JP2008000008A - 細胞剥離方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】探針6aを有する走査型プローブ顕微鏡を利用して、所定の培養環境条件下に置かれた基板4上で培養されている複数の細胞Sの中から、所望の細胞Sだけを剥離させる方法であって、複数の細胞を観察すると共に観察結果から剥離する細胞を特定する観察工程と、特定した細胞上に探針を移動させる移動工程と、特定した細胞に対して探針を予め決められた力で押し付けて物理的な刺激を与え、該細胞を基板上から剥離させる刺激工程とを備えている細胞剥離方法を提供する。
【選択図】図4
Description
このような細胞の剥離を行うには、様々な方法が採用されている。例えば、図11に示すように、基板30上に接着している細胞Sをセルスクレーパー31によって物理的に掻き取る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、図12に示すように、コラゲナーゼ処理とトリプシン処理とによる試薬Tを用いた化学的な処理により細胞Sをばらばらにして剥離する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
この細胞培養シート32は、刺激応答性基材であり、温度やpHや光等の刺激を受けると、細胞Sが接着し易い状態と、接着し難い状態との2つの状態に特性が切り替わるものである。例えば、細胞Sを培養している間では、細胞培養シート32を細胞Sが接着し易い状態にしておく。そして、細胞Sを剥離する際に温度を変化させて、細胞Sが接着し難い状態に特性を変える。これにより、接着性が低減するので細胞全体を細胞培養シート32から剥離することができる。特に、この方法は細胞全体を剥離することができるので、角膜や皮膚等の培養に好適に使用されている。
黒木登志夫偏、「培養細胞実験ハンドブック」、羊土社、2004年8月5日、第1版
上述したスクレーパー31を利用して物理的に剥離する方法は、剥離される際に細胞Sがスクレーパー31によってダメージを受けてしまうので、細胞Sの死亡率が高く、継代培養が困難であった。また、上述した試薬Tを利用した化学的な処理によって剥離を行う場合においても、同様の問題があった。
更にこれらの方法は、基板30に接着された細胞全体を一度に剥離する方法であるので、複数の細胞Sの中から所望する細胞Sだけを剥離させたり、所望する細胞群だけを剥離させたりすることができるものではなく、扱い難いものであった。
しかしながら、この方法は細胞全体を剥離してしまうので、上述したと同様に、複数の細胞Sの中から所望する細胞Sだけを剥離させたり、所望する細胞群だけを剥離させたりすることができず、やはり扱い難いものであった。
また、基板30上に細胞培養シート(例えば温度応答性ポリマー)32が設けられた特殊な培養基板で培養を行うので、細胞Sの種類によっては培養環境として適さない可能性があった。
本発明の細胞剥離方法は、探針を有する走査型プローブ顕微鏡を利用して、所定の培養環境条件下に置かれた基板上で培養されている複数の細胞の中から、所望の細胞だけを剥離させる細胞剥離方法であって、前記複数の細胞を観察すると共に、観察結果から剥離する細胞を特定する観察工程と、該観察工程後、前記特定した細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、該移動工程後、前記特定した細胞に対して前記探針を予め決められた力で押し付けて物理的な刺激を与え、該細胞を前記基板上から剥離させる刺激工程とを備えていることを特徴とするものである。
まず、この培養中に観察工程を行う。即ち、複数の細胞を光学顕微鏡等の観察手段で観察すると共に、観察した結果から取り除きたい細胞を発見した場合には該細胞の位置を特定する。例えば、突然変異してしまった細胞や、何らかの異常をきたした細胞等を特定する。
ダメージを与え易く、細胞全体を一度に剥離せざるを得なかった従来の剥離方法とは異なり、基板上で培養している複数の細胞の中から、所望する細胞だけを他の細胞に何ら影響を与えることなく剥離することができる。従って、従来の剥離方法では困難であった剥離を行うことができ、多種多様な培養を行うことが可能である。また、他の細胞を引き続き同じ基板を用いて培養し続けることができ、扱い易い。
