図1は、本発明の実施の形態によるレーザ加工装置100の一構成例を示したブロック図である。このレーザ加工装置100は、対象物Wにレーザ光Lを照射することにより表面加工を行うための装置であり、レーザ制御部1、レーザ出力部2及び入力部3を備えている。本実施の形態において説明する表面加工には、剥離などの加工の他、文字やバーコードを対象物Wの表面に印字するマーキングなどの各種加工が含まれるものとする。
入力部3は、このレーザ加工装置100の動作に関する入力操作をユーザが行うための入力手段である。この例では、入力部3には液晶表示器からなる表示部(不図示)が備えられており、表示部の表示画面に各種情報を表示させることができる。表示部の表示画面上にはタッチパネルが取り付けられており、ユーザがタッチパネルに指を触れることにより、表示画面に表示されたボタンを選択する操作を行うことができるようになっている。ただし、このような構成に限らず、ユーザが押操作するための操作キーが入力部3に備えられたような構成であってもよいし、パーソナルコンピュータなどの入力装置が入力部3として用いられるような構成であってもよい。
レーザ制御部1は、レーザ出力部2の動作を制御するための制御装置であり、制御部4、メモリ部5、励起光発生部6及び電源7を備えている。制御部4は、プロセッサからなり、励起光発生部6やレーザ出力部2に備えられた各部の制御を行う。メモリ部5は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの半導体メモリからなり、制御部4が実行するコンピュータプログラムの他、入力部3からの入力信号に基づく当該レーザ加工装置100の動作設定などが記憶される。励起光発生部6は、電源7から駆動電圧が印加され、レーザ出力部2に供給するレーザ励起光を発生する。
図2は、励起光発生部6の一構成例を示した斜視図である。この励起光発生部6は、レーザ励起光源10及び集光部11をケーシング12内に固定することにより形成されている。レーザ励起光源10は、複数のレーザダイオードを一直線状に並べることにより形成されたレーザダイオードアレイを備えており、各レーザダイオードからレーザ光が放射されることにより、光軸が互いに平行な複数のレーザ光が集光部11に入射するようになっている。
集光部11は、集光レンズからなり、レーザ励起光源10から入射した複数のレーザ光を集光することによりレーザ励起光として出力する。集光部11から出力されるレーザ励起光は、光ファイバケーブル13を介してレーザ出力部2へ送られ、後述するように、このレーザ励起光を用いてレーザ出力部2内でレーザ媒質8が励起されることにより、対象物Wに照射するためのレーザ光Lが発生するようになっている。
図3は、レーザ出力部2の内部構成の一例を示した斜視図である。図1及び図3に示すように、レーザ出力部2は、レーザ発振部50、ミキシングミラー54、ビームエキスパンダ53、ベンドミラー55、走査部9、集光部15、走査回路基板56、ガイド用光源60、撮像部57、ヒートシンク58及びファン59などの各構成部材を本体フレーム20で保持することにより形成されている。
レーザ発振部50は、レーザ制御部1から光ファイバケーブル13を介して入力されるレーザ励起光をレーザ媒質8に入射させることにより、レーザ媒質8を励起させてレーザ光Lを照射するレーザ照射手段である。固体のレーザ媒質8としては、例えばNd:YAGやNd:YVO4などを用いることができる。この例では、ロッド状に形成されたNd:YAGがレーザ媒質8として使用され、発生するレーザ光Lの波長が1064nmに設定されている。
図3に示すように、レーザ出力部2の中央部には1枚の金属板21が配置されており、この金属板21が本体フレーム20の一部を構成している。金属板21は、熱伝導性の高い材料により形成され、ここではアルミ製の金属板が使用されている。金属板21の一方の主面には、レーザ発振部50が取り付けられている。金属板21の他方の主面には、レーザ発振部50に対向する位置にヒートシンク58が取り付けられている。ヒートシンク58は、金属製の薄板58aが互いに平行になるように複数枚連結されることによって表面積の大きい構造に形成された放熱部材であり、レーザ発振部50から発生する熱が金属板21を介してヒートシンク58に伝導されるようになっている。
ファン59は、ヒートシンク58の側方であって、ヒートシンク58に対して薄板58aが延びる方向に隣接した位置において、本体フレーム20の外側に取り付けられている。このファン59が駆動されることにより、図3に矢印A1で示すように、外部の空気が装置内に導入され、ヒートシンク58に供給されるようになっている。ヒートシンク58に供給された空気が複数枚の薄板58aの間を通過する際に、それらの薄板58aとの間で熱交換が行われ、温まった空気がファン59を介して外部に送り出されることにより、レーザ発振部50から発生する熱が放熱される。
