以下、本発明によるABS制御用モータの制御装置の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るABS制御用モータの制御装置を含むABS制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。このABS制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧による制動力をそれぞれ発生させるブレーキ液圧制御部30を含んでいる。
ブレーキ液圧制御部30は、その概略構成を表す図2に示すように、車輪RR,FLに係わる系統と車輪FR,RLに係わる系統の2系統から構成されていて、所謂X配管を構成している。
ブレーキ液圧制御部30は、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37と、を含んで構成されている。
ブレーキ液圧発生部32は、バキュームブースタVBと、同バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。マスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。
RRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。同様に、FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、直流モータMTにより同時に駆動される液圧ポンプHPf,HPrとを含んでいる。液圧ポンプHPfは、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRSf内のブレーキ液を汲み上げ、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
同様に、液圧ポンプHPrは、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRSr内のブレーキ液を汲み上げ、FRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。リザーバRSfとリザーバRSrとは、互いに独立している。
再び、図1を参照すると、このABS制御装置10は、車輪速度センサ41fl,41fr,41rl,41rrと、ブレーキスイッチ42と、電子制御装置50とを備えている。電子制御装置50は、互いにバスで接続された、CPU51、ROM52、RAM53、バックアップRAM54、及びインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。
インターフェース55は、前記センサ41**、及びブレーキスイッチ42と接続され、CPU51に信号を供給するとともに、同CPU51の指示に応じて、ブレーキ液圧制御部30の電磁弁(増圧弁PU**、及び減圧弁PD**)、及びモータMTに駆動信号を送出するようになっている。
なお、各種変数等の末尾に付された「**」は、同各種変数等が各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同各種変数等の末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、例えば、増圧弁PU**は、左前輪用増圧弁PUfl, 右前輪用増圧弁PUfr, 左後輪用増圧弁PUrl, 右後輪用増圧弁PUrrを示している。
以上のように構成された本発明の実施形態に係るABS制御装置10は、車輪のロックの発生を抑制するために周知のABS制御の一つを実行するようになっている。本例では、ABS制御として、減圧制御・保持制御・増圧制御を一組とする制御サイクルが連続して繰り返し実行されるようになっている。
(モータMTの回転速度制御の概要)
次に、上述のように構成された本発明の第1実施形態に係るABS制御用モータの制御装置を含むABS制御装置(以下、「本装置」と云うこともある。)によるモータMTの回転速度制御の概要について説明する。本装置は、電子制御装置50に内蔵された図3に示すスイッチング素子としてのパワートランジスタTrを利用してモータMTの回転速度を制御するようになっている。
より具体的に述べると、図3に示したように、パワートランジスタTrは、そのコレクタ端子が車両の電源(電圧Vcc)に接続されるとともに、そのエミッタ端子がモータMTの一方の端子に接続されている。モータMTの他方の端子はアースされている(電圧GND)。また、パワートランジスタTrのベース端子には、本装置(CPU51)の指示により生成されるモータ制御信号Vcontが印加されるようになっている。
このモータ制御信号Vcontは、図3に示したように、HighレベルとLowレベルの何れかとなるように生成され、パワートランジスタTrは、モータ制御信号VcontがHighレベルとなっているときオン状態となる一方、モータ制御信号VcontがLowレベルとなっているときオフ状態となるようになっている。換言すれば、モータMTは、モータ制御信号VcontがHighレベルとなっているとき電圧Vccが印加されて液圧ポンプHPf,HPrを駆動する状態(モータMTへの電力供給がオン状態、以下、単に「オン状態」と呼ぶ。)となり、モータ制御信号VcontがLowレベルとなっているとき電圧Vccが印加されない状態(モータMTへの電力供給がオフ状態、以下、単に「オフ状態」と呼ぶ。)となる。
