JP2008031545A - ピストンリング - Google Patents
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Abstract
【課題】低温低負荷状態における張力と、高温高負荷状態における張力とを変化させることができ、その結果フリクションロスを最小限に抑え、燃費の向上を可能とするピストンリングを提供すること。
【解決手段】 ピストンリングを、34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、1mol%以上30mol%以下のニオブと、残部のチタンと、不可避的不純物と、からなる形状記憶合金によって形成する。
【選択図】図1
【解決手段】 ピストンリングを、34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、1mol%以上30mol%以下のニオブと、残部のチタンと、不可避的不純物と、からなる形状記憶合金によって形成する。
【選択図】図1
Description
本発明はピストンリングに関する。さらに具体的には、自動車、芝刈り機、発電機等に用いる内燃機関におけるピストンのピストンリング溝に配設され、低温状態の張力に比べて高温状態の張力が増大する、張力可変ピストンリングに関する。
ピストンリングには、大別すると圧力リングとオイルリングの2種類があり、どちらの場合であっても、一つのピストンリングのみから構成される場合やピストンリング本体と、このピストンリング本体の内周面側に配置されて、ピストンリング本体に対する拡径方向への押圧力を与えるためのエキスパンダを用いて構成される場合がある。
このようなピストンリングにおける張力は、当該ピストンリングが使用されうる最も過酷な条件下においても、ピストンリングがその機能を発揮できるように設定されているのが通常である。例えば、内燃機関(エンジン)のピストンに装着されるピストンリングにおいては、内燃機関の高速高負荷状態を想定して、ピストンリングの張力を設定している。具体的には、一つのピストンリングのみから構成される場合にあっても、当該ピストンリング自体の張力は高速高負荷状態を想定して設計されている。あるいは、ピストンリングがピストンリング本体とエキスパンダとから構成される場合にあっても、同様にピストンリング本体とエキスパンダの張力の和が高速高負荷状態を想定して設計されている。
ここで、近年は、環境に優しい、特に燃料消費量の低いエンジンを目指すため、ピストンリングとシリンダライナのフリクション低減についての要求が高まっている。
しかしながら、従来のピストンリングにあっては、ピストンと共にシリンダ内周面を摺動する際のエンジンの回転数の上昇によるピストンの往復運動の速度上昇に伴い、シリンダ内周面とピストンリングとの間に発生する摺動摩擦とピストンの慣性力によりピストンリングを浮き上がらせる力(フラッタリング)が大きくなり、高速高負荷になるほどオイル消費量が大きくなる傾向がある。したがって、高速高負荷状態つまり内燃機関が高温状態の場合を想定してピストンリング全体の張力が設定されているため、低速低負荷状態つまり内燃機関が低温状態の場合においては必要以上の張力がシリンダの内周面にかかってしまうこととなり、その結果として、多くのフリクションロスが生じていた。また、低速低負荷状態にピストンリング全体の張力を設定することも考えられるが、そうすると高速高負荷運転となった場合に、ピストンリングのシール性が十分に得られずオイル消費量が急激に増加してしまうため好ましくない。
このような問題を解決するために、ピストンリングを形状記憶合金により形成することにより、低温時と高温時においてピストンリングの張力を変化できるようなピストンリングが開発されている。
具体的には、例えば特許文献1には、一つのピストンリングのみから構成されるピストンリングにおいて、当該ピストンリングをニッケル−チタン系の形状記憶合金により形成することにより、低温状態においては、ピストンリングとシリンダ内周面とを非接触とし、高温状態になって初めてピストンリングとシリンダ内周面とを接触させる技術が開示されている(特許文献1の請求項2、0012段落など参照)。
また、特許文献2には、ピストンリング本体とエキスパンダ(コイルエキスパンダ)とから構成されるピストンリングにおいて、エキスパンダを前記特許文献1と同様にニッケル−チタン系の形状記憶合金により形成することにより、低温状態における張力よりも高温状態における張力を大きくする技術が開示されている(特許文献2の実用新案登録請求の範囲など参照)。
このように、ピストンリングの材料として形状記憶合金を用いることは従来から行われている。
