JP2008057691A - 玉軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】軌道輪と転動体に一般的な鋼材を用いつつも特別な絶縁処理を施すことなく、しかも導電性シールを用いることなく、軌道輪の軌道面や転動体の表面に電食による損傷が生じにくい玉軸受を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受10の内輪11及び外輪13の軌道溝12,14の横断面形状は円弧状で、軌道溝12,14の溝半径は、玉16の直径の50.1%以上51.9%以下である。また、内輪11,外輪13,及び玉16のうち少なくとも一つは、炭素を0.35質量%以上1.2質量%以下、クロムを1質量%以上5.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上2質量%以下含有する合金鋼で構成されている。さらに、深溝玉軸受10の運転すきまは、負の値である。
【選択図】図1

Description

本発明は、玉軸受に関する。
インバータ装置やチョッパ制御装置によって駆動されるインダクションモータやDCモータ等においては、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)駆動による通電が行われることが多く、その制御性や効率を高めていくために、年々スイッチング速度の高速化や、印加電圧の高電圧化が図られている。一方、回転伝達のためにベルト掛けされるモータやアイドラプーリにおいては、ベルトとプーリの摩擦により静電気が発生する。また、軸流ファンのように回転部材に直接羽根が付いているモータにおいては、羽根と空気の摩擦により静電気が発生する。
したがって、インバータ駆動やベルト掛けにより回転伝達されるモータやアイドラプーリ、軸流ファンなどは回転部材が帯電しやすく、軸電圧が高くなる傾向にある。このため、転がり軸受の軌道輪と転動体との間に形成されている油膜が絶縁破壊し、瞬間的に軸電圧が放電されることで、パルス状の電流が流れる現象が生じやすくなっており、それに伴い、軌道輪の軌道面や転動体の表面に電食による損傷が生じるという問題がある。
また、鉄道車両駆動用モータにおいては、回転側部材が減速機と車輪、レールを介して常に接地されている一方、モータを駆動するためにステータ巻線に印加する交流電圧により、ステータ巻線とステータの間に存在する浮遊容量を介してモータの固定側部材の電位も上昇したり変動したりするため、主軸に用いられる転がり軸受の軌道輪と転動体をパルス状又は交流状の電流が流れる現象が生じやすくなっており、それに伴い軌道輪の軌道面や転動体の表面に電食が生じるという問題がある。
そこで、従来においては、内輪若しくは外輪に絶縁層をコーティングするか(例えば特許文献1を参照)、内輪若しくは外輪にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂を巻くか、又は窒化ケイ素を主体としたセラミック製の転動体を組み込む(例えば特許文献2を参照)などして絶縁することで、電食による損傷を防止するようにした技術が提案されている。
一方、接触式ゴムシールを有する転がり軸受においては、絶縁することで電食による損傷を防止するのではなく、ゴムの材質に導電性を持たせて軌道輪間を電気的に導通させることで電食による損傷を防止する技術が提案されている(例えば特許文献3を参照)。
特開平1−242823号公報 特開平7−12129号公報 実開平5−30560号公報
しかしながら、特許文献1に記載のように、内輪又は外輪に絶縁層をコーティングした転がり軸受においては、軸,ハウジングへの挿入時や経時変化等によるクリープにより絶縁層が欠けてしまうと電食による損傷を防止することができなくなる。
また、内輪又は外輪に樹脂を巻いた転がり軸受では、内輪の内径部又は外輪の外径部全体に一様の厚さで樹脂を巻く必要があるため、精度の面において転がり軸受としての機能が損なわれてしまう場合がある。
さらに、特許文献2に記載のように、セラミック製の転動体を組み込んだ転がり軸受では、絶縁性に優れており電食による損傷を防止する効果はあるものの、転動体の製法として一般的に用いられる加圧焼結法により製造されたセラミック製転動体は高価であり、しかも、表面密度が非常に密であるため油膜形成条件の厳しい環境(静止状態で振動を受ける環境)では、物理的に凝着を発生するおそれがある。
