JP2008017758A - 酵母早期凝集能を有する麦芽の加工方法及び発酵麦芽飲料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法を提供する。また、本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、水切りし、焙煎することを含む麦芽の加工方法を提供する。さらに、本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を1時間以上水に浸漬することを含む発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって得ることができる麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
【選択図】なし
Description
日本やドイツをはじめ世界各国でラガータイプのビールが醸造されているが、最近はアメリカを中心にライトタイプのビールの生産が、また日本では麦芽配合比率の低い発泡酒の生産量が増えてきている。これらのビールあるいは発泡酒の醸造には、発酵終了後に酵母が発酵タンクの底に沈降する下面酵母を用いることが多い。
このように原料として麦芽を使用する酒類を製造する場合に、発酵中に「酵母の早期凝集沈降現象」と呼ばれる現象が認められることがある。これは発酵終了前に酵母の資化可能な糖分がまだ麦汁中に残っているにもかかわらず、酵母が凝集・沈降してしまい、その結果発酵の進行が停止してしまう現象である。この事象が発生すると、発酵液中に糖やアミノ態窒素が残り、さらに、いわゆる若臭と呼ばれるようなVDK(vicinal diketone)や発酵不順臭といわれる麦汁臭アルデヒドが残り、ビールや発泡酒、あるいはウィスキー品質の著しい低下をもたらし、大きな損害を被ることが知られている。
一方、近年麦芽品質がビール香味安定性に及ぼす影響が注目されており、これを評価する為の指標として麦芽ノネナールポテンシャル(以下、麦芽T2N−Pと記す)分析法が開発され、この分析値の低い麦芽を使用すれば香味安定性の優れたビールが製造可能となることが明らかとなった(特許文献2)。また、麦芽T2N−Pに影響を及ぼす一因として麦芽中の脂質酸化酵素であるリポキシゲナーゼ(以下LOXと示す)があり、この活性の低減により麦芽T2N−Pが低減することが明らかとなっている(特許文献3)。
すなわち、PYF因子を持つ麦芽を水に一定時間浸漬、洗浄した後に、乾燥、ローストあるいはカラメル化することにより、PYF性を著しく低減させ、なおかつ、LOX活性及び麦芽T2N−Pを著しく低減させることが可能になった。
すなわち、本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法を提供する。
また、本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、水切りし、焙煎することを含む麦芽の加工方法を提供する。
さらに、本発明は、酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬することを含む発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって得ることができる麦芽を提供する。
さらに、本発明は、前記麦芽の加工方法によって得ることができる麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法を提供する。
なお、それぞれの施策の最適条件を検討することにより、PYF性は低減したが、香味劣化のほとんどない麦芽、あるいは新鮮な香ばしい香気を有するカラメル麦芽を調製できることが実用スケールにおいて確認された。また、これらの麦芽は水洗浄後十分に乾燥しているため、保存性、輸送適合性も高く、通常の麦芽と同等の取扱いが可能である。
