本発明は、衛星から擬似雑音符号により変調された衛星信号に基づいて移動体位置を測位する移動体用測位装置及びプログラム並びに記録媒体に関する。
従来から、全GPS衛星信号の初期捕捉をシリアルに行う捕捉専用チャネルにおいては、逆拡散方式としてマッチドフィルタを用い、その出力を巡回積分し、全GPS衛星信号の初期捕捉後の衛星毎の処理を個別に行う各チャネルにおいては、ベースバンドに周波数変換された受信信号に対してスライディング相関による逆拡散後に復調を行うと共に、前記逆拡散出力によりキャリア追尾制御を行い、前記スライディング相関で用いた参照C/Aコードに対して±0.5チップだけ位相のずれた2対の参照C/Aコードを用いて前記受信信号に対して2対のスライディング相関による逆拡散を行いその出力レベルの差を用いてコード追尾制御を行うと共に、出力レベルがピークとなる参照C/Aコードの位相(擬似距離)を抽出し、このような処理を初期捕捉専用チャンネル以外の全チャネルで行い、全チャネルで抽出された前記擬似距離から測位演算を行う技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2004−219076号公報
ところで、実際のGPS衛星からの電波(衛星信号)には、GPS衛星からGPS受信機までの間に、熱雑音(自然界に存在するノイズ)が加わるので、C/Aコード等の擬似雑音符号に基づき擬似距離を算出する構成においては、擬似距離のばらつきを収束させるのに長い時間を要する。
この点、従来的には、上述の特許文献1に記載される技術のように、1観測周期で一の衛星に対して唯一の擬似距離しか算出しないので、1観測周期での観測データの情報量が少なく、擬似距離のばらつきを収束させるのには多数の観測周期での観測データが必要となる。即ち、上述の特許文献1に記載される技術では、一のチャンネル(一の衛星)に対して、出力レベルがピークとなる参照C/Aコードの位相(擬似距離)しか抽出しないので、早期に擬似距離のばらつきを収束させることができないという、問題点がある。
そこで、本発明は、早期に擬似距離のばらつきを収束させることができる移動体用測位装置及びプログラム並びに記録媒体の提供を目的とする。
上記目的を達成するため、第1の発明は、移動体に搭載され、該移動体の位置を測位する移動体用測位装置であって、
衛星から送られる擬似雑音符号により変調された衛星信号を観測する観測手段と、
前記観測手段により観測された衛星信号の1観測周期分の観測データを用いて、1つの衛星に対して2つ以上の擬似距離を算出する擬似距離算出手段と、
前記擬似距離算出手段により算出された2つ以上の擬似距離を結合して、1つの結合擬似距離を算出する結合擬似距離算出手段と、
該結合擬似距離算出手段により算出された前記結合擬似距離を用いて移動体位置を測位する測位演算手段とを備えることを特徴とする。
第1の発明によれば、1観測周期で複数の擬似距離が算出されるので、1観測周期で利用可能な情報量を効率的に増加させることができる。従って、これら複数の擬似距離を結合して1つのGPS衛星に対する1つの擬似距離(結合擬似距離)を算出することにより、衛星信号に熱雑音等が重畳される場合でも早期に擬似距離のばらつきを収束させることが可能となる。
第2の発明は、第1の発明に係る移動体用測位装置において、
前記擬似距離算出手段が、1種類の擬似雑音符号に基づいて前記2つ以上の擬似距離を算出し、
前記擬似距離算出手段が、互いに追尾点の異なる2つ以上のレプリカ擬似雑音符号を用いて、前記2つ以上の擬似距離をそれぞれ算出することを特徴とする。これにより、結合させるのに適した信頼性の高い擬似距離を複数算出することが可能となる。
第3の発明は、第1又は2の発明に係る移動体用測位装置において、
前記擬似距離算出手段が、1種類の擬似雑音符号に基づいて前記2つ以上の擬似距離を算出し、
前記擬似距離算出手段が、コリレータ間隔の異なる2つ以上のレプリカ擬似雑音符号を用いて、前記2つ以上の擬似距離をそれぞれ算出することを特徴とする。これにより、結合させるのに適した信頼性の高い擬似距離を複数算出することが可能となる。
第4の発明は、第3の発明に係る移動体用測位装置において、
前記結合擬似距離算出手段が、コリレータ間隔の相違に応じた重みを用いて、前記擬似距離算出手段により算出された2つ以上の擬似距離を結合することを特徴とする。これにより、コリレータ間隔の相違に応じたバラツキ傾向の相違を適切に加味して、複数の擬似距離の結合処理を実現することが可能となる。
第5の発明は、第2の発明に係る移動体用測位装置において、
前記擬似距離算出手段が、1種類の擬似雑音符号に基づいて前記2つ以上の擬似距離を算出し、
前記互いに追尾点の異なる2つ以上のレプリカ擬似雑音符号が、相関値のピーク値を取る位相に対して位相が進んだ互いに位相の異なる複数のEarlyレプリカ符号と、相関値のピーク値を取る位相に対して位相が遅れた互いに位相の異なる複数のLateレプリカ符号とに基づいて生成されることを特徴とする。これにより、結合させるのに適した信頼性の高い擬似距離を複数算出することが可能となる。
第6の発明は、第5の発明に係る移動体用測位装置において、
前記追尾点が、各レプリカ符号の相対位相に対する相関値のプロット点を表す2次元座標を想定した際に、2つのEarlyレプリカ符号の相関値のプロット点間を結ぶ直線と、2つのLateレプリカ符号の相関値のプロット点間を結ぶ直線との交点の相対位相に基づいて、決定されることを特徴とする。これにより、信頼性の高い追尾点を効率的に決定することが可能となる。
第7の発明は、第1の発明に係る移動体用測位装置において、
前記擬似距離算出手段が、1種類の擬似雑音符号に基づいて、又は、異なる2種類以上の擬似雑音符号に基づいて、前記2つ以上の擬似距離を算出することを特徴とする。これにより、1種類の擬似雑音符号に基づく場合には、少ないリソースを用いて複数の擬似距離を効率的に算出することが可能となり、異なる2種類以上の擬似雑音符号に基づく場合には、利用可能なリソースを最大限に利用して、信頼性の高い擬似距離を複数算出することが可能となる。
第8の発明は、第1の発明に係る移動体用測位装置において、
前記擬似距離算出手段が、
前記観測手段により観測された衛星信号の観測データに基づいて、擬似距離を算出する実測擬似距離算出手段と、
衛星軌道情報と、前記測位演算手段による前回周期の測位結果に基づく移動体位置情報と、移動体の挙動を検出するセンサからの情報とに基づいて、移動体と衛星間の幾何的な距離に時計誤差分の距離を加味した推測擬似距離を算出する推測擬似距離算出手段と、を備え、
前記2つ以上の擬似距離が、前記実測擬似距離算出手段により算出される実測擬似距離と、前記推測擬似距離算出手段により算出される推測擬似距離とを含むことを特徴とする。これにより、衛星信号の擬似雑音符号から直接的に導出される実測擬似距離に加えて、推測擬似距離が、衛星信号の擬似雑音符号とは無関係に或いは擬似雑音符号から間接的に算出される。従って、一観測周期で結合させることができる擬似距離の数を効率的に増やすことができ、その結果、より早期に擬似距離のばらつきを収束させることが可能となる。
第9の発明は、第8の発明に係る移動体用測位装置において、
前記実測擬似距離が、1種類の擬似雑音符号に基づいて算出される1つ以上の実測擬似距離、又は、異なる2種類以上の擬似雑音符号に基づいて算出される2つ以上の実測擬似距離を含むことを特徴とする。これにより、1種類の擬似雑音符号に基づく場合には、少ないリソースを用いて複数の擬似距離を効率的に算出することが可能となり、異なる2種類以上の擬似雑音符号に基づく場合には、利用可能なリソースを最大限に利用して、信頼性の高い擬似距離を複数算出することが可能となる。
第10の発明は、第1〜9の何れかの発明に係る移動体用測位装置において、
前記結合擬似距離算出手段が、前記2つ以上の擬似距離を平均化することで前記結合を実現することを特徴とする。これにより、複数の擬似距離を適切な結合態様で結合させることが可能となる。
第11の発明は、第1〜9の何れかの発明に係る移動体用測位装置において、
前記2つ以上の擬似距離のそれぞれの分散値を算出する分散値算出手段を更に備え、
前記結合擬似距離算出手段が、該分散値算出手段により算出された分散値を用いて、前記2つ以上の擬似距離を結合することを特徴とする。これにより、複数の擬似距離のそれぞれの分散値を加味した適切な結合態様で、複数の擬似距離の結合処理を実現することが可能となる。
第12の発明は、第11の発明に係る移動体用測位装置において、
前記結合擬似距離算出手段が、前記2つ以上の擬似距離のそれぞれに重み付けを行って平均化することで前記結合を実現し、その際に、分散値が小さい擬似距離に対して分散値が大きい擬似距離よりも大きい重みを付与することを特徴とする。これにより、複数の擬似距離のそれぞれの分散の大きさ(バラツキ度合い)の相違を加味した適切な結合態様で、複数の擬似距離の結合処理を実現することが可能となる。
第13の発明は、第11又は12の発明に係る移動体用測位装置において、
前記分散値算出手段が、C/Nを算出するC/N算出手段を備え、算出されたC/Nに基づいて前記擬似距離の分散値を算出することを特徴とする。これにより、算出されたC/Nに基づいて信頼性の高い分散値を得ることが可能となる。
第14の発明は、第13の発明に係る移動体用測位装置において、
前記C/N算出手段は、衛星軌道情報と移動体位置情報とに基づいて、C/Nを推測する推定C/N算出手段を含むことを特徴とする。これにより、C/N及びひいては分散値を少ない観測周期で得ることが可能となる。
第15の発明は、第13の発明に係る移動体用測位装置において、
前記C/N算出手段は、衛星軌道情報と移動体位置情報とに基づいて、C/Nを推測する推測C/N算出手段と、複数の観測周期での前記衛星信号の受信結果に基づいてC/Nの平均値を算出する実測C/N算出手段と、前記推測C/Nと前記実測C/Nとを結合するC/N結合手段とを備え、
前記分散値算出手段が、前記C/N結合手段により結合されたC/Nに基づいて、擬似距離の分散値を算出することを特徴とする。これにより、C/N及びひいては分散値を少ない観測周期で利用可能としつつ、観測時間の経過と共に信頼性の高い分散値を得ることが可能となる。
第16の発明は、第15の発明に係る移動体用測位装置において、
前記C/N結合手段が、前記推測C/Nと前記実測C/Nのそれぞれに重み付けを行って平均化することで前記結合を実現し、その際に、前記実測C/Nの平均値に対して前記推測C/Nよりも大きい重みを付与することを特徴とする。これにより、C/N及びひいては分散値を少ない観測周期で利用可能としつつ、観測時間の経過と共に信頼性が高くなる分散値を得ることが可能となる。
第17の発明は、第1〜16の何れかの発明に係る移動体用測位装置を実現するために用いられるコンピューター読み取り可能なプログラムであって、
コンピューターをして前記結合擬似距離算出手段の結合処理を実行させるように構成された指令を含むことを特徴とする。
第18の発明は、第17の発明に係るプログラムが記憶されたコンピューター読み取り可能な記録媒体。
本発明によれば、1観測周期で早期に擬似距離のばらつきを収束させることができる移動体用測位装置及びプログラム並びに記録媒体が得られる。
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
図1は、本発明に係る移動体用測位装置が適用されるGPS(Global Positioning System)の全体的な構成を示すシステム構成図である。図1に示すように、GPSは、地球周りを周回するGPS衛星10と、地球上に位置し地球上を移動しうる移動局30とから構成される。ここでは、移動局30は、車両であるとする。但し、移動局30としては、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末を含む。
GPS衛星10は、航法メッセージを地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGPS衛星10に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。尚、L1波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波の合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1が不規則に周期的に並ぶ符号列である。
尚、現在、24個のGPS衛星10が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、各4個のGPS衛星10が55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面に均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGPS衛星10が観測可能である。
移動局30には、移動体用測位装置としてのGPS受信機1が搭載される。GPS受信機1は、以下で詳説する如く、GPS衛星10からの衛星信号に基づいて、移動局30の位置を測位する。