また、従来の細胞培養シートのように特殊なものを利用しているわけではないので、細胞の種類に制限を受けることがない。更に、剥離する細胞に対しても、単に一時的に活動が停止する程度の予め決められた力で刺激しているだけであるので、該細胞に与える影響を極力抑えることができ、該細胞が潰れてしまうようなことがない。この点においても、他の細胞や培養環境に何ら影響を与えることがない。
上記走査型プローブ顕微鏡2は、複数の細胞Sを培養するセル(基板)4を3次元方向に移動させる移動手段5と、レバー部6bの先端に探針6aを有するプローブ6と、レバー部6bの撓みを測定する変位測定手段7と、これら各構成品を総合的に制御するパーソナルコンピュータ等の制御部8とを備えている。
なお、このXYZスキャナ10は、図2に示すように、断面四角形状の開口10aが中心に空いた筒状に形成されており、後述する光学顕微鏡3の光路を遮断しないようになっている。
また、この制御部8には、作業者が各種条件を入力したり、ドライブ回路11等を作動させたりするための操作部8aが接続されている。これにより作業者は、この操作部8aを介してXYZスキャナ10を3次元方向に適宜移動することができるようになっている。
本実施形態の細胞剥離方法は、複数の細胞Sを観察すると共に、観察結果から剥離する細胞Sを特定する観察工程と、該観察工程後、特定した細胞S上に探針6aを移動させる移動工程と、該移動工程後、特定した細胞Sに対して探針6aを予め決められた力で押し付けて物理的な刺激を与え、該細胞Sをセル4の底面から離間させる刺激工程と、該刺激工程後、剥離した細胞Sを捕捉する捕捉工程とを行う方法である。以下、これら各工程について、詳細に説明する。
また、変位測定手段7の初期設定として、半導体レーザ光源15及びレーザ受光部16の位置をそれぞれ調整する。即ち、半導体レーザ光源15から照射したレーザ光Lが、レバー部6bの反射面に入射するように、また、反射面で反射したレーザ光Lがレーザ受光部16に確実に入射するように位置調整を行う。その後、半導体レーザ光源15からレーザ光Lを照射させると共に、レバー部6bの反射面で反射したレーザ光Lをレーザ受光部16で検出する状態にしておく。
そして最後に、培地W内に浮遊している細胞Sを、図1に示すように、例えばピペット等の細胞把手手段18で把捉(把手)する捕捉工程を行う。
従って、従来の剥離方法では困難であった剥離を行うことができ、多種多様な培養を行うことが可能である。また、他の細胞Sを引き続き同じセル4を用いて培養し続けることができ、扱い易い。
また、特定した細胞Sを剥離した後捕捉するので、培養環境中から排除することができる。よって、残りの細胞Sに対する影響を確実に低減することができる。
つまり、単に探針6aを押し付けるのではなく、押し付けながらXYZスキャナ10を適宜移動させて、探針6aで細胞Sの表面をスキャン(走査)する。こうすることで、より強い刺激を与えることができ、細胞Sが強固に接着されていたとしても確実に剥離することができる。特に、細胞Sのサイズが大きい場合には、細胞Sの全体に亘って均等に刺激を与えることができるので、細胞Sを剥離させ易い。
なおこの場合には、図6に示すように、ホルダ本体12と斜面ブロック13と間に、電圧が印加されたときに所定の方向に振動する加振機構20を設ければ良い。
このように加振機構20を設けることで、例えば図7に示すように、探針6aをZ方向に縦振動させながら押し付けたり、図8に示すように、XY方向に横振動させながら押し付けたりすることができる。こうすることで、より強い刺激を与えることができ、細胞Sが強固に接着されていたとしても確実に剥離することができる。
特に、正常の細胞Sを剥離する場合には、捕捉工程後、捕捉した細胞Sを所定の培養条件下に置かれた他のセルで培養を行わせる継代培養工程を行っても良い。こうすることで、細胞Sを無駄にすることなく、有効に活用することができる。
近年、卵細胞やES細胞等、親となる細胞から目的の組織細胞(例えば、肝臓細胞や心臓細胞等)へ分化させる研究がなされている。これは、親細胞を培養させながら、これら親細胞を目的の組織細胞に分化させるものであるが、培養途中で分化する細胞と分化しない(未分化)細胞とが現れてしまう。この際、未分化の細胞は、この先の培養に不要なものであるので除去する必要がある。