PYF麦芽を水に浸漬する時間は、好ましくは30分以上であり、より好ましくは30分〜2時間である。PYF麦芽を浸漬する水の量は、PYF麦芽に対して、好ましくは1〜10倍量(重量)であり、より好ましくは2〜4倍量(重量)である。また、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよいが、洗浄効率や洗浄設備等を考えると、PYF麦芽を水に浸漬する際の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは室温程度である。さらに、PYF麦芽を水に浸漬する工程において、好ましくは水を1回以上交換し、より好ましくは1〜3回交換する。これらの条件を満たすことにより、より効率的にPYF因子を低減することができる。また、ビール香味安定性の低下を招くLOX活性及び麦芽T2N−Pを著しく低減することができる。なお、PYF麦芽を水に浸漬する際に、例えば振盪し、攪拌し、又はエアレーションすることによって、PYF因子の低減をさらに効率よく行なうことができる。
PYF麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より15〜20℃の水を麦芽の2〜3倍量供給し、洗浄を行なう。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を実施する。なお、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよい。また、洗浄効果を高めるためには水の量や交換回数をできるだけ増やすことや、常時水を供給することでタンク上部からオーバーフローさせることも有効である。なお、洗浄用タンク下部にはエアレーション用ノズルが付設しており、洗浄中にエアレーションを行なうことで麦芽が均一に撹拌され、より高い洗浄効果が得られる。このエアレーションを長時間行なうほど高いPYF性の低減効果が得られるが、過剰な洗浄は麦芽の破損や後工程である乾燥の効率を低下させることから、エアレーションを10〜60分程度実施すれば適切な状態での洗浄が行なえる。なお、洗浄工程の総時間は1〜10時間であり、洗浄後の麦芽水分は10〜50%となる。
洗浄が終了した麦芽を乾燥設備内に入れ、外部より20〜100℃に調温された熱風を送風供給して、洗浄後の麦芽を乾燥処理した。なお、乾燥設備の床面は網目状の構造をしており、下部から熱風を供給すれば熱風が麦層を通過して上部へ抜けるため、均一な乾燥状態が得られる。乾燥の程度は麦芽水分が2〜10%に低下するまでであるが、この乾燥時間が長期化した場合、微生物が繁殖し香味の劣化を招く。よって、短時間、たとえば8〜10時間程度でこの乾燥工程が終了すれば、好ましい淡色麦芽が得られる。また、加熱による麦芽分析値への影響を出来る限り抑えるためには、低温、たとえば60〜80℃の熱風を供給すれば、好ましい状態での乾燥が行なえる。
PYF麦芽を水に浸漬する時間は、好ましくは30分以上であり、より好ましくは12〜24時間である。これを達成するためには上記範囲の時間程度浸漬する必要がある。PYF麦芽を浸漬する水の量は、PYF麦芽に対して、好ましくは1〜10倍量(重量)であり、より好ましくは2〜4倍量(重量)である。また、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよいが、洗浄効率や洗浄設備等を考えると、PYF麦芽を水に浸漬する際の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは室温程度である。さらに、PYF麦芽を水に浸漬する工程において、好ましくは水を1回以上交換し、より好ましくは1〜3回交換する。これらの条件を満たすことにより、より効率的にPYF因子を低減することができる。また、ビール香味安定性の低下を招くLOX活性及び麦芽T2N−Pを著しく低減することができる。なお、PYF麦芽を水に浸漬する際に、例えば振盪し、攪拌し、又はエアレーションすることによって、PYF因子の低減をさらに効率よく行なうことができる。
次いで、水切り工程が終了した麦芽をロースト処理する。ロースト処理は、従来公知の任意の方法により行なうことができる。例えば、ドラム状のロースト設備を用い、ドラムを回転させて麦芽を撹拌し、麦芽を均一に乾燥処理する。この際、外部より20〜230℃程度に調温された熱風を送風供給して乾燥処理する。