この結果、モータMTの2つの端子間電圧であるモータ端子間電圧VMT(図3を参照。)は、モータMTがオン状態のとき電圧Vcc一定になる。一方、モータMTがオフ状態のときモータ端子間電圧VMTはモータMTが発生する電圧となる。この「モータMTが発生する電圧」は、発電機としてのモータMTが誘導起電力により発生する上記発電電圧であって、慣性に起因して回転するモータMTの回転速度の減少に応じて小さくなり、同回転速度が「0」のとき「0」となる。
本装置は、図4に示すように、モータMTがオフ状態の場合において慣性に起因して回転するモータMTの回転速度の減少に応じてモータ端子間電圧VMT(従って、前記発電電圧)が後述する液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreq(前記目標回転速度相当値に対応)に基づいて決定・変更されていく電圧閾値Von以下となったとき、モータMTをオフ状態からオン状態へと切り換え、オン時間Ton(本例では、一定)に亘ってモータMTをオン状態に維持して液圧ポンプHPf,HPrを駆動した後、モータMTをオン状態からオフ状態に切り換えて同液圧ポンプHPf,HPrの駆動を中止する。
本装置は、上述したように電圧閾値Vonとオン時間Tonからなるモータ駆動パターンを繰り返すことで、モータMTへの電力供給をオン・オフ制御して、液圧ポンプHPf,HPrの実際の吐出流量が目標吐出流量qreqに一致するようにモータMTの回転速度(従って、液圧ポンプHPf,HPrの回転速度)を制御する。以下、モータMTがオフ状態に維持される時間を「オフ時間Toff」と称呼する(図4を参照)。
(実際の作動)
次に、本装置の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図5〜図8を参照しながら説明する。
CPU51は、図5に示したモータ制御開始・終了判定ルーチンを図4のルーチンに続けて所定時間(プログラム実行周期Δt)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ500から処理を開始し、ステップ505に進んで、車輪速度センサ41**の出力に基づいて車輪速度Vw**(車輪の外周の速度)を計算する。
続いて、CPU51はステップ510に進み、車体速度Vsoを車輪速度Vw**の最大値に設定し、続くステップ515にて、上記車体速度Vsoを時間微分して(且つ、符号を逆にして)車体減速度DVsoを求める。このステップ515が前記取得手段に相当する。
次いで、CPU51はステップ520に進み、上記車体減速度DVsoについてピークホールド処理して車体減速度ピーク値DVsopを求める(更新する)。これにより、更新された車体減速度ピーク値DVsopは、現時点から所定時間前から現時点までの間において求められた複数の車体減速度DVsoの値のうちの最大値に設定される。
続いて、CPU51はステップ525に進んで、フラグDRIVEの値が「0」となっているか否かを判定する。ここで、フラグDRIVEは、その値が「1」のときモータ制御実行中であることを示し、その値が「0」のときモータ制御非実行中であることを示す。
いま、モータ制御非実行中であって、且つ、モータ制御開始条件が成立していないものとすると、フラグDRIVEの値が「0」になっている。従って、CPU51はステップ525にて「Yes」と判定してステップ530に進み、モータ制御開始条件が成立しているか否かを判定する。モータ制御開始条件は、本例では、ABS制御が開始された場合に成立する。
現段階では、前述のごとくモータ制御開始条件が成立していないから、CPU51はステップ530にて「No」と判定し、ステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような作動は、モータ制御開始条件が成立するまで繰り返し実行される。
次に、この状態にてABS制御が開始された場合(即ち、モータ制御開始条件が成立した場合)について説明する。この場合、CPU51はステップ530に進んだとき「Yes」と判定してステップ535に進み、フラグDRIVEの値を「0」から「1」に変更する。
次いで、CPU51はステップ540〜560の処理を順に行い、モータ制御に使用する変数、フラグ等を初期設定する。具体的には、ステップ540では、後述する車体減速度安定値DVsosが現時点(即ち、モータ制御開始条件成立時点)での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に設定され、ステップ545では、車体減速度安定値DVsosの前回値DVsosbが現時点(即ち、モータ制御開始条件成立時点)での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に設定される。なお、車体減速度安定値DVsosは、高μ→低μジャンプ時の到来の判定に使用される。
ステップ550では、フラグJUMPの値が「0」に初期設定される。ここで、フラグJUMPは、その値が「1」のとき、高μ→低μジャンプ時の到来に起因して後述するように上記目標吐出流量qreqが大きめに補正されている状態を示し、その値が「0」のときはそうでない状態を示す。
ステップ555では、フラグONが「1」に初期設定される。ここで、フラグONは、その値が「1」のときモータMTがオン状態にあることを示し、その値が「0」のときモータMTがオフ状態にあることを示す。
ステップ560では、オン継続時間TIMonがクリアされる。オン継続時間TIMonは、電子制御装置50内に内蔵された図示しないタイマにより計時され、モータMTのオン状態の継続時間を表す。
