JP2008016982A - 音響システム - Google Patents
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Abstract
【課題】音響システムにおける外部への音漏れを低減する。
【解決手段】壁320は、磁歪装置30の振動を伝達し、室内に音声を発生させるスピーカーとして機能する。内壁322は、振動伝達率の高い材質から構成されており、磁歪装置30が発生する振動を効率よく全体に伝達させる。外壁326は、内壁322よりも振動伝達率の低い材質により構成されており、内壁322の振動により発生する音声を外壁326の外部へ漏らさないように制振する。中空層324は、内壁322の振動を外壁326へ直接伝達させないために設けられる。
【選択図】図12
【解決手段】壁320は、磁歪装置30の振動を伝達し、室内に音声を発生させるスピーカーとして機能する。内壁322は、振動伝達率の高い材質から構成されており、磁歪装置30が発生する振動を効率よく全体に伝達させる。外壁326は、内壁322よりも振動伝達率の低い材質により構成されており、内壁322の振動により発生する音声を外壁326の外部へ漏らさないように制振する。中空層324は、内壁322の振動を外壁326へ直接伝達させないために設けられる。
【選択図】図12
Description
本発明は、磁歪素子を利用した音響システムに関する。
ある種の磁性材料は、外部の磁界の変化に応じて歪を生じる。また、このような磁性材料に応力を加えて変形させると、その応力に応じて磁気特性が変化する。これらの現象は「磁歪」と呼ばれる。近年、従来知られていた磁歪素子の変位量に比して50〜100倍の変位を示す材料が発見されており、それらは「超磁歪素子」と呼ばれている。
磁歪素子に交流磁界を印加すると、その交流磁界の周波数に等しい周波数の振動を発生させることができる。このような現象を利用して、例えば、超磁歪素子を骨伝導式ヘッドフォンや聴覚補助器具などに応用することが期待されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2001−258095号公報
本発明者は、振動の変位が大きく、かつ、発生応力が大きいという磁歪素子の特性を生かして、磁歪素子を利用した全く新しい音響空間を実現する音響システムを想到するに至った。そして、この新しい音響システムにおいて、外部への音漏れを低減させるという新たな課題を認識し、その課題を克服する技術を想到するに至った。
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、音響システムにおける外部への音漏れを低減する技術を提供することにある。
本発明のある態様は、音響システムに関する。この音響システムは、音声信号を発生させる音声発生手段と、前記音声信号に応じて磁界を発生させる磁界発生手段と、前記磁界により振動する磁歪素子と、前記磁歪素子の振動を伝達し、音声を発生させる音声伝達手段と、を備え、前記音声伝達手段は、少なくとも2つの層を含み、前記音声を放射すべき側の層は、逆側の層よりも振動伝達率が高いことを特徴とする。
音声は、人間の可聴域である約20Hz〜20000Hzの音であってもよいし、可聴域以上の周波数帯域の超音波であってもよいし、可聴域以下の周波数帯域の低周波(超低波)であってもよい。音声を放射すべき側は、音声を聴こうとする聴衆がいる側であってもよく、音声伝達手段が建築物の壁、床、屋根、窓、内装材、外装材などである場合は、室内側であってもよく、音声伝達手段が輸送手段の構造材、内装材、外装材などである場合は、輸送手段の内側であってもよい。内側の層の振動伝達率を高く、外側の層の振動伝達率を低くすることにより、内部へは効率よく音を伝達させつつ、外部への音漏れを効果的に低減することができる。
前記音声伝達手段は、前記音声を放射すべき側の逆側ほど振動伝達率が低くなるように勾配がつけられた傾斜機能材料により構成されてもよい。
前記音声伝達手段は、前記音声を放射すべき側の層と、逆側の層と、それらの層の間に設けられた中空層とを含んでもよく、前記磁歪素子は、前記音声を放射すべき側の層を振動させてもよい。前記磁歪素子は、前記音声を放射すべき側の層の、前記中空層側の表面に設けられてもよい。
音響システムは、前記音声伝達手段の前記音声を放射すべき側の逆側の層に、前記磁歪素子の振動と逆の位相の振動を伝達する逆位相振動伝達手段を更に備えてもよい。
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
本発明によれば、音響システムにおける外部への音漏れを低減することができる。