PYF麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より15〜20℃の水を麦芽の2〜3倍量供給し、洗浄を行なう。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を実施する。なお、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよい。また、洗浄効果を高めるためには、水の量や交換回数をできるだけ増やすことや、常時水を供給することでタンク上部からオーバーフローさせることも有効である。さらに、洗浄用タンク下部にエアレーション用ノズルを付設すれば、洗浄中にエアレーションを行なうことで麦芽が均一に撹拌され、より高い洗浄効果が得られる。なお、後工程であるロースト工程においてカラメル化を好ましい状態まで進めるためには、ロースト開始前の麦芽水分は30〜50%程度必要であり、ここまで吸水を進めるためには、例えば12〜24時間程度の洗浄時間が必要となる。洗浄工程が終了した麦芽は、タンク下部から排水を行い、2〜24時間程度の水切り工程を行なう。この工程により、穀粒内部の吸水が均一化することでカラメル化が均一に進行するとともに、表面の過剰な水分が除去されることでロースト設備内部への焦げ付きを防止することが出来る。
水切り工程が終了した麦芽をロースト設備内に入れ、外部より20〜200℃程度に調温された熱風を送風供給して乾燥処理した。なお、ロースト設備はドラム状であり、回転することで麦芽は撹拌され、均一に乾燥処理される。また、ドラム内部への送風を止め、50〜80℃程度の温度に10〜60分程度保つ蒸らし工程を焙煎初期に行い、糖化を進める必要がある。
ローストの程度は麦汁色度が50〜300°EBCまで上昇し、また麦芽水分が1〜10%に低下するまでであるが、150℃の熱風を120〜180分程度送風すれば、好ましい状態までローストが行なえる。
PYF麦芽を水に浸漬する時間は、好ましくは30分以上であり、より好ましくは30分〜2時間である。PYF麦芽を浸漬する水の量は、PYF麦芽に対して、好ましくは1〜10倍量(重量)であり、より好ましくは2〜4倍量(重量)である。また、微生物の繁殖による香味の劣化を防ぐためには、水温はできるだけ低い方がよいが、洗浄効率や洗浄設備等を考えると、PYF麦芽を水に浸漬する際の温度は、好ましくは10〜100℃であり、より好ましくは室温程度である。さらに、PYF麦芽を水に浸漬する工程において、好ましくは水を1回以上交換し、より好ましくは2〜3回交換する。これらの条件を満たすことにより、より効率的にPYF因子を低減することができる。また、ビール香味安定性の低下を招くLOX活性及び麦芽T2N−Pを著しく低減することができる。なお、PYF麦芽を水に浸漬する際に、例えば振盪し、攪拌し、又はエアレーションすることによって、PYF因子の低減をさらに効率よく行なうことができる。
発酵麦芽飲料の製造工程は、通常行われている製造工程であれば、いずれの工程であってもよい。以下に好ましい実施態様として、具体的な製造工程を図1を参照して説明するが、本発明は以下の工程に限定されるものではない。
主原料である麦芽の粉砕物の一部及び澱粉質の副原料の全部又は一部を仕込釜に入れ、温水を加えてこれらの原料を混合して液化を行い、マイシェを作る。この操作は通常、開始時の液温を50℃程度とし、徐々に昇温して所定温度(通常は65〜68℃)とした後、該温度に所定時間(通常は10分間程度)保持し、更に昇温して段階的に所定の温度(通常は90〜100℃)まで液温を高め、この温度に20分程度保持する。一方、仕込槽では、残りの麦芽粉砕物に温水を加えて混合し、所定温度(通常は35〜50℃)で所定時間(通常は20〜90分間程度)保持してマイシェを作った後、これに前記仕込釜のマイシェを仕込槽中のマイシェに加えて合一する。次に、このマイシェを仕込槽中において所定温度(通常は60〜68℃)で所定時間(通常は30〜90分間程度)保持して麦芽中に含まれる酵素あるいは添加した酵素の作用による糖化を行う。糖化工程終了後、麦汁濾過槽で濾過を行い、濾液としての透明な麦汁を得る。
次いで、この麦汁を煮沸釜に移し、ホップ(ホップペレット、ホップエキス等)を加えて煮沸する。煮沸した麦汁をワールプールと称する槽に入れて、沈殿により生じた蛋白質等の粕を除去する。次いで、プレートクーラーにより適切な発酵温度(通常は8〜10℃)まで冷却してから発酵タンクに移す。
発酵タンクに移す麦汁は、5〜15質量%のエキス、33〜45EBC BUの苦味価、9〜15°EBCの色度、及び4.5〜6のpHを有するように調整される。
