以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1〜図8に本発明にかかる燃料電池セパレータの実施形態を示す。本発明の燃料電池セパレータ20は、反応ガス(燃料ガスあるいは酸化ガス)または冷却水を流通させるためのサーペンタイン型の流体流路34〜36を備えたものである。本実施形態においては、このような流体流路34〜36のうち、反応ガスまたは冷却水の流れの向きを変えるためのUターン部10が略一定の曲率をもって連続的に曲がった形状であり、流体流路34〜36の端部である流体導入端19aまたは流体排出端19bが、隣接するUターン部10に沿って曲がった配置となっている。
以下に説明する実施形態においては、まず、燃料電池1を構成するセル(発電セル)2および複数のセル2が積層されてなる燃料電池スタックの概略構成について説明し、その後、燃料電池セパレータ(本明細書では単にセパレータともいう)20の流体流路34〜36等の構成について説明する。なお、図1においてはセパレータ20に形成されている水素ガスのガス流路35や冷却水流路36の詳しい形状について図示を省略し、図3等においてガス流路35の一例を図示することとする。
図1に本実施形態における燃料電池1のセル2の概略構成を示す。図示するように構成されるセル2は、順次積層されてセル積層体3を構成している(図2参照)。また、このセル積層体3等で構成される燃料電池スタックは、例えばスタック両端を一対のエンドプレート8で挟まれ、さらにこれらエンドプレート8どうしを繋ぐようにテンションプレート9からなる拘束部材が配置された状態で積層方向への荷重がかけられて締結されている(図2参照)。
なお、このような燃料電池スタック等で構成される燃料電池1は、例えば燃料電池車両(FCHV;Fuel Cell Hybrid Vehicle)の車載発電システムとして利用可能なものであるがこれに限られることはなく、各種移動体(例えば船舶や飛行機など)やロボットなどといった自走可能なものに搭載される発電システム、さらには定置の発電システムとしても用いることが可能である。
セル2は、電解質、具体例として膜−電極アッセンブリ(以下MEA;Membrane Electrode Assemblyと呼ぶ)30、該MEA30を挟持する一対のセパレータ20(図1においてはそれぞれ符号20a,20bで示している)等で構成されている(図1参照)。MEA30および各セパレータ20a,20bはおよそ矩形の板状に形成されている。また、MEA30はその外形が各セパレータ20a,20bの外形よりも小さくなるように形成されている。
MEA30は、高分子材料のイオン交換膜からなる高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ともいう)31と、電解質膜31を両面から挟んだ一対の電極(アノード側拡散電極およびカソード側拡散電極)32a,32bとで構成されている(図1参照)。電解質膜31は、各電極32a,32bよりも大きく形成されている。この電解質膜31には、その周縁部33を残した状態で各電極32a,32bが例えばホットプレス法により接合されている。
MEA30を構成する電極32a,32bは、その表面に付着された白金などの触媒を担持した例えば多孔質のカーボン素材(拡散層)で構成されている。一方の電極(アノード)32aには燃料ガス(反応ガス)としての水素ガス、他方の電極(カソード)32bには空気や酸化剤などの酸化ガス(反応ガス)が供給され、これら2種類の反応ガスによりMEA30内で電気化学反応が生じてセル2の起電力が得られるようになっている。
セパレータ20(20a,20b)はガス不透過性の導電性材料で構成されている。導電性材料としては、例えばカーボンや導電性を有する硬質樹脂のほか、アルミニウムやステンレス等の金属(メタル)が挙げられる。本実施形態のセパレータ20(20a,20b)の基材は板状のメタルで形成されているものであり(メタルセパレータ)、この基材の電極32a,32b側の面には耐食性に優れた膜(例えば金メッキで形成された皮膜)が形成されている。