従来では、このような未分化の細胞を除去するために、一旦培養途中の全ての細胞を剥離してセルソーターで分離し、その後、分化した細胞を戻すという作業が必要であった。
そのため、手間と時間がかかるうえ、分化した細胞にダメージを与えてしまうものであった。
つまり、刺激工程によって細胞Sを剥離させた後、セル4の底面の空いた位置、即ち、剥離された細胞Sが接着されていた位置に、他の種類の細胞Sをマニュピレートして載置する。なお、この細胞Sは、時間の経過と共に細胞外マトリクスS’を分泌してセル4に接着する。これにより、少なくとも2種類の細胞S(例えば、血管をつくる細胞Sと筋肉を作る細胞Sとの2種類)を共培養することができる。このように本実施形態の細胞剥離方法を、共培養を行う場合にも好的に適用することができる。
次に、本実施形態に基づいて実際に細胞Sの剥離を行った場合の実施例について、図9を参照して説明する。なお、以下の条件で細胞Sの剥離を行った。
まず、細胞Sは、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞とした。刺激工程では、探針6aを縦振動させながら細胞Sに押し付けた状態で、細胞Sの略中央を3往復スキャンさせて刺激を与えた。
このように、所望する細胞Sだけを他の細胞Sに何ら影響を与えることなく剥離できるという、従来にはない有利な効果を実際に確認することができた。
1 細胞剥離システム
2 走査型プローブ顕微鏡
3 光学顕微鏡
4 セル(基板)
6 プローブ
6a 探針
Claims (8)
- 探針を有する走査型プローブ顕微鏡を利用して、所定の培養環境条件下に置かれた基板上で培養されている複数の細胞の中から、所望の細胞だけを剥離させる細胞剥離方法であって、
前記複数の細胞を観察すると共に、観察結果から剥離する細胞を特定する観察工程と、
該観察工程後、前記特定した細胞上に前記探針を移動させる移動工程と、
該移動工程後、前記特定した細胞に対して前記探針を予め決められた力で押し付けて物理的な刺激を与え、該細胞を前記基板上から剥離させる刺激工程とを備えていることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1に記載の細胞剥離方法において、
前記探針を押し付ける力は、前記特定した細胞の種類、サイズ若しくは培養状態のうち、少なくとも1つの条件に応じて決定される力であることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1又は2に記載の細胞剥離方法において、
前記特定した細胞を剥離した後、残りの細胞を培養中に前記観察工程、前記移動工程及び前記刺激工程を繰り返し行うことを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞剥離方法において、
前記刺激工程を行う際に、前記探針を前記特定した細胞に押し付けた状態で、該細胞の表面上を走査しながら刺激を与えることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞剥離方法において、
前記刺激工程を行う際に、前記探針を前記特定した細胞に押し付けた状態で、前記基板の表面に対して垂直な方向又は水平な方向のうち、少なくともいずれか一方の方向に振動させながら刺激を与えることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞剥離方法において、
前記刺激工程後、剥離した前記細胞の位置に、他の種類の細胞を載置して共に培養させる共培養工程を備えていることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞剥離方法において、
前記刺激工程後、剥離した前記細胞を捕捉する捕捉工程を備えていることを特徴とする細胞剥離方法。 - 請求項7に記載の細胞剥離方法において、
前記捕捉工程後、前記捕捉した細胞を、所定の培養環境条件下に置かれた他の基板上で培養を行わせる継代培養工程を備えていることを特徴とする細胞剥離方法。
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