また、「苦味価」とは、イソフムロンを主成分とするホップ由来物質群により与えられる苦味の指標である。苦味価は、好ましくは35〜45EBC BUである。苦味価は、ホップエキス等のホップの添加量を変えることによって調整することができる。苦味価は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.15 1990年)により測定することができる。
さらに、「色度」とは、メイラード反応によって生じるメライノイジンを主成分とする色素によって与えられる色の濃淡である。色度は、好ましくは10〜15°EBCである。色度は、主原料である麦芽に濃色麦芽、黒麦芽及びカラメル麦芽等の色麦芽を添加することによって変えることができる。色度は、例えばEBC法(ビール酒造組合:「ビール分析法」8.8.2 1990年)により測定することができる。
発酵タンクに前記麦汁を入れ、該麦汁に酵母を接種して発酵を行う。次いで、得られた発酵液を熟成(後発酵)させた後、濾過により酵母及び蛋白質を除去して目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。
(麦芽のPYF性判定方法)
麦芽の酵母早期凝集性能(PYF因子)を特開2004−321019号公報に記載の判定方法を用いて判別した。
本方法は、従来から麦芽の評価に幅広く用いられているコングレス麦汁(改訂BCOJ分析法(財)日本醸造協会発行4.3コングレス麦汁、European Brewery Convention. Analytica-EBC (4th ed.), Method 4.4, p. E59 Brauerei-und Getrauke-Rundschau, CH-8047. Zurich, Switzerland(1987))を活用する。
大麦を常法により浸漬、発芽、焙燥(乾燥)して麦芽を製造する。この麦芽50gを微粉砕し、蒸留水200mlを加え45℃で30分保持後、25分かけて1℃/分の割で70℃に昇温させ、さらに同温度の蒸留水100mlを加えて1時間酵素反応をすすませ、最終的に全体量が450gとなる麦汁(コングレス麦汁)を調製する。
調製したコングレス麦汁を115℃、10分間オートクレーブ処理を行い、熱トルーブを析出させた後に、遠心分離処理を行って熱トルーブを除去する。続いて、遠心後のコングレス麦汁60mlを分取して、グルコースを2.4g添加し十分に溶解する。0.45μmのフィルターで除菌して試験麦汁の調製を終了する。
続いて、特開2004−321019記載の方法に従い発酵試験を行った。すなわち一定条件下で培養した酵母を初発酵母数が1.0×107個/mlになるように植菌し、20℃にて48時間発酵させる。発酵開始24時間程度経過したところで酵母数を測定し、発酵が順調に進行していることを確認する。なお、酵母数を測定するための試料は常に発酵液表面から4cmの深さのところからサンプリングする。続いて発酵開始40時間経過したところで再び酵母数を測定する。麦芽に酵母の早期凝集沈降を誘引する性質がある、すなわちPYF因子がある場合は、この時点で、浮遊酵母数が著しく低下していることを確認できる。さらに、発酵を継続し、発酵開始48時間で酵母数および麦汁中に残っている糖濃度を測定する。麦芽に酵母の早期凝集沈降を誘引する性質がある場合は、酵母数だけではなく、発酵後期の麦汁中の糖濃度にも差異が認められ、早期凝集沈降が生じる麦芽では糖が多く残ることが確認できる。
本方法により、PYF性を有しない麦芽(正常麦芽)とPYF性を有する麦芽とを判別した。
正常麦芽とPYF性を有する麦芽穀粒の穀皮部分を搗精機によって機械的に除去した。穀皮部分の除去率、すなわち搗精率は表1のとおりそれぞれ未搗精(0%)、9%、14%、42%とした。
表1に記載の麦芽をそれぞれ麦芽のPYF性判定方法に従い、発酵試験を行った。麦芽穀皮除去を行った表1の麦芽を用いて、コングレス麦汁を調製した後に、さらに、グルコースを補糖して0.45μmのフィルターで濾過して試験麦汁の調製を終了する。続いて、一定条件下で培養した酵母を初発酵母数が1.0×107個/mlになるように植菌し、20℃にて発酵試験を行い、PYF性の変化を調査した。発酵開始40時間後の正常麦汁において発酵した場合の酵母数とPYF麦汁で発酵した場合の酵母数と比較することによって、PYF性を評価した。