まず、磁歪素子を駆動する磁歪装置に関する前提技術について説明する。つづいて、その磁歪装置を利用した音響システムと、音響システムにおいて外部への音漏れを低減する技術について説明する。
(前提技術)
図1は、従来の磁歪装置の構成を示す。従来の磁歪装置90は、磁歪素子91、コイル92、バイアス用磁石93、キャップ94、及びケース95を備える。磁歪素子91は、略円柱状の形状を有しており、コイル92及びバイアス用磁石93により発生される磁界に応じて、その高さ方向に伸縮するように変位する。磁歪素子91は、その高さ方向が、略円柱状のケース95の深さ方向に一致するように、ケース95のほぼ中央に配置される。コイル92は、磁歪素子91の周囲に設けられ、外部の駆動装置から入力される電流により、磁歪素子91の周囲に磁界を発生する。バイアス用磁石93は、磁歪素子91の周囲に所定の強度の磁界をバイアスとして固定的に与えるために設けられている。キャップ94は、略円盤状の形状を有しており、磁歪素子91、コイル92、及びバイアス用磁石93を内部に含むケース95の封をするために設けられている。ケース95の側壁部の上部に係合溝96が形成されており、そこにキャップ94の係止部97が係止され、キャップ94とケース95が互いに固定される。このとき、磁歪素子91は、キャップ94とケース95に上下から押圧され、所定のプリストレスが与えられる。
図1は、従来の磁歪装置の構成を示す。従来の磁歪装置90は、磁歪素子91、コイル92、バイアス用磁石93、キャップ94、及びケース95を備える。磁歪素子91は、略円柱状の形状を有しており、コイル92及びバイアス用磁石93により発生される磁界に応じて、その高さ方向に伸縮するように変位する。磁歪素子91は、その高さ方向が、略円柱状のケース95の深さ方向に一致するように、ケース95のほぼ中央に配置される。コイル92は、磁歪素子91の周囲に設けられ、外部の駆動装置から入力される電流により、磁歪素子91の周囲に磁界を発生する。バイアス用磁石93は、磁歪素子91の周囲に所定の強度の磁界をバイアスとして固定的に与えるために設けられている。キャップ94は、略円盤状の形状を有しており、磁歪素子91、コイル92、及びバイアス用磁石93を内部に含むケース95の封をするために設けられている。ケース95の側壁部の上部に係合溝96が形成されており、そこにキャップ94の係止部97が係止され、キャップ94とケース95が互いに固定される。このとき、磁歪素子91は、キャップ94とケース95に上下から押圧され、所定のプリストレスが与えられる。
コイル92に交流電流が与えられると、コイル92の周囲に交流磁界が発生し、これにより、磁歪素子91が軸方向に伸縮する。磁歪素子91の伸縮によりキャップ94が振動し、キャップ94を介して振動が外部へ伝達される。例えば、図1に示した磁歪装置90をヘッドフォンに利用する場合、キャップ94を耳付近に押圧接触させ、磁歪素子91により発生された振動を、キャップ94を介して頭部に伝達する。キャップ94は、ケース95の底部よりも大きな弾性を有するように形成されている。これにより、磁歪素子91の振動がケース95の底部により吸収されてしまうのを防ぎ、キャップ94を介して対象物、例えば利用者の頭部へ効率良く伝達されるようにしている。
図2は、超磁歪材料と圧電材料の特性を示す。テルビウム・ディスプロシウム・鉄(TbDyFe)などの超磁歪材料は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:PbZrO3-PbTiO3)などの圧電材料に比べて、以下に挙げるような優れた特性を有している。まず、超磁歪材料は、発生応力が大きく、変位量が大きいので、超磁歪素子が発生する振動を効率良く外部へ伝達することができる。また、駆動電圧が低いので、消費電力が小さくて済む。また、キュリー温度が高いので、高温でも使用できる。また、磁場により振動するので、駆動部分が電源と非接触であり、安全性に優れている。
更に、超磁歪材料は、発生応力が大きいので、エネルギーの大きい低周波の振動も確実に外部へ伝達することができるとともに、応答速度が速いので、高周波の入力信号にも確実に追随して振動を発生させることができる。したがって、幅広い周波数帯でフラットな特性が実現される。これは、とくに、ヘッドフォンやスピーカなどへの利用に好都合である。従来の圧電材料を用いたヘッドフォンなどにおいては、高々5〜20kHz程度までの音しか発生することができなかったが、超磁歪材料を用いることにより、50kHz以上の音を発生することができる。人間の可聴域の限界は20kHz程度と言われているが、超音波を感覚するという学説もある。また、鼓膜を介した聴覚ではなく、骨伝導による聴覚の研究はさほど進んでおらず、超音波領域の音を骨伝導で聴いたときの感覚は未知の世界である。本発明者は、近年、超音波領域の音も録音可能な機材が開発されていることも考慮し、高周波の音を発生させることのできない圧電材料ではなく、超音波領域の音も忠実に再生可能な超磁歪材料を用いたヘッドフォンやスピーカを開発したいと考えた。