図2は、図1の移動局30に搭載されるGPS受信機1の一実施例を示す概略的なシステム構成図である。図2には、説明の複雑化を避けるため、GPS衛星101(下付きの符号は、衛星識別番号)が1つだけ示されている。GPS衛星101からの衛星信号に関する信号処理は、他のGPS衛星2,103等からの衛星信号に関する信号処理と実質的に同じである。従って、以下では、特に言及しない限り、GPS衛星101に係る信号処理を想定して説明を続ける。尚、以下で説明する信号処理は、観測可能な各GPS衛星101,102,103等からの衛星信号に対して並列的(同時)に実行される。
本実施例のGPS受信機1は、図2に示すように、GPSアンテナ20と、高周波回路22と、A/D(analog-to-digital)変換回路24と、信号処理回路100と、INSセンサ26と、各種センサ28と、地図DB(データベース)30と、演算部32とを備える。演算部32は、信号処理回路100と、測位演算回路200とを備える。
GPSアンテナ20は、GPS衛星101から発信されている衛生信号を受信し、受信した衛星信号を電圧信号(本例では、周波数1.5GHz)に変換する。1.5GHzの電圧信号をRF(radio frequency)信号と称する。
高周波回路22は、GPSアンテナ20を介して供給される微弱なRF信号を後段でA/D変換できるレベルまで増幅すると共に、RF信号の周波数を信号処理できる中間周波数(典型的には、1MHz〜20MHz)に変換する。尚、このようにRF信号をダウンコンバートして得られる信号を、IF(Intermediate frequency)信号と称する。
A/D変換回路24は、高周波回路22から供給されるIF信号(アナログ信号)を、デジタル信号処理ができるようにデジタルIF信号に変換する。
信号処理回路100は、A/D変換回路24から供給されるデジタルIF信号からC/Aコード同期(後述)を行い、航法メッセージを取り出すと共に、GPS衛星101と移動局30との間の擬似距離を算出する。擬似距離の算出方法については後に詳説する。擬似距離とは、GPS衛星101と移動局30との間の真の距離とは異なり、時計誤差(クロックバイアス)や電波伝搬速度変化による誤差を含む。
ここで、GPS衛星101に対する擬似距離ρ1は、以下のように表せる。
ρ1=c・τu+b 式(1)
ここで、cは光速であり、bは、誤差成分であり、主に、時計誤差による距離誤差に対応する。τuは、GPS衛星101から移動局30(GPSアンテナ20)までのトラベル時間を示す。
測位演算回路200は、航法メッセージの衛星軌道情報及び現在の時間に基づいて、GPS衛星101の、ワールド座標系での現在位置(X1、Y1、Z1)を計算する。尚、GPS衛星101は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GPS衛星101の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGPS衛星101の位置が計算できる。また、GPS衛星101の位置(X1、Y1、Z1)は、GPS衛星101の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGPS衛星101の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。尚、ワールド座標系とは、図3に示すように、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
測位演算回路200は、衛星位置の算出結果と、信号処理回路100から供給される距離誤差の算出結果に基づいて、移動体30の位置(Xu,Yu,Zu)を測位し、例えば図2に示すようにナビゲーションシステムに出力する。移動体30の位置は、3つのGPS衛星10に対して得られるそれぞれの擬似距離及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出されてよい。この場合、擬似距離は上述の如く時計誤差を含むので、4つ目のGPS衛星10に対して得られる擬似距離及び衛星位置を用いて、時計誤差成分が除去される。尚、移動体30の位置の測位方法としては、上述のような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、上述の如く固定局及び移動体30にてそれぞれ得られる擬似距離の一重位相差や2重位相差等を用いて移動体30の位置が測位されることになる。
測位演算回路200は、必要に応じて、移動体30の移動態様を検出するINS(inertial navigation system)センサ26、車速センサ、舵角センサ、方位角計等のような各種センサ28や、地図DB(データベース)29からの情報を用いて、測位結果を補正してよい。INSセンサ26は、ジャイロセンサやG(加速度)センサを含んでよい。例えば、測位演算回路200は、地図DB29からの地図情報を用いたマップマッチングにより測位結果を補正してよく、或いは、トンネル走行中などのように衛星信号が受信できない間、INSセンサ26や各種センサ28に基づいて推定される移動体30の移動態様に基づいて、移動体30の位置情報を生成してもよい。尚、例えば車両(移動体30)の速度ベクトル(Vx、Vy)は、車体を基準としたボディ座標系(図3参照)に基づいているため、測位演算回路200は、速度ベクトル(Vx、Vy)を、ローカル座標系を介してワールド座標系へと座標変換する。通常、座標の回転変換は、オイラー角を用いて実現できるが、ボディ座標系からローカル座標系への変換に関しては、ロール角及びピッチ角が小さいとしてヨー角ψのみで実現することとしてよい(但し、ロール角及びピッチ角を考慮することも、ヨー角を無視することも当然に可能である。)。また、ローカル座標系からワールド座標系への変換に関しては、車両位置の経度及び緯度を用いた変換で実現される。
次に、上述の信号処理回路100の詳細な構成について、幾つかの実施例に分けて、説明する。以下では、実施例1においては「A」、実施例2においては「B」といった具合に、参照符号の末尾に、実施例毎に異なる大文字のアルファベットを付して、各実施例における構成要素を指示する。
図4は、実施例1に係る信号処理回路100Aの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。以下では、説明の複雑化を避けるため、ある1つのGPS衛星101からの衛星信号に関する信号処理(1チャンネルの信号処理)を代表して説明する。以下で説明する信号処理は、観測可能な各GPS衛星101,102,103等からの衛星信号に対して並列的(同時)に実行される。
信号処理回路100Aは、図4に示すように、L1−DDL(Delay―Locked Loop)110A、L1−PLL(Phase−Locked Loop)120A、フィルタ1301A,1302A、...130nA、及び結合処理部150Aを含む。
L1−DDL110Aは、ICで構成されたロジック回路である。L1−DDL110Aは、L1波のC/Aコードに対して、内部で発生させたレプリカC/AコードによりC/Aコード同期を行い、上述の擬似距離を算出するように構成されている。レプリカC/Aコードとは、GPS衛星101からの衛星信号に乗せられるC/Aコードに対して、+1、−1の並びが同一のコードである。C/Aコード同期とは、受信したC/Aコードの位相に対してレプリカC/Aコードの位相を同期(一致)させることをいう。C/Aコードは、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300m(1μs×光速)である。従って、GPS衛星101に係る擬似距離ρ1は、GPS衛星101でC/Aコードが0ビット目であるとしてC/AコードのNビット目が移動局30にて受信されているかを計測することで、ρ=N×300として求めることができる。即ち、受信したC/AコードのGPS衛星101側のコード位相時刻とGPS受信機1側の時刻との差を測ることで、擬似距離ρ1が算出される。
L1−DDL110Aでは、観測周期毎に、デジタルIF信号に基づいて、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが並列的に算出される。尚、nは、2以上の整数である。また、符号の意味として、擬似距離ρCA*に付された「’」は、後述のフィルタ処理が実行されていないことを示し、「CA」は、C/Aコードに基づいて算出された擬似距離ρ1であることを示す。尚、実際には、デジタルIF信号は、図示しないミキサにより、後述のL1−PLL120Aから供給されるレプリカキャリアが乗算されてから、L1−DDL110Aに入力される。
ここで、注意すべきこととして、通常的なL1−DDLでは、L1波のC/AコードのデジタルIF信号に基づいて、唯一の擬似距離ρCAが算出されるのに対して、本実施例によるL1−DDL110Aでは、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが算出される。n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnの具体的な算出方法については、後に詳説する。擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnを表す信号は、それぞれ、L1−DDL110Aからフィルタ1301A,1302A、...130nAに入力される。
L1−PLL120Aは、ICで構成されたロジック回路である。L1−PLL120Aは、内部で発生させたキャリアレプリカ信号を用いて、ドップラーシフトした受信搬送波(受信キャリア)のドップラー周波数変化量ΔfL1を測定するように構成されている。尚、実際には、デジタルIF信号は、図示しないミキサにより、L1−DDL110Aから供給されるレプリカC/Aコードが乗算されてから、L1−PLL120Aに入力される。
L1−PLL120Aからのドップラー周波数変化量ΔfL1を表す信号は、フィルタ1301A,1302A、...130nAに入力される。
フィルタ1301A,1302A、...130nAのそれぞれでは、ドップラー周波数変化量ΔfL1を用いて、擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnのフィルタ処理が実行される。フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを表す信号は、結合処理部150Aに入力される。
結合処理部150Aは、例えばDSP(Digital Signal Processor)等のような適切なプロセッサないしマイクロコンピューターを中心に構成され、以下説明するの結合処理を実行するCPU,及び、CPUが結合処理を実行するために用いるプログラムやデータを記憶する記憶媒体(例えばROM)等を備える。
結合処理部150Aでは、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnが結合されて、1つの擬似距離ρCOM(以下、「結合擬似距離」という)が算出される。結合擬似距離ρCOMは、測位演算回路200(図2参照)に供給され、移動体30の位置の測位演算に用いられることになる。
結合処理部150Aでは、また、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnの各分散値σCA1、σCA2、...σCAnが結合されて、1つの分散値σCOM(以下、「結合分散値」という)が算出される。結合分散値σCOMは、測位演算回路200(図2参照)に供給され、移動体30の位置の測位演算に用いられることになる。例えば、結合分散値σCOMは、測位演算回路200において測位解の信頼性を判断する際に用いられてもよい。
次に、図4に示した各構成(処理)の詳細について説明する。
図5は、L1−DDL110Aの主要処理の一例を概略的に表すブロック図である。図5に示すL1−DDL110Aでは、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが、互いに位相(追尾点)及びコリレータ間隔dを異にするn個のレプリカC/Aコードに基づいて算出される。
具体的には、L1−DDL110Aは、n個の擬似距離演算ブロックを並列的に含み、それぞれの擬似距離演算ブロックにおいて、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnのそれぞれが演算される。
擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックは、図5に示すように、参照符号の末尾に下付き文字「1」が付された構成要素により構成される。即ち、擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックは、相互相関演算部1111A,1121A、位相進め部1131A、位相遅れ部1141A、位相ずれ計算部1151A、位相補正量計算部1161A、レプリカC/Aコード生成部1171A、及び、擬似距離算出部1181Aを含む。
相互相関演算部1111Aには、レプリカC/Aコード生成部1171Aで生成されるレプリカC/Aコードが、位相進め部1131Aを介して入力される。即ち、相互相関演算部1111Aには、Earlyレプリカ符号が入力される。位相進め部1131Aでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ進められる。位相進め部1131Aで進められる位相進み量をθ1とする。