以降、フラグDRIVEの値が「1」になっているから、CPU51はステップ525に進んだとき「No」と判定してステップ565に進むようになり、同ステップ565にてモータ制御終了条件が成立しているか否かを判定する。モータ制御終了条件は、本例では、ABS制御が終了し、且つ、オフ継続時間TIMoffが所定時間T2(一定)を超えた場合に成立する。オフ継続時間TIMoffは、電子制御装置50内に内蔵された図示しないタイマにより計時され、モータMTのオフ状態の継続時間を表す。
現段階では、モータ制御が開始された直後であるからモータ制御終了条件は成立していない。従って、CPU51はステップ565にて「No」と判定してステップ595に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、モータ制御終了条件が成立するまで繰り返し実行される。
一方、この状態にてモータ制御終了条件が成立した場合、CPU51はステップ565に進んだとき「Yes」と判定してステップ570に進み、フラグDRIVEの値を「1」から「0」に変更する。これにより、フラグDRIVEの値が「0」になるから、CPU51はステップ525に進んだとき「Yes」と判定してステップ530に進み、前記モータ制御開始条件が成立しているか否かを再びモニタするようになる。
このように、図5のルーチンの繰り返し実行により、車輪速度Vw**、車体速度Vso、車体減速度DVso、車体減速度ピーク値DVsopが逐次更新される。加えて、モータ制御開始条件が成立した直後にて、モータ制御に使用される各種値が初期値に設定されるとともにオン継続時間TIMonがクリアされる。また、フラグDRIVEの値は、モータ制御実行中においては「1」に維持され、モータ制御非実行中においては「0」に維持される。
また、CPU51は図6に示したモータ制御の実行ルーチンを図5のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定する。
いま、モータ制御が開始された直後であるものとすると、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ535)、フラグON=1(ステップ555)となっていて、オン継続時間TIMonがクリアされている(ステップ560)。従って、CPU51はステップ605にて「Yes」と判定してステップ610に進み、フラグONの値が「1」であるか否かを判定し、同ステップ610にて「Yes」と判定してステップ615に進む。
CPU51はステップ615に進むと、オン継続時間TIMonがオン時間Ton(一定)以上となっているか否かを判定する。現時点は、オン継続時間TIMonがクリアされた直後であり、TIMon<Tonである。従って、CPU51はステップ615にて「No」と判定してステップ620に進む。
CPU51はステップ620に進むと、フラグONが「1」であるか否かを判定し、「Yes」と判定してステップ625に進んで、モータMTをオン状態とする(具体的には、モータ制御信号VcontをHighレベルに設定する)。このような処理は、ステップ615の条件が成立するまで繰り返し実行される。これにより、モータ端子間電圧VMTが電圧Vcc一定に維持されて液圧ポンプHPf,HPrの駆動が継続される。
一方、この状態にてオン継続時間TIMonがオン時間Tonに達した場合、CPU51はステップ615に進んだとき「Yes」と判定してステップ630に進み、フラグONの値を「1」から「0」に変更し、続くステップ635にてオフ継続時間TIMoffをクリアする。そして、CPU51はステップ620にて「No」と判定してステップ640に進み、モータMTをオフ状態とする(具体的には、モータ制御信号VcontをLowレベルに設定する)。これにより、液圧ポンプHPf,HPrの駆動が終了する。
以降、フラグONの値が「0」になっているから、CPU51はステップ610に進んだとき「No」と判定してステップ645に進み、モータ端子間電圧VMTが後述するルーチンにより時々刻々と変更され得る電圧閾値Von以下であるか否かを判定する。
現時点は、モータMTがオン状態からオフ状態に変更された直後であるから、VMT>Vonである。従って、CPU51はステップ645にて「No」と判定してステップ620、640へと進み、モータMTをオフ状態に維持する。このような処理は、モータMTがオフ状態にある間においてモータMTの回転速度の減少に伴って減少していくモータ端子間電圧VMTが前記電圧閾値Vonに達するまで継続される。
モータ端子間電圧VMTが前記電圧閾値Vonに達すると、CPU51はステップ645に進んだとき「Yes」と判定してステップ650に進み、フラグONを「0」から「1」に変更し、続くステップ655にてオン継続時間TIMonをクリアした後、ステップ620、625へと進み、モータMTを再びオン状態とする。これにより、液圧ポンプHPf,HPrの駆動が再び開始される。
以降、フラグONの値が「1」になっているから、CPU51はステップ610に進んだとき「Yes」と判定してステップ615の条件が成立したか否かを再びモニタするようになる。この結果、ステップ615の条件が成立するまでの間、液圧ポンプHPf,HPrの駆動が再び継続される。
このように、図6のルーチンの繰り返し実行により、時々刻々と変更され得る電圧閾値Vonとオン時間Ton(一定)からなるモータ駆動パターンでモータMTがオン・オフ制御され、モータMTの回転速度(従って、液圧ポンプHPf,HPrの回転速度)が電圧閾値Vonに応じた値に制御されていく。また、フラグONの値は、モータMTがオン状態にある間は「1」に維持され、モータMTがオフ状態にある間は「0」に維持される。なお、図6のルーチンは、前記制御手段に相当する。