レーザ発振部50から照射されたレーザ光Lは、図3に破線で示すように、ミキシングミラー54、ビームエキスパンダ53、ベンドミラー55、走査部9及び集光部15を介して、レーザ出力部2から対象物Wに向けて出力される。集光部15は、レーザ光Lを対象物Wに向けて所定の集光角で集光させるための集光レンズであり、例えばfθレンズからなる。ビームエキスパンダ53は、後述するように2つのレンズを備えており、焦点位置制御用モータ53aを駆動させることにより、これらのレンズの相対距離を変化させ、集光部15を介して対象物Wへ集光されるレーザ光Lの焦点位置を光軸方向に移動させることができる。このとき、ビームエキスパンダ53、焦点位置制御用モータ53a及び制御部4は、レーザ光Lの焦点位置を光軸方向に移動させる焦点移動制御手段を構成している。
走査部9には、1対のガルバノミラー14a,14bと、これらのガルバノミラー14a,14bがそれぞれ回動軸に固定されたガルバノモータ51a,51bとが備えられている。走査回路基板56には、ガルバノモータ51a,51bを駆動させるためのスキャナ駆動回路52が形成されている。レーザ発振部50から照射されたレーザ光Lは、ミキシングミラー54で反射され、ビームエキスパンダ53を通過した後、ベンドミラー55で反射されて走査部9に入射する。走査部9に入射したレーザ光Lは、1対のガルバノミラー14a,14bで順次に反射された後、集光部15を介して対象物Wに照射される。各ガルバノモータ51a,51bは、回動軸が互いに直交するように配置されており、これらの直交する回動軸に各ガルバノミラー14a,14bが取り付けられている。
これにより、対象物Wに照射されるレーザ光Lは、一方のガルバノモータ51aを駆動させてガルバノミラー14aを回動させることにより走査される方向(X方向)と、他方のガルバノモータ51bを駆動させてガルバノミラー14bを回動させることにより走査される方向(Y方向)とが直交している。したがって、走査部9及びその動作を制御する制御部4は、対象物Wに向けて照射するレーザ光Lの光軸に対して直交するX方向及びY方向にレーザ光Lを走査させる走査手段を構成し、1対のガルバノモータ51a,51bは、X方向及びY方向にレーザ光Lを走査させるために駆動される走査用モータを構成している。この場合、上記焦点移動制御手段を構成しているビームエキスパンダ53、焦点位置制御用モータ53a及び制御部4は、対象物Wに向けて照射するレーザ光Lの光軸に対して平行なZ方向にレーザ光Lを走査させる手段と定義することもできる。
ガイド用光源60は、後述するように、レーザ出力部2の設置位置を調整する際に使用されるガイド光を照射する。ミキシングミラー54は、一方からの入射光を反射させ、他方からの入射光を透過させるミラーであり、ガイド用光源60から照射されるガイド光は、ミキシングミラー54を透過した後、レーザ光Lと同じ光路を通って対象物Wに照射される。ベンドミラー55は、ミキシングミラー54と同様に、一方からの入射光を反射させ、他方からの入射光を透過させるミラーである。撮像部57は、CCD(Charge Coupled Device)カメラにより構成され、ガルバノミラー14a,14bにより反射されて映し出される対象物Wの表面の画像が、ベンドミラー55を透過して撮像部57で撮像される。撮像部57で撮像した対象物Wの表面の画像は、表示装置(不図示)の表示画面に表示させることができる。
この例では、集光部15が、レーザ光Lの出射方向に対して、ガルバノミラー14a,14bよりも後に配置されているような構成が示されているが、このような構成に限らず、ビームエキスパンダ53とガルバノミラー14a,14bの間に配置された構成であってもよい。例えば、ビームエキスパンダ53の出射レンズ18を集光部15として兼用することも可能である。このように、ビームエキスパンダ53とガルバノミラー14a,14bの間に集光部15を配置することにより、ガルバノミラー14a,14bよりも後に集光部15を配置するような構成と比べて、より小さな光学系に設計することが可能であり、より高精度なスポット集光が可能となる。
図4は、レーザ発振部50の内部構成の一例を示した光路図である。レーザ発振部50は、レーザ媒質8、レンズ71〜73、ビームスプリッタ74、折り返しミラー75〜77、ダイクロイックミラー78、反射ミラー79、出力ミラー80、Qスイッチ81、アパーチャ82、ビームエキスパンダ83及びウィンドウ84などの各構成部材がケーシング70内に保持されることにより形成されている。ケーシング70は金属製であり、図3に示すように、レーザ発振部50はケーシング70ごと一体的に金属板21に取り付けられている。