ここで、形状記憶合金としては、例えば特許文献3には、より高温で変態することを目的としてニッケル−チタンにパラジウムを添加したことを特徴とする形状記憶合金が開示されている。
また、特許文献4には、前記特許文献3と同様の目的のために、ニッケル−チタンにジルコニウム(若しくはハフニウム)を添加したことを特徴とする形状記憶合金が開示されている。
さらに、特許文献5には、変態温度をより広範囲にし、さらに加工性に優れた形状記憶合金を提供することを目的として、ニッケル−チタンにニオブを添加したことを特徴とする形状記憶合金が開示されている。
特開平06−066371号公報
実公平03−041078号公報
特開平11−036024号公報
特開平10−008168号公報
特開昭61−119639号公報
しかしながら、現在のピストンリングにあっては、前記フリクションロスの問題を完全に解決してはおらず、さらなる燃費の向上のためにも改良の必要がある。
具体的は、前記特許文献1に開示のピストンリングにあっては、形状記憶合金としてニッケル−チタン系合金が用いられているが、80℃以上の温度範囲での応用はできず、過酷な温度条件となる自動車エンジン等ではその効果が期待できない。
また、前記特許文献2に開示のピストンリングにあっても、形状記憶合金としては、前記特許文献1と同様の合金が用いられているため、80℃以上の温度範囲での使用には不適であり、燃費向上は期待できない。
さらに、前記特許文献3に開示の形状記憶合金にあっては、添加物として高価なパラジウムを用いているため材料コストを著しく上昇させ、かつ加工性が劣るためピストンリングへの応用は困難である。
また、前記特許文献4に開示の形状記憶合金にあっても、加工性が劣るためピストンリングへの応用は困難である。
また、前記特許文献5に開示の形状記憶合金にあっては、組織安定性が悪く形状記憶特性が失われるため、実用化されていないのが現状である。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、低温状態における張力と、高温状態における張力をエンジンの実用的な範囲で変化させることができ、その結果フリクションロスを最小限に抑え、燃費の向上を可能とするピストンリングを提供することを主たる課題とする。
上記課題を解決するための本発明のピストンリングは、34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、1mol%以上30mol%以下のニオブと、残部のチタンと、不可避的不純物と、からなる形状記憶合金により形成されていることを特徴とする。
上記本発明のピストンリングにあっては、9mol%以上22.5mol%以下のジルコニウムと、3mol%以上30mol%以下のニオブと、を含む形状記憶合金により形成されていてもよい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの合計mol%をニッケルのmol%で除算した比が、0.98以上1.14以下である形状記憶合金で形成されていてもよい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、ピストンリング本体と、当該ピストンリング本体の内周面側に配されるエキスパンダとから構成されており、当該ピストンリング本体およびエキスパンダの双方または何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていてもよい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、前記エキスパンダが、コイルエキスパンダまたはプレートエキスパンダの何れかであってもよい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、前記ピストンリングが、サイドレールと、スペーサエキスパンダとから構成されており、当該サイドレールおよびスペーサエキスパンダの双方または何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていてもよい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度未満の温度での張力が0.1〜25Nであり、前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度以上の温度での張力が0.2〜55Nであることが好ましい。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、オイルリングまたは圧力リングとして用いられてもよい。
