、xの値が増加するにしたがって電池容量が減少し、リチウム元素数を上記範囲内で自由に制御することによって充放電容量を制御することが可能となる。このような充放電挙動をする正極活物質を非電気化学的に合成する本発明は、新しい材料設計の指針を示すことになる。
さらに、表2の結果より、試験したすべての項目で、本発明の電池が優れていることがわかる。したがって、本発明の材料を正極活物質としてリチウム二次電池に適用することで従来主流であるLiCoO2よりも優れた電池を提供することができる。
参考例2:分極の低減
LiNiO2やLiMnO2は電子伝導性がそれほど良好であるとはいえない。これにより、放電末期に大きな分極を起こし、ハイレート放電時などには特に容量が減少することになる。ニッケル元素とマンガン元素は互いに異なった電子構造をもつ。ところが、これらを原子レベルで固溶すると近接した異種元素の電子構造と相互作用を起こす。
ニッケルとマンガンの組み合わせでは、特にこの現象が材料の電子伝導性を向上させるように作用し、電導性を付与できる。これは、DV−xα法などの計算化学によっても明らかにできると考えられる。
前記酸化物の組成がLiNi1/2Mn1/22の場合は、LiNiO2の場合やLiMnO2の場合と比較して、明らかに分極を低減することができる。さらに、ニッケルとマンガンの比率を1:1に保持したまま他の遷移金属元素を添加することにより分極を低減させることが可能である。ここでは、式:LiCo1/3Ni1/3Mn1/32で表される酸化物を合成した。表3に示したハイレート放電率測定と同様の試験を図12に示す電池で測定した。
表3より、ハイレート放電率がコバルト元素の添加によって向上していることがわかる。このことは、放電末期には分極が起こって放電電圧が急激に低下するが、この部分の電圧降下を改善することで向上されたものと考えられる。また、同元素を添加した場合にも同様の効果が観測された。
実施例1:材料の安定性
LiNiO2は充電してLiが抜けると非常に不安定になり、比較的低温で酸素を離してNiOに還元される。このことは、電池の正極活物質として使用する場合は致命的で、発生する酸素が要因で電池の熱暴走、つまり、発火や破裂に導かれることが予想される。
これも、マンガンを1:1の比率で固溶させることで改善できる。参考例1で使用した電池を4.8Vまで過充電した。その後、電池を分解して正極合剤を取り出した。この材料をそのままDSC(示差走査熱量計)測定にかけた。このとき得られる最も低い温度で観測される発熱ピークを表4に示す。
また、アルミニウムを添加すると熱的安定性が向上することがよく知られている。LiNi1/2Mn1/22にアルミニウムを添加した正極活物質を用い、上記と同様の試験を行った。アルミニウムの添加量はニッケルおよびコバルト元素の総量の10原子%とした。また、参考例1と同様に図12に示す電池を作製して4.8Vまで過充電し、同様にDSC測定を行った。結果を表4に示した。
表4から、実施例1においては、比較例に比べて発熱温度が上昇していることがわかる。また、式:Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2中のxの値が大きくなるにしたがって発熱温度が上昇している。この理由は、以下のように考えられる。
すなわち、図9に示したように、Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2の結晶構造は過充電によって大きく変化し熱的に安定になる。このことから、リチウムを過剰に添加したLi[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2(x=0.1〜0.3)においてこのようなメカニズムにより過充電での熱的安定性が向上するものと考えられる。さらに、アルミニウムを添加した場合は、さらに発熱温度が上昇し、熱的安定性が飛躍的に上昇しているのがわかる。アルミニウムの添加量を検討したところ、アルミニウムと遷移金属の合計に対して5〜35モル%の範囲で好ましい結果が得られた。5%未満では充分な効果が得られず、35%を超えると容量が低下した。
なお、実施例では正極の性能を評価するために負極の活物質として炭素質を用いたが、これに限定されるものではなく、合金やリチウム金属、その他比較的電位の低い酸化物、窒化物なども採用できる。また、電解液に関しても実施例では、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.5モル/リットル溶解したものを使用したが、これに限定されるものではなく、有機あるいは無機の固体電解質なども採用できる。
参考例3〜4および比較例2〜9:前駆体のピーク
1.2モル/リットルの硫酸ニッケル水溶液、1.2モル/リットルの硫酸マンガン水溶液および1.2モル/リットルの硫酸コバルト水溶液の混合溶液、ならびに4.8モル/リットルのNaOH水溶液および4.8モル/リットルのNH3溶液を、0.5ミリリットル/分の速度で図4に示す装置の反応槽6に導入し、本発明の前駆体aであるニッケルマンガンコバルト複合水酸化物を得た。なお、反応槽中の溶存酸素は、アルゴンガスでバブリングすることによってパージした。また、反応物である前駆体の中に過度に還元されたCoOなどの磁性体が混入しないように、ヒドラジンを調整しながら添加した。この前駆体aのX線回折パターンは図6の(a)に示した。
前記前駆体aと水酸化リチウムとをLi、Ni、MnおよびCoの原子比がLi/(Ni+Mn+Co)=1を満たすように混合し、一気に1000℃まで昇温してその温度で10時間焼成した。そして、焼成が終了した後に温度を下げるときには、一度700℃で5時間アニールした後に除冷をし、リチウム含有酸化物からなる本発明に係る正極活物質a(LiNi1/3Mn1/3Co1/32)を得た(参考例3)。