相互相関演算部1111Aでは、位相進み量θ1のEarlyレプリカ符号を用いて、相関値(Early相関値ECA1)が演算される。Early相関値ECA1は、例えば以下の式で演算される。
Early相関値ECA1=Σ{(デジタルIF)×(Earlyレプリカ符号)}
相互相関演算部1121Aには、レプリカC/Aコード生成部1171Aで生成されるレプリカC/Aコードが、位相遅れ部1141Aを介して入力される。即ち、相互相関演算部1121Aには、Lateレプリカ符号が入力される。位相遅れ部1141Aでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ遅らされる。位相遅れ部1141Aで遅らされる位相遅れ量は、位相進み量θ1と大きさ同一で符号が異なる。
相互相関演算部1121Aでは、位相遅れ量−θ1のLateレプリカ符号を用いて、相関値(Late相関値LCA1)が演算される。Late相関値LCA1は、例えば以下の式で演算される。
Late相関値LCA1=Σ{(デジタルIF)×(Lateレプリカ符号)}
このようにして、擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックでは、コリレータ間隔d1(“スペーシング”とも称される)を2θ1とした相関値演算が実行される。相互相関演算部1111A、1121Aにてそれぞれ演算されたEarly相関値ECA1及びLate相関値LCA1は、位相ずれ計算部1151Aに入力される。
位相ずれ計算部1151Aでは、デジタルIF信号と、レプリカC/Aコード生成部1171Aで生成されるレプリカC/Aコードとの間に、どの程度位相のずれがあるかが算出される。即ち、位相ずれ計算部1151Aでは、受信したC/Aコードに対するレプリカC/Aコードの位相ずれ量が算出(推定)される。レプリカC/Aコードの位相ずれ量は、例えば以下の式で演算される。
(位相ずれ量)=(ECA1−LCA1)/2(ECA1+LCA1)
このようにして算出された位相ずれ量は、位相補正量計算部1161Aに入力される。
位相補正量計算部1161Aでは、位相ずれ量を無くすべく、適切な位相補正量が算出される。適切な位相補正量が、例えば以下の演算式に従って、算出される。
(位相補正量)=(Pゲイン)×(位相ずれ量)+(Iゲイン)×Σ(位相ずれ量)
この式は、PI制御を利用したフィードバック制御を表す式であり、Pゲイン及びIゲインは、それぞれバラツキと応答性の兼ね合いから実験的に決定される。このようにして算出された位相補正量は、レプリカC/Aコード生成部1171Aに入力される。
レプリカC/Aコード生成部1171Aでは、生成されるレプリカC/Aコードの位相が、位相補正量計算部1161Aにより算出された位相補正量だけ補正される。即ち、レプリカC/Aコードの追尾点が補正される。かくして生成されたレプリカC/Aコードは、上述の如く位相進め部1131A及び位相遅れ部1141Aを介して相互相関演算部1111A、1121Aに入力されると共に、擬似距離算出部1181Aに入力される。尚、このようにして生成されたレプリカC/Aコードは、相互相関演算部1111A、1121Aにて、次回の観測周期で入力されるIFデジタル信号に対して相関値演算されることになる。
擬似距離算出部1181Aでは、レプリカC/Aコード生成部1171Aで生成されるレプリカC/Aコードに基づいて、擬似距離ρ’CA1が、例えば以下の式により演算される。
ρ’CA1=NCA1×300
ここで、NCA1は、GPS衛星101と移動局30との間のC/Aコードのビット数に相当し、レプリカC/Aコード生成部1171Aで生成されるレプリカC/Aコードの位相及び受信機1内部の受信機時計に基づいて算出される。
擬似距離ρ’CA2を演算するための擬似距離演算ブロックは、図5に示すように、参照符号の末尾に下付き文字「2」が付された構成要素により構成される。即ち、擬似距離ρ’CA2を演算するための擬似距離演算ブロックは、相互相関演算部1112A,1122A、位相進め部1132A、位相遅れ部1142A、位相ずれ計算部1152A、位相補正量計算部1162A、レプリカC/Aコード生成部1172A、及び、擬似距離算出部1182Aを含む。
擬似距離ρ’CA2を演算するための擬似距離演算ブロックは、上述の擬似距離ρ’CA1を演算するためのブロックに対して、位相進め部1132A及び位相遅れ部1142Aでの位相進み量及び位相遅れ量θ2、−θ2の大きさが異なる以外は、実質的に同一である。
同様に、他の擬似距離ρ’CA3、...ρ’CAnを演算するための擬似距離演算ブロックは、各位相進め部及び位相遅れ部での位相進み量及び位相遅れ量θ3,…n、−θ3,…nが異なる以外は、実質的に同一である。
従って、図5に示すL1−DDL110Aでは、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが、コリレータ間隔d1,…,n(=2θ1,…,n)を異にするn個のレプリカC/Aコードに基づいて算出されることになる。各ブロックでの位相進み量及び位相遅れ量、即ち各コリレータ間隔d1,…,nは、nの値や、探索範囲の位置や幅に応じて適切に決定されてよい。本実施例1では、図6に示すように、±0.5チップ付近の比較的狭い探索範囲に対応して、各コリレータ間隔d1,…,nは、1チップ前後に近接して設定され、d1>d2>...>dnのような関係である。各隣接する各コリレータ間隔d1,…,nの差、例えばd1−d2は、例えば0.1チップや0.2チップのオーダー、或いは、0.05チップ等のオーダーであってよい。尚、図6において、白丸は、各相関値のプロット点を示し、プロット点が直線上に無いのは後述の熱雑音の影響による。
ここで、熱雑音を考慮しない場合、本分野で知られているように、図7(A)に概念的に示すように、相関値のレベルは、レプリカC/Aコードの位相が、受信したC/Aコードの位相に対して一致している場合に、ピークとなり、レプリカC/Aコードの位相が遅れるにつれて小さくなり、位相が進むにつれて小さくなり、その減少時の傾きは対称となる。従って、熱雑音等を考慮しない場合、理論的には、上述の如く、コリレータ間隔を異にするn個のレプリカC/Aコードを用いたとしても、それぞれの追尾点が同じになり、それ故に、それぞれのブロックで算出されるρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが同一の値となる。
しかしながら、実際には、熱雑音がデジタルIF信号に重畳されるので、相関値のレベルは、図7(B)に実線にて概念的に示すように、相関値にバラツキが発生し、これに伴い、追尾点ひいては算出される擬似距離にもバラツキが発生する。即ち、上述の如く、コリレータ間隔を異にするn個のレプリカC/Aコードを用いた場合には、それぞれのブロックで算出されるn個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが異なる値を含む確率は極めて高い。この異なる2以上の擬似距離は、何れも真値とは異なるかもしれないし、いずれかが真値と一致するかもしれない。
本実施例では、この不確定さをある意味で逆手に取り、一観測周期で、信頼性の高い(真値に一致する可能性が高い)擬似距離(ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAn)を数多く算出し、これらを結合処理部150Aの結合処理にて適切に結合させることより、後述する如く、擬似距離のバラツキを速やかに収束させることを可能とする。
図8は、L1−PLL120Aの主要処理の一例を概略的に表すブロック図である。
相互相関演算部122A,124Aでは、L1−PLL120Aに入力されるデジタルIF信号と、図8に示すように、レプリカキャリア生成部128Aにて生成されたレプリカキャリアとの間の相関値(キャリア相関値)が演算される。相互相関演算部122Aでは、レプリカキャリア(レプリカsin波)とのキャリア相関値が、例えば以下の演算式に従って、演算される。
(キャリア相関値)=Σ{(デジタルIF)×(レプリカsin波)}
尚、この計算結果は、理論的にsinφとなる。即ち、キャリア相関値≒sinφとなる。
同様に、相互相関演算部124Aでは、レプリカsin波の位相を90度遅らせたレプリカcos波とのキャリア相関値が演算される。
(キャリア相関値)=Σ{(デジタルIF)×(レプリカcos波)}≒cosφ
位相ずれ計算部126Aでは、デジタルIF信号とレプリカキャリアとがどの程度にているか、即ちデジタルIF信号とレプリカキャリアとの間の位相ずれ量が、例えば以下の演算式に従って、算出される。
(位相ずれ量)=sinφ×cosφ≒φ
位相補正量計算部127Aでは、位相ずれ計算部126Aから入力される位相ずれ量φがゼロに収束するように、適切な位相補正量が、例えば以下の演算式に従って、算出される。
(位相補正量)=(Pゲイン)×(位相ずれ量φ)+(Iゲイン)×Σ(位相ずれ量φ)
この式は、PI制御を利用したフィードバック制御を表す式であり、Pゲイン及びIゲインは、それぞれバラツキと応答性の兼ね合いから実験的に決定される。
レプリカキャリア生成部128Aでは、位相補正量計算部127Aから入力される位相補正量に従って、位相を補正したレプリカキャリアを生成する。かくして生成されたレプリカキャリアは、上述の如く相互相関演算部122A,124Aに供給されると共に、ドップラー周波数変化量算出部129Aに供給される。
ドップラー周波数変化量算出部129Aでは、レプリカキャリア生成部128Aからのレプリカキャリアの周波数frと既知の搬送波周波数fL1(1575.42MHz)に基づいて、ドップラー周波数変化量ΔfL1(=fr−fc)が演算される。
図9は、擬似距離ρ’CA1を扱うフィルタ1301Aのフィルタ処理の一例を概略的に表すブロック図である。尚、その他のフィルタ1302A等におけるフィルタ処理は、扱う擬似距離が異なる以外は、フィルタ1301Aのフィルタ処理と実質的に同様であってよいので、ここでは、説明を省略する。
衛星−移動体相対速度計算部1311Aでは、入力されたドップラー周波数変化量ΔfL1に基づいて、GPS衛星101と移動体30との間の相対速度ΔVが、例えば以下の関係式を用いて、算出される。
数ΔfL1=ΔV・fL1/(c−ΔV)
フィルタ計算部1341Aでは、例えば以下の演算式に従って、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1が計算される。
ここで、(i)は今回値を表し、(i−1)は前回値を表し、Mは、重み係数である。Mの値は、精度と応答性を考慮しつつ適切に決定される。
ここで、図10を参照して、フィルタ処理の意義を概説する。GPS衛星101と移動体30との間の真の擬似距離は、移動体30及びGPS衛星101の移動に伴い時々刻々と変化するので、擬似距離ρ’CA1自体にフィルタ(移動平均法によるフィルタ)をかけると、図10(A)に示すように、真の擬似距離の変化に対して遅れが発生しやすくなる。これに対して、上述のフィルタ1301Aのフィルタ処理は、図10(B)に示すように、観測周期間の擬似距離変化量(GPS衛星101に対する移動体30の相対移動量であり、ΔVの時間積分値に相当。)を差し引いてから、フィルタをかけて元に戻すことで、擬似距離変化量にフィルタがかからなくなるので、真の擬似距離の変化に対する遅れを無くすことができる。尚、上述のフィルタ1301Aのフィルタ処理は、本分野で知られているキャリアスムージングと呼ばれる処理であり、上述のハッチフィルタを用いたフィルタ処理以外にも、例えばカルマンフィルタを用いても実現可能である。
結合処理部150Aでは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnに基づいて、例えば以下の式により、結合擬似距離ρCOMが算出される。
(結合擬似距離ρCOM)=(ρCA1+ρCA2+...+ρCAn)/n
即ち、結合擬似距離ρCOMは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを平均化することにより算出される。
図11は、結合処理部150Aの結合処理の有用性を概念的に示す図である。図11は、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnから擬似距離変化量を差し引いて得られるρ”CA1、ρ”CA2、...ρ”CAn(図10(B)参照)の確率分布を示しているが、擬似距離変化量のバラツキは加味されていない。即ち、図11は、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnの真値に対するバラツキの分布を示すものと理解してよく、以下では、擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnのバラツキ分布として説明する。尚、図11における確率分布密度の最も高い位置の擬似距離が真値に相当することになる。