本発明のピストンリングによれば、34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、1mol%以上30mol%以下のニオブと、残部のチタンと、不可避的不純物と、からなる形状記憶合金により形成されているので、80℃以上の高い変態温度(変態ピーク温度(M*)または逆変態ピーク温度(A*))を実現することができる。したがって、低温低負荷状態においては適度な低い張力を発揮しつつ、80℃以上の高温高負荷状態となった場合に変態が生じ、低温低負荷状態より高い張力を発揮することができるピストンリングを提供可能となる。その結果、低温低負荷状態におけるフリクションロスを最小限に抑えることができ、燃費を向上せしめることができる。
また、当該成分組成からなる形状記憶合金は、高温での繰り返し使用にも耐えうるため、当該形状記憶合金により形成されたピストンリングは耐久性も向上される。
さらにまた、当該成分組成からなる形状記憶合金は、従来の形状記憶合金と比べて、冷間加工での圧延率が高いため加工性に優れている。したがって、所望の形状のピストンリングとすることができる。
ここで、形状記憶合金の成分としては、9mol%以上22.5mol%以下のジルコニウムと、3mol%以上30mol%以下のニオブとを含むようにしても、前記と同様の作用効果を得ることができる。
また、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの合計mol%をニッケルのmol%で除算した比を、0.98以上1.14以下とすることが好ましく、これによっても前記と同様の作用効果を得ることができる。
さらにまた、上記本発明のピストンリングにあっては、ピストンリング本体と、当該ピストンリング本体の内周面側に配されるエキスパンダとから構成されていても問題なく、当該ピストンリング本体、またはエキスパンダの少なくとも何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていれば、前記と同様の作用効果を得ることができ、前記エキスパンダが、コイルエキスパンダまたはプレートエキスパンダの何れかであっても同様である。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、サイドレールと、スペーサエキスパンダとから構成されており、当該サイドレールおよびスペーサエキスパンダの双方または何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていても、同様の作用効果を得ることができる。
また、上記本発明のピストンリングにあっては、前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度未満の温度(エンジンの始動時を想定した温度:−30〜50℃)での張力が0.1〜25Nであり、前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度以上の温度(エンジンが始動後高速回転時を想定した温度であり、オーステナイト変態後の温度)での張力が0.2〜55Nの範囲内とすることにより、低温低負荷状態でのフリクションロスを最小限に抑えつつ、高温高負荷状態においてもピストンリングの役目を果たすことができる。
なお、本発明のピストンリングにあっては、オイルリング、圧力リングの何れとして用いても上記作用効果を発揮することができる。
以下に、本発明のピストンリングについて具体的に説明する。
本発明のピストンリングは、34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、1mol%以上30mol%以下のニオブと、残部のチタンと、不可避的不純物と、からなる形状記憶合金により形成されていることに特徴を有している。また、本発明のピストンリングに用いることができる形状記憶合金としては、前記形状記憶合金であって、9mol%以上22.5mol%以下のジルコニウムと、3mol%以上30mol%以下のニオブと、を含有するようにしてもよく、さらに、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの合計mol%をニッケルのmol%で除算した比が、0.98以上1.14以下となるようにしてもよい。
このように、本発明のピストンリングにあっては、その材料となる形状記憶合金に特徴を有している。したがって、以下に先ず、当該特徴である形状記憶合金の特性について、種々の実験例を挙げて詳細に説明する。
(材料となる形状記憶合金についての実験例)