搗精の効果を調査した結果、図2に示すように、PYF麦芽を歩留まり率約91〜86%程度、すなわち穀粒表面を9〜14%除去した場合(No.6(参考例)及びNo.7(参考例))にはPYF性は未搗精のPYF麦芽(No.5(参考例))若干低減し、発酵40時間後の酵母数も増加したが、正常麦芽(No.1(参考例)〜No.3(参考例))の試験区と同等の酵母数には至らなかった。さらに、歩留まり率約58%まで搗精して、穀粒表面を除去した場合には、PYF性の十分な低減が認められ、正常麦芽を搗精した時(No.4(参考例))と同等の発酵経過を示した。
麦芽を洗浄することによるPYF性の低減状況を調査した。
(麦芽のPYF性判定方法)
参考例の判定方法と同様に特開2004−321019号公報の麦芽のPYF性判定方法を用いてPYF性を評価した。
(麦芽の洗浄)
麦芽の判定により得られたPYF性を有する麦芽に対し、1.5倍量の水を添加し、室温25℃で振盪しながら麦芽の洗浄を行った。洗浄条件は表2に示すとおりとし、麦芽を1時間、もしくは2時間洗浄した後、凍結乾燥した麦芽を調製し、参考例と同様に酵母による発酵試験を行った。
水洗浄により図3のとおりPYF性が低減し、浮遊酵母数が増加することを確認した。洗浄時間が長いほうがよりPYF性が低減していた。
麦芽の判定により得られたPYF性を有する麦芽に対し、1.5倍量の水を添加し、室温25℃で振盪しながら麦芽の洗浄を行った。洗浄条件は表3に示すとおり、麦芽の洗浄時間を2時間とし、洗浄水の交換回数を0回、1回、2回で洗浄した麦芽を調製した。これらの麦芽を用いて参考例と同様に酵母による発酵試験を行った。
水洗浄により図4のとおりPYF性が低減し、浮遊酵母数が増加することを確認し、洗浄水の交換回数が多いほどPYF性が低減していた。
麦芽の判定により得られたPYF性を有する麦芽と正常麦芽それぞれに対し、1.5倍量の水を添加し、室温25℃で振盪しながら麦芽の洗浄を行った。洗浄条件は表4に示すとおり、麦芽の洗浄時間を4時間とし、洗浄水の交換回数を0回、1回、2回で洗浄した麦芽を調製した。これらの麦芽を用いて参考例と同様に酵母による発酵試験を行った。
水洗浄により図5のとおりPYF性が低減し、浮遊酵母数が増加することを確認し、洗浄水の洗浄時間が長いほど、また洗浄水の交換回数が多いほどPYF性が低減していた。
洗浄設備および乾燥設備を使用して、PYF麦芽から淡色麦芽の製造を行う方法を以下に示す。
(麦芽の調製)
PYF麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より20℃の水を麦芽の3倍量供給し、洗浄を行なった。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を2回実施した。途中でエアレーションを40分程度実施した。なお、洗浄工程の総時間は4時間及び5時間で実施し、洗浄後の麦芽水分はそれぞれ36.5%、41.1%であった。
洗浄が終了した麦芽を乾燥設備内に入れ、外部より75℃に調温された熱風を送風供給して、洗浄後の麦芽を乾燥処理した。なお、乾燥設備の床面は網目状の構造をしており、下部から熱風を供給すれば熱風が麦層を通過して上部へ抜けるため、均一な乾燥状態が得られる。乾燥時間は10時間であった。
調製した麦芽の洗浄条件を表5に示す。
この淡色麦芽のPYF性を実施例1の判定方法と同様に特開2004−321019号公報の麦芽のPYF性判定方法を用いて評価した結果を図6に示す。麦芽の洗浄により、著しくPYF性が低減し、洗浄時間が長いほどPYF性の低減率が高いことが確認された。
洗浄加工前麦芽ならびに4時間洗浄したPYF麦芽と5時間洗浄したPYF麦芽について、それぞれの麦芽の成分分析および香味評価を行った。麦芽分析値および香味評価結果を表6に示すが、分析値に対する乾燥・加熱の影響(色度の上昇、ジアスターゼ力の低下)および洗浄の影響(可溶性窒素の低下等)が若干認められるものの、一般的な淡色麦芽と遜色ない値であった。また、香味評価では、香ばしさが付与された。
一方、麦芽を再洗浄・乾燥することにより、麦芽中のリポキシゲナーゼ(LOX)の活性が有意に低下し、ノネナールポテンシャル(T2N−P)も有意に低下している。
このことにより、麦芽を再洗浄・乾燥することにより、ビール醸造に必要な麦芽成分はそのまま残存しつつ、麦芽由来の酵母早期凝集性能(PYF)を低減し、ビールの香味安定性を低下させるLOX活性も低下させることができた。