また、セパレータ20a,20bの両面には、複数の凹部によって構成される溝状の流路が形成されている。これら流路は、例えば板状のメタルによって基材が形成されている本実施形態のセパレータ20a,20bの場合であればプレス成形によって形成することができる。このようにして形成される溝状の流路は、酸化ガスのガス流路34や水素ガスのガス流路35、あるいは冷却水流路36を構成している。より具体的に説明すると、セパレータ20aの電極32a側となる内側の面には水素ガスのガス流路35が形成され、その裏面(外側の面)には冷却水流路36が形成されている(図1参照)。同様に、セパレータ20bの電極32b側となる内側の面には酸化ガスのガス流路34が形成され、その裏面(外側の面)には冷却水流路36が形成されている(図1参照)。例えば本実施形態の場合、隣接する2つのセル2,2に関し、一方のセル2のセパレータ20aの外面と、これに隣接するセル2のセパレータ20bの外面とを付き合わせた場合に両者の冷却水流路36が一体となり断面が例えば矩形あるいはハニカム形の流路が形成される構造となっている。
さらに、上述したように各セパレータ20a,20bは、少なくとも流体の流路をなすための凹凸形状が表面と裏面とで反転した関係になっている。より具体的に説明すると、セパレータ20aにおいては、水素ガスのガス流路35を形成する凸形状(凸リブ)の裏面が冷却水流路36を形成する凹形状(凹溝)であり、ガス流路35を形成する凹形状(凹溝)の裏面が冷却水流路36を形成する凸形状(凸リブ)である。さらに、セパレータ20bにおいては、酸化ガスのガス流路34を形成する凸形状(凸リブ)の裏面が冷却水流路36を形成する凹形状(凹溝)であり、ガス流路34を形成する凹形状(凹溝)の裏面が冷却水流路36を形成する凸形状(凸リブ)である。
また、セパレータ20a,20bの長手方向の端部付近(本実施形態の場合であれば、図1中向かって左側に示す一端部の近傍)には、酸化ガスの入口側のマニホールド15a、水素ガスの出口側のマニホールド16b、および冷却水の入口側のマニホールド17aが形成されている。例えば本実施形態の場合、これらマニホールド15a,16b,17aは各セパレータ20a,20bに設けられた略矩形ないしは台形、あるいは両端が半円形状の長細矩形の透孔によって形成されている(図1等参照)。さらに、セパレータ20a,20bのうち反対側の端部には、酸化ガスの出口側のマニホールド15b、水素ガスの入口側のマニホールド16a、および冷却水の出口側のマニホールド17bが形成されている。本実施形態の場合、これらマニホールド15b,16a,17bも略矩形ないしは台形、あるいは両端が半円形状の長細矩形の透孔によって形成されている(図1参照)。なお、図2においてはa,bの添字を省略した形で各マニホールドの符号を示している。
上述のような各マニホールドのうち、セパレータ20aにおける水素ガス用の入口側マニホールド16aと出口側マニホールド16bは、セパレータ20aに形成されている入口側の連絡通路61および出口側の連絡通路62を介してそれぞれが水素ガスのガス流路35に連通している。同様に、セパレータ20bにおける酸化ガス用の入口側マニホールド15aと出口側マニホールド15bは、セパレータ20bに形成されている入口側の連絡通路63および出口側の連絡通路64を介してそれぞれが酸化ガスのガス流路34に連通している(図1参照)。さらに、各セパレータ20a,20bにおける冷却水の入口側マニホールド17aと出口側マニホールド17bは、各セパレータ20a,20bに形成されている入口側の連絡通路65および出口側の連絡通路66を介してそれぞれが冷却水流路36に連通している。ここまで説明したような各セパレータ20a,20bの構成により、セル2には、酸化ガス、水素ガスおよび冷却水が供給されるようになっている。ここで具体例を挙げておくと、セル2が積層された場合、例えば水素ガスは、セパレータ20aの入口側マニホールド16aから連絡通路61を通り抜けてガス流路35に流入し、MEA30の発電に供された後、連絡通路62を通り抜けて出口側マニホールド16bに流出することになる。
第1シール部材13a、第2シール部材13bは、ともに複数の部材(例えば独立した小型の4つの矩形枠体と、流体流路を形成するための大きな枠体)で形成されているものである(図1参照)。これらのうち、第1シール部材13aはMEA30とセパレータ20aとの間に設けられるもので、より詳細には、その一部が、電解質膜31の周縁部33と、セパレータ20aのうちガス流路35の周囲の部分との間に介在するように設けられる。また、第2シール部材13bは、MEA30とセパレータ20bとの間に設けられるもので、より詳細には、その一部が、電解質膜31の周縁部33と、セパレータ20bのうちガス流路34の周囲の部分との間に介在するように設けられる。