本発明のピストンリングに用いることができる材料の例(以下、「本発明材料例」とする。)および、本発明のピストンリングには用いることができない材料の例、つまり前記構成成分外の材料の例(以下、「比較材料例」とする)として、下記表1〜3に示す合金組成の合金1〜11の試験片を作製して、実験を行った。
本発明のピストンリングに用いることができる材料の例(以下、「本発明材料例」とする。)および、本発明のピストンリングには用いることができない材料の例、つまり前記構成成分外の材料の例(以下、「比較材料例」とする)として、下記表1〜3に示す合金組成の合金1〜11の試験片を作製して、実験を行った。
当該実験に使用した試験片は、下記の方法(1)〜(3)により作製された。
(1)各金属元素のmol%を計測してアーク溶解法により溶融して合金インゴットを作製する。例えば、合金1(Ti−Ni49.5−Zr10)は、49.5mol%のNiと10mol%のZrと、残部(40.5mol%)のTiの組成の合金である。
(2)作製された合金インゴットを950℃で2時間(=7.2ks)均質化熱処理を行う。
(3)放電化工機を使用して長さ15mm、幅10mm、厚さ1mmの板材(試料)を切り出す。
(1)各金属元素のmol%を計測してアーク溶解法により溶融して合金インゴットを作製する。例えば、合金1(Ti−Ni49.5−Zr10)は、49.5mol%のNiと10mol%のZrと、残部(40.5mol%)のTiの組成の合金である。
(2)作製された合金インゴットを950℃で2時間(=7.2ks)均質化熱処理を行う。
(3)放電化工機を使用して長さ15mm、幅10mm、厚さ1mmの板材(試料)を切り出す。
<加工性評価試験>
前記作製方法で作製された合金の加工性を、加工性評価試験を行って評価した。加工性評価試験は、冷間圧延機を使用して、圧延率60%まで冷間圧延を行った。圧延率が60%に至るまでに破断した試料は破断時の圧延率を測定して、加工性を評価した。
前記作製方法で作製された合金の加工性を、加工性評価試験を行って評価した。加工性評価試験は、冷間圧延機を使用して、圧延率60%まで冷間圧延を行った。圧延率が60%に至るまでに破断した試料は破断時の圧延率を測定して、加工性を評価した。
<変態温度測定試験>
各合金の変態温度は、冷間圧延材を700℃で1時間熱処理し、示差走査熱量測定(DSC、Differential Scanning Calorimetry)により、マルテンサイト変態ピーク温度(M*点)と、逆変態ピーク温度(A*点)とを測定した。
各合金の変態温度は、冷間圧延材を700℃で1時間熱処理し、示差走査熱量測定(DSC、Differential Scanning Calorimetry)により、マルテンサイト変態ピーク温度(M*点)と、逆変態ピーク温度(A*点)とを測定した。
比較材料例として、従来公知のTi−Ni−Zrの三元合金の合金1〜合金3の組成と、TiおよびZrの合計mol%をNiのmol%で除算した「対ニッケル比」、破断時の圧延率(%)、マルテンサイト変態ピーク温度(M*点、℃)および逆変態ピーク温度(A*点、℃)を表1に示す。
なお、合金7〜合金11は、Ti、Ni、Zrの成分比を35.5mol%、49.5mol%、15mol%に固定して、全体をNbに置換した合金である。
なお、合金15の変態温度は、実験を行った範囲では観測されず、低温になりすぎたものと考えられる。
なお、合金21は、合金9のZrをHfに置換したものに相当し、合金22は合金18のZrをHfに置換したものに相当する。また、合金23は、合金6のZrをHfに置換したものに相当し、合金24は、合金9のZr(15mol%)の半分をHfに置換したものに相当する。
前記実験結果から、比較材料例の合金1〜合金3のように、Ti−Ni−Zrの三元合金では、圧延率が最大でも30%しかなく、加工性が悪い。そして、Zrが増加すると変態温度(M*点およびA*点)が上昇するが、圧延率が低下し、加工性が低下することが分かる。
これに対し、表2において、比較材料例の合金2のNiをNbに置換した本発明材料例の合金4〜合金6のTi−Ni−Zr−Nbの四元合金では、圧延率が向上し、加工性が向上していることが分かる。また、変態温度(M*点およびA*点)も80℃以上であり、80℃以上の高温条件下で効果を発揮することができることが分かる。特に、Nbの量が多くなると変態温度が低下する傾向があるが、変態温度の変化は小さく、急激に変態温度が低下しないことも分かった。
つまり、合金4〜合金6は、高温条件下で使用可能で、加工性に優れた形状記憶合金と使用可能である。よって、当該合金をピストンリングの材料とすることにより、低温低負荷状態においては、張力が低く適当でありフリクションロスを最小限に抑えることができ、80℃以上での高温高負荷状態において変態することで、張力が増加するピストンリングを実現することができる。