レーザ制御部1から光ファイバケーブル13を介してレーザ発振部50に入力されるレーザ励起光は、レンズ71で集光されてビームスプリッタ74に入射する。ビームスプリッタ74は、入射したレーザ励起光の一部を透過させ、他のレーザ励起光を反射させることにより、互いに直交する2方向へレーザ励起光を分離させる。ビームスプリッタ74を透過したレーザ励起光は、折り返しミラー75で反射された後、レンズ72を通って反射ミラー79に入射する。反射ミラー79は、一方からの入射光を反射させ、他方からの入射光を透過させるミラーであり、レンズ72からのレーザ励起光は反射ミラー79を透過してレーザ媒質8の一端部に入射し、他端部から出射してダイクロイックミラー78で反射される。
一方、ビームスプリッタ74で反射されたレーザ励起光は、折り返しミラー76,77で順次に反射された後、レンズ73を通ってダイクロイックミラー78に入射する。ダイクロイックミラー78は、一方からの入射光を反射させ、他方からの入射光を透過させるミラーであり、レンズ73からのレーザ励起光はダイクロイックミラー78を透過してレーザ媒質8の他端部に入射し、一端部から出射して反射ミラー79で反射される。反射ミラーで反射されたレーザ励起光は、レーザ媒質8の一端部に再び入射し、他端部から出射してダイクロイックミラー78で反射される。
このようにして、ビームスプリッタ74で分離された2つのレーザ励起光は、それぞれレーザ媒質8を通過した後、ダイクロイックミラー78で反射され、Qスイッチ81及びアパーチャ82を通って出力ミラー80に入射する。出力ミラー80は、入射したレーザ励起光の一部を透過させ、他のレーザ励起光を反射させる。出力ミラー80で反射されたレーザ励起光は、アパーチャ82及びQスイッチ81を通って再びダイクロイックミラー78で反射され、レーザ媒質8の他端部に入射した後、一端部から出射して反射ミラー79で反射される。反射ミラー79で反射されたレーザ励起光は、レーザ媒質8の一端部に再び入射し、他端部から出射してダイクロイックミラー78で反射される。
このように、反射ミラー79及び出力ミラー80でレーザ励起光を反射させ、レーザ励起光をレーザ媒質8に繰り返し入射させることにより、レーザ光の誘導放出を行うことができる。すなわち、レーザ励起光の照射によって励起されたレーザ媒質8には、エネルギー準位の反転分布が形成され、この状態でレーザ媒質8の放出光をレーザ媒質8に再入射させれば、レーザ媒質8において同波長かつ同位相の光が新たに放出される。このようにしてレーザ媒質8の放出光が増幅され、レーザ光が生成される。
Qスイッチ81は、レーザ発振を制御するためのものであり、オン/オフ切替によってレーザ光を回折させる。Qスイッチ81は、オン状態のときにのみレーザ光を回折させ、オフ状態のときにはレーザ光を回折させることなくそのまま通過させる。アパーチャ82には、微小な開口部が形成されており、Qスイッチ81がオフ状態のときには、Qスイッチ81を通過したレーザ光がアパーチャ82を通過するが、Qスイッチ81がオン状態のときには、レーザ光が回折されることにより、Qスイッチ81を通過したレーザ光がアパーチャ82を通過できないようになっている。したがって、Qスイッチ81によるオン/オフ切替によって、レーザ光をパルス発振PW(Pulse Wave)により断続的に発生させることができる。アパーチャ82を通過した後、出力ミラー80を透過したレーザ光は、ビームエキスパンダ83によりビーム径が拡大された後、ウィンドウ84を通ってレーザ発振部50から出力される。
図5は、走査部9の一構成例を示した斜視図である。図6は、図5に示した走査部9を異なる角度から見た斜視図である。図7は、図5に示した走査部9の側面図である。図5及び図6では、走査部9とともにビームエキスパンダ53、ガイド用光源60、ミキシングミラー54、ベンドミラー55、ポインタ用光源64及び固定ミラー66も併せて図示している。また、図7では、走査部9とともにポインタ用光源64を併せて図示している。なお、図5〜図7では、説明を簡略化するために集光部15の構成を省略して示している。
レーザ発振部50から照射されたレーザ光Lは、ミキシングミラー54で反射されてビームエキスパンダ53に入射し、このビームエキスパンダ53でビーム径が調整された後、ベンドミラー55で反射される。ベンドミラー55で反射されたレーザ光Lは、1対のガルバノミラー14a,14bでさらに反射され、対象物Wへ照射される。このとき、1対のガルバノミラー14a,14bでレーザ光Lを走査することによって焦点位置が移動する領域を作業領域WSとし、この作業領域WSを対象物Wの表面に合わせることにより、エネルギー密度が高い焦点位置を対象物Wの表面に合わせて良好に表面加工を行うことができる。