さらに、隣接するセル2,2のセパレータ20bとセパレータ20aとの間には、複数の部材(例えば独立した小型の4つの矩形枠体と、流体流路を形成するための大きな枠体)で形成された第3シール部材13cが設けられている(図1参照)。この第3シール部材13cは、セパレータ20bにおける冷却水流路36の周囲の部分と、セパレータ20aにおける冷却水流路36の周囲の部分との間に介在するように設けられてこれらの間をシールする部材である。
なお、第1〜第3シール部材13a〜13cとしては、隣接する部材との物理的な密着により流体を封止する弾性体(ガスケット)や、隣接する部材との化学的な結合により接着する接着剤などを用いることができる。例えば本実施形態では各シール部材13a〜13cとして弾性によって物理的にシールする部材を採用しているが、この代わりに上述した接着剤のような化学結合によってシールする部材を採用することもできる。
枠状部材40は、MEA30とともにセパレータ20a,20b間に挟持される例えば樹脂からなる部材(以下、樹脂フレームともいう)である。例えば本実施形態では、薄い枠形状の樹脂フレーム40をセパレータ20a,20b間に介在させ、当該樹脂フレーム40によってMEA30の少なくとも一部、例えば周縁部33に沿った部分を表側と裏側から挟持するようにしている。このように設けられる樹脂フレーム40は、締結力を支持するセパレータ20(20a,20b)間のスペーサとしての機能、絶縁部材としての機能、セパレータ20(20a,20b)の剛性を補強する補強部材としての機能を発揮する。
続いて、燃料電池1の構成について簡単に説明する(図2参照)。本実施形態における燃料電池1は、複数のセル2を積層してなるセル積層体3を有し、当該セル積層体3の両端に位置するセル2,2の外側に順次、出力端子付きの集電板、絶縁板およびエンドプレート8が各々配置された構造となっている(図2参照)。また、セル積層体3等を積層状態で拘束するテンションプレート9は、両エンドプレート8,8間を架け渡すようにして設けられているもので、例えば一対が当該スタックの両側に対向するように配置される(図2参照)。テンションプレート9は、各エンドプレート8,8に接続され、セル積層体3の積層方向に所定の締結力(圧縮荷重)を作用させた状態を維持する。また、テンションプレート9の内側面(セル積層体3を向く面)には漏電やスパークが生じるのを防止すべく絶縁膜(図示省略)が形成されている。絶縁膜は、例えば当該テンションプレート9の内側面に貼り付けられた絶縁テープ、あるいは当該面を覆うように塗布された樹脂コーティングなどによって形成されている。なお、符号12は、燃料電池スタックに締結力(圧縮荷重)を作用させる例えばコイルスプリング等からなる弾性モジュールを挟持するための一対の板状部材である(図2参照)。
続いて、燃料電池セパレータ(本明細書では単にセパレータともいう)20の流体流路34〜36等の構成について詳細に説明する(図3等参照)。
本実施形態の燃料電池1を構成している各セパレータ20は、反応ガス(燃料ガスあるいは酸化ガス)または冷却水を流通させるための流路がいわゆるサーペンタイン型となっているものである。各流体流路(酸化ガスのガス流路34、水素ガスのガス流路35、冷却水流路36)の一端はそれぞれの流体を導入するための流体導入端19aであり、他端はそれぞれの流体を排出するための流体排出端19bとなっている。また、本実施形態の場合、酸化ガスのガス流路34、水素ガスのガス流路35、冷却水流路36は、それぞれ、互いに独立した複数の並行する凹溝(流路)によって形成されており、各凹溝は、流体導入端19aから流体排出端19bまで連続するように形成されている。
また、本実施形態の場合、各流体流路(酸化ガスのガス流路34、水素ガスのガス流路35、冷却水流路36)において流れを反転させるためのUターン部10は、それぞれ2個ずつとなっている(図3等参照)。また、このUターン部10においては、各凹溝がそれぞれ略一定の曲率で連続的に曲がった形状に形成されている。つまり、並行する複数の凹溝はこのUターン部10においてほぼ同心円状になっており、それぞれの凹溝がおよそ半円ないしはこれに近似した形状に形成されている(図3等参照)。このようにUターン部10(またはこれを構成する部分)が同心円状となっている場合、凹溝(流路)ごとの流体の平均速度をより均一化したものとすることが可能である。したがって、サーペンタイン型の流体流路34(35,36)のうち特にUターン部10における流体の流れをさらにスムーズなものとすることが可能となる。