なお、合金4〜合金6では、破断までの圧延率が向上したが、細かいクラック(亀裂)が多数存在することが観測された。図1の走査型電子顕微鏡によるSEM画像に示すように、圧延後の合金6には、軟らかくて容易に塑性変形するβ相と、硬くて脆いラーベス相が形成され、前記ラーベス相の界面で発生したクラックの成長がβ相で阻害されることで、加工性が改善されている。
図2は、本発明材料例の合金8を走査型電子顕微鏡で観察した画像の説明図である。
表3から、本発明材料例の合金7〜合金10のように、Ti−Ni49.5−Zr15の成分比を固定して、全体をNbに置換する形のTi−Ni−Zr−Nbの四元合金でも、逆変態ピーク温度(A*)が100℃以上でマルテンサイト変態ピーク温度(M*)も比較的高い合金を実現できた。また、Nbが1mol%(比較材料例の合金11)では加工性向上の効果は見られなかったが、Nbが5mol%以上では圧延率も向上させることができ、特に、Nbが10mol%以上の合金8〜合金10では、60%以上の圧延率を達成することができた。なお、合金7〜合金10では、合金4〜合金6と比較して、細かいクラックもほとんど形成されず、加工性が改善された。図2のSEM画像において、圧延後の合金8には、結晶粒界および粒内に軟らかいβ相が析出しているため、加工性が改善されている。
よって、合金7〜合金10をピストンリングの材料とすることにより、低温低負荷状態においては、張力が低く適当でありフリクションロスを最小限に抑えることができ、80℃以上の高温高負荷状態において逆変態(オーステナイト変態)することで、張力が増加するピストンリングを実現することができる。
表1〜表4において、合金12〜合金14や合金6に示すように、「対ニッケル比」が1程度の場合には、Zrが15mol%程度の合金2や合金11と比較して圧延率の向上が見られるが、合金15のように、「対ニッケル比」が1から大幅に離れて0.82になると、圧延率が低下し、加工性が非常に悪くなることが分かった。
表5において、合金16〜合金20に示すように、変態温度(M*点およびA*点)を上昇させるが加工性が低下しやすくなるZrの添加量を増やしても、Nbを5〜30mol%添加することにより、変態温度をあまり低下させずに、加工性を改善できる。特に、合金20では、400℃以上の非常に高い変態温度と、60%以上の非常に高い加工性を実現できている。
よって、合金16〜合金20をピストンリングの材料とすることにより、低温低負荷状態においては、張力を低く設定できフリクションロスを最小限に抑えることができ、80℃以上の高温高負荷状態において変態することで、張力が増加するピストンリングを実現することができる。
表6において、合金21〜合金24に示すように、Ti−Ni−Zrとほぼ同様の特性を有し、加工性に問題のあるTi−Ni−Hfの合金でも、Nbを添加することにより、高い変態温度の形状記憶合金を実現し、かつ加工性を向上できることが確認された。特に、合金21と合金9、合金22と合金18、合金23と合金6、合金24と合金9および合金21を対比すると、ZrをHfに置換してもほぼ同様の物性(変態温度や圧延率)を有することが分かり、Nbにより同様の改善効果が見られることが分かる。
つまり、Ti−Ni−Zr(またはHf)にNbを添加することにより、高い変態温度で加工性の高い形状記憶合金が実現することが分かった。したがって、このような形状記憶合金をピストンリングの材料として用いることにより、低温低負荷状態においては、張力を低く設定できフリクションロスを最小限に抑えることができ、80℃以上の高温高負荷状態において変態することで、張力が増加するピストンリングを実現することができる。
図3は、本発明のピストンリングの一例の概略断面図である。
図3に示す本発明のピストンリング30は、一つのリング30のみからなるピストンリングであり、当該一のリング30が前記で説明した形状記憶合金により形成されている。
本発明のピストンリング30にあっては、その材質に特徴を有しており、その形状等については特に限定されることはない。
例えば、図3に示す一つのリング30のみからなるピストンリングにあっては、そのボア径は、当該ピストンリング30が用いられる内燃機関の大きさやピストンの形状等に合わせて適宜設計可能であるが、φ65〜100mm程度であることが好ましく、この場合においては、その厚さは0.7〜4mm程度が好ましい。
ここで、ボア径をφ65〜90mm程度とした場合には、その厚さは、0.7〜3mm程度が特に好ましく、その際のピストンリング30の拡径方向への張力は、室温時において0.1〜25Nであり、逆変態(オーステナイト変態)後において0.2〜55Nとすることが好ましい。