レーザ光Lのエネルギー密度は、焦点位置に対してZ方向の両側に向かうにつれて徐々に低くなる。焦点位置を中心にして所定値以上のエネルギー密度が得られるZ方向の範囲は、焦点深度と呼ばれており、一般的には、焦点位置におけるエネルギー密度に対して半分以上のエネルギー密度が得られるZ方向の範囲として定義される。焦点深度は、焦点位置における集光角に依存しており、集光角が大きいほど焦点深度が小さくなる。
ガイド用光源60は、ガイド光Gを照射して作業領域WS内に所定のガイドパターンを表示させる。すなわち、ガイド用光源60からのガイド光Gがミキシングミラー54及びビームエキスパンダ53を通過し、ベンドミラー55で反射された後、1対のガルバノミラー14a,14bでさらに反射されることにより、作業領域WS内にガイドパターンが表示される。このガイドパターンは、ミキシングミラー54からレーザ光Lと同じ光路を通るガイド光Gによって、レーザ光Lの焦点位置を中心とした一定領域を表す図形として表示される。
ポインタ用光源64は、レーザ光Lの焦点位置を可視的に示すためのポインタ光Pを照射している。ポインタ光Pは、ガルバノミラー14bの裏面に形成されたポインタ用ミラー14d及び固定ミラー66で順次に反射され、レーザ光Lの焦点位置においてレーザ光Lの光軸と交差するように、作業領域WSに向けて照射される。したがって、対象物Wの表面にガイド光Gによるガイドパターンを表示させた状態で、そのガイドパターンの中心にポインタ光Pが照射されるようにレーザ出力部2の設置位置を調整することにより、作業領域WSを対象物Wの表面に合わせることができる。
図8及び図9は、ビームエキスパンダ53の動作によってレーザ光Lの焦点位置が移動する態様を示した側面図であり、図8は焦点位置がレーザ出力部2に対して遠い場合、図9は焦点位置がレーザ出力部2に近い場合を示している。図10は、ビームエキスパンダ53の一構成例を示した正面図及び断面図である。なお、図8及び図9では、説明を簡略化するために、ミキシングミラー54、ベンドミラー55及び集光部15の構成を省略して示している。
ビームエキスパンダ53には、レーザ発振部50からのレーザ光Lが入射する入射レンズ16と、入射レンズ16を通過したレーザ光Lを走査部9に向けて出射する出射レンズ18とが備えられている。入射レンズ16及び出射レンズ18は、互いに平行に配置され、焦点位置制御用モータ53aを含む駆動手段が入射レンズ16を平行移動させることにより、出射レンズ18との相対距離を変化させることができるようになっている。ただし、出射レンズ18を固定した状態で入射レンズ16を移動させるような構成に限らず、入射レンズ16を固定した状態で出射レンズ18を移動させるような構成であってもよいし、入射レンズ16及び出射レンズ18をそれぞれ移動させるような構成であってもよい。
入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が変化すると、出射レンズ18から出射されるレーザ光Lの集光角が変化することにより、レーザ光Lの光軸方向に焦点位置が移動し、レーザ出力部2に対する作業領域WSの距離が変化する。具体的には、入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が短くなると、図8に示すように焦点位置がレーザ出力部2から遠くなり、入射レンズ16と出射レンズ18との相対距離が長くなると、図9に示すように焦点位置がレーザ出力部2に近くなる。
図11は、集光角2θとスポット径2rの関係について説明するための模式図である。集光角2θは、焦点位置における中心点に対するレーザ光Lの漸近線の拡がり角であり、スポット径2rは、焦点位置におけるレーザ光Lのビーム径である。一般的に、集光角2θとスポット径2rとの間には、下記の関係式が成立する。ここで、λはレーザ光Lの波長であり、πは円周率である。
r=λ/πθ
このように、rはθに反比例し、λに比例している。したがって、集光角2θが大きくなるほどスポット径2rが小さくなり、波長λが短くなるほどスポット径2rが小さくなる。すなわち、集光角2θを大きくし、又は、波長λを短くすれば、スポット径2rを小さくすることができるので、焦点位置におけるエネルギー密度をより高くして、加工性能を向上させることができる。一般的に、固体のレーザ媒質を用いた場合の方が、気体のレーザ媒質を用いる場合よりも発生するレーザ光Lの波長λが短いので、本実施の形態のように固体のレーザ媒質8を用いた場合には、集光角2θを大きくすることによってスポット径2rを比較的小さくすることができる。