さらに、流体流路34(35,36)の流体導入端19aおよび流体排出端19bは、上述したUターン部10に沿って曲がった配置となっている。Uターン部10に沿って曲がった配置としては種々あるが、例示すれば、本実施形態の場合には、2個あるUターン部10のうち、当該流体導入端19a(または流体排出端19b)に隣接するUターン部10の外周接線上に並ぶようにこれら流体導入端19a(または流体排出端19b)が配置されている(図3参照)。この場合の外周接線は、セパレータ20の外縁に対して傾斜しているものであり、流体導入端19a(または流体排出端19b)はこの接線に沿って曲がった配置となっている(図3参照)。こうした場合、流体導入端19a(または流体排出端19b)と当該Uターン部10との隙間を減少させることが可能である。すなわち、例えば流体流路34(35,36)の端部(流体導入端19aや流体排出端19b)がUターン部10とは関係なく直線状に配置されているような場合、当該流体流路34(35,36)とMEA30との接触領域(発電領域)に改善の余地が残る場合がある。この点、本実施形態のセパレータ20においては、上述のように端部(流体導入端19aや流体排出端19b)をUターン部10に沿った形とし、流体流路34(35、36)をより密に配置することを可能としているため、当該流体流路34(35,36)とMEA30との接触領域(あるいは発電領域)をその分だけ増やしてセル2中における導通性を向上させることが可能である。また、こうすることにより、各反応ガス(燃料ガスおよび酸化ガス)の拡散、および当該反応ガスのMEA30への導通をより均質化させることが可能である。
また、上述した流体導入端19aおよび流体排出端19bは、流体流路34(35,36)を構成している各凹溝(各流路)の長さ(凹溝の全長)が等しくなるように設けられている(図3等参照)。本実施形態のように複数の独立した凹溝(流路)が並行するように形成され、尚かつ凹溝によって途中の曲率が異なっている場合、このように各凹溝の長さを揃えることによって凹溝(流路)ごとの流体の平均流速をより均一なものとすることが可能である。
続いて、以下においては具体例を挙げつつセパレータ20の詳細な構造について説明する(図3〜図8参照)。
図3では、酸化ガスのガス流路34(ないしは水素ガスのガス流路35)の側からみたセパレータ20の構造の一例を示している。図では、凸形状となっている凸リブに符合18、凹形状となっている凹溝に符合19を付して表す(図7等参照)。なお、図中にて凸形状部分と凹形状部分とが解りやすく区別できるよう、凸形状部分にハッチングを付している。
このようなセパレータ20において、酸化ガスの入口側マニホールド15aから流入した酸化ガス(または水素ガスの入口側マニホールド16aから流入した水素ガス)は、分配部21を流れ、酸化ガスのガス流路34(または水素ガスのガス流路35)を流れ、さらに反対側の分配部21を流れ、出口側マニホールド15b(または出口側マニホールド16b)から流出する。なお、当該セパレータ20において酸化ガスと水素ガスのいずれを流すかは、シール部材13a,13bや樹脂フレーム40の形状によって適宜設定することができる。
分配部21は、マニホールド15a等とガス流路34,35(あるいは冷却水流路36)との間に形成されているもので、マニホールド15a等から流入した流体をガス流路34,35(あるいは冷却水流路36)を構成する各凹溝19へと分配し、または各凹溝19から流れ出た流体を合流させてマニホールド15b等から流出させる。本実施形態の分配部21は、セパレータ20に形成される凸部22と、当該凸部22の裏側に形成されるディンプル状の凹部23とを備えた構造となっている(図3、図8参照)。例えば、図中符合22aで示す凸部は冷却水流路36(あるいは入口側連絡通路65、出口側連絡通路66)に向かって突出しているものであり、その裏面側に形成される凹部23を反応ガス(酸化ガスまたは水素ガス)が流れるようになっている。なお、図中では反応ガスが流れる領域をハッチングを付して示している。また、図中符合22bで示す凸部はガス流路34またはガス流路35に向かって突出しているものであり、その裏面側に形成される凹部23を冷却水が流れるようになっている。なお、図中では冷却水が流れる領域をクロスハッチングを付して示している(図8参照)。なお、上述のようにハッチングおよびクロスハッチングを付している関係上、セパレータ20の断面にはハッチングを付していない。これら凸部22は、隣接するセパレータ20の凸部と互いに接触し合う高さに形成されており、セル積層時、各セパレータ20に作用する締結荷重を受け持つ働きもする。さらに、分配部21は、セパレータ20の厚みの中間ほどに形成された段部26を備えている(図8参照)。この段部26の表裏両面には、反応ガスと冷却水の両方が流れうる空間がそれぞれ形成されている。