つぎに、硫酸コバルトを用いない他は上記と同様にして、本発明の前駆体bであるニッケルマンガン酸化物を得た(ニッケル:マンガン=1:1)。この前駆体のX線回折パターンは図6の(b)に示した。
さらに、前記前駆体bと水酸化リチウムとをLi、NiおよびMnの原子比がLi/(Ni+Mn)=1を満たすように混合し、得られた混合物を一気に1000℃まで昇温してその温度で10時間焼成した。そして、焼成が終了した後に温度を下げるときは、一度700℃で5時間アニールした後に除冷をし、リチウム含有酸化物からなる本発明に係る正極活物質b(LiNi1/2Mn1/22)を得た(参考例4)。
さらに、アルゴンガスのバブリングおよびヒドラジンの添加を行わない他は上記と同様にしてニッケル:マンガン=1:1のニッケルマンガン水酸化物c〜jを得(比較例2〜9)、これらのX線回折パターンを図6の(c)〜(j)に示した。また、これら水酸化物c〜jと水酸化リチウムを用いて、上記と同様にして正極活物質c〜jを得た(比較例2〜9)。
つぎに、得られた正極活物質の電気化学特性を、コイン型電池を作製することにより評価した。
コイン型電池は以下の手順で作製した。各焼成温度で得られた正極活物質a〜j、導電材であるアセチレンブラック、結着剤であるポリフッ化ビニリデン樹脂(以下、PVDFという)を80:10:10の重量比で混合し、シート状成形物を得た。この成形物を円盤状に打ち抜き、真空中で80℃の温度で約15時間乾燥させ、正極を得た。また、シート状に成形されたリチウム金属を円盤状に打ち抜いて負極とした。セパレータとしてはポリエチレンの微多孔膜を用い、電解液は、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)の1:3(体積比)の混合溶媒に、1モルのLiPF6を溶解し調製した。
そして、これらを用いて常法により、2016サイズ(径が20ミリ、厚み1.6ミリ)のコイン型電池を作製し、10時間率相当の定電流値で4.3Vで放電した。正極活物質のグラム当たりの放電容量を求めた。結果を表5に示した。
また、参考例1と同様にして円筒型電池を作製し、同様にサイクル寿命を求めた。これらの結果を表5に示した。
本発明によれば、安価なニッケルマンガン複合酸化物を正極活物質として有効に利用でき、高容量で充放電効率の良好な非水電解質電池を提供することができる。
共沈法により正極活物質を製造するために用いる実験設備の概略図である。 正極活物質の前駆体の表面のSEM(走査式電子顕微鏡)写真である。 正極活物質の前駆体の断面のSEM写真である。 共沈法により正極活物質を製造するために用いる別の実験設備の概略図である。 正極活物質の前駆体のSEM写真である。 本発明の実施例、参考例および比較例において各種条件で作製した前駆体のX線回折パターンを示す図である。 各組成を有するリチウム含有ニッケルマンガン酸化物のX線回折像である。 Li[Lix(Ni1/2Mn1/21-x]O2(Xは0.1、0.2または0.3)の充放電カーブを示す図である。 Li[Li0.2(Ni1/2Mn1/20.8]O2の5〜2.5Vにおける充放電カーブを示す図である。 種々の遷移金属元素を含むリチウム含有酸化物の充放電カーブを示す図である。 LiCo1/3Ni1/3Mn1/32の充放電カーブを示す図である。 本発明の一実施例に係る円筒型電池の概略縦断面図である。
符号の説明
1 反応槽
2 チューブ
3 撹拌棒
4 ポンプ
5 供給口
6 反応槽
7 捕集部
11 電池ケース
12 封口板
13 絶縁パッキング
14 極板群
15 正極リード
16 負極リード
17 絶縁リング

Claims (4)

  1. リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な物質および/または金属リチウムを負極活物質として含む負極、セパレータ、式:Li[Lix(NiyMnyp1-x]O2(式中、CはNiおよびMnと異なる少なくとも1種の添加元素、0.1≦x≦0.3、0<2y+p≦1、0≦p)で表されるリチウム含有酸化物を含む正極、ならびに電解質を有する非水電解質二次電池の化成方法であって、
    前記リチウム含有酸化物を過充電状態にすることにより、前記リチウム含有酸化物の結晶構造を変化させる、非水電解質二次電池の化成方法。
  2. 前記リチウム含有酸化物の結晶粒子において、NiとMnとが原子レベルで均一に分散している、請求項1記載の非水電解質二次電池の化成方法。
  3. リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能な物質および/または金属リチウムを負極活物質として含む負極、セパレータ、式:Li[Lix(NiyMnyp1-x]O2(式中、CはNiおよびMnと異なる少なくとも1種の添加元素、0.1≦x≦0.3、0<2y+p≦1、0≦p)で表されるリチウム含有酸化物を含む正極、ならびに電解質を有する電池前駆体を組み立てる工程、
    前記電池前駆体を、前記リチウム含有酸化物が過充電状態になるまで充電することにより、前記リチウム含有酸化物の結晶構造を変化させる工程、を含む非水電解質二次電池の製造方法。
  4. 前記リチウム含有酸化物の結晶粒子において、NiとMnとが原子レベルで均一に分散している、請求項3記載の非水電解質二次電池の製造方法。
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