しかしながら、本発明者は、超磁歪材料の優れた周波数特性を発揮させるためには、以下のような課題が存在することを認識するに至った。図3(a)(b)は、磁歪素子が振動する様子を模式的に示す。図3(a)に示すように、磁歪素子91の一端(以下、「固定端」と呼ぶ)98が固定されていれば、磁歪素子91は逆側の端(以下、「出力端」と呼ぶ)の方向にのみ伸縮するので、磁歪素子91が伸縮したときの振動は、出力端99から効率良く外部へ伝達される。しかし、図3(b)に示すように、磁歪素子91の固定端98を支持する部材が弾性を有していたり、軽量であったりして、固定端98が振動してしまう場合は、その分だけ、出力端99から外部へ伝達される振動の変位量や応力が減衰することになる。図1に示した磁歪装置90において、キャップ94を対象物に押圧接触させ、磁歪素子91の振動を対象物に伝達するときに、キャップ94が対象物を押す力の反作用により、磁歪素子91の固定端98がケース95の底部を押す力が発生する。このときに、図3(b)に示すように、ケース95が十分な慣性質量を有していなければ、出力端99における振動が減衰し、磁歪素子91の振動が十分に対象物に伝達されない。この現象は、振動エネルギーが大きい低周波帯において特に顕著となり、例えば磁歪装置90をヘッドフォンに利用する場合に、低音領域の音声が聞こえづらくなってしまう。
本発明者は、このような課題を認識し、幅広い周波数帯において磁歪素子91の周波数特性を劣化させないようにするためには、磁歪素子91の固定端98が当接する部材、例えば図1の磁歪装置90においてはケース95が、十分な慣性質量と硬度を有している必要があることを想到するに至った。このような課題は、圧電素子よりも発生応力の大きい磁歪素子ならではの課題であり、圧電素子を利用した音声伝達装置の開発者にとっては、課題として認識すらされていなかったと考えられる。また、聞こえにくい音域であっても妥協を許さず、人間の可聴域の全ての音を忠実に再生することが可能な音声伝達装置を実現したいという本発明者のこだわりから、認識されるに至った課題であると言える。後述するように、本発明者の実験によれば、超磁歪装置を振動発生装置として利用する場合に、広い周波数帯域で効率良く駆動させるためには、可動質量の約13.8倍以上、好ましくは21倍以上、より好ましくは69倍以上の慣性質量を磁歪素子91の固定端98側に設ける必要があることが分かっている。
図4は、上記の課題を踏まえて改良された磁歪装置の構成を示す。磁歪装置20は、主に、超磁歪素子1、バイアス用磁石2(バイアス用上位磁石2a及びバイアス用下位磁石2b)、ボビン3、コイル4、リード配線5a及び5b、振動ロッド6、プリストレスキャップ7a、ケース7b、及び弾性部材(弦巻発条)9を含む。
超磁歪素子1は、音声を変換してなる信号を振動に変換する振動変換素子として用いられるもので、概ね円柱状の外形を有し、上面にはバイアス用上位磁石2a、底面にはバイアス用下位磁石2bが、それぞれ配置される。この超磁歪素子1は、バイアス用上位磁石2aとバイアス用下位磁石2bとの間に挟持された状態でケース7bの内部に収容されて、バイアス用上位磁石2aとバイアス用下位磁石2bとによる磁界をバイアス磁界として恒常的に受ける(バイアス磁界が超磁歪素子1を恒常的に貫通する)ように設定されている。またそれと共に、この超磁歪素子1は、ケース7bの内部に収容された状態で、底面をケース7bによって支持されつつ、上面に振動ロッド6が弾性部材9の弾性力を受けて押し当てられることで、いわゆるプリストレスが恒常的に印加されるように設定されている。この超磁歪素子1は、上記のようにしてバイアス磁界とプリストレスとを恒常的に与えられた状態で、周囲に配置されたコイル4による可変磁界を受けることによって、入力された電気信号に対応した振動を発生する。
コイル4は、例えばガラス基材ポリカーボネートのような材質からなるボビン3の中心胴を巻回軸心として、その周囲に導体線を巻回してなるものである。リード配線を介して導体線に電気信号が入力されると、それに対応してコイル4が磁界を発生する。このコイル4から発せられる可変磁界が超磁歪素子1を貫くことで、その可変磁界の強さに対応して超磁歪素子1が伸縮し、それが振動として出力される。