なお、本実施形態では、冷却水流路36の最大溝深さHW1(セパレータ20の全体厚さH0からプレート厚さを引いた値)の値が、段部26におけるガス流路の溝深さHG2の値よりも大きくなるようにしている(HW1>HG2)。また、この段部26におけるガス流路の溝深さHG2の値については、同じ段部26における冷却水流路の溝深さHW2の値よりも大きくなるようにしている(HG2>HW2)。なお、分配部21の段部26におけるガス流路の溝深さHG2の値は、ガス流路34(35)を形成する各凹溝19の溝深さHG1の値よりも小さいものとなっている(図7、図8参照)。
また、上述の分配部21と、ガス流路34(35)の流体導入端19a(または流体排出端19b)との境界部分は以下のようになっている(図6参照)。上述したように、凹溝19の流体導入端19a(または流体排出端19b)は、隣接するUターン部10の外周接線上に並ぶように配置されている(図3、図6等参照)。また、凹溝19の最外周側には、各凹溝19よりも幅広のガス遮蔽用凸部27が形成され、さらにその外周側にはこのガス遮蔽用凸部27に沿った形状の凹溝24が設けられている。ただし、ガス遮蔽用凸部27の端部は先細り形状であり、当該先細り部分の幅MMBは、冷却水流量が均等になるように、凸リブ18部分の幅MMAよりも僅かに小さくなっている(MMA>MMB)。
次に、Uターン部10の構造について示す(図5参照)。例えば本実施形態の場合、Uターン部10における凹溝19の溝幅MKBを、ストレート部(流体流路のうちの直線部分)における凹溝19の溝幅MSBと等しくなるようにしている(MKB≒MSB)。一方、Uターン部10における凸リブ18の幅MKAについては、ストレート部における凸リブ18の幅MSAよりも幅広となるようにしている(MKA>MSA)。これによれば、流体導入端19aから流体排出端19bに至るまでの凹溝19における圧損(差圧)および当該流体の流速を一定にしやすいという利点がある。なお、図5中のMCはガス遮蔽用凸部28の幅である。
また、上述したように本実施形態のUターン部10においては、並行する複数の凹溝19がほぼ同心円状に形成されている。このため、本実施形態のセパレータ20の場合、Uターン部10における各凹溝19および各凸リブ18の曲率中心が、例えばガス遮蔽用凸部28の端部にほぼ一致した形状となっている(図5参照)。
さらに、このガス遮蔽用凸部28の端部には冷却水を導通させるための冷却水導通部29が形成されている(図5、図7参照)。すなわち、ガス遮蔽用凸部28の裏面側は冷却水流路36の一部であるが、袋小路のようになっていていわば冷却水のデッドエンドとなってしまうので、本実施形態では冷却水導通部29を形成して冷却水が流れるようにしている。この冷却水導通部29は冷却水を十分に導通させうるものであればよく、例えば、流路高さHW3(図7参照)が段部26における冷却水流路高さHW2(図8参照)より低く(HW3<HW2)、流路断面が狭くなっているものであっても構わない。本実施形態では、ガス遮蔽用凸部28の端部から隣の冷却水用凹溝19へと連通する略扇状のガス遮蔽用凸部28を形成している(図5参照)。
なお、セル積層体3の断面形状について図4に簡単に示しておく。本実施形態のセパレータ20は断面が波形状となるようにプレス成形されており、凸リブ18の裏が凹溝19となるようにしてガス流路34(35)と冷却水流路36とが表裏一体とに形成されている。このようなセパレータ20表裏を流れる流体は、例えばセパレータ20どうしが向かい合わせになる面においては冷却水であり、MEA30と向かい合わせになる面においては反応ガス(酸化ガスまたは水素ガス)である。