図11では、図面の明瞭化のため、フィルタ処理後の3つの擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnに関してのみ、バラツキの分布が示されている。ここでは、擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnの演算に用いたコリレータ間隔は、図6に示したような設定態様であるとする。
各擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnは、図11(A)に概念的に示すように、それぞれ、コリレータ間隔による相違があるものの、比較的大きなバラツキ(広がり)態様で分布する。一方、結合擬似距離ρCOMは、図11(B)に概念的に示すように、比較的小さなバラツキ態様で分布する。このように、結合処理部150Aの結合処理によれば、個々の擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnに比べて、バラツキの比較的小さな結合擬似距離ρCOMが得られる。これは、結合処理部150Aの結合処理により結合擬似距離ρCOMの収束を早めることができることを意味する。
このようにして、結合擬似距離ρCOMは、観測可能な各GPS衛星101,102,103等のそれぞれに対して、それぞれ並列的に算出されることになる。結合擬似距離ρCOMは、例えば観測周期毎(例えば1ms毎)或いは所定数の観測周期毎(例えば50ms毎や100ms毎)に測位演算回路200に対して出力される。測位演算回路200は、上述の如く、GPS衛星101,102,103等に対してそれぞれ算出された結合擬似距離ρCOMを用いて、以下の関係式に基づいて、移動局30の位置を測位する。
(結合擬似距離ρCOM)=sqrt{(Xu−X1)2+(Yu−Y1)2+(Zu−Z1)2}+b
ここで、上記の式における[Xu、Yu、Zu]は、移動局30の座標値(未知)であり、[X1、Y1、Z1]は、GPS衛星101の座標値である。他の観測可能なGPS衛星102,103等に対して同様の関係式が成り立つ。擬似距離は上述の如く時計誤差を含むので、4つGPS衛星10に対して得られる上記の4つの関係式を用いて、時計誤差成分が除去される。
以上説明した本実施例1によれば、とりわけ以下の有利な効果が奏される。
上述の如く、本実施例1では、1観測周期でのC/Aコードの観測データから、1つのGPS衛星10に対するn個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnが算出されるので、1つのGPS衛星10に対して1観測周期で唯一の擬似距離(例えば上記のρCA1に対応する擬似距離のみ)を算出する構成に比べて、擬似距離(結合擬似距離ρCOM)のばらつきを早期に収束させることができる。
即ち、上述の如く、実際のC/Aコード同期においては、Early相関値とLate相関値が熱雑音等の影響によりばらつくので、それに伴いレプリカC/Aコードの追尾点がばらつき、得られる擬似距離にバラツキが生ずる。かかる擬似距離のバラツキは、早期に収束させることが必要となるが、収束させるには一定のデータ数が必要である。これに対して、本実施例1では、観測周期毎に、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを算出することで、1観測周期で得られるデータ数を効率的に増やしてばらつきを早期に収束させることを可能としている。
次に、本実施例1において好適に用いることができる結合処理部150Aのその他の結合処理について説明する。以下では、説明の複雑化を防止するため、n=2の場合について説明する。以下で説明するその他の結合処理は、擬似距離の分散を用いる点が、上述の簡易的な平均化による結合処理と主に異なる。
図12は、結合処理部150Aのその他の結合処理の一例を表すブロック図である。図示の例の結合処理部150Aは、図12に示すように、CA1−分散算出部152A、CA2−分散算出部154A、及び擬似距離結合部156Aを含む。
CA1−分散算出部152Aでは、擬似距離ρCA1の分散値σCA1が算出される。同様に、CA2−分散算出部154Aでは、擬似距離ρCA2の分散値σCA2が算出される。分散値σCA1等の算出方法については後述する。
擬似距離結合部156Aでは、CA1−分散算出部152Aから出力される擬似距離ρCA1の分散値σCA1、及び、CA2−分散算出部154Aから出力される擬似距離ρCA2の分散値σCA2を用いて、擬似距離ρCA1及び擬似距離ρCA2が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合擬似距離ρCOMが算出される。
ρCOM=(σCA2 m×ρCA1+σCA1 m×ρCA2)/(σCA2 m+σCA1 m)
ここで、上付き「m」は、階乗を表し、正の整数(m=1,2、・・)のうちの適切な値が用いられる。例えば、m=1であってよい。この場合、結合擬似距離ρCOMは、以下の式に従って算出されることになる。
ρCOM=(σCA2×ρCA1+σCA1×ρCA2)/(σCA2+σCA1)
擬似距離結合部156Aでは、また、CA1−分散算出部152Aから出力される擬似距離ρCA1の分散値σCA1、及び、CA2−分散算出部154Aから出力される擬似距離ρCA2の分散値σCA2が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合分散値σCOMが算出される。
図13は、CA
1−分散算出部152Aの分散算出処理の一例を表すブロック図である。尚、図13を参照して説明する分散算出処理は、CA
2−分散算出部154Aに同様に適用されてよい。
CA1−分散算出部152Aは、C/N算出部1521A及び分散算出部1522Aを含む。
C/N算出部1521Aでは、搬送波の強度(電力)と雑音の強度(電力)の比であるC/NCA1が算出される。C/NCA1は、デジタルIF信号に含まれる信号強度と雑音強度の比に相当する。
ここで、C/NCA1の算出・推測方法について幾つかの例を説明する。
先ず、方法1−1として、C/NCA1を理論式により推測する方法がある。熱雑音は基本的に常に一定であり、信号は距離の二乗に比例して減衰する。この特徴を利用して、以下の式により、C/NCA1を推測することができる。
C/NCA1={(GPS衛星101の発信電波強度)−α×L2}/(熱雑音レベル) 式(2)
ここで、GPS衛星101の発信電波強度及び熱雑音レベルは、既知の値を用いる。Lは、GPS衛星101と移動体30との間の距離であり、GPS衛星101の位置と、移動体30の位置とに基づいて、算出される。GPS衛星101の位置は、上述の如く衛星軌道情報から導出可能であり、移動体30の位置は、前回周期の測位結果であってよく、又は今回周期の測位結果をフィードバックして利用してもよい。また、αは、減衰係数である。尚、式(2)において、GPSアンテナ20の指向性ないしGPS衛星101の仰角を加味するための項を追加してもよい。
この方法1−1を用いる場合、CA1−分散算出部152Aに対する入力情報(図13参照)は、GPS衛星101の位置情報、及び、移動体30の位置情報を含む。
次に、方法1−2として、C/NCA1をL1−DDL110Aにおいて導出された相関値を利用して、間接的に測定(実測)する方法がある。具体的には、C/NCA1は、上述のEarly相関値ECA1及びLate相関値LCA1を用いて、以下の式で表すことができる。
C/NCA1=log(ECA1+LCA1)+β 式(3)
これは、C/NCA1がノイズ電力Wnと信号電力(搬送波電力)Wcを用いて、C/N=10log(Wc/Wn)で表され、Wc/WnがEarly相関値ECA1及びLate相関値LCA1の和(=ECA1+LCA1)に比例関係にあることを考慮したものである。式(3)において、βは、適切な固定値であり、例えば既知のノイズ電力Wnを用いて、−10logWnで表されてよい。
Early相関値ECA1及びLate相関値LCA1は、上述の如く熱雑音に起因してバラツキが発生するため、式(3)により求めるC/NCA1には、バラツキが発生する。従って、以下の式(4)のように、ある程度データをためてフィルタ(平均)処理を行うことで、各相関値ECA1、LCA1のバラツキの影響を低減することが可能である。
C/NCA1=Σ(C/N’)/n 式(4)
C/N’は、上記の式(3)により算出されたC/NCA1で表す。nは、データ数(例えば、1ms毎にデータを収集し、100ms分のデータを用いる場合には、n=100)である。尚、データ数nは、観測開始時をゼロとして、その後、観測周期(例えば1ms)毎に1つずつ増加するものである。
この方法1−2を用いる場合、CA1−分散算出部152Aに対する入力情報(図13参照)は、Early相関値ECA1及びLate相関値LCA1に関する情報を含む。
次に、方法1−3として、上記の方法1−1と方法1−2とを組み合わせる方法がある。具体的には、C/NCA1は、以下の式に従って導出される。
C/NCA1=(C/N推測+n×C/N実測)/(n+1) 式(5)
C/N推測は、上記の方法1−1により算出されたC/NCA1を表し、C/N実測は、上記の方法1−2により算出されたC/NCA1を表す。この式(5)では、データ数nが増えるに従って、C/N実測に大きい重みが付与されるようになっている。即ち、観測開始直後は、実測データ量の少なさに起因したC/N実測のバラツキを考慮してC/N推測に相対的に大きな重みが付与され、時間が経過するに従って、実測データ量の増加に伴って信頼性が高くなったC/N実測に相対的に大きな重みが付与されるようになっている。これにより、上記の方法1−1と方法1−2の利点を有効に利用して、観測開始直後からC/NCA1を導出可能としつつ、観測時間の増加に伴って精度の良いC/NCA1を導出することができる。尚、等価的に、データ数nが所定値を超えた場合に、上記の方法1−1から方法1−2に算出方法を切り替えることも可能である。
この方法1−3を用いる場合、CA1−分散算出部152Aに対する入力情報(図13参照)は、GPS衛星101の位置情報、移動体30の位置情報、及び、Early相関値ECA1及びLate相関値LCA1に関する情報を含む。
このようにして導出されるC/NCA1を表す信号は、分散算出部1522Aに入力される。
分散算出部1522Aでは、C/N算出部1521AからのC/NCA1に基づいて、例えば以下の式に従って、擬似距離ρCA1の分散値σCA1が算出される。
σCA1=λ×√(d1/τ・C/NCA1) 式(6)
式(6)において、C/N以外は固定値である。λは、C/Aコードの1ビットの長さであり、約300[m]である。d1は、L1−DDL110Aにおいて擬似距離ρ’CA1を算出した際に用いたレプリカC/Aコードに係るEarlyレプリカ符号とLateレプリカ符号の位相差(コリレータ間隔)である。τは、フィルタ1301Aにおけるフィルタ時定数であり、データ数に相当する。
図14は、CA1−分散算出部152Aの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。尚、図14を参照して説明する分散算出処理は、CA2−分散算出部154Aに同様に適用されてよい。
CA1−分散算出部152Aは、分散算出部1524Aを含む。分散算出部1524Aでは、以下の式に従って、擬似距離ρCA1の分散値σCA1が算出される。
σCA1=Σ(ρ”CA1−ave(ρ”CA1))2/(n−1) 式(7)
式(7)において、ρ”CA1は、擬似距離ρCA1から擬似距離変化量を差し引いたものである(図9(B)参照)。ave(ρ”CA1)は、データ数nのρ”CA1の平均を表す。この例の場合、CA1−分散算出部152Aに対する入力情報(図14参照)は、擬似距離ρCA1及び擬似距離変化量に関する情報を含む。
図15は、CA1−分散算出部152Aの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。尚、図15を参照して説明する分散算出処理は、CA2−分散算出部154Aに同様に適用されてよい。図15に関する説明では、上述の図13及び図14を参照して説明したブロックと同一の構成については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
CA1−分散算出部152Aは、C/N算出部1521A、分散算出部1522A、分散算出部1524A、及び、分散組合せ部1526Aを含む。
分散組合せ部1526Aでは、分散算出部1524AからのσCA1(ここでは、σCA1実測で表す。)と、分散算出部1522AからのσCA1(ここでは、σCA1推測で表す。)とが組み合わせられ、以下の式に従って、1つ分散値σCA1が導出される。
σCA1=(σCA1推測+n×σCA1実測)/(n+1) 式(8)
式(8)においても、データ数nが増えるに従って、実測によるσCA1実測に対して、推測によるσCA1推測よりも大きい重みが付与されるようになっている。これにより、観測開始直後から分散値σCA1を導出可能としつつ、観測時間の増加に伴って精度の良い分散値σCA1を導出することができる。
以上説明した本実施例1におけるその他の結合処理によれば、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを、それぞれの分散値(バラツキ度合いを表す指標)を用いて結合させることで、結合擬似距離ρCOMのばらつきを早期に収束させつつ、高い精度の結合擬似距離ρCOMを得ることができる。