一方、特許文献3に記載のように、導電性ゴムシールを介して軌道輪間を電気的に導通させた転がり軸受では、ゴムシールを回転側の軌道輪に摺接させる必要があるため、回転速度の低い用途に限定されてしまう。また、工作機械の主軸等に用いられるアンギュラ玉軸受等のような、シールを用いない転がり軸受には適用することができない。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、軌道輪と転動体に一般的な鋼材を用いつつも特別な絶縁処理を施すことなく、しかも導電性シールを用いることなく、軌道輪の軌道面や転動体の表面に電食による損傷が生じにくい玉軸受を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の玉軸受は、横断面形状が円弧状である軌道溝を有する内輪及び外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の玉と、を備える玉軸受において、下記の3つの条件を満足することを特徴とする。
条件A:前記内輪及び前記外輪の軌道溝の溝半径は、前記玉の直径の50.1%以上51.9%以下である。
条件B:前記内輪,前記外輪,及び前記玉のうち少なくとも一つは、炭素を0.35質量%以上1.2質量%以下、クロムを1質量%以上5.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上2質量%以下含有する合金鋼で構成されている。
条件C:運転すきまが負の値である。
また、本発明に係る請求項2の玉軸受は、請求項1に記載の玉軸受において、前記合金鋼は、2質量%以下のモリブデン及び2質量%以下のバナジウムの少なくとも一方をさらに含有することを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3の玉軸受は、請求項1又は請求項2に記載の玉軸受において、前記運転すきまをS、前記玉の直径をDとすると、SとDとの比S/Dが−0.005以上−0.001以下であることを特徴とする。
運転すきまを負の値とすれば、玉と内外輪とが常時通電状態となるので、電食が生じにくくなる。運転すきまを負の値とすると、面圧が高くなる、発熱が生じやすくなる等のマイナス面が考えられるが、上記条件Aの構成を採用することにより面圧の上昇を抑制するとともに、SUJ2と比べてケイ素及びクロムの含有量が高い合金鋼を用いることにより(すなわち上記条件Bの構成を採用することにより)発熱による悪影響を低減することができる。
SとDとの比S/Dが−0.005未満であると、運転すきまの絶対値が大きいため焼付きが生じやすくなる。一方、−0.001超過であると、運転すきまの絶対値が小さいため電食が生じやすくなる。
以下に、本発明に用いられる合金鋼に添加される各合金成分の作用及び含有量の臨界的意義について説明する。
〔炭素について〕
炭素(C)は、転がり軸受として要求される硬さを得るために0.35質量%以上必要である。一方、炭素の含有量が1.2質量%を超えると、製鋼時に粗大な共晶炭化物を形成しやすくなって、転がり寿命の低下を引き起こす場合がある。清浄度を向上させ、共晶炭化物の形成を抑制するためには、炭素の含有量は0.35質量%以上1.2質量%以下とする必要がある。
〔ケイ素について〕
ケイ素(Si)は、製鋼時の脱酸剤として作用し焼入れ性を向上させるとともに、素地のマルテンサイトを強化するので、軸受寿命を長くするために有効な元素である。ケイ素の含有量が0.5質量%未満では、これらの効果が十分に得られず、所定の高温硬さが維持できない。また、ケイ素の含有量が2質量%を超えると、被切削性,鍛造性,冷間加工性が著しく低下する。
〔マンガンについて〕
マンガン(Mn)は、鋼中のフェライトを強化し、焼入れ性を向上させる元素である。マンガンの含有量が0.1質量%未満では、上記の効果が不十分となる。また、マンガンの含有量が2質量%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイト量が多くなって硬さが低下するとともに、冷間加工性や被削性も低下する。
〔クロムについて〕
クロム(Cr)は、焼入れ性,耐摩耗性の向上等の効果を発現するとともに、焼戻し軟化抵抗性を向上させ、高温下での硬さの低下を抑制する元素である。クロムの含有量が1質量%未満であると、上記の効果が不十分となり、特に高温で硬さが低下しやすい。また、クロムの含有量が5.5質量%を超えると、高温下での硬さの低下を抑制する効果が飽和するばかりでなく、巨大炭化物の発生による一般寿命の低下や被切削性の低下等の問題が生じる。
〔モリブデンについて〕