ここまで説明したように、本実施形態のセパレータ(燃料電池セパレータ)20は、流体流路34〜36の端部である流体導入端19aと流体排出端19bが隣接するUターン部10に沿って曲がった配置となっており、特にガス流路34,35とMEA30との接触領域(発電領域)が増えるように改善する。したがって、セル2中における導通性をより向上させることが可能となっている。
また、流体流路34〜36を構成している各凹溝19(および凸リブ18)の全長が等しく、しかもそれぞれのターン部が同心円状に形成されているため、流路ごとの流体の平均流速がさらに均一化したものとなっている。これによれば、サーペンタイン型流路のうち特にUターン部10における流体の流れをさらにスムーズなものとすることが可能である。
加えて、本実施形態のセパレータ20のさらなる利点として以下を挙げることができる。
(1)例えば従前のセパレータの一部にあるように、ガス流路や冷却水流路が不連続で流路長さが異なっていると流量や圧損(差圧)を均一化することが難しく、特にUターン部10では反応ガス、冷却水とも、インコース側の流路や短い流路の流量が多くなるという現象がある。また、凹溝19および凸リブ18からなるUターン部10では流速の変動や圧損のむらが生じやすく、これに起因して発電状態の差異や発電性能差が生じ、場合によってセパレータ全体の出力密度の低下を招くこともある。
この点、上述した本実施形態のセパレータ20によれば、こういった問題を解消して発電性能を向上させることが可能である。すなわち、電解質の両側に電極を設けたMEA30をメタルセパレータ20で挟持するという構造に関し、セパレータ面内の分配部21から複数の独立した凹溝19(ガス流路)を形成し、これら凹溝19の形状や長さを均一にし、流体(反応ガス、冷却水)が均一に流れるようにし、さらに流路圧損も均一化している。尚かつ、MEA30の挟持間隔を均一化し、均一に冷却できるようにしていることから、冷却水をMEA30との反応面に沿って均一に流すための構造(例えば、中間のセパレータなどを備えた構造)としなくて済み、大型化やコスト高を抑制できるという利点もある。
(2)サーペンタイン型のセパレータにおいて、冷却水流路36等の出入り部分にバッファ部(冷却水が流れやすい部位に対応して設けられ、流れを規制することにより流路全体にわたって流れを均一にさせるための凸部などのこと。例えば特開2005−109795号公報参照)を設け、流れを適度に規制して冷却水をより均一に流そうとする場合がある。しかし、実際には、当該バッファ部からの冷却水流路が、ガス流路34,35のUターン部10の裏側の流路に直角に導通したり、同一流路部に複数導通した場合に流路圧損や流量制御が複雑となったりする結果、相当の解析技術が必要になり流れの均一化やこれによる温度の均一化が困難な場合がある。また、ガス分配部や上述のバッファ部の領域が大きくなると、これに伴って発電領域が狭まり、高出力密度が得られなくなるおそれもある。さらには、発電に伴う生成水量が増大したとき、あるいはガス流路34,35内の閉塞が生じたときには流路内のバランスが崩れ、排水性が極端に悪化して発電効率が低下するとともに低温始動性も劣ることとなる。
この点、上述した本実施形態のセパレータ20においては、上述のようなバッファ構造を採らないため流路圧損や流量制御が相当以上に複雑になるようなことがない。上述したように、本実施形態のセパレータ20によれば特有の構造に基づいて流れの均一化を図ることが可能である。
(3)上述したバッファ部の流路本数や導通部位が異なると、流体の出入りする部分や流体流路の形状に基づく制御が困難であり、例えば移動体の走行条件などに応じて発電効率が低下することがある。この点、本実施形態のセパレータ20においては、バッファ構造と採らずに、特有の構造に基づいて流れの制御を図ることが可能である。
(4)また、例えば2以上のバッファ部を設け、冷却水流路と直線で連通する流路が形成されているような場合にも、上述の場合と同様、流体流路等の形状に基づく制御が困難である。この場合、例えば移動体の走行条件や発電状況に応じて温度、流量、圧損が異なるため、複雑な構造の流路では制御が複雑となり、高出力密度が得られにくくなることがある。この点、本実施形態のセパレータ20においては、特有の構造に基づいて流れの制御を図ることが可能である。