振動ロッド6は、一端がバイアス用上位磁石2aを介して超磁歪素子1に機械的に接続され、超磁歪素子1から出力される振動を他端から外部へ伝達する。この振動ロッド6にはフランジ部61が設けられており、そのフランジ部61で弾性部材9による付勢力を受けて、バイアス用上位磁石2aに押し付けられる。その押圧力はバイアス用上位磁石2aを介して超磁歪素子1に印加される。また、そのフランジ部61及び弾性部材9によって、振動ロッド6全体がケース7b及びプリストレスキャップ7aの外側へと抜け落ちることを防いでいる。
ケース7bは、上記のような超磁歪素子1、バイアス用上位磁石2a、バイアス用下位磁石2b、ボビン3、コイル4、振動ロッド6、弾性部材9を、所定の状態に組み立てられた状態で収容する、いわゆる容器(又はボディ)である。プリストレスキャップ7aは、ネジ機構、溶接、カシメ、樹脂硬化などによりケース7bに固定される。プリストレスキャップ7aをケース7bに固定するときに、弾性部材9を介して超磁歪素子にプリストレスが与えられる。超磁歪素子1にプリストレスを与えることにより、電気信号と振動との間の変換効率を向上させることができる。プリストレスキャップ7a及びケース7bは、その内部の磁界を外側に漏らさないようにするため、及びその内部の磁界をより効果的に発生させるために、磁性体からなるものとすることが望ましい。
図5は、磁歪装置20を振動発生装置として備える電子機器の一例であるヘッドフォンの構成を示す。ヘッドフォン100は、本体110、磁歪装置20、及び振動パッド28を備える。本体110は、外部の再生装置などから入力される電気信号を磁歪装置20のコイルへ伝達するための回路29を含む。振動パッド28は、磁歪装置20の振動ロッド6に取り付けられ、振動ロッド6から伝達される振動を、ユーザの耳付近の頭蓋骨へ伝達する。ユーザは、振動パッド28のおもて面から伝達される振動を、骨伝導により音声として認識することができる。本発明者は、図5に示した骨導式ヘッドフォン100を試作し、低音から高音までの幅広い音域が忠実に再現され、優れた音響特性が実現されていることを確認した。
このように、幅広い周波数帯域の振動を効率良く発生させる磁歪装置を実現することができたが、その一方で、本発明者は、磁歪装置をヘッドフォン、聴覚補助器具、携帯電話端末のスピーカなどに利用する場合、装置の更なる小型化・軽量化が必要であることも課題として認識していた。ヘッドフォンや携帯電話端末などのように、小型で軽量であることが好まれる商品においては、サイズや重量の僅かな差が商品の売れ行きに多大な影響を及ぼすことは、既に市場で証明されていることである。たとえ、先行する類似商品よりも優れた特性を有していても、その先行商品よりも僅かに大きかったり、重かったりすることが、消費者の購買意欲を低下させる一因になってしまうことは、本発明者も認識しているところであり、これは、優れた性能を有する磁歪素子よりも、圧電素子を利用したヘッドフォンの方が先に商品化されていることからも証明されている。
超磁歪素子1は柱状であり、高さ方向に変位するので、可動部品を磁歪素子の高さ方向に直列に連結させる必要がある。また、対象物に必要な振動を与えるためには、ある程度の高さを有した超磁歪素子1を設ける必要があるので、高さ方向のサイズを小さくすることには限界がある。したがって、磁歪装置20の小型化・軽量化のためには、磁歪装置20の総重量のうちかなりの割合を占めるケース7b及びプリストレスキャップ7aを小型化・軽量化する必要がある。しかし、ケース7bについても、上述したように、低周波領域の特性を維持するためには、ある程度の慣性質量を有している必要がある。本発明者は、様々な実験を重ね、試行錯誤を繰り返す中で、このような二律背反する要請に応える技術を想到するに至った。
図6は、実施の形態に係る磁歪装置の構成を示す。本実施の形態の磁歪装置30は、図4に示した磁歪装置20の構成に比べて、プリストレスキャップ7a及びケース7bに代えてハウジング8を備えている。ハウジング8は、磁歪装置30が設けられる電子機器の本体へ磁歪装置30を取り付けるための連結機構の一例であるネジ部81を備える。すなわち、磁歪装置30の各構成は、ハウジング8に収容された状態で、ネジ部81により電子機器の本体へ取り付けられる。
図7は、図6に示した磁歪装置30を備える電子機器の構成を模式的に示す。電子機器50の本体40は、磁歪装置30を取り付けるための連結機構の一例であるネジ部41を備えている。磁歪装置30のネジ部81と、本体40のネジ部41を螺合させることにより、磁歪装置30が本体40に取り付けられる。連結機構は、その他、溶接、カシメ、樹脂硬化などにより磁歪装置30と本体40とを連結させてもよい。ハウジング8の本体40側の面は開放されており、磁歪装置30が本体40に取り付けられると、バイアス用下位磁石2bが直接本体40に当接する。このとき、本体40の、バイアス用下位磁石2bが当接する位置に突起42が設けられており、ネジを締めることにより、超磁歪素子1がバイアス用下位磁石2bを介して突起42から押圧され、超磁歪素子1に所定のプリストレスが印加される。また、リード配線5a及び5bが本体40の回路49に接続され、回路49から入力される電気信号がコイル4へ伝達される。