本実施の形態では、走査部9による走査時に、図8〜図10で説明したようなビームエキスパンダ53の動作を制御することにより、対象物Wの表面に対してレーザ光Lの焦点位置を制御することができるようになっている。より具体的には、走査部9によりレーザ光LをX方向又はY方向へ走査させるときに、ビームエキスパンダ53の入射レンズ16及び出射レンズ18間の相対距離を変化させて、レーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させることにより、対象物Wの表面に対してレーザ光Lの焦点位置を部分的に合わせたり、部分的にずらしたりすることができる。
図12は、走査部9による走査時にビームエキスパンダ53を用いてレーザ光Lの焦点位置Sを移動させる際の態様について説明するための図である。図12に示すように、対象物Wの表面に沿ってX方向又はY方向にレーザ光Lを走査させるときに、ビームエキスパンダ53によりレーザ光Lの焦点位置SをZ方向に移動させると、対象物Wの表面上におけるレーザ光Lの照射領域(以下、「スポット領域P」と呼ぶ。)の大きさが変化する。このとき、レーザ光Lの焦点位置SのZ方向への移動範囲は、上述した焦点深度の範囲内であることが好ましい。
この例では、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面上に合わせた状態でX方向へ走査させた場合と、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面に対してずらした状態でX方向へ走査させた場合とが示されている。レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面上に合わせた状態では、スポット領域Pの径が比較的小さいため、レーザ光LをX方向へ走査させることにより細い加工痕M1が形成される。一方、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面に対してずらした場合には、スポット領域Pの径が比較的大きくなり、レーザ光LをX方向へ走査させることにより太い加工痕M2が形成される。
図12では、一直線状に加工痕を形成する場合を例にとって説明したが、湾曲又は屈曲する加工痕を形成する場合にも、レーザ光Lの焦点位置SをZ方向に移動させることができる。屈曲する加工痕を形成する場合には、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面上に合わせた方が細い加工痕を形成することができるため、屈曲部を鋭く鮮明に形成することができる。
図13は、レーザ光Lの焦点位置Sを移動させて対象物Wの表面上に図形を形成する際の態様の一例を示した図である。この例では、矩形の輪郭部分とその内側部分全体に加工痕を形成する場合について説明する。輪郭部分の加工痕を形成する際には、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面上に合わせることにより、図13(a)に示すように、比較的小さいスポット領域Pで加工痕を形成する。この例では、複数の走査パターンで順次にレーザ光を走査させることにより、図13(a)のように輪郭部分の走査パターンに基づいて加工痕を形成した後、その輪郭の内側部分の走査パターンに基づいて加工痕を形成する。
輪郭の内側部分の加工痕を形成する際には、レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面に対してずらすことにより、図13(b)に示すように、比較的大きいスポット領域Pで加工痕を形成する。このように、輪郭部分の加工痕を形成するために走査部9がレーザ光Lを走査させる走査パターンと、輪郭の内側部分の加工痕を形成するために走査部9がレーザ光Lを走査させる走査パターンとで、走査パターンごとにレーザ光LのZ方向における焦点位置Sを異ならせることにより、異なる大きさのスポット領域Pで対象物Wの表面上に加工痕を形成することができる。
この例では、鮮明な加工痕を形成したい輪郭部分の走査パターンに対しては、スポット領域Pが小さい焦点位置Sを対象物Wの表面に合わせ、鮮明な加工痕を形成する必要がない輪郭の内側部分の走査パターンに対しては、対象物Wの表面から焦点位置Sをずらすことができる。レーザ光Lの焦点位置Sを対象物Wの表面に対してずらした場合には、焦点位置Sと比べて大きなスポット領域Pで加工痕が形成されるので、上記内側部分全体に加工痕を形成するためにレーザ光LをX方向及びY方向に走査させる量を減少させることができる。このように、鮮明な加工痕を形成すべき輪郭部分の走査パターンに対しては焦点位置Sを対象物Wの表面に合わせるように設定し、輪郭の内側部分の走査パターンに対しては焦点位置Sを対象物Wの表面からずらすことにより、できるだけ短時間で良好に加工を行うことができる。