(5)冷却水流路の最外周寄り凹溝の面積を他の凹溝の面積と同等なものにするべく、最外周部に閉塞シールを設けるという工夫が施される場合がある。ところが、この場合、締め代に応じて閉塞シールの形状が変わり、これに伴って流路幅や形状が変わり、冷却水の流れを均一化することが難しい場合がある。つまり、片側が弾性体シール部材となっている流体流路においては、スタック化の際に起こる弾性変形の影響で溝形状が変わり、また、シール部材の成形ばらつきも加わり、流路における流量や圧損が異なり安定化が困難となる場合がある。この点、本実施形態のセパレータ20によれば、特有の構造に基づいて流れの均一化を図り、流量や圧損を安定化させることが可能である。
(6)流体流路のターン部(Uターン部)の中央にある凸リブ部分が、ガスリークを抑えるべく他の凸リブよりも高く形成される場合がある。ところが、この場合、ガスリーク防止部の締め代が大きくなり、他の部分によりも亀裂が生じやすいなど耐久性が劣り、また、高出力を実現するためのMEAの挟持範囲が制約され、MEAの耐久性も劣ることがある。すなわち、MEAの閉め代が大になると、他の部分との間の変形代が溝方向、幅方向で異なり、その弾性も異なるため、当該部位の反発力(締付力)が変わり、スタック化すると当該部分の厚みが大きくなる場合がある。そうすると、その周囲部分におけるMEAのガス透過性が劣り、性能低下や耐久性劣化が著しくなることがある。また、全体の反りを抑えたりサイズを安定化させたりするための手段として高剛性のエンドプレートや高い締結力を必要とする場合があり、スタック全体の大型化に繋がるという問題もある。この点、本実施形態のセパレータ20によれば、特有の構造に基づき、スタック全体の大型化を抑えつつ流れの均一化を図り、流量や圧損を安定させることが可能である。
(7)上述のバッファ部が略三角形状となっている場合があるが、このような略三角形状からの流路は必ずしも必要なものではない。この点、本実施形態のセパレータ20によれば、流体流路の長さ、断面形状や流体導入部の形状、角度などによって流量や圧損を定めており、特有の構造に基づいて流れの均一化を図り、よりスムーズに流れるようにしている。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、酸化ガスのマニホールド15a,15bを当該セパレータ20の一辺の中央に配置した場合について示したがこれは一例に過ぎず、この他、水素ガスのマニホールド16a,16bや冷却水のマニホールド17a,17bを中央に配置することも可能である。ちなみに、各図において示した各流体(酸化ガス、水素ガス、冷却水)の流れ方向は一例に過ぎず、これら流れ方向は適宜変えることが可能なものである。
また、各凸リブ18、ガス遮蔽用凸部27,28に凹凸を設けることも好ましい。こうした場合には、当該セパレータ20の成形時に生じうる歪を低減させ、皺が生じるのを抑制することが可能になる。凹凸は、例えば複数の細かな円形凹部などとすることができる。また、隣接するセパレータ20間においてこのような凹部どうしが接触し合う構造とすれば、これら凹部どうしがガス遮蔽用凸部27などの変形を抑止する結果、MEA30をより安定した状態で挟持することが可能になるという利点もある。
また、上述した分配部21に関し、例えば、MEA30との接触領域を少なくした構造とすることも可能である(図9参照)。すなわち、上述した実施形態において、冷却水用のマニホールド17a、17bの直近に設けられている対角線上の一対の分配部(図3において符合21’で示している)は、反応ガス(酸化ガス、水素ガス)側に凸の形状となっているものであったが(図3参照)、この分配部21’を、例えば上述した段部26のようにセパレータ20の厚みの中間ほどに形成してもよい(図8参照)。こうした場合、当該分配部21’とMEA30とが接触し合う領域が上述した実施形態の場合よりも少なくなる。なお、分配部21’における冷却水側の溝深さをHW10とすると、図9に示したセパレータ20の場合、冷却水流路36の最大溝深さHW1、段部26における冷却水流路の溝深さHW2、段部26におけるガス流路の溝深さHG2の各値の関係は、
HW2<HG2<HW10<HW1
となっている(図8等参照)。
1…燃料電池、10…Uターン部、15a…酸化ガスの入口側のマニホールド(流体流路に反応ガスを供給するためのマニホールド)、15b…酸化ガスの出口側のマニホールド(流体流路から反応ガスを排出するためのマニホールド)、19…凹溝(複数の流路)、19a…流体導入端、19b…流体排出端、20…セパレータ(燃料電池セパレータ)、34…酸化ガスのガス流路(流体流路)、35…水素ガスのガス流路(流体流路)、36…冷却水流路(流体流路)