一方で、ボア径をφ90〜100mm程度とした場合には、その厚さは、0.7〜4mm程度が特に好ましく、その際のピストンリング30の拡径方向への張力は、前記と同様に、室温時において0.1〜25Nであり、逆変態(オーステナイト変態)後において0.2〜55Nとすることが好ましい。
なお、本発明のピストンリング30にあっては、従来公知の表面加工等が施されていてもよく、その断面形状についても、図示する略矩形状に限られず、従来公知の種々の形状を採ることが可能である。
図4は、本発明のピストンリングの他の一例を示す概略断面図であり、図4(a)は、ピストンリング本体41とコイルエキスパンダ42とから構成されるピストンリング40の概略断面図であり、図4(b)は、ピストンリング本体51とプレートエキスパンダ52とから構成されるピストンリング50の概略断面図である。また、図4(c)〜(e)は、サイドレール44、61、71と、スペーサエキスパンダ45、62、72とから構成されるピストンリング43、60、70の概略断面図である。
図4に示すように、本発明のピストンリング40、43、50、60、70にあっては、ピストンリング本体41、51、あるいはサイドレール44、61、71と、エキスパンダ42、45、52、62、72との双方あるいは少なくとも一方が前記で説明した形状記憶合金により形成されている。なお、本発明のピストンリング40、43、50、60、70にあっては、特にエキスパンダ42、45、52、62、72が形状記憶合金により形成されていることが好ましい。ピストンリング本体41、51やサイドレール44、61、71に比べ、エキスパンダ42、45、52、62、72の方がピストンリング全体の張力に寄与しているためである。
この場合においても、前記図3に示したピストンリング30と同様に、その大きさや形状等については特に限定されることはなく、例えば、前記と同様のボア径や張力とすることが好ましい。
なお、本発明のピストンリングはオイルリングに用いることも可能であり、圧力リングとして用いることも可能である。
本発明のピストンリングについて、実施例を用いてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
前記で説明した本発明材料例の合金17を用いて、コイル外径を1.4mmとし高温時の張力は後述する比較例と同じとなるようにコイルエキスパンダを作製し、これとピストンリング本体(材質は、質量%でC:0.5、Si:0.2、Mn:0.3、P:0.02、S:0.015、Cr:10.2、残部Fe、および不可避的不純物)とを組み合わせて、図4(a)に示すような、本発明の実施例1のピストンリングを作製した。
前記で説明した本発明材料例の合金17を用いて、コイル外径を1.4mmとし高温時の張力は後述する比較例と同じとなるようにコイルエキスパンダを作製し、これとピストンリング本体(材質は、質量%でC:0.5、Si:0.2、Mn:0.3、P:0.02、S:0.015、Cr:10.2、残部Fe、および不可避的不純物)とを組み合わせて、図4(a)に示すような、本発明の実施例1のピストンリングを作製した。
(実施例2)
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金12を用いて、実施例2のピストンリングを作製した。
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金12を用いて、実施例2のピストンリングを作製した。
(実施例3)
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金9を用いて、実施例3のピストンリングを作製した。
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金9を用いて、実施例3のピストンリングを作製した。
(実施例4)
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金8を用いて、実施例4のピストンリングを作製した。
前記実施例1のピストンリングと同じ要領で、前記で説明した本発明材料の合金8を用いて、実施例4のピストンリングを作製した。
(比較例1)
本発明のピストンリングの比較例として、従来公知の形状記憶合金であるTi−Ni系(Ti−50at%Ni材)形状記憶合金を用いて、逆変態ピーク温度が58℃であり、逆変態終了(オーステナイト変態終了)後温度が65℃となるようなコイルエキスパンダを作製し、これと実施例1と同一のピストンリング本体とを組み合わせて、図4(a)に示すような、本発明の比較例1のピストンリングを作製した。