図4に示した磁歪装置20では、超磁歪素子1の固定端を支持する機能をケース7bが担っていたが、図6及び図7に示した磁歪装置30では、この機能を、磁歪装置30へ電気信号を入力するための回路などの構成を含む電子機器50の本体40に担わせるのである。つまり、ハウジング8は、超磁歪素子1、コイル4、バイアス用磁石2、弾性部材9などの構成を収納するために設けられており、超磁歪素子1の固定端を支持する機能や超磁歪素子1にプリストレスを印加する機能は担わない。これにより、大きな慣性質量を有する部材を磁歪装置30に設ける必要がなくなるとともに、超磁歪素子1にプリストレスを印加するためのプリストレスキャップも省略することができるので、磁歪装置30を小型化・軽量化することができ、ひいては、電子機器50全体を小型化・軽量化することができる。
図1に示した従来の磁歪装置90においては、磁歪素子91にプリストレスを印加する機構が必要である以上、その機構は磁歪装置90内に設けることが当然であるという思想に暗黙のうちに束縛されていたと言える。また、図4に示した磁歪装置20においても、超磁歪素子1の固定端の振動を抑制するように支持する機構が必要であり、その機構を磁歪装置20内に設けていた。そして、その思想から脱却できないために、磁歪装置90及び20を小型化・軽量化することができず、このことこそが、性能では圧電素子をはるかに凌駕する磁歪素子の普及を妨げる根本的な要因となっていた。
本発明者は、発想の転換を図り、電子機器50の本体40が、超磁歪素子1にプリストレスを印加し、かつ、超磁歪素子1の固定端の振動を抑制する部材として機能すればよいことに思い当たった。これにより、磁歪装置30は、自身が超磁歪素子1の固定端の振動を抑制するだけの慣性質量を有していなければならないという束縛から解放され、大幅に小型化・軽量化することが可能となった。更に、超磁歪素子1を上下から挟持してプリストレスを印加するための部材の一部を省略することが可能となり、高さ方向の小型化に成功した。これは、周波数特性の維持と、小型化・軽量化という、二律背反する要請の双方が満足されたことを意味する。したがって、本発明は、特性では優れている磁歪素子の商品化を妨げていた課題を克服し、磁歪素子を用いた機器の普及のためのブレイクスルーとなる画期的な発明であると言える。
前述したように、磁歪素子の固定端における振動を抑制し、出力端における振動を効率良く外部へ伝達するためには、可動質量の約13.8倍以上の慣性質量が固定端側にあればよい。したがって、本体40は、超磁歪素子1、バイアス用磁石2、弾性部材9、及び振動ロッド6の質量の合計の約13.8倍、好ましくは約21倍、より好ましくは約69倍以上の質量を有していればよい。また、振動ロッド6により振動される別の構成、例えば利用者の耳付近にヘッドフォンをあてがうための振動パッドなどが設けられている場合には、その質量も振動ロッド6の質量に含める。また、本体40と力学的に一体であるとみなせる構成部材の質量は、本体40の質量に含めてもよい。
固定端側の構成が当接する位置の本体40の部材、図7の例では突起42は、超磁歪素子1の固定端側の振動を抑制するために十分な硬度を有していることが望ましい。また、ハウジング8は、磁性体であることが望ましい。しかし、例えば磁歪装置30をヘッドフォンなどに利用する場合は、発生する磁場はさほど大きくないので、ハウジング8は磁性体でなくてもよい。この場合、より軽量化を図るために、ハウジング8を質量の軽い材料により構成してもよい。
図8は、図6に示した磁歪装置30を備える電子機器50の一例であるヘッドフォンの構成を示す。ヘッドフォン200は、図5に示したヘッドフォン100に備えられていた密閉型の磁歪装置20に代えて、図6に示した開放型の磁歪装置30を備える。本発明者は、図8に示したヘッドフォン200を試作し、図5に示したヘッドフォン100と同様に、低音から高音までの幅広い音域が忠実に再現され、優れた音響特性が実現されていることを確認した。
本発明者は、図4に示した密閉シリンダー型の磁歪装置20を備えた図5のヘッドフォン100と、図6に示した開放型の磁歪装置30を備えた図8のヘッドフォン200を試作し、可動質量と固定端を支持する慣性質量との質量比と、ヘッドフォンから出力される音声の周波数特性との関係を、実際にヘッドフォンを装着した同一被験者の聴覚により確認した。骨伝導により人体に知覚される音声の周波数特性を数値として計測するのは困難であるため、今回は被験者の聴覚により周波数特性の差異を確認している。