以上説明した本実施例1において、以下のような変形例がありえる。
例えば、本実施例1では、C/Aコードを用いているが、L1波のPコード及び/又はL2波のPコードに基づいて、同様に、1観測周期でのPコードの観測データから、1つのGPS衛星10に対する2以上の擬似距離ρを算出し、算出した2以上の擬似距離ρを1つの擬似距離に結合させることとしてもよい。
また、図16に示すように、L1−DDL110Aの各位相進め部及び位相遅れ部での位相進み量及び位相遅れ量θ1,…,n、−θ1,…nを、相関値演算が比較的広い探索範囲に亘って(即ち、ナローコリレータからワイドコリレータに亘って)実現されるように、設定することも可能である。ここで、かかる変形例の一例を、図16及び図17を参照して説明する。尚、図16では、明瞭化の都合により、3つのコリレータ間隔のみを示している。図16に示す例では、コリレータ間隔d2は、1チップ付近であり、コリレータ間隔d1は、1チップより十分大きい2チップ弱の広い間隔であり、コリレータ間隔dnは、1チップより十分小さい0.5チップ弱の狭い間隔である。
図16に示す例では、結合処理部150Aでは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnに基づいて、上述の例と同様にフィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを平均化することにより、結合擬似距離ρCOMが算出される。この際、好ましくは、以下の式のように、適切な重みを付与して平均化することにより、結合擬似距離ρCOMが算出される。
ρCOM=(α・ρCA1+β・ρCA2+...+ζρCAn)/(α+β+...+ζ)
ここで、重み付け係数α、β、...、ζは、コリレータ間隔dに応じた値が付与され、コリレータ間隔dが大きくなるほど小さな値が付与されてよい。例えば、α、β、ζについては、α<β<ζである。これは、図7(B)に一点鎖線にて示したように、コリレータ間隔dが大きくなるほど熱雑音によるバラツキ幅が大きくなることを考慮したものである。尚、重み付け係数α、β、...、ζは、対応するコリレータ間隔d1,…,nの逆数若しくはその類であってもよい。
図17は、図16に示す結合処理の有用性を概念的に示す図であり、上述の図11に対応する。図17では、図面の明瞭化のため、フィルタ処理後の3つの擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnに関してのみ、バラツキの分布が示されている。
各擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnは、図17(A)に概念的に示すように、それぞれ、コリレータ間隔による相違があるものの、比較的大きなバラツキ(広がり)態様で分布する。一方、結合擬似距離ρCOMは、図17(B)に概念的に示すように、比較的小さなバラツキ態様で分布する。このように、結合処理部150Aの結合処理によれば、個々の擬似距離ρCA1、ρCA2、ρCAnに比べて、バラツキの比較的小さな結合擬似距離ρCOMが得られる。これは、結合処理部150Aの結合処理により結合擬似距離ρCOMの収束を早めることができることを意味する。特に、図16に示す例では、広範なコリレータ間隔を用い且つそれぞれのコリレータ間隔に応じた適切な重み付けにより平均化するので、図11(B)に示す場合よりもバラツキの分布範囲を狭くすることができる。即ち、結合擬似距離ρCOMの収束を更に早めることができる。
尚、図16に示した例においても、上述の重み付けによる平均化に代えて、上述の図12乃至図15に示したその他の結合処理を受けることも可能である。
実施例2は、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnの算出方法が、上述の実施例1と異なり、その他の構成については、上述の実施例1と同様であってよく、以下では、実施例2特有の構成について重点的に説明する。また、L1−DDL110B以外の部分の構成要素であって、上述の実施例1と同様の構成であってよい構成要素については、同様の参照符号(末尾のアルファベットを変えただけの参照符号)を用いる。
図18は、実施例2に係るL1−DDL110Bの主要処理の一例を概略的に表すブロック図である。L1−DDL110Bは、n個の擬似距離演算ブロックを並列的に含み、それぞれの擬似距離演算ブロックにおいて、n個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnのそれぞれが演算される。図18には、擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックだけが示されている。
擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックは、図18に示すように、参照符号の末尾に下付き文字「1」が付されたブロックにより構成される。即ち、擬似距離ρ’CA1を演算するための擬似距離演算ブロックは、相互相関演算部1111B,1111’B,1121B,1121’B、位相進め部1131B、1131’B、位相遅れ部1141B、1141’B、位相ずれ計算部1151B、位相補正量計算部1161B、レプリカC/Aコード生成部1171B、及び、擬似距離算出部1181Bを含む。
相互相関演算部1111Bには、レプリカC/Aコード生成部1171Bで生成されるレプリカC/Aコードが、位相進め部1131Bを介して入力される。即ち、相互相関演算部1111Bには、Earlyレプリカ符号が入力される。位相進め部1131Bでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ進められる。位相進め部1131Bで進められる位相進み量をθ11とする。
相互相関演算部1111Bでは、位相進み量θ11のEarlyレプリカ符号を用いて、相関値(Early相関値E11)が演算される。Early相関値E11は、例えば以下の式で演算される。
Early相関値E11=Σ{(デジタルIF)×(Earlyレプリカ符号)}
相互相関演算部1111’Bには、レプリカC/Aコード生成部1171Bで生成されるレプリカC/Aコードが、位相進め部1131’Bを介して入力される。即ち、相互相関演算部1111’Bには、Earlyレプリカ符号が入力される。位相進め部1131’Bでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ進められる。位相進め部1131Bで進められる位相進み量をθ’11とする。位相進み量θ’11は、位相進み量θ11とは異なる値とされ、ここではθ’11>θ11とする。相互相関演算部1111’Bでは、位相進み量θ’11のEarlyレプリカ符号を用いて、同様に、相関値(Early相関値E’11)が演算される。
相互相関演算部1121Bには、レプリカC/Aコード生成部1171Bで生成されるレプリカC/Aコードが、位相遅れ部1141Bを介して入力される。即ち、相互相関演算部1121Bには、Lateレプリカ符号が入力される。位相遅れ部1141Bでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ遅らされる。位相遅れ部1141Bで遅らされる位相遅れ量を−θ12とする。
相互相関演算部1121Bでは、位相遅れ量−θ12のLateレプリカ符号を用いて、相関値(Late相関値L11)が演算される。Late相関値L11は、例えば以下の式で演算される。
Late相関値L11=Σ{(デジタルIF)×(Lateレプリカ符号)}
相互相関演算部1121’Bには、レプリカC/Aコード生成部1171Bで生成されるレプリカC/Aコードが、位相遅れ部1141’Bを介して入力される。即ち、相互相関演算部1121’Bには、Lateレプリカ符号が入力される。位相遅れ部1141Bでは、レプリカC/Aコードが所定の位相だけ遅らされる。位相遅れ部1141’Bで遅らされる位相遅れ量を−θ’12とする。位相遅れ量をθ’12は、位相遅れ量をθ12とは異なる値とされ、ここでは−θ’12<−θ12とする。尚、(θ11、θ’11)と(−θ12、−θ’12)は、対称な関係であってもよい。即ち、θ11=θ12及びθ’11=θ’12であってもよい。
相互相関演算部1121’Bでは、位相遅れ量θ’12のLateレプリカ符号を用いて、同様に、相関値(Late相関値L’11)が演算される。
位相ずれ計算部1151Bでは、デジタルIF信号と、レプリカC/Aコード生成部1171Bで生成されるレプリカC/Aコードとの間に、どの程度位相のずれがあるかが算出される。即ち、位相ずれ計算部1151Bでは、レプリカC/Aコードの位相ずれ量が算出される。レプリカC/Aコードの位相ずれ量は、例えば以下の式で演算される。
(位相ずれ量)=θsect1
ここで、θsect1は、図19に示すように、レプリカ符号の相対位相に対する相関値のプロット点を表す2次元座標を想定した際に、Early側の2つのプロット点(−θ11、E11)、(−θ’11、E’11)を結んだ直線と、Late側の2つのプロット点(θ12、L11)、(θ’12、L’11)を結んだ直線との交点の相対位相を表す。このようにして算出された位相ずれ量は、位相補正量計算部1161Bに入力される。
位相補正量計算部1161Bでは、位相ずれ量を無くすべく、適切な位相補正量が算出される。適切な位相補正量が、例えば以下の演算式に従って、算出される。
(位相補正量)=(Pゲイン)×(位相ずれ量)+(Iゲイン)×Σ(位相ずれ量)
このようにして算出された位相補正量は、レプリカC/Aコード生成部1171Bに入力される。
レプリカC/Aコード生成部1171Bでは、生成されるレプリカC/Aコードの位相が、位相補正量計算部1161Bにより算出された位相補正量だけ補正される。即ち、レプリカC/Aコードの追尾点がθsect1に一致するように補正される。かくして生成されたレプリカC/Aコードは、上述の如く位相進め部1131B、1131’B及び位相遅れ部1141B、1141’Bを介して相互相関演算部1111B、1111’B1121B、1121’Bに入力されると共に、擬似距離算出部1181Bに入力される。尚、このようにして生成されたレプリカC/Aコードは、相互相関演算部1111B、1111’B1121B、1121’Bにて、次回の観測周期で入力されるIFデジタル信号に対して相関値演算されることになる。
擬似距離ρ’CA2を演算するための擬似距離演算ブロックは、上述のρ’CA1演算用ブロックに対して、各位相進め部及び位相遅れ部での位相進み量及び位相遅れ量θ21、θ’21及び−θ22、−θ’22の組み合わせが、上述のθ11、θ’11及び−θ12、−θ’12の組み合わせ異なる以外は、実質的に同一である。例えば、位相進め部1132B、1132’Bでの位相進み量θ21、θ’21は、位相進め部1131B、1131’Bでの位相進み量θ11、θ’11とそれぞれ異なり、位相遅れ部1142B、1142’Bでの位相遅れ量−θ22、−θ’22は、位相遅れ部1141B、1141’Bでの位相遅れ量−θ12、−θ’12とそれぞれ異なるものであってよい。また、(θ21、θ’21)と(−θ22、−θ’22)とは、(θ11、θ’11)と(−θ12、−θ’12)との関係と同様、対称な関係であってもよい。即ち、θ21=θ22及びθ’21=θ’22であってもよい。この場合、位相進み量の差が互いに同一であってよく(即ち、θ11−θ’11=θ21−θ’21)、同様に、位相進み量の差が互いに同一であってよい(即ち、θ12−θ’12=θ22−θ’22)。更にこの場合、位相進み量の差の半分が、ブロック間の位相進み量のオフセット量と対応し、位相遅れ量の差の半分が、ブロック間の位相進み量のオフセット量と対応してもよい。即ち、(θ11−θ’11)/2=θ21−θ’11且つ(θ12−θ’12)/2=θ22−θ’12。この場合、n=2のときには、Early側及びLate側のそれぞれにおいて、各プロット点の位相ずれ量が等間隔となる。
但し、理論的には、位相進み量及び位相遅れ量のセット(θ21、θ’21、−θ22、−θ’22)の何れかが、上述のρ’CA1演算用ブロックにおける同セット(θ11、θ’11、−θ12、−θ’12)の対応する値と異なればよい。例えば、θ21とθ11だけが異なり、θ’21とθ’11が同一、−θ22と−θ12が同一、−θ’22と−θ’12が同一であってもよい。
同様に、他の擬似距離ρ’CA3、...ρ’CAnを演算するための擬似距離演算ブロックは、各位相進め部及び位相遅れ部での位相進み量及び位相遅れ量のセット(θ*1、θ’*1、−θ*2、−θ’*2)の少なくともいずれかが、他の擬似距離演算ブロックの同セットのにおける対応する値と異なる以外は、実質的に同一である。尚、上記の説明で、「*」は、3,...nの任意の値である。
各擬似距離演算ブロックにおけるセット(θ*1、θ’*1、−θ*2、−θ’*2)(但し、*=1,...,n)は、図6に示した考え方に基づいて、比較的狭い探索範囲内から選択してもよいし、図16に考え方に基づいて、比較的広い探索範囲に亘るように選択してもよい。