特に、固体からなるレーザ媒質8をレーザ励起光で励起させることにより発生する固体レーザを用いて、対象物Wの表面に対する加工を行う場合には、レーザ光Lの集光角を大きくすることにより焦点位置Sのエネルギー密度を高くすることができるので、より微細な加工を行うことができる。したがって、固体レーザを用いて対象物Wの表面に焦点位置Sを合わせれば、輪郭部分などに対してより鮮明な加工痕を形成することができるので、さらに良好に加工を行うことができる。
また、固体レーザを用いてレーザ光Lの集光角を大きくした場合には、レーザ光LのZ方向に沿った焦点位置Sのずれに対して、スポット領域Pの大きさの変動量が大きくなる。したがって、輪郭の内側部分などに対する加工時には、レーザ光Lの焦点位置SをZ方向に少しずらすだけでスポット領域Pを大きくすることができるので、加工速度を速くすることができる。
図14は、制御部4の一構成例を示した機能ブロック図である。制御部4は、入力部3に対するユーザ操作により入力された条件設定に基づいて励起光発生部6、レーザ発振部50、ビームエキスパンダ53及び走査部9を制御することにより、対象物Wに対する表面加工を制御する。メモリ部5には、走査データ記憶部5a、焦点位置記憶部5b及びレーザ光量記憶部5cが割り当てられており、制御部4は、これらの各記憶部5a〜5cに対してデータを書き込み又は読み出して制御を行う。
走査データ記憶部5aには、図13において説明した輪郭部分とその内側部分のように、複数の走査パターンからなる走査データが記憶されている。走査データ記憶部5aには、複数種類の走査データが記憶されており、これらの走査データの中からユーザ操作に基づいていずれかの走査データが読み出され、その走査データに基づいて走査部9がレーザ光Lを走査させることにより、対象物Wに対する表面加工が行われる。走査データは、図13に例示したような図形の走査データに限らず、文字などの他の走査データであってもよい。
制御部4は、パワー設定部41、照射周期設定部42、走査速度設定部43、スポット径設定部44、レーザ照射制御部45、レーザ走査制御部46及び焦点位置制御部47によって構成され、これらの各機能部は制御部4により実行されるコンピュータプログラムとして実現される。ここで、ユーザは、入力部3を操作することにより、パワー設定、照射周期設定、走査速度設定及びスポット径設定を行うことができるようになっている。
パワー設定では、励起光発生部6から発生するレーザ励起光の光量を設定することにより、レーザ出力部2から出力されるレーザ光量を調整することができる。照射周期設定では、レーザ発振部50からパルス発振PWにより断続的に照射されるレーザ光Lの照射周波数を設定することができる。走査速度設定では、走査部9によるX方向及びY方向へのレーザ光Lの走査速度を設定することができる。スポット径設定では、対象物Wの表面上におけるスポット領域Pの径(以下、「スポット径」と呼ぶ。)を設定することにより、Z方向における焦点位置をスポット径に応じた位置に調整することができる。
パワー設定部41は、ユーザがパワー設定により入力したレーザ光量をメモリ部5(レーザ光量記憶部5c)に記憶する。レーザ光量記憶部5cには、走査パターンごとに対応付けてレーザ光量を記憶することができるようになっている。照射周期設定部42は、照射周期設定により入力した照射周波数をメモリ部5に記憶することにより、パルス発振PWにより断続的にレーザ光Lを照射するときの周期を設定する。レーザ照射制御部45は、パワー設定部41及び照射周期設定部42により設定された条件に基づいて励起光発生部6及びレーザ発振部50を制御することによって、レーザ発振部50からレーザ光Lを照射させる。
走査速度設定部43は、ユーザが走査速度設定により入力した走査速度をメモリ部5に記憶する。レーザ走査制御部46は、走査速度設定部43により設定された条件及び走査データ記憶部5aに記憶されている走査データに基づいて走査部9を制御することによって、対象物Wに照射されるレーザ光Lを走査パターンごとに異なる態様でX方向又はY方向に走査させる。