図4の密閉型の磁歪装置20を用いた実験では、可動部分の質量が1.3g、固定端を支持する慣性質量が17.9g、総質量が22.2gである磁歪装置20の試作品が、従来の圧電素子などを用いた骨導式ヘッドフォンよりも優れた周波数特性、すなわち広範囲の周波数の音声を出力する能力を有することが確認された。したがって、固定端を支持する慣性質量は、可動質量の約13.8倍以上であることが好ましいことが分かった。磁歪装置20の超磁歪素子1の振動を被験者の頭部へ伝達するための振動パッドの質量を可動質量に含めると、慣性質量は可動質量の約3.4倍以上であることが好ましい。この磁歪装置20を備えたヘッドフォン100の試作品は、本体を含めた固定端側の慣性質量が約90gで、可動質量の約69倍(振動パッドを含めた場合は約9倍)となっており、従来の骨導式ヘッドフォンよりも優れた音響特性を有することが確認された。
これに対し、図6の開放型の磁歪装置30では、プリストレスキャップ7aとケース7bをハウジング8に交換したことにより、磁歪装置30の質量を12.8gに抑えることができた。磁歪装置20の試作品の質量は約22.2gであったので、磁歪装置の質量が約半分に抑えられている。上述の実験により、可動質量の約13.8倍以上、より好ましくは69倍以上の慣性質量の部材を固定端側に設けることで優れた周波数特性が得られることが分かっているので、磁歪装置30を装着する対象となる本体が、その質量を有していればよい。試作品の磁歪装置30の場合、可動質量が1.3gであるから、本体の質量は17.9g以上であればよい。本発明者は、12.8gの磁歪装置30を27g(可動質量の約21倍)の本体40に装着したヘッドフォン200を試作し、音響特性の優れたヘッドフォンが実現されていることを確認した。このヘッドフォン200は、ヘッドフォン100と同様に優れた音響特性を維持しつつ、ヘッドフォン100に比べて大幅に軽量化が図られている。この試作品では、ハウジング8を金属により構成しているが、コイルをパーマロイのようなヨークで閉磁路にすれば、ハウジング8を樹脂などの軽量な材料で構成してもよい。これにより、更に磁歪装置30を軽量化することができ、ヘッドフォンなどの装置全体を軽量化することができる。
図9は、本実施の形態の電子機器50の別の構成例を示す。図9に示した磁歪装置30は、図7に示した磁歪装置30の構成に加えて、底板11を更に備える。底板11は、例えば、磁歪装置30又は本体40へ水滴が侵入するのを防ぐために、防水加工された板により構成されてもよいし、本体40側へ磁場が漏れるのを防ぐために、磁性体により構成されてもよい。本図の磁歪装置30は、本体40側に底板11が設けられているので、開放型ではなく密閉型であるが、底板11は、超磁歪素子1の固定端の振動を抑制するために必要な慣性質量を有している必要はない。底板11は、超磁歪素子1の固定端の振動を抑制するために設けられるのではなく、振動の抑制に必要な慣性質量は電子機器50の本体40が有していればよい。
この場合も、本体40は、可動質量の約16.8倍以上、好ましくは約21倍以上、より好ましくは約69倍以上の質量を有していればよいが、底板11の質量を本体40の質量に含めてもよい。また、底板11以外に、本体40と超磁歪素子1の間に部材が設けられている場合は、その部材の質量を本体40の質量に含めてもよい。要は、超磁歪素子1の固定端側に、固定端の振動を抑制するのに十分な質量及び硬度があればよい。これにより、超磁歪素子1の振動を効率良く外部へ伝達することができる。また、磁歪装置30の優れた周波数特性を遺憾なく発揮させることができ、特に、磁歪装置30をヘッドフォン200に利用する場合には、音質を向上させることができる。
(実施の形態)
前提技術で説明した磁歪装置は、発生応力及び変位量が大きいので、比較的大きな板状の物体であっても振動させることができ、ボードスピーカーとして機能させることができる。これを利用して、建築物の壁、床、天井、屋根などの建材、自動車などの輸送手段の屋根や車体などの構造材、内装材、又は外装材、テーブルや椅子など、聴衆の周囲にある比較的大きな物体をスピーカーとして機能させ、音を発生させることにより、従来では予想もできなかった全く新たな音響空間を実現することが可能となる。