ここで、上述の如く相関値のレベルは熱雑音による影響によりばらつくので、上述の如く各擬似距離演算ブロックにおける位相進み量及び位相遅れ量のセット(θ*1、θ’*1、−θ*2、−θ’*2)を互いに異なるように設定すると、各ブロックで算出される交点の相対位相θsect*が異なり(例えば、図19に示すθsect1、θsect2参照)、それに伴い、それぞれのブロックで算出されるn個の擬似距離ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAnが異なることになる確率は極めて高い。この異なる2以上の擬似距離は、何れも真値とは異なるかもしれないし、いずれかが真値と一致するかもしれない。
本実施例2においても、この不確定さをある意味で逆手に取り、一観測周期で、信頼性の高い(真値に一致する可能性が高い)擬似距離(ρ’CA1、ρ’CA2、...ρ’CAn)を数多く算出し、これらを結合処理部150Bの結合処理にて適切に結合させることより、擬似距離のバラツキを速やかに収束させることを可能とする。
結合処理部150Bでは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnに基づいて、例えば以下の式により、結合擬似距離ρCOMが算出される。
(結合擬似距離ρCOM)=(ρCA1+ρCA2+...+ρCAn)/n
即ち、結合擬似距離ρCOMは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを平均化することにより算出される。
或いは、結合処理部150Bでは、以下の式のように、適切な重みを付与して平均化することにより、結合擬似距離ρCOMが算出されてもよい。
ρCOM=(α・ρCA1+β・ρCA2+...+ζρCAn)/(α+β+...+ζ)
ここで、各擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnに付与される重み付け係数α、β、...、ζは、各擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnに対応するコリレータ間隔d*(*=1,...,n)に応じた値が付与される。重み付け係数α、β、...、ζは、好ましくは、コリレータ間隔d*が大きくなるほど小さな値が付与されてよい。この場合、コリレータ間隔d*は、d*=θ’*1+θ’*2として算出されてもよい。
或いは、結合処理部150Bでは、上述の図12乃至図15に示したその他の結合処理が実行されてもよい。この場合、例えば、上記の式(6)におけるコリレータ間隔d*(*=1,...,n)については、d*=θ’*1+θ’*2として算出されてもよい。
以上説明した本実施例2によれば、とりわけ以下の有利な効果が奏される。
上述の如く、本実施例2では、1観測周期でのC/Aコードの観測データから、1つのGPS衛星10に対するn個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnが算出されるので、1つのGPS衛星10に対して1観測周期で唯一の擬似距離(例えば上記のρCA1に対応する擬似距離のみ)を算出する構成に比べて、擬似距離(結合擬似距離ρCOM)のばらつきを早期に収束させることができる。
また、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを、それぞれの分散値(バラツキ度合いを表す指標)を用いて結合させることで、結合擬似距離ρCOMのばらつきを早期に収束させつつ、高い精度の結合擬似距離ρCOMを得ることができる。
以上説明した本実施例2において、以下のような変形例がありえる。
例えば、本実施例2において、上述の実施例1と組み合わせて用いることも可能である。例えば、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnのうちのいくつかを、本実施例2による算出方法により算出し、残りの複数を、上述の実施例1による算出方法により算出することも可能である。同様の観点から、n個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnのうちの(n−1)個を、本実施例2による算出方法により算出し、残り1つを、従来的な通常のDDLで算出することも可能である。
実施例3は、1観測周期でのC/Aコード及びPコードの観測データから、1つのGPS衛星10に対してn個の擬似距離ρCA1、ρCA2、...ρCAnを算出する点が、上述の実施例1と主に異なる。以下では、実施例3特有の構成について重点的に説明し、上述の実施例1と同様の構成であってよい構成要素については、同様の参照符号(末尾のアルファベットを変えただけの参照符号)を用いる。
図20は、実施例3に係る信号処理回路100Cの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。以下では、説明の複雑化を避けるため、ある1つのGPS衛星101からの衛星信号に関する信号処理(1チャンネルの信号処理)を代表して説明する。以下で説明する信号処理は、観測可能な各GPS衛星101,102,103等からの衛星信号に対して並列的(同時)に実行される。
信号処理回路100Cは、図20に示すように、L1−CA−DDL110C、L1−P−DDL110’C、L1−PLL120C、フィルタ1301C,1302C、及び結合処理部150Cを含む。
L1−CA−DDL110Cは、L1波のC/Aコードに対して、内部で発生させたレプリカC/AコードによりC/Aコード同期を行い、擬似距離を算出するように構成されている。以下、本実施例3の説明において、C/Aコードに基づいて算出される擬似距離を、「ρCA」といい、後述のフィルタ処理が実行されていない擬似距離を、「ρ’CA」で表す。以下では、L1−CA−DDL110Cは、上述した実施例1で説明したようなL1−DDL110Aとは異なり、1観測周期で1つの擬似距離ρ’CAを算出するものとする。即ち、上述した実施例1で説明したようなL1−DDL110Aにおける1つの擬似距離演算ブロックだけを含むものであってよい。但し、L1−CA−DDL110Cは、上述した実施例1又は2で説明したようなL1−DDL110A又は110Bと同様の構成を含み、更に、上述の如く複数算出される擬似距離の中から、1つだけ適当な擬似距離を選択する構成を有していてもよい。或いは、L1−CA−DDL110Cは、上述した実施例1又は2で説明したようなL1−DDL110A又は110Bと同様の構成と、更に、上述の如く複数算出される擬似距離を結合して1つの擬似距離を導出する構成を有してもよい。この場合、結合方法については、上述した実施例1における各種の結合処理の考え方が利用されてもよい。擬似距離ρ’CAを表す信号は、L1−CA−DDL110Cからフィルタ1301Cに入力される。
L1−P−DDL110’Cは、L1波のPコードに対して、内部で発生させたレプリカPコードによりPコード同期を行い、擬似距離を算出するように構成されている。以下、本実施例3の説明において、Pコードに基づいて算出される擬似距離を、「ρP」といい、後述のフィルタ処理が実行されていない擬似距離を、「ρ’P」で表す。Pコードの場合、Pコードは、1ビットの長さが0.1μsであり、1ビットに相当する長さが約30m(0.1μs×光速)である。従って、擬似距離ρ’Pは、GPS衛星101でPコードが0ビット目であるとしてPコードのMビット目が移動局30にて受信されているかを計測することで、ρ’P=M×30として求めることができる。尚、Pコードの場合、Wコードで暗号化されているので、Pコード同期を行う際に、クロス相関方式を利用したDLLにより、Pコードを取り出すこととしてよい。擬似距離ρ’Pを表す信号は、L1−P−DDL110’Cからフィルタ1302Cに入力される。
L1−PLL120Cは、上述した実施例1で説明したようなL1−PLL120Aと同様であってよく、説明を省略する。L1−PLL120Cからのドップラー周波数変化量ΔfL1を表す信号は、フィルタ1301C,1302Cに入力される。
フィルタ1301C,1302Cのそれぞれでは、ドップラー周波数変化量ΔfL1を用いて、擬似距離ρ’CA、ρ’Pのそれぞれに対してフィルタ処理が実行される。フィルタ処理は、上述した実施例1で説明したようなキャリアスムージングを用いるものであってよい。フィルタ処理後の擬似距離ρCA、ρPを表す信号は、結合処理部150Cに入力される。
結合処理部150Cでは、擬似距離ρCA、ρPが結合されて、1つの擬似距離ρCA+P(結合擬似距離)が算出される。結合擬似距離ρCA+Pは、測位演算回路200(図2参照)に供給され、移動体30の位置の測位演算に用いられることになる。結合処理部150Cでは、また、擬似距離ρCA、ρPの各分散値σCA、σPが結合されて、1つの分散値σCA+P(結合分散値)が算出される。結合分散値σCA+Pは、測位演算回路200(図2参照)に供給され、移動体30の位置の測位演算に用いられることになる。例えば、結合分散値σCA+Pは、測位解の信頼性を判断する際に用いられてもよい。
結合処理部150Cでは、例えば、簡易的に、以下の式により、結合擬似距離ρCA+Pが算出されてよい。
ρCA+P=(ρCA+ρP)/2
即ち、結合擬似距離ρCA+Pは、フィルタ処理後の擬似距離ρCA、ρPを平均化することにより算出される。
或いは、結合処理部150Cでは、以下の式のように、適切な重みを付与して平均化することにより、結合擬似距離ρCA+Pが算出されてもよい。
ρCA+P=(α・ρCA+β・ρP)/(α+β)
ここで、擬似距離ρCAに付与される重み付け係数αは、好ましくは、擬似距離ρPに付与される重み付け係数βよりも小さくされる。これは、Pコードに基づいて算出される擬似距離ρPの方が、C/Aコードに基づいて算出される擬似距離ρCAよりも精度が高いのが一般的であるからである。
次に、本実施例3において好適に用いることができる結合処理部150Cのその他の結合処理について説明する。以下で説明するその他の結合処理は、擬似距離の分散を用いる点が、上述の簡易的な平均化による結合処理と主に異なる。
図21は、結合処理部150Cのその他の結合処理の一例を表すブロック図である。図示の例の結合処理部150Cは、図21に示すように、CA−分散算出部152C、L1−P−分散算出部154C、及び擬似距離結合部156Cを含む。尚、CA−分散算出部152Cは、上述の実施例1におけるCA1−分散算出部152Aと同様であってよい。
CA−分散算出部152Cでは、擬似距離ρCAの分散値σCAが算出される。同様に、L1−P−分散算出部154Cでは、擬似距離ρPの分散値σPが算出される。この算出方法については後述する。
擬似距離結合部156Cでは、CA−分散算出部152Cから出力される擬似距離ρCAの分散値σCA、及び、L1−P−分散算出部154Cから出力される擬似距離ρPの分散値σPを用いて、擬似距離ρCA及び擬似距離ρPが、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合擬似距離ρCA+Pが算出される。
ρCA+P=(σP m×ρCA+σCA m×ρP)/(σP m+σCA m)
ここで、上付き「m」は、階乗を表し、正の整数(m=1,2、・・)のうちの適切な値が用いられる。例えば、m=1であってよい。この場合、結合擬似距離ρCA+Pは、以下の式に従って算出されることになる。
ρCA+P=(σP×ρCA+σCA×ρP)/(σP+σCA)
擬似距離結合部156Cでは、また、CA−分散算出部152Cから出力される擬似距離ρCAの分散値σCA、及び、L1−P−分散算出部154Cから出力される擬似距離ρPの分散値σPが、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合分散値σCA+Pが算出される。
図22は、L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理の一例を表すブロック図である。
L1−P−分散算出部154Cは、図22に示すように、C/N算出部1541C及び分散算出部1542Cを含む。
C/N算出部1541Cでは、搬送波の強度(電力)と雑音の強度(電力)の比であるC/NPが算出される。C/NPは、デジタルIF信号に含まれる信号強度と雑音強度の比に相当する。C/NPの算出・推測方法は、上述の実施例1における方法1−1,1−2,1−3の何れが用いられてもよい。このようにして導出されるC/NPを表す信号は、分散算出部1542Cに入力される。
分散算出部1542Cでは、C/N算出部1541CからのC/NPに基づいて、例えば以下の式に従って、擬似距離ρPの分散値σPが算出される。
σP=λ×√(dp/τ・C/NP) 式(9)
式(9)において、C/N以外は固定値である。λは、Pコードの1ビットの長さであり、約30[m]である。dpは、L1−P−DDL110’Cにおいて擬似距離ρ’Pを算出した際に用いたレプリカPコードに係るEarlyレプリカ符号とLateレプリカ符号の位相差(コリレータ間隔)である。τは、フィルタ1302Cにおけるフィルタ時定数であり、データ数に相当する。
図23は、L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。
図23に示すL1−P−分散算出部154Cは、分散算出部1544Cを含む。