なお、フラグDRIVE=0の場合(モータ制御非実行中)は、CPU51はステップ605にて「No」と判定してステップ660に進み、フラグONの値を「0」に設定した後、ステップ620、640へと進み、モータMTをオフ状態に維持する。
また、CPU51は図7に示した制御用車体減速度DVsocを決定するルーチンを図6のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。制御用車体減速度DVsocとは、後述するように、目標吐出流量qreqを決定するために使用される車体減速度である。所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ702に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、モータ制御が実行されているものとすると、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ535)となっている。従って、CPU51はステップ702にて「Yes」と判定してステップ704に進み、車体減速度DVsoの値が安定しているか否かを判定する。ここで、「車体減速度DVsoが安定している」とは、本例では、現時点から所定時間前から現時点までの間において求められた複数の車体減速度DVsoの値の変動幅(最大値と最小値の差)が所定値以下となる状態をいう。
CPU51は、ステップ704にて「Yes」と判定する場合、ステップ706に進み、車体減速度安定値の前回値DVsosbを現時点での車体減速度安定値DVsosと等しい値に更新し、続くステップ708にて、車体減速度安定値DVsosを、上記「車体減速度DVsoが安定している」と判定した際に使用された上記複数の車体減速度DVsoの値のうちの最大値と等しい値に更新し、ステップ710に進む。なお、車体減速度安定値DVsosを、上記複数の車体減速度DVsoの値の平均値と等しい値に更新してもよい。
このように、「車体減速度DVsoが安定している」と判定される毎に、車体減速度安定値の前回値DVsosbと車体減速度安定値DVsosとが更新されていく。一方、CPU51は、ステップ704にて「No」と判定する場合、ステップ710に直ちに進む。
CPU51はステップ710に進むと、フラグJUMP(ステップ550の処理により、初期値は「0」)の値が「0」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ730に直ちに進む。
一方、ステップ710にて「Yes」と判定する場合、CPU51はステップ712に進んで、車体減速度安定値の前回値DVsosb(初期値はステップ545にて設定)から車体減速度安定値DVsos(初期値はステップ540にて設定)を減じて得られる値(DVsosb−DVsos)が定数A(正の値)よりも大きいか(且つ、車体減速度安定値DVsosにおける前回の更新時期から今回の更新時期までの時間が所定時間以下か)否かを判定する。これにより、ABS制御中において路面摩擦係数がステップ的に減少したか否か、即ち、高μ→低μジャンプ時が到来したか否かが判定される。
ここで、「Yes」と判定される場合については後述する。CPU51はステップ712にて「No」と判定する場合(即ち、高μ→低μジャンプ時が到来していないと判定する場合)、ステップ730に直ちに進む。
CPU51はステップ730に進むと、フラグJUMP=1(フラグJUMPの初期値は「0」、ステップ550を参照)であるか否かを判定する。いま、フラグJUMP=0であるものとすると、CPU51はステップ730にて「No」と判定してステップ738に進み、制御用車体減速度DVsocを、先のステップ520にて更新されている現時点での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に決定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このような処理は、フラグJUMP=0である限りにおいて繰り返し実行される。このように、フラグJUMP=0である場合、制御用車体減速度DVsocは、現時点での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に決定されていく。
次に、ステップ710、712にて共に「Yes」と判定される場合について説明する。フラグJUMP=0であって、且つ、ステップ712の条件が成立した場合(即ち、高μ→低μジャンプ時が到来した場合。前記第1の状態が検出された場合に相当。)、CPU51はステップ710、712にて共に「Yes」と判定してステップ714に進み、フラグJUMPを「1」に設定する。
続いて、CPU51はステップ716に進み、高μ時車体減速度DVsohiを現時点での車体減速度安定値の前回値DVsosbと等しい値に設定し、続くステップ718にて、低μ時車体減速度DVsoloを現時点での車体減速度安定値DVsosと等しい値に設定する。ここで、高μ時車体減速度DVsohi(>DVsolo)は前記第2車体減速度に対応し、低μ時車体減速度DVsoloは前記第1車体減速度に対応する。
次いで、CPU51はステップ720に進み、上記求めた高μ時車体減速度DVsohiと、車体減速度DVsoと液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreqとの関係を規定する図9に示したテーブルMapqreqと、に基づいて、高μ時目標吐出流量qreqhiを決定し、続くステップ722にて、上記求めた低μ時車体減速度DVsoloと、上記テーブルMapqreqとに基づいて、低μ時目標吐出流量qreqloを決定する。