前提技術で説明した磁歪装置は、発生応力及び変位量が大きいので、比較的大きな板状の物体であっても振動させることができ、ボードスピーカーとして機能させることができる。これを利用して、建築物の壁、床、天井、屋根などの建材、自動車などの輸送手段の屋根や車体などの構造材、内装材、又は外装材、テーブルや椅子など、聴衆の周囲にある比較的大きな物体をスピーカーとして機能させ、音を発生させることにより、従来では予想もできなかった全く新たな音響空間を実現することが可能となる。
図10は、実施の形態に係る音響システムの例を示す。音響システム300において、音声発生手段の一例であるテレビジョン受像機310が発する音声信号が磁歪装置30へ供給され、磁界発生手段の一例であるコイル4に音声信号に応じた電流が流され、超磁歪素子1の周囲に磁界が発生する。超磁歪素子1は、コイル4により発生された磁界に応じて振動する。超磁歪素子1の振動は部屋の壁320に伝達され、壁320がスピーカーとして機能し、室内に音声を発生させる。このように、聴衆の周囲の壁、床、天井などをスピーカーとして機能させ、音声を発生させることで、全く新しい音響空間を作り出すことができる。聴衆が座っている椅子330やテーブル340などをスピーカーとして機能させることもできる。この場合、空気の振動を介して音声を感知するだけでなく、床や椅子などから直接聴衆に振動が伝達され、骨伝導などを介して複合的に音声を感知させることもできる。このように、目的やニーズに合わせて磁歪装置30を設置することにより、最適な音響空間を演出することができる。
図11は、音響システムの別の例を示す。音響システム400において、音声発生手段の一例である車載型のオーディオプレイヤー410が発する音声信号が磁歪装置30へ供給され、音声信号に応じて超磁歪素子1が振動する。超磁歪素子1の振動は自動車の屋根420に伝達され、屋根420がスピーカーとして機能し、車内に音声を発生させる。従来のように、車体の前方や後方に設けられた個々のスピーカーが音声を発生させるのではなく、屋根や車体などの構造体自身が音声を発生させるので、聴衆は普段味わうことのできない音響空間を体験することができ、より深い没入感を得ることができる。
前提技術で説明したように、磁歪装置30は、振動特性が良好で、発生可能な音域が広いので、ウーファー、スコーカー、ツイーターなどを設けなくても、壁や屋根自体がそれらの代わりを果たす。車内や室内に、ウーファー、ツイーターなどのスピーカーをいくつも設けて、深い没入感の得られる音響空間を作り出そうという試みがあるが、本実施の形態で提案する音響システムは、聴衆の周囲の壁、床、天井など自体を幅広い音域で鳴らすという全く新しい発想で音響空間を作り出そうとするものである。
本発明者は、図10及び図11に示したような音響システムにおいて、建築物の壁や車の屋根の構造材などをスピーカーとして機能させる場合、部屋の内側だけでなく外側にも音が伝達されると、騒音の原因となる可能性があるという課題に気づいた。本実施の形態では、部屋の内側には音を効率よく伝達させる一方、部屋の外側には音を伝達させないようにする技術を提案する。これにより、磁歪装置を用いた新たな音響システムによる騒音の発生を低減させ、音響システムをより一層効果的に利用することができる。
図12は、スピーカーとして機能する壁の構造を示す。壁320は、3層構造となっており、音声を放射すべき側、すなわち、聴衆のいる部屋の内側から順に、内壁322、中空層324、外壁326を含む。内壁322は、振動伝達率の高い材質から構成されており、磁歪装置30が発生する振動を効率よく全体に伝達させる。内壁322は、幅広い周波数領域において減衰の少ない振動特性を有する材質により構成されるのが好ましい。外壁326は、内壁322よりも振動伝達率の低い材質により構成されており、内壁322の振動により発生する音声を外壁326の外部へ漏らさないように制振する。外壁326は、発泡スチロールなど、多孔質の材質により構成されてもよい。中空層324は、内壁322の振動を外壁326へ直接伝達させないために設けられている。外壁326が、振動を充分に吸収し、部屋の外部へ音を漏らさないような材質により構成されている場合は、中空層324を設けなくてもよい。このような構成により、室外への音漏れを低減することができる。
図13は、壁の構造の別の例を示す。図10及び図12に示した例では、分かりやすくするために、磁歪装置30を壁320の内側に設置した様子を示したが、図13に示すように、磁歪装置30は、内壁322の中空層324側の表面に設けられてもよい。これにより、室内から磁歪装置30や磁歪装置30に音声信号又は電気信号を供給するための配線を隠すことができるので、外観上も好ましい。また、図13に示した例では、外壁326の中空層324側の表面に、逆位相振動伝達手段の一例として、磁歪装置30が発生する振動と逆の位相の振動を発生する磁歪装置31を設けている。これにより、中空層324を介して内壁322の振動が外壁326に伝達されたとしても、その振動を低減させることができ、より効果的に外部への音漏れを低減させることができる。磁歪装置31に、磁歪装置30が発生する振動と逆の位相の振動を発生させるために、磁歪装置30に供給する電気信号を取得して、それと逆位相の電気信号を発生して磁歪装置31に供給する逆位相信号発生部を更に備えてもよい。