モリブデン(Mo)は、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を著しく向上させる効果がある。それとともに、転がり疲労寿命を高める作用もある。ただし、過剰に添加すると、靱性及び加工性が低下することとなるので、モリブデンを添加する場合には、その含有量は2質量%以下とすることが好ましい。
〔バナジウムについて〕
バナジウム(V)は、微細な炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる効果がある。ただし、過剰に添加すると、これらの効果が飽和するばかりでなく、著しいコストアップとなったり、粗大な共晶炭化物が生成する場合がある。よって、バナジウムを添加する場合には、その含有量は2質量%以下とすることが好ましい。
本発明の玉軸受は、軌道輪の軌道面や転動体の表面に電食による損傷が生じにくく長寿命である。
本発明に係る玉軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る玉軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構成を示す部分縦断面図である。なお、これ以降の各図においては、同一又は相当する部分には同一の符号を付してある。
図1の深溝玉軸受10は、外周面に軌道溝(軌道面)12を有する内輪11と、内輪11の軌道溝12に対向する軌道溝(軌道面)14を内周面に有する外輪13と、両軌道溝12,13間に転動自在に配された複数の玉16と、内輪11及び外輪13の間に複数の玉16を保持する保持器17と、内輪11及び外輪13の間の隙間の開口を覆うシール18,18と、を備えている。シール18は鋼板製の一般的なものである。なお、保持器17やシール18は備えていなくてもよい。
両軌道溝12,14の横断面形状は円弧状で、両軌道溝12,14の溝半径は、玉16の直径の50.1%以上51.9%以下とされている。また、内輪11,外輪13,及び玉16のうち少なくとも一つは、炭素を0.35質量%以上1.2質量%以下、クロムを1質量%以上5.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上2質量%以下含有する合金鋼で構成されている。内輪11,外輪13,及び玉16のうちの一つが前記合金鋼で構成されていればよいが、内輪11及び外輪13が前記合金鋼で構成されていることが好ましく、内輪11,外輪13,及び玉16の全てが前記合金鋼で構成されていることがより好ましい。さらに、この深溝玉軸受10の運転すきまは、負の値である。
なお、前記合金鋼は、2質量%以下のモリブデン及び2質量%以下のバナジウムの少なくとも一方をさらに含有してもよい。また、運転すきまをS、玉16の直径をDとすると、SとDとの比S/Dは−0.005以上−0.001以下であることが好ましい。
このような深溝玉軸受10は、モータやファン等に用いられる転がり軸受として好適である。特に、インバータ装置やチョッパ制御装置によって駆動されたり、ベルト掛けにより回転伝達されたり、軸流ファンのようにモータの回転部材に直接羽根を付けていたりするなど、回転側部材に高い軸電圧が発生するモータやアイドラプーリの主軸や、鉄道車両用駆動モータのように回転側部材が接地され、固定側部材から回転側部材を介して電流が流れる可能性のあるモータの主軸に用いられる転がり軸受として好適である。
ファン駆動用電動モータの主軸を回転自在に支持する転がり軸受として使用した例を、図2に示す。玉軸受10を2個一対で組込んだファン駆動用電動モータ40は、モータハウジング41の一端部にハウジング前蓋42が固定され、モータハウジング41の他端部にハウジング後蓋43が固定されている。そして、一方の玉軸受10の外輪13は、ハウジング前蓋42に形成された保持段部44の内側に間座45を介して嵌め込まれており、他方の玉軸受10の外輪13は、ハウジング後蓋43に形成された保持凹部46の内側に間座47を介して嵌め込まれている。両玉軸受10,10の内輪11,11には、ロータ48を固定したモータ軸49が内嵌されている。ロータ48の外周部には、モータハウジング41の内周部に固定されたステータ50が非接触にして配置される。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、玉軸受の例として深溝玉軸受を示して説明したが、本発明は様々な種類の玉軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受等のラジアル形の玉軸受や、スラスト玉軸受等のスラスト形の玉軸受である。