図9に示すように、テーブルMapqreqでは、目標吐出流量は、車体減速度が大きいほどより大きい値に決定される。これは、ABS制御中において車両が走行している路面の摩擦係数が大きいほど(従って、ABS制御中における車体減速度が大きいほど)、減圧制御中においてリザーバRSf,RSrに排出されるブレーキ液の流量が大きくなる傾向があることに基づく。
次に、CPU51はステップ724に進み、上記高μ時車体減速度DVsohiと上記低μ時車体減速度DVsoloとの差(=DVsohi−DVsolo)と、上記差と「高μ→低μジャンプ時の後の短期間内においてリザーバRSf,RSrに排出されるブレーキ液の量ΔQ」との関係を規定するテーブルMapΔQと、に基づいて、値ΔQを求める。これにより、値ΔQは、上記差(=DVsohi−DVsolo)が大きいほどより大きい値に決定される。
続いて、CPU51はステップ726に進んで、補正期間Tを、上記値ΔQを値(qreqhi−qreqlo)で除した値(=ΔQ/(qreqhi−qreqlo))に設定する。補正期間Tは、高μ→低μジャンプ時の到来に起因する目標吐出流量qreqの補正(実際には、制御用車体減速度DVsocの補正)が継続される時間である。
次いで、CPU51はステップ728に進み、継続時間TIMjumpをクリアする。継続時間TIMjumpは、電子制御装置50内に内蔵された図示しないタイマにより計時され、高μ→低μジャンプ時の到来に起因する目標吐出流量qreqの補正(実際には、制御用車体減速度DVsocの補正)の開始からの継続時間を表す。
次に、CPU51はステップ730に進んで、フラグJUMP=1であるか否かを判定し、ステップ730にて「Yes」と判定してステップ732に進み、継続時間TIMjumpがステップ726にて決定された補正期間T未満か否かを判定する。
先ず、継続時間TIMjumpが補正期間T未満である場合について説明する。この場合、CPU51は、ステップ732にて「Yes」と判定してステップ734に進んで、制御用車体減速度DVsocを、先のステップ716にて決定されている高μ時車体減速度DVsohiと等しい値に決定し、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降、フラグJUMP=1であるから、CPU51は、ステップ710に進んだとき「No」と判定してステップ730、732に直ちに進み、ステップ732の条件が成立する限りにおいてステップ734の処理を繰り返し実行する。
次に、継続時間TIMjumpが補正期間Tに達した場合について説明する。この場合、CPU51はステップ732に進んだとき「No」と判定してステップ736に進み、フラグJUMPの値を「1」から「0」に変更し、上述したステップ738の処理を実行する。
以降、フラグJUMP=0であるから、CPU51はステップ710で「Yes」と判定してステップ712に進み、高μ→低μジャンプ時が到来したか否かを再びモニタするようになる。そして、高μ→低μジャンプ時が再び到来するまでの間、フラグJUMP=0に維持されるから、ステップ730にて「No」と判定されてステップ738の処理が繰り返し実行される。
このように、図7のルーチンの繰り返し実行により、制御用車体減速度DVsocは、原則的に、現時点での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に決定されていく。一方、高μ→低μジャンプ時が到来すると、その後の補正期間Tの間だけ、制御用車体減速度DVsocは、現時点での車体減速度ピーク値DVsopに代えて高μ時車体減速度DVsohiと等しい値に決定される。
換言すれば、補正期間Tの間(即ち、高μ→低μジャンプ時の後では)において車体減速度ピーク値DVsopが上記低μ時車体減速度DVsolo(<DVsohi)の値近傍で推移することを考慮すると、制御用車体減速度DVsocは、補正期間Tの間だけ大きめに補正されることになる。
また、CPU51は図8に示した目標吐出流量qreq、及び電圧閾値Vonを決定するルーチンを図7のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、モータ制御が実行されているものとすると、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ535)となっている。従って、CPU51はステップ805にて「Yes」と判定してステップ810に進み、図7のルーチンの繰り返し実行により逐次更新されている制御用車体減速度DVsocと、先のステップ720、722で使用されたものと同じ図9に示したテーブルMapqreqと、に基づいて、目標吐出流量qreqを決定する。これにより、目標吐出流量qreqは、制御用車体減速度DVsocが大きいほどより大きい値に決定される。このステップ810が前記決定手段に相当する。
続いて、CPU51はステップ815に進み、上記決定された目標吐出流量qreqと、目標吐出流量qreqと電圧閾値Vonとの関係を規定するテーブルMap、とに基づいて電圧閾値Vonを求め、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これにより、目標吐出流量qreqが大きいほど(従って、制御用車体減速度DVsocが大きいほど)電圧閾値Vonがより大きい値に設定される。この電圧閾値Vonは、図6のステップ645の判定に供される。これにより、液圧ポンプHPf,HPrの吐出流量が目標吐出流量qreqと一致するように、且つ、目標吐出流量qreqが大きいほどモータMTの回転速度がより大きい値になるように、モータMTの回転速度が制御される。