洗浄設備およびロースト設備を使用して、PYF麦芽からカラメル麦芽の製造を行なう方法を以下に示す。
(麦芽の調製)
PYF麦芽を洗浄用タンク内に入れた後、タンク下部より20℃の水を麦芽の3倍量供給し、洗浄を行なった。また、途中でタンク下部より排水して再び供給することを繰り返し、水の交換を2回実施した。途中でエアレーションを60分程度実施した。洗浄時間は18時間であり、ロースト開始前の麦芽水分は50%程度であった。洗浄工程が終了した麦芽は、タンク下部から排水を行い、6時間程度の水切り工程を行なった。
水切り工程が終了した麦芽をロースト設備内に入れ、外部より150℃に調温された熱風を送風供給して180分間乾燥処理した。なお、ロースト設備はドラム状であり、回転することで麦芽は撹拌され、均一に処理される。また、ドラム内部への送風を止め、70℃程度の温度に30分程度保つ蒸らし工程をロースト初期に行い、糖化を進めた。
調製したカラメル麦芽の一例を表7に示す。
実施例1の判定方法と同様に特開2004−321019号公報の麦芽のPYF性判定方法を用いて評価した結果を図7に示す。なお、カラメル麦芽については正常麦芽に30%の割合で配合した麦汁を調製してPYF性を評価した。
洗浄前麦芽を30%配合した場合は浮遊酵母数が少ない傾向を認めたが、麦芽の洗浄後に調製したカラメル麦芽はPYF性を示さず、正常なカラメル麦芽と同様の浮遊酵母数を示した。
洗浄後にカラメル化した麦芽について、成分分析および香味評価を行い対照品(緑麦芽より製造したカラメル麦芽)と比較した。麦芽分析値および香味評価結果を表8に示すが、対照品と比較して粉状粒の割合は同程度であり、また香味評価では新鮮な香ばしい香気が認められた。
PYF麦芽を洗浄・カラメル化することにより、ビール醸造に必要な麦芽成分はそのまま残存しつつ、麦芽由来の酵母早期凝集性能(PYF)を低減し、香味に優れた麦芽を調製できることになった。
麦芽(実施例2で加工した麦芽を30%含む)2700g、米500g、コーンスターチ260g、コーングリッツ260gに水を20リットル加え、常法により仕込みを行い、ホップペレット10gを添加し、常法により麦汁を製造した。この麦汁を冷却し5℃まで冷却し、麦汁中のエキス分(原麦汁エキス)を12%に調整した麦汁にビール酵母(Sacarromyces cerevisiae)を15〜20×106個/mlの割合で添加し、約12℃で7日間、発酵させた。発酵後、約1ヶ月間の後発酵の後に濾過してビールとした。
麦芽(実施例2で加工した麦芽を70%含む)800g、米900g、コーンスターチ1270g、コーングリッツ1200gに水を20リットル加え、常法により仕込みを行い、ホップペレット10gを添加し、常法により麦汁を製造した。この麦汁を冷却し5℃まで冷却し、麦汁中のエキス分(原麦汁エキス)を12%に調整した麦汁にビール酵母(Sacarromyces cerevisiae)を15〜25×106個/mlの割合で添加し、約12℃で7日間、発酵させた。発酵後、約1ヶ月間の後発酵の後に濾過して発泡酒とした。
Claims (7)
- 酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、乾燥させることを含む麦芽の加工方法。
- 酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬し、ローストすることを含む麦芽の加工方法。
- 酵母早期凝集能を有する麦芽を水に浸漬する工程において、水を1回以上交換する請求項1又は2記載の麦芽の加工方法。
- 酵母早期凝集能を有する麦芽を30分以上水に浸漬後、水切りすることを含む発酵麦芽飲料の製造方法。
- 酵母早期凝集能を有する麦芽を水に浸漬する工程において、水を1回以上交換する請求項4記載の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の麦芽の加工方法によって得ることができる麦芽。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の麦芽の加工方法によって得ることができる麦芽を原料とする発酵麦芽飲料の製造方法。
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