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。前述した図1の深溝玉軸受10とほぼ同様の構成を有する深溝玉軸受を用意して、電食試験を行った。電食試験に供した実施例1〜14及び比較例1〜15の軸受は、呼び番号6202(日本精工株式会社製のNS7グリースを封入してある)の深溝玉軸受であり、内輪,外輪,及び玉が表1に示すような組成の合金成分を含有する合金鋼(前記合金成分以外の成分は鉄及び不可避の不純物である)で構成されている。この内輪,外輪,及び玉は、合金鋼を所定の形状に成形した後に、焼入れ及び焼戻しを施して製造したものである。
また、これらの深溝玉軸受は、内外輪の軌道溝の溝半径と玉の直径との比、運転すきま、及び運転すきまSと玉の直径Dとの比S/Dが表2,3に示すような値に設定されている。なお、玉の直径は、いずれの深溝玉軸受の場合も5.953mmである。
Figure 2008057691
Figure 2008057691
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電食試験には、図3及び図4に示す電食試験装置を用いた。図3に示すように、電食試験装置60は、インバータ61と、第1のインダクションモータ62と、第2のインダクションモータ63と、電流アンプ64と、電圧計65と、絶縁カップリング66と、から構成されている。
また、図4に示すように、電食試験装置60において、一対の玉軸受70,70は、図2に示したファン駆動用電動モータ40の鉄製のモータハウジング41内に収納されており、予圧ばね68を通じて給電される。そして、内嵌されたモータ軸49が、絶縁カップリング66を介して第2のインダクションモータ63に結合されている。
玉軸受70,70に14mAの電流を印加し、29.4Nのアキシアル荷重を負荷して回転させた。そして、振動値が回転初期の3倍となったら回転を終了し、そこまでの回転時間を寿命とした。寿命に至った軸受の軌道面をSEMや金属顕微鏡で観察したところ、電食が発生していた。
各軸受の寿命を表2,3に示す。なお、表2,3に示した寿命の数値は、比較例1の玉軸受の寿命を1とした場合の相対値で示してある。表2,3から分かるように、実施例1〜14の軸受は、比較例1〜15の軸受と比べて電食が生じにくく長寿命であった。また、実施例4と実施例5との比較、及び、実施例9と実施例10との比較から、玉の材質を合金鋼種I(SUJ2)から本発明の条件を満足する合金鋼に変更すると、より長寿命となることが分かる。さらに、運転すきまが負の値であるとより長寿命であるが、運転すきまSと玉の直径Dとの比S/Dが−0.0034以上−0.001以下であると、さらに長寿命であることが分かる。
本発明に係る玉軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構成を示す部分縦断面図である。 図1の深溝玉軸受を組込んだファン駆動用電動モータの断面図である。 電食試験装置の構成図である。 電食試験装置の要部を説明する図である。 運転すきまSと玉の直径Dとの比S/Dと玉軸受の寿命との関係を示すグラフである。
符号の説明
10 深溝玉軸受
11 内輪
12 軌道溝
13 外輪
14 軌道溝
16 玉

Claims (3)

  1. 横断面形状が円弧状である軌道溝を有する内輪及び外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の玉と、を備える玉軸受において、下記の3つの条件を満足することを特徴とする玉軸受。
    条件A:前記内輪及び前記外輪の軌道溝の溝半径は、前記玉の直径の50.1%以上51.9%以下である。
    条件B:前記内輪,前記外輪,及び前記玉のうち少なくとも一つは、炭素を0.35質量%以上1.2質量%以下、クロムを1質量%以上5.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上2質量%以下、ケイ素を0.5質量%以上2質量%以下含有する合金鋼で構成されている。
    条件C:運転すきまが負の値である。
  2. 前記合金鋼は、2質量%以下のモリブデン及び2質量%以下のバナジウムの少なくとも一方をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。
  3. 前記運転すきまをS、前記玉の直径をDとすると、SとDとの比S/Dが−0.005以上−0.001以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の玉軸受。
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