スポット径設定部44は、ユーザがスポット径設定により入力したスポット径に対応する焦点位置をメモリ5(焦点位置記憶部5b)に記憶する。焦点位置記憶部5bには、走査パターンごとに対応付けて焦点位置を記憶することができるようになっている。焦点位置制御部47は、スポット径設定部44により設定された条件に基づいてビームエキスパンダ53を制御することによって、対象物Wに照射されるレーザ光Lの焦点位置をZ方向に移動させる。
レーザ照射制御部45は、走査部9が走査データ記憶部5aに記憶されている走査データに基づいて複数の走査パターンで順次にレーザ光Lを走査させるときに、各走査パターンに対応付けてレーザ光量記憶部5cに記憶されている光量で励起光発生部6からレーザ励起光を発生させる。また、焦点位置制御部47は、走査部9が走査データ記憶部5aに記憶されている走査データに基づいて複数の走査パターンで順次にレーザ光Lを走査させるときに、レーザ光Lの焦点位置を各走査パターンに対応付けて焦点位置記憶部5bに記憶されている焦点位置に移動させる。
ここで、焦点位置と焦点位置に対してZ方向にずれた位置とでは、エネルギー密度が異なるため、仮にパワー設定、照射周期設定、走査速度設定が一定であれば、対象物Wの表面上に焦点位置を合わせた状態でレーザ光Lを走査させた部分に比べて、対象物Wの表面に対して焦点位置をずらした状態でレーザ光Lを走査させた部分の方が、加工痕が浅くなってしまう。そこで、本実施の形態のように、走査パターンごとに異なるレーザ光量で加工痕を形成することができるような構成とすることにより、さらに良好に加工を行うことができる。すなわち、焦点位置を対象物Wの表面に合わせるように設定されている走査パターンのレーザ光量を比較的少なくし、焦点位置を対象物Wの表面からずらすように設定されている走査パターンのレーザ光量を比較的多くすることによって、より均一な加工痕を形成することができる。
本実施の形態では、走査パターンごとにパワー設定を行うことができるような構成について説明しているが、このような構成に限らず、照射周期設定又は走査速度設定を走査パターンごとに行うことができるような構成であってもよい。このような構成であっても、対象物Wの表面上に照射される単位時間当たりのレーザ光量を走査パターンごとに異ならせることによって、より均一な加工痕を形成することができる。
図15は、走査データに基づいて対象物Wに対する表面加工を行う際の制御部4による処理の一例を示したフローチャートである。ユーザが入力部3を操作することにより、パワー設定、照射周期設定、走査速度設定及びスポット径設定を行った後、対象物Wに対する表面加工を指示する操作が行われると、制御部4は、走査データ記憶部5aから走査データを読み出し(ステップS101)、その走査データを構成している複数の走査パターンごとに焦点位置記憶部5b及びレーザ光量記憶部5cに記憶されている焦点位置及びレーザ光量を読み出す(ステップS102)。
その後、走査パターンごとに読み出した設定条件に基づいて、焦点位置制御部47がビームエキスパンダ53を制御し、レーザ照射制御部45が励起光発生部6及びレーザ発振部50を制御する(ステップS103,S104)。このように、走査パターンごとにレーザ光LのZ方向の焦点位置及びレーザ光量が調整された状態で、レーザ走査制御部46が各走査パターンに基づいて走査部9を制御することによりレーザ光LがX方向及びY方向に走査され(ステップS105)、走査パターンに応じた焦点位置及びレーザ光量で加工痕が順次に形成される。
図13の例を用いて説明すると、まず、輪郭部分の走査パターンに基づいて、レーザ光LのZ方向の焦点位置を対象物Wの表面上に合わせた状態で、設定されたレーザ光量でレーザ光LをX方向及びY方向に走査させることにより、輪郭部分の加工痕が形成される(図13(a)参照)。その後、輪郭の内側部分の走査パターンに基づいて、レーザ光LのZ方向の焦点位置を対象物Wの表面に対してずらした状態で、設定されたレーザ光量でレーザ光LをX方向及びY方向に走査させることにより、輪郭の内側部分の加工痕が形成される(図13(b)参照)。このようにして、走査データを構成している全ての走査パターンに基づいて加工痕が形成されると(ステップS106でYes)、走査データに基づく対象物Wへの表面加工が完了する。
この例では、輪郭部分の走査パターンに基づいて走査されるレーザ光Lのレーザ光量は、輪郭の内側部分の走査パターンに基づいて走査されるレーザ光Lのレーザ光量よりも少なくなるように設定されている。しかし、このような構成に限らず、輪郭部分の走査パターンに基づいて走査されるレーザ光Lのレーザ光量が、輪郭の内側部分の走査パターンに基づいて走査されるレーザ光Lのレーザ光量よりも多くなるように設定されていてもよい。