分散算出部1544Cでは、以下の式に従って、擬似距離ρPの分散値σPが算出される。
σP=Σ(ρ”P−ave(ρ”P))2/(n−1) 式(10)
式(10)において、ρ”Pは、擬似距離ρPから擬似距離変化量を差し引いたものである(図9(B)参照)。ave(ρ” P)は、データ数nのρ”
Pの平均を表す。この例の場合、L1−P−分散算出部154Cに対する入力情報は、擬似距離ρP及び擬似距離変化量に関する情報を含む。
図24は、L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。図24に関する説明では、上述の図21及び図23を参照して説明したブロックと同一の構成については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
L1−P−分散算出部154Cは、C/N算出部1541C、分散算出部1542C、分散算出部1544C及び分散組合せ部1546Cを含む。
分散組合せ部1546Cでは、分散算出部1544CからのσP(ここでは、σP実測で表す。)と、分散算出部1542CからのσP(ここでは、σP推測で表す。)とが組み合わせられ、以下の式に従って、1つ分散値σPが導出される。
σP=(σP推測+n×σP実測)/(n+1) 式(11)
式(11)においても、データ数nが増えるに従って、実測によるσP実測に対して、推測によるσP推測よりも大きい重みが付与されるようになっている。これにより、観測開始直後から分散値σPを導出可能としつつ、観測時間の増加に伴って精度の良い分散値σPを導出することができる。
以上説明した本実施例3によれば、とりわけ以下の有利な効果が奏される。
上述の如く、本実施例3では、1観測周期でのC/Aコード及びPコードの観測データから、1つのGPS衛星10に対する2個の擬似距離ρCA、ρCPが算出されるので、1つのGPS衛星10に対して1観測周期で唯一の擬似距離(例えば上記のρCAに対応する擬似距離のみ)を算出する構成に比べて、擬似距離(=結合擬似距離ρCA+P)のばらつきを早期に収束させることができる。特に、本実施例3では、精度の高いPコードに基づく擬似距離ρCPを用いるので、ばらつきを更に効果的に収束させることができる。
また、上述の如く、2個の擬似距離ρCA、ρPを、それぞれの分散値(バラツキ度合いを表す指標)を用いて結合させる場合には、結合擬似距離ρCA+Pのばらつきを早期に収束させつつ、高い精度の結合擬似距離ρCA+Pを得ることができる。
以上説明した本実施例3において、以下のような変形例がありえる。
例えば、本実施例3において、L1波のPコードを用いているが、L2波のPコードに基づいて、同様に、擬似距離ρPを算出してもよい。また、擬似距離ρPを上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、その中から、1つだけ適当な擬似距離を選択する構成を有していてもよい。或いは、擬似距離ρPを上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、上述の如く複数算出される擬似距離を結合して1つの擬似距離を導出する構成を有してもよい。或いは、GPS受信機1がL1波及びL2波の双方を受信可能な2周波受信機である場合には、L1波及びL2波のそれぞれに対して、一のGPS衛星10に対して1観測周期で1個以上の擬似距離ρPを算出し、その中から、1つだけ適当な擬似距離を選択することとしてもよいし、或いは、上述の如く複数算出される擬似距離を結合して1つの擬似距離を導出することとしてもよい。これらの場合、結合方法については、上述した実施例1における各種の結合処理の考え方が利用されてもよい。
また、本実施例3において、擬似距離ρP及び/又は擬似距離ρCAを、上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、これらを結合処理部150Cにて結合させることも可能である。
実施例4は、1観測周期でのC/Aコードの観測データから擬似距離(実測擬似距離)を算出するのに加えて、推測による擬似距離を算出する点が、上述の実施例1と主に異なる。以下では、実施例4特有の構成について重点的に説明し、上述の実施例1と同様の構成であってよい構成要素については、同様の参照符号(末尾のアルファベットを変えただけの参照符号)を用いる。
図25は、実施例4に係る信号処理回路100Dの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。以下では、説明の複雑化を避けるため、ある1つのGPS衛星101からの衛星信号に関する信号処理(1チャンネルの信号処理)を代表して説明する。以下で説明する信号処理は、観測可能な各GPS衛星101,102,103等からの衛星信号に対して並列的(同時)に実行される。
信号処理回路100Dは、図25に示すように、L1−CA−DDL110D、L1−PLL120D、フィルタ130D、結合処理部150D、空間誤差算出部170D、移動体位置推定部180D、及び、擬似距離推測部190Dを含む。
L1−CA−DDL110Dは、L1波のC/Aコードに対して、内部で発生させたレプリカC/AコードによりC/Aコード同期を行い、擬似距離を算出するように構成されている。以下、本実施例4の説明において、C/Aコードに基づいて算出される擬似距離を、「ρCA」といい、後述のフィルタ処理が実行されていない擬似距離を、「ρ’CA」で表す。L1−CA−DDL110Dは、上述した実施例3で説明したようなL1−CA−DDL110Cと同様であってよい。擬似距離ρ’CAを表す信号は、L1−CA−DDL110Dからフィルタ130Dに入力される。
L1−PLL120Dは、上述した実施例1で説明したようなL1−PLL120Aと同様であってよく、説明を省略する。L1−PLL120Dからのドップラー周波数変化量ΔfL1を表す信号は、フィルタ130Dに入力される。
フィルタ130Dでは、ドップラー周波数変化量ΔfL1を用いて、擬似距離ρ’CAに対してフィルタ処理が実行される。フィルタ処理は、上述した実施例1で説明したようなキャリアスムージングを用いるものであってよい。フィルタ処理後の擬似距離ρCAを表す信号は、結合処理部150Dに入力される。
空間誤差算出部170Dでは、上述の擬似距離(例えば擬似距離ρ’CA)に含まれる誤差量ρerrが算出される。誤差量ρerrは、空間での電波伝搬速度の相違による誤差やGPS受信機1内部の受信機時計の誤差(時計誤差)といった、熱雑音以外の誤差を含む。誤差量ρerrは、例えば以下の式で算出されてよい。
ρ’err=ρCA+推測(i−1)−sqrt{(Xu(i−1)−X1(i−1))2+(Yu(i−1)−Y1(i−1))2+(Zu(i−1)−Z1(i−1))2} 式(12)
ρerr=1/n×Σρ’err 式(13)
式(12)において、ρCA+推測は、後述の結合処理部150Dにより算出される結合擬似距離を表し、(i−1)は、前回値を表す。従って、sqrt{}の項は、前回観測周期におけるGPS衛星101と移動局30との間の幾何的距離を表す。尚、[Xu(i−1)、Yu(i−1)、Zu(i−1)]及び[X1(i−1)、Y1(i−1)、Z1(i−1)]に関する情報は、測位演算回路200から供給され、ρCA+推測(i−1)に関する情報は、結合処理部150Dから供給される。また、式(13)は、式(12)で求まる誤差量ρ’errのバラツキを低減するフィルタを構成する。式(13)において、nはデータ数(=観測周期数)である。式(13)は、フィルタの一例であり、ローパス特性のあるものであれば他の式を用いてもよい。
移動体位置推定部180Dでは、前回観測周期における移動局30の位置[Xu(i−1)、Yu(i−1)、Zu(i−1)]に関する情報と、INSセンサ26及び各種センサ28からの情報とに基づいて、今回観測周期における移動局30の推定位置[Xu推定(i)、Yu推定(i)、Zu推定(i)]が導出される。即ち、移動体位置推定部180Dでは、前回観測周期からの今回観測周期に至る過程での移動局30の位置の変化を推定・加味して、今回観測周期における移動局30の推定位置[Xu推定(i)、Yu推定(i)、Zu推定(i)]が導出される。移動体位置推定部180Dでは、適切な移動体モデルを用いて当該推定が行われてよい。移動体モデルは、位置、速度、加速度、加加速度(加速度の微分値)、向き、向きの変化量のような移動局30の移動状態を表すことができる任意のパラメータを用いて構成されてよい。移動体モデルは、各種提案されており、如何なる移動体モデルが用いられても良い。例えば、移動局30の速度vを一次のマルコフ過程と仮定して移動体モデルを構成してもよい。
擬似距離推測部190Dには、空間誤差算出部170Dから誤差量ρerrに関する情報と共に、移動体位置推定部180Dから今回観測周期における移動局30の推定位置[Xu推定(i)、Yu推定(i)、Zu推定(i)]に関する情報が入力される。擬似距離推測部190Dには、また、測位演算回路200から今回観測周期のGPS衛星101の位置(X1(i)、Y1(i)、Z1(i))に関する情報(上述の如く衛星軌道情報等から導出された情報)が入力される。
擬似距離推測部190Dでは、こららの入力情報に基づいて、今回観測周期における擬似距離が推測される。以下、擬似距離推測部190Dで推測される擬似距離を、「推測擬似距離ρ推測」と表し、上述の擬似距離ρCAを、「実測擬似距離ρCA」と表す。推測擬似距離ρ推測は、例えば以下の式により算出されてもよい。
ρ推測=sqrt{(Xu推定(i)−X1(i))2+(Yu推定(i)−Y1(i))2+(Zu推定(i)−Z1(i))2}+ρerr 式(14)
式(14)において、(i)は、今回値を表す。このようにして導出された推測擬似距離ρ推測を表す信号は、上述の実測擬似距離ρCAを表す信号と共に、結合処理部150Dに入力される。
結合処理部150Dでは、例えば、簡易的に、以下の式により、結合擬似距離ρCA+推測が算出されてよい。
ρCA+推測=(ρCA+ρ推測)/2
即ち、結合擬似距離ρCA+推測は、フィルタ処理後の実測擬似距離ρCAと、推測擬似距離ρ推測とを平均化することにより算出される。
或いは、結合処理部150Dでは、以下の式のように、実測擬似距離ρCAと推測擬似距離ρ推測とを適切な重みを付与して平均化することにより、結合擬似距離ρCA+推測が算出されてもよい。
ρCA+推測=(α・ρCA+β・ρ推測)/(α+β)
ここで、重み付け係数α及びβは、実測擬似距離ρCA及び推測擬似距離ρ推測の精度やばらつきの傾向を考慮して適切に決定されてよい。
次に、本実施例4において好適に用いることができる結合処理部150Dのその他の結合処理について説明する。以下で説明するその他の結合処理は、擬似距離の分散を用いる点が、上述の簡易的な平均化による結合処理と主に異なる。
図26は、結合処理部150Dのその他の結合処理の一例を表すブロック図である。図示の例の結合処理部150Dは、図26に示すように、CA−分散算出部152D、推測分散算出部154D、及び、擬似距離結合部156Dを含む。
CA−分散算出部152Dは、上述の実施例1で説明したCA1−分散算出部152Aと同様であってよい。CA−分散算出部152Dで算出された実測擬似距離ρCAの分散値σCAを表す信号は、擬似距離結合部156Dに入力される。
推測分散算出部154Dでは、上述の如く導出される推測擬似距離ρ推測の分散値ρ推測が算出される。分散値ρ推測は、例えば、以下の式を用いて算出されてもよい。
ρ推測=α1・車輪速度+α2・加速度変化量+α3・タイヤ空気圧+α4・衛星仰角+・・・・ 式(15)
式(15)において、車輪速度、加速度変化量、タイヤ空気圧に関する情報は、タイヤ空気圧センサを含む各種センサ28から供給されてよい。衛星仰角は、衛星軌道情報と移動体30の位置情報とから算出されてもよい。式(15)は、推測擬似距離ρ推測のバラツキが、主に、電解層による誤差及び対流圏による誤差(空間での電波伝搬速度の誤差)と、車両位置の誤差とに起因し、前者が衛星仰角に依存し、後者が速度や加速度変化やタイヤ空気圧に依存することを考慮した線形結合近似式である。各係数(α1、α2等)は、実験的に決定され、この際各種センサ28の精度等が勘案されてよい。推測擬似距離ρ推測の分散値ρ推測を表す信号は、擬似距離結合部156Dに入力される。
擬似距離結合部156Dでは、CA−分散算出部152Dから出力される実測擬似距離ρCAの分散値σCA、及び、推測分散算出部154Dから出力される推測擬似距離ρ推測の分散値σ推測を用いて、実測擬似距離ρCA及び推測擬似距離ρ推測が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合擬似距離ρCA+推測が算出される。
ρCA+推測=(σ推測 m×ρCA+σCA m×ρ推測)/(σ推測 m+σCA m)
ここで、上付き「m」は、階乗を表し、正の整数(m=1,2、・・)のうちの適切な値が用いられる。例えば、m=1であってよい。この場合、結合擬似距離ρCA+推測は、以下の式に従って算出されることになる。
ρCA+推測=(σ推測×ρCA+σCA×ρ推測)/(σ推測+σCA)