本発明のピストンリングの比較例として、従来公知の形状記憶合金であるTi−Ni系(Ti−50at%Ni材)形状記憶合金を用いて、逆変態ピーク温度が58℃であり、逆変態終了(オーステナイト変態終了)後温度が65℃となるようなコイルエキスパンダを作製し、これと実施例1と同一のピストンリング本体とを組み合わせて、図4(a)に示すような、本発明の比較例1のピストンリングを作製した。
<燃費効果試験>
前記実施例1〜4のピストンリング、および比較例1のピストンリングを用いて、燃費効果試験を行った。
前記実施例1〜4のピストンリング、および比較例1のピストンリングを用いて、燃費効果試験を行った。
具体的には、各ピストンリングをオイルリングとして用い、その他の第1圧力リング、第2圧力リングは全て従来公知の同一仕様のリングを用いた。それぞれを内燃機関エンジンにおけるφ88mmのピストンに装着し、10・15モードで燃費を測定した。一方で、従来のばね鋼からなるコイルエキスパンダを用いた以外、その他の条件は全て実施例および比較例と同一のピストンリング(トップリング、セカンドリング)を用意し、同様に燃費を測定した。
各測定結果について、前記従来のばね鋼からなるコイルエキスパンダを用いた場合の燃費と比べて比較例1のピストンリングを装着した場合の燃費の向上率を基準(1)とし、本発明の実施例1〜4のピストンリングを装着した場合における、前記基準からの燃費効果比(向上率)を数値化した。
その結果を表7に示す。
30、40、43、50、60、70 ピストンリング
41、51 ピストンリング本体
42 コイルエキスパンダ
44、61,71 サイドレール
45、62、72 スペーサエキスパンダ
52 プレートエキスパンダ
41、51 ピストンリング本体
42 コイルエキスパンダ
44、61,71 サイドレール
45、62、72 スペーサエキスパンダ
52 プレートエキスパンダ
Claims (8)
- 34.7mol%以上48.5mol%以下のニッケルと、
9mol%以上22.5mol%以下の、ジルコニウムおよびハフニウムの少なくとも一方と、
1mol%以上30mol%以下のニオブと、
残部のチタンと、
不可避的不純物と、
からなる形状記憶合金により形成されていることを特徴とするピストンリング。 - 9mol%以上22.5mol%以下のジルコニウムと、
3mol%以上30mol%以下のニオブと、
を含む形状記憶合金により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。 - チタン、ジルコニウムおよびハフニウムの合計mol%をニッケルのmol%で除算した比が、0.98以上1.14以下である形状記憶合金で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のピストンリング。
- 前記ピストンリングが、ピストンリング本体と、当該ピストンリング本体の内周面側に配されるエキスパンダとから構成されており、
当該ピストンリング本体およびエキスパンダの双方または何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一の請求項に記載のピストンリング。 - 前記エキスパンダが、コイルエキスパンダまたはプレートエキスパンダの何れかであることを特徴とする請求項4に記載のピストンリング。
- 前記ピストンリングが、サイドレールと、スペーサエキスパンダとから構成されており、
当該サイドレールおよびスペーサエキスパンダの双方または何れか一方が前記形状記憶合金により形成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一の請求項に記載のピストンリング。 - 前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度未満の温度での張力が0.1〜25Nであり、前記形状記憶合金の逆変態ピーク温度以上の温度での張力が0.2〜55Nであることを特徴とする請求項1ないし6の何れか一の請求項に記載のピストンリング。
- オイルリングまたは圧力リングとして用いられることを特徴とする請求項1ないし7の何れか一の請求項に記載のピストンリング。
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2006
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-
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