この結果、目標吐出流量qreqは、原則的には、車体減速度ピーク値DVsopに対応する値に決定される。一方、高μ→低μジャンプ時からの補正期間Tの間だけ、目標吐出流量qreqは、車体減速度ピーク値DVsopよりも大きい高μ時車体減速度DVsohiに対応する値に決定される。換言すれば、補正期間Tの間だけ、制御用車体減速度DVsocが大きめに補正されることで目標吐出流量qreqが大きめに補正される。ステップ815は、前記制御手段に対応し、図7のルーチン、及びステップ810は、前記補正手段に対応する。
図10は、ABS制御中において高μ→低μジャンプ時が到来した場合における、車体減速度DVso、車体減速度ピーク値DVsop、制御用車体減速度DVsoc、及び目標吐出流量qreqの変化の一例を示したタイムチャートである。図10では、時刻t1以前において、路面摩擦係数が比較的大きい値で安定していることで車体減速度DVsoが比較的大きい値で「安定している」と判定され(ステップ704にて「Yes」)、時刻t1にて路面摩擦係数がステップ的に急減し、時刻t1の直後以降において路面摩擦係数が比較的小さい値で安定していることで時刻t2にて車体減速度DVsoが比較的小さい値で再び「安定している」と判定され(ステップ704にて「Yes」)、この結果、時刻t2にて高μ→低μジャンプ時が到来したと判定された場合(ステップ712にて「Yes」)の例が示されている。
この場合、時刻t2にて、高μ時車体減速度DVsohiが時刻t1で更新されていた車体減速度安定値DVsosに設定され、低μ時車体減速度DVsoloが時刻t2にて更新された車体減速度安定値DVsosに設定される。
この場合、制御用車体減速度DVsocが常に車体減速度ピーク値DVsopに設定されるものとすると、目標吐出流量qreqは、破線で示すように、時刻t2以降、低μ時車体減速度DVsolo近傍の値に対応する小さい値で推移し、モータMTの回転速度が小さい値に制御される。この結果、高μ→低μジャンプ時の後の短期間内において多量のブレーキ液がリザーバRSf,RSrに排出されることに起因する上述した「高μ→低μジャンプ時の後におけるリザーバがブレーキ液で満たされる傾向」が発生し得る。
これに対し、本装置では、時刻t2から補正期間Tが経過する時刻t3までの間、制御用車体減速度DVsocが車体減速度ピーク値DVsopに代えて高μ時車体減速度DVsohi(>DVsolo)に維持される。これにより、制御用車体減速度DVsocが常に車体減速度ピーク値DVsopに設定される場合に比して斜線で示した領域に相当する分だけモータMTの回転速度が大きめに制御されるから、上述した「高μ→低μジャンプ時の後におけるリザーバがブレーキ液で満たされる傾向」を抑制することができる。
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係るABS制御用モータの制御装置によれば、液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreqは、制御用車体減速度DVsocに基づいて制御用車体減速度DVsocが大きいほどより大きい値に決定される。制御用車体減速度DVsocは、原則的には、取得された車体減速度DVsoに所定のピークホールド処理が施された車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に設定される。
一方、路面摩擦係数がステップ的に減少する「高μ→低μジャンプ時」が到来した場合、その後の補正期間Tだけ、制御用車体減速度DVsocは、車体減速度ピーク値DVsopよりも大きい高μ時車体減速度DVsohiに維持される。換言すれば、補正期間Tの間だけ、制御用車体減速度DVsocが大きめに補正されることで目標吐出流量qreqが大きめに補正される。この結果、モータMTの回転速度が大きめに制御されるから、上述した「高μ→低μジャンプ時の後におけるリザーバがブレーキ液で満たされる傾向」を抑制することができる。
本発明は上記第1実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第1実施形態においては、補正期間Tは、路面摩擦係数がステップ的に減少する前後の車体減速度の差(DVsohi−DVsolo)に基づいて決定されているが(ステップ726を参照)、一定でもよい。
また、上記第1実施形態においては、制御用車体減速度DVsocを車体減速度ピーク値DVsopに設定するとともに、補正期間Tの間だけ、制御用車体減速度DVsocを車体減速度ピーク値DVsopに代えて高μ時車体減速度DVsohiに設定しているが、制御用車体減速度DVsocを常時、車体減速度ピーク値DVsopに設定するとともに、補正期間Tだけ、ピークホールド処理の対象とする期間を長めに設定してもよい。これによっても、同じ作用・効果が得られる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るABS制御用モータの制御装置について説明する。第2実施形態は、上述したスプリット路面(発明の開示の欄を参照)を車両が走行中において制御用車体減速度DVsocを補正する点においてのみ、高μ→低μジャンプ時において制御用車体減速度DVsocを補正する上記第1実施形態と異なる。以下、係る相違点についてのみ説明する。
第2実施形態のCPU51は、第1実施形態のCPU51が実行する図5〜図8のルーチンのうち、図6及び図8のルーチンをそのまま実行するとともに、図5及び図7のルーチンに代えて図11及び図12にフローチャートにより示したルーチンを実行する。なお、図11のルーチン内のステップのうち図5のルーチンと同一の処理を行うステップについては、図5のルーチンのステップ番号と同一のステップ番号を付してあり、詳細な説明を省略する。以下、第2実施形態に特有の図11及び図12のルーチンについて説明する。