図14は、壁の構造の別の例を示す。壁320は、音声を放射すべき側の逆側、すなわち、室外側ほど振動伝達率が低くなるように勾配がつけられた傾斜機能材料により構成される。壁320の室内側の層は振動伝達率が高いので、磁歪装置30が発生する振動を効率よく伝達し、室内に音声を発生させるが、室外側の層は振動伝達率が低いので、振動を吸収し、室外には音声を発生させないようにする。このような構成によっても、室外への音漏れを低減することができる。この場合も、室外側の層に、磁歪装置30が発生する振動と逆の位相の振動を伝達する別の磁歪装置などを設けてもよい。
傾斜機能材料は、例えば、構成材料の組成が厚さ方向に徐々に変化するように作製された材料であってもよいし、内部に気泡を埋め込み、埋め込む気泡の密度や大きさが厚さ方向に徐々に変化するように作製された材料であってもよい。後者の場合、耐熱や防火などの効果も期待できる。音漏れを防止したい音の周波数に応じて、傾斜機能材料の組成や、埋め込む気泡の密度や大きさを決定してもよい。
実施の形態では、部屋や車などの内側に音声を発生させ、外側への音漏れを低減させる場合について説明したが、店舗の外壁などを用いて、店舗の外側を通行する人に対して商品の説明などを聞かせるような場合にも、実施の形態で説明した技術を利用して、店舗の内側への音漏れを低減させることができる。
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
1 超磁歪素子、2 バイアス用磁石、3 ボビン、4 コイル、5 リード配線、6 振動ロッド、7a プリストレスキャップ、7b ケース、8 ハウジング、9 弾性部材、11 底板、20 磁歪装置、28 振動パッド、29 回路、30 磁歪装置、40 本体、41 ネジ部、42 突起、49 回路、50 電子機器、61 フランジ部、81 ネジ部、90 磁歪装置、100 ヘッドフォン、110 本体、200 ヘッドフォン、210 本体、300 音響システム、310 テレビジョン受像機、320 壁、322 内壁、324 中空層、326 外壁、400 音響システム、420 屋根。
Claims (7)
- 音声信号を発生させる音声発生手段と、
前記音声信号に応じて磁界を発生させる磁界発生手段と、
前記磁界により振動する磁歪素子と、
前記磁歪素子の振動を伝達し、音声を発生させる音声伝達手段と、を備え、
前記音声伝達手段は、少なくとも2つの層を含み、前記音声を放射すべき側の層は、逆側の層よりも振動伝達率が高いことを特徴とする音響システム。 - 前記音声伝達手段は、前記音声を放射すべき側の逆側ほど振動伝達率が低くなるように勾配がつけられた傾斜機能材料により構成されることを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
- 前記音声伝達手段は、前記音声を放射すべき側の層と、逆側の層と、それらの層の間に設けられた中空層とを含み、前記磁歪素子は、前記音声を放射すべき側の層を振動させることを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
- 前記磁歪素子は、前記音声を放射すべき側の層の、前記中空層側の表面に設けられることを特徴とする請求項3に記載の音響システム。
- 前記音声伝達手段の前記音声を放射すべき側の逆側の層に、前記磁歪素子の振動と逆の位相の振動を伝達する逆位相振動伝達手段を更に備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の音響システム。
- 前記音声伝達手段は、建築物の壁、床、屋根、窓、内装材、又は外装材であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の音響システム。
- 前記音声伝達手段は、輸送手段の構造材、内装材、又は外装材であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の音響システム。
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Legal Events
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