擬似距離結合部156Dでは、また、CA−分散算出部152Dから出力される実測擬似距離ρCAの分散値σCA、及び、推測分散算出部154Dから出力される推測擬似距離ρ推測の分散値σ推測が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合分散値σCA+推測が算出される。
以上説明した本実施例4によれば、とりわけ以下の有利な効果が奏される。
上述の如く、本実施例4では、1観測周期でのC/Aコードの観測データから実測擬似距離ρCAを算出するのに加えて、推測擬似距離ρ推測を算出するので、1つのGPS衛星10に対して1観測周期で唯一の擬似距離(例えば上記の実測擬似距離ρCAのみ)を算出する構成に比べて、擬似距離(=結合擬似距離ρCA+推測)のばらつきを早期に収束させることができる。特に、本実施例4では、推測擬似距離ρ推測を算出することで、衛星信号の擬似雑音コードを直接的に用いずに、1観測周期で得られる擬似距離データを増加させることができるので、ばらつきを更に効果的に収束させることができる。
また、上述の如く、2個の擬似距離ρCA、ρ推測を、それぞれの分散値(バラツキ度合いを表す指標)を用いて結合させる場合には、結合擬似距離ρCA+推測のばらつきを早期に収束させつつ、高い精度の結合擬似距離ρCA+推測を得ることができる。
以上説明した本実施例4において、以下のような変形例がありえる。
例えば、本実施例4において、実測擬似距離ρCAを、上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、これらを結合処理部150Dにて結合させることも可能である。
また、本実施例4において、実測擬似距離ρCAに代えて、L1波のPコード及び/又はL2波のPコードに基づいて算出した擬似距離ρを実測擬似距離として用いてもよい。
実施例5は、上述の実施例3と実施例4を適切に組み合わせたものである。以下では、実施例4特有の構成について重点的に説明し、上述の実施例3及び実施例4と同様の構成であってよい構成要素については、同様の参照符号(末尾のアルファベットを変えただけの参照符号)を用いる。
図27は、実施例5に係る信号処理回路100Eの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。以下では、説明の複雑化を避けるため、ある1つのGPS衛星101からの衛星信号に関する信号処理(1チャンネルの信号処理)を代表して説明する。以下で説明する信号処理は、観測可能な各GPS衛星101,102,103等からの衛星信号に対して並列的(同時)に実行される。
信号処理回路100Eは、図27に示すように、L1−CA−DDL110E、L1−P−DDL110E、L1−PLL120E、フィルタ1301E,1302E、空間誤差算出部170E、移動体位置推定部180E、擬似距離推測部190E、第1結合処理部1501E及び第2結合処理部1502Eを含む。
L1−CA−DDL110E、L1−P−DDL110E、L1−PLL120E、フィルタ1301E,1302E及び第1結合処理部1501Eについては、それぞれ、上述の実施例3におけるL1−CA−DDL110C、L1−P−DDL110C、L1−PLL120C、フィルタ1301C,1302C及び結合処理部150Cと同様であってよい。
結合処理部1501Eにより算出された結合擬似距離ρCA+P及び結合分散値σCA+Pを表す信号は、第2結合処理部1502Eに入力される。
空間誤差算出部170E、移動体位置推定部180E及び擬似距離推測部190Eについては、それぞれ、上述の実施例4における空間誤差算出部170D、移動体位置推定部180D、及び、擬似距離推測部190Dと同様であってよい。また、本実施例5では、擬似距離推測部190Eが、上述の実施例4における推測分散算出部154Dを含むものとする。
擬似距離推測部190Eにより算出された推測擬似距離ρ推測及びその分散値ρ推測を表す信号は、第2結合処理部1502Eに入力される。
第2結合処理部1502Eでは、例えば、簡易的に、以下の式により、結合擬似距離ρCA+P+推測が算出されてよい。
ρCA+P+推測=(ρCA+P+ρ推測)/2
即ち、結合擬似距離ρCA+P+推測は、第1結合処理部1501Eによる結合処理後の結合擬似距離ρCA+Pと、推測擬似距離ρ推測とを平均化することにより算出される。
或いは、第2結合処理部1502Eでは、以下の式のように、結合擬似距離ρCA+Pと推測擬似距離ρ推測とを適切な重みを付与して平均化することにより、結合擬似距離ρCA+P+推測が算出されてもよい。
ρCA+P+推測=(α・ρCA+P+β・ρ推測)/(α+β)
ここで、重み付け係数α及びβは、実測擬似距離ρCA+P及び推測擬似距離ρ推測の精度やばらつきの傾向を考慮して適切に決定されてよい。
或いは、第2結合処理部1502Eでは、結合分散値σCA+P及び分散値ρ推測を用いて、結合擬似距離ρCA+P+推測が算出されてもよい。即ち、結合擬似距離ρCA+Pの結合分散値σCA+P、及び、推測擬似距離ρ推測の分散値σ推測を用いて、結合擬似距離ρCA+P及び推測擬似距離ρ推測が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合擬似距離ρCA+P+推測が算出される。
ρCA+P+推測=(σ推測 m×ρCA+P+σCA+P m×ρ推測)/(σ推測 m+σCA+P m)
ここで、上付き「m」は、階乗を表し、正の整数(m=1,2、・・)のうちの適切な値が用いられる。例えば、m=1であってよい。この場合、結合擬似距離ρCA+P+推測は、以下の式に従って算出されることになる。
ρCA+P+推測=(σ推測×ρCA+P+σCA+P×ρ推測)/(σ推測+σCA+P)
第2結合処理部1502Eでは、また、結合分散値σCA+P及び分散値ρ推測が、例えば以下の式に従って、結合されることで、結合分散値σCA+P+推測が算出される。
以上説明した本実施例5によれば、とりわけ以下の有利な効果が奏される。
上述の如く、本実施例5では、1観測周期でのC/Aコード及びPコードの観測データから擬似距離ρCA及び擬似距離ρPを算出するのに加えて、推測擬似距離ρ推測を算出するので、1つのGPS衛星10に対して1観測周期で唯一の擬似距離(例えば上記の実測擬似距離ρCAのみ)を算出する構成に比べて、擬似距離(=結合擬似距離ρCA+P+推測)のばらつきを早期に収束させることができる。特に、本実施例5では、精度の高いPコードに基づく擬似距離ρCPを用いるので、ばらつきを更に効果的に収束させることができ、更に、推測擬似距離ρ推測を算出することで、衛星信号の擬似雑音コードを直接的に用いずに、擬似距離データを増加させることができるので、ばらつきを更に効果的に収束させることができる。
また、上述の如く、3個の擬似距離ρCA、ρP、ρ推測を、それぞれの分散値σCA、σP、σ推測(バラツキ度合いを表す指標)を用いて結合させる場合には、結合擬似距離ρCA+P+推測のばらつきを早期に収束させつつ、高い精度の結合擬似距離ρCA+P+推測を得ることができる。
以上説明した本実施例5において、以下のような変形例がありえる。
例えば、本実施例5において、擬似距離ρCA及び/又は擬似距離ρPを、上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、これらを第1結合処理部1501Eにて結合させることも可能である。
また、本実施例5において、第1結合処理部1501E及び第2結合処理部1502Eを統合して1つの結合処理により、3個の擬似距離ρCA、ρP、ρ推測を結合させることも可能である。この場合も同様に、擬似距離ρCA及び/又は擬似距離ρPを、上述の実施例1又は実施例2と同様の態様で複数算出し、これらを、ρ推測と共に結合させることも可能である。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、GPSに本発明が適用された例を示したが、本発明は、GPS以下の衛星システム、例えばGNSS (Global Navigation Satellite System)やその類にも適用可能である。
また、特に実施例1,2に関連して、一のGPS衛星10に対して1観測周期で複数の擬似距離ρCAを導出する方法は、上述したものに限られない。例えば、実施例6に係る信号処理回路100Fとして、図28に示すように、レプリカC/Aコード生成部117Fで生成されるレプリカC/Aコードを基準にして、当該レプリカC/Aコードに対して所定の小さい位相(例えば±0.1、±0.2チップ)だけシフトさせたレプリカC/Aコードを複数(図示の例では2つの位相遅れ部1191F、1192Fと位相進め部1193F、1194Fを用いて4つ)形成し、これら各種(本例では5種)のレプリカC/Aコードを用いて、一のGPS衛星10に対して1観測周期で複数の擬似距離ρCA(本例では5つの擬似距離ρCA)を導出することも可能である。尚、図28に示す例において、一のGPS衛星10に対して1観測周期で算出する擬似距離ρCAの数は、5に限らず、2、3、4、6以上であってもよい。
また、上述の実施例2に関連して、N個の擬似距離を算出し、各直線の交点の相関値の大きさを比較して、N個の擬似距離のうちから、交点の相関値が大きい順に、N−1個以下の所望の2つ以上の数の擬似距離を選択し、当該選択した擬似距離だけを結合させることも可能である。例えば、ρ’CA1、ρ’CA2、ρ’CA3の3つの擬似距離を算出する構成において、例えばρ’CA1、ρ’CA2に係る交点の相関値が、ρ’CA3に係る交点の相関値よりも大きい場合、ρ’CA1、ρ’CA2を選択(ρ’CA3を破棄)し、ρ’CA1、ρ’CA2を結合させることも可能である。
また、上述の実施例では、移動体用測位装置がGPS受信機1により実現されているが、移動体用測位装置は、GPS受信機とそれに接続される他の電子部品とにより協働して実現されてもよい。
また、上述の実施例では、好ましい実施例として、観測可能な少なくとも4つ以上のGPS衛星10のそれぞれに対して、1観測周期で複数の擬似距離を算出・結合しているが、4つ以上のGPS衛星10のいくつかに対してのみ、1観測周期で複数の擬似距離を算出・結合し、他のGPS衛星10に対しては、従来どおりに1観測周期で1つの擬似距離(結合処理をしない1つの擬似距離)を算出することとしてもよい。
本発明に係る移動体用測位装置が適用されるGPSの全体的な構成を示すシステム構成図である。
図1の移動局30に搭載される移動体用測位装置の一実施例を示す概略的なシステム構成図である。
ワールド座標系とローカル座標系との関係、及び、ローカル座標系とボディ座標との関係を示す図である。
実施例1に係る信号処理回路100の主要機能を表す機能ブロックを示す図である。
実施例1に係るL1−DDL110Aの主要処理の一例を概略的に表すブロック図である。
コリレータ間隔の設定態様の一例を示す図である。
熱雑音と相関レベルとの関係を概念的に示す図である。
L1−PLL120Aの主要処理の一例を表すブロック図である。
フィルタ1301Aの主要処理の一例を表すブロック図である。
キャリアスムージングの概念を表す図である。
結合処理部150Aの結合処理の有用性を概念的に示す図である。
実施例1に係る結合処理部150Aのその他の結合処理を表すブロック図である。
CA1−分散算出部152Aの分散算出処理の一例を表すブロック図である。
CA1−分散算出部152Aの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。
CA1−分散算出部152Aの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。
コリレータ間隔の設定態様のその他の一例を示す図である。
図16に関連する結合処理の有用性を概念的に示す図である。
実施例2に係るL1−DDL110Bの主要処理の一例を概略的に表すブロック図である。
追尾点(θsect)の決定方法を概念的に示す図である。
実施例3に係る信号処理回路100Cの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。
実施例3に係る結合処理部150Cのその他の結合処理の一例を表すブロック図である。
L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理の一例を表すブロック図である。
L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。
L1−P−分散算出部154Cの分散算出処理のその他の一例を表すブロック図である。
実施例4に係る信号処理回路100Dの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。
実施例4に係る結合処理部150Dのその他の結合処理の一例を表すブロック図である。
実施例5に係る信号処理回路100Eの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。
実施例6に係る信号処理回路100Fの主要機能を概略的に表す機能ブロックを示す図である。
符号の説明
1 GPS受信機
10 GPS衛星
20 GPSアンテナ
22 高周波回路
24 A/D変換回路
26 INSセンサ
28 各種センサ
29 地図DB
30 移動体
32 演算部
100 信号処理回路
110A−110F L1−DDL
200 測位演算回路