図11のルーチンは、図5のステップ540、545、550を削除した点においてのみ、図5のルーチンと異なる。ステップ540、545、550を削除するのは、これらのステップに係わる変数、及びフラグは第2実施形態では使用されないからである。
次に、図12のルーチンについて説明する。CPU51は図12に示した制御用車体減速度DVsocを決定するルーチンを図6のルーチンに続けて所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1200から処理を開始し、ステップ1205に進んで、フラグDRIVEの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、モータ制御が実行されているものとすると、前述のように、フラグDRIVE=1(ステップ535)となっている。従って、CPU51はステップ1205にて「Yes」と判定してステップ1210に進み、車両が現在走行している路面が上述したスプリット路面であるか否かを周知の手法の一つに基づいて判定する。例えば、左右車輪の減圧制御の実行頻度の差が所定の程度以上の場合にスプリット路面であると判定される。
ステップ1210にて「No」と判定される場合、CPU51はステップ1225に進んで、制御用車体減速度DVsocを図11のステップ520にて更新されている車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に設定する。この処理は、上記第1実施形態における図7のステップ738の処理に対応している。
一方、ステップ1210にて「Yes」と判定される場合(前記第2の状態が検出された場合に相当)、CPU51はステップ1215に進み、左右μ割合μRatioを計算する。左右μ割合μRatioは、左側輪についての路面摩擦係数をμLとし、右側輪についての路面摩擦係数をμRとすると、下記(1)式にて表される値(≧0.5)である。
μRatio=max(μL,μR)/(μL+μR) ・・・(1)
例えば、μLはFL輪とRL輪の路面摩擦係数の平均値であり、μRはFR輪とRR輪の路面摩擦係数の平均値である。μLはFL輪とRL輪の路面摩擦係数の大きい方であり、μRはFR輪とRR輪の路面摩擦係数の大きい方であってもよい。各車輪についての路面摩擦係数は、周知の手法の一つに基づいて取得することができる。
次いで、CPU51はステップ1220に進み、下記(2)式に従って、制御用車体減速度DVsocを決定する。ここにおいて、QRatioは前後ホイールシリンダ容量割合であり、前輪のホイールシリンダ容量をVFとし、後輪のホイールシリンダ容量をVRとすると、下記(3)式にて表される値である。ここで、VF>VRを考慮すると、0.5<QRatio<1.0となる。
DVsoc=2・DVsop・{μRatio・QRatio+(1−μRatio)・(1−QRatio)} ・・・(2)
QRatio=VF/(VF+VR) ・・・(3)
このように、図12のルーチンの繰り返し実行により、制御用車体減速度DVsocは、原則的に、現時点での車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に決定されていく。一方、スプリット路面走行中である間、制御用車体減速度DVsocは、現時点での車体減速度ピーク値DVsopに代えて上記(2)式で計算される値に決定される。
以下、上記(2)式について図13、図14を参照しながら説明する。図13の左側は、路面摩擦係数が均一な均一路面を車両が走行していて、4輪に対してABS制御中において車体減速度DVso(車体減速度ピーク値DVsop)=0.5Gである場合を示している。この場合、図9に示したテーブルMapqreqと同じ図14に示したテーブルMapqreqに示すように、目標吐出流量qreqは、車体減速度DVso(DVsoc)=0.5に対応する値qreq1に設定される。
この場合、全ての車輪についての路面摩擦係数が車体減速度DVso=0.5Gに対応する値になっている。従って、全ての車輪について目標吐出流量qreq=qreq1が適切な値となる。
図13の右側は、左側輪についての路面摩擦係数μLが車体減速度DVso=0.9Gに対応する値であり右側輪についての路面摩擦係数μRが車体減速度DVso=0.1Gに対応する値となるスプリット路面を車両が走行していて、4輪に対してABS制御中において車体減速度DVso(DVsop)がμLとμRの平均値=0.5Gとなる場合を示している。
ここで、スプリット路面走行中も、制御用車体減速度DVsocが車体減速度ピーク値DVsopと等しい値に決定されるものとすると、この場合も目標吐出流量qreqは、車体減速度DVso(DVsop)=0.5に対応する上記値qreq1に設定される。
この場合、左側輪についての路面摩擦係数μLが車体減速度DVso=0.9G(>0.5G)に対応する値となっているから、左側輪(高μ側車輪)については目標吐出流量qreq=qreq1は小さめの値となる。また、右側輪についての路面摩擦係数μRが車体減速度DVso=0.1G(<0.5G)に対応する値となっているから、右側輪(低μ側車輪)については目標吐出流量qreq=qreq1は大きめの値となる。