また、上記の例では、輪郭部分の走査パターンでレーザ光Lを走査させた後、輪郭の内側部分の走査パターンで走査させることにより、対象物Wに対する表面加工を行う場合について説明したが、このような構成に限らず、輪郭部分の走査パターンでレーザ光Lを走査させている途中で、輪郭の内側部分の走査パターンで走査させた後、再び輪郭部分の走査パターンで走査させるような構成であってもよい。このような構成であれば、例えば矩形の輪郭部分及びその内側部分について加工痕を形成する場合に、輪郭部分の右辺及び上辺の加工痕を形成した後、輪郭の内側部分の加工痕を形成し、その後に輪郭部分の左辺及び下辺の加工痕を形成するといった加工態様が可能となる。
上記実施の形態では、走査パターンごとにレーザ光Lの焦点位置やレーザ光量が予め定められている場合について説明した。しかし、このような構成に限らず、ユーザが入力部3を操作することにより、対象物Wに照射するレーザ光Lに関するパラメータを設定することができるようになっていてもよい。
図16は、入力部3の表示画面に表示されるパラメータ設定画面の一例を示した図である。このパラメータ設定画面では、走査パターンごとにレーザ光Lのパラメータを設定することができるようになっており、この例では、輪郭部分の走査パターン及び輪郭の内側部分の走査パターンのそれぞれについて、それらの走査パターンで走査するレーザ光Lのパラメータを設定することができる。
図16に示すように、輪郭部分の走査パターンに対応するレーザ光Lのパラメータとしては、スポット径、照射出力及び出力周期をそれぞれ設定することができ、輪郭の内側部分の走査パターンに対応するレーザ光Lのパラメータとしては、スポット径、照射出力、出力周期及び出力ピッチをそれぞれ設定することができる。ここで、上記照射出力は、レーザ出力部2から出力されるレーザ光Lのエネルギーであり、上記出力周期は、レーザ発振部50からパルス発振PWにより断続的に照射されるレーザ光Lの照射周期である。また、上記出力ピッチは、図13(b)に示すように、輪郭の内側部分の走査パターンに基づいてレーザ光Lを平行に走査させる場合に、平行に走査されるレーザ光Lの光軸間の距離Dを示している。
図17は、パラメータ設定画面でユーザが設定を行う際の制御部4による処理の一例を示したフローチャートである。図17に示すように、パラメータ設定画面でユーザが入力部3を操作することにより、輪郭部分の走査パターンに対応するパラメータを設定した場合には(ステップS201でYes)、その設定されたパラメータに基づいて、輪郭の内側部分の走査パターンに対応するパラメータが自動的に算出される(ステップS202)。一方、輪郭の内側部分の走査パターンに対応するパラメータを設定した場合には(ステップS203でYes)、その設定されたパラメータに基づいて、輪郭部分の走査パターンに対応するパラメータが自動的に算出される(ステップS204)。
例えば、図13の例に示したような矩形形状の加工痕を形成する場合、輪郭部分又はその内側部分の一方の走査パターンに対応するパラメータが設定されると、輪郭部分とその内側部分とで均一な加工痕が形成されるように、他方の走査パターンに対応するパラメータを自動的に設定することが可能である。このように、一方の走査パターンに対応するパラメータをユーザが設定することにより、他方の走査パターンに対応するパラメータが自動的に算出されるような構成とすることにより、パラメータの設定作業を容易にすることができる。
ここで、対象物Wの材質によっては、レーザ光Lを照射することにより表面加工を行うことができるレーザ光量に最小値が存在する。したがって、輪郭の内側部分の走査パターンについて、レーザ光量が最小値となるような最大スポット径が決まるので、その最大スポット径以下で当該内側部分の形状に応じた最も加工効率のよいスポット径を設定することができる。
なお、輪郭部分の走査パターンに対応するパラメータに基づくレーザ光Lの強度が、輪郭の内側部分の走査パターンに対応するパラメータに基づくレーザ光Lの強度よりも高くなるような設定のみが受け付けられるようになっていてもよい。すなわち、輪郭の内側部分の走査パターンに対応するパラメータの方が、輪郭部分の走査パターンに対応するパラメータよりもレーザ光Lの強度が高くなるような数値入力が行われた場合に、その入力がキャンセルされるようになっていてもよい。
以上の実施の形態では、固体のレーザ媒質8を用いてレーザ光Lを照射させるような構成について説明したが、このような構成に限らず、例えばCO2やArなどの気体のレーザ媒質を用いてレーザ光Lを照射させるような構成であってもよい。また、レーザ光Lをパルス発振PWにより断続的に照射するような構成に限らず、連続発振CW(Continues Wave)により連続的にレーザ光Lを発生するような構成であってもよい。