加えて、前輪のホイールシリンダ容量VL>後輪のホイールシリンダ容量VRであるから、減圧制御にてホイールシリンダ圧を或るパターンで減圧する場合においてホイールシリンダからリザーバに排出されるブレーキ液の総量は、前輪の方が後輪よりも大きい。即ち、FL輪(高μ側の前輪)について目標吐出流量qreqが不足する程度が、RR輪(低μ側の後輪)について目標吐出流量qreqが過剰となる程度よりも大きくなる。
以上のことから、クロス配管(X配管)を有し、系統毎に独立してリザーバRSf,RSrを有しているブレーキ液圧制御部30において、FL輪(高μ側前輪)とRR輪(低μ側後輪)とに係わる系統については目標吐出流量qreqが小さめに決定される(不足する)ことになる。この結果、目標吐出流量qreq=qreq1でモータMTの回転速度が制御されると、この系統のリザーバRSfがブレーキ液で満たされる傾向が発生し得る。
これに対し、この第2実施形態では、スプリット路面走行中では、制御用車体減速度DVsocは、上記(2)式で計算される値に決定される。ここで、例えば、QRatio(=VF/(VF+VR))=0.8とすると、制御用車体減速度DVsoc=1.48・DVsop=0.74Gとなる。
従って、目標吐出流量qreqは、車体減速度DVso(DVsoc)=0.74に対応する値qreq2(>qreq1)に設定される(図14を参照)。このように、スプリット路面走行中では、制御用車体減速度DVsocが大きめに補正されることで目標吐出流量qreqも大きめに補正される。この結果、モータMTの回転速度が大きめに制御されるから、上述した「高μ側前輪と低μ側後輪とに係わる系統についてのモータの回転速度の不足」に起因してこの系統のリザーバがブレーキ液で満たされる傾向を抑制できる。
上記(2)式によれば、均一路面の場合(即ち、左右μ割合μRatio=0.5の場合)、制御用車体減速度DVsoc=DVsopとなる。一方、スプリット路面の場合、上記(1)式で表される左右μ割合μRatioが大きいほど、制御用車体減速度DVsocは、車体減速度ピーク値DVsopに対してより大きい値となる(DVsoc>DVsop)。
このように、上記(2)式によれば、前後ホイールシリンダ容量割合QRatio(>0.5)と、左右μ割合μRatio(≧0.5)と、に基づいて、目標吐出流量qreqが車体減速度ピーク値DVsopに対して大きい方向に補正する程度が決定され、左右μ割合μRatioが大きいほど目標吐出流量qreqがより大きい値に補正される。
以上、説明したように、本発明の第2実施形態に係るABS制御用モータの制御装置によれば、スプリット路面走行中にABS制御中が実行される場合、制御用車体減速度DVsocは、車体減速度ピーク値DVsopに代えて、上記(2)式に従って計算される値に補正される。これにより、スプリット路面走行中だけ、制御用車体減速度DVsocが大きめに補正されることで目標吐出流量qreqが大きめに補正される。この結果、モータMTの回転速度が大きめに制御されるから、上述した「高μ側前輪と低μ側後輪とに係わる系統についてのモータの回転速度の不足」に起因してこの系統のリザーバがブレーキ液で満たされる傾向を抑制できる。
本発明は上記第2実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記第2実施形態においては、モータMTが液圧ポンプHPf,HPrを共に駆動するようになっていて、スプリット路面走行中では、モータMTの回転速度を制御するために使用される目標吐出流量qreqが大きめに補正されるように構成されているが、液圧ポンプHPfを駆動するモータMTfと、液圧ポンプHPrを駆動するモータMTrとを備え、モータMTf,MTrの回転速度を制御するために使用される目標吐出流量qreqf,qreqrを独立して設定できるように構成されていて、スプリット路面走行中では、高μ側前輪と低μ側後輪とに係わる系統についてのモータの回転速度を制御するために使用される目標吐出流量のみを大きめに補正するように構成してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、車体減速度DVsoとは別に制御用車体減速度DVsocを計算し、制御用車体減速度DVsocを補正することで目標吐出流量qreqを補正しているが、目標吐出流量qreqそのものを直接補正してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、車体減速度DVso(DVsoc)に基づいて液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreが決定され、この目標吐出流量qreの値に基づいてモータMTの回転速度を制御しているが、車体減速度DVso(DVsoc)に基づいてモータMTの目標回転速度が直接決定され、この目標回転速度の値に基づいてモータMTの回転速度を制御してもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、モータMTの回転速度を制御するために電圧閾値Vonが制御されているが、モータMTの回転速度を制御するためにオン時間Tonが制御されてもよい。また、モータMTの回転速度を制御するために電圧閾値Von及びオン時間Tonが共に制御されてもよい。
また、上記第1、第2実施形態においては、車体減速度DVso(DVsoc)に基づいて液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreが決定されているが、路面摩擦係数に基づいて液圧ポンプHPf,HPrの目標吐出流量qreが決定されてもよい。
10…車両のABS制御装置、30…ブレーキ液圧制御部、41**…車輪速度センサ、50…電子制御装置、51…CPU、MT…モータ、HPf,HPr…液圧ポンプ、RSf,RSr…リザーバ